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審決分類 審判 一部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  B41J
審判 一部申し立て 2項進歩性  B41J
管理番号 1074985
異議申立番号 異議2002-70343  
総通号数 41 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 1998-02-24 
種別 異議の決定 
異議申立日 2002-02-13 
確定日 2003-04-14 
異議申立件数
事件の表示 特許第3198268号「キャリッジの位置検出方法および装置」の請求項1、3ないし5、8に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 特許第3198268号の請求項1、3ないし5、8に係る特許を維持する。 
理由 1.手続の経緯
特許第3198268号の請求項1乃至9に係る発明についての出願は、平成9年4月22日(パリ条約による優先権主張1996年5月15日、オランダ国)の出願であって、平成13年6月8日にその発明について特許権の設定登録がなされ、その後、そのうち、請求項1、3、4、5、8に係る発明の特許について、異議申立人大木茂より特許異議の申し立てがなされ、平成14年6月5日に取消の理由の通知がなされ、その指定期間内の平成14年9月18日に意見書と訂正請求書が提出され、後日訂正請求書が取り下げられたものである。

2.本件発明
特許第3198268号の請求項1、3、4、5、8に係る発明(以下、「本件発明1、3、4、5、8」という。)は、特許明細書および図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1、3、4、5、8に記載されている次の事項により特定されるとおりのものと認める(なお、請求項2に係る発明については、異議申し立ての対象となっていないが、便宜のために、その特定事項を挙げてある。)。
「【請求項1】キャリッジの上に取り付けられた第1と第2の検出手段が、個々の位置マークを検出するごとに検出信号を発生して検出信号のタイミングを測定し、前記キャリッジの位置がこれらのタイミングに基づいて決定されるプリンタ、プロッタ、またはスキャナにて連続した前記位置マークが設けられたコードストリップに沿って移動する前記キャリッジの位置検出方法において、前記第1と第2の検出手段が前記キャリッジの移動方向に互いに予め定められた距離Lで前記キャリッジに配置され、前記キャリッジの位置の情報が前記第1と第2の検出手段からの検出信号のタイミングから導かれ、前記第1と第2の検出手段の間の距離Lに基づいて較正されることを特徴とするキャリッジの位置検出方法。
【請求項2】前記第1と第2の検出手段のうち、前記キャリッジの前記移動方向の前方に位置する一方が、第1の位置マークを検出する第1のタイミングを記録するステップaと、
前記キャリッジの前記移動方向の後方に位置する他方の前記検出手段が、第2の位置マークを検出する第1のタイミングのすぐ後に続く第2のタイミングを記録するステップbと、
前記第1と第2とのタイミングの間の差および前記キャリッジの速度に基づいて前記第1と第2のタイミングの間で前記一方の検出手段が変位する量rを計算するステップcと、
前記第1と第2との位置マークの間の距離を前記第1の位置マークが前記キャリッジの移動方向に前記第2の位置マークの前にあるときは差L?rに較正し、前記第1の位置マークが前記移動方向に前記第2の位置マークの後方に位置しているときは和L+rに較正するステップdとを含む請求項1に記載のキャリッジの位置検出方法。
【請求項3】前記aからdまでのステップが、基本的に前記距離Lに等しいが、誤差や変動を含み得る相互距離を有して一対をなす位置マーク対の連続的な複数対に対して繰り返されることを特徴とする請求項2記載のキャリッジの位置検出方法。
