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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 B62M
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 B62M
管理番号 1076211
審判番号 不服2001-3912  
総通号数 42 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 1998-11-10 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2001-03-15 
確定日 2003-05-07 
事件の表示 平成10年特許願第121106号「自転車用リアディレイラ」拒絶査定に対する審判事件[平成10年11月10日出願公開、特開平10-297575]について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 【一】手続の経緯
本願は、平成10年4月30日(パリ条約による優先権主張1997年4月29日、米国)の出願であって、平成13年1月31日付で拒絶査定がなされ、これに対して、平成13年3月15日に拒絶査定に対する審判請求がなされるとともに、平成13年4月16日付で願書に添付した明細書を補正する手続補正書が提出されたものである。

【二】平成13年4月16日付の手続補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成13年4月16日付の手続補正を却下する。
[理由]
1.補正後の本願発明
(1)本件補正により、特許請求の範囲の請求項1〜14は、以下のとおり補正されるものと認める。
「【請求項1】
チェーン・ガイドを移動させて複数のスプロケットのうちの1つに選択的にチェーンを案内する自転車用リアディレイラであって、
ベース部材と、
チェーン・ガイドを支持する可動部材と、
前記ベース部材に旋回可能に支持された第1端部と前記可動部材に旋回可能に支持された第2端部とを有する第1リンクと、
前記ベース部材における前記第1リンクの支持部とはずれた位置に連結された第1端部と前記第1リンクの両端部の間に連結された第2端部とを有するコイルスプリングと、
前記第1リンクの両端部の間に設けられ、前記可動部材から遠ざかる方向に向かう制御要素力を加えるための制御要素が連結される制御要素連結部材とを備え、
前記リンクの移動範囲において、前記コイルスプリングによるスプリング力及び制御要素による制御要素力が前記第1リンクの第1端部に作用しかつ前記第1リンクの第2端部から実質的に解放されるように、前記コイルスプリングは前記第1リンクの長軸を挟む一方側でかつ前記可動部材から遠ざかる方向のスプリング力を前記第1リンクに加えるように配置され、前記制御要素連結部材は前記第1リンクの長軸を挟んで他方側でかつ前記可動部材から遠ざかる方向の制御要素力を前記第1リンクに加えるように配置されている、自転車用リアディレイラ。
【請求項2】
前記第1リンクの第1端部は第1ピボット・ピンを介して旋回可能に前記ベース部材に支持されており、
前記第1リンクの第1端部と前記第1ピボット・ピンとの間で前記第1ピボット・ピンに支持された第1ベアリングをさらに備える、請求項1に記載の自転車用リアディレイラ。
【請求項3】
前記制御要素は前記第1リンクから延びる作動アームである、請求項1又は2に記載の自転車用リアディレイラ。
【請求項4】
第1及び第2端部を有する第2リンクをさらに備え、前記第1リンクの第2端部は第2ピボット・ピンを介して旋回可能に前記可動部材に支持されており、
前記第2リンクの第1端部は第3ピボット・ピンを介して旋回可能に前記ベース部材に支持されており、前記第2リンクの第2端部は第4ピボット・ピンを介して旋回可能に前記可動部材に支持されている、請求項2に記載の自転車用リアディレイラ。
【請求項5】
前記スプリングの第2端部は取り付け部材を介して前記第1リンクに支持されており、前記スプリングの第2端部と取り付け部材との間で前記取り付け部材に支持された第2ベアリングをさらに備える、請求項4に記載の自転車用リアディレイラ。
【請求項6】
前記コイルスプリングの第1端部は取り付け部材を介して前記ベース部材に支持されており、前記コイルスプリングの第1端部と取り付け部材との間で前記取り付け部材に支持された第2ベアリングをさらに備える、請求項5に記載の自転車用リアディレイラ。
【請求項7】
チェーン・ガイドを移動させて複数のスプロケットのうちの1つに選択的にチェーンを案内する自転車用リアディレイラであって、
ベース部材と、
チェーン・ガイドを支持する可動部材と、
第1ピボット・ピンを介して第1端部が前記ベース部材に旋回可能に支持されるとともに、第2ピボット・ピンに接触する第2端部が前記第2ピボット・ピンを介して前記可動部材に旋回可能に支持された第1リンクと、
前記第1リンクの第1端部と前記第1ピボット・ピンとの間で前記第1ピボット・ピンに支持された第1ベアリングと、
第3ピボット・ピンに接触する第1端部が前記第3ピボット・ピンを介して前記ベース部材に旋回可能に支持されるとともに、第4ピボット・ピンに接触する第2端部が前記第4ピボット・ピンを介して前記可動部材に旋回可能に支持された第2リンクと、
