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審決分類 審判 全部申し立て 発明同一  A61K
審判 全部申し立て 2項進歩性  A61K
管理番号 1074803
異議申立番号 異議2000-73182  
総通号数 41 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 1994-10-11 
種別 異議の決定 
異議申立日 2000-08-16 
確定日 2003-01-20 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第3010968号「保湿用乳化化粧料」の請求項1〜3に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 訂正を認める。 特許第3010968号の請求項1に係る特許を維持する。 
理由 I.手続きの経緯
本件特許第3010968号の請求項1〜3に係る発明についての出願は、平成5年3月31日に特許出願され、平成11年12月10日にその特許権の設定登録がなされ、その後、谷川睦子及び芳村武彦よりそれぞれ特許異議の申立てがなされ、取消しの理由が通知され、その指定期間内に訂正請求(後日取り下げ)がなされた後、再度取消しの理由が通知され、その指定期間内に訂正請求がなされたものである。

II.訂正の適否
II-1 訂正の内容
特許権者は、願書に添付した明細書を以下のように訂正することを求めている。

(1)特許請求の範囲の減縮を目的として特許請求の範囲を以下のとおり訂正する。

【請求項1】(a)油分を5.0〜50.0重量%と、(b)構造式が下記よりなる化合物の1種または2種以上を0.05〜25.0重量%と、
【化1】 (【化1】の化学構造式及び定義は訂正がないので、記載を省略する。)
(c)無機塩類を0.01〜10.0重量%(但し、前記無機塩類として組成物全量に対して5.0〜20.0重量%の海水を必須成分とする)と、(d)界面活性剤を0.05〜10.0重量%とからなる乳化基礎化粧品組成物。

(2)明瞭でない記載の釈明を目的として、上記特許請求の範囲の訂正に合わせて発明の詳細な説明の項を訂正する(「実施例」を「比較例」とする訂正、及び、実施例Noの訂正を含む)。(記載は省略する。)

II-2 訂正の適否の検討
(1)について
請求項2及び3の削除は特許請求の範囲の減縮であることは明らかであり、請求項1に係る訂正も、(C)成分についてさらに要件を付加するものであるから特許請求の範囲の減縮であることは明らかである。
そして、海水の添加及びその配合量に係る訂正は【0005】、【0009】、【0013】及び【0014】に記載されていると認められるので、上記訂正は、願書に添付した明細書に記載した事項の範囲内のものであり、実質的に特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。

(2)について
当該訂正は、特許請求の範囲の訂正に合わせて、発明の詳細な説明の項を整合が取れるよう訂正するものであり、明瞭でない記載の釈明をするものである。
そして、上述したと同様、これら訂正は、願書に添付した明細書に記載された事項の範囲内のものであり、実質的に特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。

以上のとおりであるから、上記訂正は、特許法第120条の4第3項において準用する平成6年法律第116号による改正前の特許法第126条第1項ただし書き、第2項及び第3項の規定に適合するので、当該訂正を認める。

III.特許異議申立てについて
III-1 本件発明
上記IIで示したように、上記訂正が認められるので、本件請求項1に係る発明(以下、本件発明という。)は、当該訂正明細書の特許請求の範囲に記載されたとおりのものである。

III-2 特許異議申立人谷川睦子の特許異議の申立について
III-2-1 特許異議申立ての理由の概要
特許異議申立人は、下記甲第1〜4証を提出して、(1)本件特許の請求項1〜3に係る発明(訂正前。以下、この項において同じ)は、甲第1号証及び甲第2号証で示す各先願の願書に最初に添付された明細書(以下先願明細書という。)に記載された発明と同一であって、その特許は特許法第29条の2第1項の規定に違反してされたものであるから取り消されるべきであり、又、(2)本件請求項1〜3に係る発明は、甲第3号証及び甲第4号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明できたものであって、その特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものであるから取り消されるべきであると主張している。



甲第1号証:特願平4-76920号(特開平5-279238号公報)
甲第2号証:特願平4-88629号(特開平5-286844号公報)
甲第3号証:特開平3-275697号公報
甲第4号証:特開昭62-209009号公報

