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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  C08L
管理番号 1070357
異議申立番号 異議2001-71915  
総通号数 38 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 1994-05-24 
種別 異議の決定 
異議申立日 2001-07-10 
確定日 2002-10-09 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第3125060号「親水性硬化性組成物、及びその製造方法」の請求項1ないし6に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 訂正を認める。 特許第3125060号の請求項1ないし4に係る特許を取り消す。 同請求項5に係る特許を維持する。 
理由
【1】手続の経緯

本件特許第3125060号は、平成4年11月12日に特許出願され、平成12年11月2日に特許権の設定登録がなされ、その後、黒神朱砂より特許異議の申立てがなされ、取消理由を通知したところ、その指定期間内である平成14年4月15日に特許異議意見書が提出されると共に、訂正請求がなされたものである。

【2】訂正の適否

1.訂正事項
訂正請求における訂正事項は、以下のとおりである。
[訂正a]
請求項1における「硬化触媒」を「酸性硬化触媒」と訂正し、「親水性硬化性組成物」を「硬化性組成物」と訂正する。
[訂正b]
請求項2における「親水性硬化性組成物」を、「硬化性組成物」と訂正する。
[訂正c]
請求項3を削除する。
[訂正d]
請求項4の「請求項3に記載の」を「請求項1または2に記載の」と訂正し、「親水性硬化性組成物」を「硬化性組成物」と訂正し、さらに、請求項の項番号を繰り上げて、請求項3とする。
[訂正e]
請求項5の「請求項1〜4のいずれか1項に記載の」を「請求項1〜3のいずれか1項に記載の」と訂正し、「親水性硬化性組成物」を、「硬化性組成物」と訂正し、さらに、請求項の項番号を繰り上げて請求項4とする。
[訂正f]
請求項6における「硬化触媒」を「酸性硬化触媒」と訂正し、「親水性硬化性組成物」を、「硬化性組成物」と訂正し、さらに、請求項の項番号を繰り上げて請求項5とする。
[訂正g]
発明の名称の「親水性硬化性組成物、及びその製造方法」を、「硬化性組成物、及びその製造方法」と訂正する。
[訂正h]
段落【0001】における「本発明は親水性硬化性組成物」を、「本発明は硬化性組成物(以下、「親水性硬化性組成物」ともいう)」と訂正する。
[訂正i]
段落【0006】における「本発明の親水性硬化性組成物は」を「本発明の硬化性組成物は」と訂正し、「硬化触媒」を「酸性硬化触媒」と訂正する。
[訂正j]
段落【0029】における「本発明に用いる(C)成分である硬化触媒」を「本発明に用いる(C)成分である酸性硬化触媒」と訂正するとともに、「ジブチルスズジラウレート、ジブチルスズマレート、ジオクチルスズラウレート、ジオクチルスズマレート、オクチル酸スズなどの有機スズ化合物、」なる記載を削除する。

2.訂正の目的・範囲の適否、拡張・変更の有無
(1)訂正aのうち、「硬化触媒」を「酸性硬化触媒」とする訂正は、段落【0030】や、請求項3の記載に基づき硬化触媒を限定する訂正であるから、特許請求の範囲の減縮を目的とし、また、願書に添付した明細書に記載した事項の範囲内においてなされたものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、または変更するものではない。
(2)訂正a、b、d、e、fの「親水性硬化性組成物」を、「硬化性組成物」とする訂正は、「親水性」という記載が、各請求項に記載された成分と組成割合によって得られた物性を単に確認的に記載しただけのものであるのか、それとも、更なる特定をするための記載であるのかが明りょうでなかったものを、前者であることが明らかとなる記載に改める訂正であるから、明りょうでない記載の釈明を目的としている。また、本件特許明細書には、「親水性」という物性が、各請求項に記載された成分と組成割合以外の要件によって達成されることを示す記載がないことから、この訂正は、願書に添付した明細書に記載した事項の範囲内においてなされたものと認められる。そして、この訂正は、実質上特許請求の範囲を拡張し、または変更するものではない。
(3)訂正cは、請求項を削除する訂正であるから、特許請求の範囲の減縮を目的とし、また、願書に添付した明細書に記載した事項の範囲内においてなされたものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、または変更するものではない。
(4)訂正d〜fの引用請求項の訂正及び請求項の項番号の繰り上げは、訂正cの請求項3の削除に伴う訂正であり、訂正g〜jは、訂正a、b、d、e、fの訂正に伴う訂正であって、いずれも明りょうでない記載を釈明を目的としている。なお、訂正jにおける記載の削除は、硬化触媒として記載された化合物のうち、酸性硬化触媒以外のものを削除する訂正であるから、訂正a、fに伴う訂正であって、明りょうでない記載を釈明を目的としている。そして、これらの訂正は、願書に添付した明細書に記載した事項の範囲内においてなされたものであり、また実質上特許請求の範囲を拡張し、または変更するものではない。

3.むすび
以上のとおりであるから、上記訂正は、特許法等の一部を改正する法律(平成6年法律第116号。以下「平成6年改正法」という。)附則第6条第1項の規定によりなお従前の例によるとされる、特許法第120条の4第3項において準用する平成6年改正法による改正前の特許法第126条第1項ただし書、及び第2項の規定に適合するので、当該訂正を認める。

【3】本件発明

本件の請求項1〜5に係る発明(以下、それぞれ、「本件発明1」〜「本件発明5」という)は、訂正明細書の特許請求の範囲の請求項1〜5に記載された、次のとおりのものである。
「【請求項1】
(A)一般式;
【化1】

