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審決分類 審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  D01F
審判 全部申し立て 2項進歩性  D01F
管理番号 1073323
異議申立番号 異議2001-72856  
総通号数 40 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2000-02-15 
種別 異議の決定 
異議申立日 2001-10-16 
確定日 2003-03-10 
異議申立件数
事件の表示 特許第3156700号「ピッチ系炭素繊維束」の請求項1ないし4に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 特許第3156700号の請求項1ないし4に係る特許を維持する。 
理由 I.本件発明
本件特許第3156700号の請求項1〜4に係る発明についての出願は、平成3年10月22日に出願された特願平3-274281号の一部を平成11年8月16日に新たな特許出願とし、平成13年2月9日にその特許権の設定登録がなされたものであって、その請求項1〜4に係る発明(以下、請求項m(m=1〜4)に係る発明を「本件発明m」という。)は、その特許請求の範囲の請求項1〜4に記載された次のとおりのものである。
「【請求項1】直径が7.5μm以下のピッチ系炭素繊維を500フィラメント以上一体として集束してなる炭素繊維束であって、その長さが50m以上であることを特徴とするピッチ系炭素繊維束。
【請求項2】 複数個の吐出孔を有する口金を単独又は2個以上同時に用いてピッチを紡糸してピッチ繊維とし、このピッチ繊維を500フィラメント以上直接に集束してピッチ繊維束とし、これを不融化、炭化及び/または黒鉛化してなる、直径が7.5μm以下のピッチ系炭素繊維が500フィラメント以上集束していて、かつその長さが50m以上であることを特徴とするピッチ系炭素繊維束。
【請求項3】 ピッチ系炭素繊維の集束数が1000フィラメント以上であることを特徴とする請求項1又は2記載のピッチ系炭素繊維束。
【請求項4】 ピッチ系炭素繊維の直径が5.6〜6.8μmであることを特徴とする請求項1ないし3のいずれかに記載のピッチ系炭素繊維束。」
II.申立ての理由の概要
特許異議申立人新日本製鐵株式会社(以下、「申立人」という。)は、甲第1号証(特開平3-14624号公報)、甲第2号証(特開昭63-12721号公報)及び甲第3号証(特開昭59-150114号公報)(以下、甲第n号証(n=1〜3)を「甲n」、該甲号証記載の発明を「甲n発明」という。)を提出し、
(理由1)本件発明1は、甲1又は甲2に記載された発明であるから、本件請求項1に係る特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものである、(理由2-1)本件発明1は、甲1発明又は甲2発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件請求項1に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである、(理由2-2)本件発明2は、甲1と甲3あるいは甲2と甲3発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件請求項2に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである、(理由2-3)本件発明3は、甲1と甲2発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件請求項3に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである、(理由2-4)本件発明4は、甲1発明又は甲2発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件請求項4に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである、旨主張している。
III.甲各号証の記載内容
a.甲1
a-1.「炭素質ピッチを溶融紡糸して得られたピッチ繊維を不融化処理し、次いで不活性ガス雰囲気下で炭素化処理して炭素繊維を製造するに当り、該不融化処理において、式・・・・の関係を満たすように、繊維の表層部を選択的に酸化して不融化処理することを特徴とする炭素繊維の製造方法。」(特許請求の範囲第1項)、
a-2.「本発明方法においては、前記炭素質ピッチをまず溶融紡糸してピッチ繊維を作製するが、この溶融紡糸の方法については特に制限はなく、従来公知の方法を用いることができる。例えば、炭素質ピッチを、その軟化点よりも30〜80℃程度高い温度で溶融し、通常直径0.1〜0.5mmのノズルから押出しながら100〜2000m/分で延伸することにより、ピッチ繊維が得られる。次に、このようにして得られたピッチ繊維に不融化処理を施す」(第3頁右上欄第6〜15行)、
a-3.実施例1、2において、炭素質ピッチを500ホールのノズルを有する紡糸機で溶融紡糸し、ピッチ繊維を作製した後、NO2を含有する空気中において、不融化処理を施し、不融化繊維を窒素雰囲気中において、炭素化処理して、炭素繊維を本数3000本集束したストランド(3K)において炭素繊維の糸径が10μm(実施例1)、同7.4μm(実施例2)のものを得たこと。
b.甲2
b-1.「(1)原料ピッチを気相中に溶融紡糸して得られたピッチ繊維を集束剤の存在下集束し、次いで不融化処理、炭化処理、さらに必要に応じて黒鉛化処理を行うことによりピッチ系炭素繊維を製造する方法に於いて、集束された繊維トウを液体中において、該繊維トウを構成する単糸単位に解繊させることにより、該繊維トウ中に含有される未延伸糸を除去することを特徴とするピッチ系炭素繊維の製造方法。」(特許請求の範囲第1項)
b-2.「保温筒の下には集束剤を添着する装置を介して回転ローラが設置してあり、このローラーを100〜1000rpmで回転させることにより繊維に延伸をかけ糸径を制御する。延伸は100〜500μのノズル孔より5〜20μの単糸が得られるように行なわれる。本発明でいう未延伸糸とは延伸糸の3倍以上、たとえば糸径が20〜500μ程度のものをいう。」(第2頁右下欄第2〜9行)、
b-3.実施例1、2において、タール系の紡糸ピッチを孔数1000の紡糸口金を用い溶融紡糸し、得られた糸径10μのピッチ繊維にシリコン油の水エマルジョンを付着させ集束し、集束した繊維トウを処理槽中で解繊し、未延伸糸は分離し、10000m当たりに除去された未延伸糸及び除去されていない未延伸糸の本数を測定したこと、処理槽を通過させた繊維トウは空気中で乾燥、不融化処理、炭化処理を行いピッチ系炭素繊維を得たこと。
c.甲3.
