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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) B62M
管理番号 1071658
審判番号 不服2000-11875  
総通号数 39 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 1997-07-08 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2000-08-02 
確定日 2003-02-07 
事件の表示 平成 9年特許願第 31098号「補助駆動力付き自転車」拒絶査定に対する審判事件[平成 9年 7月 8日出願公開、特開平 9-175476]について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.本願発明
本願は、出願日が平成3年5月13日である実願平3-42896号を、平成9年1月30日に特許法第46条第1項の規定に基づき特許出願に変更したものである。そして、その出願に係る発明は、平成11年9月2日付、平成12年8月30日付、平成14年8月6日付の各手続補正書により補正された明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1、2に記載されたとおりのもの認められるところ、その請求項1に係る発明は以下のとおりである。
「【請求項1】 人力によるペダル踏力が入力されるペダルクランク軸と、当該ペダル踏力を検出するペダル踏力センサと、電動モータと、電動モータの駆動用バッテリと、前記ペダル踏力センサの出力に応じた電力を前記バッテリから電動モータへ供給制御するコントロール手段とを備え、前記電動モータによる補助駆動力が減速機を介してペダル踏力に加えられるように構成されている補助駆動力付き自転車において、
前記ペダルクランク軸の一側に設けられ、巻き掛けられたチェーンにより後車軸の従動スプロケットを回転駆動するスプロケット回転体と、該スプロケット回転体に一体に設けられ、該スプロケット回転体に対してペダルクランク軸の軸方向中心側に設けられる大径ギヤ部とを備え、該大径ギヤ部は前記減速機と連結され、前記減速機の前記大径ギヤ部との連結部側にはクラッチ手段が設けられると共に、前記連結部よりペダルクランク軸の軸方向中心側のクランク軸の径方向近傍にペダル踏力センサを備え、当該ペダル踏力センサの出力に基づき、前記電動モータによる補助駆動力とペダル踏力とが略同等になるように構成されていることを特徴とする補助駆動力付き自転車。」(以下、「本願発明」という)

2.引用刊行物とその記載事項
これに対して、当審において平成14年5月31日付で通知した拒絶の理由で引用した、本願の出願日とみなされる平成3年5月13日より前に頒布された刊行物である特表平2-504378号公報には、「モータ補助ペダル自転車」に関し、第1〜3図と共に次の事項が記載されている。
イ)「自転車の車輪に駆動トルクを与える1対の脚で動作される回転ペダルと、自転車の車輪に駆動トルクを供給するモータと、ペダルが自転車を駆動するために回転されたときにペダル上の脚圧力により生成されたトルクを感知する手段と、ペダル上の脚圧力によって生成されたトルクに応答してモータを制御するトルク感知手段に応答する制御手段とを含むモータ補助ペダル自転車。」(第4頁左下欄第2〜8行)
ロ)「トルク感知手段はそれから回転駆動を受信するようにペダルに接続された第1のディスクと、第1のディスクと同軸であり駆動を伝送するために自転車の車輪に接続された第2のディスクと、ペダルに与えられるトルクがないときのゼロから徐々にトルクが次第にペダルに与えられる最大まで増加する制限された回転のずれをディスク間において可能にするように第2のディスクと第1のディスクを結合する結合手段と、ディスクの相対的なずれを感知する手段とを含む請求項1記載のモータ補助ペダル自転車。」(同頁同欄第9〜17行)
