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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  C08L
管理番号 1076386
異議申立番号 異議2001-73498  
総通号数 42 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 1994-11-01 
種別 異議の決定 
異議申立日 2001-12-21 
確定日 2003-02-26 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第3181753号「ポリアミド樹脂組成物及びそれを用いた外装用構造部品」の請求項1、2に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 訂正を認める。 特許第3181753号の請求項1、2に係る特許を維持する。 
理由
【1】手続の経緯

本件特許第3181753号は、平成5年4月21日に特許出願され、平成13年4月20日に特許権の設定登録がなされ、その後、東レ株式会社より特許異議の申立てがなされ、取消理由を通知したところ、その指定期間内である平成14年8月6日に特許異議意見書が提出されると共に、訂正請求がなされたものである。

【2】訂正の適否についての判断

1.訂正事項
訂正事項は、以下のとおりである。
[訂正事項a]
請求項1の、
「【請求項1】(a)ナイロン66とヘキサメチレンイソフタルアミドの共重合体(以下、ナイロン66/6I共重合体)であるか、またはナイロン66、ナイロン66/6共重合体、ナイロン66/6T/6I共重合体の中から選ばれる少なくとも一種類のポリマーとナイロン66/6I共重合体とから成るブレンドポリマー30〜55重量%、(b)ガラス繊維45〜70重量%、(c)(a)+(b)100重量部に対して、0.02〜0.5重量部の脂肪族カルボン酸及び/又はその誘導体から成るポリアミド樹脂組成物であり、かつ、前記ポリアミド樹脂が溶融状態から結晶化する際の温度(Tc)が、180℃以上220℃以下であり、かつ、ぎ酸溶液粘度が20以上40以下であるポリアミド樹脂組成物。」なる記載を、
「【請求項1】(a)ナイロン66とヘキサメチレンイソフタルアミドの共重合体(以下、ナイロン66/6I共重合体)であるか、またはナイロン66、ナイロン66/6共重合体、ナイロン66/6T/6I共重合体の中から選ばれる少なくとも一種類のポリマーとナイロン66/6I共重合体とから成るブレンドポリマーであるポリアミド樹脂30〜55重量%、(b)ガラス繊維45〜70重量%、(c)(a)+(b)100重量部に対して、0.02〜0.5重量部の脂肪族カルボン酸及び/又はその誘導体から成るポリアミド樹脂組成物であり、かつ、前記(a)ポリアミド樹脂が溶融状態から結晶化する際の温度(Tc)が、180℃以上220℃以下であり、かつ、ぎ酸溶液粘度が20以上40以下であるポリアミド樹脂組成物。」と訂正する。
[訂正事項b]
段落【0006】の
「【課題を解決するための手段】
本発明は上記の課題を解決するもので、以下に要旨を示す。本発明は、(a)ナイロン66とヘキサメチレンイソフタルアミドの共重合体(以下、ナイロン66/6I共重合体)であるか、またはナイロン66、ナイロン66/6共重合体、ナイロン66/6T/6I共重合体の中から選ばれる少なくとも一種類のポリマーとナイロン66/6I共重合体とから成るブレンドポリマー30〜55重量%、(b)ガラス繊維45〜70重量%、(c)(a)+(b)100重量部に対して、0.02〜0.5重量部の脂肪族カルボン酸及び/又はその誘導体から成るポリアミド樹脂組成物であり、かつ、前記ポリアミド樹脂が溶融状態から結晶化する際の温度(Tc)が、180℃以上220℃以下であり、かつ、ぎ酸溶液粘度が20以上40以下であるポリアミド樹脂組成物、及び前記記載のポリアミド樹脂組成物から成る外装用構造部品をその要旨とする。」なる記載を
「【課題を解決するための手段】
本発明は上記の課題を解決するもので、以下に要旨を示す。本発明は、(a)ナイロン66とヘキサメチレンイソフタルアミドの共重合体(以下、ナイロン66/6I共重合体)であるか、またはナイロン66、ナイロン66/6共重合体、ナイロン66/6T/6I共重合体の中から選ばれる少なくとも一種類のポリマーとナイロン66/6I共重合体とから成るブレンドポリマーであるポリアミド樹脂30〜55重量%、(b)ガラス繊維45〜70重量%、(c)(a)+(b)100重量部に対して、0.02〜0.5重量部の脂肪族カルボン酸及び/又はその誘導体から成るポリアミド樹脂組成物であり、かつ、前記(a)ポリアミド樹脂が溶融状態から結晶化する際の温度(Tc)が、180℃以上220℃以下であり、かつ、ぎ酸溶液粘度が20以上40以下であるポリアミド樹脂組成物、及び前記記載のポリアミド樹脂組成物から成る外装用構造部品をその要旨とする。」と訂正する。

