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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  C02F
審判 全部申し立て 5項1、2号及び6項 請求の範囲の記載不備  C02F
管理番号 1076310
異議申立番号 異議2002-71659  
総通号数 42 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2002-02-19 
種別 異議の決定 
異議申立日 2002-06-20 
確定日 2003-02-17 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第3246509号「含水汚泥の処理設備」の請求項1、2に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 訂正を認める。 特許第3246509号の訂正後の請求項1ないし2に係る特許を維持する。 
理由 1.手続の経緯
本件特許第3246509号の請求項1、2に係る発明についての出願は、平成7年4月7日に特許出願した特願平7-82549号の一部を平成13年6月7日に新たな特許出願としたものであって、平成13年11月2日にその発明について特許の設定登録がなされたものである。
これに対して、株式会社トクヤマ(以下、「申立人A」という)、松林清雄(以下、「申立人B」という)、高島雄二(以下、「申立人C」という)から、それぞれ特許異議の申立てがなされ、取消理由通知がなされ、その指定期間内の平成14年12月26日付けで訂正請求がなされたものである。
2.訂正の適否
2-1.訂正の内容
本件訂正の内容は、本件特許明細書を訂正請求書に添付された訂正明細書のとおり、すなわち次の訂正事項a〜訂正事項iのとおり訂正するものである。
(1)訂正事項a
発明の名称を、「含水汚泥の処理設備」から「下水汚泥の処理設備」と訂正する。
(2)訂正事項b
請求項1を、下記のとおり訂正する。
「【請求項1】原料ミルで粉砕されたセメント原料を予熱するプレヒータと、このプレヒータが窯尻部分に接続されて、予熱された上記セメント原料を焼成する乾式キルンとを有するセメントクリンカーの製造設備に併設される下水汚泥の処理設備であって、含水スラリー状の下水汚泥を貯留する汚泥タンクと、この汚泥タンク内の上記下水汚泥を圧送する圧送ポンプと、この圧送ポンプに接続されて上記下水汚泥を上記乾式キルン内へと直接投入する配管とを備えてなり、かつ上記配管が上記窯尻部分または仮焼炉に接続されていることを特徴とする下水汚泥の処理設備。」
(3)訂正事項c
明細書中の段落【0001】(本件特許掲載公報第1頁第2欄第5行)、段落【0005】(本件特許掲載公報第2頁第3欄第19〜20行)および段落【0010】(本件特許掲載公報第2頁第3欄第47行)に記載の「下水汚泥等の含水汚泥」を、「下水汚泥」と訂正する。
(4)訂正事項d
明細書中の段落【0002】(本件特許掲載公報第1頁第2欄第9〜10行)に記載の「下水汚泥等の汚泥」および段落【0022】(本件特許掲載公報第3頁第6欄第8行)に記載の「下水汚泥などの含水汚泥」を、それぞれ「下水汚泥」と訂正する。
(5)訂正事項e
明細書中の段落【0001】(本件特許掲載公報第1頁第2欄第3行)、段落【0006】(本件特許掲載公報第2頁第3欄第24〜25、29、30、31、32行)、段落【0007】(本件特許掲載公報第2頁第3欄第36行)、段落【0009】(本件特許掲載公報第2頁第3欄第42行)、段落【0010】(本件特許掲載公報第2頁第3欄第44、47行)、段落【0012】〜【0017】(本件特許掲載公報第2頁第4欄第10、12、16、18、20、21、27〜28、30、34、37行)、段落【0022】(本件特許掲載公報第3頁第6欄第7行)および【0023】(本件特許掲載公報第3頁第6欄第14行)に記載の「含水汚泥」を、それぞれ「下水汚泥」と訂正する。
(6)訂正事項f
図面の簡単な説明の「【図1】本発明の含水汚泥の処理設備の一実施形態を示す模式的な断面図である。」を、「【図1】本発明の下水汚泥の処理設備の一実施形態を示す模式的な断面図である。」と訂正する。
(7)訂正事項g
請求項1、2の「上記窯尻部」(本件特許掲載公報第1頁第1欄第11、13行)を、それぞれ「上記窯尻部分」と訂正する。
(8)訂正事項h
明細書中の段落【0006】および【0007】(本件特許掲載公報第2頁第3欄第33〜34、37行)の「上記窯尻部」を、それぞれ「上記窯尻部分」と訂正する。
(9)訂正事項i
明細書中の段落【0019】(本件特許掲載公報第2頁第4欄第46行)の「窯尻」を、「窯尻部分」と訂正する。
2-2.訂正の目的の適否、新規事項の有無、拡張・変更の存否について
(1)上記訂正事項aについて
上記訂正事項aの内容は、一つには「含水汚泥」を「下水汚泥」と限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正に該当し、また二つには「窯尻部」を「窯尻部分」と訂正し明細書又は図面中の用語を統一するものであるから、明りょうでない記載の釈明を目的とする訂正に該当する。そしてこれらの訂正は、明細書中の「下水汚泥等の含水汚泥」や「窯尻部分」(本件特許掲載公報第2頁第3欄第19〜20行、図1)の記載からみて、願書に添付した明細書に記載した事項の範囲内においてなされたものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものではない。
