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審決分類 審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  C04B
審判 全部申し立て 2項進歩性  C04B
審判 全部申し立て 5項1、2号及び6項 請求の範囲の記載不備  C04B
管理番号 1076391
異議申立番号 異議2001-70869  
総通号数 42 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 1993-03-23 
種別 異議の決定 
異議申立日 2001-03-16 
確定日 2003-02-19 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第3089076号「ケイ酸カルシウム質抄造板」の請求項1ないし4に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 訂正を認める。 特許第3089076号の請求項1ないし3に係る特許を維持する。 
理由 1.手続の経緯
本件特許第3089076号の請求項1〜請求項4に係る発明についての出願は、平成3年12月18日(優先権主張、平成3年6月13日、日本)になされ、平成12年7月14日に、その発明について特許の設定登録がなされ、その後、その特許について、特許異議の申立てがなされ、取消理由が通知され、その指定期間内である平成13年8月24日に訂正請求がなされたものである。
2.訂正の適否についての判断
2-1.訂正の内容
a.特許請求の範囲の請求項1を削除する。
b.特許請求の範囲の請求項2の
「【請求項2】無機質微粒子が石灰石、タルク、石膏、カオリン、フライアッシュ、ワラストナイト、マイカまたはバーミキュライトである請求項1記載のケイ酸カルシウム質抄造板。」を
「【請求項1】ケイ酸カルシウム質抄造板において、含水ケイ酸カルシウム結晶からなるマトリックス中に分散した無機質微粒子および繊維を含有し、無機質微粒子は石灰石、タルク、石膏、カオリン、フライアッシュ、マイカまたはバーミキュライトであり、それにより曲げ試験において全歪みの値が4.0×10-3以上であり且つ全歪み中の塑性歪みの割合が50%以上であることを特徴とするケイ酸カルシウム質抄造板。」
と訂正する。
c.特許請求の範囲の請求項3の
「【請求項3】無機質微粒子が水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム、アロフェン、モルデン沸石、または炭酸マグネシウムである請求項1記載のケイ酸カルシウム質抄造板。」を
「【請求項2】ケイ酸カルシウム質抄造板において、含水ケイ酸カルシウム結晶からなるマトリックス中に分散した無機質微粒子および繊維を含有し、無機質微粒子は水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム、アロフェン、モルデン沸石、または炭酸マグネシウムであり、それにより曲げ試験において全歪みの値が4.0×10-3以上であり且つ全歪み中の塑性歪みの割合が50%以上であることを特徴とするケイ酸カルシウム質抄造板。」 と訂正する。
d.特許請求の範囲の請求項4の
「【請求項4】無機質微粒子を15〜45重量%含有する請求項1記載のケイ酸カルシウム質抄造板。」を
「【請求項3】無機質微粒子を15〜45重量%含有する請求項1または請求項2に記載のケイ酸カルシウム質抄造板。」
と訂正する。
e.明細書の段落【0004】の
「本発明が提供することに成功した・・・無機質微粒子および繊維を含有し、それにより、曲げ試験において・・・を特徴とするものである。」を
「本発明が提供することに成功した・・・無機質微粒子および繊維を含有し、上記無機質微粒子は石灰石、タルク、石膏、カオリン、フライアッシュ、マイカ、バーミキュライト、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム、アロフェン、モルデン沸石、または炭酸マグネシウムであり、それにより、曲げ試験において・・・を特徴とするものである(以下、上記特定の無機質微粒子群を指す意味で「無機質微粒子」という。)。」
と訂正する。
f.明細書の段落【0010】の
「無機質微粒子は、・・・でなければならない。使用可能な無機質微粒子の例としては、石灰石(すなわち炭酸カルシウム)、タルク、石膏、カオリン、フライアッシュ、珪灰石(ワラストナイト)、マイカ、バーミキュライト等・・・などがある。これらは、・・・のものであることが望ましい。」を
「無機質微粒子は、・・・でなければならない。使用可能な無機質微粒子の例としては、石灰石(すなわち炭酸カルシウム)、タルク、石膏、カオリン、フライアッシュ、マイカ、バーミキュライト等・・・などがある。これらは、・・・のものであることが望ましい。」
と訂正する。
g.明細書の段落【0013】の
「【実施例】
実施例1〜8,比較例1〜3
・・・・・」を
「【実施例】
実施例1〜7,比較例1〜3
・・・・・」
と訂正する。
h.明細書の段落【0015】の表1及び段落【0016】の表2における実施例8の行をそれぞれ削除する。
i.明細書の段落【0017】の
「実施例9〜11
添加する無機質微粒子を・・・に変更したほかは実施例1〜8と同様にして、抄造板を製造した。」を
「実施例9〜11
添加する無機質微粒子を・・・に変更したほかは実施例1〜7と同様にして、抄造板を製造した。」
と訂正する。
2-2.訂正の目的の適否、新規事項の有無及び拡張・変更の存否
aの訂正は、特許請求の範囲の請求項1を削除するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正に該当し、願書に添付した明細書に記載した事項の範囲内のものであり、実質上特許請求の範囲を拡張又は変更するものではない。
bの訂正は、訂正前の請求項2に無機質微粒子として例示されたものからワラストナイトを除いて、無機質微粒子をワラストナイト以外の例示されたものに限定して独立形式の請求項1とする訂正であるから、特許請求の範囲の減縮及び明りょうでない記載の釈明を目的とする訂正に該当し、願書に添付した明細書に記載した事項の範囲内のものであり、実質上特許請求の範囲を拡張又は変更するものではない。
cの訂正は、上記aの請求項1の削除に伴い、訂正前の請求項3を独立形式の請求項2に書き換える訂正であるから、明りょうでない記載の釈明を目的とする訂正に該当し、願書に添付した明細書に記載した事項の範囲内のものであり、実質上特許請求の範囲を拡張又は変更するものではない。
