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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 C12Q
管理番号 1071653
審判番号 不服2000-14398  
総通号数 39 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 1994-10-13 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2000-09-08 
確定日 2003-02-05 
事件の表示 平成 5年特許願第502253号「ヒト血小板膜糖蛋白質IIIaのPen多型性並びにその診断及び治療上の応用」拒絶査定に対する審判事件[平成 5年 1月21日国際公開、WO93/01315、平成 6年10月13日国内公表、特表平 6-508993]について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由
【1】手続の経緯・本願発明

本願は、平成4年7月1日(パリ条約による優先権主張、1991年7月1日、米国)を国際出願日とする出願であって、その請求項1〜12に係る発明は、平成10年7月17日付手続補正書によって補正された明細書の特許請求の範囲1〜12に記載されたとおりの、次のものである(以下、これらを順に各々「発明1〜12」という)。


1. (A)ある個体のヒト血小板のcDNAまたはゲノムDNAを得る段階、
(B)段階(A)のcDNAまたはゲノムDNAを、糖タンパク質GPIIIacDNAの位置526のヌクレオチドを有するPen対立遺伝子ヌクレオチド配列を含むように増幅させて、増幅DNAを生成させる段階、および
(C)段階(B)の増幅DNAを、第1Pen対立遺伝子ヌクレオチド配列と第2Pen対立遺伝子ヌクレオチド配列とを区別する方法により分析する段階を含み、但し上記第1および第2Pen対立遺伝子ヌクレオチド配列は糖タンパク質GPIIIacDNAの位置526において相互に相違している、
上記個体が有する糖タンパク質GPIIIaの血小板Penアロ抗原の型を決定する方法。

2. 段階(B)の増幅DNAが、ある条件下において上記第1Pen対立遺伝子ヌクレオチド配列とはハイブリダイズするが上記条件下において第2Pen対立遺伝子ヌクレオチド配列とはハイブリダイズしない標識された対立遺伝子特異的オリゴヌクレオチドと、ハイブリダイズするかどうか試験することにより段階(C)を行う、但し上記第1および第2Pen対立遺伝子ヌクレオチド配列は糖タンパク質GPIIIacDNAの位置526において相互に相違している、請求項1に記載の方法。

3. 上記標識された対立遺伝子特異的オリゴヌクレオチドが、糖タンパク質GPIIIacDNAの位置526においてグアニンを有するPen対立遺伝子ヌクレオチド配列を含む段階(B)の増幅DNAとハイブリダイズする請求項2に記載の方法。

4. 上記標識された対立遺伝子特異的オリゴヌクレオチドが、糖タンパク質GPIIIacDNAの位置526においてグアニンを有するPen対立遺伝子ヌクレオチド配列を含む段階(B)の増幅DNAとハイブリダイズする請求項2に記載の方法。

5. 上記標識された対立遺伝子特異的オリゴヌクレオチドが、長さにおいて塩基10から30である請求項2ないし4のいずれかに記載の方法。

6. (C1)段階(B)の増幅DNAを一対のオリゴヌクレオチドとハイブリダイズさせて構築物を作製し、但し、上記オリゴヌクレオチド対の第1オリゴヌクレオチドは第1ラベルにより標識され、上記オリゴヌクレオチド対の第2オリゴヌクレオチドは第2ラベルにより標識され、上記第1ラベルは上記第2ラベルと識別可能であり、上記二つの標識されたオリゴヌクレオチドは糖タンパク質GPIIIacDNAの位置526において相互に隣接して上記増幅DNAととハイブリダイスすることができ、および糖タンパク質GPIIIacDNAの位置526におけるヌクレオチドが第1Pen対立遺伝子ヌクレオチド配列と第2Pen対立遺伝子ヌクレオチド配列とで相違している、次いで
(C2)上記構築物を反応媒体中にてリガーゼと反応させ、次に
(C3)上記反応媒体を分析して上記第1オリゴヌクレオチドと上記第2
オリゴヌクレオチドを有する連結産物の存在を検出する、
ことにより段階(C)を行う請求項1に記載の方法。

