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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  F16K
管理番号 1074858
異議申立番号 異議2001-71636  
総通号数 41 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 1999-10-29 
種別 異議の決定 
異議申立日 2001-06-08 
確定日 2003-03-25 
異議申立件数
事件の表示 特許第3116305号「高炉用高温高圧流体の流量制御弁及びその弁軸の固着防止方法」の請求項1〜8に係る特許に対する特許異議の申立てについて、平成14年3月27日付けで「訂正を認める。特許3116305号の請求項1〜8に係る特許を取り消す。」との異議の決定がなされたところ、訂正2002-39198号の審判による明細書の訂正(平成14年12月27日確定)、及び東京高等裁判所における前記異議の決定の取消の判決(平成14年(行ケ)第245号、平成15年1月31日判決言渡)があったので、更に審理した結果、次のとおり決定する。 
結論 特許第3116305号の請求項1〜8に係る特許を維持する。 
理由 1.手続の経緯
(1)本件特許第3116305号は、平成10年8月31日に特許出願( 優先権主張:日本、平成10年2月10日)され、平成12年10月6 日に設定登録された。
(2)異議申立人・東鉄工株式会社より本件請求項1〜8に係る発明につい ての特許異議の申立てがあり、平成14年3月27日付けで「訂正を認 める。特許3116305号の請求項1〜8に係る特許を取り消す。」 との異議の決定がなされた。
(3)前記異議の決定に対して、平成14年5月14日付けで異議決定の取 消しを求める訴え(平成14年(行ケ)第245号)が提起された。
(4)平成14年9月24日付けで願書に添付した明細書について訂正を求 める審判の請求(訂正2002-39198号)がなされ、当該審判の 請求に対し、平成14年12月16日付けで「訂正することを認める。 」旨の審決がなされ、平成14年12月27日に確定した。
(5)平成15年1月31日に「特許庁が異議2001-71636号事件 について平成14年3月27日にした決定を取り消す。」との判決言渡 しがあった。

2.本件発明
前記訂正の審判により、訂正審判前の請求項1〜8の訂正は認められたので、訂正後の本件請求項1〜8に係る発明は、訂正明細書の特許請求の範囲の請求項1〜8に記載された事項により特定される、次のとおりのものと認める。
【請求項1】
弁板及び弁軸がセラミックスにより一体に形成された弁体と、前記弁軸が回転自在に挿通されるブシュを先端側に有し、送風支管の流路壁を構成する断熱性不定形耐火物を貫通して設けられた開□部に挿着される耐火物からなるプラグ部材と、前記プラグ部材が固着され、前記開口部の取付座に取り付けられる金属製の取付部材と、前記取付部材の前記プラグ部材と反対側の面に取り付けられる弁駆動手段とを備え、前記断熱性不定形耐火物の内周端の口径が流路の口径にほぼ等しくしてなる前記開ロ部に直接取り付けられるとともに、前記弁体を片持ち式に支持してなるカートリッジ式の流量制御弁であって、
前記プラグ部材の外周面に装着される第1のシール部材と、
前記取付部材と前記取付座の間に介装される第2のシール部材と、
前記取付部材の前記弁軸の軸受部材に装着されるグランドパッキンからなる第3のシール部材と、
を備えたことを特徴とする高炉用高温高圧流体の流量制御弁。
(以下、本件発明という)
【請求項2】
前記プラグ部材が、軸方向前部を高強度耐火物、軸方向後部.を断熱性耐火物とする2層構造からなることを特徴とする請求項1記載の高炉用高温高圧流体の流量制御弁。
【請求項3】
前記プラグ部材が先細り状の円錐台形状に形成してあることを特徴とする請求項1または請求項2記載の高炉用高温高圧流体の流量制御弁。
【請求項4】
第1のシール部材が耐熱性ファイバーからなることを特徴とする請求項1記載の高炉用高温高圧流体の流量制御弁。
【請求項5】
