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審決分類 審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  C03B
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  C03B
審判 全部申し立て 2項進歩性  C03B
管理番号 1070346
異議申立番号 異議2000-70706  
総通号数 38 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 1997-01-07 
種別 異議の決定 
異議申立日 2000-02-23 
確定日 2002-10-30 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第2936138号「石英ガラス、それを含む光学部材、並びにその製造方法」の請求項1ないし15に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 訂正を認める。 特許第2936138号の請求項1ないし12に係る特許を維持する。 
理由 1.本件手続の経緯
本件特許第2936138号は、平成8年1月8日に出願(優先日:平成7年1月6日及び平成7年3月20日、日本)され、平成11年6月11日にその特許の設定登録がされたものである。
これに対して、信越石英株式会社及び大湯佳子からそれぞれ特許異議の申立てがなされ、取消理由通知がなされ、その指定期間内の平成12年7月24日付けで特許異議意見書と訂正請求書が提出されたが、これに対し再度取消理由通知がなされ、平成14年9月24日付けで平成12年7月24日付け訂正請求書が取下げられ同日付けで訂正請求書と特許異議意見書が提出されたものである。
2.訂正の適否についての判断
2-1.訂正事項
平成14年9月24日付け訂正請求は、特許請求の範囲の減縮とこの減縮に伴う明りょうでない記載の釈明を目的として、訂正請求書に添附した全文訂正明細書のとおり、すなわち次の訂正事項a乃至訂正事項cのとおり訂正するものである。
(1)訂正事項a:特許請求の範囲を請求項7及び8に基づいて、次のとおりに訂正する。
【請求項1】400nm以下の波長帯域の光と共に使用される石英ガラスであって、構造決定温度、すなわち「高温で融液状態にある石英ガラスを冷却した際に、密度及び構造が決定される温度」が1200K以下でかつ水素分子濃度が1×1017molecules/cm3以上、OH基濃度が500〜1300ppmであり、ArFエキシマレーザを平均ワンパルスエネルギー密度100mJ/cm2で1×106パルス照射した後の表面凹み量が片面当たり0.05μm以下であることを特徴とする石英ガラス。
【請求項2】400nm以下の波長帯域の光と共に使用される石英ガラスであって、構造決定温度、すなわち「高温で融液状態にある石英ガラスを冷却した際に、密度及び構造が決定される温度」が1200K以下で、OH基濃度が500〜1300ppmでかつ塩素濃度が50ppm以下であり、ArFエキシマレーザを平均ワンパルスエネルギー密度100mJ/cm2で1×106パルス照射した後の表面凹み量が片面当たり0.05μm以下であることを特徴とする石英ガラス。
【請求項3】400nm以下の波長帯域の光と共に使用される石英ガラスであって、構造決定温度、すなわち「高温で融液状態にある石英ガラスを冷却した際に、密度及び構造が決定される温度」が1200K以下でかつ水素分子濃度が1×1017molecules/cm3以上、OH基濃度が500〜1300ppmでかつ塩素濃度が50ppm以下であり、ArFエキシマレーザを平均ワンパルスエネルギー密度100mJ/cm2で1×106パルス照射した後の表面凹み量が片面当たり0.05μm以下であることを特徴とする石英ガラス。
【請求項4】ArFエキシマレーザを平均ワンパルスエネルギー密度100mJ/cm2で1×106パルス照射した後の波長633nmの光に対する屈折率上昇量が6×10-6以下であることを特徴とする、請求項1〜3のうちのいずれかに記載の石英ガラス。
【請求項5】ArFエキシマレーザを平均ワンパルスエネルギー密度50mJ/cm2で5×106パルス照射した後の波長633nmの光に対する最大歪量が10nm/cm以下であることを特徴とする、請求項1〜4のうちのいずれかに記載の石英ガラス。
【請求項6】請求項1〜5のうちのいずれかに記載の石英ガラスを含むことを特徴とする、400nm以下の波長帯域の光と共に使用される光学部材。
【請求項7】請求項1〜4のうちのいずれかに記載の石英ガラスを含む光学部材を備えることを特徴とする、400nm以下の波長帯域の光を露光光として使用する露光装置。
【請求項8】水素分子濃度が1×1017molecules/cm3以上でありかつOH基濃度が500〜1300ppmである石英ガラスインゴットを1200〜1350Kの温度に昇温し、該温度に所定期間保持した後、1000K以下の温度まで50K/hr以下の降温速度で降温することによって該インゴットをアニーリングする工程を含むことを特徴とする、構造決定温度、すなわち「高温で融液状態にある石英ガラスを冷却した際に、密度及び構造が決定される温度」が1200K以下でかつ水素分子濃度が1×1017molecules/cm3以上でかつOH基濃度が500〜1300ppmであるものであり、ArFエキシマレーザを平均ワンパルスエネルギー密度100mJ/cm2で1×106パルス照射した後の表面凹み量が片面当たり0.05μm以下である石英ガラスの製造方法。
【請求項9】ケイ素化合物を火炎中で加水分解せしめてガラス微粒子を得、該ガラス微粒子を堆積かつ溶融せしめて水素分子濃度が1×1017molecules/cm3以上である石英ガラスインゴットを得る工程を更に含むことを特徴とする、請求項8に記載の方法。
【請求項10】前記火炎中の水素ガスに対する酸素ガスの容量比が0.2〜0.5であることを特徴とする、請求項9に記載の方法。
【請求項11】ケイ素化合物を火炎中で加水分解せしめてガラス微粒子を得、該ガラス微粒子を堆積かつ溶融せしめて石英ガラスインゴットを得る工程と、該インゴットを水素ガス含有雰囲気中で加熱処理して水素分子濃度が1×1017molecules/cm3以上である石英ガラスインゴットを得る工程と、を更に含むことを特徴とする、請求項8に記載の方法。
【請求項12】前記火炎中に供給されるケイ素化合物の流速が350g/min/cm2以下であることを特徴とする、請求項9又は11に記載の方法。」
(2)訂正事項b:特許明細書の段落【0009】を明りょうでない記載の釈明を目的として、次のとおりに訂正する。
「【0009】本発明の石英ガラスは、
(i)400nm以下の波長帯域の光と共に使用される石英ガラスであって、構造決定温度、すなわち「高温で融液状態にある石英ガラスを冷却した際に、密度及び構造が決定される温度」が1200K以下でかつ水素分子濃度が1×1017molecules/cm3以上、OH基濃度が500〜1300ppmであり、ArFエキシマレーザを平均ワンパルスエネルギー密度100mJ/cm2で1×106パルス照射した後の表面凹み量が片面当たり0.05μm以下であること、又は
(ii)400nm以下の波長帯域の光と共に使用される石英ガラスであって、構造決定温度、すなわち「高温で融液状態にある石英ガラスを冷却した際に、密度及び構造が決定される温度」が1200k以下で、OH基濃度が500〜1300ppmでかつ塩素濃度が50ppm以下であり、ArFエキシマレーザを平均ワンパルスエネルギー密度100mJ/cm2で1×106パルス照射した後の表面凹み量が片面当たり0.05μm以下であること、又は
(iii)400nm以下の波長帯域の光と共に使用される石英ガラスであって、構造決定温度、すなわち「高温で融液状態にある石英ガラスを冷却した際に、密度及び構造が決定される温度」が1200K以下でかつ水素分子濃度が1×1017molecules/cm3以上、OH基濃度が500〜1300ppmでかつ塩素濃度が50ppm以下であり、ArFエキシマレーザを平均ワンパルスエネルギー密度100mJ/cm2で1×106パルス照射した後の表面凹み量が片面当たり0.05μm以下であること、を特徴とするものである。
また、本発明の光学部材は、400nm以下の波長帯域の光と共に使用される光学部材であって、前記本発明の石英ガラスを含むことを特徴とするものである。」
(3)訂正事項c:特許明細書の段落【0010】を明りょうでない記載の釈明を目的として、次のとおりに訂正する。
「【0010】さらに、本発明の露光装置は、400nm以下の波長帯域の光を露光光として使用する露光装置であって、前記本発明の石英ガラスを含む光学部材を備えることを特徴とするものである。
さらにまた、本発明の石英ガラスの製造方法は、水素分子濃度が1×1017molecules/cm3以上でありかつOH基濃度が500〜1300ppmである石英ガラスインゴットを1200〜1350Kの温度に昇温し、該温度に所定期間保持した後、1000K以下の温度まで50K/hr以下の降温速度で降温することによって該インゴットをアニーリングする工程を含むことを特徴とする、構造決定温度、すなわち「高温で融液状態にある石英ガラスを冷却した際に、密度及び構造が決定される温度」が1200K以下でかつ水素分子濃度が1×1017molecules/cm3以上でかつOH基濃度が500〜1300ppmであるものであり、ArFエキシマレーザを平均ワンパルスエネルギー密度100mJ/cm2で1×106パルス照射した後の表面凹み量が片面当たり0.05μm以下である石英ガラスを製造可能な方法である。」
2-2.訂正の目的の適否、新規事項の有無及び拡張・変更の存否
上記訂正事項aのうち、請求項1乃至7は、訂正前の請求項1乃至10に関し、その請求項1乃至4及び6を削除すると共に訂正前の請求項7及び8の内容に基づいて整理するものであるから、特許請求の範囲の減縮に該当する。また、請求項8乃至12も、訂正前の請求項11乃至15に関し、訂正前の請求項7の内容等に基づいて技術的な限定を付すものであるから、特許請求の範囲の減縮に該当する。
さらに、訂正事項b乃至cは、特許請求の範囲の減縮に伴って明細書の記載の整合を図るものであるから、明りょうでない記載の釈明に該当する。
そして、これら訂正事項は、いずれも特許明細書に記載した事項の範囲内でなされたものであるから新規事項の追加に該当せず、また当該訂正によって実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものでもない。
