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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  B01D
審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  B01D
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  B01D
管理番号 1073156
異議申立番号 異議2001-70445  
総通号数 40 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 1997-11-11 
種別 異議の決定 
異議申立日 2001-02-09 
確定日 2002-12-09 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第3077020号「中空糸型分離膜モジュール」の請求項1ないし4に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 訂正を認める。 特許第3077020号の請求項1ないし3に係る特許を維持する。 
理由 1.本件の経緯
本件特許第3077020号は、平成8年4月25日の出願であって、平成12年6月16日(公報発行平成12年8月14日)に設定登録され、平成13年2月9日に林井津美から特許異議の申立を受けたものであって、その後平成13年5月29日(発送日平成13年6月8日)付で取消理由通知がなされ、その指定期間内である平成13年8月7日に訂正請求がなされたものである。

2.訂正の要旨
(1)訂正事項a:本件明細書中特許請求の範囲の【請求項1】を、「天然高分子又は合成高分子よりなる中空糸型分離膜を複数本結束し、当該中空糸型分離膜の結束開口端部にて中空糸型分離膜相互を熱可塑性樹脂素材であるシール部材を用いることにより、中空糸型分離膜の内側と外側を液密にシールしたシール部を有する中空糸型分離膜モジュールにおいて、前記中空糸型分離膜は、外表面に微細な凹凸よりなる支持層を有する精密濾過膜であり、この中空糸型分離膜の構成素材の溶融温度又は分解温度以下で、かつシール部材を構成する素材の溶融温度以上の温度範囲の条件を備え、中空糸型分離膜の結束開口端のシール部と中空糸型分離膜とを非相溶性にしておいて、シール部のみを溶融させて中空糸型分離膜が潰れることなく両者の接合界面が残存する半接合状態になる熱成形を行うと同時に、溶融したシール部材が前記精密濾過膜の外表面の微細な凹凸によりなる支持層へ侵入することによるアンカー効果を生じさせて物理的な液密シールを可能としたことを特徴とする中空糸型分離膜モジュール。」と訂正する。
(2)訂正事項b:本件明細書中特許請求の範囲の請求項2を削除するとともに、以降の請求項の項番を「1」ずつ繰り上げる。

3.訂正の適否についての検討
(1)上記訂正事項aは、「中空糸型分離膜」を「外表面に微細な凹凸よりなる支持層を有する精密濾過膜」に限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とした訂正に該当する。
そして、中空糸型分離膜として、外表面に微細な凹凸よりなる支持層を有する精密濾過膜を使用することは、本願特許明細書の段落【0015】に記載された事項であり新規事項の追加に該当しない。
(2)上記訂正事項bは、請求項の削除であるから、特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正に該当する。
また、これらの訂正事項は、いずれも実質的に特許請求の範囲を拡張又は変更するものでもない。
したがって、上記訂正は、特許法第120条の4第2項及び第3項において準用する特許法第126条第2項から第4項までの規定に適合するものであるから、当該訂正は認める。

4.特許異議申立人の主張の概要
特許異議申立人は、下記甲第1〜5号証を提出し、訂正前の本件請求項1、3〜4に係る発明は、甲第1号証に記載された発明であるか、甲第1〜4号証の記載に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、請求項2に係る発明は、甲第1〜5号証の記載に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第1項第3号若しくは同条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、請求項1〜4における「非相溶性」の判断をどのようにして行うかが、当業者が容易に実施できる程度に発明の詳細な説明に記載されていないので、本件特許明細書は特許法第36条第4項に規定する要件を満たしていないものであるから、本件請求項1〜4に係る特許は、同法第113条第1項第2号ないし同項第4号の規定により取り消されるべきものである旨主張している。

甲第1号証:特開平4-63117号公報
甲第2号証:特開平2-164425号公報
甲第3号証:特公昭52-10915号公報
甲第4号証:特開平1-231905号公報
甲第5号証:特開昭59-62304号公報
5.特許異議申立人の主張についての検討
5-1.本件特許明細書の記載不備について
