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審決分類 |
審判 全部無効 2項進歩性 訂正を認める。無効とする(申立て全部成立) B43K |
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管理番号 | 1075663 |
審判番号 | 無効2000-35514 |
総通号数 | 42 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 1990-05-30 |
種別 | 無効の審決 |
審判請求日 | 2000-09-25 |
確定日 | 2003-02-19 |
訂正明細書 | 有 |
事件の表示 | 上記当事者間の特許第2141299号発明「筆記具被覆体および被覆体の移動止め構造」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 |
結論 | 訂正を認める。 特許第2141299号の請求項1に係る発明についての特許を無効とする。 審判費用は、被請求人の負担とする。 |
理由 |
第1.手続の経緯 本件特許第2141299号の請求項1乃至4に係る発明は、昭和63年11月22日に特願昭63-293712号として出願され、平成2年10月16日及び平成6年9月5日付けで手続補正がなされ、平成7年3月8日に特公平7-20752号として出願公告がなされ、これに対して異議申立がなされ平成10年9月30日付けで異議理由有りとして拒絶査定がなされ、平成10年12月16日に査定不服の審判請求とともに手続補正がなされ、平成12年2月15日付けで原査定を取り消す旨の審決がなされ、平成12年3月24日にその設定登録がなされ、その後、平成12年9月25日にオート株式会社外5名より本件無効審判の請求がなされ、平成12年12月21日付けで被請求人より審判事件答弁書及び訂正請求書が提出され、平成13年7月27日付けで請求人より審判事件弁駁書が提出され、平成14年4月19日付けで被請求人より口頭審理陳述要領書が提出され、平成14年4月26日付けで請求人より口頭審理陳述要領書及び口頭審理陳述要領書(補足)が提出され、平成14年4月26日に特許庁大審判廷にて口頭審理及び証人尋問が行われ、その後書面審理とされ、平成14年5月28日付けで被請求人より上申書が提出され、平成14年5月30日付けで請求人より上申書及び手続補正書が提出され、平成14年7月22日付けで請求人より上申書が提出され、平成14年7月30日付けで請求人及び被請求人に審尋通知がなされ、平成14年8月7日に特許庁小審判廷にて審尋が行われたものである。 第2.訂正の適否についての判断 1.訂正の内容 i.訂正事項a 平成2年10月16日付けの全文補正明細書(以下「明細書」という。」を補正した平成10年12月16日付けの補正書の特許請求の範囲の請求項1乃至3を削除する。 ii.訂正事項b 明細書を補正した平成10年12月16日付けの補正書の特許請求の範囲の請求項1乃至3を削除することにともなって、請求項4を請求項1に繰り上げ、次のとおりに訂正する。 「筆記具の軸心に着脱自在に装着された状態での外径が10.5〜14.3mmであり、ショアーA硬度が40〜60度で、指に対する接触面積の拡大に有効な弾性変形を行う厚みをもつゴム又は合成樹脂からなる軟質弾性物質でできた筆記具被覆体の先端側及び後端側でそれぞれ前記軸心に装着された先端芯体押え及び後端芯体押えからなり、前記先端芯体押え及び前記後端芯体押えは、前記筆記具被覆体側の端部外径が前記被覆体の外径に等しくなっている筆記具被覆体の移動止め構造。」 iii.訂正事項c 発明の名称「筆記具被覆体および被覆体の移動止め」を「筆記具被覆体の移動止め構造」に訂正する。 iv.訂正事項d 明細書第2頁第5〜6行(公告公報第1頁第2欄第5〜6行)の「筆記具被覆体とその被覆体の移動止め構造」を「筆記具被覆体の移動止め構造」に訂正する。 v.訂正事項e 明細書第2頁第15行〜第3頁第12行を補正した平成6年9月5日付けの補正書第2頁第14行(公告公報第2頁第3欄第13行)の「筆記具に装着」を「筆記具に着脱自在に移動止め」に訂正する。 vi.訂正事項f 明細書第3頁第14行〜第4頁第4行(公告公報第2頁第3欄第18〜27行)を次のとおり訂正する。 「本発明は、筆記具被覆体を装着自在に移動止めする構造であって、筆記具の軸心に着脱自在に装着された状態での外径が10.5〜14.3mmであり、ショアーA硬度が40〜60度で、指に対する接触面積の拡大に有効な弾性変形を行う厚みをもつゴム又は合成樹脂からなる軟質弾性物質でできた筆記具被覆体の先端側及び後端側でそれぞれ前記軸心に装着された先端芯体押え及び後端芯体押えからなり、前記先端芯体押え及び前記後端芯体押えは、前記筆記具被覆体側の端部外径が前記被覆体の外径に等しくなっていることを特徴とする。筆記具被覆体の材質としてシリコンゴムを用い、その肉厚を1mm乃至3mmにすることが好ましい。 《実施例》」 vii.訂正事項g 明細書第4頁第7行(公告公報第2頁第3欄第30行)及び第9頁第15行(公告公報第3頁第5欄第27行)の「本発明の筆記具被覆体」を「本発明で使用する筆記具被覆体」に訂正する。 viii.訂正事項h 明細書第4頁第9行(公告公報第2頁第3欄第32行)、第9頁第2行(公告公報第3頁第5欄第16行)の「本発明の筆記具被覆体」、及び第4頁第10行(公告公報第2頁第3欄第33行)、第7頁第5行(公告公報第2頁第4欄第34行)、第11頁第2〜3行(公告公報第3頁第6欄第18〜19行)の「本発明の被覆体」を「筆記具被覆体」に訂正する。 ix.訂正事項i 明細書第11頁第4行(公告公報第3頁第6欄第20行)の「被覆体」を「筆記具被覆体」に訂正する。 x.訂正事項j 明細書第11頁第5行(公告公報第3頁第6欄第20〜21行)の「本発明の一実施例を」を「筆記具被覆体の効果を具体的に」に訂正する。 2.訂正の目的の適否、新規事項の有無及び拡張変更の存否 上記訂正事項a及びbは、設定登録時の特許請求の範囲の請求項1乃至3を削除して設定登録時の請求項4を請求項1とするとともに、設定登録時の特許請求の範囲の請求項4における請求項1乃至3の何れかを要件とする記載を、設定登録時の請求項2及び3を除いて設定登録時の請求項1のみを要件とするように限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、また、上記訂正事項c乃至jは、前記特許請求の範囲の減縮に伴って、減縮された特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明及び図面の簡単な説明の記載とを整合させるため、発明の詳細な説明及び図面の簡単な説明を訂正する、明りょうでない記載の釈明を目的とするものであり、そして、これらの訂正事項a乃至jは、明細書に記載された事項の範囲内において訂正するものであるから新規事項の追加に該当せず、また、実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものでもない。 3.むすび 以上のとおりであるから、本件訂正は、平成6年改正法による改正前の特許法第134条第2項ただし書き、及び特許法第134条第5項において準用する平成6年改正法による改正前の特許法第126条第2項の規定に適合するので、当該訂正を認める。 第3.当事者の求めた審判 1.本件発明 本件特許第2141299号に係る発明は、訂正が認められるから、本件の訂正明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定されるものである。 