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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  C03C
管理番号 1074790
異議申立番号 異議2001-71959  
総通号数 41 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 1993-06-08 
種別 異議の決定 
異議申立日 2001-07-19 
確定日 2003-02-05 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第3126187号「ポリシリコンTFT方式LCD用石英ガラス基板」の請求項1、2に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 訂正を認める。 特許第3126187号の請求項1、2に係る特許を維持する。 
理由 1.手続の経緯
本件第3126187号の請求項1,2に係る発明についての出願は、平成3年11月15日になされ、平成12年11月2日に、その発明について特許の設定登録がなされ、その後、その特許について特許異議の申立てがなされ、平成13年12月14日(平成13年11月30日付け)に、取消理由通知がなされ、その指定期間内である平成14年2月12日に訂正請求がなされたものである。
2.訂正の適否についての判断
2-1.訂正の内容
a.特許請求の範囲の請求項1に係る記載の
「【請求項1】アルミニウム含有量が5〜40ppm、ハロゲン含有量が10ppm以下、OH含有量が100ppm以下、重金属およびアルカリ金属の含有量の総計が1ppm以下であって、徐冷点が1180℃以上であることを特徴とするポリシリコンTFT方式LCD用石英ガラス基板。」を
「【請求項1】ガラス形成原料を加熱加水分解して得られる石英ガラス微粒子を基材に堆積・成長させて形成した、アルミニウム化合物を含む多孔質石英ガラス体を、透明ガラス化する温度以下の温度域で水蒸気分圧の低い雰囲気中に一定時間加熱保持した後、透明ガラス化温度に昇温加熱して透明ガラス化することにより得た石英ガラス体からなり、アルミニウム含有量が5〜40ppm、ハロゲン含有量が10ppm以下、OH含有量が100ppm以下、重金属およびアルカリ金属の含有量の総計が1ppm以下であって、徐冷点が1180℃以上であることを特徴とするポリシリコンTFT方式LCD用石英ガラス基板。」
と訂正する。
b.明細書の段落【0007】の【課題を解決するための手段】の記載の
「本発明は前述の課題を解決するべくなされたものであり、アルミニウム含有量が5〜40ppm、ハロゲン含有量が10ppm以下、OH含有量が100ppm以下、重金属およびアルカリ金属の含有量の総計が1ppm以下であって、徐冷点が1180℃以上であることを特徴とするポリシリコンTFT方式LCD用石英ガラス基板を提供するものである。」を
「本発明は前述の課題を解決するべくなされたものであり、ガラス形成原料を加熱加水分解して得られる石英ガラス微粒子を基材に堆積・成長させて形成した、アルミニウム化合物を含む多孔質石英ガラス体を、透明ガラス化する温度以下の温度域で水蒸気分圧の低い雰囲気中に一定時間加熱保持した後、透明ガラス化温度に昇温加熱して透明ガラス化することにより得た石英ガラス体からなり、アルミニウム含有量が5〜40ppm、ハロゲン含有量が10ppm以下、OH含有量が100ppm以下、重金属およびアルカリ金属の含有量の総計が1ppm以下であって、徐冷点が1180℃以上であることを特徴とするポリシリコンTFT方式LCD用石英ガラス基板を提供するものである。」
と訂正する。
c.明細書の段落【0014】の記載の
「かかる石英ガラス基板の製造方法としては、上記の項目を満足していれば特に制約はないが、例えば、予めガラス形成原料を加熱加水分解して得られる石英ガラス微粒子を基材に堆積・成長させた多孔質石英ガラス体に、アルミニウム化合物を添加した後、これを透明ガラス化する温度以下の温度域で水蒸気分圧の低い雰囲気中に一定時間加熱保持した後、透明ガラス化温度に昇温加熱して透明ガラス化して石英ガラス体とする方法により作成できる。」を
「かかる石英ガラス基板の製造方法としては、例えば、予めガラス形成原料を加熱加水分解して得られる石英ガラス微粒子を基材に堆積・成長させた多孔質石英ガラス体に、アルミニウム化合物を添加した後、これを透明ガラス化する温度以下の温度域で水蒸気分圧の低い雰囲気中に一定時間加熱保持した後、透明ガラス化温度に昇温加熱して透明ガラス化して石英ガラス体とする方法により作成できる。」
と訂正する。
2-2.訂正の目的の適否、新規事項の有無及び拡張変更の存否
aの訂正は、明細書の段落【0014】の記載及び段落【0026】の実施例の記載に基づいて、特許請求の範囲の請求項1に製造プロセスの構成を付加し、本件の石英ガラス基板を限定する訂正であるから、特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正に該当し、願書に添付した明細書に記載した事項の範囲内のものであり、実質上特許請求の範囲を拡張又は変更するものではない。
bの訂正は、aの特許請求の範囲の請求項1の訂正に基づき、これに整合するように発明の詳細な説明の対応する記載を訂正するものであるから、明りょうでない記載の釈明を目的とする訂正に該当し、願書に添付した明細書に記載した事項の範囲内のものであり、実質上特許請求の範囲を拡張又は変更するものではない。
cの訂正は、aの特許請求の範囲の請求項1の訂正に基づき、発明の詳細な説明における本件の石英ガラス基板の製造方法を請求項1の製造方法のみとする訂正であるから、明りょうでない記載の釈明を目的とする訂正に該当し、願書に添付した明細書に記載した事項の範囲内のものであり、実質上特許請求の範囲を拡張又は変更するものではない。
2-3.訂正の適否についての結論
したがって、特許法第120条の4第2項及び同条第3項で準用する第126条第2項及び第3項の規定に適合するので、当該訂正を認める。

3.特許異議申立についての判断
3-1.本件発明
上記2に示したとおり、上記訂正が認められるから、本件請求項1、2に係る発明は、上記訂正請求に係る訂正明細書の特許請求の範囲の請求項1、2に記載された次のとおりのものである。(以下、それぞれ「本件発明1」、「本件発明2」という。)
「【請求項1】ガラス形成原料を加熱加水分解して得られる石英ガラス微粒子を基材に堆積・成長させて形成した、アルミニウム化合物を含む多孔質石英ガラス体を、透明ガラス化する温度以下の温度域で水蒸気分圧の低い雰囲気中に一定時間加熱保持した後、透明ガラス化温度に昇温加熱して透明ガラス化することにより得た石英ガラス体からなり、アルミニウム含有量が5〜40ppm、ハロゲン含有量が10ppm以下、OH含有量が100ppm以下、重金属およびアルカリ金属の含有量の総計が1ppm以下であって、徐冷点が1180℃以上であることを特徴とするポリシリコンTFT方式LCD用石英ガラス基板。
【請求項2】基板面内の屈折率の変動幅が5×10-6以下である請求項1に記載のポリシリコンTFT方式LCD用石英ガラス基板。」