(式中、R1は炭素数1〜10のアルキル基、R2は水素原子または炭素数1〜10のアルキル基、アリール基およびアラルキル基よりなる群から選ばれた1価の炭化水素基、aは0、1または2を示す)で表される基を含有する数平均分子量15,000〜30,000のアルコキシシリル基含有アクリル共重合体100重量部、
(B)テトラエチルシリケートおよび/またはその縮合物2〜40重量部、
(C)酸性硬化触媒
からなる硬化性組成物。
【請求項2】
(A)成分が、分子内に重合性二重結合を含有するアルコキシシリル基含有モノマーを共重合成分とした重合体であり、かつ全共重合体成分に対する前記アルコキシシリル基含有モノマーの割合が5〜90重量%である請求項1に記載の硬化性組成物。
【請求項3】
前記酸性硬化触媒が、酸性リン酸エステル、酸性リン酸エステルとアミンとの混合物または反応物、飽和もしくは不飽和多価カルボン酸、飽和もしくは不飽和多価カルボン酸の酸無水物である請求項1または2に記載の硬化性組成物。
【請求項4】
前記(A)成分に共重合モノマーとして、メタクリル酸nブチルが含まれる請求項1〜3のいずれか1項に記載の硬化性組成物。
【請求項5】
一般式;
【化2】

(式中、R1は炭素数1〜10のアルキル基、R2は水素原子または炭素数1〜10のアルキル基、アリール基およびアラルキル基よりなる群から選ばれた1価の炭化水素、aは0、1または2を示す)であらわされる基を含有する数平均分子量15,000〜30,000のアルコキシシリル基含有モノマーとアクリル系モノマーとを共重合してアルコキシシリル基含有アクリル共重合体100重量部を得るに当たり、テトラエチルシリケートおよび/またはその縮合物2〜40重量部を反応系中に存在せしめ、その後、酸性硬化触媒を添加することを特徴とする硬化性組成物の製造方法。」

【4】請求項1〜4に係る特許に対する判断

1.取消理由の概要
請求項1〜4は、訂正前の請求項1〜5に対応している。そして、訂正前の請求項1〜5に係る特許に対する取消理由の概要は、該請求項に係る発明が、その出願前に国内において頒布された下記の刊行物1〜5に記載された発明に基づいて、その出願前にその発明の属する分野における通常の知識を有する者が、容易に発明をすることができたものであるから、訂正前の請求項1〜5に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであって、取り消すべきものであるというものである。

刊行物1:特開昭54-91546号公報(甲第1号証)
刊行物2:特開昭59-38262号公報(甲第2号証)
刊行物3:特開平4-258657号公報(公開日平成4年9月14日)
刊行物4:特開平3-277646号公報
刊行物5:特開昭64-51468号公報

2.本件発明1に対する判断
刊行物1の請求項1には、
「(A)式

〔式中、R1,R2は水素又は炭素数1〜10までのアルキル基、アリール基、アラルキル基より選ばれる1価の炭化水素基、Xは・・・アルコキシ基、・・・より選ばれる基:aは0,1又は2の整数〕で示されるシリル基を分子中に少なくとも1つ有する・・・、ビニル系重合体、・・・、ジアリルフタレート系共重合体の1種または2種以上の混合物。(B)1分子中に少なくとも1個の珪素原子に結合されたV基(Vは・・・アルコキシ基・・・より選ばれる基)を有し、珪素原子が1〜20のシリコン化合物の1種又は2種以上の混合物。上記(A),(B)を有効成分として含有する室温硬化性組成物。」と記載されている。
そして、Xについて、刊行物1の第4頁右下欄第7〜10行に、「加水分解性基Xとしては、・・・特にアルコキシ基が好ましい。アルコキシ基の中でもメトキシ基が更に好ましい。」と記載されている。
また、上記(A)のビニル系重合体について、刊行物1の請求項4には、「シリル基含有化合物が、分子量300〜20,000のビニル系重合体である特許請求の範囲第1項記載の室温硬化性組成物。」と記載され、さらに、刊行物1の請求項8には、該請求項4を引用して、「アクリル酸エステル、又はメタクリル酸エステルを含む重合体である特許請求の範囲第4項記載のビニル系重合体」と記載されているから、上記(A)のビニル系重合体として、分子量300〜20,000のアクリル共重合体が記載されているといえる。なお、請求項8の「アクリル酸エステル、又はメタクリル酸エステルを含む」との記載は、アクリル酸エステル、又はメタクリル酸エステル以外の共重合成分の存在を表現しているから、請求項8には、アクリル共重合体が記載されていると認められる。
また、上記(A)のジアリルフタレート系共重合体として、刊行物1の請求項6には「シリル基含有化合物が、分子量300〜20,000のジアリルフタレートとアクリル酸エステル、またはメタクリル酸エステル共重合体である特許請求の範囲第1項記載の室温硬化性組成物。」と記載されているから、上記(A)のジアリルフタレート系共重合体としても、分子量300〜20,000のアクリル系共重合体が記載されているといえる。
また、刊行物1には、上記(B)成分として、テトラエチルシリケート又はその縮合物が記載されている(刊行物1の第4頁右下欄第11行〜第5頁右上欄第6行の「本発明で用いられるシリコン化合物としては・・・具体的には・・・Si(OC2H5)4・・・。本発明において(3)式で示されるシリコン化合物以外に1種以上の・・・の縮合物であり、・・・エチルシリケート40,HAS-1(日本コルゲート社)等が市販されている。」との記載を参照)。
また、上記(A)成分と(B)成分の配合割合について、刊行物1には、(A)成分100重量部に対し、(B)成分を0.01〜100重量部配合することが記載されている(第5頁右下欄下から第10〜6行の「本発明において(3)式で示されるシリコン化合物、それらの縮合物、・・・は、シリル末端化合物100重量部に対し0.01重量部〜100重量部の範囲で使用される。」との記載参照)。
さらに、刊行物1には、上記硬化性組成物に酸性触媒を配合することも記載されている(第5頁右下欄下から第3行〜第6頁左上欄第7行の「本発明の組成物を硬化させるにあたつては、シラノール縮合触媒を使用してもしなくてもよい。縮合触媒を使用する場合は、・・・ならびに他の酸性触媒・・・などの公知のシラノール縮合触媒が有効に使用される。」との記載を参照)。
以上の記載からみて、刊行物1には、
「(A)式;

