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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  C08L
審判 全部申し立て 発明同一  C08L
管理番号 1074971
異議申立番号 異議2002-72805  
総通号数 41 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 1994-05-10 
種別 異議の決定 
異議申立日 2002-11-22 
確定日 2003-03-13 
異議申立件数
事件の表示 特許第3286682号「ポリフェニレンスルフィド樹脂組成物および光反射用成形品」の請求項1、2に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 特許第3286682号の請求項1、2に係る特許を維持する。 
理由 [1]手続の経緯
本件特許第3286682号は、平成4年10月15日に特許出願され、平成14年3月15日にその特許の設定登録がなされ、その後、岩田 直子より特許異議の申立てがなされたものである。

[2]特許異議申立ての理由の概要
特許異議申立人岩田 直子は、甲第1号証(特願平4-98653号出願の願書に最初に添付した明細書、特開平5-271484号公報参照)、甲第2号証(特開平2-178340号公報)、甲第3号証(特開平4-202364号公報)、甲第4号証(特開平3-252002号公報)、甲第5号証(特開昭51-11844号公報)及び第6号証(特開平3-126761号公報)を提出して、本件請求項1及び請求項2に係る発明(以下、請求項1に係る発明を「本件発明1」と、請求項2に係る発明を「本件発明2」という。)は、甲第1号証に記載された発明と同一であり、かつ、出願人及び発明者が同一でないから、特許法第29条の2の規定に違反して特許されたものであり、また、甲第2〜6号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項に違反して特許されたものであり、特許を取り消すべきものであると主張している。

[3]本件発明
本件発明1及び2は、特許明細書の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1及び2に記載された事項により特定される次のとおりのものである。
『【請求項1】(A)ポリフェニレンスルフィド樹脂65重量%を超え95重量%以下、および
(B)エチレン成分と下記一般式(I)または(II)で表される環状オレフィン成分からなり、135℃のデカリン中で測定した極限粘度〔η〕が0.01〜10dl/g、軟化点(TMA)が70℃以上である耐熱性環状オレフィン系ランダム共重合体
【化12】

【化13】

(ただし、式中nおよびmは、いずれも0または正の整数であり、lは3以上の整数であり、R3ないしR12は、各々水素原子、ハロゲン原子またはアルキル基を示す。)
5重量%以上35重量%未満の割合で含有する樹脂分100重量部に対して、
(C)変性熱可塑性共重合体を0〜10重量部
(D)繊維状強化材を0〜50重量部
(E)無機充填剤を30〜150重量部
の割合で含有することを特徴とするポリフェニレンスルフィド樹脂組成物。
【請求項2】請求項1記載のポリフェニレンスルフィド樹脂組成物を成形してなる光反射用成形品。』

[4]甲第1〜6号証の記載事項
甲第1号証には、次のことが記載されている。
(a)『(a)環状オレフィンとα-オレフィンとを共重合して得られる共重合体であってガラス転移温度(Tg)が30℃以下である環状オレフィン系共重合体2〜98重量%と、(b)熱可塑性樹脂98〜2重量%とからなることを特徴とする熱可塑性樹脂組成物。』(請求項1)
(b)『環状オレフィン系共重合体は、135℃のデカリン中で測定した極限粘度〔η〕が0.01〜20dl/gであることが好ましい。・・・・・より好ましい極限粘度〔η〕は0.01〜10dl/gである。』(段落【0016】)
(c)『熱可塑性樹脂としては、・・・・・ポリフェニレンサルファイド・・・・・等である。なお熱可塑性樹脂は必要により2種以上を併用することができる。』(段落【0053】)
(d)『本発明の樹脂組成物には、・・・・・無機充填剤・・・・・等を配合することができる。』(段落【0055】)
甲第2号証には、次のことが記載されている。
(a)『〔A〕エチレン成分と、下記一般式〔I〕または〔II〕で表わされる環状オレフィン成分とからなり、135℃のデカリン中で測定した極限粘度〔η〕が0.01〜10dl/g、軟化温度(TMA)が70℃以上である環状オレフィン系ランダム共重合体40〜84重量%、および
〔B〕ポリフェニレンスルフィド16〜60重量%
を含有することを特徴とする耐熱性環状オレフィン系ランダム共重合体樹脂組成物。
一般式

