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審決分類 |
審判 全部無効 1項3号刊行物記載 無効とする。(申立て全部成立) G01C 審判 全部無効 5項1、2号及び6項 請求の範囲の記載不備 無効とする。(申立て全部成立) G01C 審判 全部無効 特36 条4項詳細な説明の記載不備 無効とする。(申立て全部成立) G01C |
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管理番号 | 1074194 |
審判番号 | 無効2001-35091 |
総通号数 | 41 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 1995-03-17 |
種別 | 無効の審決 |
審判請求日 | 2001-03-06 |
確定日 | 2003-03-13 |
事件の表示 | 上記当事者間の特許第2722365号の特許無効審判事件について、併合の審理のうえ、次のとおり審決する。 |
結論 | 特許第2722365号の請求項1に係る発明についての特許を無効とする。 審判費用は、被請求人の負担とする。 |
理由 |
1. 手続の経緯 本件特許第2722365号(以下、「本件特許」という。)に係る出願は、昭和60年4月20日に出願された特願昭60-83632号(以下、「原出願」という。)をもとの出願とする特許法第44条第1項の規定に基づく新たな特許出願として、平成4年4月4日に出願され、平成9年11月28日にその設定登録がなされたものである。 これに対して請求人松下通信工業株式会社より、平成13年3月6日付け、および、平成13年6月27日付けで、それぞれ本件特許を無効にすることについて審判の請求がなされ、被請求人からは、平成13年5月16日付け、および、平成13年8月27日付けで答弁書が提出された。 2.請求人の主張 2-1.無効2001-35091号について 請求人の主張の概要は、次の「理由1」ないし「理由3」を理由として「本件特許は、特許法第123条の規定により無効とされるべきである。」というものである。 (1)理由1 本件特許明細書の発明の詳細な説明には、当業者が容易にその実施をすることができる程度に発明の目的、構成および効果が記載されておらず、また特許請求の範囲には、発明の詳細な説明に記載した発明の構成に欠くことができない事項のみが記載されていないので、本件特許は特許法第36条第4項および第5項に規定する要件を満たしていない出願に対してされたものであり、特許法第123条第1項第3号の規定により無効とされるべきものである。すなわち、 a.特許請求の範囲に記載された「相対モード地図情報」、「絶対モード地図情報」という用語は一般的な技術用語ではなく、本件特許明細書を参照すると、どちらも、道路の位置と分岐関係の情報を含んでいなければならないから、相対モード地図情報と絶対モード地図情報は同じ情報になってしまい、両地図情報の区別ができず、両地図情報の概念が不明確である。 b.特許請求の範囲に記載された「前記アークの分岐関係を含む地図情報パターンと前記各走行情報から算出される走行パターンとの比較」は、パターンマッチング以外にどのような処理が含まれるのかが不明確であり、また、当業者が実施できる程度に比較処理の内容が説明されていない。 c.特許請求の範囲に記載された「車両の位置確定が可能なとき」は、発明の詳細な説明によれば「パターン同士の相関が継続してとれる時」であると解釈されるところ、被請求人の主張によれば「相関が継続してとれる時」以外の時でもよくなり、発明の詳細な説明に記載された発明以外の事項を含むこととなる。 d.特許請求の範囲に記載された「相対表示地図情報」は通常用いられない用語であって、用語の意義が特定できない。 e.特許請求の範囲に記載された「絶対位置情報に対応する絶対モード地図情報上のアークを検索し」という処理は、衛星航法等により得られた経度緯度情報が位置するアークを特定する処理であるが、衛星航法等には誤差があるため、上記アークの特定はできないから、発明の詳細な説明には、当業者が容易にその実施をすることができる程度に発明の構成が記載されていない。 (2)理由2 本件特許に係る発明(以下、「本件発明」という。)