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審決分類 審判 訂正 2項進歩性 訂正する H01L
管理番号 1075653
審判番号 訂正2002-39263  
総通号数 42 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 1989-12-27 
種別 訂正の審決 
審判請求日 2002-12-07 
確定日 2003-02-18 
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第2103950号に関する訂正審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 特許第2103950号に係る明細書及び図面を本件審判請求書に添付された訂正明細書及び図面のとおり訂正することを認める。 
理由 [1]手続の経緯
本件特許第2103950号に係る出願及び登録後の主な手続の経緯は以下のとおりである。
昭和63年6月23日 出願(特願昭63-155739)
平成4年5月8日 出願公告(特公平4-26782)
平成6年3月7日 拒絶査定
平成6年4月28日 拒絶査定不服審判請求(6-7276)
平成8年5月30日 原査定取消審決
平成8年7月30日 設定登録(2103950)
平成11年11月18日 無効審判請求(11-35678)
平成13年5月9日 無効審決
平成13年6月11日 東京高裁出訴(13(行ケ)262)
平成14年2月28日 訂正審判請求(2002-39062)
平成14年10月21日 訂正審判請求(2002-39224)
平成14年10月23日 訂正審判請求取下(2002-39062)
平成14年12月7日 訂正審判請求(2002-39263)
平成14年12月9日 訂正審判請求取下(2002-39224)

[2]請求の要旨
本件訂正審判請求の要旨は、特許第2103950号に係る明細書を本件訂正審判請求書に添付された訂正明細書のとおり訂正するもので、その訂正の内容は次のとおりである。
(1)訂正事項1
特許請求の範囲の減縮を目的として、請求項1について、「絶縁基板上に、発熱抵抗体を形成するとともに、発熱抵抗体に電気的に接続される有機金ペーストよりなる導体パターンを形成してなるサーマルヘッド用印刷回路基板において、前記導体パターンの末端部には幅広のボンディングパッド部を形成し、該ボンディングパッド部の表層が無機金ペーストよりなる層とすることを特徴とするサーマルヘッド用印刷回路基板。」とあるのを、「アルミナセラミックよりなる絶縁基板上に、発熱抵抗体を形成するとともに、この発熱抵抗体に電気的に接続される有機金ペーストよりなる導体パターンを形成してなるサーマルヘッド用印刷回路基板において、前記導体パターンの末端部には幅広のボンディングパッド部を形成し、該ボンディングパッド部の表層を、ガラスエポキシ材との間での組合せワイヤボンディングを行う無機金ペーストよりなる層とすることを特徴とするサーマルヘッド用印刷回路基板。」と訂正する。

(2)訂正事項2
明りょうでない記載の釈明を目的として、出願当初明細書(資料2参照)の第2頁17行(公告公報、第2欄7行)に「第4図」とあるのを、「第3図」と訂正する。

(3)訂正事項3
明りょうでない記載の釈明を目的として、出願当初明細書の第3頁7行(公告公報、第2欄17行)、及び平成6年4月28日付提出の手続補正書(資料4参照)の第2頁13行(訂正公報における【手続補正書】の右欄6〜7行)にそれぞれ「第5図」とあるのを、それぞれ「第4図」と訂正する。

(4)訂正事項4
明りょうでない記載の釈明を目的として、平成6年4月28日付堤出の手続補正書の第2頁7〜11行(訂正公報における【手続補正書】の左欄20行〜右欄5行)に、「上記課題を解決するため、この発明のサーマルヘッド用印刷回路基板は、絶縁基板上に、発熱抵抗体を形成するとともに、この発熱抵抗体に電気的に接続される有機金ペーストよりなる導体パターンを形成してなるものにおいて、前記導体パターンの末端部に幅広のボンディングパッド部を形成し、該ボンディングパッド部の表層が無機金ペーストよりなる層とすることを特徴としている。」とあるのを、「上記課題を解決するため、この発明のサーマルヘッド用印刷回路基板は、アルミナセラミックよりなる絶縁基板上に、発熱抵抗体を形成するとともに、この発熱抵抗体に電気的に接続される有機金ペーストよりなる導体パターンを形成してなるものにおいて、前記導体パターンの末端部には幅広のボンディングパッド部を形成し、前記導体パターンの末端部には幅広のボンディングパッド部を形成し、該ボンディングパッド部の表層を、ガラスエポキシ材との間での組合せワイヤボンディングを行う無機金ペーストよりなる層とすることを特徴としている。」と訂正する。

