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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  C11D
審判 全部申し立て 発明同一  C11D
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  C11D
管理番号 1076331
異議申立番号 異議1999-73750  
総通号数 42 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 1992-10-16 
種別 異議の決定 
異議申立日 1999-10-05 
確定日 2003-03-10 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第2878862号「精密部品又は治工具類用洗浄剤組成物」の請求項1、2に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 訂正を認める。 特許第2878862号の請求項1ないし2に係る特許を維持する。 
理由 I.手続の経緯
本件特許第2878862号は、平成3年3月19日に出願され、平成11年1月22日にその発明について特許の設定登録がなされた。
本件特許公報は平成11年4月5日に発行され、その特許に対して、名越千栄子、荒井純子、及び三洋化成工業株式会社よりそれぞれ特許異議の申立てがあり、取消理由通知がなされ、その指定期間内である平成12年4月28日付けで訂正請求がなされ、さらに、訂正拒絶理由通知を兼ねた取消理由通知がなされ、その指定期間内である平成13年8月10日付けで訂正請求がなされるとともに、先の訂正請求が取り下げられたものである。

II.訂正の適否
1.訂正事項
〔訂正事項a〕
特許請求の範囲請求項1の、
「【請求項1】(A)下記化1で表わされ且つ20℃の粘度が0.5〜10cpの化合物5〜95重量%及び(B)平均HLBが4〜15の非イオン性界面活性剤5〜95重量%を含有し、粘度が40℃で0.5〜20cpである、精密部品又はその組立加工工程に用いられる治工具類用の洗浄剤組成物。
【化1】



との記載を、
「【請求項1】(A)下記化1で表わされ且つ20℃の粘度が0.5〜10cpの化合物(但しテルペン系炭化水素は除く)5〜70重量%及び(B)平均HLBが5〜15の非イオン性界面活性剤5〜40重量%を含有し、粘度が40℃で0.5〜20cpである、精密部品又はその組立加工工程に用いられる治工具類用の均一透明な洗浄剤組成物。
【化1】



と訂正する。

〔訂正事項b〕
明細書段落【0007】の、
「【0007】本発明は、上記知見に基づきなされたもので、(A)下記化2(化1と同じ)で表わされ且つ20℃の粘度が0.5〜10cpの化合物5〜95重量%及び(B)平均HLBが4〜15の非イオン性界面活性剤5〜95重量%を含有し、粘度が40℃で0.5〜20cpである、精密部品又はその組立加工工程に用いられる治工具類用の洗浄剤組成物を提供するものである。」との記載を、
「【0007】本発明は、上記知見に基づきなされたもので、(A)下記化2(化1と同じ)で表わされ且つ20℃の粘度が0.5〜10cpの化合物(但しテルペン系炭化水素は除く)5〜70重量%及び(B)平均HLBが5〜15の非イオン性界面活性剤5〜40重量%を含有し、粘度が40℃で0.5〜20cpである、精密部品又はその組立加工工程に用いられる治工具類用の均一透明な洗浄剤組成物を提供するものである。」と訂正する。

〔訂正事項c〕
明細書段落【0019】の、
「【0019】また、上記(A)成分は単独使用又は二種以上併用され、その配合量は、洗浄剤組成物中に5〜95%(重量%、以下同じ)、好ましくは20〜90%、より好ましくは30〜80%である。配合量が5%未満であると、洗浄性が不充分であり、また95%超であると、水リンス性が劣る。」との記載を、
「【0019】また、上記(A)成分は単独使用又は二種以上併用され、その配合量は、洗浄剤組成物中に5〜70%(重量%、以下同じ)である。」と訂正する。

〔訂正事項d〕
明細書段落【0021】の、
「【0021】本発明の洗浄剤組成物は、上記(A)成分の化合物と共に(B)成分として、平均HLBが4〜15の非イオン性界面活性剤を併用するもので、この併用により上記(A)成分の有する問題が改善され、目的とする洗浄剤組成物となる。」との記載を、
「【0021】本発明の洗浄剤組成物は、上記(A)成分の化合物と共に(B)成分として、平均HLBが5〜15の非イオン性界面活性剤を併用するもので、この併用により上記(A)成分の有する問題が改善され、目的とする洗浄剤組成物となる。」と訂正する。

〔訂正事項e〕
明細書段落【0022】の、
「【0022】上記(B)成分の非イオン性界面活性剤としては、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル、ポリオキシアルキレンアルキルフェノールエーテル、ポリオキシアルキレンアルキル脂肪酸エステル、ポリオキシアルキレンアリルフェノールエーテル、ポリオキシアルキレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシアルキレンアルキルアミン、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシアルキレン等が好ましく用いられ、これらのなかでもHLB4〜15の非イオン性界面活性剤が特に優れた効果を発現する。ここで、ポリオキシアルキレンとは、エチレンオキサイド、プロピレンオキサイド又はブチレンオキサイドの重合体のことをいう。」との記載を、
「【0022】上記(B)成分の非イオン性界面活性剤としては、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル、ポリオキシアルキレンアルキルフェノールエーテル、ポリオキシアルキレンアルキル脂肪酸エステル、ポリオキシアルキレンアリルフェノールエーテル、ポリオキシアルキレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシアルキレンアルキルアミン、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシアルキレン等が好ましく用いられ、これらのなかでもHLB5〜15の非イオン性界面活性剤が特に優れた効果を発現する。ここで、ポリオキシアルキレンとは、エチレンオキサイド、プロピレンオキサイド又はブチレンオキサイドの重合体のことをいう。」と訂正する。

〔訂正事項f〕
明細書段落【0023】の、
「【0023】上記(B)成分の非イオン性界面活性剤は単独使用又は二種以上併用され、単独使用する場合は、HLB4〜15のものを用いる必要があり、また二種以上併用する場合は、それらの平均HLBが4〜15となるように併用する必要がある。(平均)HLBが4未満であると、水リンス性が充分でなく、また(平均)HLBが15超であると、(A)成分との相溶性が悪く、製品貯蔵性が悪い。」との記載を、
「【0023】上記(B)成分の非イオン性界面活性剤は単独使用又は二種以上併用され、単独使用する場合は、HLB5〜15のものを用いる必要があり、また二種以上併用する場合は、それらの平均HLBが5〜15となるように併用する必要がある。(平均)HLBが5未満であると、水リンス性が充分でなく、また(平均)HLBが15超であると、(A)成分との相溶性が悪く、製品貯蔵性が悪い。」と訂正する。

