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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  C09D
審判 全部申し立て 5項1、2号及び6項 請求の範囲の記載不備  C09D
管理番号 1073334
異議申立番号 異議2001-72489  
総通号数 40 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 1993-08-20 
種別 異議の決定 
異議申立日 2001-09-12 
確定日 2003-02-17 
異議申立件数
事件の表示 特許第3144433号「対候性塗膜及びそれを形成したアルミニウムホイール」の請求項1ないし4に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 特許第3144433号の請求項1ないし4に係る特許を維持する。 
理由 1.手続の経緯

本件特許第3144433号の請求項1ないし4に係る発明は、平成3年12月20日に出願され、平成13年1月5日にその特許の設定登録がなされ、その後、諸永芳春及び株木健治より特許異議の申立てがあり、取消理由通知後、その指定期間内である平成14年3月18日に意見書が提出されたものである。

2.特許異議申立についての判断

(1)本件発明

本件の請求項1ないし4に係る発明は、その特許請求の範囲の請求項1ないし4に記載された下記のとおりのものである。
「【請求項1】アルミニウムホイールの耐候性塗膜において、前記耐候性塗膜が、(a) アルミニウムホイール上に形成されたエポキシポリエステル系ハイブリッド粉体塗料からなるプライマー層と、(b) 前記プライマー層上に形成されたアクリルハイソリッドメタリック塗料からなるベースコート層と、(c) 前記ベースコート層上に形成されたアクリルハイソリッド塗料からなるクリアコート層とを有することを特徴とする耐侯性塗膜。
【請求項2】請求項1に記載のアルミニウムホイールの耐侯性塗膜において、前記アクリルハイソリッドメタリック塗料は、アクリルメラミン系樹脂をベースとすることを特徴とする耐侯性塗膜。
【請求項3】請求項1又は2に記載のアルミニウムホイールの耐侯性塗膜において、前記アクリルハイソリッド塗料は、アクリルメラミン系樹脂をベースとすることを特徴とする耐侯性塗膜。
【請求項4】請求項1乃至3のいずれかに記載の耐侯性塗膜を形成してなるアルミニウムホイール。」

(2)異議申立の理由の概要

申立人、諸永芳春は、証拠として、下記の甲第1号証ないし甲第4号証を提示し、請求項1ないし4に係る発明は、甲第1号証ないし甲第4号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1ないし4に係る特許は、特許法第29条第第2項の規定に違反してなされたものであり、また、請求項1ないし4に係る発明と明細書の実施例の記載とが一致していないから、本件特許は、特許法第36条第5項第1号の要件を満たしていない出願に対してなされたものであり、取り消されるべきものであると主張している。

甲第1号証:特開昭62-45382号公報 (a)
甲第2号証:特開昭57-21971号公報 (b)
甲第3号証:特開昭62-227641号公報(c)
甲第4号証:特開昭54-43945号公報 (d)

申立人、株木健治は、証拠として、下記の甲第1号証及び甲第2号証を提示し、請求項1ないし4に係る発明は甲第1号証及び甲第2号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1ないし4に係る特許は、特許法第29条第第2項の規定に違反してなされたものであると主張している。

甲第1号証:特開平3-114574号公報 (e)
甲第2号証:特開平60-47078号公報 (f)