〔式中、nおよびmはいずれも0もしくは正の整数であり、lは3以上の整数であり、R1ないしR10はそれぞれ水素原子、ハロゲン原子または炭化水素基を示す。〕』(特許請求の範囲1)
(b)『本発明の樹脂組成物には上記成分のほかに強化繊維を配合してもよい。配合可能な強化繊維としては、ガラス繊維、炭素繊維、ボロン繊維、チタン酸カリウム繊維、ウォラストナイト、アスベスト繊維等の無機物あるいはケブラー等の商標で知られるアラミド繊維等の有機物からなる繊維状物質などがあげられる。』(第8頁左下欄第10〜16行)
(c)『また本発明の樹脂組成物には、本発明の目的を損なわない範囲で他の樹脂成分を配合してもよい。配合可能な樹脂成分としては、・・・・・マレイン化変性ポリエチレン、マレイン化変性ポリプロピレンなどの不飽和カルボン酸で変性した変性ポリオレフィンなどを例示できる。』(第8頁右下欄第3〜9行)
甲第3号証には、次のことが記載されている。
(a)『A.溶融粘度が500〜1500ポイズおよび、そのときの非ニュートン指数が1.05〜1.40であるポリフェニレンスルフィド樹脂100重量部、
B.繊維径が9μm未満のガラス繊維20〜50重量部、
C.球状充填剤80〜120重量部
よりなることを特徴とするポリフェニレンスルフィド樹脂組成物。』(特許請求の範囲)
(b)『ポリフェニレンスルフィド樹脂は、その優れた耐熱性、・・・・・を生かして・・・・・自動車機器部品材料として注目を集めている。例えば、自動車用ランプリフレクター等、・・・・・への適用が期待されている。』(第1頁右下欄第4〜10行)
(c)『ポリフェニレンスルフィド樹脂は、・・・・・樹脂単独では、耐熱性、機械的強度とも十分ではない。そのため、ポリフェニレンスルフィド樹脂は、繊維状強化材を添加することにより、耐熱性、機械的強度を高めて使用される。しかしながら、成形品の表面平滑性は、繊維状強化材の添加により低下する。』(第1頁右下欄11〜18行)
(d)『ポリフェニレンスルフィド樹脂は、低コスト化、低ソリ化を図るため、多量の無機充填剤を添加することが行われている。しかしながら、この処方では、多量の無機充填剤の影響で、成形品の平面潤滑性の低下、流動性の低下が引き起こされる。』(第1頁右下欄下から第2行〜第2頁左上欄第4行)
(e)『本発明は、限定された流動性を示すポリフェニレンスルフィド樹脂に、特定のガラス繊維と球状充填剤を配合することにより、成形品の表面平滑性に優れたポリスルフィド樹脂組成物を提供するものである。』(第2頁右上欄第5〜9行)
(f)『さらに必要に応じて、ポリエチレン、・・・・・等の単独重合体、ランダム、ブロックまたはグラフト共重合体の一種以上を混合して使用することもできる。』(第4頁右上欄下から第5行〜同頁左下欄第14行)
甲第4号証には、次のことが記載されている。
(a)『ポリフェニレンスルフィド樹脂30〜70重量%、繊維状または非繊維状の無機質充填材70〜30重量%からなる樹脂組成物100重量部に対し、分子内に少なくとも2個のエポキシ基を有する分子量2,000以下の多官能エポキシ化合物0.1〜10重量部を添加してなるポリフェニレンスルフィド樹脂組成物を溶融射出成形することにより得られる成形体を基体とするランプリフレクター。』(特許請求の範囲)
甲第5号証には、次のことが記載されている。
(a)『無機充填剤を含有するポリアリーレンスルフィド樹脂に対し、0.1ないし2.0重量%のエポキシ樹脂を配合してなるポリアリレーンスルフィド樹脂配合物。』(特許請求の範囲)
甲第6号証には、次のことが記載されている。
(a)『(A)ポリフェニレンサルファイド樹脂30〜70重量部、
(B)ポリアミド樹脂30〜70重量部、
(C)カルボキシル基、酸無水物基及びエポキシ基から選ばれた少なくとも一種の官能基で変性されたポリオレフィン1〜30重量部、及び
(D)上記(A)、(B)及び(C)の合計100重量部当たり5〜30重量部のカルボキシル基、酸無水物基、及びエポキシ基から選ばれた少なくとも一種の官能基で変性されたポリフェニレンエーテル樹脂
よりなる樹脂組成物。』(特許請求の範囲)