【請求項4】前記第1と第2との位置マークの間に介在する位置マークの位置が、前記第1と第2との位置マークの間の距離と、前記第1と第2の検出手段の少なくとも一方からの検出信号タイミングと、前記第1と第2との位置マークの間で移動中の前記第1と第2の検出手段の速度とに基づいて検出されることを特徴とする請求項2または3に記載のキャリッジの位置検出方法。
【請求項5】前記第1と第2の検出手段の一方からの連続した検出信号の間の時間間隔を決定するステップと、
連続した時間間隔の間の比を計算するステップと、
介在する各位置マークに対し現在の位置マークまでの比の連続した積を計算するステップと、
前記連続した積の和を計算するステップと、
前記第1と第2との位置マークの間に介在する各位置マークの絶対スリット間隔を関連する連続した積と前記第1と第2との位置マークの間の距離とを乗算し、その結果を連続した積の和で除算することにより計算するステップとを含むことを特徴とする請求項4に記載のキャリッジの位置検出方法。
【請求項8】プリンタ、プロッタまたはスキャナにおいて、連続した位置マークが設けられたコードストリップに沿って移動するキャリッジの位置を検出する装置であり、前記キャリッジに取り付けられた検出手段と、この検出手段がコードストリップ上の位置マークを検出しこれらのタイミングに基づいて前記キャリッジの位置を決定する処理手段とから成る装置において、
前記検出手段が、移動方向に予め定められた相互間隔で前記キャリッジの上に配置された第1と第2の前記検出手段とを有し、前記第1と第2の検出手段から検出信号のタイミングを記録し、これらのタイミングから導かれた前記位置マークの位置を前記第1と第2の検出手段の間の既知の距離で較正することを特徴とする装置。」

3.特許異議申立の理由の概要
特許異議申立人大木茂は、以下の主張をしている。
主張A
本件発明1及び8は、甲第1号証(特開平6-317431号公報)から、甲第1号証と甲第2号証(特開平7-132594号公報)とからあるいは甲第1号証と甲第3号証(特開平6-57743号公報)とから当業者が容易に発明することができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
主張B
本件請求項1及び8の記載は、特許を受けようとする発明が明確でなく、また、本件請求項1及び8に係る発明は、発明の詳細な説明に記載した発明を記載したものでない。
主張C
本件請求項3乃至5に係る発明は、発明の詳細な説明に記載した発明を記載したものでない。

4.引用刊行物記載の発明
引用された刊行物1(=上記甲第1号証)、刊行物2(=上記甲第2号証)及び刊行物3(=上記甲第3号証)には、本件発明1及び8に関連する事項として以下の事項が記載されている。
(1)刊行物1:特開平6-317431号公報
a.「リニヤスケールと該リニヤスケール信号再生用ヘッドの取付台とを前記リニヤスケールの目盛方向にほぼ平行に相対的移動可能に設け、前記リニヤスケールの信号を再生して前記取付台とリニヤスケールとの相対移動量を測定する3個のリニヤスケール信号再生用ヘッドを、取付台上に該取付台とリニヤスケールの相対移動方向に互いに間隔をおいて配置し、前記取付台とリニヤスケールとを順次相対移動させて、各移動距離での3個のヘッドの測定値を求め、所定の移動範囲にわたる測定値から演算によって前記リニヤスケールの累積ピッチ誤差を求めることを特徴とするエンコーダの校正方法。」(請求項1)
b.「<リニヤスケールについての実施例> 図1はリニヤスケールの精度測定に本発明を適用した場合の実施例を示し、1は評価対象のリニヤスケール、3A,3B及び3Cはそれぞれリニヤスケール信号再生用ヘッド、5はヘッド取付台である。本実施例では簡単のため、リニヤスケール1を固定し、ヘッド取付台5を図示しない案内面に沿ってリニヤスケール1の目盛方向(図1中で矢印で示す左右方向)にほぼ平行に往復移動自在に取付けてある。3個のヘッド3A,3B,3Cはリニヤスケール1の信号を再生できるようにヘッド取付台5に、左から3A,3C,3Bの順で、且つそれぞれ間隔LbとLaをおいて取付けてある。なお、簡単のため、各ヘッド3A,3B,3Cでの検出信号の処理及び表示部、並びに、測定値の演算処理部については図示を省略した。」(段落【0013】参照)