ハ)「本発明はモータ補助ペダル自転車に関するものであり、好ましい実施例においてモータがペダルの動作に応答して自動的に制御されることができるペダル自転車を提供する。」(第2頁左上欄第3〜5行)
ニ)「ペダル上の脚圧力によって生成されたトルクに応答してモータを制御するトルク感知手段に応答的な制御手段とを含む。」(第2頁左上欄第10〜12行)
ホ)「内燃エンジンのスロットル開口はペダルに与えられるトルクおよび/またはペダルの回転速度が増加されるにしたがって増大される。」(第2頁左上欄第17〜19行)
ヘ)「本発明の好ましい実施例は、クランクアーム1によって共通のペダルシャフト3に接続された1対のペダル・・・を含む通常のペダル装置を有する自転車の形状をしている。」(第2頁右上欄第3〜6行)
ト)「ペダルシャフト3は・・・例えば通常のローラチェーン装置によって自転車の一車輪に駆動力を与える。」(第2頁右上欄第8〜10行)
チ)「ペダルシャフト3からの駆動は、チェーンによって自転車の後輪を駆動するスプロケット歯車によって自転車のペダル駆動車輪に与えられる。スプロケット歯車8は、自転車のフレーム上に回転可能に設けられたハブ7上に設けられる。駆動ギア4もまたハブ7上に設けられ、内燃エンジンからの駆動がギア4およびハブ7によってスプロケット歯車8に伝達されるように、自転車のフレーム上に設けられた内燃エンジンの出力ギアに結合されている。」(第2頁右上欄第13〜20行)
リ)「エンジンからの補助の量を調節できるようにサーボ増幅器の動作を変化する制御装置20を設けられていることが好ましい。」(第3頁左上欄第11〜13行)
ヌ)「自転車は回路16をトリガーするために必要な出力を生成するために数秒間十分なペダル圧力を供給する。するとエンジンがスタートし、ペダルに与えられた力に比例した補助動力を提供する。」(第3頁左上欄第2〜5行)
ル)「スイッチ22が連続位置にあるとき、自転車は通常のモータ付き自転車の一般的な方法で動作されるが、エンジンスロットル制御は手動制御ではなくペダル圧力に応答する。」(第3頁左上欄第20〜22行)

3.対比・判断
本願発明の構成事項と刊行物1の記載事項とを対比すると、刊行物1記載の「ペダルシャフト」(ヘ)、ト)、チ))は本願発明の「ペダルクランク軸」に相当し、以下同様に、「自転車の後輪を駆動するスプロケット」(チ))は「従動スプロケット」に、「チェーンによって自転車の後輪を駆動するスプロケット歯車」(同)は「巻き掛けられたチェーンにより後車軸の従動スプロケットを回転駆動するスプロケット回転体」にそれぞれ相当する。
また、上記イ)の記載内容からすれば、刊行物1記載の「トルク感知手段」(ロ))は「ペダル上の脚圧力により生成されたトルク」を感知するものであるから、本願発明の「ペダル踏力を検出するペダル踏力センサ」に相当し、刊行物1記載の「モータ」(イ))及び「ペダル上の脚圧力によって生成されたトルクに応答してモータを制御するトルク感知手段に応答する制御手段」(同)は、本願発明の「電動モータと、電動モータの駆動用バッテリ」及び「前記ペダル踏力センサの出力に応じた電力を前記バッテリから電動モータへ供給制御するコントロール手段」と同様に、「補助駆動力発生手段」と当該発生手段を「制御するためのコントロール手段」といえる。
また、上記ト)及び第1図の記載内容からすれば、刊行物1記載の「駆動ギア」(チ))は、スプロケット歯車に対してペダルシャフトの軸方向中心側に一体的に設けられているものであって、本願発明の「該スプロケット回転体に一体に設けられ、該スプロケット回転体に対してペダルクランク軸の軸方向中心側に設けられる大径ギヤ部」に相当する。
さらに、上記ロ)及び第1図の記載内容からすれば、刊行物1記載の「トルク感知手」段を構成する「第1のディスク」、「第2のディスク」、「第1のディスクと第2のディスクを結合する手」段、および「ディスクの相対的なずれを感知する手段」はペダルシャフト(本願発明のペダルクランク軸に相当)の径方向近傍に設けられているといいうる。
そして、上記イ)〜ル)の記載内容からすれば、刊行物1にも、補助駆動力がペダル踏力に加えられるように構成されている「補助駆動力付き自転車」の発明が記載されているといえる。
