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審決分類 審判 訂正 2項進歩性 訂正する C10G
審判 訂正 4項(134条6項)独立特許用件 訂正する C10G
管理番号 1071155
審判番号 訂正2001-39221  
総通号数 39 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 1994-07-19 
種別 訂正の審決 
審判請求日 2001-12-07 
確定日 2002-11-08 
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第3001681号に関する訂正審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 特許第3001681号に係る明細書を本件審判請求書に添付された訂正明細書のとおり訂正することを認める。 
理由 I.手続の経緯

本件特許第3001681号の請求項1〜4に係る発明の出願は、平成3年7月29日に特許出願され、平成11年11月12日にその特許権の設定登録がなされ、その後、特許異議の申立てがなされ、取消しの理由が通知され、その指定期間内に訂正請求がなされ、平成13年8月30日付けで、「訂正を認める。請求項1〜4に係る特許を取り消す。」旨の異議決定がなされ、平成13年12月7日付けで本件審判請求がなされたのに対して、平成14年1月16日付けで訂正拒絶理由通知がなされ、その指定期間内に意見書が提出され、平成14年6月10日付けで訂正拒絶理由通知がなされ、その指定期間内に意見書が提出されたものである。

II.審判請求の要旨

本件審判請求の要旨は、本件特許の設定登録時の明細書を本件審判請求書に添付された訂正明細書のとおり、即ち、下記1〜2のとおりに訂正することを求めるものである。

1.訂正事項イ
特許請求の範囲の請求項3を
「沸点130〜400℃、芳香族分量1重量%以下、オレフィン分量2重量%以下、n-パラフィン分量3〜45重量%、iso-パラフィン分量5〜50重量%及びナフテン分量10〜45重量%の石油系溶剤からなり、かつアルミニウム箔の圧延油剤であることを特徴とする金属加工油剤。」
と訂正する。

2.訂正事項ロ
特許請求の範囲の請求項1〜4において、訂正前の請求項1、2及び4をいずれも削除し(ロ-1)、訂正前の請求項3を繰り上げて新たに請求項1と訂正する(ロ-2)。

III.当審の判断

1.訂正の目的の適否、新規事項の有無及び拡張・変更の存否

上記訂正事項イについて、訂正前の請求項3が訂正前の請求項1又は2の従属形式で記載されているところ、請求項1の要件を含む独立形式に書き換えたものであり、かつ、その「芳香族分量」についての「2重量%以下」を「1重量%以下」に、「ナフテン分量」についての「10〜70重量%」を「10〜45重量%」に、訂正するものであり、訂正前の特許明細書の段落【0007】に「芳香族分量が1重量%以下、・・・及びナフテン分量が30〜45重量%であることが好ましい。」と記載されているから、この訂正は、特許請求の範囲の減縮を目的とする明細書の訂正に該当し、願書に添付した明細書に記載した事項の範囲内であって、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
上記訂正事項ロについて、(ロ-1)は請求項の削除であるから、特許請求の範囲の減縮を目的とする明細書の訂正に該当し、(ロ-2)は請求項の削除にともなって請求項番号を繰り上げるものであるから、明りょうでない記載の釈明を目的とする明細書の訂正に該当するものであり、いずれも、願書に添付した明細書に記載した事項の範囲内であって、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

2.独立特許要件

(1)本件発明

訂正後の特許請求の範囲の請求項1に係る発明(以下、「本件発明」という。)は、その特許請求の範囲の請求項1に記載された次のとおりのものである。
「【請求項1】沸点130〜400℃、芳香族分量1重量%以下、オレフィン分量2重量%以下、n-パラフィン分量3〜45重量%、iso-パラフィン分量5〜50重量%及びナフテン分量10〜45重量%の石油系溶剤からなり、かつアルミニウム箔の圧延油剤であることを特徴とする金属加工油剤。」