「筆記具の軸心に着脱自在に装着された状態での外径が10.5〜14.3mmであり、ショアーA硬度が40〜60度で、指に対する接触面積の拡大に有効な弾性変形を行う厚みをもつゴム又は合成樹脂からなる軟質弾性物質でできた筆記具被覆体の先端側及び後端側でそれぞれ前記軸心に装着された先端芯体押え及び後端芯体押えからなり、前記先端芯体押え及び前記後端芯体押えは、前記筆記具被覆体側の端部外径が前記被覆体の外径に等しくなっている筆記具被覆体の移動止め構造。」(以下、「本件発明」という。) 2.請求人の主張 請求人は、下記の甲第1号証乃至甲第47号証、及び、検甲第1号証の1乃至3及び検甲第2号証を提出すると共に、証人尋問を申請して、本件発明は、甲第1号証乃至甲第15号証、甲第23号証及び甲第26号証乃至甲第38号証に記載され、本件特許発明の出願前に日本国内において公然知られたまたは公然実施されていた発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、特許法第123条第1項第2号の規定により、無効とすべきである旨主張している。 書証 甲第1号証:「月刊 事務用品」1978年9月号 (株)文研社 昭和53年9月1日発行 甲第2号証:「文具と事務機」1978年10月号 (株)ニチマ 昭和53年10月1日発行 甲第3号証:「ネオグリッパー及びスペアグリッパーのちらし」 オート株式会社発行 甲第4号証:「特選街」1980年4月号(株)マキノ出版 昭和55年4月1日発行 甲第5号証:旬刊「ステイショナー」 第783号 第6頁 株式会社ステイショナー 昭和61年1月15日発行 甲第6号証:「ZOOM」カタログ 株式会社トンボ鉛筆 昭和62年10月発行 甲第7号証:実願昭60-10014号(実開昭61-128084号 公報)のマイクロフィルム 甲第8号証:特開昭62-242595号公報 甲第9号証:「Toray Silicone トーレ・シリコーン 総合カタログ」 トーレ・シリコーン株式会社 1987年(昭和62年)1月発行 甲第10号証:「東レ・ダウコーニング・シリコーン株式会社 製品総合 カタログ」 東レ・ダウコーニング・シリコーン株式会社発行 甲第11号証:カタログ「ミラブル型シリコーンゴム製品物性一覧表」 東芝シリコーン株式会社 1980年9月発行 甲第12号証:「信越シリコーン ゴムコンパウンドデータガイド」 信越化学工業株式会社 ’87.6.3発行 甲第13号証:実願昭48-133366号(実開昭50-78342号 公報)のマイクロフィルム 甲第14号証:米国特許第4,601,598号明細書、 1986年7月22日発行 甲第15号証:実願昭53-35226号(実開昭54-138746号 公報)のマイクロフィルム 甲第16号証:財団法人 化学物質評価研究機構発行「試験報告書」 平成12年7月24日付、 試料名 オートネオグリッパー(材質シリコンゴム) 甲第17号証:本件の特許異議の決定謄本の写し 平成10年9月30日付け 甲第18号証:特許第2854084号公報 甲第19号証:特許第2854084号の取消理由通知書 平成12年2月21日付 甲第20号証:特開平2-141295号公報 甲第21号証:審判請求書 平成10年12月16日提出 甲第22号証:上申書 平成11年5月25日提出 甲第23号証:証明書 平成12年7月25日付永柳工業株式会社 取締役土屋芳紀氏による証明書 甲第24号証:証明書 平成12年7月31日付元八晃産業株式会社 専務取締役高橋末峰氏による証明書 甲第25号証:「加硫ゴム物理試験方法 JIS K6301-1975」 昭和50年3月1日改正 甲第26号証:実公昭30-912号公報 甲第27号証:実願昭49-24264号(実開昭50-113540号 公報)のマイクロフィルム 甲第28号証:実願昭53-40998号(実開昭54-145253号 公報)のマイクロフィルム 甲第29号証:実願昭54-11370号(実開昭55-110288号 公報)のマイクロフィルム 甲第30号証:特開昭56-117694号公報 甲第31号証:特開昭57-193397号公報 甲第32号証:実願昭57-70962号(実開昭58-175091号 公報)のマイクロフィルム 甲第33号証:実願昭57-156687号(実開昭59-61979号 公報)のマイクロフィルム 甲第34号証:実願昭57-168376号(実開昭59-71795号 公報)のマイクロフィルム 甲第35号証:実願昭58-81631号(実開昭59-187489号 公報)のマイクロフィルム 甲第36号証:実願昭58-143064号(実開昭60-51088号 公報)のマイクロフィルム 甲第37号証:米国特許第2,173,451号明細書、 1939年9月19日発行 甲第38号証:米国特許第4,167,347号明細書、 1979年9月11日発行 甲第39号証:永柳工業株式会社の社内業務報告書、 昭和53年7月11日付 甲第40号証:永柳工業株式会社の技術室宛業務依頼書、 昭和60年6月21日付け 甲第41号証:オート製品、昭和56年4月10日付け 甲第42号証:「グリッパー」図面、1978年6月14日作成 甲第43号証:「報告書」湘南工科大学工学部機械工学科田辺明助教授 他3名作成 平成12年4月17日付 甲第44号証:甲第43号証報告書に基づき作成したグラフ 甲第45号証:ZOOM 505bwの部品の製作図面 昭和60年2月6日、同年2月7日、同年9月12日 甲第46号証:ZOOM 505bwの部品の組立図面 請求人代理人(石戸久子)作成、 平成14年4月19日付け口頭審理陳述要領書に添付 甲第47号証:永柳工業株式会社の従業員、大沢隆夫氏の試作(試験) 結果を記録したプライベートノートの表紙、目次、 昭和53年7月10日付けNo.30の頁、 昭和53年7月22日付けNo.31の頁、の写し 甲第48号証:ZOOM 505bwの「口金」の製作図面の写し 昭和60年2月7日付け 甲第49号証:Tombow2001カタログの写し Tombow Pen&Pencil Gmbh発行 表紙、第4、5、14頁、裏表紙 検証物 検甲第1号証の1:甲第1号証ないし甲第3号証で記載された 「ネオグリッパー」の実物。 検甲第1号証の2:第1号証ないし甲第3号証で記載された 「スペアグリッパー」の実物。 検甲第1号証の3:甲第1号証ないし甲第3号証で記載された 「ネオグリッパー」を直径11mmの筆記具に 着脱自在に装着した実物。 検甲第2号証:甲第5号証及び甲第6号証で記載された「ZOOM」の ZOOM 505bwの実物。 証人 土屋芳紀:永柳工業株式会社取締役 東京都北区王子本町2-5-8 鈴木清昭:オート株式会社従業員 埼玉県北葛飾郡鷲宮町葛梅450番地58 高橋末峰:八晃産業株式会社専務取締役 埼玉県川越市新富町一丁目-14-1-1010 3.被請求人の主張 被請求人は、本件審判の請求は成り立たない、審判費用は請求人の負担とする、との審決を求め、本件発明を特定する構成は、請求人が提示した何れの証拠にも記載されておらず、該証拠から容易になし得るとする根拠がない旨主張している。 4.当審の判断 (1)「ネオグリッパー」に関する証拠及び発明について オート株式会社が開発、販売し、検甲第1号証の1及び3に示される商品名が「ネオグリッパー」なる製品に関して、甲第1,2,3,12,16,23,25,39,40号証の記載、証人土屋芳紀及び鈴木清昭の証言、及び、これら各証拠に基づいて認定される発明は、以下のとおりである。 i.甲第1号証:「月刊 事務用品」1978年9月号 昭和53年9月1日発行 甲第1号証の第37頁の新製品紹介には、「徳用と手づくりの替ゴム」との見出しで、 「オートグリッパー2種 筆記具のすべり止めの替ゴム「グリッパー」。 <ネオグリッパー>G-80 80円(2個) どのメーカーの筆記具でも普通サイズ(直径12mm以内)のものならつけられる標準サイズ。量産による低価格で徳用。材質はシリコンゴム。」 と記載されるとともに、「ネオグリッパー」のパッケージの写真が掲載されている。 ii.