(式中、R1は水素または炭素数1〜10のアルキル基、アリール基、アラルキル基より選ばれる1価の炭化水素基、Xは、メトキシ基等のアルコキシ基;aは0、1または2の整数)で示されるシリル基を含有する分子量300〜20,000のアルコキシシリル基含有アクリル共重合体100重量部、(B)テトラエチルシリケートまたはその縮合物0.01〜100重量部、酸性硬化触媒からなる硬化性組成物」の発明(以下「刊行物1の発明」という)が記載されていると認められる。
そこで、本件発明1と刊行物1の発明を対比すると、後者の(A)成分のX、R1は、それぞれ、前者の(A)成分のR1O、R2に相当し、また、後者の(A)成分の分子量は、300〜20,000であり、前者の(A)成分の数平均分子量は、15,000〜30,000であって、15,000〜20,000の範囲で重複しているから、前者の(A)成分は、後者の(A)成分に相当している(但し、前者の分子量が数平均分子量であるのに対して、後者の分子量にこの特定がない点を除く)。また、前者の(B)成分は、後者の(B)成分と同じである。そして、前者において、(A)成分100重量部に対する、(B)成分の量は、0.01〜100重量部であり、後者の(A)成分100重量部に対する、(B)成分の量は、2〜40重量部であるから、両者は、(A)成分100重量部に対する(B)成分の配合割合においても、2〜40重量部の範囲で重複している。
そうすると、両者は、(A)成分100重量部、(B)成分2〜40重量部、(C)成分(酸性硬化触媒)からなる硬化性組成物の発明である点で一致し、ただ、(A)成分の分子量が、前者では数平均分子量であるのに対して、後者では、その特定がなされていない点でのみ相違している。
しかし、高分子化合物の分子量として、数平均分子量は重量平均分子量と共によく使用されるものであり、後者における分子量を数平均分子量と理解しても特に問題があるということもない。してみれば、後者における分子量として、数平均分子量を採用することに格別の困難はない。
したがって、本件発明1は、刊行物1に記載された発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
なお、特許権者は、刊行物1の実施例では、硬化触媒として唯一ジブチル錫マレエートが記載されているだけで、刊行物1には、(A)成分と(B)成分とともに(C)成分を組み合わせた例はなく、この組み合わせにより、表面硬度が優れ、かつ親水性に関して長期保存性に優れた硬化物(塗膜)が得られ、この効果は予測できないから、本件発明1は、刊行物1の記載から容易に発明をすることができない旨主張している。しかし、本件発明1における硬度や親水性の効果は、本件特許明細書の、段落【0025】に、(B)成分に基づく効果であることが記載されており、一方、刊行物1の発明においても(B)成分が使用されており、また、刊行物1の第2頁左下欄第2〜15行に、硬度の向上効果が記載されているから、結局、特許権者が主張する効果は、刊行物1の発明においても、事実上存在すると認められ、したがって、本件発明1の効果を格別のものと認めることはできない。

3.本件発明2に対する判断
本件発明2は、(A)成分が、分子内に重合性二重結合を含有するアルコキシシリル基含有モノマーを共重合成分とした重合体であるので、まず、その点を検討する。
上記「2.」に記載したように、刊行物1には、(A)成分として、アルコキシシリル基含有アクリル共重合体が記載されている。そして、「分子内に重合性二重結合を含有するアルコキシシリル基含有モノマーを重合成分とするアクリル共重合体」は、アルコキシシリル基含有アクリル重合体として周知である(必要ならば、刊行物2の特に第4頁右下欄第8行〜第5頁右上欄第11行、刊行物3の特に、【0036】、【0038】〜【0042】、刊行物4の特に第3頁右上欄第9〜12行、刊行物5の特に第3頁右上欄第2行〜第4頁右上欄第3行を参照)。してみれば、刊行物1の発明における(A)成分として、分子内に重合性二重結合を含有するアルコキシシリル基含有モノマーを共重合成分とした重合体を使用することは容易である。
また、アルコキシシリル基含有アクリル共重合体を硬化させるにあたり、得られる硬化物(塗膜)の物性を考慮してそのアルコキシシリル基含有モノマーの好適な割合を設定することは、刊行物3の【0043】、刊行物4の第3頁左上欄第6行〜第3頁右上欄第1行に記載されているように通常行われていることであるから、アルコキシシリル基含有モノマーの好適な割合は、適宜設定できるものと認める。
したがって、本件発明2は、刊行物1に記載された発明及び刊行物2〜5記載された周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

4.本件発明3に対する判断
刊行物3の請求項5、【0060】〜【0065】、刊行物4の請求項3、第6頁、刊行物5の第5頁左上欄第17行〜第5頁左下欄第16行には、本件発明3で特定された酸性硬化触媒が記載されており、これらの触媒が、アルコキシシリル基を硬化させる触媒であることは、刊行物3〜5の記載から明らかであるから、刊行物1の発明において、酸性硬化触媒として、本件発明3で特定されたものを使用することは容易である。
したがって、本件発明3は、刊行物1、3〜5に記載された発明及び刊行物2〜5記載された周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

