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審決分類 審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  C08L
審判 全部申し立て 2項進歩性  C08L
管理番号 1076395
異議申立番号 異議2000-73329  
総通号数 42 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 1999-04-27 
種別 異議の決定 
異議申立日 2000-09-01 
確定日 2003-02-15 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第3017145号「樹脂組成物」の請求項1〜5に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 訂正を認める。 特許第3017145号の請求項1〜5に係る特許を維持する。 
理由 【1】手続きの経緯
本件特許第3017145号に係る発明は、平成9年10月9日に出願されたものであり、その特許について平成11年12月24日に設定登録がなされ、その後、丸川京子及び岩田直子より特許異議の申立てがなされ、平成13年1月25日付けで特許権者に取消理由通知がなされ、平成13年4月4日付けで特許権者より特許異議意見書が提出され、平成13年11月13日付けで特許権者に取消理由通知と審尋通知がなされ、平成14年1月25日付けで特許権者より特許異議意見書と回答書が提出され、平成14年3月6日付けで特許権者に取消理由通知がなされ、平成14年5月7日付けで特許権者より訂正請求書が提出されたものである。
【2】訂正の可否についての判断
〈1〉訂正事項
〔1〕訂正事項1.明細書の特許請求の範囲の
「【請求項】樹脂(但し環状オレフイン系樹脂を除く)100部に対して導電性充填材(但し金属繊維を除く)1〜50部、及び20℃、10MHzにおける比誘電率が30以上の誘電体充填材1〜30重量部が配合されてなることを特徴とする樹脂組成物。
【請求項2】導電性充填材の比抵抗が10-3〜104Ω・cmである請求項1の樹脂組成物。
【請求項3】導電性充填材は径0.01〜3μm、長さが1〜500μm、アスペクト比5〜500の導電性セラミックス繊維又はカーボン繊維である請求項1又は2に記載の樹脂組成物。
【請求項4】誘電体充填材は、20℃、10MHzにおける比誘電率が100以上のものである請求項1〜3のいずれかに記載の樹脂組成物。
【請求項5】誘電体充填材は、繊維状チタン酸アルカリ土類金属塩である請求項1〜4のいずれかに記載の樹脂組成物。」を
「【請求項】樹脂(但し環状オレフイン系樹脂、ポリアミック酸及びポリイミドを除く)100部に対して導電性充填材(但し金属繊維を除く)1〜50部、及び20℃、10MHzにおける比誘電率が30以上の誘電体充填材1〜30重量部が配合されてなることを特徴とする樹脂組成物。
【請求項2】導電性充填材の比抵抗が10-3〜104Ω・cmである請求項1の樹脂組成物。
【請求項3】導電性充填材は径0.01〜3μm、長さが1〜500μm、アスペクト比5〜500の導電性セラミックス繊維又はカーボン繊維である請求項1又は2に記載の樹脂組成物。
【請求項4】誘電体充填材は、20℃、10MHzにおける比誘電率が100以上のものである請求項1〜3のいずれかに記載の樹脂組成物。
【請求項5】誘電体充填材は、繊維状チタン酸アルカリ土類金属塩である請求項1〜4のいずれかに記載の樹脂組成物。」と訂正する。
〔2〕訂正事項2.明細書の発明の詳細な説明における
「【0004】本発明は樹脂(但し環状オレフイン系樹脂を除く)100部に対して、導電性充填材(但し金属繊維を除く)1〜50部及び20℃、10MHzにおける比誘電率が30以上の誘電体充填材1〜30重量部が配合されてなることを特徴とする樹脂組成物に係る。」を
「【0004】【課題を解決するための手段】
本発明は樹脂(但し環状オレフイン系樹脂、ポリアミック酸及びポリイミドを除く)100部に対して導電性充填材(但し金属繊維を除く)1〜50部、及び20℃、10MHzにおける比誘電率が30以上の誘電体充填材1〜30重量部が配合されてなることを特徴とする樹脂組成物に係る。」と訂正する。