〔訂正事項g〕
明細書段落【0024】の、
「【0024】また、上記(B)成分の非イオン性界面活性剤の配合量は、洗浄剤組成物中に5〜95%、好ましくは5〜40%、より好ましくは5〜30%である。配合量が5%未満であると、すすぎ性に劣り、洗浄した被洗浄物がリンス槽で浮上する可能性がある。また、95%超であると、洗浄性が低下する。」との記載を、
「【0024】また、上記(B)成分の非イオン性界面活性剤の配合量は、洗浄剤組成物中に5〜40%、より好ましくは5〜30%である。配合量が5%未満であると、すすぎ性に劣り、洗浄した被洗浄物がリンス槽で浮上する可能性がある。」と訂正する。

〔訂正事項h〕
明細書段落【0032】の、
「【0032】実施例1〜8及び比較例1〜9」との記載を、
「【0032】実施例1〜6及び比較例1〜9」と訂正する。

〔訂正事項i〕
明細書段落【0041】の、
「【表1】



との記載を、
「【表1】



と訂正する。

2.訂正の目的の適否、新規事項追加の有無、及び特許請求の範囲の実質上の拡張又は変更の存否
訂正事項aは、訂正前の特許請求の範囲請求項1において、(A)の化合物から「テルペン系炭化水素」を除くとともにその含有量「5〜95重量%」を「5〜70重量%」と訂正し、また、(B)の非イオン性界面活性剤の平均HLB「4〜15」を「5〜15」と訂正するとともにその含有量「5〜95重量%」を「5〜40重量%」と訂正し、さらに、「洗浄剤組成物」に「均一透明な」という限定を付するもので、特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正に該当する。またこの訂正は、願書に添付した明細書の段落【0024】、【0040】、及び実施例における【表1】の記載により支持されており、願書に添付した明細書又は図面に記載された事項の範囲内の訂正であって、実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものではない。
訂正事項b〜iは、特許請求の範囲の訂正によって生じた発明の詳細な説明中の記載における不整合部分を、特許請求の範囲の記載に合わせて訂正するもので、明りょうでない記載の釈明を目的とするものである。また、この訂正事項は、いずれも新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものではない。

3.独立特許要件の検討
(1)取消理由の概要
当審において平成12年2月22日付で通知した取消理由の趣旨は、訂正前の本件請求項1及び請求項2に係る発明は、その出願前に頒布されたことが明らかな下記の刊行物1ないし4に記載された発明であるから特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないものであり(理由1)、また、訂正前の本件請求項1及び請求項2に係る発明は、下記の刊行物1ないし4に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明し得たものであるから特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり(理由2)、よって訂正前の本件請求項1及び請求項2に係る特許はこれを取り消すべきものである、というものである。


刊行物1 特開平3-62895号公報
(特許異議申立人三洋化成工業株式会社の提出した甲第1号証)
刊行物2 特開平2-248500号公報
(特許異議申立人三洋化成工業株式会社の提出した甲第2号証)
刊行物3 特開平1-272700号公報
(特許異議申立人三洋化成工業株式会社の提出した甲第3号証)
刊行物4 特開昭60-67600号公報
(特許異議申立人三洋化成工業株式会社の提出した甲第7号証)

また、当審においてさらに平成13年6月4日付で通知した訂正拒絶理由を兼ねた取消理由の趣旨は、平成12年4月28日付の訂正請求により訂正された本件請求項1に係る発明は、上記刊行物1(比較例5)に記載された発明であるから特許法第29条第1項第3号に該当し、独立特許要件を満たさないものであることから当該訂正は認められず、よって本件請求項1及び請求項2に係る特許は先の取消理由によりこれを取り消すべきものである、というものである。

(2)訂正後の本件発明
訂正後の本件請求項1及び請求項2に係る発明は、以下のとおりである。「【請求項1】(A)下記化1で表わされ且つ20℃の粘度が0.5〜10cpの化合物(但しテルペン系炭化水素は除く)5〜70重量%及び(B)平均HLBが5〜15の非イオン性界面活性剤5〜40重量%を含有し、粘度が40℃で0.5〜20cpである、精密部品又はその組立加工工程に用いられる治工具類用の均一透明な洗浄剤組成物。
【化1】



【請求項2】水を5〜50重量%含有する請求項1記載の洗浄剤組成物。」

(3)刊行物の記載
上記刊行物1には、一般式(I)、(II)及び(III) の群から選ばれるアルキレンオキサイド化合物(式省略)を50重量%以上含有する電子部品用洗浄剤組成物が記載されており(特許請求の範囲請求項1参照)、その実施例及び比較例において、(POE)2(POP)3ラウリルエステル50重量%、ケロシン30重量%、水20重量%からなる洗浄剤組成物(実施例15)、(POE)2 ラウリルエーテル50重量%、ケロシン50重量%からなる洗浄剤組成物(実施例16)、及び(POB)3 オクチルアミン40重量%、ケロシン60重量%からなる洗浄剤組成物(比較例5)が記載されている(公報第4頁表1参照)。

上記刊行物2には、「(1)石油系溶剤80〜99.5重量%と石油系溶剤用乳化剤20〜0.5重量%とからなる洗浄剤組成物において、石油系溶剤が、蒸留範囲150〜200℃の鎖状、分枝鎖状および環状の脂肪族飽和炭化水素の少なくとも一種からなることを特徴とする洗浄剤組成物。・・・(3)石油系溶剤用乳化剤が、石油系溶剤に可溶な非イオン系および/またはアニオン系界面活性剤である請求項(1)に記載の洗浄剤組成物。(4)非イオン系界面活性剤が、ソルビタン脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレングリセリン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルアミンおよび脂肪酸アミド類からなる群から選択される少なくとも一種である請求項(3)に記載の洗浄剤組成物。・・・(6)ロジンフラックス除去用洗浄剤である請求項(1)に記載の洗浄剤組成物。・・・(丸数字を括弧付き数字で表示)」が記載されており(特許請求の範囲請求項1、3、4、6)、実施例2には、溶剤B(“アイソパーG”、平均分子量149、蒸留範囲157〜177℃の分枝鎖状炭化水素)90%と、界面活性剤F(ポリ(9)オキシエチレンラウリルエーテル)5%及び界面活性剤H(ポリ(4.2)オキシエチレンラウリルエーテル)5%からなる組成の洗浄剤組成物をプリント基板のロジン系フラックスの除去に用いることが記載されている(公報第4頁左上欄第3行〜右上欄第10行、及び第1表参照)。

上記刊行物3には、「1.液状モノテルペン系炭化水素と、洗浄剤中5〜80重量%であり、かつそのHLBが8〜12である非イオン界面活性剤とを必須成分とする硬質表面用洗浄剤。」が記載されており(特許請求の範囲請求項1)、実施例3には、20部のミルセンと80部のNS3(ポリオキシエチレン・ポリオキシプロピレン・ブロックポリマー、HLB=8)からなる洗浄剤組成物をロジン系フラックスの残存する精密部品の洗浄に用いたことが記載されている(公報第3頁左下欄末行〜第4頁右下欄末行、及び表-1参照)。また、非イオン界面活性剤のHLBについて、「非イオン界面活性剤のHLBは8以上12以下である必要がである。HLBが8未満の場合均質なエマルジョン洗浄液を得られず、従って、有効な洗浄効果が得られず、かつ効果的なリンスも困難である。一方、HLBが12以上の場合も、均質なエマルジョン洗浄液を得難い関係で、効果的な洗浄効果を期待できない。」と記載されている(公報第3頁左上欄第17行〜右上欄第3行)。