[5]対比・判断
〈特許法第29条の2の規定に違反するという理由について〉
特許異議申立人は、本件発明1が甲第1号証に記載された発明と同一であるとする理由として次のとおり主張している。
『甲第1号証にはポリフェニレンスルフィド樹脂(98〜2重量%)と環状オレフィン系ランダム共重合体(2〜98重量%)とからなる組成物に係る発明が記載されている。
また、本件発明1で規定する物性を有する耐熱性環状オレフィン系ランダム共重合体は、ポリフェニレンスルフィドとのブレンド用樹脂として、甲第1号証の出願時点で、甲第2号証により公知である。
さらに、甲第1号証には樹脂組成物に無機充填剤を配合してもよいことが記載されており、その具体的な添加量は記載されていないが、本件発明1の樹脂成分100重量部に対して30〜150重量部という添加量はごく常識的な添加量である。』
本件発明1と甲第1号証に記載された発明とを対比する。
甲第1号証には、環状オレフィンとα-オレフィン共重合体(ガラス転移温度30℃以下)が記載され、この共重合体の極限粘度(摘示事項b)は、本件発明1の(B)成分の耐熱環状オレフィン系ランダム共重合体と、環状オレフィン系ランダム共重合体という点で一致しているが、本件発明1の(B)成分の軟化温度が70℃以上であるとしているのに対し、甲第1号証には、軟化温度については何も記載されておらず、ガラス転移温度(Tg)が30℃以下としている点で相違する。
しかしながら、本件発明1においては、『エチレン成分に由来する構造単位は40〜85モル%・・・・・環状オレフィンに由来する構造単位は、15〜60モル%・・・・・の範囲が適当である。』(段落【0039】)としているのに対し、甲第1号証には、『本発明で用いる環状オレフィン系共重合体において、α-オレフィンに由来する繰り返し単位の含有率[x]と環状オレフィンに由来する繰り返し単位の含有率[y]の割合([x]:[y])は、・・・・・通常80〜99.9モル%:20〜0.1モル%・・・・・である。環状オレフィンに由来する繰り返し単位の含有率[y]が20モル%を超えると、共重合体のガラス転移点、引張弾性率が高くなって組成物・・・・・の耐衝撃性等が不十分となることがある。』(段落【0014】)と記載されているので、重複し一致するものと認められる(α-オレフィンが80〜85モル%のとき)。
特許異議申立人は、環状オレフィン系共重合体樹脂とポリフェニルスルフィド樹脂との組成物に係る発明が甲第1号証に記載されていると主張するが、甲第1号証には、ポリフェニルスルフィド樹脂は、熱可塑性樹脂の一種として例示されているだけであり、このポリフェニレンスルフィド樹脂と、数ある熱可塑性樹脂の中で特に環状オレフィン系共重合体樹脂を選んで組み合わせること及びその場合に、光反射用成形品を成形するに適した表面平滑性を有する組成物となることが具体的に記載されているわけではない。
したがって、本件発明1が甲第1号証に記載された発明であるとすることができない。
本件請求項2に係る発明(以後、本件発明2という。)は、請求項1を引用し、光反射用成形品に係る発明であるので、本件発明1と同一の理由で、甲第1号証に記載された発明であるとすることができない。
〈特許法第29条第2項の規定に違反するという理由について〉
甲第2号証には、環状オレフィン系ランダム共重合体とポリフェニレンスルフィドとの組成物に係る発明が記載されているが、それらの混合割合が、ポリフェニレンスルフィド16〜60重量%としているのに対し、本件発明1のそれが、65重量%を超え95重量%以下としている点で異なる。
この相違点について、特許異議申立人は、次のとおり主張している。