本件特許明細書には、【発明が解決しようとする課題】として「中空糸型分離膜の結束開口端のシール部においてシール部を構成する素材を熱可塑性樹脂とし、かつ中空糸型分離膜と同一素材又は相溶性のある樹脂を用いる例が示されている。しかしながら、この方法においては、中空糸型分離膜の結束端のシール部において中空糸型分離膜が完全に溶融してしまう為、中空糸型分離膜が熱劣化又は多孔性を失うことにより柔軟性を失ってしまう。」(第2頁4欄14〜21行)と記載され、【課題を解決する手段】として「中空糸型分離膜の結束開口端のシール部と中空糸型分離膜とを非相溶性にしておいて、中空糸型分離膜が潰れることなく両者の接合界面が残存する半接合状態になる熱成形を行う」と記載されているのであるから、これらの記載から、本件発明でいう「非相溶性」とは、熱成形の際、溶融して多孔性を失うことがなく、中空糸型分離膜の結束開口端のシール部と中空糸型分離膜との接合界面が残存する半接合状態になるようなものを意味することは明らかであり、異議申立人の主張する記載不備は存在しない。
したがって、この点に関する異議申立人の主張は採用しない。

5-2.本件発明の新規性進歩性についての検討
5-2-1.本件発明の認定
本件発明は、上記のとおり訂正が認められるから、平成13年4月3日付訂正請求書に添付された明細書の請求項1ないし3に記載された事項により特定された次のとおりのものである(以下「本件発明1」ないし「本件発明3」という)。
「【請求項1】天然高分子又は合成高分子よりなる中空糸型分離膜を複数本結束し、当該中空糸型分離膜の結束開口端部にて中空糸型分離膜相互を熱可塑性樹脂素材であるシール部材を用いることにより、中空糸型分離膜の内側と外側を液密にシールしたシール部を有する中空糸型分離膜モジュールにおいて、前記中空糸型分離膜は、外表面に微細な凹凸よりなる支持層を有する精密濾過膜であり、この中空糸型分離膜の構成素材の溶融温度又は分解温度以下で、かつシール部材を構成する素材の溶融温度以上の温度範囲の条件を備え、中空糸型分離膜の結束開口端のシール部と中空糸型分離膜とを非相溶性にしておいて、シール部のみを溶融させて中空糸型分離膜が潰れることなく両者の接合界面が残存する半接合状態になる熱成形を行うと同時に、溶融したシール部材が前記精密濾過膜の外表面の微細な凹凸によりなる支持層へ侵入することによるアンカー効果を生じさせて物理的な液密シールを可能としたことを特徴とする中空糸型分離膜モジュール。
【請求項2】中空糸型分離膜が最大孔径0.01〜5μmである微細多孔性中空糸型分離膜である請求項1記載の中空糸型分離膜モジュール。
【請求項3】熱可塑性樹脂よりなるシール部材の材質がポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン系樹脂である請求項1記載の中空糸型分離膜モジュール。」

5-2-2.取消理由通知に引用された刊行物記載の発明
ア.刊行物1(甲第1号証)
ア-1.「高分子材料よりなる複数の中空糸膜を結束し、結束端部において中空糸膜相互の隙間を封止剤によって封止する方法において、(1)(原文はマル付き数字、以下の括弧付き数字も同じ)中空糸膜を構成する第1のオレフィン系樹脂の融点より低温域に融点を有する封止剤を構成する第2のオレフィン系樹脂の微粉末に、これを流動させるための液体を加え高濃度懸濁液を調製する。(2)中空糸膜を結束し、結束端部を該高濃度懸濁液に浸漬する。(3)少なくとも中空糸膜結束端部の温度が中空糸膜を構成する第1のオレフィン系樹脂の融点以下で、かつ封止剤を構成する第2のオレフィン系樹脂の融点以上の温度になるよう加熱する。(4)中空糸膜結束端部において、微粉末流動化の為に混ぜた液他が蒸発し、かつ封止剤微粉末が溶融流動状態になった後、常温まで徐冷固化させる。以上の工程により中空糸膜結束端部の中空糸膜相互の間隔を封止して組み立てられることを特徴とする中空糸型膜分離ユニットの製造方法。」(特許請求の範囲第3項)
ア-2.「この為、中空糸型膜分離ユニットの場合、中空糸膜の結束端部における中空糸膜相互の隙間を埋める公知の手段としては、2種類の液体を混合させ反応により硬化させるウレタン樹脂やエポキシ樹脂を用いる手段が実施されているのみであった。
【発明が解決しようとする課題】このため、従来の中空糸型膜分離ユニットにおいては耐溶剤性、耐薬品性、耐水溶性を要求された場合、どんなに十分な耐性を有する膜材質、例えばポリテトラフロロエチレン等の弗素樹脂製膜等を選定しても封止剤であるウレタン樹脂、エポキシ樹脂などの材質に分離ユニット自体の特性も左右されてしまっていた。このため平板型膜分離ユニットに比較して小型化が可能な優位性を有しながら中空糸型膜分離ユニットの用途が制限されているのが実情であった。本発明は、このような中空糸型膜分離ユニットの有する課題について着目し、中空糸膜及び中空糸膜結束端部における中空糸膜相互の隙間を封止する封止剤をいずれも耐薬品性、耐溶剤性に比較的優れた素材を採用することにより分離ユニット全体が耐溶剤性、耐薬品性等に優れ、しかも、安価で小型化を可能とした中空糸型膜分離ユニットを提供することを目的としている。」(第2頁左下欄11行〜右下欄14行)
ア-3.「ここで、実施例1の製造方法の具体例を第3図A〜Dに従って説明する。(1)(原文はマル付き数字、以下の括弧付き数字も同じ)第1図における分離ユニットは、第1のオレフィン系樹脂であるポリプロピレン製中空糸膜(最大孔径=0.1μm、内径=270μm、外径=400μm)1を300本、長さ200mmの束でポリプロピレン製ハウジング3内にU字型に結束して収納することにより構成するが、その方法は次の通りである。(2)第2のオレフィン系樹脂であるポリエチレン微粉末(粒径=100〜500μm、メルトインデックス=80)16を、適量ガラス製ビーカ(または金型)15に入れ、ほぼ同要量の精製水(水:エタノール=1:1)17を加え撹拌18する。(3)次に、エチルアルコールを少量づつ添加しながら浮遊しているポリエチレン微粉末の比重と水-アルコール混合溶媒の比重がほぼ同じになり微粉末が浮遊状態になるまで加える。(4)ポリエチレン微粉末と混合溶液の比重調整が終わったら、更に適量のポリエチレン微粉末を加え粘度調整を行なう。
