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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 F16J
管理番号 1073957
審判番号 不服2000-11455  
総通号数 41 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 1996-07-12 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2000-07-25 
確定日 2003-04-01 
事件の表示 平成 7年特許願第 30810号「シリンダヘッドガスケット」拒絶査定に対する審判事件〔平成 8年 7月12日出願公開、特開平 8-178070、請求項の数(2)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 1.手続の経緯・本願発明
本願は、平成7年2月20日(優先権主張平成6年10月25日)の出願であって、その請求項1及び2に係る発明(以下、「本願発明1」及び「本願発明2」という。そして、これらを総称して「本願発明」という。)は、平成12年5月9日付け、平成12年7月25日付け及び平成13年7月19日付けの手続補正書により補正された明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1及び2に記載された次のとおりのものと認める。
【請求項1】シリンダブロックと該シリンダブロックより熱膨張率が小さいライナからなり機関の冷熱サイクル中にシリンダブロック上面とライナ上面との間にシリンダブロックとライナの熱膨張差による段差が繰り返しあらわれるライナ付きシリンダブロックとシリンダヘッドとの間に介装され、ビード部とシムを有し、前記ビード部をシリンダブロック上に配したシリンダヘッドガスケットにおいて、前記シムを前記ビード部より内周側でシリンダブロック上に配し、前記シムより内周側で前記ライナ上に追加シムを有し、高さ関係をシリンダヘッドガスケットの自由状態にてシム<追加シム<ビード部に設定したことを特徴とするシリンダヘッドガスケット。
【請求項2】シリンダブロックと該シリンダブロックより熱膨張率が小さいライナからなり機関の冷熱サイクル中にシリンダブロック上面とライナ上面との間にシリンダブロックとライナの熱膨張差による段差が繰り返しあらわれるライナ付きシリンダブロックとシリンダヘッドとの間に介装され、ビード部とシムを有し、前記ビード部をシリンダブロック上に配したシリンダヘッドガスケットにおいて、前記シムを前記ビード部より内周側でシリンダブロック上に配し、前記シムより内周側で前記ライナ上にハーフビードを有し、高さ関係をシリンダヘッドガスケットの自由状態にてシム<ハーフビードに設定したことを特徴とするシリンダヘッドガスケット。

2.引用例記載の発明
これに対し、前置審査において通知した拒絶の理由に引用された本願出願前に頒布された刊行物1、2及び原査定の拒絶の理由に引用された本願出願前に頒布された刊行物3は下記に示すとおりのものである。
刊行物1:実願平4-68732号(実開平6-32830号)のCD-ROM
刊行物2:特開平6-241116号公報
刊行物3:実願昭59-99634号(実開昭61-14748号)のマイクロフィルム