5.本件発明4に対する判断
メタクリル酸nブチルは、アクリル系重合体に使用される共重合モノマーとして周知であるから(必要ならば、刊行物2の特に第5頁左上欄第17〜18行、刊行物3の特に第7欄第3行、刊行物4の特に第3頁右上欄第16〜17行、刊行物5の特に第3頁右上欄第8〜9行参照。なお、これらの刊行物には、メタクリル酸ブチルの使用が記載されているが、メタクリル酸ブチルとして、メタクリル酸nブチルは、もっとも一般的に使用されている物質である。)、その使用は容易である。したがって、本件発明4は、刊行物1、3〜5に記載された発明及び刊行物2〜5記載された周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

6.まとめ
以上のとおり、本件発明1〜4は、その出願前に国内において頒布された刊行物に記載された発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

【5】請求項5に係る特許に対する判断

請求項5は、訂正前の請求項6に対応しており、特許異議申立人は、訂正前の請求項6に係る発明は、甲第1号証(刊行物1)、及び甲第2号証(刊行物2)に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである旨主張している。
そこで検討するに、まず、本件発明5は、アルコキシシリル基含有モノマーとアクリル系モノマーとを共重合してアルコキシシリル基含有アクリル共重合体を得るに当たり、テトラエチルシリケートおよび/またはその縮合物を反応系中に存在せしめることを構成要件として具備している(以下、この構成要件を「本件製法要件」という)。
これに対して、甲第1号証(刊行物1)には、上記「【4】2.」に示したとおりの記載があるが、本件製法要件については、記載も示唆もされていない。
甲第2号証(刊行物2)には、官能基含有アクリルポリマーと有機珪素化合物の加水分解物と硬化触媒を含む硬化性組成物が記載され、該官能基含有アクリルポリマーの官能基としてアルコキシシリル基が記載され、該有機珪素化合物として、テトラエトキシシランが記載されているが、本件製法要件については記載も示唆もされていない。
以上のとおり、甲第1、2号証には、本件製法要件については記載も示唆もされていないから、本件発明5は、甲第1、2号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとは認められない。
また、訂正前の請求項6に対して、明細書の記載が不備のため、特許法第36条第4項に規定する要件を満たしていないとの取消理由を通知したが、この取消理由は、訂正によって解消されている。

【6】むすび

上記【4】で述べたとおりであるから、請求項1〜4に係る特許は、拒絶の査定をしなければならない特許出願に対してされたものと認める。
また、上記【5】で述べたとおりであるから、特許異議の申立ての理由、及び取消理由によっては、請求項5に係る特許を取り消すことはできない。また、他に請求項5に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。したがって、請求項5に係る特許は拒絶の査定をしなければならない特許出願に対してされたものと認めない。
よって、特許法等の一部を改正する法律(平成6年法律第116号)附則第14条の規定に基づく、特許法等の一部を改正する法律の施行に伴う経過措置を定める政令(平成7年政令第205号)第4条第2項の規定により、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
硬化性組成物、及びその製造方法
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)一般式;
【化1】

(式中、R1は炭素数1〜10のアルキル基、R2は水素原子または炭素数1〜10のアルキル基、アリール基およびアラルキル基よりなる群から選ばれた1価の炭化水素基、aは0、1または2を示す)で表される基を含有する数平均分子量15,000〜30,000のアルコキシシリル基含有アクリル共重合体100重量部、
(B)テトラエチルシリケートおよび/またはその縮合物2〜40重量部、
(C)酸性硬化触媒
からなる硬化性組成物。
【請求項2】
(A)成分が、分子内に重合性二重結合を含有するアルコキシシリル基含有モノマーを共重合成分とした重合体であり、かつ全共重合体成分に対する前記アルコキシシリル基含有モノマーの割合が5〜90重量%である請求項1に記載の硬化性組成物。
【請求項3】
前記酸性硬化触媒が、酸性リン酸エステル、酸性リン酸エステルとアミンとの混合物または反応物、飽和もしくは不飽和多価カルボン酸、飽和もしくは不飽和多価カルボン酸の酸無水物である請求項1または2に記載の硬化性組成物。
【請求項4】
前記(A)成分に共重合モノマーとして、メタクリル酸nブチルが含まれる請求項1〜3のいずれか1項に記載の硬化性組成物。
【請求項5】
一般式;
【化2】