(5)訂正事項5
明りょうでない記載の釈明を目的として、出願当初明細書の第4頁17行(公告公報、第3欄20行)に「第3図」とあるのを、「第2図」と訂正する。

(6)訂正事項6
明りょうでない記載の釈明を目的として、出願当初明細書の第5頁3行(公告公報、第3欄26行)に「アルミナセラミック等」とあるのを、「アルミナセラミック」と訂正する。

(7)訂正事項7
明りょうでない記載の釈明を目的として、出願当初明細書の第6頁6行と7行との間(公告公報、第4欄7行と8行との間)に、「そして、本発明では、ガラスエポキシ材との間での組合せワイヤボンディングを行う。」を加入する。

(8)訂正事項8
明りょうでない記載の釈明を目的として、出願当初明細書の第6頁10〜14行(公告公報、第4欄11〜15行)に、「第3図は、この実施例サーマルプリントヘッド1′の変形例を示す断面図である。この変形例では、個別電極4のボンディングパット部4b全体が、無機金ペースト層9により形成されている点が第1図の場合と相違する。」とあるのを削除する。

(9)訂正事項9
明りょうでない記載の釈明を目的として、平成5年12月27日付提出の手続補正書(資料3参照)の第4頁1〜3行(公告公報、第4欄26〜28行)に、「異種材料(例えばガラスエポキシ材)との間での組合せワイヤボンディングが可能となる等の効果を奏する。」とあるのを、「ガラスエポキシ材との間での組合せワイヤボンディングができた。」と訂正する。

(10)訂正事項10
明りょうでない記載の釈明を目的として、出願当初明細書の第7頁12〜16行(公告公報、第4欄33〜37行)に「第3図は、同厚膜形サーマルプリントヘッドの変形例を示す要部断面図、第4図は、有機金ペーストと無機金ペーストとをサーマルプリントヘッドに適用した場合の投入電力と印字濃度との関係を比較して示す図、第5図」とあるのを、「第3図は、有機金ペーストと無機金ペーストとをサーマルプリントヘッドに適用した場合の投入電力と印字濃度との関係を比較して示す図、第4図は」と訂正する。

(11)訂正事項11
明りょうでない記載の釈明を目的として、図面の第3図及び第4図を添付した訂正図面のとおりに訂正し、第5図を削除する。

[3]当審の判断
(1)訂正事項1について
上記訂正事項1は、(a)絶縁基板の材料として「アルミナセラミックよりなる」点を限定して付加したものと、(b)無機金ペーストよりなる層について「ガラスエポキシ材との間での組み合わせワイヤボンディングを行う」点を限定して付加したものとの二つである。
上記(a)については、願書に添付した明細書の実施例の項に、「2は、アルミナセラミック等よりなる絶縁基板である。」と記載され、絶縁基板をさらに具体化して限定したものであるから、特許請求の範囲の減縮に該当する。
上記(b)については、願書に添付した明細書の4欄26〜28行に「特に、低温でのワイヤボンディングが可能となり、異種材料(例えばガラスエポキシ材)との間での組合せワイヤボンディングが可能となる。」と記載され、無機金ペーストがどのような素材間でのワイヤボンディングを対象としているかをさらに具体化して限定したものであるから、特許請求の範囲の減縮に該当する。

(2)訂正事項2、3、5、8、10、11について
上記訂正事項2、3、5、8、10、11は、訂正事項11において訂正前の第3図の削除に伴い訂正前の第4、5図の図番を第3、4図に繰り上げ、さらに訂正事項11の訂正に整合させるために、訂正事項2、3、5において訂正前の第4、5図の図番を第3、4図に繰り上げ、訂正事項8において訂正前の第3図の説明を削除し、訂正事項10において訂正後の第3、4図の説明に訂正したものであるから、明りょうでない記載の釈明に該当する。

(3)訂正事項4、6について
上記訂正事項4、6は、訂正事項1により請求項1を訂正したことに伴い、発明の詳細な説明の記載を整合させたものであって、明りょうでない記載の釈明に該当する。

(4)訂正事項7について
上記訂正事項7は、訂正事項1により請求項1に「ガラスエポキシ材との間での組み合わせワイヤボンディングを行う」点を付加したことに伴い、実施例の記載を整合させたものであって、明りょうでない記載の釈明に該当する。

