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審決分類 審判 訂正 4項(134条6項)独立特許用件 訂正しない C09D
審判 訂正 発明同一 訂正しない C09D
管理番号 1072533
審判番号 訂正2002-39098  
総通号数 40 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2003-04-25 
種別 訂正の審決 
審判請求日 2002-04-19 
確定日 2003-02-10 
事件の表示 特許第3073775号に関する訂正審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 I.請求の要旨および訂正発明
本件審判の請求の要旨は、特許第3073775号[平成10年7月21日を国際出願日とする出願(優先権主張1997年7月24日、日本国)、平成12年6月2日設定登録]の願書に添付した明細書を審判請求書に添付した訂正明細書のとおりに訂正しようとするものであるところ、当該訂正明細書の特許請求の範囲の記載は次のとおりである。
「【請求項1】少なくとも1個のポリオキシアルキレン基及びアルコキシル基を有するアルコキシシランの変性縮合物(アルキルシリル基を有するものを除く)であり、水を含有せず、前記ポリオキシアルキレン基の繰り返し単位の炭素数が1〜4、前記アルコキシル基の炭素数が1〜4であることを特徴とする使用時に混合する水性塗料用低汚染化剤。
【請求項2】前記ポリオキシアルキル基の繰り返し単位の炭素数が2のポリオキシエチレン基であり、前記アルコキシル基の炭素数が2のエトキシ基であることを特徴とする請求項1に記載の水性塗料用低汚染化剤。
【請求項3】合成樹脂エマルション(A)の固形分100重量部に対して、少なくとも1個のポリオキシアルキレン基及びアルコキシル基を有するアルコキシシランの変性縮合物(アルキルシリル基を有するものを除く)であって、水を含有せず、前記ポリオキシアルキレン基の繰り返し単位の炭素数は1〜4、前記アルコキシル基の炭素数は1〜4である水性塗料用低汚染化剤(B)がSiO2換算にて1.0〜40.0重量部からなり、流通段階では、前記合成樹脂エマルション(A)含有成分と、前記水性塗料用低汚染化剤(B)の少なくとも2成分からなり、前記合成樹脂エマルション(A)含有成分と、前記水性塗料用低汚染化剤(B)とが使用時に添加されたものであることを特徴とする低汚染型水性塗料組成物。
【請求項4】前記水性塗料用低汚染化剤(B)は、前記ポリオキシアルキレン基の繰り返し単位の炭素数が2のポリオキシエチレン基であり、前記アルコキシル基の炭素数が2のエトキシ基であることを特徴とする請求項3に記載の低汚染型水性塗料組成物。
【請求項5】合成樹脂エマルション(A)が、アクリル樹脂系エマルションであることを特徴とする請求項3または請求項4に記載の低汚染型水性塗料組成物。
【請求項6】合成樹脂エマルション(A)が、アクリルシリコン樹脂系エマルションであることを特徴とする請求項3または請求項4に記載の低汚染型水性塗料組成物。
【請求項7】合成樹脂エマルション(A)が、フッ素樹脂系エマルションであることを特徴とする請求項3または請求項4に記載の低汚染型水性塗料組成物。
【請求項8】合成樹脂エマルション(A)が、ウレタン樹脂系エマルションであることを特徴とする請求項3または請求項4に記載の低汚染型水性塗料組成物。
【請求項9】合成樹脂エマルション(A)が、架橋反応型エマルションであることを特徴とする請求項5〜8のいずれかに記載の汚染型水性塗料組成物。
【請求項10】合成樹脂エマルション(A)の固形分100重量部に対して、少なくとも1個のポリオキシアルキレン基及びアルコキシル基を有するアルコキシシランの変性縮合物(アルキルシリル基を有するものを除く)であって、水を含有せず、前記ポリオキシアルキレン基の繰り返し単位の炭素数は1〜4、前記アルコキシル基の炭素数は1〜4である水性塗料用低汚染化剤(B)をSiO2換算にて1.0〜40.0重量部混合、塗装するものであり、流通段階では、前記合成樹脂エマルション(A)含有成分と、前記水性塗料用低汚染化剤(B)の少なくとも2成分からなり、前記合成樹脂エマルション(A)含有成分と、前記水性塗料用低汚染化剤(B)とを使用時に添加して混合し、塗装することを特徴とする低汚染型水性塗料組成物の使用方法。」
なお、以下、訂正明細書の特許請求の範囲の請求項1〜10に係る発明を、それぞれ、訂正発明1〜10という。

