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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  B32B
管理番号 1073340
異議申立番号 異議2001-71470  
総通号数 40 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 1999-01-12 
種別 異議の決定 
異議申立日 2001-05-18 
確定日 2003-02-17 
異議申立件数
事件の表示 特許第3111357号「寿命の長いジュース・カートン構造体とその構成方法」の請求項1ないし12に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 特許第3111357号の請求項1ないし12に係る特許を維持する。 
理由 1.手続の経緯・本件特許発明
本件特許第3111357号は、1996年10月11日(パリ条約による優先権主張1995年10月27日、米国)を国際出願日とする特願平9-516447号の特許出願に係り、平成12年9月22日にその特許権の設定登録がなされたものであって、その請求項1〜12に係る発明(以下、請求項m(m=1〜12)に係る発明を「本件特許発明m」という。)は、特許明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲請求項1〜12に記載された次のとおりのものである。
「【請求項1】 内側表面および外側表面を有する基体(10);
該基体(10)の外側表面上に被覆された熱シール性のポリマー材料からなる外側層(12);
該基体(10)の内側表面上に配置され、積層体に機械的強度と耐熱性を与え、向上された耐久性を与えるポリアミド・ポリマー層(14);
該ポリアミド・ポリマー層(14)の内側に配置され、その容器の内容物から香料油の離脱を防止する高いバリヤーのエチレン・ビニルアルコール(HBEVOH)コポリマー層(24)を有し;
そのHBEVOHコポリマー層(24)は、279m2(3,000平方フィート)当り、0.227kg〜2.27kg(0.5〜5ポンド)の被覆重量比率を有し;
前記のHBEVOHコポリマー層(24)の内側表面に被覆された薄い結合層(26)と、該薄膜結合層(26)上に被覆された熱-シール性のポリマー材の薄膜(28)が、その容器の内側表面を形成し、それにより、その容器のサイド・シームの離脱を可能にし、そして、積層体の過酸化水素による積層体の滅菌を可能にし、そして、前記のHBEVOHコポリマー層(24)は、エチレンコモノマー27〜32モル%を含有することを特徴とする容器積層構造体。
【請求項2】 該基体(10)は、紙板である請求項1に記載の容器積層構造体。
【請求項3】 熱-シール性ポリマー材の該外側層(12)と、熱-シール性ポリマー材の該薄膜層(28)は、低密度ポリエチレン、線形の低密度のポリエチレン或いはその混合物であることを特徴とする請求項1に記載の容器積層構造体。
【請求項4】 更に、該ポリアミドポリマー層(14)の内側表面上に配置された結合層(16)を有することを特徴とする請求項1に記載の容器積層構造体。
【請求項5】 更に、該結合層(16)の内側表面上にポリオレフィンポリマー(18)の少なくとも1つの層を有することを特徴とする請求項4に記載の容器積層構造体。
【請求項6】 更に、少なくとも1つのポリオレフィンポリマー層(18)の内側表面上に配置された第2の結合層(22)を有し、そして、前記のHBEVOHコポリマー層(24)は、前記の第2の結合層(22)の内側表面上に配置されていることを特徴とする請求項5に記載の容器積層構造体。