3-2.申立て理由及び取消理由の概要
特許異議申立人は、甲第1〜7号証を提出して、本件請求項1に係る発明は、甲第1〜4号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、また、本件請求項2に係る発明は、甲第1〜4号証あるいは甲第1〜7号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件請求項1、2に係る発明の特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものであり、取り消されるべきである旨主張している。
平成13年11月30日付け取消理由通知は、上記異議申立理由と同趣旨である。

3-3.刊行物に記載された発明
平成13年11月29日付け取消理由において引用された刊行物1(特開平3-193637号公報、甲第1号証)には、
「高純度合成石英ガラス中に、Siに対しAlを1〜1,000ppmドープしたことを特徴とするAlドープト石英ガラス。」(特許請求の範囲)
「本発明の目的は、平板ディスプレイ基板やフォトマスク基板などを初め、多用途に応用可能な、高純度かつ高耐熱性を有する石英ガラスを提供するところにある。」(第1頁右欄15〜18行)
「石英ガラス中にAlをドープすることにより、種々の構造欠陥(Si-O',Si'、等のラジカルなど)が減少し、耐熱性が向上する。また、Alのドープ量が前記程度であれば、クリストバライト等の結晶の析出も極めて少なく、半導体プロセスや、分光特性的にも、Alの不純物としての悪影響は小さいものである。」(第2頁左欄4〜10行)
「〔実施例〕
ベルヌーイ法(直接法)による石英ガラスの合成において、原料としてSiCl4、AlCl3、H2,O2と用い、AlCl3の量を調整し、Alのドープ量が、Siに対して、0,1,5,10,40,100,500,1000,2000ppmの石英ガラスを合成した。」(第2頁左欄11〜17行)
「本発明のAlドープト石英ガラスは、平板ディスプレイ基板やフォトマスク基板などを初め、多用途に応用可能な、高純度かつ高耐熱性を有するものである。」(第2頁右欄9〜12行)
と記載されている。

同じく引用された刊行物2(技術誌「住友金属」第42巻第3号、住友金属工業(株)、1990年7月発行、p.27〜38、甲第2号証)には、「VAD法合成石英ガラスの開発」と題し、
「3.1 製造プロセスの概要
当社で開発を進めてきた合成石英ガラスの製造方法は・・・VAD(Vapor- phase Axial Deposition)法を基本としている。したがって合成石英ガラス基板を製造する工程としては、次に示す4工程が必要となる。・・・
(1)VAD法による母材の合成 (母材合成工程)
(2)焼結による母材の透明化 (透明化工程)
(3)透明化材の熱間加工 (熱間加工工程)
(4)石英インゴットの切断・研磨 (機械加工工程)
母材合成工程は・・・ガラス原料となるSiCl4などのケイ素塩化物を水素/酸素火炎中に供給し、火炎内で化学反応させることにより、シリカ微粒子を生成させるとともに、回転、上昇している出発材(または母材表面)を火炎で覆うことにより、微粒子をたい積させて多孔質な石英ガラス母材(以下、母材と称する)を得る工程である。
透明化工程は、母材合成工程で得られた多孔質な母材を焼結させて、完全にち密で透明な素材(透明化材)を得る工程である。多孔体が完全にち密化するためには、焼結の最終段階で形成される閉気孔をも排除する必要があるので・・・母材の下端から上方へ一方向に焼結させ、母材細孔内に存在するガス種を上方に逃すことが重要である。
熱間加工工程は、円柱状の透明化材を最終製品形状に近づけるために、石英ガラスの軟化点付近まで加熱して加圧成形を行う工程である。
このようにして得られた合成石英ガラスインゴットを切断-研磨する機械加工工程を経て、基板ガラスを製造する。」(第28頁右欄9行〜第29頁左欄28行)
「4.1 純度
合成石英ガラスの多くは、ガラス原料として高純度に蒸留精製したSiCl4を用いており、製造過程における汚染も皆無であることから不純物金属元素の含有量は、第3表に示すとおりすべて1ppm以下となっている。
一方、VAD法も直接法もともに火炎中の化学反応によりSiO2ガラスを合成するため、火炎内に多量に存在するOHがシラノール基(OH基)としてガラス中に混入することとなる。このOH基濃度については直接法合成石英ガラスよりもVAD法合成石英ガラスの方が低濃度となっているが、これは前者が火炎中でち密化されているのに対し、後者は水分を含まない雰囲気で透明化処理していることに起因する。また、VAD法では透明化処理条件を変えることで、OH基濃度を数ppm-数100ppmの範囲で制御できる利点がある。このほか、合成石英ガラス中にはガラス原料であるSiCl4の分子のもつClが残留し、直接法合成ガラスでは100ppm以上の濃度で存在するという報告がある。これに対して当社のVAD法合成石英ガラス中のCl濃度は放射化分析により測定した結果、1ppm以下であることがわかった。
以上のことから合成石英ガラスの中でもVAD法合成石英ガラスは特に高純度であるといえる。」(第34頁右欄15行〜第35頁左欄13行)
「4.4 耐熱性
ガラスの温度上昇とともに粘性は低下するが、粘性係数(η)が1013.5pa・s(1014.5poise)となる温度すなわちひずみ点では粘性流動による永久ひずみの残留は実質的に起らないことから、このひずみ点がガラスの耐熱性の指標となる。石英ガラスのひずみ点もその製造法によって異なっており、一般に合成石英ガラスは溶融石英ガラスよりもひずみ点が低い(耐熱性が低い)といわれてきた。その理由は、従来流通していた合成石英ガラスのほとんどが直接法石英ガラスであって、そのガラス中に700ppm-1300ppmという多量のOH基が含まれていることに起因する。石英ガラス中のOH基濃度と粘性の関係についてはHetheringtonらによって研究されており、OH基濃度の低い石英ガラスほど高い耐熱性を示すことが報告されている。当社での調査においても第11図に示すとおりVAD法合成石英ガラスは直接法合成石英ガラスよりも低OH基濃度であるためにひずみ点が高く、溶融石英ガラスに近い値となっている。」(第36頁左欄15行〜右欄4行)
「5.2 液晶基板
近年急速に開発が進んでいる液晶ディスプレイのうち、現時点で最も高集積度、高画質であるのが第13図に示すTFT(Thin Film Transistor)を用いたアクティブマトリックス式の液晶ディスプレイである。・・・この各画素(トランジスター)を形成する際に、高温熱処理が必要であるため、熱処理過程で変形を起こさず(耐熱性が高く)、透光性を有する石英ガラス基板が不可欠であり、VAD法合成ガラスは好適な材料であるといえる。」(第37頁右欄1〜12行)
と記載され、
表3には、石英ガラスの純度として溶融石英と合成石英について、Al、B、Fe、Ca、Cu、Li、K、Na、P、Ti、Mg、Mn、Zrのそれぞれの含有量が記載されており、合成石英の「当社VAD法」のものは、Alの含有量が<0.05ppm、B〜Zrの含有量の総計が<0.238ppmとなることが読み取れ、
第11図には、石英ガラス耐熱温度のOH濃度依存性として、ガラス中のOH濃度(〜1200ppm)に対して、耐熱温度(ひずみ点、〜1100℃)が図示されており、VAD法は直接法よりもガラス中のOH濃度が低く、VAD法によるOH濃度が最も少ない約50ppmのものは、耐熱温度(ひずみ点)が約1070℃〜1100℃未満であり、OH濃度がそれより増加するにつれて耐熱温度(ひずみ点)は低下していることが読み取れる。

