• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  C03C
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  C03C
審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  C03C
審判 全部申し立て 産業上利用性  C03C
管理番号 1074772
異議申立番号 異議2001-72817  
総通号数 41 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 1997-10-28 
種別 異議の決定 
異議申立日 2001-10-12 
確定日 2003-01-29 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第3157458号「モールドプレス用光学ガラス」の請求項1に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 訂正を認める。 特許第3157458号の請求項1に係る特許を維持する。 
理由 1.本件の経緯
本件特許第3157458号は、平成8年4月10日の出願であって、平成13年2月9日(公報発行平成13年4月16日)に設定登録され、平成13年10月12日にホーヤ株式会社から特許異議の申立を受けたものであって、その後平成14年2月13日(発送日平成14年2月26日)付で取消理由通知がなされ、その指定期間内である平成14年4月22日に訂正請求がなされたものである。

2.訂正の要旨
(1)訂正事項a:本件明細書中発明の詳細な説明段落【0032】及び段落【0033】に挿入された【表1】(特許公報第5及び6頁)を、訂正請求書に添付された全文訂正明細書の段落【0032】及び段落【0033】に挿入された【表1】のとおり、すなわち、実施例No.8の欄に斜線を加えて削除する。
(2)訂正事項b:本件明細書中発明の詳細な説明段落【0030】における「表1に、本発明によるモールドプレス用光学ガラスの好適な実施組成例(No.1〜10)」(特許公報第4頁8欄30〜32行)を、「表1に、本発明によるモールドプレス用光学ガラスの好適な実施組成例(No.1〜7,9,10)」と訂正する。
(3)訂正事項c:本件明細書中発明の詳細な説明段落【0036】における「表1に見られる通り、実施例1〜10のガラスは」(特許公報第7頁45〜46行)を、「表1に見られる通り、実施例1〜7,9,10のガラスは」と訂正する。

3.訂正の適否についての検討
(1)上記訂正事項aは、本件特許明細書に示される実施例の内、本件特許請求の範囲の請求項1に係る発明で規定される、成分組成を充足するが、同じく請求項1に係る発明において規定される、光学ガラスとしての物性を充足しないことが、権利者が特許異議意見書とともに提出した参考資料3から明らかな「実施例8」を、本件明細書から削除するものであるから、明りょうでない記載の釈明を目的とする訂正に該当し、新規事項を追加するものではない。
(2)上記訂正事項b及びcは、訂正事項aに伴い「実施例1〜10」から本件発明の実施例ではなくなった「実施例8」を削除するものであるから、明りょうでない記載の釈明を目的とする訂正に該当し、新規事項を追加するものではない。
また、これらの訂正事項は、いずれも実質的に特許請求の範囲を拡張又は変更するものでもない。
したがって、上記訂正は、特許法第120条の4第2項及び第3項において準用する特許法第126条第2項から第4項までの規定に適合するものであるから、当該訂正は認める。

4.特許異議申立人の主張の概要