2-3.まとめ
したがって、上記訂正は、特許法第120条の4第2項及び同条第3項において準用する特許法第126条第2項及び第3項の規定に適合するので、当該訂正を認める。
3.本件訂正発明
訂正後の請求項1乃至12に係る発明(以下、それぞれ「本件訂正発明1乃至12」という)は、上記「2-1.(1)訂正事項a」の項に示す事項により特定されるとおりのものである。
4.特許異議申立てについて
4-1.特許異議申立人信越石英株式会社について
(1)特許異議申立ての理由
特許異議申立人は、証拠方法として甲第1号証乃至甲第8号証を提出して、請求項1乃至6、9乃至15に係る発明について次のとおり主張している。
(イ)本件請求項1、4、9、11及び12に係る発明は、甲第1号証に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものである。
(ロ)本件請求項2乃至5及び9乃至14に係る発明は、甲第1号証乃至甲第7号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。
(ハ)本件請求項6に係る発明は、本件特許の出願の日前に出願した甲第8号証に係る先願の出願当初の明細書または図面に記載された発明と同一であるから、特許法第29条の2の規定により特許を受けることができないものである。
(ニ)本件請求項15に係る発明は、その「火炎中に供給されるケイ素化合物の流速が350g/min/cm2以下である」という記載が不明確であるから、特許法第36条第6項に規定する要件を満たしていないものである。
(2)証拠及び主な証拠の記載内容
甲第1号証:特開平5-58667号公報
(a)「【請求項1】肉厚が30mm以上の合成シリカガラスからなる光学部材において、OH基を100〜1000(wt・ppm)含有させると共に、仮想温度を800〜1000℃で且つ均質性Δnを1×10-5以下に設定した事を特徴とする光学部材。
【請求項2】H2ガス分子の含有量を1×1016molecules/cm3以上に設定したことを特徴とする請求項1記載の光学部材。」(特許請求の範囲の請求項1、2)
(b)「【課題を解決するための手段】本発明は、前記球面収差が大きくなる光学部品やレーザ照射による劣化する部品をレーザラマン分光光度計によって調べた所、いずれも仮想温度分布が異常に高い部分から劣化する事を知見し、該知見に基づいて発明に至ったものである。即ち、本発明は前記知見より、肉厚が30mm以上の合成シリカガラスからなる光学部材においても、仮想温度800〜1000℃で均質性をΔnを1×10-5以下に設定した点を特徴とし、これによりレーザ照射による劣化および球面収差のいずれもが低減し得る。そして前記仮想温度を800〜1000℃に設定するには後記実施例に示すようにアニール条件を選択する事により容易に実現し得る。しかしながら、仮想温度を800℃以下に設定することは、実際には長時間(2ヶ月程度)の加熱が必要であり工業的には不利である。」(第2欄33〜47行)
(c)「【実施例】先ず高純度の合成石英ガラスを製造するために、原料四塩化ケイ素を蒸留処理して不純物を除去させた後テフロンライニング付ステンレス製容器に貯留した高純度四塩化珪素を用意し、該高純度の四塩化ケイ素原料を用いて、火炎加水分解法(ダイレクト法)で、OH基を500(wt・ppm)含有した。高純度合成シリカガラスインゴットと、CVDスート法でOH基を150(wt・ppm)含有した高純度合成シリカガラスインゴットとCVDスート法+Cl2処理によりOH基の含有量が5(wt・ppm)以下の高純度合成シリカガラスインゴットを各々複数個合成した。
そして前記各インゴットを軟化点以上に加熱/冷却操作を繰返し行い、且つ加熱毎に自重による軟化の方向を変えて内部の脈理を除去する。すなわちこの操作の繰返しによって3方向脈理フリーでありかつ屈折率変動幅(Δn)を2×10-6以下に抑えたインゴットを製造する。」(第3欄24〜40行)
(d)「次に前記各試験片の仮想温度の設定は、The American Physical Society、Vol.28、No.6、p3266〜3271、September,1983に記載されているようにレーザラマン分光法を用いる。先ずその測定方法を簡単に説明するに、先ず比較サンプルとしてOH基500(wt・ppm)程度の合成シリカガラスの小片(5cm角、長さ20mm)を用意し、この小片を例えば1200℃で2時間加熱した後水中急冷したサンプル1,1000℃で20時間加熱した後水中急冷したサンプル2、900℃で120時間加熱した後水中急冷したサンプル3を生成し、800℃で1200時間加熱した後水中急冷したサンプル4を生成しこれらのサンプルを夫々ラマン分光光度計で150〜650cm-1の範囲を測定し、下記の3つのピーク面積を測定する。」(第4欄29〜42行)
(e)「150〜650cm-1(W1、ピーク面積AW1)、470〜520cm-1(D1、ピーク面積AD1)
580〜640cm-1(D2、ピーク面積AD2)
次にこれらの3つのピーク面積からD2のピーク面積の比(I)を求める。
I={AD2/(AW1-AD1-AD2)}」(第4欄44〜49行)
(f)「この(I)と仮想温度との関係をグラフに示し、標準線(検量線)として仮想温度が分からないサンプルの(I)から仮想温度を推測する。この手法により前記各試験体に仮想温度を測定した所・・・実施例1については中心域及び周縁域のいずれもが仮想温度が850〜950℃の中に入っていることが・・・確認された。」(第4欄50行から第5欄10行)
甲第2号証:特開平3-88743号公報
甲第3号証:特開平5-32432号公報
甲第4号証:特開平6-305736号公報
甲第5号証:特開平6-199532号公報
甲第6号証:特開平3-88742号公報
「OH基を略50ppm以上含有する高純度合成シリカガラス塊を出発母材とし、該ガラス塊について軟化点以上の加熱下に脈理を除去する処理及び1000〜1200℃に一定時間加熱しついで徐冷する内部歪除去の処理を施した後、常圧ないし加圧の水素ガス雰囲気中200〜1000℃に加熱し、紫外光照射による光透過率低下を抑制するに充分な量の水素ガスをドープすることを特徴とする合成シリカガラス光学体の製造方法。」(特許請求の範囲第11項)
甲第7号証:J.Vac.Sci.Technol.B12(6)、Nov/Dec 1994年、p.3275-3279
甲第8号証:特願平5-190143号(特開平7-43891号公報)の明細書及び図面
上記先願明細書には、次の事項が記載されている。
(a)「水素分子を1×1017〜1×1019molecules/cm3の範囲で含有してなることを特徴とするエキシマレーザリソグラフィー用合成石英マスク基板。」(特許請求の範囲の請求項1)
(b)「水素分子含有量の最大値と最小値との差(ΔH2)が水素分子含有量の最大値の40%以内である請求項1に記載したエキシマレーザリソグラフィー用合成石英マスク基板。」(特許請求の範囲の請求項2)
(c)「実施例1と同様にして製造した石英ガラス体から、それぞれ6インチ×6インチ×6.3mmtのサンプルを切り出し、それらの水素濃度を実施例1と同じ方法で測定したところ、実施例4のものは5×1018molecules/cm3であり、比較例2のものは5×1016molecules/cm3であった。」(第7欄17〜22行)
(d)「ついでこれらに1パルス当りのエネルギー密度が100mJ/cm2、繰り返し周波数100Hzで1×105ショットでArFエキシマレーザーを照射し、照射後にサンプル表面の面精度を干渉計を用いた反射法で測定したところ、比較例のものでは表面が図2に示したように約0.035μmくぼんでいることが判明したが、実施例4のものではこの表面のくぼみが図1に示したように0.002μmであり、このことからマスク基板に必要な水素濃度は1×1017molecules/cm3以上であることが確認された。なお、図には測定の関係で位置関係が逆に表示してあるので、上部に突起している部分は実はくぼんでいることになっている。」(第7欄23行から第8欄16行)
(3)当審の判断
(3-1)本件訂正発明1乃至5について
上記訂正は、請求項1乃至4及び6を削除すると共に、その他の特許請求の範囲の請求項5、7乃至15を特許異議申立ての対象とされていない請求項7及び8の内容に基づいて減縮するものである。
すなわち、訂正後の請求項1乃至4は、訂正前の請求項7の「請求項1〜5のうちのいずれかに記載の石英ガラス」という引用記載形式から、その構成をすべて記載する独立記載形式に改められただけであり、訂正後の請求項5は、訂正前の請求項8に該当するから、これら訂正後の請求項1乃至5は、本件特許異議申立ての対象とされていない請求項7及び8に相当するものである。
したがって、本件訂正発明1乃至5は、本件特許異議申立ての対象とされていない発明であるから、これら発明についての特許を取り消すことはできない。
(3-2)本件訂正発明6乃至7について
訂正後の請求項6及び7は、訂正前の請求項9及び10に該当するから、この請求項9及び10自体は、本件特許異議申立ての対象とされている請求項である。
しかしながら、訂正後の請求項6及び7の内容は、本件特許異議申立ての対象とされていない訂正後の請求項1乃至5を引用するものであり、したがって、提出された上記証拠には、これら発明に関する記載は見当たらないから、これら発明を引用する本件訂正発明6及び7についての特許も、これを取り消すことはできない。
(3-3)本件訂正発明8乃至12について
訂正後の請求項8乃至12は、訂正前の請求項11乃至15に該当するから、この請求項11乃至15は、本件特許異議申立ての対象とされている請求項である。
しかしながら、訂正後の請求項8は、「ArFエキシマレーザを平均ワンパルスエネルギー密度100mJ/cm2で1×106パルス照射した後の表面凹み量が片面当たり0.05μm以下である石英ガラス」(異議申立ての対象とされていない訂正前の請求項7に記載の石英ガラス)の製造方法に係るものであり、また訂正後の請求項9乃至12も、訂正後の請求項8を少なくとも引用するものであるから、提出された上記証拠には、これら発明に関する記載は見当たらない。
してみると、訂正後の請求項8乃至15に係る発明についての特許も、これを取り消すことはできない。