前記第1ピボット・ピンからずれた位置で前記ベース部材に支持された第1端部と前記第1リンクの経路に沿った位置で支持された第2端部とを有する第1コイルスプリングとを備え、
前記第1コイルスプリングは、前記第1及び第2リンクの移動範囲において、前記第1リンクの長軸を挟む一方側でかつ前記可動部材から遠ざかる方向のスプリング力を前記第1リンクに加えるように配置されている、自転車用リアディレイラ。
【請求項8】
前記第1コイルスプリングの第2端部は、前記第1ピボット・ピンと前記第2ピボット・ピンとの間の位置で前記第1リンクに支持されている、請求項7に記載の自転車用リアディレイラ。
【請求項9】
前記第1コイルスプリングの第2端部は、前記第2ピボット・ピンの位置で前記第1リンクに支持されている、請求項7に記載の自転車用リアディレイラ。
【請求項10】
前記第1コイルスプリングの第2端部は、取り付け部材を介して前記第1リンクに支持されており、前記第1コイルスプリングの第2端部と前記取り付け部材との間で前記取り付け部材に支持された第2ベアリングをさらに備える、請求項7に記載の自転車用リアディレイラ。
【請求項11】
前記第1リンクの前記第1コイルスプリングが取り付けられる側部と対向する側部に位置する第2コイルスプリングをさらに備え、前記第2コイルスプリングは、前記第1ピボット・ピンからずれた位置で前記ベース部材に支持された第1端部と、前記第1リンクの経路に沿った位置に支持された第2端部とを備え、
前記第2コイルスプリングは、前記第1及び第2リンクの移動範囲において、前記第1リンクの長軸を挟む一方側でかつ前記可動部材から遠ざかる方向のスプリング力を前記第1リンクに加えるように配置されている、請求項7に記載の自転車用リアディレイラ。
【請求項12】
前記第1コイルスプリングの第2端部及び前記第2コイルスプリングの第2端部が共に、前記第1ピボット・ピンと前記第2ピボット・ピンとの間の位置で前記第1リンクに支持されている、請求項11に記載の自転車用リアディレイラ。
【請求項13】
前記第1コイルスプリングの第2端部及び前記第2コイルスプリングの第2端部が共に、前記第2ピボット・ピンの位置で前記第1リンクに支持されている、請求項11に記載の自転車用リアディレイラ。
【請求項14】
前記第1コイルスプリングの第1端部は第1取り付け部材を介して前記ベース部材に支持されており、前記第2コイルスプリングの第1端部は前記第2取り付け部材を介して前記ベース部材に支持されており、
前記第1コイルスプリングの第1端部と前記第1取り付け部材との間で前記第1取り付け部材に支持された第2ベアリングと、
前記第2コイルスプリングの第1端部と前記第2取り付け部材との間で前記第2取り付け部材に支持された第3ベアリングとをさらに備える、請求項12に記載の自転車用リアディレイラ。」
(2)上記補正が、特許法17条の2第4項の規定に該当するか検討する。
(2-1)上記特許請求の範囲の補正は、請求項数を20から14に減少するものである。
(2-2)上記請求項1の補正は、平成11年3月23日付手続補正書によって補正された明細書(以下、「補正前の明細書」という)の請求項1に係る発明を特定する事項である「スプリング」について、「前記ベース部材における前記第1リンクの支持部とはずれた位置に連結された第1端部と前記第1リンクの両端部の間に連結された第2端部とを有するコイルスプリング 」という限定を付加するとともに、補正前の明細書の請求項1に係る発明を特定する事項である「スプリング」及び「制御要素連結部材」について、それらの「配置」を限定するものである。
(2-3)上記請求項2の補正は、補正前の明細書の請求項2の記載事項に補正前の明細書の請求項3の記載事項を付加し限定するものであり、上記補正後の請求項3、4、5及び6は、上記補正後の請求項1乃至5のいずれかを引用するものとしたものであり、それぞれ、実質的に補正前の明細書の請求項4、5、9及び10の記載事項に対応するものである。
(2-4)上記請求項7の補正は、補正前の明細書の請求項11に係る発明を、その「スプリング」について「コイルスプリング」という限定を付加するとともに、該「コイルスプリング」の「配置」を限定して請求項7とするものである。上記補正後の請求項8、9、10、11、12、13及び14は、上記補正後の請求項7乃至12のいずれかを引用するものとしたものであり、それぞれ、実質的に補正前の明細書の請求項13、14、15,16、17、18及び20の記載事項に対応するものである。
(2-5)したがって、上記特許請求の範囲の補正は、特許法第17条の2第4項第1号の請求項の削除及び同法第17条の2第4項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
(3)そこで、上記補正後の請求項1に係る発明(以下、「補正発明1」という)及び請求項7に係る発明(以下、「補正発明2」という)が、それぞれ、特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(特許法17条の2第5項において準用する同法第126条第4項の規定に適合するか)について以下に検討する。