前記弁駆動手段と前記弁軸とは継手手段によって連結されていることを特徴とする請求項1記載の高炉用高温高圧流体の流量制御弁。
【請求項6】
前記プラグ部材は、その先端面が前記流路壁の内周面にほぼ一致するように前記開口部に挿着されることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか一に記載の高炉用高温高圧流体の流量制御弁。
【請求項7】
請求項1から請求項6のいずれか一に記載の高炉用高温高圧流体の流量制御弁において、前記弁軸と前記プラグ部材の軸孔との間隙に、加熱された気体を供給することを特徴とする高炉用高温高圧流体の流量制御弁の弁軸の固着防止方法。
【請求項8】
前記取付部材の内部に、前記第3のシール部材によってシールされ、前記弁軸と前記プラグ部材の軸孔との間隙に連適する空間部を設け、前記空間部に、加熱された気体の供給手段を接続したことを特徴とする請求項1から請求項6のいずれか一に記載の高炉用高温高圧流体の流量制御弁。

3.異議申立ての理由の概要
異議申立人・東鉄工株式会社は、本特許発明に係る「高温高圧流体の流量制御弁及びその弁軸の固着防止方法」は、その出願前の発明又はその出願前公知の甲第1号証乃至甲第13号証に記載された発明又は考案に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項並びに同法第39条の規定により特許を受けることができない旨を主張している。
なお、この中で異議申立人は、一応、特許法第39条も異議申立ての理由としているが、具体的な理由は全く示されていないので、斯かる理由に対しては審理の対象としない(特許法第39条ではなく、特許法第49条の誤記ともみられる)。

4.甲号証刊行物及び記載事項
本件発明に特に関連する刊行物として、次のものがある。
[刊行物1] 実公昭63一46771号公報
(異議申立人が提示した甲第1号証)
[刊行物2] 特開平7一27234号公報
[刊行物3] 特開平4一285368号公報
(同じく、甲第6号証)
[刊行物4] 実開平5一40665号公報
[刊行物5] 特開平10一176758号公報
(同じく、甲第5号証)
なお、刊行物1〜4は、異議2001一71636に係る平成13年 11月13日付けの再度の取消理由通知で引用された刊行物であり、刊 行物1〜3は、当該異議に係る平成14年3月27日付けの異議の決定 で引用された刊行物である。

[刊行物1の記載事項]
(A)「本考案は、セラミックス製弁体を有する高温用のバタフライ弁に関する。製鉄用高炉の羽口からは例えば温度1200℃・・・・そして、かかる高温高圧高流速の空気の流量を羽口毎にそれぞれ独立制御する弁が望まれている。」(第1欄10行から18行)
(B)「弁体2はセラミックスで一体に形成された弁板2aと弁軸2bとからなっている。」(第3欄30行から32行)
(C)「ケーシング3は開口端縁にフランジ4,4を有する金属カバー5と、この金属カバー5の内側に二層に張られた耐火材6a、6bからなる断熱層6とからなっており、内部に流体流路7が形成されている。ケーシング3の外周壁から流体流路7に向けて弁体挿入口8が形成され、この弁体挿入口8にプラグ8が挿入されている。」(第3欄36行から42行)
(D)「プラグ9は軸孔10を有し、この軸孔10に弁軸2bが挿通されている。軸孔10の流体流路7における開口縁内周にはブッシュ11が装着されている。プラグ9は耐火断熱材からなり」(第3欄43行から4欄2行)
(E)「金属製フランジ14はその外周を円筒15およびリング17に図示せぬボルトにより締結されている。円筒15は一端を金属カバー5に溶接されており、」(第4欄14行から17行)
(F)「弁体挿入口8は弁体2の弁板2aが挿入できる幅を有し、」(第4欄9行から10行)
(G)「プラグ9と弁体挿入口8の内周との間にはセラミックファイバ一等のシール材12が介在している。」(第4欄10行から13行)
(H)第1図、第2図には、弁体は、片持ち式に支持され、ケーシングの側面に設けられた前記開口部に取り付けられているものが記載されている。
第1図、第2図とともに前記各記載事項を参照すると、刊行物1には、