c.「<各ヘッド3A,3B,3Cでの移動量測定> ヘッド3Aでの測定値S(Xi,A)、ヘッド3Bでの測定値S(Xi,B)、ヘッド3Cでの測定値S(Xi,C)は、数2式で与えられる。
【数2】
S(Xi,A)=Xi+δ(Xi-Lb)+KA
S(Xi,B)=Xi+δ(Xi+La)+KB
S(Xi,C)=Xi+δ(Xi) +KC
ここで数2中、Laはヘッド3Cと3Bの間隔、Lbはヘッド3Aと3Cの間隔、Xiは測定開始位置からのヘッド取付台5の移動量であってリニヤスケール1上の位置を示す値、δ(Xi)は位置Xiにおけるリニヤスケール1の累積ピッチ誤差、KA,KB,KCはそれぞれヘッド3A,3B,3Cでの測定値のオフセット量である。・・・そこで、ヘッド取付台5を測定開始位置(X0=0)からX1,X2,…,Xnへと順次移動させ、全移動範囲にわたって各ヘッドの測定値S(Xi,A),S(Xi,B),S(Xi,C)を得る(但し、i=1,2,…,n)。」(段落【0015】〜【0017】参照)
d.「<演算処理による累積ピッチ誤差の把握>
[I]測定値の荷重加算による合成測定値の算出
まず、数3で与えられる定数a,bを用いて、Xiでの合成測定値Y(Xi)=a・S(Xi,B)+b・S(Xi,A)+S(Xi,C)を求めると、数3式よりa+b+1=0の関係があるから、数2の代入により、合成測定値Y(Xi)は数4式のように求まる。
【数3】
a=-Lb/(La+Lb)
b=-La/(La+Lb)
【数4】
Y(Xi)=a・S(Xi,B)+b・S(Xi,A)+S(Xi,C)=(a+b+1)Xi+(a・KB+b・KA+KC)+a・δ(Xi+La)+b・δ(Xi-Lb)+δ(Xi)=(a・KB+b・KA+KC)+a・δ(Xi+La)+b・δ(Xi-Lb)+δ(Xi)=K0+a・δ(Xi+La)+b・δ(Xi-Lb)+δ(Xi)
ここで数4中、K0=a・KB+b・KA+KCであり、K0は測定系の設定条件によって定まる未知の一定値である。」(段落【0018】〜【0021】参照)
e.「以上の手順をまとめると、下記のようになる。
(i)3個のヘッド3A,3B,3Cを図1のように互いに間隔をあけて配置し、ヘッド取付台5を順次移動させながら、数2式で与えられる移動距離Xiでの測定値を得る。
(ii)上述の(i)で得た測定値を、数3式で与えられる定数a,bを用いて荷重加算し、数4式で表わされる合成測定値Y(Xi)を求める。
(iii)次に、複数の測定位置Xi(i=1,2,…,n)での測定値から得られる合成測定値のデータ列Y(Xi)(i=1,2,…,n)を求め、その交流成分Y(Xi)ACをフーリエ変換して、フーリエ変換の係数Fj,Gjを求める。
(iv)最後に、(iii)で求めた係数Fj,Gjから、数9式によってリニヤスケール1の累積ピッチ誤差δ(Xi)を求める。」(段落【0035】)
(2)刊行物2:特開平7-132594号公報
a.「【請求項1】 本体上で往復駆動されるキャリッジに搭載されたインクジェット記録ヘッドが、ヘッド走査方向に任意の間隔で配置された複数のノズルまたはノズル列を有するインクジェット記録装置であって、前記キャリッジの移動に対する同期を図り、前記本体上に設けられるエンコーダと該エンコーダの検出のために前記キャリッジに搭載される検出部と、該検出部に接続される回路部からなる同期信号発生手段と、前記エンコーダの変寸量を測定するエンコーダ変寸量測定手段と、・・・前記検出部出力信号にエンコーダ変寸量測定結果・・・をふまえて各ノズルまたはノズル列の実印字信号タイミングを演算する第1の演算手段から構成することを特徴とするインクジェット記録装置。・・・【請求項4】 前記エンコーダ変寸量測定手段がキャリッジを往復駆動するパルスモータと前記エンコーダ出力信号を数えるカウンタと前記エンコーダ出力信号の時間間隔を測定するタイマーと該時間間隔測定結果からエンコーダ変寸量を演算する第3の演算手段から構成することを特徴とする請求項1記載のインクジェット記録装置。」(特許請求の範囲)