上記刊行物4には、「1.引火点が100℃以上で水と互いに溶解し合わない有機溶剤80〜20重量%と水20〜80重量%とからなる主原料100重量部に対し、30重量部以下の乳化剤を添加し混合して均一なエマルジョンとしたことを特徴とする不燃性エマルジョン洗浄剤。」が記載されており(特許請求の範囲)、実施例には、有機溶剤として日石0号ソルベントH(商品名:日本石油(株)製、比重0.769、引火点113℃、沸点244〜262℃)、乳化剤としてラピゾールB-80及びHS-2045(商品名:いずれも日本油脂(株)製)各3gを混合してなるエマルジョン洗浄剤が記載されている(公報第3頁右上欄第1行〜第18行)。

(4)対比・判断
(理由1について)
a.本件請求項1に係る発明と刊行物1記載の発明との対比
訂正後の本件請求項1に係る発明(以下、「本件発明1」という。)の洗浄剤組成物と上記刊行物1の実施例15あるいは実施例16に記載された洗浄剤組成物とを比較すると、実施例15及び実施例16の「ケロシン」は本件発明1の(A)成分に相当し、また実施例15の「(POE)2(POP)3 ラウリルエステル」及び実施例16の「(POE)2 ラウリルエーテル」はいずれも本件発明1の洗浄剤組成物における(B)成分に相当するものである。しかし、上記(B)成分の含有割合が、本件発明1の洗浄剤組成物においては5〜40重量%であるのに対して、上記刊行物1の実施例15あるいは実施例16に記載された洗浄剤組成物においてはいずれも50重量%であり、本件発明1で特定される範囲からはずれている。また、本件発明1の洗浄剤組成物と、上記刊行物1の比較例5に記載された洗浄剤組成物とを比較すると、比較例5の「(POB)3 オクチルアミン」は本件発明1の洗浄剤における(B)成分に相当し、かつその含有割合40重量%においても本件発明1と一致するものである。しかし、そのHLBが本件発明1の洗浄剤組成物においては5〜15であるのに対して、上記刊行物1の比較例5に記載された洗浄剤組成物においては約4であり(異議申立人三洋化成工業株式会社が提出した平成13年4月13日付上申書参照)、本件発明1で特定される範囲からはずれている。したがって、本件発明1の洗浄剤組成物は、(A)成分の粘度および洗浄剤組成物の粘度において結果的に一致したとしても、(B)成分の非イオン性界面活性剤の含有割合において上記刊行物1の実施例15あるいは実施例16に記載された洗浄剤組成物とは異なるものであり、また、(B)成分の非イオン性界面活性剤のHLBにおいて上記刊行物1の比較例5に記載された洗浄剤組成物とは異なるものであるから、本件発明1は上記刊行物1に記載された発明ではない。

b.本件請求項1に係る発明と刊行物2記載の発明との対比
訂正後の本件発明1の洗浄剤組成物と、上記刊行物2の実施例2に記載された洗浄剤組成物とを比較すると、実施例2の「“アイソパーG”」は本件発明1の(A)成分に相当し、また「界面活性剤F(ポリ(9)オキシエチレンラウリルエーテル)」及び「界面活性剤H(ポリ(4.2)オキシエチレンラウリルエーテル)」は本件発明1の洗浄剤組成物における(B)成分に相当するものである。しかし、上記(A)成分の含有割合が、本件発明1の洗浄剤組成物においては5〜70重量%であるのに対して、上記刊行物2の実施例2に記載された洗浄剤組成物においては90重量%であり、本件発明1で特定される範囲をはずれている。したがって、本件発明1の洗浄剤組成物は、(A)成分の粘度および洗浄剤組成物の粘度において結果的に一致したとしても、(A)成分の化合物の含有割合において上記刊行物2の実施例2に記載された洗浄剤組成物とは異なるものであるから、本件発明1は上記刊行物2に記載された発明ではない。

c.本件請求項1に係る発明と刊行物3記載の発明との対比
訂正後の本件発明1の洗浄剤組成物と、上記刊行物3の特許請求の範囲請求項1に記載された洗浄剤組成物とを比較すると、刊行物3の「液状モノテルペン系炭化水素」は本件発明1の(A)成分に相当し、また「HLBが8〜12である非イオン系界面活性剤」は本件発明1の洗浄剤組成物における(B)成分に相当するものである。しかし、本件発明1においては上記(A)成分から「テルペン系炭化水素」が除かれており、刊行物3記載の洗浄剤組成物とは(A)成分の化合物において一致しない。したがって、本件発明1の洗浄剤組成物は、(A)成分の粘度および洗浄剤組成物の粘度において結果的に一致したとしても、(A)成分の化合物において上記刊行物3に記載された洗浄剤組成物とは異なるものであるから、本件発明1は上記刊行物3に記載された発明ではない。

d.本件請求項1に係る発明と刊行物4記載の発明との対比
本件発明1の洗浄剤組成物と上記刊行物4の実施例に記載されたエマルジョン洗浄剤とを比較すると、刊行物4の実施例の「日石0号ソルベントH」は本件発明1の(A)成分に相当し、「ラピゾールB-80」は本件発明1の洗浄剤組成物における(B)成分に相当するものである。しかし、上記(B)成分の含有割合が、本件発明1の洗浄剤組成物においては5〜40重量%であるのに対して、上記刊行物4の実施例に記載された洗浄剤組成物においては2.8重量%と計算され、本件発明1で特定される範囲をはずれている。したがって、本件発明1の洗浄剤組成物は、(A)成分の粘度および洗浄剤組成物の粘度において結果的に一致したとしても、(B)成分の非イオン性界面活性剤の含有割合において上記刊行物4の実施例に記載された洗浄剤組成物とは異なるものであるから、本件発明1は上記刊行物4に記載された発明ではない。

e.本件請求項2に係る発明について
訂正後の本件請求項2に係る発明は、いずれも訂正後の請求項1に係る発明の構成をその主たる構成として含むものである。そして訂正後の本件請求項1に係る発明は、上述したように上記刊行物1ないし刊行物4に記載された発明とは認められないことから、同様の理由により、訂正後の本件請求項2に係る発明もまた、上記刊行物1ないし刊行物4に記載された発明とは認められない。

