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審判番号(事件番号) データベース 権利
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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  C03C
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  C03C
管理番号 1073157
異議申立番号 異議2000-72898  
総通号数 40 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 1997-09-02 
種別 異議の決定 
異議申立日 2000-07-27 
確定日 2003-01-14 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第3003581号「光半導体の光励起に応じて親水性を呈する部材」の請求項1ないし7に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 訂正を認める。 特許第3003581号の訂正後の請求項1〜5に係る特許を維持する。 
理由 1.手続の経緯
特許3003581号の請求項1乃至7に係る発明についての出願は、平成8年6月20日に特許出願され、平成11年11月19日にその発明について特許権の設定登録がなされ、その後、その特許について、異議申立人:黒神朱砂より特許異議の申立てがなされた。そして、当審において取消理由通知がなされ、その指定期間内の平成13年2月13日に訂正請求(第一回)がなされた。その後、当審において再度の取消理由通知がなされ、その指定期間内である平成14年11月18日に、先の訂正請求(第一回)が取り下げられ、新たに訂正請求(第二回)がなされたものである。
2.訂正の適否
(1)訂正の内容
本件訂正の内容は、本件特許明細書を訂正請求書に添付された訂正明細書のとおりに、すなわち訂正事項aのとおりに訂正しようとするものである。
訂正事項a
明細書の【特許請求の範囲】の記載を次のとおりに訂正する。
「【特許請求の範囲】
【請求項1】透明性の基材表面に、光半導体と、それ以外にリチウム、ナトリウム、カリウム、カルシウム、ストロンチウム、亜鉛、アルミニウム、白金、パラジウム、ルテニウム、セリア、イットリアの1群から選ばれた少なくとも1種を含む層が形成されており、太陽光または室内照明下において前記光半導体の光励起に応じて部材表面が水との接触角に換算して5°以下に親水化されることを特徴とする、太陽光または室内照明下において用いられる防曇性部材。
【請求項2】透明性の基材表面に、光半導体粒子層を形成する第一の工程と、リチウム、ナトリウム、カリウム、カルシウム、ストロンチウム、亜鉛、アルミニウム、白金、パラジウム、ルテニウムの1群から選ばれた少なくとも1種を塗布し乾燥固定する第二の工程と、を有する太陽光または室内照明下において前記光半導体の光励起に応じて部材表面が水との接触角に換算して5°以下に親水化されることを特徴とする、太陽光または室内照明下において用いられる防曇性部材の製造方法。
【請求項3】透明性の基材表面に、光半導体粒子層を形成する第一の工程と、リチウム、ナトリウム、カリウム、カルシウム、ストロンチウム、亜鉛、アルミニウム、白金、パラジウム、ルテニウムの1群から選ばれた少なくとも1種を塗布し更に太陽光または室内照明下において光半導体の光励起により前記金属を還元固定する第二の工程と、を有する太陽光または室内照明下において前記光半導体の光励起に応じて部材表面が水との接触角に換算して5°以下に親水化されることを特徴とする、太陽光または室内照明下において用いられる防曇性部材の製造方法。
【請求項4】透明性の基材表面に、光半導体粒子と、リチウム、ナトリウム、カリウム、カルシウム、ストロンチウム、亜鉛、アルミニウム、白金、パラジウム、ルテニウムの1群から選ばれた少なくとも1種を含む溶液を塗布する第一の工程と、塗布後の基材を焼成する第二の工程と、を有する太陽光または室内照明下において前記光半導体の光励起に応じて部材表面が水との接触角に換算して5°以下に親水化されることを特徴とする、太陽光または室内照明下において用いられる防曇性部材の製造方法。
【請求項5】透明性の基材表面に、光半導体粒子と、リチウム、ナトリウム、カリウム、カルシウム、ストロンチウム、亜鉛、アルミニウム、白金、パラジウム、ルテニウムの1群から選ばれた少なくとも1種と、太陽光または室内照明下において光半導体の光励起により親水化し得る硬化性結着剤とを塗布し、前記硬化性結着剤を硬化させ、更に太陽光または室内照明下において光半導体の光励起により前記硬化性結着剤を親水化させる工程を有する太陽光または室内照明下において前記光半導体の光励起に応じて部材表面が水との接触角に換算して5°以下に親水化されることを特徴とする、太陽光または室内照明下において用いられる防曇性部材の製造方法。」
(2)訂正の目的の適否、新規事項の有無及び拡張・変更の存否
上記訂正事項aは、訂正前の請求項1において、「アルカリ金属、アルカリ土類金属」を「リチウム、ナトリウム、カリウム、カルシウム、ストロンチウム」に限定し、「アルミナ、ジルコニア、」を削除し、「前記光半導体の光励起に応じて部材表面が親水化される」に「太陽光または室内照明下において」と限定を付し、その親水化の程度を「水との接触角に換算して5°以下」に限定し、「防曇性部材」に「太陽光または室内照明下において用いられる」と限定を付するものであり、また、訂正前の請求項2及び3を削除し、それに伴い訂正前の請求項4〜7の項番号をそれぞれ2だけ繰上げ、また、訂正前の請求項4〜7(訂正後の請求項2〜5)において、「アルカリ金属、アルカリ土類金属」を「リチウム、ナトリウム、カリウム、カルシウム、ストロンチウム」に限定し、「前記光半導体の光励起に応じて部材表面が親水化される」に「太陽光または室内照明下において」と限定を付し、その親水化の程度を「水との接触角に換算して5°以下」に限定し、「防曇性部材」に「、太陽光または室内照明下において用いられる」と限定を付し、更に訂正前の請求項5(訂正後の請求項3)において、「光半導体の光励起により前記金属を還元固定する」に「太陽光または室内照明下において」と限定を付すと共に、訂正前の請求項7(訂正後の請求項5)において、「光半導体の光励起により親水化し得る」及び「光半導体の光励起により前記硬化性結着剤を親水化させる」の各々に「太陽光または室内照明下において」と限定を付するものであるから、いずれも特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正に該当する。そして、上記訂正事項aは、明細書段落【0006】【0007】【0009】【0010】【0015】【0020】【0022】及び【実施例】の記載に基づくものであるから、願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものでもない。
(3)むすび
したがって、上記訂正は、特許法第120条の4第2項及び同条第3項において準用する特許法第126条第2項及び第3項の規定に適合するので、当該訂正を認める。
3.特許異議の申立てについて
(1)本件発明
上記訂正は、上述したとおり認容することができるから、本件訂正後の請求項1〜5に係る発明(以下、「本件発明1」〜「本件発明5」という。)は、平成14年11月18日付けで提出された訂正明細書の特許請求の範囲の請求項1〜5に記載された事項により特定される次のとおりのものである。
【請求項1】透明性の基材表面に、光半導体と、それ以外にリチウム、ナトリウム、カリウム、カルシウム、ストロンチウム、亜鉛、アルミニウム、白金、パラジウム、ルテニウム、セリア、イットリアの1群から選ばれた少なくとも1種を含む層が形成されており、太陽光または室内照明下において前記光半導体の光励起に応じて部材表面が水との接触角に換算して5°以下に親水化されることを特徴とする、太陽光または室内照明下において用いられる防曇性部材。
【請求項2】透明性の基材表面に、光半導体粒子層を形成する第一の工程と、リチウム、ナトリウム、カリウム、カルシウム、ストロンチウム、亜鉛、アルミニウム、白金、パラジウム、ルテニウムの1群から選ばれた少なくとも1種を塗布し乾燥固定する第二の工程と、を有する太陽光または室内照明下において前記光半導体の光励起に応じて部材表面が水との接触角に換算して5°以下に親水化されることを特徴とする、太陽光または室内照明下において用いられる防曇性部材の製造方法。
【請求項3】透明性の基材表面に、光半導体粒子層を形成する第一の工程と、リチウム、ナトリウム、カリウム、カルシウム、ストロンチウム、亜鉛、アルミニウム、白金、パラジウム、ルテニウムの1群から選ばれた少なくとも1種を塗布し更に太陽光または室内照明下において光半導体の光励起により前記金属を還元固定する第二の工程と、を有する太陽光または室内照明下において前記光半導体の光励起に応じて部材表面が水との接触角に換算して5°以下に親水化されることを特徴とする、太陽光または室内照明下において用いられる防曇性部材の製造方法。