dの訂正は、上記aの請求項1の削除に伴い、訂正前の請求項4を請求項3とするとともに、引用する請求項を、「請求項1」から「請求項1または請求項2」に訂正するものであるが、訂正後の請求項1の減縮に伴い減縮されているから、特許請求の範囲の減縮及び明りょうでない記載の釈明を目的とする訂正に該当し、願書に添付した明細書に記載した事項の範囲内のものであり、実質上特許請求の範囲を拡張又は変更するものではない。
e〜iの訂正は、上記a、bの特許請求の範囲の訂正に伴い、対応する明細書の【発明の詳細な説明】の記載を訂正するものであるから、明りょうでない記載の釈明を目的とする訂正に該当し、願書に添付した明細書に記載した事項の範囲内のものであり、実質上特許請求の範囲を拡張又は変更するものではない。
2-3.訂正の適否についての結論
したがって、上記訂正は、特許法等の一部を改正する法律(平成6年法律第116号)附則第6条第1項の規定によりなお従前の例によるとされる、特許法第120条の4第3項において準用する平成6年法律第116号による改正前の特許法第126条第1項ただし書及び第2項の規定に適合するので、当該訂正を認める。
3.特許異議申立てについての判断
3-1.本件発明
上記2で示したとおり、上記訂正が認められるから、本件請求項1〜請求項3に係る発明(以下、それぞれ「本件第1〜3発明」という。)は、上記訂正請求に係る訂正明細書の請求項1〜請求項3に記載された次のとおりのものである。
「【請求項1】ケイ酸カルシウム質抄造板において、含水ケイ酸カルシウム結晶からなるマトリックス中に分散した無機質微粒子および繊維を含有し、無機質微粒子は石灰石、タルク、石膏、カオリン、フライアッシュ、マイカまたはバーミキュライトであり、それにより曲げ試験において全歪みの値が4.0×10-3以上であり且つ全歪み中の塑性歪みの割合が50%以上であることを特徴とするケイ酸カルシウム質抄造板。
【請求項2】ケイ酸カルシウム質抄造板において、含水ケイ酸カルシウム結晶からなるマトリックス中に分散した無機質微粒子および繊維を含有し、無機質微粒子は水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム、アロフェン、モルデン沸石、または炭酸マグネシウムであり、それにより曲げ試験において全歪みの値が4.0×10-3以上であり且つ全歪み中の塑性歪みの割合が50%以上であることを特徴とするケイ酸カルシウム質抄造板。
【請求項3】無機質微粒子を15〜45重量%含有する請求項1または請求項2に記載のケイ酸カルシウム質抄造板。」
3-2.申立て理由及び取消理由の概要
特許異議申立人は甲第1号証〜甲第5号証を提出して、本件請求項1、2及び4に係る発明(訂正後の請求項1及び請求項3に係る発明)は、甲第1号証に記載された発明(甲第2号証は甲第1号証に記載された実施例を追試した実験報告書)であるから、本件請求項1、2及び4に係る発明の特許は、特許法第29条第1項第3号の規定に違反してなされたものであり(申立て理由1)、本件請求項1〜4に係る発明(訂正後の請求項1〜3に係る発明)は、甲第1号証及び甲第3号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件請求項1〜4に係る発明の特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものであり(申立て理由2)、また、甲第4号証及び甲第5号証の記載からみて、本件請求項1〜4には、発明の構成に欠くことのできない事項が記載されていないから、本件請求項1〜4に係る発明の特許は、特許法第36条第5項に規定する要件を満たしていない出願に対してなされたものであり(申立て理由3)、取り消されるべきであると主張している。
当審で通知した取消理由も同趣旨である。
3-3.刊行物に記載された発明
当審が通知した取消理由において引用された刊行物1(特開平1-208355号公報、甲第1号証と同じ)には、
「(1)粉末度(粒度)の小さい消石灰、珪藻土原料と全乾燥物量に対してショッパー濾水度80°SR以上に叩解されたセルロース系繊維0.5〜3重量%をスラリー濃度で15〜30%になるように水を加えて、繊維に固形分を吸着させた状態にしたスラリーを得る第1工程と;
その他の石灰分、珪酸質原料に全乾燥物量に対して、ショッパー濾水度50〜70°SRに叩解した天然セルロース繊維0.5〜3重量%、無機質添加剤5〜20重量%、有機合成繊維0.5〜2重量%をスラリー濃度5〜10重量%になるように水を加え繊維に固形分を吸着させた状態にしたスラリーを得る第2工程とを有し;
第1工程で作成したスラリーと、第2工程で作成したスラリーを、所望により量調整しながら合わせた後に、丸網式抄造機により製造することを特徴とするノンアスベスト珪酸カルシウム板の製法。」(特許請求の範囲)
が記載され、また、
「無機質添加材は、粉末状ワラストナイト、マイカ等を使用できる。使用量は全乾量に対して5〜20重量%が最適である。即ち、5重量%未満では、その効果が見られず、20重量%以上、過剰に添加すると曲げ強度が低下するためである。」(第3頁左下欄10〜14行)
「[実施例3]
珪藻土、珪砂、消石灰、セメント、ワラストナイト、アクリル繊維、2種類の叩解度の異なるパルプを使用し、珪藻土、消石灰、LBKP(ショッパー濾水度85°SRに叩解)を所定の量を計算し、スラリー濃度20%で混合して得たスラリーを、珪砂、セメント、ワラストナイト、アクリル繊維、木綿パルプ(ショッパー濾水度55°SRに叩解)を所定量、計量し、スラリー濃度8%で混合して得たスラリーを合わせて丸網式抄造機を用いて、板状成形体を製造し、これら板状成形体はオートクレーブ養生を行なった後、乾燥して物性値を測定した。この結果を第3表に示す。即ち、配合割合、抄造状況、物性を示す。」(第4頁右下欄1〜14行)
と記載され、
第3表に、試験番号28として、珪藻土13.2%、消石灰19.3%、LBKP2%、セメント13.2%、珪砂19.3%、ワラストナイト30%、アクリル繊維1%、木綿パルプ2%を配合した珪酸カルシウム板(嵩比重0.78、曲げ強度132kgf/cm2、長さ変化0.07%、不燃試験合格)が示されている。
同じく引用された甲第2号証(太田耕平及び岩永朋来作成の実験報告書)には、刊行物1の第3表に記載された試験番号28の珪酸カルシウム板について、本件明細書に記載された方法に従い曲げ試験を行って、全歪みの値及び全歪み中の塑性歪みの割合を測定した結果(試験片8個の平均で、全歪みの値が5.1×10-3、全歪み中の塑性歪みの割合が58.9%)が示されている。