『甲第3号証には、ポリフェニレンスルフィド樹脂の耐熱性、機械的強度を向上させるために繊維強化材或いは無機充填剤添加することはよく行われていること、その場合成形品の表面平滑性の低下、流動性の低下が問題とすること、その問題の解決のため、使用するポリフェニレンスルフィドの工夫を行い、ランプリフレクターを提供することが記載されている。
甲第4号証には、ポリフェニレンスルフィド樹脂、繊維状または非繊維状の無機添加材からなる樹脂組成物にさらに第3物質として多官能エポキシ化合物を配合した樹脂組成物からランプリフレクターを提供することが記載されている。
同様に、甲第5号証には、ポリアリレーンスルフィド樹脂に無機充填剤を配合することにより生ずる成形性の低下、製品外観の低下の改善を図るために第3物質としてエポキシ樹脂を添加することが記載されている。
すなわち、ポリアリレーン樹脂に無機充填剤を配合した場合、その成形性、表面性が劣るものとなり、その解決のために第3物質を配合することは古くから検討されていたことである。
また、本件発明1では、任意成分として(C)変性熱可塑性共重合物を配合しているが、ポリフェニレンスルフィド系組成物にこのような共重合体を配合することは甲第6号証により本件出願前に知られたことである。
以上のことから、本件発明1及び2は、甲第2〜6号証により進歩性を有さないものである。』
本件発明1は、上記したとおりの構成を有することにより、明細書に記載の効果を奏するものである。
甲第3号証に記載された発明は、特許異議申立人の主張のとおりポリフェニレンスルフィド樹脂自体に工夫を要することを示しており、さらに必要に応じて他の樹脂を添加することができることを示している(摘示事項f)。
しかしながら、他の樹脂として種々の重合体を挙げながら、環状オレフィン系ランダム共重合体を挙げてはいない。
甲第4及び5号証には、ポリフェニレンスルフィドと無機充填剤との樹脂組成物においては、成形物の外観をよくするためには、多官能エポキシ化合物或いはエポキシ樹脂を添加することを教示しているにすぎない。
甲第6号証には、本件発明1で任意成分として用いる(C)変性熱可塑性共重合体をポリフェニレンスルフィド系組成物に配合することが記載されている。
結局、これら甲第3〜6号証に記載された発明を検討しても、甲第2号証に記載された発明において、ポリフェニレンスルフィドの含有量を65重量%以上にする点が当業者が容易に想到できることであるものとはいえない。
したがって、本件発明1が、甲第2〜6号証に記載された発明に基づいて当業者が容易にできたものとはいえない。
本件発明2は、請求項1を引用し、光反射用成形品に係る発明であるので、本件発明1と同一の理由で、甲第2〜6号証に記載された発明に基づいて当業者が容易にできたものとはいえない。

[5]むすび
以上のとおりであるから、岩田 直子の提出した理由及び証拠によっては、本件発明の特許を取り消すことができない。
また、他に本件発明の特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、特許法等の一部を改正する法律(平成6年法律第116号)附則第14条の規定に基づく、特許法等の一部を改正する法律の施行に伴う経過措置を定める政令(平成七年政令第205号)第4条第2項の規定により、上記のとおり決定する。
 
異議決定日 2003-02-24 
出願番号 特願平4-277017
審決分類 P 1 651・ 161- Y (C08L)
P 1 651・ 121- Y (C08L)
最終処分 維持  
前審関与審査官 佐藤 健史柴田 昌弘  
特許庁審判長 三浦 均
特許庁審判官 佐野 整博
中島 次一
登録日 2002-03-15 
登録番号 特許第3286682号(P3286682)
権利者 東ソー株式会社
発明の名称 ポリフェニレンスルフィド樹脂組成物および光反射用成形品  

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