【請求項4】透明性の基材表面に、光半導体粒子と、リチウム、ナトリウム、カリウム、カルシウム、ストロンチウム、亜鉛、アルミニウム、白金、パラジウム、ルテニウムの1群から選ばれた少なくとも1種を含む溶液を塗布する第一の工程と、塗布後の基材を焼成する第二の工程と、を有する太陽光または室内照明下において前記光半導体の光励起に応じて部材表面が水との接触角に換算して5°以下に親水化されることを特徴とする、太陽光または室内照明下において用いられる防曇性部材の製造方法。
【請求項5】透明性の基材表面に、光半導体粒子と、リチウム、ナトリウム、カリウム、カルシウム、ストロンチウム、亜鉛、アルミニウム、白金、パラジウム、ルテニウムの1群から選ばれた少なくとも1種と、太陽光または室内照明下において光半導体の光励起により親水化し得る硬化性結着剤とを塗布し、前記硬化性結着剤を硬化させ、更に太陽光または室内照明下において光半導体の光励起により前記硬化性結着剤を親水化させる工程を有する太陽光または室内照明下において前記光半導体の光励起に応じて部材表面が水との接触角に換算して5°以下に親水化されることを特徴とする、太陽光または室内照明下において用いられる防曇性部材の製造方法。
(2)異議申立ての理由の概要
特許異議申立人は、本件請求項1〜7に係る発明についての特許に対して、証拠として甲第1号証(特開昭63-100042号公報)、甲第2号証(特開平4-174679号公報)、甲第3号証(特開昭63-5301号公報)を提出し、本件請求項1〜7に係る発明は、甲第1号証〜甲第3号証に記載された発明と同一であるか、またはこれらの発明に基づいて容易に発明することができたものであるから、特許法第29条第1項第3号、同第29条第2項の規定に該当する。
したがって、本件請求項1〜7に係る発明の特許は特許法29条第1項第3号、同第29条第2項の規定に違反してなされたものであるから、本件請求項1〜7に係る発明についての特許を取り消すべき旨主張している。
なお、上記したとおり、本件請求項2,3は訂正請求により削除されている。
(3)証拠の記載内容
特許異議申立人が提示した甲第1号証乃至甲第3号証(当審で通知した取消理由で引用した刊行物1〜3)には、それぞれ次の事項が記載されている。
甲第1号証(特開昭63-100042号公報)
(a)「(1)微量のPt、RhないしPdを添加した2酸化チタニウム薄膜が表面に形成されたことを特徴とする汚れ難いガラス物品」(特許請求の範囲)
(b)「本発明は、ガラス物品、特に建物ないし車両の窓その他に使用される汚れ難いガラス物品に関する。」(第1頁左欄10〜12行)
(c)「本発明は、上述の如きガラス表面に付着する有機質の汚れを速やかに自動的に分解除去し常に表面を清浄に保つ能力を有するガラス物品を提供することを目的とする。」(第1頁右欄16〜19行)
(d)「本発明のガラス物品に、約450nm以下の波長の光が照射されると、ガラス表面に付着した有機質の汚れは、2酸化チタニウム薄膜の所謂光触媒作用により酸化分解される。即ち、光照射により半導体である2酸化チタニウム薄膜内部には電子と正孔が生じ、これ等は薄膜表面に移動して表面に付着している有機質および水分と反応し、有機質は酸化されて最終的にはCO2となるのである。」(第2頁左下欄19行〜同頁右上欄6行)
(e)「表1にはスプレー法および光デポジション法によるコーティング条件を示した。・・・大気中に曝した各ガラス試料に500W高圧水銀ランプによる光照射時間に対し、水との接触角の変化を示した。・・・本発明に従って作られたガラス試料では比較例にくらべて、速やかに接触角が低下していることが認められる。即ち、最初撥水性であった表面は、光触媒作用により有機質の汚れが分解除去されたために水に濡れやすくなったものである。以上で認められるように、本発明に合致したガラス板では、通常の使用状況において水との接触角は非常に小さく即ち濡れやすくなり、従って極めて汚れ難くなっていることが明らかである。」(第2頁右上欄14〜同頁左下欄14行)
(f)「以上に詳述した通り、本発明のガラスは、微量の白金、ロジウムないしパラジウムを添加した2酸化チタニウム薄膜をコーティングすることによって、紫外線の作用によりガラス表面に付着した有機質の汚れが速やかに分解されるため、極めて汚れ難い性質を呈する。」(第3頁右上欄11〜16行)
(g)「図1は高圧水銀ランプ(400W)の照射時間に対する、水との接触角の変化を示すグラフである。」(第3頁左下欄4〜6行)
(h)第3頁右下欄の第1図において、「照射時間に対する接触角がNo.3,6,7で約10°程度まで低下している」ことが読みとれる。
甲第2号証(特開平4-174679号公報)
(a)「(1)金属アルコキシドの加水分解生成物及び光反応性半導体を含有して成る光反応性有害物質除去剤。」(特許請求の範囲)
(b)「本発明は、悪臭物質、刺激臭物質及び園芸作物成長促進物質等の有害物質の除去剤並びにこれを用いる有害物質の除去方法に関する。」(第1頁右欄10〜12行)
(c)「本発明の目的は、従来より更に優れた光反応性有害物質除去剤を提供することにある。また、本発明の他の目的は、基材に光反応性半導体を担持させた、効率よい有害物質除去材を提供することにある。本発明の更に他の目的は、これらの光反応性有害物質除去剤又は有害物質除去材を用いる有害物質除去方法を提供することにある。」(第2頁左下欄3〜9行)
(d)「本発明において用いる光反応性半導体とは、・・・二酸化チタン・・・等の金属酸化物・・・本発明において用いる金属アルコキシドは、・・・なかでもアルミニウム、珪素、チタン及びジルコニウムのアルコキシド・・・が好適である。」(第2頁右下欄9行〜第3頁左上欄19行)
(e)「また、貴金属化合物の存在下での金属アルコキシドの加水分解生成物を光反応性半導体とを混合することにより、より優れた除去性能を有する有害物質除去剤を得ることができる。・・・本発明において使用する貴金属化合物とは、金、銀、銅及び白金属元素(ルテニウム、ロジウム、パラジウム、オスミウム、イリジウム及び白金)から選ばれる貴金属単位並びにこれらの貴金属を含有する化合物をいう。」(第4頁左上欄19行〜同頁右上欄10行)
(f)「本発明に用い得る基材としては、・・・・ガラス・・・等を挙げることができる。・・・有害物質除去剤を各種基材に担持させる方法は、特に限定されず、例えば、除去剤をそのままで又は適当な溶剤の溶液もしくは懸濁液として、塗布、含浸又はスプレーする方法を示すことができる。〜有害物質除去剤を得ることができる。」(第4頁左下欄15行〜第5頁左上欄14行)
甲第3号証(特開昭63-5301号公報)
(a)「(1)鏡面を有する反射鏡であって、前記鏡面上の最上層に、透明な光触媒層が形成されていることを特徴とする反射鏡。
(2)光触媒層が、TiO2、Fe2O3、In2O3及びWO3からなる群より選ばれた少なくとも1つである特許請求の範囲第1項記載の反射鏡。
(3)光触媒層に、Pt、Pd、RhおよびIrよりなる群から選ばれた少なくとも1つの金属が担持されている特許請求の範囲第1項または第2項記載の反射鏡。」(特許請求の範囲)
(b)「この発明は、白熱ランプ、ハロゲンランプ、水銀灯等の照明器具に使用される高効率反射鏡に関する。」(第1頁左欄17〜19行)
(c)「基材3の材料としては、これに限定されるものではないが、たとえば、金属、プラスチック、ガラス、セラミック等を使用することができる。」(第2頁右上欄7〜9行)
(d)「このような化合物を前記光触媒層とする方法は、この発明では特に限定されないが、たとえば、以下の方法によることができる。抵抗加熱による真空蒸着法、スパッタリング法、電子銃による電子ピーム蒸着法およびイオンプレーティング法等の真空プロセス、前記化合物中の金属(Ti、Fe、In、W等)を含む有機金属化合物溶液を、鏡面5に塗布し、乾燥したあと、それを高温で焼き付ける方法、前記化合物の微粒子粉末を透明塗料中に混合分散させておき、これを鏡面5上に塗布乾燥させて塗膜を形成する方法等。」(第2頁左下欄12行〜同頁右下欄3行)
(e)「以上のような光触媒層7には、さらに、Pt、Pd、PhおよびIrよりなる群から選ばれた少なくとも1つの金属を担持させるようであってもよい。このような金属は、付着した汚れを分解する触媒として働くものであって、それを光触媒層7に担持させることにより、汚れの除去作用をより活発に行わせることができるようになるのである。このような金属を光触媒層7に担持させる方法は、・・・前記金属の可溶性塩を水溶液とし、それに前記光触媒層7が形成された反射鏡1を浸漬して、前記可溶性塩を光触媒層7に染み込ませる。そのあと、これに、紫外線等を照射して可溶性塩を分解し、光触媒層7中に、前記金属を担持させるのである。」(第3頁左上欄4〜19行)
(4)対比・判断
(本件発明1について)
