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審決分類 審判 査定不服 特36 条4項詳細な説明の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) C12P
審判 査定不服 5項1、2号及び6項 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) C12P
管理番号 1074374
審判番号 審判1998-16814  
総通号数 41 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 1995-01-19 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 1998-10-26 
確定日 2003-03-27 
事件の表示 平成 3年特許願第518322号「骨形成ペプチド」拒絶査定に対する審判事件[平成 4年 4月30日国際公開、WO92/07073、平成 7年 1月19日国内公表、特表平 7-500487]について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由
【1】手続の経緯・本願発明

本願は、ストライカー コーポレイションにより平成3年10月18日を国際出願日として出願された(優先権主張1990年10月18日、US)ものであり、平成10年7月6日付の拒絶査定に対して同年10月26日付で審判請求され、その後平成12年9月25日付で当審で第1回目の拒絶理由が通知され、平成13年4月5日付で意見書が提出され、同年4月17日付で当審で第2回目の拒絶理由が通知され、同年10月29日付で意見書とともに手続補正書が提出されたものである。


【2】特許請求の範囲の記載

上記手続補正書の特許請求の範囲には、1.〜33.として以下のとおりに記載されている(以下、順に発明1〜33という。また、これらをまとめて本願発明ということがある)。


1.配列表配列番号5の残基303〜399によって記述されたアミノ酸シーケンスを含むポリペプチド鎖であって、該ポリペプチド鎖を含む二量体骨原性タンパク質は、マトリックスと連携して哺乳動物中に埋め込まれたとき、軟骨内骨形成を誘発し得る配座を有する、ポリペプチド鎖。

2.(a)配列表配列番号5の残基298〜399;または(b)配列表配列番号5の残基267〜399;または(c)配列表配列番号5の残基264〜399;または(d)配列表配列番号5の240〜399;または(e)配列表配列番号5の残基1〜399によって記述されたアミノ酸シーケンスを含む、請求項1のポリペプチド鎖。

3.配列表配列番号3の残基301〜397によて記述されたアミノ酸シーケンスを含むポリペプチド鎖であって、該ポリペプチド鎖を含む二量体骨原性タンパク質は、マトリックスと連携して哺乳動物中に埋め込まれたとき、軟骨内骨形成を誘発し得る配座を有する、ポリペプチド鎖。

4.(a)配列表配列番号3の残基296〜397;または(b)配列表配列番号3の残基259〜397;または(c)配列表配列番号3の残基1〜397によって記述されたアミノ酸シーケンスを含む、請求項3のポリペプチド鎖。

5.一対のジスルフィド結合ポリペプチド鎖を含む二量体骨形成タンパク質のサブユニットとして有用なポリペプチド鎖であって、該ポリペプチド鎖が、以下の配列



を有するOPSと少なくとも70%配列相同性を有するアミノ酸シーケンスを含有する活性領域を含み、そして該活性領域は、
(a)OP1タンパク質の保存6システイン含有骨格を有し、そして該6システイン含有骨格内に1つの付加システイン残基をさらに含む;または
(b)OP1タンパク質の保存7システイン含有骨格を有し、その中に1つの付加システイン残基をさらに含み、該ポリペプチド鎖を含む二量体骨形成タンパク質が、マトリックスと連携して哺乳動物に埋め込まれたとき、軟骨内骨形成を誘発できる配座を有する、ポリペプチド鎖であって、
該アミノ酸シーケンスが
(a)配列表配列番号5の残基261〜399;または
(b)配列表配列番号3の残基301〜397;または
(c)配列表配列番号3の残基259〜397;または
(d)配列表配列番号5の残基298〜399、
を含む、ポリペプチド鎖。

6.ホストセル内で組換えDNAの発現によって生成される請求項1から5のいずれか一項のポリペプチド鎖。

7.前記ホストセルが、原核細胞または哺乳動物細胞である、請求項6に記載のポリペプチド鎖。

8.前記ホストセルが、E.coli、CHO、COS、BSC、Saccharomyces、および骨髄腫ホストセルからなる群から選択される細胞である、請求項6または7のポリペプチド鎖。