b.「リニアエンコーダ6はインクジェット記録装置の機内温度変化による熱変寸やリニアエンコーダ6が樹脂製のフィルムを使用していることによって、経時的にクリープによる変寸を生じる。これらリニアエンコーダ6の変寸によってドット位置ズレが生じ、この変寸量はノズル列間隔Lが大きいほど顕著で、ノズル列間隔Lに等しい長さのリニアエンコーダ6の変寸量ΔLsだけ位置ズレを生じる。そこで、図9に示すように、各ノズル列を、リニアエンコーダ6の変寸量ΔLsをキャリッジが移動する時間を遅延時間Δtsだけずらして駆動することで正しい位置にドットを記録していくことが可能になる。・・・この方法はまずリニアエンコーダの変寸量ΔLsを測定し、その変寸量測定結果から最適な遅延時間Δtsを求めている。リニアエンコーダの変寸量を知るために図1に示される実施例では、キャリッジを駆動する駆動モータにパルスモータを使用し、リニアエンコーダの出力信号を数えるカウンタと該出力信号の時間間隔を測定するタイマーを備えている。キャリッジが駆動され記録ヘッド1が被記録材11に記録している間はキャリッジの移動速度は一定で、この区間内では任意の区間をキャリッジが通過するのに要する時間は一定である。そこで、リニアエンコーダの変寸がなければ、リニアスケールが所定のスリット数をカウントするのに要する時間は一定であり、たとえばリニアエンコーダが伸びてしまった場合は、所定のカウント数が数えられる時間は長くなる。そこでこの時間の変化量からリニアエンコーダ6の変寸量を求めることができる。以上リニアエンコーダの変寸量は第3の演算手段で演算され、このとき以下式で求められる。
ΔLs=V*(T0-T)
ただし、リニアエンコーダの変寸量:ΔLs[mm] キャリッジ移動速度:V[mm/sec] 基準時間:T0[sec] 測定時間:T[sec]
上式によって求められたリニアエンコーダ6の変寸量は第1の演算手段によって各ノズル列の遅延時間Δtsに換算され、リニアスケールの出力信号と共に、各ノズル列の駆動信号が最適化される。尚、遅延時間Δtsは以下の式で求められる。
Δts={L*ΔLs/L0}/V
ただし、各ノズル列の遅延時間 :Δts[sec] ノズル列間隔:L[mm] リニアエンコーダの変寸量:ΔLs[mm] 基準スリット間隔:L0[mm] (L0=s*カウント数)
こうして、リニアエンコーダ6が大きく変寸しても、記録ドット1の位置ズレを生じることなく良好な記録画像を得ることができる。」(段落【0021】〜【0026】)
(3)刊行物3:特開平6-57743号公報
a.「ケーシングを把持する把持手段と、この把持手段で把持したままケーシングを回転駆動する回転駆動手段とを備えたケーシング駆動装置に付設されるすべり検出装置において、
前記ケーシングの回転方向に所定距離だけ離して配置されケーシング表面までの距離をそれぞれ計測する複数の距離センサと、
前記ケーシングの回転に伴い前記各距離センサから出力される距離信号間の位相差に基づいてケーシングの回転速度を出力する第1の出力手段と、
前記ケーシングを駆動するための前記回転駆動手段の回転速度を出力する第2の出力手段と、
前記第1および第2の出力手段から出力される回転速度に基づいて、前記ケーシングの回転速度が前記回転駆動手段の回転速度より遅いときにケーシングにすべりが生じたことを判定する判定手段とを備えたことを特徴とするケーシングのすべり検出装置。」(請求項1)
b.「図2において、8a,8bは、ケーシング2の回転速度を検出するためのレーザ式距離センサであり、この距離センサ8a,8bは、図3に示すようにケーシング2の外周面から所定の距離La,Lbだけ離して固定ベース1上にケーシング2と対向して設置されるとともに、ケーシング2の回転方向に所定の距離Lcだけ離してある。これにより、距離センサ8a,8bは、回転するケーシング2の外周面を距離Lcに相当する位相差(本実施例では45度の位相角)をもってスキャンする。」(段落【0016】)