また、特許異議申立人は、訂正前の請求項15(訂正後の請求項12)の記載について、上記(ニ)の取消理由、すなわち実施例では原料が四塩化ケイ素の場合のみであるから、請求項15の「流速が350g/min/cm2以下」という条件は、四塩化ケイ素の場合にのみ意味があるのであり、広く「ケイ素化合物」という原料の場合でも意味があるとすることはできないから、請求項15(訂正後の請求項12)の記載は、この点で不備であると主張している。
しかしながら、請求項15の「流速が350g/min/cm2以下」という条件は、原料が塩素を含むケイ素化合物の場合でも50ppm以下の塩素濃度とすることができる流速について規定したものであるから、塩素を含まない「ケイ素化合物」の場合でも、上記条件の流速により所望の石英ガラスが得られることは明らかである。
したがって、特許異議申立人の上記(ニ)の理由も採用することができない。
4-2.特許異議申立人大湯佳子について
(1)特許異議申立ての理由
特許異議申立人は、甲第1号証を提出して、本件特許明細書の記載について、次のとおり主張している。
本件特許明細書の【0013】段落の記載によれば、構造決定温度は、いろいろな保持温度を持つ試験片について、606cm-1線強度に対する構造決定温度を変数にしたグラフを作成し、これを検量線として逆算して決定するとあるが、甲第1号証の記載によれば、606cm-1線強度は、石英ガラスのフッ素濃度、OH基濃度などにより変化するとされており、また、本件特許明細書にはそのような検量線の具体例も記載されていない。
してみると、本件特許請求の範囲において、単に1200Kの構造決定温度と記載しても、その記載に客観性はないから、本件特許請求の範囲の記載は、本件発明を明確に記載しているものではなく、また、本件特許明細書の発明の詳細な説明も、当業者が本件発明を容易に実施することができる程度に明確かつ十分に記載したものではない。
したがって、本件発明についての特許は、特許法第36条第4項若しくは第6項の規定に違反してなされたものである。
(2)証拠及びその記載内容
甲第1号証:「Journal of Non-Crystalline Solids」72(1985)p.243-248
「固体中のフッ素の増加で、495と606cm-1におけるラマン欠陥線の著しい低下が検出され得る。同様なこのような線強度の減少は、OH含有量の増加やGeO2および/またはB2O3をドープした場合における溶融シリカについて報告された。」(第246頁8〜12行)
(3)当審の判断
本件特許請求の範囲には、単に1200Kと記載されているわけではなく、構造決定温度については「1200以下」と記載されており、特許明細書にはその温度範囲における客観的なデータも明示されているから、客観性がないとする上記主張は、理由がない。また、検量線の具体例についても、平成14年9月24日付け意見書において補充されており、この具体例が本件特許明細書に記載されなければならないというものでもない。
したがって、特許異議申立人の上記主張は、採用することができない。
5.むすび
以上のとおり、特許異議申立ての理由及び証拠方法によっては、本件訂正発明についての特許を取り消すことはできない。
また、他に本件訂正発明についての特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、上記結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
石英ガラス、それを含む光学部材、並びにその製造方法
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】 400nm以下の波長帯域の光と共に使用される石英ガラスであって、構造決定温度、すなわち「高温で融液状態にある石英ガラスを冷却した際に、密度及び構造が決定される温度」が1200K以下でかつ水素分子濃度が1×1017molecules/cm3以上、OH基濃度が500〜1300ppmであり、ArFエキシマレーザを平均ワンパルスエネルギー密度100mJ/cm2で1×106パルス照射した後の表面凹み量が片面当たり0.05m以下であることを特徴とする石英ガラス。
【請求項2】 400nm以下の波長帯域の光と共に使用される石英ガラスであって、構造決定温度、すなわち「高温で融液状態にある石英ガラスを冷却した際に、密度及び構造が決定される温度」が1200K以下で、OH基濃度が500〜1300ppmでかつ塩素濃度が50ppm以下であり、ArFエキシマレーザを平均ワンパルスエネルギー密度100mJ/cm2で1×106パルス照射した後の表面凹み量が片面当たり0.05μm以下であることを特徴とする石英ガラス。
【請求項3】 400nm以下の波長帯域の光と共に使用される石英ガラスであって、構造決定温度、すなわち「高温で融液状態にある石英ガラスを冷却した際に、密度及び構造が決定される温度」が1200K以下でかつ水素分子濃度が1×1017molecules/cm3以上、OH基濃度が500〜1300ppmでかつ塩素濃度が50ppm以下であり、ArFエキシマレーザを平均ワンパルスエネルギー密度100mJ/cm2で1×106パルス照射した後の表面凹み量が片面当たり0.05μm以下であることを特徴とする石英ガラス。
【請求項4】 ArFエキシマレーザを平均ワンパルスエネルギー密度100mJ/cm2で1×106パルス照射した後の波長633nmの光に対する屈折率上昇量が6×10-6以下であることを特徴とする、請求項1〜3のうちのいずれかに記載の石英ガラス。
【請求項5】 ArFエキシマレーザを平均ワンパルスエネルギー密度50mJ/cm2で5×106パルス照射した後の波長633nmの光に対する最大歪量が10nm/cm以下であることを特徴とする、請求項1〜4のうちのいずれかに記載の石英ガラス。
【請求項6】 請求項1〜5のうちのいずれかに記載の石英ガラスを含むことを特徴とする、400nm以下の波長帯域の光と共に使用される光学部材。
【請求項7】 請求項1〜4のうちのいずれかに記載の石英ガラスを含む光学部材を備えることを特徴とする、400nm以下の波長帯域の光を露光光として使用する露光装置。
【請求項8】 水素分子濃度が1×1017molecules/cm3以上でありかつOH基濃度が500〜1300ppmである石英ガラスインゴットを1200〜1350Kの温度に昇温し、該温度に所定期間保持した後、1000K以下の温度まで50K/hr以下の降温速度で降温することによって該インゴットをアニーリングする工程を含むことを特徴とする、構造決定温度、すなわち「高温で融液状態にある石英ガラスを冷却した際に、密度及び構造が決定される温度」が1200K以下でかつ水素分子濃度が1×1017molecules/cm3以上でかつOH基濃度が500〜1300ppmであるものであり、ArFエキシマレーザを平均ワンパルスエネルギー密度100mJ/cm2で1×106パルス照射した後の表面凹み量が片面当たり0.05um以下である石英ガラスの製造方法。
【請求項9】 ケイ素化合物を火炎中で加水分解せしめてガラス微粒子を得、該ガラス微粒子を堆積かつ溶融せしめて水素分子濃度が1×1017molecules/cm3以上である石英ガラスインゴットを得る工程を更に含むことを特徴とする、請求項8に記載の方法。
【請求項10】 前記火炎中の水素ガスに対する酸素ガスの容量比が0.2〜0.5であることを特徴とする、請求項9に記載の方法。
【請求項11】 ケイ素化合物を火炎中で加水分解せしめてガラス微粒子を得、該ガラス微粒子を堆積かつ溶融せしめて石英ガラスインゴットを得る工程と、
該インゴットを水素ガス含有雰囲気中で加熱処理して水素分子濃度が1×1017molecules/cm3以上である石英ガラスインゴットを得る工程と、
を更に含むことを特徴とする、請求項8に記載の方法。
【請求項12】 前記火炎中に供給されるケイ素化合物の流速が350g/min/cm2以下であることを特徴とする、請求項9又は11に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】
本発明は石英ガラス、それを含む光学部材、並びにその製造方法に関する。より詳しくは、本発明は、エキシマレーザリソグラフィなどの400nm以下の紫外及び真空紫外波長帯域の光を用いる光学系に使用される石英ガラス及び光学部材、並びにその石英ガラスの製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来、シリコン等のウエハ上に集積回路の微細パターンを露光・転写する光リソグラフィ技術においては、ステッパと呼ばれる露光装置が用いられる。このステッパの光源の波長は、近年のLSIの高集積化に伴って、g線(g-line)(436nm)からi線(i-line)(365nm)、KrFエキシマレーザビーム(248nm)、ArFエキシマレーザビーム(193nm)へと短波長化が進められている。一般に、ステッパの照明系(illumination optical system)あるいは投影系(projection optical system)のレンズとして用いられる光学ガラスとしては、i線よりも短い波長領域の光に対する高透過率及び耐紫外線性が要求されることから、合成石英ガラスが用いられる。
【0003】
しかしながら、合成石英ガラスであっても高出力の紫外光やエキシマレーザ光が長時間照射されると、E’センター(≡Si・の構造を持つ。ただし、≡は3重結合ではなく、3つの酸素原子と結合していることを表し、・は不対電子を表す)と呼ばれる構造欠陥に起因する215nmの吸収帯や、NBOHC(Non-Bridging Oxygen Hole Center;≡Si-O・の構造を持つ)と呼ばれる構造欠陥に起因する260nm吸収帯が現れ、紫外領域の光の透過率が著しく低下する。このような耐紫外線性の良くない石英ガラスは、前述のような紫外線用光学レンズなどの光学部材としては不適切であった。
【0004】
従来、このような石英ガラスの耐紫外線性を向上させる技術として、石英ガラスを水素雰囲気下で熱処理することが知られている(例えば、特開平1-201664)。また、石英ガラスに水素分子をドープすることにより耐エキシマ性を向上させることが提案されている(例えば、特開平3-109233)。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、本発明者らは、上記従来の石英ガラスは以下のような問題を有しており、充分な耐紫外線性を達成するには至っていないことを見出した。すなわち、上記のようにドープされた水素分子には紫外線照射によって生成した前述の構造欠陥をターミネートする効果があるものの、水素分子による効果は生成した構造欠陥の修復に過ぎず、根本的に構造欠陥をなくすことはできなかった。例えば、水素分子は、紫外線照射によって発生したE’センターと反応して≡Si-H結合に変換し、結果的にE’センター濃度を低減するが、再び紫外線が照射されると≡Si-H結合は容易にE’センターに変換されてしまう。