甲第2号証:「文具と事務機」1978年10月号 昭和53年10月1日発行 甲第2号証の”今月の新製品”の頁の今月の新製品には、「オートのグリッパー」との見出しで、 「筆記具としては画期的な試みのすべり止めゴムの『グリッパー』 発売後、多くのユーザーからの”グリッパーをほしい” の声に答えて、現在市販されているどのメーカーの普通サイズの筆記具にもつけられる『替えゴム』を開発、発売した。 ネオグリッパー どのメーカーのものでも直径12mm以内の筆記具につけられる徳用品。価格八十円 黒、オリーブ、コーヒー色の三種。」 と記載されるとともに、「ネオグリッパー」のパッケージの写真が掲載されている。 iii.甲第3号証:ネオグリッパー及びスペアグリッパーちらし 甲第3号証には、「グリツパーがひとり歩きをはじめました。」との題目で、その表面には、「ネオグリッパー商品番号G-80 色:3色(黒・オリーブグリーン・コーヒーブラウン)/サイズ:口径一定(外径8mm、内径6.4mm)/材質:シリコンゴム 小売価格¥80(1袋2個入)」と記載されるとともに、 図面の丸1〜丸3と共に「ツバをつけるだけで簡単に入ります。(1)軸をなめるか、軸にツバをつけて,ゴムをすべりやすくさせます。(2)替えゴムを軽く押し込んでください。簡単に入ります。(3)古くなったゴムを取りはずす時は、ペン先の方向にむけてめくってください。」と記載されている。 また、前記図面の丸1〜丸3には、筆記具の軸心の前方部分に形成された細径部に対して、該軸心の先端部に装着された先端芯体押えを乗り越えるようにして替えゴムを装着する様が図示されているとともに、その上部図面には、ネオグリッパーを装着した筆記具を把持する様が大きく図示されている。 さらに、裏面には、ネオグリッパーについて「直径12mm以内の筆記具ならどんなものにもつけられます。」と記載されている。 iv.甲第12号証:信越化学工業株式会社、信越シリコーン ゴムコンパウンド データガイド ’87.6.3 甲第12号証の第6頁〜第9頁のシリコーンゴムコンパウンドの用途と一般特性には、JIS硬さ30〜85のシリコーンゴムが入手可能であることが記載されている。 v.甲第16号証:財団法人 化学物質評価研究機構発行「試験報告書」平成12年7月24日付け、試料名 オートネオグリッパー(材質シリコンゴム) 甲第16号証には、硬さ試験の結果「オートネオグリツパー(材質シリコンゴム)のデュロメータ硬さがA54」であることが報告されている。 vi.甲第23号証:証明書 平成12年7月25日付 甲第23号証は、永柳工業株式会社、取締役土屋芳紀による証明書であり、永柳工業株式会社が、昭和53年より現在まで、JIS-A50度〜55度のシリコーンゴム成型材料を用いて、甲第3号証に示す製品のグリッパー用として成型し、オート株式会社に約2億7千個余り、納入したことが証明されている。 vii.甲第25号証:「加硫ゴム物理試験方法 JIS K6301-1975」昭和50年3月1日改正 甲第25号証の57頁の参考図1には、JIS-AとショアーAの硬さ比較のグラフが記載されており、両者はほぼ同一であることがグラフから読みとれる。 viii.甲第39号証:永柳工業株式会社の社内業務報告書、昭和53年7月11日の土屋の日付印付き 甲第39号証には、Siグリッパー(注:永柳工業株式会社では、「ネオグリッパー」(G-80)を「Siグリッパー」と称していた。)の「オート(株)Siグリッパー量産第一回」の題目で、目的、種類・数量、仕様、納期、製造仕様及び納入仕様が記載されている。そして、目的の欄には、8/20発売とあり、仕様の欄には、HS50゜(KE152U)と記載されている。このKE152Uは、甲第12号証の信越化学工業株式会社のカタログによれば、硬度が50〜52JISである。 ix.甲第40号証:永柳工業株式会社の技術室宛業務依頼書、昭和60年6月21日付け 甲第40号証には、品名・品番シリコーングリッパー600Gについて、現行の硬度が50度のものから硬度を40度又は60度に変更した試作品の製作を依頼したときの内容が記載されており、該品名・品番の材料として使われるKE1551は、甲第12号証の信越化学工業株式会社のカタログによれば、硬度が54〜56JISである。 x.土屋芳紀の証言 証人土屋芳紀は、平成14年4月26日に行われた証人尋問において、永柳工業株式会社に勤務したこと、甲第23号証に示される証明書及び甲第39号証に示される業務報告書を作成したこと、その内容に間違いがないこと、永柳工業株式会社が昭和53年頃からJIS-A50度〜55度のシリコーンゴム成型材料を用いて甲第3号証に示すネオグリッパーを量産してオート株式会社に納入したこと、甲第23号証の作成当時は忘れていたがその後グリッパー用のシリコーンゴム成型材料としてKE152Uを使用したことを記載した甲第39号証に示される資料がでてきたこと、シリコーンゴムの材質については通常グリッパーに成型する前の素材段階の硬度で特定すること、及び、甲第40号証に示されるシリコーングリッパー600Gの試作依頼に関する書類の性質並びに記載の技術内容について証言した。 xi.鈴木清昭の証言 証人鈴木清昭は、平成14年4月26日に行われた証人尋問において、オート株式会社に勤務したこと、検甲第1号証の1及び3に示される製品が甲第1号証乃至甲第3号証に示される「ネオグリッパー」なる商品と同一であること、オート株式会社がネオグリッパーを開発販売したこと、甲第3号証に示される「ちらし」を昭和54年頃に作成して平和島の流通センターにて1月に行われた見本市で配布したこと、「ネオグリツパー」の材料となるシリコンゴムの硬度を50度から60度位として、狙いは55度位に決めたこと、及び、甲第16号証に示される「試験報告書」におけるオートネオグリッパーの試料は、保管されていた昭和59年頃のものを証人本人が提供したことを証言した。 xii.「ネオグリッパー」の発明 検甲第1号証の1及び3の「ネオグリッパー」に係る上記のi.からxi.の事項を総合して勘案すると、本件発明の出願前に筆記具被覆体として、以下の「ネオグリッパー」の発明が公然知られまたは公然実施されていたものと認められる。 「直径12mm以内の筆記具につけられる、JIS-A硬度が50〜55度で、指に対する接触面積の拡大に有効な弾性変形を行う厚みをもつゴムからなる軟質弾性物質でできたネオグリッパー。」 xiii.「ネオグリッパー」を装着した筆記具の移動止め構造の発明 前記「ネオグリッパー」の発明に関連して、甲第3号証の記載によれば、本件発明の出願前に筆記具被覆体の移動止め構造として、以下の「ネオグリッパー」を装着した筆記具の移動止め構造の発明が公然知られまたは公然実施されていたものと認められる。 「筆記具の軸心に着脱自在に装着された状態で内径が12mm以内であり、JIS-A硬度が50〜55度で、指に対する接触面積の拡大に有効な弾性変形を行う厚みをもつゴムからなる軟質弾性物質でできたネオグリッパーであって、前記ネオグリッパーの先端側で装着部の細径から基本径となる前記軸心あるいは前記軸心に装着された先端芯体押えとみなされる先端移動止め部材、及び前記ネオグリッパーの後端側で装着部の細径から基本径となる軸心からなり、前記先端芯体押え及び前記軸心は、前記ネオグリッパー側の端部外径が前記ネオグリッパーの外径に等しくなっているネオグリッパーを装着した筆記具の移動止め構造。」(以下、「ネオグリッパー装着発明」という。) (2)「ZOOM」に関する証拠及び発明について 八晃産業株式会社が開発製造し、株式会社トンボ鉛筆が販売し、検甲第2号証に示される商品名が「ZOOM」なる製品に関して、甲第5,6,24,45,48号証の記載、証人高橋末峰の証言、及び、これら各証拠に基づいて認定される発明は、以下のとおりである。 i.甲第5号証:旬刊「ステイショナー」第783号 第6頁 昭和61年1月15日発行 甲第5号証の第6頁右上には、「市場開拓へ「筆記遊具」」という見出しが付けられて商品「ZOOM」を紹介した記事がある。記事には、上から4欄目に「極太水性ボールペンは、全長140ミリ、軸径13.8ミリ、太さの利点を最大限に利用したのが特徴で、キャップ式水性ボールペンに不可能だったラバーグリップが使用できた。