9.グリコシル化されている、請求項1から5のいずれか一項のポリペプチド鎖。

10.請求項1から5のいずれか一項のポリペプチド鎖をコードする核酸。

11.請求項1から9のいずれか一項に記述されるポリペプチドにのみ結合特異性を有する、単離された抗体。

12.前記抗体が、ポリクローナル抗体またはモノクローナル抗体である、請求項11に記載の抗体。

13.以下からなる群から選択されるアミノ酸シーケンスを含むタンパク質に対して結合特異性を有する、請求項11または12の抗体:
(a)配列表配列番号5の残基303〜399;
(b)配列表配列番号5の残基297〜399;
(c)配列表配列番号5の残基264〜399;
(d)配列表配列番号5の残基1〜399;
(e)配列表配列番号5の残基18〜257;
(f)配列表配列番号3の残基301〜397;
(g)配列表配列番号3の残基296〜397;
(h)配列表配列番号3の残基259〜397;
(i)配列表配列番号3の残基1〜397;および
(j)配列表配列番号3の残基18〜259。

14.ポリペプチド鎖を含む二量体骨形成タンパク質がマトリックスと連携して哺乳動物に埋め込まれたとき、軟骨内骨形成を誘発できる配座を有する、ポリペプチド鎖をコードするDNA分子であって、該分子が、
(a)配列表配列番号3により記述されるDNAシーケンス;
(b)配列表配列番号5により記述されるDNAシーケンス;または
(c)配列表配列番号3のヌクレオチド467〜771とハイブリダイズできる、DNAシーケンスを含む、DNA分子。

15.一対のポリペプチド鎖を含み、そして哺乳動物において軟骨または骨形成を誘導する能力を有するタンパク質であって、該ポリペプチド鎖の各々は、OPX(配列表配列番号7)により記述されるアミノ酸シーケンスを含み、ここで残基41のXaaがCysである、タンパク質。

16.請求項1から9のいずれか一項のポリペプチド鎖または請求項15のタンパク質を含む、埋め込み可能な骨形成装置。

17.哺乳動物における埋め込みのための骨形成装置であって、
(a)該哺乳動物の生体からの移動性原始細胞の流入、差別、および増殖を可能にする十分な大きさの孔を有する生体適合性の生体内可分解のマトリックス;および
(b)請求項1から9のいずれか一項のポリペプチド鎖、または請求項15のタンパク質を含む、装置。

18.記マトリックスが同種性骨または異種性骨を含む、請求項17の装置。

19.前記マトリックスが、脱塩され、脱脂されたI型不溶性骨コラーゲン粒子を含む、請求項16から18のいずれか一項の装置であって、該コラーゲン粒子は、非コラーゲン性タンパク質において涸渇され、そして粒子内侵入体積および表面面積を増大するように処理された、装置。

20.前記処理が、
(a)コラーゲン線維改質剤;または
(b)プロテアーゼ;または
(c)溶剤;または
(d)酸;または
(e)37℃から75℃までの範囲内の加熱水性媒体で処理される、請求項19に記載の装置。

21.前記プロテアーゼがトリプシンである、請求項20に記載の装置。

22.前記溶剤が、ジクロロメタン、トリクロロ酢酸、およびアセトニトリルからなる群から選択される、請求項20に記載の装置。

23.前記酸が、トリフルオロ酢酸またはフッ化水素である、請求項20に記載の装置。

24.請求項19の装置を生成するための方法であって、粒子内侵入体積および表面面積を増大するようにコラーゲンを処理する工程を含む、方法。

25.マトリックスと提携させた、請求項1から9のいずれか一項のポリペプチド鎖、または請求項15のタンパク質であって、ここで該マトリックスが、
(a)同種性骨;または
(b)異種性骨;または
(c)粒子内侵入体積および表面面積を増大するようにプロテアーゼまたは線維改質剤で処理された、粒子状のタンパク質抽出し、脱塩した異種性骨;または
(d)コラーゲン、グリコール酸および乳酸のホモポリマーまたはコポリマー、ヒドロキシアパタイト、およびリン酸カルシウムから選択される材料;または
(e)ゆるく接着された粒状物質の形状保持固体;または
(f)成形された有孔性固体;または
(g)咀嚼組織
を含む、ポリペプチド鎖またはタンパク質。

