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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  D01F
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  D01F
管理番号 1076343
異議申立番号 異議2001-72228  
総通号数 42 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 1994-02-08 
種別 異議の決定 
異議申立日 2001-08-09 
確定日 2003-02-26 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第3138070号「モノフィラメント」の請求項1ないし3に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 訂正を認める。 特許第3138070号の請求項1ないし3に係る特許を維持する。 
理由 1.手続の経緯
本件特許第3138070号の請求項1〜3に係る発明についての出願は、平成4年7月10日に出願され、平成12年12月8日にその設定登録がなされ、その後、その請求項1〜3に係る発明の特許について、異議申立人中野宗昭より特許異議の申立てがされ、取消理由通知がなされ、その指定期間内である平成14年10月10日に特許異議意見書と訂正請求書が提出されたものである。

2.訂正の適否についての判断
(1)訂正請求の内容
本件訂正請求は、本件明細書を訂正請求書に添付された全文訂正明細書のとおりに訂正することを求めるもので、その訂正事項の具体的内容は以下のとおりである。
訂正事項1:
特許請求の範囲の請求項1における「末端カルボキシル基の数〔A〕(μeq/ポリマー1g)と末端アミノ基の数〔B〕(μeq/ポリマー1g)とが〔B〕>(〔A〕+5)の条件を満足するポリアミド樹脂より成ることを特徴とするモノフィラメント。」を「3員環以上のラクタム類もしくはω-アミノ酸類をジアミンの共存下で重縮合を行うか、または、二塩基酸とジアミンをジアミンを過剰量にして重縮合を行う方法であって、前記ジアミンが、エチレンジアミン、トリメチレンジアミン、テトラメチレンジアミン、ペンタメチレンジアミン、へキサメチレンジアミン、ヘプタメチレンジアミン、オクタメチレンジアミン、ノナメチレンジアミン、ウンデカメチレンジアミン、ドデカメチレンジアミン、2,2,4(または2,4,4)-トリメチルヘキサメチレンジアミン、シクロヘキサンジアミン、ビス-(4,4′-アミノシクロヘキシル)メタン、メタキシリレンジアミンから選択される上記の方法によって製造され、末端カルボキシル基の数〔A〕(μeq/ポリマー1g)と末端アミノ基の数〔B〕(μeq/ポリマー1g)とが〔B〕>(〔A〕+5)の条件を満足するポリアミド樹脂より成ることを特徴とするモノフィラメント。」と訂正する。

訂正事項2:
特許請求の範囲の請求項2における「ビスアミド化合」を「ビスアミド化合物」と訂正する。

訂正事項3:
明細書の段落【0007】における「本発明の要旨は、末端カルボキシル基の数〔A〕(μeq/ポリマー1g)と末端アミノ基の数〔B〕(μeq/ポリマー1g)とが〔B〕>(〔A〕+5)の条件を満足するポリアミド樹脂より成ることを特徴とするモノフィラメントに存する。」を「本発明の要旨は、3員環以上のラクタム類もしくはω-アミノ酸類をジアミンの共存下で重縮合を行うか、または、二塩基酸とジアミンをジアミンを過剰量にして重縮合を行う方法であって、前記ジアミンが、エチレンジアミン、トリメチレンジアミン、テトラメチレンジアミン、ペンタメチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、ヘプタメチレンジアミン、オクタメチレンジアミン、ノナメチレンジアミン、ウンデカメチレンジアミン、ドデカメチレンジアミン、2,2,4(または2,4,4)-トリメチルヘキサメチレンジアミン、シクロヘキサンジアミン、ビス-(4,4′-アミノシクロヘキシル)メタン、メタキシリレンジアミンから選択される上記の方法によって製造され、末端カルボキシル基の数〔A〕(μeq/ポリマー1g)と末端アミノ基の数〔B〕(μeq/ポリマー1g)とが〔B〕>(〔A〕+5)の条件を満足するポリアミド樹脂より成ることを特徴とするモノフィラメントに存する。」と訂正する。

訂正事項4:
明細書の段落【0013】における「ヘプタトチレンジアミン」を「ヘプタメチレンジアミン」と訂正する。

(2)訂正の目的の適否、新規事項の有無及び拡張・変更の存否
上記訂正事項1は、明細書の段落【0010】及び【0013】の記載に基づき、ポリアミド樹脂を特定のジアミンを原料として用いた特定の製法によるポリアミド樹脂に限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものと認められる。
上記訂正事項2は、明細書の段落【0016】〜【0021】における「ビスアミド化合物」という記載からみて、「ビスアミド化合」なる記載は、明らかに「ビスアミド化合物」であると解され、該訂正は、明らかな誤記の訂正であると認められる。
上記訂正事項3は、上記訂正事項1の訂正にともない、明細書の記載の整合性を図るものであるから、明りょうでない記載の釈明を目的とするものと認められる。
上記訂正事項4については、「ヘプタトチレンジアミン」なる化合物は実在せず、一般技術常識からみて「ヘプタトチレンジアミン」は、明らかに「ヘプタメチレンジアミン」の誤記であると解されるから、該訂正は、明らかな誤記の訂正であると認められる。
そして、上記訂正事項1〜4は、いずれも願書に添付した明細書に記載した事項の範囲内においてしたものであり、また、実質的に特許請求の範囲を拡張又は変更するものでもない。

(3)むすび
以上のとおりであるから、上記訂正は、特許法等の一部を改正する法律(平成6年法律第116号)附則第6条第1項の規定によりなお従前の例とされる、特許法第120条の4第3項において準用する平成6年法律第116号による改正前の特許法第126条第1項ただし書、第2項及び第3項の規定に適合するので、当該訂正を認める。

3.特許異議申立てについての判断
(1)特許異議申立ての理由の概要
特許異議申立人中野宗昭は、証拠として甲第1号証(特開昭62-10136号公報)、甲第2号証(特開昭58-21424号公報)、甲第3号証(特公平3-14923号公報)及び甲第4号証(特開昭62-106944号公報)を提出し、 [理由1]本件請求項1に係る発明は、甲第1号証に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号の規定により特許を受けることができないものであるから、
[理由2]本件請求項1に係る発明は、甲第2号証に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号の規定により特許を受けることができないものであるから、
[理由3]本件請求項1〜3に係る発明は、甲第3号証及び甲第4号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、
[理由4]本件請求項2〜3に係る発明は、甲第1号証及び甲第3号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、
[理由5]本件請求項3に係る発明は、甲第2号証及び甲第3号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、
本件請求項1〜3に係る発明の特許は、取り消すべきものである旨主張している。