特許異議申立人は、下記甲第1号証として実験成績証明書1を提出し、該実験成績証明書1によれば、実施例4の追試実験では岩石状態又は失透したものしか得られず、実施例8の追試実験では失透したものしか得られないことから、本件発明は実施不可能な産業上利用できない発明であり、特許法第29条柱書の規定に違反して特許されたものであり、また、下記甲第2〜4号証を提出し、甲第3号証の実験結果を参酌すれば、本件請求項1に係る発明は、甲第2号証に記載された発明であるか、甲第2及び4号証の記載に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件請求項1に係る発明は特許法第29条第1項第3号ないし同条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、本件請求項1に係る特許は、同法第113条第1項第2号の規定により取り消されるべきものである旨主張している。

甲第1号証:実験成績証明書1
甲第2号証:特開平2-124743号公報
甲第3号証:実験成績証明書2
甲第4号証:特開昭62-128943号公報

5.特許異議申立人の主張についての検討
5-1.産業上の利用性について
特許異議申立人が提出した甲第1号証の追試結果と権利者が提出した参考資料3の追試結果をみると、実施例4の追試では、1100℃の加熱温度で溶融させた場合には、ガラス化せず岩石状態のものしか得られなかった(甲第1号証)が、加熱温度を上げると、失透するとはいえガラス化し(甲第1号証)、加熱時間を適切にすれば、ブロック中に一部失透が見られる部分もあるが、大部分は光学ガラスとして用いることができるガラスが得られる(参考資料3)ものと認められ、実施例8の追試では、いずれのものも失透したものしか得られなかったものと認められる。
そして、本件特許請求の範囲の請求項1に係る発明で規定される、成分組成を充足するが、失透し、請求項1に係る発明において規定される光学ガラスとしての物性を充足しない実施例8は、前述のように訂正請求により削除され、特許異議申立人が実施不可能と主張する実施例4は、加熱時間を調整することにより、一部失透するものの、大部分は光学ガラスとして用いることができるガラスが得られるのであるから、本件特許明細書に記載される発明は産業上利用できるものである。

5-2.新規性進歩性について
(1)本件発明の認定
本件発明は、上記のとおり訂正が認められるから、平成14年4月22日付訂正請求書に添付された明細書の請求項1に記載された事項により特定された次のとおりのものである(以下「本件発明」という)。
「【請求項1】屈折率(nd)が1.5〜1.6およびアッベ数(νd)が55〜65の光学恒数を有し、ガラス転移温度(Tg)が300〜400℃であり、1,000℃においてガラス融液の粘性η(ポアズ)がLogη≦2.0であり、しかも失透温度はこのガラス融液の粘性ηがLogη=0.6の時の温度以下であり、重量%で、SiO2 0 〜 2%、B2O3 1〜 3%、Al2O3 1 〜 5%、P2O5 45 〜55%、Y2O3 0 〜 1.3%、La2O3 0.2〜1.5%、Gd2O3 0 〜 1.3%、但し、Y2O3+La2O3+Gd2O3=0.2〜1.5%、TiO2 0 〜 5%、Nb2O5 0 〜 5%、Ta2O5 0 〜 5%、ZnO 20 〜40%、MgO 0 〜5%、CaO 0 〜 5%、SrO 0 〜 5%、BaO 0 〜 5%、Li2O 1 〜 5%、Na2O 0〜10%、K2O 0 〜20%、但し、Li2O+Na2O+K2O=6〜25%、Sb2O3 0 〜0.5%、F2 0 〜 5%、の範囲の各成分からなることを特徴とするリン酸亜鉛系のモールドプレス用光学ガラス。」
(2)取消理由通知に引用された刊行物記載の発明
ア.刊行物1(特許異議申立人が提出した甲第2号証)
ア-1.「P2O5 45 〜62重量%(以下%で示す) B2O3 0〜7% ZnO 15〜35% BaO 0 〜30% SrO 0 〜15% CaO 0 〜10% MgO 0 〜3.5% 但し、ZnO+BaO+SrO+CaO+MgOの合量 28〜49% Li2O 0〜5% Al2O3 0 〜9%、Nb2O5 0 〜1.5% ZrO2 0〜1.0%から成る屈伏温度(At)が500℃以下で、屈折率(nd)が1.53〜1.62であり、アッベ数(νd)が59.0〜64.0で軟化点がきわめて低い中屈折率低分散の精密プレスレンズ用光学ガラス。」(特許請求の範囲)