同じく引用された刊行物2(「紙パ技協誌」 第42巻 第12号、昭和63年12月1日、紙パルプ技術協会発行、第1131〜1139頁、甲第3号証と同じ)には、
「建築用石綿代替製品開発の状況」と題し、
「けい酸カルシウム板は石綿スレートと同様に円網抄造法により板状に成形される。石綿スレートは常温での養生でセメントの水和反応を行うが、けい酸カルシウム板はオートクレーブの中で、加圧下で蒸熱養生して、強制的にけい酸カルシウムを生成させて反応硬化している。」(第1135頁右欄18〜23行)
「現時点では、パルプが使用できる可能性の最も高い材料であり、実際にNA化はパルプと他の材料を適当に組合せることによって進められている。
けい酸カルシウム板や石綿スレートにおいては、石綿が労働環境の問題として扱われる以前から、パルプをクリソタイル石綿の一部に置き替えていた。パルプを使用すると抄造時の水切れが良くなり抄造速度が高まる傾向にあった。また枯渇する石綿資源の高騰に対処するという経済的な側面もあった。
オーストラリアやヨーロッパでは、パルプを6〜12%配合した完全ノンアスの繊維補強セメントけい酸カルシウム板が一般用建築材料として製品化されている。
パルプの補強効果に対する優位性を図2、3に示す(Harper 1982)。繊維の添加量が増すに従い曲げ強さが増大し、パルプでは添加量12%程度までは曲げ強さが増加し、アモサイト石綿には及ばないがARGよりはるかに高い曲げ強さとなる。新聞古紙ではその効果はやや低くなっている(図2)。また、従来の石綿配合品に比べてパルプを使うとタフネスが増大し粘りのある破壊のStress-Strainカーブを示すようになる(図3)。」(第1135頁右欄下から6行〜第1137頁左欄5行)
と記載され、
図2には、けい酸カルシウム板の強度に及ぼす繊維含有量の影響が、図3には、石綿及びセルロース補強けい酸カルシウム板の負荷/歪み曲線が示されている。
特許異議申立人が提出した甲第4号証(「セメント技術年報31」昭和52年12月25日、社団法人セメント協会発行、第49〜52頁)には、
「Tobermoriteの生成におよぼすせっこう添加の影響」と題し、
「石灰-石英、ニートセメント-石英、石灰-コロイドシリカ系にせっこうを添加して、トバモライトの生成におよぼすせっこうの影響を研究して次の結果を得た。
(1)せっこうの添加は石灰の反応速度を大にし、逆に石英の反応速度を初期に遅延あるいは低下させる。特にセメント系を用いると10%の添加は石英の反応速度を著しく低下させる。
(2)石英を用いた系では、反応の初期にhydroxyl ellestaditeが生成する。しかし石英の溶解が進むとシリカと反応して分解し、トバモライトへ結晶化する。
(3)石灰-コロイドシリカ系は反応速度が非常に早いためせっこうを添加してもhydroxyl ellestaditeの生成はなかった。またC-S-Hのトバモライトへの結晶化を促進するような効果は全く存在しなかった。
(4)11ÅトバモライトのSO3置換量は最大約0.2%(強熱残量を基準)以下であり、文献値より著しく低い結果を得た。
(5)SO3を含むトバモライトはゾノトライトへの水熱分解速度は遅くなる。」(第52頁左欄9〜28行)
と記載されている。
同じく提出した甲第5号証(関谷道雄著「石膏」昭和40年3月10日、技報堂発行、第69〜83頁)には、石膏の熱的性質に関し、
「(1)飽和水蒸気圧下における二水セッコウの転移
α型半水セッコウはその生成履歴条件からは、一般に二水セッコウが気体水または液体水との接触反応下で転移した半水セッコウであると理解されている。図2.28は、このような反応系における転移あるいは転化温度の実測された例を示したものである。CaSO4・2H2O←→α・CaSO4・1/2H2Oの転移温度についてみると、Kelleyらの熱力学上からの算出値97℃にきわめて近似した数値が既に実測されており、CaSO4・2H2O←→II・CaSO4の転移温度についても同様なことがみられる。また、α・CaSO4・1/2H2O→II・CaSO4への転移によるとされている転化温度がFarnowothおよびJoliboisら(引用文献は図2.28)によって160℃と示されている。」(第69頁11〜20行)
と記載されている。
3-4.当審の判断
1)申立て理由1について
本件第1発明と刊行物1に記載された発明(第3表に記載された試験例28)とを対比すると、両者は、「ケイ酸カルシウム質抄造板において、含水ケイ酸カルシウム結晶からなるマトリックス中に分散した無機質微粒子および繊維を含有したケイ酸カルシウム質抄造板。」である点で一致し、本件第1発明が、「無機質微粒子は石灰石、タルク、石膏、カオリン、フライアッシュ、マイカまたはバーミキュライトであり」、「曲げ試験において全歪みの値が4.0×10-3以上であり且つ全歪み中の塑性歪みの割合が50%以上である」のに対し、刊行物1に記載された発明は、無機質微粒子がワラストナイトであり、全歪みの値、全歪み中の塑性歪みの割合が不明である点で相違する。
上記相違点について検討するに、甲第2号証の記載からみて、刊行物1の第3表に記載された試験例28のケイ酸カルシウム質抄造の板における全歪みの値、全歪み中の塑性歪みの割合が本件第1発明と重複するとしても、両者は、無機質微粒子の種類が実質的に相違している。
したがって、本件第1発明は、刊行物1に記載された発明であるとすることはできない。
また、本件第3発明は、請求項1または請求項2を引用する発明であるから、本件第1発明と同様の理由により、刊行物1に記載された発明であるとすることはできない。
2)申立て理由2について
本件第1発明と刊行物1に記載された発明(第3表に記載された試験例28)とを対比すると、上記のとおり、本件第1発明が、「無機質微粒子は石灰石、タルク、石膏、カオリン、フライアッシュ、マイカまたはバーミキュライトであり」、「曲げ試験において全歪みの値が4.0×10-3以上であり且つ全歪み中の塑性歪みの割合が50%以上である」のに対し、刊行物1に記載された発明は、無機質微粒子がワラストナイトであり、全歪みの値、全歪み中の塑性歪みの割合が不明である点で相違する。
上記相違点について検討する。