2.訂正の目的・範囲の適否、拡張・変更の有無
訂正事項aは、訂正前の請求項1の記載において「前記ポリアミド樹脂」が、何を指すかが明りょうでなかったものを明りょうにするものである。そして、訂正前の明細書の段落【0007】の記載からみて、この訂正は、願書に添付した明細書に記載した事項の範囲内においてなされたものである。
訂正事項bは、訂正事項aの訂正に伴い、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とが整合しなくなったことを解消するためのものであるから、明りょうでない記載の釈明を目的としたものであって、訂正事項aと同様に、願書に添付した明細書に記載した事項の範囲内においてなされたものである。
また、訂正事項a、bは、実質上特許請求の範囲を拡張し、または変更するものではない。

3.むすび
以上のとおりであるから、上記訂正は、特許法等の一部を改正する法律(平成6年法律第116号。以下「平成6年改正法」という。)附則第6条第1項の規定によりなお従前の例によるとされる、特許法第120条の4第3項において準用する平成6年改正法による改正前の特許法第126条第1項ただし書、及び第2項の規定に適合するので、当該訂正を認める。

【3】特許異議の申立てについての判断

1.本件発明
本件の請求項1、2に係る発明(以下、それぞれ、「本件発明1」、「本件発明2」という)は、訂正明細書の特許請求の範囲に記載された、次のとおりのものである。
「【請求項1】(a)ナイロン66とヘキサメチレンイソフタルアミドの共重合体(以下、ナイロン66/6I共重合体)であるか、またはナイロン66、ナイロン66/6共重合体、ナイロン66/6T/6I共重合体の中から選ばれる少なくとも一種類のポリマーとナイロン66/6I共重合体とから成るブレンドポリマーであるポリアミド樹脂30〜55重量%、(b)ガラス繊維45〜70重量%、(c)(a)+(b)100重量部に対して、0.02〜0.5重量部の脂肪族カルボン酸及び/又はその誘導体から成るポリアミド樹脂組成物であり、かつ、前記(a)ポリアミド樹脂が溶融状態から結晶化する際の温度(Tc)が、180℃以上220℃以下であり、かつ、ぎ酸溶液粘度が20以上40以下であるポリアミド樹脂組成物。
【請求項2】 請求項1記載のポリアミド樹脂組成物から成る外装用構造部品。」

2.特許異議の申立て及び取消理由の概要
特許異議申立人は、証拠として甲第1号証(特開昭55-62959号公報)、甲第2号証(特開平3-269056号公報)、甲第3号証(特開平4-149234号公報)、甲第4号証(特開昭59-55426号公報)、甲第5号証(JIS K6810-1977 第7〜9頁、第21頁)、及び、甲第6号証(JIS K6810-1994 表紙)を提出し、訂正前の請求項1、2に係る発明は、甲第1〜6号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定に違反して特許されたものであると主張している。
当審が通知した取消理由の概要は、本件の請求項1、2に係る特許は、明細書の記載が不備のため、特許法第36条第5項及び第6項に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるというものである。