キャップの中に収まるラバーグリップは業界で初めて。疲れにくく、持ちやすく、しかも、筆記時に指先に伝わる振動を吸収し、水性ボールペンの滑らかな書き味をさらにアップ。」と記載されるとともに、極太水性ボールペンの写真が掲載されている。 ii.甲第6号証:「ZOOM」カタログ、昭和62年10月発行 甲第6号証には、株式会社トンボ鉛筆発行にかかる「ZOOM」シリーズカタログであり、第3頁目には505bwの写真が掲載されており、第13頁目及び第14頁目の Specifications(仕様) の表の第1行には、COMMON NAME(商品名)505bwのITEM NO.(製品番号)がBW-2000LZであり、MATERIAL(材料)はアルミニウムとラバーにより構成され、DIAMETER(軸径)が13.8mmであることが記載されている。 iii.甲第24号証:証明書 平成12年7月31日付 甲第24号証には、元八晃産業株式会社専務取締役 高橋末峰による証明書として、八晃産業株式会社が昭和60年1月より平成2年まで、先胴ゴム及び中胴ゴムを設計並びに手配し、筆記具軸に装着して、「ZOOM」の製品、BW-2000LZを株式会社トンボ鉛筆に約60万本納入したことが証明されている。 添付された図面1及び2(昭和59年12月28日作成)には、「ZOOM」(BW-2000LZ)の 先胴ゴムと中胴ゴムの製作図面として、先胴ゴムの外径が小径部10.8〜大径部12.2mm、内径が小径部8.4〜大径部9.3mmであり、中胴ゴムの外径が13.6mm、内径が11.6mmであることが表されている。 iv.甲第45号証:ZOOM 505bwの部品の製作図面 〔口金、先ツバ、レフィル押し、サヤ:昭和60年2月7日〕〔先軸:昭和60年2月6日〕〔胴ネジ、サヤネジ:昭和60年9月12日〕 甲第45号証には、「ZOOM」を構成する、口金、先ツバ、レフィル押し、先軸、胴ネジ、サヤネジ、サヤの各形状及び寸法を記載した設計図面が示されており、八晃産業株式会社に所属する高橋が設計者であることが記載されている。そして、甲第45号証には、先軸の外径が小径部8.5〜大径部11.7mm、胴ネジのツバの外径が13.3mm、サヤの外径が13.3mm、口金の先胴ゴム側の外径が11.1mmであることが記載されている。なお、甲第45号証のうち「ZOOM」を構成する口金の設計図面については、平成14年4月26日の口頭審理において原本確認ができなかったところであるが、同一の原図面に由来すると認められる甲第48号証において、同一形状及び同一寸法の口金の設計図面が示されており、かつ成立に争いがないので、甲第48号証をもって口金の形状及び寸法を認定する。 v.甲第48号証:ZOOM 505bwの「口金」の製作図面の写し 昭和60年2月7日付け 甲第48号証には、「ZOOM」を構成する口金の形状及び寸法を記載した設計図面が示されており、口金の先胴ゴム側の外径が11.1mmであること、及び、八晃産業株式会社に所属する高橋が設計者であることが記載されている。 vi.高橋末峰の証言 証人高橋末峰は、平成14年4月26日に行われた証人尋問において、八晃産業株式会社に勤務したこと、検甲第2号証に示される製品が、甲第5号証及び甲第6号証に示される「ZOOM」なる商品と同一であること、甲第24号証に示される証明書及び甲第45号証に示される「ZOOM」の部品の製作図面を作成したこと、甲第24号証及び甲第45号証の内容に間違いがないこと、八晃産業株式会社が昭和60年1月より平成2年まで「ZOOM」を株式会社トンボ鉛筆に毎年約60万本納入したこと、甲第24号証の添付図面に示される「ZOOM」の先胴ゴム及び中胴ゴムの硬度は60度から70度の間であること、中胴ゴム2と胴ネジのツバとの径の関係、及び先胴ゴムと口金の径の関係はそれぞれほぼ同一であること、先胴ゴム及び中胴ゴムは、それが装着される先軸に接着されずにそれぞれ口金と先ツバ、及び先ツバと胴ネジで両側を押さえられて抜けないようにされていること、口金及び胴ネジは接着により先軸に固定されていること、「ZOOM」の軸径については、外径が11.7mmの先軸に内径が11.6mmで外径が13.6mmの中胴ゴムを少し伸ばす形ではめるとはめ代もあって軸径が13.8mmになること、サヤがレフィル(芯体)の後端を押さえる機能を持っていること、ZOOMはラバーグリップを装着した後にこれを抜いて取り替えることを想定していない構造であることを証言した。 vii.「ZOOM」の発明 検甲第2号証の「ZOOM」に係る上記のi.からvi.の事項を総合して勘案すると、本件発明の出願前に以下の「ZOOM」の発明が公然知られまたは公然実施されていたものと認められる。 「筆記具の先軸に装着されると取り外しできない状態での最大外径が13.8mmであり、硬度が60〜70度で、指に対する接触面積の拡大に有効な弾性変形を行う厚みをもつゴムからなる弾性物質でできた先胴ゴム及び中胴ゴムからなるラバーグリップであって、前記先胴ゴムの先端側で前記先軸に装着された口金、中胴ゴムの後端側で前記先軸に装着されたツバを有する胴ネジ、及び前記胴ネジを介して前記先軸に装着されたサヤからなり、前記口金及び前記胴ネジのツバは、前記ラバーグリップ側の端部外径が前記ラバーグリップの外径に略等しくなっているラバーグリップの抜け止め構造。」(以下、「引用発明」という。) (3)筆記具被覆体の先端側及び後端側を位置規制する発明について i.甲第13号証:実願昭48-133366号(実開昭50-78342号公報)のマイクロフィルム 甲第13号証には、「ボールペンの軸(1)の指で握る部分を細くし、其の細くなった握り部分(2)に、ボールペンの軸と同じ径の弾性を有する素材、例えば軟質の合成樹脂、あるいは、ゴムまたはスポンジ等で作ったパイプ状の弾性体(3)をはめこんだものである。」(明細書第1頁第16行〜第2頁第1行)と記載されており、図面の第2図には、弾性体(3)の先端側には、端部外径が弾性体(3)の外径に等しい先端芯体押えと、弾性体(3)の後端側には、ボールペンの軸(1)の前方部分に形成された細くなった握り部分(2)から段差をもって弾性体(3)の外径に等しい基本径となる軸(1)とからなる移動止め構造が記載されている。 ii.甲第27号証:実願昭49-24264号(実開昭50-113540号公報)のマイクロフィルム 甲第27号証には、「ボールペンその他の筆記具の軸(1)の握持部(2)滑り止めの帯ゴム(3)を捲着したことを特徴とする筆記具の滑り止め装置。」(明細書第1頁第4〜6行)」、「第2図Bに示すようにゴム分だけ握持部(2)を環状に凹ませて捲嵌めてもよいものである。」(明細書第2頁第12行〜第3頁第1行)と記載されており、図面の第2図Bには、帯ゴム(3)の先端側には、端部外径が帯ゴム(3)の外径に等しい先端芯体押えと、帯ゴム(3)の後端側には、ボールペン等の軸(1)の前方部分に形成された細くなった握持部(2)から段差をもって帯ゴム(3)の外径に等しい基本径となる軸(1)とからなる移動止め構造が記載されている。 iii. 甲第30号証:特開昭56-117694号公報 甲第31号証:特開昭57-193397号公報 甲第30号証及び甲第31号証には、「現在市販されている滑り止め付筆記具は筆記具のシースのグリップ部分にゴム製のリングを装着している。第1図に例示するように、ボールペン1等のグリップ部分に小径部2を形成し、この小径部にゴム製のリング3を挿入している。かかる筆記具は特に筆圧を強く要する場合あるいは長時間使用する場合等に有効であることが認められている。しかし、小径部2とリング3との隙間をなくする必要上、リングの挿入時には大径部4を通過させる必要があるため、そのはめこみ作業は手作業で繁雑な作業を行っている。」(甲第30号証第1頁左下欄第15行〜右下欄第6行、及び甲第31号証第1頁右下欄第11行〜第2頁左上欄第2行)と記載されており、図面の第1図には、ゴム製のリング3をボールペン1等のグリップ部分に形成された小径部2に挿入し、前記リング3の先端側及び後端側を前記ボールペン1等の大径部4で位置規制するとともに、前記ボールペン1等の大径部4の端部外径がゴムリング3の外径に等しくなっているリング3の移動止め構造が記載されている。 