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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  G02B
管理番号 1071733
異議申立番号 異議2002-70513  
総通号数 39 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 1993-03-12 
種別 異議の決定 
異議申立日 2002-02-27 
確定日 2002-11-18 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第3203698号「顕微鏡の液浸対物レンズ及び防水キャップ」の請求項1ないし3に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 訂正を認める。 特許第3203698号の請求項1ないし2に係る特許を維持する。 
理由 1.手続の経緯
特許第3203698号の請求項1ないし3に係る発明は、平成3年9月2日に特許出願され、平成13年6月29日にその発明について特許権の設定登録がされ、その後、その請求項1ないし3項に係る発明についての特許に、特許異議申立人小塚浩により特許異議の申立てがなされ、当審より平成14年7月15日付で第2回目の取消理由通知がなされ、その指定期間内である平成14年9月24日に特許権者より訂正請求がなされたものである。

なお、平成14年4月22日付けの第1回目の取消理由通知に対する、平成14年7月5日付け訂正請求書は取下げられた。

2.訂正の適否についての判断

(1)訂正の内容

特許権者が求めている訂正の内容は、以下の通りである。

(a)訂正事項a
特許請求の範囲の請求項1ないし3について、
「【請求項1】 溶液中の標本の検鏡に用いられる顕微鏡の液浸対物レンズにおいて、該対物レンズは先端レンズと、該先端レンズを保持するレンズ環を有し、該レンズ環の周囲に環状の防水部材が設けられ、前記レンズ環と前記防水部材との間に窪み状の液体保持部が形成されていることを特徴とする顕微鏡の液浸対物レンズ。
【請求項2】 前記液体保持部は、前記対物レンズの外周に取付けられ前記対物レンズの外側を覆う防水キャップに設けられ、前記対物レンズの先端部から流れ落ちる液体を受け止めることを特徴とする請求項1記載の顕微鏡の液浸対物レンズ。
【請求項3】 顕微鏡の液浸対物レンズに装着可能であり、前記対物レンズの先端部から流れ落ちる液体を受け止める液体保持部を有することを特徴とする防水キャップ。」を、「【請求項1】外筒と、先端レンズを保持するレンズ環と、前記レンズ環を保持し光軸方向に摺動が可能なように前記外筒の内側に設けられた中筒とを備えた顕微鏡の液浸対物レンズにおいて、
前記レンズ環の周囲に設置され、前記中筒と前記外筒との間隙部上を覆い、前記液浸対物レンズの外周面に沿って前記対物レンズ先端部と反対方向に向かって前記外周面上を覆う領域が設けられた環状の防水部材を有し、前記レンズ環と前記防水部材との間に窪み状の液体保持部が形成されていることを特徴とする顕微鏡の液浸対物レンズ。
【請求項2】外筒と、光軸方向に摺動が可能なように前記外筒の内側に設けられた中筒とを備えた顕微鏡の液浸対物レンズに装着可能であり、前記液浸対物レンズの外周面に沿って対物レンズ先端部と反対方向に向かって前記外周面上を覆う領域が設けられた環状形状を成し、装着した際、前記中筒と前記外筒との間隙部上を覆う位置にまで防水部材が設けられ、前記液浸対物レンズの先端から流れ落ちる液体を受け止める液体保持部を有することを特徴とする防水キャップ。」と訂正する。