【請求項7】 内側表面および外側表面を有する紙板基体(10);
該基体(10)の外側表面上に被覆された、線形の低密度のポリエチレン或いはその混合物層(12);
該基体(10)の内側表面上に配置され、積層体に機械的強度と耐熱性を与え、向上された耐久性を与えるポリアミド・ポリマー層(14);
該ポリアミド・ポリマー層(14)の内側に配置され、その容器の内容物から香料油の離脱を防止するHBEVOHコポリマー層(24)を有し;
そのHBEVOHコポリマー層(24)は、279m2(3,000平方フィート)当り、0.227kg〜2.27kg(0.5〜5ポンド)の被覆重量比率を有し;
前記のHBEVOHコポリマー層(24)の内側表面に被覆された薄い結合層(26)と、該薄い結合層上に被覆された薄膜ポリオレフィンポリマー層(28)が、その容器の内側表面を形成し、それにより、容器のスライビングを可能にし、そして、積層体の過酸化水素による積層体の滅菌を可能にし;
そして、前記のHBEVOHコポリマー層(24)は、エチレンコモノマー27〜32モル%を含有することを特徴とする容器積層構造体。
【請求項8】 更に、前記のポリアミドポリマー層(14)の内側表面上に析出された結合層(16)を本質的に有することを特徴とする請求項7に記載の容器積層構造体。
【請求項9】 更に、結合層(16)の内側表面上にある、少なくとも1つのポリオレフィンのポリマー層(18)、(20);
そして、少なくとも1つのポリオレフィンポリマー層(18)、(20)の内側表面上に配置された第2の結合層(22)を有し、
HBEVOHコポリマー層(24)は、前記の第2の結合層(22)の内側表面上に配置されることを特徴とする請求項7に記載の容器積層構造体。 【請求項10】 少なくとも1つのポリオレフィンポリマー層(18)、(22)は、各々、第1の外側層および第2の内側層であることを特徴とする請求項9に記載の容器積層構造体。
【請求項11】 内側表面および外側表面を有する紙板基体(10);
該基体(10)の外側表面上に被覆された、線形の低密度のポリエチレン或いはその混合物の層(12);
該基体(10)の内側表面上に配置され、積層体に機械的強度と耐熱性を与え、向上された耐久性を与えるポリアミド・ポリマー層(14);
該ポリアミド・ポリマー層(14)の内側に配置された、27〜32モル%のエチレンコモノマー含有であり、その容器の内容物から香料油の離脱を防止する、HBEVOHコポリマー層(24)を有し;
そのHBEVOHコポリマー層(24)は、279m2(3,000平方フィート)当り、0.227kg〜2.27kg(0.5〜5ポンド)の被覆重量比率を有し;
そして、前記のポリアミドポリマー層(14)の内側表面上に配置された結合層(16);
前記の結合層の内側表面上のポリオレフィンポリマーの第1の外側層(18)及び第2の内側層(20);
前記の第2の内側層(20)の内側表面上に配置された第2の結合層(22)を有し;
そして、前記のHBEVOHコポリマー層(24)は、第2の結合層(22)上に配置されており、そして、
前記のHBEVOHコポリマー層(24)の内側表面上に被覆された薄膜結合層(26)と、該薄膜結合層(26)上に被覆された薄膜ポリオレフィンポリマー層(28)が、その容器の内側表面を形成し、それにより、容器のサイドシームのスライビングを可能にし、そして、積層体の過酸化水素による積層体の滅菌を可能にすることを特徴とする容器積層構造体。
【請求項12】 前記ポリアミドポリマー(14)は、ナイロン6、ナイロン66、ナイロン6-12、ナイロン10、ナイロン12およびアモルファスナイロンからなる群から選択される請求項1に記載の容器積層構造体。」