(理由2について)
a.本件請求項1に係る発明について
本件発明1の洗浄剤組成物と、上記刊行物1ないし刊行物4にそれぞれ記載された洗浄剤組成物等を比較すると、上述したように(A)成分の化合物及び(B)成分の非イオン性界面活性剤については共通しており、また、それらの含有割合についても一部一致している。しかしながら、本件発明1においてはさらに引火性等の安全性と狭い隙間部分の汚れ物質に対する洗浄性を考慮して、(A)成分の化合物の粘度を20℃において0.5〜10cp、洗浄剤組成物の粘度を40℃において0.5〜20cpと特定している(本件明細書段落【0018】、【0025】参照)のに対して、上記刊行物1ないし刊行物4には(A)成分の化合物及び洗浄剤組成物の粘度については何も記載がなく、安全性あるいは洗浄性と粘度の関係についても認識されておらず、これを示唆するような記載もない。したがって、上記刊行物1ないし刊行物4の記載を組合せても本件発明1において特定されるような粘度範囲を導き出すことはできない。そして、本件発明1は、上記のような構成を備えることにより、精密部品又はその組立加工工程に用いられる治工具類用の洗浄剤組成物として、優れた洗浄力及びすすぎ性を有し、且つフロン等を用いないため環境を汚染せず安全性も高いという明細書記載の効果を奏するものである。
よって、本件発明1は上記刊行物1ないし刊行物4に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとは認められない。

b.本件請求項2に係る発明について
訂正後の本件請求項2に係る発明は、請求項1に係る発明の構成をその主たる構成として含むものである。そして訂正後の本件請求項1に係る発明は、上述したように上記刊行物1ないし刊行物4に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとは認められないから、同様の理由により、訂正後の本件請求項2に係る発明もまた、上記刊行物1ないし刊行物4に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとは認められない。

4.むすび
以上のとおりであるから、本件訂正は、平成11年改正前の特許法第120条の4第2項及び第3項において準用する特許法第126条第2項から第4項までの規定に適合するので、当該訂正を認める。

III.特許異議申立てについて
1.本件発明
本件請求項1及び請求項2に係る発明は、訂正後の特許請求の範囲の請求項1及び請求項2に記載されたとおりのものである(上記II.3.(2)の項参照)。

2.特許異議申立ての理由の概要
(1)特許異議申立人名越千栄子は、訂正前の本件請求項1及び請求項2に係る発明は、下記の甲第1号証の明細書に記載された発明と同一であるから特許法第29条の2の規定により特許を受けることができないものであり、また、訂正前の本件請求項1及び請求項2に係る発明は、その出願前に頒布されたことが明らかな下記の甲第2号証及び甲第3号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明し得たものであるから特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、よって訂正前の本件請求項1及び請求項2に係る特許は、特許法第113条の規定によりこれを取り消すべきものであると主張している。

甲第1号証 特願平1-285329号(特開平3-146597号公報
参照、以下、「先願1」という)
甲第2号証 特開平2-248500号公報(上記「刊行物2」に同じ)
甲第3号証 特開平3-62896号公報(以下、「刊行物5」という)

(2)特許異議申立人荒井純子は、訂正前の本件請求項1及び請求項2に係る発明は、その出願前に頒布されたことが明らかな下記の甲第1号証ないし甲第5号証にそれぞれ記載された発明であるから特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであり、また、訂正前の本件請求項1及び請求項2に係る発明は、下記の甲第1号証ないし甲第17号証に記載された発明及び技術的事項に基づいて当業者が容易に発明し得たものであるから特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、さらに、訂正前の本件請求項1及び請求項2に係る発明は、下記の甲第18号証ないし甲第20号証の明細書に記載された発明と同一であるから特許法第29条の2の規定により特許を受けることができないものであり、よって訂正前の本件請求項1及び請求項2に係る特許は、特許法第113条の規定によりこれを取り消すべきものであると主張している。

甲第1号証 特開平3-62895号(上記「刊行物1」に同じ)
甲第2号証 特開平3-62897号公報(以下、「刊行物6」という)
甲第3号証 特開平2-248500号公報(上記「刊行物2」に同じ)
甲第4号証 辻薦「精密洗浄技術」、工学図書株式会社、昭和58年3月
20日発行、第38頁〜第49頁、第60〜63頁)(以下
、「刊行物7」という)
甲第5号証 特開昭49-66706号公報(以下、「刊行物8」とい
う)
甲第6号証 特開平3-62896号公報(上記「刊行物5」に同じ)
甲第7号証 「石油精製技術便覧(第3版)」、産業図書株式会社、昭和
56年10月19日発行、第1頁〜第3頁(以下、「刊行物
9」という)
甲第8号証 「世界科学大事典13」、株式会社講談社、昭和54年11
月27日発行、第156頁「灯油」の項(以下、「刊行物1
0」という)
甲第9号証 特開平4-292699号公報
甲第10号証 特願平3-80735号の平成8年7月17日付拒絶理由
通知書
甲第11号証 特願平3-80735号の平成8年10月14日付手続補
正書
甲第12号証 特願平3-80735号の平成8年10月14日付意見書
甲第13号証 「精密洗浄技術マニアル」、株式会社新技術開発センター
、1986年7月30日発行、第19頁〜第25頁(以下
、「刊行物11」という)
甲第14号証 「改訂二版油脂化学便覧」、丸善株式会社、昭和57年1
1月10日発行、第160頁〜第165頁、第336頁〜
第339頁、第710頁〜第713頁(以下、「刊行物1
2」という)
甲第15号証 「半導体・電子部品の精密洗浄システム技術集成」、株式
会社リアライズ社、昭和61年9月30日発行、第285
頁〜第286頁(以下、「刊行物13」という)
甲第16号証 特開昭59-176398号公報(以下、「刊行物14」
という)
甲第17号証 辻薦「工業用洗剤と洗浄技術」、株式会社地人書館、昭和5
7年2月10日発行、第28頁〜第31頁、第54〜57
頁)(以下、「刊行物15」という)
甲第18号証 特願平2-179100号(特開平4-65495号公報
参照、以下、「先願2」という)
甲第19号証 特願平3-7857号(特開平4-341592号公報参
照、以下、「先願3」という)
甲第20号証 特願平2-37318号(特開平3-243699号公報
参照、以下、「先願4」という)
(なお、上記甲第9号証は本件の出願後に頒布された本件と同一の出願人の
出願に係る公開公報であり、甲第10号証ないし甲第12号証は刊行物では
ないので、いずれも検討を要しない。)

(3)特許異議申立人三洋化成工業株式会社は、訂正前の本件請求項1及び請求項2に係る発明は、その出願前に頒布されたことが明らかな下記の甲第1号証ないし甲第7号証にそれぞれ記載された発明であるから特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであり、また、訂正前の本件請求項1及び請求項2に係る発明は、下記の甲第1号証ないし甲第7号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明し得たものであるから特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、よって訂正前の本件請求項1及び請求項2に係る特許は、特許法第113条の規定によりこれを取り消すべきものであると主張している。