(2)本件請求項1〜3に係る発明
上記2.で示したように、上記訂正が認められるから、本件請求項1〜3に係る発明(以下、「本件発明1〜3」という。)は、訂正明細書の特許請求の範囲の請求項1〜3に記載された事項により特定される以下のとおりのものである。

【請求項1】3員環以上のラクタム類もしくはω-アミノ酸類をジアミンの共存下で重縮合を行うか、または、二塩基酸とジアミンをジアミンを過剰量にして重縮合を行う方法であって、前記ジアミンが、エチレンジアミン、トリメチレンジアミン、テトラメチレンジアミン、ペンタメチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、ヘプタメチレンジアミン、オクタメチレンジアミン、ノナメチレンジアミン、ウンデカメチレンジアミン、ドデカメチレンジアミン、2,2,4(または2,4,4)-トリメチルヘキサメチレンジアミン、シクロヘキサンジアミン、ビス-(4,4′-アミノシクロヘキシル)メタン、メタキシリレンジアミンから選択される上記の方法によって製造され、末端カルボキシル基の数〔A〕(μeq/ポリマー1g)と末端アミノ基の数〔B〕(μeq/ポリマー1g)とが〔B〕>(〔A〕+5)の条件を満足するポリアミド樹脂より成ることを特徴とするモノフィラメント。
【請求項2】ポリアミド樹脂が100重量部当り0.01〜1重量部のビスアミド化合物を含有している請求項1に記載のモノフィラメント。
【請求項3】漁網に使用される請求項1又は2に記載のモノフィラメント。

(3)各甲号証の記載事項
甲第1号証
ア.「(1)末端基が
(a)-CONHR基(Rは炭素数22以下の炭化水素基を示す。)
(b)-COOH基
および
(c)-NH2基および/又は-NHCOR′基
(R′は炭素数1〜5の炭化水素基を示す。)から成り、末端基(a)、(b)および(c)の数の比が、
2≦(a)/{(a)+(b)+(c)} ×100<40
を満足し、かつ相対粘度が2.5〜6であるポリアミド樹脂。」(特許請求の範囲、第1項)
イ.「本発明でいうポリアミドは、3員環以上のラクタム、重合可能なω-アミノ酸、または二塩基酸とジアミンなどの重縮合およびこれらの共重合によつて得られるポリアミドである。これらポリアミドの原料としては、具体的にはε-カプロラクタム・・・のようなラクタム類、6-アミノカプロン酸・・・のようなω-アミノ酸類、アジピン酸・・・のような二塩基酸類、ヘキサメチレンジアミン、テトラメチレンジアミン・・・のようなジアミン類などが挙げられる。
本発明のポリアミド樹脂は、末端基が変性されたものであり、末端基としては、ポリアミドの原料に由来するカルボキシル基およびアミノ基と、変性によつて導入された脂肪族基(-CONHR基および-NHCOR′基)がある。」(第2頁右上欄4行〜同頁左下欄14行)
ウ.「本発明の末端基が変性されたポリアミド樹脂を製造するには、前記したポリアミド原料(モノマー)を、・・・モノアミン、または・・・モノアミンと・・・モノカルボン酸の存在下重縮合させる。」(第3頁左上欄18行〜同頁右上欄3行)
エ.「実施例1〜4および比較例1
200lのオートクレーブに、ε-プロラクタム60kg、水1.2kgと下記第1表に示す量のモノアミン、モノカルボン酸およびヘキサメチレンジアミン、アジピン酸を仕込み、・・・反応を行なつた。
・・・チップ化し、・・・乾燥した。
・・・
またフイルムの製膜は・・・インフレーション法により行い、50μの厚みのフイルムを得た。
・・・結果を下記第1表に示す。」(第4頁左上欄13行〜同頁左下欄18行)
オ.第1表には、実施例1の生成ポリマー相対粘度(ηrel)が2.80、生成ポリマー末端-COOH(μeq/g)が11、末端-NH2(μeq/g)が39であり、実施例2の 生成ポリマー相対粘度(ηrel)が3.19、生成ポリマー末端-COOH(μeq/g)が12、末端-NH2(μeq/g)が43であることが示されている。(第5頁、第1表)
カ.「本発明のポリアミド樹脂は、機械的性質特に低温における耐折れ曲げ性および引張強さがすぐれており、・・・射出成形・・・などの周知の種々の成形法によつて・・・立体成形品・・・フイラメントに成形することができ、工業的に極めて有用である。」(第5頁左下欄2〜11行)

甲第2号証
キ.「1.ナイロン6成分を主成分とし、N,N′-ビス(γ-アミノプロピル)ピペラジン成分が単独で、又は他の成分とともに共重合された繊維形成性を有するランダムコポリアミドであつて、末端アミノ基濃度が末端カルボキシル基濃度よりも10当量/トン以上高い繊維形成性コポリアミド。」(特許請求の範囲、第1項)
ク.「本発明はナイロン6成分を主成分とし、N,N′-ビス(γ-アミノプロピル)ピペラジン(以下BAPPという)成分を共重合成分として含有する繊維形成性コポリアミドに係り、耐熱性に優れ・・・染色可能なコポリアミドを提供するものである。
一般にナイロン6の耐熱性は良好でなく、・・・黄変したり・・・する欠点がある。たとえば繊維の場合、ヒートセットなどにおける高温処理時にこのような現象が起こりやすい。」(第1頁左下欄下6行〜同頁右下欄6行)
ケ.「本発明のポリアミドは常法によって製造することができ、ナイロン6の合成時にBAPPを単独で、又は他の共重合成分とともに添加して共重合すればよいが、・・・BAPP以外の共重合成分の好ましい例としては、エチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン・・・などのジアミン類」(第2頁左上欄18行〜同頁右上欄13行)
コ.「実施例1〜4,比較例1〜3
ε-カプロラクタム100部、水1部及び種々の量のBAPPを撹拌機付オートクレーブに仕込み、・・・重縮合を行なつた。
得られたポリマーをチップ化し、・・・溶融温度270℃で溶融紡糸し、常法により延伸して70d/24fの延伸糸を得た。この延伸糸を170℃の空気中で30分間加熱した後の強力保持率、糸条の着色状態をポリマーの融点及び末端基濃度とともに、第1表に示す。
第1表から、末端アミノ基濃度が末端カルボキシル基濃度よりも10当量/トン以上高くなるようにBAPPを添加共重合せしめて得られたコポリアミドの耐熱性が著しく良好であることがわかる。」(第2頁左下欄12行〜同頁右下欄10行)