【0006】
また、上記従来の石英ガラスにおいては、紫外線が照射された部分の屈折率の上昇による均質性の劣化が生じたり、紫外線の照射に伴って歪が増大したり凹みが生じたりすることによって、それを使用した光学系の結像性能を著しく悪化させるという問題があった。すなわち、従来は、i)ArFエキシマレーザを平均ワンパルスエネルギー密度100mJ/cm2で1×106パルス照射した後の波長633nmの光に対する屈折率上昇量が6×10-6以下、ii)ArFエキシマレーザを平均ワンパルスエネルギー密度100mJ/cm2で1×106パルス照射した後の表面凹み量が片面当たり0.05μm以下、iii)ArFエキシマレーザを平均ワンパルスエネルギー密度50mJ/cm2で5×106パルス照射した後の波長633nmの光に対する最大歪量が10nm/cm以下であることを同時に達成した石英ガラスは存在しなかった。
【0007】
そこで、本発明は、上述のような従来技術の欠点を解決し、E’センターやNBOHCなどの構造欠陥自体の生成が抑制され、短波長でかつ高出力の紫外線やエキシマレーザ光を長期間照射しても屈折率の上昇や凹み及び歪の発生が充分に抑制される、耐紫外線性の向上した石英ガラスを提供することを目的とする。
【0008】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意研究を行った結果、石英ガラスの構造決定温度がかかる耐紫外線性に大きく影響しており、水素分子を一定量以上含有する石英ガラスにおいて構造決定温度を一定水準以下に低下させることによって屈折率の上昇や凹み及び歪の発生が充分に抑制されることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
本発明の石英ガラスは、
(i)400nm以下の波長帯域の光と共に使用される石英ガラスであって、構造決定温度、すなわち「高温で融液状態にある石英ガラスを冷却した際に、密度及び構造が決定される温度」が1200K以下でかつ水素分子濃度が1×1017molecules/cm3以上、OH基濃度が500〜1300ppmであり、ArFエキシマレーザを平均ワンパルスエネルギー密度100mJ/cm2で1×106パルス照射した後の表面凹み量が片面当たり0.05μm以下であること、又は
(ii)400nm以下の波長帯域の光と共に使用される石英ガラスであって、構造決定温度、すなわち「高温で融液状態にある石英ガラスを冷却した際に、密度及び構造が決定される温度」が1200K以下で、OH基濃度が500〜1300ppmでかつ塩素濃度が50ppm以下であり、ArFエキシマレーザを平均ワンパルスエネルギー密度100mJ/cm2で1×106パルス照射した後の表面凹み量が片面当たり0.05μm以下であること、又は
(iii)400nm以下の波長帯域の光と共に使用される石英ガラスであって、構造決定温度、すなわち「高温で融液状態にある石英ガラスを冷却した際に、密度及び構造が決定される温度」が1200K以下でかつ水素分子濃度が1×1017molecules/cm3以上、OH基濃度が500〜1300ppmでかつ塩素濃度が50ppm以下であり、ArFエキシマレーザを平均ワンパルスエネルギー密度100mJ/cm2で1×106パルス照射した後の表面凹み量が片面当たり0.05μm以下であること、
を特徴とするものである。
また、本発明の光学部材は、400nm以下の波長帯域の光と共に使用される光学部材であって、前記本発明の石英ガラスを含むことを特徴とするものである。
【0010】
さらに、本発明の露光装置は、400nm以下の波長帯域の光を露光光として使用する露光装置であって、前記本発明の石英ガラスを含む光学部材を備えることを特徴とするものである。
さらにまた、本発明の石英ガラスの製造方法は、水素分子濃度が1×1017molecules/cm3以上でありかつOH基濃度が500〜1300ppmである石英ガラスインゴットを1200〜1350Kの温度に昇温し、該温度に所定期間保持した後、1000K以下の温度まで50K/hr以下の降温速度で降温することによって該インゴットをアニーリングする工程を含むことを特徴とする、構造決定温度、すなわち「高温で融液状態にある石英ガラスを冷却した際に、密度及び構造が決定される温度」が1200K以下でかつ水素分子濃度が1×1017molecules/cm3以上でかつOH基濃度が500〜1300ppmであるものであり、ArFエキシマレーザを平均ワンパルスエネルギー密度100mJ/cm2で1×106パルス照射した後の表面凹み量が片面当たり0.05μm以下である石英ガラスを製造可能な方法である。
【0011】
ここでいう「構造決定温度」とは、石英ガラスの構造安定性を表すパラメータとして導入されたファクターであり、以下に詳細に説明する。室温での石英ガラスの密度揺らぎ、すなわち構造安定性は、高温で融液状態にある石英ガラスの密度、構造が冷却過程においてガラス転移点付近で凍結されたときの密度、構造によって決定される。すなわち、密度、構造が凍結されたときの温度に相当する熱力学的密度、構造が室温下でも保存されるのである。その密度、構造が凍結されたときの温度を、本発明では「構造決定温度」と定義する。構造決定温度は以下のように求めることができる。まず、図1に示すような管状炉中で複数の石英ガラス試験片を空気中で1073K〜1700Kの範囲の複数の温度でそれぞれ、その温度における構造緩和時間(その温度において石英ガラスの構造が緩和されるに要する時間)以上の期間保持することによって、各試験片の構造をその保持温度における構造に到達させる。これにより、各試験片は保持温度での熱平衡状態にある構造を有することになる。図1中、101は試験片、102は石英ガラス管、103はヒーター、104は熱電対、105はビーカー、106は液体窒素である。
【0012】
次に、各試験片を水ではなく、液体窒素に0.2秒以内に投入して急冷を実施する。水への投入では急冷が十分ではなく、そのため冷却過程で構造緩和が生じ、保持温度での構造を固定できない。さらに、水と石英ガラスとの反応による悪影響も考えられる。本発明では、各試験片を液体窒素へ投入することにより、水の場合より超急冷を達成することができ、この操作により、各試験片の構造を保持温度の構造に固定することが可能になった。そのようにしてはじめて、構造決定温度を保持温度と一致させることができる。
【0013】
このようにして作製した、いろいろな構造決定温度(ここでは保持温度に等しい)をもつ試験片についてラマン散乱測定を行い、606cm-1線強度を800cm-1線強度に対する比として求めて、606cm-1線強度に対する構造決定温度を変数にしたグラフを作成して、これを検量線とする。この検量線に基づいて、構造決定温度が未知である試験片の構造決定温度をその606cm-1線強度測定値から逆算することができる。本発明では、構造決定温度が未知の石英ガラスについて、以上のようにして求めた温度をその石英ガラスの構造決定温度とした。
【0014】
【発明の実施の形態】
先ず、本発明の石英ガラスについて説明する。本発明の石英ガラスは、400nm以下の波長帯域の光と共に使用される石英ガラスであって、構造決定温度が1200K以下でかつ水素分子濃度が1×1017molecules/cm3以上のものである。
【0015】
このように水素分子濃度を1×1017molecules/cm3以上としかつ構造決定温度を1200K以下にすることで、エキシマレーザリソグラフィ用の光学部材として十分な耐紫外線性を有する石英ガラスを得ることができる。上記濃度の水素分子を含有した石英ガラスにおいて紫外線照射時に発生する屈折率上昇や表面凹みの発生が抑制される機構は必ずしも明確でないが、本発明者らは以下のように考える。
【0016】
まず、屈折率上昇や表面凹みは紫外線照射によって石英ガラスの構造変化が生じて緻密化されるためであると考えられる。すなわち、紫外線照射により石英ガラスの基本構造が、
≡Si-O-Si≡ → ≡Si-O・ ・Si≡ (1)
のように光分解し、ついでそれらの再結合が行われてさらに緻密な構造へ変化していると考えられる。なお、≡Siは三重結合ではなく、Siが3つの酸素と結合していることを表す。
【0017】
さらに、本発明者らは、ArFエキシマレーザビームの照射により発生する屈折率上昇量と表面凹み量の相関を調べたところ、両者に1対1の相関が得られたことから、両現象が石英ガラスの緻密化に起因していることを見出した。そこで、本発明者らは、緻密化が生じる石英ガラスに水素分子を含有させれば、OH基の生成により緻密化を抑制できるのではないかと考え、実際に水素分子の存在により緻密化が抑制されることを突き止めた。このとき(1)で示された光分解過程に水素分子が存在すると、さらに緻密な構造へ変化する前に ≡Si-OH H-Si≡によって終端され、石英ガラスが安定化するものと考えられる。また、石英ガラスに水素分子を含有させた場合、紫外線照射に伴う緻密化と同時に、OH基の生成による密度の減少を生じさせることによって、両現象の相殺によって実質的に緻密化が抑制され、結果的に歪の発生も抑制されると考えられる。
【0018】
このような特性はどのような石英ガラスにも見られるものではなく、構造安定性のパラメータである構造決定温度が1200K以下である石英ガラス、すなわち理想に近い構造を持つ石英ガラス、に水素分子が導入された場合に限定して、紫外線照射による屈折率上昇等を抑制する効果が発揮されることを本発明者らは見出した。なお、本発明の石英ガラスの構造決定温度は、たとえば光ファイバの構造決定温度である約1450Kと比較して非常に低い。
【0019】
構造決定温度が低いほど耐紫外線性が向上するという機構についても必ずしも明確ではないが、本発明者らは以下のように考える。構造決定温度が高い石英ガラスは構造的には不安定であると考えられる。すなわち、石英ガラスネットワーク中の≡Si-O-Si≡結合角はガラスであるがゆえにある分布を持っており、この結合角分布の中には構造的に不安定なものが含まれている。この結合角分布は石英ガラス中の酸素原子と硅素原子とで作られる四面体どうしが架橋しており、従って歪んだ状態の四面体が存在していることに起因していると考えられる。このような歪んだ結合部分は、紫外線の照射により容易に切断され、有害なE’センターやNBOHCなどの欠陥を発生させてしまうものと考えられる。これに対して、構造決定温度が低い石英ガラスにおいては、かかる歪んだ結合部分が非常に少ないと考えられる。