III-2-2 特許異議の申立てについての検討
III-2-2-1 上記III-2-1(1)について
III-2-2-1-1 先願明細書に記載された発明
甲第1号証
特許請求の範囲には、「【請求項1】(A)下記一般式(1)(化学構造式の記載は省略する。)(式中、X及びYは双方が同じでも異なってもよいがステロールのエステル生成残基であるか或いはX及びYのどちらか一方がステロールのエステル生成残基で他方が水素原子、炭素数8〜30の液状高級アルキルもしくはアルケニルまたは炭素数12〜38の固形状飽和一価アルコールのエステル生成残基であり、CORは炭素数8〜22の長鎖アシル基であり、nは1または2である。)で表されるN-長鎖アシル酸性アミノ酸モノまたはジエステルの少なくとも一種を1〜50重量%、(B)硫酸エステル基、アミノ基またはべプチド結合を有する水溶性高分子から選ばれる少なくとも一種を0.002〜10重量%、を含むことを特徴とする油中水型乳化組成物。」と記載されている。
又、第3頁の【0013】には、「本発明の水中油型乳化組成物は医薬品、化粧品用途に用いることができ、化粧料用途では、乳液、化粧水、クリーム、メークアップ料等広い用途で化粧料組成物を構成することができる。」こと、第3〜4頁の【0020】〜【0022】には、「製造例2 N-ココイル-L-グルタミン酸ジコレステロールエステルの合成 反応容器にN-ココイルグルタミン酸ジクロライド365g(1モル)、トルエン1000g、ピリジン100gを入れ、トルエン500gに溶解させたコレステロール392g(1モル)を徐々に加える。攪拌しながら80℃で1時間反応させる。ピリジン塩酸塩の沈殿を濾過し除去した後、減圧下でトルエンを留去し、ワックス状の化合物を得た。このエステル化合物は酸価が3.0、ケン化価が110.5であり、N-ココイル-L-グルタミン酸ジコレステロールエステルが得られた。
製造例3 反応容器にN-ラウロイル-L-グルタミン酸1モルと混合アルコール(コレステロール0.6モル、2-オクチルドデシルアルコール1モル、べへニルアルコール0.4モル)を仕込み、これにトルエンを200ml加えた。ついで加熱攪拌し、触媒の硫酸をlml加え、90〜140℃で約4時間程度加熱攪拌を続け反応させた。この間副生する水分を充分に除去した。反応終了後、苛性カリ水溶液で中和し、トルエンを留去し、目的の3種のエステルの混合物を得た。酸価=3.06、ケン化価=121.87、PH(1%)=5.55で各エステル群のモル比(%)は30:50:20であった。