同じく引用された刊行物3(「高純度シリカの応用技術」(株)シーエムシー、1991年3月1日発行、p.178〜180、甲第3号証)には、シリカガラスの耐熱性に関し、
「(4) 耐熱性
ガラスは温度上昇とともに粘性が低下するが、粘性係数(η)が1014.5poiseとなる温度、すなわち歪点以下の温度では粘性流動による変形は実質的に起こらないことから、この歪点が耐熱性の指標となる。石英ガラスの歪点はその製造法によって異なっており、一般に合成石英ガラスは溶融石英ガラスよりも歪点が低い(耐熱性が悪い)と言われてきた。これは従来流通していた合成石英ガラスのほとんどが直接法合成石英ガラスであり、そのガラス中に1,000ppm前後の多量のOH基が含まれていることに起因する。石英ガラス中のOH基濃度と粘性の関係についてはHetheringtonらによって研究されており、図2.3.45に示すようにOH基濃度の低い石英ガラスほど高い耐熱性を示すことが報告されている。当社での調査においても図2.3.46に示す通り、VAD法合成石英ガラスは直接法合成石英ガラスよりも低OH基濃度であるために歪点が高く、溶融石英なみの耐熱性を有することが分かる。」(第178頁1〜11行)
「以上、石英ガラスの製造法による特性の違いを述べてきたが、気泡などの点欠陥や脈理がなく、耐熱性に優れたVAD法合成石英ガラスはp-SiTFT液晶ディスプレイ用に安定供給できる基板ガラスとして最も適していると言える。」(第179頁15〜17行)
と記載され、
図2.3.45には、OH基含有量と石英ガラスの粘性として、3ppmOH、270ppmOH、400ppmOH、1200ppmOHのそれぞれの石英ガラスに対して、温度(℃)と、logηの関係が図示されており、3ppmOHのlogηが13の時の温度が約1200℃(徐冷点が約1200℃)、270ppmOHのlogηが13の時の温度が約1150℃(徐冷点が約1150℃)であることが読み取れ、
図2.3.46には、石英ガラス耐熱温度のOH基濃度依存性として、ガラス中のOH濃度(〜1200ppm)に対して、耐熱温度(ひずみ点、〜1100℃)が図示されており、VAD法は直接法よりもガラス中のOH濃度が低く、VAD法によるOH濃度が最も少ない約50ppmのものは、耐熱温度(ひずみ点)が約1070℃〜1100℃未満であり、OH濃度がそれより増加するにつれて耐熱温度(ひずみ点)は低下していることが読み取れる。

同じく引用された刊行物4(特開平2-14840号公報、甲第4号証)には、
「1.アルコキシシラン溶液を加水分解して得たゾル液をゲル化し、乾燥したのち、1,000〜1,600℃でクリストバライト化し、脱水させ、ついでガラス化温度以上の温度で溶融してなることを特徴とする合成石英ガラス基板。
2.合成石英ガラスがOH基含有量が100ppm以下、Cl基含有量が10ppm以下で、かつ1,200℃での粘特性が5×1012ポイズ以上のものである請求項1に記載の合成石英ガラス基板。」(特許請求の範囲の請求項1,2)
「液晶ディスプレイ(LCD)は近年、小形ポケットテレビ、ラップトップパーソナルコンピューターなどの伸びに伴って急速に市場が拡大されてきており、このものはガラス基板上にソースドレインと導電チャンネルを多結晶シリコン薄膜またはアモルファスシリコン薄膜で形成し、これでTN液晶をサンドイッチする構造とされている。しかして、この多結晶シリコン薄膜のガラス基板上への析出は通常トリクロロシランと水素とを1,100〜1,200℃で反応させるという方法、あるいはアモルファスシリコンを400〜600℃で析出させ、1,100〜1,200℃で多結晶化させる方法で行われているが、ガラス基板が約1mmと薄いものであるためにこれには変形(伸び、反り)が起り、平坦性や均一性が劣ることが問題となっており、事実、温度的な制約からこのガラス基板を青板ガラスとすることはできないし、これを天然石英ガラスとするとこれは脈理があり、不純物含有量が多いということから使用面に限界があり、合成石英ガラスには平坦度はすぐれているが高温における粘度が低いし、伸びや反りに問題がある。」(第1頁右欄6行〜第2頁左上欄7行)と記載され、
第1表には、実施例の合成石英ガラスの物性は、OH基含有量が7ppm、Cl基含有が<1ppm、粘度特性(1200℃)が10×1012ポイズであることが記載されている。