26.前記同種性骨が、粒子状の脱塩し、グアニジン抽出した同種性骨である、請求項25に記載のポリペプチド鎖またはタンパク質。

27.前記異種性骨が、粒子状のタンパク質抽出し、脱塩した異種性骨である、請求項25に記載のポリペプチド鎖またはタンパク質。

28.前記リン酸カルシウムが、リン酸三カルシウムである、請求項25に記載のポリペプチド鎖またはタンパク質。

29.前記形状保持固体がコラーゲンである、請求項25に記載のポリペプチド鎖またはタンパク質。

30.前記咀嚼組織が筋肉である、請求項25に記載のポリペプチド鎖またはタンパク質。

31.請求項1から9のいずれか一項のポリペプチド鎖、または請求項15のタンパク質を含む、活性ヘテロ二量体骨形成タンパク質。

32.前記ヘテロ二量体が、ジスルフィド結合により結合されている、または他の様式で会合されている、請求項31のヘテロ二量体タンパク質。

33.請求項31または32のヘテロ二量体タンパク質を生成する方法であって、2つまたはそれ以上のポリペプチド鎖を酸化し、リフォールディングする工程を含む、方法。

【3】当審拒絶理由の内容

当審において通知した平成13年4月17日付の第2回目の拒絶理由の一の概要は、以下のようなものである:

本願は、明細書及び図面の記載が以下の(a)〜(c)の点で、特許法第36条第4項又は第5項及び第6項に規定する要件を満たしていない。

(a) 特許請求の範囲に記載されたポリペプチド鎖の有用性(「軟骨内骨形成」活性を有すること)が確認できない。
明細書中には、本願発明に係る骨形成タンパク質OP2(配列番号5のヒトOP2及び配列番号3のマウスOP2)を遺伝子組換え技術を用いて製造した実施例等の具体的な開示が存在せず、当該組換えOP2が「軟骨内骨形成」活性を有することも確認できない。
特許請求の範囲においては、OP2の全体配列ではなく、そのC末端の100余個のアミノ酸配列のみが特定されて「含む」クレームとなっているが、当該一部配列を含む全てのポリペプチドが所望の活性を有することも確認できない。

(b) 特に、請求項15に規定されるOPX(配列表配列番号7)は、OP1及びOP2タンパク質間の最大ホモロジーを取り込んだ包括的なアミノ酸配列群であって、OP1とのホモロジーが低い請求項15に含まれるポリペプチドの全てが「軟骨内骨形成」活性を有することが本願明細書の記載から当業者に明らかであるとはいえない。

(c) 請求項11〜13に規定される「請求項1から9のいずれか1項に記述されるポリペプチドにのみ結合特異性を有する」抗体について、明細書中には実施例等の具体的な開示が存在せず、当業者が過度な実験を伴わずにこれらの特異的な抗体を得ることはできない。


【4】当審の判断
(1)発明1について
(1-1) 明細書の記載について
(a-1) 発明1は、hOP2のC末端の100余個の特定のアミノ酸配列を「含む」ポリペプチド鎖であって、「該ポリペプチド鎖を含む二量体骨原性タンパク質は、マトリックスと連携して哺乳動物中に埋め込まれたとき、軟骨内骨形成を誘発し得る配座を有する、ポリペプチド鎖」(以下、これを単に「OP2活性を誘発し得るポリペプチド鎖」ということがある)に係るものである。
一方、発明の詳細な説明には、配列番号5の残基303〜309のアミノ酸シーケンスについて、同配列番号5(ヒトプレプロOP2(hOP2-PPの全塩基配列及び推定全アミノ酸配列を含む)が257〜261の位置で切断され、その結果生成する成熟型hOP2(hOP2-A)を表すシークエンスとして記載されている(明細書第18頁第17行〜第19頁第3行、特に第18頁第25行以降)。

