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審決分類 審判 全部申し立て 判示事項別分類コード:なし  C08L
審判 全部申し立て 2項進歩性  C09D
審判 全部申し立て 判示事項別分類コード:なし  D06M
管理番号 1074749
異議申立番号 異議2002-70889  
総通号数 41 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 1993-11-02 
種別 異議の決定 
異議申立日 2002-04-02 
確定日 2003-01-29 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第3223198号「ジオルガノポリシロキサン/アクリル酸エステル系共重合体エマルジョンの製造方法」の請求項1に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 訂正を認める。 特許第3223198号の請求項1に係る特許を維持する。 
理由 I.手続の経緯
特許第3223198号の請求項1に係る発明についての出願は、平成4年4月8日に出願され、平成13年8月17日にその特許の設定登録がなされ、その後、信越化学株式会社より特許異議の申立てがなされ、取消の理由が通知され、その指定期間内である平成14年11月5日付で訂正請求がなされたものである。

II.訂正の適否
1.訂正事項
平成14年11月5日付の訂正請求書の訂正事項は次のとおりである。
a-1:特許請求の範囲の「【請求項1】(A)(a)1分子中に2個以上のケイ素原子結合アルケニル基を有し、分子鎖末端が水酸基で封鎖されたジオルガノポリシロキサン100重量部、(b)水50〜1,000重量部および(c)乳化剤1〜50重量部からなるジオルガノポリシロキサンエマルジョンを調製した後、(B)アクリル酸エステル系モノマーを(A)成分100重量部に対して1〜100重量部となる量加えてラジカル開始剤の存在下で共重合した後、該共重合体100重量部に、(C)コロイド状シリカ1〜100重量部と(D)縮合反応促進触媒0.001〜1.5重量部を加えて混合することを特徴とする、水が蒸発した後エラストマー状に硬化するジオルガノポリシロキサン/アクリル酸エステル系共重合体エマルジョンの製造方法。」を、
「【請求項1】(A)(a)1分子中に2個以上のケイ素原子結合アルケニル基を有し、分子鎖末端が水酸基で封鎖されたジオルガノポリシロキサン100重量部、(b)水50〜1,000重量部および(c)乳化剤1〜50重量部からなるジオルガノポリシロキサンエマルジョンを調製した後、(B)アクリル酸エステル系モノマーを(A)成分100重量部に対して1〜100重量部となる量加えてラジカル開始剤の存在下で共重合した後、該共重合体100重量部に、(C)コロイド状シリカ1〜100重量部と(D)縮合反応促進触媒0.001〜1.5重量部を加えて混合し、pHを9〜12に調整後、15〜50℃で熟成させることを特徴とする、水が蒸発した後エラストマー状に硬化するジオルガノポリシロキサン/アクリル酸エステル系共重合体エマルジョンの製造方法。」に訂正する。
a-2:平成13年3月23日付手続補正書に添付された全文訂正明細書(以下、「特許明細書」と称す。)第2頁第24〜25行(特許公報段落【0004】参照)の「(D)縮合反応促進触媒0.001〜1.5重量部を加えて混合することを特徴とする」を、「(D)縮合反応促進触媒0.001〜1.5重量部を加えて混合し、pHを9〜12に調整後、15〜50℃で熟成させることを特徴とする」に訂正する。
a-3:特許明細書第6頁第4行(特許公報段落【0014】参照)の「pHを9〜12に調整後、熟成させることが好ましい。」を、「pHを9〜12に調整後、熟成させる。」に訂正する。
a-4:特許明細書第6頁第10〜11行(特許公報段落【0014】参照)の「熟成温度はエマルジョンが破壊されない温度、即ち、10〜95℃が好ましく、15〜50℃がより好ましい。」を、「熟成温度は15〜50℃である。」に訂正する。
a-5:特許明細書第6頁第19〜20行(特許公報段落【0016】参照)の「室温における保存安定性が必要でないときは、上記のベースエマルジョンのpHは9未満であってもよい。」を削除する。
b:特許明細書第3頁第13行(特許公報段落【0005】参照)の「直鎖状であるが、一部分岐状のものを含んでいてもよい。」を、「直鎖状である。」と訂正する。
c:特許明細書第3頁第21〜22行(特許公報段落【0006】参照)の「直鎖状ないし分岐状ジオルガノポリシロキサン」を、「直鎖状ジオルガノポリシロキサン」と訂正する。
d:特許明細書第9頁第28〜29行(特許公報段落【0022】参照)の「ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム塩型カチオン界面活性剤」を、「ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム塩型アニオン界面活性剤」と訂正する。
e:特許明細書第13頁の表2(特許公報段落【0026】参照)中の「風厚」を、「風合」と訂正する。

2.訂正の目的の適否、新規事項追加の有無、及び特許請求の範囲の実質上の拡張又は変更の存否
訂正事項a-1は、訂正前の特許請求の範囲請求項1において、「pH9〜12に調整後、15〜50℃で熟成させる」工程を追加するもので、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。また、この「pH9〜12」という範囲は、訂正前の特許明細書第6頁第4行(特許公報段落【0014】参照)に記載されているものであり、「15〜50℃」という熟成温度は、訂正前の特許明細書第6頁第11行(特許公報段落【0014】参照)の記載、及び各実施例の記載を根拠とするものであるから、訂正前の特許明細書に記載した事項の範囲内のものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、または変更するものでもない。
訂正事項a-2〜a-5は、訂正事項a-1の訂正に明細書の記載を整合させるものであって、明りょうでない記載の釈明を目的とするものに該当し、いずれも特許明細書に記載した事項の範囲内のものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、または変更するものでもない。
訂正事項b、cは、(a)成分のジオルガノポリシロキサンの分子構造を直鎖状に限定するものであり、明りょうでない記載の釈明を目的とするものに該当する。
訂正事項d、eは、誤記の訂正を目的とするものである。
そして、これら訂正事項b〜eは、いずれも訂正前の特許明細書に記載した事項の範囲内のものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、または変更するものではない。

3.訂正の適否の結論
以上のとおりであるから、上記訂正は、特許法等の一部を改正する法律(平成6年法律第116号)附則第6条第1項の規定によりなお従前の例によるとされる、特許法第120条の4第3項において準用する平成6年法律第116号による改正前の特許法第126条第1項ただし書、第2項及び第3項の規定に適合するので、当該訂正を認める。

III.特許異議申立てについての判断
1.本件発明
訂正請求書による訂正が認められるので、本件請求項1に係る発明は、訂正後の請求項1に記載された下記のとおりのものである。

「【請求項1】 (A)(a)1分子中に2個以上のケイ素原子結合アルケニル基を有し、分子鎖末端が水酸基で封鎖されたジオルガノポリシロキサン100重量部、(b)水50〜1,000重量部および(c)乳化剤1〜50重量部からなるジオルガノポリシロキサンエマルジョンを調製した後、(B)アクリル酸エステル系モノマーを(A)成分100重量部に対して1〜100重量部となる量加えてラジカル開始剤の存在下で共重合した後、該共重合体100重量部に、(C)コロイド状シリカ1〜100重量部と(D)縮合反応促進触媒0.001〜1.5重量部を加えて混合し、pHを9〜12に調整後、15〜50℃で熟成させることを特徴とする、水が蒸発した後エラストマー状に硬化するジオルガノポリシロキサン/アクリル酸エステル系共重合体エマルジョンの製造方法。」

2.申立ての理由の概要
特許異議申立人 信越化学工業株式会社は、証拠として本願出願前に頒布されたことが明らかな刊行物である甲第1号証(特開平4-23857号公報 以下、「刊行物1」という。)、甲第2号証(特開昭60-96650号公報 以下、「刊行物2」という。)、甲第3号証(特公昭54-5007号公報 以下、「刊行物3」という。)、および、甲第4号証(中島、有我編著「プラスチック材料講座[9]けい素樹脂」日刊工業新聞社 昭和45年4月20日 34-35頁 3・5酸触媒による環状ジメチルシロキサンの重合の項 以下、「刊行物4」という。)を提出し、訂正前の本件請求項1に係る発明は、上記刊行物1〜4から進歩性がないので特許法第29条第2項の規定に該当し、これらの特許は、特許法第113号第2号の規定により取り消されるべきものであると主張している。
なお、当審において通知した取消の理由の趣旨も、上記刊行物1〜4に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件請求項1に係る特許は特許法第29条第2項の規定に違反してされた、というものである。