(b)訂正事項b

明細書段落【0006】ないし【0009】について、
「【0006】【課題を解決するための手段】本発明の液浸対物レンズは、対物レンズの先端部周囲に窪み状の液体保持部(7b、7c、17a)を備える。請求項2に記載の発明では、前記対物レンズの先端レンズ(3)を保持するレンズ環(4、14)の周囲に環状の防水部材(7、17)を固設し、液体保持部(7c,17a)がレンズ環(4、14)と防水部材(7、17)との間に形成される。
【0007】請求項3に記載の発明では、液体保持部(7b)は、対物レンズの外周に取付けられ対物レンズの外側を覆う防水キャップ(7)に設けられ、対物レンズの先端部から流れ落ちる液体を受け止める。請求項4記載の防水キャップ(7、17)は、顕微鏡の液浸対物レンズに装着可能であり、対物レンズの先端部から流れ落ちる液体を受け止めるための液体保持部(7b、7c、17a)を有する。
【0008】【作用】対物レンズ先端部の周囲に設けられた窪み状の液体保持部(7b、7c、17a)は、対物レンズを標本に接近させたときに標本と対物レンズとの間から溢れ出る溶液を保持する。請求項2記載の液体保持部(7c、17a)は、液浸の際に必要な量の溶液を標本と対物レンズとの間に確保することができる。
【0009】請求項3に記載の発明においては、対物レンズの先端部から流れ落ちる液体は、防水キャップを伝って液体保持部(7b)によって受け止められる。請求項4記載の防水キャップの液体保持部は、対物レンズを標本に接近させたときに標本と対物レンズとの間から溢れ出る液体を受け止め、保持する。」を、
「【0006】【課題を解決するための手段】本発明の液浸対物レンズは、外筒(6)と、先端レンズ(3)を保持するレンズ環(4)と、前記レンズ環(4)を保持し光軸方向に摺動が可能なように前記外筒(6)の内側に設けられた中筒(5)とを備えた顕微鏡の液浸対物レンズにおいて、前記レンズ環(4)の周囲に設置され、前記中筒(5)と前記外筒(6)との間隙部上を覆い、前記液浸対物レンズの外周面に沿って前記対物レンズ先端部と反対方向に向かって前記外周面上を覆う領域が設けられた環状の防水部材(7)を有し、前記レンズ環(4)と前記防水部材(7)との間に窪み状の液体保持部(7b、7c、17a)が形成されている(請求項1)。
【0007】又、本発明の防水キャップは、外筒(6)と、光軸方向に摺動が可能なように前記外筒(6)の内側に設けられた中筒(5)とを備えた顕微鏡の液浸対物レンズに装着可能であり、前記液浸対物レンズの外周面に沿って対物レンズ先端部と反対方向に向かって前記外周面上を覆う領域が設けられた環状形状を成し、装着した際、前記中筒(5)と前記外筒(6)との間隙部上を覆う位置にまで防水部材(7)が設けられ、前記対物レンズの先端から流れ落ちる液体を受け止める液体保持部(7b、7c、17a)を有する(請求項2)。
【0008】【作用】本発明の液浸対物レンズは、外筒(6)と、先端レンズ(3)を保持するレンズ環(4)と、前記レンズ環(4)を保持し光軸方向に摺動が可能なように前記外筒(6)の内側に設けられた中筒(5)とを備えた顕微鏡の液浸対物レンズにおいて、前記レンズ環(4)の周囲に設置され、前記中筒(5)と前記外筒(6)との間隙部上を覆い、前記液浸対物レンズの外周面に沿って前記対物レンズ先端部と反対方向に向かって前記外周面上を覆う領域が設けられた環状の防水部材(7)を有し、前記レンズ環(4)と前記防水部材(7)との間に窪み状の液体保持部(7b、7c、17a)が形成されている。これにより、対物レンズ先端部から流れ落ちた水溶液が中筒と外筒との間隙から対物レンズの内部に浸入することを防止できる。
【0009】又、請求項2の防水キャップは、外筒(6)と、光軸方向に摺動が可能なように前記外筒(6)の内側に設けられた中筒(5)とを備えた顕微鏡の液浸対物レンズに装着可能であり、前記液浸対物レンズの外周面に沿って対物レンズ先端部と反対方向に向かって前記外周面上を覆う領域が設けられた環状形状を成し、装着した際、前記中筒(5)と前記外筒(6)との間隙部上を覆う位置にまで防水部材(7)が設けられ、前記対物レンズの先端から流れ落ちる液体を受け止める液体保持部(7b、7c、17a)を有する。これにより、請求項2の防水キャップを対物レンズに設置すれば、対物レンズ先端部から流れ落ちた水溶液が中筒と外筒との間隙から対物レンズの内部に浸入することを防止できる。」と訂正する。

(c)訂正事項c

明細書段落【0016】について、
「【0016】【発明の効果】本発明の液浸対物レンズによれば、対物レンズの先端に液体保持部を設けたので、対物レンズを標本に近接させた時に標本と対物レンズとの間から溢れ出る溶液を保持するため、そこから更に周囲に漏れることが防止され、特に倒立顕微鏡に適した液浸対物レンズが得られる。また、請求項2記載の本発明によれば、液体保持部が液浸用の十分な量の溶液を標本と対物レンズとの間に確保できるので、長時間に渡る検鏡で液体が多少蒸発しても検鏡を続行することを可能にする。請求項3記載の本発明によれば、防水キャップが対物レンズ先端部の外側を覆っているので、液体が中筒や外筒に到達することを確実に防ぐことができる。請求項4記載の防水キャップによれば、不要なときは対物レンズから取りはずすことができるので、対物レンズを正立顕微鏡に使用した場合、標本と対物レンズとを近接させるときに防水キャップが視野を妨げることがない。」を、
「【0016】【発明の効果】本発明の液浸対物レンズによれば、対物レンズ先端部から流れ落ちた水溶液が中筒と外筒との間隙から対物レンズの内部に浸入することを防止できる。」と訂正する。

