• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 全部無効 2項進歩性 訂正を認めない。無効とする(申立て全部成立) B65D
管理番号 1074193
審判番号 審判1999-35359  
総通号数 41 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 1999-08-17 
種別 無効の審決 
審判請求日 1999-07-12 
確定日 2003-03-27 
事件の表示 上記当事者間の特許第2879212号「食品収納容器」の特許無効審判事件についてされた平成12年 2月18日付け審決に対し、東京高等裁判所において審決取消の判決(平成12年(行ケ)第106号平成13年 2月28日判決言渡)があったので、さらに審理のうえ、次のとおり審決する。 
結論 特許第2879212号の請求項に係る発明についての特許を無効とする。 審判費用は、被請求人の負担とする。 
理由 1.手続の経緯の概要
本件特許第2879212号は、平成10年1月31日に特許出願され、平成11年1月29日にその発明について特許の設定登録がなされたところ、平成11年7月12日に請求人株式会社森井より無効審判の請求がなされ平成11年11月8日に被請求人株式会社エンテックより答弁書の提出と訂正請求がなされ、平成12年2月7日に口頭審理を行って請求人及び被請求人の主張と証拠の整理がなされ、平成12年2月18日付けで「訂正を認める。本件審判の請求は、成り立たない。」との審決がなされ、この審決について株式会社森井より東京高等裁判所に出訴(平成12年(行ケ)第106号)がなされ、平成13年2月28日に東京高等裁判所において審決取消の判決がなされ、審理をやり直すように当審に差し戻され、審理をやり直した結果、訂正拒絶理由通知がなされ、その指定期間内である平成13年8月28日に被請求人株式会社エンテックより意見書の提出と手続補正がなされたものである。

2.訂正の適否についての判断
2-1.補正の適否について
ア.補正の内容
上記手続補正により先に訂正請求した訂正明細書の記載を下記のとおり補正しようとするものである。
(1)訂正明細書中の特許請求の範囲の請求項1の1行目〜9行目「食品を・・・に設けた」を「食品を収納した状態でそのまま保存をしたり電子レンジによる暖め調理をしたりする容器を、上部に開口部を有する容体と、この容体の開口部を閉塞する蓋体とで構成し、この蓋体の所定の部分には円形の底浅部と底深部とから成る段状の陥没部が設けられ、この陥没部の底深部には挿通孔が貫通形成され、陥没部内には水平回動自在な平面視円形状の回転体が設けられ、この回転体の高さは、前記底深部の深さと同一に設定されており、この回転体の下面部には貫通孔を形成した円筒係止体が設けられ、この円筒係止体の下端縁部には鍔部及び切欠部が設けられ、この鍔部は該円筒係止体を前記挿通孔に圧入した際、該挿通孔に回動自在に嵌挿係着されるように構成され、回転体の周囲にして底浅部には日付目盛が設けられ、回転体の上面部には該回転体を回動操作し得る摘まみ部が該回転体の軸芯部上を横断する状態で一体突出成形され、この摘まみ部には略中央から基端側にかけて凹溝が設けられ、この凹溝の内壁面にはガイド溝が形成されており、この摘まみ部の凹溝の底面には前記円筒係止体の貫通孔の開口端である孔が設けられ、この孔と貫通孔とが縦列状態に連通配設されて構成される蒸気抜孔が回転体の軸芯部に設けられ、摘まみ部の一端には底浅部に設けた前記日付目盛を指示し得る先端先鋭の日付指示部が設けられ、このスライド体は前記ガイド溝によってガイドされる構成であり、摘まみ部は蓋体の上面から埋没した状態で設けられている」と補正する。
(2)訂正明細書中の特許請求の範囲の請求項2〜6を削除する。
(3)訂正明細書中の発明の詳細な説明の記載を平成13年8月28日付け手続補正書の訂正事項g〜f’のように補正する。
(4)訂正明細書中の図面の簡単な説明の【符号の説明】を補正する。
イ.補正の目的の適否