(5)訂正事項9について
上記訂正事項9は、訂正事項1により請求項1に「ガラスエポキシ材との間での組み合わせワイヤボンディングを行う」点を付加したことに伴い、発明の効果の記載を整合させたものであって、明りょうでない記載の釈明に該当する。

そして、訂正事項1〜11は、願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内のものであり、また実質上特許請求の範囲を拡張し、変更するものではない。

(6)独立特許要件
(6-1)本件発明
訂正後の請求項1に記載された発明(以下、「本件発明」という。)は、訂正明細書の特許請求の範囲の請求項1に記載された以下のとおりのものである。
「アルミナセラミックよりなる絶縁基板上に、発熱抵抗体を形成するとともに、この発熱抵抗体に電気的に接続される有機金ペーストよりなる導体パターンを形成してなるサーマルヘッド用印刷回路基板において、
前記導体パターンの末端部には幅広のボンディングパッド部を形成し、該ボンディングパッド部の表層を、ガラスエポキシ材との間で組合せワイヤボンディングを行う無機金ペーストよりなる層とすることを特徴とするサーマルヘッド用印刷回路基板。」

(6-2)刊行物1、2とその記載事項
本件特許に係る無効審判請求事件(11-35678)に対する無効審決の理由において引用された甲第2号証(以下、「刊行物1」という。なお、甲号証は無効審判請求人の提出した証拠を示す。)の特開昭62-49640号公報と甲第8号証の特開昭61-89655号公報(以下、「刊行物2」という。)の記載事項は以下のとおりである。

<刊行物1>
本件特許に係る出願前に頒布された刊行物1の特開昭62-49640号公報には、サーマルヘッドの金電極構造について以下の事項が記載されている。
「メタル・オルガニック金で絶縁性基板に直接もしくは下地層を介して導電パターン状に形成されたのち、焼成して成膜されるとともに、超音波ワイヤボンドで金ワイヤが接合される金電極を備えた金電極構造において、上記金電極の膜厚を0.5〜1.0μmとし、その表面荒さを300Å(ピーク・ピーク)以上に設定したことを特徴とする金電極構造」(特許請求の範囲)
「第7図は従来のサーマルヘッドの断面図を示している。図において、(1)はたとえばセラミックなどからなる絶縁性基板、(2)は金電極(3)にこの電極(3)の一部を被覆して形成された発熱体としての抵抗体であり、抵抗体(2)は・・・抵抗ペーストを用いて、絶縁性基板(1)上に厚膜技術などの手法によって形成されている。上記金電極(3)は発熱抵抗体(2)への通電リード用導電パターンを形成している。(4)は外部リード用導電パターンを形成する金電極で、金電極(3)、(4)と上記絶縁性基板(1)上に設定されている集積回路素子(5)との間は金ワイヤ(6)で接続されている。これら金電極(3)、(4)は金を含有する導電性ペーストを用いて絶縁性基板(1)上に発熱抵抗体(2)を形成する手法と同様の手法によって形成される。上記金電極(3)、(4)は、絶縁性基板(1)上に比較的なじみ易いオルガニック金(有機金)を使用して印刷スクリーン法で導電パターンを形成したのち、第8図のような昇温-焼成インターバル-降温がそれぞれ約15分づつの温度プロファイルで焼成されることによって成膜される。」(1頁右下欄17行〜2頁左上欄18行)
「[発明が解決しようとする問題点]従来では、上記金電極(3)、(4)の表面が緻密であるほど、金ワイヤ(6)との接合がよいとの通説にしたがい、約0.5μmの膜厚を有する金電極(3)、(4)の表面粗度を、第10図のように表面の凹凸の高さが約100Å(ピーク・ピーク)の緻密な面としていたけれども、金ワイヤ(6)に必要な強度である3g以上の引張強度を付勢すると、金電極(3)、(4)から金ワイヤ(6)が剥離する欠点を有していた。・・・超音波ワイヤボンドで十分な接合強度が得られ、かつ生産能率の高い金電極構造を提供することを目的としている。
[問題点を解決するための手段]この発明は、絶縁性基板に直接もしくは下地層を介して形成され、かつ金ワイヤが超音波ワイヤボンドで接合される金電極の膜厚を0.5〜1.0μmとし、その表面荒さを300Å(ピー
ク・ピーク)以上に設定した・・・・・・
[作用]・・・上記金ワイヤが金電極に擦すられて良好にワイヤボンドされる・・・」(2頁右上欄7行〜左下欄15行)
「[発明の効果]以上のように、この発明によれば・・・超音波ワイヤボンド時に、金ワイヤが金電極に擦すられて良好にワイヤボンドされる・・・」(3頁左下欄4〜12行)
「[実施例]・・・第1図はこの発明による金電極構造が適用されたサーマルヘッドの一部を示す概略断面図であり、第7図と同一部分には、同一符号を付してその詳しい説明を省略する。同図において、(21)は発熱抵抗体(2)への通電リード用導電パターンを形成する金電極、(22)は外部リード用導電パターンを形成する金電極で、これらの金電極(21)、(22)の膜厚は0.5〜1.0μmとし、その表面荒さは300Å(ピーク・ピーク)以上に設定されている。これら金電極(21)、(22)は金を含有するメタル・オルガニック・ペースト・・・このような金電極(21)、(22)に対し、第9図のキャピラリ(7)を用いて、金ワイヤ(6)をそれぞれ超音波ワイヤボンドし・・・」(2頁左下欄16行〜3頁左上欄2行)