〈2〉訂正の目的の適否、訂正の範囲の適否及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
〔1〕訂正事項1について
訂正事項1は当審が通知した取消理由通知に引用された刊行物2に記載された発明との同一性を避けるために「ポリアミツク酸及びポリイミドを除く」と言う文言を特許請求の範囲の請求項1に挿入したのであるから、特許請求の範囲を減縮することを目的としたものであり、本件願書に添付した明細書に記載した事項の範囲内のものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
〔2〕訂正事項2について
訂正事項2は、段落番号【0004】の記載事項が「課題を解決するための手段」に関するものであることを明りょうにするとともに、訂正事項1による特許請求の範囲の記載の訂正に伴い、対応する発明の詳細な説明の記載をそれに整合するように訂正するものであるから、明りょうでない記載の釈明を目的とするものであり、本件願書に添付した明細書に記載した事項の範囲内のものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
〔3〕むすび
以上のとおりであるから、上記訂正は、特許法第120条の4第2項及び同条第3項において準用する特許法第第126条第2項から第4項までの規定に適合するので、当該訂正を認める。
【3】特許異議申立についての判断
〈1〉特許異議申立理由の概要
〔1〕特許異議申立人丸川京子の特許申立理由の概要
特許異議申立人丸川京子の特許申立理由の概要は、
(1)訂正前の本件請求項1〜5に係る発明は甲第1号証(特開平6-221322号公報)又は甲第2号証(特開平8-176319号公報)に記載された発明であるから、訂正前の本件請求項1〜5に係る発明の特許は特許法第29条第1項第3号に違反してされたものであって取り消されるべきものである
(2)訂正前の本件請求項1〜5に係る発明は甲第1号証(特開平6-221322号公報)、甲第2号証(特開平8-176319号公報)及び甲第3号証(導電性高分子材料研究会企画編集「高分子への新しい導電性付与技術・その新用途開発・実用化の実際-総合技術資料集」昭和58年1月25日、中部経営開発センター出版部発行、第36頁、第37頁)に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件請求項1〜5に係る発明の特許は特許法第29条第2項に違反してされたものであって取り消されるべきものである
というものである。
〔2〕許異議申立人岩田直子の特許異議申立理由の概要
特許異議申立人岩田直子の特許異議申立理由の概要は、
(1)訂正前の本件請求項1〜5に係る発明は甲第1号証(特開平1-311172号公報)、甲第2号証(特開昭62-100556号公報)又は甲第3号証(特開昭62-131067号公報)に記載された発明であるから、訂正前の本件請求項1〜5に係る発明の特許は特許法第29条第1項第3号に違反してされたものであって取り消されるべきものである
(2)訂正前の本件請求項1〜5に係る発明は甲第1号証(特開平1-311172号公報)、甲第2号証(特開昭62-100556号公報)、甲第3号証(特開昭62-131067号公報)及び甲第4号証(特開平3-281574号公報)に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、訂正前の本件請求項1〜5に係る発明の特許は特許法第29条第2項に違反してされたものであって取り消されるべきものである
というものである。
〈2〉本件発明
本件特許第3017145号の請求項1〜5に係る発明は、訂正明細書の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1〜5に記載された事項により特定される次のとおりのものである。
「【請求項1】樹脂(但し環状オレフイン系樹脂、ポリアミック酸及びポ
リイミドを除く)100部に対して導電性充填材(但し金属繊維を除く)1〜50部、及び20℃、10MHzにおける比誘電率が30以上の誘電体充填材1〜30重量部が配合されてなることを特徴とする樹脂組成物。(以下「本件第1発明」という。)