上記補正事項(1)〜(4)のうち、補正事項(1)及び(2)は、先の訂正請求書で訂正した特許請求の範囲の記載を更に特許請求の範囲の減縮を目的として補正しようとするものであるから、訂正請求書の要旨を変更する補正である。
したがって、平成13年8月28日付け手続補正書による手続補正は、特許法第134条第5項で準用する特許法第131条第2項の規定に適合しないものであるから、認めることができない。

2-2.訂正の適否について
ア.訂正明細書の発明
上記したとおり平成13年8月28日付け手続補正書による手続補正は認められないものであるから、本件訂正明細書の請求項1〜6に係る発明は、平成11年11月8日付け訂正請求書により訂正請求された訂正明細書の特許請求の範囲の請求項1〜6に記載された事項により特定される次のとおりのものである。
「【請求項1】食品を収納した状態でそのまま保存したり暖め調理したりなどし得る容器を、上部に開口部を有する容体と、この容体の開口部を閉塞し得る蓋体とで構成し、この蓋体の所定の部分に周囲に日付目盛を配する回転体を水平回動自在に設け、この回転体の上面部にこの回転体を回動操作し得る摘まみ部を設け、この摘まみ部に前記日付目盛を指示し得る日付指示部を設け、前記蓋体に貫通形成した蒸気抜孔を開閉する開閉切り替え機構を前記回転体の軸芯部にして摘まみ部に設けたことを特徴とする食品収納容器。
【請求項2】前記蓋体に貫通形成した蒸気抜孔,前記回転体に貫通形成した孔及び前記摘まみ部に貫通形成した孔を回転体の軸芯部に縦列状態若しくは重合状態にして連通配設したことを特徴とする請求項1記載の食品収納容器。
【請求項3】前記回転体の下面部に設けた軸部を前記蓋体に設けた蒸気抜孔に回動自在に嵌挿係着し、この軸部に前記孔を設けて、前記蒸気抜孔とこの孔とを重合状態にして連通配設したことを特徴とする請求項1,2いずれか1項に記載の食品収納容器。
【請求項4】前記摘まみ部を前記回転体の軸芯部上を横断する状態で一体突出成形し、この摘まみ部に貫通形成した孔と回転体に貫通形成した孔とを一体連通形成したことを特徴とする請求項1〜3いずれか1項に記載の食品収納容器。
【請求項5】前記開閉切り替え機構を、前記蓋体に貫通形成した蒸気抜孔,前記回転体に貫通形成した孔及び前記摘まみ部に貫通形成した孔を開閉し得る開閉操作部を移動自在に前記摘まみ部に設けて構成したことを特徴とする請求項1〜4いずれか1項に記載の食品収納容器。
【請求項6】前記摘まみ部を蓋体の上面から埋没させた状態で設けたことを特徴とする請求項1〜5いずれか1項に記載の食品収納容器。」
イ.訂正事項
訂正事項a
明細書中の特許請求の範囲の請求項1の9行目「・・・前記回転体の軸芯部に設けたことを・・・」を「・・・前記回転体の軸芯部にして摘まみ部に設けたことを・・・」と訂正する。
訂正事項b
明細書中の段落番号【0010】の10行目「・・・軸芯部に設けたことを・・・」を「・・・軸芯部にして摘まみ部に設けたことを・・・」と訂正する。
訂正事項c
明細書中の段落番号【0019】の11行目「・・・(位置が変わらない)軸芯部に・・・」を「・・・(位置が変わらない)軸芯部にして摘まみ部8に・・・」と訂正する。
ウ.訂正の目的の適否、新規事項の有無及び拡張・変更の存否
上記訂正事項aに関する記載として、願書に最初に添付した明細書には、開閉切り替え機構7は、摘まみ部8に設けられて軸芯部の孔(回転体5に貫通形成した孔11a及び摘まみ部8に貫通形成した孔8a)を開閉することにより、蓋体3に貫通形成した蒸気抜孔3aを開閉することが記載されている。(段落番号【0021】、【0022】、【0033】並びに図1〜3)
そうすると、上記訂正事項aは、願書に最初に添付した明細書に記載された事項の範囲内で開閉切り替え機構を設ける位置を限定したものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とした訂正であって、新規事項の追加に該当せず、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