II.訂正拒絶の理由
訂正発明1〜10は、本件出願の優先権主張日前の出願であって、その出願の優先権主張日後に出願公開された特願平8-29658号(以下、「先願」という。)の願書に最初に添付した明細書(以下、「先願明細書」という。特開平9-221611号公報参照。)に記載された発明と同一であると認められ、しかも、訂正発明1〜10の発明者が先願の発明者と同一であるとも、また、本件出願の時にその出願人と先願の出願人とが同一であるとも認められないから、訂正発明1〜10は、特許法第29条の2の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものであり、本件の訂正は特許法第126条第4項の規定に適合せず、当該訂正は認められない。

III.先願明細書に記載された事項
(あ)「エマルジョンとして存在する合成樹脂(A)100重量部(固形分)および一般式(1):(R1O)4-a-Si-R2a(1)(式中、R1は、炭素数1〜10のアルキル基、炭素数6〜10のアリール基または炭素数7〜10のアラルキル基、R2は、炭素数1〜10のアルキル基、炭素数6〜10のアリール基、炭素数7〜10のアラルキル基または炭素数1〜10のハロアルキル基、aは0〜2の整数、複数個含まれるR1、複数個含まれるばあいのR2はそれぞれ異なっていてもよい)で表わされるシリコン化合物および(または)その部分加水分解縮合物を主成分とする水溶化せしめられてなる化合物(B)1〜100重量部からなる水性塗料用樹脂組成物。」(特許請求の範囲請求項1)、
(い)「(B)成分におけるシリコン化合物および(または)その部分加水分解縮合物が、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトラ-n-プロポキシシラン、テトラ-i-プロポキシシラン、テトラ-n-ブトキシシラン、テトラ-i-ブトキシシラン、テトラ-t-ブトキシシラン・・・および(または)その部分加水分解縮合物である請求項1記載の水性塗料用樹脂組成物。」(同請求項11参照)、
(う)「(B)成分が、一般式(1)で表わされるシリコン化合物および(または)その加水分解縮合物を、・・・(2)(注:マル2を読み替えたもの。以下同じ。)該シリコン化合物および(または)その加水分解縮合物とポリアルキレンオキシド基を有する化合物とを反応させて水溶化する・・・のいずれかの方法により水溶化せしめられた化合物である請求項1記載の水性塗料用樹脂組成物。」(同請求項12参照)、
(え)「各種水性塗料または水性樹脂組成物にテトラアルコキシシランおよび(または)その部分加水分解縮合物を水溶化してなる化合物を特定の割合で混合し、必要に応じて硬化触媒を特定の割合で混合することにより、従来の水性塗料では達成しえなかった耐汚染性を有し、また耐候性、耐水性にも優れた塗膜を形成することができる水性塗料用樹脂組成物がえられることを見出し」(段落番号0006、公報3頁3欄末行〜4欄7行参照)、
(お)「本発明に用いられるエマルジョンとして存在する合成樹脂(A)((A)成分)は、本発明の水性塗料用樹脂組成物を構成する主要成分であり、・・・と膜となった段階では、後述する(B)成分とともに基体を被覆し、長期間、基体を保護し、汚れにくい塗膜を形成し、美粧性を付与するなどする成分である。」(段落番号0012、公報4頁6欄11〜18行参照)、
(か)「前記(A)成分としては、・・・使用しうる。このような(A)成分の具体例として、たとえばアクリル系樹脂(I)、一般式(2)(式略)・・・で表される反応性シリル基を有するビニル系単量体をほかのビニル系単量体と共重合させることによりえられた反応性シリル基含有アクリル系樹脂(II)・・・またはウレタン架橋しうるアクリル系樹脂組成物(IV)・・・カルボニル基含有重合体とヒドラジンおよび(または)ヒドラジル基を含有する化合物とからなるアクリル系樹脂組成物(V)・・・ウレタン樹脂、フッ素樹脂、・・・シリコーン樹脂、エポキシ樹脂組成物・・・などがあげられる。これらは単独で用いてもよく、2種以上併用してもよい。・・・アクリル樹脂・・・と・・・シリコーン樹脂・・・とを併用する場合・・・」(段落番号0012〜0019、公報4頁6欄11行〜5頁8欄36行参照)、