本件第1発明は、「通常の剛直なケイ酸カルシウム質抄造板は、上記曲げ試験における全歪みが約3×10-3〜4×10-3であり且つ全歪み中の塑性歪み率が約40%である。このようなケイ酸カルシウム抄造板を、本発明では板中に無機質微粒子を含有させることにより、また無機質微粒子と繊維の配合量を調節して上記の範囲の全歪みと塑性歪み率とを有するものに改質することにより、容易に且つ大きく曲げることができ且つ曲げた後はもとの平板状に戻る性質が弱いものに変えている。」(本件明細書の段落【0005】)ものであり、また、「無機質微粒子は、・・・層境界面付近にやや濃縮された状態で、ケイ酸カルシウム結晶からなるマトリックス中に不連続相を形成している。そのため、量が十分であると、ケイ酸カルシウム結晶マトリックスを三次元網目状のものにする。そして、抄造板が曲げられたとき該マトリックスに、全体には伝播しないミクロな亀裂を容易に生じさせる。・・・繊維は、無機質微粒子が存在することにより生じ易い上記ミクロなマトリックス亀裂が板のマクロな亀裂に成長するのを防ぎ、塑性変形領域を広くする作用をする。・・・無機質微粒子と繊維の上記作用の強さは、無機質微粒子と繊維の種類によってかなり異なる。したがって、本発明の抄造板を製造する場合は、用いる無機質微粒子と繊維の種類に応じて、曲げ試験における全歪みの値が4.0×10-3以上であり且つ塑性歪み率が50%以上になるようにそれらの配合量を選定することが必要である。」(同【0006】〜【0007】)というものである。
これに対し、刊行物1には、「無機質添加剤は、粉末状ワラストナイト、マイカ等を使用できる。使用量は全乾量に対して5〜20重量%が最適である。即ち、5重量%未満では、その効果が見られず、20重量%以上、過剰に添加すると曲げ強度が低下するためである。」と記載されているが、ケイ酸カルシウム質抄造板を「容易に且つ大きく曲げることができ且つ曲げた後はもとの平板状に戻る性質が弱いもの」にするために、無機質添加剤(無機質微粒子)を十分な量で含有させ、また無機質微粒子と繊維の配合量を調節して上記の範囲の全歪みと塑性歪み率とを有するものとすることは全く示唆されていない。
甲第2号証には、刊行物1の第3表に記載された試験番号28の珪酸カルシウム板について、本件明細書に記載された方法に従い曲げ試験を行って、全歪みの値及び全歪み中の塑性歪みの割合を測定した結果、試験片8個の平均で、全歪みの値が5.1×10-3、全歪み中の塑性歪みの割合が58.9%となったことが示されているが、無機質微粒子としてワラストナイトを使用し、添加量を30重量%とした場合であって、上記のように、全歪みの値、全歪み中の塑性歪みの割合は、無機質微粒子と繊維の種類によって異なるのであるから、甲第2号証を参照しても、無機質微粒子として、刊行物1に記載されたワラストナイトの代わりに、「石灰石、タルク、石膏、カオリン、フライアッシュ、マイカまたはバーミキュライト」を使用し、「曲げ試験において全歪みの値が4.0×10-3以上であり且つ全歪み中の塑性歪みの割合が50%以上」となるようにすることを当業者が容易に想到し得たとはいえない。
また、刊行物2には、ケイ酸カルシウム質抄造板は、繊維の添加量が増すに従い曲げ強さが増大すること、繊維としてパルプを使うとタフネスが増大し粘りのある破壊のStress-Strainカーブを示すようになることが示されているが、本件第1発明のように、無機質微粒子を配合し、無機質微粒子と繊維の配合量を調節することにより、「容易に且つ大きく曲げることができ且つ曲げた後はもとの平板状に戻る性質が弱いもの」にすることは示唆されていない。
したがって、本件第1発明は、刊行物1及び刊行物2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとすることはできない。
また、本件第2発明は、無機質微粒子として、「水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム、アロフェン、モルデン沸石、または炭酸マグネシウム」を使用する点で本件第1発明と相違するだけであるから、本件第1発明と同様の理由により、刊行物1及び刊行物2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとすることはできない。
本件第3発明は、請求項1または請求項2を引用する発明であるから、本件第1発明及び第2発明と同様の理由により、刊行物1及び刊行物2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとすることはできない。
3)申立て理由3について
特許異議申立人は、甲第4号証及び甲第5号証を提出し、甲第4号証及び甲第5号証の記載からみて、訂正前の本件請求項1〜4(以下、同じ)には、発明の構成に欠くことのできない事項が記載されていないから、本件請求項1〜4に係る発明の特許は、特許法第36条第5項に規定する要件を満たしていない出願に対してなされたものであると主張して、次の理由を挙げている。
(a)本件請求項1〜4は、構成(イ)ケイ酸カルシウム質抄造板において、(ロ)含水ケイ酸カルシウム結晶からなるマトリックス中に分散した無機質微粒子および繊維を含有し、及び(ハ)それにより曲げ試験において全歪みの値が4.0×10-3以上であり且つ全歪み中の塑性歪みの割合が50%以上であること、からなる発明であり、このうち構成(ハ)はケイ酸カルシウム質抄造板の「機能又は特性」を規定したものである。
本件特許明細書表1中の実施例1の抄造板と比較例2の抄造板とは、ケイ酸カルシウム基材、無機質微粒子及び繊維の種類、使用量及び処理手段において同一であるから、いずれも前記構成(イ)及び(ロ)を具備することは明らかである。
それにもかかわらず、実施例1の抄造板は全歪み及び塑性歪み率ともに構成(ハ)を満たすのに対し、比較例2の抄造板は全歪みにおいて構成(ハ)を満たさないから、本件特許発明ではない。
また、構成(ハ)という特性は、ケイ酸カルシウム抄造板を製造してから測定してみなければ判明しないものであり、出願時の技術水準との関係が理解できるものではない。
したがって、本件請求項1〜4に係る発明は、構成(ハ)という特性、いわゆるパラメータ以外では発明を特定することができないから、発明が不明確である。
一方、実施例1と比較例1(比較例2の誤記と認められる)との構成(ハ)以外の相違点は、無機質微粒子の粒度だけであり、当該粒度の規定があってはじめて発明が特定できるのであるから、無機質微粒子の粒度は発明の構成に欠くことができない事項である。
してみれば、本件請求項1〜4の記載は、発明の構成に欠くことができない事項が記載されていないから、特許法第36条第5項第2号の要件を満たしていない。