甲第3号証
サ.「1(a)ナイロン6/66共重合体 100重量部
(b)脂肪族ジアミンとイソフタル酸および/またはテレフタル酸を主成分とするポリアミド0.5〜20重量部さらに必要に応じてポリアミド(a)と(b)の合計量100重量部に対して
(c)ε-カプロラクタム 5〜20重量部
(d)・・・ビスアミド 0.1〜0.5重量部
を配合した組成物より成るポリアミドモノフィラメント。」(特許請求の範囲、第1項)
シ.「ポリアミドモノフィラメントは・・・漁網・・・などに多用されている。・・・漁網用途は強度が重要な要求特性であることはかわりはないが、それと同等なほど透明性、柔軟性が要求される。」(第2頁左欄18〜22行)
ス.「本発明において使用されるポリアミド(a)としては、ε-カプロラクタムを主成分、・・・かつ他の共重合成分がヘキサメチレンジアミンとアジピン酸の塩であるナイロン6/66共重合体が用いられる。・・・
本発明で使用するポリアミド(b)とは、脂肪族ジアミンとイソフタル酸および/またはテレフタル酸よりのポリアミド成分を主成物とする・・・ポリアミド樹脂である。
かかるポリアミド樹脂の製造に用いられる脂肪族ジアミンとしてはエチレンジアミン、テトラメチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン・・・等の直鎖脂肪族ジアミン・・・が挙げられる。」(第2頁右欄11〜35行)
セ.「ビスアミドの添加量はポリアミド・・・100重量部に対して0.1〜0.5重量部、特に0.15〜0.4重量部が好ましい。多いと・・・安定した紡糸が不可能となる。少ないと透明性及び柔軟性の改良効果が小さい。」(第4頁右欄11〜16行)
ソ.「かくして本発明によつて得られるポリアミドモノフィラメントは、従来得られなかつた透明性と柔軟性の両者とも優れたモノフィラメントであり、漁業用の紡糸・・・などの各種分野に適用が期待される。」(第5頁左欄3〜7行)

甲第4号証
タ.「(1)(i)エチレン-酢酸ビニル共重合体ケン化物と、
(ii)末端カルボキシル基(X)、及び末端アミノ基(Y)の含有量(μeq/g・ポリマー)が式Y≧X+5を満足するポリアミド系樹脂
とからなることを特徴とする樹脂組成物。」(特許請求の範囲、第1項)
チ.「本発明のポリアミド系樹脂を製造するには、3員環以上のラクタムやω-アミノ酸を用いる時は、ジアミンの共存下で重縮合を行ない、二塩基酸とジアミンとで重縮合させる時はジアミンの過剰量を用いることによつて行われる。
上記ポリアミドの原料としては、具体的には、ε-カプロラクタム、・・・ようなラクタム類、・・・脂肪族ジカルボン酸、・・・脂環式ジカルボン酸、・・・芳香族ジカルボン酸のような二塩基酸類があげられ、ジアミンとしては、エチレンジアミン、トリメチレンジアミン、・・・のような脂肪族ジアミン、・・・脂環式ジアミン、・・・芳香族ジアミンなどがあげられる。」(第2頁左下欄15行〜第3頁左上欄13行)
ツ.「本発明の組成物は溶融成型によりペレット、フィルム、シート、容器、棒等の各種成形品等に成型される。溶融成型法としては押出成形、ブロー成型、射出成型等公知の成形手段が採用される。」(第3頁右下欄2〜6行)
テ.「本発明においてはポリアミド系樹脂としてその末端のカルボキシル基及びアミノ基が特定の割合に調節されたものを用いることによつて、エチレン-酢酸ビニル共重合体ケン化物との混合物を溶融成型する場合、長期間にわたつて成型操作を続けてもゲル化、増粘等のトラブルがおこる恐れがない。」(第3頁右下欄16行〜第4頁左上欄2行)

(4)対比・判断
(4-1)[理由1]について
(本件発明1について)
本件発明1(前者)と甲第1号証に記載された発明(後者)とを対比すると、甲第1号証には、-CONHR基、-COOH基及び-NH2基および/又は-NHCOR′基が特定の関係式を満たすポリアミド樹脂が記載(上記ア)され、該ポリアミド樹脂は、3員環以上のラクタム、重合可能なω-アミノ酸、または二塩基酸とジアミンなどの重縮合およびこれらの共重合によつて得られるポリアミドであり、これらはポリアミドの原料としては、ヘキサメチレンジアミン、テトラメチレンジアミンのようなジアミン類などを用い、これらのポリアミド原料をモノアミン、または、モノアミンとモノカルボン酸の存在下重縮合させ、末端基を変性させたものである(上記イ、ウ)ことが記載され、また、甲第1号証には、実施例1、2により製造されたポリアミド樹脂の末端-NH2基の数は末端-COOH基の数より5以上大きい(上記エ、オ)こと、このように製造されたポリアミド樹脂がフィラメントに成形可能(上記カ)であることが記載されているものと認められるから、
両者は、「3員環以上のラクタム類もしくはω-アミノ酸類を重縮合を行うか、または、二塩基酸とジアミンを重縮合を行う方法であって、前記ジアミンが、エチレンジアミン、トリメチレンジアミン、テトラメチレンジアミン、ペンタメチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、ヘプタメチレンジアミン、オクタメチレンジアミン、ノナメチレンジアミン、ウンデカメチレンジアミン、ドデカメチレンジアミン、2,2,4(または2,4,4)-トリメチルヘキサメチレンジアミン、シクロヘキサンジアミン、ビス-(4,4′-アミノシクロヘキシル)メタン、メタキシリレンジアミンから選択される上記の方法によって製造され、末端カルボキシル基の数〔A〕(μeq/ポリマー1g)と末端アミノ基の数〔B〕(μeq/ポリマー1g)とが〔B〕>(〔A〕+5)の条件を満足するポリアミド樹脂より成ることを特徴とするモノフィラメント。」である点において一致するが、
相違点:
前者においては、3員環以上のラクタム類もしくはω-アミノ酸類をジアミンの共存下で重縮合を行うか、または、二塩基酸とジアミンをジアミンを過剰量にして重縮合を行うのに対し、後者においては、3員環以上のラクタム類もしくはω-アミノ酸類の重縮合をジアミンの共存下で、または、二塩基酸とジアミンとの重縮合をジアミンを過剰量にして重縮合させることが記載されてない点において両者は相違する。
そこで、この相違点について検討すると、後者におけるポリアミド樹脂は、末端基をカルボキシル基、アミノ基及び脂肪族基(-CONHR基及び-NHCOR′基)により変性することを目的とするものであり、そのため、ポリアミド原料モノマーをモノアミン又はモノアミンとモノカルボン酸の存在下重縮合させることは記載されているが、このポリアミド原料モノマーである3員環以上のラクタム類もしくはω-アミノ酸類をジアミンの共存下で、あるいは、二塩基酸とジアミンとの重縮合をジアミン過剰量で重縮合させることは、何ら記載も示唆もなく、また、該技術事項が自明のこととも認められない。
してみると、本件発明1は、甲第1号証に記載された発明であるとすることはできない。