「弁板及び弁軸がセラミックスにより一体に形成された弁体と、前記弁軸が回転自在に挿通されるブッシュを先端側に有し、流路壁を構成する断熱性耐火物を貫通して設けられた弁体挿入口に挿着される耐火物からなるプラグと、前記プラグが固着され、前記弁体挿入口の円筒に取り付けられる金属製フランジと、前記金属製フランジの前記プラグと反対側の面に取り付けられる弁駆動手段とを備え、前記弁体を片持ち式に支持してなる流量制御弁であって、前記プラグと前記弁体挿入口の間に第1のシール材を備えた高炉用高温高圧流体の流量制御弁」
に関する発明が記載されているものと認められる。
[刊行物2の記載事項]
(I)「本発明は、ダクトに取り付けるちよう形弁であって・・・・該軸受けはダクトまたはその周辺から支持された構成とし、弁箱に相当する部分をなくしたことによって上記課題を解決した。」(第2欄段落【0007】)
(J)「この発明のちよう形弁においては弁箱という従来のダクト用ちよう形弁概念を取り除き弁体を取り付けるフランジのみを有し、これを着脱する-ことにより弁体をダクトより着脱することができる。ちよう形弁の保守等のため弁体をダクトから取り外す場合、・・・・ダクト取り付けフランジと該フランジと相対するダクト側フランジとを切り離すことにより、弁体とダクト取り付けフランジともう一方の軸受けを一体として取り外すことができる。」(第2欄段落【0008】)
(K)「1.ちょう形弁に接続する前後ダクトを一体型とすることができ、ちよう形弁部分でダクトを分断しなくてよい」(第3欄段落【0016】)
[刊行物3の記載事項]
(L)「32は弁軸12の横振れを防止するため内層25の弁軸穴30の大径部内に装着されたブッシュで、・・・・高強度セラミックによって構成されている。33は弁軸穴30の小径部及び外層24と弁軸12との間に介装されたセラミックスファイバ一等からなるシール材である。」(第4欄段落【0020】)
[刊行物4の記載事項]
(M)「配管中に接続されているバタフライ弁の点検、修理等を行なう場合でも、弁本体は配管に接続した状態で、蓋部材を外すことによって回転軸と弁板と取り出すことができる」(第8頁段落【0016】)
(N)図2、図3には、流路方向に沿った長穴から弁板を流路内に挿入可能としたものが記載されている。
[刊行物5の記載事項]
刊行物5は、平成8年12月17日に特許出願され、平成10年6月30日に出願公開された公開特許公報である。一方、本件出願は、平成10年2月10日を国内優先日とする平成10年8月31日の特許出願である。本件特許出願の内容と本件の優先基礎出願の内容とを比べてみると、両者は、「カートリッジ式の流量制御弁であること」、「流量制御弁のプラグ部材が外周がやや先細のテーパー状をした、全体として円錐型形状であること」、「プラグ部材の外周にシート状のシール材(第1のシール部材)を巻き付けたこと」、「流路壁を構成するのは鉄皮及び内張り材の断熱性不定形耐火物であること」、「断熱性不定形耐火物の内周端の口径は流路の口径にほぼ等しく、弁板がちょうど通るだけの口径となっていること」が共通の開示事項である。これ以外の点については、本件出願で新たに加わった構成(請求項1においては、第2,3のシール部材、請求項7,8においては、加熱気体供給手段)であり、前記共通の開示事項に加えてこの新たな構成を含む本件出願の出願日は、現実の出願日である平成10年8月31日であるとみて差し支えない。そうしてみると、刊行物5は本件出願前に頒布された刊行物であるので、本件出願に対して公知文献となりえる。
刊行物5には、セラミックス弁装置に関するものであり、セラミックス製の弁体(弁板及び突起)を弁箱の流路内に両持ち式で回転自在に支持し、弁体を抜き出せるように流路を形成する耐熱部材を分割するものが記載されている。
(O)「セラミックス弁装置は、セラミックス製の弁体10と、この弁体10を突起部10a及びこれに嵌合された弁軸11で回転可能に支持する弁箱12と、この弁箱12の内部に管路13を形成する耐熱部材14、15等から構成されている。」(段落【0007】)