2.引用刊行物とその記載事項
刊行物1:実願昭62-149207号(実開昭64-51594号)のマイクロフィルム
刊行物2:特開平5-338581号公報
原査定の拒絶理由に引用された上記刊行物1及び刊行物2には、それぞれ下記の事項が記載されているものと認められる。
(1)刊行物1の記載事項
刊行物1には、第1図〜第6図とともに、
ア)「図面に示したものは、リヤディレーラーであって、その基本構造は、第2,3図に示した通り、ベース部材(1)と、該ベース部材(1)に1対の第1及び第2枢支軸(4)(5)を介して枢支する第1及び第2リンク部材(2)(3)及びこれらリンク部材(2)(3)に1対の第3及び第4枢支軸(8)(9)を介して枢支するチェン案内具(7)をもった可動部材(6)との四つの部材から成るリンク機構(A)により構成されている。前記ベース部材(1)は、自転車用フレームのバックホークに固定するブラケット(10)に水平軸(11)を介して固定されるのであり、又、前記チェン案内具(7)は、前記水平軸(11)と同方向に延びる横軸(12)を介して可動部材(6)に枢着されるのである。」(第4頁第16行〜第5頁第12行)
イ)「又、前記リンク機構(A)における各枢支軸(4)(5)及び(8)(9)は、相対運動する二つの部材の一方に圧入又はカシメにより固定され、他方の部材に対し相対回転自由になっている。」(第5頁第13行〜同頁第17行)
ウ)「又、前記リンク部材(2)(3)の何れか一方と、前記ベース部材(1)又は可動部材(6)との間には、巻回部(13a)と該巻回部(13a)の両端から外方に向って突出する1対のばね足(13b)(13c)とから成るリターンばね(13)を介装している。」(第5頁第18行〜第6頁第4行)
エ)「又、前記第1リンク部材(2)の中間には、操作ワイヤ(W)の固定具(14)を設け、又、前記ベース部材(1)には前記ワイヤ(W)を案内するアウター筒(O)のアウター受(16)を設けて、前記ワイヤ(W)の牽引操作により前記リターンばね(13)に抗して前記リンク機構(A)を変形させ、前記可動部材(6)を第2図矢印X方向に往動させるのであり、又、前記ワイヤ(W)の弛緩操作によりリターンばね(13)のばね反力で前記リンク機構(A)の変形を戻し、可動部材(6)を復動させるのであって、この可動部材(6)の往復動作により、前記チェン案内具(7)のプーリーに掛設したチェンを多段スプロケット装置の一つのスプロケットに掛換えるのである。」(第6頁第5行〜同頁第19行)
オ)「即ち、操作ワイヤ(W)の牽引操作により前記リンク機構(A)を変形させた場合、前記リターンばね(1)が撓み、前記第1リンク部材(2)に大きなばね反力が作用して、一般には、前記ワイヤ(W)の牽引操作で前記リンク機構(A)の変形を前記リターンばね(13)のばね反力により戻す場合、前記第1リンク部材(2)のベース部材(1)に対する回転抵抗が、第2リンク部材(3)のベース部材(1)に対する回転抵抗及び各リンク部材(2)(3)の可動部材(6)に対する回転抵抗よりも大きくなるのであるから、前記第1リンク部材(2)をベース部材(1)に枢支する第1枢支軸(4)の周りに軸受(20)を設けることにより、前記リターンばね(13)のばね反力でリンク機構(A)の変形を戻す場合における前記第1リンク部材(2)のベース部材(1)に対する回転抵抗を小さくでき、前記ワイヤ(W)の弛緩操作を軽く行なえるのである。」(第8頁第15行〜第9頁第14行)
カ)「前記軸受(20)は、第1図の如く第1枢支軸(4)とベース部材(1)との間に設けるのであるが、その他、第5,6図の如く前記枢支軸(4)と第1リンク部材(2)との間に設けてもよい。」(第9頁第15行〜同頁第19行)
