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審決分類 審判 査定不服 発明同一 特許、登録しない。 G11B
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 G11B
審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない。 G11B
管理番号 1069989
審判番号 審判1999-15061  
総通号数 38 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 1998-11-04 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 1999-09-20 
確定日 2002-12-25 
事件の表示 平成 9年特許願第101239号「光学情報記録媒体および光学情報記録再生消去方法」拒絶査定に対する審判事件[平成10年11月 4日出願公開、特開平10-293942]について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 I.手続の経緯
本願は、平成9年4月18日の出願であって、平成11年8月13日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、同年9月20日に拒絶査定に対する審判請求理由がなされるとともに、同年9月20日付けで手続補正がなされたものである。

II.平成11年9月20日付けの手続補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成11年9月20日付けの手続補正を却下する。

[理由]
平成11年9月20日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)は、特許法第121条第1項の審判[拒絶査定に対する審判]を請求する場合において、その審判の請求の日から30日以内にされたものであって、同法第17条の2第1項第3号の補正に該当する。
本件補正によって、特許請求の範囲の請求項7,9は、
「【請求項7】 透過性剛性基板上に、レーザ光の照射により記録膜の相変化によって情報の記録再生消去を行う相変化型光記録媒体を、透過性スペーサを介して複数積層し、前記透過性剛性基板上に積層した最上層を除く前記相変化型光記録媒体は、透明下部保護膜、相変化記録膜、透明上部保護膜、透明反射膜、透明干渉膜を順次形成したものであって、最上層の前記相変化型光記録媒体は、透明下部保護膜、相変化記録膜、透明上部保護膜、金属反射膜を順次形成したものであり、前記最上層を除く相変化型光記録媒体の1ユニットの透過率が前記レーザ光の波長において、30%以上であることを特徴とする光学情報記録媒体。」、および、
「【請求項9】 前記透明反射膜がSiであることを特徴とする請求項1から8のいずれかに記載の光学情報記録媒体。」と補正された。
上記補正は、「最上層を除く相変化型光記録媒体の1ユニットの透過率が前記レーザ光の波長において、30%以上である」との限定を付加するものであって、特許法第17条の2第4項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そこで、本件補正後の特許請求の範囲の請求項7,9に記載された発明(以下、いずれも「本件補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第4項の規定に適合するか)について検討すると、本件補正発明は、以下に示すように特願平9-122530号(特開平10-116441号公報参照)の当初明細書に記載された発明(以下、「先願発明」という。)と認められるので、特許法第29条の2の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができない。 (なお、この独立特許要件違反についての判断は、平成14年6月27日付けの審尋により請求人に意見を求めたが、回答書には補正案が提示されただけで、該判断について格別の反論は回答されていない。)

1.先願発明
特願平9-122530号(特開平10-116441号公報参照)の先願当初明細書には、次のような記載がある。
なお、該先願は、その出願日が平成9年5月13日であって、本願出願日の平成9年4月18日よりも後であるけれども、パリ条約による優先権主張(優先日1996年5月28日)を伴うものであって、その基礎となる米国08/654408の米国出願の出願日は本願前記出願日よりも前であるから、本願の出願日前の他の出願に該当する。 ちなみに、前記優先権の基礎となる米国出願の明細書には、下記に摘示する事項に相当する内容の開示(摘示箇所に対応する米国出願明細書の箇所を併記した)があり、その優先権主張は有効と認める。

