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審決分類 審判 補正却下不服 (159条1項、163条1項、174条1項で準用)  C12P
管理番号 1069871
審判番号 補正2002-50043  
総通号数 38 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 1996-02-13 
種別 補正却下不服の審決 
審判請求日 2002-05-02 
確定日 2003-01-08 
事件の表示 平成 6年特許願第506778号「抗生物質GE2270因子Aの生産を選択的に増加させる方法」において、平成12年4月28日付けでした手続補正に対してされた補正の却下の決定に対する審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 原決定を取り消す。 
理由 1.手続の経緯
本願は、1993年7月20日(パリ条約による優先主張1992年9月10日、英国)を国際出願日とする出願であって、平成12年4月28日付けで手続の補正がなされたところ、原審において、この手続補正について、平成14年2月5日に補正の却下の決定をしたものである。

2.原決定の理由
手続補正却下の決定の理由は以下のとおりのものである。
「平成12年4月28日の手続補正書にて、表I(第3頁) GE2270因子の構造式に対する補正がなされた。しかしながら、該補正により特定されるGE2270因子は当初明細書には何ら記載されておらず、また出願当時の技術常識を勘案しても出願当初の明細書からみて自明な事項であるとも認められない。したがって、この補正は、明細書の要旨を変更するものと認められ、特許法第53条第1項の規定により」、却下すべきものである。

3.当審の判断
(1)本願当初明細書に記載のGE2270Aについて
本願当初明細書の第3ページに記載のプラノビスポラ・ロセア(Planobispora rosea)ATCC53773の培養物から単離される抗生物質GE2270Aは、本願当初明細書の第1ページにおいて、その単離及び使用と共にヨーロッパ特許公開第359062号に示されているものである旨、記載されていると認める(同ページ第12行目に記載の「ヨーロッパ特許出願第359062号」は、同ページ第5〜6行の記載及び当審の調査により「ヨーロッパ特許公開第359062号」の誤記と認めた。以下、当該公報を参考文献アという)。

(2)出願人が本件審判請求書に添付した資料1に記載のGE2270Aについて
本件審判請求人が審判請求書に添付した資料1では、当該資料中に記載の、プラノビスポラ・ロセア(Planobispora rosea)ATCC53773培養物から単離される抗生物質GE2270Aが、下記参考文献イに示されているものである旨、記載されている(P.1564左欄本文第1〜2行)。

(3)(1)及び(2)のGE2270Aが同一物質を呼称していることについて
ここで、参考文献アにおいてGE2270Aと呼称される物質と、参考文献イにおいてGE2270Aと呼称される物質を比較する。
当該物質は、いずれの文献においても、プラノビスポラ・ロセア(Planobispora rosea)ATCC53773の菌糸体及び培養濾液から取得されることが記載されている。また、その紫外線吸収スペクトルは、前者P.10第36行〜47行及び後者のTable4に記載されているとおり、4種の異なる測定溶媒中において同じ最大吸収値を有し、また、その抗菌スペクトルは、前者のTABLE IV及び後者のTable5に記載されているとおり、共通する20種の菌体について同じMIC値を有する。
上記菌体の培養は、両者共に、澱粉20g/l(2%)、ポリペプトン5g/l(0.5%)、酵母エキス3g/l(0.3%)、牛肉エキス2g/l(0.2%)、大豆ミール2g/l(0.2%)、炭酸カルシウム1g/l(0.1%)(pH7.0)100mlを培養液として用いて約28℃で92時間培養後、同じ培養液4lに接種して通気下約28℃で2、3日間培養し、さらに澱粉20g/l(2%)、ペプトン2.5g/l(0.25%)、加水分解されたカゼイン2.5g/l(0.25%)、酵母エキス1g/l(0.3%)、牛肉エキス2g/l(0.2%)、大豆ミール2g・l(0.2%)、炭酸カルシウム1g/l(0.1%)培養液50lに移し換えて行われている(参考文献アのExample 1、参考文献イの「Fermentation of the Producing Strain」)。
GE2270Aの上記培養液の濾液からの回収は、両者共に、pH7.0に調節後、酢酸エチル50リットルで抽出し、その濃縮有機相に石油エーテルを添加することによって行われ、また、上記培養液から得られる菌糸体からのGE2270Aの回収は、両者共に、菌糸体を20リットルのメタノールで2回抽出し、それらを合わせた抽出物を減圧下で濃縮して水性残存物を得、それを酢酸エチルで2回抽出することによって行われる(参考文献アのExample 2、参考文献イの「Isolation of Antibiotic GE2270 A」の前半)。
GE2270Aの精製は、両者共に、上記回収方法で得られた生成物をCH2Cl2で平衡化したシリカゲルカラムに、最初CH2Cl22リットル、続いて1.5リットルのCH2Cl2とメタノール比が98:2、96:4、92:8、90:10、88:12の混合物溶媒を用いて行われる(参考文献アのExample 3、参考文献イの「Isolation of Antibiotic GE2270 A」の後半)。
したがって、両文献に記載されているGE2270Aは、同じ菌体から実質的に同一の培養・回収・精製方法によって得られた、同じ物理化学的性状及び生物化学的性状を有する物質であって、両者は同じ物質を当該名称で呼称していると認めらるところ、これらの文献をそれぞれ引用して説明する本願当初明細書でGE2270Aと呼称される物質も、資料1でGE2270Aと呼称される物質も、同一の物質を示すと認められる。