甲第1号証の上記(a)乃至(h)の記載を参酌すると、甲第1号証には、「ガラス物品表面に、白金、ロジウムないしパラジウムを添加した2酸化チタニウム薄膜が形成され、光照射により水の接触角を小さく濡れやすくした、汚れ難いガラス物品。」(以下、「甲第1発明」という。)が記載されていると云える。
そこで、本件発明1と甲第1発明とを対比すると、甲第1発明の「ガラス物品」は、その用途として「建物ないし車両の窓」が記載されており(上記(b))、「建物ないし車両の窓」に使用されるガラスが透明であることは至極普通のことであることから「透明性の基材」とみることができ、また、その用途から外光に面して使用されるものであるから甲第1発明では「太陽光下で」用いられるものとみれる。また、上記(d)の記載から「2酸化チタニウム」が「光半導体」といえ、また、甲第1発明の「水の接触角が小さく濡れやすく」とは「親水化」されていると解せることから、両者は、
「透明性の基材表面に、光半導体と、白金、パラジウムを含む層が形成されており、太陽光下において部材表面が親水化されることを特徴とする部材。」で一致するものの、次の点で相違していると云える。
相違点(a):本件発明1は「太陽光または室内照明下において前記光半導体の光励起に応じて部材表面が水との接触角に換算して5°以下に親水化される」のに対し、本件発明1ではかかる特定事項がない点
相違点(b)本件発明1は「防曇性部材」であるのに対し、甲第1発明では「汚れ難い物品」である点
なお、相違点(a)に関し、甲第1号証では上記(e)(g)(h)の記載からみて「接触角が約10°程度まで低下」しているとはいえるが、これは「400W高圧水銀ランプ」の照射によるものであって、本件発明1のように「太陽光または室内照明下において」なされたものではなく、しかも、「接触角5°以下に親水化される」とはいえない。この点について、異議申立人は「傾きを外挿すると約5°となる」(申立書第13頁末行)と主張するが、根拠がなく採用できない。
そこで、まず上記相違点(a)について他の証拠を基に検討する。
甲第2号証には、上記(a)〜(f)の記載から、ルテニウム、パラジウム、白金などの貴金属化合物の存在下で加水分解された金属アルコキシドの加水分解生成物と光反応半導体を含有する光反応性有害物除去剤が記載されていると云えるが、本件発明1の水との親水性について記載はなく、上記相違点(a)ついては何ら記載も示唆もない。また、甲第3号証にも、上記(a)〜(e)の記載から、反射鏡の表面に白金、パラジウムなどの金属が担持された光触媒層が形成され、汚れを除去するとの記載はあるが、上記相違点(a)について何ら記載も示唆もない。
してみると、上記相違点(a)は甲第1〜3号証いずれにも記載はないのであるから、上記相違点(b)について検討するまでもなく、本件発明1は、甲第1〜3号証に記載された発明と同一とも、また、これらの発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとすることはできない。そして、本件発明1は、かかる特定事項により本件明細書に記載の顕著な効果をを奏するものである。
(本件発明2〜5について)
本件発明2〜5は、いずれも上記相違点(a)(b)にかかる事項をその特定事項の一部として備える防曇性物材の製造方法に係る発明であるから、上記本件発明1についてで検討したとおりの理由により、本件発明2〜5は、甲第1〜3号証に記載された発明と同一でもなく、これらの発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとすることはできない。
4.むすび
以上のとおりであるから、特許異議の申立の理由及び証拠によっては、本件訂正後の請求項1〜5に係る発明についての特許を取り消すことができない。
また、他に本件訂正後の請求項1〜5に係る発明の特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
光半導体の光励起に応じて親水性を呈する部材
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
透明性の基材表面に、光半導体と、それ以外にリチウム、ナトリウム、カリウム、カルシウム、ストロンチウム、亜鉛、アルミニウム、白金、パラジウム、ルテニウム、セリア、イットリアの1群から選ばれた少なくとも1種を含む層が形成されており、太陽光または室内照明下において前記光半導体の光励起に応じて部材表面が水との接触角に換算して5°以下に親水化されることを特徴とする、太陽光または室内照明下において用いられる防曇性部材。
【請求項2】
透明性の基材表面に、光半導体粒子層を形成する第一の工程と、リチウム、ナトリウム、カリウム、カルシウム、ストロンチウム、亜鉛、アルミニウム、白金、パラジウム、ルテニウムの1群から選ばれた少なくとも1種を塗布し乾燥固定する第二の工程と、を有する太陽光または室内照明下において前記光半導体の光励起に応じて部材表面が水との接触角に換算して5°以下に親水化されることを特徴とする、太陽光または室内照明下において用いられる防曇性部材の製造方法。
【請求項3】
透明性の基材表面に、光半導体粒子層を形成する第一の工程と、リチウム、ナトリウム、カリウム、カルシウム、ストロンチウム、亜鉛、アルミニウム、白金、パラジウム、ルテニウムの1群から選ばれた少なくとも1種を塗布し更に太陽光または室内照明下において光半導体の光励起により前記金属を還元固定する第二の工程と、を有する太陽光または室内照明下において前記光半導体の光励起に応じて部材表面が水との接触角に換算して5°以下に親水化されることを特徴とする、太陽光または室内照明下において用いられる防曇性部材の製造方法。
【請求項4】
透明性の基材表面に、光半導体粒子と、リチウム、ナトリウム、カリウム、カルシウム、ストロンチウム、亜鉛、アルミニウム、白金、パラジウム、ルテニウムの1群から選ばれた少なくとも1種を含む溶液を塗布する第一の工程と、塗布後の基材を焼成する第二の工程と、を有する太陽光または室内照明下において前記光半導体の光励起に応じて部材表面が水との接触角に換算して5°以下に親水化されることを特徴とする、太陽光または室内照明下において用いられる防曇性部材の製造方法。
【請求項5】
透明性の基材表面に、光半導体粒子と、リチウム、ナトリウム、カリウム、カルシウム、ストロンチウム、亜鉛、アルミニウム、白金、パラジウム、ルテニウムの1群から選ばれた少なくとも1種と、太陽光または室内照明下において光半導体の光励起により親水化し得る硬化性結着剤とを塗布し、前記硬化性結着剤を硬化させ、更に太陽光または室内照明下において光半導体の光励起により前記硬化性結着剤を親水化させる工程を有する太陽光または室内照明下において前記光半導体の光励起に応じて部材表面が水との接触角に換算して5°以下に親水化されることを特徴とする、太陽光または室内照明下において用いられる防曇性部材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、基材の表面を高度の親水性になし、かつ、維持する技術に関する。より詳しくは、本発明は、鏡、レンズ、板ガラスその他の透明基材の表面を高度に親水化することにより、基材の曇りや水滴形成を防止する防曇技術に関する。本発明は、また、建物や窓ガラスや機械装置や物品の表面を高度に親水化することにより、表面が汚れるのを防止し、又は表面を自己浄化(セルフクリーニング)し若しくは容易に清掃する技術に関する。
【0002】
【従来の技術】基材表面が親水化されると、付着水滴が基材表面に一様に拡がるようになるので、ガラス、レンズ、鏡等の透明性部材の曇りを有効に防止でき、湿分による失透防止、雨天時の視界性確保等に役立つ。さらに、都市煤塵、自動車等の排気ガスに含有されるカーボンブラック等の燃焼生成物、油脂、シーラント溶出成分等の疎水性汚染物質が付着しにくく、付着しても降雨や水洗により簡単に落せるようになるので便利である。
【0003】このような事情から特に防曇塗料、外装防汚塗料の分野において、従来から親水性樹脂が提案されている(例えば、実開平5-68006号や、「高分子」、44巻、1995年5月号、p.307)。また、親水化するための表面処理方法も提案されている(例えば、実開平3-129357号)。
【0004】しかしながら、従来提案されている親水性樹脂は水との接触角に換算して30〜50°程度までしか親水化されず、充分な曇り防止効果が発揮できない。また無機粘土質からなる汚染物質の付着及び降雨、水洗による清浄性が充分でない。また従来提案されている親水化するための表面処理方法(エッチング処理、プラズマ処理等)では、一時的に高度に親水化できてもその状態を長期間維持することができない。