(i)「【0001】 【発明の属する技術分野】 本発明は、全般的には光データ記憶システムに関し、具体的には、複数の記録層を有する光媒体を使用する光データ記憶システムに関する。」(段落【0001】参照)(米国出願明細書第1頁4〜6行参照)こと、
(ii)「【0009】 【課題を解決するための手段】 本発明は、複数記録層再書込相変化光ディスク及びディスク駆動装置に係わるものである。ディスクは、レーザ光が入射する光透過性基板を有する。基板は、少なくとも2つの空間的に分離された複数層記録スタックを支持し、各スタックには、可逆または再書込可能の相変化材料の活動状態の記録層が含まれる。ディスクは、各記録スタックが別の基板に支持され、基板がエア・ギャップによって分離されるエアギャップ構造か、中実光透過性スペーサ層によって記録スタックが分離される中実構造のいずれかである。レーザ光が入射する基板の最も近くに置かれる記録スタックには、逆書込タイプの可逆相変化材料(すなわち、アモルファス開始相を有し、データ領域を結晶相に変換するレーザ加熱によって記録される相変化材料)が含まれる。この第1記録層には、誘電体層が接触しており、この誘電体層は、隣接する記録層に対して高い屈折率を有し、光学干渉薄膜として働いて、記録スタック内に強めあう光学干渉効果をもたらす。光学干渉薄膜によって、記録スタックのコントラスト、反射率及び透過率が最適化される。この光学干渉薄膜は、非吸収性でもあり、その結果、レーザ光は、これを通過して、その向こうの記録スタック内の記録層に焦点を合わせることができる。これによって、適度なレーザ出力を用いて別の記録層に書き込むことができる。」(段落【0009】参照)(米国出願明細書第3頁22行〜第4頁13行参照)こと、
(iii)「【0025】 図7は、それぞれ再書込可能相変化型の記録層53または64を含む、複数の記録スタック90及び92を有するディスク12の断面図である。ディスク12は、レーザ光ビームが入射する外面49を有する基板50を有する。基板50は、ポリカーボネート、アモルファス・ポリオレフィン(APO)、ポリエチルメタクリル酸エステル(PMMA)またはガラスから作られることが好ましく、記録波長では非吸収性である。基板50は、0.6mmの厚さを有するが、他の厚さを使用することができる。レーザ光ビームのトラッキング・サーボ用のプリアドレス及びプリグルーブを、基板50の外面49と反対の面に形成することができる。薄い誘電体の層51を、基板50へのスパッタリングまたは蒸着によって堆積する。誘電体の層51は、書込中と消去中に記録層53が受ける高温で基板50が変形しないようにする保護層として働く。誘電体の層51は、より遠くの記録スタック92でもデータを読み書きできるようにするため、入射光ビームにより近い第1の記録スタック90の透過率を最適化するための光学干渉層としても働く。」(段落【0025】参照)(米国出願明細書第12頁1〜16行参照)こと、
(iv)「【0027】 本発明では、光学干渉層としての層55、59や半透明非金属熱放散層としての層57など、1つまたは複数の追加の層が、記録層53上に堆積される。薄膜の光学干渉効果を使用することによって、複数層の記録スタック90(記録層53と、誘電体の層51、層55及び層59と、非金属熱放散層である層57)の透過率、反射率及び吸収を、個々の層の厚さを変更することによって調節できる。層51、記録層53、層55、層57及び層59が一緒になって、干渉構造を形成する。強めあう干渉が発生するのは、各層の厚さと屈折率の実数部(n)に基づいて、層の厚さが正しく選択される場合である。隣接層(記録層53)の屈折率に対して層51、層55、層57及び層59のnの値が大きく異なると、所与の層厚さに対する干渉効果が高まり、記録スタック90の信号コントラストと反射率が最適化される。光学干渉薄膜である層51、層55、層57及び層59は、低い吸収(屈折率の虚数部が小さい、すなわち、消衰係数kが低い)を有し、その結果、光スポットが第2の記録層64に集光される時に、光が記録層53と層51、層55、層57及び層59を最小の吸収で通過するようになっていなければならない。消衰係数は、媒質を伝搬するにつれて光が減衰することを表すからである。 【0028】 S、Se及びTeのうちの1つまたは複数と混合されたZnまたはCrなどの誘電材料が、光学干渉薄膜としての層51、層55、層57及び層59に好ましい。これらの材料は、スパッタリング、蒸着またはスピン・コーティングによって、基板50上に堆積できる。SiOx、TiOx、ZrOx及びCuxO(ここで、xは1と2.1の間である)、SiN、SiC、アモルファスSiまたは有機ポリマーもしくは異なる誘電体の混合物などの誘電材料も使用可能である。