<刊行物2>
本件特許に係る出願前に頒布された刊行物2の特開昭61-89655号公報には、メタロオーガニック層を用いた半導体装置におけるボンディング強度を高めるためのボンディングパッドの構造について以下の事項が記載されている。

「密着型イメージセンサの駆動回路部を厚膜回路で構成すると共に、センサ部をアモルファス水素化シリコン等のアモルファス半導体で構成したものがある。」(1頁右下欄10〜13行)
「駆動回路部を金の厚膜パターン(金パターン)によって形成した後に、センサ部としてのアモルファス水素化シリコン層をプラズマCVD法等によって堆積する際、シラン、水素等のガスプラズマが金パターンの膜質に損傷を与えたり、あるいは、金パターンとセラミック基板との間に前記ガスプラズマが介入したりすることにより、金パターンの該セラミック基板への密着強度が低下することがあった。従って、この厚膜回路(金パターン)上に半導体チップを搭載させるためのワイヤボンディング工程において、特に膜の剥離がひんぱんに発生し、これが歩留まり低下の原因となることがあった。そこで、第7図に示す如く、セラミック基板1上に形成された前記厚膜パターン2上にメタロオーガニックパターン3を重ねた構造あるいは、メタロオーガニックパターン上に厚膜パターンを重ねた構造とすることにより、(後続する工程等による影響による)周囲の環境変化にも強いパターンを提供しようとする方法が提案されている。」(2頁左上欄2行〜右上欄1行)
「[発明が解決すべき問題点]しかしながら、前者の方法では、メタロオーガニック層に対してワイヤボンディングを行うことになるため、ワイヤボンディングの強さすなわち、ボンディング強度が、通常の厚膜パターンあるいは薄膜パターンの場合に比べて、メタロオーガニック層は弱く、ボンディング工程に起因する歩留まりの低下を生じたりあるいは、後続する樹脂封止工程において、樹脂を塗布する際にボンディング切れを生じたりする等、信頼性の低下の原因となっていた。本発明は、前記実情に鑑みてなされたもので、メタロオーガニック層によって被覆された厚膜回路のワイヤボンディングの歩留まりの向上をはかると共に、これを含む半導体装置の信頼性を高めることを目的とする。
[問題点を解決するための手段]そこで、本発明では、厚膜パターン上を被覆するメタロオーガニック層上のボンディングパッドにあたる部分に、更に厚膜導体層又は薄膜導体層を形成し、この部分が厚膜層-メタロオーガニック層-厚膜層又は薄膜層の3層構造となるようにしている。・・・
[作用]かかる構成により、ボンディングパッドの表面は、厚膜層又は薄膜層となっているため、ボンディング性(ボンディングの付着性)が良好であると共に、メタロオーガニック層を有するために、プラズマCVD工程等の後続の処理工程により、厚膜パターンが損傷を受けるのを防ぐこともできる。」(2頁右上欄2行〜左下欄17行)
「[実施例]・・・第1図に示す如く、密着型イメージセンサの駆動回路部Aを厚膜法により形成すると共に、センサ部Sを薄膜法によって形成するものであり、ボンディングパッドに相当する部分を、金厚膜層2-メタロオーガニック金層3-金厚膜層9の3層構造とした点を特徴としている。次に、この密着型イメージセンサの製造方法を説明する。まず、96%のアルミナ基板1上に、・・・所定のスクリーンを用いて、金ペーストを印刷し、乾燥した後、870〜930℃の焼成炉で所定時間、焼成を行ない第2図に示す如く、膜厚4〜6μmの金の厚膜パターン2を形成する。・・・次いで、上記スクリーンと同一パターンを有するスクリーンを用い、・・・メタロオーガニック金を印刷し、乾燥した後、930℃の焼成炉で所定時間焼成を行い、第3図に示す如く、膜厚約5000Åのメタロオーガニック金パターン3を形成する。このようにして金の厚膜パターン2上にメタロオーガニック金パターン3の重ねられた2層構造の導体層を形成し、更に、ボンディングパッドとなるべき領域に、金ペーストを用いて同様に印刷、焼成を行い、膜厚約4〜6μmの金の厚膜層を形成することにより、金の厚膜-メタロオーガニック金パターン-金の厚膜の3層構造のボンディングパッド9を第4図に示す如く形成する。・・・そして更に第5図に示す如く、プラズマCVD法により、光導電体層としてのアモルファス水素化シリコン層6を堆積する。・・・最後に、厚膜回路によって形成された前記駆動回路部と、センサ部Sとの接続を、ワイヤボンディング等によって完了させる・・・」(2頁左下欄18行〜3頁右上欄13行)
「このように金の厚膜パターン2をメタロオーガニック金パターン3により保護し、更にこの上層に金の厚膜パターンによりボンディングパッド9を形成することにより、ボンディングパッドは3層構造となっており、ボンディング性は極めて良好である。このボンディングパッド9は、アモルファス水素化シリコン層の形成のためのプラズマCVD工程におけるシラン、水素等のガスプラズマ雰囲気中でも、損傷を受けることなく、良好な厚膜の状態を維持することができる。従って、ワイヤボンディング工程において、膜の剥離を生じたりすることもなく、密着型イメージセンサとしての製造歩留りも大幅に向上する。」(3頁右上欄16行〜左下欄8行)
「加えて、この方法は密着型イメージセンサの形成に限定されることなく、広く半導体装置の製造に有効であり、メタロオーガニックパターンがワイヤボンディングパッドの最上層となる場合において特に有効である。」(3頁右下欄2〜6行)