(3)甲号各証に記載の発明

特開昭62-45382号公報(a)には、「被塗物の上に下塗りを施し、次いで隠蔽力の高い第一層の上塗り塗料、次いで隠蔽力が通常以下の第二層の上塗り塗料をウエットオンウエットで塗装する黄変防止塗装方法」(特許請求の範囲)に係る発明が記載され、自動車塗装系等において、[「電着塗料又は/及び粉体塗料を塗装した上に、直接上塗り塗料を積層する」塗装系でソリッド仕上げする場合に、電着塗料や粉体塗料のブリードによって、上塗り塗膜まで黄変する現象が起きている。・・・・・。本発明は、下塗り塗料を塗装した上に、直接上塗り塗料をウエットオンウエットで積層して仕上げる塗装系において、上塗り塗膜が黄変する現象を防止することを目的としている。](1頁右欄3行〜2頁左上欄7行)と、また、「粉体塗料はエポキシ樹脂、ポリエステル樹脂をビヒクルに通常の顔料を配合した公知の粉体塗料であるが、この粉体塗料はレベリング剤として用いる添加剤、その他の黄変物質のため硬化時或いは塗膜形成後に黄変する傾向がある。」(2頁右上欄1〜5行)と記載され、第4頁には、第一上塗り塗料(A〜C)及び第二上塗り塗料(D〜F)の具体的組成が示され、(A)、(F)の樹脂成分はアクリル樹脂とメラミン樹脂からなるものである。さらに、実施例1には、下塗り塗料としてポリエステル-エポキシ系粉体塗料が用いられ、その上に第一上塗り塗料(A)及び第二上塗り塗料(D)を用いた例が示されている。
特開昭57-21971号公報(b)には、「カルボキシル基含有ポリエステル樹脂とエポキシ樹脂とを含んで成る粉体塗料を下塗りし、次いでアルキド樹脂またはアクリル樹脂とアミノ樹脂とを含んで成る溶液塗料を上塗りすること、およびこの上塗り塗料を塗装するさいの、上記下塗り塗料から得られた塗膜のゲル分率が70〜95重量%の範囲内にあることを特徴とする塗装方法。」(特許請求の範囲)が記載され、「今後ますますこうした粉体塗料-溶液塗料なるシステムが中軸になっていく傾向にある。かかる方法によれば、従来の如くに溶液型塗料のみを使用した塗装法に比べ、塗装時に排出される溶剤量は著しく低減されるから、低公害化に果たす役割は極めて大きいものであるけれども、上記の組合せになる下塗り粉体塗料の耐候性が著しく劣るために、これに続く上塗り塗膜が光源により劣化される原因となり、結局は耐候性が強く要求される自動車の車体塗装においては好ましい状態ではない。・・・・・・しかるに、・・・下塗り塗料として特定の粉体塗料を用い、しかも溶液型の上塗り塗料を塗装するさいにおける上記粉体塗料のゲル分率が特定の範囲にあるときは、換言すれば特定の塗料および塗装システムを採る場合に限り、耐候性にすぐれることは勿論、上記した如き種々の要求特性をも満足させうる塗膜が得られることを見出して、本発明を完成させるに到った。」(1頁右欄3行〜2頁左上欄11行)と説明されている。
特開昭62-227641号公報(c)には、「(1)金属などの基材と、該基材の表面に形成された、第1透明樹脂と該第1透明樹脂中に分散した分散質を構成するアルミニウム粉末とからなるベースコート層と、該ベースコート層の表面に一体的に形成された第2透明樹脂と第2透明樹脂中に分散した分散質を構成する二酸化チタンが被覆された雲母粉末とから構成された表皮層と、を有し、該アルミニウム粉末は該第1透明樹脂固形分中に1〜30重量%含有され、該雲母粉末は該第2透明樹脂固形分中に0.1〜5重量%含有されていることを特徴とするメタリック塗膜を有する基材。」(特許請求の範囲)に係る発明が記載され、本発明は、自動車などの分野に利用されること(1頁右欄13〜14行)、アルミニウムの金属光沢を維持しつつ明度が高いメタリック塗膜を有する基材を提供することを目的とすること(2頁右上欄下から5〜2行)が説明され、第1表、第2表には、それぞれ第1透明樹脂層、第2透明樹脂層を構成する塗料の組成が示されている。
特開昭54-43945号公報(d)には、メタリック粉末を配合した、メラミン樹脂と硬化架橋する基体樹脂を主成分とする塗料(ベースコート)を塗装し、ついで該塗装面に熱硬化樹脂を主成分とした溶剤型塗料(トップコート)を塗装し、しかるのちに加熱硬化せしめるメタリック塗装仕上げ方法に係る発明が記載され、「塗料のタイプとしては、トップコートおよびベースコートのいずれも有機溶剤を媒体とした溶液型塗料、非水ディスバージョン塗料、多液型塗料、いずれのタイプでもよい。」(7欄6〜9行)と記載されている。
特開平3-114574号公報(e)には、透明性微粉末シリカ又はアルミナを含有する熱硬化性又は熱可塑性樹脂からなる液体塗料(A)を塗装し、次いで、熱硬化性樹脂及びメタリック顔料を主成分とする液体塗料(B)を塗装し、更に熱硬化性アクリル樹脂からなる塗料(C)を塗装するアルミホイールのメタリック仕上げ塗装方法が記載され(特許請求の範囲)、塗料(A)の熱硬化性樹脂として、アクリル樹脂、エポキシ樹脂等等が使用され(3頁左下欄12行〜右下欄2行)、塗料(B)として、アルミニウムペースト等を含有するアクリル樹脂が使用され(6頁右上欄15行〜7頁左下欄1行及び第1表)、及び塗料(C)はハイソリッド型のものを使用し得ること(4頁右下欄下より6行〜5頁左上欄13行)が記載され、また、アルミニウムホイール塗装における課題として「(1)アルミホイールにはデザインを良くするため数多くの細工がされ、そのため尖った鋭角的な部分・・・が多く存在し、このエッジ部に塗着した塗料が加熱硬化時に溶融流動して該エッジ部に十分な厚さの硬化塗膜を形成するのが困難となり、糸さびなどが多く発生し、しかも仕上がり外観も低下する。(2)上両塗料は主としてアミノ・アクリル系熱硬化タイプでかつ比較的硬質であるために、走行中に小石や砂利などが該面に衝突すると剥離やワレなどが発生しやすい。(3)塗着したメタリック塗料などがアルミホイール表面の小孔部分に吸い込まれて光沢や鮮映性などが低下したり、ピンホールが発生しやすく、メタリック感も不十分である。(4)メタリック塗膜とアルミホイールとの付着性が劣 る。(5)メタリック顔料の配向性が不均一で、メタリックムラが発生しやすいなどの欠陥を有している。」(2頁左上欄12行〜右上欄9行)と記載されている。