7. ある条件下において第1Pen対立遺伝子ヌクレオチド配列とはハイブリダイズするが上記条件下において第2Pen対立遺伝子ヌクレオチド配列とはハイブリダイズしない、但し、上記第1および第2Pen対立遺伝子ヌクレオチド配列はある個人のヒト血小板のcDNAまたはゲノムDNAを糖タンパク質GPIIIacDNAの位置526のヌクレオチドを有するPen対立遺伝子ヌクレオチド配列を含むように増幅させることにより得られた増幅DNA中に含まれていて、上記第1および第2Pen対立遺伝子ヌクレオチド配列は糖タンパク質GPIIIacDNAの位置526において相互に相違している、上記個体が有する糖タンパク質GPIIIaの血小板Penアロ抗原の型を決定するための標識された対立遺伝子特異的オリゴヌクレオチド。

8. 糖タンパク質GPIIIacDNAの位置526においてグアニンを有するPen対立遺伝子ヌクレオチド配列を含む増幅DNAとハイブリダイズする請求項7に記載の標識された対立遺伝子特異的オリゴヌクレオチド。

9. 糖タンパク質GPIIIacDNAの位置526においてアデニンを有するPen対立遺伝子ヌクレオチド配列を含む増幅DNAとハイブリダイズする請求項7に記載の標識された対立遺伝子特異的オリゴヌクレオチド。

10. 長さにおいて塩基10から30である請求項7ないし9のいずれかに記載の標識された対立遺伝子特異的オリゴヌクレオチド。

11.ある個体が有する糖タンパク質GPIIIaの血小板Penアロ抗原の型を決定するための一対のオリゴヌクレオチドであって、上記対のオリゴヌクレオチドは上記個人のヒト血小板のcDNAまたはゲノムDNAを糖タンパク質GPIIIacDNAの位置526のヌクレオチドを有するPen対立遺伝子ヌクレオチド配列を含むように増幅させることにより得られた増幅DNAとハイブリダイズし、位置526の上記ヌクレオチドは第1Pen対立遺伝子ヌクレオチド配列と第2Pen対立遺伝子ヌクレオチド配列とで相違し、上記オリゴヌクレオチド対の第1オリゴヌクレオチドは第1ラベルにより標識され、上記オリゴヌクレオチド対の第2オリゴヌクレオチドは第2ラベルにより標識され、上記第1ラベルは上記第2ラベルと識別可能であり、上記二つの標識されたオリゴヌクレオチドは糖タンパク質GPIIIacDNAの位置526において相互に隣接して上記増幅DNAとハイブリダイズすることができる、上記一対のオリゴヌクレオチド。

12. 請求項7ないし10に記載のいずれかに記載のオリゴヌクレオチドの溶液をを収容する容器を備えている、ある個体が有する糖タンパク質GPIIIaの血小板P1Aアロ抗原の型を決定するためのキット。 」


【2】引用刊行物記載の発明

これに対し、原査定の拒絶の理由に引用され本願の出願前に頒布された文献1〜5には、各々以下の事項が記載されている。

[1]文献1:国際公開第90/12593号パンフレット

[1-1] 以下の(1)〜(10)の事項について記載されている。
(参照文献として挙げる、特許第3222679号公報(文献1に係る特許出願の対応日本出願である特願平2-506829号の特許公報)中の、例えば第1頁〜第2頁「【特許請求の範囲】」の欄も参照されたい。)