(き)「本発明の水性塗料用樹脂組成物には、前記(A)成分とともに(B)成分である一般式(1):(式略)・・・で表わされるシリコン化合物および(または)その部分加水分解縮合物(以下、シリコン化合物等(b)ともいう)を主成分とする水溶化せしめられてなる化合物が使用される。前記シリコン化合物等(b)を主成分とする水溶化せしめられてなる化合物とは、該化合物にしめるシリコン化合物等(b)の含有率が30%以上、・・・95%以下、さらに85%以下で、水溶化のために使用するものの含有率が5%以上、さらには15%以上、70%以下、さらには60%以下であることを意味する。」(段落番号0109〜0112、公報15頁28欄31行〜16頁29欄3行参照)、
(く)「前記(B)成分は、シリコン化合物等(b)が反応性を有するため、水性塗料用樹脂組成物として基体上に塗装した段階で加水分解・縮合が進行して網目状構造が形成し、また、水性塗料用樹脂組成物媒体の揮散にともない塗膜が硬化する。(A)成分として反応性シリル基を有さないものを使用したばあい、・・・形成される塗膜の表層は主として(B)成分が縮合したものから形成される。一方、(A)成分として反応性シリル基を有するものを使用したばあい、・・・形成された塗膜は、(A)成分として反応性シリル基を有さないものを使用するばあいよりも、さらに耐候性、耐水性、耐久性、耐汚染性が良好となる。」(段落番号0113〜0114、公報16頁29欄4〜22行参照)、
(け)「前記一般式(1)におけるR1・・・の具体例である炭素数1〜10のアルキル基・・・は、・・・があげられるが、R1のうちシリコン化合物の反応性の点から好ましいものとしては、メチル基、エチル基、n-プロピル基、i-プロピル基、n-ブチル基、i-ブチル基、t-ブチル基があげられる。」(段落番号0115、公報16頁29欄23〜31行参照)、
(こ)「(B)成分におけるシリコン化合物等(b)を水溶化する方法にはとくに限定はないが、水溶化の簡便さ、水溶化物の安定性などの点から、(1)シリコン化合物等(b)と(ポリ)アミノアルキル基および(または)その塩の基を1個以上有する化合物とを反応させて水溶化する方法、(2)該シリコン化合物等(b)と(ポリ)アルキレンオキシド基を有する化合物とを反応させて水溶化する方法、(3)該シリコン化合物等(b)をアルコールの存在下、酸で加水分解して水溶化する方法、(4)該シリコン化合物等(b)をアルカリで処理し、水溶化する方法が好ましい。」(段落番号0119、公報17頁31欄4〜14行)、
(さ)「(2)のシリコン化合物等(b)とポリアルキレンオキシド基を有する化合物とを反応させて水溶化する方法としては、たとえば該シリコン化合物等(b)とポリアルキレンオキシド基を有し、アミノ基、カルボキシル基、ヒドロキシ基、アルコキシ基などの基を有する化合物とを反応させて水溶化する方法などがあげられる。前記ポリアルキレンオキシド基を有する化合物としては、ポリアルキレンオキシド基(たとえばポリオキシエチレン基、ポリオキシプロピレン基、・・・さらにオキシブチレン基がブロックまたはランダム結合で含まれている基など)を有し、シリコン化合物との反応を活性化するおよび(または)シリコン化合物と反応する基として作用するアミノ基、カルボキシル基、ヒドロキシル基、アルコキシ基などの基を有する化合物であるかぎりとくに限定はないが、反応活性、反応物の安定性の点から、ポリアルキレンオキシドアミン化合物が好ましい。」(段落番号0130〜0131、公報19頁36欄末行〜20頁38欄8行)、
(し)「前記ポリアルキレンオキシドアミン化合物の具体例としては、たとえば・・・H2N(CH2)3O(CH2)2O(CH2)2O(CH2)3NH2・・・などがあげられる。」(段落番号0132〜0134、公報20頁38欄9行〜37欄35行参照)、
(す)「前記シリコン化合物等(b)とポリアルキレンオキシド基を有する化合物とを反応させる方法としては、たとえばポリアルキレンオキシドアミン化合物をアルコール中に溶解しておき、クロロアルキルトリアルコキシシランをゆっくりと加えて反応させ、水溶性化合物をうるなどの方法があげられる。」(段落番号0135、公報20頁37欄36〜41行)、
(せ)「このようにしてえられる反応物は、反応性を有し、水中で安定なものであり、(B)成分として使用しうるものである。」(段落番号0136、公報20頁37欄42〜44行)、
(そ)「前記(B)成分におけるシリコン化合物等(b)に由来する部分の含有率は、水への溶解性、水中での安定性の点から前述のごとく30〜95%、好ましくは40〜85%である。」(段落番号0142、公報21頁39欄5〜8行)、