同じく引用された刊行物5(特開平3-88742号公報、甲第5号証)には、
「1) 波長略360nm以下の紫外光に使用される合成シリカガラス光学体において、該光学体を少なくとも一方向脈理フリーで、かつOH基を略50ppm以上含有する高純度合成シリカガラス材で形成すると共に、該光学体に前記紫外光照射による光透過率低下を抑制するに充分な量の水素分子を含有させたことを特徴とする合成シリカガラス光学体。
・・・・・
6) 光学体の入射光に直交する平面内におけるΔn(屈折率の変動幅)の値が2×10-6以下であることを特徴とする請求項1)記載の合成シリカガラス光学体。
7) シリカガラス光学体が、アルカリ金属(Li,Na,K)含有量150ppb以下、アルカリ土類金属(Mg,Ca)含有量100ppb以下、遷移金属(Ti,Cr,Fe,Ni,Cu)含有量50ppb以下のものであることを特徴とする請求項1)記載の合成シリカガラス光学体。
8) シリカガラス光学体が、アルカリ金属元素Li,Na,Kの各含有量が50ppb以下、アルカリ土類金属元素Mg,Caの各含有量が10ppb以下、遷移金属元素Ti,Cr,Fe,Ni,Cuの各含有量が10ppb以下のものであることを特徴とする請求項1)記載の合成シリカガラス光学体。」(特許請求の範囲の請求項1,6〜8)
「したがって、脈理が存在する合成シリカガラス塊をそのまま本発明の光学体用原料とすることはできず、予め脈理除去の処理を施す必要がある。
この脈理除去の方法としては、例えば・・・等に記載されている方法“横型浮遊帯域融解法”(FZ法)により脈理を除去することができる。具体的には脈理を除去しようとするシリカガラス塊を棒状体とし、その両端を回転し得る旋盤で把持し、棒状体の中間部分をバーナ火炎で軟化点以上に加熱しひねるという操作によって行なわれる。
本発明の光学体はΔnが2×10-6以下であること及び複屈折率5(nm/cm)以下であることが望ましいが、これらの特性を得るためには上記した脈理除去の処理が重要な意味を持つ。」(第4頁左下欄11行〜右下欄6行)
と記載されている。

同じく引用された刊行物6(特開平2-80343号公報、甲第6号証)には、
「1.VAD法において、アルコキシシランの低温火炎加水分解及び低温焼結により製造された合成石英ガラスにおいて、OH基含有量が1〜500ppmの範囲であり、ハロゲン、S又はNが10ppm以下であることを特徴とする耐紫外線用合成石英ガラス。」(特許請求の範囲の請求項1)
「このようにして得られた石英ガラスはOH基が500ppm以下でCl,FなどのハロゲンやS,Nもほとんど含有していないし、これはまた構造欠陥が少ないので各部分での屈折率のバラツキ(Δn)も10-6以下と小さいことが判った。なお、このものの紫外線透過性をみると157nm以上で85%以上の値を示しており、これをマスク基板としてエキシマレーザーのリソグラフィに用いたがこれにはソーラリゼーションの起きないことが確認された。」(第3頁左上欄19行〜右上欄8行)
「つぎにこの石英ガラスにアルゴンガス下でレーザーを照射し、その260nmにおける吸収係数の増加を測定したところ、これは従来法で作られた石英ガラスの1/10にすぎず、またこれをエキシマレーザーのリソグラフィ用マスク基板として使用したところ、このものにはソーラリゼーションは全く起らなかった。」(第3頁左下欄6〜12行)
と記載されている。

同じく引用された刊行物7(特開平3-183627号公報、甲第7号証)には、
「気相法により製造されるガラス微粒子の多孔体を均質化する合成石英ガラスの均質化方法において、均質化処理条件を下記のごとく設定して処理することを特徴とする合成石英ガラスの均質化方法。
D(T)×t/r2≧0.6×10-6 ただし、ここで
D(T):熱処理温度Tにおけるガラス中の水の拡散係数(cm2/sec)
t:熱処理時間(sec)
r:多孔体の半径(cm)
を表わす。」(特許請求の範囲)
「OH基の濃度分布を小さくすれば、屈折率分布(Δn)も小さくなる。
・・・・・
OH基の最高濃度値が低いほどOH基の濃度分布は小さくなる。従って上記理由によりOH基の最高濃度値を低くすることにより屈折率分布(Δn)は小さくなる。」(第3頁右上欄18行〜左下欄6行)
「従って、均質化処理条件によってOH基の最高濃度値を制御し、OH基の濃度分布を小さくすることにより、屈折率分布(Δn)は小さくなり、高品質な合成石英ガラスが製造される。
すなわち、スート法において均質化処理条件を第6図より、D(T)×t/r2(-)≧0.6×10-6と設定して均質化することにより、OH基の最高濃度値は従来の300ppm程度から100ppm以下となり、屈折率分布(Δn)も従来の1/3以下となるので、高級光学部品に十分適用し得る高品質の合成石英プリフォームが製造される。」(第3頁右下欄6〜16行)
と記載されている。

3-4.当審の判断
(1)本件発明1について
従来、合成石英ガラスからなる基板は、ガラス中に含まれる泡・異物等の品質面からは溶融石英ガラス基板よりはるかに優れているが、一般に徐冷点(ガラスの粘度が1013ポイズを示す温度)が1050℃〜1120℃程度であり、溶融石英ガラスに比較し100℃〜150℃程度低く耐熱性が劣っており、ポリシリコンTFT方式LCD製造上合成石英ガラスからなる基板には問題があったところ、本件発明1は、請求項1に記載される工程により得た石英ガラス体とすることにより、徐冷点が高く耐熱性に優れ、また、光学的均質性にも優れたポリシリコンTFT方式LCD用石英ガラス基板を提供できるものである。(段落【0004】、【0005】、【0032】、表1)。
これに対し、刊行物2には、ガラス原料となるSiCl4などのケイ素塩化物を水素/酸素火炎中に供給し、火炎内で化学反応させることにより生成させたシリカ微粒子を出発材に堆積させて多孔質な母材を得る工程(母材合成工程)、母材合成工程で得られた多孔質な母材を焼結させて、完全にち密で透明な素材(透明化材)を得る工程(透明化工程)、熱間加工工程、機械加工工程を順次行うことにより、合成石英ガラス基板を製造すること、製造された合成石英ガラスは、アルミニウム含有量が<0.05ppm(第3表)、ハロゲン濃度が1ppm以下、OH含有量が約50ppmで耐熱温度(ひずみ点)が約1070℃〜1100℃未満(第11図)、重金属およびアルカリ金属の含有量の総計が<0.238ppm(第3表)であって、ポリシリコンTFT方式液晶ディスプレイ(LCD)用石英ガラス基板に用いられることが記載されている。
本件発明1(前者)と刊行物2記載の発明(後者)とを対比すると、後者の「母材合成工程」は、前者の「ガラス形成原料を加熱加水分解して得られる石英ガラス微粒子を基材に堆積・成長させて形成した」多孔質石英ガラス体を得る工程、後者の「透明化工程」は、前者の「透明ガラス化温度に昇温加熱して透明ガラス化することにより」石英ガラス体を得る工程にそれぞれ相当するから、両者は、「ガラス形成原料を加熱加水分解して得られる石英ガラス微粒子を基材に堆積・成長させて形成した多孔質石英ガラス体を、透明ガラス化温度に昇温加熱して透明ガラス化することにより得た石英ガラス体からなり、ハロゲン含有量が10ppm以下、OH含有量が100ppm以下、重金属およびアルカリ金属の含有量の総計が1ppm以下であるポリシリコンTFT方式LCD用石英ガラス基板。」である点で一致するが、以下の点で相違する。
1)前者は、多孔質石英ガラス体が「アルミニウム化合物を含」み、ポリシリコンTFT方式LCD用石英ガラス基板の「アルミニウム含有量が5〜40ppm」であるのに対し、後者は、多孔質石英ガラス体にアルミニウム化合物を含有させるものではなく、ポリシリコンTFT方式LCD用石英ガラス基板のアルミニウム含有量は<0.05ppmである点。
2)前者は、多孔質石英ガラス体を、「透明ガラス化する温度以下の温度域で水蒸気分圧の低い雰囲気中に一定時間加熱保持した後」、透明ガラス化するものであり、ポリシリコンTFT方式LCD用石英ガラス基板の「徐冷点が1180℃以上」であるのに対し、後者は、透明ガラス化の前にそのような工程を経るものではなく、ポリシリコンTFT方式LCD用石英ガラス基板の耐熱温度(ひずみ点)が約1070℃〜1100℃未満である点。