ア-2.「本発明の光学ガラスには、上記成分の他に光学性能の調整、溶酸性の改善、ガラス化範囲の拡大等のために、本発明の目的から外れない限りNa2O、K2O、Cs2O、SiO2、Y2O3、Ta2O5、La2O3などを含有させることができる。」(第3頁左下欄10〜14行)
ア-3.第3頁右下欄には、「第1表」として、実施例1〜10の組成(数値は重量%)、屈折率(nd)、アッベ数(νd)、屈伏温度(At)が示され、実施例10では、P2O5 49% B2O3 7% ZnO 20% BaO 13% CaO 5% Li2O 4% Al2O3 2%、屈伏温度(At)が459℃、屈折率(nd)が1.59405、アッベ数(νd)が63.9となっている。
イ.刊行物2(特許異議申立人が提出した甲第4号証)
イ-1.「重量百分率(%)でP2O5 が60〜90、Al2O3 が7.5 〜20、B2O3 とSiO2の合量が1〜15、BaOとMgOとCaOとSrOの合量が1〜25、Y2O3とLa2O3とZrO2とTa2O5とTiO2の合量が0〜15、PbOが0〜10なる基礎ガラス100重量部に対して、CuOが0.4〜15.0重量部を含有することを特徴とする煩酸塩ガラス。」(特許請求の範囲)
イ-2.「さらに、Y2O3、La2O3、ZrO2、Ta2O5及びTiO2は、近紫外域シャープカット特性に影響を与えることなく、化学的耐久性と耐摩耗性を改善するが、合計で15%を超えると、ガラスが不安定となり失透性を増す。」(第2頁左下欄10〜14行)

5-3.対比・判断
本件発明と刊行物1記載の発明とを対比すると、記載ア-3の「第1表」に開示される実施例1ないし10の屈折率(nd)およびアッベ数(νd)は、いずれも本件発明で規定する範囲内であり、特許異議申立人が提出した甲第3号証によれば、刊行物1の実施例10のガラスは、そのガラス転移温度が391℃であり、1000℃におけるガラス融液の粘性η(ポアズ)がLogη=0〜0.7<2であり、失透温度がLog表示でガラス融液の粘性が0.6となる温度以下であると認められる。
しかしながら、記載ア-1によれば、刊行物1記載のガラスの成分組成のうち、SiO2、B2O3 、Al2O3 、P2O5、Gd2O3、Nb2O5、ZnO、MgO、CaO、SrO、BaO、Li2Oについては、その組成範囲が本件発明と重複し、刊行物1には、La2O3、Na2O、K2Oについても、任意成分として含有可能であることが記載されている(記載ア-2)が、具体的にLa2O3 0.2〜1.5%、Y2O3+La2O3+Gd2O3=0.2〜1.5%、Li2O+Na2O+K2O=6〜25%含有させることは記載されていないばかりか、示唆もない。
一方、刊行物2には、La2O3の添加が化学的耐久性と耐摩耗性を改善することが開示されているのみである。
本件発明は、上記刊行物1ないし2に記載も示唆もされていない組成を採用することにより、刊行物1に記載されるものよりもさらにガラス転移温度が低い光学ガラスが得られるという明細書記載の作用効果を奏するものである。
したがって、本件発明は、刊行物1ないし2に記載された発明とはいえないばかりか、刊行物1及び2記載の発明を組み合わせて当業者が容易に想到することができたものともいえない。

6.結び
以上のとおりであるから、本件発明に係る特許は、特許異議申立の理由および証拠によっては取り消すことができない。
また、他に本件発明に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
モールドプレス用光学ガラス
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】 屈折率(nd)が1.5〜1.6およびアッベ数(νd)が55〜65の光学恒数を有し、ガラス転移温度(Tg)が300〜400℃であり、1,000℃においてガラス融液の粘性η(ポアズ)がLogη≦2.0であり、しかも失透温度はこのガラス融液の粘性ηがLogη=0.6の時の温度以下であり、