(a-2) しかしながら、発明の詳細な説明中には、そもそもクローニングした全長のヒトプレプロOP2遺伝子(hOP2-PP遺伝子、配列番号5)自体を遺伝子工学的に発現せしめている例がないから、当該発現により得られる成熟形OP2を構成するポリペプチド鎖が上記303〜399の残基で表現されるアミノ酸シーケンスを有するものであることすら確認されてもいないし、hOP2-PP遺伝子発現産物に軟骨内骨形成誘導活性があるか否かも不明である。
さらに、マウスの全長プレプロOP2(mOP2-PP遺伝子、配列番号3)自体を遺伝子工学的に発現せしめ、得られた成熟形mOP2の軟骨内骨形成誘導活性を確認しているわけでもない。
そうしてみると、上記シークエンスがhOP2の成熟型の配列であることは、明細書中で実験的に確認されたこととはいえず、単にhOP-1等既知の類似タンパクのアミノ酸配列との比較や構成アミノ酸等の点から推測したものに過ぎない。

(b) ところで、一般に、遺伝子組換え技術を用いて特徴的な分子構造の活性型タンパク質を製造するためには、適当な宿主・ベクター系の選択や遺伝子の発現条件、及び発現直後のプレプロ体のシグナル部分でのプロセッシングや、得られたプロ体に対するフォールディング、S-S結合等の適切な翻訳後修飾のための適切な条件、等を設計する必要があり、これらの条件等は得ようとするタンパク質により必ずしも一定とはいえない。
ましてや、本願明細書中では、骨格構造を構成するシステイン残基の数が、OP1(全長)では7個であるのに対し、OP2では前記共通の7個の他、さらにもう1つのシステイン残基を有するという点において特徴的であるとの予想が述べられている(例えば明細書第20頁。前記もう1つの8番目のシステインにとしては、配列番号5の残基338番目、配列番号7の残基41番目、Fig.2.2の78番目、のCysがこれに該当する。また、要すれば平成13年10月29日付意見書第8頁第3〜5行の特徴的エピトープに係る記載も参照のこと)。よって、OP1に例示されるの類似の軟骨内骨形成誘導活性タンパク質の遺伝子光学的発現の例が公知であっても、このような、基本骨格と予測されるシステイン骨格構造におけるシステイン残基の数及び位置においてOP1と明らかに異なるとされているOP2の取得が、当業者にとり可能であるとはいえない。
即ち、この点について当業者が容易に実施可能というためには、OP1に係る公知の遺伝子工学的産生例やその他の遺伝子工学、翻訳後修飾等に係る一般技術のみでなく、明細書に例示されるOP2関連遺伝子を発現せしめ活性型OP2を具体的に取得し得る手法についての、かなり高い成功の蓋然性をもった合理的かつ具体的な説明が必要であるにもかかわらず、それらの合理的根拠については明細書及び図面中に何等開示されているとはいえないし、意見書(後述)等で説明されているともいえない。

(c) そして、以上のような前提の下で、明細書に例示されるOP2関連遺伝子を遺伝子工学的に発現せしめ、要すれば適切なフォールディング、S-S結合化等の翻訳後修飾工程を付加せしめて、活性型OP2を得るための適切な条件を見出すことは、当業者にとっても、許容される程度を超える試行錯誤等を課することといわざるを得ない。

(d) よって、発明の詳細な説明においては、発明1に係るポリペプチド鎖について裏付があるとは到底いえないし、また、「マトリックスと連携して哺乳動物中に埋め込まれたとき、軟骨内骨形成を誘発し得る配座」を構成することが当業者にとり容易に理解しかつ実施し得る程度の開示があるとはいえないから、発明1を当業者が容易に実施し得る程度の十分な記載がなされているとはいえない。