(5)これを封止剤ドープとし、ステンレス製カップ15aにドープ19を適量流し込み、中空糸膜1の予め目止めに施した結束端部を浸漬する。(6)この状態を保持しつつ、ポリプロピレンの融点以下で、かつポリエチレンの融点以上の温度、好ましくは水-エチルアルコール混合液が突沸しない110〜120℃に加温したオーブンに放置する。(7)水-アルコールが蒸発後、ポリエチレン微粉末が溶融流動状態になった時点で、オーブンより取り出して常温にて徐冷固化させる。(8)分離ユニットとして仕上げる為、常法により端面をスライスし中空糸膜7の両開口端を露出させた。」(第3頁右下欄8行〜第4頁左上欄末行)
ア-4.「実施例2・・・・(7)水-アルコールの混合液が蒸発した後、プレートヒータの温度を120℃に昇温し、ポリエチレン微粉末が流動したら約3時間保持し、常温にて冷却放置する。」(第4頁右上欄1行〜右下欄6行)
ア-5.第5頁第1図、第2図には、実施例の中空糸型膜分離ユニットが図示されている。
イ.刊行物2(甲第2号証)
イ-1.「均質膜状中空糸には膜表面に凹凸が無いことから、中空糸の端部をポッティング剤で固定する際に予め表面処理しておくことが必要」(第1頁右欄16〜19行)
イ-2.「多孔質膜層(B)は主に均質膜層(A)を補強し保護する役割を有すると共に、膜モジュール製作時に中空糸膜端部とポッティング剤との接着性を高める役割を有する」(第2頁右上欄13〜16行)
ウ.刊行物3(甲第3号証)
ウ-1.「2.再生セルロース、酢酸セルロース、硝酸セルロース、ポリ塩化ビニル、ポリ弗化エチレン、ナイロン、ポリアクリロニトリルおよびその共重合体のうち少なくとも一種から構成される孔径0.01μ〜100μ、空孔率20%以上の多孔フィルムを積層し、その間に接着すべき所要の個所に合わせて作製した溶融温度が多孔フィルムの分解および軟化点より低い熱可塑性ポリマーよりなる枠フィルムを挿入し、しかる後、該枠フィルムの軟化点以上、多孔フィルムの分解あるいは軟化点以下に加熱し、圧縮荷重を負荷せしめて枠フィルム部分のみを接着せしめることを特徴とする多孔性フィルム積層フィルターの製造法。」(特許請求の範囲第2項)
ウ-2.「本発明方法で得られた接着物に見られる特徴は該多孔フィルムの孔の中に枠フィルムが流入し、強固な接合を作っている点である。」(第2頁4欄22〜24行)
ウ-3.「実施例1 アセテート(酢化度54%、粘度平均重合度190)の多孔フィルム(空孔率75%、穴直径、0.6μ)間に接着すべき個所に合わせて作製したポリエチレンフィルム(厚さ0.25mm)をセットした。成型温度130℃、圧縮荷重を圧縮機によって100Kg/cm2負荷する。負荷後室温まで冷却し多孔フィルムを取り出す。得られたものは接着されており、接着個所は透明になっている。」(第3頁5欄14〜22行)
エ.刊行物4(甲第4号証)
エ-1.「中空糸束の開口端の少なくとも一端が、開口状態を保持したまま、ポッティング材により密着固定されている中空糸束組立体に於いて、該中空糸束が多数の多孔質ポリオレフィン中空糸膜からなり、該ポッティング材がエポキシ樹脂とポリアミド樹脂との反応硬化物であることを特徴とする中空糸束組立体。」(特許請求の範囲)
エ-2.「本来接着性のない多孔質ポリオレフィン中空糸膜の端部のシール材として充分使用できる。用いられるポリアミド樹脂は、75℃程度の温度に於いて70ポイズ以下、好ましくは50ポイズ以下程度の粘度のものが、得られるポッティング材の流動性が良好であって、中空糸膜間及び多孔質層内に充分侵入して、充分なアンカー効果を発揮しシールが完全となるために好ましい。」(第3頁左上欄1〜8行)
オ.刊行物5(甲第5号証)
オ-1.「内側及び/又は外側の表面に長手方向に沿ってシワを有し且つ該シワを有する内側又は外側は選択透過能を有している選択透過性中空糸膜。」(特許請求の範囲第1項)
オ-2.「選択透過性を有するスキン層とそれに接する多孔質層からなる特許請求の範囲第1項記載の中空糸膜。」(特許請求の範囲第2項)
5-2-3.対比・判断
(1) 本件発明1について
記載ア-1における「封止剤」が本件発明1における「シール部材」に相当し、「オレフィン系樹脂」は熱可塑性樹脂であって、いわゆる合成高分子にあたり、記載ア-3の実施例1において使用される中空糸膜の最大孔径は0.1μmであるから、該中空糸膜は精密濾過膜であると解される。
したがって、刊行物1に記載される発明を本件発明1の表現振りに即して記載すると、「合成高分子よりなる中空糸型分離膜を複数本結束し、前記中空糸型分離膜は精密濾過膜であり、当該中空糸型分離膜の結束開口端部にて中空糸型分離膜相互を熱可塑性樹脂素材であるシール部材を用いることにより、中空糸型分離膜の内側と外側を液密にシールしたシール部を有する中空糸型分離膜モジュールにおいて、中空糸型分離膜の構成素材の溶融温度又は分解温度以下で、かつシール部材を構成する素材の溶融温度以上の温度範囲の条件を備えたことを特徴とする中空糸型分離膜モジュール」ということになる。
そこで本件発明1と刊行物1記載の発明とを対比すると、両者は上記の点で一致し、以下の点で相違する。