(2)訂正の目的の適否及び拡張・変更の存否

(a)訂正事項aについて
上記訂正事項aは、特許請求の範囲の請求項2を削除し、請求項3を繰り上げたものである。
さらに、請求項1における液浸対物レンズの構成を「外筒と、先端レンズを保持するレンズ環と、前記レンズ環を保持し光軸方向に摺動が可能なように前記外筒の内側に設けられた中筒とを備えた顕微鏡の液浸対物レンズ」と限定し、さらに請求項1における液浸対物レンズの環状の防水部材の構成を「前記中筒と前記外筒との間隙部上を覆い、前記液浸対物レンズの外周面に沿って前記対物レンズ先端部と反対方向に向かって前記外周面上を覆う領域が設けられた環状の防水部材」と限定するものである。
また、請求項3における防水キャップの構成を「前記液浸対物レンズの外周面に沿って対物レンズ先端部と反対方向に向かって前記外周面上を覆う領域が設けられた環状形状を成し、装着した際、前記中筒と前記外筒との間隙部上を覆う位置にまで防水部材が設けられ、」と限定するものである。
これらは、明細書段落【0010】及び図1の記載によって支持されている。

したがって、上記訂正事項aは、特許請求の範囲の減縮を目的とした明細書の訂正に該当する。また、該訂正は、願書に添付した明細書に記載された事項の範囲内のものであり、また実質上特許請求の範囲を拡張し、または変更するものではない。

(b)訂正事項bないしcについて
上記訂正事項bないしcについては、上記訂正事項aの特許請求の範囲の訂正による、明細書の発明の詳細な説明の記載と特許請求の範囲との不一致を解消するものである。

したがって、上記訂正事項bないしcは、明りょうでない記載の釈明に該当する。また、該訂正は、願書に添付した明細書に記載された事項の範囲内のものであり、また実質上特許請求の範囲を拡張し、または変更するものではない。

(3)むすび

以上のとおりであるから、前記訂正(訂正事項aないしc)は、特許法等の一部を改正する法律(平成6年法律第116号。以下「平成6年改正法」という。)附則第6条第1項の規定によりなお従前の例によるとされる、平成11年改正前の特許法第120条の4第3項において準用する平成6年改正法による改正前の特許法第126条第1項ただし書き、第2項及び第3項の規定に適合するので、当該訂正を認める。

3.特許異議の申立てについての判断

(1)特許異議申立ての理由の概要

特許異議申立人小塚浩は、証拠として、下記の甲第1ないし4号証を提出し、(理由1)訂正前の請求項1ないし3に係る発明は、甲第1号証に記載された発明と同一であるから、特許法第29条第1項第3号の規定に違反しており、また、訂正前の請求項1ないし3に係る発明は、甲第1ないし4号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定に違反しており、更に、(理由2)本件特許明細書は、特許法第36条第4項に規定する要件を満たしていない出願にされたものであるから、これを取り消すべき旨、主張する。



甲第1号証:ドイツ国実用新案第7907068号明細書(1980)
(甲第1号証の訳文参照。以下、「刊行物1」という。)
甲第2号証:実願昭56-59254号(実開昭57-172418号)の
マイクロフィルム(以下、「刊行物2」という。)
甲第3号証:特開昭62-223717号公報
(以下、「刊行物3」という。)
甲第4号証:実願昭58-147722号(実開昭60-56017号)の
マイクロフィルム(以下、「刊行物4」という。)

(2)本件発明

本件特許第3203698号の請求項1ないし2に係る発明(以下、本件発明1ないし2という。)は、上記のとおり訂正が認められたから、平成14年9月24日付けの訂正明細書の特許請求の範囲の請求項1ないし2に記載されたとおりのものである。(上記2.訂正の適否についての判断の欄における(a)訂正事項aの記載を参照)

(3)各刊行物に記載の発明

刊行物1ないし4には、次の事項が記載されている。

(a)刊行物1:ドイツ国実用新案第7907068号明細書(1980)

「本発明は、外部鏡枠及びその中に軸方向に移動可能な内部鏡枠部分並びに鏡枠と鏡枠部分内に固定されたレンズを有する顕微鏡の液浸対物レンズに関する。」(訳文第2頁第2ないし4行)

「第1図に部分的に示されている液浸対物レンズ10は、実質的に、その中に前部レンズ13を有する内部鏡枠部分12が軸方向に移動可能に支持されている外部鏡枠11からなる。」(訳文第3頁下から第5ないし3行)