上記訂正事項b及びcは、上記訂正事項aの訂正と発明の詳細な説明の記載とを整合させるための訂正であるから、明りょうでない記載の釈明に該当するものであって、新規事項の追加に該当せず、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
エ.独立特許要件の有無
(1)訂正明細書の請求項1〜6に係る発明
訂正明細書の請求項1〜6に係る発明(以下、「訂正発明1」〜「訂正発明6」という。)は、訂正明細書の請求項1〜6に記載された事項により特定されるとおりのものであって、その記載は、上記「2-2.訂正の適否について」の「ア.訂正明細書の発明」の項に記載されたとおりのものと認める。
(2)引用刊行物の記載事項
訂正拒絶理由通知で引用した刊行物1(実公平6-44863号公報)には、食品を収納し、且つ直接電子レンジで加熱することができる食品用容器に関して、下記の事項が図面とともに記載されている。
「【実施例】次に本考案の実施例について説明する。本考案に係る食品用容器は、図1、2、3に示すように、耐熱性樹脂で形成した容器本体1と、容器本体1に略密嵌する蓋体2と、蓋体2の上面に装着される回動摘(回動部材)3とからなり、蓋体2の上面適宜位置に円形の浅い凹部21を形成すると共に、その中心に支軸22を突設し、凹部21内における支軸22の所定の外周部分に、大小の通気孔23、24、25を設け、凹部21の外周の蓋体2の上面に前記通気孔23、24、25と対応する記号L、M、S並びに前記通気孔記号と反対位置に指示目印4を設けてなる。回動摘3は前記凹部21に嵌合する大きさで支軸22に取り付けて凹部21内を自在に回動できるようにし、かつ回動の際に前記通気孔23、24、25と対応する位置に連通孔31を形成し、またその表面に日付目盛5を設けてなり、前記日付目盛5を形成するに際して日付目盛5と指示目印4とが一致する範囲では、通気孔23、24、25と連通孔31とは連通しない範囲に形成する。
而して前記の容器を食品の貯蔵収納に使用する場合は、回動摘3を回動して、食品を収納した日付と対応する日付目盛5と指示目印4と一致せしめておく(図3イ参照)。従って後日単に蓋体2の当該指示を視認するのみで食品の収納日を知ることができる。しかも回動摘3による日付指示状態の場合は、通気孔23、24、25の何れもが閉塞されており、食品の収納に何ら不都合は無い。また電子レンジでの加熱調理に使用する際は、回動摘3を回動して通気孔23、24、25の何れかを選択して連通孔31と一致せしめて連通し、収納してなる食品に応じて、適宜な蒸気抜きがなされる通気面積となるよう調整し、レンジ加熱を行うものである。
また本実施例は前記実施例に限定されるものではなく、図4、5に示すように、蓋体2の凹部21の外周部分に日付目盛5を設け、回動摘3に指示目印4を設け、回動摘5の回動操作によって食品の貯蔵収納時の日付メモリ並びにレンジ加熱時の蒸気抜き調整を行っても良い。
更に図6に示すように、通気孔23a、24a、25aを同じ大きさ若しくは大小異ならせると共に、回動摘3aに連通孔31を設けず、前記各通気孔の一つ若しくは複数を開閉する切欠部31aを形成した回動摘3aに日付目盛若しくは指示目印を付設しても良い等回動部材が日付指示部の動作部を兼ねるものであれば、回動部材の形態並びに通気部の構成及び日付指示部の形態は任意に定めることができる。」(段落【0009】〜【0012】)
同じく引用した刊行物2(登録実用新案第3030089号公報)には、容器内に保存した日を容易な手段によって特定することができる食品用容器に関して、下記の事項が図面とともに記載されている。
「なお、上記実施形態は、あくまでも一例であり、様々に設計変更可能である。たとえば、本実施形態の上記日付リングは、その上面に日付数字が付されていたが、日付数字は日付リングの側面に付しても良いのはいうまでもない。また、日付数字を特定する指標は、図1(a)に示された位置に限らず、日付リングに隣接して日付数字を特定できる位置であれば何処に設けてもよい。その他、リング上に指標を設け、リングに隣接する位置に日付数字を付すように構成してもよい。