重量%で、
SiO2 0〜2%、
B2O3 1〜3%、
Al2O3 1〜5%、
P2O5 45〜55%、
Y2O3 0〜1.3%、
La2O3 0.2〜1.5%、
Gd2O3 0〜1.3%、
但し、Y2O3+La2O3+Gd2O3=0.2〜1.5%、
TiO2 0〜5%、
Nb2O5 0〜5%、
Ta2O5 0〜5%、
ZnO 20〜40%、
MgO 0〜5%、
CaO 0〜5%、
SrO 0〜5%、
BaO 0〜5%、
Li2O 1〜5%、
Na2O 0〜10%、
K2O 0〜20%、
但し、Li2O+Na2O+K2O=6〜25%、
Sb2O3 0〜0.5%、
F2 0〜5%、
の範囲の各成分からなることを特徴とするリン酸亜鉛系のモールドプレス用光学ガラス。
【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は耐失透性や化学的耐久性が良好で、有害物質も含まずに、モールドプレス性を向上させた光学ガラスに関するものである。
【0002】
【従来の技術】光学機器の小型化・高性能化が著しく進行している現在、光学レンズに対しても軽量・小型・高性能が求められている。この課題を解決する方法に非球面レンズがある。これによってレンズ枚数の削減を図ることができるため、光学設計においては主流になりつつある。非球面レンズの製造方法は、ゴブあるいはガラスブロックを切断・研磨したプリフォーム材を加熱軟化させ、これを高精度な面を持つ金型で加圧成形するものである。この方法の特徴は、成形後に研削・研磨工程を省略できるために、低コスト・大量生産が実現できることにある。
【0003】
ところで、この非球面レンズの低コスト・大量生産という大きな目的を達成するためには、以下の諸条件について十分検討する必要がある。まずモールドプレスに用いられる金型が繰り返し使用できなければ、低コスト・大量生産という目的には合致し得ない。そのためには金型の表面酸化を極力抑えるべく、モールドプレス時の温度をできるだけ低く設定する必要がある。現在モールドプレスの上限温度は650〜700℃、またこれに伴いガラスの転移温度の上限は550〜600℃程度となっているが、これらの温度は低ければ低い程金型の表面酸化の進行が抑えられ、寿命の観点から好ましい。しかし、低いガラス転移温度を持つガラスは、一般的に化学的耐久性が良好でない。したがって、如何にして低いガラス転移温度を持ちながらも化学的耐久性の良好なガラスを得るかがカギとなる。更に、モールド成形の前段階であるプリフォーム材の製造についても十分なコスト検討を行う必要がある。
【0004】
現在、プリフォームの製造方法として、ガラス融液を滴下し冷却する方法がある。この方法はプリフォーム材自体の量産性が高く、製造コストについても現在最も安価であり、しかもこの方法にて得られたプリフォームは球形あるいは両凸のレンズ形状に近いため、モールドプレス時の形状変化量が小さくでき、レンズ自体の量産性も格段に向上させる効果を有している。
【0005】
一方、ガラスブロック材から切断によりプリフォーム材を得る方法もあるが、この方法ではブロック材の切断工程からボールへの加工工程が必要であったり、あるいは加工しない場合には直方体からレンズ形状に成形する際、成形時の変化量が大きくなり成形時間がかかるため、コスト的にも量産性の観点からも、ガラス融液を滴下し冷却して得られるプリフォーム材を使用する方が格段に優れている。この方法によってプリフォームを得る代表的な例が特開平6-122526号公報に記載されている。
【0006】
ところで、ガラス融液を滴下してプリフォーム材を生産する場合、その製造時の条件とガラス自体の特性について相互的に最適化されなければならない。つまり、この成形法にてプリフォーム材を成形する際、粘性が低いと表面の曲面が滑らかで均一な、球形あるいは両凸のレンズに近い形状を得られ難い。その一方で粘性が高いとガラス融液を流出管先端から切り離すことができず、やはり均一で滑らかな曲面を有するプリフォームを得ることはできない。したがって、プリフォーム成形時のガラス融液の粘性は十分検討されなければならない。