製造例4 反応容器にN-ステアロイル-L一グルタミン酸1モルと混合アルコール(フイトステロール0.4モル、2-オクチルドデシルアルコール1.2モル、ステアリルアルコール0.4モル)を仕込み、これにトルエンを200ml加えた。ついで加熱攪拌し、触媒のパラトルエンスルホン酸を1ml加え、90〜140℃で約4時間程度加熱攪拌を続け反応させた。この間副生する水分を充分に除去した。反応終了後、苛性カリ水溶液で中和し、トルエンを留去し、目的の3種のエステルの混合物を得た。酸価=3.06、ケン化価=121.87、PH(1%)=5.55で各エステル群のモル比(%)は20:60:20であった。」ことが記載されている。
そして、第4頁の【0023】には、試験例1として、「(A)成分3%、(B)成分0.03%、流動パラフィン12%、グリセリン5%、ポリジメチルシロキサン(200cPs)3%、POEジメチルシロキサン(HLB=7)3%、デカメチルシクロペンタシロキサン3%、トリグリセリルジイソステアリン酸0.5%、食塩0.5%、パラオキシ安息香酸メチル0.2%、精製水残余」の処方が記載され、【0024】には、「表1に示す(A)成分、(B)成分を含有する上記組成の乳化組成物につき、乳化安定性、使用感及び粘度を評価した。結果を表1に示す。」と記載されており、その表1には、「上記試験例1の(A)成分として、実施例2及び3では製造例2のエステル化合物、実施例4では製造例3のエステル化合物、そして、実施例5では製造例4のエステル化合物が使用されること」が開示されている。さらに、第5頁の【0029】には、使用例1として、乳液(W/O型)について、「製造例4のエステル化合物2(重量%)、部分脱アセチル化キチン0.01、グリセリルトリオクタノエート10、スクアラン5、グリセリン5、ポリジメチルシロキサン(200cPs)3、POEジメチルシロキサン(HLB=7)3、デカメチルシクロペンタシロキサン3、α-モノグリセリルエーテル0.5、食塩0.5、パラオキシ安息香酸メチル0.2、精製水残余」の処方が記載されている。
甲第2号証
実施例9には、乳液(W/O型)について「製造例4のエステル化合物7%、2-ピロリドン-5-力ルボン酸イソステアリルエステル0.5%、トリグリセリルジイソステアリン酸0.5%、グリセリルトリオクタノエート10%、スクアラン5%、ポリジメチルシロキサン(200cPs)3%、POEジメチルシロキサン(HLB=7)3%、デカメチルシクロペンタシロキサン3%、食塩0.5%、パラオキシ安息香酸メチル0.2%、グリセリン5%、部分脱アセチル化キチン0.03%、精製水残余」の処方が記載されている。製造例4のエステル化合物は、【0024】の製造例4によれば、N-ステアロイル-L-グルタミン酸とフイトステロール、2-オクチルドデシルアルコール、ステアリルアルコールとの反応物、すなわち、N-ステアロイル-L-グルタミン酸フィトステロールエステル、N-ステアロイル-L-グルタミン酸2-オクチルドデシルおよびN-ステアロイル-L-グルタミン酸ステアリルの混合物となる。
又、第3頁右欄第44〜46行には、甲第2号証の皮膚外用剤はべたつき感がなく、使用感が良好で、乳化安定性に優れたものである旨記載されている。