【0005】本発明者は、PCT/JP96/00733号において、基材表面に光半導体含有層を形成すると、光半導体の光励起に応じて表面が高度に親水化されることを発明し、この技術をガラス、レンズ、鏡、外装材、水回り部材等の種々の複合材に適用すれば、これら複合材に優れた防曇、防汚等の機能を付与できることを提案した。この方法によれば、充分な曇り防止効果が発揮され、疎水性汚染物質及び無機粘土質からなる汚染物質の付着及び降雨、水洗による清浄性が飛躍的に向上する。また光半導体の光励起に応じて親水化された状態が維持、回復される。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】しかしながら、実質的に耐摩擦性に優れた光半導体のみからなる層を、施釉タイル基材やガラス基材等の平滑な表面を有する基材に直接光半導体ゾル塗布法で塗布し、焼成する場合には、光半導体の光励起に応じて10°以下程度まで親水化されない。また、例えば光半導性酸化チタンのみからなる層をガラス基材上に形成するのに、アルコキシド法、スパッタリング法等にて無定型酸化チタン層を形成後、焼成して無定型酸化チタンを結晶化させる方法等ならば、光半導体の光励起に応じて10°以下程度まで親水化されるが、この場合もさらに親水化が進めばより高い防曇、防汚等の性能が発揮されると考えられる。そこで、本発明では、光半導体のみからなる層と比較して、光半導体の光励起に応じて、より高度に親水化される部材、より具体的には、より曇り防止性に優れた防曇性部材、より汚染物質が付着しにくく、かつ降雨、水洗による清浄性に優れた防汚性部材、より表面の乾燥しやすい部材を提供することを目的とする。
【0007】
【課題を解決するための手段】本発明では、上記課題を解決すべく、光半導体の光励起に応じて部材表面が親水化される親水性部材、防曇性部材、防汚性部材、易乾燥性部材において、基材表面に、光半導体と以外にアルカリ金属、アルカリ土類金属、亜鉛、アルミニウム、白金、パラジウム、ルテニウム、アルミナ、ジルコニア、セリア、イットリアの1群から選ばれた少なくとも1種を含む層が形成されているようにした。本発明の好ましい態様においては、上記部材表面は、光半導体の光励起に応じ、水との接触角に換算して10°以下、より好ましくは5°以下まで親水化されるようにする。このようにすることで、特に防曇性、汚染物質の付着防止性及び降雨、水洗による清浄性の飛躍的に優れた部材となる。
【0008】
【発明の実施の形態】次に、本発明の構成要素について説明する。ここでいう光半導体とは、価電子帯中の電子の励起によって生成する正孔或いは伝導電子を介する反応により、おそらくは表面に極性を付与して吸着水層を形成することにより、基材表面を親水化できるものをさし、より具体的には、アナターゼ型酸化チタン、ルチル型酸化チタン、酸化錫、酸化亜鉛、三酸化二ビスマス、三酸化タングステン、酸化第二鉄、チタン酸ストロンチウム等が使用できる。
【0009】ここでいう親水化とは、水濡れ性が向上する状態の変化をいう。都市煤塵、自動車等の排気ガスに含有されるカーボンブラック等の燃焼生成物、油脂、シーラント溶出成分等の疎水性汚染物質が付着しにくく、付着しても降雨や水洗により簡単に落せるようにするには、基材表面は水との接触角に換算して50°以下、より好ましくは30°以下程度まで親水化するのがよい。さらに無機粘土質汚染物質が付着しにくく、付着しても降雨や水洗により簡単に落せるようにするには、基材表面は水との接触角に換算して20°以下、好ましくは10°以下、より好ましくは5°以下程度まで親水化するのがよい。また透明基材や鏡基材表面に付着した水滴を一様に拡がらせて、ガラス、レンズ、プリズム、鏡の曇りを有効に防止し、湿分による失透防止、雨天時の視界性確保を図るためには基材表面は10°以下程度まで親水化するのがよい。
【0010】本発明に使用できる基材としては、防曇用途においては、ガラス、透明プラスチック、レンズ、プリズム、鏡等の透明性の基材である。より具体的には、浴室用又は洗面所用鏡、車両用バックミラー、歯科用歯鏡、道路鏡のような鏡;眼鏡レンズ、光学レンズ、写真機レンズ、内視鏡レンズ、照明用レンズ、半導体製造用レンズのようなレンズ;プリズム;建物や監視塔の窓ガラス;自動車、鉄道車両、航空機、船舶、潜水艇、雪上車、ロープウエイのギンドラ、遊園地のゴンドラ、宇宙船のような乗り物の窓ガラス;自動車、鉄道車両、航空機、船舶、潜水艇、雪上車、スノーモービル、オートバイ、ロープウエイのギンドラ、遊園地のゴンドラ、宇宙船のような乗り物の風防ガラス;防護用又はスポーツ用ゴーグル又はマスク(潜水用マスクを含む)のシールド;ヘルメットのシールド;冷凍食品陳列ケースのガラス;計測機器のカバーガラス、及びそれら物品に貼着可能なフィルム等を含む。
【0011】本発明に使用できる基材としては、降雨による自己浄化が期待できる屋外用途においては、例えば、金属、セラミックス、ガラス、プラスチック、木、石、セメント、コンクリート、繊維、布帛、紙、それらの組合せ、それらの積層体、それらの塗装体等である。より具体的には、外壁や屋根のような建物外装;窓枠;自動車、鉄道車両、航空機、船舶、自転車、オートバイのような乗物の外装及び塗装;窓ガラス;看板、交通標識、防音壁、ビニールハウス、碍子、乗物用カバー、テント材、反射板、雨戸、網戸、太陽電池用カバー、太陽熱温水器等の集熱器用カバー、街灯、舗道、屋外照明、人工滝・人工噴水用石材・タイル、橋、温室、外壁材、壁間や硝子間のシーラー、ガードレール、ベランダ、自動販売機、エアコン室外機、屋外ベンチ、各種表示装置、シャッター、料金所、料金ボックス、屋根樋、車両用ランプ保護カバー、防塵カバー及び塗装、機械装置や物品の塗装、広告塔の外装及び塗装、構造部材、及びそれら物品に貼着可能なフィルム等を含む。
【0012】本発明に使用できる基材としては、水洗による清浄化が期待できる用途においては、例えば、金属、セラミックス、ガラス、プラスチック、木、石、セメント、コンクリート、繊維、布帛、紙、それらの組合せ、それらの積層体、それらの塗装体等である。より具体的には、上記屋外用途部材が含まれることは勿論、その他に、建物の内装材、窓ガラス、住宅設備、便器、浴槽、洗面台、照明器具、台所用品、食器、食器乾燥器、流し、調理レンジ、キッチンフード、換気扇、窓レール、窓枠、トンネル内壁、トンネル内照明、及びそれら物品に貼着可能なフィルム等を含む。
【0013】本発明に使用できる基材としては、乾燥促進が期待できる用途においては、例えば、窓サッシ、熱交換器用放熱フィン、舖道、浴室用洗面所用鏡、洗面化粧台、ビニールハウス天井及びそれら物品に貼着可能なフィルム等を含む。
【0014】本発明に使用できる基材は上記以外にも着雪防止、気泡付着防止、生体親和性向上等に利用できる。着雪防止性は特に表面粗さ1μm以下の表面層を設けると顕著に優れた特性が得られ、例えば、雪国用屋根材、アンテナ、送電線及びそれら物品に貼着可能なフィルム等を含む基材に適用可能である。
【0015】光半導体の光励起は、光半導体結晶の伝導電子帯と価電子帯との間のエネルギーギャップよりも大きなエネルギー(すなわち短い波長)を有する光を光半導体に照射して行う。より具体的には、光半導体がアナターゼ型酸化チタンの場合には波長387nm以下、ルチル酸化チタンの場合には波長413nm以下、酸化錫の場合には波長344nm以下、酸化亜鉛の場合には波長387nm以下の光を含有する光線を照射する。上記光半導体の場合は、紫外線光源により光励起されるので、光源としては、蛍光灯、白熱電灯、メタルハライドランプ、水銀ランプのような室内照明、太陽光や、それらの光源を低損失のファイバーで誘導した光源等を利用できる。複合材表面の親水化に必要な、光半導体を光励起するために必要な光の照度は、0.001mW/cm2以上、より好ましくは0.01mW/cm2以上である。
【0016】本発明において、基材表面に、光半導体以外に添加する物質にアルミナ又はイットリアを選ぶと、0.01mW/cm2未満程度の微弱な励起光照射下、あるいは暗所での親水維持性がよりよく発揮されるようになる。
【0017】また、本発明における、さらに好ましい態様においては、光半導体含有層にはさらに、シリカ、及び/又はシリコン原子に結合された有機基の少なくとも一部が水酸基に置換されたシリコーン樹脂が添加されているようにする。こうすることにより光半導体の光励起に応じて生じる複合材表面の親水化はより高度に進むようになると共に、一旦親水化された複合材を暗所に放置した場合でも、長期にわたり親水性が維持されるようになる。
【0018】光半導体含有層の膜厚は0.2μm以下にするのが好ましい。そうすれば、光の干渉による光半導体含有層の発色を防止することができる。また光半導体含有層の膜厚が薄ければ薄いほど基材の透明度を確保することができる。更に、膜厚を薄くすれば光半導体含有層の耐摩耗性が向上する。光半導体含有層上に、更に、親水化可能な耐摩耗性又は耐食性の保護層や他の機能膜を設けてもよい。
【0019】光半導体含有層の屈折率は、基材の屈折率より小さいか、あまり大きくないほうがよい。例えば基材がガラス基材(屈折率1.5)である場合は、光半導体含有層の屈折率は2以下であるのが好ましい。そうすれば、複合材表面での可視光の反射を防止でき、透明材における視界確保、意匠性外装又は塗装におけるギラギラ感の防止に役立つ。光半導体含有層の屈折率を2以下にするには、例えば光半導体がアナターゼ型酸化チタン(屈折率2.5)のように屈折率が2をこえる物質の場合には、光半導体以外に屈折率2未満の物質を添加する。屈折率2未満の物質としては、例えば、アルミナ(屈折率1.6)、シリカ(屈折率1.5)、酸化錫(屈折率1.9)、シリコン原子に結合された有機基の少なくとも一部が水酸基に置換されたシリコーン樹脂(屈折率1.4〜1.6)が好適に利用できる。