は、分割前の原出願に包含された発明ではないから、特許法第44条第1項の要件が満たされないので、本件特許に係る特許出願の出願日は、現実の出願日である平成4年4月4日とされるべきものである。 そして、本件発明は、前記現実の出願日前に頒布された刊行物である甲第5〜7号証にそれぞれ記載されているから、特許法第29条第1項第3号の発明に該当し、本件特許は、特許法第123条第1項第1号の規定により無効とされるべきものである。 (3)理由3 本件発明は、分割前の原出願に包含された発明ではないから、特許法第44条第1項の要件が満たされないので、本件特許に係る特許出願の出願日は、現実の出願日である平成4年4月4日とされるべきものである。 そして、本件発明は、前記現実の出願日前に頒布された刊行物である甲第5、7〜10号証に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものであり、特許法第123条第1項第1号の規定により無効とされるべきものである。 <証拠方法> 甲第1号証:平成12年(ワ)第2916号損害賠償請求事件において杉山博之が平成12年4月25日に提出した原告準備書面(一)の写し 甲第2号証:平成12年(ワ)第2916号損害賠償請求事件において杉山博之が平成12年7月19日に提出した原告準備書面(二)の写し 甲第3号証:本件特許出願の分割前の原出願(特願昭60-83862号)の公開公報(特開昭62-37800号公報)の写し 甲第4号証:平成12年(ワ)第2916号損害賠償請求事件において杉山博之が平成12年10月25日に提出した原告準備書面(三)の写し 甲第5号証:特開平2-275310号公報の写し 甲第6号証:特開平3-26913号公報の写し 甲第7号証:特開平4-50718号公報の写し 甲第8号証:自動車用CD-ROMナビゲーション・システム,実用化始まる、日経エレクトロニクス、1987年11月16日(no.434)、119〜130頁の写し 甲第9号証:特開昭62-102111号公報の写し 甲第10号証:特開昭62-102112号公報の写し 2-2.無効2001-35273号について 請求人の主張の概要は、次の「理由4」を理由として「本件特許は、特許法第123条の規定により無効とされるべきである。」というものである。 理由4 甲第1号証には、自立航法機能を備えたGPS位置検出器で検出される車両位置に対してマップマッチングを行うことが記載されているに等しい。よって、本件発明は、本件特許出願前に頒布された刊行物である甲第1号証に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号の発明に該当し、本件特許は、特許法第123条第1項第1号の規定により無効とされるべきものである。 <証拠方法> 甲第1号証:SAEテクニカルペーパーシリーズ、840156、車両情報およびナビゲーションシステムにおけるコンパクトディスクの適用、Martin L.G.Thooneほか、Nederlandse Philips Bedrijven B.V. 1984年2月27日〜3月2日(抄訳付き) 甲第2号証:平成12年(ワ)第2916号損害賠償請求事件において杉山博之が平成12年4月25日に提出した原告準備書面(一)の写し 甲第3号証:平成12年(ワ)第2916号損害賠償請求事件において杉山博之が平成13年4月25日に提出した原告準備書面(6)の写し 3.被請求人の主張 (1)理由1に対して a.本件特許明細書には、「絶対モード地図情報」に分岐関係を含めなければならないとの記載も、「相対モード地図情報」に絶対位置を含めなければならないとの記載も一切ない。特許請求の範囲に記載したとおり、絶対モード地図情報はそれぞれのアークの絶対位置を含んでいれば十分であり、相対モード地図情報は各アークの分岐関係を含む情報を有していれば十分であって、この2つの地図情報は区別できるものであるから、請求人の主張には理由がない。 b.本件特許明細書ではパターンマッチングという用語は用いていないから、比較処理がパターンマッチングに限定されるとの請求人の主張は根拠がなく、また、本件発明は新しい比較処理を提案する発明ではなく、比較処理自体は従来の技術と同様に行われるのであって、当業者が容易に実施できるものであるから、請求人の主張には理由がない。 c.