刊行物1には、ヘッドガスケットに関し、下記の技術的事項が図面とともに記載されている。
(ア)「【請求項1】内燃機関用ヘッドガスケットの燃焼室穴の周縁部において、この内燃機関のシリンダライナーの端面に主シール部となる折り返し部を前記燃焼室穴を取り囲むように配設したヘッドガスケットであって、前記主シール部よりも外周側にこの主シール部に発生する面圧を所定の面圧に抑制するシムを設けたことを特徴とするヘッドガスケット。」(実用新案登録請求の範囲)
(イ)「【実 施 例】次に図面を参照して本考案の実施例を説明する。図1は本考案の実施例1のヘッドガスケット13であり、燃焼室穴14の周縁部にこの燃焼室穴14を取り囲んで形成された折り返し部15aが設けられている。また、この折り返し部15aの外周側には、相互に連結された環状のシム16が配設されている。
図2は図1に示す挟着前のヘッドガスケット13のA-A線縦断面図であって、このヘッドガスケット13は、燃焼室穴14を取り囲むように形成された折り返し部15aを有する下板15と、この折り返し部15aにおいて下板15と重なる上板17と、この上板17と下板15の内側に設けられ、前記折り返し部15aの外周側に位置するシム16と、前記折り返し部15aの下方に位置するビード18aを形成した中板18と、この中板18の上に積層され、前記シム16との間にクリアランスを有する別の中板19とから成る金属積層形のものである。
このヘッドガスケット13を、図示しないヘッドボルト等の締結具によって、図3に示すようにシリンダブロック1とシリンダヘッド7との間に押圧状態で挟着すると、ビード18aは押し潰され、シム16は中板19に押圧され、その結果、シリンダライナー2の端面2aとシリンダブロック1の上面1aに当接するヘッドガスケット13の下板15にシール面圧が発生し、更に、シリンダヘッド7の下面7aに当接する前記折り返し部15aと、上板17にもシール面圧が発生する。
また、この時に発生する面圧は、図中に示すように、主に折り返し部15aを配設した主シール部Mと、シム16を配設した部位Sに発生する。そして、ヘッドボルトの締め付け初期段階から徐々に締め付け力を強めていくと、最初はヘッドボルトの締め付け力が主に主シール部Mの面圧向上に利用され、この部位に発生する面圧PM は、シム16の配設部位Sに発生する面圧PS よりも大きいのであるが、主シール部Mに発生する面圧PM が燃焼ガスをシールするのに充分な面圧P1に達すると、前記ヘッドボルトの締め付け力は、主にシムの配設部位Sの面圧向上に配分されるようになる。
更にヘッドボルトの締め付け力を強めていくと、主シール部Mに発生する面圧PM は、シリンダライナー2に大きな歪みが発生する面圧P2 に達する前に頭打ちとなり、その後は、ヘッドボルトの締め付け力がシム16の配設部位Sに発生する面圧PS だけを上昇させるようになって、締め付け完了時には、図中に示すようにシムの配設部位Sに発生する面圧PS が主シール部Mに発生する面圧PM よりも大きくなる。」(段落【0011】乃至段落【0015】)
(ウ)「【考案の効果】本考案のヘッドガスケットは、内燃機関用ヘッドガスケットの燃焼室穴の周縁部において、この内燃機関のシリンダライナーの端面に主シール部となる折り返し部を前記燃焼室穴を取り囲むように配設したヘッドガスケットであって、前記主シール部よりも外周側にこの主シール部に発生する面圧を所定の面圧に抑制するシムを設けたことを特徴とするので、以下の効果を奏することができる。
燃焼室穴の周縁部に、この燃焼室穴を取り囲むように主シール部となる折り返し部を配設したので、この主シール部において燃焼ガスをシールするための充分な面圧を確保することができる。
また、この主シール部に発生する面圧の上昇はシリンダライナーに大きな歪みが発生する前に、前記主シール部の外周側に設けられたシムによって抑制されるため、シリンダライナーに大きな歪みが発生することを防止できる。更に、このようにシリンダライナーに歪みが生じることを防止できるので、ブローバイガスの発生を大幅に低減して、燃費を向上させることができる。」(段落【0019】及び段落【0020】)

刊行物2には、シリンダブロックとシリンダヘッドとの接合部のシール構造に関し、下記の技術的事項が図面とともに記載されている。
(エ)「【請求項1】シリンダライナを有するシリンダブロックとシリンダヘッドとの間に、シリンダボアに沿って周方向に延びるとともにシリンダヘッド側に突出するビードを有するガスケットを介装し、前記シリンダブロックとシリンダライナとの段差部よりもシリンダボア側に、前記ガスケットのビードの外周側の立ち上がり部を配置したことを特徴とするシリンダブロックとシリンダヘッドとの接合部のシール構造。」(特許請求の範囲)
(オ)「【発明の効果】本発明によれば、つぎの効果が得られる。
(1)シリンダブロックとシリンダライナとの段差部よりもシリンダボア側に、ガスケットのビードの外周側の立ち上がり部を配置したので、ガスケットのビード全体をシリンダライナ側に位置させることができ、ガスケットにはビードの押し延ばしによる応力と段差部による曲げ応力とを分散させて作用させることができる。したがって、段差部によって折り曲げられる部分には従来のように応力が集中することはなくなり、ガスケットの耐久性を高めることができる。
(2)ガスケットのビード全体がシリンダライナ側に位置することにより、ビードの内周側の立ち上がり部と外周側の立ち上がり部の2個所をシリンダライナと接触させることが可能となるので、ビードの内周側の立ち上がり部のみがシリンダライナと接触する従来技術に比べて、シール性を向上させることができる。したがって、シリンダブロックとシリンダライナとの嵌合部への燃焼ガスの侵入が阻止され、シリンダブロックとシリンダライナが異種金属で構成される場合でも、燃焼ガスの結露によって生じる酸性水による電食の発生を防止することができる。
(3)ガスケットのビード全体をシリンダボア側に近づけることができるので、ガスケットを従来よりも小さくすることが可能となり、シリンダボア間のピッチを小とすることができるとともに、冷却通路等を短くすることができる。したがって、エンジンを小型、軽量化することが可能となる。」(段落【0034】乃至段落【0037】)