(4-2)[理由2]について
(本件発明1について)
本件発明1(前者)と甲第2号証に記載された発明(後者)とを対比すると、甲第2号証には、ナイロン6成分を主成分とし、N,N′-ビス(γ-アミノプロピル)ピペラジン(BAPP)成分が単独で、又は他の成分とともに共重合された繊維形成性を有するランダムコポリアミドであつて、末端アミノ基濃度が末端カルボキシル基濃度よりも10当量/トン以上高い繊維形成性コポリアミド(上記)が記載され、BAPP以外の共重合成分として、エチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミンなどのジアミン類を用いる(上記ケ)こと、また、重縮合を行ったコポリアミドを紡糸機を用いて溶融紡糸し、延伸して延伸糸を得る(上記コ)ことが記載されていると認められる。そして、後者の「当量/トン」は、前者の「μeq/ポリマー1g」に相当するものであるから、
両者は、「3員環以上のラクタム類もしくはω-アミノ酸類を重縮合を行うか、または、二塩基酸とジアミンを重縮合を行う方法であって、前記ジアミンが、エチレンジアミン、トリメチレンジアミン、テトラメチレンジアミン、ペンタメチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、ヘプタメチレンジアミン、オクタメチレンジアミン、ノナメチレンジアミン、ウンデカメチレンジアミン、ドデカメチレンジアミン、2,2,4(または2,4,4)-トリメチルヘキサメチレンジアミン、シクロヘキサンジアミン、ビス-(4,4′-アミノシクロヘキシル)メタン、メタキシリレンジアミンから選択される上記の方法によって製造され、末端カルボキシル基の数〔A〕(μeq/ポリマー1g)と末端アミノ基の数〔B〕(μeq/ポリマー1g)とが〔B〕>(〔A〕+5)の条件を満足するポリアミド樹脂より成ることを特徴とするモノフィラメント。」である点において一致するが、
相違点:
前者においては、3員環以上のラクタム類もしくはω-アミノ酸類をジアミンの共存下で重縮合を行うか、または、二塩基酸とジアミンをジアミンを過剰量にして重縮合を行うのに対し、後者においては、かかる重縮合を行うときに、前者が規定するジアミン以外の特定の成分であるN,N′-ビス(γ-アミノプロピル)ピペラジン(BAPP)成分を共重合させて行う点において両者は相違する。
そこで、この相違点について検討すると、後者において、末端カルボキシル基の数〔A〕(μeq/ポリマー1g)と末端アミノ基の数〔B〕(μeq/ポリマー1g)とが〔B〕>(〔A〕+5)の条件を満足するコポリアミド樹脂を製造するのは、ナイロン6成分(3員環以上のラクタム類)にN,N′-ビス(γ-アミノプロピル)ピペラジン成分を共重合させることにより製造するものであり、3員環以上のラクタム類もしくはω-アミノ酸類を特定のジアミンの共存下で重縮合を行うか、または、二塩基酸と特定のジアミンを特定のジアミンを過剰量にして重縮合を行うことにより、末端カルボキシル基の数〔A〕(μeq/ポリマー1g)と末端アミノ基の数〔B〕(μeq/ポリマー1g)とが〔B〕>(〔A〕+5)の条件を満足するポリアミド樹脂を製造することは、何ら記載も示唆もなく、また、該技術事項が自明のこととも認められない。
してみると、本件発明1は、甲第2号証に記載された発明であるとすることはできない。

(4-3)[理由3]について
(本件発明1について)
本件発明(前者)と甲第3号証に記載の発明(後者)とを対比すると、甲第3号証には、ナイロン6/66共重合体のポリアミド(a)と脂肪族ジアミンとイソフタル酸および/またはテレフタル酸を主成分とするポリアミド(b)とを配合したポリアミド組成物より成るポリアミドモノフィラメント(上記サ)が記載され、ポリアミド(b)を製造する脂肪族ジアミンとして、エチレンジアミン、テトラメチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン等を用いることが記載されているから、
両者は、「ジアミンが、エチレンジアミン、トリメチレンジアミン、テトラメチレンジアミン、ペンタメチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、ヘプタメチレンジアミン、オクタメチレンジアミン、ノナメチレンジアミン、ウンデカメチレンジアミン、ドデカメチレンジアミン、2,2,4(または2,4,4)-トリメチルヘキサメチレンジアミン、シクロヘキサンジアミン、ビス-(4,4′-アミノシクロヘキシル)メタン、メタキシリレンジアミンから選択されるポリアミド樹脂より成ることを特徴とするモノフィラメント」である点において一致するが、
相違点1:
前者においては、ポリアミドが3員環以上のラクタム類もしくはω-アミノ酸類をジアミンの共存下で重縮合を行うか、または、二塩基酸とジアミンをジアミンを過剰量にして重縮合を行うのに対し、後者においては、かかる記載がない点、