(1) (A)ある個体のヒト血小板のcDNAまたはゲノムDNAを得る段階、(B)段階(A)のcDNAまたはゲノムDNAを、糖タンパク質GPIII a cDNAの位置196のヌクレオチドを有するPlA対立遺伝子ヌクレオチド配列を含むように増幅させて、増幅DNAを生成させる段階、および(C)段階(B)の増幅DNAを、第1PlA対立遺伝子ヌクレオチド配列と第2PlA対立遺伝子ヌクレオチド配列とを区別する方法により分析する段階を含み、但し上記第1および第2PlA対立遺伝子ヌクレオチド配列は糖タンパク質GP III a cDNAの位置196において相互に相違している、上記個体が有する糖タンパク質GP III aの血小板PlAアロ抗原の型を決定する方法。
(2) 段階(B)の増幅DNAが、ある条件下において第1PlA対立遺伝子ヌクレオチド配列とはハイブリダイズするが上記条件において第2PlA対立遺伝子ヌクレオチド配列とはハイブリダイズしない標識された対立遺伝子特異的オリゴヌクレオチドと、ハイブリダイズするかどうか試験することにより段階(C)を行う、但し上記第1および第2PlA対立遺伝子ヌクレオチド配列は糖タンパク質GP III a cDNAの位置196において相互に相違している、上記(1)に記載の方法。
(3) 上記標識された対立遺伝子特異的オリゴヌクレオチドが、糖タンパク質GP III a cDNAの位置196においてシトシンを有するPlA対立遺伝子ヌクレオチド配列を含む段階(B)の増幅DNAとハイブリダイズする、上記(2)に記載の方法。
(4) 上記標識された対立遺伝子特異的オリゴヌクレオチドが、糖タンパク質GP III a cDNAの位置196においてチミジンを有するPlA対立遺伝子ヌクレオチド配列を含む段階(B)の増幅DNAとハイブリダイズする、上記(2)に記載の方法。
(5) (C1)段階(B)の増幅DNAを一対のオリゴヌクレオチドとハイブリダイズさせて構築物を作製し、但し、上記オリゴヌクレオチド対の第1オリゴヌクレオチドは第1ラベルにより標識され、上記オリゴヌクレオチド対の第2オリゴヌクレオチドは第2ラベルにより標識され、上記第1ラベルは上記第2ラベルと識別可能であり、上記二つの標識されたオリゴヌクレオチドは糖タンパク質GP III a cDNAの位置196において相互に隣接して上記増幅DNAとハイブリダイズすることができ、および糖タンパク質GP III a cDNAの位置196におけるヌクレオチドが第1PlA対立遺伝子ヌクレオチド配列と第2PlA対立遺伝子ヌクレオチド配列とで相違している、次いで(C2)上記構築物を反応媒体中にてリガーゼと反応させ、次に(C3)上記反応媒体を分析して上記第1オリゴヌクレオチドと上記第2オリゴヌクレオチドを有する連結産物の存在を検出する、ことにより段階(C)を行う、上記(1)に記載の方法。
(6) ある条件下において第1PlA対立遺伝子ヌクレオチド配列とはハイブリダイズするが上記条件下において第2PlA対立遺伝子ヌクレオチド配列とはハイブリダイズしない、但し、上記第1または第2PlA対立遺伝子ヌクレオチド配列はある個人のヒト血小板のcDNAまたはゲノムDNAを糖タンパク質GP III a cDNAの位置196のヌクレオチドを有するPlA対立遺伝子ヌクレオチド配列を含むように増幅させることにより得られた増幅DNA中に含まれていて、上記第1および第2PlA対立遺伝子ヌクレオチド配列は糖タンパク質GP III a cDNAの位置196において相互に相違している、上記個体が有する糖タンパク質GP III aの血小板PlAアロ抗原の型を決定するための標識された対立遺伝子特異的オリゴヌクレオチド。
(7) 糖タンパク質GP III a cDNAの部位196においてシトシンを有するPlA対立遺伝子ヌクレオチド配列を含む増幅DNAとハイブリダイズする、上記(6)に記載の標識された対立遺伝子特異的オリゴヌクレオチド。
(8) 糖タンパク質GP III a cDNAの位置196においてチミジンを有するPlA対立遺伝子ヌクレオチド配列を含む増幅DNAとハイブリダイズする、上記(6)に記載の標識された対立遺伝子特異的オリゴヌクレオチド。
(9) ある個体が有する糖タンパク質GP III aの血小板PlAアロ抗原の型を決定するための一対のオリゴヌクレオチドであって、上記対のオリゴヌクレオチドは上記個人のヒト血小板のcDNAまたはゲノムDNAを糖タンパク質GP III a cDNAの位置196のヌクレオチドを有するPlA対立遺伝子ヌクレオチド配列を含むように増幅させることにより得られた増幅DNAとハイブリダイズし、位置196の上記ヌクレオチドは第1PlA対立遺伝子ヌクレオチド配列と第2PlA対立遺伝子ヌクレオチド配列とで相違し、上記オリゴヌクレオチド対の第1オリゴヌクレオチドは第1ラベルにより標識され、上記オリゴヌクレオチド対の第2オリゴヌクレオチドは第2ラベルにより標識され、上記第1ラベルは上記第2ラベルと識別可能であり、上記二つの標識されたオリゴヌクレオチドは糖タンパク質GPIII a cDNAの位置196において相互に隣接して上記増幅DNAとハイブリダイズすることができる、上記一対のオリゴヌクレオチド。
(10) 上記(6)ないし(8)のいずれかに記載のオリゴヌクレオチドの溶液を収容する容器を備えている、ある個体が有する糖タンパク質GP III aの血小板PlAアロ抗原の型を決定するためのキット。