また、甲第30号証及び甲第31号証には、「本発明は筆記具のシースの全体または一部を滑り止め部材で構成した筆記具に関するものである。」(甲第30号証第1頁左下欄第13〜14行、及び甲第31号証第1頁右下欄第8〜10行)、「図示の例では六角形状のシースで一辺おきに滑り止め層を被着しているが、これに限られず丸形等他の形状のシースにすることもでき、滑り止め層はその一部に限らず全体に付すことも勿論可能である。・・・このようにして複合押出により形成された第2図に示すような滑り止め部材5によりシース全体を構成した筆記具の例を第3図に示す。」(甲第30号証第2頁左上欄第13行〜右上欄第8行)、「第4,5および6図は丸形のシース6上に、第4図ではシースの一部に、第5図ではシースのほぼ全体に、滑り止め層7を設けたもので、」(甲第31号証第2頁右上欄第5〜8行)と記載されており、当該図面には、滑り止め部材を筆記具のシース(軸)の全体または一部に被着した筆記具が開示されている。 (4)本件発明と引用発明との対比判断 i.本件発明と引用発明との対比 本件発明と引用発明とを対比すると、引用発明における、「先軸」、「先胴ゴム及び中胴ゴムからなるラバーグリップ」、「口金」、「サヤ」、「抜け止め構造」は、それぞれ、本件発明における、「軸心」、「筆記具被覆体」、「先端芯体押え」、「後端芯体押え」、「移動止め構造」に相当する。 そして、引用発明における「最大外径が13.8mm」は、本件発明における「外径が10.5〜14.3mm」に含まれるものである。 また、引用発明における「中胴ゴムの後端側で先軸に装着され、中胴ゴムの外径に略等しくなっているツバを有する胴ネジ」は、本件発明における「筆記具被覆体の後端側で軸心に装着され、筆記具被覆体側の外径に等しくなっている後端芯体押え」と対比して、「筆記具被覆体の後端側で軸心に装着され、筆記具被覆体側の外径に等しくなっている後端移動止め部材」において共通するものである。 そうすると、本件発明と引用発明の両者は、以下の点でそれぞれ、一致ならびに相違するものと認められる。 ii.一致点及び相違点 一致点.「筆記具の軸心に装着された状態での外径が10.5〜14.3mmであり、指に対する接触面積の拡大に有効な弾性変形を行う厚みをもつゴムからなる弾性物質でできた筆記具被覆体であって、前記筆記具被覆体の先端側で前記軸心に装着された先端芯体押え、及び、前記筆記具被覆体の後端側で前記軸心に装着された後端移動止め部材とからなり、前記先端芯体押え及び前記後端移動止め部材は、前記筆記具被覆体側の端部外径が前記被覆体の外径に等しくなっている筆記具被覆体の移動止め構造。」 相違点A.筆記具被覆体の硬度及び材質が、本件発明は、ショアーA硬度が40〜60度の軟質弾性物質であるのに対して、引用発明は、硬度が60〜70度の弾性物質であって、その硬度及び材質の程度が異なる点。 相違点B.筆記具被覆体が、本件発明は、単体であるのに対して、引用発明は、先胴ゴム及び中胴ゴムからなる点。 相違点C.筆記具被覆体の移動止め構造が、本件発明は、筆記具被覆体の後端側で軸心に装着され、前記筆記具被覆体側の端部外径が前記被覆体の外径に等しくなっている後端芯体押えからなるのに対して、引用発明は、筆記具被覆体の後端側で軸心に装着され、前記筆記具被覆体側の端部外径が前記被覆体の外径に等しくなっているツバを有する胴ネジと、前記胴ネジを介して軸心に装着された後端芯体押えとからなり、前記胴ネジに形成されたツバが筆記具被覆体の後端移動止め機能を有し、前記後端芯体押えが筆記具被覆体の後端移動止め機能を有していない点。 相違点D.筆記具被覆体の移動止め構造において、筆記具被覆体が、本件発明は、筆記具の軸心に着脱自在に装着されるのに対して、引用発明は、筆記具の軸心に装着されると取り外しできない点。 iii.相違点の検討 (ア)相違点Aについて 本件発明における、筆記具被覆体の硬度が、ショアーA硬度で40〜60度であるとは、所定の硬度計測法に基づいて物性としてのショアーA硬度が40〜60度と測定される弾性物質でできた素材を筆記具被覆体に用いることを意味し、筆記具に装着された状態で測定される硬度をいうものではないことが、口頭審理の場で明らかになったところ、材料の物性を定義するときに製品段階における硬度の測定及び定義が困難である本件発明の如き事例において、ショアーA硬度を素材段階での硬度とすることは合理的な解釈と認められる。 ところで、一般に筆記具被覆体の技術分野において、筆記具被覆体を形成する素材としてショアーA硬度が40〜60度の軟質弾性物質を使用することは、前記4.(1)xii.の「ネオグリッパー」の発明に示されるように周知技術と認められる。 そうすると、引用発明の筆記具被覆体を形成する材料の硬度及び材質として、前記周知技術に示されるショアーA硬度が40〜60度の軟質弾性物質を採用して、前記相違点Aにかかる本件発明のように構成することは、当業者が容易に想到できるものである。 (イ)相違点Bについて 筆記具被覆体を単体として形成するか、複数の分割体として形成するかは、筆記具被覆体の使用勝手や筆記具のデザインに応じて適宜になし得る単なる設計的事項に過ぎないから、前記相違点Bにかかる本件発明のように構成することは、当業者が容易に想到できるものである。 (ウ)相違点Cについて 本件発明は、筆記具被覆体の先端側及び後端側でそれぞれ軸心に装着された先端芯体押え及び後端芯体押えからなる筆記具被覆体の移動止め構造であって、本来的には芯体の先端及び後端を押さえるための先端芯体押え及び後端芯体押えをもって筆記具被覆体の両端を挟みつける形で軸心に装着することで、筆記具被覆体のズレをも防止できるというものである。 ところで、軸心の前方部分に小径部を形成して該小径部に筆記具被覆体を装着し、前記被覆体の先端側を芯体の先端を押さえるために軸心の先端に装着される先端芯体押えにより位置規制するとともに、前記被覆体の後端側を軸心の小径部と大径部との段差部、あるいは、前記被覆体を装着した軸心に後続して装着される後軸の端部により、筆記具に装着された筆記具被覆体がズレないように位置規制することは、周知技術(例えば、甲第13号証、甲第27号証、甲第30号証、甲第31号証、平成13年7月27日付けの弁駁書において提示された特開昭52-37123号公報及び実願昭57-172573号(実開昭59-76378号)のマイクロフィルム)である。そして、前記周知技術によれば、前記先端芯体押え、段差部、後軸等に示されるように、軸心に装着された筆記具被覆体に当接して該被覆体を位置規制することで移動止め機能を果たすものであれば、その位置規制部材として適宜なものを採用できることが明らかである。 しかして、引用発明は、胴ネジに形成されたツバをもって筆記具被覆体の後端側における移動止め機能を果たす部材としているところ、前記胴ネジには後端芯体押えが組み付けられ、前記胴ネジに形成されたツバを介して前記被覆体の後端側と前記後端芯体押えの端部とが近接対向していることからすると、筆記具被覆体の後端側に移動止め機能を果たす何らかの位置規制部材を設けるという前記周知技術を熟知している当業者にとって、前記筆記具被覆体の後端側を位置規制する部材として、引用発明に示される前記後端芯体押えを想起することは明らかというべきである。 そうすると、筆記具被覆体の後端側における移動止め機能を果たす部材として、前記胴ネジに形成されたツバを省略して、前記後端芯体押えをもって筆記具被覆体の後端側を直接的に位置規制するように設計変更して、前記相違点Cにかかる本件発明のように構成することは、当業者が容易に想到できるものである。 (エ)相違点Dについて 本件発明に係る特許請求の範囲の記載によれば、筆記具被覆体が軸心に着脱自在に装着されるとは、筆記具被覆体の先端側及び後端側を先端芯体押え及び後端芯体押えにより移動止めする構造の下で、前記筆記具被覆体を筆記具の軸心に装着したり、軸心から取り外すことが可能であることをいうものと認められる。 