なお、本件特許明細書【0010】には無機質微粒子は、「ブレーン値で約3000cm2/g以上の粒度のものが好ましい。」との記載があるが、当該3000cm2/g以上という数値の根拠を示すデータは全く存しない。実施例で示されているのは7000cm2/g以上のものだけである。
(b)本件請求項1〜4における「無機質微粒子」なる語自体、その範囲が不明確である。すなわち、本件特許明細書【0013】に「ケイ酸カルシウム基材」として記載されている「ケイ石、ケイソウ土、消石灰、ポルトランドセメント及び繊維状ワラストナイト」のいずれも無機質微粒子に含まれる。また、「微粒子」なる語もまたその範囲が不明確である。
したがって、請求項1〜4に係る発明における「無機質微粒子」という構成は、その範囲が不明確であり、当該請求項の記載は、発明の構成に欠くことができない事項のみを記載していないから、特許法第36条第5項第2号の要件を満たしていない。
(c)さらに、本件特許明細書【0010】には、「無機質微粒子は、上記含水ケイ酸カルシウム結晶を生じる化学反応には関与せずに製品中に充填されるだけの不活性物質または反応性が低い物質でなければならない。」と記載されている。そして、当該無機質微粒子の例として「石膏」などが挙げられている。
しかし、「石膏」は、甲第4及び5号証から明らかなように含水ケイ酸カルシウム結晶を生じる反応条件である、オートクレーブ中の蒸熱処理条件で「反応性を有する無機粒子」として周知の物質である。
してみれば、本件請求項1、2及び4における「無機質微粒子」の範囲は、いかなる成分を意味するのか不明確であり、当該請求項の記載は、発明の構成に欠くことができない事項のみを記載していないから、特許法第36条第5項第2号の要件を満たしていない。
そこで、上記主張について検討する。
(a)について
本件請求項1〜4に係る発明(訂正後の本件請求項1〜3に係る発明)は、上記のとおり、「用いる無機質微粒子と繊維の種類に応じて、曲げ試験における全歪みの値が4.0×10-3以上であり且つ塑性歪み率が50%以上になるようにそれらの配合量を選定する」ものであるから、全歪みの値、塑性歪み率は、無機質微粒子と繊維の種類によって異なるものであり、無機質微粒子の化学成分が同じでも粒度が異なれば、全歪みの値、塑性歪み率は異なるものと認められるが、全歪みの値が4.0×10-3以上であり且つ塑性歪み率が50%以上になるように無機質微粒子の粒度を選定すればよいのであり、無機質微粒子の粒度を発明の構成に欠くことができない事項としなければならないとはいえない。
また、無機質微粒子の種類(化学成分)、配合量によって、本件請求項1に規定する全歪みの値、塑性歪み率を満たす限界のブレーン値は異なることは明らかであり、本件特許明細書【0010】にある「これら(無機質微粒子)は、ブレーン値で約3000cm2/g以上の粒度のものであることが望ましい。」との記載は、一応の目安を示したものと認められる。そして、無機質微粒子が石灰石の場合には、粒度を示すブレーン値が10000cm2/gであれば、40.0重量%の配合量のとき、全歪みの値が8.2×10-3、塑性歪み率が78%となり(実施例1)、本件請求項1の規定を満たすのに対し、粒度を示すブレーン値が2500cm2/gであると、40.0重量%の配合量でも、全歪みの値が2.5×10-3、塑性歪み率が72%となり(比較例2)、逆に、粒度を示すブレーン値が10000cm2/gであっても、5.0重量%の配合量では、全歪みの値が2.2×10-3、塑性歪み率が34%となり(比較例1)、いずれも本件請求項1の規定を満たさないことが示されているから、他の化学成分の無機質微粒子についても、ブレーン値で約3000cm2/g以上の粒度のものを一定量以上配合することにより、本件請求項1に規定する全歪みの値、塑性歪み率を満たすものと認められる。
したがって、(a)の点で、訂正後の本件請求項1〜3の記載が不備であるとはいえない。
(b)について
本件特許明細書【0013】に「ケイ酸カルシウム基材」として記載されている「ケイ石、ケイソウ土、消石灰、ポルトランドセメント及び繊維状ワラストナイト」は、原料としては無機質微粒子であるが、反応して本件請求項1に規定される「含水ケイ酸カルシウム結晶からなるマトリックス」を形成する成分である(ポルトランドセメント及び繊維状ワラストナイトは、含水ケイ酸カルシウム結晶を形成するための原料ではないが、同【0012】に記載されているように「本発明の目的を損なわない範囲で配合することができる」ケイ酸カルシウム基材を構成する成分である。)のに対し、「無機質微粒子は、上記含水ケイ酸カルシウム結晶を生じる化学反応には関与せずに製品中に充填されるだけの不活性物質または反応性が低い物質でなければならない。」(同【0010】)ものであり、本件請求項1に規定される「含水ケイ酸カルシウム結晶からなるマトリックス中に分散した」ものであるから、両者は、明らかに区別し得るものであり、また、平成13年8月24日付けの訂正請求により、本件請求項1は、「無機質微粒子は石灰石、タルク、石膏、カオリン、フライアッシュ、マイカまたはバーミキュライトであり」と限定され、その範囲が明確になったので、(b)の記載不備は解消した。
(c)について
本件請求項1、2及び4に係る発明(訂正後の本件請求項1及び3に係る発明)において、無機質微粒子は、「含水ケイ酸カルシウム結晶からなるマトリックス中に分散した」ものであるから、抄造板中で含水ケイ酸化ルシウム結晶を生じさせる過程で無機質微粒子が多少の化学反応等を起こしたりしても、最終的にマトリックス中において微粒子状態で分散していればよいのであって、上記(b)の「反応性が低い物質」には、訂正後の本件請求項1及び3に係る発明の目的を達成するうえで格別支障のない程度の反応性を有する物質も含まれると解される。
また、甲第4号証には、石膏がトバモライト(ケイ酸カルシウム)の生成反応に影響を及ぼすことがある旨が記載され、また、甲第5号証には、石膏が飽和水蒸気下で二水石膏から半水石膏や無水石膏へ転移する旨が記載されているが、「含水ケイ酸カルシウム結晶を生じる化学反応」は、基本的には、本件特許明細書【0013】に「ケイ酸カルシウム基材」の成分として記載されている「ケイ石、ケイソウ土、消石灰」の間で起こる化学反応であり、甲第4号証にも、「石灰-コロイドシリカ系は反応速度が非常に早いためせっこうを添加してもhydroxyl ellestaditeの生成はなかった。またC-S-Hのトバモライトへの結晶化を促進するような効果は全く存在しなかった。」と記載されているように、石膏は、多くの場合、「含水ケイ酸カルシウム結晶を生じる化学反応には関与せずに製品中に充填されるだけの反応性が低い物質」であると認められるから、無機質微粒子として「石膏」が含まれているからといって、訂正後の本件請求項1及び3に係る発明が不明確であるとはいえない。