III-2-2-1-2 対比・判断
本件発明と甲第1号証及び甲第2号証で示される先願明細書に記載された発明を比較すると、これら先願明細書には、本件でいう(a)、(b)及び(d)及び食塩を配合する乳化基礎化粧品配合物が記載されているといえても、海水を使用することについて記載も示唆もない。
そして、先願明細書において配合されている食塩は、海水から調製される場合があり、多少の不純物として他の塩類等の成分を含むとしても、食塩は成分が実質的にNaClであるのに対し、海水は、NaClが多量あるとは言え、他の塩類等の成分も相当量含むものであって(例えば、化学大辞典(昭和53年縮刷版:共立出版株式会社発行)「食塩」及び「海水」の項参照。)、当該技術分野において食塩の慣用の代替物であるとただちにいえるものではない。
してみれば、本件発明1は、先願明細書に記載された発明と同一であるとはいえない。

III-2-2-2 上記III-2-1(2)について
III-2-2-2-1 甲第3号証及び甲第4号証に記載された発明
甲第3号証
第13頁左下欄1行〜同第14頁左上欄1行目の使用例2はW/O型ファウンデーションクリームであり、次の処方が開示されている。
「 成分1
スクワラン 15.0%
セレシン 3.0%
ミツロウ 1.0%
ホホバ油 3.0%
本発明のエステル混合物(試料No.8)4.0%
ジイソステアリン酸ポリグリセリン 6.0%
ミリスチン酸マグネシウム 1.0%
ステアリン酸アルミニウム 0.5%
顔料 15.0%
成分2
防腐剤 0.2%
硫酸マグネシウム 0.1%
ソルビツト 5.0%
ヒアルロン酸ナトリウム(1%水溶液) 2.0%
精製水 44.0%
成分3
香料 0.2%
100.0% 」
「本発明のエステル混合物(試料 No.8)」は、第11頁表2からすると、N-ラウロイル-L-グルタミン酸と、2-オクチルドデカノール、べへ二ルアルコールおよびフィトステロールとのエステル体3種の混合物である。
又、第14頁左上欄第2行〜同左下欄第3行目の使用例3はミルキーローションであり、次の処方が開示されている。
「 成分1
スクワラン 10.0%
本発明のエステル混合物(試料No.5)3.0%
オクタン酸イソセチル 9.0%
トリオクタン酸グリセリン 4.0%
ステアリン酸プロピレングリコール 0.5%
べへニルアルコール 0.5%
ステアリン酸 1.0%
親油型モノステアリン酸グリセリン 1.0%
オレイン酸ジグリセリン 0.5%
ステアリン酸ポリエチレングリコール 2.5%
成分2
防腐剤 0.2%
カルボキシビニルポリマ一 15.0%
(1.0%水溶液)
オレイルリン酸 0.4%
1,3-ブチレングリコール 5.0%
精製水 46.9%
成分3
L-アルギニン 0.3%
精製水 0.2%
100.0% 」
上記「本発明のエステル混合物(試料No.5)」は、第11頁表2からすると、N-ラウロイル-L-グルタミン酸と、2-オクチルドデカノール、べへニルアルコールおよびコレステロールとの各エステル体混合物である。
又、甲第3号証で用いられているN-長鎖アシル酸性アミノ酸エステルは、「皮膚および毛髪に対して、親和性および工モリエント性を付与する特徴がある。」と記載されている(第4頁右下欄第15〜17行)。
甲第4号証
甲第4号証には、ムコ多糖類と、ビタミンE類と、無機塩類とを必須に含有する化粧料が開示され、その第2頁左下欄第11〜19行目には、「本発明において必須に配合される無機塩類は、ナトリウム、カリウム、カルシウム、マグネシウム等の一価または二価の金属の生理的に許容される塩類であり、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化カルシウム、塩化マグネシウム、硫酸マグネシウム、炭酸水素ナトリウム、リン酸水素二ナトリウム、リン酸二水素ナトリウム、リン酸二水素カリウム等が挙げられる。」と記載されている。無機塩類の配合量は0.01〜5.0重量%であり(第2頁左下欄最下行〜同右下欄第1行)、本発明でいう化粧料とは「皮膚の保護を目的とした化粧料であり、特にスキンローション、カラミンローション、アストリンゼントローション、ヘアローション、ボディローション等の水性化粧料として用いられるものである。」(第3頁左上欄第1〜5行)と記載されている。

III-2-2-2-2 対比・判断
甲第3号証には、硫酸マグネシウムを0.1重量%含むW/O型ファウンデーションの処方が記載されているが、当該化粧品は、乳化基礎化粧品組成物ではないし、硫酸マグネシウムに代えて海水を特定量含む無機塩類を使用できる旨の示唆もない。甲第3号証には、他に乳化基礎化粧品組成物の開示もあるが、海水を特定量含む無機塩類を配合することについて記載も示唆もない。
甲第4号証には、無機塩類を含むことについて記載されているものの、無機塩類として、海水を特定量含むものが使用できる旨の記載も示唆もないし、無機塩類を配合する化粧料としては水性のものであり、油分を5重量%も含む乳化系のものではない。
そして、甲第3号証と甲第4号証を組み合わせたとしても、本件発明に係る(a)〜(d)成分を特定量配合した乳化基礎化粧品組成物は導き出されないし、当該構成を採用することによる効果(保湿効果の高い油分を配合しながらべとつきのない乳化基礎化粧品組成物を提供できる)も示唆されない。
してみれば、本件発明の進歩性は、甲第3号証及び甲第4号証によって否定されるものではない。

III-3 特許異議申立人芳村武彦の特許異議の申立について
III-3-1 特許異議申立ての理由の概要
特許異議申立人は、下記甲第1〜4号証を提出して、本件請求項1〜3に係る発明(訂正前)は、甲第1号証で示される先願明細書に記載された発明と同一であるから、その特許は、特許法第29条の2第1項の規定に違反してされたものであり、取り消されるべきであると主張している。