3.各刊行物に記載される事項
(1)刊行物1(甲第1号証(特開平4-23857号公報))の記載事項
ア.「(a)不飽和ビニルモノマーがポリオルガノシロキサンに対し10〜90重量%グラフト共重合されたポリオルガノシロキサン系グラフト共重合体エマルジョン100重量部、
(b)…
(c)コロイダルシリカ1〜50重量部、
(d)硬化用触媒0.01〜10重量部、
(e)…
を含有してなることを特徴とする難燃性塗材。」(特許請求の範囲、第1項)
イ.「即ち、上記塗材は、一液硬化のエマルジョン性であるので…作業性良く被塗装物に塗布し得ると共に、塗装後水分の除去に伴い、エラストマーへ硬化して塗膜を形成すること、この硬化は室温で容易に生じることを知見した。更に、得られた塗膜は…伸長性を有すると共に素地との接着性が良いので、素地のクラック発生に追従でき、このため防水機能を損なうことがない上、-20℃程度の低温から60℃程度の高温に至るまでの感温特性に優れ、特に低温での伸びが良好であり…凍害を防止し得、しかも汚れが着き難く、優れた耐汚染性を有すること、かつこれらの機能を単層で十分カバーし得ることを見い出し、本発明をなすに至ったものである。」(第2頁右下欄4〜19行)
ウ.「かかるポリオルガノシロキサン系グラフト共重合体エマルジョンは従来より知られている種々の方法を採用することにより調製することができる。
例えば、下式(2)
RSi(OR1)3 …(2)
(…)
で示されるトリアルコキシシラン、水、グラフト交叉剤シラン又はシロキサン及び環状オルガノシロキサンをアニオン系乳化剤を使用して乳化した後、従来公知の開環重合触媒を添加して加熱下で開環重合し、中和し、水性エマルジョンを得た後(なお、アニオン系乳化剤と開環重合触媒を兼ねた乳化重合触媒とすることもできる。)得られた水性エマルジョンにラジカル重合触媒の存在下、アクリル酸エステル等の不飽和ビニルモノマーを添加し、加熱下に重合し、pHを調整することにより、オルガノシロキサン系グラフト共重合体エマルジョンを調製することができる。なお、グラフト交叉剤シラン又はシロキサンとしては、例えば下記一般式(3)
(CH2=CH)SiR2nO(3-n)/2 …(3)
(式中、R2は水素原子、メチル基、エチル基、プロピル基又はフェニル基、nは0,1又は2である。)で表されるビニルシロキサンや下記一般式(4)
HS(CH2)pSiRnO(3-n)/2 …(4)
(…)で表されるメルカプトシロキサン等を好適に用いることができる。」(第3頁右上欄12行〜右下欄4行)
エ.「(d)成分の硬化用触媒は、本発明の塗材を硬化させるためのもので、硬化用触媒としては、例えばジブチルすずジラウレート、・・・ジブチルすずジアセテート・・・リン酸すず、・・・テトラブチルチタネート等の有機酸の金属塩、n-ヘキシルアミン、グアニジン・・・用いることができる。」(第5頁右上欄10〜19行)
オ.「〔実施例1〕
1(刊行物1では○で囲まれた1で表記されている)オクタメチルシクロテトラシロキサン500部、フェニルトリエトキシシラン1.8部、γ-メルカプトプロピルジメトキシシラン44部、水350部及びドデシルベンゼンスルホン酸10部をホモミキサーを用いて乳化し、…安定なエマルジョンを得た後、…70℃で12時間加熱した。次いで、室温まで冷却し、24時間放置後、炭酸ナトリウムを用いてpH7.0に調整した。このエマルジョンの不揮発分(105℃×3時間)は48重量%であった〔ポリオルガノシロキサンエマルジョン(I)〕。
2(刊行物1では○で囲まれた2で表記されている)上記エマルジョン(I)73部(不揮発分として35部)、水15部及び1%過硫酸アンモニウム液3.5部をフラスコに仕込み、70℃まで昇温した。これにメチルメタクリル酸9部(エマルジョン(I)のポリオルガノシロキサンに対して25重量%)を3時間かけて滴下し、更に90℃にて後重合した後、室温に戻し、炭酸ナトリウムでpH7.0に調整した。このエマルジョンの不揮発分は46重量%で、粘度は120cpsであった〔ポリオルガノシロキサン系グラフト共重合体エマルジョン(II)〕。…
4(刊行物1では○で囲まれた4で表記されている)この反応生成物1.7部とコロイダルシリカ(…)15.6部とを攪拌機で混合し、これをエマルジョン(II)100部にホモミキサーで攪拌しながら加え、更に自己乳化型スズ触媒(ジブチルすずラウレート…)1.6部を加えてエマルジョン組成物を調整した。このエマルジョン組成物の不揮発分は40重量%、粘度は20cps、pHは6.2であった〔エマルジョン組成物(III)〕。
5(刊行物1では○で囲まれた5で表記されている)エマルジョン組成物(III)に…酸化チタン、水、添加剤を混合して塗材A,Bを作製した。
次に、これらの塗材をフッ素樹脂製板状体にキャスティングし、温度25℃、相対湿度60%の雰囲気中に1週間放置養生し、厚さ1mmのゴムシートが得られた。このゴムシートについて下記の試験を行った。
強度、伸び率…耐汚染性…」(第6頁右上欄6行〜第7頁左上欄13行)
シ.「不飽和ビニルモノマーとしては、例えばスチレン、αーメチルスチレン、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸エステル、ブチルアクリレート、ブタジエン、イソプレン等を用いることができるが、これらの中で(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸エステルを好適に用いることができる。」(3頁右上欄6〜10行)
ス.「環状オルガノシロキサンとしては、例えばヘキサメチルトリシクロシロキサン、オクタメチルテトラシクロシロキサン、デカメチルペンタシクロシロキサン等が用いられ、乳化重合触媒としては、例えば、ラウリル硫酸ナトリウム、ドデシルベンゼンスルホン酸・・・が用いられる。」(3頁右下欄4〜10行)
セ.「グラフト共重合量が10重量%に達しないと・・・塗膜は汚れ付着が大きくなり、タック感が生じる」(3頁右下欄14〜末4行)
ソ.「上記オルガノシロキサン系グラフト共重合体の分子量は特に制限されないが、10,000以上、より好ましくは100,000〜1,000,000であることが望ましく」(4頁左上欄4〜7行)
タ.「塗材を調製する方法は・・・(a)成分のポリオルガノシロキサン系グラフト共重合体エマルジョンを調製した後、・・・(c)成分と・・・(d)成分・・・を混合する方法が好適に採用される。」(5頁右下欄10〜17行)
チ.「ポリオルガノシロキサンとしては下記式(1)
R1nSiO(4-n)/2 ・・・(1)
(式中、R1は水素原子、メチル基、エチル基、プロピル基又はフェニル基、nは0,1又は2の数を示す。)で示されるものを好適に使用することができる。」(3頁左上欄末1〜右上欄5行)

(2)刊行物2(甲第2号証(特開昭60-96650号公報))の記載事項
カ.「(A)1分子中に、けい素原子に結合するヒドロキシル基を少なくとも2個有するオルガノポリシロキサン 100重量部
(B)コロイドシリカ 1〜150重量部…
(C)硬化触媒
(D)乳化剤 2〜30重量部
および
(E)水
からなるベースエマルジョン組成物において、これをPH9〜12に調節し、室温で水分を除去した際にエラストマー状物質を形成するような期間熟成させた後、(F)アミノ官能性シラン…を添加することを特徴とするシリコーン水性エマルジョン組成物の製造方法。」(特許請求の範囲)
キ.「本発明は、…水分の除去によって室温で硬化し、表面光沢に優れ、接着性、防錆性も良好なエラストマー状物質を形成するシリコーン水性エマルジョン組成物の製造方法に関するものである。」(第1頁右下欄2〜6行)
ク.「このオルガノポリシロキサンとして具体的なものは、例えば、分子両末端がヒドロキシル基で封鎖された…ジメチルシロキサン単位とメチルビニルシロキサン単位とから成る共重合体等をあげることができる。このようなオルガノシロキサンは、例えば環状シロキサンを開環重合させる方法…により合成される。」(第2頁左下欄下3行〜右下欄9行)
ケ.「(C)成分の硬化触媒は、本発明の組成物を硬化させるために使用するものであって、例えばジブチルすずジラウレート、ジブチルすずジアセテート…をあげることができる。」(第3頁左上欄4〜11行)
ツ.「充分に熟成が行われていないと(F)成分を添加した際にゲルを発生することがある。」(4頁左上欄1〜2行)

