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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) D04B
管理番号 1072904
審判番号 不服2000-6352  
総通号数 40 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 1999-01-12 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2000-04-28 
確定日 2003-01-30 
事件の表示 平成 9年特許願第514609号「電子制御給糸装置」拒絶査定に対する審判事件[平成 9年 4月17日国際公開、WO97/13906、平成11年 1月12日国内公表、特表平11-500500]について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 I.手続の経緯・本願発明
本願は、平成8年9月17日の出願であって、その請求項1ないし請求項22に係る発明は、平成11年12月8日付け、及び平成12年5月23日付け手続き補正書により補正された明細書および図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1ないし請求項22に記載された事項により特定されるとおりのものと認められるところ、請求項1に記載された発明(以下「本願発明」という)は、次のとおりである。

「糸が巻き掛けられ、所定の糸供給に使用されるように糸道に配設された糸車と、
該糸車を回転するための駆動装置と、
前記糸の実際の糸張力を検出し実際の糸張力信号を発生するための糸張力センサと、
該実際の糸張力信号と糸張力目標値を示す糸張力目標値信号とを受けて前記実際の糸張力を広範囲にわたって実質的に該糸張力目標値に較正して前記糸を送るように該駆動装置を制御する制御器と
を有し時間的に発生する糸消費量の急激な変動を伴う編機に実質的に前記糸張力目標値で前記糸を供給するための糸供給装置において、
前記制御器(15,16)は、前記実際の糸張力信号とは別の信号又は該実際の糸張力信号に代わる信号である該糸消費量の急激な変動に関する情報信号を受けて該糸消費量の急激な変動が発生するよりも所定時間前に前記糸車(13)の回転を変更して該糸消費量の急激な変動に対応した糸送りを行うように前記駆動装置(14)の駆動を制御し、該糸消費量の急激な変動が生じたときには前記糸(6)の前記実際の糸張力が実質的に前記糸張力目標値になっているようにすることを特徴とする給糸装置。」

II.引用例の記載事項
これに対して、当審の拒絶理由で引用した、米国特許第3858416号明細書(以下「引用例1」という)には、次の1-aないし1-eの事項が図面とともに記載されている(翻訳は当審による)。
1-a.(コラム2、56行〜コラム2、60行)
「図示するように、糸係合手段は、全体的に18で示す変速駆動手段に含まれる、駆動軸17に回転支持される積極把持給糸プーリ16であるのが好ましい。この変速駆動手段は、積極プーリ16を制御された速度で回転駆動し、所定パッケージより糸を引出して、編成のために針に供給する。」

1-b.(コラム3、56行〜コラム4、3行)
「張力の状態に応じた制御を達成するため、本件発明の構成には、さらに、糸12の経路上で、好ましくは編機のそばに配置された、張力センサ32が備わっている。張力センサには、連なった3本のピン34a,34b,34cがあり、糸は、その間を縫い、糸の張力が、センターピン34bに摩擦を生じるようになっている。差動トランスのような手段により、出力導体35に、糸12の張力と比例する電圧の電気信号が生じる。基準値手段36は、同時に出力導体38に、糸12の所望張力を表す基準電圧を供給する。」

1-c.(コラム5、9行〜コラム6、6行)
「1.回転駆動部材と、駆動手段により駆動される複数の布帛編成用の針と、編糸を針に供給するための少なくとも1つの糸パッケージを有する編機と組み合わせられる、以下の構成を含む給糸装置:
糸パッケージと針との間に配置され、編成のために供給される糸に積極的に係合する糸係合手段と、
該積極糸係合手段に連結され、パッケージから糸を引き出し、針に編成の必要に応じて供給するために、糸係合手段を回転駆動する変速駆動手段と、
該駆動手段に結合され、その回転速度を制御する第1制御手段と、
該駆動手段の回転を検出し、回転速度を示す第1信号を発生するタコメータ手段と、
回転駆動部材の回転を検出し、回転速度を示す第2信号を発生する回転手段と、
針と糸係合手段との間の糸張力を検出して、張力レベルを示す第3信号を発生する、糸の張力に応答して作動される糸張力手段と、
所望の張力レベルを示す第4信号を発生するための基準値手段と、
第1の制御手段と作動連結されるとともに、該タコメータ手段、該回転手段、該張力手段、該基準値手段と作動連結され、第1、第2信号間及び、第3,第4信号間の関係を選択するための切替手段を含み、該駆動手段の回転速度を、選択した信号の組の、予め設定した関係からの偏差に応じて変える第2の制御手段を含む手段であって、
針による編成の必要に応じて、糸パッケージより糸を引き出すようにした手段。」