「鏡枠11と鏡枠部分12の間に対応するリング間隔14がある。このリング間隔を通って液浸用液体が鏡枠11の内部に侵入することができ、その中に配置された、ここでは図示されていないレンズ系を破損することがある。これを防ぐために内部鏡枠部分12の前面の範囲に捕捉リング15を固定する。この捕捉リングは、その下側の平面が鏡枠部分12のリング状の凹部16上に接し、上方を向いた周辺部17を有し、それによって捕捉リング15は液槽状に形成される。この場合では、捕捉リング15は鏡枠部分12の凹部16上に接する下側に接着面18を備え、従って使用の場合に、容易に取り外し可能及び取り付け可能である。」(訳文第3頁下から第1行ないし第4頁第8行)

また、第1図の記載からみて、「内部鏡枠部分12と捕捉リング15で形成される凹部」が記載されており、これは、異議申立人が第1図に付した参照数字「30」を利用して、「第1図の30」であると認める。(異議申立人が提出した「参考」参照。)

さらに、第1図の記載からみて、内部鏡枠部分12は、前部レンズ13を保持し、かつ軸方向に移動可能なように外部鏡枠11の中に支持されているものと認められる。

上記記載からみて、刊行物1には、「外部鏡枠11と、前部レンズ13を有する内部鏡枠部分12と、軸方向に移動可能なように前記外部鏡枠11の中に支持された内部鏡枠部分12とを備えた顕微鏡の液浸対物レンズにおいて、
前記内部鏡枠部分12の前面の範囲に固定された捕捉リング15を有し、前記内部鏡枠部分12と前記捕捉リング15との間に第1図の30が形成されていることを特徴とする顕微鏡の液浸対物レンズ。」(以下、「引用発明」という。)が記載されているものと認められる。

(b)刊行物2:実願昭56-59254号(実開昭57-172418号)のマイクロフィルム

「従来の顕微鏡用ステージにおいては、液浸検鏡を行う場合、スライドガラスの下面に付着した液浸用オイルは、・・・遂には可動ステージの下面へ回り込むに至る。」(第1頁第13ないし20行)

「7は頂部近傍に油受け溝7aを有するコンデンサー、」(第2頁第16ないし17行)

「一方コンデンサー7の上面にあるオイルは、下方へ流れ出しても油受け溝7a内に溜まり、それ以上下方へ流れるのを阻止される。」(第3頁下から第6ないし4行)

(c)刊行物3:特開昭62-223717号公報

「従来の装置は・・・使用している油のジヤバラ部からレンズ系へ浸透することを防止するためにコンデンサレンズ上部に対物レンズから供給される油の受けを設け、・・・防油対策を施していた。」(第1頁右下欄第11ないし18行)

「スライドガラス15の表面を伝わりその端部より滴下するイマージヨンオイル14は油受皿2にたまり同じようにドレインパイプ5により排液される。油受皿2はスライドガラス15の移動範囲を十分にカバーできる大きさになつている。」(第3頁左上欄第8ないし12行)

(d)刊行物4:実願昭58-147722号(実開昭60-56017号)のマイクロフィルム

「11は第2図に示した如く水平部11aと傾斜部11bとから構成されていて観察系の上側部分即ちレボルバー8の外周部に着脱自在に嵌着される孔11cと傾斜部11bの最も下側の部分に設けられた汚水溜り部11dと外縁部及び該孔11cの縁部に沿つて設けられた流れ防止壁11eとを有している防水カバーであつて、その横幅は顕微鏡本体1の横幅よりも大きくなつていて、装着時ステージ6の下方を広範囲に亘つて覆うようになつている。」(第3頁第13行ないし第4頁第2行)

「本考案による倒立型顕微鏡は上述の如く構成されているから、培養液で満たされた観察容器7をひつくり返したとしてもこれらの培養液は防水カバー11全体で受け止められた後流れ防止壁11eの作用によつて他の部材上へ流れ落ちることなく防水カバー11上を流れて汚水溜り部11dに溜る。従つて、対物レンズ9やレボルバー8等の観察系や顕微鏡本体内部の汚染は確実に防止される。尚、対物レンズ9やレボルバー8はステージ6の真下に位置しているので、液が直接かかることは殆どない。又、防水カバー11は、ステージ6をはね上げるか又は若干横方向へ移動せしめた状態で孔11cをレボルバー8の外周部に嵌合するだけで装着することが出来、又逆の操作を行うだけで取外すことが出来るので、着脱が容易である。」(第4頁第5ないし末行)

(4)対比・判断

(4-A)理由1について

[本件発明1について]