(3)刊行物3(甲第3号証(特公昭54-5007号公報))の記載事項
コ.「(A)式R2SiO
で示されるジオルガノシロキサン単位96〜100モル%と・・・トリオルガノシロキサン単位・・・からなるオルガノポリシロキサン10〜70重量部(ただし各シロキサン単位におけるRは一価炭化水素基であって、1分子中に含まれるRの少なくとも1個はオレフィン系不飽和炭化水素基であり、・・・)と、
(B)該オルガノポリシロキサンと共重合しうるアクリレート系不飽和単量体90〜30重量部との共重合体を主剤としてなる繊維質物用処理剤。」(特許請求の範囲)
サ.「処理剤A:
テトラメチルテトラビニルシクロテトラシロキサン2.01%、オクタメチルシクロテトラシロキサン32.99%、ラウリルスルホン酸ナトリウム1%および水64%からなる混合物を…乳化重合を行ってオルガノポリシロキサンのエマルジョンを得た。
つぎに上記で得たエマルジョン106g、水112.4gおよび1%過硫酸カリウム溶液8.8gを…かくはんを行いながらエチルアクリレート52.2g、メタクリル酸2.6gおよびメチルメタアクリレート32.3gからなる混合物を…滴下した。さらに…pHを7に調整し共重合体エマルジョンを得た。この共重合体のシリコーン分含有量は30%であった。」(第3頁右上欄3〜21行)

(4)刊行物4(甲第4号証(プラスチック材料講座[9]けい素樹脂)の記載事項
テ.「3.5 酸触媒による環状ジメチルシロキサンの重合
酸触媒による環状ジメチルシロキサンの重合は、常温または低温で進行するが、酸触媒としては硫酸、塩酸、硝酸、りん酸、酸性白土、塩化鉄、ほう酸、トリフルオロ酢酸、無水の酸と塩化物の組合せなどが有効であり、反応性は酸の種類と濃度によって異なる。…酸触媒による反応はシロキサン結合中の酸素原子に酸のプロトンが配位し、この活性錯化合物が開裂してシラノール基とシリルエステル基…を生成する。ついで生成した異種分子間のシラノール基とシリルエステル基…との間に縮合反応が起こり、この反応を繰返して逐次高分子量のシロキサンポリマーが生成していく。…つぎのシラノール相互間の縮合機構を提示している。…
…Si(-)2-O-S(=O)2-OH + HOH
→ …Si(-)2-OH + H2SO4 (化学反応式は表記法を変形して表記した) …」(34〜35頁)

4.対比・判断
本件請求項1に係る発明(以下、「本件発明」という。)は、ジオルガノポリシロキサンエマルジョンを調製する工程(以下、「本件工程1」という。)、アクリル酸エステル系モノマーをジオルガノポリシロキサンエマルジョンに加えてラジカル開始剤の存在下で共重合する工程(以下、「本件工程2」という。)、コロイド状シリカと縮合反応促進触媒を混合する工程(以下、「本件工程3」という。)、pHを9〜12に調整後、15〜50℃で熟成させる工程(以下、「本件工程4」という。)からなる、水が蒸発した後エラストマー状に硬化する(以下、「本件硬化性能」という。)ジオルガノポリシロキサン/アクリル酸エステル系共重合体エマルジョンの製造方法である。

一方、刊行物1に記載される塗材(摘記事項「ア」参照)の製造法は、「(a)成分のポリオルガノシロキサン系グラフト共重合体エマルジョンを調製した後、(c)成分のコロイダルシリカと(d)成分の硬化用触媒を混合する」(以下、(c)(d)を混合する工程を「刊行物1工程3」という。)もので(摘記事項「タ」参照)、さらに、上記(a)成分のポリオルガノシロキサン系グラフト共重合体エマルジョンの調製方法は、「トリアルコキシシラン、水、グラフト交叉剤シラン又はシロキサン及び環状オルガノシロキサンをアニオン系乳化剤を使用して乳化した後、従来公知の開環重合触媒を添加して加熱下で開環重合し水性エマルジョンを得」(摘記事項「ウ」参照)(以下、「刊行物1工程1」という。)、次に、「得られた水性エマルジョンにラジカル重合触媒の存在下、アクリル酸エステル等の不飽和ビニルモノマーを添加し、加熱下に重合し、オルガノシロキサン系グラフト共重合体エマルジョンを調製する」(摘記事項「ウ」参照)(以下、「刊行物1工程2」という。)ものである。
しかも、刊行物1の塗材は、「1液硬化のエマルジョン型であり、塗装後水分の除去に伴い、エラストマーへ硬化して塗膜を形成する」(摘記事項「イ」参照)(以下、「刊行物1硬化性能」という。)ものである。

したがって、本件発明のジオルガノポリシロキサン/アクリル酸エステル系共重合体エマルジョンの製造方法は4工程からなるのに対し、刊行物1に記載される塗材の製造方法は3工程からなるエマルジョンの製造方法である。
ここで、本件発明のジオルガノポリシロキサン/アクリル酸エステル系共重合体エマルジョンの製造方法と刊行物1に記載される塗材の製造方法とを上記の工程ごとに対比する。

(i)本件工程1と刊行物1工程1を対比する。
本件工程1で調製されるジオルガノポリシロキサンエマルジョンは、(a)1分子中に2個以上のケイ素原子結合アルケニル基を有し、分子鎖末端が水酸基で封鎖されたジオルガノポリシロキサンと、(b)水と、(c)乳化剤とを特定の配合比率で配合したジオルガノポリシロキサンエマルジョンである。
一方、刊行物1に記載される刊行物1工程1で調製される水性エマルジョン(以下、「ポリオルガノシロキサンエマルジョン」という。)の構成成分であるポリオルガノシロキサンは、「R1nSiO(4-n)/2 (式中、R1は水素原子、メチル基、エチル基、プロピル基又はフェニル基、nは0,1又は2の数を示す。)で示されるものを好適に使用することができる。」(摘記事項「チ」参照)と記載され、更に具体的に「例えば」と前置きした上で、「トリアルコキシシラン、水、グラフト交叉剤シラン又はシロキサン及び環状オルガノシロキサンをアニオン系乳化剤を使用して乳化した後、従来公知の開環重合触媒を添加して加熱下で開環重合して得る(その際アニオン系乳化剤と開環重合触媒を兼ねた乳化重合触媒とすることもできる)もの」(摘記事項「ウ」参照)との旨の記載がされ、また、グラフト交叉剤シラン又はシロキサンとしては、ビニルシロキサンを好適に用いることができ(摘記事項「ウ」参照)、さらに、環状オルガノシロキサン、乳化重合触媒としては、「ヘキサメチルトリシクロシロキサン、オクタメチルテトラシクロシロキサン、デカメチルペンタシクロシロキサン」「ラウリル硫酸ナトリウム、ドデシルベンゼンスルホン酸」が例示されている(摘記事項「ス」参照)。
実施例1には、トリアルコキシシラン、グラフト交叉剤の合計に対して10倍量以上の環状ジオルガノシロキサンを配合した組成のものが採用(摘記事項「オ」参照)されている。
すると、刊行物1記載のポリオルガノシロキサンエマルジョンがグラフト交叉剤シラン又はシロキサンとしてビニルシロキサンを好適に用いることから、刊行物1記載のポリオルガノシロキサンエマルジョン中のポリマーは「分子中にケイ素原子結合アルケニル基を有する」ことは明らかである。
また、刊行物1記載のポリオルガノシロキサンエマルジョン中のポリマーが、「ヘキサメチルトリシクロシロキサン、オクタメチルテトラシクロシロキサン、デカメチルペンタシクロシロキサン」等の環状ジオルガノシロキサンから、乳化重合触媒として「ラウリル硫酸ナトリウム、ドデシルベンゼンスルホン酸」等のアニオン系乳化触媒で開環重合して調製されていることから、刊行物1記載のポリオルガノシロキサンエマルジョン中のポリマーには、ジオルガノシロキサン単位が形成されていることは明らかであるが、刊行物1は、ジオルガノポリシロキサンに特定されているものではない。
なお、環状ジオルガノシロキサンがアニオン系乳化触媒により開環して、ジオルガノシロキサン単位を形成することは、刊行物2の、ジメチルポリシロキサン、メチルフェニルポリシロキサン、メチルビニルポリシロキサン等のジオルガノポリシロキサンと言い得るオルガノポリシロキサンを環状シロキサンの開環重合により得るという旨の記載(摘記事項「ク」参照)や、あるいは、刊行物3のオルガノポリシロキサン中のジオルガノシロキサン単位をテトラメチルテトラビニルシクロテトラシロキサン、オクタメチルシクロテトラシロキサンのラウリルスルホン酸ナトリウム(アニオン乳化剤)から重合して形成するという旨の記載(摘記事項「コ」、「サ」参照)にも見られるように公知の技術事項である。
また、上記したように、刊行物1のポリオルガノシロキサンエマルジョンは、トリアルコキシシラン、水、グラフト交叉剤シラン又はシロキサン及び環状オルガノシロキサンをアニオン系乳化剤を使用して乳化した後、従来公知の開環重合触媒を添加して加熱下で開環重合(アニオン系乳化剤と開環重合触媒を兼ねた乳化重合触媒とすることもできる)して水性エマルジョンとして得られるものであるが(摘記事項「ウ」参照)、ポリオルガノシロキサンエマルジョン中のポリマーの分子鎖末端が水酸基で封鎖されているか否かについて記載はない。
しかし、刊行物2には「分子両末端がヒドロキシ基で封鎖された・・・このようなオルガノポリシロキサンは、例えば環状シロキサンを開環重合させる方法により合成される。」と記載(摘記事項「ク」参照)され、あるいは、刊行物4には環状ジメチルシロキサンの開環重合により分子末端に水酸基が生成するという反応模式図が記載されている(摘記事項「テ」参照)。
これら記載を刊行物1のポリオルガノシロキサンが環状オルガノシロキサンを開環重合して得ていることに照らし合わせて考えると、刊行物1のポリオルガノシロキサンエマルジョン中のポリマーの分子鎖末端が水酸基で封鎖されていることは明らかである。