甲第1号証 特開平3-62895号公報(上記「刊行物1」と同じ)
甲第2号証 特開平2-248500号公報(上記「刊行物2」に同じ)
甲第3号証 特開平1-272700号公報(上記「刊行物3」に同じ)
甲第4号証 特開平2-16200号公報(以下、「刊行物16」とい
う)
甲第5号証 特開昭56-4700号公報(以下、「刊行物17」とい
う)
甲第6号証 特開昭58-63800号公報(以下、「刊行物18」とい
う)
甲第7号証 特開昭60-67600号公報(上記「刊行物4」に同じ)

3.刊行物等の記載
上記刊行物5には、「1.炭素数9〜18の環式飽和炭化水素を70重量%以上含有する洗浄剤組成物。2.更に炭素数6〜18の脂肪族アルコール及び/又は界面活性剤を0.1〜30重量%含有する請求項1記載の洗浄剤組成物。3.界面活性剤がHLB4〜15の非イオン性界面活性剤である請求項2記載の洗浄剤組成物。」が記載されている(特許請求の範囲)。

上記刊行物6には、実施例8にブチルオクチルエーテル60重量%、(POP)オレイルアミン(HLB=10)25重量%、ケロシン15重量%からなる洗浄剤組成物、実施例9にデシルアルコール60重量%、(POE)ソルビタンモノラウレート(HLB=10)15重量%、ケロシン25重量%からなる洗浄剤組成物が記載されている(第4頁第1表参照)。

上記刊行物7には、ケロシン92%、ポリエキシエチレン・ソルビタン・トリオレエート(Tween85)2%、ポリエキシエチレン・ソルビタン・ペンタラウレート(AtlasG-1061)5%、ソルビタン・モノオレエート(Span80)1%からなる処方の洗浄剤組成物が記載されている(第61頁参照)。

上記刊行物8には、通常のアルキルフェノール型非イオン活性剤、流動パラフィンにさらに植物油、脂肪酸エステル類等の油性物質を混合した化学ぞうきん製造用の清浄剤組成物が記載されており(公報第1頁左下欄第13行〜第16行参照)、実施例2には、酸化エチレン平均付加モル数5のノニルフェノール酸化エチレン付加物20wt%、流動パラフィン(粘度10c.p.、20℃)50wt%、オリーブ油10wt%、イソプロピルミリスチレート20wt%を混合した粘度20c.p.(20℃)の組成物が記載されている。

上記刊行物9には、パラフィン系炭化水素(CnH2n+2 )に係る記載があり、炭素数4以上のものには直鎖状のノルマルパラフィンと側鎖をもったイソパラフィンがあることが記載されている(第1頁、第2頁参照)。

上記刊行物10には、灯油(ケロシン)に係る記載があり、その成分は主にC10〜C14のパラフィン、ナフテン系炭化水素で、粘度が2センチポアズ以下であることが記載されている(第156頁「灯油」の項参照)。

上記刊行物11には、ケロシンの物理的性質に係る記載があり、その粘度が0.02poiseであることが記載されている(第24頁表2.23参照)。

上記刊行物12には、脂肪酸エステルの粘度に係る記載があり、20℃の粘度がラウリン酸メチルで3.540cP、ミリスチン酸メチルで5.201cP、ミリスチン酸イソプロピルで6.570cP、また30℃の粘度がオレイン酸メチルで0.0488ポアズであることが記載されている(第162、163頁表3・18、第164頁表3・21参照)。

上記刊行物13には、電子部品に係る記載があり、電子部品の種類や部品製造プロセスによって洗浄方法は千差万別であることが記載されている(第285頁左欄参照)。

上記刊行物14には、グリコールエーテル系又はグリコールエーテルアセテート系溶剤、パラフィン系有機溶剤、界面活性剤及び水よりなる液体洗浄剤が記載されており(特許請求の範囲参照)、水を23%以上含むグリコールエーテル系又はグリコールエーテルアセテート系溶剤は引火点がなくなることが記載されている(公報第3頁右下欄第2行〜第4行)。

上記刊行物15には、乳化溶剤洗浄法に係る記載があり、上記刊行物7に記載された洗浄剤組成物と同じものが記載されている(第55頁(2)ソルブル・オイル型の項参照)。

上記刊行物16には、ノニオン性界面活性剤、高級脂肪酸塩、多価アルコール、非水溶性有機溶剤及び水よりなり25℃における粘度が100〜20,000cpsである洗浄剤が記載されており(特許請求の範囲請求項1参照)、実施例1には、ポリオキシエチレンアルキルエーテル4.5重量%、オレイン酸トリエタノールアミン塩9.5重量%、プロピレングリコール5重量%、ケロシン47重量%及び水34%よりなる洗浄剤が記載されている(公報第4頁左上欄下から10行〜下から5行参照)。

上記刊行物17には、少なくとも1種類の石油留出物および少なくとも1種類の界面活性剤を含む清浄剤が記載されており(特許請求の範囲第1項参照)、実施例2には、水32.2、ASE-60(酸含有橋かけアクリルエマルション共重合体)0.2、イソプロパノール10.0、界面活性剤、例えばトライトンX-100(オクチルフェノオキシ-ポリエトオキシエタノール)10.6、ガソリン14.4、燈油33.6、水酸化ナトリウム(25%)からなる清浄剤が記載されている(公報第3頁右上欄末行〜左下欄下から8行参照)。

上記刊行物18には、第二級アルコールエトキシレートおよび/または第二級アルコールにエチレンオキシドとプロピレンオキシドとをブロックにおよび/またはランダムに付加した付加物および第二級二価アルコールが炭化水素油に含まれて成る洗浄剤組成物が記載されており(特許請求の範囲第1項参照)、実施例1にはガソリン100、炭素数12〜14の第二級アルコールの平均3モルエトキシレート5、炭素数12〜14の第二級二価アルコール0.5からなる洗浄剤組成物、実施例2にはガソリン100、炭素数12〜14の第二級アルコールの平均5モルエトキシレート5、炭素数12〜14の第二級二価アルコール0.5からなる洗浄剤組成物、実施例3にはガソリン100、炭素数12〜14の第二級アルコールの平均7モルエトキシレート5、炭素数12〜14の第二級二価アルコール0.5からなる洗浄剤組成物が記載されている(第4頁表1参照)。

上記先願1には、平均炭素数8〜20の脂肪族炭化水素および極性基を有する有機化合物を含むプリント基板用洗浄用組成物が記載されており(特許請求の範囲請求項1参照)、実施例3には、炭素数8〜11のn-アルカンを主成分とする脂肪族炭化水素87、シクロヘキサノール10、POE(7)ノニルフェノール3からなる処方の洗浄剤組成物が記載されている(公報第4頁右上欄表-1参照)