2.特許異議申立ての理由の概要
これに対し、特許異議申立人 ストラ エンソ オサケ ユヒチエ ユルキネン(以下、「申立人」という。)は、甲第1号証(米国特許第4,888,222号明細書)、甲第2号証(米国特許第5,084,352号明細書)、甲第3号証(ヨーロッパ特許出願公開第630745号公報)、甲第4号証(1985 TAPPI High Barrier Packaging Seminar)(以下、甲第n号証(n=1〜4)を「甲n」、該甲号証記載の発明を「甲n発明」という。)を提出し、
本件特許発明1〜12は、甲1、2発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、また、甲1、3発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、さらに、甲1、4発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1〜12に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである、
と主張する。

3.申立人の主張の適否の判断
3-1.甲各号証の記載内容
a.甲1
ア.「本発明は、酸素を透過しない、そして漏れのない容器をつくる熱-シール可能なバリヤー積層体、……さらに具体的にいえば、……特にパッケージ形成時に積層体を折り、そして熱-シールする際に生じる酸素バリヤー層のピンホール、切断、裂開を効果的に防止する特定の高強度ポリマー樹脂層からなるバリヤー積層構造体に関する。」(当合議体の訳文;明細書第1欄6〜14行)、
イ.「熱-シール工程、切れ目付け工程……において、特定のコーキングポリマー樹脂、すなわち、アイオノマー型樹脂、エチレン-アクリル酸共重合体……等は、熱-シール工程(温度範囲250°F〜500°F)で流動するメルトインデックスを有している。これらの選択された樹脂はコーキング材として働き、切り妻……形成時に生じるチャンネルを充填する。その結果、各隙間にはコーキング材が詰められ、そこを通って酸素が進入することが防止される。」(同訳文;明細書第2欄61行〜第3欄7行)、
ウ.「新規の積層構造体及び該構造体のために選択された材料、すなわち(namely)*、本発明により実施され、高い酸素バリヤー材料と結合される特定のコーキングポリマー樹脂及び酷使に耐える(abuse resistant)ポリマー樹脂は、種々の組み合わせにおいて種々の食品……のパッケージに適用され得る。」(申立人が提出した訳文;明細書第3欄21〜27行*()書きは当合議体が追記)、
エ.「第3図は、第2図に示された好ましい実施態様の修正例であり、……該構造体は、次のように記載される。すなわち、……紙板などの機械的に安定な構造の基板50の外側上に……低密度ポリエチレンポリマー層48が被覆されている。該……基板50の外側上には、ポリアミド型ポリマー(ナイロン6)などの酷使に耐える……ポリマー層52と、アイオノマー樹脂……などの……コーキングポリマー樹脂層54からなるサンドイッチ層53が共押出しされる。……接着結合層56、酸素の透過に対する絶対的なバリヤーとして作用する……アルミニウム箔などの酸素バリヤー層58、……第2の接着結合層60が、前記共押出しされたサンドイッチ層53の上に共押出しされる。最後に、……アイオノマー樹脂などのコーキングポリマー樹脂の層62が、該第2の共押出しサンドイッチ層57上に被覆され、その上に低密度ポリエチレンからなる……内側の食品接着層64が配置される。層64の層48と組み合わせた追加は、外層と内層間の良好な熱シールを可能にする。」(申立人が提出した訳文を一部修文した訳文;明細書第5欄53行〜第6欄11行)、
オ.「バリヤー層は、アルミニウム箔、エチレンビニルアルコール共重合体……等からなることができる。」(申立人が提出した訳文;7欄49〜57行)、
カ.前記アでいうバリヤー積層構造体の断面図に相当する第3図。

b.甲2
キ.「少なくとも、低湿分透過性の第1ポリマーフィルムと、ガスバリヤーポリマー約1〜99部及び該第1ポリマーと同一、または相溶性の、該ガスバリヤーポリマー中に分布して不均一ポリマーブレンドフィルムを該第1ポリマーフィルムに接着させる第2ポリマー約99〜1部を含む不均一ポリマーブレンドフィルムを含む多層バリヤーフィルム製品。」(当合議体の訳文;明細書第11欄49〜59行、特許請求の範囲第1項)、
ク.「本発明は、改良された酸素及び湿分に対する不透過性ならびにタフネス及び加工性を示す多層フィルムに関する。……そのようなフィルムは、特に食品工業における包装用途に有用である。」(同訳文;1欄6〜21行)、
ケ.「ガス……バリヤー保護を与える多層構造物に関して、不均一内層は典型的には高バリヤーポリマーマトリックス、例えばポリ(エチレンビニルアルコール)(EVOH)……を極性ポリマーとして、そしてポリオレフィンなどを防湿性非極性ポリマーとして用いる。したがって、好ましい3層構造物はA(B/A)A(ただし、Aはポリオレフィン、Bはバリヤーガス……耐性成分)として示される。」(同訳文;明細書第3欄54〜63行)、
コ.「Bがガス/化学的バリヤーポリマーである場合、エチレンビニルアルコールコポリマー(EVOH)が、29〜44モル%の範囲で含有量が変化するエチレンと共に用いられ得る。」(申立人が提出した訳文;明細書第4欄37〜39行)。

c.甲3
サ.「特に容器製造用の多層製品であって、一方の表面上に気密多層プラスチックコーティング(3)を配置した繊維基材包装材料から形成された層(1)を含み、該……コーティング(3)は、1〜4g/m2のバリヤープラスチック層(4a……)、……結合層(5)及び……熱シール性のポリオレフィン材料からなる表面層(6)が重ねられてなり、該バリヤープラスチック層が ……層(1)に対して最も近くにあることを特徴とする上記多層製品。」(当合議体の訳文;請求項1)、
シ.「バリヤープラスチック層(4a)が、32%エチレンビニルアルコール共重合体材料からなる請求項1……記載の多層製品。」(当合議体の訳文;請求項4)、
ス.「第1図の実施態様において、バリヤープラスチック層4aは32%エチレンアルコール共重合体(ethylene alcohol copolymer)材料から製造され……る。……異なる層の層厚みは次のとおりであり、すなわち、……層4aは1〜4g/m2……に選択される。」(当合議体の訳文;公報第2欄47行〜第3欄16行。なお、下線付与部の「エチレンアルコール共重合体」については、その前後の記載から判断して、「エチレンビニルアルコール共重合体」(=EVOH)の誤記と解される。)、
セ.上記多層製品の第一の好ましい実施態様を示す第1図(図中、層4aは「EVOH 32%」と表記されている。)。