したがって、本件発明の「(a)1分子中に2個以上のケイ素原子結合アルケニル基を有し、分子鎖末端が水酸基で封鎖されたジオルガノポリシロキサン」と、刊行物1のポリオルガノシロキサンエマルジョン中のポリマーは、「ケイ素原子結合アルケニル基を有し、分子鎖末端が水酸基で封鎖されたオルガノポリシロキサン」で一致し、本件発明の「ケイ素原子結合アルケニル基を有し、分子鎖末端が水酸基で封鎖されたジオルガノポリシロキサン」が、1分子中に2個以上のケイ素原子結合アルケニル基を有するものであるのに対し、刊行物1の「ケイ素原子結合アルケニル基を有し、分子鎖末端が水酸基で封鎖されたオルガノポリシロキサン」は、1分子中にケイ素原子結合アルケニル基が何個有るのか特定されていない点、及び、本件発明がジオルガノポリシロキサンであるのに対し、刊行物1のポリオルガノシロキサンはジオルガノポリシロキサンに特定されていない点で相違する。
なお、本件発明のジオルガノポリシロキサンエマルジョン中に含有されるジオルガノポリシロキサンと水と乳化剤の含有比率は、刊行物1に記載されるポリオルガノシロキサンエマルジョン中のポリマーと水と乳化剤の含有比率と重複するので、両者に含有比率の点で相違はない。
したがって、本件発明のジオルガノポリシロキサンエマルジョンと、刊行物1に記載されるポリオルガノシロキサンエマルジョンとは、そのエマルジョン中に含有される「ケイ素原子結合アルケニル基を有し、分子鎖末端が水酸基で封鎖されたオルガノポリシロキサン」が、本件発明では、1分子中に2個以上のケイ素原子結合アルケニル基を有するのに対し、刊行物1では何個有るのか特定されていない点で相違し(以下、「相違点1」という)、また、本件発明はジオルガノポリシロキサンであるのに対し、刊行物1はジオルガノポリシロキサンに特定されていない点で相違する(以下、「相違点2」という)ものである。

(ii)次に、本件工程2と刊行物1工程2を比較する。
刊行物1には、(i)の項で明らかなように、「ケイ素原子結合アルケニル基を有し、分子鎖末端が水酸基で封鎖されたオルガノポリシロキサン」と水と乳化剤を含有するオルガノポリシロキサンエマルジョンに、ラジカル重合触媒の存在下、アクリル酸エステル等の不飽和ビニルモノマーを添加し、共重合してオルガノポリシロキサン系グラフト共重合体エマルジョンを調製する旨のことが記載されている。(摘記事項「ウ」参照)
また、「ケイ素原子結合アルケニル基を有し、分子鎖末端が水酸基で封鎖されたオルガノポリシロキサン」といい得るポリオルガノシロキサンに対し不飽和ビニルモノマーが10〜90重量%グラフト共重合するものである。(摘記事項「ア」参照)
したがって、刊行物1の上記グラフト共重合割合は、本件発明におけるジオルガノポリシロキサンエマルジョンに対するアクリル酸エステル系モノマーの配合割合と重複するものであるから、本件工程2と刊行物1工程2とは、「ケイ素原子結合アルケニル基を有し、分子鎖末端が水酸基で封鎖されたオルガノポリシロキサン」と水と乳化剤を含有するオルガノポリシロキサンエマルジョンに、ラジカル開始剤の存在下で不飽和ビニルモノマーを加えて共重合する点で一致し、不飽和ビニルモノマーが、本件発明ではアクリル酸エステル系モノマーに特定されているのに対し、刊行物1では特定されていない点で相違する(以下、「相違点3」という)。

(iii)本件工程3と刊行物1工程3を比較する。
本件発明の「コロイド状シリカ」に、刊行物1の「コロイダルシリカ」は相当する。
また、刊行物1には、(d)成分の硬化用触媒は、本発明の塗材を硬化させるためのもので、硬化用触媒としては、例えばジブチルすずジラウレート、ジブチルすずジアセテート、ラウリン酸すず、テトラブチルチタネート等の有機酸の金属塩、n-ヘキシルアミン、グアニジンを用いることができる旨のことが記載されている。(摘記事項「エ」参照)
そして、本件発明の(D)縮合反応促進触媒と、刊行物1の(d)硬化用触媒とは、表記上異なるが、両者とも触媒により反応促進されるエマルジョン及び塗材の成分の有する反応性の官能基が同じであること、および、両者の触媒具体例中のジブチルすずジラウレート、ジブチルすずジアセテート、ラウリン酸すず、有機酸の金属塩、n-ヘキシルアミン、グアニジンが共通しているように、具体例の中に共通のものが多いことから、両者の触媒は表記上異なっていても、同様の反応の促進をする触媒で、本件発明の(D)縮合反応促進触媒に刊行物1の(d)硬化用触媒は相当する。
また、コロイド状シリカ、コロイダルシリカ、縮合反応促進触媒、硬化用触媒の使用割合は、本件発明と刊行物1とで、数値範囲の臨界値にずれはあるものの、数値範囲に重複する部分がある。
したがって、本件工程3と刊行物1工程3の混合工程とには、相違する点はない。

(iv)本件工程3の混合工程後と刊行物1工程3の混合工程後とを比較する。
刊行物1には、刊行物1工程3により得られた「(a)成分のポリオルガノシロキサン系グラフト共重合体エマルジョンの調製後に、(c)成分のコロイダルシリカと(d)成分の硬化用触媒を混合して得たエマルジョン」のpHを特定の数値範囲になるように調整することも、さらに、pH調整後に特定の温度条件で熟成することも記載されていない。
なお、刊行物1には、pHに関して、その実施例1に、刊行物1工程3により得られたエマルジョン組成物(III)のpHが「6.2であった」と記載されているが(摘記事項「オ」参照)、この記載にpHを特定の範囲になるように調整する技術思想が示唆されているものとは解されないこと、また、本件発明で規定している数値範囲の9〜12に包含される数値でもないことから、刊行物1には、上記したように、pHを特定の数値範囲になるように調整することも、さらに、pH調整後に特定の温度条件で熟成することも記載されていない。
したがって、本件発明では、本件工程4の熟成工程があるのに対し、刊行物1にはこれに相当する工程が記載されていない点で相違する(以下、「相違点4」という)。

(v)本件発明硬化性能と刊行物1硬化性能を比較する。
本件発明の「水が蒸発した後エラストマー状に硬化する」は、刊行物1の「塗装後水分の除去に伴い、エラストマーへ硬化し」(摘記事項「イ」参照)に相当する。

以上(i)〜(v)により、本件発明と刊行物1に記載される発明とは、上記(i)で述べた相違点1、相違点2、及び、(ii)で述べた相違点3、(iv)で述べた相違点4で相違する。

以下、上記相違点1〜相違点4について検討する。
相違点1について
刊行物1のポリオルガノシロキサンが1分子中にケイ素原子結合アルケニル基を何個有するかを、刊行物1の実施例1のポリオルガノシロキサン系グラフト共重合体の分子量が10000と仮定(摘記事項「ソ」参照)して、ポリオルガノシロキサン系グラフト共重合体を製造するために仕込んだ原料の割合から計算[10000×100/(100+25) × 44/(500+1.8+44)× 1/166=3.9]してみると、ポリオルガノシロキサン1分子中に3.9個のグラフト交叉剤シランが重合されていると算出される。
一方、本件発明は、分子中へのケイ素原子結合アルケニル基の導入の仕方について特に特定されているものでなく、刊行物1同様にジオルガノシロキサンを重合するときに仕込む原料中へのアルケニル基を有する原料の割合で調節しているものと考えられる。
したがって、本件発明のジオルガノシロキサンへの共重合開始点の導入に当たって、刊行物1の実施例のアルケニル基の個数3.9を参考に、1分子中のアルケニル基の個数を2個以上と特定してみることは当業者が容易に設定し得る数値の特定である。