上記先願2には、一般式(1)(式省略)で表されるグリコールエーテル系化合物のうちの少なくとも一種、炭素数8〜14の炭化水素化合物およびノニオン性界面活性剤とからなる混合物を含有するロジン系ハンダフラックスの洗浄剤が記載されており(特許請求の範囲請求項3参照)、実施例12には、ジエチレングリコールジメチルエーテル/ドデカン/ノイゲンET-135が45/45/10の組成の洗浄剤、実施例13には、ジエチレングリコールジメチルエーテル/ドデカン/ノイゲンEA-120が35/35/30の組成の洗浄剤がそれぞれ記載されている(公報第6頁第1表参照)。

上記先願3には、ジエチレングリコールジエチルエーテル10〜50重量%、石油系溶剤3〜25重量%、ノニオン系界面活性剤5〜25重量%、及び水20〜80重量%を必須成分として含む洗浄剤組成物が記載されており(特許請求の範囲参照)、実施例1には、ジエチレングリコールジエチルエーテル10重量%、ドデカン6重量%、ポリオキシエチレン(4.2モル付加物)ラウリルエーテル5.6重量%、ポリオキシエチレン(10モル付加物)ノニルフェニルエーテル2.4重量%、水76重量%からなる洗浄用組成物、実施例8には、ジエチレングリコールジエチルエーテル34重量%、ドデカン19重量%、ポリオキシエチレン(7モル付加物)セチルエーテル11重量%、ポリオキシエチレン(20モル付加物)オクチルフェニルエーテル11重量%、水25重量%からなる洗浄用組成物がそれぞれ記載されている(公報第5頁表1参照)。

上記先願4には、炭素数8〜24の非テルペン系炭化水素と、一般式(1)(式省略)で示される化合物とからなる洗浄剤組成物が記載されており(特許請求の範囲参照)、実施例1には、ポリブテン2量体90重量%、ポリエチレンオキサイド(10)モノオレイルエーテル10重量%からなる洗浄剤組成物が記載されている(公報第4頁第1表、第2表参照)。

4.判断
(1)特許法第29条第1項について
a.本件請求項1に係る発明について
上記刊行物1ないし4に記載された発明との対比、判断は上記「II.3.独立特許要件の検討 (4)対比・判断 (理由1について)」のa.〜d.の項において述べたとおりであり、本件発明1は上記刊行物1ないし4に記載された発明ではない。
また、刊行物6ないし8、刊行物16ないし18にはいずれも洗浄剤組成物に係る記載があり、これらの洗浄剤組成物はその組成において本件発明1の洗浄剤組成物と共通するものであるが、その粘度については特定されておらず、かつその粘度が実質的に本件発明1で特定される「40℃で0.5〜20cp」の範囲内にあるとする根拠も見出せないので、本件発明1の洗浄剤組成物が上記各刊行物にそれぞれ記載された洗浄剤組成物と実質的に同じであるとすることもできない。したがって、本件発明1は上記刊行物6ないし8、刊行物16ないし18に記載された発明ではない。

b.本件請求項2に係る発明について
訂正後の本件請求項2に係る発明は、いずれも訂正後の請求項1に係る発明の構成をその主たる構成として含むものである。そして訂正後の本件請求項1に係る発明は、上述したように上記刊行物1ないし4、刊行物6ないし8、刊行物16ないし18にそれぞれ記載された発明とは認められないことから、同様の理由により、訂正後の本件請求項2に係る発明もまた、上記刊行物1ないし4、刊行物6ないし8、刊行物16ないし18に記載された発明とは認められない。

(2)特許法第29条第2項について
a.本件請求項1に係る発明について
上記刊行物1ないし5、刊行物6ないし8、刊行物15ないし18には、いずれも洗浄剤組成物に係る記載があり、これらの洗浄剤組成物はその組成において本件発明1の洗浄剤組成物と共通するものであるが、その成分の粘度及び洗浄剤全体の粘度については特定されていない点で本件発明1の洗浄剤組成物とは相違している。
そこで検討するに、上記「II.3.独立特許要件の検討 (4)対比・判断 (理由2について)」の項において述べたように、本件発明1においては引火性等の安全性と狭い隙間部分の汚れ物質に対する洗浄性を考慮した上で(A)成分の化合物の粘度を20℃において0.5〜10cp、洗浄剤組成物の粘度を40℃において0.5〜20cpと特定している(本件明細書段落【0018】、【0025】参照)のに対し、上記の各刊行物に記載の洗浄剤組成物においては、洗浄剤組成物の安全性や洗浄性と洗浄剤の成分あるいは洗浄剤自体の粘度との関連性については全く認識されていない。また、上記各刊行物あるいはその他の刊行物において、これらのことを示唆するような記載もなされていない。したがって、上記刊行物1ないし刊行物18の記載をいかに組合せても本件発明1において特定されるような粘度範囲を導き出すことはできない。そして、本件発明1は、上記のような構成を備えることにより、精密部品又はその組立加工工程に用いられる治工具類用の洗浄剤組成物として、優れた洗浄力及びすすぎ性を有し、且つフロン等を用いないため環境を汚染せず安全性も高いという明細書記載の効果を奏するものである。
よって、本件発明1は上記刊行物1ないし刊行物18に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとは認められない。

b.本件請求項2に係る発明について
訂正後の本件請求項2に係る発明は、請求項1に係る発明の構成をその主たる構成として含むものである。そして訂正後の本件請求項1に係る発明は、上述したように上記刊行物1ないし18に記載された発明及び技術的事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとは認められないから、同様の理由により、訂正後の本件請求項2に係る発明もまた、上記刊行物1ないし18に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとは認められない。

(3)特許法第29条の2について
a.本件請求項1に係る発明について
上記先願1ないし4にはいずれも洗浄剤組成物に係る発明が記載されており、これらの洗浄剤組成物はその組成において本件発明1の洗浄剤組成物と共通するものであるが、その粘度については特定されておらず、かつその粘度が実質的に本件発明1で特定される「40℃で0.5〜20cp」の範囲内にあるとする根拠も見出せないので、本件発明1の洗浄剤組成物が上記先願1ないし4に記載された洗浄剤組成物と実質的に同じであるとすることもできない。
したがって、本件発明1は上記先願1ないし4に記載された発明と同一ではない。

b.本件請求項2に係る発明について
訂正後の本件請求項2に係る発明は、請求項1に係る発明の構成をその主たる構成として含むものである。そして訂正後の本件請求項1に係る発明は、上述したように上記先願1ないし4に記載された発明と同一であるとは認められないことから、同様の理由により、訂正後の本件請求項2に係る発明もまた、上記先願1ないし4に記載された発明と同一であるとは認められない。

