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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  C12N
審判 全部申し立て 特36 条4項詳細な説明の記載不備  C12N
管理番号 1073356
異議申立番号 異議2002-70656  
総通号数 40 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 1993-09-17 
種別 異議の決定 
異議申立日 2002-03-18 
確定日 2003-02-19 
異議申立件数
事件の表示 特許第3209784号「新規ラクトバチルス属微生物」の請求項1ないし3に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 特許第3209784号の請求項1ないし3に係る特許を維持する。 
理由 (1)手続の経緯
特許第3209784号に係る発明についての出願は、平成4年2月27日に特許出願され、平成13年7月13日にその特許の設定登録がなされ、その後、大久保真司より特許異議の申立がなされ、取消理由通知がなされ、これに対し特許異議意見書が提出された。
(2)本件発明
本件請求項1乃至請求項3に係る発明(以下、「本件発明1乃至3」という。)は、その特許請求の範囲の請求項1乃至請求項3に記載されたとおりのものである。
(3)特許異議申立の理由の概要
特許異議申立人 大久保真司は、証拠として甲第1号証乃至甲第2号証を提出し、本件発明1乃至3は、甲第1号証乃至甲第2号証に記載された発明に基づき当業者が容易に発明をすることができたものであるから特許法29条2項の規定に違反する、或いは、本件明細書は、記載不備のところがあるから同法36条4項の規定に違反する、と主張している。

甲第1号証:「トキシコロジーフォーラム」Vol.9(2)、117〜127頁
甲第2号証:賀田ら監修「Environmental Mutagens Data Book No.1」(1981年12月1日サイエンティスト社発行)268〜271、409頁
(4)判断
A.特許法29条2項違反について
甲第1号証には、「4.腸内細菌による発癌物質の吸着と変異原性の抑制」の項に、「22株の腸内細菌菌体、6種類の食物繊維を用い、7種類のheterocyclic amine(Trp-1,Trp-2,Glu-P-1,Glu-P-2,IQ,MeIQ,MeIQx)に対する吸着能を調べた。・・・(略)・・・細菌菌体ではLactobacillus casei(LC)を用いた場合にはTrp-P-1,Trp-P-2をよく吸着し、またIQに対するかなりの吸着能を示した。」(122頁右欄16〜33行)、及び「Trp-P-2の変異原性(Salmonella typhimuriumTA98,+S9mix)に対するLC菌体及びCBの影響をAmes-testの系を用いて調べた。・・・菌体や繊維の添加量に応じての変異原性の抑制と吸着がみられる。・・・LC菌体の場合は吸着率よりも変異原性抑制率の方が強くでており、この系では「吸着」以外の変異原性抑制作用があることを示している。」(124頁左欄下16〜3行)との記載とともに、「図4」として「L.casei菌体とトウモロコシ繊維によるTrp-P-2の吸着と変異原性の抑制」が示されている。
しかして、本件請求項1に係る発明(以下、「本件発明1」という。)は、「塩基置換型変異原物質に対する抗変異原性率が55%以上72%以下およびフレームシフト型変異原物質に対する抗変異原性率が55%以上77%以下であり、ラクトバチルス属に属する微生物。」であるところ、上記甲第1号証には、ラクトバチルス属菌がフレームシフト型変異原物質であるTrp-P-2に対して吸着以外の変異原性抑制作用、すなわち抗変異原性を有するという記載はあるが、塩基置換型変異原物質に対する抗変異原性について触れているところはない。