したがって、刊行物1にも「人力によるペダル踏力が入力されるペダルクランク軸と、当該ペダル踏力を検出するペダル踏力センサと、補助駆動力発生手段と、補助駆動力発生手段を制御するためのコントロール手段とを備え、補助駆動力がペダル踏力に加えられるように構成されている補助駆動力付自転車において、
ペダルクランク軸の一側に設けられ、巻き掛けられたチェーンにより後車軸の従動スプロケットを回転駆動するスプロケット回転体と、該スプロケット回転体に一体に設けられ、該スプロケット回転体に対してペダルクランク軸の軸方向中心側に設けられる大径ギヤ部とを備え、さらに、ペダル踏力センサはクランク軸の径方向近傍に設けられる補助駆動力付き自転車」の発明が記載されていることとなり、この点は、本願発明との一致点といえるが、本願発明と刊行物1記載の発明との間には次の相違点が認められる。
<相違点1>
本願発明では、補助駆動力発生手段が「電動モータと、バッテリ」であって、「コントロール手段」は「電動モータ」へ供給する電力を制御するものであるのに対し、刊行物1記載の発明においては補助駆動力発生手段は単に「モータ」とされるに留まり、「駆動用バッテリ」や電力の制御については言及がない点。
<相違点2>
本願発明が「減速機」および「クラッチ手段」を備えており、大径ギヤ部は前記減速機と連結され、前記減速機の前記大径ギヤ部との連結部側にはクラッチ手段が設けられているのに対して、刊行物1記載の発明では、減速機およびクラッチ手段を設けることについて言及が無い点。
<相違点3>
本願発明のペダル踏力センサは連結部よりペダルクランク軸の軸方向中心側に設けられているのに対して、刊行物1記載の発明ではそのような位置に設けられていない点。
<相違点4>
本願発明では、ペダル踏力センサの出力に基づき、電動モータによる補助駆動力とペダル踏力とが略同等になるように構成されているのに対して、刊行物1記載の発明ではペダルに与えられた力に比例した補助動力を供給するものであるものの、その補助の量は調整できるとあるに留まり、補助駆動力とペダル踏力の割合については言及が無い点。

上記各相違点について検討する。
・相違点1について
補助駆動手段を備えた自転車において、補助駆動力発生手段を電動モータとして、この電動モータへの電力供給量を制御することは、当該技術分野において通常採用されている周知・慣用の手段であるから(例えば、特開昭51-97142号、特開平2-74491号公報、参照)、刊行物1記載の発明の補助駆動力発生手段としてのモータを電動モータとし、制御手段を電動モータへ供給する電力を制御するものとすることは、上記周知・慣用手段に基づいて当業者であれば容易に想到し得たものである。また、駆動用バッテリを設けることは、補助駆動手段として電動モータを採用することに伴う必然的な構成である。
・相違点2について
補助駆動手段を備えた自転車において、補助駆動手段と駆動スプロケットとの間に減速機やクラッチ手段を設けることは周知・慣用の手段である。(例えば、特開昭51-97142号、特公平3-23395号公報、参照)。そして、技術常識を勘案すれば、上記のような周知・慣用の手段は伝動機構を設ける以上通常は必要とされるものであるから、刊行物1記載の発明において、大径ギヤ部を減速機と連結し、減速機の大径ギヤ部との連結部側にクラッチ手段を設けることは上記周知・慣用手段に基づいて当業者であれば容易に想到し得たものである。
・相違点3について
補助駆動手段を備えた自転車において、ペダル踏力センサをペダルクランク軸の軸方向のどの位置に設けるかは当業者が必要に応じて適宜なし得る程度の設計的事項にすぎない。よって、刊行物1記載の発明において、ペダル踏力センサを連結部よりペダルクランク軸の軸方向中心側に設けることは当業者にとって設計上の一事項にすぎないものである。
・相違点4について
補助駆動手段を備えた自転車において、補助駆動力とペダル踏力の割合をどの程度にするかは当業者にとって適宜選択しうる事項といいうるから、刊行物1記載の発明において、モータによる補助駆動力とペダル踏力とが略同等な比率とすることは当業者であれば容易に想到し得えたものである。