[1-2] また、オリゴヌクレオチドプローブ分子の塩基長を約20とすることも記載されている(claim2・4)。

[1-3] そして具体的には、ヒト血小板mRNAから、既知のGPIIIa配列を基に作製したプライマーを用いたPCR法によりP1A遺伝子変異が存在すると予想されるcDNAフラグメントを増幅し、当該増幅したcDNAフラグメントを解析してP1A多型の決定部位がGPIIIa遺伝子の塩基配列上196番目であることを検出したことが記載されている(p.17-21のExample 1-3)。

[2]文献2:J.Clin.Invest., (Dec.1987)80 p.1624-1630

Pena(本願各発明にいうPenアロ抗原と同義と認められる。以下Penという)多型の抗原決定基がヒト血小板膜糖タンパク質GPIIIa上に存在すること、及び当該Penアロ抗原決定基は同じGPIIIa上にあってもP1Aアロ抗原決定基とは別のものであることが記載されている(例えばAbstractの項参照)。

[3]文献3:Vox Sang., (1986)51 p.334-336

Yuk(例えば文献2p.1624右欄第32〜34行に記載されているように、Pena=Yukb、Penb=Yuka である。以下Penという)アロ抗原がヒト血小板GPIIb/IIIa複合体上に存在すること、及び当該Penアロ抗原はZwa(P1A1)アロ抗原(文献1,2のP1Aアロ抗原と同一と認められる)とは異なるものであることが示唆されている(例えばAbstractの項参照)。

[4]文献4:Blood, (Aug.1988)72(2) p.593-600

血小板の前駆細胞である巨核球に特有なタンパクを発現するヒト赤白血病(HEL)細胞由来のcDNAライブラリーから、ヒト血小板GPIIIaフラグメント配列を基に作製されたプローブを用いてGPIIIa膜タンパクの全長cDNAをクローニングしたことが、当該cDNAの塩基配列・推定アミノ酸配列とともに記載されている(塩基配列・アミノ酸配列はFig.3)。

[5]文献5:J.Biol.Chem., (25 Mar.1987)262(9) p.3936-3939

ヒト臍静脈内皮細胞cDNAライブラリーから、ヒト血小板GPIIIaフラグメント配列を基に作製されたプローブを用いてGPIIIa膜タンパクの全長cDNAをクローニングしたことが、当該cDNAの塩基配列・推定アミノ酸配列とともに記載されている(塩基配列・アミノ酸配列はFig.2・Fig.4)。


【3】対比・判断

[1]発明1について

(1) 発明1と文献1記載の発明における上記【2】[1][1-1](1)に係る事項を対比するに、発明1は、決定対象となるアロ抗原の型がP1A多型ではなくPen多型である点、即ち、GPIIIacDNA上の第1-第2対立遺伝子ヌクレオチド間の相違位置が、196ではなく526である点、で相違しており、その余の点では共通している。
しかしながら、ヒト血小板GPIIb/IIIa上に(P1A多型と異なる)2つのPenアロ抗原(多型)も存在することは、文献2,3にも記載されているように本願優先日前周知であり、当該Penアロ抗原がGPIIIa上に存在することも、文献2に記載されるように本願優先日前当業者にとり広く知られているところである。
そして、P1A多型及びPen多型は、GPIIIa上の多型という点に於いて共通するものである。
してみれば、文献1記載のP1A多型にかえて、文献2,3の記載に基づきPen多型をターゲットとして、文献1の上記【2】[1][1-3]の記載におけると同様の手法によりPen多型の位置を決定することは、当業者が容易に想到し得たことであるし、またその際、文献4,5記載のGPIIIacDNA塩基配列情報を利用することもまた、当業者にとり通常なし得る創作能力の発揮に過ぎない。
そして、そうすることにより奏される効果が、当業者に予想されるところを超えて優れたものであるともいえない。