4.むすび
以上のとおりであるから、特許異議の申立ての理由及び証拠によっては、本件第1〜3発明の特許を取り消すことはできない。
また、他に本件第1〜3発明の特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
ケイ酸カルシウム質抄造板
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】 ケイ酸カルシウム質抄造板において、含水ケイ酸カルシウム結晶からなるマトリックス中に分散した無機質微粒子および繊維を含有し、無機質微粒子は石灰石、タルク、石膏、カオリン、フライアッシュ、マイカまたはバーミキュライトであり、それにより曲げ試験において全歪みの値が4.0×10-3以上であり且つ全歪み中の塑性歪みの割合が50%以上であることを特徴とするケイ酸カルシウム質抄造板。
【請求項2】 ケイ酸カルシウム質抄造板において、含水ケイ酸カルシウム結晶からなるマトリックス中に分散した無機質微粒子および繊維を含有し、無機質微粒子は水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム、アロフェン、モルデン沸石、または炭酸マグネシウムであり、それにより曲げ試験において全歪みの値が4.0×10-3以上であり且つ全歪み中の塑性歪みの割合が50%以上であることを特徴とするケイ酸カルシウム質抄造板。
【請求項3】 無機質微粒子を15〜45重量%含有する請求項1または請求項2に記載のケイ酸カルシウム質抄造板。
【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】
本発明は、内外装用建材として使用する場合に曲面に施工可能なケイ酸カルシウム質抄造板、および、曲面に施工可能であるとともに不燃性にも優れたケイ酸カルシウム質抄造板に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
ケイ酸カルシウム質抄造板は、不燃性の内外装用建材として広く用いられている。その特長は、軽量かつ裁断が容易で施工作業性がよいこと、耐水性や耐熱性が良いため使用可能範囲が広く、耐久性も良いこと、などである。しかしながら、これを曲面仕上げの壁面や天井面に固定しようとすると、その特長の一つでもある剛直性が災いして、曲げるのに大きな力を要するばかりか曲がった後も弾性により復元しようとする性質が強いから、作業は困難をきわめ、無理に曲げれば板の破壊を招く。したがって、従来、湾曲させて固定することが必要な箇所にケイ酸カルシウム質抄造板が使われることはほとんどなかった。
曲面施工可能な無機質建材としては従来石膏抄造板が使われているが、石膏抄造板は重くて施工作業性が良くないから、作業者の肉体的負担が大きいほか、利用可能範囲が制限されてしまうという欠点がある。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
そこで本発明は、上述のような特長をなるべく損なうことなしに曲げ特性だけを調整して曲面への施工を容易にしたケイ酸カルシウム質抄造板を提供しようとするものである。
【0004】
【課題を解決するための手段】
本発明が提供することに成功した曲面施工可能なケイ酸カルシウム質抄造板は、含水ケイ酸カルシウム結晶からなるマトリックス中に分散した無機質微粒子および繊維を含有し、上記無機質微粒子は石灰石、タルク、石膏、カオリン、フライアッシュ、マイカ、バーミキュライト、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム、アロフェン、モルデン沸石、または炭酸マグネシウムであり、それにより、曲げ試験において全歪みの値が4.0×10-3以上、好ましくは5×10-3以上であり且つ全歪み中の塑性歪みの割合(以下、塑性歪み率という)が50%以上であることを特徴とするものである(以下、上記特定の無機質微粒子群を指す意味で「無機質微粒子」という)。
【0005】
ここで曲げ試験は、含水率4±1%の試料についてスパン180mm(抄造方向をスパン方向に配置)、荷重速度2mm/minで行われる3点曲げ試験であって、全歪みは破壊寸前の最大荷重時における歪みを意味し、塑性歪みは、弾性変形領域をこえた塑性変形領域において生じる歪みを意味する(すなわち、全歪み=弾性歪み+塑性歪みである。図1参照。)。なお、歪みは、曲げ試験における曲げ歪量ΔLから次式により算出される値である。
歪み=6T・ΔL/L2
(但し、Tは試験片の厚さ、Lは曲げ試験のスパンである。)
通常の剛直なケイ酸カルシウム抄造板は、上記曲げ試験における全歪みが約3×10-3〜4×10-3であり且つ全歪み中の塑性歪み率が約40%である。このようなケイ酸カルシウム抄造板を、本発明では板中に無機質微粒子を含有させることにより、また無機質微粒子と繊維の配合量を調節して上記の範囲の全歪みと塑性歪み率とを有するものに改質することにより、容易に且つ大きく曲げることができ且つ曲げた後はもとの平板状に戻る性質が弱いものに変えている。
【0006】
本発明の抄造板において、無機質微粒子は、ケイ酸カルシウム原料や繊維と共に薄いシートに抄造されたあと積層されるまでの過程でろ過の作用により厚さ方向へ移動する傾向があるため、層境界面付近にやや濃縮された状態で、ケイ酸カルシウム結晶からなるマトリックス中に不連続相を形成している。そのため、量が十分であると、ケイ酸カルシウム結晶マトリックスを三次元網目状のものにする。そして、抄造板が曲げられたとき該マトリックスに、全体には伝播しないミクロな亀裂を容易に生じさせる。これにより、曲げたときの弾性変形領域が狭くなり、容易に塑性変形領域に入るので、抄造板は曲げ易くなる。無機質微粒子の上記作用が強くなりすぎると、抄造板は曲げ易くなるが、ケイ酸カルシウムマトリックスの不足による強度低下が著しく、実用性を失うことになる。繊維は、無機質微粒子が存在することにより生じ易い上記ミクロなマトリックス亀裂が板のマクロな亀裂に成長するのを防ぎ、塑性変形領域を広くする作用をする。繊維の量が少ないと補強効果が不足して亀裂の拡大を防ぐことができず、また、多すぎると、製品の密度が低下して強度が不足した製品しか得られなくなり、実用性が失われる。
【0007】