c-1.「ピッチを溶融紡糸し、紡出されるピッチ繊維をまとまった糸状に集束したのち、一定速度で軸と直角方向に往復運動しつつ軸方向に直進又は往復運動するバーの上に落下する第1工程と、バーの上にすだれ状に乗った糸条をバーに架ったまま、あるいはその形状を保ちつつ他のバーに移してから、懸架した状態で不融化、炭化装置に通す第2工程から成る連続フィラメント状のピッチ系炭素繊維の製造方法。」(特許請求の範囲第1項)、
c-2.実施例1において、ピッチを溶融して250ホールのノズル4箇から押し出し、ロールで引っ張り、これらを合わせて1つのエアーサッカーで吸引し、1000フィラメントから成るピッチ繊維の糸条を300/分の速さで製造したこと、そして10分間の操業でバーを中心に両側に1mずつの巾で規則正しく拡がったピッチ繊維の糸条(全長3km)を得、バーを持ち上げ、バーの両側にピッチ繊維の糸条をすだれ状に懸架し、不融化処理、炭化処理したところ無切断で1000フィラメントから成る炭素繊維ロービング2900mを得たこと。
IV.当審の判断
1.申立理由1について
(1)本件発明1と甲1発明との対比
まず、本件発明1における「ピッチ系炭素繊維を500フィラメント以上一体として集束してなる」の解釈について検討する。
上記記載に関して、それを定義する特段の記載を本件明細書に見出すことはできないから、上記記載は、「二次繊維束を経たとしても、ピッチ系炭素繊維が所定の本数(500フィラメント以上)が、最終的に一体として集束したもの」を包含していると認められる。
したがって、本件発明1の「ピッチ系炭素繊維を500フィラメント以上一体として集束してなるピッチ系炭素繊維束」は、紡糸ノズルからのピッチ繊維を紡糸ノズル毎に集束して一次繊維束とし、これを更にいくつか集束して二次繊維束として最終的に一体として集束したものを、不融化及び炭化したものを包含すると認められる。
そうすると、甲1発明の「500フィラメントを集束して一次繊維束し、これらを6つ集束して二次繊維集束とし、最終的に3000フィラメントを一体として集束し、不融化及び炭化したピッチ系炭素繊維」は、本件発明1における「ピッチ系炭素繊維を500フィラメント以上一体として集束してなるピッチ系炭素繊維束」に相当すると認められる。
本件発明1と甲1発明を対比すると、甲1発明の単繊維の糸径の7.4μmは、本件発明1の「直径7.5μm以下」と重複するから、両者は、「直径が7.5μm以下のピッチ系炭素繊維を500フィラメント以上一体として集束してなるピッチ系炭素繊維束」で一致するが、(イ)ピッチ系炭素繊維束の長さについて、本件発明は、50m以上と特定している(以下、炭素繊維束の長さ要件という)のに対して、甲1発明は、その長さについて明記がない点で、相違する。
甲1発明には、ピッチ系炭素繊維束の長さが50m以上であることは開示されていないから、本件発明1は、甲1に記載されたものであるとはいえない。
申立人は、甲1における延伸速度「100〜2000m/分で延伸」の記載を根拠に、甲1発明の炭素繊維束の長さは50m以上である旨主張するが、延伸工程における延伸速度が単位時間として「分」で表示されているからといって、そのことが、少なくとも1分間程度は糸切れなく延伸が行なわれたことを意味しているとは認められないから、申立人の主張は採用できない。
(2)本件発明1と甲2発明との対比
本件発明1と甲2発明との対比すると、両者は、「ピッチ系炭素繊維を500フィラメント以上一体として集束してなる炭素繊維束であって、その長さが50m以上であるピッチ系炭素繊維束」で一致するが、(イ)ピッチ系炭素繊維の直径について、本件発明1は「7.5μm以下」と特定している(以下、炭素繊維の直径要件という)のに対して、甲2発明は、その直径については明記がない点で、相違する。
甲2には、ピッチ系炭素繊維を一体として集束してなるピッチ系炭素繊維束において、そのピッチ系炭素繊維の径が7.5μm以下であることは開示されていないから、本件発明1は、甲2に記載されたものであるとはいえない。
申立人は、甲2におけるピッチ繊維の直径についての記載「5〜20μm」を根拠に、ピッチ繊維を炭素化する際は、20%程度の縮径が起こること、また起こらないとしても「5〜20μm」は本件発明1の数値範囲であるから、本件発明1は、甲2に記載されたものである旨主張している。
しかし、縮径が起こることを前提にしても、甲2の実施例の炭素繊維の径が7.5μm以下となったことは実証されていない。また、ピッチ系炭素繊維の製造において、ピッチ繊維の紡糸工程では、径が細くなればなるほどピッチ繊維は切れ易くなることは技術常識であるから、ピッチ繊維の直径について「5〜20μm」と記載されているからといって、その長さも50m以上とすることが何時でも可能であるとはいえないこと、そして、甲2には、ピッチ繊維について、50m以上糸切れなく紡糸するための紡糸条件等を具体的に開示していないことからみて、甲2には、ピッチ繊維を糸切れなく紡糸、集束した上で、不融化、炭素化して、直径5〜7.5μmの炭素繊維500フィラメント以上一体として集束してなる炭素繊維束であって、その長さが50m以上のものが具体的に記載されているとは認められない。