なお、本願出願後ですら、これら「含む」クレームのポリペプチド鎖のうちの典型例(例えば、明細書の第18頁で例示された、hOP2-A以外の活性型hOP2成熟種と予想されている
・アミノ酸残基 264-399:hOP2-P、
・ 〃 267-399:hOP2-R、
・ 〃 240-399:hOP2-S、
・ 〃 303-399:、
「保存された6個のシステイン骨格構造を決める領域」、
・ 〃 297-399:
「保存された7個のシステイン骨格構造を決める領域」、
といった領域に係る組換えポリペプチド鎖のいずれか)が「軟骨内骨形成を誘導」する活性を有することを確認する実験データ等が提出されているわけでもない。


(1-2) 平成13年10月29日付意見書での請求人の主張について
(a) 当審拒絶理由通知の理由2,3に対し、請求人は、平成13年10月29日付意見書(以後、特にことわらない限り、意見書といえばこれを指す。他項でも同様)において、以下のような主張をしている。

「 …本願発明は、構成要件の1つとして「マトリックスと連携して哺乳動物中に埋め込まれたとき、軟骨内骨形成を誘発し得る配座を有する」という特徴(機能)を有するもののみに関します。したがって、本願明細書は、本願発明を有用性の点からも明瞭に記載します。…
本願明細書は、当業者が本願発明を容易に実施することができるように記載しています。
まず、本願明細書は、配列番号3および5などに、本願発明に係る遺伝子配列が具体的に開示されています。また、「マトリックスと連携して哺乳動物中に埋め込まれたとき、軟骨内骨形成を誘発し得る配座を有する」という特徴については、本願明細書第25頁から第39頁に、本願発明のポリペプチドなどを用いてマトリクスを調製し、試験する方法が実施可能に記載されています。
平成13年4月5日に提出した意見書においても述べましたように、本願優先日時点において当業者は、上述の具体的遺伝子配列に基づいて、本願発明のポリペプチドなどを分子生物学的手法を用いて過度な実験を要することなく作ることができ、さらに、上述の調製および試験方法に基づけば、本願発明のポリペプチドの特徴を過度な実験を要することなく使う(確かめる)ことができたものと思料します。
なお、OP-2が「マトリックスと連携して哺乳動物中に埋め込まれたとき、軟骨内骨形成を誘発し得る配座を有する」という活性を有することは、参考文献1においても十分に実証されています。
なお、わが国特許法は、明細書の記載要件、特に実施可能要件について、…発明が実際に実施されたことを記載することを要求していません。したがって、明細書は、当業者が実施をすることができる(作ることおよび使うことができる)ように記載すればよく、本願明細書については、上述のように本願発明を当業者が作ることおよび使うことができるように記載されていることに鑑みれば、本願明細書が特許法第36条の規定を満たすことはないものと思料します。 」 (第5頁第10行〜第6頁第20行)

(b-1)
しかしながら、出願人が上で摘示する明細書第25〜39頁の記載は、マトリックスの調製等に係る一般的な技術について説明するにとどまるものであって、活性型OP2の遺伝子工学的生産において、これら一般技術をいかなる条件下でどのように組み合わせて採用すればよいかについて、何等具体的に教示するものではない。平成13年4月5日付意見書で説明についても同様である。

(b-2) また、請求人が提出した参考文献1(Genomics, (1997)40 p.196-198)は、本願優先日より後の1997年に発行されたものであって、決して本願優先日時請求項15に規定される軟骨内骨形成誘導活性を有するタンパク質を単離取得し得ることが、本願明細書及び本願出願時の技術常識から明らかであったことを、具体的に証明するものではない。
しかも、参考文献1の内容は、単にマウスの発達中の骨格組織(本願発明のいずれかに係るタンパク質の遺伝子を外来遺伝子として遺伝子工学的に導入した旨の特段の記載が同文献中にみられないことから、天然のマウスの骨格組織と認められる)におけるBmp8(mOP-2)遺伝子の特異的発現を、Bmp8プローブを用いたin situ ハイブリダイゼーション法で検出したことにより確認した(p.196冒頭の文献表題、及びp.197左欄下から第13〜7行、Fig.1b)、というものに過ぎず、例えば本願明細書中の配列番号3や配列番号5の遺伝子(mOP2・hOP2のプレプロ体をコードする)を導入した組換え宿主細胞を慣用の遺伝子工学的手法を用いて発現せしめ、及び要すれば遺伝子翻訳後の人工的修飾工程を付加することにより、活性型OP2が確実に産生、単離され得ることが、本願明細書及び図面、さらに本願出願時の技術常識から明らかであることを具体的に支持する文献とは到底言えない。
もちろん、その他明細書中で活性型と予測されているhOP2-P、hOP2-R、hOP2-Sといった配列のポリペプチド鎖についても、具体的に単離・取得可能であることを具体的に裏付ける文献となり得ていない。