本件特許明細書の【0007】に「相対モード地図情報と走行情報で、相対モード地図情報上の推定位置を相対モードにより確定する」と記載され、【0010】に「相関により地図情報上の車両位置を検出し、相対表現地図情報(経路名称や道案内)を表示する」と記載されているから、「相関が継続してとれたとき」という限定を考慮する必要はなく、特許請求の範囲に記載した発明は、発明の詳細な説明に記載されている。発明の詳細な説明には「相関が継続してとれるとき」について言及する部分があるが、これは実施例にすぎない。 d.「相対表示地図情報」につき、特許請求の範囲には「相対モード地図情報に対応する相対表示地図情報」と記載され、具体的な内容は限定されていないのであるから、「相対表示地図情報」は、相対モード地図情報に対応する情報であればどのような内容の情報であってもかまわないということが理解できるものである。 e.衛星航法等により得られた経度緯度情報に誤差があっても、この経度緯度と近いアークを特定することは可能であるから、請求人の主張には理由がない。 (2)理由2、3に対して 原出願の公開公報(特開昭62-37800号公報、甲第3号証)の67図及び9頁左下欄14行以降の記載より、シナリオ表示モードのデータがアークの分岐関係を含むことが明確であり、同7頁左下欄6-7行の記載より、シナリオに関するデータが相対モードのデータであることが明らかであり、同31図には、アークがネットワーク状に図示されているから、分割前の原出願に「相対モード地図情報上の前記アークの分岐関係を含む地図情報パターン」が記載されていることは明らかである。 また、原出願の公開公報の9頁左上欄8-9行に「走行情報(距離測定装置、針路方位測定装置)」と、走行情報について記載され、同2頁右上欄16-18行に「各種地図情報等と、走行情報との相互関係を比較することにより移動体の位置を検出するシステム。」と、地図と走行情報とが比較されることが示され、同82-1図には「相対モードにより位置確定可能か?」と、相対モードで位置確定可能な場合についての記載がある。 したがって、「相対モード地図情報上の前記アークの分岐関係を含む地図情報パターンと前記各走行情報から算出される走行パターンとの比較により前記相対モード地図情報上の前記車両の位置確定が可能なとき」との構成は、分割前の原出願に示されており、本件発明は原出願に明確に示されているものである。 そうすると、請求人が主張する分割要件の違反はなく、本件特許に係る特許出願の出願日は、原出願の出願日である昭和60年4月20日とされるべきものであって、本件発明と甲第5〜10号証との比較・検討は必要がないものである。 (4)理由4に対して 甲第1号証には「GPS位置検出器から得られる車両位置にマップマッチングを適用すること」は一切記載されていない。請求人の主張は甲第1号証の文脈に反するものであり、誤りである。 4.当審の判断 (1)理由1について a.「相対モード地図情報」、「絶対モード地図情報」に関し、特許請求の範囲には、「各アークの分岐関係を含む情報を有する相対モード地図情報」、「該相対モード地図情報の各アークに対応づけられた絶対位置情報を有する絶対モード地図情報」との記載が認められ、該記載によれば、「相対モード地図情報」は各アークの分岐関係を含む情報を有する地図情報であり、「絶対モード地図情報」は相対モード地図情報の各アークに対応づけられた絶対位置情報を有する地図情報であることが理解できる。そして、「相対モード地図情報」が絶対位置情報を含まなければならず、「絶対モード地図情報」が分岐関係を含まなければならないと解すべき理由も認められないから、2つの地図情報が区別できないとすることはできない。よって、「相対モード地図情報」、「絶対モード地図情報」の概念が不明確であるという請求人の主張は、理由のないものである。 b.「前記アークの分岐関係を含む地図情報パターンと前記各走行情報から算出される走行パターンとの比較」は、特許請求の範囲の記載自体から、地図情報上の道路の形状と、車両が走行した経路の形状とを比較することであると理解できるものである。また、本件特許明細書の【従来技術】の欄に「相対モードによる推定位置を求める方法」として「地図情報上の道路をアークとノードで表現した地図情報と走行情報との相関により移動体の推定位置を求める。」と記載されており、本件発明においても、比較処理自体は、かかる従来技術と同様に行われると理解できるのであって、当業者が容易に実施できるものと認められる。