上記各相違点について検討する。
刊行物2記載の石英ガラス基板は、耐熱温度(ひずみ点)が約1070℃〜1100℃未満であり、刊行物2のひずみ点に関する記載「 ガラスの温度上昇とともに粘性は低下するが、粘性係数(η)が1013.5pa・s(1014.5poise)となる温度すなわちひずみ点では粘性流動による永久ひずみの残留は実質的に起らないことから、このひずみ点がガラスの耐熱性の指標となる。」を参酌すると、耐熱温度(ひずみ点)とは、ガラスの粘度が1014.5ポイズを示す温度(ひずみ点)であることがわかる。それに対し、本件発明1の徐冷点はガラスの粘度が1013ポイズを示す温度である(段落【0004】)から、本件発明1の「徐冷点」と刊行物2の「耐熱温度(ひずみ点)」は、ともにガラスの耐熱性の指標である点では共通するものの、ひずみ点から徐冷点は予測し得ないものであり、刊行物2には、粘性係数(η)が1013poiseとなる温度が1180℃以上である石英ガラス基板が示唆されているとはいえない。
刊行物1には、高純度合成石英ガラス中に、Siに対しAlを1〜1,000ppmドープすることにより、種々の構造欠陥が減少し、耐熱性が向上することが記載されているが、石英ガラスとしては、OH含有量が一般的に数百ppm以上のベルヌーイ法(直接法)により合成されたものが示されているだけであるから、多孔質石英ガラス体を、「透明ガラス化する温度以下の温度域で水蒸気分圧の低い雰囲気中に一定時間加熱保持した後」、透明ガラス化することにより得た、OH含有量が100ppm以下で「徐冷点が1180℃以上」の石英ガラスが示唆されているとはいえない。
刊行物3には、粘性係数(η)が1014.5poiseとなる温度、すなわち歪点以下の温度では粘性流動による変形は実質的に起こらないことから、この歪点がガラスの耐熱性の指標となること、OH基濃度の低い石英ガラス程高い耐熱性を示し、VAD法合成石英ガラスは直性法合成石英ガラスよりも低OH基濃度であるために歪点が高く、溶融石英ガラスなみの耐熱性を有することが記載され、図2.3.45には、徐冷点が約1200℃及び約1150℃の石英ガラス(3ppmOH:logηが13の時の温度が約1200℃、270ppmOH:logηが13の時の温度が約1150℃)が開示されている。
しかし、刊行物3で、図2.3.45の出典であるとして引用されている「G. H. Hetherington et al., Phys. Chem. Glasses, 8, p.62(1967)」(第180頁の文献10))は、該当するものがなく、該文献と著者が同じでかつFig.7として図2.3.45と同じ図を含んでいることから、「G. Hetherington et al., Phys. Chem. Glasses, Vol.5, No.5, p.130(1964)」(平成14年2月12日付け特許異議答弁書に添付した乙第1号証)が図2.3.45の出典であると認められるが、その第134頁のFig.7において、最も高温での粘性が大きく、耐熱性が高い石英ガラスが「I. R. Vitreosil」であり、次に耐熱性が高い2つの石英ガラスがそれぞれ「O. G. Vitreosil」であることが開示され、さらに、第130頁右欄下から15〜11行には、上記石英ガラスがそれぞれ電気溶融石英ガラス及び火炎溶融石英ガラスであることが記載されているから、刊行物3に記載される徐冷点が約1200℃及び約1150℃の石英ガラスは、溶融石英ガラスであって、本件発明1の「ガラス形成原料を加熱加水分解して得られる石英ガラス微粒子を基材に体積・成長させて形成した」多孔質石英ガラス体を透明ガラス化することにより得た石英ガラスではない。
よって、刊行物3には、本件発明1の相違点2)に係る構成は記載されていない。
刊行物4には、アルコキシシラン溶液を加水分解して得たゾル液をゲル化し、乾燥したのち、1,000〜1,600℃でクリストバライト化し、脱水させ、ついでガラス化温度以上の温度で溶融してなる合成石英ガラス基板であって、OH基含有量が100ppm以下、Cl基含有量が10ppm以下で、かつ1,200℃での粘度特性が5×1012ポイズ以上であるものが記載され、実施例には1200℃での粘度特性が10×1012ポイズ(=1013ポイズ)、即ち、徐冷点が1200℃である合成石英ガラス基板が記載されている(第1表)が、合成ガラスはいわゆるゾルゲル法により製造されたものであるから、本件発明1の「ガラス形成原料を加熱加水分解して得られる石英ガラス微粒子を基材に体積・成長させて形成した」多孔質ガラス体を透明ガラス化することにより得た、「徐冷点が1180℃以上」の石英ガラス基板ではなく、また、「1,000〜1,600℃でクリストバライト化し、脱水させ」る工程も、本件発明1の「透明ガラス化する温度以下の温度域で水蒸気分圧の低い雰囲気中水蒸気分圧の低い雰囲気中に一定時間加熱保持」する工程とは、技術内容が異なるものである。
よって、刊行物4には、本件発明1の相違点2)に係る構成は記載されていない。
以上検討したように、刊行物1〜4の記載事項からは本件発明1の相違点2)に係る構成を導くことはできないから、刊行物1に、本件発明1の相違点1)に係る構成である「アルミニウム含有量が5〜40ppm」の石英ガラスが示唆されているとしても、アルミニウム含有量を5〜40ppmとした上で、多孔質石英ガラス体を、「透明ガラス化する温度以下の温度域で水蒸気分圧の低い雰囲気中に一定時間加熱保持した後」、透明ガラス化することにより、「徐冷点が1180℃以上」の石英ガラス基板を得ることは、刊行物1〜4に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
そして、本件発明1は、相違点1)、2)に係る構成を備えることにより、徐冷点が高く、耐熱性が高い優れた特徴を有し、また光学的均質性にも優れた特徴を有するポリシリコンTFT方式LCD用石英ガラス基板を提供することができるものである。(段落【0032】、表1)。