(2)上記訂正事項b〜iについて
上記訂正事項b〜iは、特許請求の範囲の減縮や明りょうでない記載の釈明を目的とする訂正事項aの訂正に伴うものであり、特許請求の範囲の記載と明細書の記載を整合させるために明りょうでない記載の釈明を行うことを目的とする訂正に該当するものであり、また願書に添付した明細書に記載した事項の範囲内においてなされた訂正であり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
2-3.まとめ
以上のとおりであるから、上記訂正は、特許法等の一部を改正する法律(平成6年法律第116号)附則第6条第1項の規定によりなお従前の例によるとされる、特許法第120条の4第3項において準用する平成6年法律第116号による改正前の特許法第126条第1項ただし書、第2項の規定に適合するので、当該訂正を認める。
3.本件訂正発明
特許権者が請求した上記訂正は、上述したとおり、認容することができるから、訂正後の本件請求項1、2に係る発明は、訂正明細書の特許請求の範囲の請求項1、2に記載された事項により特定される次のとおりのものである(以下、「本件訂正発明1、2」という)。
「【請求項1】原料ミルで粉砕されたセメント原料を予熱するプレヒータと、このプレヒータが窯尻部分に接続されて、予熱された上記セメント原料を焼成する乾式キルンとを有するセメントクリンカーの製造設備に併設される下水汚泥の処理設備であって、含水スラリー状の下水汚泥を貯留する汚泥タンクと、この汚泥タンク内の上記下水汚泥を圧送する圧送ポンプと、この圧送ポンプに接続されて上記下水汚泥を上記乾式キルン内へと直接投入する配管とを備えてなり、かつ上記配管が上記窯尻部分または仮焼炉に接続されていることを特徴とする下水汚泥の処理設備。
【請求項2】上記配管は、上記窯尻部分の側面に接続されていることを特徴とする請求項1に記載の下水汚泥の処理設備。」
4.特許異議申立てについて
4-1.申立人Aの特許異議申立てについて
4-1-1.特許異議申立ての理由の概要
申立人Aは、証拠方法として甲第1〜3号証、参考資料1、2を提出して、次のとおり主張している。
(i)明細書の記載が記載不備であるから、請求項1、2に係る発明の特許は、特許法第36条第4、5項の規定に違反してされたものであり取り消されるべきものである。
(ii)請求項1、2に係る発明は、甲第1〜3号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1、2に係る発明の特許は特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり取り消されるべきものである。
4-1-2.甲各号証の記載内容
(1)甲第1号証:造水技術編集企画委員会編「造水技術 水処理のすべて」財団法人造水促進センター、第191〜195頁 (昭和58年5月10日):取消理由通知の刊行物1
(a)「1-7下水等の再生利用と汚泥処理のトータルシステム」(第191頁表題)
(b)「汚泥の処理技術は,その回収・利用,処分との関連において定まる。一般法として,脱水,乾燥,燃焼その他がある。a.脱水 脱水は,・・・。また,濾過助剤としての・・・石炭粉,コークス粉などの添加が、・・・注目されている。」(第194頁左欄第23〜39行)
(c)「c.燃焼 燃焼は,下記のような方法がある。1)汚泥をそのまま燃焼する方法 2)汚泥を脱水したのち燃焼させる方法 3)汚泥を脱水・乾燥したのち燃焼させる方法 それぞれ,取扱い,発熱量,燃焼技術,経費などから考慮される。燃焼装置として、・・・,ロータリーキルン,・・・その他の燃焼装置が用いられる。」(第194頁右欄第13行〜22行)」
(2)甲第2号証の1:特開平6-127988号公報:取消理由通知の刊行物4
(a)「予乾燥した低価格の燃料を炉入口で2次燃料として付加し、この予乾燥は炉の排ガスの熱によって行われ、回転筒状炉内で燃焼するようにしたセメントクリンカーの製造方法において、セメント製造工程との関連において好ましくは約30重量%の含水量に予乾燥された製紙汚泥を炉の排ガスにより付加燃料として投入することを特徴とするセメントクリンカーの製造方法」(請求項1)
(b)「セメント工場区域内に建てられた貯蔵サイロ1は、一般に約50%の乾燥物質と残部の水を含有している湿った製紙汚泥(残渣)の貯蔵に使用される。製紙汚泥の発熱量は乾燥物質について約6700kJ/kgである。貯蔵サイロの下端部には取出しおよび計量装置2があり、これに搬送ベルト3が連らなっている。搬送ベルトのベルト速度を無段的に制御することにより、その都度の操業状態に適応した湿った製紙汚泥の供給量が確保される。モーター駆動される閘門4を介して湿った製紙汚泥が、例えば振動乾燥器、乾燥ドラムなどとして形成されている乾燥装置5に達する。炉の排ガスは約350〜370℃で乾燥装置に入る。こうして予乾燥された約30重量%の湿分の製紙汚泥は、スクリューコンベア6およびこれに続く通路7を介して、閘門8およびそこから回転円筒炉10の入口9に達する。原料はこの回転円筒炉を徐々に通過し、加熱によりセメントクリンカーに変えられる。」(第2頁第2欄第48行〜第3頁第3欄第14行)
(3)甲第2号証の2:特開昭58-92718号公報:取消理由通知の刊行物5