相違点a:精密濾過膜が、本件発明1では外表面に微細な凹凸よりなる支持層を有しているのに対し、刊行物1には、膜の微細構造についての記載がない点
相違点b:本件発明1では、中空糸型分離膜の結束開口端のシール部と中空糸型分離膜とを非相溶性にしておいて、シール部のみを溶融させて中空糸型分離膜が潰れることなく両者の接合界面が残存する半接合状態になる熱成形を行っているのに対し、刊行物1には、かかる点について具体的な記載がない点
相違点c:本件発明1では、熱成形を行うと同時に、溶融したシール部材が前記精密濾過膜の外表面の微細な凹凸によりなる支持層へ侵入することによるアンカー効果を生じさせて物理的な液密シールを可能としているのに対し、刊行物1には、かかる点について具体的な記載がない点
上記相違点につき検討する。
相違点aについて:一般に精密濾過膜では濾過すべき液側が緻密層となるようにして使用されるのが普通であり、記載イ-5によれば、刊行物1における中空糸型膜分離ユニットは、第2図のように緻密層を中空糸の内側、すなわち微細な凹凸よりなる支持層を外表面側にして使用することも想定していることは明らかである。
したがって、記載ア-3、記載ア-4において、微細な凹凸よりなる支持層を外表面側にして使用することは記載されているに等しいか、少なくとも第2図の記載から当業者が容易に実施することができたものである。
相違点bについて:記載ア-3に記載される実施例1に記載される分離ユニットは、本件特許明細書に記載される実施例1と、中空糸の材質(ポリプロピレン)、シール部の材質(ポリエチレン)、加熱温度(120℃)で一致しており、刊行物1に記載される分離ユニットも、シール部と中空糸型分離膜とが非相溶性であって、シール部のみを溶融させて中空糸型分離膜が潰れることなく両者の接合界面が残存する半接合状態になっているものと解される。
相違点cについて:刊行物1には、溶融したシール部材が精密濾過膜の外表面の微細な凹凸によりなる支持層へ侵入することによるアンカー効果について記載がないばかりか、記載ア-3においてシール部材として使用されるポリエチレンの粘度が、約150℃で30,000ポイズ(特許権者が提出した乙第1号証参照)であることを考慮すると、記載ア-3及び記載ア-4にあるように「ポリエチレン微粉末が溶融流動状態になった時点で、オーブンより取り出して常温にて徐冷固化」したり、「ポリエチレン微粉末が流動したら約3時間保持し、常温にて冷却放置」する程度で、高粘度の溶融ポリエチレンが中空糸膜の外表面の微細な凹凸によりなる支持層へ、アンカー効果を生ずるほど侵入していると解することはできない。
一方、刊行物4には、中空糸膜の端部のシール材としてポリアミド樹脂などを使用し、中空糸膜の多孔質層内に充分侵入して、アンカー効果を発揮させることが記載されているが、係る方法は本件発明の従来技術に該当するものであり、該ポリアミド樹脂は75℃程度の温度において70ポアズ以下なのであるから、前述のように溶融状態で高粘度のポリエチレンをシール材として使用する場合に適用できることを示唆するものではない。
また、刊行物3には、多孔フィルムにポリエチレンからなる枠フィルムを積層し、枠フィルムの軟化点以上、多孔フィルムの分解あるいは軟化点以下に加熱し、圧縮荷重を負荷せしめて多孔フィルムの孔の中に枠フィルムを流入させ、強固な接合を作ることが記載されているが、これは高圧荷重を負荷することを前提とする平膜に関する技術であって、このような高圧荷重を負荷することが不可能な中空糸束の端部のシールに適用することを示唆するものではない。
さらに、刊行物2には、中空糸束の端部をポッティング剤で固定する際、多孔質層が中空始祖於く端部とポッティング剤との接着性を高めるという、一般的な記載が、また刊行物5には、スキン層に接して多孔質層からなる中空糸膜の記載があるにとどまる。
そして、本件発明は、溶融したシール部材が前記精密濾過膜の外表面の微細な凹凸によりなる支持層へ侵入することによるアンカー効果を生じさせて物理的な液密シールを可能としたことにより、中空糸型分離膜の本来の物性を失うこと無く化学的、物理的な侵襲に対して、従来の中空糸型分離膜モジュールと比べて高い耐性を有する中空糸型分離膜が得られるという、本件特許明細書記載の効果が奏せられるのである。
よって、本件発明1は、刊行物1に記載された発明とはいえず、また、刊行物1ないし5に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものともいえない。
(2) 本件発明2ないし3について
本件発明2ないし3は、本件発明1を引用する発明であるから、本件発明1と同じ理由で、刊行物1に記載された発明とはいえず、また、刊行物1ないし5に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものともいえない。
6.結び
以上のとおりであるから、本件発明1ないし3に係る特許は、特許異議申立の理由および証拠によっては取り消すことができない。
また、他に訂正後の本件発明1ないし3に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
中空糸型分離膜モジュール