(た)「前記(B)成分の固形分濃度は20〜70%、さらには30〜60%の範囲が好ましい。固形分濃度が70%をこえると、水溶化物の安定性が低下してしまう傾向にあり、また、固形分濃度20%未満のばあい、充分な塗膜物性を発現させるためには多量の溶液を配合する必要があり、配合物全体の固形分濃度が低下してしまうため、被処理物を複数回処理することが必要となり、塗装作業性、経済面から考えたばあい、不利となる。」(段落番号0143、公報21頁39欄9〜17行)、
(ち)「本発明においては、エマルジョンとして存在する合成樹脂(A)に、一般式(1)で表わされるシリコン化合物および(または)その部分加水分解縮合物を主成分とする水溶化せしめられてなる化合物(B)を配合した水性塗料用樹脂組成物が被処理物に塗布するされるため、(B)成分が架橋反応の際に、塗膜表面に局在し、塗膜の表面硬度が高くなり、傷がつきにくくなり、汚染を防止しうる。また、塗膜が親水性であるため、雨などの洗浄効果が発現して、より一層優れた耐汚染性を有する塗膜が形成される。」(段落番号0157、公報22頁41欄35〜44行)、
(つ)「製造例1〜5 ・・・脱イオン水を添加して樹脂固形分が40%のエマルジョン(A-1)〜(A-5)をえた。・・・脱イオン水を滴下して樹脂固形分が40%の・・・エマルジョン(A-6)をえた。・・・エポキシ樹脂のエマルジョン(A-7)、メラミン樹脂のエマルジョン(A-8)をえた。」(段落番号0161〜0165、公報22頁42欄20行〜23頁43欄40行参照)、
(て)「製造例11 撹拌機、還流冷却器、チッ素ガス導入管および滴下ロートを備えた反応器に、H2N(CH2)3O[(CH2)2O]6(CH2)3NH240部とエチルアルコール40部とを仕込み、チッ素雰囲気下でよく撹拌しながらγ-クロロプロピルトリメトキシシラン20部をゆっくりと加え、30分間撹拌を続けた。そののち、昇温して還流させて、30時間反応させた。反応終了後、1Nナトリウムメチラートメチルアルコール溶液を用いて副生成した塩素イオンを滴定し、反応率が95%以上であることを確認したのち脱イオン水50部を加えて希釈し、固形分40%、固形分に対するシリコン化合物等(b)に由来する割合が33%の水溶性シリコン化合物(B-3)水溶液をえた。 製造例12 撹拌機、還流冷却器、チッ素ガス導入管および滴下ロートを備えた反応器に、H2N(CH2)3O[(CH2)2O]15(CH2)3NH240部とエチルアルコール40部とを仕込み、チッ素雰囲気下でよく撹拌しながらγ-クロロプロピルトリメトキシシラン20部をゆっくりと加え、30分間撹拌を続けた。そののち、昇温して還流させて、30時間反応させた。反応終了後、1Nナトリウムメチラートメチルアルコール溶液を用いて副生成した塩素イオンを滴定し、反応率が95%以上であることを確認したのち脱イオン水50部を加えて希釈し、固形分40%、固形分に対するシリコン化合物等(b)に由来する割合が33%の水溶性シリコン化合物(B-4)水溶液をえた。」(段落番号0169〜0172、公報23頁44欄下より16行〜24頁45欄12行参照)、
(と)「実施例1 樹脂固形分40%のエマルジョン(A-1)50部と固形分40%の水溶性シリコン化合物水溶液(B-1)10部との混合物に、白顔料ペースト(・・・省略・・・)35部を配合し、さらに、造膜助剤、増粘剤、消泡剤、凍結防止剤として、それぞれCS-12(チッソ(株)製)1部、ヒドロキシエチルセルロース0.2部、SNディフォーマー381(サンノプコ(株)製)0.1部、プロピレングリコール3部および脱イオン水0.7部を添加し、PWC(全固形分に対する顔料の重量%)40%、塗料固形分濃度50%の水性塗料(白エナメル)(a-1)を製造した(表2)。えられた白エナメルを、脱イオン水を用いて適当な塗装粘度に希釈したのち、スレート板にエアースプレーで塗装した。そののち、塗装板を20℃で10日間養生した。塗膜の厚さはおよそ50μmであった。えられた塗装板を用いて下記方法により耐汚染性・・・を評価した。 実施例2〜8、10 実施例1と同様にして、表2に記載の成分を表2に記載の割合で配合し、白エナメル・・・を製造した。・・・実施例1と同様にしてスレート板に塗装し・・・評価した。・・・ 実施例9 ・・・エマルジョン(A-5)45部と・・・と・・・水溶性シリコン化合物(B-3)水溶液10部)との混合物に・・・を配合し、・・・となるようにした水性塗料・・・を製造した(表2)。・・・実施例1と同様にしてスレート板に塗装し・・・評価した。・・・ 実施例13 ・・・水性シリコン系塗料(SK化研(株)製:コンポシリコン、・・・)100部に対し、・・・の水溶性シリコン化合物(B-4)水溶液10部と・・・を配合した水性塗料(・・・)を製造し(表3)・・・実施例1と同様にしてスレート板に塗装し・・・評価した。」(段落番号0177〜0191、公報24頁45欄下より1行〜47欄47行参照)、