【0020】基材表面に、光半導体と、それ以外にアルカリ金属、アルカリ土類金属、亜鉛、アルミニウム、白金、パラジウム、ルテニウム等の金属を含む層を形成する方法は以下のような方法がある。(1)基材表面に、光半導体粒子層を形成後、上記金属含有物を塗布し、乾燥固定する。(2)基材表面に、光半導体粒子層を形成後、上記金属含有物を塗布し、さらに光半導体の光励起により金属を還元固定する。(3)基材表面に、光半導体粒子と上記金属含有物を塗布後焼成する。(4)基材表面に、光半導体粒子と上記金属含有物と、光半導体の光励起により親水化しうる硬化性結着剤とを塗布後、硬化性結着剤を硬化させ、さらに光半導体の光励起により結着剤を親水化させる。
【0021】光半導体粒子層の形成方法は、例えば、ゾル塗布焼成法、アルコキシド法、スパッタリング法等がある。ゾル塗布焼成法とは、光半導体ゾルを、スプレーコーティング、スピンコーティング、ディップコーティング、ロールコーティング、フローコーティングその他のコーティング法により、基材表面に塗布し、焼成する方法である。アルコキシド法とは、例えば光半導体が結晶性酸化チタンの場合には、チタンのアルコキシド(例えば、テトラエトキシチタン、テトライソプロポキシチタン、テトラn-プロポキシチタン、テトラブトキシチタン、テトラメトキシチタン)に、塩酸又はエチルアミンのような加水分解抑制剤を添加し、エタノールやプロパノール等の希釈剤で希釈した後、部分的に加水分解を進行させながら又は完全に加水分解を進行させた後、混合物をスプレーコーティング、スピンコーティング、ディップコーティング、ロールコーティング、フローコーティングその他のコーティング法により、基材表面に塗布し、乾燥させて無定型酸化チタン層を形成し、その後、焼成により無定型酸化チタンを、アナターゼ型酸化チタン或いはルチル型酸化チタンに変換させる方法である。尚、チタンのアルコキシドに代えて、チタンのキレート又はチタンのアセテートのような他の有機チタン化合物を用いてもよい。スパッタリング法とは、例えば光半導体が結晶性酸化チタンの場合には、金属チタン又は酸化チタンをターゲットとし、酸素雰囲気で、基材表面に無定型酸化チタン層を形成し、その後、焼成により無定型酸化チタンを、アナターゼ型酸化チタン或いはルチル型酸化チタンに変換させる方法である。
【0022】また金属含有物とは、例えば、アルカリ金属、アルカリ土類金属、亜鉛、アルミニウム、白金、パラジウム、ルテニウム等の金属化合物(塩化リチウム、硝酸ナトリウム、塩化カリウム、塩化マグネシウム二水塩、硝酸カルシウム、塩化ストロンチウム六水塩、塩化亜鉛、塩化アルミニウム、塩化白金酸六水塩、塩化パラジウム、塩化ルテニウム水和塩等)を溶質とする溶液等をさす。
【0023】光半導体の光励起により親水化しうる硬化性結着剤とは、シリコーン樹脂、脱水縮重合すればシリコーン樹脂になるオルガノシラノール、加水分解・脱水縮重合すればシリコーン樹脂になるオルガノアルコキシシラン等が挙げられる。結着剤の親水化方法は光半導体の光励起により行うことができる。
【0024】基材表面に、光半導体と、それ以外にアルミナ、ジルコニア、セリア、イットリア等の酸化物を含む層を形成する方法は以下のような方法がある。(5)基材表面に、光半導体粒子と上記酸化物を塗布後焼成する。(6)基材表面に、光半導体の前駆体と上記酸化物を塗布後、焼成等の方法で光半導体の前駆体を光半導体に変換させる。(7)基材表面に、光半導体粒子と上記酸化物と、光半導体の光励起により親水化しうる硬化性結着剤とを塗布後、硬化性結着剤を硬化させ、さらに光半導体の光励起により結着剤を親水化させる。
【0025】光半導体の前駆体とは、例えば光半導体が結晶性酸化チタンの場合には、チタンのアルコキシド(例えば、テトラエトキシチタン、テトライソプロポキシチタン、テトラn-プロポキシチタン、テトラブトキシチタン、テトラメトキシチタン)、チタンのキレート又はチタンのアセテートのような他の有機チタン化合物を用いてもよい。光半導体の前駆体を光半導体に変換するとは、光半導体が結晶性酸化チタンの場合には、加水分解、脱水縮重合、焼成等の過程により、アナターゼ型酸化チタン或いはルチル型酸化チタンに変換させる方法である。
【0026】
【実施例】
比較例1
15cm角の施釉タイル(東陶機器製、AB02E01)表面に、アンモニア解膠型の酸化チタンゾル(石原産業製、STS-11)をスプレー・コーティング法にて塗布し、800℃で焼成し試料を得た。このときの酸化チタン層の膜厚は0.3μmとなるようにした。焼成直後の試料表面の水との接触角を接触角測定器(協和界面科学製、形式CA-X150)により測定した。接触角は、マイクロシリンジから試料表面に水滴を滴下した後30秒後に測定した。焼成直後の試料表面の水との接触角は8°であった。この試料を暗所に1週間放置し、その後再び試料表面の水との接触角を測定したところ、21°まで上昇した。この上昇は吸着水の試料表面からの離脱や、大気中の汚れ物質の付着によると考えられる。この試料に紫外線照度0.3mW/cm2のBLB蛍光灯(三共電気製、ブラックライトブルー、FL20BLB)を2日間照射した後、水との接触角を測定したところ、光励起に応じて試料表面は15°までしか親水化しなかった。
【0027】実施例1(カルシウム添加、後添加)
比較例1と同様の方法で、膜厚0.3μmの酸化チタン層被覆施釉タイル試料を得た。この試料表面にカルシウム金属濃度50μmol/gの硝酸カルシウム水溶液を0.3g塗布後、0.4mW/cm2のBLB蛍光灯を10分照射して試料を得た。この試料作製直後の試料表面の水との接触角は38°であった。この試料を暗所に1週間放置し、その後再び試料表面の水との接触角を測定したところ、22°になった。さらにこの試料に紫外線照度0.3mW/cm2のBLB蛍光灯(三共電気製、ブラックライトブルー、FL20BLB)を0.2日間照射した後、水との接触角を測定したところ、光励起に応じて試料表面は5°まで親水化された。
【0028】実施例2(カルシウム添加、混合添加)
アンモニア解膠型の酸化チタンゾル(石原産業製、STS-11)18gと、カルシウム金属濃度77μmol/gの硝酸カルシウム水溶液27gとを混合し、15cm角の施釉タイル表面に、スプレー・コーティング法にて塗布し、800℃で焼成し試料を得た。このときの酸化チタン層の膜厚は0.3μmとなるようにした。この試料作製直後の試料表面の水との接触角は22°であった。この試料を暗所に1週間放置し、その後再び試料表面の水との接触角を測定したところ、25°になった。さらにこの試料に紫外線照度0.15mW/cm2のBLB蛍光灯(三共電気製、ブラックライトブルー、FL20BLB)を0.2日間照射した後、水との接触角を測定したところ、光励起に応じて試料表面は8°まで親水化された。
【0029】実施例3(カリウム添加、後添加)
比較例1と同様の方法で、膜厚0.3μmの酸化チタン層被覆施釉タイル試料を得た。この試料表面にカリウム金属濃度50μmol/gの塩化カリウム水溶液を0.3g塗布後、0.4mW/cm2のBLB蛍光灯を10分照射して試料を得た。この試料作製直後の試料表面の水との接触角は37°であった。この試料を暗所に1週間放置し、その後再び試料表面の水との接触角を測定したところ、27°になった。さらにこの試料に紫外線照度0.15mW/cm2のBLB蛍光灯を0.2日間照射した後、水との接触角を測定したところ、光励起に応じて試料表面は8°まで親水化された。
【0030】実施例4(ナトリウム添加、後添加)
比較例1と同様の方法で、膜厚0.3μmの酸化チタン層被覆施釉タイル試料を得た。この試料表面にナトリウム金属濃度50μmol/gの硝酸ナトリウム水溶液を0.3g塗布後、0.4mW/cm2のBLB蛍光灯を10分照射して試料を得た。この試料作製直後の試料表面の水との接触角は37°であった。この試料を暗所に1週間放置し、その後再び試料表面の水との接触角を測定したところ、26°になった。さらにこの試料に紫外線照度0.3mW/cm2のBLB蛍光灯を0.2日間照射した後、水との接触角を測定したところ、光励起に応じて試料表面は7°まで親水化された。
【0031】実施例5(ナトリウム添加、混合添加)
アンモニア解膠型の酸化チタンゾル(石原産業製、STS-11)18gと、ナトリウム金属濃度77μmol/gの硝酸ナトリウム水溶液27gとを混合し、15cm角の施釉タイル表面に、スプレー・コーティング法にて塗布し、800℃で焼成し試料を得た。このときの酸化チタン層の膜厚は0.3μmとなるようにした。この試料作製直後の試料表面の水との接触角は17°であった。この試料を暗所に1週間放置し、その後再び試料表面の水との接触角を測定したところ、22°になった。さらにこの試料に紫外線照度0.15mW/cm2のBLB蛍光灯(三共電気製、ブラックライトブルー、FL20BLB)を0.2日間照射した後、水との接触角を測定したところ、光励起に応じて試料表面は6°まで親水化された。