ところで、筆記具被覆体を位置規制する周知技術として示した甲第3号証には、筆記具被覆体の先端側及び後端側を前記被覆体の外径に等しくなっている位置規制部材により移動止めする構造の下で、先端芯体押えに相当する位置規制部材を軸心に装着したままで、前記筆記具被覆体を前記位置規制部材を乗り越える操作で筆記具の軸心に装着したり、軸心から取り外すことが可能な構造が示されているとともに、甲第30号証及び甲第31号証においても、同様の操作により筆記具被覆体を軸心に着脱自在に装着可能な構造であることが想定できるものである。 そうすると、引用発明における筆記具被覆体として、甲第3号証、甲第30号証及び甲第31号証に示される、筆記具被覆体の先端側及び後端側を位置規制部材により移動止めする構造の下で、筆記具の軸心に着脱自在に装着できる筆記具被覆体を採用して、前記相違点Dにかかる本件発明のように構成することは、当業者が容易に想到できるものである。 (オ)被請求人の主張に対して、 被請求人は、本件発明は先端芯体押え及び後端芯体押えが軸心に対して装着・脱着可能なことにより被覆体が筆記具に着脱自在となる点に特徴を有する、旨主張している。 しかしながら、本件発明に係る特許請求の範囲の記載によれば、被覆体が筆記具に着脱自在とは、前記(エ)に示したことを意味するにとどまり、先端芯体押え及び後端芯体押えが軸心に対して装着及び脱着可能であることを要件に被覆体が筆記具に着脱自在となることを規定しているものではない。 これについて、被請求人は、訂正明細書における発明の詳細な説明の記載(訂正明細書第4頁第22行〜第5頁第4行)を引用するが、該記載では先端芯体押え及び後端芯体押えに関して、これらを装着することにより被覆体のズレを防止できることを説明するにとどまり、被覆体を筆記具に着脱する際に先端芯体押え及び後端芯体押えが軸心に対して装着及び脱着可能な構造を発明の要件とするものではなく、先端芯体押え及び後端芯体押えが軸心に対して装着及び脱着が不可能な構造を排除するものではないことが明らかであるから、被請求人の主張に係る先端芯体押え及び後端芯体押えが軸心に対して装着・脱着可能な構成は、実施例の一形態として想定されるに過ぎないというべきである。 よって、被請求人の主張は採用できない。 iv.作用効果の検討 本件発明における作用効果は、引用発明及び前記周知技術に基づいて当業者が容易に予測できるものである。 v.まとめ よって、本件発明は、引用発明(「ZOOM」の発明)に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 (5)本件発明とネオグリッパー装着発明との対比判断 i.本件発明とネオグリッパー装着発明との対比 本件発明とネオグリッパー装着発明とを対比すると、ネオグリッパー装着発明における「ネオグリッパー」は、本件発明における「筆記具被覆体」に相当する。 そして、ネオグリッパー装着発明における「装着された状態で内径が12mm以内」の筆記具被覆体としてのネオグリッパーは、非装着状態において外径8mmで内径6.4mmの被覆体を内径が12mm以内の筆記具に装着したものであるから、本件発明における「装着された状態で外径が10.5〜14.3mm」の筆記具被覆体に含まれることは明らかである。 また、ネオグリッパー装着発明における「JIS-A硬度が50〜55度のゴムからなる軟質弾性物質」は、本件発明における「ショアーA硬度が40〜60度のゴムからなる軟質弾性物質」に含まれるものである。 ついで、ネオグリッパー装着発明における「ネオグリッパーの先端側で装着部の細径から基本径となる前記軸心あるいは前記軸心に装着された先端芯体押えとみなされる先端移動止め部材であって、前記ネオグリッパー側の端部外径が前記ネオグリッパーの外径に等しくなっている前記先端移動止め部材」は、本件発明における「筆記具被覆体の先端側で軸心に装着され、前記筆記具被覆体側の端部外径が前記被覆体の外径に等しくなっている先端芯体押え」と対比して、「筆記具被覆体の先端側で前記記具被覆体側の端部外径が筆記具被覆体の外径に等しくなっている先端移動止め部材」において共通する。 さらに、ネオグリッパー装着発明における「ネオグリッパーの後端側で装着部の細径から基本径となり、前記ネオグリッパー側の端部外径が前記ネオグリッパーの外径に等しくなっている軸心」は、本件発明における「筆記具被覆体の後端側で軸心に装着され、前記筆記具被覆体側の端部外径が前記筆記具被覆体の外径に等しくなっている後端芯体押え」と対比して、「筆記具被覆体の後端側で前記筆記具被覆体側の端部外径が筆記具被覆体の外径に等しくなっている後端移動止め部材」において共通する。 そうすると、本件発明とネオグリッパー装着発明の両者は、以下の点でそれぞれ、一致ならびに相違するものと認められる。 ii.一致点及び相違点 一致点.「筆記具の軸心に装着された状態での外径が10.5〜14.3mmであり、ショアーA硬度が40〜60度で、指に対する接触面積の拡大に有効な弾性変形を行う厚みをもつゴムからなる軟質弾性物質でできた筆記具被覆体であって、前記筆記具被覆体の先端側の先端移動止め部材及び後端側の後端移動止め部材は、前記筆記具被覆体側の端部外径が前記被覆体の外径に等しくなっている筆記具被覆体の移動止め構造。」 相違点E.筆記具被覆体の先端移動止め部材が、本件発明は、筆記具被覆体の先端側で軸心に装着され、前記筆記具被覆体側の端部外径が前記被覆体の外径に等しくなっている先端芯体押えからなるのに対して、ネオグリッパー装着発明は、筆記具被覆体の先端側で前記筆記具被覆体側の端部外径が前記被覆体の外径に等しくなっている先端移動止め部材が、軸心あるいは前記軸心に装着された先端芯体押えのいずれであるか不明な点。 相違点F.筆記具被覆体の後端移動止め部材が、本件発明は、筆記具被覆体の後端側で軸心に装着され、前記筆記具被覆体側の端部外径が前記被覆体の外径に等しくなっている後端芯体押えからなるのに対して、ネオグリッパー装着発明は、筆記具被覆体の後端側で筆記具被覆体側の外径に等しくなっている軸心からなり、前記軸心が筆記具被覆体の後端移動止め部材として機能するものの後端芯体押えとして機能するものではない点。 iii.相違点の検討 (ア)相違点Eについて ところで、筆記具被覆体の先端側で軸心に装着され、前記筆記具被覆体側の端部外径が前記被覆体の外径に等しくなっている先端芯体押えを設けることことは、周知技術(例えば、引用発明(「ZOOM」の発明)、甲第13号証、平成13年7月27日付けの弁駁書において提示された特開昭52-37123号公報及び実願昭57-172573号(実開昭59-76378号)のマイクロフィルム)である。 そうすると、ネオグリッパー装着発明における、筆記具被覆体の先端側で前記筆記具被覆体側の端部外径が前記被覆体の外径に等しくなっている先端移動止め部材について、前記周知技術に示される先端芯体押えを採用して、前記相違点Eにかかる本件発明のように構成することは、当業者が容易に想到できるものである。 (イ)相違点Fについて 甲第30号証及び甲第31号証には、本件発明における「筆記具被覆体」に相当する「滑り止め部材」を筆記具の軸心の全体または一部に被着した筆記具が開示されており、このように筆記具被覆体を軸心の全体または一部に被着することは、当業者が適宜に選択する程度の設計的事項と認められる。 そして、筆記具の軸心の後端に軸心に装着された後端芯体押えを設けること、及び、前記後端芯体押えは、その筆記具側の端部外径が筆記具の外径と等しく形成されることは、ボールペン等の筆記具における通常の形態(例えば、甲第30号証、甲第31号証、平成13年7月27日付けの弁駁書において提示された実願昭57-172573号(実開昭59-76378号)のマイクロフィルム)であることからすると、筆記具の軸心の全体に筆記具被覆体を被着することにより、該筆記具被覆体の後端側が後端芯体押えと接することに応じて、その両者の外径を考慮すべきことは明らかである。 