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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) G06F
管理番号 1074438
審判番号 不服2001-22252  
総通号数 41 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 1992-04-13 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2001-12-13 
確定日 2003-04-03 
事件の表示 平成 2年特許願第228424号「作業領域管理装置」拒絶査定に対する審判事件[平成 4年 4月13日出願公開、特開平 4-111120]について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続きの経緯ならびに本件発明の認定

本件審判請求に係る特許出願は、平成2年8月31日になされたものであ
って、平成8年11月7日付手続補正書、平成11年10月25日付手続補
正書、平成14年1月15日付手続補正書、平成14年12月9日付手続補
正書により補正された明細書及び図面の記載から見て、その請求項1の発明
(以下、本件発明という)は、明細書の特許請求の範囲の請求項1に記載さ
れるとおりの以下のものである。

ユーザプログラムからのシステムコールによって起動される複数のシステ
ムプログラムを備えたシステムにおいて、
複数の各ユーザプログラムからのシステムコール毎に、該システムコール
によって起動されるシステムプログラムを呼び出すシステムプログラム呼び
出し手段と、
前記システムプログラム呼び出し手段から呼び出される複数のシステムプ
ログラムから共通に使用されるシステム作業領域と、
前記システムプログラム呼び出し手段からの指示により、前記システムコ
ールによって起動されるシステムプログラムが使用する作業領域を前記シス
テム作業領域から割り当てるシステムプログラム作業領域割り当て手段を有
することを特徴とする作業領域管理装置。

2.引用文献記載の発明の認定

審判請求人が本件出願前に公表している、SX/ARソフトウェア解説書
第3版、マニュアル型番07SG-1000-3、富士通株式会社発行、昭
和63年6月30日には、次のことが記載されている。

「カーネルは、システムの中核を成すコンポネントであり、システム内のプ
ログラムに対して基本的なサービスを提供する。カーネルのサービスは、シ
ステムコールというインタフェース(関数呼び出し)を通して、システム内
のプログラムから利用することができる。
カーネルは、図2.1に示す三つのコンポネントから構成される。
スーパバイザは、プログラムの実行の管理、入出力装置を除くハードウェア
資源の管理、およびそれに付随する管理などを行う。主な機能には以下のも
のがある。
・プロセス管理機能
・シグナル制御機能
・プロセス間通信制御機能
・空間管理機能
・プログラム管理機能
・タイマ管理機能
ファイル管理機能はファイルという入出力の論理的対象の創成と、これに
対するアクセス手段などを提供する。一方デバイスドライバは、ファイル管
理から呼び出され、ファイルに相当する実際の入出力装置の制御を行う。フ
ァイル管理がシステムコールインタフェースを実現するデバイス独立な制御
を司るのに対し、デバイスドライバはハードウェアインタフェースを実現す
るデバイス依存の制御を司る。
(中略)
2.2.2 プロセス管理
(1)プロセスとは
プロセスとは、カーネルから見た仕事の単位である。計算機システム内で
何らかの仕事を遂行させるためには、システムが保持している種々の資源を
使用しなければならない。資源は有限であるから、同時に複数のプロセスを
実行する場合にはカーネルでは資源の割当てを最適に行って、システム全体
として十分なスループットや応答性を維持するように制御することが必要に
なる。この資源割当ての単位となるのがプロセスである。各プロセスは、そ
の生成時にシステムにより動的に割り当てられるプロセスID(0以上の整
数値)によって一意に識別される)」(P.25からP.27第11行)

さらに、上記文献のP.74からP.77にはシステムコール一覧として
複数のシステムコール名が記載されている。

そして、以上を総合すると、少なくとも
・システム内の他のプログラムからのシステムコールによってカーネルのサ
ービスを実現するためのカーネルのプログラムが起動されること、
・カーネルを構成する部分は複数の機能手段からなり、プロセスから呼び出
すシステムコールも複数あること、
・カーネルから見た仕事の単位としてのプロセスはシステム中に複数存在す
ること、

ということが言えるので、

システム内のプログラムからのシステムコールによって起動される複数の
システムプログラムを備えたシステムであって、これらの複数のシステムプ
ログラムがカーネルを構成するシステムについて、
複数のシステム内のプログラムからのシステムコール毎に、カーネルを構
成するシステムプログラムを呼び出すための何らかの手段があること、