(a)「有機性汚泥に油を混入して流動性を保ちながら加熱して汚泥中の水分を蒸発除去して得られる乾燥汚泥をセメントクリンカの焼成工程に投入処理することを特徴とする有機性汚泥の処理方法。」(特許請求の範囲第1項)
(b)「乾燥汚泥は一般に、有機性汚泥を濃縮し、脱水助剤として消石灰と塩化鉄を併用添加するか、あるいはポリマーを添加して機械脱水して得た水分約80重量%(以下単に%は重量%であることを示す)の脱水ケーキに油を混入して、流動性を保ちながら多重効用蒸発缶などを用いて水分を蒸発させるかさらに遠心分離機,スクリュープレスなどの機械的脱油機によって油分を分離すると得られる。」(第2頁左上欄第19行〜右上欄第7行)
(c)「乾燥汚泥を焼成工程に投入する位置としては、たとえば仮焼炉,サスペンションプレヒーターダクト,ロータリーキルンのバーナおよび取り付側(通称窯前)、原料投入側(窯尻)等が好適である。」(第2頁左下欄第第9〜13行)
(4)甲第2号証の3:「セメント・コンクリート論文集」社団法人セメント協会、NO.48/1994 第94〜99頁(1994年12月25日):取消理由通知の刊行物6
(a)「本報告は、下水汚泥のより有効な利用方法として、下水汚泥を多重効用蒸発缶で乾燥した乾燥汚泥をセメントの焼成工程に直接投入することによって、下水汚泥を燃料およびセメント成分として活用する方法を検討したものである。」(第95頁第15〜17行)
(b)「下水汚泥としては、下水処理場で発生した水分80%前後の脱水汚泥にA重油を混合しスラリー状にし、循環ポンプを経由して多重効用蒸発缶で汚泥中の水分を真空蒸発させたのち、スクリュウプレスにかけて脱油して得られた乾燥汚泥を使用した。」(第95頁第21〜23行)
(c)「セメント燃成用のパイロットプラントである仮焼炉付きサスペェンションプレヒータ付ロータリーキルンの仮焼炉に、石炭に替えてその3分の2量の乾燥汚泥を投入しながら、クリンカ焼成を行い、乾燥汚泥の燃焼性を石炭の場合と比較した。」(第96頁第15〜17行)」
(5)甲第3号証:特開平1-315396号公報:取消理由通知の刊行物8
(a)「本発明は下水処理場のような汚泥処理設備および汚泥処理設備から発生する汚泥を焼却設備等の次工程へ移送するために用いられる汚泥処理設備における汚泥の圧送方法に関するものである。」(第1頁左欄第18行〜右欄第1行)
(b)「・・・コンベヤは密閉構造ではないために臭気対策が必要である等の欠点があった。このため、汚泥をポンプによって焼却設備まで圧送するポンプ圧送方法が検討されている・・・」(第1頁右欄第10〜14行)
(6)甲第4号証:特開昭57-188436号公報:取消理由通知の刊行物7
(a)「貯油槽底部に堆積している油性スラッジ」(第1頁右欄第11行)
(b)「油性スラツジ投入部より貯油タンクより排出移送された油性スラッジを投入し、この油性スラツジは燃えながら予備焼成されている石灰石及び粘土と混合され、この混合物がロータリキルンに移送され、ロータリキルン中で焼成された後、クーラで冷却し、クリンカサイロに運ばれると共に石膏が添加され、セメントミルで粉砕し、セメントが作られるのである。すなわち、従来のセメント製造工程において、石灰石及び粘土がロータリキルン内で焼成される直前の工程において貯油槽から排出された油性スラッジを投入し、これらの混合物をロータリキルン内で焼成するようにしたものである。」(第2頁右上欄第10行〜左下欄第2行)
(7)参考資料1:特開平3-98700号公報
(a)「下水汚泥と生石灰類とを混合して当該下水汚泥の脱水を行う脱水工程と、上記脱水工程で生成する固形分をセメントキルン中に投入して他のセメント原料と共にセメント化するセメント化工程と、上記脱水工程で発生するガスをセメント焼成工程に導入するガス処理工程、とを含むことを特徴とする下水汚泥の資源化システム。」(請求項1)
(8)参考資料2:判例工業所有権法CD-ROM要旨検索
4-1-3.当審の判断
4-1-3-1.上記4-1-1.(i)の特許法第36条第4、5項違反の主張について
申立人Aの主張は、具体的には、明細書の中に「窯尻部分」、「窯尻部」、「窯尻」の用語が混在しているという主張であるが、上記訂正により「窯尻部分」に統一されたので、申立人Aの主張する違反は解消された。
4-1-3-2.上記4-1-1.(ii)の特許法第29条第2項違反の主張について
(1)本件訂正発明1について
甲第1号証の上記(1)(a)には、「下水等の汚泥処理」について記載されており、また上記(1)(c)には、「汚泥をそのまま燃焼する」ことや、燃焼装置として「ロータリーキルン」が記載されている。この場合「そのまま燃焼する」のであるから、下水汚泥は「含水スラリー状」であると云える。
これら記載を本件訂正発明1の記載ぶりに則って整理すると、甲第1号証には「下水汚泥の処理設備であって、含水スラリー状の下水汚泥をそのままロータリーキルンで燃焼する下水汚泥の処理設備。」という発明(以下、「甲1A発明」という)が記載されていると云える。
そこで、本件訂正発明1と甲1A発明とを対比すると、甲1A発明の「ロータリーキルン」は本件訂正発明1の「乾式キルン」に相当し、甲1A発明において汚泥をそのままロータリーキルンで燃焼することは、汚泥をロータリーキルンに直接投入する配管を備えていることであるから、両者は「下水汚泥の処理設備であって、含水スラリー状の下水汚泥を乾式キルン内へと直接投入する配管を備えている下水汚泥の処理設備」という点で一致し、次の点で相違していると云える。