d.甲4
ソ.EVOH共重合体中のエチレンモル分率が小さいほどガスバリヤー性は大きいこと(当合議体の訳文;第1図)、
タ.湿度及び/または温度の増加に合わせてEVOHのバリヤー性は減少するが、相対湿度90%、温度35℃においても、エチレン含量32%のEVAL(登録商標) EP-Fの酸素透過率は、エチレン含量44%のEVAL(同) EP-Eより小さいこと(同訳文;第5表)、
チ.紙層を含む積層構造体の一部としてEVAL(同) EP-Fを使用する実例(同訳文;第3図)。

3-2.対比・判断
3-2-1.本件特許発明1について
本件特許発明1(前者)と甲1発明(後者)とを対比すると、
後者の第3図の「容器積層構造体」についての説明(前記エ参照)中では「アルミニウム箔など」と記された「酸素バリヤー層58」(前記カ参照)は、摘示記載オ.によれば「エチレンビニルアルコール共重合体」(=EVOH)であってよいから、また、後者の「低密度ポリエチレン層64」は、摘示記載エ.によれば、良好な熱シールを可能にするための層であることから、後者の「基板50」、「低密度ポリエチレンポリマー層48」、「ポリアミド型ポリマー層52」、「酸素バリヤー層である「EVOH層58」」、「接着結合層60」、「低密度ポリエチレン層64」は、それぞれ、前者の「容器積層構造体」中の「基体(10)」、「外側層(12)」、「ポリアミド・ポリマー層(14)」、「ポリアミド・ポリマー(14)の内側に配置された、バリヤー性のエチレン・ビニルアルコール(EVOH)コポリマー層」、「薄い結合層」、「熱-シール性ポリマー材の薄膜」に相当するものと認められ、後者の「ポリアミド型ポリマー層52」は、ナイロン6を用いており、本件特許明細書には「積層体に機械的強度と耐熱性を与え、向上された耐久性を与えるポリアミド・ポリマー層(14)」と記載され、具体的には「ナイロン6、ナイロン66、・・・アモルファス ナイロンからなる群から選択され得る。」と記載されており、後者の「ポリアミド型ポリマー層52」も当然に「積層体に機械的強度と耐熱性を与え、向上された耐久性を与える」ものと認められるので、
両者は、
「内側表面および外側表面を有する基体(10);
該基体(10)の外側表面上に被覆された熱シール性のポリマー材料からなる外側層(12);
該基体(10)の内側表面上に配置され、積層体に機械的強度と耐熱性を与え、向上された耐久性を与えるポリアミド・ポリマー層(14);
該ポリアミド・ポリマー層(14)の内側に配置されたエチレン・ビニルアルコール(EVOH)コポリマー層、
該EVOHコポリマー層の内側に配置された薄い結合層、
容器最内側に配置された熱-シール性のポリマー材の薄膜、
からなる容器積層構造体。」の点で一致し、
本件特許発明1では、
(a)「該ポリアミド・ポリマー層(14)の内側に配置され、その容器の内容物から香料油の離脱を防止する高いバリヤーのエチレン・ビニルアルコール(HBEVOH)コポリマー層(24)を有し;
そのHBEVOHコポリマー層(24)は、279m2(3,000平方フィート)当り、0.227kg〜2.27kg(0.5〜5ポンド)の被覆重量比率を有し」、
(b)「前記のHBEVOHコポリマー層(24)の内側表面に被覆された薄い結合層(26)と、該薄膜結合層(26)上に被覆された熱-シール性のポリマー材の薄膜(28)が、その容器の内側表面を形成し」、及び
(c)「前記のHBEVOHコポリマー層(24)は、エチレンコモノマー27〜32モル%を含有する」
のに対し、甲1には、請求項1に記載の上記発明特定事項(a)〜(c)について記載されていない点で相違している。