光学干渉薄膜としての層51、層55、層57及び層59に適した他の材料は、Al、Ti、Zr、Cu、Hf、Ta、Nb、Cr及びWからなるグループから選択された元素の酸化物及び窒化物である。これらの材料またはこれらの材料の混合物は、アモルファス相または結晶相になることができる。アモルファス相の場合、広範囲の組成が許容される。たとえば、SiOxは、1<x<2.1の組成を有することができる。光学干渉効果は、たとえばヘブンス(O.H. Heavens)「Optical Properties of Thin Solid Films」、Academic Press、1955年に記載されているように、標準薄膜干渉計算を使用して計算される。」(段落【0027】,【0028】参照)(米国出願明細書第13頁7行〜第14頁9行参照)こと、
(v)「【0029】 層51及び層59のもう1つの重要な特徴が、低い熱伝導率であり、これに対して層55及び層57は、熱放散のために高い熱伝導率を有する必要がある。層51は、基板50を書込/消去処理中の変形から保護するために使用され、したがって、層51の誘電材料は、高い融点と低い熱伝導率を有する必要がある。記録スタック90には金属の熱放散層がないので、記録層53の結晶化温度と結晶化時間は、記録層53の組成と層55及び層57の厚さを適当に選択することによって、十分にバランスをとらなければならない。したがって、記録層53に隣接する熱放散層である層55は、熱的に安定で高い熱伝導率を有する必要がある。熱的安定性は、記録層53が書込/消去処理中に溶融状態である間に移動しないようにして、その消去サイクル能力を高めるために必要である。しかし、層55に、剛性があり透過性が高く、熱伝導率の高い誘電体を使用しない場合、これらの機能を、層55と層57によって共有することができる。たとえば、層55は、その厚さが十分に小さく、記録スタック90の熱伝導率に悪影響を及ぼさないならば、高い透過率を有する安定した誘電体とすることができ、高い熱伝導率を有する必要はない。その場合、層57は、記録層53内で生成された熱を層55を介して放散するための透過性の熱伝導体とすることができる。しかし、層57が、高い剛性と熱伝導率の両方を有する場合、誘電体の層55は必要ない。一般に、0.05W/cmK未満の熱伝導率を有する非吸収性の材料を、層51に使用することができる。層55及び層57については、0.01を越える熱伝導率が好ましい。たとえば、SiOxは、400°Kで0.015 W/cmKの熱伝導率を有する。層59は、記録スタック90の光学干渉効果を最大にするという目的のために働くので、高いk値を有する必要がある。干渉層である層59のもう1つの機能は、記録層53の記録済み領域と非記録領域の反射率コントラストを最適化することである。 」(段落【0029】参照)(米国出願明細書第14頁10行〜第15頁8行参照)こと、
(vi)「【0030】 中実のスペーサ層44は、光学干渉薄膜である層59に隣接し、2つの記録スタック90及び92を分離する。スペーサ層44は、スピンコーティングされたフォトポリマー(紫外線硬化型アクリレート)または光透過性セメントなど、非吸収性であり、2つの基板50及び56をそれぞれ記録スタック90及び92と共に接着することが好ましい。第2の記録スタック92には、第2の記録層64にスパッタリングまたは蒸着された剛性があり透過性の誘電体層62が含まれる。記録層64は、もう1つの剛性がある誘電体層66に堆積され、誘電体層66は、基板56に堆積された熱放散層68に隣接する。記録スタック92は、この複数記録層光ディスクの最後の記録スタックであり、光透過性である必要はないので、熱放散層68に金属薄膜を使用することができる。通常の熱放散層68を使用する場合、記録層64の組成と厚さを調節しなければならず、これらは第1の記録層53と異なることになる。記録層64、誘電体層62、誘電体層66及び熱放散層68からなる記録スタック92は、基板56上に堆積される。基板56は、基板50と同一の材料から形成するか、不透明プラスチック材料やアルミニウムなどの金属材料などの不透明材料から形成することができる。」(段落【0030】参照)(米国出願明細書第15頁9〜26行参照)こと、