(b-3) 以上(b-1)(b-2)で述べたことから、請求人の(a)の主張はいずれも当を得たものとはいえず、認容できない。


(2)発明2、3〜4について
発明2は、発明1に包含されるポリペプチド鎖のうち、配列番号5の残基303〜399を含むポリペプチド鎖である(a)〜(e)のいずれかのものを含む旨を規定するものであるが、本願明細書及び図面、本願出願時の技術常識を検討しても、これらポリペプチド鎖を単離取得したことが具体的に記載されておらず、また当該単離取得について当業者が容易に理解かつ実施し得る程度の十分な開示がされてもいないことは、既に上で述べたとおりであるから、発明1について(1)で述べたと同様の理由により、各発明のいずれについても発明の詳細な説明中で裏付けられているとはいえないし、また、当業者が各発明について容易に理解かつ実施し得る程度の十分具体的な記載が発明の詳細な説明中でなされているともいえない。


(3)発明5〜9について
(3-1)
発明5に規定されるポリペプチド鎖が含有するいずれかのアミノ酸シーケンス(a)〜(d)については、(a)はhOP2の成熟型タンパク質(hOP2-A)の予想アミノ酸配列として規定されるシーケンスであり(明細書第19頁第1〜2行)、また(b)が発明3、(c)が発明4の(b)、(d)が発明2の(a)に規定されているシーケンスと各々同一である。
そして、本願明細書及び図面、本願出願時の技術常識を検討しても、これらポリペプチド鎖について、当業者が容易に取得可能と判断できる程度の開示がなされていないことは既に述べたとおりであるから、発明1について(1)で述べたと同様の理由により、発明の詳細な説明には、発明5についても裏付けがあるということはできないし、また同発明5について当業者が容易に実施し得る程度の十分な開示がされているともいえない。

(3-2)
また、発明6〜9は、いずれも発明5に係る規定を引用するとともに、当該分野における一般的な慣用技術に係る規定を組み合わせて限定したものに過ぎないから、これまた発明5について(3-1)で述べたと同様の不備が存在するものである。


(4)発明10について 発明10に係る核酸は、請求項1〜5を引用して規定されているから、同発明10に係る核酸がコードするポリペプチド鎖は当然、「該ポリペプチド鎖を含む二量体骨原性タンパク質は、マトリックスと連携して哺乳動物中に埋め込まれたとき、軟骨内骨形成を誘発し得る配座を有する」とされるものである。
一方、発明の詳細な説明中においても、一応これらの核酸がコードするポリペプチド鎖は、二量体で軟骨内骨形成誘発性を有するOP2活性を有するものであるとされているが、これらの核酸を発現させてOP2活性を有することを確認しているわけではなく、既知の類似タンパク質のアミノ酸配列との比較から、OP2活性を有するタンパク質であることを推定したものに過ぎないことは、既に述べたとおりである。
そして一般に、DNAが「あるタンパク質をコードするDNA」であるということは、該DNAと適切なベクター、宿主を用いて発現させ、得られたポリペプチドにおける目的タンパク質と同一の生理活性の確認等がなされてはじめて正確にいえることであるから、発現させて得られた物質の活性等を確認することなく「あるタンパク質をコードするDNA」であるというためには、かなり高い蓋然性をもった合理的根拠が必要であるにもかかわらず、請求人は上記活性等の確認に係る実験データもしくはその他の合理的根拠を提示しているとはいえないこともまた、上の(1)(1-1)(b)で述べたとおりである。
よって、発明10に規定される核酸は、OP2活性を有するポリペプチド鎖をコードする遺伝子であるとは、直ちには認められない。
さらに、発明の詳細な説明には、その他に発明10規定の核酸を使用することについては、何等具体的記載がない。
したがって、発明の詳細な説明には、当業者が発明10に係る核酸を当業者が容易に使用できる程度の開示がされているとはいえない。