引用発明に記載された「外部鏡枠11」、「前部レンズ13」、「有する」、「前部レンズ13を有する内部鏡枠部分12」、「軸方向」、「移動可能」、「中に」、「支持された」、「軸方向に移動可能なように前記外部鏡枠11の中に支持されている内部鏡枠部分12」、「前記内部鏡枠部分12の前面の範囲」、「固定」、「捕捉リング15」、「第1図の30」は、それぞれ本件発明1の「外筒」、「先端レンズ」、「保持する」、「レンズ環」、「光軸方向」、「摺動が可能」、「内側に」、「設けられた」、「中筒」、「前記レンズ環の周囲」、「設置」、「環状の防水部材」、「窪み状の液体保持部」に相当する。そうすると両者は、
「外筒と、先端レンズを保持するレンズ環と、前記レンズ環を保持し光軸方向に摺動が可能なように前記外筒の内側に設けられた中筒とを備えた顕微鏡の液浸対物レンズにおいて、
前記レンズ環の周囲に設置された環状の防水部材を有し、前記レンズ環と前記防水部材との間に窪み状の液体保持部が形成されていることを特徴とする顕微鏡の液浸対物レンズ。」で一致し、

(a)本件発明1には、環状の防水部材について「前記中筒と前記外筒との間隙部上を覆い、前記液浸対物レンズの外周面に沿って前記対物レンズ先端部と反対方向に向かって前記外周面上を覆う領域が設けられた」という構成が記載されているのに対して、引用発明にはそのような記載がない点。(以下、「相違点a」という。)

そこで、上記相違点aが上記刊行物2ないし4に記載されているか否かを検討すると、上記刊行物2ないし4には、いずれも上記構成が開示されていない。

本件発明1は、この構成を有することによって、明細書記載の作用効果を奏するものであるから、上記各刊行物のいずれかに記載された発明であるとも、上記各刊行物に基づいて、当業者が容易に推考できたものであるとも言えない。

[本件発明2について]

本件発明2は、本件発明1の「顕微鏡の液浸対物レンズ」における防水部材を「防水キャップ」と称してなされた発明であるが、その特徴とする構成は上記相違点aと同様であるから、本件発明1と同様の理由で、刊行物1ないし4に記載された発明であるとも、上記各刊行物に基づいて当業者が容易に推考できたものであるとも言えない。