(な)実施例4、9、10、13において、エマルジョン(A-2)、(A-5)、(A-6)およびコンポシリコンと水溶性シリコン化合物(B-3)、(B-4)水溶液が用いられたこと(段落番号0202〜0203、公報26頁表2及び表3参照)、
が記載されている。

IV.対比・判断
IV-1.訂正発明1について:
先願明細書には、エマルジョンとして存在する合成樹脂(A)100重量部と、一般式(1):(R1O)4-a-Si-R2a で表されるシリコン化合物及び/又はその加水分解縮合物を、ポリアルキレンオキシド基を有する化合物と反応させて水溶化せしめられてなる化合物(B)1〜100重量部からなる水性塗料用樹脂組成物が記載され(先願記載事項(あ)、(う)参照)、当該塗料用樹脂組成物を被処理物に塗布すると、(B)成分が架橋反応の際に、塗膜表面に局在し、塗膜の表面硬度が高くなり汚染を防止すること(先願記載事項(ち)参照。)、一般式(1)中、a=0、R1=炭素数1〜4のアルキル基であるシリコン化合物(先願記載事項(あ)、(け)参照)、および、該シリコン化合物の水溶化手段として、ポリアルキレンオキシド基のポリオキシアルキレン基の繰り返し単位が炭素数1〜4である化合物を使用すること(先願記載事項(さ)、(し)参照。)が記載されている。
したがって、先願明細書には、「エマルジョンとして存在する合成樹脂(A)100重量部と、少なくとも1個のポリオキシアルキレン基及びアルコキシル基を有するアルコキシシランの変性縮合物(アルキルシリル基を有するものを除く)であり、前記ポリオキシアルキレン基の繰り返し単位の炭素数が1〜4、前記アルコキシル基の炭素数が1〜4である化合物(B)1〜100重量部からなる水性塗料用樹脂組成物」に係る発明(以下「先願発明1」という。)が記載されている。
そして、先願明細書には、「本発明においては、エマルジョンとして存在する合成樹脂(A)に、・・・化合物(B)を配合した水性塗料用樹脂組成物が被処理物に塗布するされるため、(B)成分が・・・汚染を防止しうる。」(先願記載事項(ち)参照)と記載されており、その請求項1に「エマルジョンとして存在する合成樹脂(A)100重量部(固形分)および・・・水溶化せしめられてなる化合物(B)1〜100重量部からなる水性塗料用樹脂組成物。」および請求項11に「(B)成分が、・・・水溶化せしめられた化合物である請求項1記載の水性塗料用樹脂組成物。」(先願記載事項(あ)、(う)参照)と記載されていることをも参考にすると、前記「(B)成分が・・・汚染を防止しうる。」との表現における(B)成分とは、化合物(B)であると解される。
してみると、先願明細書には、前記化合物(B)が水性塗料用樹脂組成物として塗布したときに汚染を防止するという機能を有すること、すなわち、前記化合物(B)を水性塗料用低汚染化剤とすることが記載され、「少なくとも1個のポリオキシアルキレン基及びアルコキシル基を有するアルコキシシランの変性縮合物(アルキルシリル基を有するものを除く)であり、前記ポリオキシアルキレン基の繰り返し単位の炭素数が1〜4、前記アルコキシル基の炭素数が1〜4である水性塗料用低汚染化剤」という構成を有する発明(以下「先願発明2」という。)も記載されていると解される。
そこで、訂正発明1と先願発明2を対比するに、訂正発明1は先願発明2の前記構成を全て有するから、この点で両者は一致する。
しかし、訂正発明1は「水を含有しない」としているのに対し、先願発明2にはこれについて明示がない点(以下「相違点1」という。)、訂正発明1は「使用時に混合する」としているのに対し、先願発明2にはこれについて明示がない点(以下「相違点2」という。)で一応相違する。
以下、上記相違点について検討する。

相違点1について:
先願明細書には、前記したように、化合物(B)を水性塗料の汚染を防止する成分として用いることが明示されている。