(6-3)対比・判断
本件発明と刊行物1に記載の発明とを対比すると、刊行物1に記載の発明における「金を含有するメタル・オーガニック・ペースト」、「通電リード用導電パターン」、「金電極」、「サーマルヘッド」は、それぞれ本件発明の「有機金ペースト」、「導体パターン」、「ボンディングパッド部」、「サーマルヘッド用印刷回路基板」に相当する。
また半導体装置において、絶縁基板としてアルミナセラミックは周知のものであるから、刊行物1に記載の発明における「セラミックなどからなる絶縁性基板」は、本件発明の「アルミナセラミックよりなる絶縁基板」に相当する。
そうすると、両者は、「アルミナセラミックよりなる絶縁基板上に、発熱抵抗体を形成するとともに、この発熱抵抗体に電気的に接続される有機金ペーストよりなる導体パターンを形成してなるサーマルヘッド用印刷回路基板」の点で一致し、次の点a、bで相違する。
<相違点a>本件発明は、導体パターンの末端部には幅広のボンディングパッド部を形成したのに対し、刊行物1に記載の発明はボンディングパッド部の構造が明確でない点。
<相違点b>本件発明は、ボンディングパッド部の表層を、ガラスエポキシ材との間で組合せワイヤボンディングを行う無機金ペーストよりなる層としたのに対し、刊行物1に記載の発明のボンディングパッド部の表層の構造はそのようなものではない点。

そこで、上記相違点a、bについて以下検討する。
<相違点a>について
導体パターンの末端部にワイヤボンディングする場合に、導体パターンの末端部に幅広のボンディングパッドを形成することは周知の技術である(必要ならば、特開昭57-16527号公報(甲第3号証)、特開昭63-34997号公報(甲第4号証)、実開昭56-167594号公報(甲第6号証)参照。)から、上記刊行物1に記載の金電極の末端部に幅広のボンディングパッド部を採用する程度のことは、当業者が必要に応じて適宜に設計できる事項にすぎない。