3.特許異議申立人の主張に対する判断
(1)本件発明1について
本件発明1は、『ナイロン66とヘキサメチレンイソフタルアミドの共重合ルアミドの共重合体(以下、「66/6I」という)であるか、またはナイロン66(以下、「66」という)、ナイロン66/6共重合体(以下、「66/6」という)、ナイロン66/6T/6I共重合体(以下、「66/6T/6I」という)の中から選ばれる少なくとも一種類のポリマーと「66/6I」とから成るブレンドポリマー』(以下「(a)成分」という)、「ガラス繊維」、及び「脂肪族カルボン酸及び/又はその誘導体」からなるポリアミド樹脂組成物において、(a)成分として、「溶融状態から結晶化する際の温度(Tc)が、180℃以上220℃以下であるという要件」(以下「第1の要件」という)、及び、「ぎ酸溶液粘度が20以上40以下であるという要件」(以下「第2の要件」という)という2つの要件を具備する発明であり(以下、これら2つの要件をあわせて「本件要件」という)、「第1の要件」の採用により、成形品の表面光沢性の悪さ、金型からの離型性の悪さを回避でき、「第2の要件」の採用により、成形品の表面光沢性の悪さ、成形品の脆さを回避できるという効果を奏するものと認められる(段落【0007】参照)。
これに対して、甲第1号証には、『「66/6I」と「66」から成るブレンドポリマー』とガラス繊維と離型剤からなるポリアミド樹脂組成物が記載され、『「66/6I」と「66」から成るブレンドポリマー』は、本件発明1の(a)成分に相当している。しかし、甲第1号証には、(a)成分として、「本件要件」を具備するものを使用することについては記載も示唆もされていない。
甲第2号証には、「66」、「66/6T/6I」、ガラス繊維、飽和脂肪族カルボン酸及び/又はその金属塩誘導体から得られるポリアミド樹脂組成物が記載されているが、「66/6I」を使用することについては記載されていないから、本件発明1の(a)成分を使用することについての記載はなく、また、「本件要件」を示唆する記載もない。
甲第3号証には、「66/6T/6I」、ガラス繊維、離型剤を配合してなるポリアミド樹脂組成物が記載されているが、「66/6I」を使用することについては記載されていないから、本件発明1の(a)成分を使用することについての記載はなく、また、「本件要件」を示唆する記載もない。
甲第4号証には、「66/6T/6I」とガラスファイバーを配合してなるポリアミド樹脂組成物が記載され、さらに、「66」を併用することも記載されているが、「66/6I」を使用することについては記載されていないから、本件発明1の(a)成分を使用することについての記載はなく、また、「本件要件」を示唆する記載もない。
甲第5号証には、JIS K6810の相対粘度の測定法において、「ナイロン6」及び「66」についての硫酸法,ぎ酸法による相対粘度対比表が記載されているだけで、「本件要件」についは記載も示唆もされていない。甲第6号証は、JIS K6810の表紙であって、「本件要件」については記載も示唆もされていない。
以上のとおり、甲第1〜6号証には「本件要件」について記載も示唆もされていないし、甲第1〜6号証の記載に基づいて「本件要件」を容易に採用できるとも認められない。したがって、本件発明1が、甲第1〜6号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとは認められない。
なお、「本件要件」の採用につきに、特許異議申立人は、甲第1、3号証の記載から容易であると主張しているので、この主張についての判断を示す。
「本件要件」のうち、「第1の要件」について、特許異議申立人は、甲第3号証に記載されているからその採用は容易である旨主張している。しかし、甲第3号証には、「66/6T/6I」の結晶化温度が記載されているだけで、本件発明1における(a)成分についての「第1の要件」は記載されていないし、また、「第1の要件」の採用が、甲第3号証の記載から容易であるとは認められない。
「本件要件」のうち、「第2の要件」について、特許異議申立人は、第甲第1号証の第2頁左下欄第5〜8行に「通常相対粘度(ポリマ1gを98%濃硫酸100mlに溶解し25℃で測定、以下同じ)が1.5〜3.0の範囲内にあることが好ましい」と記載され、甲第5号証において、ぎ酸溶液粘度が20以上40以下であるとは、硫酸粘度換算で2.0〜2.8の間の範囲にあるということを証明しており、また、甲第3号証の第4頁左上欄第4行目〜第7行目には「通常相対粘度(ポリマ1gを98%濃硫酸100mlに溶解し25℃で測定、以下同じ)が1.5以上5未満の範囲内にあることが好ましい」とあり、甲第5号証において、ぎ酸溶液粘度が20以上40以下であるとは、硫酸粘度換算で2.0〜2.8の間の範囲にあるということを証明しているから、「第2の要件」は、甲第1、3号証に記載されている旨主張している。しかし、特許異議申立人が指摘する甲第1号証の相対粘度の記載は「66/6I」についてのものであり、また、甲第5号証から硫酸法での相対粘度とぎ酸法での相対粘度を互い対比できるのは、「ナイロン6」と「66」についてだけであるから、甲第5号証をみても、甲第1号証に、(a)成分についての「第2の要件」が記載されているとは認められない。また、特許異議申立人が指摘する甲第3号証の相対粘度の記載は「66/6T/6I」についてのものであるから、やはり(a)成分についての「第2の要件」が記載されているとは認められない。また、甲第1、3号証のこれらの記載から、(a)成分についての「第2の要件」の採用が容易であるとは認められない。
したがって、この特許異議申立人の主張は採用できない。
(2)本件発明2について
本件発明2は、本件発明1の構成要件をすべて備えた発明であるから、本件発明2も、上記(1)に示した理由と同様の理由により、甲第1〜6号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとは認められない。