【0007】
また失透温度はプリフォーム時の温度より低い、つまり滴下時に失透しないガラスでなければならない。つまり、ガラス融液の粘性が低いと、ガラス融液の粘性を上げるべく、ガラス融液の温度を下げなければならなくなるが、そうすると失透温度を下回ってしまい、即ちプリフォーム材に失透を生じてしまう。特に粘性の低いガラスではその傾向が顕著となる。その反面、粘性が高いからといって、粘性を下げるべくガラスの温度を高温すると、失透の問題は解消するが、今度はガラスの金型への焼き付きや金型の表面酸化による早期消耗等の問題か発生する。特に粘性の高いガラスではその傾向が顕著となる。実験によれば、1,000℃以下でプリフォームを作れば、全く問題がない。
【0008】
以上のように、モールドプレス用光学ガラスの組成は、所望の光学恒数および低いガラス転移温度を持ち、十分な化学的耐久性を有するのは勿論のこと、滴下にてプリフォームが成形可能となる高い耐失透性を有するという、各特性の相互的最適化が必要である。
【0009】
従来、低いガラス転移温度を有するガラスとしては、PbOあるいはTeO2含有させたものが知られているが、これらの成分は環境上好ましくない成分であり、またアッベ数(νd)が小さいものしか得られない。
【0010】
PbOを含有せずに低ガラス転移温度を実現したガラスでは、例えばP2O5-RO-R2O系が知られているが、この系は低いガラス転移温度を得るべくR2O成分を増加させているため、化学的耐久性が良好でない。
【0011】
この点を改善すべく、La2O3を含有させて化学的耐久性を向上させたP2O5-B2O3-Al2O3-La2O3-RO-R2O系ガラスが、特開昭60-171244号公報に記載されているが、モールドプレス性という観点からすると、数値の限定が不十分であり前記の諸条件を満たす組成の実施例も開示されていないため、モールドプレスという目的には必ずしも合致し得ない。
【0012】
また特開平3-40934号公報には、同じく希土類元素を含有させたP2O5-RE2Ox-ZnO-R2O系ガラス(RE2OxはY2O3および/またはランタノイドグループから選択される、1種以上の希土類金属酸化物)が記載されているが、耐失透性を改善する成分であるB2O3が含有されていないため、耐失透性が良好でない。しかもその実施例においては、希土類元素含有率の合計が重量%で2%を超えたものしか開示されておらず、このような場合は耐失透性が更に悪化する。このようなガラスでは、ガラス融液の粘性が滴下法によってプリフォームを得るに適する温度で既に失透を発生するため、良好なプリフォームを成形することは不可能である。これはこの組成がブロック材を適当な大きさにカットしてプリフォームを製造することを前提としているためであり、ガラス融液の滴下によりプリフォームを得るモールドプレス用ガラスとしては不適格である。このように、上記これらのガラスは滴下法によりプリフォームを製造するにおいて、製造時のガラス融液の粘性および失透温度の最適化について明確な解決策を見いだせていない。
【0013】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、低いガラス転移温度を有し、化学的耐久性にも優れ、環境上好ましくない物質も含まない、モールドプレス性の良い、即ち表面の曲面が滑らかで均一なプリフォームが得られる、リン酸亜鉛系光学ガラスを提供するものである。
【0014】
【課題を解決するための手段】
本発明者は上記課題を解決すべく鋭意試験研究を重ねた結果、屈折率(nd)が1.5〜1.6およびアッベ数(νd)が55〜65の光学恒数を有するガラスにおいて、ガラス転移温度(Tg)、1,000℃におけるガラス融液の粘性、失透温度を規定することにより、プリフォームの生産性とプリフォーム自体の特性、モールドプレス性が良好なリン酸亜鉛系光学ガラスを得ること、更に従来知られている特開昭60-171244号公報の請求項に記載された組成範囲(但し、R2O成分については範囲外の部分がある。)における、ごく限られた特定の成分範囲についてのみ、前記の所望の光学恒数と低いガラス転移温度と良好な耐失透性と化学的耐久性を持ち、かつ環境上好ましくない物質を含まず、モールドプレス性が極めて良好であるという、諸特性が総合的に優れた、光学ガラスが得られることを見いだし、本発明に至ったものである。