相違点2:
前者においては、末端カルボキシル基の数〔A〕(μeq/ポリマー1g)と末端アミノ基の数〔B〕(μeq/ポリマー1g)とが〔B〕>(〔A〕+5)の条件を満足するポリアミド樹脂であるのに対し、後者においては、かかる末端基の規定がない点において両者は相違する。
そこで、これら相違点について検討する。
まず、相違点1について検討すると、甲第3号証には、3員環以上のラクタム類もしくはω-アミノ酸類を重縮合したポリアミドと二塩基酸とジアミンを重縮合したポリアミドを配合して製造したポリアミド樹脂組成物は記載されているが、ポリアミドが3員環以上のラクタム類もしくはω-アミノ酸類を重縮合を行うか、または、二塩基酸とジアミンとを重縮合して製造した組成物以外のポリアミドについては、記載も示唆もなく、また、それぞれの重縮合をジアミンの共存下、あるいは、ジアミン過剰量にして重縮合を行うことについては、全く示唆されていない。
この点について、甲第4号証には、エチレン-酢酸ビニル共重合体ケン化物と、末端カルボキシル基(X)、及び末端アミノ基(Y)の含有量(μeq/g・ポリマー)が式Y≧X+5を満足するポリアミド系樹脂とからなることを特徴とする樹脂組成物(上記タ)が記載され、また、ポリアミド系樹脂の製造方法として、3員環以上のラクタムやω-アミノ酸を用いる時は、ジアミンの共存下で重縮合を行ない、二塩基酸とジアミンとで重縮合させる時はジアミンの過剰量を用いることによつて行なうこと、ジアミンとしては、エチレンジアミン、トリメチレンジアミンのような脂肪族ジアミンを用いる(上記チ)ことが記載されているが、甲第4号証の樹脂組成物は、容器等の成型品に成形される(上記ツ)ことから、用途としてフィラメントは認識されておらず、また、フィラメントに適用可能なことも示唆されていないことから、該樹脂組成物の、しかも特定のポリアミド系樹脂のみを甲第3号証のモノフィラメントのポリアミド樹脂として採用することは、当業者が容易に想到し得ることではない。
そして、甲第3号証及び4号証を総合的にみても、相違点1に係る構成を当業者が容易になし得たものとはいえない。
次に、相違点2について検討すると、甲第3号証には、ポリアミド樹脂の末端カルボキシル基の数と末端アミノ基の数との関係については、何ら示唆するものがない。
一方、甲第4号証には、末端カルボキシル基(X)、及び末端アミノ基(Y)の含有量(μeq/g・ポリマー)が式Y≧X+5を満足するポリアミド系樹脂(上記タ)が記載されているが、このポリアミド系樹脂をモノフィラメントとして用いること、あるいはモノフィラメントに適用可能なことが示唆されてない以上、甲第3号証における、ポリアミド樹脂の末端カルボキシル基の数と末端アミノ基の数との関係を相違点2のように規定することは、当業者が容易に想到し得ることではない。
これに対して、本件発明1は、本件特許明細書記載の作用・効果を奏するものと認められる。
したがって、本件発明1は、甲第3号証及び4号証記載の発明に基づいて当業者が容易になし得た発明ではない。

(本件発明2、3について)
本件発明2、3は、本件発明1を引用し、それをさらに技術的に限定したものであるから、上記(4-3)[理由3]についての本件発明1について述べたと同様の理由により、甲第3号証及び4号証に記載された発明に基づいて当業者が容易になし得た発明であるとはいえない。

(4-4)[理由4]について
(本件発明2について)
本件発明2(前者)と甲第1号証に記載された発明(後者)とを対比すると、本件発明2は本件発明1を引用し、本件発明1に、さらに「ポリアミド樹脂が100重量部当り0.01〜1重量部のビスアミド化合物を含有し」なる技術的限定を付加したものであるから、両者は、相違点として、前記(4-1)[理由1]についての本件発明1について述べたとおりの、「前者においては、3員環以上のラクタム類もしくはω-アミノ酸類をジアミンの共存下で重縮合を行うか、または、二塩基酸とジアミンをジアミンを過剰量にして重縮合を行うのに対し、後者においては、かかる重縮合をジアミンの共存下、または、ジアミンを過剰量にして重縮合させることが記載されてない点」を有するものと認められる。
そこで、この相違点について検討すると、甲第1号証及び3号証には、この点について何ら記載も示唆もなく、該相違点を甲第1号証及び3号証から当業者が容易に想到し得たものとすることはできない。
そして、本件発明2は、この点により本件特許明細書記載の作用・効果を生ずるものと認められる。
したがって、本件発明2は、前記甲第1号証及び3号証記載のものから容易に発明をすることができたものと認めることができない。

(本件発明3について)
本件発明3は、本件発明2を引用し、それをさらに技術的に限定したものであるから、上記(4-4)[理由4]についての本件発明2について述べたと同様の理由により、前記甲第3号証及び4号証記載のものから容易に発明をすることができたものと認めることができない。

(4-5)[理由5について]
(本件発明3について)
本件発明3(前者)と甲第2号証に記載された発明(後者)とを対比すると、本件発明3は本件発明1を引用し、本件発明1に、さらに「モノフィラメントが漁網に使用される」ことを限定したものであるから、両者は、相違点として、前記(4-2)[理由2]についての本件発明1について述べたとおりの、「前者においては、3員環以上のラクタム類もしくはω-アミノ酸類をジアミンの共存下で重縮合を行うか、または、二塩基酸とジアミンをジアミンを過剰量にして重縮合を行うのに対し、後者においては、かかる重縮合をジアミンの共存下、または、ジアミンを過剰量にして重縮合させることが記載されてない点」を有するものと認められる。
そこで、この相違点について検討すると、甲第2号証及び3号証には、この点について何ら記載も示唆もなく、該相違点を甲第2号証及び3号証から当業者が容易に想到し得たものとすることはできない。
そして、本件発明3は、この点により本件特許明細書記載の作用・効果を生ずるものと認められる。
したがって、本件発明3は、前記甲第2号証及び3号証記載のものから容易に発明をすることができたものと認めることができない。