(4)資料1においてGE2270Aの構造式が修正されたことについて
資料1には、GE2270Aの加水分解反応中途段階に生じるフラグメントをFAB-MS・MS-MS計測することによって、FIG.1に記載のGE2270Aの化学構造式は、長時間の加水分解によりフラグメンテーション化の終了したものから得られるスペクトルに基づいて推測された誤った構造式であること(当該構造式は参考文献イに記載の構造式、及び、本願当初明細書の第3ページに記載のものに該当)、及び、Fig.2及びFig.3に記載のFAB-MS・MS-MS測定スペクトルの結果から、Fig.4構造式が正しいものであることを示している(本願上記平成12年4月28日付け手続補正書に記載の構造式に該当)。具体的には、Fig.1における構造式2と構造式3で表されるアミノ酸誘導体のペプチド結合の順序を逆に考察していたが、Fig.2及びFig.3で検出されるスペクトルはGE2270AがFig.1構造式をとるのであれば検出し得ないものを含んでおり、一方、Fig.4構造式であれば矛盾なく説明できるものである。
したがって、資料1記載のGE2270Aの構造式修正にかかる当該内容は信頼に足るものと認められるので、参考文献イ記載のGE2270Aも当該Fig.4構造式で表現されるべきものであったと言える。

(5)本願においてGE2270Aの構造式を変更する補正について
本願当初明細書でGE2270Aと呼称される物質が、参考文献イ、資料1でGE2270Aと呼称される物質と同じ物質を表していることは上記(1)〜(3)に記載のとおりであるから、上記(4)に記載の理由により、資料1のFig.1構造式に該当する当初明細書第3ページの構造式を、同資料1のFig.4構造式に該当する平成12年4月28日付け手続補正書に記載の構造式に改めても、当初明細書に記載されていたGE2270Aという物質自体を変更するものではない。
したがって、この構造式の補正は、出願当初の明細書に記載された事項の範囲内のものと認める。