1-d.(コラム2、13行〜コラム2、16行)
「この発明は、丸編機以外の種々の形式の編機にも、適用可能であることが理解できよう。」

1-e.(コラム4、33行〜コラム4、41行)
「比較回路42は、限定する意図はないが、例えば、入力導体41,48の電圧を比較するブリッジ回路で構成され、偏差信号を、第1の制御手段またはモータ制御手段を制御するために、導体24に出力する。かかる閉ループシステムによって、編機での編針による編成に必要な、糸12の、パッケージ14からの引き出しが達成される。」

また、同じく当審の拒絶の理由で引用した、特開平4-257352号公報(以下「引用例2」という)には、次の2-aないし2-eの事項が図面とともに記載されている。
2-a.(2ページ1欄2行〜34行)
「【請求項1】時間的に急速に変化する繊維消費量を有する、編目を形成する繊維機械において繊維を規制する方法であって、処理されるべき繊維を、個々の編目形成個所へ進入する前に繊維ストック源から編目形成個所への繊維走行経路上で繊維リザーブを形成しながら、繊維引き戻し手段を介して繊維消費量に依存してときおり引き戻すようにし、さらに前記繊維リザーブは次の編目形成工程において少なくとも部分的に再び解かれ、その際、処理すべき繊維の繊維張力は、編目形成個所へ繊維が進入される前に連続的に測定され、さらに得られた繊維張力実際値の測定値は調整装置へ導かれ、この調整装置は目標値と実際値との比較を行ない、さらに当該調整装置により制御される繊維制動器を用いて、ないし当該調整装置により制御され繊維走行経路において前記繊維制動器に後置接続された繊維引き戻し手段を用いて、編目形成工程中に制動および/または巻き戻しを行なうことにより、繊維張力を所定の繊維張力目標値に維持するようにした、編目を形成する繊維機械において繊維を制御する方法において、編目形成が一時的に中断された後で繊維供給を再開する際、繊維張力測定に依存しないスタート信号が繊維引き戻し手段に対して発生されるようにし、この信号の受信後、繊維引き戻し手段により繊維に加えられる繊維引き戻し力が高められ、さらに前記繊維引き戻し手段が繊維リザーブの形成とともに開始するようにし、該繊維リザーブの形成は遅くとも編目形成工程の開始とともに終了するようにし、さらに該繊維リザーブを形成する際、繊維張力は所定の最大値よりも小さく維持されており、さらに編目形成工程を開始する際、繊維制動器および繊維引き戻し手段は、繊維張力が所定の目標値へ設定調整されるように調整装置によって再び制御されるようにし、その際に前記繊維リザーブが解かれるようにしたことを特徴とする、編目を形成する繊維機械において繊維を制御する方法。」

2-b.(2ページ2欄41行〜3ページ3欄2行)
「【0002】
【従来の技術】平型編機の場合、さらに振り子行程で動作する丸編機の場合、ならびに編目を形成するそのほかの機械の場合にも、繊維ガイドの戻り位置における動作方向の折り返しの際に、編物幅を変更する際に、ないしは丸編機の旋回方向の折り返しの際に、必然的に繊維張力の変化が生じる。・・・つまり繊維張力の変動により、編地における不所望なむらが生じる。」

2-c.(3ページ4欄35行〜45行)
「【発明が解決しようとする課題】したがって本発明の課題は、編目を形成する繊維機械において以下のことを保証するようにした、繊維を制御する方法および装置を提供することにある。即ちこの方法および装置によって、例えば平型編機においてキャリッジの折り返し運動ごとに生じるような、編目形成の一時的な中断後の繊維供給再開時において、繊維リザーブ形成中も繊維張力を予め定められた値に維持し、あるいは迅速にその値になるようにし、その結果、編目形成工程を開始または継続する際、ただちに繊維が実質的に一定の張力で供給されることが保証されるようにする。」