相違点3について
本件発明は、アクリル酸エステル系モノマーに特定されていてその具体的化合物として、本件特許明細書段落【0010】に、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチルをはじめ、数種類のその他アクリル酸エステル、メタクリル酸エステル名が記載され、それらが主成分であれば、これに少量のアクリル酸、メタアクリル酸、スチレン、α-メチルスチレン、その他数種の不飽和ビニルモノマーを加えてよいことが記載されている。
一方、刊行物1においても不飽和ビニルモノマーの中で(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸エステルを好適に用いると記載され(摘記事項「シ」参照)、また、刊行物1にポリオルガノポリシロキサンに対するグラフト共重合量に関して「グラフト共重合量が10重量%に達しないと、・・・塗膜は汚れ付着が大きくなり、タック感が生じる」と記載(摘記事項「セ」参照)されているように、グラフト共重合部分が塗膜の汚れ付着を小さくし、タック感を抑制しているものであることから、本件発明においても皮膜のべたつきのない防汚性に優れたコーティング材を得るべく、刊行物1に記載されるビニルモノマーの中からさらに汚れ付着やタック感の少ない重合体を形成するモノマーを選択してみることは容易に着想し得ることであり、その際これらの物性に密接に関係するガラス転移点の高い(メタ)アクリル酸エステルを選択してみることも当業者が容易に着想し得ることである(なお、この点必要なら高分子学会編 高分子材料便覧 コロナ社 昭和48年2月20日発行 1076〜1077頁のc)塗膜の不粘着性(iii)熱軟化・湿気感受性の項、1275〜1279頁の高分子材料のガラス転移点参照)。

相違点2、相違点4について
本件発明は、本件特許明細書段落【0003】の記載、及び、表1〜5中の項目によれば、本件発明の製造方法で製造されたエマルジョンの水が蒸発した後エラストマー状に硬化した被膜の、常温での強度、伸び、屈曲性(柔軟性)のみならず、-20℃での強度、伸び、屈曲性に加え、さらに防汚性にも優れたものを得ることを課題とし、オルガノポリシロキサンの中のジオルガノポリシロキサンを特定し、また、工程3の混合工程後に、特定のpH、及び、温度下に熟成する工程4を付加するもので、本件特許明細書段落【0014】には、本件工程4により、エマルジョン中で十分架橋を促進させ単に水分を蒸発させるのみで、堅固な被膜を形成させるようにすることができる旨のこと、及び、段落【0015】には、室温において保存安定性に優れ、水分の除去により室温で容易に硬化してエラストマー状になる旨のことも記載されている。
これに対する刊行物1のポリオルガノシロキサンは、ジオルガノポリシロキサンを排除しているものでなく、また、刊行物1は、塗材から形成された塗膜等の強度、伸び率、特に低温での伸び、耐汚染性を向上しようとするもので、これら課題は、本件発明の上記した課題の一部と共通するものである。
しかし、刊行物1では、常温、及び、低温下での屈曲性を向上することを課題にはしていない。また、ジオルガノポリシロキサンに特定し、あるいは、特定のpH、及び、温度下で熟成する工程を付加することにより、常温、及び、低温下での屈曲性を向上できることは、刊行物1のみならず、刊行物2〜4にも記載されておらず、また、自明のことでもない。
なお、刊行物2には、「pHを9〜12に調整し、室温で水分を除去した際にエラストマ-状物質を形成するような期間熟成させる」記載はあるが(摘記事項「カ」参照)、熟成の目的については「充分に熟成が行われないと(F)成分を添加した際にゲル化を発生することがある。」(摘記事項「ツ」参照)と記載されるのみで、それにより、常温及び低温時の伸びや屈曲性(柔軟性)が向上できる旨のことは記載されていない(摘記事項「キ」参照)。
以上のとおりであるから、常温での強度、伸び、屈曲性のみならず、-20℃での強度、伸び、屈曲性に加え、さらに防汚性にも優れたものを得るために、刊行物1のポリオルガノシロキサンをジオルガノポリシロキサンに特定してみることも、また、特定のpH、及び、温度下で熟成する工程を付加することも、刊行物1〜4に記載される事項に基づいて当業者が容易に着想し得たものとは認められない。

本件発明の効果について
本件特許明細書段落【0013】に、本件発明の(A)成分と(B)成分からなる共重合体と(C)成分のコロイド状シリカが、(D)縮合反応促進触媒の併用によって縮合反応する旨のことが記載されている。
該事項は、刊行物2にも記載(摘記事項「カ」、「ケ」参照)されることである。
ところで、本件【実施例1】の本発明は、(D)縮合反応促進触媒を配合し、pHを9.5(平成14年11月5日付の特許異議意見書に添付して特許権者が提出した、平成14年11月5日付の報告者東レ・ダウコーニング・シリコーン株式会社主任研究員 長縄努の実験結果報告書(1)の記載による)に調整後45±3℃で1週間熟成させることにより、本件発明の(A)成分と(B)成分からなる共重合体と(C)成分のコロイド状シリカの縮合反応が促進し、(D)縮合反応促進触媒を配合しない本件【実施例1】の比較例3と比較して、常温及び低温時の伸びや屈曲性が格段に優れたものとなっている。
同様のことは、本件【実施例2】の本発明と比較例とを比較すると、(D)縮合反応促進触媒を配合し、pHを9.7(上記実験結果報告書(1)の記載による)に調整後25℃で2週間熟成させることにより、本件発明の(A)成分と(B)成分からなる共重合体と(C)成分のコロイダルシリカの縮合反応が促進し、コロイダルシリカとの反応性を有する水酸基で分子鎖末端が封鎖されていないジオルガノポリシロキサンを使用した【実施例2】の比較例と比較して、常温及び低温時の伸びや屈曲性が格段に優れたものとなっていることからも確認できる。
しかし、本件発明の効果である「常温及び低温時の伸びや屈曲性」は、上記縮合反応の促進により自ずと向上する性能ではない。
従って、本件発明の、常温及び低温のいずれにおいても優れた強度、伸び、屈曲性(柔軟性)を有し、さらに、防汚性も有するという性能は、刊行物2の、(A)ヒドロキシル基を少なくとも2個有するオルガノポリシロキサンと(B)コロイドシリカとが(C)硬化触媒により縮合するという旨の記載からも、また、刊行物1〜4の記載を勘案することによっても予測できるものでない。

上記のとおり、相違点1、相違点3は当業者が容易に着想しえるものであっても、相違点2、相違点4については、当業者が容易に着想しえるものではなく、また、本件発明は予測せざる効果が奏されているものである。
したがって、本件発明は上記刊行物1〜4に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

