• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  C03C
管理番号 1070468
異議申立番号 異議2002-71760  
総通号数 38 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 1994-08-09 
種別 異議の決定 
異議申立日 2002-07-18 
確定日 2002-12-18 
異議申立件数
事件の表示 特許第3248279号「抗菌性ガラス用組成物」の請求項1ないし6に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 特許第3248279号の請求項1ないし6に係る特許を維持する。 
理由 1.手続きの経緯
本件特許第3248279号発明は、平成5年1月29日に出願され、平成13年11月9日にその特許の設定登録がなされたものである。
2.本件発明
本件請求項1乃至6に係る発明(以下、それぞれ「本件発明1乃至6」という)は、特許明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1乃至6に記載された事項により特定されるとおりのものである。
3.特許異議申立てについて
(申立ての理由)
特許異議申立人は、証拠方法として、甲第1号証乃至甲第6号証と証人尋問申請書を提出して、本件発明1乃至6は、甲第1号証乃至甲第5号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件発明1乃至6についての特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものであり、取り消されるべきであると主張している。
(証拠の記載内容)
特許異議申立人が提出した甲第1号証乃至甲第6号証には、それぞれ次の事項が記載されている。
(1)甲第1号証:特開平3-146436号公報
(a)「本発明は、抗菌性を有するガラス(失透状態のガラスすなわち結晶化ガラスをも包含する)に関するものである。」(第1頁左欄第14行乃至第16行)
(b)「そこで本発明は、一価の銀イオンや銅イオンがガラス中に溶解が難しいという問題点を解決し、かつ、さらに強力な殺菌力を付与するためにハロゲン族イオン(たとえばCl、Br、Iイオン)を積極的に添加することを包含する。この場合には、溶解炉で溶かしたときでも銀や銅イオンは容易にガラス中にコロイドとして分散し、銀イオンのガラス中残存率が高い。」(第2頁左上欄第11行乃至第18行)
(c)第1表に好ましい組成として、次の具体例が記載されている。「SiO2:30〜80(wt%)、Al2O3:0〜5、B2O3:8〜40、Ag2O:1〜5またはCuO:1〜30、ハロゲン(Cl、Br、I):0.05〜2、Na2O:3〜15、K2O:0.1〜10、ZrO2:0〜3」(第2頁右下欄)
(2)甲第2号証:特開平3-75142号公報
(a)「本発明はシート材または板材の表面に防腐・防黴性を付与した平面状部材に関するものである。」(第1頁左欄第13行乃至第14行)
(b)「シート状の平面状部材である塩化ビニルのシート製造する工程内において、B2O3 40モル%、SiO2 35モル%、Na2O 20モル%、Al2O3 5モル%、からなるガラス100重量部に対し、Ag2Oを0.5重量部加えたガラスの10μm以下の微粉末とビニル系樹脂との混合物を、塩化ビニルシート重量の約0.005重量%の溶解性ガラスに付着するように、シート表面に吹付け接着させ、」(第3頁左上欄下から第5行乃至右上欄第3行)
(3)甲第3号証:特開平4-114848号公報
(a)「本発明は、壜内容物の腐食を防止する為、壜容器口部への細菌付着を防止する方法に関するものである。」(第1頁左欄第11行乃至第13行)
(b)「低密度ポリエチレン樹脂に、B2O3 40mol%、Na2O 10mol%、SiO2 40mol%、Al2O3 10mol%、Ag2O 1.2wt%からなる硝子を25μm以下に粉砕した粉末を0.8wt%添加し、」(第2頁左下欄第16行乃至第20行)
(4)甲第4号証:「ガラス工学」共立出版(株)、昭和42年2月10日発行、第332頁乃至第335頁