<相違点b>について
刊行物2に記載のワイヤボンディングパッド部は、アルミナ基板上に金の厚膜層(「無機金ペーストよりなる層」に相当する。)を形成し、この金の厚膜層を被覆するメタロオーガニック層上のボンディングパッド部に、金の厚膜層を形成して3層構造とすることにより、ボンディング性を良好にしたものである。
してみると、刊行物2に記載された3層構造のボンディングパッド部において、ワイヤボンディング性の改善のために、ボンディング強度の弱いメタロオーガニック層上に金の厚膜層を形成する上部2層構造を取り出して、刊行物1に記載の発明の前提となる発明、すなわち基板表面上にメタル・オルガニック金(有機金ペースト)を被着した金電極(ボンディングパッド部)の構造に刊行物2に記載の上部2層構造を適用して、メタル・オルガニック金(有機金ペースト)の上に金の厚膜層を形成することによりボンディング性を良好にすることは容易に想到することができたものである。
しかしながら、本件発明の無機金ペーストはガラスエポキシ材との間での組合せワイヤボンディングを行うものであって、この組合せワイヤボンディングは、サーマルプリントヘッドにおいて、アルミナセラミックよりなる絶縁基板に形成した導体パターンのボンディングパッド部とガラスエポキシ材よりなる絶縁基板に搭載したICとの間でワイヤボンディングを行うことを意味することは明らかである(必要ならば、請求人が「組合せワイヤボンディング」の説明資料として提出した資料5の特開昭62-48571号公報、資料6の特開昭62-249764号公報参照。)。
一方、刊行物1に記載の基板はセラミックなどの絶縁性基板であり、刊行物2に記載の基板はアルミナ基板であって、いずれも本件発明のようにアルミナセラミックよりなる絶縁基板とガラスエポキシ材よりなる絶縁基板とを組み合わせた組合せワイヤボンディングについては何も記載されていないし示唆もされていないから、刊行物1、2に記載の絶縁性基板から本件発明のアルミナセラミックよりなる絶縁基板とガラスエポキシ材とを組み合わせた組合せワイヤボンディングを容易に想到することはできない。

そして本件発明は、低温下においても、ボンディングパッド部の表層を無機金ペーストよりなる層とすることにより良好なボンディングが可能となるとともに、絶縁基板としてアルミナセラミック基板とガラスエポキシ基板とを組み合わせた組合せワイヤボンディングが可能となるという顕著な効果を奏するものである。

したがって、本件発明は、上記刊行物1、2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

また、請求人は、上記したとおり、資料5の特開昭62-48571号公報と資料6の特開昭62-249764号公報を提出しているので、この資料5、6を含めてさらに検討する。
資料5の特開昭62-48571号公報、資料6の特開昭62-249764号公報には、それぞれアルミナセラミック基板に発熱抵抗体、個別電極を配設し、ガラス-エポキシ基板に駆動用集積回路を搭載したサーマルプリントヘッドに関する発明が記載されている。
しかしながら、資料5、6に記載のように、サーマルプリントヘッドにおいてアルミナセラミック基板とガラスエポキシ基板との組合せワイヤボンディングが周知の技術であるにしても、刊行物1に記載のセラミックなどの絶縁性基板表面上にメタル・オルガニック金を被着した金電極の構造に、刊行物2に記載の、金の厚膜層上にメタロオーガニック層と金の厚膜層を形成した上部2層構造を適用して、低温下においても、メタル・オルガニック金の上に金の厚膜層を形成することにより良好なワイヤボンディングが可能となるとともに、絶縁性基板として資料5、6に記載のようなアルミナセラミック基板とガラスエポキシ基板とを組み合わせた組合せワイヤボンディングが可能となることは、刊行物1、2及び資料5、6のいずれにも記載されていないし示唆もされていない。
してみると、本件発明は、刊行物1、2に記載された発明及び資料5、6に記載された周知の技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