相違点(イ):本件訂正発明1では、下水汚泥を直接投入する乾式キルンが、原料ミルで粉砕されたセメント原料を予熱するプレヒータと、このプレヒータが窯尻部分に接続されて、予熱された上記セメント原料を焼成する乾式キルンとを有するセメントクリンカーの製造設備の乾式キルンであるのに対して、甲1A発明では、その点が明示されていない点
相違点(ロ):本件訂正発明1では、含水スラリー状の下水汚泥を貯留する汚泥タンクと、この汚泥タンク内の下水汚泥を圧送する圧送ポンプとを備えているのに対して、甲1A発明では、その点が明示されていない点
相違点(ハ):本件訂正発明1では、下水汚泥を直接投入する配管が窯尻部分または仮焼炉に接続されているのに対して、甲1A発明ではその点が明示されていない点
次に、これら相違点のうち特に上記相違点(イ)について検討すると、甲第2〜4号証、参考資料1、2には、セメント原料を焼成するセメントクリンカーの製造設備の乾式キルンに下水汚泥を直接投入する点については記載も示唆もされていない。
すなわち甲第2号証の1には、製紙汚泥をセメントクリンカー製造の回転円筒炉に投入することは記載されているが、この製紙汚泥は、上記(2)(b)から明らかなように、乾燥装置で予乾燥されたものである。してみると、甲第2号証の1には、下水汚泥を直接投入することは示唆されていないと云える。
また甲第2号証の2には、乾燥汚泥をセメントクリンカの焼成工程に投入することは記載されているが、この乾燥汚泥は、上記(3)(b)から明らかなように、濃縮して脱水助剤を添加したものかあるいは脱水ケーキに油を混入し、その後水分油分を分離したものである。してみると、甲第2号証の2には、下水汚泥を直接投入することは示唆されていないと云える。
また、甲第2号証の3には、下水汚泥を乾燥した乾燥汚泥をセメントの焼成工程に投入することは記載されているが、この乾燥汚泥は、上記(4)(b)から明らかなように、脱水汚泥にA重油を混合し、その後水分油分を分離したものである。してみると、甲第2号証の3には、下水汚泥を直接投入することは示唆されていないと云える。
また、甲第4号証には、油性スラッジをセメント製造工程のロータリーキルンで焼成することは記載されているが、この油性スラッジは、上記(6)(a)から明らかなように、貯油槽底部に堆積しているものである。してみると、甲第4号証には、下水汚泥を直接投入することは示唆されていないと云える。
また、参考資料1にも、下水汚泥の資源化プログラムが記載されているが、下水汚泥と生石灰類とを混合し脱水してセメントキルン中に投入するものである。してみると、参考資料1には、下水汚泥を直接投入することは示唆されていないと云える。
また、甲第3号証には下水汚泥の圧送方法が、参考資料2には判例がそれぞれ記載されているだけである。
してみると、本件訂正発明1の上記相違点(イ)は、甲第2〜4号証、参考資料1、2の記載から当業者が容易に想到することができないと云うべきである。
そして、本件訂正発明1は、上記相違点により明細書記載の「下水汚泥を、乾燥や添加剤添加等の前処理を施すことなく、また、環境汚染の問題もなく、既存の乾式キルンで直接焼却処理することにより、効率的かつ低コストに最終処分することができるとともに、汚泥焼却灰はセメントクリンカーとして経済的に最終処理することができる」という効果を奏すると云える。
したがって、本件訂正発明1は、甲第1〜4号証、参考資料1、2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものともすることができない。
(2)本件訂正発明2について
本件訂正発明2は、請求項1を引用しさらに限定した発明であるから、上記(1)で述べた理由と同じ理由で、甲第1〜4号証、参考資料1、2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものともすることができない。
4-2.申立人Bの特許異議申立てについて
4-2-1.特許異議申立ての理由の概要
申立人Bは、証拠方法として甲第1、2号証を提出し、次のとおり主張している。
(i)請求項1、2に係る発明は、甲第1、2号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1、2に係る発明の特許は特許法第29条第2項号の規定に違反してされたものであり、取り消されるべきものである。
4-2-2.甲各号証の記載内容
(1)甲第1号証:米国特許第5,078,593号明細書:取消理由通知の刊行物2
(a)「炭化水素成分、砂、泥、錆、スケール等の沈殿物からなる固体成分、及び水を含む石油精製スラッジの処理方法であって、加熱された回転円筒からなり、工程中の無機物質が通過している操業中のロ-タリーキルン中での処理であり、石油精製スラッジを、その組成を測定するために分析すること、少なくとも1ポンド当たり約4000BTUの発熱量を持つバラ状の粒状物へと乾燥すること、その乾燥されたバラ状粒状物をロ-タリーキルンに投入し、その中で燃焼させることからなる、石油精製スラッジの処理方法。」(要約、フロント右側、訳文、以下同じ)
(b)「脱水前には、石油精製スラッジは、典型的には60重量%以上の水分を含み、実質的に1ポンド当たり4000BTU以下の発熱量である。このような形態では、この物質は取扱い難く、ロ-タリーキルンでそれだけで燃料として用いるには、発熱量が不足している。しかし、十分な脱水を行うと、典型的には約60重量%以下の水分となり、石油精製スラッジはバラの粒状物となり、機械的に、例えば、スクリューコンベア、バケットエレベー夕、ベルトコンベア、空気輸送等で取扱うことが可能となる。そして、1ボンド当たり約4000BTU以上の発熱量を持つようになる。」(第3欄第1〜3行)