また、本実施形態では、日付リングは、日付リングの内側面に突設した環状凸部を環状凹溝の内側内壁のその半径方向に窪んだ環状凹部に係合させることにより嵌合保持されたが、その他、日付リングの外側面に突設した環状凸部を環状凹溝の外側内壁のその半径方向に窪んだ環状凹部に係合させるもの、日付リングの外側面に窪んだ環状凹部を環状凹溝の外側内壁のその半径方向に突出した環状凸部に係合させるもの、日付リングの内側面に窪んだ環状凹部を環状凹部の内側内壁のその半径方向に突出した環状凸部に係合させるものの何れの組み合わせにより、環状凹溝に日付リングを嵌合保持してもよい。
その他、必ずしも環状凹溝を設け、その内部に日付リングが収まるように、日付リングを取り付ける必要はなく、フラットな蓋体上に日付リングを取り付けても良いのはいうまでもない。」(段落【0034】〜【0036】)
同じく引用した刊行物3(ギフト商品カタログ「シャディ96年総合版」抜粋写し)の第488頁には、レンジシール容器の写真が掲載されているとともに、蒸気穴と日付メモリーの説明事項が記載されており、該容器の写真と説明事項からは、以下の1)〜5)の事項がみてとれるものである。
1)レンジシール容器は、食品を収納したままの状態で保存したり電子レンジで調理することのできる容器であって、容体及び「フタ」とで構成され、この「フタ」には円板状部材及びこれを取り囲む型で配設されるリング状部材が取り付けられていること。
2)上記円板状部材の上部(上記写真に示される上下の位置関係で示す。以下同じ。)の小径の孔は上記説明文にいう「蒸気穴」であり、同円板状部材下部の縦長形状の孔から突き出している突起物(レバー)のスライド変位によって開閉操作されるものであること。
3)上記円板状部材は、突起物(レバー)及びこれと一体となってフタと平行に延びる部材がスライド変位できるように、フタとの間に隙間を有する態様でこれに取り付けられていること。
4)上記円板状部材に対向するフタ部分には、蒸気を抜くための穴があること。
5)上記リング状部材には、上記円板状部材の指示部と相まって日付を示す機能を持つ数字が記載されており、また、同リング状部材を回動させるための突起状の摘まみが設けられていること。
なお、上記1)〜5)は、上記東京高等裁判所判決第9頁20行〜第10頁10行参照。
(3)対比・判断
【訂正発明1について】
刊行物1に記載された上記技術事項からみて、刊行物1に記載された発明の「容器本体1」、「蓋体2」、「図4,5の日付目盛5」、「回動摘3」、「回動摘3を回動させるための回動摘3に形成された突出部」、「指示目印4」、「通気孔23,24,25」、「回動摘3と回動摘3に形成した連通孔31」及び「食品用容器」は、各々訂正発明1の「容体」、「蓋体」、「日付目盛」、「回転体」、「摘まみ部」、「日付指示部」、「蒸気抜孔」、「開閉切り替え機構」及び「食品収納容器」に相当するから、訂正発明1の用語を使用して訂正発明1と刊行物1に記載された発明とを対比すると、両者は、「食品を収納した状態でそのまま保存したり暖め調理したりなどし得る容器を、上部に開口部を有する容体と、この容体の開口部を閉塞し得る蓋体とで構成し、この蓋体の所定の部分に周囲に日付目盛を配する回転体を水平回動自在に設け、この回転体の上面部にこの回転体を回動操作し得る摘まみ部と前記日付目盛を指示し得る日付指示部を設け、前記蓋体に貫通形成した蒸気抜孔を開閉する開閉切り替え機構を前記回転体に設けた食品収納容器。」で一致しており、下記の点で相違している。
相違点;訂正発明1では、日付指示部を摘まみ部に設け、蓋体に貫通形成した蒸気抜孔を開閉する開閉切り替え機構を回転体の軸芯部にして摘まみ部に設けているのに対して、刊行物1に記載された発明では、指示目印4は回動摘3の突出部ではない部分に設けられており、蓋体2に形成した通気孔23,24,25を開閉する開閉切り替え機構は、回動摘3に連通孔31を形成し、回動摘3を回動することによって通気孔23,24,25と連通孔31とを連通させるように構成されている点。
そこで、上記相違点について検討する。