また、他に本件発明が特許出願の際独立して特許を受けることができないとする理由及び証拠を発見しない。

したがって、本件発明は特許出願の際独立して特許を受けることができるものである。

[4]むすび
以上のとおりであるから、本件審判請求に係る訂正は、平成6年法律第116号附則第6条の規定によりなお従前の例によるとされる同第116号による改正前の特許法第126条第1項ただし書第1、3号に掲げる事項を目的とし、かつ同条第1項ただし書、同条第2、3項の規定に適合する。
よって、結論のとおり審決する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
サ-マルヘッド用印刷回路基板
(57)【特許請求の範囲】
(1).アルミナセラミックよりなる絶縁基板上に、発熱抵抗体を形成するとともに、この発熱抵抗体に電気的に接続される有機金ペ-ストよりなる導体パタ-ンを形成してなるサ-マルヘッド用印刷回路基板において、
前記導体パタ-ンの末端部には幅広のボンディングパッド部を形成し、該ボンディングパッド部の表層を、ガラスエポキシ材との間での組合せワイヤボンディングを行う無機金ぺ-ストよりなる層とすることを特徴とするサ-マルヘッド用印刷回路基板。
【発明の詳細な説明】
(イ)産業上の利用分野
この発明は、サ-マルプリントヘッドに適用する金ペ-ストにより導体パタ-ンを形成するサ-マルヘッド用印刷回路基板に関する。
(ロ)従来の技術
金ペ-ストにより導体パタ-ンを形成する印刷回路基板技術は、例えば厚膜形サ-マルプリントヘッドに適用される。厚膜形サ-マルプリントヘッドは、絶縁基板上に金ペ-ストを印刷焼成して、共通電極、個別電極、その他配線用の導体パタ-ンが形成される。また、前記絶縁基板上には、前記共通電極、個別電極を跨ぐように厚膜抵抗体が形成される。さらに、前記絶縁基板上には、駆動用のICチップがボンディングされ、前記個別電極のボンディングパッド部とこのICチップのボンディングパッド(及び配線用の導体パタ-ンのボンディングパッド部及びICチップのボンディングパッド)が、金ワイヤにより接続(ワイヤボンディング)される。
(ハ)発明が解決しようとする課題
上記金ペ-ストには、有機金ペ-スト(例えばメタルオ-ガニックペ-スト等)と無機金ペ-スト(例えばガラスフリットペ-スト等)とが知られているが、厚膜形サ-マルプリントヘッドの場合には有機金ペ-ストが使用されていることが多い。
第3図は、サ-マルプリントヘッドに有機金ペ-ストMo、無機金ペ-ストGfを用いた場合を比較して、投入電力と印字濃度との関係を示す図である。この図からも明らかなように、有機金ペ-ストMoの場合には、抵抗体からリ-ドパタ-ンへの熱拡散が少ないため低い投入電力でより高い印字濃度が得られる。以上の点より、有機金ペ-ストが多用されているのである。
しかしながら、さらに省エネルギ性を高めるため、導体パタ-ンを薄くすると、ワイヤボンディングが低温度では行いにくくなる。第4図は、有機金ペ-ストMo1,Mo2と無機金ペ-ストGf1,Gf2とを比較して、絶縁基板温度に対するワイヤボンディング強度を示しているが、2種類の有機金ペ-ストMo1,Mo2はいずれの場合でも無機金ペ-ストGf1,Gf2の場合よりも、低温でのワイヤボンディング強度が低い。従って、安定にワイヤボンディングを行うためには、有機金ペ-ストの場合には、絶縁基板全体を高温加熱してワイヤを圧着しなければならない。
上記不都合を解決するためには、局部多層印刷を行うことにより、ワイヤボンディングパッド部の有機金膜厚を増加させる事も考えられるが、コストが上昇するという新たな問題が生じる。
この発明は上記に鑑みなされたもので、省エネルギ性を損なうことなく、ワイヤボンディングを行い易くするサ-マルヘッド用印刷回路基板の提供を目的としている。
(ニ)課題を解決するための手段及び作用
上記課題を解決するため、この発明のサ-マルヘッド用印刷回路基板は、アルミナセラミックよりなる絶縁基板上に、発熱抵抗体を形成するとともに、この発熱抵抗体に電気的に接続される有機金ペ-ストよりなる導体パタ-ンを形成してなるものにおいて、前記導体パタ-ンの末端部には幅広のボンディングパッド部を形成し、該ボンディングパッド部の表層を、ガラスエポキシ材との間での組合せワイヤボンディングを行う無機金ペ-ストよりなる層とすることを特徴としている。