は当該分野における出願以前の技術水準として知られているものと認める。

また、当審で平成14年10月9日付で通知した拒絶理由に引用された、
SX/ARカーネル解説書第2版、マニュアル型番07SP-1100-
2、富士通株式会社発行、昭和62年4月30日、P.61-63(以下引
用例という)には以下のことが記載されている。

「(8)V=V 動的カーネルデータ域 カーネルのプログラムが使用する
作業域のうち、実メモリの動的割当てが行われる領域である」(P.63第
17行-第19行)

ここで、上記の技術水準を踏まえると、カーネルのプログラムの構成要素
としてシステムコールによって起動される複数のシステムプログラムがあ
り、さらに、P.62の図5.2にはシステム空間に動的カーネルデータ域
(V=V)が割り付けられており、このデータ域のデータは何らかの契機に
よって必要になった時点で初めて実メモリが割り当てられるものであり、デ
ータを割り当てるための割り当て手段があることは自明である。

結局、上記の技術水準を踏まえると、この引用例記載の事項から

システム内のプログラムからのシステムコールによって起動される複数の
システムプログラムを備えたシステムであって、
複数のシステム内のプログラムからのシステムコール毎に、該システムコ
ールによって起動されるシステムプログラムを呼び出すシステムプログラム
呼び出し手段と、
前記システムプログラム呼び出し手段から呼び出される複数のシステムプ
ログラムを含むカーネルから共通に使用される動的カーネルデータ域と、
必要に応じて該動的カーネルデータ域の割り当て処理を行う割り当て手段
を有するシステム

という発明(以下、引用発明という)が既に出願前に知られているものと認
められる。

3.本件発明と引用発明との対比

引用発明における「システム内のプログラム」とはカーネルのサービスの
プログラムを呼び出しているプログラムであるから、カーネルから見ればユ
ーザプログラムということができ、本件発明における「ユーザプログラム」
に相当するものである。

また、システムプログラムから共通に割り当てられ使用される領域という
点で、引用発明における「動的カーネルデータ域」は本件発明の「システム
作業領域」に対応し、引用発明における「割り当て手段」は本件「システム
作業領域割り当て手段」に対応するものである。

以上の点に基づき本件発明と引用発明とを比較すると、

(1)本件発明においてはシステム作業領域はシステムプログラム呼び出し
手段から呼び出される複数のシステムプログラムから共通に使用されるのに
対して、
引用発明においては動的カーネルデータ域はカーネルから共通に使用される領域ではあるが、システムプログラム呼び出し手段から呼び出される複数のシステムプログラムから共通に使用されるかどうかは不明な点、

(2)本件発明においてはシステムプログラム作業領域割り当て手段はシス
テムプログラム呼び出し手段からの指示によりシステム作業領域から割り当
てるのに対して、
引用発明においては割り当て手段はどの指示により動的カーネルデータ域
に対する割り当て処理を行うのかについては不明な点、

の2点で相違するものの、その余の点では一致するものと認める。

4.相違点に対する当審の判断

相違点(1)について、引用発明における動的カーネルデータ域がカーネル
から共通に使用される領域である以上、カーネルの構成要素であるシステム
コールによって起動される複数のシステムプログラムからも共通に使用され
るように構成することは当業者にとって格別の困難を要するものではない。

相違点(2)について、引用発明においても、少なくともシステムプログラ
ム呼び出し時点でデータ域を必要とすることは明らかである以上、システム
プログラム呼び出しを契機とし、システムプログラム呼び出し手段からの指
示によりカーネルデータ域に対する割り当て処理を行うよう構成することは
当業者にとって格別の困難を要するものではない。