【0020】
従って、水素分子濃度が1×1017molecules/cm3以上でかつ構造決定温度が1200K以下である本発明の石英ガラスにおいては、それらの相乗効果によって、i)ArFエキシマレーザを平均ワンパルスエネルギー密度100mJ/cm2で1×106パルス照射した後の波長633nmの光に対する屈折率上昇量が6×10-6以下、ii)ArFエキシマレーザを平均ワンパルスエネルギー密度100mJ/cm2で1×106パルス照射した後の表面凹み量が片面当たり0.05μm以下、iii)ArFエキシマレーザを平均ワンパルスエネルギー密度50mJ/cm2で5×106パルス照射した後の波長633nmの光に対する最大歪量が10nm/cm以下であることが同時に達成される。
【0021】
なお、ここでいうガラスの歪量は以下のように定義される。すなわち、ガラスのような非結晶体は、内部に応力が存在して歪を受けていない限りあらゆる性質において等方的である。しかし、歪んでいるガラスにおいては、光学的には複屈折という現象が出現する。複屈折とは、一つの入射光が光学的異方性を通過したときに二つの屈折光が得られる現象である。これらの屈折光とは振動面が互いに直交する直線偏光のことであり、その屈折率が異なっているためそれらの二つの屈折光の位相は異なる。このとき、複屈折量とは、物質内を光が単位長さ通過したときの二つの屈折光の位相差のことである。通常、ガラスの歪量はこの複屈折量として定義される。光リソグラフィ装置のような精密な光学系においては、複屈折量を減少させること、すなわち光学部材の内部歪を減少させることが、屈折率分布の均一性を向上させることなどと同様に、光学系の解像度に対して重要である。
【0022】
なお、かかる歪の発生機構について本発明者らは以下のように考える。すなわち、結像光学系においては、光は光学系レンズ部材の全面を均一に透過するとは限らず、光が照射されている部分と照射されていない部分とが存在する。例えば、1個のレンズで光を集光する場合にレンズ全面に光が照射されたとしても、レンズ枠に固定された部分には光が照射されない。また、複数のレンズで構成された光学系において、意図的にレンズ部材の特定領域に部分的に光を集中して透過させる必要がある場合がある。あるいは、レンズ部材の特定領域にスポット状に光を照射する場合もある。
【0023】
このように紫外線が照射された部分あるいは照射紫外線のエネルギー密度が高い部分では前述の構造の緻密化が進み、他方、紫外線が照射されていない部分あるいは照射紫外線のエネルギー密度が低い部分ではかかる緻密化が生じないかその程度が小さい。そのため、同一のレンズ部材内で緻密化の度合いが異なる部分が生じてしまう。緻密化は部材の収縮を伴うため、同一のレンズ部材内で収縮の程度に差が生じ、両部分の境界付近では大きな応力が集中して歪が生じると考えられる。また、レンズ部材に照射される紫外線のエネルギー密度に空間的なバラツキが存在することによっても同様に歪が生じると考えられる。これに対して、本発明の石英ガラスにおいては、前述のように緻密化が抑制されるため、歪の発生が抑制される。
【0024】
本発明の石英ガラスにおいては、塩素濃度が50ppm以下であることが好ましく、10ppm以下であることが特に好ましい。石英ガラスの耐エキシマレーザ性が溶存塩素濃度に依存している傾向にあり、塩素含有量を上記範囲内に低減すると耐紫外線性が向上する傾向にあるからである。より詳細な理由は以下の通りである。塩素は石英ガラス内部では≡Si-Cl、Cl2、HCl等の状態で存在している可能性がある。しかしながら、直接法で製造された石英ガラスにはCl2(325nm)、HCl(2782cm-1)の吸収は検出されないことから、塩素の存在形態は≡Si-Clであると考えられる。このような≡Si-Cl結合は紫外線が照射された場合に容易に有害な欠陥(E’センター)に変換されると考えられる。したがって、塩素含有量を上記範囲内に低減すると耐紫外線性が向上する傾向にあり、石英ガラス中の塩素含有量が少ない程エキシマレーザステッパ用光学部材に要求される耐エキシマレーザ性が高い傾向にある。図2に、ArFエキシマレーザ光をワンパルスエネルギー密度:
100mJ/cm2/pulse、繰り返し周波数:100Hzで照射した後の、193nmの光に対する吸収係数の変化と塩素濃度との関係を示す。
【0025】
吸収係数=ln(照射後の透過率/照射前の透過率)/試験片厚さ
本発明の石英ガラスにおいては、OH基濃度が500〜1300ppmであることが好ましく、500〜1000ppmであることが特に好ましい。上記範囲内のOH基を含有する石英ガラスは、それ以外の石英ガラスに比較して構造的に安定しており、光リソグラフィ用として特に優れている傾向にあるからである。
【0026】
その詳細な理由は以下の通りである。前述のように、石英ガラスネットワーク中の≡Si-O-Si≡結合角はガラスであるがゆえにある分布を持っており、構造的に不安定な歪んだ結合部分が含まれている。しかしながら、上記範囲内のOH基が含有されると不安定な結合角をとってまで架橋する必要が無くなるため、四面体が最安定構造に近づくことができる。従って、上記範囲内のOH基を含有する石英ガラスは、それ以外の石英ガラスに比較して構造的に安定しており、また、高透過率、高純度であることから光リソグラフィ用として特に優れている傾向にある。
【0027】
また、石英ガラスの耐紫外線性を悪化させる要因として、≡Si-Si≡、≡Si-O-O-Si≡、溶存酸素分子等が知られている。これらの前駆体は、エキシマレーザなどの紫外線照射によって容易にE’センターやNBOHCなどの構造欠陥に変換されてしまい、透過率の低下の原因となる。本発明の石英ガラスにおいては、そのような化学量論比からのずれに起因する不完全構造が存在しないことが好ましい。例えば、上記範囲内のOH基が含有されると、酸素欠乏型欠陥吸収帯(7.6、5.0eV吸収帯)を実質的に含まない傾向にある。また、上記範囲内の水素分子を含有する本発明の石英ガラスにArFエキシマレーザをワンパルスエネルギー密度100mJ/cm2で1x106パルス照射したとき、酸素過剰型欠陥吸収帯(4.8eV吸収帯)が実質的に生成しない。これらの欠陥が存在しないことにより、真空紫外・紫外・可視・赤外分光光度計による透過率測定では、g線(436nm)〜i線(365nm)及びKrFエキシマレーザビーム(248nm)の波長の光に対しては内部透過率が99.9%以上、ArFエキシマレーザビーム(193nm)の波長の光に対しては内部透過率が略99.8%以上の高透過率が達成されるようになる。
【0028】
さらに、含有金属不純物(Mg,Ca,Ti,Cr,Fe,Ni,Cu,Zn,Co,Mn,Na,K)濃度がそれぞれ50ppb以下、より好ましくは20ppb以下という高純度の石英ガラスを用いることが好ましい。これにより、前述の構造欠陥が減って理想に近い構造となり、さらに金属不純物による屈折率変化、面変化、透過率劣化がより少なくなり、耐紫外線性が向上する傾向にある。
【0029】
次に、本発明の光学部材並びに露光装置について説明する。本発明の光学部材は、構造決定温度が1200K以下でかつ水素分子濃度が1×1017molecules/cm3以上の前記本発明の石英ガラスを含むものである。かかる本発明の光学部材は、上記石英ガラスを含むこと以外は特に制限されず、400nm以下の波長帯域の光と共に使用されるレンズ、プリズムなどの光学部材である。また、本発明の光学部材はブランクも包含する。さらに、上記本発明の石英ガラスを本発明の光学部材に加工する方法も特に制限されず、通常の切削法、研磨法等が適宜採用される。
【0030】
本発明の光学部材は、前述のように高出力の紫外線やエキシマレーザビームを長時間照射しても屈折率の上昇や凹み及び歪の発生が充分に抑制される耐紫外線性に優れた石英ガラスを備えているため、従来の光学部材に比べて長寿命化が達成され、高い解像力を長期にわたって維持することが可能である。特に、石英ガラスの屈折率の上昇、表面の変化及び歪の発生は、紫外線用光学レンズの結像性能を著しく劣化させる原因であることから、これらの物性変化が充分に抑制された本発明の石英ガラスは、特にArFステッパーの投影系レンズのような0.25μm以下という高い解像力が要求される光学部材に好適に適用される。また、本発明の石英ガラスは、ステッパーの投影系レンズのみならず照明系レンズ、エタロン等の精密光学素子にも有用である。
【0031】
本発明の露光装置は、かかる本発明の石英ガラスを含む光学部材を備え、400nm以下の波長帯域の光を露光光として使用するものであり、上記石英ガラスを投影系レンズ、照明系レンズなどとして含むこと以外は特に制限されない。本発明の露光装置は、前述のように高出力の紫外線やエキシマレーザビームを長時間照射しても屈折率の上昇や凹み及び歪の発生が充分に抑制される耐紫外線性に優れた石英ガラス製の光学部材を備えているため、従来の露光装置に比べて長寿命化が達成され、高い解像力を長期にわたって維持することが可能である。
【0032】
次に、本発明の石英ガラスの製造方法について説明する。本発明の石英ガラスの製造方法においては、水素分子濃度が1×1017molecules/cm3以上である石英ガラスインゴットを1200〜1350Kの温度に昇温し、該温度に所定期間保持する。保持温度が1350Kを超える場合は、保持している間に水素分子が多量に抜けてしまい水素分子濃度が1×1017molecules/cm3以上である石英ガラスが得られない。また、石英ガラスの表面が変質する。他方、保持温度が1200K未満の場合は所定期間内に構造決定温度を1200K以下に下げることができず、またアニールが不充分となって歪がとれない。また、保持時間は、保持温度における構造緩和時間以上の期間であることが好ましく、特に好ましくは1〜24時間である。例えば、1300K以上の構造決定温度を有しかつOH基を1000ppm程度含有する石英ガラスでは、1273Kにおける構造緩和時間は280秒とされている。なお、昇温速度は得られる石英ガラスの物性に影響しないが、150K/hr以下程度が好ましい。
【0033】
次に、本発明の石英ガラスの製造方法においては、上記石英ガラスインゴットを、1000K以下、好ましくは873K以下の温度(徐冷終了温度)まで50K/hr以下、好ましくは20K/hr以下の降温速度(徐冷速度)で降温することによって該インゴットをアニーリングする。徐冷終了温度が1000Kを超えている場合や、徐冷速度が50K/hrを超える場合は、構造決定温度を1200K以下に下げることができず、さらに歪も充分に除去されない。