(5)発明11〜13について
(5-1)
各発明で直接又は間接的に引用されている、発明1〜9のいずれかに係るポリペプチド鎖については、発明の詳細な説明の記載に裏付けられておらず、また明細書及び図面の記載に基づいて当業者が容易に理解かつ実施し得ないものであることは、上の(1)〜(3)で既に述べたとおりであるから、これらのタンパク質を要件とする発明11〜13についても明細書中で裏付けがあるとはいえないし、また、当業者が容易に実施できる程度に発明の詳細な説明に記載されているともいえないことも明らかである。

(5-2)
なお、請求人は以前(平成13年4月5日付意見書において)提出された甲第2号証(Sambrookら、Molecular Cloning: A Laboratory Manual 第2版、1989 第16章)、甲第7号証(Sambrookら、同上、第17章)を挙げるとともに、参考文献2(Nature, (1975)256 p.495-497)をあらたに提出し、

「 本願優先日においては、モノクローナル抗体を作製する方法を含め、抗体作製方法は、十分に技術常識となっていました。このことを示す証拠として、参考文献2…を提出します。また、…甲第2および7号証…などの技術を含め、通常の分子生物学的技術を用いて抗体を作製することに過度の実験を要することはないものと思料します。 」 (第7頁第20行〜第8頁第1行)

といった主張をしているが、甲第2,7号証のいずれも、当業者が本願出願時に明細書及び図面の記載に基づいて発明1〜9のいずれかのタンパク質を具体的に調製し得ることを裏付けるものではないし、参考文献物2はモノクローナル抗体の一般的な製法について記載されているのみで、抗OP2モノクローナル抗体の容易実施性について何等裏付けるものでないことは明らかである。
よって、この点に係る請求人の主張も認容できるものではない。

(6)発明14について (6-1)
発明14中に規定されるDNA分子のうち、(a)は本願明細書中でヒト海馬cDNAライブラリーのスクリーニングに用いられているmOP2プロ領域由来のプローブ断片であり(明細書第18頁第2〜3行)、(b)はmOP2-PPを、(c)はhOP2-PPをコードするとされているものであるが、これら(a)〜(c)の核酸自体を含むいずれかの遺伝子を発現させてOP2活性を有することを確認しているわけではなく、また、当該いずれかの遺伝子がOP2活性を誘発し得るポリペプチド鎖をコードするものである蓋然性が高いといえる程度の十分合理的かつ具体的な根拠を請求人は何等提示していないことは、上の(1)や(4)で既に述べたとおりである。
よって、上の(1)や(4)で述べたと同様の理由により、発明の詳細な説明には、当業者が発明14を容易に実施し得るように記載されているとはいえない。

(6-2)
なお、発明14は、その規定振りからみて、(a)〜(c)のDNAシーケンスのいずれかと「ハイブリダイズできる」DNAをも含んでいるが、そのハイブリダイゼーション条件について同発明中には何等具体的に規定されておらず、また同条件について明細書中で具体的に定義づけられているわけでもないことから、発明14中には、様々なハイブリダイゼーション条件下で(a)〜(c)と「ハイブリダイズできる」、また塩基長も様々な、非常に多数のDNA分子をその発明中に包含するものである。
そして、それら多数のDNA分子の中から、OP2活性を誘発し得るポリペプチド鎖をコードするものを見出すことは、当業者に許容される程度を超える試行錯誤等を課するものである。
よって、この点からみても、発明14に係るDNA分子の任意のものについて、当業者が容易に理解かつ実施し得る程度の十分具体的な記載が、発明の詳細な説明中になされているとはいえない。