(2)訂正拒絶理由通知の概要

平成14年1月16日付け訂正拒絶理由通知(「訂正拒絶理由通知1」とする。)は、本件発明は、刊行物1、2に記載された事項及び周知事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであって出願の際に独立して特許を受けることができないものであるから当該訂正は認められず、また、平成14年6月10日付け訂正拒絶理由通知(「訂正拒絶理由通知2」とする。)は、本件発明は、刊行物1〜6に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであって出願の際に独立して特許を受けることができないものであるから当該訂正は認められない、というものである。
そこで、これらの刊行物及びその記載事項について検討する。

(3)引用刊行物及びその記載事項

刊行物1:「アルミニウム用冷間圧延油」、潤滑、(社)日本潤滑学会、
(昭和54年2月15日)、第24巻第2号、第77〜82頁
刊行物2:「アルミニウム板圧延油の現状」、
軽金属学会研究部会報告書、
軽金属学会、(1985年)、No.14、第8〜13頁、
刊行物3:山田省二著
「日本化学会編産業化学シリーズ 石油と石油化学」
大日本図書株式会社、(昭和45年4月20日)、第63頁
刊行物4:「水素化改質基油の特徴について」
IDEMITSU TRIBO REVIEW トライボレビュー、
No.7-1983、
出光興産株式会社、(昭和58年11月)、
第739〜744頁
刊行物5:「テストミルによるアルミ箔圧延油の評価」、
塑性と加工(日本塑性加工学会誌)、(1987年7月)、
第28巻第318号、第739〜744頁
刊行物6:「機械油による皮膚障害の実験的研究」、労働科学、
(1975)、第51巻第9号、第525〜541頁

(上記刊行物1、2は、それぞれ訂正拒絶理由通知1、2における刊行物1、2であって、上記刊行物3〜6は、それぞれ訂正拒絶理由通知2における刊行物3〜6である。)