4.むすび
以上のとおりであるから、特許異議の申し立ての理由及び証拠によっては本件発明1〜3に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件発明1〜3に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
モノフィラメント
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】 3員環以上のラクタム類もしくはω-アミノ酸類をジアミンの共存下で重縮合を行うか、または、二塩基酸とジアミンをジアミンを過剰量にして重縮合を行う方法であって、前記ジアミンが、エチレンジアミン、トリメチレンジアミン、テトラメチレンジアミン、ペンタメチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、ヘプタメチレンジアミン、オクタメチレンジアミン、ノナメチレンジアミン、ウンデカメチレンジアミン、ドデカメチレンジアミン、2,2,4(または2,4,4)-トリメチルヘキサメチレンジアミン、シクロヘキサンジアミン、ビス-(4,4′-アミノシクロヘキシル)メタン、メタキシリレンジアミンから選択される上記の方法によって製造され、末端カルボキシル基の数〔A〕(μeq/ポリマー1g)と末端アミノ基の数〔B〕(μeq/ポリマー1g)とが〔B〕>(〔A〕+5)の条件を満足するポリアミド樹脂より成ることを特徴とするモノフィラメント。
【請求項2】 ポリアミド樹脂が100重量部当り0.01〜1重量部のビスアミド化合物を含有している請求項1に記載のモノフィラメント。
【請求項3】 漁網に使用される請求項1又は2に記載のモノフィラメント。
【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】
本発明は、モノフィラメントに関するものであり、詳しくは、ポリアミド樹脂製のモノフィラメントであって、紡糸時の溶融熱安定性に優れて糸切れが少なく、且つ、湿熱処理による強度低下の少ないモノフィラメントに関するものである。
【0002】
【従来の技術】
ポリアミド樹脂製モノフィラメントは、耐熱性と機械的特性に優れ、しかも、極めて強靭であることから、漁網、魚釣り用テグス、ガット、各種ロープ類、歯ブラシの毛などに広く使用されている。これらの中でも、その強靭性故に、漁網用途には盛んに使用されている。
【0003】
ところで、モノフィラメントを紡糸する際、ポリアミド樹脂の溶融熱安定性が不良の場合は、溶融熱加工時に劣化してモノフィラメントの強度が低下し、また、ゲル状物や分解物が生成して糸切れを生じる。
更にまた、ダイス出口において、樹脂劣化物や分解生成した低分子量物が堆積してメヤニと称される付着物が発生する。そして、メヤニがモノフィラメントに接したり付着した場合、モノフィラメントの糸切れが起こる。
従って、メヤニが発生した場合は、紡糸を中止してダイスの掃除を行なう必要があり、生産効率が大幅に低下する。
【0004】
上記のような不都合を防止するため、例えば、物理的方法として、ダイス内部の磨きを強化したりメッキを施す方法、ポリアミド樹脂にメヤニ改良剤として酸化マグネシウム等を配合する方法(特開昭53-6618号公報)が提案されている。
しかしながら、前者の物理的方法は、ダイスの細部まで磨いたりメッキしたりすることが困難であり、また、効果が不十分である。後者のメヤニ改良剤を配合する方法は、得られるモノフィラメントの透明性や強度の低下を招く欠点がある。
【0005】
また、一般に、ポリアミド樹脂製モノフィラメントは、湿熱処理により強度低下を生じ易い。モノフィラメントを編網して得られる漁網の場合、編網後、スチームセット工程で120℃前後での湿熱処理が施されるが、スチームセット工程での結節強度低下は、得られる漁網の強度に大きく影響する。こうした強度低下を防ぐ方法として、例えば、特定のポリアミド共重合樹脂に特定の酸化防止剤を配合する方法(特願平2-100751号公報)が提案されているが、適用される樹脂に限定があり一般的ではない。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、上記実情に鑑みなされたものであり、その目的は、ポリアミド樹脂製のモノフィラメントであって、その紡糸時の溶融熱安定性に優れて糸切れが少なく、且つ、湿熱処理による強度低下の少ないモノフィラメントを提供することにある。
【0007】
【課題を解決するための手段】
すなわち、本発明の要旨は、3員環以上のラクタム類もしくはω-アミノ酸類をジアミンの共存下で重縮合を行うか、または、二塩基酸とジアミンをジアミンを過剰量にして重縮合を行う方法であって、前記ジアミンが、エチレンジアミン、トリメチレンジアミン、テトラメチレンジアミン、ペンタメチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、ヘプタメチレンジアミン、オクタメチレンジアミン、ノナメチレンジアミン、ウンデカメチレンジアミン、ドデカメチレンジアミン、2,2,4(または2,4,4)-トリメチルヘキサメチレンジアミン、シクロヘキサンジアミン、ビス-(4,4′-アミノシクロヘキシル)メタン、メタキシリレンジアミンから選択される上記の方法によって製造され、末端カルボキシル基の数〔A〕(μeq/ポリマー1g)と末端アミノ基の数〔B〕(μeq/ポリマー1g)とが〔B〕>(〔A〕+5)の条件を満足するポリアミド樹脂より成ることを特徴とするモノフィラメントに存する。
【0008】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明は、特定の末端基比率を有するポリアミド樹脂がモノフィラメント原料として優れ且つ湿熱処理による強度低下の少ないとの知見に基づいて完成されたものである。
本発明においては、末端カルボキシル基の数(含有量)〔A〕(μeq/ポリマー1g)と末端アミノ基の数(含有量)〔B〕(μeq/ポリマー1g)とが〔B〕>(〔A〕+5)の条件、好ましくは、〔B〕>(〔A〕+10)の条件を満足するポリアミド樹脂を使用する。そして、カルボキシル基の数は、好ましくは50(μeq/ポリマー1g)以下、更に好ましくは20(μeq/ポリマー1g)以下である。
【0009】
末端カルボキシル基の数が上記条件を外れた場合は、モノフィラメント紡糸時の溶融熱安定性が悪いため、糸切れを生じたり、ダイス部のメヤニの発生量が多くなったりして安定した生産が困難になる。
なお、末端カルボキシル基の数は、ポリアミド樹脂をベンジルアルコールに溶解し、0.1Nの苛性ソーダで滴定して測定することが出来、また、末端アミノ基の数は、ポリアミド樹脂をフェノールに溶解し、0.05Nの塩酸で滴定して測定することが出来る。
【0010】
本発明におけるポリアミド樹脂は、分子中の末端アミノ基の数が末端カルボキシル基の数より大きくなるようにポリアミド原料を調整して製造することが出来る。
3員環以上のラクタム類やω-アミノ酸類を原料とする場合は、ジアミンの共存下で重縮合を行い、二塩基酸とジアミンを原料とする場合は、ジアミンを過剰量にして重縮合を行う。
ジアミンの使用量は、ラクタム類やω-アミノ酸類を原料とする場合、これらのポリアミド原料に対し、アミノ基の数として0.6〜20meq/モル、好ましくは0.8〜18meq/モルである。二塩基酸を原料とする場合、二塩基酸に対するジアミンの過剰量が上記の量となるように調整する。
【0011】
ラクタム類としては、具体的には、ε-カプロラクタム、エナントラクタム、カプリルラクタム、ラウリルラクタム、α-ピロリドン、α-ピペリドン等が挙げられる。
ω-アミノ酸類としては、具体的には、6-アミノカプロン酸、7-アミノヘプタン酸、9-アミノノナン酸、11-アミノウンデカン酸などが挙げられる。
【0012】
二塩基酸としては、具体的には、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スペリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ウンデカンジオン酸、トデカンジオン酸、トリデカジオン酸、テトラデカジオン酸、ヘキサデカジオン酸、ヘキサデセンジオン酸、オクタデカジオン酸、オクタデセンジオン酸、エイコサンジオン酸、エンコセンジオン酸、ドコサンジオン酸、2,2,4-トリメチルアジピン酸などの脂肪族ジカルボン酸、テレフタル酸、イソフタル酸、フタル酸、キシリレンジカルボン酸などの芳香族ジカルボン酸が挙げられる。
【0013】
ジアミンとしては、具体的には、エチレンジアミン、トリメチレンジアミン、テトラメチレンジアミン、ペンタメチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、ヘプタメチレンジアミン、オクタメチレンジアミン、ノナメチレンジアミン、ウンデカメチレンジアミン、ドデカメチレンジアミン、2,2,4(または2,4,4)-トリメチルヘキサメチレンジアミン、シクロヘキサンジアミン、ビス-(4,4′-アミノシクロヘキシル)メタン、メタキシリレンジアミン等が挙げられる。
【0014】
本発明においては、得られるモノフィラメントの熱的、機械的特性の観点から、特に、ナイロン6樹脂、ナイロン6/66共重合樹脂が好適に使用される。更に、ナイロン6樹脂の場合には、ヘキサメチレンジアミンを過剰に、ナイロン6/66共重合樹脂の場合には、ヘキサメチレンジアミンを過剰に、それぞれ重合時に添加して、末端カルボキシル基と末端アミノ基との数を調整することが特に好ましい。
【0015】
ポリアミド樹脂は、常法に従って、減圧下、0.5時間以上、通常は1〜2時間、前記のポリアミド原料を重縮合させて製造することが出来る。ポリアミド樹脂の相対粘度(ηrel)は、JIS K6810に従い、98%硫酸中で濃度1%、温度25℃の条件で測定した値として、2〜6、好ましくは、2〜5の範囲とするのがよい。相対粘度が余りにも小さい場合は、得られるモノフィラメントの機械的特性が不十分であり、相対粘度が余りにも大きい場合は、紡糸が困難になる傾向がある。
【0016】
本発明においては、ビスアミド化合物を含有するポリアミド樹脂が好適に使用される。斯かるポリアミド樹脂は、湿熱処理による強度低下が一層少なく、且つ、透明性性が良好である。
ビスアミド化合物は、下記の化学式[化1]で表される化合物であり、式中、R1は2価の炭化水素残基、R2及びR3は1価の炭化水素残基、R4及びR5は水素原子または1価の炭化水素残基を示す。
【0017】
【化1】