「d.銀黄着色 ガラスに対する溶解度は、銀は金より大きく、銅よりは小さい。十分高温にすれば、高鉛ガラス中には約2%の銀を溶解させることができる。銀を溶かしこんだ溶融ガラスを、水中に投入して急冷すると、淡黄色のガラスを得る。・・・銀含有ガラスを酸化条件で溶融すると、Ag2Oがかなり高濃度でガラス中に安定に存在する。・・・しかるにガラス中にかなり多量にあるAg+イオンは、金属状態のAgとの間の平衡関係によって、そのときの濃度と温度に応じた量のAgがガラス中にできる。・・・平衡を支配する最も主要な条件は、(1)酸化還元条件、(2)温度、(3)基礎ガラス組成等である。・・・酸化還元条件に支配される要素が大きいから、炉内アトモスフィアはそれだけ注意が必要となる。ソーダ石灰ガラスの場合には、やや還元性で溶融するとよい。このとき酸化錫を加えると、銀の溶解度が高められるとともに、パイロゾルとして適当な粒径のところで、銀の結晶成長を抑制することができる。鉛ガラスによれば最も良好な色調をもった黄色ガラスが得られる。」(第333頁)
(5)甲第5号証:「Journal of Non-Crystalline Solids 38&39」1980年、第813頁乃至第818頁
甲第5号証には、「ソーダ・ライムガラスの溶融-清澄に関する酸化還元(REDOX)現象評価に対する実際的方法」と題して、次の事項が記載されている。
(a)「ホット・ステージ写真と操業中の槽窯で撮影した水冷ペリスコープによる写真によってガラス溶融及び清澄過程でのSO2放出の重要性について説明する。」(訳文第1頁)
(b)「硫酸塩の熱分解の結果、流動性のあるNaイオン、ガラス中で限られた溶解度を持つSO3、ガラスに不溶のSO2、或いは金属の存在下て発色団となる硫化物を生成する。・・・これによって、還元フリントガラスでの清澄過程の最適化に必要な不溶解硫黄相を展開する。」(訳文第4頁第2行乃至第9行)
(c)「1硫黄溶解度とガラスREDOX
ガラスの酸化状態と硫黄溶解度の関係を調べた。・・・ガラスが還元されるとともに硫黄の溶解度は減少し、その後、アンバー発色団の形成とともに急速に硫黄溶解度が増す事を示した。・・・図1の左側にある低い負の値をもったガラス組成は酸化系と考えられ、右側にゆく程還元されている。フリントガラスの最適清澄域はガラスREDOX数-20〜-50のガラスが低い硫黄含量をもつ部分にある。硫黄溶解度の減少によって、より迅速なSO2排出が行われ、清澄速度を早め、リボイルの可能性を低減する。」(訳文第4頁下から15行乃至第5頁第2行)
(6)甲第6号証:椙江 弘樹氏の証明書
この証明書は、石塚硝子(株)に勤務してきた椙江 弘樹氏が下記事項が本件出願前に広く知られていたことを証明するという内容のものである。
1.銀を含有するガラス中ではAg+イオンと金属Agとが平衡関係にあり、酸化条件で溶融するとAg+イオンが増加し、還元条件で溶融すると金属Agが増加すること。
2.ガラス中にはSO3が不可避的に含まれること。
3.ガラス中のSO3の量によりガラスの酸化還元状態をコントロールできること。
(7)証人尋問申請書
証人:椙江弘樹
尋問事項:1.銀含有ガラスの溶融について、2.ガラス中のSO3について、3.ガラスの酸化溶融及び還元溶融の技術について、4.その他、関連事項
(当審の判断)
(1)本件発明1について
甲第1号証には、抗菌性ガラス用組成物として、「SiO2:30〜80(wt%)、Al2O3:0〜5、B2O3:8〜40、Ag2O:1〜5またはCuO:1〜30、ハロゲン(Cl、Br、I):0.05〜2、Na2O:3〜15、K2O:0.1〜10、ZrO2:0〜3」(上記(c)参照)という発明(以下、「甲1発明」という)が記載されているから、本件発明1と甲1発明とをその必須成分の点だけで対比すると、両者は、その必須成分であるSiO2、B2O3、R2O、Ag2Oの組成比で重複するところがあるから、次の点で相違していると云える。
(イ)本件発明1では、ハロゲン族イオンを含有していないのに対し、甲1発明では、Ag+イオンをコロイドとしてガラス中に分散しかつAg+イオンのガラス中の残存率を高めるためにハロゲン族イオンを0.05〜2wt%含有している点(ロ)本件発明1では、SO3を0.01〜0.1重量%含有しているのに対し、甲1発明では、この成分を含有していない点