(vii)「【0031】 図7に示された、レーザが波長650nmで動作する、ディスク12の好ましい実施例では、基板50及び56が、0.6mm厚のポリカーボネートである。第1の剛性がある誘電体の層51は、70nmないし150nmの厚さの、ZnSまたはSiO2もしくはこれらの混合物である。第1の記録層53は、15nm厚のGe11Te47Sb42である。誘電体の層55は、10nmの厚さの、ZnSまたはSiO2もしくはこれらの混合物である。熱放散層である層57は、厚さ50nmのアモルファスSiである。光学干渉薄膜である層59は、厚さ60nmのSi3N4である。これらの層を有する記録スタック90の透過率は、記録層53がアモルファス(または非書込)相の時に31%、結晶(または書込)相で15%である。従来の再書込可能相変化材料(結晶相が開始相)が、記録スタック90内の記録層として使用される場合、記録スタック90を介して第2の記録スタック92に書き込むのに必要なレーザ出力が高すぎるので、記録スタック90は、許容可能な透過率を有しないはずである。しかし、アモルファス開始相(結晶相でビットが記録される)を有する逆書込相変化材料を使用すると、より遠くの記録スタック92の記録層64への書込に必要なレーザ出力が低下する。データ・ビットが記録層53に書き込まれる時には、記録層53は、完全にアモルファス状態ではなくなる。しかし、記録トラック幅/トラック・ピッチが通常は1/2であり、ビット間隔のアモルファス領域があることを考慮すると、完全に記録された層の場合であっても、記録層のうちのアモルファス相である部分の比率は、通常は70%を越えるはずである。」(段落【0031】参照)(米国出願明細書第15頁27行〜第16頁19行参照)こと、
(viii)「【0032】 30%を越える透過率と10%を越える反射率を有するこのような逆書込タイプの再書込可能相変化記録構造は、既存のレーザ・ダイオード供給源を用いてよい信号対雑音を有する信頼性のある動作を行うために必要である。スペーサ層44は、200μm厚のスピンコーティングされた紫外線硬化型フォトポリマーである。記録スタック92の誘電体層62は、100nmの厚さの、ZnSまたはSiO2もしくはこれらの混合物である。記録スタック92の第2の記録層64は、25nm厚の通常タイプの再書込可能相変化材料(GeTeSbの非逆書込合金)から形成される。第2の誘電体層66は、15nmの厚さの、ZnSまたはSiO2もしくはこれらの混合物である。金属の熱放散層68は、100nm厚のAlである。レーザ光が短波長の場合、スポット・サイズを小さくし、これによって記録密度を高めるために、熱放散層である層57と誘電体の層59の厚さの調節が必要である。たとえば、波長500nmのレーザ光では、層57の厚さは25nm、層59の厚さは65nmが最適である。」(段落【0032】参照)(米国出願明細書第16頁20行〜第17頁5行参照)こと、
(ix)「【0033】 図7に図示し、説明した上記の好ましい実施例に類似の二重記録層ディスクの半透明の記録スタック90の特定の例では、記録スタック90用の記録層53が、Ge11Te47Sb42から形成された。透明の誘電体層である層51及び55は、SiO2から形成された。半透明の熱放散層である層57は、アモルファスSiから形成され、光学干渉薄膜である層59は、Si3N4から形成された。記録スタック90は、ポリカーボネートの基板50上に堆積された。誘電体の層51は、基板50上で70nmの厚さまでスパッタ堆積された。記録層53は、15nm厚であり、層51上にスパッタ堆積された。厚さ1nmの第2の誘電体の層55は、記録層53上にスパッタリングされた。層57は、誘電体の層55にスパッタリングされた厚さ50nmのアモルファスSiである。光学干渉層である層59は、75nm厚であり、層57上にスパッタリングされた。記録スタック92に関して、記録層64は、GeTeSbの非逆書込合金から形成された。透明の誘電体層62及び誘電体層66は、ZnS(80%)+SiO2(20%)の混合物から形成された。金属の熱放散層68は、Alから形成された。記録スタック92は、ポリカーボネートの基板56に堆積された。記録スタック90及び記録スタック92は、波長780nmで下の表1に示された透過率、反射率及び吸収の値を有する。」(段落【0033】参照)(米国出願明細書第17頁6〜23行参照)こと、
(x)表1として、図7参照の記録スタックがスタック90の厚さが225nmで透過率が36%で、反射率が29%で、吸収が35%であり、スタック92の厚さが245nmで透過率が0%で、反射率が20%で、吸収が80%である旨(段落【0034】参照)(米国出願明細書第18頁Table1参照)、が記載され、
(xi)図7として前記摘示の如く説明されていて、基板50,誘電体の層51、相変化の記録層53、誘電体の層55、半透明非金属熱放散層57、干渉層59、スペーサ44、誘電体の層62、相変化型の記録層64、誘電体の層66、熱放散層(金属薄膜)68、基板56の層構成を有する図が示されている。 なお、米国出願明細書におけるFig5が、該図7に対応する。