5.むすび
以上のとおりであるから、取消理由通知及び特許異議申立ての理由及び証拠によっては本件請求項1に係る発明の特許を取り消すことはできない。
また、他に本件請求項1に係る発明の特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
ジオルガノポリシロキサン/アクリル酸エステル系共重合体エマルジョンの製造方法
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】 (A)(a)1分子中に2個以上のケイ素原子結合アルケニル基を有し、分子鎖末端が水酸基で封鎖されたジオルガノポリシロキサン100重量部、(b)水50〜1,000重量部および(c)乳化剤1〜50重量部からなるジオルガノポリシロキサンエマルジョンを調製した後、(B)アクリル酸エステル系モノマーを(A)成分100重量部に対して1〜100重量部となる量加えてラジカル開始剤の存在下で共重合した後、該共重合体100重量部に、(C)コロイド状シリカ1〜100重量部と(D)縮合反応促進触媒0.001〜1.5重量部を加えて混合し、pHを9〜12に調整後、15〜50℃で熟成させることを特徴とする、水が蒸発した後エラストマー状に硬化するジオルガノポリシロキサン/アクリル酸エステル系共重合体エマルジョンの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】
本発明は水が蒸発した後、堅固で柔軟であり、汚れの少ない硬化皮膜を形成するジオルガノポリシロキサン/アクリル酸エステル系共重合体エマルジョンの製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来、アクリル酸エステル系重合体は、皮膜形成性,耐候性,耐油性や防汚性が良好であるため、塗料や繊維のコーティング剤などとして広く使用されてきている。しかし、透湿性や撥水性が悪いため、特に、コンクリート、ALC等建物の外壁材の塗料として用いた場合、水分の浸透のためひび割れが発生したり、外壁材の吸水と伸縮による張り合わせ目地の亀裂や変形が発生したり、透湿性がないために結露が発生するといった欠点があった。また、これらを布のコーティング剤として用いた場合、-30℃や-40℃の極低温では屈曲によるひび割れが発生するという欠点もあった。そのため、このような欠点を改良したコーティング剤としてジオルガノポリシロキサン/アクリル酸エステル系共重合体エマルジョン組成物が提案されている(特公昭52-12231号公報,特公昭54-5007号公報,特開平1-168972号公報参照)。しかし、これらのエマルジョン組成物も、皮膜強度が弱く、極低温では屈曲によるひび割れが発生するという問題点を有していた。
【0003】
【本発明が解決しようとする問題点】
本発明は、上記した問題点を解消するため鋭意検討した結果本発明に到達した。
即ち、本発明の目的は水が蒸発した後、極低温でもひび割れせずに柔軟であり、皮膜の強度も大きく、汚れの少ない硬化皮膜となり得るジオルガノポリシロキサン/アクリル酸エステル系共重合体エマルジョンを生産性よく製造する方法を提供することにある。
【0004】
【課題を解決するための手段およびその作用】
上記した目的は、
(A)(a)1分子中に2個以上のケイ素原子結合アルケニル基を有し、分子鎖末端が水酸基で封鎖されたジオルガノポリシロキサン100重量部、(b)水50〜1,000重量部および(c)乳化剤1〜50重量部からなるジオルガノポリシロキサンエマルジョンを調製した後、(B)アクリル酸エステル系モノマーを(A)成分100重量部に対して1〜100重量部となる量加えてラジカル開始剤の存在下で共重合した後、該共重合体100重量部に、(C)コロイド状シリカ1〜100重量部と(D)縮合反応促進触媒0.001〜1.5重量部を加えて混合し、pHを9〜12に調整後、15〜50℃で熟成させることを特徴とする、水が蒸発した後エラストマー状に硬化するジオルガノポリシロキサン/アクリル酸エステル系共重合体エマルジョンの製造方法により達成される。
【0005】
これを説明すると、本発明に使用される(A)成分のジオルガノポリシロキサンエマルジョンは、本発明の製造方法により得られる共重合体エマルジョンの主剤となるものであり、(a)1分子中に2個以上のケイ素原子結合アルケニル基を有し、分子鎖末端が水酸基で封鎖されたジオルガノポリシロキサン、(b)水および(c)乳化剤からなる。ここで、(a)成分のジオルガノポリシロキサンは、(D)成分と縮合反応して主鎖がソフトセグメントのみで構成された高重合度の網状ポリマを形成する。そのためには、両末端が水酸基で封鎖されていなければならない。また(B)成分とラジカル共重合し、堅固で柔軟な皮膜を形成するためには、1分子中に2個以上のアルケニル基を含有する必要がある。このアルケニル基としてはビニル基,アリル基,ヘキセニル基が例示され、このうち好ましくはビニル基である。これ以外のけい素原子に結合する有機基としてはメチル基,エチル基,ブチル基,ヘキシル基,オクチル基などのアルキル基、フェニル基等のアリール基、3,3,3-トリフルオロプロピル基のような置換炭化水素基が例示され、このうち好ましくはメチル基である。このジオルガノポリシロキサンの分子構造は直鎖状である。また、その粘度は、通常、25℃において50〜1,000,000センチストークスの範囲であり、100〜500,000センチストークスの範囲が好ましい。
【0006】
このようなジオルガノポリシロキサンの具体例としては、分子両末端がシラノール基で封鎖されたメチルビニルポリシロキサンあるいはジメチルシロキサンとメチルビニルシロキサンの共重合体等を挙げることができる。このようなジオルガノポリシロキサンは、例えば、環状ジオルガノポリシロキサンを開環重合させる方法、アルコキシ基,アシロキシ基等の加水分解可能な基を有する直鎖状ジオルガノポリシロキサンを加水分解縮合する方法、ジオルガノジハロゲノシランの一種もしくは二種以上を加水分解する方法等により合成することができる。
【0007】
(b)成分の水は、(A)成分〜(D)成分を乳化させて水性エマルジョンを調製するのに十分な量であればよく、50〜1,000重量部の範囲であり、好ましい範囲は100〜500重量部の範囲である。
【0008】
(c)成分の乳化剤は、主として(a)成分のジオルガノポリシロキサンを乳化させるためのものであり、アニオン系乳化剤、非イオン系乳化剤がある。アニオン系乳化剤としては、例えば、高級脂肪酸塩類,高級アルコール硫酸エステル塩類,アルキルベンゼンスルホン酸塩類,アルキルナフタレンスルホン酸塩類,アルキルホスホン類,ポリエチレングリコール硫酸エステル塩類を挙げることができる。また、非イオン系乳化剤としては、例えばポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル類,ソルビタン脂肪酸エステル類,ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル類,ポリオキシアルキレン脂肪酸エステル類,ポリオキシエチレンポリオキシプロピレン類,脂肪酸モノグリセライド類を挙げることができる。これらの乳化剤は1種または2種以上を併用して使用することができる。この乳化剤の使用量は、(a)成分100重量部に対して、1〜50重量部の範囲であり、2〜30重量部の範囲が好ましい。
【0009】
(A)成分のジオルガノポリシロキサンのエマルジョンは、例えば、オクタメチルシクロテトラシロキサンとメチル基とビニル基を有する環状のジオルガノシロキサンを、例えば、ドデシルベンゼンスルホン酸等のアニオン系乳化剤を用いホモゲナイザー等の乳化機により乳化させ、70〜90℃の加熱下で開環させ、次いで20〜40℃の低温で重合させることによって、側鎖にビニル基を有し分子鎖両末端が水酸基で封鎖されたジオルガノポリシロキサンのエマルジョンとして得ることができる。このようにして(A)成分のエマルジョンを調製した後、80〜85℃に加熱してラジカル重合開始剤を滴下し、攪拌しながら(B)成分のアクリル酸エステル系モノマーを添加し、5〜8時間重合すれば目的のジオルガノポリシロキサン/アクリル酸エステル系共重合体が得られる。これに使用されるラジカル重合開始剤としては過硫酸アンモニウム,過硫酸カリウム,過酸化水素,アゾビスイソブチルロニトリル,ジブチルパーオキサイド,ベンゾイルパーオキサイドが例示される。
【0010】
(B)成分のアクリル酸エステル系モノマーとしては、アクリル酸メチル,アクリル酸エチル,アクリル酸ブチル,アクリル酸オクチル,メタクリル酸メチル,メタクリル酸エチル,メタクリル酸プロピル,メタクリル酸ブチル,メタクリル酸オクチル,メタクリル酸2-エチルヘキシル,メタクリル酸ヒドロキシエチルが挙げられる。なお、アクリル酸エステル系モノマーとしては上記に例示したものが主成分であればよく、これに少量のアクリル酸,メタクリル酸,アクリルアミド,アクリロニトリル,塩化ビニル,スチレン,α-メチルスチレン,酢酸ビニル,ビニルトリアルコキシシラン,ビニルトリアセトキシシラン,γ-メタクリルロキシプロピルトリメトキシシラン等を加えても本発明の目的を損わない限り差し支えない。
【0011】
(B)成分の添加量は(A)成分100重量部に対し、1〜100重量部の範囲であり、5〜50重量部の範囲が好ましい。
【0012】
(C)成分のコロイド状シリカは架橋剤であり、このようなコロイド状シリカとしては、煙霧状コロイドシリカ,沈澱コロイドシリカ,ナトリウムあるいはアンモニウムもしくはアルミニウムで安定化した粒径0.0001〜0.1μmのコロイドシリカを挙げることができる。コロイド状シリカの配合量は、(A)成分と(B)成分の共重合体100重量部に対して1〜100重量部であり、2〜50重量部が好ましく、5〜30重量部がより好ましい。
【0013】
(D)成分の縮合反応促進触媒は、(A)成分と(B)成分からなる共重合体と(C)成分のコロイド状シリカの縮合反応を促進するものであり、例えば、ジブチル錫ジラウレート,ジブチル錫ジアセテート,ジブチル錫ジオクテート,ラウリン酸錫,オクテン酸亜鉛などの有機酸金属塩,テトラブチルチタネート,テトラプロピルチタネート,ジブトキシチタンビス(エチルアセトアセテート)などのチタン酸エステル,n-ヘキシルアミン,グアニジンなどのアミン化合物またはこれらの塩酸類等を挙げることができる。尚、これらの縮合反応促進触媒は予め通常の方法により乳化剤と水を使用してエマルジョンにしておくことが好ましい。この添加量は、(A)成分と(B)成分の共重合体100重量部に対して0.001〜1.5重量部であり、0.05〜1重量部が好ましい。
【0014】
本発明の製造方法においては、エマルジョン中で十分架橋を促進させ、単に水分を蒸発させるのみで、堅固な皮膜を形成させるようにするため、最後にエマルジョンはpHを9〜12に調整後、熟成させる。pHの調整剤としては、例えば、ジメチルアミン,エチレンジアミン等のアミン類,あるいは水酸化ナトリウム,水酸化カリウム等のアルカリ金属水酸化物を用いることができる。好ましい調節剤は有機アミンである。有機アミンの例としては上記の他にモノエタノールアミン,トリエタノールアミン,モルホリン,2-アミノ-2-メチル-1-プロパノールがある。そしてこのようにpHを調節した後、一定温度で一定期間熟成する。熟成温度は15〜50℃である。熟成期間は熟成温度に応じて設定される。例えば25℃の温度条件では1週間以上、40℃の温度条件下では4日以上が好ましい。
【0015】
このようにして得られたジオルガノポリシロキサン/アクリル酸エステル系共重合体エマルジョンは、室温において保存安定性に優れ、水分の除去により室温で容易に硬化してエラストマー状になるものである。
【0016】
また本発明で製造したジオルガノポリシロキサン/アクリル酸エステル系共重合体エマルジョンには、例えば、カルボキシメチルセルロース,メチルセルロース,ヒドロキシエチルセルロース,ポリビニルアルコール,ポリアクリル酸などの増粘剤,充填剤,顔料,染料,耐熱剤,防腐剤,アンモニア水等の浸透剤等を適宜添加配合してもよい。
【0017】
【実施例】
次に、本発明を実施例によって説明する。実施例中、部とあるのは重量部を意味し、%とあるのは重量パーセントを意味し、cstはセンチストークスを表す。なお、皮膜の作製および種々の特性の評価は次の方法に従った。
(1)皮膜の作製
ジオルガノポリシロキサン/アクリル酸エステル系共重合体エマルジョン30gを、ポリテトラフロルエチレンシートを敷いた15×11×0.5cmのアルミニウム製型枠に流し込み、約2.5℃の室温に3日間放置して皮膜を作製した。
(2)皮膜の物理的性質の測定
ダンベル型3763-6Wを用い試験片を作製し、東洋ボルドウエン社製テンシロンUTM-1-2500SLを用いて、25℃および-20℃の2条件下で1-2500SL50cm/分の引張り速度で、引張強さ(kgf/cm2)および伸び(%)を測定した。
(3)皮膜の屈曲テスト
田葉井(株)社製ミニサブゼロMC-71型機を使い、-30℃に設定した機内に4×2cmの大きさ(上の条件で作製,厚さは約0.8mm)の試験片を2時間放置後、ピンセットで片末端を固定し、もう一方の片末端を持ち上げて、折り曲げ試験を実施し次のように判定した。
◎ 全く変化しない
× 1回で切断
△ 約10回の屈曲で切断
(4)皮膜の防汚性
流動パラフィン98部にアセチレンブラック2gを均一に分散させた。得られた混合物40部に、ポリオキシエチレン(6モル)ノニルクエノールエーテル3部、ポリオキシエチレン(12モル)のノニエルクエールエーテル2部を加え均一に攪拌後、水55部を加え、ホモミキサー型乳化機を用いて乳化分散させて汚れ液を調製した。この汚れ液を100倍の水に希釈し、この希釈した汚れ液に5×5cm(厚さは約0.8mm)の皮膜を7日間浸漬した。引上後、清浄なガーゼに水を含ませてふき取った。その後、白い炉紙の上に乗せ、汚れ程度をJISL-0805汚染用グレースケールで汚れの程度を観察し、5段階の評価をした。
(5)皮膜の屋外暴露
10×10×3cmの大きさのALCの表面にエマルジョンを原液で刷毛塗りし、そのまま、千葉県市原市の工場地帯の屋根下に6カ月間吊した後、これに流水を吹きかけ、次いで乾燥した。このALCと屋外暴露をしていないALCとを対比して、その差をJISL-0805汚染用グレースケールで汚れの程度を観察し、5段階の評価をした。
(6)皮膜のべたつき
上記(1)で作製した皮膜の指先による感触感を次のように判定した。
◎ さらっとしておりべたつきなし
△ べたつきが少しあり
× べたつき大
【0018】
【実施例1】
ジメチルサイクリックス40部とメチルビニルサイクリックス4部の混合物にドデシルベンゼンスルホン酸2部と水53.64部を加え、攪拌機で30分間均一に混合後、ホモジナイザー型乳化機を用い、350kg/cm2の圧力下で2回パスさせて均一なエマルジョンを調製した。次いで、85〜90℃で2時間保持後、20〜30℃に冷却し3時間重合した。炭酸ナトリウム0.36部を加えて中和し、ベースとなるジメチルシロキサン・メチルビニルシロキサン共重合体(ベースエマルジョンA:抽出したジオルガノポリシロキサンの粘度は105,000センチストークスであった。)を調製した。次いで、ベースエマルジョンA90部にメタクリル酸メチル4部を加え、30分間攪拌して均一にメタクリル酸メチルを分散させた。次いで、これを3つ口フラスコに移液し、予め水5.8部に0.2部の過硫酸カリウムを溶解しておいた水溶液を添加し、この反応系を窒素ガスで置換した。しかる後、70〜80℃に昇温しこの温度で3時間保持して、ベースエマルジョンA中のジメチルシロキサン・メチルビニルシロキサン共重合体とメタクリル酸メチルを共重合させた(エマルジョンA-1)。なお、このエマルジョンをガラス板に一滴落として乾燥すると完全な透明フィルムとなり、ジメチルシロキサン・メチルビニルシロキサン共重合体とメタクリル酸メチルは均一に共重合されていることが確認された。このベースエマルジョンA-1の85.0部にコロイダルシリカ15部、pH調整剤としてジエチルアミン0.2部,ジブチル錫ジラウレートの50%エマルジョン0.3部を加え、均一に溶解分散後、45±3℃で1週間熟成させて、ジメチルポリシロキサン/メタクリル酸メチル共重合体エマルジョン(エマルジョンA-2)を得た。先に記した皮膜の製作方法に準じて皮膜を調製して、皮膜の物理的性質,皮膜の屈曲テスト,皮膜の防汚性およびALCにコーティングした皮膜の屋外暴露テストを実施した。これらの結果を表1に示した。比較例として、次のものを用いた。
【0019】
【比較例1】
実施例1において、エマルジョンA-1の替わりにベースエマルジョンAそのものを使用した以外は実施例1と同様にしてジメチルシロキサン・メチノレビニルシロキサン共重合体エマルジョン(シリコーンウオーターベースドエラストマーエマルジョン)を調製した。このエマルジョンの特性を実施例1と同様に測定し、その結果を表1に示した。
【0020】
【比較例2】
実施例1において、コロイダルシリカ,pH調整用ジエチルアミン,ジブチル錫ジラウレートの50%エマルジョンを加えなかった以外は実施例1と同様にしてジメチルポリシロキサン/メタクリル酸メチル共重合体エマルジョンを調製した。このエマルジョンの特性を実施例1と同様にして測定し、その結果を表1に併記した。
【0021】
【比較例3】
実施例1において、pH調整用ジエチルアミンと触媒を添加しなかった以外は実施例1と同様にしてジメチルポリシロキサン/メタクリル酸メチル共重合体エマルジョンを調製した。このエマルジョンの特性を実施例1と同様に測定し、その結果を表1に併記した。
【0022】
【比較例4】
分液ロート付きの4つ口フラスコに水45部,ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム塩型アニオン界面活性剤2.5部,ポリオキシエチレン(14.5モル)オクチルフェノールエーテル型非イオン活性剤1.5部,過硫酸ナトリウム2部を加えた水溶液を加え、続いて11部のメタクリル酸メチルと33部のアクリル酸エチルを入れ75℃に昇温した。次いで、分液ロートからメタクリル酸メチルとアクリル酸エチルの混合液を徐々にフラスコ中に滴下し、滴下完了後5時間保持して、メタクリル酸メチルとアクリル酸エチルのコポリマーのエマルジョンを得た。
【0023】
表1の結果から、本発明の製造方法で得たジメチルポリシロキサン/メタクリル酸メチル共重合体エマルジョンは、約2.5℃という低温でも硬化し、硬化皮膜は常温(25℃)での強度、伸びが大きく、-20℃での屈曲性も良好であった。硬化皮膜はべたつきもなく、さらっとしており屋外暴露でも汚れが付着せず、寒冷地向きALCコーティング材として非常に優れていた。
【表1】

