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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H04R
管理番号 1072665
審判番号 不服2001-1330  
総通号数 40 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 1998-06-19 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2001-01-29 
確定日 2003-02-19 
事件の表示 平成 9年特許願第174962号「最適小波パケットおよび交差周波数帯消去を用いた副周波数帯反響消去装置」拒絶査定に対する審判事件[平成10年 6月19日出願公開、特開平10-164686]について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続きの経緯、本願発明
本願は、平成9年6月30日(パリ条約による優先権主張1996年6月28日、米国)の出願であって、その特許請求の範囲の請求項1〜5に係る各発明は、平成11年8月5日付け、平成12年9月14日付け、および平成13年2月21日付けの各手続補正書により補正された明細書および図面の記載からみて、それぞれ請求項1〜5に記載されるとおりのものであると認めることができるところ、これら発明のうち、請求項2に係る発明は次のとおりのものである。
「参照信号を、複数の参照小波パケットに分解する第1の小波分解部と、
前記参照信号の反響信号を、複数の反響小波パケットに分解する第2の小波分解部と、
前記複数の参照小波パケットを受信し、該複数の参照小波パケットを濾過し、それに対応して、前記反響小波パケットを複製した複数の濾過された小波パケットを生成する適応フィルタバンクと、
前記濾過された小波パケットのうちの1つをそれぞれ受信し、該濾過された小波パケットのうちの1つをそれぞれ前記反響小波パケットから減算し、それに対応して、前記反響小波パケットの連続した複製に対する前記適応フィルタバンクの伝達関数を修正するために、複数の誤差信号を生成し、該複数の誤差信号を前記適応フィルタバンクに適用する複数の減算器と、
前記複数の誤差信号を受信し、該複数の誤差信号を再構築することにより、前記参照信号の前記反響信号が消去された残留信号を形成する小波再構築部と
を含み、
前記適応フィルタバンクは、複数の横断フィルタを含み、該フィルタのそれぞれは、前記参照小波パケットのうちの1つをそれぞれ受信する信号入力部と、前記複数の濾過された小波パケットのうちの1つをそれぞれ生成する信号出力部と、前記誤差信号のうちの1つをそれぞれ受信し、それに対応して、前記伝達関数を修正する適応重み制御入力部とを有し、
前記横断フィルタのそれぞれは、信号電力に正規化された適応ステップサイズで、LMS構造を利用する
ことを特徴とする反響消去装置。」

2.引用例
これに対して、原査定の拒絶理由に引用された特開平3-265300号公報(平成3年11月26日公開、以下引用例という)には、名称を「反響消去装置」とする発明について次の記載がなされている。
(a)「この発明は、主として会議用拡声通話に適用され、ハウリングの原因及び聴覚上の障害となる反響を消去する反響消去装置、特に信号を周波数帯域分割して各帯域ごとに反響を消去する帯域分割形反響消去装置に関するものである。」(第1頁右下欄「産業上の利用分野」の項)
(b)「受話入力端子1から、受話信号x(t)を周波数帯域別のN個の信号xi(t)(i=1・・・・,N)に分割する周波数帯域分割回路2、これら分割された信号xi(t)を再び受話信号x(t)に合成する周波数帯域合成回路3を順次経てスピーカ4に至る受話系と、マイクロホン5から、その出力信号z(t)を周波数帯域分割回路2と同様にN個の信号zi(t)に分割する周波数帯域分割回路6、その各信号zi(t)から推定反響信号yi(t)を差し引く引算回路qi、これら引算回路qiの出力を合成する周波数帯域合成回路7を経て、送話出力端8に至る送話系とからなる通話系において、スピーカ4からマイクロホン5に至る反響路11を経て回り込む受話信号x(t)の反響信号y(t)と、近端送話音声である目的信号v(t)とがマイクロホン5で合成されて送話信号z(t)が形成される。一方、帯域分割された受話信号xi(t)はFIRフィルタ(中略)による帯域別の疑似反響路10iを経て帯域別推定反響信号y'i(t)を生成する。帯域分割された送話信号z(t)より推定反響信号y'i(t)を引算回路qiで差し引くことにより反響信号を取り除いた帯域別信号ei(t)が得られ、これらを帯域合成回路7で合成した信号e(t)は、(中略)近端送話音声(目的信号)v(t)に等しく、反響信号の消去という目的が達せられる。」(第1頁右下欄15行目〜第2頁右上欄4行目、第5図参照)