刊行物1は「アルミニウム用冷間圧延油」に関する文献であり、「アルミニウム冷間圧延は板圧延と箔圧延に大別される」旨(第77頁左欄1行)、「基油はすぐれた安定性と狭い沸点範囲を有することが要求されるので、厳選された原油から高度の水素化精製と精密蒸留工程をえて製造される」旨(第77頁左欄22〜25行)、記載され、表1は「基油の要求品質と性状」と題され、「粘度@37.8℃、cSt」の値が、板圧延油では粗圧延油が4.5〜5.5、仕上圧延油が2.5〜4.5、箔圧延油では粗圧延油が2.0〜3.0、仕上圧延油が1.5〜2.0と、それぞれ特定の粘度範囲が記載されているが、その沸点範囲や「CN+CA」の%やアルコアステインに関してはこれらの4種の圧延油に区別なく、沸点範囲は50℃以内、「CN+CA」は33%以下、アルコアステインは2以下である旨、記載されている。また、表3は「基油の組成とかっ色ステイン性」と題され、7種類の基油について記載されており、該表の最上段に記載されるパラフィン系基油(「パラフィン系基油1」とする。)についてみるに、粘度(cSt @ 37.8℃)が1.7、組成は%CPが71、%CNが13、%CAが16であり、蒸留性状(℃)が200〜250、アルコアステインテスト(343℃ 30分)が2である。また、該表の下から2段目のパラフィン系基油(「パラフィン系基油2」とする。)についてみるに、粘度(cSt @ 37.8℃)が3.8、組成は%CPが71、%CNが26、%CAが3であり、蒸留性状(℃)が260〜308、アルコアステインテスト(343℃ 30分)が1である。
さらに、同文献では他の種々のデータも解析し、これらの結果として、「基油中のナフテン及び芳香族炭化水素の含有量は33%以下がのぞましい」、「アルミニウム用冷間圧延油基油としては沸点が狭く、精製度の高いパラフィン基油がのぞましい」、「アルミニウム板や箔は食品包装材としての用途が広いので、基油についてもこうした用途において人体に対し高い安全性をもつことが要求されている。」(第79頁左欄4〜20行)と、記載され、また、「アルミニウム用冷間圧延油に要求される性能」は、「1)圧下性能がよく、油膜破断による起こるヘリングボン傷などの表面傷の発生がないこと。・・・6)人体に対する安全性の高いこと。」(第80頁右欄21〜28行)と記載されている。
刊行物2は「アルミニウム板圧延油の現状」に関する文献であり、基油の原料に関し、「基油の組成は原料となる原油組成が大きく影響する。すなわちパラフィン系原油を精製して得られた基油は、パラフィン系炭化水素を多く含有しナフテン系原油を精製して得られた基油はナフテン系炭化水素を多く含有する。したがって基油の組成を常に一定な状態で生産するには原油の選択が重要である。しかし現在では水素化分解装置、水素化改質装置が発達し、原油の組成によらず基油の組成を一定範囲内に制御しやすくなり、原油選択の範囲は、かってより広がりつつある。」(第10頁左欄下から7行〜右欄下から8行)と記載されている。
刊行物3には、特定の産地の原油として、沸点が異なる各種パラフィン、各種芳香族からなるものが例示されている(第63頁、図3.1)。
刊行物4には「水素化改質基油の特徴について」記載されるところ、「水素化分解法は過酷な運転条件下で潤滑油原料を化学的に分解し、炭化水素の構造までも変化させてしまうプロセス」であって、「原油の種類に関係なく、一定品質レベルの高品質な基油を供給できる」(第385頁左欄12〜17行)ものであり、「本稿では、このような興味ある特徴をもつ水素化改質油の製造フロー、品質、経済性などについて、溶剤精製基油と対比しながら紹介する」(第385頁左欄20〜22行)ものである。
また、「水素化分解法は・・・多環芳香族化合物を望ましい炭化水素骨格へと変換させたり、レジン質を分解除去してしまうプロセスである。」(第385頁右欄16〜22行)旨、「このような背景にあって、水素化分解法の大きな利点の一つに、原油に対するフレキシビリティの高いことが挙げられる。すなわち、原油の種類(原油を構成するパラフィン基、ナフテン基、芳香族基などの多寡による差異)にかかわらず、一定品質レベルの基油を製造できる強みがある。」(第385頁右欄下から7〜2行)旨、「過酷な水素化分解反応によって、分子骨格の変換を受けた基油は、表1に示す通り、色相や粘度指数の向上、窒素や硫黄分および不飽和成分(主として多環芳香族化合物であり、これらは%CAや臭素価で判断される)の低減が認められる」(第387頁左欄13〜17行)旨、記載され、表1には「精製法の違いによる基油の性状比較」が記載され「水素化改質基油」の「環分析」として「% CA 0、% CN 32.1、% CP 67.9」と記載されている。
刊行物5には「テストミルによるアルミ箔圧延油の評価」について記載され、「ヘリングボーンには大きく分けて、2種類の形態があることを見出した。一つは潤滑不足のヘリングボーンであり、他は潤滑過剰のヘリングボーンである。これらの表面損傷と圧延条件や潤滑油のタイプ等との関連について考察したので、以下にその結果を述べる。」(第739頁右欄下から6〜1行)とし、「ベースオイルの影響を調べる目的で、同一粘度で組成の異なるベースオイル基油A、基油Bを使用した。基油Aはパラフィン系のもので、基油Bはナフテン系のものである。」(第740頁右欄Table1の下1〜4行)とし、その結果「ナフテン系の基油Bを用いた方がヘリングボーンに関して良好であることがわかる。」(第742頁左欄Fig.4の下1〜3行)としている。
刊行物6には「機械油による皮膚障害の実験的研究」について記載され、具体的には「鉱油が切削油等の機械油として使用される場合に発生する皮膚炎について」(第539頁左欄14〜15行)考察され、「その障層作用が石油エーテル抽出分であるナフテン系を含むパラフィン系飽和炭化水素よりは、ベンゼン抽出分である芳香族系の化合物にその主要な原因を求めることが出来た」(第539頁左欄28〜32行)こと、「例えば、B-2とB-3との作用の差は明らかに水素化処理の差が皮膚障害の差を生ぜしめたものと考えられ」(第539頁左欄下から2行〜右欄1行)、「芳香族系の化合物も水素化処理によって、その皮膚障害作用が弱められるのかもしれないことをしめしている」(第539頁右欄11〜13行)と、記載されている。