無機質微粒子と繊維の上記作用の強さは、無機質微粒子と繊維の種類によってかなり異なる。したがって、本発明の抄造板を製造する場合は、用いる無機質微粒子と繊維の種類に応じて、曲げ試験における全歪みの値が4.0×10-3以上であり且つ塑性歪み率が50%以上になるようにそれらの配合量を選定することが必要である。
建材として使用する以上、抄造板は単に曲面施工性がよいだけではなくある水準以上の曲げ強さその他の物性を必要とする。したがって、本発明の抄造板は、上述のような曲げ特性を有するだけでなく少なくとも約100kgf/cm2の曲げ強さを有することが望ましく、且つ、釘打ち可能でなければならない。釘を打ったとき割れたり金づちの跡が明瞭に付いたりしないようにするためには、全歪みを大きくても15×10-3程度にとどめることが望ましい。
【0008】
なお、無機質微粒子として水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム、アロフェン(1〜2SiO2・Al2O3・5H2O)、モルデン沸石(Na2K2CaAl2Si10O24・7H2O)、または炭酸マグネシウムを含有させたものは、曲げ易いだけでなく、不燃性が大幅に向上している。これは、抄造板が加熱されたとき、含有する水酸化マグネシウム等が吸熱反応である脱水反応を起こして温度上昇を遅れさせるためと推察される。
【0009】
本発明のケイ酸カルシウム質抄造板は、けい酸原料、石灰原料、自己硬化性ケイ酸カルシウム結晶スラリー等の抄造原料に適量の無機質微粒子および繊維を配合し、抄造板製造の常法により抄造、積層成形を行なったのちオートクレーブ中で蒸熱処理して含水ケイ酸カルシウム結晶硬化体を生成させることにより製造することができる。
【0010】
無機質微粒子は、上記含水ケイ酸カルシウム結晶を生じる化学反応には関与せずに製品中に充填されるだけの不活性物質または反応性が低い物質でなければならない。使用可能な無機質微粒子の例としては、石灰石(すなわち炭酸カルシウム)、タルク、石膏、カオリン、フライアッシュ、マイカ、バーミキュライト等、および、前記不燃性向上作用もある水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム、アロフェン、モルデン沸石、炭酸マグネシウムなどがある。これらは、ブレーン値で約3000cm2/g以上の粒度のものであることが望ましい。
【0011】
また、配合する繊維としては、抄造性も良くする作用を有するパルプが最も適当であるが、外にも、ポリプロピレン等、各種有機合成繊維を単独で、あるいはパルプと共に、使用することができる。
無機質微粒子および繊維の配合量は、上述のように最終製品の歪みが所定の範囲内に収まるように選定するが、石灰石粉末とパルプを用いる場合についておよその配合量(製品中の値)を示すと、石灰石粉末が約15〜45重量%、パルプが約6〜12重量%の範囲内で、好結果が得られる。
【0012】
本発明のケイ酸カルシウム質抄造板を製造する際は、上述の原料以外にも繊維状ワラストナイト、セメント質材料等を、また凝集剤等の成形助剤を、本発明の目的達成を損なわない範囲で配合することができる。
本発明のケイ酸カルシウム質抄造板の切断および釘止めは通常のケイ酸カルシウム質抄造板と同様に可能である。なお、釘打ち前に水打ちなどして含水率を高めれば、全歪みがさらに増加してより小さい曲率半径の施工が可能となる。
【0013】
【実施例】
実施例1〜7,比較例1〜3
表1記載の原料から、厚さ6mmの抄造板を製造した。配合原料のうち、パルプはカナディアンフリーネスが350mlになるように叩解した。他の粉体原料は、撹拌混合槽で適量の水によく分散させた。得られたパルプ分散液と粉体分散液を混合したのち、粉体重量に対し水の重量が20倍になるように水比を調整してから、丸網抄造機により製板した。得られた生板を12kg/cm2の水蒸気圧で10時間蒸熱養生し、さらに乾燥して、抄造板を得た。なお、抄造原料におけるケイ酸カルシウム基材は下記組成のものである。
ケイ石 24重量部
ケイソウ土 10重量部
消石灰 36重量部
ポルトランドセメント 10重量部
繊維状ワラストナイト 20重量部
【0014】
得られた抄造板について密度測定および曲げ試験を行い、さらに、下記の基準で曲面施工性および釘打ち性の試験を行なった。
曲面施工性:曲率半径300mmから2000mmまで100mmステップで曲面型枠を用意し、含水率を4±1%に調整した試料抄造板を上記型枠に手で押し当てたとき亀裂を生じることなしに曲がる最小の曲率半径(単位:mm)を“曲面施工性”として表示する(数字が小さいほど無理なくよく曲げられることを意味する)。
釘打ち性:抄造板の角部において、交差する2辺のいずれからも10mmの位置にN38釘を打ち込み、亀裂の発生状況を観察し、次のように表示する。
◎ 亀裂の発生なし。
○ 一部に小さい亀裂が入る板があるが、慎重に打てば問題ない。
△ 慎重に打っても一部の板で亀裂が発生する。
× ほとんどの板で亀裂が発生する。
【0015】
結果を表2に示す。
【表1】

【0016】
【表2】

【0017】
実施例9〜11
添加する無機質微粒子を水酸化マグネシウム(ブルーサイト)に変更したほかは実施例1〜7と同様にして、抄造板を製造した。
得られた抄造板について、物性試験および建設省告示第1828号の基材試験法による不燃性能試験を行なった。その結果を表3に示す。
【0018】
【表3】

【0019】
【発明の効果】
上述のように、本発明によるケイ酸カルシウム質抄造板は、従来のケイ酸カルシウム抄造板では考えられないほど曲げ易く曲面に対して容易に釘で固定することができるにもかかわらず、軽量性、耐水性、不燃性など、ケイ酸カルシウム抄造板の特長はほとんど損なわれていない。したがって、本発明のケイ酸カルシウム質抄造板を用いることにより、建築物における曲面仕上げを従来よりも容易に行うことができるようになる。
また、無機質微粒子として水酸化マグネシウム等吸熱反応を起こして熱分解するものを含有させたものは、曲面施工性が良いだけでなく、不燃性においても顕著に改良されている。
【図面の簡単な説明】
【図1】 ケイ酸カルシウム質抄造板の曲げ試験における応力-歪み曲線
 
訂正の要旨 訂正事項
a.特許請求の範囲の減縮を目的として、全請求項、すなわち
【請求項1】 ケイ酸カルシウム質抄造板において、含水ケイ酸カルシウム結晶からなるマトリックス中に分散した無機質微粒子および繊維を含有し、それにより曲げ試験において全歪みの値が4.0×10-3以上であり且つ全歪み中の塑性歪みの割合が50%以上であることを特徴とするケイ酸カルシウム質抄造板。