【0015】
前記の目的を達成すべく、本発明は、屈折率(nd)が1.5〜1.6およびアッベ数(νd)が55〜65の光学恒数を有し、ガラス転移温度(Tg)が300〜400℃であり、1,000℃においてガラス融液の粘性η(ポアズ)がLogη≦2.0であり、しかも失透温度はこのガラス融液の粘性ηがLogη=0.6の時の温度以下である、リン酸亜鉛系用光学ガラスがモールドプレス用として好適であるということ、これらすべての条件を満足し得るモールドプレス用光学ガラスの組成としては、重量%で、
SiO2 0〜2%、
B2O3 1〜3%、
Al2O3 1〜5%、
P2O5 45〜55%、
Y2O3 0〜1.3%、
La2O3 0.2〜1.5%、
Gd2O3 0〜1.3%、
但し、Y2O3+La2O3+Gd2O3=0.2〜1.5%、
TiO2 0〜5%、
Nb2O5 0〜5%、
Ta2O5 0〜5%、
ZnO 20〜40%、
MgO 0〜5%、
CaO 0〜5%、
SrO 0〜5%、
BaO 0〜5%、
Li2O 1〜5%、
Na2O 0〜10%、
K2O 0〜20%、
但し、Li2O+Na2O+K2O=6〜25%、
Sb2O3 0〜0.5%、
F2 0〜5%、
の範囲の各成分からなること、以上が本発明の特徴である。この様に各成分の組成範囲を限定した理由は次の通りである。
【0016】
SiO2は光学恒数を調整するために添加するが、その量が2%を超えると所望のガラス転移温度が得られない。したがって、0〜2%の範囲に限定される。
【0017】
B2O3は耐失透性向上のために添加される必須成分であるが、その量が1%未満ではその効果を発揮せず、また3%を超えると所望のガラス転移温度が得られない。したがって、1〜3%の範囲に限定される。
【0018】
Al2O3は化学的耐久性を向上させるのに有効な必須成分であるが、その量が1%未満ではその効果を発揮せず、5%を超えると所望のガラス転移温度が得られない。したがって、1〜5%の範囲に限定される。
【0019】
P2O5はガラスを形成するのに必須な成分であるが、45%未満では耐失透性が悪く、55%を超えると化学的耐久性が低下する。したがって、45〜55%の範囲に限定される。
【0020】
La2O3は比較的少量で化学的耐久性を向上させる必須な成分であり、0.2%未満ではその効果が十分でない。しかしLa2O3はP2O5系ガラスにおいて、急激に耐失透性を悪化させる成分でもある。本発明者の実験による、B2O3=1.5%,Al2O3=3%,P2O5=50%,La2O3=0→1.5%,ZnO=30→28.5%,Li2O=3%,Na2O=5%,K2O=7.5%の組成における失透温度の変化を図1に示す。図1に示す通り、La2O3が重量%で1.5%にて失透温度Tcは945℃であり、1.5%を超えると急激に失透温度が上昇する。図2は上記組成の中のLa2O3=1.5%の時のガラス融液の粘性曲線を示す。図2に示す通り950℃におけるガラス融液の粘性Logη(ポアズ)は、本発明のLa2O3範囲の上限である1.5%において、概ね0.6となった。つまりLa2O3成分が重量%で1.5%を超えるとプリフォーム成形時に下限粘性Logη=0.6において失透が発生してしまい、良好なプリフォームを得ることができない。したがって、0.2〜1.5%の範囲に限定される。
【0021】
La2O3以外のランタノイド系酸化物についても化学的安定性を向上させる効果を有する成分は種々あるが、可視光域における発光・吸収特性や原料コストを考慮すると、光学ガラスとしてはGd2O3が最も適している。
【0022】