【0034】
そして、上記徐冷終了温度に到達した後は特に制限されないが、通常は室温まで自然放冷される。本発明にかかる上記アニーリング工程における雰囲気は特に制限されず、空気でよい。また、圧力も特に制限されず、大気圧でよい。更に、本発明の製造方法においては、上記のアニーリング工程に先立って、SiCl4、SiHCl3のようなケイ素化合物を火炎(好ましくは酸素水素火炎)中で加水分解せしめてガラス微粒子(ガラススート)を得、そのガラス微粒子を堆積かつ溶融せしめて水素分子濃度が1×1017molecules/cm3以上である石英ガラスインゴットを得る工程を更に含むことが好ましい。
【0035】
このように、本発明にかかる石英ガラスインゴットは、上記のような直接法(direct method)すなわち酸水素火炎加水分解法(oxy-hydrogen flame hydrolysis)で製造することが好ましい。すなわち、合成石英ガラスに紫外線を照射したときに構造欠陥を発生させるような前駆体の例として≡Si-Si≡結合や≡Si-O-O-Si≡結合等が知られており、いわゆるスート法(VAD法、OVD法)やプラズマ法で得られた石英ガラスにはそのような前駆体が存在する。一方、直接法で製造された合成石英ガラスには、そのような化学量論比からのずれに起因する、酸素欠乏性・過剰性の不完全構造が存在しないからである。さらに、直接法で製造された合成石英ガラスでは、含有金属不純物濃度が低い高純度が一般に達成される。また、直接法によって合成された石英ガラスは、一般にOH基を数100ppm以上含有しているので、構造的にはOH基が含有していない石英ガラスに比較して安定している。
【0036】
このように塩化ケイ素を酸素水素火炎で加水分解し、生じた石英ガラス微粒子をターゲット上に堆積、溶融させて石英ガラスインゴットを形成するという、いわゆる直接法によって合成された石英ガラスは、合成直後の状態では構造決定温度が1300K以上である。また、直接法において水素分子濃度が1×1017molecules/cm3以上である石英ガラスインゴットを得るためには、前記火炎中の水素ガスに対する酸素ガスの容量比(O2/H2)を0.2〜0.5にすることが好ましい。かかる比率(酸素水素ガス比率)が0.5を超える場合、得られた石英ガラスインゴット中に1×
1017molecules/cm3以上の水素分子が含有されない傾向にある。このような酸素水素ガス比率は、上記範囲の水素分子を石英ガラス中に溶存させるのみならず、OH基濃度を500〜1300ppmの範囲に最適化する効果も持っている。したがって、酸素水素火炎中の酸素水素ガス比率を化学量論比0.5より低くすることにより、石英ガラスインゴット合成時にOH基と水素分子を同時に最適化することが可能になる。
【0037】
他方、石英ガラスインゴットに2次処理として水素ガス含有雰囲気中で加熱処理を施すことにより、水素分子を添加することも可能である。すなわち、本発明の製造方法においては、前記のアニーリング工程に先立って、ケイ素化合物を火炎中で加水分解せしめてガラス微粒子を得、そのガラス微粒子を堆積かつ溶融せしめて石英ガラスインゴットを得る工程と、そのインゴットを水素ガス含有雰囲気中で加熱処理して水素分子濃度が1×1017molecules/cm3以上である石英ガラスインゴットを得る工程とを更に含んでもよい。かかる水素ガス含有雰囲気としては、水素ガスを10〜100容量%含有する不活性ガス雰囲気が好ましく、加熱処理中の温度は400〜1000Kが好ましく、圧力は2〜10atmが好ましい。
【0038】
なお、直接法による合成の場合、石英ガラスは短時間でしかも酸素水素火炎を用いた高温合成を行うために、平衡反応が十分に行われず、未反応成分が残留する可能性がある。未反応成分とは、SiCl4あるいはSiHCl3を原料とした場合に石英ガラス中に必然的に溶存して残留する塩素などである。これらの未反応成分が石英ガラスの基本構造に不安定性をもたらし、紫外線照射により有害な欠陥を生成して透過率の低下などをもたらすと考えられる。そのため、原料供給量、原料管内径の組み合わせによってバーナ先端部での原料ガスの流速を変えて石英ガラスインゴットを合成し、得られた石英ガラスインゴットの塩素濃度を測定した。原料流速と塩素濃度との相関を図3に示す。その結果、原料と共に供給するキャリアガスを酸素ガスとした場合に、原料流速と塩素濃度との間には比例関係が成り立つことが判明した。そして、この結果から、直接法による石英ガラスにおいて、バーナ先端部での原料流速を350g/min/cm2以下にすれば塩素濃度を50ppm以下にすることができることが明らかになった。また、10ppm以下の塩素濃度を達成する場合は、原料流速を70g/min/cm2以下にすればよい。また、上述のような塩素濃度を低減させるにあたって、原料供給量の低減に加えて、酸素水素火炎中での原料の分散性を高めるなどして原料の加水分解反応を促進させると有効である。
【0039】
また、本発明の製造方法においては、石英ガラスインゴットを切断して所定の寸法を有するブランクとした後に前記のアニーリングを施すと、前記アニーリングの効果がより効果的にかつ均一に達成される傾向にあるため好ましい。
【0040】
【実施例】
実施例1〜12及び比較例1〜8
図4に示す石英ガラス製造装置を用いて石英ガラスインゴットを製造した。すなわち、四塩化ケイ素ボンベ401から供給された高純度四塩化ケイ素(原料)をべーキングシステム402において酸素ボンベ403から供給されたキャリアガスと混合し、水素ボンベ404から供給された水素ガスと、酸素ボンベ405から供給された酸素ガスと共に石英ガラス製バーナ406に供給した。そして、バーナ406にて表1に示す流量の酸素ガスおよび水素ガスを混合・燃焼させ、中心部から表1に示す流量の原料ガスをキャリアガス(酸素ガス)で希釈して噴出させて石英ガラス微粒子(SiO2微粒子)を得、耐火物407で包囲されたターゲット408上に石英ガラス微粒子を堆積、溶融させて表1に示す組成の石英ガラスインゴット409(長さ500mm)を得た。その際、インゴット409の上面(合成面)は火炎に覆われるようにし、ターゲット408を一定周期で回転及び揺動させつつ一定速度で降下させた。なお、この段階の石英ガラスの構造決定温度は1400Kであった。また、図4中の410はマスフローコントローラであり、表1中のRは酸素水素比率(O2/H2)である。
【0041】
なお、バーナ406は、図5に示すように5重管構造を有しており、501は原料及びキャリアガス噴出口、502は内側酸素ガス(OI)噴出口、503は内側水素ガス(HI)噴出口、504は外側酸素ガス(OO)噴出口、505は外側水素ガス(HO)噴出口である。また、各噴出口の寸法(mm)は以下の通りである。
【0042】

次いで、得られたインゴットからArFエキシマレーザビーム照射用試験片(直径60、厚さ10mm、向かい合う2面を光学研磨してある)をそれぞれ作製した。これらを図6に示すような耐火断熱レンガ製のアニール炉の中に配置し、表2に示す昇温速度で室温から保持温度に加熱し、保持時間経過後、表2に示す徐冷速度で保持温度から徐冷終了温度に降温し、その後は室温まで自然放熱させた。なお、表2に示す冷却速度は、自然放熱開始後1時間における冷却速度である。また、図6中の601は試験片、602はアニール炉、603は石英ガラス板と耐火レンガ製脚部とからなる台、604は棒状SiC発熱体である。
【0043】
【表1】

【0044】
【表2】

【0045】
【表3】

【0046】
これらの各試験片について構造決定温度(Ts)、水素分子濃度、塩素濃度及びOH基濃度を測定した。結果を表3に示す。なお、構造決定温度は、予め作成しておいた検量線に基づいて、その606cm-1線強度測定値から逆算して求めた。また、水素分子濃度の測定はレーザラマン分光光度計により行った。すなわち、Ar+レーザビーム(出力800mW)を照射した時に発生する試料と直角方向のラマン散乱光のうち、800cm-1と4135cm-1との強度を測定し、その強度比をとることにより行なった。また、OH基濃度測定は赤外吸収分光法(1.38μmのOH基による吸収量を測定する)により行った。さらに、塩素濃度測定は放射化分析により行った。加えて、各試験片中の含有金属不純物(Mg,Ca,Ti,Cr,Fe,Ni,Cu,Zn,Co,Mn,Na,K)の定量分析を誘導結合プラズマ発光分光法によって行ったところ、濃度がそれぞれ20ppb以下であることがわかった。このようにして作製した各試験片について、ArFエキシマレーザ光を平均ワンパルスエネルギー密度:100mJ/cm2、繰り返し周波数:100Hzで1×106パルス照射した後の、波長633nmの光に対する屈折率上昇量(n↑)を以下の方法で測定した。すなわち、He-Neレーザ(波長633nm)を光源とした干渉計(商品名:Zygo Mark IV、Zygo社製)を用いて、オイルオンプレート方式により、照射部分と未照射部分の屈折率差を測定した。
【0047】
また、各試験片について、上記ArFエキシマレーザ光を1×106パルス照射した後の表面凹み量(Δd)を、以下の仕様の表面粗さ形状測定機(商品名:サーフコム(Surfcom)470A、東京精密(株)製)を用いて測定した。
装置仕様
測定子:先端ダイヤモンド、5μmR、90°円錐
測定力:4mN(400gf)以下
測定精度:(0.05+1.5L/1000)μm (L:測定範囲(mm))
測定範囲:16mm(倍率50000)→測定精度幅=0.07μm
スキャンスピード:0.3mm/sec→ノイズ幅=0.02μm
更に、各試験片について、ArFエキシマレーザ光を平均ワンパルスエネルギー密度:50mJ/cm2、繰り返し周波数:300Hz、ビーム形状:0.5×0.5cm2で試料中心部に5×106パルス照射した後の、波長633nmの光に対する最大歪量(Δb)を以下の方法で測定した。すなわち、He-Neレーザ(波長633nm)を光源とした自動複屈折測定装置(商品名:ADR、日商エレクトロニクス(株)製)を用いて歪分布を測定し、そのデータから最大歪量を求めた。この装置は、歪んでいるガラスに一つの入射光が通過した時に複屈折という現象によって発生した二つの屈折光が単位長さ通過したときの位相差(複屈折量)を測定し、部材の領域内における複屈折量の空間的分布を測定する装置である。
【0048】