そして、本件明細書の「本発明者が発酵食品中から釣菌したラクトバチルスや、各種保存機関の乳酸菌11種150株以上からMNNGに対する55%以上の抗変異原性率を有するものとして計9株を得た。また、変異原物質として代表的フレームシフト型変異原物質であるTrp-P-2とS9-mixを用いる以外は上記と同様にして試験を行い、Trp-P-2に対する抗変異原性率が55%以上であるものを計8株得た。そして、これらのうち、共通に選択された2株を抗変異原性微生物とし、それぞれラクトバチルス・カゼイLA2株およびラクトバチルス・カゼイ1136株と命名した。前者は、MNNGに対する抗変異原性率が72%、Trp-P-2に対する抗変異原性率が77%と極めて優れたものであった。」(特許公報4頁8欄4〜18行)という記載に徴し、フレームシフト型変異原物質に対する抗変異原性を有する微生物が、必ずしも塩基置換型変異原物質に対する抗変異原性を有するとは限らないと解されるから、甲第1号証に、ラクトバチルス属のある菌がフレームシフト型変異原物質に対して抗変異原性を有することが記載されているとしても、フレームシフト型変異原物質および塩基置換型変異原物質の両方に対する抗変異原性を併せ持つ微生物を得ることは当業者が容易に実施し得る域を超えているといえる。
したがって、MNNG及びTrp-P-2の変異原データが示されている甲第2号証の記載を加味しても、本願発明1は、甲第1号証及び甲第2号証に記載された発明に基づき当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。
また、請求項2及び請求項3に係る発明(以下、「本件発明2及び3」という。)は、本件発明1を引用するものであるから、本件発明1についての判断と同様の理油により、甲第1号証及び甲第2号証に記載された発明に基づき当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。
B.特許法36条4項違反について
特許異議申立人は、(1)本発明において、抗変異原性率を比較検討すべきは、塩基置換型変異原物質及びフレームシフト型変異原物質ではなく、個々の変異原物質であるMNNG及びTrp-P-2であることは明白である、並びに(2)抗変異原性率に関し添加される抗変異原物質の量及び乳酸菌の量が何ら定義されていない、と主張している。
(1)について
特許権者が提出した「参考資料1」には、「Ames法」では、「塩基対置換型変異原物質の検出にはサルモネラ菌TA100が、またフレームシフト型変異原物質の検出にはTA98が主に用いられている。」(11頁11〜13行)との記載があり、また、甲第2号証には、MNNGをTA98及びTA100に作用させた場合、結果は、前者で「-」、後者で「+」であり、Trp-P-2をTA98に作用させた場合、「+」であるとの記載がある。
これらの記載によると、塩基対置換型変異原物質の検出菌であるTA100に対し、MNNGでは「+」、フレームシフト型変異原物質の検出菌であるTA98に対し、MNNGでは「-」、Trp-P-2では「+」であるから、MNNGは、塩基置換型変異原物質である、また、Trp-P-2は、フレームシフト型変異原物質であると解することができる。
そうすると、本件発明において、塩基置換型変異原物質としてMNNGを代表させ、また、フレームシフト型変異原物質としてTrp-P-2を代表させて抗変異原性率を比較検討することは、問題はないといえる。
(2)について
本件明細書には、抗変異原性率に関して、段落【0019】に算出法が記載され、また、各試験乳酸菌の抗変異原作用の評価法については段落【0009】〜【0017】に具体的に記載され、そして、「実施例1」には、「得られた乳酸菌菌株調製液0.1mlを滅菌した試験管にとり、これに代表的塩基置換型変異原物質であるMNNG5μgを加え、・・・」と、具体的な数値が開示されているのであるから、上記特許異議申立人の主張は失当である。
(5)まとめ
以上のとおりであるから、特許異議申立の理由及び証拠によっては、本件発明1乃至3についての特許を取り消すことはできない。
また、他に本件発明1乃至3ついての特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2003-01-31 
出願番号 特願平4-75622
審決分類 P 1 651・ 531- Y (C12N)
P 1 651・ 121- Y (C12N)
最終処分 維持  
前審関与審査官 内田 俊生  
特許庁審判長 徳廣 正道
特許庁審判官 佐伯 裕子
種村 慈樹
登録日 2001-07-13 
登録番号 特許第3209784号(P3209784)
権利者 高梨乳業株式会社 川崎重工業株式会社
発明の名称 新規ラクトバチルス属微生物  
代理人 佐藤 年哉  
代理人 小野 信夫  
代理人 佐藤 正年  
代理人 小野 信夫  

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