(4)対比・判断

(4-1)本件発明と刊行物1に記載された発明との対比
刊行物1は、訂正拒絶理由通知1においても同2においても、第1引用例として引用されているところ、該刊行物には、アルミニウム用冷間圧延油として、厳選された原油から高度の水素化精製と精密蒸留工程をえて製造される旨、基油中のナフテン及び芳香族炭化水素の含有量は33%以下がのぞましい旨、精製度の高いパラフィン基油がのぞましい旨、ヘリングボン傷などの表面傷の発生がないこと、人体に対する安全性の高いことが記載され、また、該冷間圧延油は板圧延油と箔圧延油に大別され、それぞれが更に粗圧延油と仕上圧延油に区別されること、箔圧延油に要求される品質としては、その表1に、「粘度@37.8℃、cSt」の値が1.5〜3.0であること、沸点範囲は50℃以内、「CN+CA」は33%以下、アルコアステインは2以下であること等、箔圧延油に要求される品質・諸条件が列挙されているが、具体的に組成とともに記載されているのは、表3中の基油であり、これらの基油のうち、上記した箔圧延油に要求される品質を有するもの、即ち、粘度が1.5〜3.0の範囲にあり、沸点範囲が50℃以内でCN+CAが33%以下の基油は、「パラフィン系基油1」であるから、本件発明と刊行物1に記載された発明を対比させるとは、即ち、本件発明と該パラフィン系基油1とを対比させることである。
すると、本件発明のアルミニウム箔圧延油剤である金属加工油剤も上記パラフィン系基油1も、ともに沸点130〜400℃の石油系溶剤からなるアルミニウム箔の圧延油剤であって、オレフィン分量、パラフィン分量およびナフテン分量は重複しているから、本件発明は、「芳香族分量を1重量%以下」とした点で上記CA16%のパラフィン系基油1と相違する。

(4-2)該相違点について
そこで「芳香族分量が1重量%以下」について検討する。
刊行物1中に、芳香族分量が1重量%以下の箔圧延油が記載されていないことは言うまでもなく、刊行物2は主として板圧延油について記載される文献であり、基油について、刊行物1、2には、水素化改質装置が発達したため圧延油基油とするための原油の選択の範囲が広がった旨、人体に対する影響が少なく精製度が高くアロマ分の少ない基油が有効である旨の記載はあるが、基油中の芳香族分量が具体的にどの程度のものかについては、記載されていない。刊行物3には、原油には多種の組成のものがあることが記載されているが、基油中の芳香族分量については記載されていない。
刊行物5は箔圧延油について記載される文献であって、ヘリングボーンに関して考察されており、パラフィン系基油を用いるよりもナフテン系基油を用いた方がヘリングボーンに関して良好である旨の、刊行物1の記載とは反対の実験結果が提示されているが、基油中の芳香族分量については記載されていない。また、刊行物6には、切削油等の機械油において、芳香族分が不適当である旨の記載があるのみで、基油中の芳香族分量の範囲については記載されていない。
唯一、刊行物4の表1中の「水素化改質基油」について、「環分析」として「% CA 0、% CN 32.1、% CP 67.9」と記載されており、これは「芳香族分量が1重量%以下」に該当するものであるが、刊行物4は、水素化改質基油の精製フロー、水素化分解における反応、そこで得られた基油の品質、経済性等が記載された文献であって、表1中の「水素化改質基油」も、水素化改質を行うことによって、「溶剤精製基油(水素化仕上げ)」に比べて「色相や粘度指数の向上、窒素や硫黄分および不飽和成分(主として多環芳香族化合物であり、これらは% CAや臭素価で判断される)の低減が認められる」として掲載されているのであって、該水素化改質基油が圧延油に適することや、ましてや、箔圧延油に適することは記載も示唆もされていない。そして、水素化改質を行うことによって、芳香族分が原油よりも減少することは明らかと言えるものの、どの程度まで減少するかは水素化分解の運転条件によって決定されるべきことである以上、本件訂正特許明細書の段落【0004】、【0005】、【0008】に、本件発明においても水素化改質基油は好ましい基油と記載されていても、水素化改質基油として、刊行物4の表1に記載の基油を選択するのが容易であるとすることはできない。
そうしてみると、刊行物1の記載から「芳香族分を1重量%以下」にする点を導くことはできないばかりでなく、刊行物1〜6の記載及び周知事項を合わせ考慮しても、この点を導くことはできない。