まず、この種の日付指示部と蒸気抜孔の開閉切り替え機構を有する食品収納容器において、一般的にどのような事項が当業者の適宜行い得る設計変更の範囲内であるかについて検討すると、刊行物1と刊行物2には、上記摘記した事項の記載が認められる。
これらの記載によれば、日付指示部と蒸気抜孔の開閉切り替え機構を有する食品収納容器においては、日付指示機能と蒸気抜孔の開閉機能を実現するための構成について、日付目盛と日付指示部のいずれを固定とし、あるいは回転可能とするかなどの点を含め、各部材の担う機能を維持しつつ、その具体的な態様について適宜変更を加えることは、当業者の設計変更の範囲内であるということができる。(上記東京高等裁判所判決第8頁5行〜第9頁16行、(2)の項参照。)
次に、刊行物3について、フタに固定されている円板状部材をリング状部材と一体化し、その全体を回転可能なようにフタに取り付けることが容易かどうかについて検討する。
刊行物3からは、上記事実1)〜5)が認められる。上記事実によれば、フタ側の蒸気穴と円板状部材側の蒸気穴の位置関係を、円板状部材の回転に関係なく一定に保つ方が、蒸気抜き機能が安定して好ましいということができるから、請求人主張の設計変更を行うに当たって、円板状部材の蒸気穴をその軸芯部に配することは、設計変更に伴い当業者が通常行うことのできる範囲内にとどまるものである。
次に、刊行物3に記載された発明の有する日付指示機能に着目して検討するに、刊行物3に記載された発明は、円板状部材とリング状部材との相対的な位置関係によって日付を読み取るものであるから、これらを一体化することは日付指示機能を損なうのではないかとの疑問も生ずるところであるが、刊行物3に記載された発明において回転可能に設置されているリング状部材に設けられた日付目盛をその外側外周のフタ上に配置することによって、日付指示機能を維持し得ることは明らかである。しかも、このような設計変更は、日付目盛と日付指示部の位置関係を入れ替えることと異なるものではないから、前記の認定事実に照らしても、このような設計変更を妨げる理由はないというべきである。
以上によれば、刊行物3に記載された発明に「蓋体に貫通形成した蒸気抜孔を開閉する開閉切り替え機構を回転体の軸芯部に設ける構成」を採用することは、請求人主張の設計変更により当業者が容易に行い得るということができる。(上記東京高等裁判所判決第9頁17行〜第11頁22行、(3)の項参照。)
さらに、上記設計変更によって訂正発明1の構成が実現されるかどうかについて検討すると、一体化する円板状部材に摘まみを設けることは、当該設計変更に基づく当然の付随事項にすぎず、しかも、円板状部材を回転させるための摘まみとしては、刊行物1の各図(第1図〜第6図)にもあるように、軸芯を通る位置に配置することが操作上好都合であることは明らかであるから、摘まみの位置を軸芯部とする構成を得ることは、蒸気穴の位置について述べたと同様に、設計変更に伴い当業者が通常行うことの範囲内にとどまるものである。
また、訂正発明1における日付指示部は、日付目盛との位置関係により日付指示機能を果たすものにすぎないから、その位置を「摘まみ部」とすることに格別の技術的意義があるとは認められず、上記相違点に係る構成は、設計変更により適宜採用し得る選択肢の一つにすぎないというべきである。
そして、訂正発明1のその余の構成要件については、前示認定のとおりの刊行物3に記載された発明が当初から有しているか、又は上記設計変更により当業者が通常行うことの範囲内にとどまるものと認められる。(上記東京高等裁判所判決第11頁23行〜第12頁19行、(4)の項参照。)
以上のとおりであるから、訂正発明1の上記相違点に係る構成は、刊行物3に記載された発明及びその設計変更により当業者が容易に想到することができたものと認める。(上記東京高等裁判所判決第12頁20行〜24行、(5)の項参照。)
したがって、訂正発明1は、刊行物1〜3に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。
【訂正発明2について】