キ)「又、第5図に示したものは、前記ベース部材(1)に、前記枢支軸(4)の両端部を圧入して固定する1対の嵌合孔(1b)(1b)を設けると共に、前記第1リンク部材(2)の端部に、前記枢支軸(4)の挿通孔(2b)を設けて、この挿通孔(2b)内にブッシュ(21)を介して円筒状のメタルから成る軸受(20)を保持し、この軸受(20)の軸孔内に前記枢支軸(4)を回転自由に挿通したのである。尚、第5図中、(22)は可撓性のシ-ル材である。」(第10頁第9行〜同頁第18行)
ク)「尚、以上説明した実施例では、第1枢支軸(4)の周りにのみ軸受(20)を設けたが、その他第1〜第4枢支軸(4)(5)(8)(9)の周りにそれぞれ軸受(20)を設けてもよいし、又、ベース部材(1)側に設ける第1,第2枢支軸(4)(5)の一方の周りと、可動部材(6)側に設ける第3,第4枢支軸(8)(9)の一方の周りとに前記軸受(20)を設けてもよい。」(第14頁第12行〜第15頁第1行)
ケ)「又、前記リターンばね(13)は、その巻回部(13a)を第1枢支軸(4)周りに配設するのであるが、第1枢支軸(4)に対し変位した位置に配設してもよいのであり、又、第1リンク部材(2)とベース部材(1)との間に介装する他、第2リンク部材(3)とベース部材(1)との間、又は第1リンク部材(2)又は第2リンク部材(3)と可動部材(6)との間に介装してもよい。」(第16頁第3行〜同頁第11行)
が記載されている。
記載事項ア〜ケ及び第2図〜第6図から、上記刊行物1には、
”チェン案内具(7)を移動させて多段スプロケット装置のうちの一つのスプロケットにチェンを掛換える自転車用リヤディレーラーであって、
ベース部材(1)と、
チェン案内具(7)を支持する可動部材(6)と、
前記ベース部材(1)に圧入した第1枢支軸(4)に、軸受(20)を介して、挿通孔(2b)を有する第1端部が旋回可能に支持されるとともに、第2端部が前記可動部材(6)に圧入した第4枢支軸(8)に旋回可能に支持された第1リンク部材(2)と、
前記ベース部材(1)に圧入した第2枢支軸(5)に、第1端部が旋回可能に支持されるとともに、前記可動部材に圧入した第3枢支軸(9)に、第2端部が旋回可能に支持された第2リンク部材(3)と、
前記ベース部材(1)と前記第1リンク部材(2)のとの間で第1枢支軸(4)に対して巻回部(13a)が変位した位置に介装されるリターンばね(13)と、
前記第1リンク部材(2)の前記第1端部と前記第2端部の間に設けられ、前記可動部材(6)から遠ざかる方向に向かう牽引荷重を加えるための操作ワイヤ(W)が固定具(14)で連結された前記第1リンク部材(2)の一部分である作動アーム部分とを備え、
前記第1リンク部材(2)の移動範囲において、前記リターンばね(13)によるばね反力及び操作ワイヤ(W)による牽引荷重が前記第1リンク部材(2)の前記第1端部に作用し、かつ、前記牽引荷重が、前記第1リンク部材(2)の前記第2端部から実質的に解放されるように、前記作動アーム部分は前記第1リンク部材(2)の長軸を挟んで片方側でかつ前記可動部材(6)から遠ざかる方向の牽引荷重を前記第1リンク部材(2)に加えるように配置され、前記リターンばね(13)は、操作ワイヤ(W)の牽引荷重による回転モーメントとは逆向きの回転モーメントとなるように、ばね反力を前記第1リンク部材(2)に加えるように配置されている、自転車用リヤディレーラー。”(以下、「刊行物1記載の発明」という)
が記載されているものと認められる。