(4-B)理由2について
本件発明1ないし2が、特許法第36条に違反する点については、訂正により解消した。

4.むすび

以上のとおりであるから、特許異議申立ての理由及び証拠によっては、本件発明1ないし2についての特許を取り消すことはできない。

また、他に本件発明1ないし2の特許を取り消すべき理由を発見しない。

よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
顕微鏡の液浸対物レンズ及び防水キャップ
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】 外筒と、先端レンズを保持するレンズ環と、前記レンズ環を保持し光軸方向に摺動が可能なように前記外筒の内側に設けられた中筒とを備えた顕微鏡の液浸対物レンズにおいて、
前記レンズ環の周囲に設置され、前記中筒と前記外筒との間隙部上を覆い、前記液浸対物レンズの外周面に沿って前記対物レンズ先端部と反対方向に向かって前記外周面上を覆う領域が設けられた環状の防水部材を有し、前記レンズ環と前記防水部材との間に窪み状の液体保持部が形成されていることを特徴とする顕微鏡の液浸対物レンズ。
【請求項2】 外筒と、光軸方向に摺動が可能なように前記外筒の内側に設けられた中筒とを備えた顕微鏡の液浸対物レンズに装着可能であり、前記液浸対物レンズの外周面に沿って対物レンズ先端部と反対方向に向かって前記外周面上を覆う領域が設けられた環状形状を成し、装着した際、前記中筒と前記外筒との間隙部上を覆う位置にまで防水部材が設けられ、前記液浸対物レンズの先端から流れ落ちる液体を受け止める液体保持部を有することを特徴とする防水キャップ。
【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】
本発明は顕微鏡の液浸対物レンズに関し、特に倒立型顕微鏡に適した液浸対物レンズに関する。
【0002】
【従来の技術】
従来の水浸対物レンズとして、図3に示すような構造のものがあった。即ち、先端レンズ23はレンズ環24によって保持され、レンズ環24は中筒25に保持されている。標本21と先端レンズ23との間は水溶液で満たされるが、この水溶液が顕微鏡内に浸入するのを防止するために、先端レンズ23とレンズ環24の間およびレンズ環24と中筒25の間にはそれぞれシール剤が充填されている。
【0003】
一方、中筒25は外筒26の内側に支持されるが、通常はこれら中筒25と外筒26との間にシール剤は充填されていない。その理由は、合焦操作等において対物レンズ全体を光軸方向に移動した際に対物レンズの先端部分が標本21に衝突しても、レンズまたは標本を破損することがないように、中筒25は外筒26の内側に光軸方向に摺動可能に設けられているからである。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
従来の液浸対物レンズ,特に水浸対物レンズは、正立型顕微鏡において使用することを前提として作製されており、その場合には、対物レンズは標本21の上方に位置し、水溶液22が中筒25と外筒26との間隙まで到達する恐れはなかった。しかし倒立型顕微鏡を用いた検鏡の場合、対物レンズが標本21の下方に位置することになる。そのため、余分な水溶液はレンズ環24の外側の斜面を伝って流れ落ち、中筒25と外筒26との間隙から対物レンズの内部に浸入するという問題点があった。
【0005】
また、倒立型顕微鏡では対物レンズの下方に観察光学系等の装置が配置されており、余分な水溶液が対物レンズの外周を落下して顕微鏡の内部に入り込んだ場合には、これらの装置を汚染する危険があった。
そこで本発明は、倒立型顕微鏡用として使用できる液浸対物レンズを提供することを目的とする。
【0006】
【課題を解決するための手段】
本発明の液浸対物レンズは、外筒(6)と、先端レンズ(3)を保持するレンズ環(4)と、前記レンズ環(4)を保持し光軸方向に摺動が可能なように前記外筒(6)の内側に設けられた中筒(5)とを備えた顕微鏡の液浸対物レンズにおいて、前記レンズ環(4)の周囲に設置され、前記中筒(5)と前記外筒(6)との間隙部上を覆い、前記液浸対物レンズの外周面に沿って前記対物レンズ先端部と反対方向に向かって前記外周面上を覆う領域が設けられた環状の防水部材(7)を有し、前記レンズ環(4)と前記防水部材(7)との間に窪み状の液体保持部(7b、7c、17a)が形成されている(請求項1)。
【0007】
又、本発明の防水キャップは、外筒(6)と、光軸方向に摺動が可能なように前記外筒(6)の内側に設けられた中筒(5)とを備えた顕微鏡の液浸対物レンズに装着可能であり、前記液浸対物レンズの外周面に沿って対物レンズ先端部と反対方向に向かって前記外周面上を覆う領域が設けられた環状形状を成し、装着した際、前記中筒(5)と前記外筒(6)との間隙郡上を覆う位置にまで防水部材(7)が設けられ、前記対物レンズの先端から流れ落ちる液体を受け止める液体保持部(7b、7c、17a)を有する(請求項2)。
【0008】
【作用】