なお、審判請求人が平成14年12月9日付意見書において主張する、

(i)「本願発明では、システムプログラム群が全体として1つのシステム
作業領域を持ち、システムプログラム群の中でユーザプログラムによって起
動されるシステムプログラムに対して、このシステム作業領域の一部を必要
に応じて割り当てます。
一方審査官殿が、本願のシステム作業領域に該当するとした引用例中の
「動的カーネルデータ域(V=V)」は、カーネルの作業領域です。
引用例中には、プロセスに対してこの「動的カーネルデータ域(V=V)」がどのように割り当てられるのか(呼び出されたシステムプログラムと一対一で割り当てる、システムプログラムそれぞれに対して「動的カーネルデータ域(V=V)」の一部を割り当てる等)については、全く記載がありません。またこの「動的カーネルデータ域(V=V)」は、カーネルが作業領域とするとあるのみで、本願のようにユーザプログラムによって呼び出された処理を行う領域なのか、OSとしての処理を行うための領域なのかの記載もありません。
そして仮に引用例の構成が、「動的カーネルデータ域(V=V)」を呼び
出されたシステムプログラムと一対一で割り当てる場合、この「動的カーネ
ルデータ域(V=V)」は、請求項1の「システム作業領域」ではなく、
「システムプログラムが使用する作業領域」に相当するものとなり、引用例
には、「システム作業領域」の開示が無いこととなります。
また、引用例が呼び出されたシステムプログラムそれぞれに対して「動的
カーネルデータ域(V=V)」の一部を割り当てる構成の場合には、審査官
殿の述べられるとおり「動的カーネルデータ域(V=V)」は請求項1の
「システム作業領域」に相当します。
しかしこの「動的カーネルデータ域(V=V)」から更に各システムプロ
グラムに対して領域を割り当てる際に、本願発明の様にユーザプログラムか
ら呼び出されたシステムプログラムに対して割り当てるのか、或いは従来例
として示したようにユーザプログラムがシステムプログラムを使用するか否
かに関わらず予め領域を割り当てるのか等、具体的に「動的カーネルデータ
域(V=V)」からシステムプログラムに対してどのような仕方で領域の割
り当てが行われているのか全く記載がありません。
従って引用例中の「動的カーネルデータ域(V=V)」に対する記載から
は、審査官が主張されるように「動的カーネルデータ域(V=V)」が、請
求項1に記載のシステム作業領域に相当するということは出来ません。」

という主張について、上記相違点(1)(2)における当審の判断において
も示したとおり、本件発明におけるシステム作業領域と同様に、システムプ
ログラム呼び出し手段からの指示によってシステムプログラムに対して割り
当てられるように構成することは当業者が格別の困難なくなしえた事項にす
ぎない。

(ii)「また審査官殿は、本願請求項1のシステムプログラム呼び出し手
段及びシステムプログラム作業領域割り当て手段に対して、「一般的なカー
ネルに含まれるものであることを考慮すれば、上記引用例記載の発明と本件
請求項1記載のとの間に格別の差異は認められない。」としています。
本願発明では、システムプログラム呼び出し手段によって起動されたシス
テムプログラムに対して、システムプログラム作業領域割り当て手段がシス
テム作業領域の一部をこのシステムプログラムに対して割り当てています。
そして起動されたシステムプログラムに対してこのような割り当てを行うこ
とにより、本願発明では、システムプログラム群の中の起動されるシステム
プログラムに対してのみに、システム作業領域の一部が必要に応じて割り当
てられ、システムプログラムによるメモリ使用効率を向上させることが出来
るという効果が得られます。
しかし、「一般的なカーネル」ではこのような効果を得られず、また引用
例には、上述したようにシステムプログラムへのメモリの割り当てについて
開示が無いので、本願のシステムプログラム呼び出し手段及びシステムプロ
グラム作業領域割り当て手段に対応する記載が一切ない引用例に対して、
「上記引用例記載の発明と本件請求項1記載のとの間に格別の差異は認めら
れない。」との主張は成り立ちません。 」との主張について、

システムプログラム群の中の起動されるシステムプログラムに対してのみ
に、システム作業領域の一部が必要に応じて割り当てられるという事項は本
件明細書の特許請求の範囲の請求項1の記載に基づくものではない。
また、必要になったプログラム以外のためにもわざわざ作業領域を割り当
てるのではなく、必要になったプログラムのためにのみ作業領域を割り当て
るということは資源管理においてごく普通に行うことであり、システムコー
ルを処理するためのシステムプログラムに対してのみ、そのシステムプログ
ラムが使用する作業領域を割り当てることを想到することに格別の困難性を
要するものとは認められない。

5.結び

以上のとおり、本件発明は、本件出願前に上記引用発明に基づいて当業者
が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項
規定により特許を受けることができない。

よって結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2003-01-28 
結審通知日 2003-02-04 
審決日 2003-02-19 
出願番号 特願平2-228424
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (G06F)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 漆原 孝治  
特許庁審判長 吉岡 浩
特許庁審判官 大橋 隆夫
川崎 優
発明の名称 作業領域管理装置  
代理人 久木元 彰  
代理人 大菅 義之  

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