【0032】実施例6(マグネシウム添加、後添加)
比較例1と同様の方法で、膜厚0.3μmの酸化チタン層被覆施釉タイル試料を得た。この試料表面にマグネシウム金属濃度50μmol/gの塩化マグネシウム二水塩水溶液を0.3g塗布後、0.4mW/cm2のBLB蛍光灯を10分照射して試料を得た。この試料作製直後の試料表面の水との接触角は37°であった。この試料を暗所に1週間放置し、その後再び試料表面の水との接触角を測定したところ、22°になった。さらにこの試料に紫外線照度0.3mW/cm2のBLB蛍光灯を0.2日間照射した後、水との接触角を測定したところ、光励起に応じて試料表面は8°まで親水化された。
【0033】実施例7(マグネシウム添加、混合添加)
アンモニア解膠型の酸化チタンゾル(石原産業製、STS-11)18gと、ナトリウム金属濃度77μmol/gの塩化マグネシウム二水塩水溶液27gとを混合し、15cm角の施釉タイル表面に、スプレー・コーティング法にて塗布し、800℃で焼成し試料を得た。このときの酸化チタン層の膜厚は0.3μmとなるようにした。この試料作製直後の試料表面の水との接触角は20°であった。この試料を暗所に1週間放置し、その後再び試料表面の水との接触角を測定したところ、25°になった。さらにこの試料に紫外線照度0.15mW/cm2のBLB蛍光灯(三共電気製、ブラックライトブルー、FL20BLB)を0.2日間照射した後、水との接触角を測定したところ、光励起に応じて試料表面は7°まで親水化された。
【0034】実施例8(リチウム添加、後添加)
比較例1と同様の方法で、膜厚0.3μmの酸化チタン層被覆施釉タイル試料を得た。この試料表面にリチウム金属濃度50μmol/gの塩化リチウム水溶液を0.3g塗布後、0.4mW/cm2のBLB蛍光灯を10分照射して試料を得た。この試料作製直後の試料表面の水との接触角は36°であった。この試料を暗所に1週間放置し、その後再び試料表面の水との接触角を測定したところ、28°になった。さらにこの試料に紫外線照度0.3mW/cm2のBLB蛍光灯を0.2日間照射した後、水との接触角を測定したところ、光励起に応じて試料表面は8°まで親水化された。
【0035】実施例9(亜鉛添加、後添加)
比較例1と同様の方法で、膜厚0.3μmの酸化チタン層被覆施釉タイル試料を得た。この試料表面に亜鉛金属濃度50μmol/gの塩化亜鉛水溶液を0.3g塗布後、0.4mW/cm2のBLB蛍光灯を10分照射して試料を得た。この試料作製直後の試料表面の水との接触角は43°であった。この試料を暗所に1週間放置し、その後再び試料表面の水との接触角を測定したところ、23°になった。さらにこの試料に紫外線照度0.15mW/cm2のBLB蛍光灯を0.2日間照射した後、水との接触角を測定したところ、光励起に応じて試料表面は8°まで親水化された。
【0036】実施例10(ストロンチウム添加、後添加)
比較例1と同様の方法で、膜厚0.3μmの酸化チタン層被覆施釉タイル試料を得た。この試料表面にストロンチウム金属濃度50μmol/gの塩化ストロンチウム六水塩水溶液を0.3g塗布後、0.4mW/cm2のBLB蛍光灯を10分照射して試料を得た。この試料作製直後の試料表面の水との接触角は33°であった。この試料を暗所に1週間放置し、その後再び試料表面の水との接触角を測定したところ、23°になった。さらにこの試料に紫外線照度0.3mW/cm2のBLB蛍光灯を0.2日間照射した後、水との接触角を測定したところ、光励起に応じて試料表面は7°まで親水化された。
【0037】実施例11(ストロンチウム添加、混合添加)
アンモニア解膠型の酸化チタンゾル(石原産業製、STS-11)18gと、ストロンチウム金属濃度77μmol/gの塩化ストロンチウム六水塩水溶液27gとを混合し、15cm角の施釉タイル表面に、スプレー・コーティング法にて塗布し、700℃で焼成し試料を得た。このときの酸化チタン層の膜厚は0.3μmとなるようにした。この試料作製直後の試料表面の水との接触角は8°であった。この試料を暗所に1週間放置し、その後再び試料表面の水との接触角を測定したところ、14°になった。さらにこの試料に紫外線照度0.15mW/cm2のBLB蛍光灯(三共電気製、ブラックライトブルー、FL20BLB)を0.2日間照射した後、水との接触角を測定したところ、光励起に応じて試料表面は5°まで親水化された。
【0038】実施例12(白金添加、後添加)
比較例1と同様の方法で、膜厚0.3μmの酸化チタン層被覆施釉タイル試料を得た。この試料表面に白金金属濃度50μmol/gの塩化白金酸六水塩水溶液を0.3g塗布後、0.4mW/cm2のBLB蛍光灯を10分照射して試料を得た。この試料作製直後の試料表面の水との接触角は42°であった。この試料を暗所に1週間放置し、その後再び試料表面の水との接触角を測定したところ、18°になった。さらにこの試料に紫外線照度0.3mW/cm2のBLB蛍光灯を0.2日間照射した後、水との接触角を測定したところ、光励起に応じて試料表面は6°まで親水化された。その後、さらにこの試料に紫外線照度0.01mW/cm2の白色灯を9日間照射し、室内照明下での親水維持性を調べた。その結果、試料表面は9°程度に維持された。
【0039】実施例13(白金添加、混合添加)
アンモニア解膠型の酸化チタンゾル(石原産業製、STS-11)18gと、白金金属濃度77μmol/gの塩化白金酸六水塩水溶液27gとを混合し、15cm角の施釉タイル表面に、スプレー・コーティング法にて塗布し、700℃で焼成し試料を得た。このときの酸化チタン層の膜厚は0.3μmとなるようにした。この試料作製直後の試料表面の水との接触角は21°であった。この試料を暗所に1週間放置し、その後再び試料表面の水との接触角を測定したところ、22°になった。さらにこの試料に紫外線照度0.15mW/cm2のBLB蛍光灯(三共電気製、ブラックライトブルー、FL20BLB)を0.2日間照射した後、水との接触角を測定したところ、光励起に応じて試料表面は7°まで親水化された。
【0040】実施例14(パラジウム添加、後添加)
比較例1と同様の方法で、膜厚0.3μmの酸化チタン層被覆施釉タイル試料を得た。この試料表面にパラジウム金属濃度50μmol/gの塩化パラジウム水溶液を0.3g塗布後、0.4mW/cm2のBLB蛍光灯を10分照射して試料を得た。この試料作製直後の試料表面の水との接触角は47°であった。この試料を暗所に1週間放置し、その後再び試料表面の水との接触角を測定したところ、18°になった。さらにこの試料に紫外線照度0.3mW/cm2のBLB蛍光灯を0.2日間照射した後、水との接触角を測定したところ、光励起に応じて試料表面は6°まで親水化された。
【0041】実施例15(パラジウム添加、混合添加)
アンモニア解膠型の酸化チタンゾル(石原産業製、STS-11)18gと、パラジウム金属濃度77μmol/gの塩化パラジウム水溶液27gとを混合し、15cm角の施釉タイル表面に、スプレー・コーティング法にて塗布し、700℃で焼成し試料を得た。このときの酸化チタン層の膜厚は0.3μmとなるようにした。この試料作製直後の試料表面の水との接触角は15°であった。この試料を暗所に1週間放置し、その後再び試料表面の水との接触角を測定したところ、20°になった。さらにこの試料に紫外線照度0.15mW/cm2のBLB蛍光灯(三共電気製、ブラックライトブルー、FL20BLB)を0.2日間照射した後、水との接触角を測定したところ、光励起に応じて試料表面は7°まで親水化された。
【0042】実施例16(ルテニウム添加、混合添加)
アンモニア解膠型の酸化チタンゾル(石原産業製、STS-11)18gと、ルテニウム金属濃度77μmol/gの塩化ルテニウム水和塩水溶液27gとを混合し、15cm角の施釉タイル表面に、スプレー・コーティング法にて塗布し、700℃で焼成し試料を得た。このときの酸化チタン層の膜厚は0.3μmとなるようにした。この試料作製直後の試料表面の水との接触角は15°であった。この試料を暗所に1週間放置し、その後再び試料表面の水との接触角を測定したところ、18°になった。さらにこの試料に紫外線照度0.15mW/cm2のBLB蛍光灯(三共電気製、ブラックライトブルー、FL20BLB)を0.2日間照射した後、水との接触角を測定したところ、光励起に応じて試料表面は7°まで親水化された。
【0043】実施例17(アルミニウム添加、混合添加)
アンモニア解膠型の酸化チタンゾル(石原産業製、STS-11)と、アルミニウム金属濃度50μmol/gの塩化アルミニウム水溶液とを、酸化チタンとアルミニウム金属量のモル比が87:13となるように混合し、15cm角の施釉タイル表面に、スプレー・コーティング法にて塗布し、700℃で焼成し試料を得た。このときの酸化チタン層の膜厚は0.7μmとなるようにした。この試料作製直後の試料表面の水との接触角は11°であった。この試料を暗所に1日放置し、その後再び試料表面の水との接触角を測定したところ、13°になった。さらにこの試料に紫外線照度0.15mW/cm2のBLB蛍光灯(三共電気製、ブラックライトブルー、FL20BLB)を1日間照射した後、水との接触角を測定したところ、光励起に応じて試料表面は3°まで親水化された。