(6)本願においてGE2270B1、GE2270B2、GE2270C1、GE2270C2、GE2270C2a、GE2270D1、GE2270D2、GE2270E、GE2270Tの構造式を変更する補正について
本願当初明細書の第2ページ第7〜11行で引用する参考文献ウ又はエに記載の、GE2270B1、GE2270B2、GE2270C1、GE2270C2、GE22702C2a、GE2270D1、GE2270D2、GE2270E、GE2270Tと呼称される物質と、本件審判請求人が審判請求書に添付した資料2に記載の同名称で呼称される物質を比較する(文献ウにおけるGE2270C2は、資料2のGE2270C2bに該当。必要であれば本願当初明細書第2ページ第19〜20行参照)。
両者は、プラノビスポラ・ロセア(Planobispora rosea)ATCC53773の菌糸体及び培養濾液から類似の手法で取得され(参考文献ウのP.22第54行〜P.25第15行、参考文献エのP.9第12行〜P.10第19行、資料2のP.1039左欄本文第6行〜右欄第14行)、そのFAB-MS値(参考文献ウのP.14、参考文献エのP.5第55行〜P.6第1行、資料2のTable 1)、及び、同条件下逆相HPLCにおけるGE2270Aに関する保持時間(参考文献ウのP.14、参考文献エのP.5第45行〜54行、資料2のTable 1)が同じである。また、GE2270Tについては紫外線吸収スペクトル(参考文献ウのP.29、資料2のP.1039右欄第16〜20行)、また、GE2270B1、GE2270B2、GE2270C1、GE2270C2、GE2270D1、GE2270D2、GE2270Eについては、共通する10種の菌体についてほぼ同じMIC値を有する(参考文献ウのP.19-20、資料2のTable 3)。
これらの共通性、類似性により、参考文献ウ又はエに記載のこれらの名称で呼称される物質は、資料2において同名称で呼称される物質と、同一の物質を示すと認める。

一方、資料2は、資料1のGE2270Aの構造式修正に伴ってGE2270B1、GE2270B2、GE2270C1、GE2270C2、GE22702C2a、GE2270D1、GE2270D2、GE2270E、GE2270Tの構造式を、GE2270Aと同じ箇所に関して同じ内容の、すなわち上記資料1で、GE2270Aの構造式2及び構造式3に対応するアミノ酸誘導体のペプチド結合の順序を逆にする修正を報告するものである(正しい構造式は資料2のFig.1に記載されている)。
また、文献ウ又はエにおいて、GE2270Aの種々物性値と合わせてこれらの成分の精製方法や物性値を記載したり、これらの成分のHPLC保持時間をGE2270AAとの関係で提示していることなどからもうかがえるように(参考文献ウのP.14、P.25第17行〜P.28第19行、参考文献エのP.5第45行〜54行)、これらの成分の構造式は、GE2270Aとの物性値、性質等の類似性から、その構造式を元に推定されたと認められることを考慮すると、GE2270Aの構造式が修正されれば、これらの成分の構造式についても必然的に対応箇所の修正の推定がされると解することもできる。

したがって、本願当初明細書に記載されているGE2270B1、GE2270B2、GE2270C1、GE2270C2、GE22702C2a、GE2270D1、GE2270D2、GE2270E、GE2270T と呼称される物質が、参考文献ウ又はエ、資料2において同じ名称で呼称される物質と同じ物質を表していることは上記記載のとおりであるから、参考文献ウ又はエに記載の構造式に該当する当初明細書第3ページの構造式を、資料2のFig.1構造式に該当する平成12年4月28日付け手続補正書に記載の構造式に改めても、これらの物質自体を変更するものではない。
よって、これらの構造式の補正は、出願当初の明細書に記載された事項の範囲内のものと認められる。

4.むすび
以上のとおりであるから、上記日付けでした手続補正を特許法第53条第1項の規定により却下すべきものとした原決定は違法であり、取り消されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。

参考文献
ア 欧州特許出願公開第359062号明細書(1990年)
イ THE JOURNAL OF ANTIBIOTICS, Vol.44, No.7(1991)P.693-701
ウ 欧州特許出願公開第451486号明細書(1991年)
エ 欧州特許出願公開第5294
 
審決日 2002-12-06 
出願番号 特願平6-506778
審決分類 P 1 7・ 56- W (C12P)
最終処分 成立  
前審関与審査官 本間 夏子  
特許庁審判長 徳廣 正道
特許庁審判官 田村 聖子
種村 慈樹
発明の名称 抗生物質GE2270因子Aの生産を選択的に増加させる方法  
代理人 小田島 平吉  

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