刊行物3には、金属ガスケットに関し、下記の技術的事項が図面とともに記載されている。
(カ)「金属ガスケットに形成したシリンダ用孔を囲繞するビードを設け、前記ガスケットのシリンダ用孔周縁部と接合面との間隙を少くとも所定距離以下にすべく前記ガスケットのシリンダ用孔周縁部の厚さを片面のみ厚く形成したことを特徴とする金属ガスケット。」(実用新案登録請求の範囲)
(カ)「[考案の効果]以上詳細に説明した如くこの考案によれば、金属ガスケットの内周縁の厚さを片面のみ厚く形成するとともに、この内周縁の厚さを締結時の接合面の距離より小に形成する構成としたので、接合時の内周縁に第1間隙を生じせしめ、この第1間隙と外方のビード間に第1間隙より大なる第2間隙を形成し、ラビリンス効果によって燃焼ガス等の減圧を行い、外方のビードによって確実にシールし得る。また、内周縁の厚肉作業、例えばメッキ作業が1度で良く、作業の簡略化およびコストの低減を果し得る。」(明細書8頁3行〜14行)

3.当審の判断

(本願発明1について)
刊行物1に記載された上記記載事項(ア)〜(ウ)及び図面の記載からみて、刊行物1に記載された発明の「シリンダライナー2」、「シリンダブロック1」、「シリンダヘッド7」、「ヒード18a」、「シム16」及び「ヘッドガスケット13」は、各々、本願発明1の「ライナ」、「シリンダブロック」、「シリンダヘッド」、「ビード」、「シム」及び「シリンダヘッドガスケット」に相当し、本願発明1の用語を使用して本願発明1と刊行物1に記載された発明とを対比すると、両者は、「ライナ付きシリンダブロックとシリンダヘッドとの間に介装され、ビード部とシムを有するシリンダヘッドガスケット。」である点で一致しており、下記の点で相違している。
[相違点1]
本願発明1は、シリンダブロックと該シリンダブロックより熱膨張率が小さいライナからなり機関の冷熱サイクル中にシリンダブロック上面とライナ上面との間にシリンダブロックとライナの熱膨張差による段差が繰り返しあらわれるライナ付きシリンダブロックとシリンダヘッドとの間に介装され、ビード部とシムを有し、前記ビード部をシリンダブロック上に配したシリンダヘッドガスケットにおいて、前記シムを前記ビード部より内周側でシリンダブロック上に配し、前記シムより内周側で前記ライナ上に追加シムを有し、高さ関係をシリンダヘッドガスケットの自由状態にてシム<追加シム<ビード部に設定したシリンダヘッドガスケットであるのに対し、刊行物1に記載された発明は、単に、ライナ付きシリンダブロックとシリンダヘッドとの間に介装され、ビード部とシムを有し、ビード部をライナー上に配し、シムをシリンダブロック上に配したシリンダヘッドガスケットである点。