【請求項2】導電性充頃材の比抵抗が10-3〜104Ω・cmである請求項1の樹脂組成物。(以下「本件第2発明」という。)
【請求項3】導電性充填材は径0.01〜3μm、長さが1〜500μm、アスペクト比5〜500の導電性セラミックス繊維又はカーボン繊維である請求項1又は2に記載の樹脂組成物。(以下「本件第3発明」という。)
【請求項4】誘電体充填材は、20℃、10MHzにおける比誘電率が
100以上のものである請求項1〜3のいずれかに記載の樹脂組成物。(以下「本件第4発明」という。)
【請求項5】誘電体充填材は、繊維状チタン酸アルカリ土類金属塩であ
る請求項1〜4のいずれかに記載の樹脂組成物。(以下「本件第5発明」という。」)」
〈3〉当審が通知した取消理由に引用された刊行物の記載事項
〔1〕刊行物1:特開平6-221322号公報(特許異議申立人丸川京子が提出した甲第1号証)
該刊行物には次の事項が記載されている。
「【請求項1】異方形状を有する導電物質もしくは非導電物質の少なくとも1種以上を1ないし50重量%含有することを特徴とするロール被覆用材料」(特許請求の範囲の請求項1)、
「この微細な異方形状を有する繊維状物質としては、具体的に、セラミック繊維、カーボンウイスカーの少なくとも1種以上を使用する。使用するセラミック繊維は、チタン酸アルカリ繊維、チタン酸アルカリ土類繊維……問わない。」(第2頁右欄第26行〜第35行)、
「更に、導電性を有する異方形状を有する繊維物質の少なくとも1種以上を配合した被覆用材料で被覆したロールは帯電防止などに大いに有効である。この場合、確実な効果を期待するには、使用する上記異方形状を有する導電性繊維類の比抵抗が、10-3ないし104Ω・cmであることが望ましく、……。前記の異方形状を有する繊維に導電性を付与する目的で、異方形状を有する繊維を還元ガス雰囲気下還元焼成したり、CVD法(化学蒸着法)、無電解メッキ法、浸漬法、スプレーコート法などを用いて繊維表面に金属、金属酸化物、カーボン、グラファイトカーボンなどを付着または沈着させることができる。」(第2頁右欄第36行〜第48行)、
「本発明のロール被覆材料に使用するこれらの異方形状を有する導電物質、又は非導電物質の大きさは、平均径が0.01〜3μm、平均長さが1〜500μm、平均アスペクト比が5〜500の範囲内である。」(第3頁左欄第5行〜第8行)、
「ロール被覆材料に使用する樹脂材料としては例えばナイロン、ポリエステル樹脂、塩化ビニル樹脂、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフイン樹脂、天然ゴム、スチレン・ブタジエンゴム、ネオプレンゴム、エチレン・プロピレン共重合体ゴム、ニトリルゴム、ポリウレタン樹脂、シリコーン樹脂、フッ素樹脂などの熱硬化性または熱可塑性高分子化合物が挙げられる。」(第3頁左欄第17行〜第24行)、
「実施例16 VDF/CTFE/変性PVDF共重合ポリマーに平均径0.5μm、平均長15μm、比抵抗102Ω・cmのチタン酸カリウム繊維15重量%、カーボンブラック2重量%を混練機を用いて添加混合した後、押出機にて成形加工し、80μmのチューブ状成形物を作成した。……。」(第5頁左欄第19行〜第24行)、
「実施例17 自然加硫シリコーンゴム(信越化学工業株式会社製)にカーボンブラックを添加し、更に、平均径0.3μm、平均長15μm、比抵抗101Ω・cmのチタン酸カリウム繊維(デントール、大塚化学株式会社製)を5重量%添加し、これをステンレス鋼製芯金に巻いて、ロールを制作した。」(第5頁左欄第35行〜第41行)。
〔2〕刊行物2:特開平8-176319号公報(特許異議申立人丸川京子が提出した甲第2号証)
該刊行物には次の事項が記載されている。
「【請求項1】単層の円筒状ポリイミドフィルムであって、外表面部分は主として強誘電性無機粉体が、非外表面部分は主として導電性カーボンブラックが各々ポリイミド系樹脂に分散されてなる円筒形ポリイミドフィルム。
【請求項2】5〜35重量部の強誘電性無機粉体、3〜30重量部の導電性カーボンブラック及びポリアミック酸(固形分)35〜92重量部を含む原料溶液を遠心注型して得た円筒状ポリアミック酸フィルムを加熱し、イミド閉環することにより外表面部付近は主として強誘電性無機粉体が、他の部分は主として導電性カーボンブラックが各々ポリイミド樹脂中に分散されてなることを特徴とする円筒状ポリイミドフィルムの製造方法。」(特許請求の範囲の請求項1及び請求項2)、