甲第1号証:特願平4-76920号(特開平5-279238号公報)
甲第2号証:「最新化粧品科学」改訂増補、第165〜166頁、日本化粧品技術者会編集、昭和63年6月6日、株式会社薬事日報社発行
甲第3号証:「化粧品原料基準外成分規格1993」第1113〜1114頁、厚生省薬務局審査課監修、平成5年10月14日、株式会社薬事日報社発行
甲第4号証:「化学大辞典4」縮刷版、第825〜826頁、化学大辞典編集委員会編、共立出版株式会社、1963年10月15日縮刷版第1刷発行

III-3-2 特許異議の申立てについての検討
先願明細書に係る甲第1号証は、上記特許異議申立人谷川睦子の提出した甲第1号証と同じであるので、上記「III-2-2-1-2」で述べたように、本件発明は、先願明細書に記載された発明と同一であるとすることはできない。
甲第2号証及び甲第3号証には、甲第1号証の製造例2で得られる化合物が、本件発明の【化1】で表される化合物、すなわち(b)成分であることが示され、甲第4号証には、「食塩」の分析例、主要性質、及び、市販品には、塩化マグネシウム、硫酸カルシウム、塩化カリウム、硫酸マグネシウムなど、多少の不純物を含むものであること、ならびに食塩は岩塩の産出のほかに海水よりの生産があることが示されているにすぎない。

IV.結び
以上のとおりであるから、特許異議申立ての理由及び証拠によっては、本件発明に係る特許を取り消すことはできない。
又、他に本件発明に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
保湿用乳化化粧料
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】 (a)油分を5.0〜50.0重量%と、(b)構造式が下記よりなる化合物の1種または2種以上を0.05〜25.0重量%と、
【化1】

(R1:C11〜C21までの直鎖の不飽和及び飽和アルキル。R2、R3:コレステロール、ベヘニルアルコール、オクチルドデカノール及びこれらの混合アルコールよりなるエステル基。)(c)無機塩類を0.01〜10.0重量%(但し、前記無機塩類として組成物全量に対して5.0〜20.0重量%の海水を必須成分とする)と、(d)界面活性剤を0.05〜10.0重量%とからなる乳化基礎化粧品組成物。
【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】
本願発明は皮膚に適用する保湿用乳化化粧料に関する。
【従来の技術および課題】
基礎化粧品を使用する重要な目的の一つに皮膚に対する保湿効果がある。このような目的で使用される基礎化粧品は肌に潤いを与え若々しい張のある肌を作る為に使用され、保湿用化粧品類として基礎化粧品の主要な地位を占めている。ところでこのような保湿化粧品は皮膚表面からの水分の蒸散を防止するために高濃度の油分を配合し、皮膚にこれらの油分により被膜を形成すると共に、皮膚内部にこれらの油分を浸透させ、皮膚の保湿効果をえる物であった。しかし、このような化粧品は、その油分のために肌がべた付き使用感に問題があり、また多量の油分は皮膚刺激の原因の一つでもあった。このような欠点を補うために、吸湿性・保湿性の高い物質、例えば、ヒアルロン酸Na、PCANa等の物質を多量に配合した保湿化粧品が開発された。このような物質は保湿効果は高いが非常に高価なため実際的な配合量は制限され、十分な効果はあげることができなかった。また同様の効果を持つ物質として安価な尿素を配合した化粧品も有るが、尿素は徐々に分解しアンモニアを生成し、製品の臭いや色調に悪影響を与える欠点があった。
【0002】
【課題を解決するための手段】
本願は、保湿効果の高い油分を配合しながら、べとつきのない化粧料を作ることを目的に種々研究を行ったところ、(a)油分を5.0〜50.0重量%と、(b)構造式が下記よりなる化合物の1種または2種以上を0.05〜25.0重量%、
【化2】