【0044】実施例18(イットリア添加)
硝酸解膠型酸化チタンゾル(石原産業製、CS-N)と酢酸解膠型酸化イットリウムゾル(多木化学製、溶質濃度15重量%、平均結晶子径4nm、pH7.6)を、酸化チタンと酸化イットリウムとのモル比が88:12になるように混合した後、15cm角の施釉タイル表面に、スプレーコーティング法にて塗布し、800℃で1時間焼成し試料を得た。このときの膜厚は0.3μmになるようにした。焼成直後の試料表面の水との接触角は21°であった。得られた試料を、2週間暗所に放置した。その後再び試料表面の水との接触角を測定したところ、25°になった。その後、紫外線照度0.3mW/cm2のBLB蛍光灯を13日間照射した後、水との接触角を測定したところ、光励起に応じて試料表面は2°まで親水化された。その後紫外線照度0.004mW/cm2の白色灯を4日間照射し、室内照明下での親水維持性を調べた。その結果、試料表面は9°程度に維持された。
【0045】実施例19(アルミナ添加)
硝酸解膠型酸化チタンゾル(石原産業製、CS-C)と、酸化アルミニウムゾル(日産化学製、アルミナゾル-100)を、酸化チタンと酸化アルミニウムとのモル比が88:12になるように混合した後、15cm角の施釉タイル表面に、スプレーコーティング法にて塗布し、800℃で1時間焼成し試料を得た。このときの膜厚は0.3μmになるようにした。焼成直後の試料表面の水との接触角は2°であった。得られた試料を、2週間暗所に放置した。その後再び試料表面の水との接触角を測定したところ、20°になった。その後紫外線照度0.3mW/cm2のBLB蛍光灯を13日間照射した後、水との接触角を測定したところ、光励起に応じて試料表面は再び2°まで親水化された。その後紫外線照度0.004mW/cm2の白色灯を2日間照射し、室内照明下での親水維持性を調べた。その結果、試料表面は9°程度に維持された。
【0046】実施例20(ジルコニア添加)
アンモニア解膠型酸化チタンゾル(石原産業製、STS-11)と、酸化ジルコニウムゾル印産化学製、NZS-30B)を、酸化チタンと酸化ジルコニウムとのモル比が88:12になるように混合した後、15cm角の施釉タイル表面に、スプレーコーティング法にて塗布し、800℃で1時間焼成し試料を得た。このときの膜厚は0.3μmになるようにした。焼成直後の試料表面の水との接触角は23°であった。得られた試料を、1週間暗所に放置した。その後再び試料表面の水との接触角を測定したところ、35°になった。その後紫外線照度0.3mW/cm2のBLB蛍光灯を13日間照射した後、水との接触角を測定したところ、光励起に応じて試料表面は4°まで親水化された。
【0047】実施例21(セリア添加)
アンモニア解膠型酸化チタンゾル(石原産業製、STS-11)と、酸化セリウムゾル(多木化学製W-15)を、酸化チタンと酸化セリウムとのモル比が88:12になるように混合した後、15cm角の施釉タイル表面に、スプレーコーティング法にて塗布し、800℃で1時間焼成し試料を得た。このときの膜厚は0.3μmになるようにした。焼成直後の試料表面の水との接触角は22°であった。得られた試料を、1週間暗所に放置した。その後再び試料表面の水との接触角を測定したところ、38°になった。その後紫外線照度0.3mW/cm2のBLB蛍光灯を13日間照射した後、水との接触角を測定したところ、光励起に応じて試料表面は6°まで親水化された。
【0048】実施例22(水との接触角と防曇性との関係)
エタノールの溶媒86重量部に、テトラエトキシシラン6重量部と純水6重量部とテトラエトキシシランの加水分解抑制剤として36%塩酸2重量部を加えて混合し、シリカコーティング溶液を調製した。混合により溶液は発熱するので、混合液を約1時間放置冷却した。この溶液をフローコーティング法により10cm角のソーダライムガラス板の表面に塗布し、80℃の温度で乾燥させた。この間にテトラエトキシシランは加水分解を受けてまずシラノールになり、続いてシラノールの脱水縮重合により無定型シリカの薄膜がガラス板の表面に形成された。次に、テトラエトキシチタン(Merck社製)1重量部とエタノール9重量部との混合物に加水分解抑制剤として36%塩酸0.1重量部添加してチタニアコーティング溶液を調製し、この溶液を前記ガラス板の表面に乾燥空気中でフローコーティング法により塗布した。塗布量はチタニアに換算して45μg/cm2とした。次に、このガラスを10分間150℃の温度に保持することにより、テトラエトキシチタンの加水分解を完了させるとともに、生成した水酸化チタンを脱水縮重合に付し、無定型チタニアを生成させた。こうして無定型シリカの上に無定型チタニアがコーティングされたガラス板を得た。このガラス板を500℃の温度で焼成し、無定型チタニアをアナターゼ型チタニアに変換した。得られた試料を数日間暗所に放置した。次に、BLB蛍光灯を内蔵したデシケータ(温度24℃、湿度45〜50%)内にこのガラス板を配置し、0.5mW/cm2の照度で1日間紫外線を照射し、#1試料を得た。#1試料の水との接触角を測定したところ0°であった。次に、#1試料をデシケータから取出して、60℃に保持した温浴上に迅速に移し、15秒後に透過率を測定した。測定された透過率を元の透過率で割り、水蒸気の凝縮により生成した曇りに起因する透過率の変化を求めた。テトラエトキシチタン(Merck社製)1重量部とエタノール9重量部との混合物に加水分解抑制剤として36%塩酸0.1重量部添加してチタニアコーティング溶液を調製し、この溶液を10cm角のガラス板の表面に乾燥空気中でフローコーティング法により塗布した。塗布量はチタニアに換算して45μg/cm2とした。次に、このガラスを10分間150℃の温度に保持することにより、テトラエトキシチタンの加水分解を完了させるとともに、生成した水酸化チタンを脱水縮重合に付し、無定型チタニアを生成させた。こうして無定型チタニアがコーティングされたガラス板を得た。このガラス板を500℃の温度で焼成し、無定型チタニアをアナターゼ型チタニアに変換した。得られた試料を数日間暗所に放置した。次に、BLB蛍光灯を内蔵したデシケータ(温度24℃、湿度45〜50%)内にこのガラス板を配置し、0.5mW/cm2の照度で水との接触角が3°になるまで紫外線を照射し、#2試料を得た。次に、#2試料を暗所に放置した。異なる時間間隔で、#2試料を暗所から取出し、水との接触角をその都度測定した。更に、#2試料を一旦デシケータ(温度24℃、湿度45〜50%)内に移し、温度を平衡させた後、#1試料と同様に、60℃に保持した温浴上に迅速に移し、15秒後に透過率を測定し、水蒸気の凝縮により生成した曇りに起因する透過率の変化を求めた。比較のため、市販の並板ガラス、アクリル樹脂、ポリ塩化ビニル板、ポリカーボネート板について、水との接触角を測定した。更に、これらの板材を同じ条件のデシケータ内に移し、温度を平衡させた後、同様に、60℃に保持した温浴上に迅速に移し、15秒後に透過率を測定し、水蒸気の凝縮により生成した曇りに起因する透過率の変化を求めた。得られた結果を表1に示す。表1の結果から、水との接触角が10°以下であれば、極めて高い防曇性が実現されることが確認された。上記実施例1〜21はいずれも光励起に応じて水との接触角が10°以下になることから、基材に透明基材を選べば、いずれも優れた防曇性が発揮されると考えられる。
【0049】
【表1】

【0050】実施例23(水との接触角と防汚性との関係)
種々の試料を以下に示す汚泥試験に付した。調べた試料は、以下に示す#1〜#6試料である。#1試料:アナターゼ型酸化チタンゾル(石原産業製、STS-11)とコロイダルシリカゾル(スノーテックス20)との混合物(固形分におけるシリカの割合が10重量%)を固形分換算で4.5mgだけ、15cm四角の施釉タイル(東陶機器製、AB02E01)に塗布し、880℃の温度で10分焼成して、#0試料を得た。この#0試料に、BLB蛍光灯を用いて0.5mW/cm2の紫外線照度で3時間紫外線を照射して、#1試料を得た。#2試料:#0試料に、さらに銅濃度50μmol/gの酢酸銅一水塩水溶液を0.3g塗布後、BLB蛍光灯を用いて0.4mW/cm2の紫外線照度で10分照射することにより銅を固定した。その後、BLB蛍光灯を用いて0.5mW/cm2の紫外線照度で3時間紫外線を照射して、#2試料を得た。#3試料:施釉タイル(東陶機器製、AB02E01)。#4試料:アクリル樹脂(PMMA)板。#5試料:人造大理石板(東陶機器製、ML03)。#6試料:ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)板。汚泥試験は以下の要領で行った。まず、汚泥スラリーを以下のようにして調製した。すなわち、イエローオーカー64.3重量%、焼成関東ローム21.4重量%、疎水性カーボンブラック4.8重量%、シリカ粉4.8重量%、親水性カーボンブラック4.7重量%を含む粉体混合物を1.05g/リッターの濃度で水に懸濁させたスラリーを調製した。45度に傾斜させた#1〜#6試料に、上記スラリー150mlを流下させて15分間乾燥させ、次いで蒸留水150mlを流下させて15分間乾燥させ、このサイクルを25回反復した。試験前後の色差変化と光沢度変化を調べた。色差変化は、試験後の試料表面の色差から試験前の試料表面の色差を引くことにより求めた。色差は日本工業規格(JIS)H0201に従い、ΔE*表示を用いた。光沢度の測定は日本工業規格(JIS)Z8741の規定に従って行い、光沢度変化は試験後の試料表面の光沢度を試験前の試料表面の光沢度で割ることにより求めた。結果を表2に示す。