ところで、ネオグリッパー装着発明に示されるように、筆記具被覆体の後端側に被覆体のズレを防止するための後端移動止め機能を有する何らかの後端移動止め部材を設けること、及び、該後端移動止め部材の筆記具被覆体側の端部外径が前記被覆体の外径に等しくなるように構成することは、周知技術(例えば、引用発明(「ZOOM」の発明)、甲第13号証、甲第27号証、甲第30号証、甲第31号証、平成13年7月27日付けの弁駁書において提示された特開昭52-37123号公報)である。 そうすると、甲第30、31号証に記載の発明に示される如き、軸心の全体に筆記具被覆体を被着した筆記具を想定したときに、ネオグリッパー装着発明における、筆記具被覆体側の端部外径が前記被覆体の外径に等しくなっている軸心に代えて、前記筆記具被覆体側の端部外径が前記被覆体の外径に等しくなっている後端芯体押えをもって筆記具被覆体の後端移動止め部材としての機能を実現させることで、前記相違点Fにかかる本件発明のように構成することは、当業者が容易に想到できるものである。 iv.作用効果の検討 本件発明における作用効果は、ネオグリッパー装着発明と甲第30、31号証に記載の発明及び前記周知技術に基づいて当業者が容易に予測できるものである。 v.まとめ よって、本件発明は、ネオグリッパー装着発明及び甲第30、31号証に記載の発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 5.むすび 以上のとおりであるから、本件請求項1に係る発明についての特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、同法第123条第1項第2号の規定に該当し、無効とすべきものである。 審判に関する費用については、特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により、被請求人が負担すべきものとする。 よって、結論のとおり審決する。 |
発明の名称 |
(54)【発明の名称】 筆記具被覆体の移動止め構造 (57)【特許請求の範囲】 【請求項1】 筆記具の軸心に着脱自在に装着された状態での外径が10.5〜14.3mmであり、ショアーA硬度が40〜60度で、指に対する接触面積の拡大に有効な弾性変形を行う厚みをもつゴム又は合成樹脂からなる軟質弾性物質でできた筆記具被覆体の先端側及び後端側でそれぞれ前記軸心に装着された先端芯体押え及び後端芯体押えからなり、前記先端芯体押え及び前記後端芯体押えは、前記筆記具被覆体側の端部外径が前記被覆体の外径に等しくなっている筆記具被覆体の移動止め構造。 【発明の詳細な説明】 【産業上の技術分野】 本発明は、ボールペン、シャープペンシル等の筆記具の軸に被覆するための筆記具被覆体の移動止め構造に関する。 【従来の技術】 従来、ボールペン、シャープペンシル等の軸径は大略7mm乃至8mmで、その断面形状は円形、もしくは多角形のものが殆どであった。 また、これらのうち指が当たる握り部分に比較的軟質の材料を用いているものもあるが、前記した筆記具のほとんどが、ショアーA硬度100度近辺のものである。 【発明が解決しようとする課題】 従来の筆記具は、7〜8mmの軸径をもっているものが大多数である。このような軸径の筆記具を使用して筆記するとき、筆記具が滑らないように大きな把持力が必要である。特にボールペンによる筆記作業では、インクを出すために鉛筆に比較して2〜3倍の筆圧が必要とされることから、ボールペンを母指,人差指及び中指で強固に把持している。 その結果、長時間に渡って筆記作業を継続すると、ペン軸の硬度が高いことと相俟つて、ペン軸に接する部分で指が痛くなり、疲労を覚える。この疲労が蓄積されると、労働衛生上で好ましくない腱鞘炎等の現象が発生する。 本発明は、このような問題を解消すべく案出されたものであり、軟質弾性物質でできた被覆体を筆記具に着脱自在に移動止めすることにより、指があたる接触面積を大きくすると共に把持部の摩擦抵抗を大きくして把持力を低減し、筆記作業時の疲労を軽減することを目的とする。 【課題を解決するための手段】 本発明は、筆記具被覆体を装着自在に移動止めする構造であって、筆記具の軸心に着脱自在に装着された状態での外径が10.5〜14.3mmであり、ショアーA硬度が40〜60度で、指に対する接触面積の拡大に有効な弾性変形を行う厚みをもつゴム又は合成樹脂からなる軟質弾性物質でできた筆記具被覆体の先端側及び後端側でそれぞれ前記軸心に装着された先端芯体押え及び後端芯体押えからなり、前記先端芯体押え及び前記後端芯体押えは、前記筆記具被覆体側の端部外径が前記被覆体の外径に等しくなっていることを特徴とする。筆記具被覆体の材質としてシリコンゴムを用い、その肉厚を1mm乃至3mmにすることが好ましい。 【実施例】 実施例1 本発明の実施例を図面をもとに説明する。 本発明で使用する筆記具被覆体は、第1図乃至第2図に示す構造になっている。 第1図は、筆記具被覆体を示す断面図であり、第2図は筆記具被覆体をペン体に装着した実施例を示す側面図である。第1図乃至第2図において、ゴムあるいは合成樹脂等の軟質弾性体からなる被覆体1を形成している。この被覆体1の肉厚は1mm乃至3mmのものが適当である。被覆体1の肉厚を1mm乃至3mmにしたことと、材料として軟質弾性体を用いたのは、摩擦抵抗の向上と把持時の感触を考慮したものである。この被覆体1は筒状体であり、ペン体5のほぼ全長にわたって装着する。また、ペン先側となる一端には、ペン先の視認性と、ペン体5との滑り止めを兼ねて絞り部4を設ける。また第2図に示すように必要に応じて絞り部4の後端側の被覆体1が平行になる部位から、更に後端側の外周に滑り止めのための凹凸を有する握り部2を設ける。この握り部2は、一般的には母指、人差指および中指で支持されるが、筆記者によって支持部位が異なることを考慮しても25mm乃至30mmの長さがあればよい。また、中空部3の内径は既製のボールペン、シャープペンシル等の外径に対して同じか僅かに小さくして、被覆体内での筆記具の摺動を防止する必要がある。つぎに、本発明における各種外径を有するショアーA硬度50度の被覆体を装着した鉛筆形状のボールペンを用いて、12名の女子事務員を対象に試験を行った。 対象者12名のうち、標準サイズ(径8.2mm)のボールペンをもちいて筆記するに際して、把持力が強い(人差指が内側に折れ曲がり、かつ母指の先端が人差指に被って強く押し付ける)人が7名、把持力が稍強い(人差指が内側に折れ曲がる)人3名、把持力ば普通(人差指が直線的あるいは外側に曲がる)の人2名である。 試験に用いた被覆体のボールペンへの装着後の外径は第1表に示す3水準と、比較品として市販のボールペンを用いた。 試験方法としては、母指球筋電図法を用い、12名の被検者が各サイズを2回宛、計8回、総計96回の試験を行った。 その結果を第4図に示す。第4図から分かるように、特に把持力の強いグループが、標準サイズのボールペンとの振幅比の差が大であり、把持力が普通のグループでは、僅かではあるが逆の傾向を示している。 このことは、把持力が普通の人には市販の標準サイズ品が最も適合し、把持力の強い人には、外径の大きなボールペンを使用したほうが手指に過大な力を加えなくても済むと言うことを表している。 筆記具被覆体のうち、サイズが13.8mmと標準サイズとの筋電図平均振幅比についてみると、第4図に示すように把持力が強い人の場合32%、把持力が稍強い人の場合は10%の把持力低減効果があることがわかる。 なお本実施例は大人を対象としたものであり、児童のような手指の小さい者に対しては、比較的小径のものを使用することが望ましい。さらに、材質としてはショアーA硬度で40度乃至70度のゴム質と、100度のエボナトについてサイズを13.8mmに調整して感触テストを行った。その結果、硬度40度乃至60度のものが感触、滑り難くさともに良好であった。 