4.取消理由に対する判断
当審が通知した取消理由は、訂正請求によって解消されている。

【4】むすび

したがって、特許異議の申立ての理由および取消理由によっては、本件発明1、2に係る特許を取り消すことができない。
また、他に本件発明1、2に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
したがって、本件発明1、2に係る特許は拒絶の査定をしなければならない特許出願に対してされたものと認めない。
よって、特許法等の一部を改正する法律(平成6年法律第116号)附則第14条の規定に基づく、特許法等の一部を改正する法律の施行に伴う経過措置を定める政令(平成7年政令第205号)第4条第2項の規定により、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
ポリアミド樹脂組成物及びそれを用いた外装用構造部品
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】 (a)ナイロン66とヘキサメチレンイソフタルアミドの共重合体(以下、ナイロン66/6I共重合体)であるか、またはナイロン66、ナイロン66/6共重合体、ナイロン66/6T/6I共重合体の中から選ばれる少なくとも一種類のポリマーとナイロン66/6I共重合体とから成るブレンドポリマーであるポリアミド樹脂30〜55重量%、(b)ガラス繊維45〜70重量%、(c)(a)+(b)100重量部に対して、0.02〜0.5重量部の脂肪族カルボン酸及び/又はその誘導体から成るポリアミド樹脂組成物であり、かつ、前記(a)ポリアミド樹脂が溶融状態から結晶化する際の温度(Tc)が、180℃以上220℃以下であり、かつ、ぎ酸溶液粘度が20以上40以下であるポリアミド樹脂組成物。
【請求項2】 請求項1記載のポリアミド樹脂組成物から成る外装用構造部品。
【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】
本発明は、実使用下における強度、剛性、成形品表面上の光沢性が優れ、かつ、射出成形時の金型離型性が優れたポリアミド樹脂組成物とそれによる外装用構造部品に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
ポリアミド樹脂は引張、曲げの強度、弾性率などの機械的性質に優れ、しかも耐熱性、耐薬品性が良好なので、とくに精密機械部品、構造部品などの多くの分野で利用されている。中でも、ガラス繊維強化ポリアミド樹脂は、他樹脂には見られない優れた高強度、高剛性を有しているので、特に高い強度、剛性の要求される構造部品用途に多く使用されている。
【0003】
このガラス繊維強化ポリアミド樹脂組成物は、ガラス繊維の配合量を増やす事により強度、剛性を上げることができ、実際ガラス繊維を60wt%含有したポリアミド樹脂が利用されている。しかし、一般的にはガラス繊維含有量が増加するほどガラス繊維が成形品の表面に浮き上がり易くなり、光沢性が悪くなる傾向にある。大型構造部品は、高強度、高剛性だけではなく、外観性も重要な特性であるため、これらの特性を全て同時に満足する材料が必要とされる。
【0004】