【0018】
上記の(I)で表されるビスアミド化合物は、ジアミンと脂肪酸との反応によって得られ、代表的には、アルキレンビス脂肪酸アミド、アリーレンビス脂肪酸アミド等が挙げられる。
原料のジアミンとしては、エチレンジアミン、プロピレンジアミン、ブチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、オクタメチレンジアミン、ドデカメチレンジアミン等のアルキレンジアミン、フェニレンジアミン、ナフタレンジアミン等のアリ-レンジアミン、キシリレンジアミン等のアリーレンアルキルジアミンが挙げられる。原料の脂肪酸としては、ステアリン酸、ヘキサン酸、オクタン酸、デカン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、アラキジン酸、ベヘニン酸、オレイン酸、エライジン酸、モンタン酸などが挙げられる。
上記の(I)で表されるビスアミド化合物としては、特に、N,N′-メチレンビスステアリン酸アミド及びN,N′-エチレンビスステアリン酸アミドが好ましい。
【0019】
上記の(II)で表されるビスアミド化合物は、モノアミンとジカルボン酸との反応によって得られ、代表的には、N,N′-ジオクタデシルテレフタル酸アミド等のジオクタデシル二塩基酸アミドを挙げることが出来る。
原料のモノアミンとしては、エチルアミン、メチルアミン、ブチルアミン、ヘキシルアミン、デシルアミン、ペンタデシルアミン、オクタデシルアミン、ドデシルアミン等のアルキルアミン、アニリン、ナフチルアミン等のアリールアミン、ベンジルアミン等のアラルキルアミン、シクロヘキシルアミン等のシクロアルキルアミンが挙げられる。原料のジカルボン酸としては、テレフタル酸、p-フェニレンジプロピオン酸、コハク酸、アジピン酸などのジカルボン酸が挙げられる。
【0020】
上記のビスアミド化合物は、一種使用してもよいし、二種以上を組み合わせて使用してもよい。そして、ポリアミド樹脂中の含有量は、ポリアミド樹脂100重量部当り、0.01〜1重量部、好ましくは、0.05〜0.5重量部の範囲とされる。ビスアミド化合物の含有量0.01重量部より少ない場合は、ビスアミド化合物の効果が不十分であり、1重量部より多い場合は、強度および透明性が低下する。
【0021】
また、本発明においては、ポリアミド樹脂中に周知の各種の添加剤、例えば、ヒンダードフェノール、リン酸エステルや亜リン酸エステル等の酸化防止剤、トリアジン系化合物などの耐候性改良剤、顔料、染料などの着色剤、帯電防止剤、滑剤、可塑剤などを含有させることも出来る。
【0022】
本発明のモノフィラメントは、周知の紡糸法によって製造することが出来る。
すなわち、溶融押出された糸状物を冷却した後、適宜の倍率、例えば3〜8倍に延伸し、更に、必要に応じて熱固定する。
モノフィラメントの直径は、特に制限されず、用途に応じてその直径が選択される。漁網においては0.01〜2.5mmの範囲が好適である。
本発明のモノフィラメントを用いた漁網は、周知の方法で製造可能であり、例えば、ダブル又はトリプル結節に編網後、染色し、緊張下または無緊張下で120℃前後でスチームセットすることにより製造される。
【0023】
【実施例】
以下、本発明を実施例によって更に詳細に説明するが、本発明は、その要旨を超えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。
参考例〔ポリアミド樹脂(N1〜N5)の製造〕
200リットルのオートクレーブ中に、ε-カプロラクタム60Kg、水1.2Kg及び表1に示す量のジアミン又はジアミンとカルボン酸を仕込んだ。
オートクレーブを窒素雰囲気にして密封し、260℃に昇温し、撹拌しながら2時間加圧下にて反応を行なった後、徐々に放圧して表1に示す圧力まで減圧し、更に、2時間減圧下に反応を行なった。その後、オートクレーブ中に窒素を導入して常圧に復帰後、撹拌を止め、ポリアミド樹脂をストランドとして抜き出してチップ化した。
次いで、ポリアミド樹脂チップを沸水に投入して未反応モノマーを抽出除去した後、真空乾燥した。
ポリアミド樹脂の末端カルボキシル基の数、末端アミノ基の数および相対粘度を測定し、その結果を表1に示した。
【0024】
【表1】