【0024】
【実施例2】
ジメチルサイクリックス32部とメチルビニルサイクリックス8部の混合物にドデシルベンゼンスルホン酸1.8部と水57.04部を加え、ホモジナイザー乳化機を用い、380kgf/cm2の圧力で2回パスさせて、ジメチルシロキサン・メチルビニルシロキサン共重合体エマルジョンを調製した。これを80〜85℃に加熱後、2時間保持した。この後、25℃〜30℃に冷却しこの温度で4時間保持して重合し、ついで35%のトリエタノールアミンの水溶液を加えて中和した(ベースエマルジョンB)。
【0025】
次いで、このベースエマルジョンB350部にアクリル酸エチル50部,メタクリル酸メチル6部,ヒドロキシメタクリレート2部を加えた後、30分間攪拌し、均一に分散後、過硫酸アンモニウム1部を145部の水に溶解した水溶液を加えた後、80±11℃に保持して共重合した(エマルジョンB-1)。その後、このエマルジョン90部にコロイダルシリカ[日産化学社製,商品名スノーテックス40]10部とジエチルアミン0.2部,ジブチル錫ジラウレート25%,オクチル酸亜鉛25%を含むエマルジョン型の縮合反応触媒を加えた。この混合物を25℃で2週間熟成して、ジメチルポリシロキサン/ヒドロキシメタクリレート共重合体(エマルジョンB-2)を得た。
比較例として、上記においてジメチルシロキサン・メチルビニルシロキサン共重合体エマルジョンの重合時に末端封鎖剤として0.046部のヘキサメチルジシロキサンを添加した以外は上記と同様にしてジメチルポリシロキサン/ヒドロキシメタクリレート共重合体エマルジョンを得た。尚、この実施例2のジメチルシロキサン・メチルビニルシロキサン共重合体の末端は水酸基で封鎖されているため、この水酸基とコロイダルシリカとは縮合反応するが、この比較例は末端がトリメチルシロキシ基で封鎖されているため、コロイダルシリカとは縮合反応しない。
【0026】
これらのエマルジョンについて実施例1と同様にして、硬化皮膜を作成し、その硬化皮膜について引張強さ(kgf/cm2),伸び(%),屈曲試験を行った。さらに、これらのエマルジョンを精練上りのナイロンタフタ生地に、アプリケーターを用い、120μm厚にコーティングをした。続いて直ちに110℃のオーブンに入れて乾燥させてコーティング布を-30℃の雰囲気中に放置した後、コーティング布の風合(がさつき感)、皮膜の耐モミ性を調べた。これらの結果を表2に示した。表2の結果から、本発明のエマルジョンは常温や低温での変化が小さく、寒冷な高山での登山用防水衣のコーティング剤としても非常に好適であった。
【表2】