(P)「弁体10は、高温環境下でも耐えられるようにセラミックスで構成されており、両端にこれを回転するための突起部10a,10aが一体に形成されている。突起部10aの先には、金属製の弁軸11が取り付けられている。・・・・弁箱12は、弁軸11の配置される部位の一方に角形のパッキン箱16が形成されており、このパッキン箱16の蓋17を貫いて弁軸11が配置される。」(段落【0008】)
(Q)「耐熱部材14は、弁体10の軸線方向Aに抜き出せるように耐熱部材15に分割されている。耐熱部材15は、弁体10の幅よりやや大きく構成されており、これを取り出せば、耐熱部材14はそのままでも弁体10を抜き出すことがでる。」(段落【0009】)
(R)「セラミックス弁装置の弁体交換方法について述べると、・・・・弁箱12の蓋17に固定された弁軸11回りの耐熱部材15を矢印A方向に抜き出す。耐熱部材15を引き抜いた後、弁体10を軸線方向に抜き出す。弁体を交換後、蓋17と一体的に固定された耐熱部材15を弁軸11の周囲に装着し、弁軸11を回転自在に支持する。」(段落【0010】)
(S)「本発明のセラミックス弁装置は、弁体10の周囲の耐熱部材を壊すことなく弁体の交換作業ができ、修理、交換作業を簡易迅速に行うことができる。」(段落【0011】)。
(T)図2には、流路と直交する方向に設けた長六から弁体(弁板)を挿入、抜取り可能としたものが記載されている。

5.当審の判断
[本件発明について]
本件発明と刊行物1に記載の発明とを対比すると、刊行物1記載の発明の、弁体挿入口の外周部に立設する「円筒」、及びプラグが固着された「金属製フランジ」は、本件発明の「取付座」、及び「金属製の取付部材」に相当するから、両発明は、「弁板及び弁軸がセラミックスにより一体に形成された弁体と、前記弁軸が回転自在に挿通されるブシュを先端側に有し、流路壁を構成する断熱性耐火物を貫通して設けられた開口部に挿着される耐火物からなるプラグ部材と、前記プラグ部材が固着され、前記開口部の取付座に取り付けられる金属製の取付部材と、前記取付部材の前記プラグ部材と反対側の面に取り付けられる弁駆動手段とを備え、前記弁体を片持ち式に支持してなる流量制御弁であって、前記プラグ部材と前記開口部の間に第1のシール部材を備えた高炉用高温高圧流体の流量制御弁。」である点で一致し、次の点で相違しているものと認められる。
(相違点1)
本件発明では、「送風支管に取り付けられた」「カートリッジ式の流量制御弁」であるのに対し、刊行物1記載の発明では、「ケーシング」に取り付けられた流量制御弁である点
(相違点2)
本件発明では、「前記プラグ部材の外周面に装着される第1のシール部材」を備えているのに対し、刊行物1記載の発明では、「プラグと弁体挿入口の内周との間に介在されるシール材」を備えている点
(相違点3)
本件発明では、「取付部材と取付座との間に介装される第2のシール部材」を備えているのに対し、刊行物1では、その箇所にシール材を介装することは記載されていない点
(相違点4)
本件発明では、「取付部材の弁軸の軸受部材に装着されるグランドパツキンからなる第3のシール部材」を備えているのに対し、刊行物1では、その箇所にシール材を介装することは記載されていない点
(相違点5)
本件発明では、「前記断熱性不定形耐火物の内周端の口径が流路の口径にほぼ等しくしてなる前記開口部」であるのに対し、刊行物1記載の発明では、「弁体の弁板が挿入できる幅を有する弁体挿入口」である点
前記相違点について検討すると、
相違点1について
本件発明における「カートリッジ式の流量制御弁」の意味するところは平成14年1月14日付け訂正請求書に添付された訂正明細書第3頁、段落番号0005の「本発明は、・・・・従来のように弁のケーシングを必要とせずに直接配管に取り付けられるようにカートリッジ式の制御弁とするとともに、・・・・」、同10頁段落番号0018「この流量制御弁10はカートリッジ式に構成されており、従来のように弁のケーシングをもっていないので、構成が簡単で配管との着脱が容易であり、かつ流量制御弁10の取付や交換の際に送風支管100ごと変更するような施工を必要としない」という記載から、弁のケーシングを必要とせず、直接配管に取り付ける流量制御弁と解されるところ、前記(I)〜(K)で指摘したように刊行物2には、ケーシングではない「送風管の側面に設けられた開口部に直接取り付けられる弁」が記載されていることが認められる。