(7)発明15について
(7-1)
発明15に規定されるOPX(配列表配列番号7)は、OP1及びOP2タンパク質間の最大ホモロジーを取り込んだ包括的なアミノ酸配列群であって、かつ、OPX(配列番号7)のアミノ酸シーケンスにおいて、公知配列OP1との比較において配列番号7の41位においてのみTyrがCysに置換された配列であると認められる。
しかしながら、同発明15に含まれるいずれかのタンパク質について、遺伝子工学的に産生され、要すれば翻訳後修飾の後得られたこと、及び当該得られたタンパク質について軟骨内骨形成誘導活性を確認した例は、発明の詳細な説明のどこにも記載されていない。
そして、OP1においてCysの位置及び数が軟骨内骨形成誘導活性型タンパク質の骨格形成上に重要であるという本出願前公知の知見(例えば国際公開第89/9788号パンフレットを参照のこと)及び請求人の主張を勘案すると、Cysが上記配列番号7の41位に新たに加わりシステイン骨格構造の形成に関与するとしても、公知配列OP1と同様に活性(有用性)が維持される蓋然性が高い、とは直ちに判断できない。
ましてや、発明15に包含されるポリペプチドの全てのものについて、単に8個のシステイン残基が配列番号7に規定される位置に存在しさえすれば、OP2の基本骨格であるシステイン骨格構造が容易に形成され、軟骨内骨形成誘導活性を有する活性型OP2が得られることが、本願明細書・図面の記載及び技術常識から当業者にとり明らかに理解できるとは、到底いえない。
よって、発明15についても、発明の詳細な説明の記載によって裏付けられているとは到底いえないし、また、発明の詳細な説明には、当業者が発明15を容易に理解かつ実施し得る程度の十分な記載があるということもできない。

(7-2) また、特に同発明15については、請求人は意見書において、以下のような主張もしている。

「 請求項15に記載された発明に含まれるものは、請求項15に記載されるような配列を有し、かつ「哺乳動物において軟骨または骨形成を誘導する能力を有するタンパク質」という活性を有するもののみです。…本願明細書は、当業者がその実施をすることができるように十分に記載しております。実際OP-2が「哺乳動物においいて軟骨または骨形成を誘導する能力を有するタンパク質」という活性を有することは、本願明細書の記載から当業者は容易に理解しますし、参考文献1においてもさらに実証されています。 」 (第6頁下から第2行〜第7頁第8行)

しかしながら、参考文献1の内容が、活性型OP2が本願明細書及び図面の記載に基づき容易に取得できることを当業者に対し合理的に説明するものではにことは、(1)(1-1)(b-2)で述べたとおりであるから、この点についてもやはり請求人の主張は採用できない。


(8)発明16〜23、24、25〜30、31〜32、33について 各発明で直接又は間接的に引用されている、発明1〜9、又は発明15のいずれかに係るポリペプチド鎖について、当業者が容易に理解かつ実施し得ないことは、上の(1)〜(3)、(7)で再三述べたとおりであるから、これらのタンパク質を要件とする発明16〜23についても、発明の詳細な説明の記載によって裏付けられたものであるとはいえないし、また、発明の詳細な説明には、各発明のいずれについても、当業者が容易に理解かつ実施できる程度の十分な記載がなされているともいえない。
発明25〜30、31〜32についても、発明1〜9のいずれか又は発明15に係るポリペプチド鎖又はタンパク質を引用して規定されているから、いずれも発明16〜23と同様の不備が存在する。
また、発明24、発明33についても、各々発明19、発明31〜32を引用して規定されていることから、同様の不備が存在することは明らかである。


【5】むすび
以上【4】で述べたとおり、本願においては依然として【3】で記した拒絶の理由が解消していないから、特許法第36条第4項又は第5項及び第6項に規定される要件を満たしておらず、特許を受けることはできない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2002-10-21 
結審通知日 2002-11-01 
審決日 2002-11-14 
出願番号 特願平3-518322
審決分類 P 1 8・ 534- WZ (C12P)
P 1 8・ 531- WZ (C12P)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 新見 浩一中木 亜希  
特許庁審判長 徳廣 正道
特許庁審判官 佐伯 裕子
大久保 元浩
発明の名称 骨形成ペプチド  
代理人 山本 秀策  

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