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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) F16F |
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管理番号 | 1074213 |
審判番号 | 審判1999-20122 |
総通号数 | 41 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 1996-12-03 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 1999-12-16 |
確定日 | 2003-03-07 |
事件の表示 | 平成 7年特許願第259786号「自動車用フライホイール組立体」拒絶査定に対する審判事件[平成 8年12月 3日出願公開、特開平 8-320050]について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
1.手続の経緯の概要・本願発明1 本願は、平成3年9月4日に出願された実願平3-70805号を特許法第46条第1項の規定により平成7年10月6日に特許出願に変更したものであって、その請求項1及び2に係る発明は、平成10年12月15日付け及び平成12年1月17日付け手続補正書により補正された明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1及び2に記載されたとおりのものであると認められるところ、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明1」という。)は、次のとおりのものである。 「【請求項1】 エンジン側のクランク軸からのトルクをトランスミッション側に伝達するための自動車用フライホイール組立体であって、 前記クランク軸の中心軸線に対して傾き可能な中心軸線を有し、エンジン側に配置された第1フライホイールと、 前記第1フライホイールの中心部に装着された軸受と、 中心部が前記軸受を介して前記第1フライホイールに回転自在に支持され、トランスミッション側に配置される第2フライホイールと、 前記第1フライホイールと第2フライホイールとの間に配置され、両フライホイール間の捩じり振動を吸収するためのダンパー機構と、 外周部が前記第1フライホイール外周部に固定され、中央部が前記クランク軸端に固定される、前記エンジン側からの曲げ振動を吸収するためのフレキシブルプレートと、 を備えた自動車用フライホイール組立体。」 2.引用刊行物の記載事項 平成14年9月24日付けで当審が通知した拒絶理由通知書中で引用した刊行物1(実願平1-148314号(実開平3-86231号)のマイクロフィルム)には、ヒステリシストルクを液体の粘性により発生させる液体粘性ダンパーに関して、下記の事項アが図面とともに記載されている。 ア;「本考案を適用した液体粘性ダンパーの縦断面図を示す第1図において、入力側ハブ1はエンジンのクランク軸に連結されており、該ハブ1にはストッパープレート51及びドライブプレート3がリベット7により固着されると共に、カバープレート2が固着されており、ドライブプレート3及びカバープレート2の外周端部にはリングギヤ12を有する第1フライホイール10が固着されている。入力側ハブ1の外周には軸受8を介して出力側第2フライホイール11が回転自在に嵌合しており、該第2フライホイール11の端面には、クラッチ13が連結されている。該クラッチ13は、第2フライホイール11に固着されカバー14a、プレッシャプレート15及びダイヤフラムばね17等からなるクラッチカバー14と、クラッチディスク16を備え、クラッチディスク16は例えばトランスミッション入力軸に連結している。 ドライブプレート3間には左右1対の板材からなる出力側ドリブンプレート23が配置され、該ドリブンプレート23はその波形外歯20が第2フライホイール11の波形内歯19に係合して、第2フライホイール11と一体的に回転するようになっている。 ドリブンプレート23には回転方向に間隔を隔てて複数の窓孔25が形成され、該窓孔25に対応するドライブプレート3の部分にはそれぞれ窓孔26及び凹部27が形成され、窓孔25、26及び凹部27内には、ねじりトルク発生用コイルばね30が回転方向圧縮自在に配置されている。」(第5頁2行〜第6頁11行) 同じく引用した刊行物2(特開昭61-233240号公報)には、フライホイールをクランク軸に対してフレキシブルな状態で支持したフライホイールとクラッチの組立体からなる自動車用動力伝達装置に関して、下記の事項イ〜エが図面とともに記載されている。 イ;「本発明を適用したクラッチを示す第1図において、10はクランク軸であり、クランク軸10の後端部にはフライホイール12が詳しくは後述する球面突起11aで弾性的に連結されている。フライホイール12の前面、すなわちエンジン本体に面した面と10の間にはフレキシブルプレート14(弾性的トルク伝達機構)が介装されている。フレキシブルプレート14はクランク軸10からの曲げ振動だけを吸収する部材である。 フライホイール12の後面側にはクラッチディスク16が設けられており、クラッチディスク16は後段の変速機の入力側15aに摺動自在な状態でスプライン嵌合している。また入力軸15aの前端部はクランク軸10の後端中央部にベアリング15bで軸支されている。」(第2頁右上欄17行〜左下欄11行) ウ;「したがってクランク軸10からのトルクはフレキシブルプレート14からフライホイール12に伝わり、フライホイール12は球面支持部11aで軸方向に摺動自在に支持されている。またクランク軸10は微小隙間cの範囲で球面支持部11aを中心としてフライホイール12と絶縁された状態で振動自在である。」(第3頁左上欄4〜10行) エ;「次に作用を説明する。クランク軸10が回転するとトルクは、フレキシブルプレート14を介してフライホイール12に伝わる。