訂正発明2は、訂正発明1の技術事項を引用するとともに、「蓋体に貫通形成した蒸気抜孔,回転体に貫通形成した孔及び摘まみ部に貫通形成した孔を回転体の軸芯部に縦列状態若しくは重合状態にして連通配設したこと」と構成を限定したものであるが、蒸気抜孔を開閉する開閉切り替え機構を回転体の軸芯部にして摘まみ部に設ければ、蓋体の蒸気抜孔、回転体の孔及び摘まみ部の孔は、回転体の軸芯部に重合状態で連通配設することは、当業者が普通に採用することができる程度の設計的事項にすぎないものである。
したがって、訂正発明2も、刊行物1〜3に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。
【訂正発明3について】
訂正発明3は、訂正発明1又は2の技術事項を引用するとともに、「回転体の下面部に設けた軸部を蓋体に設けた蒸気抜孔に回動自在に嵌挿係着し、この軸部に孔を設けて、前記蒸気抜孔とこの孔とを重合状態にして連通配設したこと」と構成を限定したものであるが、蒸気抜孔を開閉する開閉切り替え機構を回転体の軸芯部にして摘まみ部に設ければ、蓋体に設けた孔に回転体の軸部を嵌挿係着し、回転体の軸部に孔を設けて蓋体に設けた蒸気抜孔(回転体の軸部を嵌挿係着する孔)と重合状態で連通配設することは、当業者が普通に採用することができる程度の設計的事項にすぎないものである。
したがって、訂正発明3も、刊行物1〜3に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。
【訂正発明4について】
訂正発明4は、訂正発明1〜3のいずれかの技術事項を引用するとともに、「摘まみ部を回転体の軸芯部上を横断する状態で一体突出成形し、この摘まみ部に貫通形成した孔と回転体に貫通形成した孔とを一体連通形成したこと」と構成を限定したものであるが、摘まみ部を回転体の軸芯部上を横断する状態で一体突出成形することは、刊行物1にも記載されている事項にすぎないものであり、蒸気抜孔を開閉する開閉切り替え機構を回転体の軸芯部にして摘まみ部に設ければ、摘まみ部に貫通形成した孔と回転体に貫通形成した孔とを一体連通形成することは、当業者が普通に採用することができる程度の設計的事項にすぎないものである。
したがって、訂正発明4も、刊行物1〜3に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。
【訂正発明5について】
訂正発明5は、訂正発明1〜4のいずれかの技術事項を引用するとともに、「開閉切り替え機構を、蓋体に貫通形成した蒸気抜孔,回転体に貫通形成した孔及び摘まみ部に貫通形成した孔を開閉し得る開閉操作部を移動自在に前記摘まみ部に設けて構成したこと」と構成を限定したものであるが、蒸気抜孔を開閉する開閉切り替え機構を回転体の軸芯部にして摘まみ部に設ければ、その開閉操作部は摘まみ部に設けられることは当然の事項にすぎないものであるから、訂正発明5のように開閉操作部を移動自在に摘まみ部に設けることは、当業者が普通に採用することができる程度の設計的事項にすぎないものである。
したがって、訂正発明5も、刊行物1〜3に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。
【訂正発明6について】
訂正発明6は、訂正発明1〜5のいずれかの技術事項を引用するとともに、「摘まみ部を蓋体の上面から埋没させた状態で設けたこと」と構成を限定したものであるが、食品用容器において蓋部に設けた摘まみ部を蓋体の上面より突出しないようにして、積み重ねた状態を可能にすることは、本願出願前当業者には知られた事項(例えば、請求人の提出した甲第13号証(実開平4-118349号公報)の食品用蓋物10の切替部材30の配置構造と第6図を参照すること。)にすぎないものであるから、訂正発明6のように摘まみ部を蓋体の上面から埋没させた状態で設けることは、当業者であれば適宜採用することができる程度の事項にすぎないものである。
したがって、訂正発明6は、刊行物1〜3に記載された発明並びに本願出願前周知の事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。