(c)「好ましくは、脱水された粒状スラッジは、燃焼させるためにロータリーキルンの焼成帯に投入する。特に、ロータリーキルンが予熱機または仮焼炉と接続されている場合、脱水粒状スラッジは追加的に、予熱機または仮焼炉に投入し燃焼させても良い。」第5欄第18〜23行)
(2)甲第2号証:特開平6-221537号公報:取消理由通知の刊行物9
(a)「汚泥貯留槽から焼却炉へ脱水ケーキを送る下水汚泥焼却設備の脱水ケーキ供給装置において、汚泥貯留槽の下方に脱水ケーキポンプを設置し、この脱水ケーキポンプと焼却炉を圧送配管を介して接続し、圧送配管の途中に、その内壁面に形成された孔部に電極を、該電極の先端が内壁面に対して常時引っ込んだ状態で内壁面から突出自在になるように移動自在に設けてなる電磁式流量計を装着し、前記電磁式流量計からの信号により、脱水ケーキポンプに所定の供給量を出力させる制御装置を配置したことを特徴とする下水汚泥焼却設備の脱水ケーキ供給装置。」(請求項1)
4-2-3.当審の判断
(1)本件訂正発明1について
甲第1号証の上記(1)(a)には、「石油精製スラッジの処理装置であって、石油精製スラッジをバラ状の粒状物へと乾燥する装置と、その乾燥されたバラ状粒状物を投入し燃焼させるロ-タリーキルンとからなる石油精製スラッジの処理装置。」が記載されていると云える。
また、上記(1)(c)には、仮焼炉に投入することが記載されている。
これら記載事項を本件訂正発明1の記載ぶりに則って整理すると、甲第1号証には「石油精製スラッジの処理設備であって、石油精製スラッジをバラ状の粒状物へと乾燥する装置と、その乾燥されたバラ状粒状物を仮焼炉に投入し燃焼させるロ-タリーキルンからなる石油精製スラッジの処理設備。」という発明(以下、「甲1B発明」という)が記載されていると云える。
そこで、本件訂正発明1と甲1B発明とを対比すると、甲1B発明の「スラッジ」、「ロータリーキルン」は、本件訂正発明1の「汚泥」、「乾式キルン」にそれぞれ相当するから、両者は「乾式キルンを有する汚泥の処理設備であって、汚泥を投入する配管が仮焼炉に接続されている汚泥の処理設備」という点で一致し、次の点で相違していると云える。
相違点(イ):本件訂正発明1では、汚泥が下水汚泥であり、下水汚泥を直接投入する乾式キルンが、原料ミルで粉砕されたセメント原料を予熱するプレヒータと、このプレヒータが窯尻部分に接続されて、予熱された上記セメント原料を焼成する乾式キルンとを有するセメントクリンカーの製造設備の乾式キルンであるのに対して、甲1B発明では、汚泥が石油精製スラッジであり、また石油スラッジの乾燥したバラ状の粒状物を投入するロータリーキルンがセメントクリンカーの製造設備のロータリキルンであることが明示されていない点
相違点(ロ):本件訂正発明1では、含水スラリー状の汚泥を貯留する汚泥タンクと、この汚泥タンク内の汚泥を圧送する圧送ポンプと、この圧送ポンプに接続されて汚泥を乾式キルン内へと直接投入する配管を備えているのに対して、甲1B発明では、汚泥をバラ状の粒状物へと乾燥する装置と、その乾燥されたバラ状粒状物を投入している点
次に、これら相違点のうち特に上記相違点(イ)について検討すると、甲第2号証には、汚泥貯留槽から焼却炉へ脱水ケーキポンプで送ることは記載されているが、セメント原料を焼成するセメントクリンカーの製造設備の乾式キルンに下水汚泥を直接投入する点については記載も示唆もされていない。
してみると、本件訂正発明1の上記相違点(イ)は、甲第2号証の記載から当業者が容易に想到することができないと云うべきである。
そして、本件訂正発明1は上記相違点により、上記4-1-3-2.(1)で述べた効果を奏すると云える。
したがって、本件訂正発明1は、甲第1、2号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものともすることができない。
(2)本件訂正発明2について
本件訂正発明2は、請求項1を引用しさらに限定した発明であるから、上記(1)で述べた理由と同じ理由で、甲第1、2号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものともすることができない。
4-3.申立人Cの特許異議申立てについて
4-3-1.特許異議申立ての理由の概要
申立人Cは、証拠方法として甲第1〜4号証を提出して、次のとおり主張している。
(i)請求項1、2に係る発明は、甲第1〜4号証に記載された発明に基づいて当業者が容易になしえたものであるから、請求項1、2に係る発明の特許は特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり取り消されるべきものである。
4-3-2.甲各号証の記載内容
(1)甲第1号証:実公昭41-21587号公報:取消理由通知の刊行物3
(a)「下水、し尿その他の有機性廃水の処理に於いて・・・」(第1頁左欄下から第19行)
(b)「本考案はこれらの汚泥を脱水乾燥などの手段を用いることなく一挙に焼却し、汚泥中に含まれる有機物の燃焼熱を有効に利用することを目的とするものである。」(第1頁左欄下から第13〜10行)