さらに、刊行物2には、前記(K)で引用した部分の記載および図4から、弁装置の一部を一体に組み立てて取り外しすることが記載されており、これを刊行物1記載の発明の弁駆動装置、弁体などに適用し、弁をあらかじめ組み立てた「カートリッジ式」(平成14年1月24日付け意見書9頁の「弁装置-式」に相当する)とすることは当業者にとって容易に推考しえることである。
そうしてみると、当業者が、刊行物1記載の発明に刊行物2記載の技術的事項を適用し、送風支管の側面に設けられた開口部に直接取り付けられるカートリッジ式とすることは、いずれも同じ流路内の流体を制御する弁の分野に属するものであるので、技術的に困難性があるとはいえない。
相違点2について
本件発明では、前述のように「カートリッジ式の流量制御弁」であるから、第1のシール部材は、プラグ部材の外周面に装着されている。これに対して、刊行物1記載の発明では、前記(G)で指摘するように、「プラグ9と弁体挿入口8の内周との間にはセラミックファイバ一等のシール材12が介在している。」となっており、また、「なお、組立に際し、・・・・プラグ9を弁体2と共に弁体挿入口8内に挿入し、弁板2aを流体流路7内に配置する。その場合、プラグ9と弁体挿入口8との間にはシール材12を介在させる。」(刊行物1の第5欄30行から35行参照)と記載されているように、シール材12は、プラグ9と弁体挿入口8の内周との間に介在するものであって、プラグ部材の外周面に装着されていない。しかしながら、装着であろうが介在であろうがその間にシール材が存在していることに変わりはなく、必要によりシール材をプラグに巻き付けておく等してプラグにシール材を一体的に装着させておくようなすことは当業者が容易に推考し得た程度のことである。
相違点3について
刊行物1には、「リング17を金属製フランジ14とともに円筒15にボルト締めし」(公報第6欄3行〜4行)」と記載されるにとどまるが、部材間のシール性を増すために、部材間にシール部材を介装することは周知の技術手段であり(例えば、特開平4一92168号公報(異議申立書の甲第7号証)参照)、前記周知の技術手段であるシール部材を刊行物1記載の発明における取付部材と取付座との間に適用することは、当業者が容易に想到し得たことである。
相違点4について
前記(L)に示すとおり、弁軸の先端側に設けたブッシュ以外に、弁軸の軸受けとなる部分にシール材を設ける技術思想が公知であるし、軸受けとなる部分に設けるシールとしてグランドパッキンを介装することも流量制御弁の分野では周知の技術手段である(例えば、特開平9-60751号公報、実願昭63-16263号(実開平1-121773号公報)のマイクロフイルム、特開昭62-9070号公報)。そして、流体の漏洩を防止するにあたりシール部材を複数個設ければ、それだけ漏洩が防止できることは明らかなことであるし、シール部材を複数設けるに際しては、少なくとも流体が進入する側と、進入した流体が漏れ出す側との2箇所に設けることは、当業者にとって容易に想到し得ることである。そうしてみると、刊行物1記載の発明において、軸先端のブッシュに加え、流体の漏れ出す側である取付部材の弁軸の軸受部材にグランドパッキンからなる第3のシールを設けることは、当業者が容易に想到し得たものというべきである。
相違点5について
刊行物1の第1図を見ると、プラグ9と弁板2aとの間には耐火材6aの部分が入り込んだ状態でバタフライ弁が取り付けられている。このことは、審判請求書に添付の参考図5に示すように、開口部の先端側の開口が、長径d1と短径d2を持つ長穴になっていることを意味している。したがって、刊行物1では、第1図に示すような弁全閉の状態では引き抜きも挿入も全く不可能であり、弁板をほぼ全開の状態にしなければ引き抜き及び挿入ができない構成となっている。
また、刊行物2でも、図3に示すように、ちよう形弁貫通用開口18がダクト軸方向を長辺とする矩形状になっていることから刊行物1記載のものと同様に弁板をほぼ全開の状態にしなければ引き抜き及び挿入ができない構成となっている。