【0025】
実施例1〜3及び比較例1〜2
上記の参考例で得られた各ポリアミド樹脂N1〜N5にエチレンビスステアロアミド0.15重量部をドライブレンドした後、直径40mmの押出機と16ホールのダイスを使用し、樹脂温度240〜260℃で溶融押出を行なった。
得られた糸状物を5℃の冷水で冷却した後、100℃のスチームで加熱しながら3.8倍に延伸し、引続き、200℃の熱風の雰囲気下で1.34倍の再延伸を行なった。更に、200℃雰囲気で2%の弛緩をしながら熱固定を行い、1500デニールのモノフィラメントを得た。
【0026】
24時間の連続紡糸を行い、その間に発生する糸切れを測定した。
得られたモノフィラメントの機械的特性をJIS L-1013に従って測定した。また、120℃スチームにて30分間処理したモノフィラメントの強度を同様に測定した。
更にまた、モノフィラメントをトリプル結節に編網し、所定の工程で漁網に仕上げ、その引掛強度をJIS L-1013に従って測定した。
以上の測定結果を表2に示した。
【0027】
【表2】

【0028】
【発明の効果】
以上説明した本発明によれば、紡糸時の溶融熱安定性に優れて糸切れが少なく、且つ、湿熱処理による強度低下の少ないポリアミド樹脂製モノフィラメントが提供される。本発明のポリアミド樹脂製モノフィラメントは、特に、漁網用途に好適である。
 
訂正の要旨 (a)特許請求の範囲の請求項1に「末端カルボキシル基の数〔A〕(μeq/ポリマー1g)と末端アミノ基の数〔B〕(μeq/ポリマー1g)とが〔B〕>(〔A〕+5)の条件を満足するポリアミド樹脂より成ることを特徴とするモノフィラメント。」とあるのを「3員環以上のラクタム類もしくはω-アミノ酸類をジアミンの共存下で重縮合を行うか、または、二塩基酸とジアミンをジアミンを過剰量にして重縮合を行う方法であって、前記ジアミンが、エチレンジアミン、トリメチレンジアミン、テトラメチレンジアミン、ペンタメチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、ヘプタメチレンジアミン、オクタメチレンジアミン、ノナメチレンジアミン、ウンデカメチレンジアミン、ドデカメチレンジアミン、2,2,4(または2,4,4)-トリメチルヘキサメチレンジアミン、シクロヘキサンジアミン、ビス-(4,4′-アミノシクロヘキシル)メタン、メタキシリレンジアミンから選択される上記の方法によって製造され、末端カルボキシル基の数〔A〕(μeq/ポリマー1g)と末端アミノ基の数〔B〕(μeq/ポリマー1g)とが〔B〕>(〔A〕+5)の条件を満足するポリアミド樹脂より成ることを特徴とするモノフィラメント。」と訂正する。
(b)特許請求の範囲の請求項2に「ビスアミド化合」とあるのを「ビスアミド化合物」と訂正する。
(c)明細書の【0007】に「本発明の要旨は、末端カルボキシル基の数〔A〕(μeq/ポリマー1g)と末端アミノ基の数〔B〕(μeq/ポリマー1g)とが〔B〕>(〔A〕+5)の条件を満足するポリアミド樹脂より成ることを特徴とするモノフィラメントに存する。」とあるのを「本発明の要旨は、3員環以上のラクタム類もしくはω-アミノ酸類をジアミンの共存下で重縮合を行うか、または、二塩基酸とジアミンをジアミンを過剰量にして重縮合を行う方法であって、前記ジアミンが、エチレンジアミン、トリメチレンジアミン、テトラメチレンジアミン、ペンタメチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、ヘプタメチレンジアミン、オクタメチレンジアミン、ノナメチレンジアミン、ウンデカメチレンジアミン、ドデカメチレンジアミン、2,2,4(または2,4,4)-トリメチルヘキサメチレンジアミン、シクロヘキサンジアミン、ビス-(4,4′-アミノシクロヘキシル)メタン、メタキシリレンジアミンから選択される上記の方法によって製造され、末端カルボキシル基の数〔A〕(μeq/ポリマー1g)と末端アミノ基の数〔B〕(μeq/ポリマー1g)とが〔B〕>(〔A〕+5)の条件を満足するポリアミド樹脂より成ることを特徴とするモノフィラメントに存する。」と訂正する。
(d)明細書の【0013】の3行(に「ヘプタトチレンジアミン」とあるのを「ヘプタメチレンジアミン」と訂正する。
異議決定日 2003-02-05 
出願番号 特願平4-207213
審決分類 P 1 651・ 121- YA (D01F)
P 1 651・ 113- YA (D01F)
最終処分 維持  
前審関与審査官 中島 庸子  
特許庁審判長 井出 隆一
特許庁審判官 鴨野 研一
石井 克彦
登録日 2000-12-08 
登録番号 特許第3138070号(P3138070)
権利者 三菱化学株式会社
発明の名称 モノフィラメント  
代理人 岡田 数彦  
代理人 岡田 数彦  

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