導体パタ-ンの末端部に形成される幅広のボンディングパッド部の表層を構成する無機金ペ-ストは、第4図にも示すように低温でのワイヤボンディング性が向上できるし、ボンディングパッド部以外の導体パタ-ンは、従来と同様有機金ペ-ストで形成されているから、省エネルギ性を損なうこともない。
(ホ)実施例
この発明の一実施例を第1図乃至第2図に基づいて以下に説明する。
この実施例は、この発明を厚膜形サ-マルプリントヘッド1に適用したものであり、第1図及び第2図は、それぞれ同じサ-マルプリントヘッド1の要部平面図及び要部断面図である。
2は、アルミナセラミックよりなる絶縁基板である。この絶縁基板2表面2aには、有機金ペ-ストを印刷焼成してなる共通電極3、及び個別電極4,…,4が形成される。共通電極3は、絶縁基板2の縁部2bに沿って形成され、一定間隔で突出部3a,…,3aが櫛歯状に突出している。一方、個別電極4の先端部4aは、突出部3a,3a間に位置し、また、末端部は幅広のボンディングパッド部4bとされる。ボンディングパッド部4b上には、無機金ペ-スト層5が形成される。
共通電極突出部3a、個別電極先端部4a上には、両者に跨がるように、酸化ルテニウム等よりなる厚膜発熱抵抗体6が形成される。この発熱抵抗体6の、共通電極突出部3a,3a間に挟まれる部分6aが、1ドットに対応する。
絶縁基板2上には、発熱抵抗体6に電圧が印加して駆動するためのICチップ7が設けられている。ICチップ7のボンディングパッド7a,…,7aと対応する個別電極ボンディングパッド部4b,…,4bとは、それぞれ金線8でワイヤボンディングされる。個別電極ボンディングパッド部4bは、無機金ペ-ストよりなる導体層5で覆われているから、低温でも確実にワイヤボンディングを行うことができる。
そして、本発明では、ガラスエポキシ材との間での組合せワイヤボンディングを行う。
なお、絶縁基板2上には、グレ-ズ層が形成されているか、第1図及び第2図ではこれを省略している。
上記実施例は、厚膜形サ-マルプリントヘッドについて説明しているが、この発明の適用範囲はこれに限定されるものではない。
(ヘ)発明の効果
以上説明したように、この発明によれば、導体パタ-ンは有機金ペ-ストより形成してあるから、サ-マルヘッドの印字熱を拡散させることはなく熱効率が向上する。
しかも、前記導体パタ-ンの末端部に形成する幅広のボンディングパッド部の表層は無機金ペ-ストより形成してあるから、ワイヤボンディング性を向上し、特に低温でのワイヤボンディングが可能となる。そのため、ガラスエポキシ材との間での組合せワイヤボンディングができた。
【図面の簡単な説明】
第1図は、この発明の一実施例に係る厚膜形サ-マルプリントヘッドの要部断面図、第2図は、同厚膜形サ-マルプリントヘッドの要部平面図、第3図は、有機金ペ-ストと無機金ペ-ストとをサ-マルプリントヘッドに適用した場合の投入電力と印字濃度との関係を比較して示す図、第4図は、有機金ペ-ストと無機金ペ-ストのワイヤボンディング温度と基板温度との関係を比較して示す図である。
2:絶縁基板、3:共通電極、4:個別電極、5:無機金ペ-スト層、4b:ボンディングパッド部。
【図面】




 
訂正の要旨 訂正の要旨
審決(決定)の【理由】欄参照。
審決日 2003-02-06 
出願番号 特願昭63-155739
審決分類 P 1 41・ 121- Y (H01L)
最終処分 成立  
前審関与審査官 小田 裕  
特許庁審判長 関根 恒也
特許庁審判官 城所 宏
影山 秀一
三崎 仁
池田 正人
登録日 1996-11-06 
登録番号 特許第2103950号(P2103950)
発明の名称 サ-マルヘッド用印刷回路基板  
代理人 川崎 勝弘  
代理人 西 博幸  
代理人 東野 正  
代理人 松本 司  
代理人 岩坪 哲  
代理人 川崎 勝弘  
代理人 村林 隆一  
代理人 東野 正  
代理人 石井 暁夫  
代理人 岩坪 哲  
代理人 石井 暁夫  
代理人 西 博幸  
代理人 松本 司  
代理人 村林 隆一  

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