IV.むすび
以上のとおりであるから、特許異議の申立ての理由によっては本件請求項1及び請求項2に係る発明の特許を取り消すことはできない。
また、他に本件請求項1及び請求項2の発明についての特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、本件発明についての特許は拒絶の査定をしなければならない特許出願に対してされたものと認めないから、結論のとおり決定する
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
精密部品又は治工具類用洗浄剤組成物
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】 (A)下記化1で表わされ且つ20℃の粘度が0.5〜10cpの化合物(但しテルペン系炭化水素は除く)5〜70重量%及び(B)平均HLBが5〜15の非イオン性界面活性剤5〜40重量%を含有し、粘度が40℃で0.5〜20cpである、精密部品又はその組立加工工程に用いられる治工具類用の均一透明な洗浄剤組成物。
【化1】
R1(X)R2
(式中、R1は炭素数1〜18の直鎖又は分岐炭化水素残基を示し、Xは

〜18の直鎖又は分岐炭化水素残基を示し、R3及びR4はH又は炭素数1〜18の直鎖又は分岐炭化水素残基を示す。)
【請求項2】 水を5〜50重量%含有する請求項1記載の洗浄剤組成物。
【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】
本発明は、洗浄剤組成物、詳しくは、精密部品又はその組立加工工程に用いられる治工具類の表面に存在する油脂、機械油、切削油、グリース、液晶、ロジン系フラックス等の汚れ物質の除去性に優れ、且つすすぎ性に優れた洗浄剤組成物に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来、精密部品及び治工具類等の表面に存在する油脂等の有機物を主体とする汚れ物質の除去には、ケロシン、ベンゼン、キシレン等の炭化水素系溶剤;トリクロロエチレン、テトラクロロエチレン等の塩素系溶剤;トリクロロトリフルオロエタン等のフロン系溶剤;オルソケイ酸ソーダや苛性ソーダに界面活性剤やビルダーを配合した水系の洗浄剤等が使用されている。特に電子、電気、機械等の部品には、その高洗浄性及び難燃性という特性を生かしてフロン系溶剤又は塩素系溶剤が使用されている。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、塩素系及びフロン系の溶剤を用いる洗浄剤は、安全性、毒性、環境汚染性等に大きな問題を有している。一方、水系の洗浄剤は、毒性が低い点では好ましいが、洗浄力において数段劣っている。
【0004】
また、精密部品等に用いられる洗浄剤においては、洗浄後、被洗浄物表面に洗浄剤が残留するとプラスチック部品等に悪影響を与えることがあるため、洗浄後のすすぎ性が問題となっている。
【0005】
従って、本発明の目的は、精密部品又はその組立加工工程に用いられる治工具類の表面に存在する油脂、機械油、切削油、グリース、液晶、ロジン系フラックス等の汚れ物質を除去するための洗浄剤組成物として、洗浄力及びすすぎ性に優れ、且つ環境汚染の惧れがなく、しかも安全性の高い洗浄剤組成物を提供することにある。
【0006】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、鋭意研究を行った結果、特定の粘度を有する特定の化合物と、平均HLBが特定範囲内の非イオン性界面活性剤とを組合せた、特定の粘度を有する洗浄剤組成物が、上記目的を達成するものであることを知見した。
【0007】
本発明は、上記知見に基づきなされたもので、(A)下記化2(化1と同じ)で表わされ且つ20℃の粘度が0.5〜10cpの化合物(但しテルペン系炭化水素は除く)5〜70重量%及び(B)平均HLBが5〜15の非イオン性界面活性剤5〜40重量%を含有し、粘度が40℃で0.5〜20cpである、精密部品又はその組立加工工程に用いられる治工具類用の均一透明な洗浄剤組成物を提供するものである。
【0008】
【化2】
R1(X)R2
(式中、R1は炭素数1〜18の直鎖又は分岐炭化水素残基を示し、Xは

〜18の直鎖又は分岐炭化水素残基を示し、R3及びR4はH又は炭素数1〜18の直鎖又は分岐炭化水素残基を示す。)
【0009】
以下、本発明の洗浄剤組成物について詳述する。
【0010】
本発明の(A)成分としては、例えば、次のような化合物が挙げられる。
【0011】
上記化2中のXが下記化3である化合物としては、ドデカン、ヘキサデカン;オレフィン、例えば、オクテン、ドデセン、テトラデセン、テトラプロピレン、テトライソブチレン等;オレフィンの重合体、例えば、プロピレンの3量体や1-デセンの2量体等が挙げられる。
【0012】
【化3】

【0013】
また、上記化2中のXが-COO-である化合物としては、ヤシ脂肪酸メチル、ミリスチン酸イソプロピル、ステアリル酸2-エチルヘキシル、ラウリン酸メチル、オレイン酸メチル、オレイン酸イソブチル等、更には、アクリル酸ブチルやアクリル酸2-エチルヘキシル等が挙げられる。
【0014】
また、上記化2中のXが-CO-である化合物としては、例えば、メチルヘキシルケトン、ジイソブチルケトン、2,6,8,トリメチル4-ノナノン等が挙げられ、また、上記化2中のXが-O-である化合物としては、例えば、ジイソアミルエーテルやジヘキシルエーテル等が挙げられる。
【0015】
また、上記化2中のXが下記化4である化合物としては、例えば、ジメチルラウリルアミン、ジメチルミリスチルアミン、ジラウリルモノメチルアミン、トリオクチルアミン等が挙げられる。
【0016】
【化4】