そして、先願明細書には、化合物(B)が水を含有するとの記載も、水性塗料の汚染の防止のために化合物(B)を使用するに際して水を含む状態とすることが必要であるとの記載もないから、当該化合物(B)とは少なくとも化合物(B)自体を示していると解されるところ、先願明細書には、以下に示すような記載があり、それらの記載を総合すると、前記化合物(B)は、任意の方法で製造しうる、すなわち、製造に用いる溶媒等とは関係しない、化合物自体を示すと解されるうえに、製造例11や12にも、アルコール中で水溶化された化合物で、水溶液とする前の化合物(B)自体が示されている。すなわち、先願明細書には、化合物(B)あるいは(B)成分について、「・・・シリコン化合物・・・とポリアルキレンオキシド基を有する化合物とを反応させて・・・水溶化せしめられた化合物である・・・」(先願記載事項(う)参照)、「(B)成分におけるシリコン化合物等(b)を水溶化する方法にはとくに限定はないが、水溶化の簡便さ、水溶化物の安定性などの点から、(1)・・・方法、(2)該シリコン化合物等(b)と(ポリ)アルキレンオキシド基を有する化合物とを反応させて水溶化する方法、(3)・・・方法が好ましい。」(先願記載事項(こ)参照)、「前記シリコン化合物・・・とポリアルキレンオキシド基を有する化合物とを反応させる方法としては、たとえばポリアルキレンオキシドアミン化合物をアルコール中に溶解しておき、クロロアルキルトリアルコキシシランをゆっくりと加えて反応させ、水溶性化合物をうるなどの方法があげられる。」(先願記載事項(す)参照)」、「製造例11 ・・・H2N(CH2)3O[(CH2)2O]6(CH2)3NH240部とエチルアルコール40部と・・・γ-クロロプロピルトリメトキシシラン20部をゆっくりと加え、・・・30時間反応させた。反応終了後、・・・脱イオン水50部を加えて希釈し、固形分40%、固形分に対するシリコン化合物等(b)に由来する割合が33%の水溶性シリコン化合物(B-3)水溶液をえた。 製造例12 ・・・H2N(CH2)3O[(CH2)2O]15(CH2)3NH240部とエチルアルコール40部と・・・γ-クロロプロピルトリメトキシシラン20部をゆっくりと加え、・・・30時間反応させた。反応終了後、・・・脱イオン水50部を加えて希釈し、固形分40%、固形分に対するシリコン化合物等(b)に由来する割合が33%の水溶性シリコン化合物(B-4)水溶液をえた。」(先願記載事項(て)参照)と記載されている。
したがって、先願発明2における化合物(B)は、水を含有しない化合物(B)自体を含むものであり、上記相違点1は実質的な相違点でない。

相違点2について:
先願明細書には、以下の理由で、化合物(B)を「使用時に混合する」という態様が含まれている。
(a)本件発明1は、その特許請求の範囲に記載されているように「・・・使用時に混合する水性塗料用低汚染化剤」であり、どのように混合するかは特定されていない。
本件訂正明細書には、「流通段階では、前記合成樹脂エマルション(A)含有成分と、前記水性塗料用低汚染化剤(B)の少なくとも2成分からなり、前記合成樹脂エマルション(A)含有成分と、前記水性塗料用低汚染化剤(B)とを使用時に混合し、塗装することを特徴とする低汚染型水性塗料組成物の使用方法。」(請求項10参照)、「本発明の水性塗料用低汚染化剤は、一般的な水性塗料へ添加して使用する。添加方法としては、直接的に水性塗料へ添加することも可能であるし、低汚染化剤を混合可能な溶剤、もしくは架橋剤等に混合した後に水性塗料へ添加することも可能である。」(訂正明細書9頁15〜18行)、「本発明の水性塗料用低汚染化剤を添加する水性塗料としては、合成樹脂エマルションを結合材とし、その他塗料用の各種添加剤を含有するものである。」(訂正明細書10頁16〜17行)と記載されている。
したがって、本件発明1における「使用時に混合する」とは、上記本件訂正明細書の記載からみて、塗料としての使用時に水性塗料に混合するとの意味であり、水性塗料に直接添加するものに限られず、溶剤に混合して用いることも含む、すなわち、予め水に添加して、これを混合して用いる態様も含むものである。
(b)先願明細書には、化合物(B)の混合時期について塗料としての使用時期との関連で特に示すところはないから、混合時期としては、塗料として使用する前と使用する時の2とおりのいずれをも含むと解される。
(c)先願明細書には、「このようにしてえられる反応物は、反応性を有し、水中で安定なものであり、(B)成分として使用しうるものである。」(先願記載事項(せ)参照)と記載され、化合物(B)が水中で安定であることと反応性を有することとは別異のものとして記載されており、「前記(B)成分は、シリコン化合物等(b)が反応性を有するため、水性塗料用樹脂組成物として基体上に塗装した段階で加水分解・縮合が進行して網目状構造が形成し、また、水性塗料用樹脂組成物媒体の揮散にともない塗膜が硬化する。」(先願記載事項(く)参照)、「前記(B)成分の固形分濃度は20〜70%さらには30〜60%の範囲が好ましい。固形分濃度が70%をこえると、水溶化物の安定性が低下してしまう傾向にあり、」(先願記載事項(た)参照)と記載されている。