そして、本願発明の効果は、刊行物1記載の発明及び上記周知・慣用手段から当業者が予測することができる程度のものであって格別なものとはいえない。

・出願人の意見書中での主張について
出願人は、上記相違点1に関し意見書中で、「刊行物1の「モータ」は内燃エンジンを指したものであ」り「電動モータと内燃エンジンとでは出力特性が大きく相違しており、刊行物1には電動モータを採用する示唆が全くない以上、両者を単純に転用することはできない」旨主張する。
しかしながら、補助駆動手段を備えた自転車の補助駆動力として電動モータを採用することは、出願当時すでに当業者にはよく知られており、また、内燃エンジン、電動モータの出力特性の相違も当業者には周知の技術的事項である。この点を参酌すれば、たとえ明示の示唆はなくとも刊行物1記載の発明の補助動力手段として電動モータを採用することが格別困難であったとはいえないし、その採用の際に両者の出力特性の差異に対応した設計変更を施すことは、周知技術転用の際の当業者が採る通常の創作活動といいうる。
よって、この点についての出願人の主張は採用できない。
また、出願人は、上記相違点3に関し、「刊行物1にはスペースの有効利用及びコンパクト化の技術思想は全く存在しておらず」、「単なる設計的事項で解決できるものでもない」旨主張する。
しかしながら、スペースの有効利用及びコンパクト化という課題はほぼ総ての装置の開発に当たって当業者に要求される共通の課題であるといいうるし、補助駆動力を備えた自転車において、ペダル踏力センサの機構、配置に関しスペースの有効利用及びコンパクト化を阻害するような阻害要因がこの出願前存在していたこと等の示唆も無い。
よって、この点についての出願人の主張もまた採用できない。
さらに、出願人は、上記相違点4に関し、「刊行物1には」「補助駆動力は任意に調整可能とされているので」「アシストフィーリングが好ましくない場合も含まれており、アシストフィーリングを極めて良好とし、快適な運転を常に可能にするための踏力と補助駆動力とを略同等とする技術思想は全く存在していない。どの割合でアシストすれば自転車の走行上におけるフィーリングが良好であるかは数多くの実験等の積重によって初めて得られるもので、格別困難でないという判断には誤りがある」旨主張する。
しかし、刊行物1記載の発明と本願発明の相違は、要するにアシスト量を踏力と「略同等」で固定するか、任意に調節できるかという点であり、運転者の脚力、走行状況などが千差万別であることを考えれば、アシスト量を固定するよりも、運転者の好みに応じた量に調節できる方がむしろ優れているともいいうるし、その調節範囲には、アシストフィーリングが良好であるとする補助駆動力とペダル踏力とが略同等となる比率も含まれているのである。
したがって、刊行物1記載の発明に踏力と補助駆動力とを略同等とする技術思想が全く存在していないということはできず、踏力と補助駆動力との割合を略同等とすることは当業者であれば容易に想到しうるものである。
よって、この点についての出願人の主張もやはり採用できない。

4.むすび
以上のとおり、本願発明は、刊行物1記載の発明及び上記周知・慣用手段から当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条第2項の規定により特許を受けることができない。
よって、上記結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2002-11-01 
結審通知日 2002-11-12 
審決日 2002-12-10 
出願番号 特願平9-31098
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (B62M)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 増岡 亘  
特許庁審判長 神崎 潔
特許庁審判官 尾崎 和寛
ぬで島 慎二
発明の名称 補助駆動力付き自転車  
代理人 岡部 健一  

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