そこで、上記相違点ついて検討する。
申立人は「ウ.本件特許発明と証拠に記載された発明との対比」項(特許異議申立書11〜17頁)中で、上記発明特定事項については甲1〜4に記載されており、当業者が容易に想到し得ることができると主張する。
ここで、申立人提出の甲2〜4をみると、
先ず、甲2には、摘示記載コ.によれば、高ガスバリヤー性EVOHのエチレン含量の最低値は29モル%であることが、
また、甲3には、摘示記載サ.〜セ.によれば、容器製造用多層製品中のバリヤープラスチック層として、エチレン含量32モル%のEVOHが層厚み1〜4g/m2の範囲で使用されることが記載されており、本件特許発明1でいう被覆重量比率に換算すると、0.279〜1.116kg/279m2の範囲で使用されることが、
さらに、甲4には、摘示記載ソ.〜チ.によれば、エチレンモル分率が小さいほどガスバリヤー性は大きく、紙層を含む積層構造体に使用されるEVOHにはエチレン含量32%のものがあることが、
それぞれ、甲2〜甲4発明が開示されているものと認められる。
そうすると、上記甲2〜甲4発明の開示を総合し、甲1発明における前記「ポリアミド型ポリマー層(52)の内側に配置されたエチレン・ビニルアルコール(EVOH)コポリマー」(=第3図の酸素バリヤー層58)を「エチレンコモノマー含量29〜32モル%のHBEVOHコポリマー層(24)」とし、その被覆重量率を本件特許発明1で規定する範囲内の「0.279〜1.116kg/279m2」とすること、すなわち、本件特許発明1の上記発明特定事項(a)及び(c)を充足する構成を採用することは、当業者が容易に想到し得たものと認められる。
しかしながら、摘示記載ウ.の記載によれば、甲1発明ではコーキングポリマー樹脂層の存在が必須であり、前記甲1の第3図でいえば、容器内側に向かう「……接着結合層60/コーキングポリマー樹脂層62/低密度ポリエチレン層64」の積層構造(以下、積層構造(I)という)から該コーキングポリマー樹脂層62を省いたり、これを他の層で置換することはできないものと認められる。
また、本件特許発明1の前記発明特定事項(b)で規定する「前記HBEVOHコポリマー層(24)の内側表面に被覆された薄い結合層(26)と、該薄膜結合層(26)上に被覆された熱-シール性のポリマー材の薄膜(28)が、その容器の内側表面を形成」する積層構造(以下、積層構造(II)という)は、コーキングポリマー樹脂層が関与しない点で明らかに甲1発明の積層構造(I)とは相違する上、前記摘示記載キ.〜チ.から明らかなように、甲2〜甲4発明のいずれも、該積層構造(II)を教示するものではない。
そうすると、甲1と甲2、甲1と甲3、甲1と甲4のいずれの発明を組み合わせたとしても、本件特許発明1の前記発明特定事項(b)を導き出すことはできない。
そして、本件特許発明1は、上記発明特定事項(b)を具備することにより、請求項1記載の他の構成とあいまって、本件特許明細書記載の顕著な効果、特に、「高いバリヤーのエチレン・ビニルアルコール・コポリマー層(24)を結合層(26)およびポリオレフィン・ポリマー層(28)に結合させて、使用すると、香料油の損失を最小にする。積層構造体を試すと、……香料損失が、少なくとも90日間にわたり、10%以下であった」旨の、本件特許明細書記載の効果を奏するものと認められる。
したがって、本件特許発明1は、甲1と2、甲1と3、甲1と4のいずれの発明の組み合わせに基づいても当業者が容易に想到し得たとすることはできない。