c.「ケーシング2は一般的に溶接構造物であるためその横断形状は楕円をなし、表面にはうねりや凹凸がある。さらにバンド装置7の締付による変形も生じている。したがって、このようなケーシング2が回転すると、これに対向設置された距離センサ8a,8bからケーシング表面までの距離La,Lbは、距離センサ8a,8bが走査する円周方向の形状に応じて変化する。すなわち、距離センサ8a,8bから出射したビーム光がケーシング2の外周面に向け照射されると、それぞれ円周方向にずれた外周面で反射されるビーム光は対応する距離センサ8a,8bで受信され、各距離センサ8a,8bからは距離La,Lbに応じたレベルの電圧Va,Vbが出力される。・・・すべり検出の開始点が判定されると、・・・タイマ(不図示)をスタートさせる。・・・距離センサ8aから出力される出力電圧Vaが図4に示すようにサンプリング用基準値Ve1,Ve2,Ve3に達する時点の時間t1,t2,t3を計時し、・・・その後、距離センサ8aより距離Lcに相当する時間遅れて同様に得られる距離センサ8bの出力電圧Vbがサンプリング用基準値Ve1,Ve2,Ve3に達する時点の時間t4,t5,t6を計時し、・・・各サンプリング点における距離Lcに相当する位相差△t1=t4-t1、△t2=t5-t2、△t3=t6-t3を算出する。・・・(△t1+△t2+△t3)/2の演算を実行することにより位相差の平均値△Tを求める。・・・Lc/△Tの演算を行うことにより、ケーシング2の回転速度Scを算出し、演算回路14へ出力する。」(段落【0020】〜【0023】)

5.判断
(1)主張Aについて、
本件発明1及び8に対して上記刊行物1乃至3を検討する。
上記刊行物1についてみるに、【数2】において実際に測定されるのはS(Xi,A)、S(Xi,B)及びS(Xi,C)であり、δ(Xi-Lb)、δ(Xi+La)及びδ(Xi)はエンコーダ精度を直接的に表す累積ピッチ誤差であり、Xiは測定する量ではないし測定できる量でもない。そのため、実際に測定される量と累積ピッチ誤差だけの関係式(測定できないXiを含まない関係式)を算出した上で、この関係式から累積ピッチ誤差を求めるというのが刊行物1に記載された発明である。
すなわち、Xiとは累積ピッチ誤差を求めるために適宜に選ばれた位置にすぎず、取付台5を移動させた適宜の点での、測定できない実際の位置を表すものである。
刊行物1記載のリニアスケールが「位置マーク」を有することは認められるものの、S(Xi,A)、S(Xi,B)及びS(Xi,C)は、上記適宜の位置でのセンサ3A〜3Cによる測定値を意味するだけである。
したがって、上記刊行物1には、連続した位置マークが設けられたコードストリップ等に沿って、移動する部材の位置または位置の情報が、位置マークの検出タイミングに基づいてまず決定され、さらに、当該位置または位置の情報が、二つの検出手段からの前記コードストリップ等の位置マークの検出タイミングから導かれ前記二つの検出手段の間の距離Lに基づいて較正することについては何ら記載されておらず、示唆もない。
また、上記刊行物2の発明は、ヘッド走査方向に複数のノズルまたはノズル列を有する記録ヘッドを用いたインクジェット記録装置において、連続した位置マークであるスリットが設けられたリニアエンコーダの変寸量△Lsを、キャリッジを、パルスモータにより、速度V[mm/sec]で移動させて、カウンタによりカウントされるスリット数が所定数になる間の時間間隔を測定するタイマーにより得られる測定時間Tと基準時間T0の間の差に基づいて求め、求められた変寸量△Lsから、各ノズルまたはノズル列の遅延時間△tsを求め、該遅延時間△tsを各ノズルまたはノズル列の駆動信号に加算して、記録画像の位置ズレに起因する画質の悪化を無くすようにしたものであり、画像記録時には、インク吐出位置すなわちキャリッジの位置の情報は、リニアエンコーダの位置マークであるスリットの検出タイミングに基づいて決定されるのであって、該キャリッジの位置または位置の情報が較正されるものでないことは明らかである。すなわち、上記刊行物2の発明は、リニアエンコーダが変寸して、そのスリット間隔が変わっても、その変わったスリット間隔に基づいて、画像が記録されるものである。