これを解決する技術としては、例えば、(特開平4-77554)や特開平4-149234)などがあり、特定の結晶化温度(Tc)を持つポリアミド樹脂や組成物、特定の成形流動性を持つポリアミド樹脂組成物を利用することにより外観性の良い成形品を得ることができると開示されている。しかし、上記の技術では、ガラス繊維含有量を増加することにより、樹脂成形品の成形収縮率が小さくなり金型から成形品が離形しにくくなるし、又、結晶化温度(Tc)を低くすることにより金型内での成形品の結晶化が遅くなり成形時の冷却時間を十分とらないと、金型から成形品が離型しない。すなわち、成形タイムサイクルが長くなり生産性が悪くなるという問題があった。又、樹脂組成物の溶融流動性を上げる方法だけでは、金型デザインによっては外観性の向上に限界があり、逆に成形時にドローリングが起こり成形がしにくくなるという問題があった。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の課題は、強度、剛性、光沢性に優れ、かつ、金型離型性に優れた成形材料を提供することである。特に本発明でいう外装用構造部品は、大型成形品が多く、冷却時間が成形タイムサイクルの律速となっている場合が多いので、高強度、高剛性で、光沢性が良く、かつ、冷却時間が短くても成形品が金型から離型するという材料は、特に望まれている材料である。
【0006】
【課題を解決するための手段】
本発明は上記の課題を解決するもので、以下に要旨を示す。本発明は、(a)ナイロン66とヘキサメチレンイソフタルアミドの共重合体(以下、ナイロン66/6I共重合体)であるか、またはナイロン66、ナイロン66/6共重合体、ナイロン66/6T/6I共重合体の中から選ばれる少なくとも一種類のポリマーとナイロン66/6I共重合体とから成るブレンドポリマーであるポリアミド樹脂30〜55重量%、(b)ガラス繊維45〜70重量%、(c)(a)+(b)100重量部に対して、0.02〜0.5重量部の脂肪族カルボン酸及び/又はその誘導体から成るポリアミド樹脂組成物であり、かつ、前記(a)ポリアミド樹脂が溶融状態から結晶化する際の温度(Tc)が、180℃以上220℃以下であり、かつ、ぎ酸溶液粘度が20以上40以下であるポリアミド樹脂組成物、及び前記記載のポリアミド樹脂組成物から成る外装用構造部品をその要旨とする。
【0007】
以下に本発明を詳細に説明する。本発明に用いられるポリアミドは、結晶性の半芳香族ポリアミドであり、好ましいポリアミドとしては、ナイロン66/6I共重合体であるか、または、ナイロン66、ナイロン66/6共重合体、ナイロン66/6T/6I共重合体の中から選ばれる少なくとも一種類のポリマーとナイロン66/6I共重合体とからなるブレンドポリマーである。これらのポリアミドのうち、樹脂組成物中において、DSCで、20℃/minで300℃まで昇温し、3min holdした後、20℃/minで30℃まで降温したときの結晶化熱量ピーク値(Tc)が、180℃〜220℃の領域、好ましくは185℃〜215℃に入るポリマーである。ポリマーのTcがこの領域より高過ぎると成形品の表面光沢性が悪くなり、低すぎると金型からの離型性が悪くなる。又、この樹脂組成物中のポリマーのぎ酸溶液粘度(JIS K 6816)は20〜40、好ましくは22〜38のポリマーである。このポリマーのぎ酸溶液粘度がこの領域より高過ぎると成形品の表面光沢性が悪くなり、低すぎると成形品が脆くなる。
【0008】
本発明に用いられるガラス繊維は、繊維径は、特に指定がなく、例えば繊維径が10〜13μm、繊維長3〜6mmのチョップドストランドで良い。そのガラス繊維の配合量は、45〜70wt%、好ましくは47〜63wt%である。ガラス繊維の配合量がこの領域より多いと成形時の流動性が悪くなるばかりでなく、成形品の表面光沢性が非常に悪くなり、少ないと用途に因っては成形品の強度、剛性が足りず、満足のいく構造部品が得られない。
【0009】