【請求項2】 無機質微粒子が石灰石、タルク、石膏、カオリン、フライアッシュ、ワラストナイト、マイカまたはバーミキュライトである請求項1記載のケイ酸カルシウム質抄造板。
【請求項3】 無機質微粒子が水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム、アロフェン、モルデン沸石、または炭酸マグネシウムである請求項1記載のケイ酸カルシウム質抄造板。
【請求項4】 無機質微粒子を15〜45重量%含有する請求項1記載のケイ酸カルシウム質抄造板。
を次のように訂正する。
【請求項1】 ケイ酸カルシウム質抄造板において、含水ケイ酸カルシウム結晶からなるマトリックス中に分散した無機質微粒子および繊維を含有し、無機質微粒子は石灰石、タルク、石膏、カオリン、フライアッシュ、マイカまたはバーミキュライトであり、それにより曲げ試験において全歪みの値が4.0×10-3以上であり且つ全歪み中の塑性歪みの割合が50%以上であることを特徴とするケイ酸カルシウム質抄造板。
【請求項2】 ケイ酸カルシウム質抄造板において、含水ケイ酸カルシウム結晶からなるマトリックス中に分散した無機質微粒子および繊維を含有し、無機質微粒子は水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム、アロフェン、モルデン沸石、または炭酸マグネシウムであり、それにより曲げ試験において全歪みの値が4.0×10-3以上であり且つ全歪み中の塑性歪みの割合が50%以上であることを特徴とするケイ酸カルシウム質抄造板。
【請求項3】 無機質微粒子を15〜45重量%含有する請求項1または請求項2に記載のケイ酸カルシウム質抄造板。
なお、訂正前後の各請求項は下記のように対応する。但し、特許時の請求項2に記載されていたワラストナイトは削除され、訂正後の請求項1には含まれていない。

さらに、上記特許請求の範囲の訂正にともない請求項の記載と整合せず明瞭でない記載となる記載の釈明を目的として下記b〜gの訂正を行う。
b.明細書の段落0004
「【課題を解決するための手段】
本発明が提供することに成功した曲面施工可能なケイ酸カルシウム質抄造板は、含水ケイ酸カルシウム結晶からなるマトリックス中に分散した無機質微粒子および繊維を含有し、それにより、曲げ試験において全歪みの値が4.0×10-3以上、好ましくは5×10-3以上であり且つ全歪み中の塑性歪みの割合(以下、塑性歪み率という)が50%以上であることを特徴とするものである。」
を次のように訂正する。
「【課題を解決するための手段】
本発明が提供することに成功した曲面施工可能なケイ酸カルシウム質抄造板は、含水ケイ酸カルシウム結晶からなるマトリックス中に分散した無機質微粒子および繊維を含有し、上記無機質微粒子は石灰石、タルク、石膏、カオリン、フライアッシュ、マイカ、バーミキュライト、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム、アロフェン、モルデン沸石、または炭酸マグネシウムであり、それにより、曲げ試験において全歪みの値が4.0×10-3以上、好ましくは5×10-3以上であり且つ全歪み中の塑性歪みの割合(以下、塑性歪み率という)が50%以上であることを特徴とするものである(以下、上記特定の無機質微粒子群を指す意味で「無機質微粒子」という)。」
c.明細書の段落0010
「無機質微粒子は、上記含水ケイ酸カルシウム結晶を生じる化学反応には関与せずに製品中に充填されるだけの不活性物質または反応性が低い物質でなければならない。使用可能な無機質微粒子の例としては、石灰石(すなわち炭酸カルシウム)、タルク、石膏、カオリン、フライアッシュ、珪灰石(ワラストナイト)、マイカ、バーミキュライト等、および、前記不燃性向上作用もある水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム、アロフェン、モルデン沸石、炭酸マグネシウムなどがある。これらは、ブレーン値で約3000cm2/g以上の粒度のものであることが望ましい。」
における「珪灰石(ワラストナイト)、」を削除する。
d.段落0013
「【実施例】
実施例1〜8,比較例1〜3
表1記載の原料から、厚さ6mmの抄造板を製造した。配合原料のうち、パルプはカナディアンフリーネスが350mlになるように叩解した。他の粉体原料は、撹拌混合槽で適量の水によく分散させた。得られたパルプ分散液と粉体分散液を混合したのち、粉体重量に対し水の重量が20倍になるように水比を調整してから、丸網抄造機により製板した。得られた生板を12kg/cm2の水蒸気圧で10時間蒸熱養生し、さらに乾燥して、抄造板を得た。なお、抄造原料におけるケイ酸カルシウム基材は下記組成のものである。
ケイ石 24重量部
ケイソウ土 10重量部
消石灰 36重量部
ポルトランドセメント 10重量部
繊維状ワラストナイト 20重量部 」
における「実施例1〜8」を「実施例1〜7」に訂正する。
e.段落0015の表1における実施例8の行すなわち
「 実施例8 珪灰石(8300) 30.0 6.0 0.5 63.5 」
を削除する(請求項の訂正にともない削除された無機質微粒子・珪灰石<ワラストナイト>を使用した実施例の削除)。
f.上記実施例8の削除にともない、段落0016の表2における実施例8の行すなわち
「 実施例8 0.88 125 0.0070 58 600 ○ 」
も削除する。
g.段落0017
「実施例9〜11
添加する無機質微粒子を水酸化マグネシウム(ブルーサイト)に変更したほかは実施例1〜8と同様にして、抄造板を製造した。
得られた抄造板について、物性試験および建設省告示第1828号の基材試験法による不燃性能試験を行なった。その結果を表3に示す。」
における「実施例1〜8」を「実施例1〜7」に訂正する。
異議決定日 2003-01-31 
出願番号 特願平3-353124
審決分類 P 1 651・ 534- YA (C04B)
P 1 651・ 113- YA (C04B)
P 1 651・ 121- YA (C04B)
最終処分 維持  
前審関与審査官 徳永 英男  
特許庁審判長 松本 悟
特許庁審判官 唐戸 光雄
酒井 美知子
登録日 2000-07-14 
登録番号 特許第3089076号(P3089076)
権利者 ニチアス株式会社
発明の名称 ケイ酸カルシウム質抄造板  
代理人 中山 徹  
代理人 中山 徹  
代理人 山本 博人  

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