(c)「沈澱法その他の方法によって適当に濃縮された汚泥は送泥管1から噴霧装置2を経て反応室3内の頂部へ噴霧される。運転開始に先立って管6から液体又は気体燃料と空気を送り、燃焼装置7によって燃焼せしめて燃焼室5内の温度を適当な値例えば800℃位に上げておく。然るときは反応室3内に噴霧された汚泥は高温にある金属製隔壁4からの輻射によって加熱され、数秒間で水分が完全に蒸発し乾燥した極めて微細な粒子となり、さらに輻射熱によって温度が上がり一部は熱分解をうけて極めて燃焼し易い状態となって水蒸気と共に反応室3内を下降する。」(第1頁右欄第1〜12行)
(d)「図面に示すように燃焼室5内に金属製隔壁4により仕切られ下部を開放せる反応室3を設け、反応室3頂部に汚泥を噴霧装置2を経て導入する如くし、燃焼室5には燃料及び空気を導入する燃焼装置7を設けてなる汚泥燃焼装置の構造。」(実用新案登録請求の範囲)
(2)甲第2号証:「再生と利用 下水汚泥資源利用協議会誌」Vol.17 No.63 第68〜76頁(1994):取消理由通知の刊行物10
(a)「脱水ケーキのセメント原料への利用については、平成4年度から日平均30tでセメント会社において実験を行っており」(第70頁右欄第5行〜第72頁左欄第3行)
(b)「一方、脱水汚泥は表-3に示すようにセメントと同一成分を含んでいることからセメント原料の一部として利用できるのではないかと考えられた。」(第72頁左欄下から第2行〜右欄第2行)
(3)甲第3号証:特開平6-221537号公報:取消理由通知の刊行物9
申立人Bの甲第2号証と同じ。
(4)甲第4号証:造水技術編集企画委員会編「造水技術 水処理のすべて」財団法人造水促進センター、第191〜195頁 (昭和58年5月10日):取消理由通知の刊行物1
申立人Aの甲第1号証と同じ。
4-3-3.当審の判断
(1)本件訂正発明1について
甲第1号証の上記(1)(d)には、「燃焼室内に金属製隔壁により仕切られ下部を開放せる反応室を設け、反応室頂部に汚泥を噴霧装置を経て導入する如くし、燃焼室には燃料及び空気を導入する燃焼装置を設けてなる汚泥燃焼装置。」が記載されていると云える。
ここで汚泥は、具体的には上記(1)(a)から「下水汚泥」と云え、燃焼装置に噴霧しているのであるから「含水スラリー状」で直接投入していると云える。
これら記載を本件訂正発明1の記載ぶりに則って整理すると、甲第1号証には「下水汚泥の処理設備であって、含水スラリー状の下水汚泥を燃焼装置内に直接投入する配管を備えた下水汚泥の処理設備。」という発明(以下、「甲1C発明」という)が記載されていると云える。
そこで、本件訂正発明1と甲1C発明とを対比すると、両者は「含水スラリー状の下水汚泥を直接投入する配管を備えた下水汚泥の処理設備」という点で一致し、次の点で相違していると云える。
相違点(イ):本件訂正発明1では、下水汚泥を乾式キルンで処理し、かつこの下水汚泥を直接投入する乾式キルンが、原料ミルで粉砕されたセメント原料を予熱するプレヒータと、このプレヒータが窯尻部分に接続されて、予熱された上記セメント原料を焼成する乾式キルンとを有するセメントクリンカーの製造設備の乾式キルンであるのに対して、甲1C発明では、下水汚泥を燃焼装置で処理する点
相違点(ロ):本件訂正発明1では、含水スラリー状の下水汚泥を貯留する汚泥タンクと、この汚泥タンク内の下水汚泥を圧送する圧送ポンプとを備えているのに対して、甲1C発明では、その点が明示されていない点
相違点(ハ):本件訂正発明1では、下水汚泥を直接投入する配管が窯尻部分または仮焼炉に接続されているのに対して、甲1C発明ではその点が明示されていない点
次に、これら相違点のうち特に上記相違点(イ)について検討すると、甲第2〜4号証には、セメント原料を焼成するセメントクリンカーの製造設備の乾式キルンに含水スラリー状の下水汚泥を直接投入する点については記載も示唆もされていない。
すなわち甲第2号証には、脱水ケーキのセメント原料への利用については記載されているが、脱水してしまうのであるからセメントクリンカーの製造設備の乾式キルンに下水汚泥を直接投入することは示唆されていないと云える。
また甲第3号証については、上記4-2-3.(1)で述べたとおり、汚泥貯留槽から焼却炉へ脱水ケーキポンプで送ることは記載されているが、セメントクリンカーの製造設備の乾式キルンに下水汚泥を直接投入する点については記載も示唆もされていない。
また甲第4号証については、上記4-1-3-2.(1)で述べたとおり、下水汚泥をそのままロータリーキルンで燃焼することは記載されているが、セメントクリンカーの製造設備の乾式キルンに下水汚泥を直接投入する点については記載も示唆もされていない。
してみると、本件訂正発明1の上記相違点(イ)は、甲第2〜4号証の記載から当業者が容易に想到することができないと云うべきである。
そして、本件訂正発明1は上記相違点により、上記4-1-3-2.(1)で述べた効果を奏すると云える。
したがって、本件訂正発明1は、甲第1〜4号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものともすることができない。
(2)本件訂正発明2について
本件訂正発明2は、請求項1を引用しさらに限定した発明であるから、上記(1)で述べた理由と同じ理由で、甲第1〜4号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものともすることができない。
5.むすび
以上のとおり、特許異議申立ての理由及び証拠方法によっては、訂正後の本件請求項1、2に係る発明の特許を取り消すことはできない。