(4-3)本件発明の効果について
本件発明は、「芳香族分量が1重量%以下」という要件を満たし、さらにオレフィン分量、n-パラフィン分量、iso-パラフィン分量及びナフテン分量を特定範囲のものとし、そのような石油系溶剤をアルミニウム箔の圧延油剤としたことにより、本件訂正後の特許明細書の応用例1〜6に記載されるように、箔圧延に適し、ヘリングボーンを発生せず、無臭である、という作用効果を奏するものである。
なお、訂正拒絶理由通知2において、芳香族分を低減させて無臭で人体に害のないものが得られることは当業者の予測の範囲内であり、また、本件訂正後の特許明細書の第1表の組成とその効果との関係について、刊行物5に記載された「パラフィン系基油よりも、ナフテン系基油を用いた方が、ヘリングボーンに関して良好である」という観点からみても、ヘリングボーンに関する効果の予測はできる旨の通知をしたところ、特許権者は平成14年8月12日付け意見書第8〜10頁において、比較実験結果を提出した。これによると、本件発明においては、ナフテン分の増加はヘリングボーンの発生にほとんど影響を及ぼさないが芳香族分の増加はヘリングボーンを発生しやすくなることが認められる。
そうしてみると、本件訂正後の特許明細書の応用例中に挙げられているヘリングボーンの有無に関する優劣は、芳香族分の多少によるものと認められ、このようなことは刊行物1〜6の記載及び周知事項を勘案しても、当業者の予測しうるものとは認められない。

(5)結論
以上のとおりであるから、本件発明は、刊行物1〜6に記載された発明に基づき更に周知事項を合わせ考慮しても、当業者が容易に発明をすることができたものとすることはできない。
また、他に本件発明が特許出願の際、独立して特許を受けることができないとする理由を発見しない。
したがって、本件発明は、特許出願の際独立して特許を受けることができるものである。

IV.むすび

以上のとおりであるから、本件審判の請求は、特許法等の一部を改正する法律(平成6年法律第116号)附則第6条第1項の規定によりなお従前の例によるとされる、同法による改正前の特許法第126条第1項第1ないし3号に掲げる事項を目的とし、かつ、同条第1項ただし書、第2項及び第3項の規定に適合する。