そこで上記相違点1について検討する。
本願発明1は上記相違点1を有することにより、「シムとビード部をシリンダブロック上に配したので、ライナとシリンダブロックとの間に熱膨張差に起因した段差が生じても、シリンダヘッドガスケットはシムによって支持されビード部に過大な繰り返し応力がかかることが防止されるという効果が得られる他、追加シムを設けたので、ライナ上面とシリンダヘッド下面との間のデッドスペースを追加シムによって埋め、内燃機関燃焼時の未燃焼成分を減少させる。」という明細書記載の作用効果を奏するものである。
これに対し、刊行物2及び3には、上記本願発明1の上記相違点1に係る技術事項については何ら記載されていないし、その示唆もされていない。
さらに、本願発明1の上記相違点1に係る技術事項が本願出願前当業者にとって周知の技術事項であるとも認めることができない。
したがって、本願発明1の上記相違点1に係る技術事項については、刊行物2及び3に記載された技術事項を勘案しても容易に想到し得たものとはいえない。
よって、本願発明1は、当業者といえども刊行物1乃至3に記載された発明に基づいて容易に発明することができたものとは認めることができない。

(本願発明2について)
刊行物1に記載された上記記載事項(ア)〜(ウ)及び図面の記載からみて、刊行物1に記載された発明の「シリンダライナー2」、「シリンダブロック1」、「シリンダヘッド7」、「ヒード18a」、「シム16」及び「ヘッドガスケット13」は、各々、本願発明2の「ライナ」、「シリンダブロック」、「シリンダヘッド」、「ビード」、「シム」及び「シリンダヘッドガスケット」に相当し、本願発明2の用語を使用して本願発明2と刊行物1に記載された発明とを対比すると、両者は、「ライナ付きシリンダブロックとシリンダヘッドとの間に介装され、ビード部とシムを有するシリンダヘッドガスケット。」である点で一致しており、下記の点で相違している。
[相違点2]
本願発明2は、シリンダブロックと該シリンダブロックより熱膨張率が小さいライナからなり機関の冷熱サイクル中にシリンダブロック上面とライナ上面との間にシリンダブロックとライナの熱膨張差による段差が繰り返しあらわれるライナ付きシリンダブロックとシリンダヘッドとの間に介装され、ビード部とシムを有し、前記ビード部をシリンダブロック上に配したシリンダヘッドガスケットにおいて、前記シムを前記ビード部より内周側でシリンダブロック上に配し、前記シムより内周側で前記ライナ上にハーフビードを有し、高さ関係をシリンダヘッドガスケットの自由状態にてシム<ハーフビードに設定したシリンダヘッドガスケットであるのに対し、刊行物1に記載された発明は、単に、ライナ付きシリンダブロックとシリンダヘッドとの間に介装され、ビード部とシムを有し、ビード部をライナ上に配し、シムをシリンダブロック上に配したシリンダヘッドガスケットである点。

そこで上記相違点2について検討する。
本願発明2は上記相違点2を有することにより、「シムとビード部をシリンダブロック上に配したので、ライナとシリンダブロックとの間に熱膨張差に起因した段差が生じても、シリンダヘッドガスケットはシムによって支持されビード部に過大な繰り返し応力がかかることが防止されるという効果が得られる他、ハーフビードを設けたので、シリンダヘッドガスケットのライナへの追従性が上がり、シールがより確実になるとともに、ライナ上面とシリンダヘッド下面との間のデッドスペースをハーフビードによって埋め、内燃機関燃焼時の未燃焼成分を減少させる。」という明細書記載の作用効果を奏するものである。
これに対し、刊行物2及び3には、上記本願発明2の上記相違点2に係る技術事項については何ら記載されていないし、その示唆もされていない。
さらに、本願発明2の上記相違点2に係る技術事項が本願出願前当業者にとって周知の技術事項であるとも認めることができない。
したがって、本願発明2の上記相違点2に係る技術事項については、刊行物2及び3に記載された技術事項を勘案しても容易に想到し得たものとはいえない。
よって、本願発明2は、当業者といえども刊行物1乃至3に記載された発明に基づいて容易に発明することができたものとは認めることができない。

4.むすび
以上のとおりであるから、本願については、前置審査の拒絶の理由及び原査定の拒絶の理由を検討しても、その理由によって拒絶すべきものとすることはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2003-03-18 
出願番号 特願平7-30810
審決分類 P 1 8・ 121- WY (F16J)
最終処分 成立  
前審関与審査官 山岸 利治小谷 一郎  
特許庁審判長 船越 巧子
特許庁審判官 秋月 均
内田 博之
発明の名称 シリンダヘッドガスケット  
代理人 田渕 経雄  

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