上記のように、化合物(B)は、水中で安定であるとともに、反応性を有し、合成樹脂エマルジョン等の他の塗料成分との混合で、加水分解・縮合等の反応により網目状構造を形成する、すなわち、反応することが記載されており、特に固形分の濃度が70%をこえると安定性が低下する傾向があることが記載されているのであるから、化合物(B)を他の塗料成分と使用前に混合した場合には取り扱いの困難等を伴う場合があることは予想されるところである。
そして、取り扱いの困難が予想される態様を避けることは当業者が当然に考えることである。
また、先願明細書にはその「水中で安定」の程度について定義がなされているわけでもない。
したがって、先願明細書には、塗料としての使用時に混合するという態様が含まれると解するのは自然であり、化合物(B)が水中で安定であると記載されているとの理由のみで、先願明細書に記載の化合物(B)は塗料として使用するよりも前に混合するものであるとすることはできない。
(d)先願明細書には、塗料の耐汚染性を評価する塗装による試験として、「実施例1 樹脂固形分40%のエマルジョン(A-1)50部と固形分40%の水溶性シリコン化合物水溶液(B-1)10部との混合物に、・・・を添加し、PWC(全固形分に対する顔料の重量%)40%、塗料固形分濃度50%の水性塗料(白エナメル)(a-1)を製造した(表2)。えられた白エナメルを、脱イオン水を用いて適当な塗装粘度に希釈したのち、スレート板にエアースプレーで塗装した。・・・えられた塗装板を用いて下記方法により耐汚染性・・・を評価した。 実施例2〜8、10 実施例1と同様にして、表2に記載の成分を表2に記載の割合で配合し、白エナメル・・・を製造した。・・・実施例1と同様にしてスレート板に塗装し・・・評価した。・・・ 実施例9 ・・・エマルジョン(A-5)45部と・・・と・・・水溶性シリコン化合物(B-3)水溶液10部)との混合物に・・・を配合し、・・・となるようにした水性塗料・・・を製造した(表2)。・・・実施例1と同様にしてスレート板に塗装し・・・評価した。・・・ 実施例13 ・・・水性シリコン系塗料(SK化研(株)製:コンポシリコン、・・・)100部に対し、・・・の水溶性シリコン化合物(B-4)水溶液10部と・・・を配合した水性塗料(・・・)を製造し(表3)・・・実施例1と同様にしてスレート板に塗装し・・・評価した。」(先願記載事項(と)参照)が記載されており、塗料の製造後、すぐに塗装試験が行われていると解するのが自然である。
そして、(a)において述べたように、本件発明1においては使用時に水を添加して混合する態様も含むのである。
してみると、先願明細書には、塗料の耐汚染性を評価する一連の塗装による試験の一工程として化合物(B)に水を添加して混合するという態様、すなわち、塗装という塗料の使用時に化合物(B)を混合するという態様が示されており、先願明細書には、化合物(B)を「使用時に混合する」という態様が記載されている。
したがって、上記相違点2は実質的な相違点であるとは認められない。

以上のとおりであるから、訂正発明1は先願発明2と同一であるといえる。

IV-2.訂正発明2について
先願明細書には、アルコキシシランの変性縮合物のポリオキシアルキレン基がポリオキシエチレン基及びアルコキシ基がエトキシ基であるものが記載されている(特許請求の範囲請求項11及び先願記載事項(さ)参照)から、上記と同様の理由により、訂正発明2と先願発明2とは同一であるといえる。

IV-3.訂正発明3について
訂正発明3は、合成樹脂エマルション(A)の固形分100重量部に対して、水性塗料用低汚染化剤(B)をSiO2換算で1.0〜40.0重量部使用時に添加すると共に、流通段階では、前記合成樹脂エマルション(A)含有成分と、前記水性塗料用低汚染化剤(B)の少なくとも2成分からなり、両者は使用時に添加される低汚染型水性塗料組成物に係るものである。
先ず、前記した先願発明1において、水性塗料用低汚染化剤である化合物(B)が、合成樹脂エマルション(A)の固形分に対して、SiO2換算にてどの程度添加されるのか検討する。