次に、これら相違点について他の証拠を検討すると、甲第2号証及び甲第3号証には、「抗菌性ガラス」と云える具体例が記載されているが、この具体例も、上記相違点(ロ)のSO3成分について何ら示唆するものではない。また、甲第4号証は、銀の添加によるガラスの黄着色に関するものであり、一方、本件発明1は、特許明細書の「実施例のいずれのガラスも抗菌作用が優れ、ガラスの着色はなく、金属Agの析出は全くないか、無視できる程度に少ない。」(特許公報第7頁左欄段落【0028】参照)という記載等から明らかなように、金属Agによるガラスの黄着色を防止するためのものであるから、甲第4号証がAg+イオンと金属Agの平衡関係について示唆する証拠であるとしても、本件発明1の上記相違点(ロ)のSO3の添加目的、すなわち特許明細書(特許公報第4頁左欄段落【0017】参照)に記載の如く、ガラスを酸化状態に保持してコロイド状あるいは金属Agの析出を防止するということを何ら示唆するものではなく、SO3の0.01〜0.1重量%という含有量すら何ら示唆するものではない。
また、甲第5号証について検討すると、この証拠も、基本的には、その「ソーダ・ライムガラスの溶融-清澄に関する酸化還元(REDOX)現象評価に対する実際的方法」という表題に示されているとおり、ソーダ・ライム系ガラスに関するものであり、ほうケイ酸塩系ガラスに関するものではない。また、本件発明1は、ほうケイ酸塩系抗菌性ガラスを酸化状態に保持してコロイド状あるいは金属Agの析出を防止するために、SO3を0.01〜0.1重量%含有させる点を構成とするものであるが、甲第5号証には、このSO3成分の具体的な作用効果についても何ら示唆されていない。
してみると、本件発明1の上記相違点(ロ)は、甲第2号証乃至甲第5号証には何ら示唆されていないと云えるから、当業者といえどこれら証拠からでは容易に想到することができないと云うべきである。
特許異議申立人は、甲第6号証の「証明書」と証人尋問申請書をも提出しているが、これら証拠方法で立証しようとする内容は、抗菌性ガラスを酸化状態に保持してコロイド状あるいは金属Agの析出を防止するために、SO3を0.01〜0.1重量%含有させることと直接的に関係する事項ではないから、たとえ証人尋問によって尋問事項に記載の内容が立証されたとしても、本件発明1の上記相違点(ロ)が容易に想到することができるとまでは云うことができないと認められる。
特に、尋問事項の「ガラス中のSO3」についてさらに言及するならば、甲第1号証乃至甲第3号証には、ガラス中にSO3が不純物として含有することを示唆する記載は一切ないから、たとえ証人尋問によって一般的なガラスにSO3が不純物として通常含有している事実が立証されたとしても、その事実は、あくまでSO3が一般的なガラスに不要な不純物として含有していることを示すに留まると云うべきであり、甲第1号証乃至甲第3号証に記載の特定の成分組成を有する「抗菌性ガラス」中に抗菌性ガラスを酸化状態に保持してコロイド状あるいは金属Agの析出を防止する働きを有する不純物として、0.01〜0.1重量%の範囲で含まれているものであることまで示すことは到底できないと云うべきである。
したがって、特許異議申立人の申請する上記証人尋問は、本件特許異議申立てにおいて、その必要性を認めることができないから、これを行わないこととする。
(2)本件発明2乃至6について
これら発明も、SO3を必須成分とする「抗菌性ガラス用組成物又は抗菌性ガラス繊維用組成物」に係るものであるから、上記(1)で言及したと同様の理由により、本件発明2乃至本件発明6は、甲第1号証乃至甲第5号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとすることができない。
4.むすび
以上のとおり、特許異議申立ての理由及び証拠方法によっては、本件発明1乃至6についての特許を取り消すことはできない。
また、他に本件発明1乃至6についての特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、特許法等の一部を改正する法律(平成6年法律第116号)附則第14条の規定に基づく、特許法等の一部を改正する法律の施行に伴う経過措置を定める政令(平成7年政令第205号)第4条第2項の規定により、上記のとおり決定する。
 
異議決定日 2002-11-21 
出願番号 特願平5-13625
審決分類 P 1 651・ 121- Y (C03C)
最終処分 維持  
前審関与審査官 ▲高崎▼ 久子  
特許庁審判長 沼沢 幸雄
特許庁審判官 岡田 和加子
後谷 陽一
登録日 2001-11-09 
登録番号 特許第3248279号(P3248279)
権利者 日本板硝子株式会社
発明の名称 抗菌性ガラス用組成物  
代理人 名嶋 明郎  
代理人 山本 文夫  
代理人 綿貫 達雄  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