【0017】
これらの化合物中、特に好ましいものは、上記化2中のXが上記化3である、炭化水素の不飽和結合を有するオレフィン、分岐パラフィンである。また、上記化2中のXが-COO-である、ラウリン酸メチル、オレイン酸メチル等の化合物も特に好ましい。
【0018】
上記(A)成分は、20℃の粘度が0.5〜10cp、好ましくは0.5〜8cp、特に好ましくは0.5〜5cpである。20℃の粘度が0.5cp未満であると、洗浄剤組成物の引火性が高く、洗浄時の安全性が問題となる。また、10cp超であると、狭い隙間部分の汚れ物質に対して洗浄性が充分でなく好ましくない。
【0019】
また、上記(A)成分は単独使用又は二種以上併用され、その配合量は、洗浄剤組成物中に5〜70%(重量%、以下同じ)である。
【0020】
上記(A)成分は、有機系の汚れ物質に対する溶解性に優れているが、水に対する溶解性が低いため、水によるリンス時にリンス不良を生じやすい。また、洗浄剤組成物が水を含む場合、水の溶解力が低く、例えば液分離の発生等、製品安定性が不良となる問題が生じることがある。
【0021】
本発明の洗浄剤組成物は、上記(A)成分の化合物と共に(B)成分として、平均HLBが5〜15の非イオン性界面活性剤を併用するもので、この併用により上記(A)成分の有する問題が改善され、目的とする洗浄剤組成物となる。
【0022】
上記(B)成分の非イオン性界面活性剤としては、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル、ポリオキシアルキレンアルキルフェノールエーテル、ポリオキシアルキレンアルキル脂肪酸エステル、ポリオキシアルキレンアリルフェノールエーテル、ポリオキシアルキレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシアルキレンアルキルアミン、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシアルキレン等が好ましく用いられ、これらのなかでもHLB5〜15の非イオン性界面活性剤が特に優れた効果を発現する。ここで、ポリオキシアルキレンとは、エチレンオキサイド、プロピレンオキサイド又はブチレンオキサイドの重合体のことをいう。
【0023】
上記(B)成分の非イオン性界面活性剤は単独使用又は二種以上併用され、単独使用する場合は、HLB5〜15のものを用いる必要があり、また二種以上併用する場合は、それらの平均HLBが5〜15となるように併用する必要がある。(平均)HLBが5未満であると、水リンス性が充分でなく、また(平均)HLBが15超であると、(A)成分との相溶性が悪く、製品貯蔵性が悪い。
【0024】
また、上記(B)成分の非イオン性界面活性剤の配合量は、洗浄剤組成物中に5〜40%、より好ましくは5〜30%である。配合量が5%未満であると、すすぎ性に劣り、洗浄した被洗浄物がリンス槽で浮上する可能性がある。
【0025】
上記の(A)成分及び(B)成分を含有する本発明の洗浄剤組成物は、その粘度が40℃で0.5〜20cp、好ましくは0.5〜10cpである。上記粘度が0.5cp未満であると、引火性等の安全性が劣り、また20cp超であると、狭い隙間部分の汚れ物質に対して洗浄性が劣る傾向がある。
【0026】
本発明の洗浄剤組成物には、安全性及び作業性等の観点から適宜水を含有させることができる。水の配合量は、洗浄剤組成物中に5〜50%が好ましい。
【0027】
また、本発明の洗浄剤組成物には、その効果を損なわない範囲で必要に応じて、他の界面活性剤、シリコン等の消泡剤、アミン系やフェノール系の酸化防止剤、防錆剤やアルカノールアミン等を配合してもよい。
【0028】
本発明の洗浄剤組成物は、上記の(A)成分及び(B)成分等の配合成分を常法により混合して製造することができる。
【0029】
本発明の洗浄剤組成物を用いて洗浄を行う方法は特に限定されないが、例えば本発明の洗浄剤組成物を用いて超音波洗浄又は浸漬洗浄し、最後に溶剤又は温水でリンスする等の方法を連続的に行う方法等が、効率良い洗浄法として挙げられる。また、振動法、スプレー法等の各種の洗浄方法によってもよい。
【0030】
【作用】
本発明の洗浄剤組成物は、精密部品又はその組立加工工程に用いられる治工具類の洗浄に用いられ、その際、(A)成分及び(B)成分の作用により被洗浄物表面に存在する汚れ物質を除去する。また、洗浄後、被洗浄物表面に残留する本発明の洗浄剤組成物は、被洗浄物を水等でリンスすることにより流失する。
【0031】
【実施例】
以下、実施例を比較例と共に挙げて本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0032】
実施例1〜6及び比較例1〜9
【0033】
下記の表1及び表2に示す組成の洗浄剤組成物をそれぞれ調製し、各洗浄剤組成物について、汚れ物質の除去性(洗浄力)、リンス性(すすぎ性)及び製品安定性を次のようにして評価した。その結果を下記の表1及び表2に示す。
【0034】
(汚れ物質の除去性及びリンス性の評価方法)
【0035】
各洗浄剤組成物に、ロジン系のフラックス処理されたプリント基板、ナフテン系鉱油が塗布された銅板又はネマティック液晶を主成分とする液晶を塗布したガラス基板をそれぞれ10枚ずつ浸漬し、40℃で3分間超音波をあてながら洗浄を行い、その際の汚れ物質の除去性を評価した。次いで、洗浄剤組成物で洗浄した上記のプリント基板、銅板又はガラス基板を20℃のイオン交換水でリンス処理を行い、リンス性の良し悪しを目視にて評価した。汚れ物質の除去性及びリンス性の評価基準は次の通りである。
【0036】
汚れ物質の除去性の評価基準
◎;汚れ物質(フラックス、ナフテン系鉱油又は液晶)の残着がなく、非常に良好。
○;汚れ物質の残着がほとんどなく、良好。
△;汚れ物質の残着がわずかにあり、やや悪い。
×;汚れ物質が残着し、悪い。
【0037】
リンス性の評価基準
◎;非常に良好。
○;良好。
△;やや劣る。
×;悪い。
【0038】
(製品安定性の評価方法)
【0039】
各洗浄剤組成物の外観を下記評価基準により室温にて目視で観察した。
【0040】
製品安定性の評価基準
○;均一透明。
△;若干の分離又は濁り。
×;完全に分離。
【0041】
【表1】

【0042】
【表2】

【0043】
尚、上記の表1及び表2中、(POE)はポリオキシエチレンを示し、(POP)はポリオキシプロピレンを示す。
【発明の効果】
本発明の洗浄剤組成物は、精密部品又はその組立加工工程に用いられる治工具類用の洗浄剤組成物として、優れた洗浄力及びすすぎ性を有し、且つフロン等を用いないため環境を汚染せず安全性も高いものである。
 
訂正の要旨 訂正の要旨
(イ)本件特許発明の洗浄剤組成物の(A)成分の含有量の上限を、「95重量%」から実施例3における(A)成分の含有量の「70重量%」に減縮する。
(ロ)本件特許発明の洗浄剤組成物の(A)成分から「テルペン系炭化水素」を除外する。
(ハ)本件特許発明の洗浄剤組成物の(B)成分の含有量の上限を、「95重量%」から明細書の段落【0024】に記載した(B)成分の好ましい含有量の範囲の上限の「40重量%」に減縮する。
(ニ)本件特許発明の洗浄剤組成物を「均一透明な洗浄剤組成物」に減縮する(明細書の段落【0040】の記載及び【表1】の記載から明らかなように、実施例の組成物は全て均一透明な洗浄剤組成物である)。
(ホ)本件特許発明の洗浄剤組成物の(B)成分の平均HLBの下限値を、「4」から実施例5で用いられている(B)成分のHLB値の「5」に減縮する。
異議決定日 2003-02-18 
出願番号 特願平3-80734
審決分類 P 1 651・ 161- YA (C11D)
P 1 651・ 113- YA (C11D)
P 1 651・ 121- YA (C11D)
最終処分 維持  
前審関与審査官 鈴木 恵理子  
特許庁審判長 鐘尾 みや子
特許庁審判官 佐藤 修
鈴木 紀子
登録日 1999-01-22 
登録番号 特許第2878862号(P2878862)
権利者 花王株式会社
発明の名称 精密部品又は治工具類用洗浄剤組成物  
代理人 豊田 武久  
代理人 羽鳥 修  
代理人 羽鳥 修  

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