(R1:C11〜C21までの直鎖の不飽和及び飽和アルキル。R2、R3:コレステロール、ベヘニルアルコール、オクチルドデカノール及びこれらの混合アルコールよりなるエステル基。)(c)無機塩類を0.01〜10.0重量%(但し、前記無機塩類として組成物全量に対して5.0〜20.0重量%の海水を必須成分とする)と、(d)界面活性剤を0.05〜10.0重量%とからなる乳化基礎化粧品組成物が高い保湿性を有しながら、べた付きの無い良好な使用感を有することを見出し本願発明を完成した。
【0003】
以下に各成分について詳細に説明する。本願発明に用いる(a)油分は肌に被膜を作り、また皮膚に浸透し柔軟効果を有する油分で有れば特に限定されるものでなく、通常化粧品に使用する油分が使用できるが、それらのうち好ましい油分は例えば、流動パラフィン、スクワラン、ワセリン、ラノリン、トリイソステアリン酸グリセリン、マカデミアンナッツ油、オリーブ油、大豆油、メチルポリシロキサン、ステアリン酸等の炭化水素、油脂類、ロウ類、シリコン類、脂肪酸類等の1種あるいは2種以上であり、特に好ましい油分はワセリン、ラノリン、ステアリン酸で有る。これらの油分の配合量は5.0〜50.0重量%であり、好ましくは10.0〜30.0重量%である。5.0重量%以下では保湿効果が十分でなく、50重量%以上配合しても効果は変わらない。
【0004】
本発明に使用する(b)成分は、上記式2で表わされる化合物であり、これらの1種あるいは2種以上を0.05〜25.0重量%配合するもので、本化合物の配合によりべた付きは大きく改善され、使用感は向上する。本化合物の配合量が0.05重量%以下であれば、べた付き防止効果が十分でなく、また25.0重量%以上配合してもべた付き防止効果は配合量に比較して向上せず無駄である。本化合物の好ましい配合量は1.0〜10.0重量%である。また、油分の総量の2.0〜85.0%配合することが望ましい。
【0005】
本発明の(c)成分である無機塩類は通常化粧品に配合されることができる無機塩類であり、このような無機塩類として好ましい物は、カリウム、カルシウム、ナトリウム、マグネシウム、アンモニウムの塩化物、硫酸塩、リン酸塩、臭化物等であり、例えば、塩化カリウム、塩化マグネシウム、塩化ナトリウム、塩化カルシウム、塩化アンモニウム、硫酸カリウム、硫酸マグネシウム、硫酸ナトリウム、硫酸カルシウム、硫酸アンモニウム、リン酸カリウム、リン酸マグネシウム、リン酸ナトリウム、リン酸カルシウム、リン酸アンモニウム、臭化カリウム、臭化マグネシウム、臭化ナトリウム、臭化カルシウム、臭化アンモニウム等である。またこれらの水溶液を用いても良く、またこれらの1種または2種以上を混合して使用しても良い。このような物としては岩塩や海水等をあげることができる。
【0006】
本願組成物の(d)成分は本願組成物を乳化する為の界面活性剤で、化粧品に通常用いられる乳化剤が使用できる。本願は無機塩類を配合する乳化物であるため好ましい界面活性剤は非イオン界面活性剤であり、たとえば、ソルビタン脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレングリセリン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンフィトステロール、フィトスタノール、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンヒマシ油、ポリオキシエチレンラノリン・ラノリンアルコール・ミツロウ誘導体、ポリオキシエチレンアルキルアミン・脂肪酸アミド、ポリオキシエチレンアルキルフェニルホルムアルデヒド縮合物、ポリオキシエチレンアルキルエーテル等があげられる。これらのうち特に好ましいものはグリセリン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステルである。これらの活性剤は2種以上を混合して用いても良い。これらの界面活性剤の配合量は0.05〜10.0重量%であり、好ましくは1.5〜5.0重量%である。
【0007】
また、本発明には化粧品や医薬品に用いられる成分を適宜配合できる。例えば、増粘剤、中和剤、防腐剤、殺菌剤、酸化防止剤、粉体成分、色素、香料、紫外線吸収剤、金属封鎖剤、pH調製剤などが挙げられる。また、本発明にかかる乳化化粧料として、乳液、クリームなどの乳化タイプの剤型をとることができる。
【0008】
【実施例】以下に実施例を示し、本願発明を説明する
【0009】
【表1】