(2)
請求人は、平成12年10月6日付手続補正書(平成12年9月8日付審判請求書の理由の補充書と認められる。以下理由補充書という)において、多型の要因としては塩基配列の相違の他、付加される糖の相違、糖又はアミノ酸に結合する糖以外の基による修飾の有無、修飾位置の相違、基の相違、基の数の相違、等も考慮されるべきであるから、遺伝子変異が多型の原因の代表例であるとの原査定での審査官の見解は多型全般に通用するものではなく、現実のGPIIIa上のPenアロ抗原における多型の原因の予測を科学的根拠に基づいて決定づけるものではない、という旨主張している(例えば、理由補充書の表紙から数えて第4頁第2〜15行)。
しかしながら、遺伝子多型は多型のタイプとして主要なものであると認められるし、かつ少なくとも塩基配列(遺伝子)レベルでの多型の解析について、しかも同じGPIIIa上の他の多型であるPIA多型について文献1記載のとおり本願優先日前詳細に知られていたことをも考慮すれば、Pen多型についてもPIA多型と同様に遺伝子多型である可能性を考慮し、まず各Pen多型表現型個体由来のGPIIIaを遺伝子配列について比較・解析を行うことは、当業者にとり当然に試み得た解析方向である。そして、かかる解析方向が当業者に当然に想到し得たことである以上、当該試みにより、Pen多型が塩基配列上の一点のみの変位に基づくもの(いわゆる一塩基多型(SNP))である旨見出されたことについても、そのこと自体は上記解析方向に基づき解析した結果として明らかになる事項に過ぎない。
よって、請求人の上記主張を参酌しても、Pen多型を構成する部位が塩基562位であることを見出すこと自体、当業者にとり予想外の困難性を伴う作業であったということはできない。

なお、GPIIIa上のYuk(Pen)アロ抗原エピトープの位置が、GPIIIaをキモトリプシン消化して得られるタンパクフラグメント群のうち、PIA抗原エピトープが存在する約68kdのフラグメント上にではなく、約30kdのタンパクフラグメント上に存在するであろうことも、本願優先日前に頒布された刊行物である
・Vox Sang., (1987)53 p.48-51
に示唆されていることでもあり、かかる情報を併せて考慮すれば、Pen多型の位置を決定することは当業者にとり一層容易であったと考えられる。

(3)
そして、発明1は多型の決定方法に関するものであるところ、Pen多型個体の識別が本願優先日前周知の課題であることは文献2,3からみても明らかであることから、Pen多型の原因が一塩基多型である可能性が予測される場合、Pen多型の決定方法をかかる予測に基き構成されたプローブによるハイブリダイゼーション検定で行うことが、同じGPIIIaのPIAにおける型決定・識別(文献1参照)におけると同様、当業者にとり容易になし得ることは、既に(1)で述べたとおりである。また、多型に基づいた塩基配列のプローブを用いたハイブリダイゼーション試験を行えば、条件次第で多型の識別が可能であること自体、当業者にとり予測し得たことでもある。
よって、「多型の原因を解明する上でのある1つの実験操作が容易であることを理由に本願発明の進歩性を否定するのは、論理付けの過程において飛躍がある」とする請求人の主張(理由補充書の表紙から数えて第4頁第21〜25行)もまた、認容できるものとはいえない。

(4)
なお、当審において審尋を発し、

・本願優先日前Pen多型が一塩基多型に基づかないことを予測させる文献等の何等かの阻害要因を示す事実や、あるいは、それ以外にもGPIIIa上の塩基562位の多型を見出す際に予想外の技術的困難性が存在した事実があれば、その点を立証されたい。
・もしくは、多型の解析を試みること自体は容易であっても、本願発明が格別顕著な効果を奏し得るものであれば、要すれば具体的な実験データや文献を提出し説明されたい。