また、請求人のいう「パターンマッチング」という用語は、本件特許明細書に記載がないから、前記比較処理が「パターンマッチング」に限定されないことを理由として不明確であるという請求人の主張には理由がないというべきである。 c.「位置確定が可能なとき」について、実施例には「相関が継続してとれる時」が記載されているとしても、それは、単に一実施例が記載されているものであるから、該実施例の記載をもって、「車両の位置確定が可能なとき」を、「パターン同士の相関が継続してとれる時」であると解釈するのは誤りである。よって、特許請求の範囲の記載が、発明の詳細な説明に記載された発明以外の事項を含むという請求人の主張には理由がない。 d.「相対表示地図情報」について、特許請求の範囲には、「相対モード地図情報に対応する相対表示地図情報(経路名称及び/又は道案内等)」と記載されており、明細書には、他に相対表示地図情報の内容を具体的に限定する記載はないのであるから、「相対表示地図情報」は「相対モード地図情報に対応する」との限定のみを考慮することにより、その意義を理解することができるものである。 e.「前記絶対位置情報に対応する絶対モード地図情報上のアークを検索し」との処理は、車両が位置するアークを正確に特定することまでは要しないことが本件特許明細書の全記載から明らかであるから、そうすると、絶対位置情報に誤差があっても、その近傍のアークを検索する等により、前記処理を行うことは、当業者が容易に実現できることである。 以上のとおり、本件特許明細書は、発明の詳細な説明に、当業者が容易にその実施をすることができる程度に、その発明の目的、構成及び効果を記載していたものでないとも、特許請求の範囲の記載が、特許を受けようとする発明の構成に欠くことができない事項のみを記載したものでないともすることはできないから、請求人が主張する理由1によっては、本件特許を無効とすることができない。 (2)理由2について A.本件発明 本件発明は、本件特許明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1に記載された次のとおりのものである。 「衛星航法等絶対位置検出装置で検出される緯度経度情報等車両の絶対位置情報と、各走行情報検出器(走行距離計及び走行方向検出器等)で検出される車両の走行情報と、各アークの分岐関係を含む情報を有する相対モード地図情報と、該相対モード地図情報の各アークに対応づけられた絶対位置情報を有する絶対モード地図情報に基づき、前記絶対位置情報に対応する絶対モード地図情報上のアークを検索し、相対モード地図情報上の前記アークの分岐関係を含む地図情報パターンと前記各走行情報から算出される走行パターンとの比較により前記相対モード地図情報上の前記車両の位置確定が可能なとき、前記相対モード地図情報に対応する相対表示地図情報(経路名称及び/又は道案内等)を表示することを特徴とする車両ナビゲーション方法。」 B.分割出願の要件について 請求人は、本件発明の「相対モード地図情報上の前記アークの分岐関係を含む地図情報パターンと前記各走行情報から算出される走行パターンとの比較により前記相対モード地図情報上の前記車両の位置確定が可能なとき」との構成が、分割前の原出願の明細書又は図面(以下、「原明細書等」という。)に記載されていなかったと主張しているので、この点につき、検討する。 原明細書等には、 「本出願人の出願になる特願昭60-017743に記載の各種地図情報等と、走行情報との相互関係を比較することにより移動体の位置を検出するシステム。」(原出願の公開公報(特開昭62-37800号公報、甲第3号証)2頁右上欄15-18行。以下同様に、原明細書等の引用箇所を、原出願の公開公報の記載箇所をもって示す。)、 「位置検出装置により検出される緯度経度からエリアを特定し、該エリア番号から索引により相対モードに移行し、走行データにもとずき相対モードで位置検出、表示、アナウンス(以後、ナビゲートと呼ぶ)を行う。」(6頁右上欄1-6行)、 第82-1図に「相対モードにより位置確定可能か?」 との記載が認められる。 しかしながら、各種地図情報等と走行情報との相互関係の比較がどのような内容の処理であるのか、相対モードでの位置検出とはどのような検出法であるのかにつき、具体的な記載はないのであるから、上記原明細書等の記載からは、各種地図情報等と走行情報との相互関係を比較することにより移動体の位置を検出するとの技術が特願昭60-017743に記載されていたこと、相対モードでの位置検出が走行データにもとづくものであること、相対モードにより位置確定可能な場合があること、が把握されるにとどまるのであって、さらにすすんで、相対モード地図情報上のアークの分岐関係を含む地図情報パターンと各走行情報から算出される走行パターンとの比較により前記相対モード地図情報上の車両の位置を確定するとの技術事項までを把握することはできない。