以上のことから、把持力が稍強以上の人が全体の約80%以上を占めている現実と併せて、本発明の筆記具被覆体をボールペン等の筆記具へ被覆した後の外径は、10.5mm乃至14.3mmで、その材質硬度はショアーA硬度において40度乃至60度のものが最適であることが判明した。 なお、第2図に示した被覆体の握り部2の滑り止めのための凹凸は、材質によっては必要な場合もあるが、特に限定するものではない。 実施例2 第1図乃至第3図に示す被覆体1の材質として、シリコンゴムを用いた。このシリコンゴムのショアーA硬度は約50度で感触も良く、摩擦抵抗が大であるために手指の滑りもなく、快適な使用感が得られた。 実施例3 第3図は被覆体の移動止め構造を示す断面図であるが、第3図に示すように、芯体6を固定するための先端芯体押え7と後端芯体押え8の被覆体1側の外径をペン体5に被覆した被覆体1の両端外径と等しくし、ペン体5の両端にある先端ネジ9と後端ネジ10を介してペン体5に装着する。 【作用】 筆記具被覆体をボールペン等に被覆するに際しては、あらかじめ幾種類か用意してある被覆体のうち、使用しようとするペン軸の径に合った被覆体1の内側またはペン体に、少量の水を塗布し、被覆体1の後端からペン軸の先端を先頭にして差し込む。 または、少量の水等の潤滑剤を塗布したのち被覆体1に差し込み、その先端は先端芯体押え7、後端芯体押え8を装着することにより被覆体1のズレを防止することが出来る。 【発明の効果】 本発明で使用する筆記具被覆体は、ゴム、合成樹脂等の軟質弾性物質を用いた筒状体で、この筒状体部分がペン体のほぼ全長にわたって被覆され、しかも被覆体の肉厚は1mm乃至3mmであって、この筒状体の材質はショァーA硬度を40度乃至60度とし、ボールペン等の筆記具に装着すると過大な把持力を必要としない構造となっているので、ペンと接触する手指に好感触を与えるとともに指の痛みを防止する。また、腱鞘炎の誘発を防止し、加えて疲労の軽減がはかれる。 特に大人に対しては、その外径が10.5mm乃至14.3mmのものが有効である。また、シリコンゴムの被覆体を用いることにより、手指の滑りが防止できると同時に大きな摩擦抵抗によって、机上等における転がり落ちの防止もできる。 さらに、被覆体の移動止め構造として、先端芯体押えとの被覆体側の外径を被覆体の外径と等しくし、被覆体の両端を挟みつける形としているので、被覆体のズレを防止することができると同時にペン先の視認性が向上するなどの効果がある。 【図面の簡単な説明】 第1図は筆記具被覆体の断面図、第2図は筆記具被覆体をペン体に装着した実施例を示す側面図、第3図は筆記具被覆体の移動止めを示す断面図、第4図は、筆記具被覆体の効果を具体的に示す母指球筋電図平均振幅比と軸径との関係図である。 1:被覆体、2:握り部、3:中空部、4:絞り部、5:ペン体、6:芯体、7:先端芯体押え、8:後端芯体押え、9:先端ネジ、10:後端ネジ、 |
訂正の要旨 |
訂正の要旨 i.訂正事項a 平成2年10月16日付けの全文補正明細書(以下「明細書」という。」を補正した平成10年12月16日付けの補正書の特許請求の範囲の請求項1乃至3を削除する。 ii.訂正事項b 明細書を補正した平成10年12月16日付けの補正書の特許請求の範囲の請求項1乃至3を削除するとともに、請求項4を請求項1に繰り上げ、次のとおりに訂正する。 「筆記具の軸心に着脱自在に装着された状態での外径が10.5〜14.3mmであり、ショアーA硬度が40〜60度で、指に対する接触面積の拡大に有効な弾性変形を行う厚みをもつゴム又は合成樹脂からなる軟質弾性物質でできた筆記具被覆体の先端側及び後端側でそれぞれ前記軸心に装着された先端芯体押え及び後端芯体押えからなり、前記先端芯体押え及び前記後端芯体押えは、前記筆記具被覆体側の端部外径が前記被覆体の外径に等しくなっている筆記具被覆体の移動止め構造。」 iii.訂正事項c 発明の名称「筆記具被覆体および被覆体の移動止め」を「筆記具被覆体の移動止め構造」に訂正する。 iv.訂正事項d 明細書第2頁第5〜6行(公告公報第1頁第2欄第5〜6行)の「筆記具被覆体とその被覆体の移動止め構造」を「筆記具被覆体の移動止め構造」に訂正する。 v.訂正事項e 明細書第2頁第15行〜第3頁第12行を補正した平成6年9月5日付けの補正書第2頁第14行(公告公報第2頁第3欄第13行)の「筆記具に装着」を「筆記具に着脱自在に移動止め」に訂正する。 vi.訂正事項f 明細書第3頁第14行〜第4頁第4行(公告公報第2頁第3欄第18〜27行)を次のとおり訂正する。 「本発明は、筆記具被覆体を装着自在に移動止めする構造であって、筆記具の軸心に着脱自在に装着された状態での外径が10.5〜14.3mmであり、ショアーA硬度が40〜60度で、指に対する接触面積の拡大に有効な弾性変形を行う厚みをもつゴム又は合成樹脂からなる軟質弾性物質でできた筆記具被覆体の先端側及び後端側でそれぞれ前記軸心に装着された先端芯体押え及び後端芯体押えからなり、前記先端芯体押え及び前記後端芯体押えは、前記筆記具被覆体側の端部外径が前記被覆体の外径に等しくなっていることを特徴とする。筆記具被覆体の材質としてシリコンゴムを用い、その肉厚を1mm乃至3mmにすることが好ましい。 《実施例》」 vii.訂正事項g 明細書第4頁第7行(公告公報第2頁第3欄第30行)及び第9頁第15行(公告公報第3頁第5欄第27行)の「本発明の筆記具被覆体」を「本発明で使用する筆記具被覆体」に訂正する。 viii.訂正事項h 明細書第4頁第9行(公告公報第2頁第3欄第32行)、第9頁第2行(公告公報第3頁第5欄第16行)の「本発明の筆記具被覆体」、及び第4頁第10行(公告公報第2頁第3欄第33行)、第7頁第5行(公告公報第2頁第4欄第34行)、第11頁第2〜3行(公告公報第3頁第6欄第18〜19行)の「本発明の被覆体」を「筆記具被覆体」に訂正する。 ix.訂正事項i 明細書第11頁第4行(公告公報第3頁第6欄第20行)の「被覆体」を「筆記具被覆体」に訂正する。 x.訂正事項j 明細書第11頁第5行(公告公報第3頁第6欄第20〜21行)の「本発明の一実施例を」を「筆記具被覆体の効果を具体的に」に訂正する。 |
審理終結日 | 2002-12-12 |
結審通知日 | 2002-12-17 |
審決日 | 2003-01-08 |
出願番号 | 特願昭63-293712 |
審決分類 |
P
1
112・
121-
ZA
(B43K)
|
最終処分 | 成立 |
前審関与審査官 | 畑井 順一、砂川 充 |
特許庁審判長 |
二宮 千久 |
特許庁審判官 |
村山 隆 白樫 泰子 |
登録日 | 2000-03-24 |
登録番号 | 特許第2141299号(P2141299) |
発明の名称 | 筆記具被覆体の移動止め構造 |
代理人 | 小倉 亘 |
代理人 | 赤澤 日出夫 |
代理人 | 石戸 久子 |
代理人 | 城山 康文 |
代理人 | 赤澤 日出夫 |
代理人 | 山口 栄一 |
代理人 | 小倉 亘 |
代理人 | 山口 栄一 |
代理人 | 城山 康文 |
代理人 | 赤澤 日出夫 |
代理人 | 石戸 久子 |
代理人 | 赤澤 日出夫 |
代理人 | 石戸 久子 |
代理人 | 橋場 満枝 |
代理人 | 山口 栄一 |
代理人 | 城山 康文 |
代理人 | 山口 栄一 |
代理人 | 石戸 久子 |
代理人 | 岡田 萬里 |
代理人 | 橋場 満枝 |
代理人 | 赤澤 日出夫 |
代理人 | 城山 康文 |
代理人 | 小倉 亘 |
代理人 | 山口 栄一 |
代理人 | 城山 康文 |
代理人 | 橋場 満枝 |
代理人 | 橋場 満枝 |
代理人 | 橋場 満枝 |
代理人 | 城山 康文 |
代理人 | 山口 栄一 |
代理人 | 岡田 萬里 |
代理人 | 石戸 久子 |
代理人 | 石戸 久子 |
代理人 | 赤澤 日出夫 |
代理人 | 岡田 萬里 |
代理人 | 橋場 満枝 |