(2)本件発明2について
本件発明2は、本件発明1の構成に加え、基板面内の屈折率の変動幅が5×10-6以下であるという構成をさらに備える発明である。
基板面内の屈折率の変動幅を5×10-6以下とすることは、刊行物5〜7に記載されるようによく知られた事項であるが、基板面内の屈折率の変動幅が5×10-6以下であるという構成以外の構成を共通にする本件発明1が、刊行物1〜4に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない以上、本件発明2は、刊行物1〜4あるいは刊行物1〜7に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

4.むすび
以上のとおりであるから、特許異議の申立ての理由及び証拠によっては、本件発明1、2に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件発明1、2に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
ポリシリコンTFT方式LCD用石英ガラス基板
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガラス形成原料を加熱加水分解して得られる石英ガラス微粒子を基材に堆積・成長させて形成した、アルミニウム化合物を含む多孔質石英ガラス体を、透明ガラス化する温度以下の温度域で水蒸気分圧の低い雰囲気中に一定時間加熱保持した後、透明ガラス化温度に昇温加熱して透明ガラス化することにより得た石英ガラス体からなり、アルミニウム含有量が5〜40ppm、ハロゲン含有量が10ppm以下、OH含有量が100ppm以下、重金属およびアルカリ金属の含有量の総計が1ppm以下であって、徐冷点が1180℃以上であることを特徴とするポリシリコンTFT方式LCD用石英ガラス基板。
【請求項2】
基板面内の屈折率の変動幅が5×10-6以下である請求項1に記載のポリシリコンTFT方式LCD用石英ガラス基板。
【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】
本発明は、ポリシリコンTFT方式LCD用石英ガラス基板に関する。
【0002】
【従来の技術】
石英ガラスは、透明なガラス材料の中では最も耐熱性が高く、また熱膨張率が極めて小さく寸法安定性に優れていること、更に化学的な耐久性に優れていることのために、近年、ポリシリコンTFT方式LCD用の基板材料として、特にビデオカメラのビューファインダー等に用いられる小型のポリシリコンTFT方式LCD用として用いられている。
ポリシリコンTFT方式LCDの製造方法は一般的には、製造温度レベルにより、(1)高温プロセス法(最高プロセス温度約1000℃程度)、(2)中温プロセス法(最高プロセス温度約700℃程度)、(3)低温プロセス法(最高プロセス温度約500℃程度)の3種類に大別される。
【0003】
一般的に、テレビやディスプレー等の大面積TFT方式LCDの場合、製造コスト面からプロセスの低温化の方向での開発が、現在盛んに進められている。ところが一方、ビデオカメラのビューファインダー等に用いられる小型のポリシリコンTFT方式LCDについては、高温プロセスを採用した場合、従来のLSI製造ラインを大幅に変更すること無く製造することができるため、LSI製造で培われた信頼性の高いプロセス技術を有効活用でき、高歩留まりで高品質のTFT方式LCDを製造できるメリットがあるため、高温プロセスでの製造が主流となっている。
【0004】
この場合の問題点は、基板材料であるガラスの耐熱性にあり、かかる観点から石英ガラスが用いられるのが通常である。しかしながら、石英ガラスの耐熱性も、その種類・製造方法によりかなり差異を有しており、一般的にはいわゆる溶融石英ガラスが耐熱性という観点からは最も優れており、徐冷点(ガラスの粘度が1013ポイズを示す温度)で1170〜1220℃程度である。
【0005】
これに対し、合成石英ガラスからなる基板は、ガラス中に含まれる泡・異物等の品質面からははるかに優れているが、一方、一般に合成石英ガラスの徐冷点は1050℃〜1120℃程度であり、溶融石英ガラスに比較し100℃〜150℃程度低く、耐熱性がより劣っているので、ポリシリコンTFT方式LCD製造上合成石英ガラスからなる基板には問題があった。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の目的は、前述の問題点を解消し、ビューファインダー等に用いられるポリシリコンTFT方式LCD製造用に適した、耐熱性に優れ、蛍光発光等の実質的に無いポリシリコンTFT方式LCD用石英ガラス基板を提供するものである。
【0007】
【課題を解決するための手段】
本発明は前述の課題を解決するべくなされたものであり、ガラス形成原料を加熱加水分解して得られる石英ガラス微粒子を基材に堆積・成長させて形成した、アルミニウム化合物を含む多孔質石英ガラス体を、透明ガラス化する温度以下の温度域で水蒸気分圧の低い雰囲気中に一定時間加熱保持した後、透明ガラス化温度に昇温加熱して透明ガラス化することにより得た石英ガラス体からなり、アルミニウム含有量が5〜40ppm、ハロゲン含有量が10ppm以下、OH含有量が100ppm以下、重金属およびアルカリ金属の含有量の総計が1ppm以下であって、徐冷点が1180℃以上であることを特徴とするポリシリコンTFT方式LCD用石英ガラス基板を提供するものである。
【0008】
本発明のポリシリコンTFT方式LCD用石英ガラス基板は、基板面内の屈折率の変動幅が5×10-6以下であることが好ましい。
【0009】
本発明者らは、高純度な合成石英ガラスの耐熱性を、溶融石英ガラスと同等の特性とするべく、その差異の原因について鋭意検討を進めてきた。その結果特願平2-151601号(特開平4-46020号)に示すごとく、ある特定の元素、特に好ましくはアルミニウムの添加が極めて有効であることを見いだした。そして更に、詳細な検討を加えた結果、新たにポリシリコンTFT方式LCD用の基板材料としての使用が有効であることを見いだした。
【0010】
本発明において、石英ガラス基板に含有されるアルミニウム含有量は5〜40ppmの範囲である。かかる範囲よりも含有量が少ない場合には、耐熱性の向上が果たせず、また、かかる範囲よりも含有量が多い場合は、かかる範囲内の含有量のものと比べ耐熱性に実質的に変化がないことから、実用上の観点から好ましくない。
【0011】
ハロゲン含有量は、10ppm以下である。10ppmを超えるハロゲンが含有される場合には、耐熱性が低下する。また、OH含有量は、100ppm以下である。特には50ppm以下であることが好ましい。100ppmを超えるOH量を含有する場合には、ハロゲンと同じく耐熱性が低下する。
【0012】
重金属およびアルカリ金属の含有量については、その総和が1ppm以下である。1ppmを超えて含有する場合には、デバイスの不純物の拡散等悪影響を及ぼす。また、徐冷点とはガラスの粘度が1013ポイズを示す温度であるが、これは1180℃以上である。かかる温度以上の徐冷点を有すれば、ポリシリコンTFT方式LCD作成上のプロセス温度として1000℃程度を採用できる。
【0013】
また、光学的な均質性を得るためには、面内の屈折率の変動幅が5×10-6以下であることが好ましい。かかる変動幅を超える場合には、光学的な均質性を確保することが困難となるため好ましくない。
【0014】
かかる石英ガラス基板の製造方法としては、例えば、予めガラス形成原料を加熱加水分解して得られる石英ガラス微粒子を基材に堆積・成長させた多孔質石英ガラス体に、アルミニウム化合物を添加した後、これを透明ガラス化する温度以下の温度域で水蒸気分圧の低い雰囲気中に一定時間加熱保持した後、透明ガラス化温度に昇温加熱して透明ガラス化して石英ガラス体とする方法により作成できる。