本発明に用いられる脂肪族カルボン酸及び/又はその誘導体は、好ましくは、炭素数26〜32の脂肪族カルボン酸及び/又はそのエステル化合物及び/又は、その脂肪族カルボン酸の金属塩で、その中でも好ましいのは、モンタン酸ナトリウム塩、モンタン酸カルシウム塩、モンタン酸エステルである。配合量はポリアミド樹脂組成物100重量部に対して0.02〜0.5重量部であり、好ましくは、0.03〜0.3重量部である。0.02重量部より少ないと離型性が悪くなり、冷却時間を長くとらないと離形しなくなる。これは成形タイムサイクルの長期化、即ち生産性の低下につながる。0.5重量部より多いとポリアミド樹脂組成物が変色する。
【0010】
本発明で得られるポリアミド組成物は、強度、剛性、成形品表面上の光沢性に優れ、かつ、射出成形時の金型離形性に優れたものであり、外装用構造部品として極めて有用である。本発明でいう外装用構造部品とは、成形品表面加工性(例えば、高い表面光沢性、シボ加工性等)が要求され、かつ、比較的大きな強度剛性の要求される機構部品または構造部品のことであり、例えば、机の脚、椅子の脚、座、キャビン、ワゴンの部品等の家具用品、ノート型パソコンハウジング等のOA機器分野用品、ドアミラーステイ、ホイールリム、ホイールキャップ、ワイパー、モーターファン、シートロック部品、ギア、熱風機ハウジング等の自動車部品、その他分野用品として、ホイールリム、ホイールスポーク、サドル、サドルポスト、ハンドル、スタンド、荷台等の自転車部品、バルブハウジング、釘、ネジ、ボルト、ボルトナット等である。中でも、ナイロン66/6I共重合体であるか、ナイロン66、ナイロン6、ナイロン66/6共重合体、ナイロン66/6T/6I共重合体の中から選ばれる少なくとも一種類のポリマーとナイロン66/6I共重合体とから成るブレンドポリマーから成るものが外装用構造部品として好適である。
【0011】
本発明に用いられるポリアミド樹脂と、ガラス繊維、脂肪族カルボン酸及び/又はその誘導体は、通常の一軸又は、二軸押出機を用いてコンパウンドするか、ポリアミド樹脂とガラス繊維をコンパウンドしたあと、脂肪族カルボン酸及び/又はその誘導体を公知のブレンダー等でペレットの外側に添加するか、高濃度の脂肪族カルボン酸及び/又はその誘導体を含むポリアミド樹脂を、射出成形時に組成物にブレンド添加しても得る事ができる。
【0012】
本発明の目的を損なわない範囲において熱安定剤、酸化防止剤、難燃剤、滑剤、離型剤、核剤、顔料、染料等を添加する事もできるし、場合によっては、他のポリアミド樹脂、他樹脂とブレンドしても良い。
【0013】
【実施例】
以下に実施例を挙げて本発明をさらに詳しく説明する。なお、実施例によって本発明の範囲を限定するものではない。実施例、比較例中の評価は、以下の方法で行った。
【0014】
結晶化温度(Tc):パーキンエルマー社 DSC-7を用いて測定を行った。N2流量0.03リットル/mim、樹脂組成物量(ペレット量)10.0±0.5mgで、30℃から20℃/minで300℃まで昇温、3min holdした後、20℃/minで30℃まで降温した時の結晶化熱量ピークの値。
【0015】
ぎ酸溶液粘度:樹脂組成物中のGFをろ過除去後ポリマーを回収しJIS K6810に準じて行った。
【0016】
強度特性:引張特性を代用し、ASTM D638に準じて行った。
【0017】
剛性特性:曲げ特性を代用し、ASTM D790に準じて行った。
【0018】
光沢性:評価は、130mm×130mm×厚み3mm、ゲートサイズ3mm×6mmの平板成形品を、東芝IS150E射出成形機、シリンダー温度290℃、金型温度90℃、射出/冷却サイクル10/20秒、射出圧力350kg/cm2、射出速度50%の成形条件で成形し、得られた成形品の表面をJIS K 7105に従い測定した光沢度で行った。
【0019】