【0010】
製法:A相、B相それぞれをあらかじめ加熱、均一に混合したのち、両者をまぜあわせて均質に分散後容器に詰合せて製品とする。
評価:表1に示される実施例、参考例及び比較例のサンプルについて以下のテストする。
肌のカサカサを訴える人12名を被験者とする。上記クリーム1試料につき任意のカサカサする部分に2日に1回塗布の長期連用テスト(3ヶ月)を行なった。
【0011】
評価基準
(1)保湿感
A:保湿感があると感じた例 10〜12
B:保湿感があると感じた例 7〜 9
C:保湿感があると感じた例 4〜 6
D:保湿感があると感じた例 3以下
(2)べとつき
A:べとつきはないと感じ例 10〜12
B:べとつきはないと感じ例 7〜 9
C:べとつきはないと感じた例 4〜 6
D:べとつきはないと感じた例 3以下
【0012】
上記の結果から明らかなように、本発明の結果より3ヶ月の連用による評価においても保湿感があるにもかかわらず、べとつきのないことが認められ、比較例との差は明らかである。
【0013】
[実施例3:クリーム]
成分 配合量(重量%)
ステアリン酸 3.0
ワセリン 25.0
ジメチルポリシロキサン 3.0
ステアリン酸モノグリセリン 2.0
ヘキサグリセリンモノラウレイト 2.0
Nーラウロイル-L-グルタミン酸
ジコレステロールエステル 0.5
Nーラウロイル-L-グルタミン酸
ジベヘニルエステル 1.5
Nーラウロイル-L-グルタミン酸
ジオクチルドデシルエステル 0.5
水酸化カリウム 0.3
塩化ナトリウム 5.0
海水 5.0
精製水 残部
常法により乳化を行ない、クリームを試作した。
【0014】
[実施例4:乳液]
成分 配合量(重量%)
ステアリン酸 3.0
オリーブ油 10.0
ジメチルポリシロキサン 3.0
POE(20)ソルビタンモノ
ステアレート 2.0
ステアリン酸モノグリセリン 2.0
Nーラウロイル-L-グルタミン酸
ジコレステロールエステル 0.5
Nーラウロイル-L-グルタミン酸
ジベヘニルエステル 1.5
Nーラウロイル-L-グルタミン酸
ジオクチルドデシルエステル 0.5
水酸化カリウム 0.3
塩化ナトリウム 5.0
海水 20.0
カルボキシビニルポリマー 0.01
精製水 残部
常法により乳化を行ない、乳液を試作した。
【0015】
【0016】
【発明の効果】本発明にかかる乳化化粧料は、保湿効果と皮膚へのなじみが良く、しかもべとつかず使用感が良い。
 
訂正の要旨 訂正の要旨
特許請求の範囲の減縮を目的として、請求項2及び3を削除し、請求項1中の「無機塩類を0.01〜10.0重量%」を、「無機塩類を0.01〜10.0重量%(但し、前記無機塩類として組成物全量に対して5.0〜20.0重量%の海水を必須成分とする)」と訂正する。また、明瞭でない記載の釈明を目的として、上記訂正にあわせて、「発明の詳細な説明」の訂正を段落[0002][0009][0010][0013][0014]に行う(「実施例」→「参考例」への変更及び実施例No.の変更を含む)。
異議決定日 2002-12-25 
出願番号 特願平5-98531
審決分類 P 1 651・ 121- YA (A61K)
P 1 651・ 161- YA (A61K)
最終処分 維持  
前審関与審査官 塚中 直子種村 慈樹  
特許庁審判長 田中 倫子
特許庁審判官 竹林 則幸
横尾 俊一
登録日 1999-12-10 
登録番号 特許第3010968号(P3010968)
権利者 サンスター株式会社
発明の名称 保湿用乳化化粧料  
代理人 森岡 博  
代理人 森岡 博  

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