(2)刊行物2の記載事項
第1図及び第31図とともに、
コ)「この発明に従うギアシフト装置はリヤーギアシフト装置への応用に限定されないということが理解される。実際、この発明に従う装置はあらゆる型のギアシフトにおける応用、たとえば図1および図31で一般的参照番号(100)によって示されるようなプレートまたはフロントギアシフト装置を変化させるための装置において用いられることができる。公知の態様で、前面伝動装置はたとえば異なる直径の2つのプレートまたはギア(101)および(102)を含み、大きい方のプレートは外側(EX)に位置付けされ、小さい方のプレートは内側(IN)に位置付けされる。フロントギアシフト(100)は先に説明したように上部保持アセンブリ(600)を含み、その上に移動下部ギアシフトアセンブリ(700)が移動可能に装着され、これはその上部端部によって前記保持アセンブリ上に旋回可能に軸支された2つの接続ロッド(701-702)によって構成され、一方、その下部端部は制御装置(103)およびギアシフト部材(104)を含む。前記ギアシフトアセンブリは弾性システム(105)のために安定位置に保持されている。」(段落番号【0037】)
が記載されている。

3.対比・判断
3-1.補正発明1について
[発明の対比]
補正発明1と上記刊行物1に記載の発明を対比すると、
上記刊行物1に記載の発明の
「チェン案内具(7)」、「多段スプロケット装置のうちの一つのスプロケット」、「自転車用リヤディレーラー」、「ベース部材(1)」、「可動部材(6)」、「第1リンク部材(2)」、「牽引荷重」、「操作ワイヤ(W)」、「第1リンク部材(2)の一部分である作動アーム部分」、「片方側」は、
それぞれ補正発明1の
「チェーン・ガイド」、「複数のスプロケットのうちの1つ」、「自転車用リアディレイラ」、「ベース部材」、「可動部材」、「第1リンク」、「制御要素力」、「制御要素」、「制御要素連結部材」、「他方側」
に相当する。
また、上記刊行物1に記載の発明では、「リターンばね(13)」が、「前記ベース部材と前記第1リンク部材(2)との間で第1枢支軸(4)に対して巻回部(13a)が変位した位置に介装され」ているので、「リターンばね(13)」の「ばね反力」は、「第1リンク部材(2)」を「第1枢支軸(4)」に押し付けるように作用しているといえる。
このことから、「リターンばね(13)」の「ばね反力」は、「第1リンク部材(2)」に回転モーメントを与えるとともに、「第1リンク部材(2)」の移動範囲において、「第1リンク部材(2)」の第1端部に作用しかつ「第1リンク部材(2)」の第2端部から実質的に解放されるように作用しているといえるから、刊行物1記載の発明の「ばね反力」は、補正発明1の「スプリング力」に相当する。
したがって、両者は
「チェーン・ガイドを移動させて複数のスプロケットのうちの1つに選択的にチェーンを案内する自転車用リアディレイラであって、
ベース部材と、
チェーン・ガイドを支持する可動部材と、
前記ベース部材に旋回可能に支持された第1端部と前記可動部材に旋回可能に支持された第2端部とを有する第1リンクと、
前記第1リンクの両端部の間に設けられ、前記可動部材から遠ざかる方向に向かう制御要素力を加えるための制御要素が連結される制御要素連結部材とを備え、
前記リンクの移動範囲において、スプリング力及び制御要素による制御要素力が前記第1リンクの第1端部に作用しかつ前記第1リンクの第2端部から実質的に解放されるように、前記制御要素連結部材は前記第1リンクの長軸を挟んで他方側でかつ前記可動部材から遠ざかる方向の制御要素力を前記第1リンクに加えるように配置されている、自転車用リアディレイラ。」
で一致し、次の3点で相違する。
<相違点A1>
スプリング(ばね)の種類及び連結構成についてみると、補正発明1は、「前記ベース部材における前記第1リンクの支持部とはずれた位置に連結された第1端部と前記第1リンクの両端部の間に連結された第2端部とを有するコイルスプリング」を有しているのに対して、刊行物1に記載の発明は、「ベース部材(1)と第1リンク部材(2)との間で第1枢支軸(4)に対して巻回部(13a)が変位した位置に介装されるリターンばね」を有している点。
<相違点B1>
第1リンクの移動範囲において、第1リンクの第1端部に作用する力(スプリング力と制御要素力)についてみると、補正発明1は、「コイルスプリングによるスプリング力及び制御要素による制御要素力」であるのに対して、刊行物1に記載の発明は、「リターンばね(13)によるスプリング力(ばね反力)及び制御要素(操作ワイヤ(W))による制御要素力(牽引荷重)」である点。
<相違点C1>
スプリング力(ばね反力)及びスプリング(ばね)の配置についてみると、補正発明1は、「前記第1リンクの第2端部から実質的に解放されるように、前記コイルスプリングは前記第1リンクの長軸を挟む一方側でかつ前記可動部材から遠ざかる方向のスプリング力を前記第1リンクに加えるように配置され」ているのに対して、刊行物1に記載の発明は、「第1リンク(第1リンク部材(2))の第2端部から実質的に解放されるように、前記リターンばね(13)は、操作ワイヤ(W)の牽引荷重による回転モーメントとは逆向きの回転モーメントとなるように、ばね反力を前記第1リンク部材(2)に加えるように配置され」ている点。