Gd2O3の他、Y2O3も光学恒数の調整および化学的耐久性を向上させる効果を有する。しかし化学的耐久性の向上という面ではGd2O3やY2O3よりもLa2O3の方がその効果が大きく、少量で有効である。したがって、La2O3を優先して用いた方が好ましい。
【0023】
上記3成分についてはLa2O3+Y2O3+Gd2O3の合計量が、0.2%未満ではその効果が十分でなく、1.5%を超えるとLa2O3を単独で用いた場合と同様に失透温度が急激に上昇するという理由で、良好なプリフォームを得ることができない。したがって、0.2〜1.5%の範囲に限定される。またこれらの成分の合計量の限定により、Y2O3,Gd2O3の各成分は0〜1.3%の範囲に限定される。
【0024】
ZnOはガラスを形成し、低いガラス転移温度を得るために、必要な成分であるが、20%未満では耐久性を維持しつつ所定の転移温度を得ることができず、40%を超えると耐失透性を維持しながら所望のガラス転移温度を得ることができなくなる。したがって、20〜40%の範囲に限定される。
【0025】
TiO2、Nb2O3、Ta2O5、MgO、CaO、SrO、BaOの各成分は光学恒数の調整のため添加し得るが、それぞれ5%を超えると耐久性を維持しつつも所望のガラス転移温度を得ることができなくなる。したがって、これら各成分はそれぞれ0〜5%の範囲に限定される。
【0026】
Li2Oはガラス転移温度を下げる効果を有する必須成分であるが、1%未満ではその効果が得られず、5%を超えると耐失透性が急激に低下する。したがって、1〜5%の範囲に限定される。
【0027】
Na2O,K2OはLi2Oと同様、ガラス転移温度を下げる効果を有し、Li2Oと共に用いられる必須成分であるが、Li2O+Na2O+K2Oの合計量が6%未満では所望のガラス転移温度が得られず、25%を超えると化学的耐久性が急激に低下する。またNa2Oは10%を超えると、K2Oは20%を超えると耐失透性が急激に低下する。したがって、Na2Oは0〜10%、K2Oは0〜20%の範囲に限定され、かつLi2O+Na2O+K2Oの合計量は6〜25%の範囲に限定される。
【0028】
Sb2O3は、脱泡のため添加し得るが、その量は0.5%までで十分である。したがって、Sb2O3は0〜0.5%の範囲に限定される。
【0029】
F2は光学恒数の調整およびガラス転移温度を下げる効果を有するが、5%を超えると、プリフォーム成形の際にガラス融液の表面層から揮発し、成形されたプリフォームに曇りを生じさせる。したがって、0〜5%の範囲に限定される。
【0030】
【発明の実施の形態】
表1に、本発明によるモールドプレス用光学ガラスの好適な実施組成例(No.1〜7,9,10)および比較例として従来の光学ガラス組成例(比較例A,B)とこれら光学ガラスの屈折率(nd),アッベ数(νd),ガラス転移温度(Tg),失透試験結果,化学的耐久性(RW,RA)を示す。ここ比較例Aは特開昭60-171244号公報に記載の実施例No.6であり、比較例Bは特開平3-40934号公報に記載の実施例No.3である。
【0031】
【表1】

【0032】
【表1】

【0033】
【表1】

【0034】
表記のガラスは、いずれも通常のガラス原料を用いて調合・混合後、白金坩堝を用いて約1,100〜1,300℃にて約2〜5時間加熱溶融し、脱泡・攪拌等により均質化した後、ブロック形状に鋳込み成形し、徐冷工程を経て得られたものである。
【0035】
失透試験は、白金製50CCポットにガラス試料80gを入れて約1,100〜1,300℃にて2時間加熱溶融後、950℃にて2時間保温したものを冷却して失透の有無を顕微鏡により確認したもので、この試験にて失透が認められないガラスは○印を、失透が認められたガラスは×印とした。また、化学的耐久性については、日本光学硝子工業会規格にあるJOGIS06-1975「光学ガラスの化学的耐久性の測定方法(粉末法)」に基づくもので、耐水性(RW)はガラス粉末を100℃の沸騰水に1時間浸漬した後の重量減少率を表し、耐酸性(RA)はガラス粉末を100℃の0.01N硝酸に1時間浸漬した後の重量減少率を表している。RW,RA共に、重量減少率が小さい程、化学的耐久性が優れていることになり、RWが0.2%以下,RAが2.0%以下であれば、実用に十分耐え得るものとなる。