【0015】
用いられるガラス形成原料としてはガス化可能な原料であれば特に制限されるものではないが、SiCl4、SiHCl3、SiH2Cl2、Si(CH3)Cl3等の塩化物、SiF4、SiHF3、SiH2F2等のフッ化物、SiBr4、SiHBr3等の臭化物、SiI4の沃化物等のハロゲン化珪素化合物が作業性やコストの面から好ましい。多孔質石英ガラス体は、これらのガラス形成原料を通常の酸水素火炎中で加水分解し、基材上に堆積させて形成される。
【0016】
次いで、このようにして得られた多孔質石英ガラス体に、アルミニウム原料を含む溶液を含浸させた後、アルミニウム含有物を多孔質石英ガラス体内部に析出、乾燥させる。含浸液としては、例えば、塩化アルミニウム、アルミニウムアルコキシド化合物のアルコール溶液等を採用することができる。また、必要に応じ酸や揮散性のアルカリを析出のための触媒として添加してもよい。
【0017】
このような方法によるアルミニウムの添加の場合、アルミニウムの溶液濃度により、添加量のコントロールが可能である。勿論、このような方法を採用する代わりに、多孔質石英ガラス体を堆積させる際の原料ガス中にアルミニウム化合物を添加してもよい。
このようにして得られたアルミニウム化合物を含む多孔質石英ガラス体は、ついで低水蒸気分圧雰囲気下で一定時間加熱保持された後、透明ガラス化温度まで昇温されて透明ガラス化して石英ガラスとなる。
【0018】
すなわち、例えば、多孔質石英ガラス体は雰囲気制御可能な電気炉内に予め装着された後、一定の昇温速度で加熱される。ついで所定の温度に到達の後、乾燥ガスを雰囲気中に導入し、多孔質石英ガラス体が接する雰囲気を置換することにより雰囲気中の水蒸気分圧を所定値以下に低減する。その水蒸気分圧としては、0.002mmHg以下であることが好ましく、これを超える場合には最終的に得られる石英ガラス中のOH量を低減させることが困難なため好ましくない。
【0019】
また加熱保持する温度域としては、800〜1250℃の範囲内が好ましく、この温度域より低い温度では実質的な効果が得られず、またこの温度域を超える温度では多孔質石英ガラス体の表面のガラス化が進行するため、多孔質石英ガラス体内部を所望の低水蒸気分圧雰囲気に置換することができず好ましくない。
【0020】
また、この温度域であれば、加熱処理の方法としては、一定温度に保持してもよく、またこの温度域内を所定の時間の範囲内で昇温させながら処理してもよい。またこの温度域での保持時間は、保持温度に依存するため一概に規定することはできないが1〜30時間程度が好ましく、これより短時間の場合には、実質的な効果がなく、またこれより長時間かけた場合にもその効果は変わらないために生産効率等を考慮に入れると好ましくない。
【0021】
また、乾燥ガスとしては、窒素、ヘリウム、アルゴン等を通常用いることができるが、乾燥ガスとして使用できれば必ずしもこれらのガスに限定されるものではない。ついでこのような加熱処理の後、多孔質石英ガラス体は透明ガラス化温度まで昇温されて透明ガラス化される。透明ガラス化温度としては、1350〜1500℃の範囲から採用することが好ましい。さらに、加熱処理と透明ガラス化処理は、それぞれ別の加熱装置で行われてもよいが、その場合には、移送時に水分が吸着することを防止する等の処置を講じることが好ましい。したがって、加熱処理と透明ガラス化を同一の設備で行うことが好ましい。
【0022】
こうして得られた石英ガラス体を軟化点以上の温度に加熱し、所望の形状に成形加工を行い石英ガラスインゴットを製造する。成形加工の温度域は、1650〜1800℃の範囲から選択することが好ましい。1650℃未満の温度では石英ガラスの粘度が高いため、実質的に自重変形が行われず、またSi02の結晶相であるクリストバライトの成長がおこりいわゆる失透が生じるため好ましくなく、1800℃を超える温度では、SiO2の昇華が無視できなくなり好ましくない。また、石英ガラス体の自重変形を行わせる方向は、特に規定されないが多孔質石英ガラス体の成長方向と同一であることが好ましい。
【0023】
こうして得られる石英ガラスインゴットは、さらに研削加工、スライス加工、研磨加工を経て、基板とされる。
以上のような工程を経て得られる石英ガラスは、石英ガラス中に含有されるアルミニウム量が5〜40ppm、ハロゲン量が10ppm以下、OH量が100ppm以下であり、該ガラス中のOH量の変動幅はほとんどの領域において±5ppm以内であって均質性に優れる石英ガラスである。
【0024】
また、本発明の石英ガラスは、鉄、ニッケル等の重金属元素やナトリウム、カリウム等のアルカリ金属元素の不純物総量が1ppm以下と極めて高純度であり、これをポリシリコンTFT方式LCD製造用に供した場合、高温処理を経ても不純物がシリコン膜その他の部位に拡散してその部位を劣化させることがない。
【0025】
以下、本発明の詳細についてさらに実施例により説明するが、当然のことながら本発明の内容はこれら実施例に限定されるものではない。
【0026】
【実施例】
公知の方法により、SiCl4を酸水素火炎中で加熱加水分解させて形成した直径35cm、長さ100cmの多孔質石英ガラス体を1200℃で仮焼成し、密度を整えた後、これに無水塩化アルミニウムの0.005重量%エチルアルコール溶液を減圧含浸した。次いで、これを室温の飽和蒸気圧の水分を含む空気を導入しながら100℃で5時間保持した後、乾燥した。次いで雰囲気制御可能な電気炉内に設置した。次いで露点温度-70℃の窒素ガスで電気炉内雰囲気を置換した後、露点温度-70℃の窒素ガスを流しながら500℃/hrの昇温速度で1000℃まで昇温した。
【0027】
引き続き昇温速度を50℃/hrとし、1250℃まで昇温して、その温度で10hr保持した。こうして得られた熱処理済みの多孔質石英ガラス体を透明ガラス化のための炉内最高温度が1450℃に制御された電気炉内上部に設置し、炉内を露点温度が-70℃のヘリウムガスで置換した後、80cm/hrの速度で下降させながら最高温度域を通過させて透明ガラス化を行った。
【0028】
こうして得られた透明石英ガラスを、カーボン製発熱体を有する電気炉内で、軟化点以上の1750℃に加熱して自重変形を行わせ、170mmφ×400mmの円柱インゴット形状に成形した。こうして得られた石英ガラスインゴットの長手方向の中心部より、170mmφ×57mmの石英ガラスインゴットを切り出し、形状を揃えるために円筒研削を行い、160mmφとした後、精密干渉計(ZygoIV)により屈折率分布を評価した結果を均質性(Δn)として表1に示す。
【0029】
またOH量およびその分布幅は、170mmφ×400mm石英ガラスインゴットの、屈折率分布を評価した部分のすぐ隣の場所より、2mm厚みのガラス板を切り出し日本分光社製簡易FTIR装置により3700cm-1の吸収により定量した。Cl含有量は得られた石英ガラスをアルカリ溶融したのち、イオンクロマトグラフィー法により定量した。また、アルミニウム含有量は得られた石英ガラスをフッ酸洗浄後、フッ酸分解し原子吸光法により定量した。また、徐冷点は、サンプルサイズ2.4mm×5mm×60mmのサンプルを切り出し、スパン52mmで、ビームベンディング法により測定した。結果を表1に示す。
表1よりわかるように、本実施例により、耐熱性に優れ、ポリシリコンTFT方式LCD用として好適な石英ガラスが得られた。
【0030】
【比較例】
アルミニウムの添加をせず、1250℃での熱処理を行わなかった他は、実施例と同一の方法で石英ガラスインゴットを作製した。その屈折率分布、OH量およびその分布幅、Cl含有量、および徐冷点を表1に示す。
【0031】
【表1】