2-d.(4ページ6欄32行〜45行)
「【0018】調整装置29は、張力測定装置21により受信された繊維張力実際値信号を所定の目標値と比較して、線路30,31を介してトルク発生器25および繊維制動器31へ相応の調整信号を送出し、編目形成工程中、繊維張力が編成個所において実質的に一定に目標値に維持されるように、トルク発生器25および繊維制動器31を制御することができる。
【0019】図5からわかるように調整装置29は、編機に配属されている制御装置32と接続されており、この制御装置32は繊維張力のための目標値発生器33を有しており、しかもこの制御装置32は線路34を介して、キャリッジ3が折り返し運動を行なうたびごとに編成動作のためのスタート信号を、繊維制動器16とトルク発生器25のための電子制御装置35へ供給する。」

2-e.(5ページ7欄29行〜42行)
「制御装置35は、繊維駆動装置37による駆動開始によりトリガされて機械制御装置32により送出されたスタート信号の受信後、線路39を介して繊維制動器16へ閉鎖信号を伝送する。・・・この直後にまたはこれと同時に、線路38を介して制御装置35から旋回アーム19のトルク発生器へ信号が伝送され、この信号の作用下で、トルク発生器25によって旋回アーム19へ加えられるトルクが次のように高められる。即ち、繊維走行経路上で何度も行なわれる繊維の方向変換とは無関係に、既にこの時点で繊維10において十分な繊維張力が保証されるように高められる。」

III.対比
上記記載事項1-aないし1-eより、引用例1には、編機用の給糸装置において、張力センサ32からの、糸張力を示す第3信号と、基準値手段36からの所定張力を示す第4信号とを第2の制御手段の比較回路42で比較し、その偏差信号を第1の制御手段に供給して、糸係合手段である積極把持給糸プーリ16の変速駆動手段18を、給糸張力が一定になるように制御するものが記載されている。

そこで、本願発明(以下「前者」という)と、上記引用例1に記載されたもの(以下「後者」という)とを対比すると、後者の「積極把持給糸プーリ16」、「変速駆動手段18」、「張力センサ32」は、それぞれ前者の「糸車」、「駆動装置」、「糸張力センサ」に相当する。
また、後者の「第1制御手段」及び「第2制御手段」は、糸張力信号を目標値である所望の張力信号と比較して、その偏差に応じて積極把持給糸プーリの駆動を制御するものであるので、前者の「制御器」に対応する。

そこで、本願発明の用語を用いて対比すると、両者は次の点で一致する。
「糸が巻き掛けられ、所定の糸供給に使用されるように糸道に配設された糸車と、
該糸車を回転するための駆動装置と、
前記糸の実際の糸張力を検出し実際の糸張力信号を発生するための糸張力センサと、
該実際の糸張力信号と糸張力目標値を示す糸張力目標値信号とを受けて前記実際の糸張力を広範囲にわたって実質的に該糸張力目標値に較正して前記糸を送るように該駆動装置を制御する制御器と
を有し編機に実質的に前記糸張力目標値で前記糸を供給するための給糸装置。」
そして、両者は次の点で相違する。
1.前者の給糸装置は、時間的に発生する糸消費量の急激な変動を伴う編機に、実質的に糸張力目標値で糸を供給するためのものであるのに対し、後者の給糸装置は、編機に、実質的に糸張力目標値で糸を供給するためのものであるが、対象とする編機が、時間的に発生する糸消費量の急激な変動を伴う種類のものであるか否か必ずしも明かでない点。

2.前者の制御器は、実際の糸張力信号とは別の信号又は実際の糸張力信号に代わる信号である糸消費量の急激な変動に関する情報信号を受けて、糸消費量の急激な変動が発生するよりも所定時間前に、糸車の回転を変更して、糸消費量の急激な変動に対応した糸送りを行うように、駆動装置の駆動を制御し、糸消費量の急激な変動が生じたときには、糸の実際の糸張力が実質的に糸張力目標値になっているようにするものであるのに対し、制御器に対応する後者の第1、第2制御手段は、そのようにはなっていない点。