また、他に訂正後の本件請求項1、2に係る発明の特許を取り消すべき理由を発見しない。
したがって、訂正後の本件請求項1、2に係る発明の特許は拒絶の査定をしなければならない特許出願に対してされたものと認めない。
よって、特許法等の一部を改正する法律(平成6年法律第116号)附則第14条の規定に基づく、特許法等の一部を改正する法律の施行に伴う経過措置を定める政令(平成7年政令第205号)第4条第2項の規定により、上記結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
下水汚泥の処理設備
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】 原料ミルで粉砕されたセメント原料を予熱するプレヒータと、このプレヒータが窯尻部分に接続されて、予熱された上記セメント原料を焼成する乾式キルンとを有するセメントクリンカーの製造設備に併設される下水汚泥の処理設備であって、
含水スラリー状の下水汚泥を貯留する汚泥タンクと、この汚泥タンク内の上記下水汚泥を圧送する圧送ポンプと、この圧送ポンプに接続されて上記下水汚泥を上記乾式キルン内へと直接投入する配管とを備えてなり、かつ上記配管が上記窯尻部分または仮焼炉に接続されていることを特徴とする下水汚泥の処理設備。
【請求項2】 上記配管は、上記窯尻部分の側面に接続されていることを特徴とする請求項1に記載の下水汚泥の処理設備。
【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】
本発明は下水汚泥の処理設備に係り、特に、セメントクリンカーの製造設備に併設されて、下水汚泥を、乾燥、添加剤添加等の前処理を施すことなく、効率的に最終処分する処理設備に関する。
【0002】
【従来の技術】
下水処理場から排出される下水汚泥の処理法としては、古来、肥料として利用される場合もあったが、汚泥に重金属類が含有されていること、及び、肥料としての利用では処理量があまりに少ないことなどの理由から、最近では、陸上埋立て及び海上投棄が主流となっている。しかしながら、下水処理場からの下水汚泥排出量は、首都圏を中心に、近年、増々増加傾向にあり、陸上埋立てや海上投棄処分のための処分場の不足、更には、環境汚染防止上の制約を受けて、汚泥処理は焼却処分に移行しているのが現状である。この汚泥の焼却方法としては、既にいくつかの方法が提案されている。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、従来の焼却炉による汚泥焼却方法では、焼却に先立ち汚泥を乾燥する必要がある。また、乾燥排ガスを脱臭する必要もある。このため、焼却コスト、乾燥コスト及び脱臭コストが嵩み、処理コストが高くつくという欠点がある。
【0004】
汚泥の乾燥に生石灰を用い、汚泥中の水分と生石灰との反応で消石灰を生成させると共に、反応熱を利用して残留水分を乾燥させることにより汚泥を空気圧送可能な状態に乾燥させ、乾燥物をセメント原料として利用する方法も提案されているが、この方法でも、汚泥の乾燥のために生石灰を添加する必要があるという不具合がある。
【0005】
本発明は上記従来の問題点を解決し、下水汚泥を、乾燥、添加剤添加等の前処理を施すことなく、効率的に最終処分する処理設備を提供することを目的とする。
【0006】
【課題を解決するための手段】
請求項1に記載の下水汚泥の処理設備は、原料ミルで粉砕されたセメント原料を予熱するプレヒータと、このプレヒータが窯尻部分に接続されて、予熱された上記セメント原料を焼成する乾式キルンとを有するセメントクリンカーの製造設備に併設される下水汚泥の処理設備であって、含水スラリー状の下水汚泥を貯留する汚泥タンクと、この汚泥タンク内の上記下水汚泥を圧送する圧送ポンプと、この圧送ポンプに接続されて上記下水汚泥を上記乾式キルン内へと直接投入する配管とを備えてなり、かつ上記配管が上記窯尻部分または仮焼炉に接続されていることを特徴とするものである。
【0007】
請求項2に記載の下水汚泥の処理設備は、請求項1に記載の配管が、上記窯尻部分の側面に接続されていることを特徴とするものである。
【0008】
以下、図面を参照して本発明を詳細に説明する。
【0009】
【発明の実施の形態】
図1は本発明の下水汚泥の処理設備の一実施形態を示す模式的な断面図である。
【0010】
本実施例においては、下水汚泥(例えば、下水処理場の沈降汚泥)を、含水スラリー状のまま、乾式キルンの窯尻部分に直接投入して焼却する。即ち、下水処理場から排出された下水汚泥は、まず、汚泥受入設備から一旦、圧送ポンプP1を備える配管11を経て汚泥タンク1に貯留し、この汚泥タンク1から随時圧送ポンプP2を備える配管12を経て乾式ロータリーキルン2の窯尻部分2Aよりキルン1内に直接投入する。
【0011】
このロータリーキルン2の窯尻部分の上部には、サスペンションプレヒータ3が連設されており、図示しない原料ミルで粉砕されたセメント原料を、このプレヒータ3で予熱した後、ロータリーキルン2の窯尻部分2Aに投下し、キルン2内で焼成してセメントクリンカーを製造するように構成されている。
【0012】
従って、ロータリーキルン2の窯尻部分2Aに投入された下水汚泥は、加熱されたセメント原料と共に焼成され、セメントクリンカーとして排出される。
【0013】
このように、下水汚泥を配管圧送して直接焼却処理する場合には、臭気等の問題が生起することもない。