(式中、R1は炭素数1〜10のアルキル基、R2は水素原子または炭素数1〜10のアルキル基、アリール基およびアラルキル基よりなる群から選ばれた1価の炭化水素、aは0、1または2を示す)であらわされる基を含有する数平均分子量15,000〜30,000のアルコキシシリル基含有モノマーとアクリル系モノマーとを共重合してアルコキシシリル基含有アクリル共重合体100重量部を得るに当たり、テトラエチルシリケートおよび/またはその縮合物2〜40重量部を反応系中に存在せしめ、その後、酸性硬化触媒を添加することを特徴とする硬化性組成物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】
本発明は硬化性組成物(以下、「親水性硬化性組成物」ともいう、及びその製造方法に関し、主として、金属、セラミックス、ガラス、セメント、窯業系成形物、プラスチック、木材、紙、繊維、建築外装、家電用品、産業機器等に使用される上塗り塗料用硬化性組成物、及びその製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術と発明が解決しようとする課題】
従来より、窯業系素材、鉄鋼、建築や建材等の産業製品の表面にアクリルシリコン樹脂を含む組成物を被覆していた。これにより、前記産業製品に対して意匠的効果を付与できるということもさることながら、表面に高硬度膜が形成し、これにより前記産業製品の耐候性、耐食性等の物性を向上させることができた。
【0003】
さらに今日にあっては、以下の理由により、膜表面に親水性を付与することが社会的に要求されている。すなわち、例えば、都市部を中心にして、建築物の汚染が問題になっている。しかし、表面のぬれ性を改善することで、表面に付着した汚染物質を雨水等により洗い流せることができ、前記建築物の耐汚染性を向上させることができる。
【0004】
親水性付与は、前記組成物に界面活性剤を添加する方法により実現できるものの、表面硬度の低下を招いたり、長期にわたる屋外暴露での親水性保持に問題があり、まだまだ満足のいく方法ではなかった。
【0005】
本発明は上記の実情に鑑みてなされたものであり、その目的は、優れた表面硬度を有するとともに、長期にわたって屋外暴露させても親水性を保持し得る親水性硬化性組成物を提供するところにある。
【0006】
【課題を解決するための手段】
本発明の硬化性組成物は、
(A)一般式;
【化3】

(式中、R1は炭素数1〜10のアルキル基、R2は水素原子、または炭素数1〜10のアルキル基、アリール基およびアラルキル基よりなる群から選ばれた1価の炭化水素基、aは0、1または2を示す)で表される基を含有するアルコキシシリル基含有アクリル共重合体100重量部(以下、単に「部」という)、
(B)テトラエチルシリケートおよび/またはその縮合物2〜40部、
(C)酸性硬化触媒
からなるものである。
【0007】
本発明の組成物における1成分である、(A)成分のアルコキシシリル基含有アクリル共重合体(以下、「アルコキシシリル基含有アクリル共重合体(A)」あるいは単に「(A)成分」とも言う)は、
一般式;
【化4】

で表わされるアルコキシシリル基を1分子中に少なくとも1個、好ましくは2個以上有する重合体である。このアルコキシシリル基は、(A)成分の主鎖の末端に含まれていても良く、側鎖に含まれても良く、双方に含まれても良い。
【0008】
(A)成分1分子中のアルコキシシリル基の個数が1個未満では、本発明の組成物から得られる硬化物(例えば塗膜)の耐溶剤性が低下しやすくなる。
【0009】
前記式中、R1は炭素数1〜10、好ましくは1〜4のアルキル基である。炭素数が10を超えると、アルコキシシリル基の反応性が低下し、R1がアルキル基以外、例えばフェニル基、ベンジル基の場合にも、反応性は低下する。
【0010】
R1の具体例としては、例えばメチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基なとが挙げられる。
【0011】
前記式中、R2は水素原子、または炭素数1〜10、好ましくは、1〜4のアルキル基、アリール基、アラルキル基よりなる群から選ばれた1価の炭化水素基である。
【0012】
R2であるアルキル基の具体例としては、R1と同様の基があげられ、アリール基の具体例としては、例えばフェニル基などが挙げられ、アラルキル基の具体例としては、例えばベンジル基などが挙げられる。
【0013】
前記一般式[化4]で表わされるアルコキシシリル基の具体例としては、例えば後述するアルコキシシリル基含有モノマーに含まれる基が挙げられる。
【0014】
アルコキシシリル基含有アクリル共重合体(A)は、その主鎖が実質的にアクリル共重合鎖からなるために、硬化物の耐候性、耐薬品性、耐水性などに優れている。さらに、(A)成分において、アルコキシシリル基が炭素原子に結合していれば、得られる硬化物の耐水性はより一層優れたものとなり、耐アルカリ性、耐酸性なども優れたものとなる。
【0015】
アルコキシシリル基含有アクリル共重合体(A)の数平均分子量は、本発明の組成物から得られる硬化物の耐久性などの物性の点から15,000〜30,000であり、15,000〜25,000が好ましい。
(A)成分は、例えばアクリル酸、メタクリル酸、それらの誘導体などのアクリル系モノマーと、アルコキシシリル基含有モノマーとの共重合により得ることができる。
【0016】
アクリル系モノマーには特に限定はなく、その具体例としては、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、トリフルオロエチル(メタ)アクリレート、ペンタフルオロプロピル(メタ)アクリレート、パーフルオロシクロヘキシル(メタ)アクリレート、(メタ)アクリロニトリル、グリシジル(メタ)アクリレート、ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート、(メタ)アクリルアミド、α-エチル(メタ)アクリルアミド、N-ブトキシメチル(メタ)アクリルアミド、N,N-ジメチルアクリルアミド、N-メチルアクリルアミド、アクリロイルモルホリン、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、N-メチロール(メタ)アクリルアミド、東亜合成化学工業(株)製のアロニクスM-5700、東亜合成化学工業(株)製のマクロモノマーであるAS-6、AN-6、AA-6、AB-6、AK-5、ダイセル化学工業(株)製のPlaccel FA-1、Placcel FA-4、Placcel FM-1、Placcel FM-4、(メタ)アクリル酸のヒドロキシアルキルエステル類などのα,β-エチレン性不飽和カルボン酸のヒドロキシアルキルエステル類とリン酸もしくはリン酸エステル類との縮合生成物たるリン酸エステル基含有ビニル系化合物、ウレタン結合やシロキサン結合を含む(メタ)アクリレートなどが挙げられる。
【0017】
前記アルコキシシリル基含有モノマーとしては重合性二重結合を有しているということ以外とくに限定はなく、その具体例としては、例えば、
【化5】