IV.判断
上記相違点について検討する。
1.相違点1.について
引用例1の給糸装置は、実施例として丸編機に適用したものについて記載されているが、上記記載1-dにあるように、この給糸装置は、丸編機以外の種々の形式の編機にも適用可能なものであるので、これを、例えば引用例2の記載2-bに例示するような、キャリジの折り返し運動を行う平編機や、丸編機であっても、振り子行程で動作するもののような、糸消費量の急激な変動を伴うタイプの編機にも適用しようとすることは、当業者が容易に想到し得たことである。

2.相違点2.について
引用例2には、平型編機等の編機において、繊維ガイドの動作方向の折り返し等の際に、繊維張力が変化し、編地にむらを与える問題が指摘されており(記載事項2-b参照)、この発明が、上記折り返しのような、編目形成工程の開始または継続の際にも、繊維(糸)が実質的に一定の張力で供給されるようにすることを課題としている旨記載されている(記載事項2-c参照)。
そして、引用例2には、上記課題を解決する、繊維(糸)消費量が時間的に急変する編機に、一定の張力で給糸できるものが記載されている(記載事項2-a参照)。
すなわち、引用例2記載のものは、編目形成工程中は、張力測定装置21からの糸張力実際値信号を所定の目標値と比較して、張力調整手段を制御し、糸張力が編成個所において実質的に一定に目標値に維持されるようにする調整装置29を備えているが、さらに、このものは、キャリジ折り返しのような、糸消費量の急速な変動が見込まれる時点で、制御装置32より、これに対応する指令信号であるスタート信号を電子制御装置35へ供給するようにして、張力調整手段を、見込まれる糸消費量の急変に対応するように制御し、糸張力を実質的に一定に保持できるようにしたものである(記載事項2-d,2-e参照)
したがって、引用例2には、時間的に発生する糸消費量の急激な変動を伴う編機に実質的に糸張力目標値で糸を供給するための糸供給装置において、実際の糸張力信号とは別の信号である、糸消費量の急激な変動に関する情報信号であるところのスタート信号を受けて、糸消費量の急激な変動が発生する前に張力調整手段を制御して、該糸消費量の急激な変動が生じたときには、実際の糸張力が実質的に糸張力目標値になっているようにするという技術思想が、記載されていると認められる。
そして、引用例2記載の、具体的張力調整手段は、繊維制動器及び繊維リザーブを形成するための繊維引き戻し手段から構成されており、本件発明や、引用例1記載のもののような、回転駆動されて積極的に給糸を行う糸車(積極把持給糸プーリ)によるものとは異なっているが、上記技術思想は、張力調整手段をどのような方式で制御するかということに係るものであり、張力調整手段の具体的構成の相違を越えて適用可能なものであるので、かかる技術思想を引用例1記載のものに適用し、相違点2のようにすることは、当業者が容易に想到し得たことである。

なお、審判請求人は、当審の拒絶理由通知に対する意見書及び上申書において、スタート信号と糸消費量の急激な変動に関する情報信号とは、全く異なる信号である旨主張するが、引用例2記載のものでは、スタート信号発生後に、キャリジ折返しに起因する糸の弛みと、編成再開に起因する糸の消費という、糸消費量の急変及び、それに伴う、糸張力の急変が起こるのであるから、スタート信号は、まさに、本願発明の「糸消費量の急激な変動に関する情報信号」に相当するものである。
そして、積極把持給糸プーリによるものと、繊維制動器と繊維引き戻し手段によるものとの間で、繊維ガイドの折り返しによる糸消費量の急変に基づく張力変動の発生タイミングが異なっていたとしても、引用例2記載の技術思想を、引用例1記載のものに適用するにあたり、スタート信号に代え、その張力変動の発生タイミングに合った信号を用いるようにすることは、当業者が当然考慮し得た程度の事項にすぎないものである。
したがって、審判請求人の上記意見は採用できない。

V.むすび
したがって、本願の請求項1に係る発明は、引用例1及び引用例2に記載されたものに基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであると認められるので、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。
以上のとおりであるから、本願出願は、他の発明について検討するまでもなく、拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2002-08-19 
結審通知日 2002-08-27 
審決日 2002-09-09 
出願番号 特願平9-514609
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (D04B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 西山 真二  
特許庁審判長 吉国 信雄
特許庁審判官 市野 要助
山崎 豊
発明の名称 電子制御給糸装置  
代理人 木村 満  
代理人 芦田 哲仁朗  
代理人 木村 美穂子  

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