等の要請をしたが、請求人からは何の回答もされなかった。

(5)
(1)〜(4)から、発明1は、文献1〜5の記載に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。


[2]発明2、6、7、11について

発明2は、文献1の記載(上記【2】[1])中の[1-1](2)に、発明6は同[1-1](5)に、発明7は同[1-1](6)に、発明11は同[1-1](9)に、各々対応する。そして、本願各発明のいずれの場合においても、決定対象となるアロ抗原の型がP1A多型ではなくPen多型である点、即ち、GPIIIacDNA上の第1-第2対立遺伝子ヌクレオチド間の相違位置が、196ではなく526である点、で文献1と相違しており、その余の点では共通している。
よって、上の[1](1)〜(5)で述べたと同様の理由により、いずれの発明についても、文献1〜5の記載に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

[3]発明3、4、8、9について

[3-1] 発明3は、本願発明2におけるGPIIIacDNAの位置526の塩基をグアニンに、発明4は同位置526の塩基をアデニンに、各々特定したものであるところ、同526位におけるPenアロ抗原多型決定部位の塩基の変異の検出が文献1〜5の記載に基づき容易であることは[1]、[2]で述べたとおりである以上、上記検出の結果得られる、現実に同多型の差異を構成する塩基の組み合わせであるグアニン/アデニンのいずれかを、同526位の塩基として採用することもまた、当業者にとり当然なし得た塩基の選択に過ぎない。
その余の点については、上の[1](1)〜(5)及び[2]で述べたと同様である。
また、塩基を各々上のように特定して採用したことにより奏される効果が予想外の優れたものであることも確認できない。

[3-2] 発明8は、発明7におけるGPIIIacDNAの位置526の塩基をグアニンに、発明9は同位置526の塩基をアデニンに、各々特定したものであるから、上の[3-1]で述べたと同様の理由により、いずれも文献1〜5の記載に基づき当業者が容易に発明をすることができたものである。

[4]発明5、10について

標識して用いるオリゴヌクレオチドプローブの塩基長を10〜30程度とすることは、上記【2】[1][1-2]の文献1における記載に例示されるように、本願優先日前当業者にとり適宜選択し得た範囲に過ぎない。また、そうしたことにより格別な効果が奏されることも確認できない。
その余の点については、上の[1](1)〜(5)及び[2]で述べたと同様である。

[5]発明12について

[5-1] 発明12の「…血小板P1Aアロ抗原の…」は、引用されている請求項7ないし10の規定が専らPenアロ抗原に関するものであることからみて、「…血小板Penアロ抗原の…」の誤記であると理解される。
ただし、仮にその場合でも、同発明12は文献1の記載(上記【2】[1])中の[1-1](10)に対応しており、決定対象となるアロ抗原の型がP1A多型ではなくPen多型である点、即ち、GPIIIacDNA上の第1-第2対立遺伝子ヌクレオチド間の相違位置が196ではなく526である点、で文献1と相違し、その余の点では共通するから、上の[1](1)〜(5)、[2]で述べたと同様の理由により、文献1〜5の記載に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

[5-2] なお、[5-1]で述べた点が誤記でない場合、発明12は血小板P1Aアロ抗原の型を決定するためのキットに係る発明と認められるところ、発明の詳細な説明において実施例とともに具体的に開示されているのは、型決定対象としてPenアロ抗原を対象とした場合のみであるから、同発明12は発明の詳細な説明に十分具体的に記載された発明であるとはいえず、よって本願明細書は特許法第36条第4項又は第5項及び第6項の規定に違反していることになる。

[6]むすび

以上[1]〜[4]で述べたとおり、本願の請求項1〜12に係る各発明は、いずれも文献1〜5に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
よって、結論のとおり決定する。
 
審理終結日 2002-09-05 
結審通知日 2002-09-10 
審決日 2002-09-26 
出願番号 特願平5-502253
審決分類 P 1 8・ 121- Z (C12Q)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 鵜飼 健中木 亜希  
特許庁審判長 眞壽田 順啓
特許庁審判官 佐伯 裕子
大久保 元浩
発明の名称 ヒト血小板膜糖蛋白質IIIaのPen多型性並びにその診断及び治療上の応用  
代理人 川口 義雄  

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