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】 天然高分子又は合成高分子よりなる中空糸型分離膜を複数本結束し、当該中空糸型分離膜の結束開口端部にて中空糸型分離膜相互を熱可塑性樹脂素材であるシール部材を用いることにより、中空糸型分離膜の内側と外側を液密にシールしたシール部を有する中空糸型分離膜モジュールにおいて、前記中空糸型分離膜は、外表面に微細な凹凸よりなる支持層を有する精密濾過膜であり、この中空糸型分離膜の構成素材の溶融温度又は分解温度以下で、かつシール部材を構成する素材の溶融温度以上の温度範囲の条件を備え、中空糸型分離膜の結束開口端のシール部と中空糸型分離膜とを非相溶性にしておいて、シール部のみを溶融させて中空糸分離膜が潰れることなく両者の接合界面が残存する半接合状態になる熱成形を行うと同時に、溶融したシール部材が前記精密濾過膜の外表面の微細な凹凸によりなる支持層へ侵入することによるアンカー効果を生じさせて物理的な液密シールを可能としたことを特徴とする中空糸型分離膜モジュール。
【請求項2】 中空糸型分離膜が最大孔径0.01〜5μmである微細多孔性精密濾過膜である請求項1記載の中空糸型分離膜モジュール。
【請求項3】 熱可塑性樹脂よりなるシール部材の材質がポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン系樹脂である請求項1記載の中空糸型分離膜モジュール。
【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、電子工業、食品工業、飲料工業、医薬品工業、発酵工業、光学工業、医療、精密工業等において使用される種々の流体に対し逆浸透、限外濾過、精密濾過、気体分離等の様々な分離膜を用いた流体処理用の中空糸型分離膜モジュールに関する。
【0002】
【従来の技術】
通常、逆浸透膜、限外濾過膜、精密濾過膜、気体分離膜、透析膜等に代表される機能性高分子膜を利用し種々の流体処理を行なう場合、分離器としてモジュール化を行なう必要がある。前記膜の形状としては平板状分離膜、チューブラー状分離膜、中空糸状分離膜等があり、膜形状によりモジュール形状はそれぞれ異なる。
【0003】
モジュールの具体的な形状として、先ず、平板状分離膜の場合、実公昭55-49076号公報に示されるように、平板状を円盤状に打ち抜き、そのままホルダーに装着して使用する形態、また、特開昭60-58208号公報に示されるように、平板分離膜をプリーツ状に折り曲げた後、チューブ状に膜端を接合しチューブ端をシール材により両端開口端を封止した形態のもの、更には、特公昭63-28654号公報に示されるように、平板状分離膜を円盤状に打ち抜いた後、膜支持体に周縁を接合し、これをユニットとして積層した形態等がある。
【0004】
そして、中空糸状分離膜の場合は、実開平5-56227号公報、特開平6-170179号公報に示されるように中空糸状分離膜を複数本結束し、当該結束開口端部において中空糸状分離膜相互をシール材にて液密にシールした形態がある。
上記の中空糸状分離膜を用いたモジュールは、平板状分離膜やチューブラー状分離膜を用いたモジュールに比べ、膜支持体が不要である為、モジュール単位容積当たりの有効膜面積が多くとれる。特に、中空糸状分離膜の内面は大気に暴露されない為、清浄に保ちやすく、内面を流体処理の二次側とすることにより処理流体の清浄性が高く、また、クロスフロー用モジュールの製作が容易である等多くの長所を有している。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、反面、この中空糸状分離膜をモジュール化する場合には、前記のごとく複数の中空糸型分離膜を結束し、中空糸型分離膜の結束開口端部において流体の一次側と二次側を液密に遮断する必要があり、この為には多数の中空糸型分離膜相互の間隙を確実にシールしなければならない。
【0006】
従来、これを行なう方法としては、ポリウレタン、エポキシ樹脂など流動性が高く、二液を混合することにより反応硬化するタイプの樹脂、いわゆるポッティング材を注型する方法が一般的である。しかし、対象処理流体として酸アルカリ等の薬品類、アルコール類、ケトン類、エステル類、芳香族系炭化水素、塩素系溶剤等化学的に活性が高い場合、使用条件として温度、圧力等の物理的、機械的に苛酷な場合等のように化学的、物理的な侵襲を受ける場合には、シール部において二液硬化型シール部の材質自身及び接合強度の問題により、亀裂、剥離などが起こりやすく耐性が低いものであった。この為、中空糸型分離膜モジュールは、対象流体及び使用条件において適用範囲が狭く、平板状分離膜やチューブラー状分離膜によるモジュールに比べ多くの長所を有しながらも、反面流体処理モジュールとしては大きな課題を有していた。
【0007】
このような状況において、特開平1-164406号公報や特開平1-281104号公報等に示されるように、中空糸型分離膜の結束開口端のシール部においてシール部を構成する素材を熱可塑性樹脂とし、かつ中空糸型分離膜と同一素材又は相溶性のある樹脂を用いる例が示されている。しかしながら、この方法においては、中空糸型分離膜の結束端のシール部において中空糸型分離膜が完全に溶融してしまう為、中空糸型分離膜が熱劣化又は多孔性を失うことにより柔軟性を失ってしまう。この為、中空糸型分離膜とシール部材の液密完全性は高まるが、反面シール部材に埋没する付け根部分の中空糸型分離膜が脆弱になり化学的、物理的な侵襲により亀裂を生じやすくなる。
【0008】
更に、シール部に埋没した中空糸型分離膜自身の柔軟性が失われることにより、モジュールが化学的、物理的な侵襲を受けた場合、シール部材の膨張、又は収縮を吸収する部分がない為、シール部材自身又は中空糸型分離膜自身が破裂方向に亀裂を生じやすい等の種々の問題があった。