【0014】
なお、仮焼炉を有するセメント焼成設備の場合にあっては、下水汚泥を仮焼炉に投入して焼却するようにしても良い。
【0015】
本含水処理設備を用いて下水汚泥を処理するに際しては、既存の乾式キルンに、その運転条件を特に変更することなく下水汚泥を投入して焼却処分するのが好ましく、この点からは、投入する下水汚泥を所定値以下とする必要がある。
【0016】
例えば、90〜100t/hrの割合でセメントクリンカーを生産しているロータリーキルンに通常の下水汚泥を導入して焼却処分する場合、下水汚泥の投入量は9〜10t/hrとし、製造されるセメントクリンカーの重量に対して1/9〜1/11程度の下水汚泥を投入するようにするのが好ましい。
【0017】
【作用】
本発明によれば、下水汚泥を、乾燥することなく、また、添加剤を用いて前処理することなく、直接、既存の簡易な焼却設備である乾式キルンに投入してセメント原料と共に焼却処理することができる。キルンに投入された下水汚泥は、その殆どが水分と有機成分であるため、焼却により残留する灰分はごく微量であり、セメントクリンカーの品質に影響を及ぼすこともなく、通常運転を行える。加えて、下水汚泥を配管圧送して直接焼却処理しているので、臭気等の問題が生起することもない。
【0018】
【実施例】
以下に具体的な実施例を挙げて、本発明をより詳細に説明する。
【0019】
実施例1下記表1に示す組成の下水汚泥を、図1に示す如く、乾式キルン(90〜100t/hrのセメントクリンカーを生産している乾式キルン)の窯尻部分から1〜10t/hrの量で投入して、通常運転を行ったところ、セメントクリンカーの品質に何ら影響を及ぼすことなく、安定な運転を行うことができ、汚泥を含水スラリーのまま、前処理することなく、直接最終処分することができた。
【0020】
【表1】

【0021】
なお、仮焼炉に導入した場合も同様にセメントクリンカーの品質に何ら影響を及ぼすことなく、安定な運転を行うことができ、汚泥を含水スラリーのまま、前処理することなく、直接最終処分することができた。
【0022】
【発明の効果】
以上詳述した通り、本発明の下水汚泥の処理設備によれば、下水汚泥を、乾燥や添加剤添加等の前処理を施すことなく、また、環境汚染の問題もなく、既存の乾式キルンで直接焼却処理することにより、効率的かつ低コストに最終処分することができるとともに、汚泥焼却灰はセメントクリンカーとして経済的に最終処理することができる。
【0023】
また、下水汚泥を配管圧送して直接焼却処理しているので、臭気等の問題が生起することもない。
【図面の簡単な説明】
【図1】
本発明の含有汚泥の処理設備の一実施形態を示す模式的な断面図である。
 
訂正の要旨 訂正事項
a.発明の名称を、「含水汚泥の処理設備」から『下水汚泥の処理設備』に訂正する。
b.明細書の特許請求の範囲の【請求項1】を、下記の通り訂正する。
『【請求項1】 原料ミルで粉砕されたセメント原料を予熱するプレヒータと、このプレヒータが窯尻部分に接続されて、予熱された上記セメント原料を焼成する乾式キルンとを有するセメントクリンカーの製造設備に併設される下水汚泥の処理設備であって、含水スラリー状の下水汚泥を貯留する汚泥タンクと、この汚泥タンク内の上記下水汚泥を圧送する圧送ポンプと、この圧送ポンプに接続されて上記下水汚泥を上記乾式キルン内へと直接投入する配管とを備えてなり、かつ上記配管が上記窯尻部分または仮焼炉に接続されていることを特徴とする下水汚泥の処理設備。』
c.明細書の発明の詳細な説明の【0001】、【0005】および【0010】に記載の「下水汚泥等の含水汚泥」を、『下水汚泥』に訂正する。
d.同、【0002】に記載の「下水汚泥等の汚泥」および【0022】に記載の「下水汚泥などの含水汚泥」を、それぞれ『下水汚泥』に訂正する。
e.同、【0001】、【0006】、【0007】、【0009】、【0010】、【0012】〜【0017】、【0022】および【0023】に記載の「含有汚泥」を、それぞれ『下水汚泥』に訂正する。
f.明細書の図面の簡単な説明の「【図1】 本発明の含水汚泥の処理設備の一実施形態を示す模式的な断面図である。」を、『【図1】 本発明の下水汚泥の処理設備の一実施形態を示す模式的な断面図である。』に訂正する。
g.明細書の特許請求の範囲の【請求項1】および【請求項2】の「上記窯尻部」を、それぞれ『上記窯尻部分』に訂正する。
h.明細書の発明の詳細な説明の【0006】および【0007】の「上記窯尻部」を、それぞれ『上記窯尻部分』に訂正する。
i.同、【0019】の「窯尻」を、『窯尻部分』に訂正する。
異議決定日 2003-01-24 
出願番号 特願2001-172198(P2001-172198)
審決分類 P 1 651・ 534- YA (C02F)
P 1 651・ 121- YA (C02F)
最終処分 維持  
前審関与審査官 真々田 忠博目代 博茂  
特許庁審判長 石井 良夫
特許庁審判官 山田 充
野田 直人
登録日 2001-11-02 
登録番号 特許第3246509号(P3246509)
権利者 三菱マテリアル株式会社
発明の名称 下水汚泥の処理設備  
代理人 清水 千春  
代理人 清水 千春  
代理人 尾股 行雄  
代理人 中馬 典嗣  
代理人 尾股 行雄  
代理人 竹沢 荘一  

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