本発明の液浸対物レンズは、外筒(6)と、先端レンズ(3)を保持するレンズ環(4)と、前記レンズ環(4)を保持し光軸方向に摺動が可能なように前記外筒(6)の内側に設けられた中筒(5)とを備えた顕微鏡の液浸対物レンズにおいて、前記レンズ環(4)の周囲に設置され、前記中筒(5)と前記外筒(6)との間隙部上を覆い、前記液浸対物レンズの外周面に沿って前記対物レンズ先端部と反対方向に向かって前記外周面上を覆う領域が設けられた環状の防水部材(7)を有し、前記レンズ環(4)と前記防水部材(7)との間に窪み状の液体保持部(7b、7c、17a)が形成されている。これにより、対物レンズ先端部から流れ落ちた水溶液が中筒と外筒との間隙から対物レンズの内部に浸入することを防止できる。
【0009】
又、請求項2の防水キャップは、外筒(6)と、光軸方向に摺動が可能なように前記外筒(6)の内側に設けられた中筒(5)とを備えた顕微鏡の液浸対物レンズに装着可能であり、前記液浸対物レンズの外周面に沿って対物レンズ先端部と反対方向に向かって前記外周面上を覆う領域が設けられた環状形状を成し、装着した際、前記中筒(5)と前記外筒(6)との間隙部上を覆う位置にまで防水部材(7)が設けられ、前記対物レンズの先端から流れ落ちる液体を受け止める液体保持部(7b、7c、17a)を有する。
これにより、請求項2の防水キャップを対物レンズに設置すれば、対物レンズ先端部から流れ落ちた水溶液が中筒と外筒との間隙から対物レンズの内部に浸入することを防止できる。
【0010】
【実施例】
図1は本発明の一実施例による液浸対物レンズを示し、先端レンズ3はレンズ環4によって保持され、レンズ環4は中筒5に保持されている。中筒5は従来と同様に外筒6の内側に光軸方向に摺動可能に設けられている。
レンズ環4の外周には防水キャップ7が取付けられている。防水キャップ7はシリコンゴム等の弾性材料によって形成され、対物レンズの先端とほぼ同じ高さまで先端方向に突出した環状の突起7aと、外周面の外筒6の外側を覆う位置に設けられた環状の受け溝7bとを有する。レンズ環4の外周に形成された円周溝4aと嵌合する防水キャップ7の内周面の径は、円周溝4aの外径よりわずかに小さく形成されている。また、円周溝4aの側面は図中左方向に次第に径が拡大するような逆テーパー状を有し、防水キャップ7の脱落を防ぐように構成されている。従って、弾性材料から成る防水キャップ7がレンズ環4の外周に装着された時、自らの収縮力によってレンズ環4の円周溝4aに密着固定され、これら部材間への液体の浸入を阻止する。
【0011】
防水キャップ7がレンズ環4の外周に装着された状態の時、レンズ環4と環状突起7aとによって、先端レンズ3の周囲に水溶液を溜めるための水保持部7cを形成している。
この水浸対物レンズを倒立型顕微鏡に装着して検鏡する場合、図の左側を上に1けた姿勢になる。そのため対物レンズの先端レンズ3上に水溶液を数滴滴下すれば、表面張力によって水溶液は先端レンズ3上に保持される。この状態で対物レンズを標本1に近接させると、水溶液2は図示のように標本1と先端レンズ3との間に充填される。
【0012】
先端レンズ3上に滴下する水溶液の量は標本1と対物レンズとの間隔に応じて調節されるが、水溶液が適量であった場合には標本1と先端レンズ3との間の水溶液が図示のような充填状態になるか、あるいは更に広がって周囲の水保持部7cによって保持された状態になる。最初に滴下した水溶液の量が多すぎた場合には、対物レンズを標本1に近接させた時に余分な水溶液が水保持部7cの外に溢れ出て、防水キャップ7の側面を伝って流れ落ち、受け溝7bに溜まる。従って溢れ出た水溶液が中筒5や外筒6まで到達することはない。
【0013】
図2は本発明の別の実施例を示し、防水キャップをよりコンパクトなリング形状に構成したものである。中筒15の先端外周面には雄ネジ15aが形成されており、樹脂または金属製の防水リング17は内周面に形成した雌ネジによって中筒15と螺合する。このネジ嵌合部分に防水シールを施しておくことによって、レンズ環14と防水リング17との間に水保持部17aが形成される。余分な水溶液が少量のものであれば、この水保持部17aに保持されて対物レンズの下方に流れ落ちることがない。
【0014】
この図2の実施例の防水リング17は、図1の防水キャップ7に比較して小さい外径を有するため、標本1を対物レンズに対向させる場合に視野を妨げることなく、操作性に優れる。さらに、従来の対物レンズの筒の外周面に雄ネジを形成するための機械加工を追加することで、簡単に防水リングの取付けが可能になるという利点を有する。
【0015】
図2の実施例において防水リング17を中筒15にネジ嵌合する代わりに、接着剤を用いて防水リング17を中筒15の外側に固定することも可能である。
上述した各実施例は何れも水浸対物レンズであったが、本発明の液浸対物レンズは油浸対物レンズにも適用できることは言うまでもない。
【0016】
【発明の効果】
本発明の液浸対物レンズによれば、対物レンズ先端部から流れ落ちた水溶液が中筒と外筒との間隙から対物レンズの内部に浸入することを防止できる。
【図面の簡単な説明】
【図1】
本発明の一実施例による顕微鏡対物レンズの一部断面図である。
【図2】
本発明の別の実施例による顕微鏡対物レンズの主要部の断面図である。
【図3】
従来の顕微鏡対物レンズの一部断面図である。
【符号の説明】
1‥‥‥標本
2‥‥‥水溶液
3‥‥‥先端レンズ
4‥‥‥レンズ環
7‥‥‥防水キャップ
7b‥‥受け溝
7c‥‥液体保持部
14‥‥‥レンズ環
17‥‥‥防水リング
17a‥‥液体保持部
 