【化6】

などが挙げられ、末端にアルコキシシリル基をウレタン結合あるいはシロキサン結合を介して有する(メタ)アクリレートなども含まれる。
【0018】
(A)成分中におけるアルコキシシリル基含有モノマーの割合は、組成物の硬化性や塗膜の耐久性などの点から5〜90%が好ましく、10〜70%がさらに好ましい。
【0019】
(A)成分中には、50%をこえない範囲で、主鎖にウレタン結合やシロキサン結合により形成されたセグメントを含んでいてもよく、(メタ)アクリル酸誘導体以外のモノマーに由来するセグメントを含んでいてもよい。このモノマーには限定はなく、その具体例として、例えばスチレン、α-メチルスチレン、クロロスチレン、スチレンスルホン酸、4-ヒドロキシスチレン、ビニルトルエンなどの芳香族炭化水素系ビニル系化合物;マレイン酸、フマル酸、イタコン酸などの不飽和カルボン酸、それらの塩(アルカリ金属塩、アンモニウム塩、アミン塩など)、それらの酸無水物(無水マレイン酸など)、または、それらと炭素数1〜20の直鎖または分岐のアルコールとのジエステルまたはハーフエステルなどの不飽和カルボン酸のエステル;酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、ジアリルフタレートなとのビニルエステルやアリル化合物;ビニルピリジン、アミノエチルビニルエーテルなどのアミノ基含有ビニル系化合物;イタコン酸ジアミド、クロトンアミド、マレイン酸ジアミド、フマル酸ジアミド、N-ビニルピロリドンなどのアミド基含有ビニル系化合物;2-ヒドロキシエチルビニルエーテル、メチルビニルエーテル、シクロヘキシルビニルエーテル、塩化ビニル、塩化ビニリデン、クロロプレン、プロピレン、ブタジエン、イソプレン、フルオロオレフィンマレイミド、N-ビニルイミダゾール、ビニルスルホン酸などのその他のビニル系化合物なとが挙げられる。
【0020】
アルコキシシリル基含有アクリル共重合体(A)は、例えば、特開昭54-36395号公報、同57-36109号公報、同58-157810号公報などに示される方法により製造することができるが、合成の容易さなどの点からアゾビスイソブチロニトリルなどのアゾ系ラジカル開始剤を用いた溶液重合法により製造するのが最も好ましい。
【0021】
この際においても必要に応じて、n-ドデシルメルカプタン、t-ドデシルメルカプタン、n-ブチルメルカプタン、γ-メルカプトプロピルトリメトキシシラン、γ-メルカプトプロピルトリエトキシシラン、γ-メルカプトプロピルメチルジメトキシシラン、γ-メルカプトプロピルメチルジエトキシシラン、(CH3O)3Si-S-S-Si(OCH3)3、などの連鎖移動剤を用い、分子量を調整することができる。とくにアルコキシシリル基を分子中に有する連鎖移動剤、例えば、γ-メルカプトプロピルトリメトキシシランを用いることが、シリル基含有アクリル共重合体の末端にアルコキシシリル基を導入できるという理由で好ましい。
【0022】
また、前記溶液重合法に用いられる重合溶剤は、炭化水素類(トルエン、キシレン、n-ヘキサン、シクロヘキサンなど)、酢酸エステル類(酢酸エチル、酢酸ブチルなど)、エーテル類(エチルセロソルブ、ブチルセロソルブ、セロソルブアセテートなど)、ケトン類(メチルエチルケトン、アセト酢酸エチル、アセチルアセトン、メチルイソブチルケトン、アセトンなど)のごとき非反応性の溶剤であれば特に限定はない。
【0023】
このようなアルコキシシリル基含有重合体(A)は、1種を用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0024】
また、(B)成分のテトラエチルシリケートおよび/またはその縮合物との相溶性の点から、(A)成分における共重合モノマーとして、メタクリル酸nブチルを20〜50部導入することが望ましい。
【0025】
本発明に使用される(B)成分のテトラエチルシリケートおよび/またはその縮合物は、組成物を塗装して得られる硬化塗膜の親水性と硬度を向上させ、あるいは塗膜と基材の密着性を向上させる。
【0026】
テトラエチルシリケートの縮合物としては、上記テトラエチルシリケートを加水分解条件下にて縮合させて得る、という既知の製造方法により生成可能である。すなわち、テトラエチルシリケートに水を添加し、縮合せしめることにより行うことができる。また、テトラエチルシリケート縮合物は、市販品を用いることもできる。このような縮合物としては、例えば、ESI28、ESI40(いずれもコルコート(株)製)等がある。
【0027】
上記テトラエチルシリケートおよび/またはその縮合物は、(A)成分に混合してよいし、(A)成分を合成する際、すなわちアルコキシシリル基含有モノマーとアクリル系モノマーとを共重合させる際、(B)成分を予め反応容器中に存在せしめておくこともできる。後者の方法を採れば、相溶性および親水性が改良される。
【0028】
上記テトラエチルシリケートの配合割合は、成分(A)の樹脂分100部に対し2〜40部、好ましくは5〜40部である。2部未満では得られる硬化物の親水性が充分でなく、40部を超えると硬化物における外観が悪化したり、クラックが発生しやすくなるといった問題がある。
【0029】
本発明に用いる(C)成分である酸性硬化触媒(以下、「硬化触媒(C)」あるいは単に「(C)成分」ともいう)の具体例としては、リン酸、モノメチルホスフェート、モノエチルホスフェート、モノブチルホスフェート、モノオクチルホスフェート、モノデシルホスフェート、ジメチルホスフェート、ジエチルホスフェート、ジブチルホスフェート、ジオクチルホスフェート、ジデシルホスフェートなどのリン酸エステル;プロピレンオキサイド、ブチレンオキサイド、シクロヘキセンオキサイド、グリシジルメタクリレート、グリシドール、アクリルグリシジルエーテル、γ-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、
【化7】