得られた結果を表3に示す。表3から明らかなように、本発明の石英ガラス(実施例1〜11)は屈折率上昇量、表面凹み量及び最大歪量の全てについて所望の基準を満たすものであった。また、図7から明らかなように、水素分子濃度が1×1017molecules/cm3以上である場合は、構造決定温度を1200K以下とすることによって屈折率上昇量が極めて顕著に低下した。
【0049】
更に、実施例2、7及び比較例5の試験片について、照射されたレーザ光のパルス数と屈折率上昇量との関係を示した図8から明らかなように、構造決定温度が1200K以下であっても、水素分子濃度が1×1017molecules/cm3に満たないと所望の屈折率上昇量の基準を満たさなかった。
比較例9
保持温度を1123Kとした以外は実施例4と同様にして石英ガラス試験片を得たところ、保持されている間に構造が緩和されなかったために構造決定温度が1200K以下に下がらず、またアニーリングが充分でなかったために歪もとれなかった。
【0050】
実施例13及び比較例10
火炎中の酸素水素ガス比率をO2/H2=0.44に設定した以外は実施例5と同様にしてArFエキシマレーザビーム照射用試験片を2つ作製した。これらの試験片の溶存水素分子濃度は2.5x1018molecules/cm3であった。これらの試験片の一方を実施例13の試験片とした。次に、他方の試験片を真空加熱処理により脱水素せしめた。処理温度は973Kで、処理時間は60時間とした。この試験片を比較例10の試験片とした。また、両試験片のOH基濃度は共に約1200ppmであった。
【0051】
このようにして作成した実施例13、比較例10の試験片について、実施例5と同様にして屈折率変化量(n↑)を測定した。その結果を図9に示した。図9から明らかなように、水素分子を含有している実施例13の試料において、エキシマレーザ照射に伴う屈折率上昇が抑制されていることが確認された。また、1x106パルス照射後の屈折率上昇量は実施例13の試験片で3.5x10-6、比較例10の試験片で1x10-5であることから、実施例13の試験片の屈折率上昇量は、ArFエキシマレーザステッパ投影レンズ材料の仕様である屈折率上昇量:6x10-6以下の要件を満たしていることがわかった。
【0052】
更に、そのときの体積収縮に伴う試料表面の凹み量を実施例5と同様にして測定したところ、実施例13の試験片では0.03μm、比較例10の試験片では0.09μmであることから、実施例13の試験片は、仕様である表面凹み量:0.05μm以下の要件を満たしていることがわかった。
参考例1及び参考例2
構造決定温度をそれぞれ1473K(1200℃)、1273K(1000℃)にした以外は実施例13と同様にして参考例1、参考例2の試料を作成して、ArFエキシマレーザ照射による屈折率上昇量を比較した。その結果、構造決定温度1273Kを持つ参考例1の試料の方が参考例2の試料に比べて屈折率上昇量が約20%抑制されていることを確認した。すなわち、理想に近い構造を持つ石英ガラス、すなわち構造欠陥の少ない石英ガラスにおいて本発明の効果が発揮されることが確認された。
【0053】
実施例15及び比較例12
キャリヤガスを水素ガスにした以外は実施例5と同様にしてArFエキシマレーザビーム照射用試験片を2つ作製した。これらの試験片の溶存水素分子濃度は1x1018molecules/cm3であった。これらの試験片の一方を実施例15の試験片とした。次に、他方の試験片を真空加熱処理により脱水素せしめた。処理温度は973Kで、処理時間は60時間とした。この試験片を比較例12の試験片とした。比較例12の試験片の溶存水素分子濃度は5x1016molecules/cm3未満であった。また、両試験片のOH基濃度は共に約1200ppmであった。
【0054】
このようにして作成した実施例15、比較例12の試験片について、実施例5と同様にして歪量の変化を測定した。図10に、5×106パルスのレーザビームを照射した後に、試験片に発生した歪量分布を示した。図10において、横軸の-2.5mmから+2.5mmの範囲内が、ArFエキシマレーザ光の照射された部分であることを表わしている。図10から明らかなように、エキシマレーザ照射で発生する歪は、照射部と未照射部との境界付近に集中していることが確認された。そこで、かかる境界付近に発生した最大歪量の照射パルス数に対する変化を図11に示した。
【0055】
図10、図11から明らかなように、水素分子を含有している実施例15の試料において、エキシマレーザ照射に伴う歪の発生が抑制されていることが確認された。また、5x106パルス照射後の最大歪量は実施例15の試験片で約8nm/cm、比較例12の試験片で約20nm/cmであることから、実施例15の試験片の最大歪量は、ArFエキシマレーザステッパ投影レンズ材料の仕様である最大歪量:10nm/cm以下の要件を満たしていることがわかった。
【0056】
比較例13〜14
原料供給量を20g/min、酸素水素比率をO2/H2=0.44、バーナ先端での原料流速を400g/min/cm2とした以外は実施例5と同様にして、直径180mm、長さ500mmの石英ガラスインゴットを得た。得られたインゴットから、構造決定温度を1300K以下にするための熱処理(アニーリング処理)を行わず、ArFエキシマレーザ照射用試験片を作製し、これを比較例13の試験片とした。一方、得られたインゴットに、実施例5と同様にしてアニーリング処理を施し、比較例14の試験片を作製した。
【0057】
これらの比較例13〜14の試験片のOH基濃度測定を行ったところ、共に1050ppmであった。また、これらの試験片の塩素濃度測定をしたところ、共に67ppmであった。また、比較例13及び14の試験片を同一の熱処理炉内において拡散ポンプで10-5Torrに排気しながら973Kに60hr保持した後(真空アニール)、室温まで冷却して脱水素ガス処理を施し、レーザ耐性に対する溶存水素分子の影響を排除した。水素分子濃度を測定したところ、比較例13及び14の試験片の溶存水素分子は検出限界(1×1016molecules/cm3)未満であった。なお、この脱水素ガス処理によって、その試験片の構造決定温度は変化しなかった。さらに、含有金属不純物の定量分析を行ったところ、濃度がそれぞれ20ppb以下であった。比較例14の試験片の構造決定温度は1183Kで、比較例13の試験片の構造決定温度は約1320Kであった。
【0058】
このようにして作製した比較例13及び14の試験片に、ArFエキシマレーザ光をワンパルスエネルギー密度:100mJ/cm2、繰り返し周波数:100Hzで照射した後、193nmの光に対する吸収係数の変化を調べた。
吸収係数=ln(照射後の透過率/照射前の透過率)/試験片厚さ
その結果を図12に示した。図12から明らかなように、比較例14の方が比較例13に比べてエキシマレーザ耐性が向上していることがわかる。すなわち、構造決定温度を1200K以下にすることによるエキシマレーザ耐性の向上が確認された。
【0059】
比較例15
原料流速を200g/min/cm2とした以外は実施例5と同様にして、直径250mm、長さ500mmの石英ガラスインゴットを得た。比較例15の試験片のOH基濃度は1200ppm、構造決定温度は1183Kであった。また、この試験片の含有金属不純物濃度はいずれも20ppb以下であった。また、比較例15の試験片に、比較例14と同様に脱水素ガス処理を施して、その試験片の水素分子濃度を検出下限未満とした。比較例15の試験片の塩素濃度は25ppmであり、比較例14に比較して低減されていた。
【0060】
この試験片について、比較例14と同様にArFエキシマレーザ照射試験を行った。その結果を図12に示した。図12から明らかなように、比較例15の試験片の耐エキシマレーザ性は、比較例14の試験片のそれに比べて向上していることがわかった。すなわち、塩素の低減よって耐エキシマレーザ性が向上することが確認された。
【0061】
実施例16
比較例15で作製した石英ガラスインゴットから、脱水素処理を行わない以外は比較例15と同様にして実施例16の試験片を作製した。実施例16の試験片の水素分子濃度は5×1017molecules/cm3であった。その他の物性は比較例15のものと同様であった。
【0062】
この試験片について、比較例15と同様にArFエキシマレーザ照射試験を行った。その結果を図12に示した。図12から明らかなように、実施例16の試験片の耐エキシマレーザ性は、比較例15の試験片のそれに比べて著しく向上していることがわかった。すなわち、水素分子の含有により耐エキシマレーザ性が顕著に向上することが確認された。
【0063】
実施例17〜18
原料供給量を20g/min、バーナの原料管内径を3.5mm、バーナ先端部における原料流速を約200g/min/cm2とした以外は実施例5と同様にして、直径250mm、長さ500mmの実施例17の石英ガラスインゴットを得た。また、原料供給量を50g/min、バーナ先端部における原料流速を約500g/min/cm2とした以外は実施例17と同様にして、直径120mm、長さ480mmの実施例18の石英ガラスインゴットを得た。これらの石英ガラスインゴットについてOH基含有量を測定したところ、実施例17は1150ppm、実施例18は600ppmであった。また、実施例17、実施例18のインゴットの構造決定温度は共に1183Kであった。さらにこれらのインゴットの含有金属不純物の定量分析を行ったところ、実施例17、実施例18共にいずれの金属不純物濃度も20ppb以下であった。また、塩素含有量を調べたところ、実施例17のものは25ppm、実施例18のものは80ppmであった。また、溶存水素分子濃度を測定したところ、実施例17のものは5.0x1017molecules/cm3、実施例18のものは6.5x1017molecules/cm3であった。これらの、実施例17、18の石英ガラスインゴットのそれぞれから実施例5と同様にしてArFエキシマレーザ照射用試験片を作製した。
【0064】
このようにして作成した実施例17、18の試験片に、ArFエキシマレーザビームを照射した後の193nmの光に対する吸収係数の変化を図13に示した。図13から明らかなように、塩素含有量が少ない実施例17の方が実施例18に比べてエキシマレーザ耐性が向上していることがわかった。
【0065】
【発明の効果】
以上説明したように、本発明によれば、石英ガラスにおける構造欠陥自体の生成が抑制され、短波長でかつ高出力の紫外線やエキシマレーザ光を長期間照射しても屈折率の上昇や凹み及び歪の発生が充分に抑制される、耐紫外線性の向上した石英ガラス、並びにその石英ガラスを含む光学部材が得られる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 本発明にかかる構造決定温度を測定する為の装置の一例の模式図である。