よって、結論のとおり審決する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
金属加工油剤及び金属加工油剤の製造方法
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】 沸点130〜400℃,芳香族分量1重量%以下,オレフィン分量2重量%以下,n-パラフィン分量3〜45重量%,iso-パラフィン分量5〜50重量%及びナフテン分量10〜45重量%の石油系溶剤からなり、アルミニウム箔の圧延油剤であることを特徴とする金属加工油剤。
【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】
本発明は金属加工油剤及び金属加工油剤の製造方法に関し、詳しくは低コストで収率が高く、しかも芳香族分の含有率が低く無臭ないし低臭性である金属加工油剤及び金属加工油剤の効率のよい製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術及び発明が解決しようとする課題】
従来、石油系溶剤の製造方法としては、例えば、溶剤抽出と蒸留と組み合わせる方法があるが、有効成分の得率が低く実用的ではなかった。また、比較的低圧で水素化し、これと蒸留等とを組み合わせる方法(特開昭63-15889号公報)も提案されているが、芳香族分の含有率が高く臭気が残るという問題があった。さらに、二段水素化処理による方法(特開平3-56591号公報)では、処理プロセスが複雑でコストが高く実用性に欠ける問題があった。
そこで、本発明者らは、上記方法の欠点を解消して、低コストで収率が高く、かつ芳香族分の含量が少なく、無臭ないし低臭性であって、しかも金属加工性がよい金属加工油剤、及びその金属加工油剤を効率よく製造することができる方法を開発すべく鋭意研究を重ねた。
【0003】
【課題を解決するための手段】
その結果、原料として沸点130〜400℃の石油留分を用いるとともに、水素化処理の条件を、温度130〜400℃及び圧力130〜400kg/cm2・Gに設定することにより、上記目的を達成できることを見出した。本発明はかかる知見に基づいて完成したものである。
【0004】
すなわち、本発明は、沸点が130〜400℃、芳香族分量が2重量%以下、オレフィン分量が2重量%以下、n-パラフィン分量が3〜45重量%、iso-パラフィン分量が5〜50重量%及びナフテン分量が10〜70重量%の石油系溶剤からなる金属加工油剤を提供するものである。
また、本発明は、沸点130〜400℃の石油留分を、水素化触媒の存在下、温度130〜400℃及び圧力130〜400kg/cm2・Gで水素化処理した石油系溶剤からなる金属加工油剤の製造方法を提供するものである。
【0005】
本発明で用いる原料である沸点130〜400℃の石油留分は、種々のものがあり、また様々の方法で得ることができる。例えば、石油系炭化水素を700℃以上で熱分解して得られる沸点200℃以下(130℃以上)の熱分解副生油、あるいは石油系炭化水素を水素化触媒の存在下で水素化分解して得られる沸点130〜400℃の範囲の水素化分解油等が挙げられる。
また、本発明で用いられる水素化触媒は、従来公知の水素化触媒、とりわけ芳香族分を水素化する触媒であればよく、特に制限されるものではない。具体的には、アルミナ,シリカアルミナ,結晶性アルミノシリケート,ゼオライト,活性炭等の担体上に、周期律表の第VIA族,第VIII族に属する金属元素及びその酸化物や硫化物などの中から選ばれた少なくとも1種の成分を担持したものが挙げられる。ここで、第VIA族金属としてはクロム,モリブデン,タングステン等、第VIII族金属としては鉄,コバルト,ニッケル,ルテニウム,ロジウム,パラジウム,銀,オスニウム,イリジウム,白金等が挙げられ、この中で好ましいものとしてはコバルト,ニッケルが挙げられる。
なお、担体に金属成分等を担持するなどの触媒の調製方法としては、従来公知の手法によればよい。
【0006】
さらに、本発明における水素化処理は、上記の水素化触媒下で、反応温度は130〜400℃、好ましくは200〜350℃で行われる。ここで、反応温度が130℃未満の場合は水素化反応が充分に進行せず、400℃を超えると分解等の副反応が起こり、芳香族分量,オレフィン分量が増加する傾向にあり好ましくない。また、この水素化処理における反応圧力は130〜400kg/cm2・G、好ましくは170〜230kg/cm2・Gである。ここで、130kg/cm2・G未満では水素化が充分に行えず、400kg/cm2・Gを超えると分解,異性化等の副反応が生じ好ましくない。このときの液時空間速度(LHSV)は、通常0.1〜10hr-1、好ましくは0.1〜5hr-1である。
本発明において目的とする金属加工油剤は、上記石油留分を原料に用い、これに前記条件下で水素化処理を施すことによって得ることができる。また、水素化処理の後に精密蒸留を行ってもよい。この精密蒸留は、石油留分を公知の精密蒸留装置により、沸点差を利用して蒸留分離するものである。なお、この精密蒸留は場合によっては、水素化処理に先立って行うことも可能である。さらに、通常の蒸留操作を行うこともできる。
【0007】
本発明の金属加工油剤は、オレイン酸及びオレイルアルコールを含有していても良く、芳香族分量が1重量%以下、オレフィン分量が1重量%以下、n-パラフィン分量が10〜30重量%、iso-パラフィン分量が15〜45重量%、及びナフテン分量が30〜45重量%であることが好ましい。また、金属加工油剤の色相(セイボルト)は+30以上であることが好ましい。この金属加工油剤は、アルミニウム箔の圧延油剤に適している。
【0008】
【実施例】
次に、本発明を実施例及び比較例によりさらに詳しく説明する。
実施例1
混合基油(クウェート原油)を常圧で蒸留することにより得られた沸点範囲150〜250℃の灯油留分(パラフィン64重量%,ナフテン22重量%及び芳香族分12重量%)を水素化処理した。この水素化処理は、芳香族の水素化と脱硫化を目的としたもので、温度300℃,圧力210kg/cm2・G,液時空間速度1hr-1の条件において、シリカ-アルミナ担体のニッケル-タングステン触媒を用いた。
次いで、得られた反応液を精密蒸留装置を用いて蒸留し、沸点200〜250℃の留分を金属加工油剤である溶剤留分とした。
【0009】
比較例1
水素化処理を第1表に示した条件で行ったこと以外は、実施例1と同様に反応を行った。得られた溶剤の性状を第1表に示す。
【0010】
比較例2
水素化処理を行わなかったこと以外、実施例1と同様の条件で蒸留を行った。得られた溶剤の性状を第1表に示す。
【0011】
【表1】