3.対比
[3.1]本願の請求項2に係る発明(以下これを本願発明という)と引用例記載のもの(以下これを引用発明という)とを対比すると、次のことが認められる。
(イ)両者はいずれも反響消去装置に係るもので、本願発明の反響消去装置も引用例の前掲記載(a)でいうのと同様の“帯域分割形反響消去装置”といえるものであることが明らかであるから、この点で両者は基本的に変わりがないものといえる。
(ロ)引用発明でいう「受話信号x(t)を周波数帯域別のN個の信号xi(t)(i=1・・・,N)に分割する周波数帯域分割回路2」は、本願発明の「参照信号を、複数の参照小波パケットに分解する第1の小波分解部」に相当する。
(ハ)引用発明では、マイクロホンからの出力信号z(t)を上記周波数帯域分割回路2と同様にN個の信号zi(t)に分割する周波数分割回路6を設けているところ、上記出力信号z(t)には、上記受話信号x(t)の反響信号y(t)が含まれているのであるから、上記周波数分割回路6は、本願発明でいう「前記参照信号の反響信号を、複数の反響小波パケットに分解する第2の小波分解部」といえるものである。
(ニ)引用発明の「FIRフィルタによる帯域別の疑似反響路10i」は、前記の帯域分割された受話信号xi(t)(参照小波パケット)から帯域別推定反響信号y'i(t)を生成するものであるところ、この推定反響信号y'i(t)が本願発明の適応フィルタバンクで生成する「前記反響小波パケットを複製した複数の濾過された小波パケット」に相当するものであることが明らかで、そうすると、引用例の上記「疑似反響路10i」と本願発明の上記「適応フィルタバンク」とは、いずれも「前記複数の参照小波パケットを受信し、該複数の参照小波パケットを濾過し、それに対応して、前記反響小波パケットを複製した複数の濾過された小波パケットを生成する」ものといえる。
(ホ)もっとも、本願発明では上記フィルタバンクを「適応」フィルタバンクとしているところ、この点は引用発明では開示がない。
(ヘ)引用発明の「引算回路qi」と本願発明の「減算器」とは、いずれも“前記濾過された小波パケットのうちの1つをそれぞれ受信し、該濾過された小波パケットのうちの1つをそれぞれ反響小波パケットから減算し、それに対応して、複数の誤差信号を生成」するものといえることが明らかである。
(ト)しかしながら、本願発明の上記減算器は、上記複数の誤差信号を「前記適応フィルタバンクの伝達関数を修正するために」「前記適応フィルタバンクに適用する」ようになされているところ、この点は引用発明では開示がない。
(チ)引用発明の「帯域合成回路7」は本願発明の「小波再構築部」に相当し、これと格別変わりがないものといえる。
(リ)上記適応フィルタバンクについて、本願発明で特定する具体的構成(複数の横断フィルタを含み、各横断フィルタが信号入力部,信号出力部,適応制御入力部を有しLMS構造を利用するようにした構成)は引用発明では開示がない。
[3.2]以上の対比結果によれば、本願発明と引用発明との一致点,相違点は次のとおりであると認めることができる。
【一致点】両者はいずれも、
「参照信号を、複数の参照小波パケットに分解する第1の小波分解部と、前記参照信号の反響信号を、複数の反響小波パケットに分解する第2の小波分解部と、前記複数の参照小波パケットを受信し、該複数の参照小波パケットを濾過し、それに対応して、前記反響小波パケットを複製した複数の濾過された小波パケットを生成するフィルタバンクと、前記濾過された小波パケットのうちの1つをそれぞれ受信し、該濾過された小波パケットのうちの1つをそれぞれ前記反響小波パケットから減算し、それに対応して複数の誤差信号を生成する複数の減算器と、前記複数の誤差信号を受信し、該複数の誤差信号を再構築することにより、前記参照信号の前記反響信号が消去された残留信号を形成する小波再構築部とを含む反響消去装置」であるといえる点。
【相違点】
(i)上記フィルタバンクが、本願発明では、「適応フィルタバンク」、具体的には「複数の横断フィルタを含み、該フィルタのそれぞれは、前記参照小波パケットのうちの1つをそれぞれ受信する信号入力部と、前記複数の濾過された小波パケットのうちの1つをそれぞれ生成する信号出力部と、前記誤差信号のうちの1つをそれぞれ受信し、それに対応して、前記伝達関数を修正する適応重み制御入力部とを有し」たものであり、これに伴い、上記減算器が上記複数の誤差信号を「前記適応フィルタバンクの伝達関数を修正するために」「前記適応フィルタバンクに適用する」ようになされているのに対し、この点は引用発明では開示がない点。
(ii)本願発明では、上記横断フィルタのそれぞれは、「信号電力に正規化された適応ステップサイズで、LMS構造を利用する」ものであるのに対し、この点も引用発明では開示がない点。

4.判断
[4.1]そこで以下上記相違点(i),(ii)について判断する。
[4.1.1]相違点(i)について
一般に反響消去(エコーキャンセリング)にトランスバーサル形適応等化器を用いることは常套技術であり〔例えば「電子情報通信ハンドブック」1990年4月30日オーム社発行、第1分冊pp917〜918「1.4適応信号処理」の項参照〕、本願発明の上記相違点(i)に係る構成は、要は、引用発明でのフィルタバンクを構成する各FIRフィルタとして上記常套のトランスバーサル形適応等化器(上記文献にも示されるようにFIR形フィルタの一種)を採用したという、設計事項として当業者が適宜なし得た程度の事項をいうにすぎないものと認められるから、かかる構成において本願発明が格別のものであるとすることはできない。
[4.1.2]相違点(ii)について
トランスバーサル形適応等化器での係数調整(フィルタ係数の適応調整)の一手法としてLMS法(フィルタ出力と目標値との差の2乗を最小とする係数調整法)を用いることは、前掲文献にも示されるように周知事項であり、また、そのような係数調整を適宜信号電力に応じたものとすることも設計事項であるから、本願発明が各横断フィルタ(トランスバーサル形適応等化器)について「信号電力に正規化された適応ステップサイズで、LMS構造を利用する」ものであるとしている点で格別のものであるとすることはできない。
[4.2]以上判断したとおり、本願発明における上記相違点(i),(ii)に係る構成は、いずれも当業者が設計上適宜採用し得たといえるものであり、また本願発明の効果についてみても、上記構成の採用に伴って当然に予測される程度のものにすぎず、格別顕著なものがあるとは認められない。

5.むすび
以上のとおりであるから、請求項2に係る本願発明は、引用例に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、したがって特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。それ故、本願の他の請求項に係る発明について検討するまでもなく本願は拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2002-09-18 
結審通知日 2002-09-24 
審決日 2002-10-08 
出願番号 特願平9-174962
審決分類 P 1 8・ 121- Z (H04R)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 松澤 福三郎  
特許庁審判長 杉山 務
特許庁審判官 小林秀美
小松 正
発明の名称 最適小波パケットおよび交差周波数帯消去を用いた副周波数帯反響消去装置  
代理人 志賀 正武  

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