本発明は、上記の従来の課題点に鑑みて鋭意検討を行なった結果、開発に至ったものであり、その目的とするところは、種々の化学的、物理的な侵襲に対して高い耐性を有する中空糸型分離膜モジュールを提供することにある。
【0009】
【課題を解決するための手段】
上記の目的を達成するため、本発明は、天然高分子又は合成高分子よりなる中空糸型分離膜を複数本結束し、当該中空糸型分離膜の結束開口端部にて中空糸型分離膜相互を熱可塑性樹脂素材であるシール部材を用いることにより、中空糸型分離膜の内側と外側を液密にシールしたシール部を有する中空糸型分離膜モジュールにおいて、前記中空糸型分離膜は、外表面に微細な凹凸よりなる支持層を有する精密濾過膜であり、中空糸型分離膜の構成素材の溶融温度又は分解温度以下で、かつシール部材を構成する素材の溶融温度以上の温度範囲の条件を備え、中空糸型分離膜の結束開口端のシール部と中空糸型分離膜とを非相溶性にしておいて、シール部のみを溶融させて中空糸分離膜が潰れることなく両者の接合界面が残存する半接合状態になる熱成形を行うと同時に、溶融したシール部材が前記精密濾過膜の外表面の微細な凹凸によりなる支持層へ侵入することによるアンカー効果を生じさせて物理的な液密シールを行うことにより、中空糸型分離膜の軸方向及び破裂方向の柔軟性を低下させることなく、化学的、物理的侵襲に対する優れた耐性を有する中空糸型分離膜モジュールを得ることができた。
【0010】
【0011】
また、中空糸型分離膜の材質は、セルローズ、セルローズエステル、ポリサルフォン、ポリエーテルサルフォン、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリアミド、ポリアクリロニトリル等天然高分子又は合成高分子よりなるものが良く、更に、金属、ガラス、セラミックス等のように無機素材も可能であるが、中空糸型分離膜自身に柔軟性のある高分子素材が有効である。シール部材としては熱可塑性樹脂であれば特に限定されるものではないが、ポリエチレン、ポリプロピレン等オレフィン系樹脂が溶融温度における流動性がよい樹脂が好ましい。また、分子構造的にポリエチレンやポリプロピレンに類似した構造を有するFEP、ETFE、PFA等弗素系樹脂も好ましい。
【0012】
中空糸型分離膜は、その構成素材の溶融温度よりシール部材である構成素材の溶融温度が低く、素材相互は相溶性がない。シール部材である構成素材の溶融温度は、中空糸型分離膜の構成素材の溶融温度以下、好ましくは中空糸型分離膜の構成素材の軟化温度以下である。
【0013】
【発明の実施の形態】
以下に、本発明の好ましい実施の形態について説明する。
本発明は、天然高分子又は合成高分子よりなる中空糸型分離膜を複数本結束し、当該中空糸型分離膜の結束開口端部にて中空糸型分離膜相互を熱可塑性樹脂素材であるシール部材を用いることにより、中空糸型分離膜の内側と外側を液密にシールしたシール部を有する中空糸型分離膜モジュールにおいて、中空糸型分離膜の構成素材の溶融温度又は分解温度以下で、かつシール部材を構成する素材の溶融温度以上の温度範囲の条件を備え、中空糸型分離膜の結束開口端のシール部と中空糸型分離膜とを非相溶性にしておいて、中空糸型分離膜が潰れることなく両者の接合界面が残存する半接合状態になる熱成形を行うと同時に、溶融したシール部材が中空糸型分離膜へアンカー効果を生じさせる熱成形を行うようにした。
【0014】
この場合、中空糸型分離膜が内面に平滑なスキン層を有し、外表面に微細な凹凸よりなる支持層を有する逆浸透膜、限外濾過膜、気体分離膜等の非対称性中空糸型分離膜であるとよく、また、中空糸型分離膜が最大孔径0.01〜5μmである微細多孔性中空糸型分離膜であるのが好ましい。更に、熱可塑性樹脂よりなるシール部材の材質がポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン系樹脂又はPFA、ETFE、FEP等の弗素樹脂であるのが好ましい。
【0015】
一般に、射出成形や押し出し成形等の成形法により成形された熱可塑性樹脂相互を熱により溶着する場合は、接着部材相互の相溶性が必須であるが、逆浸透膜、限外濾過膜のようにスキン層と支持層とから構成される非対称膜の場合、中空糸型分離膜の内面のスキン層は比較的平滑であるが、外面は微細な凹凸を有する支持層である場合が多く、また、微細多孔性の精密濾過膜も同様に中空糸型分離膜の外表面は微細な凹凸を有している。このため、シール部材との相溶性が無い場合でも、シール部材が前記微細な凹凸に侵入することによるアンカー効果により物理的に十分な液密シールが可能となる。
【0016】
従って、中空糸型分離膜の結束開口端部において、熱可塑性樹脂を用いたモジュールの場合、同一素材又は相溶性樹脂を用い完全に相互を溶融させるよりは、シール部材のみを溶融させ、中空糸型分離膜とシール部材の接合界面を明確に残存させることにより、中空糸型分離膜のシール部材埋没部及び付け根付近においても中空糸型分離膜に対する熱による劣化の影響を最小限に抑えると共に、中空糸型分離膜本来の柔軟性が失われないため、化学的及び物理的な侵襲に耐性が高く、かつ中空糸型分離膜の結束開口端シール部の確実なシールが確保される。
【0017】
中空糸型分離膜の結束開口端部の成形手段としては、▲1▼シール部材を構成する素材の微細な粉末をアルコール等に懸濁させペースト状に練った後、中空糸型分離膜結束開口端部を前記ペーストに押し込み、中空糸型分離膜の構成素材の溶融温度以下、シール部材の溶融温度以上の雰囲気下でべーキングし溶融後、冷却する方法、▲2▼予め、シール部材となる樹脂を凹状金型内で溶融させ、中空糸型分離膜結束開口端を封止後挿入し、冷却する方法、又は、▲3▼ポリウレタン、エポキシ樹脂等従来のシール材同様に溶融したシール部材を注型する方法等がある。