[相違点の判断]
上記相違点A1、相違点B1、相違点C1について以下で検討する。
刊行物1に記載の発明は、リターンばねを用いているものの、「リンク機構の複数の枢着部のうちの一箇所にだけ軸受を設けることができる機構を採用することで、リンク機構全体としての摩擦力を軽減して、操作性を向上させる」という意味の課題及び作用・効果においては、補正発明1と同様のものであるといえる。
ここで、刊行物2において、記載事項コ、第31図、及び自転車ディレイラにおける技術常識からすると、弾性システム(105)は、明らかにリンク機構に引張力を加えるコイルスプリングであるといえる。
そうすると、刊行物2には、ギアシフトアセンブリ(700)を安定位置に保持するように、ベース部材である上部保持アセンブリ(600)と、接続ロッド(701、702)を含むリンク機構を有するギアシフトアセンブリ(700)との間で、制御装置(103)の操作に抗して、コイルスプリングが縮む方向に引張力を加えることで、前記リンク機構に対して回転モーメントを付与する自転車用ディレイラ”の技術が記載されているものと認められる。
<相違点A1について>
一般的に、リンク機構等の枢着機構において回転モーメントを付与する手段として、リターンばねの反力に代えてコイルスプリングによる引張力を用いることは、当業者であれば容易に置換可能なものであるし、刊行物1に記載の発明と刊行物2に記載の技術は、リンク機構を有する自転車用ディレイラという同じ技術分野に属しているから、ディレイラのリンク機構に回転モーメントを付与する手段として、刊行物1に記載の発明のベース部材(1)と第1リンク部材(2)のとの間のリターンばねに代えて、ベース部材(1)と第1リンク部材(2)のとの間に刊行物2に記載のようなコイルスプリングを用いることには、格別の困難性はない。
この場合、コイルスプリングは、ベース部材(1)と第1リンク部材(2)との間で、これらの部材間に引張力を加えることで、回転モーメントを付与するというリターンばねと同様の機能を代用するのであるから、
コイルスプリングとリンク機構との連結構成において、上記機能を満たすように、ベース部材(1)における第1リンク部材(2)(第1リンク)の支持部とはずれた位置に連結された第1端部と、第1リンク部材(2)(第1リンク)の両端部の間に連結された第2端部とを有するコイルスプリングとすることが、自然な連結構成であるといえる。
<相違点B1について>
上記相違点A1で検討したように、刊行物1に記載の発明のリターンばねに代わり刊行物2に記載のようなコイルスプリングを用いた場合は、第1リンク部材(2)(第1リンク)の端部に作用する力として、リターンばねのばね反力に代わりコイルスプリングのスプリング力が作用することは当然である。
<相違点C1について>
上記相違点1で検討したように、刊行物1に記載の発明のリターンばねに代わり刊行物2に記載のようなコイルスプリングを用いた場合には、コイルスプリングは、牽引荷重(制御要素力)による回転モーメントとは逆方向の回転モーメントが第1リンク部材(2)(第1リンク)に働くようにばね反力を付与するというリターンばねの機能を代用するのであるから、
コイルスプリングの配置として、第1リンク部材(2)(第1リンク)の第2端部から実質的に解放されるように、前記コイルスプリングを、第1リンク部材(2)(第1リンク)の長軸を挟んで作動アーム部分(制御要素連結部材)とは逆側となる一方側でかつ可動部材から遠ざかる方向のスプリング力を加えるように配置することが、技術的に常識であるといえる。