また、原明細書等の他の記載をみても、相対モード地図情報上のアークの分岐関係を含む地図情報パターンと各走行情報から算出される走行パターンとの比較により前記相対モード地図情報上の車両の位置を確定することについての記載は見当たらない。 よって、本件発明の「相対モード地図情報上の前記アークの分岐関係を含む地図情報パターンと前記各走行情報から算出される走行パターンとの比較により前記相対モード地図情報上の前記車両の位置確定が可能なとき」との構成が、原明細書等に記載されていたと認めることはできない。 被請求人は、「前記各走行情報から算出される走行パターンとの比較により前記相対モード地図情報上の前記車両の位置確定が可能なとき」に関して、 「まず、原出願公開公報の653ページ左上欄の8行目〜9行目には、「走行情報(距離測定装置、針路方位測定装置)」と記載されており、走行情報に関し、記載がなされている。 また、原出願公開公報の646ページ右上欄の16行目〜18行目には、「各種地図情報と、走行情報との相互関係を比較することにより、移動体の位置を検出するシステム。」と記載されており、地図と走行情報とが比較されることが示されている。 さらに、原出願第82-1図には、「相対モードにより位置確定可能か?」と記載されているように、相対モードで位置確定可能な場合についての記載が原出願にある。」(無効2001-35091号における平成13年5月16日付け答弁書11頁20-29行) と述べ、本発明は原出願に明確に示されていると主張している。 ところが、被請求人が指摘する上記箇所には、走行情報についての記載、各種地図情報と走行情報との相互関係を比較することにより移動体の位置を検出することの記載、相対モードにより位置確定可能な場合があることの記載、が別々になされているだけであって、どこにも「前記各走行情報から算出される走行パターンとの比較により前記相対モード地図情報上の前記車両の位置確定が可能なとき」との技術事項が記載されていない。 さらに、被請求人が指摘する、「各種地図情報と、走行情報との相互関係を比較することにより、移動体の位置を検出するシステム。」との記載は、原明細書等の「本出願人の出願になる特願昭60-017743に記載の各種地図情報等と、走行情報との相互関係を比較することにより移動体の位置を検出するシステム。」(2頁右上欄15-18行)との記載の一部であるところ、原明細書等には「相対モードによるナビゲートに並行して絶対モード位置検出(衛星航法、特願昭60-017743等による位置検出)処理され」(6頁右上欄8-11行)とも記載されているのであるから、被請求人の指摘する上記記載は、絶対モード位置検出について記載したものと解されるのであって、本件発明の「前記各走行情報から算出される走行パターンとの比較により前記相対モード地図情報上の前記車両の位置確定が可能なとき」との技術事項を示すものと解することはできない。 したがって、本件発明は、分割前の原出願に添付した明細書又は図面に記載された発明であるとすることができず、本件特許に係る特許出願は、特許法第44条第1項に規定される要件を備えていないものであり、同法同条第2項の規定は適用されないものである。 そうすると、本件特許に係る特許出願は、原出願の特許出願の時にしたものとみなすことはできず、その出願日は、現実の出願日である平成4年4月4日とすべきものである。 C.甲第6号証の記載 甲第6号証(特開平3-26913号公報)には、図面とともに、以下の記載が認められる。 「この発明は、上記課題を達成するために、第1図の如く構成されており、現在地の移動につれて表示画面上の表示地図を逐次書換えつつその上に現在地を表示させるようなされている。そして、地図情報記憶手段aでは、道路を含む地図情報が記憶される。GPS受信機22では、GPS衛星からの信号に基づいて移動体の位置情報が演算される。検索領域限定手段bでは、上記GPS受信機22で演算された位置情報に基づいて、上記地図情報における現在地検索領域が限定される。