よって、申立人の主張する申立理由1は、採用できない。
2.申立理由2-1について
(1)本件発明1の甲1発明からの想到容易性について
申立人は、本件発明1と甲1発明とを対比した場合に、甲1発明で欠ける前記「炭素繊維束の長さ要件」については、甲1から、当業者が容易に定めることができるから、本件発明1は、甲1発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである、旨主張する。
そこで、前記「炭素繊維束の長さ要件」について検討する。
本件発明1は、ピッチ繊維の紡糸工程では、径が細くなればなるほどピッチ繊維は切れ易くなるのに、紡糸条件を工夫することにより、ピッチ繊維から、炭素繊維の径が7.5μm以下のピッチ系炭素繊維を500フィラメント以上一体として集束してなる炭素繊維束であって、その長さが50m以上のものを提供し得たものである。
上記「(1)本件発明1と甲1発明との対比」で述べたように、甲1には、7.5μm以下のピッチ系炭素繊維を500フィラメント以上一体として(糸切れなく)集束してなる炭素繊維束の長さが50m以上であるものは、開示されていない。
ピッチ繊維の紡糸工程では、径が細くなればなるほどピッチ繊維は切れ易くなることに起因して、ピッチ繊維の径とピッチ繊維束の長さとの間には技術的制約があり、結果として、ピッチ系炭素繊維を集束した炭素繊維束においても、炭素繊維の径と炭素繊維束の長さと間には技術的制約があったことは技術常識であるから、この制約を無視して、炭素繊維束の長さだけに着目して、単純にその長さを50m以上と規定することは、当業者が容易になし得た事項であるとはいえないと認められる。
したがって、本件発明1は、甲1発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
(2)本件発明1の甲2発明からの想到容易性について
申立人は、本件発明1と甲2発明とを対比した場合に、甲2発明で欠ける前記「炭素繊維の直径要件」は、甲2から、当業者が容易に定めることができるから、本件発明1は、甲2発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである、旨主張する。
前記「炭素繊維の直径要件」について検討する。
上記「(1)本件発明1の甲1発明からの想到容易性について」で述べたように、ピッチ系炭素繊維を集束した炭素繊維束において、炭素繊維の径と炭素繊維束の長さと間には技術的制約があったことは技術常識であるから、この制約を無視して、炭素繊維の径だけに着目して、単純にその径を7.5μm以下と規定することは、当業者が容易になし得た事項とはいえないと認められる。
したがって、本件発明1は、甲2発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
また、甲3には、その径が不明である、ピッチ繊維からの1000フィラメントから成る炭素繊維ロービング2900mについて記載されているにすぎないから、本件発明1は、甲1〜3発明に基づき当業者が容易に発明することができたものともいえない。
3.申立理由2-2〜申立理由2-4について
本件発明2〜4は、実質的に、本件発明1をさらに技術的に限定するものであり、本件発明1が、甲1〜3発明に基づいて、当業者が容易に発明することができたものではない以上、それと同じ理由により、本件発明2〜4は、甲1〜3発明に基づいて、当業者が容易に発明することができたものとはいえない。
V.むすび
したがって、特許異議申立ての理由及び証拠によっては、請求項1〜4に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に請求項1〜4に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2003-02-17 
出願番号 特願平11-229620
審決分類 P 1 651・ 113- Y (D01F)
P 1 651・ 121- Y (D01F)
最終処分 維持  
前審関与審査官 中島 庸子  
特許庁審判長 高梨 操
特許庁審判官 石井 克彦
鴨野 研一
登録日 2001-02-09 
登録番号 特許第3156700号(P3156700)
権利者 三菱化学株式会社
発明の名称 ピッチ系炭素繊維束  
代理人 宇谷 勝幸  
代理人 野上 敦  
代理人 長谷川 曉司  
代理人 奈良 泰男  
代理人 齋藤 悦子  
代理人 八田 幹雄  

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