したがって、補正発明1は、上記刊行物1及び刊行物2に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

3-2.補正発明2について
[発明の対比]
補正発明2と上記刊行物1記載の発明を対比すると、
上記刊行物1に記載の発明の
「チェン案内具(7)」、「多段スプロケット装置のうちの一つのスプロケット」、「自転車用リヤディレーラー」、「ベース部材(1)」、「可動部材(6)」、「第1枢支軸(4)」、「第4枢支軸(8)」、「第1リンク部材(2)」、「第2枢支軸(5)」、「第3枢支軸(9)」、「第2リンク部材(3)」は、
それぞれ補正発明2の
「チェーン・ガイド」、「複数のスプロケットのうちの1つ」、「自転車用リアディレイラ」、「ベース部材」、「可動部材」、「第1ピボット・ピン」、「第2ピボット・ピン」、「第1リンク」、「第3ピボット・ピン」、「4ピボット・ピン」、「第2リンク」
に相当する。
また、刊行物1の第6図を参酌すると、軸受(20)のインナーレースが第1枢支軸(4)に固定されているといえるから、刊行物1に記載の発明の軸受(20)は、第1枢支軸(4)に支持されているといえるので、刊行物1に記載の発明の「軸受(20)」は、補正発明2の「第1ピボット・ピンに支持された第1ベアリング」に相当する。
したがって、両者は
「チェーン・ガイドを移動させて複数のスプロケットのうちの1つに選択的にチェーンを案内する自転車用リアディレイラであって、
ベース部材と、
チェーン・ガイドを支持する可動部材と、
第1ピボット・ピンを介して第1端部が前記ベース部材に旋回可能に支持されるとともに、第2ピボット・ピンに接触する第2端部が前記第2ピボット・ピンを介して前記可動部材に旋回可能に支持された第1リンクと、
前記第1リンクの第1端部と前記第1ピボット・ピンとの間で前記第1ピボット・ピンに支持された第1ベアリングと、
第3ピボット・ピンに接触する第1端部が前記第3ピボット・ピンを介して前記ベース部材に旋回可能に支持されるとともに、第4ピボット・ピンに接触する第2端部が前記第4ピボット・ピンを介して前記可動部材に旋回可能に支持された第2リンクと」を有する「自転車用リアディレイラ。」
点で一致し、次の点で相違する。
<相違点A2>
スプリング(ばね)の種類、連結構成及び配置についてみると、
補正発明2は、「前記第1ピボット・ピンからずれた位置で前記ベース部材に支持された第1端部と前記第1リンクの経路に沿った位置で支持された第2端部とを有する第1コイルスプリングとを備え、
前記第1コイルスプリングは、前記第1及び第2リンクの移動範囲において、前記第1リンクの長軸を挟む一方側でかつ前記可動部材から遠ざかる方向のスプリング力を前記第1リンクに加えるように配置されている」のに対して、
刊行物1に記載の発明は、「ベース部材(1)と第1リンク部材(2)のとの間で第1枢支軸(4)に対して巻回部(13a)が変位した位置に介装されるリターンばね」を有し、「前記リターンばね(13)は、第1リンク(第1リンク部材(2))の移動範囲において、第1リンク(第1リンク部材(2))の第1端部に作用しかつ第1リンク(第1リンク部材(2))の第2端部から実質的に解放されるように、操作ワイヤ(W)の牽引荷重による回転モーメントとは逆向きの回転モーメントとなるように、ばね反力を前記第1リンク部材(2)に加えるように配置され」ている点。

[相違点の判断]
上記相違点A2について以下で検討する。
刊行物1に記載の発明は、リターンばねを用いているものの、「リンク機構の複数の枢着部のうちの一箇所にだけ軸受を設けることができる機構を採用することで、リンク機構全体としての摩擦力を軽減して、操作性を向上させる」という意味の課題及び作用・効果については、補正発明2と同様のものであるといえる。
ここで、刊行物2において、記載事項コ、第31図、及び自転車ディレイラにおける技術常識からすると、弾性システム(105)は、明らかにリンク機構に引張力を加えるコイルスプリングであるといえる。
そうすると、刊行物2には、ギアシフトアセンブリ(700)を安定位置に保持するように、ベース部材である上部保持アセンブリ(600)と、接続ロッド(701、702)を含むリンク機構を有するギアシフトアセンブリ(700)との間で、制御装置(103)の操作に抗して、コイルスプリングが縮む方向に引張力を加えることで、前記リンク機構に対して回転モーメントを付与する自転車用ディレイラ”の技術が記載されているものと認められる。
<相違点A2について>
一般的に、リンク機構等の枢着機構において回転モーメントを付与する手段として、リターンばねの反力に代えてコイルスプリングによる引張力を用いることは、当業者であれば容易に置換可能なものであるし、刊行物1に記載の発明と刊行物2に記載の技術は、リンク機構を有する自転車用ディレイラという同じ技術分野に属しているから、ディレイラのリンク機構に回転モーメントを付与する手段として、刊行物1に記載の発明のベース部材(1)と第1リンク部材(2)のとの間のリターンばねに代えて、ベース部材(1)と第1リンク部材(2)のとの間に刊行物2に記載のコイルスプリングを用いることには、格別の困難性はない。
この場合、コイルスプリングは、ベース部材(1)と第1リンク部材(2)との間で、これらの部材間に引張力を加えることで、回転モーメントを付与するというリターンばねと同様の機能を代用するのであるから、
コイルスプリングとリンク機構との連結構成において、上記機能を満たすように、ベース部材(1)における第1リンク部材(2)(第1リンク)の支持部とはずれた位置に連結された第1端部と、第1リンク部材(2)(第1リンク)の両端部の間に連結された第2端部とを有するコイルスプリングとすることが、自然な連結構成であるといえるし、
コイルスプリングの配置として、第1リンク部材(2)(第1リンク)の長軸を挟む一方側でかつ可動部材から遠ざかる方向のスプリング力を1リンクに加えるように配置することが、技術的に常識であるといえる。