【0032】
【発明の効果】
上述したように、本発明のポリシリコンTFT方式LCD用石英ガラス基板は、徐冷点が高く、耐熱性が高い優れた特徴を有する。また光学的均質性にも優れた特徴を有する。
 
訂正の要旨 訂正の要旨
(a)訂正事項a
明細書【特許請求の範囲】の【請求項1】に係る記載の
「アルミニウム含有量が・・石英ガラス基板。」
を、
「ガラス形成原料を加熱加水分解して得られる石英ガラス微粒子を基材に堆積・成長させて形成した、アルミニウム化合物を含む多孔質石英ガラス体を、透明ガラス化する温度以下の温度域で水蒸気分圧の低い雰囲気中に一定時間加熱保持した後、透明ガラス化温度に昇温加熱して透明ガラス化することにより得た石英ガラス体からなり、アルミニウム含有量が5〜40ppm、ハロゲン含有量が10ppm以下、OH含有量が100ppm以下、重金属およびアルカリ金属の含有量の総計が1ppm以下であって、徐冷点が1180℃以上であることを特徴とするポリシリコンTFT方式LCD用石英ガラス基板。」
に訂正する。
(b)訂正事項b
明細書【0007】に記載の「【課題を解決するための手段】・・ものである。」を、
「【課題を解決するための手段】
本発明は前述の課題を解決するべくなされたものであり、ガラス形成原料を加熱加水分解して得られる石英ガラス微粒子を基材に堆積・成長させて形成した、アルミニウム化合物を含む多孔質石英ガラス体を、透明ガラス化する温度以下の温度域で水蒸気分圧の低い雰囲気中に一定時間加熱保持した後、透明ガラス化温度に昇温加熱して透明ガラス化することにより得た石英ガラス体からなり、アルミニウム含有量が5〜40ppm、ハロゲン含有量が10ppm以下、OH含有量が100ppm以下、重金属およびアルカリ金属の含有量の総計が1ppm以下であって、徐冷点が1180℃以上であることを特徴とするポリシリコンTFT方式LCD用石英ガラス基板を提供するものである。」に訂正する。
(c)訂正事項c
明細書【0014】に記載の「かかる・・作成できる。」を、
「かかる石英ガラス基板の製造方法としては、例えば、予めガラス形成原料を加熱加水分解して得られる石英ガラス微粒子を基材に堆積・成長させた多孔質石英ガラス体に、アルミニウム化合物を添加した後、これを透明ガラス化する温度以下の温度域で水蒸気分圧の低い雰囲気中に一定時間加熱保持した後、透明ガラス化温度に昇温加熱して透明ガラス化して石英ガラス体とする方法により作成できる。」に訂正する。
異議決定日 2003-01-20 
出願番号 特願平3-327150
審決分類 P 1 651・ 121- YA (C03C)
最終処分 維持  
前審関与審査官 前田 仁志  
特許庁審判長 松本 悟
特許庁審判官 石井 良夫
酒井 美知子
登録日 2000-11-02 
登録番号 特許第3126187号(P3126187)
権利者 旭硝子株式会社
発明の名称 ポリシリコンTFT方式LCD用石英ガラス基板  
代理人 藤村 元彦  

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