2-3.まとめ
以上のとおりであるから、上記訂正請求は、特許法第134条第5項で準用する特許法第126条第4項の規定に適合しないので、本件訂正請求は認めることができない。

3.特許無効の申立てについて
(1)本件特許発明
上記のとおり訂正請求は認めることができないから、本件の請求項1〜6に係る発明(以下、「本件特許発明1」〜「本件特許発明6」という。)は、特許明細書の請求項1〜6に記載された事項により特定される次のとおりのものである。
「【請求項1】食品を収納した状態でそのまま保存したり暖め調理したりなどし得る容器を、上部に開口部を有する容体と、この容体の開口部を閉塞し得る蓋体とで構成し、この蓋体の所定の部分に周囲に日付目盛を配する回転体を水平回動自在に設け、この回転体の上面部にこの回転体を回動操作し得る摘まみ部を設け、この摘まみ部に前記日付目盛を指示し得る日付指示部を設け、前記蓋体に貫通形成した蒸気抜孔を開閉する開閉切り替え機構を前記回転体の軸芯部に設けたことを特徴とする食品収納容器。
【請求項2】前記蓋体に貫通形成した蒸気抜孔,前記回転体に貫通形成した孔及び前記摘まみ部に貫通形成した孔を回転体の軸芯部に縦列状態若しくは重合状態にして連通配設したことを特徴とする請求項1記載の食品収納容器。
【請求項3】前記回転体の下面部に設けた軸部を前記蓋体に設けた蒸気抜孔に回動自在に嵌挿係着し、この軸部に前記孔を設けて、前記蒸気抜孔とこの孔とを重合状態にして連通配設したことを特徴とする請求項1,2いずれか1項に記載の食品収納容器。
【請求項4】前記摘まみ部を前記回転体の軸芯部上を横断する状態で一体突出成形し、この摘まみ部に貫通形成した孔と回転体に貫通形成した孔とを一体連通形成したことを特徴とする請求項1〜3いずれか1項に記載の食品収納容器。
【請求項5】前記開閉切り替え機構を、前記蓋体に貫通形成した蒸気抜孔,前記回転体に貫通形成した孔及び前記摘まみ部に貫通形成した孔を開閉し得る開閉操作部を移動自在に前記摘まみ部に設けて構成したことを特徴とする請求項1〜4いずれか1項に記載の食品収納容器。
【請求項6】前記摘まみ部を蓋体の上面から埋没させた状態で設けたことを特徴とする請求項1〜5いずれか1項に記載の食品収納容器」
(2)請求人及び被請求人の主張
平成12年2月7日の口頭審理の結果、請求人の主張及び証拠方法並びに被請求人の主張は、概略次のとおりのものとなった。
【請求人の主張】
請求項1に係る発明は、実質的に甲第1号証に記載された発明の単なる設計変更にすぎず、両者は同一であり、特許法第29条第1項第3号の規定に違背して特許されたものである。また、同一でないとしても甲第1号証又は甲第2号証に記載された発明からの設計変更により当業者が容易になし得た発明であり、特許法第29条第2項の規定に違背して特許されたものである。
請求項2〜5に係る各発明は、請求項1に係る発明を実施する際に当業者が当然に採用する設計事項を特定したにすぎないものであるから、請求項1に係る発明と同一の理由で無効理由を有するものである。
請求項6に係る発明は、請求項1に係る発明に容器を積層可能とするという周知技術を付加したにすぎず、当業者が容易に推考できた発明であり、進歩性を具備しない。
[証拠方法]
甲第1号証;実公平6-44863号公報
甲第2号証;登録実用新案第3030089号公報
甲第5号証;ギフト商品カタログ「シャディ96年総合版」抜粋写し
甲第9号証;意匠登録第842213号公報
甲第10号証;実公平6-44846号公報
甲第11号証;実開昭58-194728号公報
甲第12号証;実開平2-43287号公報
甲第13号証;実開平4-118349号公報
なお、書証としての甲第3,4,6,7,8号証、検証物としての検甲第1号証(甲第4号証で示した容器)の検証並びに人証としての証人森井政行の証人尋問は、口頭審理の結果、取り下げられた。
【被請求人の主張】
[主張1]
本件審判請求人は、本件無効審判請求について利害関係の存在を何ら立証していない。従って、本件審判請求は却下されるべきである。
[主張2]