【図2】 塩素濃度と吸収係数の変化量との関係を示すグラフである。
【図3】 原料流速と塩素濃度との関係を示すグラフである。
【図4】 本発明にかかる石英ガラスインゴットを製造する為の装置の一例の模式図である。
【図5】 本発明にかかる石英ガラスインゴットを製造する為のバーナーの一例の底面図である。
【図6】 本発明にかかるアニール炉の一例の斜視図である。
【図7】 構造決定温度と屈折率上昇量との関係を示すグラフである。
【図8】 照射パルス数と屈折率上昇量との関係を示すグラフである。
【図9】 照射パルス数と屈折率上昇量との関係を示すグラフである。
【図10】 試料の中心からの距離と歪量との関係を示すグラフである。
【図11】 照射パルス数と歪量との関係を示すグラフである。
【図12】 照射パルス数と吸収係数の変化量との関係を示すグラフである。
【図13】 照射パルス数と吸収係数の変化量との関係を示すグラフである。
【符号の説明】
101…試験片、102…石英ガラス管、103…ヒーター、104…熱電対、105…ビーカー、106…液体窒素、401…四塩化ケイ素ボンベ、402…べーキングシステム、403…酸素ボンベ、404…水素ボンベ、405…酸素ボンベ、406…バーナ、407…耐火物、408…ターゲット、409…インゴット、410…マスフローコントローラ、601…試験片、602…アニール炉、603…台、604…発熱体。
 
訂正の要旨 訂正の要旨
本件訂正の要旨は、本件特許第2936138号発明の特許明細書を平成14年9月24日付け訂正請求書に添付された訂正明細書のとおり、すなわち、特許請求の範囲の減縮及び明りょうでない記載の釈明を目的として、次の訂正事項a乃至cのとおりに訂正するものである。
(1)訂正事項a:特許請求の範囲を請求項7及び8に基づいて、次のとおりに訂正する。
【請求項1】400nm以下の波長帯域の光と共に使用される石英ガラスであって、構造決定温度、すなわち「高温で融液状態にある石英ガラスを冷却した際に、密度及び構造が決定される温度」が1200K以下でかつ水素分子濃度が1×1017molecules/cm3以上、OH基濃度が500〜1300ppmであり、ArFエキシマレーザを平均ワンパルスエネルギー密度100mJ/cm2で1×106パルス照射した後の表面凹み量が片面当たり0.05μm以下であることを特徴とする石英ガラス。
【請求項2】400nm以下の波長帯域の光と共に使用される石英ガラスであって、構造決定温度、すなわち「高温で融液状態にある石英ガラスを冷却した際に、密度及び構造が決定される温度」が1200K以下で、OH基濃度が500〜1300ppmでかつ塩素濃度が50ppm以下であり、ArFエキシマレーザを平均ワンパルスエネルギー密度100mJ/cm2で1×106パルス照射した後の表面凹み量が片面当たり0.05μm以下であることを特徴とする石英ガラス。
【請求項3】400nm以下の波長帯域の光と共に使用される石英ガラスであって、構造決定温度、すなわち「高温で融液状態にある石英ガラスを冷却した際に、密度及び構造が決定される温度」が1200K以下でかつ水素分子濃度が1×1017molecules/cm3以上、OH基濃度が500〜1300ppmでかつ塩素濃度が50ppm以下であり、ArFエキシマレーザを平均ワンパルスエネルギー密度100mJ/cm2で1×106パルス照射した後の表面凹み量が片面当たり0.05μm以下であることを特徴とする石英ガラス。
【請求項4】ArFエキシマレーザを平均ワンパルスエネルギー密度100mJ/cm2で1×106パルス照射した後の波長633nmの光に対する屈折率上昇量が6×10-6以下であることを特徴とする、請求項1〜3のうちのいずれかに記載の石英ガラス。
【請求項5】ArFエキシマレーザを平均ワンパルスエネルギー密度50mJ/cm2で5×106パルス照射した後の波長633nmの光に対する最大歪量が10nm/cm以下であることを特徴とする、請求項1〜4のうちのいずれかに記載の石英ガラス。
【請求項6】請求項1〜5のうちのいずれかに記載の石英ガラスを含むことを特徴とする、400nm以下の波長帯域の光と共に使用される光学部材。
【請求項7】請求項1〜4のうちのいずれかに記載の石英ガラスを含む光学部材を備えることを特徴とする、400nm以下の波長帯域の光を露光光として使用する露光装置。
【請求項8】水素分子濃度が1×1017molecules/cm3以上でありかつOH基濃度が500〜1300ppmである石英ガラスインゴットを1200〜1350Kの温度に昇温し、該温度に所定期間保持した後、1000K以下の温度まで50K/hr以下の降温速度で降温することによって該インゴットをアニーリングする工程を含むことを特徴とする、構造決定温度、すなわち「高温で融液状態にある石英ガラスを冷却した際に、密度及び構造が決定される温度」が1200K以下でかつ水素分子濃度が1×1017molecules/cm3以上でかつOH基濃度が500〜1300ppmであるものであり、ArFエキシマレーザを平均ワンパルスエネルギー密度100mJ/cm2で1×106パルス照射した後の表面凹み量が片面当たり0.05μm以下である石英ガラスの製造方法。
【請求項9】ケイ素化合物を火炎中で加水分解せしめてガラス微粒子を得、該ガラス微粒子を堆積かつ溶融せしめて水素分子濃度が1×1017molecules/cm3以上である石英ガラスインゴットを得る工程を更に含むことを特徴とする、請求項8に記載の方法。
【請求項10】前記火炎中の水素ガスに対する酸素ガスの容量比が0.2〜0.5であることを特徴とする、請求項9に記載の方法。
【請求項11】ケイ素化合物を火炎中で加水分解せしめてガラス微粒子を得、該ガラス微粒子を堆積かつ溶融せしめて石英ガラスインゴットを得る工程と、該インゴットを水素ガス含有雰囲気中で加熱処理して水素分子濃度が1×1017molecules/cm3以上である石英ガラスインゴットを得る工程と、を更に含むことを特徴とする、請求項8に記載の方法。
【請求項12】前記火炎中に供給されるケイ素化合物の流速が350g/min/cm2以下であることを特徴とする、請求項9又は11に記載の方法。」
(2)訂正事項b:特許明細書の段落【0009】を明りょうでない記載の釈明を目的として、次のとおりに訂正する。
「【0009】本発明の石英ガラスは、
(i)400nm以下の波長帯域の光と共に使用される石英ガラスであって、構造決定温度、すなわち「高温で融液状態にある石英ガラスを冷却した際に、密度及び構造が決定される温度」が1200K以下でかつ水素分子濃度が1×1017molecules/cm3以上、OH基濃度が500〜1300ppmであり、ArFエキシマレーザを平均ワンパルスエネルギー密度100mJ/cm2で1×106パルス照射した後の表面凹み量が片面当たり0.05μm以下であること、又は
(ii)400nm以下の波長帯域の光と共に使用される石英ガラスであって、構造決定温度、すなわち「高温で融液状態にある石英ガラスを冷却した際に、密度及び構造が決定される温度」が1200k以下で、OH基濃度が500〜1300ppmでかつ塩素濃度が50ppm以下であり、ArFエキシマレーザを平均ワンパルスエネルギー密度100mJ/cm2で1×106パルス照射した後の表面凹み量が片面当たり0.05μm以下であること、又は
(iii)400nm以下の波長帯域の光と共に使用される石英ガラスであって、構造決定温度、すなわち「高温で融液状態にある石英ガラスを冷却した際に、密度及び構造が決定される温度」が1200K以下でかつ水素分子濃度が1×1017molecules/cm3以上、OH基濃度が500〜1300ppmでかつ塩素濃度が50ppm以下であり、ArFエキシマレーザを平均ワンパルスエネルギー密度100mJ/cm2で1×106パルス照射した後の表面凹み量が片面当たり0.05μm以下であること、を特徴とするものである。
また、本発明の光学部材は、400nm以下の波長帯域の光と共に使用される光学部材であって、前記本発明の石英ガラスを含むことを特徴とするものである。」
(3)訂正事項c:特許明細書の段落【0010】を明りょうでない記載の釈明を目的として、次のとおりに訂正する。
「【0010】さらに、本発明の露光装置は、400nm以下の波長帯域の光を露光光として使用する露光装置であって、前記本発明の石英ガラスを含む光学部材を備えることを特徴とするものである。
さらにまた、本発明の石英ガラスの製造方法は、水素分子濃度が1×1017molecules/cm3以上でありかつOH基濃度が500〜1300ppmである石英ガラスインゴットを1200〜1350Kの温度に昇温し、該温度に所定期間保持した後、1000K以下の温度まで50K/hr以下の降温速度で降温することによって該インゴットをアニーリングする工程を含むことを特徴とする、構造決定温度、すなわち「高温で融液状態にある石英ガラスを冷却した際に、密度及び構造が決定される温度」が1200K以下でかつ水素分子濃度が1×1017molecules/cm3以上でかつOH基濃度が500〜1300ppmであるものであり、ArFエキシマレーザを平均ワンパルスエネルギー密度100mJ/cm2で1×106パルス照射した後の表面凹み量が片面当たり0.05μm以下である石英ガラスを製造可能な方法である。」
異議決定日 2002-10-10 
出願番号 特願平8-809
審決分類 P 1 651・ 536- YA (C03B)
P 1 651・ 121- YA (C03B)
P 1 651・ 537- YA (C03B)
最終処分 維持  
前審関与審査官 大工原 大二深草 祐一  
特許庁審判長 沼沢 幸雄
特許庁審判官 唐戸 光雄
野田 直人
登録日 1999-06-11 
登録番号 特許第2936138号(P2936138)
権利者 株式会社ニコン
発明の名称 石英ガラス、それを含む光学部材、並びにその製造方法  
代理人 渡辺 隆男  
代理人 長谷川 芳樹  
代理人 塩田 辰也  
代理人 長濱 範明  
代理人 渡辺 隆男  
代理人 古川 秀利  
代理人 池谷 豊  
代理人 曾我 道照  
代理人 長濱 範明  
代理人 塩田 辰也  
代理人 曾我 道治  
代理人 長谷川 芳樹  
代理人 鈴木 憲七  
代理人 大滝 均  
代理人 寺崎 史朗  
代理人 寺崎 史朗  

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