訂正明細書には「ここで、SiO2換算とは、アルコキシシランやシリケートなどのSi-O結合をもつ化合物が完全に加水分解した後に、900℃で焼成した際にシリカ(SiO2)となって残る重量分にて表したものである。・・・この反応式をもとに残るシリカ成分の量を換算したものである。実際の計算は、次式により行った。シリカ残量比率(SiO2換算値)=m×w/100 m:実際のアルコキシシラン変性縮合物又はアルコキシシラン化合物の添加量 w:アルコキシシラン変性縮合物又はアルコキシシラン化合物のシリカ残量比率(wt%)」(9頁21行〜10頁7行参照)と記載されている。
一方、先願明細書には「前記シリコン化合物等(b)を主成分とする水溶化せしめてなる化合物とは、該化合物にしめるシリコン化合物等(b)の含有率が30%以上、・・・95%以下・・・あることを意味する。」(先願記載事項(き)参照)と記載され、この記載に基づき、(B)成分中のシリコン化合物等(b)の含有率を30%以上、95%以下であるとし、先願明細書に例示されているテトラエトキシシランを用いて計算すると、化合物(B)としてのシリカ残量比率は、以下のとおり約8.6〜27%となる。
(SiO2)×1/(テトラエトキシシラン)=60/208≒0.288
0.288×30=8.6 0.288×95=27
これに基づいて上記計算式により計算すると、化合物(B)の配合割合が1重量部の場合、SiO2換算にて0.086〜0.27重量部、配合割合が100重量部の場合、SiO2換算にて8.6〜27重量部となり、化合物(B)の配合割合は、SiO2換算にて0.086〜27重量部となる。
したがって、訂正発明3と先願発明1とは、低汚染化剤の配合割合において重複する。
また、先願発明1は、流通段階で、前記合成樹脂エマルション(A)含有成分と、前記水性塗料用低汚染化剤(B)の少なくとも2成分からなり、両者が使用時に添加される点については、訂正発明1の相違点2の判断において述べたとおりである。
してみると、訂正発明3と先願発明1とは同一であるといえる。

IV-4.訂正発明4について
訂正発明4は、訂正発明3に係る低汚染化剤であるアルコキシシランの変性縮合物について、ポリオキシアルキレン基がポリオキシエチレン基であり、アルコキシル基がエトキシ基であることに限定するものであるが、上記したように、当該化合物は先願明細書に記載されているから、上記と同様の理由により、訂正発明4と先願発明1とは同一であるといえる。

IV-5.訂正発明5ないし9について
先願明細書には、(A)成分がアクリル樹脂、反応性シリル基含有アクリル樹脂、ウレタン架橋しうるアクリル系樹脂組成物、フッ素樹脂及びウレタン系樹脂、およびアクリル樹脂とシリコーン樹脂を併用したもの等のエマルジョンであることが記載されている(先願記載事項(か)参照。)から、上記と同様の理由により、訂正発明5ないし9と先願発明1とは同一であるといえる。

IV-6.訂正発明10について
訂正発明10は、訂正発明3の水性塗料用組成物の単なる使用方法に係る発明であるから、上記と同様の理由により、訂正発明10は先願明細書に記載された発明と同一であるといえる。

V.むすび
以上のとおりであるから、訂正発明1ないし10は先願明細書に記載された発明と同一であると認められ、しかも、訂正発明の発明者が先願の発明者と同一であるとも、また、本件出願の時にその出願人と先願の出願人とが同一であるとも認められないから、訂正発明1ないし10は、特許法第29条の2の規定により特許を受けることができないものであり、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。
したがって、この訂正は特許法第126条第4項の規定に適合するものでなく、当該訂正は認められない。
 
審理終結日 2002-12-11 
結審通知日 2002-12-16 
審決日 2002-12-27 
出願番号 特願平11-509664
審決分類 P 1 41・ 161- Z (C09D)
P 1 41・ 856- Z (C09D)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 近藤 政克  
特許庁審判長 雨宮 弘治
特許庁審判官 西川 和子
佐藤 修
登録日 2000-06-02 
登録番号 特許第3073775号(P3073775)
発明の名称 水性塗料用低汚染化剤、低汚染型水性塗料組成物及びその使用方法  
代理人 鈴木 崇生  
代理人 尾崎 雄三  
代理人 光吉 利之  
代理人 村田 美由紀  
代理人 梶崎 弘一  

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