したがって、補正発明2は、上記刊行物1及び刊行物2に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

4.むすび
以上のとおり、本件補正は、特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第4項の規定に違反するものであるから、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下されるべきものである。

【三】本願発明について
1.請求項1に係る発明及び請求項11に係る発明
平成13年4月16日付の手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1に係る発明(以下、「本願発明1」という)及び請求項11に係る発明(以下、「本願発明2」という)は、それぞれ、平成11年3月23日付の手続補正により補正された明細書の特許請求の範囲の請求項1及び請求項11に記載された次のとおりのものと認める。
「【請求項1】
チェーン・ガイドを移動させて複数のスプロケットのうちの1つに選択的にチェーンを案内する自転車用リアディレイラであって、
ベース部材と、
チェーン・ガイドを支持する可動部材と、
前記ベース部材に旋回可能に支持された第1端部と前記可動部材に旋回可能に支持された第2端部とを有する第1リンクと、
前記第1リンクの長軸に対して一方側に傾斜し、前記可動部材から遠ざかる方向のスプリング力を加えるスプリングと、
前記第1リンクに連結され、前記第1リンクの長軸に対して他方側に傾斜し、前記可動部材から遠ざかる方向に向かう制御要素力を加える制御要素に連結するための制御要素連結部材と、を備えた自転車用リアディレイラ。
【請求項11】
チェーン・ガイドを移動させて複数のスプロケットのうちの1つに選択的にチェーンを案内する自転車用リアディレイラであって、
ベース部材と、
チェーン・ガイドを支持する可動部材と、
第1ピボット・ピンを介して第1端部が前記ベース部材に旋回可能に支持されるとともに、第2ピボット・ピンに接触する第2端部が前記第2ピボット・ピンを介して前記可動部材に旋回可能に支持された第1リンクと、
前記第1リンクの第1端部と前記第1ピボット・ピンとの間で前記第1ピボット・ピンに支持された第1ベアリングと、
第3ピボット・ピンに接触する第1端部が前記第3ピボット・ピンを介して前記ベース部材に旋回可能に支持されるとともに、第4ピボット・ピンに接触する第2端部が前記第4ピボット・ピンを介して前記可動部材に旋回可能に支持された第2リンクと、
前記第1ピボット・ピンからずれた位置で前記ベース部材に支持された第1端部と前記第1リンクの経路に沿って支持された第2端部とを有する第1スプリングと、を備えた自転車用リアディレイラ。」

2.引用刊行物及びその記載事項
原査定の拒絶の理由に引用された刊行物及びその記載事項は、前記「【二】」の「2.引用刊行物及びその記載事項」に記載したとおりである。

3.対比・判断
本願発明1は、補正発明1から「前記ベース部材における前記第1リンクの支持部とはずれた位置に連結された第1端部と前記第1リンクの両端部の間に連結された第2端部とを有するコイル」という構成を省き「コイルスプリング」を上位概念の「スプリング」とし、さらに、「スプリング」及び「制御要素連結部材」について、それらの「配置」を限定する構成を省いたものである。
本願発明2は、補正発明2の「コイルスプリング」を上位概念の「スプリング」とし、その「配置」を限定する構成を省いたものである。
そうすると、本願発明1、本願発明2の構成要件を、それぞれ全て含み、さらに他の構成要件を付加したものに相当する補正発明1、補正発明2が、前記「【二】」の「3.対比・判断」に説示したとおり、上記刊行物に記載の発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明1及び本願発明2も、同様の理由により、当業者が容易に発明をすることができたものである。

4.むすび
以上のとおり、本願の請求項1に係る発明及び本願の請求項11に係る発明は、上記刊行物に記載の発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本願の他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
 
審理終結日 2003-02-17 
結審通知日 2003-02-25 
審決日 2003-03-13 
出願番号 特願平10-121106
審決分類 P 1 8・ 575- Z (B62M)
P 1 8・ 121- Z (B62M)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 増岡 亘  
特許庁審判長 蓑輪 安夫
特許庁審判官 ぬで島 慎二
出口 昌哉
発明の名称 自転車用リアディレイラ  
代理人 宮川 良夫  
代理人 小野 由己男  

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