クランク軸10の曲げ振動はフレキシブルプレート14で吸収され、クランク軸10からの曲げ振動はフライホイール12に伝わらず、球面支持部11aを中心とするクランク軸10の振動は微少隙間cで絶縁される。」(第3頁左上欄20行〜右上欄7行) 3.本願発明1についての対比・判断 刊行物1に記載された上記記載事項アからみて、刊行物1に記載された発明の「ハブ1,カバープレート2及び第1フライホイール10」、「第2フライホイール11」、「軸受8」、「ねじりトルク発生用コイルばね30」及び「液体粘性ダンパー」は、夫々本願発明1の「第1フライホイール」、「第2フライホイール」、「軸受」、「ダンパー機構」及び「自動車用フライホイール組立体」に相当するものであるから、本願発明1の用語を使用して本願発明1と刊行物1に記載された発明とを対比すると、両者は、「エンジン側のクランク軸からのトルクをトランスミッション側に伝達するための自動車用フライホイール組立体であって、エンジン側に配置された第1フライホイールと、前記第1フライホイールの中心部に装着された軸受と、中心部が前記軸受を介して前記第1フライホイールに回転自在に支持され、トランスミッション側に配置される第2フライホイールと、前記第1フライホイールと第2フライホイールとの間に配置され、両フライホイール間の捩じり振動を吸収するためのダンパー機構とを備えた自動車用フライホイール組立体。」で一致しており、下記の点で相違している。 相違点1;本願発明1では、第1フライホイールがクランク軸の中心軸線に対して傾き可能な中心軸線を有しているのに対して、刊行物1に記載された発明では、ハブ1はクランク軸に連結されており、第1フライホイールとしての中心軸線はクランク軸の中心軸線に対して傾き可能ではない点 相違点2;本願発明1では、外周部が第1フライホイール外周部に固定され、中央部がクランク軸端に固定される、エンジン側からの曲げ振動を吸収するためのフレキシブルプレートを備えたものであるのに対して、刊行物1に記載された発明では、本願発明1のようなエンジン側からの曲げ振動を吸収するためのフレキシブルプレートを備えていない点。 上記相違点1,2について検討するに、刊行物2(記載事項イ〜エ参照)には、一つのフライホイール構造の自動車用動力伝達装置(フライホイール組立体)ではあるが、エンジン側からの曲げ振動を吸収するために外周部がフライホイール外周部に固定され中央部がクランク軸端に固定されるフレキシブルプレート14を備えること(本願発明1の上記相違点2に係る構成に相当)、及び、フライホイール12を球面支持部11aで軸方向に摺動自在に支持された構造を採用することによって、クランク軸10を微小隙間cの範囲で球面支持部11aを中心としてフライホイール12と絶縁された状態で振動自在であるように支持すること(本願発明1の上記相違点1に係る構成に相当)が記載されているものである。 そして、刊行物2に記載された上記技術事項は、一つのフライホイール構造のフライホイール装置に関するものではあるが、クランク軸からのフライホイールへの曲げ振動を吸収することは、一つのフライホイール構造のフライホイール装置特有の課題ではなく、2つのフライホイール構造を採用した装置であっても同様に解決する必要がある課題であるから、刊行物2に記載された技術事項を刊行物1に記載されたような2つのフライホイール構造の液体粘性ダンパー(フライホイール組立体)に採用することを妨げる格別の要因はないものである。 そうすると、当業者であれば、刊行物2に記載された上記技術事項を刊行物1に記載されたような2つのフライホイール構造の液体粘性ダンパー(フライホイール組立体)に採用して、本願発明1の上記相違点1,2に係る構成とすることは、当業者が必要に応じて容易に想到することができる程度の事項と認める。 また、本願発明1の効果も、刊行物1,2に記載された事項から当業者であれば予測することができる程度のものであって、格別のものとはいえない。 なお、請求人は、平成14年11月29日付けの意見書において、概略「本願発明は、2カ所にフレキシブル部分を構成し、その相乗作用によって曲げ振動を効果的に抑えようとするものであって、刊行物1及び2から容易に得られるものではない。」旨主張しているが、上記したように、クランク軸からのフライホイールへの曲げ振動は、1つのフライホイールのものだけでなく、2つのフライホイールのものであっても生じるものであり、クランク軸からのフライホイールへの曲げ振動を吸収する必要があることは、共通する課題であるから、その課題を解決するために必要な技術事項については、相互に採用することができるものであって、格別その適用を阻害する要因はないものである。 そして、本願発明1のような構成を採用することによって奏する効果について検討しても、軸受部の構造による曲げ振動を吸収する作用とフレキシブルプレートによる曲げ振動を吸収する作用とを単に合わせた効果にすぎないものであって、請求人の主張するような相乗的な効果を奏するものとは認めることができない。 よって、請求人の上記意見書での主張は採用することができない。 4.むすび したがって、本願発明1(請求項1に係る発明)は、刊行物1,2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 そして、本願の請求項1に係る発明が特許を受けることができないものである以上、本願の請求項2に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2002-12-13 |
結審通知日 | 2003-01-07 |
審決日 | 2003-01-20 |
出願番号 | 特願平7-259786 |
審決分類 |
P
1
8・
121-
WZ
(F16F)
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最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 小谷 一郎、川上 益喜 |
特許庁審判長 |
村本 佳史 |
特許庁審判官 |
秋月 均 前田 幸雄 |
発明の名称 | 自動車用フライホイール組立体 |
代理人 | 小野 由己男 |
代理人 | 宮川 良夫 |