訂正の要旨 訂正の要旨
(a)訂正事項a
特許請求の範囲の請求項1ないし3を、次のように訂正する。
「【請求項1】外筒と、先端レンズを保持するレンズ環と、前記レンズ環を保持し光軸方向に摺動が可能なように前記外筒の内側に設けられた中筒とを備えた顕微鏡の液浸対物レンズにおいて、
前記レンズ環の周囲に設置され、前記中筒と前記外筒との間隙部上を覆い、前記液浸対物レンズの外周面に沿って前記対物レンズ先端部と反対方向に向かって前記外周面上を覆う領域が設けられた環状の防水部材を有し、前記レンズ環と前記防水部材との間に窪み状の液体保持部が形成されていることを特徴とする顕微鏡の液浸対物レンズ。
【請求項2】外筒と、光軸方向に摺動が可能なように前記外筒の内側に設けられた中筒とを備えた顕微鏡の液浸対物レンズに装着可能であり、前記液浸対物レンズの外周面に沿って対物レンズ先端部と反対方向に向かって前記外周面上を覆う領域が設けられた環状形状を成し、装着した際、前記中筒と前記外筒との間隙部上を覆う位置にまで防水部材が設けられ、前記液浸対物レンズの先端から流れ落ちる液体を受け止める液体保持部を有することを特徴とする防水キャップ。」
(b)訂正事項b
明細書段落【0006】ないし【0009】を、次のように訂正する。
「【0006】【課題を解決するための手段】本発明の液浸対物レンズは、外筒(6)と、先端レンズ(3)を保持するレンズ環(4)と、前記レンズ環(4)を保持し光軸方向に摺動が可能なように前記外筒(6)の内側に設けられた中筒(5)とを備えた顕微鏡の液浸対物レンズにおいて、前記レンズ環(4)の周囲に設置され、前記中筒(5)と前記外筒(6)との間隙部上を覆い、前記液浸対物レンズの外周面に沿って前記対物レンズ先端部と反対方向に向かって前記外周面上を覆う領域が設けられた環状の防水部材(7)を有し、前記レンズ環(4)と前記防水部材(7)との間に窪み状の液体保持部(7b、7c、17a)が形成されている(請求項1)。
【0007】又、本発明の防水キャップは、外筒(6)と、光軸方向に摺動が可能なように前記外筒(6)の内側に設けられた中筒(5)とを備えた顕微鏡の液浸対物レンズに装着可能であり、前記液浸対物レンズの外周面に沿って対物レンズ先端部と反対方向に向かって前記外周面上を覆う領域が設けられた環状形状を成し、装着した際、前記中筒(5)と前記外筒(6)との間隙部上を覆う位置にまで防水部材(7)が設けられ、前記対物レンズの先端から流れ落ちる液体を受け止める液体保持部(7b、7c、17a)を有する(請求項2)。
【0008】【作用】本発明の液浸対物レンズは、外筒(6)と、先端レンズ(3)を保持するレンズ環(4)と、前記レンズ環(4)を保持し光軸方向に摺動が可能なように前記外筒(6)の内側に設けられた中筒(5)とを備えた顕微鏡の液浸対物レンズにおいて、前記レンズ環(4)の周囲に設置され、前記中筒(5)と前記外筒(6)との間隙部上を覆い、前記液浸対物レンズの外周面に沿って前記対物レンズ先端部と反対方向に向かって前記外周面上を覆う領域が設けられた環状の防水部材(7)を有し、前記レンズ環(4)と前記防水部材(7)との間に窪み状の液体保持部(7b、7c、17a)が形成されている。これにより、対物レンズ先端部から流れ落ちた水溶液が中筒と外筒との間隙から対物レンズの内部に浸入することを防止できる。
【0009】又、請求項2の防水キャップは、外筒(6)と、光軸方向に摺動が可能なように前記外筒(6)の内側に設けられた中筒(5)とを備えた顕微鏡の液浸対物レンズに装着可能であり、前記液浸対物レンズの外周面に沿って対物レンズ先端部と反対方向に向かって前記外周面上を覆う領域が設けられた環状形状を成し、装着した際、前記中筒(5)と前記外筒(6)との間隙部上を覆う位置にまで防水部材(7)が設けられ、前記対物レンズの先端から流れ落ちる液体を受け止める液体保持部(7b、7c、17a)を有する。これにより、請求項2の防水キャップを対物レンズに設置すれば、対物レンズ先端部から流れ落ちた水溶液が中筒と外筒との間隙から対物レンズの内部に浸入することを防止できる。」
(c)訂正事項c
明細書段落【0016】を、次のように訂正する。
「【0016】【発明の効果】本発明の液浸対物レンズによれば、対物レンズ先端部から流れ落ちた水溶液が中筒と外筒との間隙から対物レンズの内部に浸入することを防止できる。」
異議決定日 2002-10-30 
出願番号 特願平3-221523
審決分類 P 1 651・ 121- YA (G02B)
最終処分 維持  
前審関与審査官 里村 利光  
特許庁審判長 高橋 美実
特許庁審判官 柏崎 正男
國島 明弘
登録日 2001-06-29 
登録番号 特許第3203698号(P3203698)
権利者 株式会社ニコン
発明の名称 顕微鏡の液浸対物レンズ及び防水キャップ  
代理人 渡辺 隆男  
代理人 渡辺 隆男  

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