これらの記載から、そして、30%を越える透過率が必要である旨の記載(摘示(viii参照)から(実施例と認められる表1の記録スタック90の透過率は36%である)、最上層を除く記録スタックの透過率が前記レーザ光の波長において30%以上と認められること、及び最上層の熱放散層として金属薄膜を採用し得ることを勘案して、先願当初明細書には、下記の発明が開示されているものと認める。
「レーザ光ビームが入射する外面を有する基板50上に、レーザ光の照射により記録膜の相変化によって情報の記録再生消去を行う相変化型の記録スタック90,92を、光透過性のスペーサを介して複数積層し、前記基板上に積層した最上層を除く前記記録スタック90は、誘電体の層51、相変化型の記録層53、誘電体の層55、アモルファスSiなどからなる半透明非金属熱放散層57、干渉層59を順次形成したものであって、最上層の前記記録スタック92は、誘電体の層62、相変化型の記録層64、誘電体の層66、金属薄膜68を順次形成したものであり、前記最上層を除く記録スタックの透過率が前記レーザ光の波長において、30%以上であることを特徴とする光学情報記録媒体。」

2.対比、判断
そこで、本件補正発明と先願発明とを対比する。
先願発明の「レーザ光ビームが入射する外面を有する基板50」、「相変化型の記録スタック90,92」は、それぞれ本願発明の「透過性剛性基板」、「相変化型光記録媒体」に相当する。 そして、先願発明の最上層を除く記録スタック90の「誘電体の層51」、「相変化型の記録層53」、「誘電体の層55」、「半透明非金属熱放散層57」、「干渉層59」は、誘電体として透明な材質が用いられていて、「光が記録層53と層51、層55、層57及び層59を最小の吸収で通過するようになっていなければならない」(摘示(iv)参照)ことなどの記載からみても、各層は透明と呼ぶことができ、また保護膜の機能を有することも自明であるから、そして、図7からも明白なように53の上下に51と55が積層されていることから、それぞれ本願発明の最上層を除く層変化記録媒体の「透明下部保護膜」、「相変化記録膜」、「透明上部保護膜」、「透明反射膜」を構成する透明非金属層、「透明干渉膜」に相当する。 更に、先願発明の最上層の記録スタック92の「誘電体の層62」、「相変化型の記録層64」、「誘電体の層66」、「金属薄膜68」は、前記と同様な理由でそれぞれ本願発明の最上層の相変化型光記録媒体の「透明下部保護膜」、「相変化記録膜」、「透明上部保護膜」、「金属反射膜」を構成する金属膜、に相当する。 先願発明の「最上層を除く記録スタックの透過率」は、本願発明の「最上層を除く相変化型光記録媒体の1ユニットの透過率」に相当する。
してみると、両発明は、「 透過性剛性基板上に、レーザ光の照射により記録膜の相変化によって情報の記録再生消去を行う相変化型光記録媒体を、透過性スペーサを介して複数積層し、前記透過性剛性基板上に積層した最上層を除く前記相変化型光記録媒体は、透明下部保護膜、相変化記録膜、透明上部保護膜、透明非金属層、透明干渉膜を順次形成したものであって、最上層の前記相変化型光記録媒体は、透明下部保護膜、相変化記録膜、透明上部保護膜、金属膜を順次形成したものであり、前記最上層を除く相変化型光記録媒体の1ユニットの透過率が前記レーザ光の波長において、30%以上であることを特徴とする光学情報記録媒体。」の発明である点で一致し、更に、透明非金属層がSiである点でも一致している。
他方、(1)最上層を除く相変化記録媒体の透明非金属層に関して、本件補正発明が「透明反射膜」と表現しているのに対して、先願発明では「半透明非金属熱放散層」と表現している点で形式的に相違し、(2)最上層の相変化記録媒体の金属層に関して、本件補正発明が「金属反射膜」と表現しているのに対して、先願発明では「金属薄膜」と表現している点で形式的に相違している。
(1)の相違点について検討する。
先願発明の「半透明非金属熱放散層57」は、熱放散の機能が期待されていることは明らかであるが、「層51、記録層53、層55、層57及び層59が一緒になって、干渉構造を形成する。」(摘示(iv)参照)ことからみて、層57が光反射作用を有していることも明らかである。 また、先願発明の「半透明非金属熱放散層57」の材質としてアモルファスSiを用いているところ、本件補正発明の「透明反射膜」の材質としてSiを用いている如く同じ材質が使用されているから、その作用機能に相違が生じるはずもない。
よって、(1)の相違点は、単なる表現上の差異にすぎず、実質的な相違というべきではない。
(2)の相違点について検討する。
先願発明の最上層の「金属薄膜」は、光透過性である必要がないことが言及されているだけで反射作用について言及されていないけれども、記録薄膜の実施例にAlが用いられていることからみても、相変化記録媒体における技術常識から、いわゆる反射膜と言って過言ではない。 また、該Alは、本件補正発明の金属反射膜の材質として使用されているから、その作用機能に相違が生じるはずもない。
よって、(2)の相違点も、単なる表現上の差異にすぎず、実質的な相違というべきではない。
以上のとおりであるから、本件補正発明は、先願当初明細書に記載された発明であり、しかも、本願発明の発明者が先願発明の発明者と同一であるとも、また本願の出願時に、その出願人が他の出願の出願人と同一であるとも認められないので、本件補正発明は、特許法第29条の2の規定により特許を受けることができない。
よって、本件補正発明は、特許出願の際独立して特許を受けることができない。