(4)対比・判断

ア)特許法第29条第2項違反について

本件請求項1ないし4に係る発明(以下、まとめて「本件発明」という。)と甲号各証に記載された発明とを比較すると、 いずれにも本件発明の構成である「(a)アルミニウムホイール上に形成されたエポキシポリエステル系ハイブリッド粉体塗料からなるプライマー層と、(b) 前記プライマー層上に形成されたアクリルハイソリッドメタリック塗料からなるベースコート層と、(c) 前記ベースコート層上に形成されたアクリルハイソリッド塗料からなるクリアコート層とを有するアルミニウムホイールの耐侯性塗膜又はかかる耐候性被膜を形成したアルミニウムホイール」については記載されておらず示唆もされていない。
そして、アルミニウムホイール又は金属基材上に施す層として、本件発明の塗膜を構成する各層は、個々には、本願出願前に周知な層、或いは甲号各証により公知の層であるにしても、本件発明は、アルミニウムホイールのメタリック塗装において、特定の3層を組み合わせることにより、溶剤系塗料を使用しないでも、耐腐食性、耐候性、塗装性に優れた塗膜を得ることができたという顕著な効果を奏したものであるから、本件発明は、異議申立人、諸永芳春及び株木健治の提示した証拠(a)〜(f)に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
よって、本件特許は特許法第29条第2項に違反してなされたものではない。