3-2-2.本件特許発明2〜6及び12について
本件特許発明2〜6及び12は、請求項1を直接、あるいは間接的に引用し、本件特許発明1をさらに技術的に限定する関係にあるところ、前記のとおり、前提となる本件特許発明1が甲1と2、甲1と3、甲1と4のいずれの発明の組み合わせに基づいても当業者が容易に想到し得たとすることができない以上、本件特許発明2〜6及び12は、上記3-2-1.に記載した理由により、甲1と2、甲1と3、甲1と4のいずれの発明の組み合わせに基づいても当業者が容易に想到し得たとすることができない。

3-2-3.本件特許発明7について
独立形式で記載された本件特許発明7は、本件特許発明1と対比すると、イ.「熱シール性のポリマー材料からなる外側層(12)」を、「線形の低密度のポリエチレン或いはその混合物層(12)」、ロ.「容器の内容物から香料油の離脱を防止する高いバリヤーのエチレン・ビニルアルコール(HBEVOH)コポリマー層(24)」を、「容器の内容物から香料油の離脱を防止するHBEVOHコポリマー層(24)」、ハ.「熱-シール性のポリマー材の薄膜(28)」を、「薄膜ポリオレフィンポリマー層(28)」、ニ.「熱-シール性のポリマー材の薄膜(28)が、その容器の内側表面を形成し、それにより、その容器のサイド・シームの離脱を可能にし、」、「薄膜ポリオレフィンポリマー層(28)が、その容器の内側表面を形成し、それにより、容器のスライビングを可能にし、」と規定したものである。
とすると、本件特許発明7は甲1発明と対比すると、本件特許発明7は、少なくとも上記3-2-1.で記載した本件特許発明1と甲1発明との対比において摘示した事項を上記イ.〜ニ.の如く限定した発明特定事項の点で相違が認められ、特に、本件特許発明1についての発明特定事項(b)に対応する、請求項7に記載の「前記のHBEVOHコポリマー層(24)の内側表面に被覆された薄い結合層(26)と、該薄い結合層上に被覆された薄膜ポリオレフィンポリマー層(28)が、その容器の内側表面を形成」する点について、甲1〜4のいずれにも、記載も示唆もされていない。
そして、本件特許発明7は、該発明特定事項を具備することにより、請求項7記載の他の発明特定事項とあいまって、本件特許明細書記載の顕著な効果を奏するものと認められる。
したがって、本件特許発明7は、上記3-2-1.において記載したのと同じ理由により、その余の点について検討するまでもなく、甲1と2、甲1と3、甲1と4のいずれの発明の組み合わせに基づいて当業者が容易に想到し得たとすることはできない。

3-2-4.本件特許発明8〜10について
本件特許発明8〜10は、請求項7を直接、あるいは間接的に引用し、本件特許発明7をさらに技術的に限定する関係にあるところ、前記のとおり、前提となる本件特許発明7が甲1と2、甲1と3、甲1と4のいずれの発明の組み合わせに基づいても当業者が容易に想到し得たとすることができない以上、本件特許発明8〜10は、上記3-2-1.に記載した理由により、甲1と2、甲1と3、甲1と4のいずれの発明の組み合わせに基づいても当業者が容易に想到し得たとすることができない。

3-2-5.本件特許発明11について
本件特許発明11は、本件特許発明7と対比すると、イ.「そして、前記のポリアミドポリマー層(14)の内側表面上に配置された結合層(16);
前記の結合層の内側表面上のポリオレフィンポリマーの第1の外側層(18)及び第2の内側層(20);
前記の第2の内側層(20)の内側表面上に配置された第2の結合層(22)を有し;
そして、前記のHBEVOHコポリマー層(24)は、第2の結合層(22)上に配置されており、」と積層関係を特定するとともに、ロ.「薄膜ポリオレフィンポリマー層(28)が、その容器の内側表面を形成し、それにより、容器のスライビングを可能にし、」を、「薄膜ポリオレフィンポリマー層(28)が、その容器の内側表面を形成し、それにより、容器のサイドシームのスライビングを可能にし、」と規定したものである。
本件特許発明7についてと同様、甲1〜4のいずれにも、請求項11に記載の「前記のHBEVOHコポリマー層(24)の内側表面上に被覆された薄膜結合層(26)と、該薄膜結合層(26)上に被覆された薄膜ポリオレフィンポリマー層(28)が、その容器の内側表面を形成」する発明特定事項について、記載も示唆もされていない。
そして、本件特許発明11は、該発明特定事項を具備することにより、請求項11記載の他の発明特定事項とあいまって、本件特許明細書記載の顕著な効果を奏するものと認められる。
そうすると、本件特許発明11もまた、上記3-2-3.において記載したのと同じ理由により、その余の点について検討するまでもなく、甲1と2、甲1と3、甲1と4のいずれの発明の組み合わせに基づいて当業者が容易に想到し得たとすることはできない。

4.むすび
したがって、特許異議申立ての理由及び証拠によっては、請求項1〜12に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に請求項1〜12に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2003-01-20 
出願番号 特願平9-516447
審決分類 P 1 651・ 121- Y (B32B)
最終処分 維持  
前審関与審査官 平井 裕彰  
特許庁審判長 石井 淑久
特許庁審判官 田口 昌浩
須藤 康洋
登録日 2000-09-22 
登録番号 特許第3111357号(P3111357)
権利者 インターナショナル ペーパー カンパニイ
発明の名称 寿命の長いジュース・カートン構造体とその構成方法  
代理人 佐木 啓二  
代理人 倉持 裕  
代理人 田中 弘  
代理人 竹沢 荘一  
代理人 秋山 文男  
代理人 朝日奈 宗太  

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