訂正後の請求項1〜6に係る発明は、本件審判請求人提出の各甲号証を考慮しても十分特許性がある。
(3)請求人の当事者適格について
まず、被請求人の上記主張1について検討するに、本件審判請求人が、甲第1号証として提出した食品用容器に関する考案の権利者であって、この考案の食品用容器を製造、販売しているものと認められるから、本件審判請求人と被請求人とは同業者の関係にあり、本件審判請求人は被請求人に係る本件発明の特許の存否に利害関係を有しているといえる。
したがって、本件審判請求は却下されるべきであるとの被請求人の上記主張1は採用することができない。
(4)請求人の主張する無効理由について
そこで、請求人の主張する無効理由について検討する。
ア.本件特許発明
本件特許発明1〜6は、上記「3.特許無効の申立てについて」の「(1)本件特許発明」の項に記載されたとおりのものである。
イ.甲号各証の記載事項
請求人が提出した甲第1号証である実公平6-44863号公報には、上記「2-2.訂正の適否について」の「エ.独立特許要件の有無」の「(2)引用刊行物の記載事項」で刊行物1として摘記したとおりの事項が記載されている。
請求人が提出した甲第2号証である登録実用新案第3030089号公報には、上記「2-2.訂正の適否について」の「エ.独立特許要件の有無」の「(2)引用刊行物の記載事項」で刊行物2として摘記したとおりの事項が記載されている。
請求人が提出した甲第5号証であるギフト商品カタログ「シャディ96年総合版」抜粋写しには、上記「2-2.訂正の適否について」の「エ.独立特許要件の有無」の「(2)引用刊行物の記載事項」で刊行物3として摘記したとおりの事項がみてとれるものである。
ウ.対比・判断
ところで、本件特許発明1では、開閉切り替え機構を回転体の軸芯部に設けたものであるのに対して、上記訂正発明1では、開閉切り替え機構を回転体の軸芯部にして摘まみ部に設けたものである点で構成上相違しているが、その他の点では構成上の相違点はないものである。
そして、開閉切り替え機構を設ける箇所を上記訂正発明1のように回転体の軸芯部にして摘まみ部とすることに変えて本件特許発明1のように回転体の軸芯部としても、本件特許発明1と甲第1,2,5号証との対比・判断は、上記訂正発明1と各引用刊行物との対比・判断と実質的に相違するものではない。
そうすると、本件特許発明1〜6と甲第1,2,5号証に記載された発明並びに本願出願前周知の事項との対比・判断は、上記「2-2.訂正の適否について」の「エ.独立特許要件の有無」の「(3)対比・判断」の項で訂正発明1〜6についてした対比・判断と実質的に同様である。
したがって、本件特許発明1〜5は、甲第1,2,5号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、又、本件特許発明6は、甲第1,2,5号証に記載された発明並びに本願出願前周知の事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。
(5)まとめ
以上のとおりであって、本件特許発明1〜6は、特許法第29条第2項の規定に違反して特許されたものである。
したがって、本件特許発明1〜6についての特許は、特許法第123条第1項第2号に該当するので無効とすべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2001-09-19 
結審通知日 2001-09-25 
審決日 2000-02-18 
出願番号 特願平10-34247
審決分類 P 1 112・ 121- ZB (B65D)
最終処分 成立  
前審関与審査官 種子 浩明  
特許庁審判長 村本 佳史
特許庁審判官 鈴木 美知子
門前 浩一
吉国 信雄
山崎 豊
登録日 1999-01-29 
登録番号 特許第2879212号(P2879212)
発明の名称 食品収納容器  
代理人 近藤 彰  
代理人 吉井 剛  
代理人 吉井 雅栄  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