離型性:図1に示す離形力測定装置を取り付けた金型を用いて下記の成形条件で成形を行い、31ショット目から35ショット目までの離形力平均値を測定した。
【0020】
(成形条件)
射出成形機:東芝機械製IS90B
金型:コップ状成形品(1個取り)
シリンダー温度:290℃フラット
金型温度:80℃
射出圧力:400kg/cm2
射出時間:7sec
冷却時間:20sec
参考例1
アジピン酸とヘキサメチレンジアミンの等モル塩90wt%とε-カプロラクタム10wt%を通常の溶融重合して得たナイロン66/6共重合体(ぎ酸溶液粘度35)とガラス繊維(旭ファイバーガラス社製03JA416)を二軸押出機(池貝鉄工社製 PCM45)を使って次の条件で溶融混練した。二軸押出機のシリンダー温度を290□に設定し、スクリュー回転数を150rpmでポリマーをホッパーから投入した。ガラス繊維は、C5(Zone5)から樹脂組成物のガラス繊維含有量が50wt%に成るようにサイドフィードで入れた。ポリマー投入部及びガラス繊維投入部は、充分N2パージした。C7(Zone7)からベント真空を行った(300mmHg)。吐出量35kg/hr、樹脂温度302℃であった。こうして得た物に離型剤としてモンタン酸ナトリウム塩(ヘキストジャパン社製 Hostalub NaW-1)を0.13重量部を公知のブレンダーを用いてブレンドしペレットを得た。
【0021】
【0022】
【0023】
【0024】
【0025】
【0026】
実施例1
アジピン酸とヘキサメチレンジアミンの等モル塩80wt%と、イソフタル酸とヘキサメチレンジアミンの等モル塩20wt%を通常の溶融重合して得られたナイロン66/6I共重合体と、参考例1で用いたガラス繊維を参考例1と同じ方法で同量をコンパウンドし、参考例1と同様の方法で同量のモンタン酸ナトリウム塩をブレンドしてペレットを得た。
【0027】
比較例1
ナイロン66とガラス繊維を参考例1と同じ方法で同量をコンパウンドし、同量のモンタン酸ナトリウム塩をブレンドしてペレットを得た。比較例2ぎ酸溶液粘度が15のナイロン66/6コポリマー(90/10)と、ガラス繊維を参考例1と同じ方法で同量をコンパウンドし、同量のモンタン酸ナトリウム塩をブレンドしてペレットを得た。
【0028】
比較例3
ぎ酸溶液粘度が75のナイロン66/6コポリマー(90/10)と、ガラス繊維を参考例1と同じ方法で同量をコンパウンドし、同量のモンタン酸ナトリウム塩をブレンドしてペレットを得た。
【0029】
比較例4
ナイロン66/6コポリマー(90/10)とガラス繊維を参考例1と同じ方法でガラス繊維含有量が33wt%になるようにコンパウンドし、参考例1と同量のモンタン酸ナトリウム塩をブレンドしてペレットを得た。
【0030】
比較例5
ナイロン66/6コポリマー(90/10)とガラス繊維を参考例1と同じ方法でガラス繊維含有量が75wt%になるようにコンパウンドを行い、参考例1と同量のモンタン酸ナトリウム塩をブレンドしてペレットを得た。
【0031】
比較例6
ナイロン66/6コポリマー(90/10)とガラス繊維を参考例1と同じ方法でコンパウンドを行い、モンタン酸ナトリウム塩は添加しなかった。
比較例7
ナイロン66/6コポリマー(90/10)とガラス繊維を参考例1と同じ方法でコンパウンドを行い、モンタン酸ナトリウム塩1.0wt%をブレンドしてペレットを得た。
【0032】
比較例8
ε-カプロラクタムを通常の溶融重合して得たナイロン6(ぎ酸溶液粘度39)と参考例1で用いたガラス繊維を参考例1と同じ方法で同量をコンパウンドし、参考例1と同量のモンタン酸ナトリウム塩を参考例1と同様の方法でブレンドしペレットを得た。以上の参考例1及び比較例1〜8の結果を以下の表1、表2に示す。
【0033】
【表1】