したがって、上記刊行物2にも、連続した位置マークが設けられたコードストリップ等に沿って、移動する部材の位置または位置の情報が、位置マークの検出タイミングに基づいてまず決定され、さらに、当該位置または位置の情報が、二つの検出手段からの前記コードストリップ等の位置マークの検出タイミングから導かれ前記二つの検出手段の間の距離Lに基づいて較正することについては何ら記載されておらず、示唆もない。
さらに、上記刊行物3には、横断形状は楕円をなし、表面にはうねりや凹凸があるケーシングの回転速度を、ケーシングの回転方向に所定距離だけ離して配置されケーシング表面までの距離を計測する二つの距離センサそれぞれからの距離信号間の位相差に基づいて検出することが記載されている。
したがって、上記刊行物3の発明は、移動する部材であるケーシングの位置を検出するものでさえなく、上記刊行物3には、連続した位置マークが設けられたコードストリップ等に沿って、移動する部材の位置または位置の情報が、位置マークの検出タイミングに基づいてまず決定され、さらに、当該位置の情報が、二つの検出手段からの前記コードストリップ等の位置マークの検出タイミングから導かれ前記二つの検出手段の間の距離Lに基づいて較正することについては何ら記載されておらず、示唆もないことは勿論のことである。
してみると、上記刊行物1乃至3のいずれにも、本件発明1及び8のそれぞれの特定事項である個々の位置マーク検出タイミングに基づいて決定されるキャリッジの位置または位置の情報が第1と第2の検出手段の位置マークの検出タイミングから導かれ前記第1と第2の検出手段の間の距離Lに基づいて較正される点について、何ら記載されておらず示唆もなく、この点は、刊行物1乃至3に記載された事項をいかに組み合わせても当業者が容易に想起できることでもない。
よって、異議申立人の主張Aは採用することができない。

(2)主張Bについて、
異議申立人は、本件請求項1及び8は、速度に関する規定及び検出するタイミングと較正する範囲の規定がなされていないため、発明を明確に規定していない旨主張している。
しかし、本件発明1および8は、本件明細書及び図面からみて、キャリッジは、移動する全域にわたって連続した位置マークが設けられたコードストリップに沿って、移動するものであり、キャリッジの位置あるいは位置の情報の較正は、第1と第2の検出手段の間の距離Lにほぼ等しい間隔にある複数のスリットすなわちiからi+jまでのスリットの間でなされ、それがコードストリップの全域にわたって、繰り返されるものであることは明らかであり、また、その請求項1及び8に記載されるとおり、該キャリッジの位置あるいは位置の情報は、いったん、コードストリップの位置マークを検出するタイミングに基づいて決定され、その後、決定された位置あるいは位置情報が、さらに、位置マークの第1と第2の検出手段のそれぞれの検出タイミングから導かれ、前記第1と第2の検出手段の間の距離距離Lに基づいて較正するものであることは明らかである。
ところで、一般に、移動物体の位置すなわち基準点からの距離を、基準点からのタイミングすなわち移動時間から求めるには、当然に、既知のものの距離とその間の移動物体のタイミングすなわち移動時間から算出される移動速度に基づいてなされねばならないことは、よく知られていることであり、本件発明の詳細な説明にも、スリット5,6間の距離とそれらの検出タイミングから、スリット1,2間の距離とそれらの検出タイミングから、あるいは、二つの検出手段間の距離と二つの検出手段のそれぞれが検出するタイミング等から、キャリッジの移動速度を中間的に求めてから、最終的に、位置あるいは位置の情報を較正することが記載されている。
したがって、本件請求項1及び8に、これらに規定されている検出タイミングと既知のものから算出できることが明らかな、途中で算出される速度に関する規定がないからといって、本件請求項1及び8の記載は発明を明確に規定したものでないとすることができない。
また、本件発明1及び8は、上述のとおり、キャリッジの位置あるいは位置の情報の較正は、第1と第2の検出手段の間の距離Lにほぼ等しい間隔にある複数のスリットすなわちiからi+jまでのスリットの間でなされ、それがコードストリップの全域にわたって、繰り返されるものであることは明らかであるから、検出するタイミングと較正するの範囲は、特定数のスリット間隔の間で繰り返されるとはいえ、コードストリップの全域にわたるものであるから、特別にその規定をしなければならないというものでなく、発明の詳細な説明に記載した発明でないとすることができない。