【0018】
【実施例】
次に、本発明における中空糸型分離膜モジュールの実施例を比較例とともに詳述する。
〈比較例1〉
最大孔径0.1μm、外径400μm、内径250μmのポリプロピレン製中空糸型分離膜590本を結束し、ポリカーボネート製円筒型外筒に装着し、従来法によりウレタン樹脂をシール材とし遠心注型によりモジュールを成形した。結果物をイソプロピルアルコールに常温で100日間浸漬し、60℃にて48時間乾燥後、イソプロピルアルコールに再度浸漬し、常法バブルポイント値を測定した結果、ポリウレタンによるシール部材と外筒の接合面が剥離し、バブルポイント測定はできなかった。
【0019】
〈比較例2〉
最大孔径0.1μm、外径450μm、内径300μmのポリサルフォン製中空糸膜800本を結束し、ポリカーボネート製円筒型外筒に装着し、従来法によりエポキシをシール部材とし遠心注型によりモジュールを成形した。結果物をPH12のアルカリ性洗剤水溶液中60℃にて2週間浸漬し、その後水洗いを行ない、水によるバブルポイント値を測定したがエポキシ樹脂と外筒が剥離し、バブルポイントは測定できなかった。
【0020】
〈比較例3〉
最大孔径0.1μm、外径400μm、内径250μmのポリプロピレン製中空糸型分離膜600本を結束し、ポリプロピレン微細粉末をメチルアルコールに懸濁させペースト状にした後、中空糸型分離膜結束開口端部に塗布し、ポリプロピレン製外筒に収納し、シール部を180℃にて局部加熱したが、中空糸状半透膜のシール部材付け根付近が溶融し、かつシール部材に埋没した中空糸型分離膜も溶融により潰れ、特開平1-164405号の手法によっては結果物は得られなかった。
【0021】
〈実施例1〉
最大孔径0.1μm、外径400μm、内径250μmのポリプロピレン製中空糸型分離膜620本を結束し、これを低密度ポリエチレン製筒体に挿入し、この中空糸型分離膜結束開口端部に、エチルアルコール中にポリエチレン製微細粉末を分散し、ペースト状としたシール部材を注型し、120℃オーブン中で12時間べークし、オーブン中で保温冷却した。結果物をイソプロピルアルコールに常温で120日間浸漬し、60℃で48時間乾燥し、再度イソプロピルアルコール中に浸漬し、バブルポイント値を測定したところ、正規のバブルポイント値3.4Kg/cm2を得た。
【0022】
〈実施例2〉
最大孔径0.1μm、外径450μm、内径300μmのポリスルフォン製中空糸型分離膜780本を高密度ポリエチレン製筒体に装着し、予め凹型金型中で140℃にて溶融した高密度ポリエチレン樹脂をシール材とし、中空糸型分離膜開口端部を凹型金型中に挿入しモジュールを得た。結果物をPH12のアルカリ性洗剤水溶液中60℃で15日間浸漬し、水洗いを行ないイソプロピルアルコールによるバブルポイント測定を行なった結果、正規のバブルポイント3.8Kg/cm2を得た。
【0023】
〈実施例3〉
外径1200μm、内径700μmのポリスルフォン製限外濾過膜50本をポリプロピレン製パイプに挿入し、予めエチルアルコール中にポリプロピレン製微細粉末を分散し、ペースト状としたシール部材中に中空糸型分離膜結束開口端を挿入し、シール部のみを180℃にて12時間加熱後、オーブン中で徐冷することによりモジュールを得た。結果物を5%希塩酸中に常温にて6週間浸漬し、水洗い後モジュール一次側より空気圧を加えながら水没する常法の漏洩検査を行なった結果、漏洩は認められなかった。
【0024】
以上の如く、中空糸型分離膜は、一部において特開平1-164405号公報に示されるように中空糸型分離膜の結束開口端シール部に熱可塑性樹脂を用い化学的、物理的な侵襲に耐性のあるモジュールを得ることは考えられているが、比較例3に示したように、中空糸型分離膜と単に相溶性のある熱可塑性樹脂をシール部材として熱溶融する手段では、中空糸型分離膜のシール部材付け根付近及びシール材埋没部分が溶融し潰れやすいため、中空糸型分離膜の構成素材としてPTFE等熱可塑性樹脂でも溶融温度においても極めて流動性の悪い樹脂でしか実際にはモジュール化が不可能である。
【0025】
本発明においては、天然高分子又は合成高分子を素材とし、中空糸型分離結束開口端部のシール部材として熱可塑性樹脂をシール部材とした中空糸型分離膜モジュールにおいて、シール部成形温度を中空糸型分離膜の構成素材の熱溶融温度又は分解温度以下で、かつ熱可塑性シール部材の熱溶融温度以上とし、中空糸型分離膜とシール部材の接合界面が明確に残存した半溶着状態であり、実質的に中空糸型分離膜のシール部材埋没部と露出部において、中空糸型分離膜の物理的性質が変化しないような条件にて得た中空糸型分離膜モジュールは化学的、物理的な侵襲に対して、ポリウレタンやエポキシ樹脂をシール材とした従来技術により得られる中空糸型分離膜と比べて高い耐性を有している中空糸型分離膜モジュールが得られた。
【0026】
次に、本発明における中空糸状半透膜型カートリッジ及びその半透膜型モジュールの具体例を図面に従って説明する。
図1は、中空糸膜状半透膜型フィルターカートリッジを示した半載断面図であり、1は本発明における天然高分子又は合成高分子よりなる中空糸状半透膜、2は中空糸状半透膜1の結束開口端のシール部であり、3は中空糸状半透膜1の保護筒であるケース(ハウジング)、3aはケース3のケース本体、3b,3cはケース3のキャップであり、4はOリングである。
【0027】