【0012】
応用例1〜3
上記実施例1,比較例1及び比較例2で得られた溶剤を用いて、アルミニウム箔圧延実験を以下の条件で行った。
条件
圧延機: 4重式圧延機
バックアップロール径 :136mm
ワークロール径 :40mm
ワークロール粗度 :Rmax 0.2μm
ワークロールクラウン :0.02mm
圧延速度 :100m/分
前方張力 :6kgf
後方張力 :18kgf
圧下力 :3トン,5トン,8トン
圧延材: 純アルミニウム(純度99.6%)
0.10mm(厚さ)×60mm(幅)のコイル
圧延油:
応用例1:実施例1で得られた溶剤にオレイン酸0.2重量%及びオレイルアルコール0.6重量%を配合したもの
応用例2:比較例1で得られた溶剤にオレイン酸0.2重量%及びオレイルアルコール0.6重量%を配合したもの
応用例3:比較例2で得られた溶剤にオレイン酸0.2重量%及びオレイルアルコール0.6重量%を配合したもの
上記アルミニウム箔圧延実験で得られた結果を第2表に示す。
【0013】
【表2】


【0014】
応用例4
上記実施例1で得られた溶剤を用いて、芳香性実験を以下の条件で行った。
応用例5
上記比較例1で得られた溶剤を用いて、芳香性実験を以下の条件で行った。
応用例6
上記比較例2で得られた溶剤を用いて、芳香性実験を以下の条件で行った。
条件
室温25℃,湿度30%に制御された室温において、通常は石油留分を扱わない女性10名を対象に、臭気のないあるいは好ましい臭いの場合には10点(満点)とし、好ましくない臭いの場合にはその程度に応じて点数を減じる方法を採用して、実施例1,比較例1及び比較例2で得られた溶剤の比較を行った。
上記芳香性実験で得られた結果を第3表に示す。
【0015】
【表3】

【0016】
【発明の効果】
以上の如く、本発明の方法によれば、低コスト及び高収率で金属加工油剤を製造することができ、得られた金属加工油剤は芳香族の含有率が低く無臭であり、アルミニウム圧延油,抽伸油,絞り油,放電加工油,切削油,研削油に適しており、幅広く有効な利用が期待される。
 
訂正の要旨 1.訂正事項イ
特許請求の範囲の請求項3を
「沸点130〜400℃、芳香族分量1重量%以下、オレフィン分量2重量%以下、n-パラフィン分量3〜45重量%、iso-パラフィン分量5〜50重量%及びナフテン分量10〜45重量%の石油系溶剤からなり、かつアルミニウム箔の圧延油剤であることを特徴とする金属加工油剤。」
と訂正する。
2.訂正事項ロ
特許請求の範囲の請求項1〜4において、訂正前の請求項1、2及び4をいずれも削除し、訂正前の請求項3を繰り上げて新たに請求項1と訂正する。
審決日 2002-10-29 
出願番号 特願平3-188632
審決分類 P 1 41・ 856- Y (C10G)
P 1 41・ 121- Y (C10G)
最終処分 成立  
前審関与審査官 佐藤 修  
特許庁審判長 板橋 一隆
特許庁審判官 後藤 圭次
西川 和子
登録日 1999-11-12 
登録番号 特許第3001681号(P3001681)
発明の名称 金属加工油剤及び金属加工油剤の製造方法  
代理人 東平 正道  
代理人 東平 正道  
代理人 大谷 保  
代理人 大谷 保  

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