(3)主張Cについて、
異議申立人は、本件請求項3の「前記aからdまでのステップが、基本的に前記距離Lに等しいが、誤差や変動を含み得る相互距離を有して一対をなす位置マーク対の連続的な複数対に対して繰り返される」とは、一つずつマークがずれる場合をも含みうる記載であって、その場合については、発明の詳細な説明に記載されたものでないと主張している。
しかし、本件発明3は、請求項2に係る発明の従属発明であり、請求項2に係る発明は本件発明1の従属発明であり、請求項3における「前記aからdまでのステップ」とは、本件発明1のキャリッジの位置あるいは位置の情報の較正方法を具体化したものであることは、上記特許請求の範囲の請求項1乃至3の記載から明らかである。
してみると、請求項3の「前記aからdまでのステップが繰り返される」単位は、上述した、本件発明1のキャリッジの位置あるいは位置の情報の較正が繰り返される単位と同じ第1と第2の検出手段の間の距離Lにほぼ等しい間隔にある複数のスリットすなわちiからi+jまでのスリットの間であることは、当然であるから、上記請求項3の記載は、一つずつマークがずれる場合を含んでいないことは明らかである。
また、異議申立人は、本件請求項4において「第1と第2との位置マークの間に介在する位置マークの位置が、前記第1と第2との位置マークの間の距離と、前記第1と第2の検出手段の少なくとも一方からの検出信号タイミングと、前記第1と第2との位置マークの間で移動中の前記第1と第2の検出手段の速度とに基づいて検出される、」と規定されているが、第1の位置マーク(「6」または「7」)と第2の位置マーク(「0」)との間に介在する位置マーク(「1」から「5」または「1」から「6」)について位置を検出することについて本件発明の詳細な説明に記載されていないと主張している。
しかし、本件発明の詳細な説明には、特に表1の座標値Xiで示しているように 、第1の位置マーク(「6」)と第2の位置マーク(「0」)との間に介在する位置マーク(「1」から「5」)について位置を検出することが明示されている。
さらに、異議申立人は、本件請求項5における「介在する各位置マークに対し現在の位置マークまでの比の連続した積を計算するステップ」における「介在する各位置マークに対し現在の位置マーク」とは、どのマークのことか本件発明の詳細な説明のどの部分に対応するのか不明である旨主張している。
しかし、「現在の位置マーク」とは、いま、検出の対象となる第1の位置マーク(「6」)と第2の位置マーク(「0」)との間に介在する位置マーク(「1」から「5」)のいずれかであることは明らかであり、因みに、「介在する各位置マークに対し現在の位置マークまでの比の連続した積」とは、本件詳細な説明の「正規化されたスリット間隔Di」を指すことは明らかである。
したがって、異議申立人の主張Cも採用することができない。

6.むすび
以上のとおりであるから、特許異議申し立ての理由及び証拠によっては本件発明1、3、4、5、8の特許を取り消すことができない。
また、他に本件発明1、3、4、5、8の特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2003-03-26 
出願番号 特願平9-118873
審決分類 P 1 652・ 537- Y (B41J)
P 1 652・ 121- Y (B41J)
最終処分 維持  
前審関与審査官 清水 康司上田 正樹  
特許庁審判長 小沢 和英
特許庁審判官 番場 得造
津田 俊明
登録日 2001-06-08 
登録番号 特許第3198268号(P3198268)
権利者 オセ-ネーデルランド・ビー・ブイ
発明の名称 キャリッジの位置検出方法および装置  
代理人 山崎 行造  
代理人 木村 博  

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