図2は、本発明における中空糸状半透膜型カートリッジを収納するハウジングを示した正面図であり、図中5は本発明における中空糸状半透膜を収納したカートリッジ、6は流体流出口、7は流体流入口、8はハウジング本体、9はクランプバンド、10は脱気用バルブである。
【0028】
図3は、本発明における中空糸状半透膜型モジュールの他の例を示した一部を切り欠いた正面図であり、11は本発明における天然高分子又は合成高分子よりなる中空糸状半透膜、12は中空糸状半透膜11の結束開口端のシール部、13はケースであり、13aはケース13の中空糸状半透膜11の保護筒、13b,13cはキャップであり、14はOリング、15は流体流入口、16は流体流出口である。
【0029】
【発明の効果】
以上のことから明らかなように、本発明において、中空糸型分離膜を複数結束し、当該結束端部を熱可塑性樹脂にて中空糸型分離膜の内面と外面を液密にシールしたモジュールにおいて、シール部を熱成形する温度を中空糸型分離膜の構成素材の熱溶融温度又は熱分解温度以下で、かつ熱可塑性シール部材の熱溶融点以上とし、中空糸型分離膜と熱可塑性シール部材の接合部に明確な接合界面を残存させた半溶着状態を形成することにより、中空糸型分離膜の本来の物性を失うこと無く化学的、物理的な侵襲に対して、従来の中空糸型分離膜モジュールと比べて高い耐性を有する中空糸型分離膜が得られた(図4並びに図5の顕微鏡写真を参照)。
【0030】
更に、従来の熱可塑性樹脂をシール材とした中空糸型分離膜に比べ、シール部成形時の熱による中空糸型分離膜の潰れ、熱劣化が無いため、平板状分離膜、チューブラー状分離膜によるモジュール同様、種々の対象流体、モジュールの運転条件に合わせた中空糸型分離膜モジュールを得ることが可能となった(図4並びに図5の顕微鏡写真を参照)。
【図面の簡単な説明】
【図1】
本発明における中空糸膜状半透膜型カートリッジを示した半載断面図である。
【図2】
本発明における中空糸状半透膜型カートリッジを収納するハウジングを示した正面図である。
【図3】
本発明における中空糸状半透膜型モジュールの他の例を示した一部を切り欠いた正面図である。
【図4】
本発明における中空糸型分離膜結束開口端シール部の顕微鏡写真(×100)である。
【図5】
本発明における中空糸型分離膜結束開口端シール部の顕微鏡写真(×200)である。
【符号の説明】
1 中空糸状半透膜
2 中空糸状半透膜の結束開口端のシール部
3 ケース(中空糸状半透膜保護筒)
5 中空糸状半透膜型カートリッジ
11 中空糸状半透膜
12 中空糸状半透膜の結束開口端のシール部
 
訂正の要旨 訂正の要旨
1.特許第3077020号の明細書中特許請求の範囲の「【請求項1】天然高分子又は合成高分子よりなる中空糸型分離膜を複数本結束し、当該中空糸型分離膜の結束開口端部にて中空糸型分離膜相互を熱可塑性樹脂素材であるシール部材を用いることにより、中空糸型分離膜の内側と外側を液密にシールしたシール部を有する中空糸型分離膜モジュールにおいて、中空糸型分離膜の構成素材の溶融温度又は分解温度以下で、かつシール部材を構成する素材の溶融温度以上の温度範囲の条件を備え、中空糸型分離膜の結束開口端のシール部と中空糸型分離膜とを非相溶性にしておいて、シール部のみを溶融させて中空糸型分離膜が潰れることなく両者の接合界面が残存する半接合状態になる熱成形を行うと同時に、溶融したシール部材が中空糸型分離膜の外表面の微細な凹凸によりなる支持層へ侵入することによるアンカー効果を生じさせて物理的な液密シールを可能としたことを特徴とする中空糸型分離膜モジュール。」を、特許請求の範囲の減縮を目的として「【請求項1】天然高分子又は合成高分子よりなる中空糸型分離膜を複数本結束し、当該中空糸型分離膜の結束開口端部にて中空糸型分離膜相互を熱可塑性樹脂素材であるシール部材を用いることにより、中空糸型分離膜の内側と外側を液密にシールしたシール部を有する中空糸型分離膜モジュールにおいて、前記中空糸型分離膜は、外表面に微細な凹凸よりなる支持層を有する精密濾過膜であり、この中空糸型分離膜の構成素材の溶融温度又は分解温度以下で、かつシール部材を構成する素材の溶融温度以上の温度範囲の条件を備え、中空糸型分離膜の結束開口端のシール部と中空糸型分離膜とを非相溶性にしておいて、シール部のみを溶融させて中空糸型分離膜が潰れることなく両者の接合界面が残存する半接合状態になる熱成形を行うと同時に、溶融したシール部材が前記精密濾過膜の外表面の微細な凹凸によりなる支持層へ侵入することによるアンカー効果を生じさせて物理的な液密シールを可能としたことを特徴とする中空糸型分離膜モジュール。」と訂正する。
2.特許第3077020号の明細書中特許請求の範囲の請求項2を、特許請求の範囲の減縮を目的として削除するとともに、以降の請求項の項番を「1」ずつ繰り上げる。
異議決定日 2002-11-15 
出願番号 特願平8-127665
審決分類 P 1 651・ 121- YA (B01D)
P 1 651・ 113- YA (B01D)
P 1 651・ 536- YA (B01D)
最終処分 維持  
前審関与審査官 杉江 渉  
特許庁審判長 石井 良夫
特許庁審判官 山田 充
西村 和美
登録日 2000-06-16 
登録番号 特許第3077020号(P3077020)
権利者 株式会社キッツ
発明の名称 中空糸型分離膜モジュール  
代理人 小林 哲男  
代理人 新井 清子  
代理人 小林 哲男  

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