現在地演算手段cでは、方位センサ12および距離センサ13の出力に基づき、単位距離走行毎の移動成分を積分加算することにより移動体現在地が更新演算される。現在地表示手段dでは、上記現在地演算手段cによって演算された移動体現在地付近の道路地図を上記地図情報記憶手段aから読出して、該道路地図とともに現在地が表示される。軌跡データ記憶手段eでは、上記方位センサ12および上記距離センサ13の出力に基づく所定距離走行毎の軌跡データが記憶される。パターンマッチ手段fでは、上記検索領域限定手段bによって限定された検索領域内の道路形状と、上記軌跡データ記憶手段eに記憶された軌跡形状とがパターンマッチされる。現在地修正手段gでは、上記パターンマッチ手段fによる照合度が一定値以上の場合、現在地が修正される。」(2頁右上欄6行-左下欄14行)、 「第2図は本発明に係る移動体用現在地表示装置が適用された車両用経路案内装置の電気的なハードウェア構成を示すブロック図である。」(2頁右下欄2-4行)、 「次に、上記マップマッチサブルーチン(ステップ340)の詳細を第7図のフローチャートに従ってまず概略的に説明する。この処理においては、まず現在地を自動修正するための候補点を検索する(ステップ400)。これは、後に詳述するように、GPS衛星からの位置情報に基いて移動体現在地が含まれる所定領域を検索領域として設定し、該検索領域内に候補点があるか否かを調べることによってなされる。・・・(中略)・・・次にステップ430において、それまでに得られた各候補点毎に軌跡と道路の重ね合せをし、ある許容値以内の弛緩により重ね合せができた点を有力候補点として候補点の絞り込みをする。・・・(中略)・・・このステップ450の処理では、後述するように有力な候補点を中心として走行軌跡の回転を行ないつつ、道路上の対応する点とのエラー値を求める。続くステップ460では、このエラー値が一定のスレッショルド以下となる候補点があるか否かが調べられ、スレッショルド以下となる候補点がある場合(ステップ460でYES)、ステップ470のマッチポイント特定サブルーチンに進む。このステップ470の処理では、上記ステップ460において求められた有力な候補点の標準偏差と相関係数の算出結果に基づき現在地を修正する。」(4頁右下欄8行-5頁右上欄13行)、 「第17図は、上記ステップ500〜520における処理の説明図であるが、GPS測位に基づく検索中心点(Cx,Cy)を中心とする一定の半径(Ro×α)の円内が検索領域Sとされることになる。」(5頁左下欄9-13行)、 「こうして、車両現在地が存在する可能性のある場所が検索領域Sとして設定されると、次に検索領域S内に道路があるか否かが調べられる(ステップ530)。ここで、検索領域S内に道路がある場合(ステップ530でYES)、次には、該道路を単位距離毎に分割して、これら分割された道路を車両現在地の候補点として登録する(ステップ540)。」(5頁右下欄7-14行) これらの記載によれば、甲第6号証には、 「GPS受信機22で検出される移動体の位置情報と、 方位センサ12および距離センサ13で検出される車両の走行情報と、 道路を含む地図情報に基づき、 前記GPS受信機22で演算された位置情報に基づいて、上記地図情報における現在地検索領域Sを限定し、検索領域S内に道路があるか否かを調べ、 検索領域内の道路形状と、軌跡形状とがパターンマッチされ、照合度が一定値以上の場合、 現在地が修正され、移動体現在地付近の道路地図とともに現在地が表示される 車両用経路案内方法。」 との発明が記載されているものと認めることができる。 D.対比・判断 本件発明と、甲第6号証に記載された発明とを対比する。 a.甲第6号証に記載された発明の「GPS受信機22で検出される移動体の位置情報」は、本件発明の「衛星航法等絶対位置検出装置で検出される緯度経度情報等車両の絶対位置情報」に相当し、以下同様に、「方位センサ12および距離センサ13で検出される車両の走行情報」は「各走行情報検出器(走行距離計及び走行方向検出器等)で検出される車両の走行情報」に、「道路」は「アーク」に、「道路形状と、軌跡形状とがパターンマッチされ」は「前記アークの分岐関係を含む地図情報パターンと前記各走行情報から算出される走行パターンとの比較」に、「照合度が一定値以上の場合」は「車両の位置確定が可能なとき」に、「車両用経路案内方法」は「車両ナビゲーション方法」に、それぞれ相当する。 b.