油化シェルエポキシ(株)製のカーデュラE、油化シェルエポキシ(株)製のエピコート828、エピコート1001などのエポキシ化合物とリン酸および/またはモノ酸性リン酸エステルとの付加反応物、マレイン酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、イタコン酸、クエン酸、コハク酸、フタル酸、トリメリット酸、ピロメリット酸、これらの酸無水物、パラトルエンスルホン酸、ドデシルベンゼンスルホン酸などの酸性化合物が挙げられる。また、これらの酸性触媒とアミンとの混合物または反応物も含まれる。例えば、ヘキシルアミン、N,N-ジメチルドデシルアミン、ドデシルアミン等のアミン類が挙げられる。
【0030】
これらの硬化触媒(C)のうち、酸性硬化触媒が望ましく、特に酸性リン酸エステル、酸性リン酸エステルとアミンとの混合物もしくは反応物が活性も高く、親水性も好ましい。なお、硬化触媒(C)は単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0031】
(C)成分の使用量には特に限定はないが、(A)成分および(B)成分の樹脂固形分100部に対して、通常0.1〜20部が好ましく、0.1〜10部がさらに好ましい。(C)成分の使用量が0.1部未満になると、硬化性が低下する傾向があり、20部を超えると塗膜の外観性が低下する傾向がある。
【0032】
長期にわたって繰り返し使用しても問題のない保存安定性を確保するために、脱水剤及びアルキルアルコールを使用することが好ましい。
【0033】
脱水剤の具体例としては、例えばオルトギ酸メチル、オルトギ酸エチル、オルト酢酸メチル、オルト酢酸エチル、メチルトリメトキシシラン、γ-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、メチルシリケート、エチルシリケートなどの加水分解性エステル化合物が挙げられる。アルキルアルコールとしてはメタノール、エタノールのような低分子量アルコールが挙げられる。脱水剤、アルキルアルコールは、アルコキシシリル基含有重合体(A)の重合前に加えてもよく、重合後に加えてもよく、重合中に加えてもよい。
【0034】
脱水剤、アルキルアルコールの使用量に特に限定はないが、(A)成分および(B)成分の樹脂固形分100部に対し、0.5〜20部、2〜10部がさらに好ましい。
【0035】
脱水剤とアルキルアルコールを併用すれば、保存安定性に顕著な効果がみられる。
【0036】
本発明の組成物には、用途に応じて希釈剤、顔料(体質顔料を含む)、紫外線吸収剤、光安定剤、沈降防止剤、レベリング剤などの添加剤;ニトロセルロース、セルロースアセテートブチレートなどの繊維素;エポキシ樹脂、メラミン樹脂、塩化ビニル樹脂、塩素化ポリプロピレン、塩化ゴム、ポリビニルブチラールなどの樹脂;充填剤などを添加してもよい。
【0037】
各種塗装、特に浸漬、吹付け、刷毛塗りなどの常法により被塗物に上記組成物を塗付した後、通常30℃以上で硬化させることにより被塗物の表面に密着性、耐久性などに優れた塗膜を形成することができる。
【0038】
【実施例】
以下、本発明の親水性硬化性組成物を実施例に基づいて、さらに具体的に説明する。
【0039】
合成例1
攪拌機、温度計、還流冷却器、窒素ガス導入管および滴下ロートを備えた反応容器に、キシレン40.4部を仕込み、窒素ガスを導入しつつ110℃に昇温した後、下記組成の混合物(a)を滴下ロートにより5時間かけて等速滴下した。
混合物(a)
メタクリル酸メチル 28.4部
メタクリル酸nブチル 47.1部
アクリル酸ブチル 11.8部
γ-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン 11.8部
アクリルアミド 0.9部
キシレン 17.9部
2,2-アゾビスイソブチロニトリル 1.0部
【0040】
混合物(a)の滴下終了後、2,2-アゾビスイソブチロニトリル0.5部、トルエン8.1部を1時間かけて等速滴下した。滴下終了後、110℃で2時間熟成の後冷却し、樹脂溶液にキシレンを加えて固形分濃度を50%に調整した。得られた樹脂の数平均分子量は15,000であった。
【0041】
合成例2
攪拌機、温度計、還流冷却器、窒素ガス導入管および滴下ロートを備えた反応容器に、キシレン40.4部を仕込み、窒素ガスを導入しつつ110℃に昇温した後、下記組成の混合物(b)を滴下ロートにより5時間かけて等速滴下した。
混合物(b)
メタクリル酸メチル 56.6部
アクリル酸ブチル 30.7部
γ-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン 11.8部
アクリルアミド 0.9部
キシレン 17.9部
2,2-アゾビスイソブチロニトリル 1.0部
【0042】
混合物(b)の滴下終了後、2,2-アゾビスイソブチロニトリル0.5部、トルエン8.1部を1時間かけて等速滴下した。滴下終了後、110℃で2時間熟成の後冷却し、樹脂溶液にキシレンを加えて固形分濃度を50%に調整した。得られた樹脂の数平均分子量は15,000であった。
【0043】
合成例3
攪拌機、温度計、還流冷却器、窒素ガス導入管および滴下ロートを備えた反応容器に、ESI40(*)を30部、キシレン10.4部を仕込み、窒素ガスを導入しつつ110℃に昇温した後、下記組成の混合物(c)を滴下ロートにより5時間かけて等速滴下した。(*コルコート(株)製テトラエチルシリケート縮合物市販品)。
【0044】
混合物(c)
メタクリル酸メチル 56.6部
アクリル酸ブチル 30.7部
γ-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン 11.8部
アクリルアミド 0.9部
キシレン 17.9部
2,2-アゾビスイソブチロニトリル 1.0部
【0045】
混合物(c)の滴下終了後、2,2-アゾビスイソブチロニトリル0.5部、トルエン8.1部を1時間かけて等速滴下した。滴下終了後、110℃で2時間熟成の後冷却し、樹脂溶液にキシレンを加えて固形分濃度を50%に調整した。得られた樹脂の数平均分子量は15,000であった。
【0046】
比較例1
合成例1に示す樹脂100部に対し(B)成分であるMSI51(コルコート(株)製)を30部配合した。この樹脂溶液を用いPWC(全固形分に対する顔料の割合)40%、塗料固形物濃度60%となるように酸化チタン(石原産業(株)製CR-90)を分散させ、白エナメルを調整した。分散は、ガラスビーズを用いペイントコンディショナーで2時間行なった。前記白エナメルに硬化触媒としてジオクチルホスフェートとドデシルアミンを樹脂固形分100部に対しそれぞれ0.25部加え、シンナーで固形分濃度45%になるよう希釈した。
【0047】
この塗料をアルミ板(A5052P)に乾燥膜厚が約30μmになるようエアースプレーで塗装した。その後塗板を23℃で7日間養生し、前記アルミ板の表面に塗膜を形成した。該塗膜における光沢度、ペロゾス硬度、水との接触角および3ケ月曝露後における水との接触角をそれぞれ測定した。結果を[表2]に記載する。
【0048】
実施例1〜実施例2、及び比較例2〜比較例7
[表1]に示す配合組成物を前記と同条件で白エナメルを調整し塗料とした。同じく[表1]に示す硬化触媒を添加し、シンナーで固形分濃度45%になるよう希釈した。
【0049】
この塗料をアルミ板(A5052P)に乾燥膜厚が約30μmになるようにエアースプレーで塗装した。その後塗板を[表1]に示す養生条件で養生し形成した塗膜における光沢度、ペロゾス硬度、水との接触角および3ケ月曝露後における水との接触角をそれぞれ測定した。結果を[表2]に併記する。
【0050】
【表1】