【0027】
【実施例3】
実施例1で調製したベースエマルジョンA50部に、ポリオキシエチレン(8モル)オクチルフェニールエーテル系のノニオン乳化剤5部を添加した後、実施例1と同様にしてメタクリル酸メチルを16部、アクリル酸エチル20部、アクリル酸ブチル8部、アクリル酸メチル1.5部を加えた。さらに過硫酸カリウムを0.5部加え、その他の条件は実施例1と全く同様にしてジオルガノポリシロキサン/アクリル酸エステル系共重合体エマルジョンを調製した。ついで、実施例1で使用したコロイダルシリカの量を7.5部とした他は全く同様にして、本発明のエマルジョンを調製した。次いで、このエマルジョンの防汚性を実施例1と同様にして測定した。また、このエマルジョンを2倍の水に希釈して軽量のブロックにコーティングし、汚れ試験用供試体を作成した。この供試体を千葉県市原市の工場地帯の4階建建物の屋上に7カ月間放置し、風雨に暴露した。
また、比較のため前記比較例1で得られたシリコーン/コロイダルシリカからなるシリコーンウオーターベースドエラストマーエマルジョンを使用した。これらの測定結果を表3に示した。これらの結果から本発明のエマルジョンは、建材用軽量ブロック用コーティング材用塗料ベース(塗料はこれに顔料他を添加)として良好で、塗料として用いても汚れが付着せず好適であった。
【表3】

【0028】
【実施例4】
実施例3においてメタクリル酸メチル16部の替わりにスチレンを使用した以外は、実施例3と同様にして、本発明のエマルジョンを調製した。このエマルジョンの特性を実施例3と同様に測定した。これらの結果を表4に示した。
【0029】
これらの結果から本発明のエマルジョンは、建材用軽量ブロック用コーティング材用塗料ベースとして、汚れの付着度合が小さく、好適であった。
【表4】

【0030】
【実施例5】
実施例1において、ジメチルサイクリックスの替わりに式HO[(CH3)2SiO]50Hで示される粘度65cstの分子鎖末端水酸基封鎖ジメチルポリシロキサン40部を使用した以外は実施例1と同様にして、ジメチルポリシロキサン/メタクリル酸メチル共重合体エマルジョンを調製した。このエマルジョンを実施例3と同様に建材用軽量ブロックに刷毛を用いてコーティングし、コーティング材としての評価を行った。これらの結果を表5に示した。
【表5】

【0031】
【発明の効果】
本発明の製造方法によれば、水が蒸発した後、極低温でもひび割れせずに柔軟であり、皮膜の強度も大きく、汚れの少ない硬化皮膜となり得るジオルガノポリシロキサン/アクリル酸エステル系共重合体エマルジョンを生産性よく製造し得るという特徴を有する。
 
訂正の要旨 訂正事項
a.特許第3223198号発明の明細書(以下、特許明細書)中特許請求の範囲を次のとおり訂正する。
「【請求項1】 (A)(a)1分子中に2個以上のケイ素原子結合アルケニル基を有し、分子鎖末端が水酸基で封鎖されたジオルガノポリシロキサン100重量部、(b)水50〜1,000重量部および(c)乳化剤1〜50重量部からなるジオルガノポリシロキサンエマルジョンを調製した後、(B)アクリル酸エステル系モノマーを(A)成分100重量部に対して1〜100重量部となる量加えてラジカル開始剤の存在下で共重合した後、該共重合体100重量部に、(C)コロイド状シリカ1〜100重量部と(D)縮合反応促進触媒0.001〜1.5重量部を加えて混合し、pHを9〜12に調整後、15〜50℃で熟成させることを特徴とする、水が蒸発した後エラストマー状に硬化するジオルガノポリシロキサン/アクリル酸エステル系共重合体エマルジョンの製造方法。」
これに伴い、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載との整合をとるため、特許明細書第2頁第24〜25行の「(D)縮合反応促進触媒0.001〜1.5重量部を加えて混合することを特徴とする」を、明りょうでない記載の釈明を目的として、
「(D)縮合反応促進触媒0.001〜1.5重量部を加えて混合し、pHを9〜12に調整後、15〜50℃で熟成させることを特徴とする」と訂正する。
同様に、特許明細書第6頁第4行の「pHを9〜12に調整後、熟成させることが好ましい。」を、明りょうでない記載の釈明を目的として、
「pHは9〜12に調整後、熟成させる。」と訂正する。
同様に、特許明細書第6頁第10〜11行の「熟成温度は・・・15〜50℃がより好ましい。」を、明りょうでない記載の釈明を目的として、
「熟成温度は15〜50℃である。」と訂正する。
同様に、特許明細書第6頁第19〜20行の「室温における保存安定性が必要でないときは、上記のベースエマルジョンのpHは9未満であってもよい。」を明りょうでない記載の釈明を目的として、削除する。
b.特許明細書第3頁第13行の「直鎖状であるが、一部分岐状のものを含んでいてもよい。」を、明りょうでない記載の釈明を目的として、
「直鎖状である。」と訂正する。
c.特許明細書第3頁第21〜22行の「直鎖状ないし分岐状ジオルガノポリシロキサン」を、明りょうでない記載の釈明を目的として、
「直鎖状ジオルガノポリシロキサン」と訂正する。
d.特許明細書第9頁第28〜29行の「ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム塩型カチオン界面活性剤」を、誤記の訂正を目的として、
「ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム塩型アニオン界面活性剤」と訂正する。
e.特許明細書第13頁表2中の「風厚」を、誤記の訂正を目的として、「風合」と訂正する。
異議決定日 2002-12-27 
出願番号 特願平4-115359
審決分類 P 1 651・ 121- YA (C09D)
P 1 651・ - YA (D06M)
P 1 651・ - YA (C08L)
最終処分 維持  
前審関与審査官 木村 敏康  
特許庁審判長 鐘尾 みや子
特許庁審判官 加藤 浩
鈴木 紀子
登録日 2001-08-17 
登録番号 特許第3223198号(P3223198)
権利者 東レ・ダウコーニング・シリコーン株式会社
発明の名称 ジオルガノポリシロキサン/アクリル酸エステル系共重合体エマルジョンの製造方法  
代理人 岩見谷 周志  

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