【0036】
表1に見られる通り、実施例1〜7,9,10のガラスは屈折率(nd)が1.5〜1.6、アッベ数(νd)が55〜65の範囲の光学恒数を有し、ガラス転移温度(Tg)は300〜400℃の範囲にあって、モールドプレス性に優れている。また、950℃の失透試験でも失透が発生しておらず、化学的耐久性についても良好であり、ガラス融液の滴下によるプリフォームの成形用光学ガラスとして最適である。これに対し、比較例Aはガラス転移温度(Tg)が本請求よりも高温であり、しかもLa2O3成分を多く含有するために失透が生じている。比較例Bについても、La2O3成分を多く含有するため、低いガラス転移温度を有し、化学耐久性についても良好であるが、失透を生じており、いずれの比較例共ガラス融液の滴下によってプリフォームを成形することはできない。
【0037】
【発明の効果】
以上述べたように、本発明はモールドプレス用プリフォーム材を製造する際、ガラス融液の粘性ηをLogη=0.6〜2.0の範囲内で一定に制御することにより、従来よりも表面の曲面が滑らかで均一な、モールドプレスに好適な形状を得ることができたと同時に、この光学ガラス自身も従来のモールドプレス用ガラスが持っていた諸欠点を総合的に改善したものである。即ち、屈折率(nd)が1.5〜1.6、アッベ数(νd)が55〜65なる光学恒数を有しながらも、ガラス転移温度が300〜400℃と低温であり、耐失透性および化学的耐久性にも優れ、環境上好ましくない物質も含んでいない、溶融プリフォーム成形ならびにモールドプレス性の良い光学ガラスを提供するものである。このガラスを用いて溶融滴下法によりプリフォームを得、このプリフォームをモールドプレス成形してレンズを製造することによって、所望の光学恒数と化学的耐久性や耐失透性やプリフォーム成形性やモールド成形性を得つつ、更に従来より低温での成形が可能なため、金型の表面酸化による消耗が減少し、結果として製造コストを格段に低減することができる。
【0038】
【図面の簡単な説明】
【図1】
本発明によるガラスのLa2O3含有%と失透温度の関係の一例を示したものである。
【図2】
本発明によるガラスの温度-粘性曲線の一例とそのガラスの失透温度、およびガラス融液の滴下によるプリフォーム成形時の粘性範囲を示したものである。
 
訂正の要旨 訂正事項
▲1▼訂正事項a
明細書段落0030第2行目〜第3行目の「表1に、本発明によるモールドプレス用光学ガラスの好適な実施組成例(No.1〜10)」を「表1に、本発明によるモールドプレス用光学ガラスの好適な実施組成例(No.1〜7,9,10)」と訂正する。
▲2▼訂正事項b
明細書段落0032及び段落0033に挿入された表1を請求書に添付された全文訂正明細書の段落0032及び段落0033に挿入された表1のとおり訂正する。すなわち、
実施例No.8の欄を削除する。
▲3▼訂正事項c
明細書段落0036第2行目〜第3行目の「表1に見られる通り、実施例1〜10のガラスは」を「表1に見られる通り、実施例1〜7,9,10のガラスは」と訂正する。
異議決定日 2003-01-09 
出願番号 特願平8-113287
審決分類 P 1 651・ 536- YA (C03C)
P 1 651・ 113- YA (C03C)
P 1 651・ 14- YA (C03C)
P 1 651・ 121- YA (C03C)
最終処分 維持  
前審関与審査官 前田 仁志  
特許庁審判長 石井 良夫
特許庁審判官 山田 充
岡田 和加子
登録日 2001-02-09 
登録番号 特許第3157458号(P3157458)
権利者 株式会社オハラ
発明の名称 モールドプレス用光学ガラス  
代理人 中村 静男  
代理人 荒船 博司  
代理人 荒船 良男  
代理人 荒船 博司  
代理人 荒船 良男  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