【0051】
【表2】

【0052】
【発明の効果】
本発明の親水性硬化性組成物により、優れた表面硬度を有するとともに、長期にわたって屋外暴露させても親水性を保持し得る塗膜を形成させることができる。
【0053】
また、テトラエチルシリケートおよび/またはその縮合物の存在下で、アルコキシシリル基含有モノマーとアクリル系モノマーとを共重合すれば、得られた組成物により形成する塗膜の親水性がより一層向上する。
 
訂正の要旨 [訂正a]
請求項1における「硬化触媒」を「酸性硬化触媒」と訂正し、「親水性硬化性組成物」を「硬化性組成物」と訂正する。
[訂正b]
請求項2における「親水性硬化性組成物」を、「硬化性組成物」と訂正する。
[訂正c]
請求項3を削除する。
[訂正d]
請求項4の「請求項3に記載の」を「請求項1または2に記載の」と訂正し、「親水性硬化性組成物」を「硬化性組成物」と訂正し、さらに、請求項の項番号を繰り上げて、請求項3とする。
[訂正e]
請求項5の「請求項1〜4のいずれか1項に記載の」を「請求項1〜3のいずれか1項に記載の」と訂正し、「親水性硬化性組成物」を、「硬化性組成物」と訂正し、さらに、請求項の項番号を繰り上げて請求項4とする。
[訂正f]
請求項6における「硬化触媒」を「酸性硬化触媒」と訂正し、「親水性硬化性組成物」を、「硬化性組成物」と訂正し、さらに、請求項の項番号を繰り上げて請求項5とする。
[訂正g]
発明の名称の「親水性硬化性組成物、及びその製造方法」を、「硬化性組成物、及びその製造方法」と訂正する。
[訂正h]
段落【0001】における「本発明は親水性硬化性組成物」を、「本発明は硬化性組成物(以下、「親水性硬化性組成物」ともいう)」と訂正する。
[訂正i]
段落【0006】における「本発明の親水性硬化性組成物は」を「本発明の硬化性組成物は」と訂正し、「硬化触媒」を「酸性硬化触媒」と訂正する。
[訂正j]
段落【0029】における「本発明に用いる(C)成分である硬化触媒」を「本発明に用いる(C)成分である酸性硬化触媒」と訂正するとともに、「ジブチルスズジラウレート、ジブチルスズマレート、ジオクチルスズラウレート、ジオクチルスズマレート、オクチル酸スズなどの有機スズ化合物、」なる記載を削除する。
異議決定日 2002-08-21 
出願番号 特願平4-302469
審決分類 P 1 651・ 121- ZD (C08L)
最終処分 一部取消  
前審関与審査官 佐々木 秀次  
特許庁審判長 谷口 浩行
特許庁審判官 村上 騎見高
石井 あき子
登録日 2000-11-02 
登録番号 特許第3125060号(P3125060)
権利者 鐘淵化学工業株式会社
発明の名称 硬化性組成物、及びその製造方法  
代理人 蔦田 正人  
代理人 蔦田 璋子  
代理人 蔦田 璋子  
代理人 蔦田 正人  

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