イ)特許法第36条第5項第1項違反について

本件の明細書は、出願当初から[産業上の利用分野]の項に、「自動車用ホイールのようなアルミニウム部材上に形成する耐候性皮膜、及びかかる耐候性塗膜を形成してなるアルミニウム部材に関する。」とあり、明細書はアルミニウムホイールを中心に説明されている。確かに、実施例は、基材として、「アルミニウム板(125mm×75mm×0.7mm)」と記載されているが、明細書全体の記載からみて、これは自動車用ホイールのようなアルミニウム部材と同様のアルミニウム板と解するのが妥当である。
したがって、特許請求の範囲の請求項1ないし4に係る発明は明細書に記載された発明であり、本件特許は特許法第36条第5項第1項に違反してなされたものではない。

(5)異議申立人の主張について

異議申立人 諸永芳春は、甲第1号証(a)及び甲第2号証(b)により、自動車の塗料系において「エポキシポリエステル系ハイブリッド粉体塗料によりプライマーコートを形成する」ことは本件出願前に周知であるから、甲第3号証(c)、甲第4号証(d)の層構造において、プライマー層として周知の「エポキシポリエステル系ハイブリッド粉体塗料よりなるプライマーコート」を適用し、本件発明とすることは、当業者にとって容易であると主張する。
しかし、甲第1号証(a)及び甲第2号証(b)には、特定の層構造の一部としてエポキシポリエステル系ハイブリッド粉体塗料からなるプライマー層が記載されているにすぎず、エポキシポリエステル系ハイブリッド粉体塗料をプライマー層に用いることによって生じる黄変や耐候性が劣る等の欠点を、その上に設ける層または塗装方法を特定することにより回避しているところからみて、「エポキシポリエステル系ハイブリッド粉体塗料よりなるプライマーコート」の適用は、その上に設ける層または塗装方法と切り離して行うことができるものではないから、甲第3号証(c)、甲第4号証(d)に記載された発明の層構造が本件発明のベースコート層及びクリアコート層と一致するか否か、或いは用途の一致性を論ずるまでもなく、甲第3号証(c)、甲第4号証(d)に記載された発明に、上記公知のエポキシポリエステル系ハイブリッド粉体塗料のプライマーコートを直ちに適用することは、当業者にとって容易であるとはいえない。

異議申立人、株木建治は、本件発明と甲第1号証(e)に記載された発明を比較すると、プライマー層が、本件発明はエポキシポリエステル系ハイブリッド粉体塗料であるのに対して、甲第1号証(e)に記載された発明では液状塗料である点で相違するだけであり、エポキシポリエステル系ハイブリッド粉体塗料は甲第2号証(f)により公知であるから、甲第1号証(e)に記載された発明においてプライマー層として液状塗料に代えてエポキシポリエステル系ハイブリッド粉体塗料を用いることは当業者にとって容易である、と主張している。
しかし、甲第1号証(e)に記載された発明は、プライマー層の上のベースコート層がアクリルハイソリッドメタリック塗料からなるものであるかどうか不明であり、その点も本件発明と相違している。しかも、上記のとおり、エポキシポリエステル系ハイブリッド粉体塗料の問題点を考慮すれば、その上に設ける層と切り離して、いかなる層にも適用できるものでないことは上記のとおりであるから、異議申立人の主張は認めることができない。

(6)むすび

以上のとおりであるから、特許異議申立ての理由および証拠をもっては、本件発明に係る特許を、取り消すことはできない。
また、他に、該特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2003-01-16 
出願番号 特願平3-356013
審決分類 P 1 651・ 534- Y (C09D)
P 1 651・ 121- Y (C09D)
最終処分 維持  
前審関与審査官 近藤 政克  
特許庁審判長 板橋 一隆
特許庁審判官 西川 和子
井上 彌一
登録日 2001-01-05 
登録番号 特許第3144433号(P3144433)
権利者 日立金属株式会社
発明の名称 対候性塗膜及びそれを形成したアルミニウムホイール  

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