甲第6号証に記載された発明の「道路を含む地図情報」は、第17図の記載から、道路の分岐関係を含む情報を有していると認められ、また、GPS測位に基づく検索中心点(Cx,Cy)を中心とする検索領域S内に道路があるか否かを検索するのであるから、該道路がGPS測位に基づく位置と対応づけられていることは明らかである。そうすると、甲第6号証に記載された発明の「道路を含む地図情報」は、本件発明の「各アークの分岐関係を含む情報を有する相対モード地図情報」に相当するとともに、「相対モード地図情報の各アークに対応づけられた絶対位置情報を有する絶対モード地図情報」に相当するものである。 c.甲第6号証に記載された発明の「GPS受信機22で演算された位置情報」は本件発明の「絶対位置情報」に相当し、「現在地検索領域S」は該絶対位置情報に基づいて設定されるのであるから、「上記地図情報における現在地検索領域Sを限定し、検索領域S内に道路があるか否かを調べ」との処理は、絶対位置情報に対応する地図情報上の道路を検索する処理であるといえる。よって、甲第6号証に記載された発明の「前記GPS受信機22で演算された位置情報に基づいて、上記地図情報における現在地検索領域Sを限定し、検索領域S内に道路があるか否かを調べ」は、本件発明の「前記絶対位置情報に対応する絶対モード地図情報上のアークを検索し」に相当するものである。 d.「道路地図」が「相対モード地図情報」に相当することは前示b.のとおりであるから、該道路地図とともに表示される「現在地」は、「相対モード地図情報に対応する相対表示地図情報」に相当するといえ、そうすると、甲第6号証に記載された発明の「移動体現在地付近の道路地図とともに現在地が表示される」は、本件発明の「相対モード地図情報に対応する相対表示地図情報(経路名称及び/又は道案内等)を表示する」に相当するものである。 以上のとおりであるから、甲第6号証には、 「衛星航法等絶対位置検出装置で検出される緯度経度情報等車両の絶対位置情報と、 各走行情報検出器(走行距離計及び走行方向検出器等)で検出される車両の走行情報と、 各アークの分岐関係を含む情報を有する相対モード地図情報と、 該相対モード地図情報の各アークに対応づけられた絶対位置情報を有する絶対モード地図情報に基づき、 前記絶対位置情報に対応する絶対モード地図情報上のアークを検索し、 相対モード地図情報上の前記アークの分岐関係を含む地図情報パターンと前記各走行情報から算出される走行パターンとの比較により前記相対モード地図情報上の前記車両の位置確定が可能なとき、 前記相対モード地図情報に対応する相対表示地図情報(経路名称及び/又は道案内等)を表示することを特徴とする車両ナビゲーション方法。」 との発明が記載されているものと認められ、本件発明と甲第6号証に記載された発明とは、全ての点で一致し、相違点は存在しない。 したがって、本件発明は、甲第6号証に記載された発明である。 5.むすび 以上のとおり、本件発明は、甲第6号証に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号の発明に該当し、請求人の主張する他の無効理由を検討するまでもなく、本件特許は、同法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきものである。 審判に関する費用については、特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により、被請求人が負担すべきものとする。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2001-09-28 |
結審通知日 | 2001-10-03 |
審決日 | 2001-10-16 |
出願番号 | 特願平4-110648 |
審決分類 |
P
1
112・
534-
Z
(G01C)
P 1 112・ 113- Z (G01C) P 1 112・ 531- Z (G01C) |
最終処分 | 成立 |
前審関与審査官 | 水垣 親房 |
特許庁審判長 |
大森 蔵人 |
特許庁審判官 |
紀本 孝 菅澤 洋二 |
登録日 | 1997-11-28 |
登録番号 | 特許第2722365号(P2722365) |
発明の名称 | 車両ナビゲーション方法 |
代理人 | 大野 聖二 |
代理人 | 森田 耕司 |
代理人 | 伊藤 充 |
代理人 | 城山 康文 |