一方、本件発明では、送風支管の側面に設けられた開口部は、「該開口部における前記断熱性不定形耐火物の内周端のロ径が流路の口径にほぼ等しくなっている」ものであるから、流路を開閉するように流路内に設けられている弁板の向きにかかわらず弁体の挿入、引き抜きが可能である。したがって、本件発明の「カートリッジ式の流量制御弁」は弁板の向きに全く関係なくそのままの状態で着脱が可能となるものである。
また、弁体が動作不良(回転不能)となるのは、何も弁軸の軸受部での固着に限られるものではなく、モータ等の故障の場合もあり得る。そうした場合に、直ちに流量制御弁を取り外さなければならないが、上記のように弁板の着脱方向の向きが限定されていると、取り外しが困難な事態が起こり得るが、このような場合でも、本件発明のカートリッジ式の流量制御弁では、弁板の向きにかかわらずそのまま取り外しが可能となる。
このように、『弁板の向きにかかわらずいつでもそのまま弁板を取外し可能な構成とした』ものは刊行物1,2のいずれにも記載されていない。また、斯かる構成は、刊行物3〜5及び異議申立人の提出した他の証拠(甲第2〜4号証、甲第7〜13号証)のいずれにも記載されていないし、当業者にとって自明な構成であるともいえない。
なお、刊行物1記載の発明では、開口部が流路方向に長い形状をしているので、弁板の向きを流路がほぼ全開状態となるようにして、弁体を挿入、抜取りすることになり、また、刊行物5記載の発明では、開口部が流路と直交する方向に長い形状をしているので、弁板の向きを流路がほぼ全閉状態となるようにして、弁体を挿入、抜取りすることになる。全開状態での挿入・抜取り、又は、全閉状態での挿入・抜取りを行うことを可能にした刊行物1又は刊行物5があるからといって、これらの刊行物に記載された発明は、いずれも決まった方向からの挿入・抜取りを開示しているに過ぎず、刊行物1及び刊行物5があるからといって、直ちにどの向きからも弁体(弁板)を挿入・抜取り可能とする本件発明を想到しえるものではない。
そして、本件発明は、斯かる構成を備えたことにより刊行物1〜5及び異議申立人の提出した他の証拠に記載された技術的事項から予測し得ない前述した利便性を発現するものと認められる。
それゆえ、本件発明は刊行物1〜5に記載された発明、前記周知の技術手段及び異議申立人が提示した他の証拠に記載された技術事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

[請求項2〜8に係る発明について]
請求項2〜8は、いずれも請求項1を直接又は間接に引用するものであり、前述したとおり本件発明が容易に推考し得たものでない以上、請求項2〜8に係る各発明もこれらの刊行物1〜5に記載の発明、周知の技術手段及び異議申立人が提示した他の証拠に記載された技術事項から容易に推考し得たものでないのは明白である。

したがって、本件の請求項1〜8に係る各発明は、刊行物1〜5に記載された発明、前記周知の技術手段及び異議申立人が提示した他の証拠に記載された技術事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

6.結語
以上のとおり、本件の請求項1〜8に係る特許は、特許異議申立人が主張する理由及び提出した証拠によっては取り消すことができない。
また、他に本件の請求項1〜8に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2002-03-27 
出願番号 特願平10-244591
審決分類 P 1 651・ 121- Y (F16K)
最終処分 維持  
前審関与審査官 渡邉 洋  
特許庁審判長 蓑輪 安夫
特許庁審判官 藤井 俊明
鈴木 久雄
登録日 2000-10-06 
登録番号 特許第3116305号(P3116305)
権利者 旭硝子株式会社 日本鋼管株式会社
発明の名称 高炉用高温高圧流体の流量制御弁及びその弁軸の固着防止方法  
代理人 小林 久夫  
代理人 佐々木 功  
代理人 大村 昇  
代理人 小林 久夫  
代理人 木村 三朗  
代理人 佐々木 宗治  
代理人 佐々木 宗治  
代理人 大村 昇  
代理人 木村 三朗  

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