【0034】
【表2】

【0035】
【発明の効果】
本発明により、実使用下における強度、剛性、成形品表面上の光沢性が優れ、更に、射出成形時の金型離型性が優れたポリアミド樹脂組成物を提供することができ、外装用構造部品として非常に好適である。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の離形力を測定する際に用いる離形力測定装置を取り付けた金型の模式図
【符号の説明】
1射出成形機のノズル
2スプルランナー
3成形品(コップ状)
4エジェクターピン
5エジェクタープレート
6圧力センサー
7ノックアウトロッド
8キャビティ
9コア
10離形力記録計
 
訂正の要旨 (1)特許請求の範囲を以下のとおりに訂正する。
「【請求項1】(a)ナイロン66とヘキサメチレンイソフタルアミドの共重合体(以下、ナイロン66/6I共重合体)であるか、またはナイロン66、ナイロン66/6共重合体、ナイロン66/6T/6I共重合体の中から選ばれる少なくとも一種類のポリマーとナイロン66/6I共重合体とから成るブレンドポリマーであるポリアミド樹脂30〜55重量%、(b)ガラス繊維45〜70重量%、(c) (a)+(b)100重量部に対して、0.02〜0.5重量部の脂肪族カルボン酸及び/又はその誘導体から成るポリアミド樹脂組成物であり、かつ、前記(a)ポリアミド樹脂が溶融状態から結晶化する際の温度(Tc)が180℃以上220℃以下であり、かつ、ぎ酸溶液粘度が20以上〜40以下であるポリアミド樹脂組成物。
【請求項2】請求項1記載のポリアミド樹脂組成物から成る外装用構造部品。」
(2)明細書【0006】を以下のとおりに訂正する。
「【0006】
【課題を解決するための手段】
本発明は上記の課題を解決するもので、以下に要旨を示す。本発明は、(a)ナイロン66とヘキサメチレンイソフタルアミドの共重合体(以下、ナイロン66/6I共重合体)であるか、またはナイロン66、ナイロン66/6共重合体、ナイロン66/6T/6I共重合体の中から選ばれる少なくとも一種類のポリマーとナイロン66/6I共重合体とから成るブレンドポリマーであるポリアミド樹脂30〜55重量%、(b)ガラス繊維45〜70重量%、(c) (a)+(b)100重量部に対して、0.02〜0.5重量部の脂肪族カルボン酸及び/又はその誘導体から成るポリアミド樹脂組成物であり、かつ、前記(a)ポリアミド樹脂が溶融状態から結晶化する際の温度(Tc)が180℃以上220℃以下であり、かつ、ぎ酸溶液粘度が20以上〜40以下であるポリアミド樹脂組成物、及び前記記載のポリアミド樹脂組成物から成る外装用構造部品をその要旨とする。」
異議決定日 2003-02-10 
出願番号 特願平5-94284
審決分類 P 1 651・ 121- YA (C08L)
最終処分 維持  
特許庁審判長 三浦 均
特許庁審判官 佐野 整博
石井 あき子
登録日 2001-04-20 
登録番号 特許第3181753号(P3181753)
権利者 旭化成株式会社
発明の名称 ポリアミド樹脂組成物及びそれを用いた外装用構造部品  
代理人 加々美 紀雄  
代理人 加々美 紀雄  

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