【0051】
【表2】

【0052】更に#1試料、#3試料、#4試料、#6試料及び下記に示す#7試料について、屋外汚れ加速試験を行った。#7試料:10cm角のアルミニウム基板に、シリカゾル(日本合成ゴム製、グラスカA液)とトリメトキシシラン(日本合成ゴム製、グラスカB液)を、重量比が3:1となるように混合した液状物を塗布し、150℃で硬化させ、膜厚3μmのシリコーン被覆板(#7試料)を得た。屋外汚れ加速試験は、以下の要領で行った。すなわち、茅ケ崎市所在の建物の屋上に図1(a)及び図1(b)に示す屋外汚れ加速試験装置を設置した。図1(a)及び図1(b)を参照するに、この装置は、フレーム20に支持された傾斜した試料支持面22を備え、試料24を取り付けるようになっている。フレームの頂部には前方に傾斜した屋根26が固定してある。この屋根は波形プラスチック板からなり、集まった雨が試料支持面22に取り付けた試料24の表面に筋を成して流下するようになっている。この装置の試料支持面22に上記#1試料、#3試料、#4試料、#6試料及び#7試料を取り付け、1か月間屋外に暴露した。この試験における汚れの付着は雨天の流路である縦筋部に多量の汚れが付着する傾向がある。そこで、試料表面の汚れ具合を、試験後の縦筋汚れ部の色差から試験前の色差を引くことにより評価した。結果を表3に示す。
【0053】
【表3】

【0054】理解を容易にするため、表2と表3に示した水との接触角及び色差変化を図2のグラフにプロットした。図2のグラフにおいて、カーブAは汚れ加速試験における大気中のカーボンブラックなどの燃焼生成物や都市塵埃のような汚れによる色差変化と水との接触角との関係を示し、カーブBは汚泥試験における汚泥による色差変化と水との接触角との関係を示す。図2のグラフを参照するに、カーブAから良く分かるように、基材の水との接触角が増加するにつれて燃焼生成物や都市塵埃による汚れが目立つようになる。これは、燃焼生成物や都市塵埃のような汚染物質は基本的に疎水性であり、従って、疎水性の表面に付着しやすいからである。これに対して、カーブBは、汚泥による汚れは水との接触角が20°から50°の範囲でピーク値を呈することを示している。これは、泥や土のような無機物質は、本来、水との接触角が20°から50°程度の親水性を有し、類似の親水性を有する表面に付着しやすいからである。従って、表面を水との接触角が20°以下の親水性にするか、或いは、水との接触角が60°以上に疎水化すれば、表面への無機物質の付着を防止することができることが分かる。水との接触角が20°以下になると汚泥による汚れが減少するのは、表面が水との接触角で20°以下の高度の親水性になると、無機物質に対する親和性よりも水に対する親和性の方が高くなり、表面に優先的に付着する水によって無機物質の付着が阻害されると共に、付着しようとする無機物質が水によって容易に洗い流されるからである。以上から、建物などの表面に疎水性の汚れ物質と親水性の汚れ物質のいずれもが付着しないようにするため、或いは、表面に堆積した汚れが降雨により洗い流されて表面がセルフクリーニングされるようにするには、表面の水との接触角が20°以下、好ましくは10°以下、更に好ましくは5°以下にすればよいことが分かる。上記実施例1〜21はいずれも光励起に応じて水との接触角が10°以下になることから、いずれも優れた降雨又は水洗による清浄性が発揮されると考えられる。
【0055】
【発明の効果】基材表面に、光半導体以外にアルカリ金属、アルカリ土類金属、亜鉛、アルミニウム、白金、パラジウム、ルテニウム、アルミナ、ジルコニア、セリア、イットリアのうちの少なくとも1種を含む層を形成することにより、ゾル塗布焼成法で基材表面に光半導体含有層を形成した場合においても、太陽光、室内照明等の日常よく使用されている光源による光半導体の光励起に応じて10°以下まで親水化されるようになる。また、ゾル塗布焼成法以外の、アルコキシド法、スパッタリング法、シリカ、シリコーンなどの結着剤の硬化を利用した方法等で基材表面に光半導体含有層を形成した場合においても、光半導体の光励起に応じた親水性能の向上が期待できる。
【図面の簡単な説明】
【図1】屋外汚れ加速試験装置を示す図で、(a)は正面図、(b)は側面図(寸法数値の単位はミリメートル)。
【図2】異なる親水性をもった表面が都市煤塵と汚泥によって汚れる度合いを示す図。
 
訂正の要旨 訂正の要旨
本件訂正の要旨は、本件特許第3003581号発明の明細書を平成14年11月18日付け訂正請求書に添付された全文訂正明細書のとおり、すなわち、特許請求の範囲の減縮を目的として、次の訂正事項aのとおり訂正するものである。
訂正事項a:【特許請求の範囲】の記載を
「【請求項1】透明性の基材表面に、光半導体と、それ以外にリチウム、ナトリウム、カリウム、カルシウム、ストロンチウム、亜鉛、アルミニウム、白金、パラジウム、ルテニウム、セリア、イットリアの1群から選ばれた少なくとも1種を含む層が形成されており、太陽光または室内照明下において前記光半導体の光励起に応じて部材表面が水との接触角に換算して5°以下に親水化されることを特徴とする、太陽光または室内照明下において用いられる防曇性部材。
【請求項2】透明性の基材表面に、光半導体粒子層を形成する第一の工程と、リチウム、ナトリウム、カリウム、カルシウム、ストロンチウム、亜鉛、アルミニウム、白金、パラジウム、ルテニウムの1群から選ばれた少なくとも1種を塗布し乾燥固定する第二の工程と、を有する太陽光または室内照明下において前記光半導体の光励起に応じて部材表面が水との接触角に換算して5°以下に親水化されることを特徴とする、太陽光または室内照明下において用いられる防曇性部材の製造方法。
【請求項3】透明性の基材表面に、光半導体粒子層を形成する第一の工程と、リチウム、ナトリウム、カリウム、カルシウム、ストロンチウム、亜鉛、アルミニウム、白金、パラジウム、ルテニウムの1群から選ばれた少なくとも1種を塗布し更に太陽光または室内照明下において光半導体の光励起により前記金属を還元固定する第二の工程と、を有する太陽光または室内照明下において前記光半導体の光励起に応じて部材表面が水との接触角に換算して5°以下に親水化されることを特徴とする、太陽光または室内照明下において用いられる防曇性部材の製造方法
【請求項4】透明性の基材表面に、光半導体粒子と、リチウム、ナトリウム、カリウム、カルシウム、ストロンチウム、亜鉛、アルミニウム、白金、パラジウム、ルテニウムの1群から選ばれた少なくとも1種を含む溶液を塗布する第一の工程と、塗布後の基材を焼成する第二の工程と、を有する太陽光または室内照明下において前記光半導体の光励起に応じて部材表面が水との接触角に換算して5°以下に親水化されることを特徴とする、太陽光または室内照明下において用いられる防曇性部材の製造方法。
【請求項5】透明性の基材表面に、光半導体粒子と、リチウム、ナトリウム、カリウム、カルシウム、ストロンチウム、亜鉛、アルミニウム、白金、パラジウム、ルテニウムの1群から選ばれた少なくとも1種と、太陽光または室内照明下において光半導体の光励起により親水化し得る硬化性結着剤とを塗布し、前記硬化性結着剤を硬化させ、更に太陽光または室内照明下において光半導体の光励起により前記硬化性結着剤を親水化させる工程を有する太陽光または室内照明下において前記光半導体の光励起に応じて部材表面が水との接触角に換算して5°以下に親水化されることを特徴とする、太陽光または室内照明下において用いられる防曇性部材の製造方法。」と訂正する。
異議決定日 2002-12-03 
出願番号 特願平8-195184
審決分類 P 1 651・ 121- YA (C03C)
P 1 651・ 113- YA (C03C)
最終処分 維持  
前審関与審査官 深草 祐一武重 竜男  
特許庁審判長 大黒 浩之
特許庁審判官 唐戸 光雄
野田 直人
登録日 1999-11-19 
登録番号 特許第3003581号(P3003581)
権利者 東陶機器株式会社
発明の名称 光半導体の光励起に応じて親水性を呈する部材  
代理人 高村 雅晴  
代理人 小野寺 捷洋  
代理人 高村 雅晴  
代理人 紺野 昭男  
代理人 紺野 昭男  
代理人 佐藤 一雄  
代理人 佐藤 一雄  
代理人 小野寺 捷洋  

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