3.むすび
以上のとおり、本件補正は、特許法第17条の2第5項で準用する同法第126条第4項の規定に違反するものであり、特許法第159条第1項で準用する特許法第53条第1項の規定により却下されるべきものである。


III.本願発明について
平成11年9月20日付けの手続補正は上記のとおり却下されたので、明細書及び図面の記載からみて、本願の請求項1〜17に係る発明は、特許請求の範囲の請求項1〜17に記載された次のとおりのものと認めるところ、その内の請求項1に記載された発明(以下、同項記載の発明を「本願発明」という。)は、以下の通りのものである。
「【請求項1】 透過性剛性基板上に、レーザ光の照射により記録膜の相変化によって情報の記録再生消去を行う相変化型光記録媒体を、透過性スペーサを介して複数積層したことを特徴とする光学情報記録媒体。」

1.引用例
これに対して、原査定の拒絶の理由で引用された、特開平3-219440号公報(以下、「引用例」という。)には、
(i)「厚み方向には複数の記録層が形成されており、これら記録層のトラックに光ビームを集光させて記録層に情報を記録、再生する多層記録光ディスクにおいて、前記各記録層には、各記録層のアドレスが記録された識別部が形成されていることを特徴とする多層記録光ディスク。」(第1頁第左下欄特許請求の範囲請求項1参照)、
(ii)「本発明はかかる現状を鑑みてなされたものであり、記録密度を飛躍的に向上することができると共に、隣接するトラック間や各層間でのクロストークを防止することができる多層記録光ディスクを提供することを目的とする。」(第2頁左下欄第18行〜右下欄第2行参照)こと、
(iii)「多層記録光ディスク1は、第1図に示すようにプラスチックから成るディスク基材2・2間に、第1記録層3及び第2記録層4と、紫外線硬化(UV)樹脂から成り上記記録層3,4を分離するためのスペーサ5とが設けられるような構造である。」(第3頁右上欄第12〜17行参照)こと、
(iv)「また、多層記録光ディスクは各記録層がそれぞれ異なる波長感度を持つ波長多重媒体に限定されものではなく、通常の光磁気媒体(TbFeCo)や、相変化媒体(TeGeSb)等を記録膜として多層構造にした多層記録光ディスクにも適用されることは勿論である。」(第5頁右下欄第19行〜第6頁左上欄第4行参照)こと、が記載されている。
これらの記載からすると、引用例には、記録密度を飛躍的に向上することができると共に、隣接するトラック間や各層間でのクロストークを防止することができる多層記録光ディスクに関し、「プラスチックから成るディスク基材上に、相変化媒体を、紫外線硬化樹脂からなるスペーサを介して複数積層した多層記録光ディスク。」の発明が記載されいるものと認める。

2.対比、判断
そこで、本願発明と引用例に記載された発明とを対比すると、引用例の「プラスチックから成るディスク基材」、「相変化媒体」、「紫外線硬化樹脂からなるスペーサ」、「多層記録光ディスク」は、それぞれ本願発明の「透過性剛性基板」、「レーザ光の照射により記録膜の相変化によって情報の記録再生消去を行う相変化型記録媒体」、「透過性スペーサ」、「光学情報記録媒体」に相当する。
してみると、両者は、記録密度を飛躍的に向上することができる光学情報記録媒体であって、「透過性剛性基板上に、レーザ光の照射により記録膜の相変化によって情報の記録再生消去を行う相変化型光記録媒体を、透過性スペーサを介して複数積層した光学情報記録媒体。」の発明である点で一致し、両者には差異がない。

3.むすび
以上のとおり、本願発明は、引用例に記載された発明と同一であり、特許法第29条第1項第3号に規定の発明に該当するので、特許を受けることができない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2002-10-21 
結審通知日 2002-11-01 
審決日 2002-11-12 
出願番号 特願平9-101239
審決分類 P 1 8・ 575- Z (G11B)
P 1 8・ 161- Z (G11B)
P 1 8・ 113- Z (G11B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 広岡 浩平蔵野 雅昭  
特許庁審判長 麻野 耕一
特許庁審判官 田良島 潔
川上 美秀
発明の名称 光学情報記録媒体および光学情報記録再生消去方法  
代理人 京本 直樹  

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