「本発明の円筒状ポリイミドフイルムは、通常では強誘電性無機粉体=5〜35重量部;導電性カーボンブラック=3〜30重量部;及びポリイミド樹脂=35〜92重量部;の比率を有するのが好ましいが、」(第3頁左欄第39行〜第42行)、
「ここで強誘電性無機粉末は、一般にいわれる分極と電解とが比例せず、履歴現象を示す物質の中の特に特に無機粉体である。誘電率からいえば約100以上、可能な限り大きいものが好ましい。……。具体的には、例えば酸化チタン(TiO2比重4.3g/cm3)、チタン酸バリウム(BaTiO3、比重4.3/cm3)、チタン酸・ジルコン酸塩(PbTiO3・PbZnO3、比重4.75g/cm3)等を挙げることができるが、中でも誘電率500以上の該無機粉体が好ましく、これには例えばチタン酸バリウム、チタン酸ジルコン酸鉛がある。」(第4頁左欄第46行〜同頁右欄第8行)、
「粉体の大きさは特に制限はないが……ウィスカー状の場合はウィスカー長1〜30μm、径0.5〜20μm程度を例示できる。」(第4頁右欄第14行〜第18行)、
「また導電性カーボンブラックは、一般にいわれる各種炭化水素化合物の不完全燃焼によって得られる、黒色の炭素粉末の中で、導電性に優れているものである。これは製造方法によってアセチレンブラック、オイルファーネスブラック、サーマルブラック、チャネルブラック等に分けられるが、」(第4頁右欄第36行〜第41行)、
「実施例1 ……ポリアミック酸(固形分)85重量%、チタン酸バリウム粉末10重量%、ケッチェンブラックEC 5重量%の固形分100重量部に対してジメチルアセトアミドは640重量部であった。以下これをA混合液と称する。」(第7頁右欄第41行〜第8頁左欄第7行)、
「実施例2 ……ポリアミック酸(固形分)85重量%、チタン酸ジルコン酸鉛ウイスカー5重量%および三菱カーボン10重量%の固形分100重量部と、残りの前記2種の溶媒700重量部とEFTOP・EF-351少量であった。以下これをC混合液と称する。」(第8頁右欄第34行〜第9頁左欄第3行)、
「比較例2 ……
【表1】
No 混合物(重量部)
ポリアミ チタン酸ジ 三菱カーボン 複写結果 引張強度
ック酸 ルコン酸鉛 #3750
1 83.0 2.0 15.0 ………… …………
2 83.5 15.0 1.5 ………… …………3 45.0 40.0 15.0 ………… …………
4 50.0 15.0 35.0 ………… …………
」(第9頁右欄第48行〜第10頁上欄の段落番号【0104】)、
「【発明の効果】本発明は以上に説明したように構成されているので、以下に記載するような効果を奏する。単層の円筒状ポリイミドフィルムであって、かつ外表面部分では強誘電性、他の部分、すなわち非外表面部分では半導電性がバランス良く付与されている。これは適切な蓄電と放電とを必要とし、かつ高い耐熱性と機械的特性を必要とする機器にとって、全く新しい特性を持つ機能部材として極めて有用である。例えば、前記特性がより有効に生かされる機器として、静電式複写装置のトナー転写体がある。」(第10頁右欄第30行〜第39行)。
〔3〕刊行物3:「高分子への新しい導電性付与技術 その新用途開発 実用化の実際総合技術資料集 第37頁表2.中部経営開発センター出版部、昭和58年1月25日発行」(異議申立人丸川京子が提出した甲第3号証)
該刊行物には次の事項が記載されている。
「表2 各種カーボンブラックの電気的性質と真比重
Conductivity
120Kg/cm2 10%inHDPE
(Ohm-cm) (Ohm-cm)
Ketjen
blackEC 0.102 10 」
(第37頁に記載の表2)。
〔4〕刊行物4:特開平1-31172号公報(特許異議申立人岩田直子が提出した甲第1号証)
該刊行物には次の事項が記載されている。
「(1)サーモトロピック液晶ポリマー中に誘電損失ε tanδが0.8以上の値を持つフィラーを充填したフィルムまたはシートからなることを特徴とする電子レンジ用サセプター。
(2)該フィラーがサーモトロピック液晶ポリマー100重量部に対して5〜150重量部充填してなることを特徴とする請求項1記載の電子レンジ用サセプター。
(3)該フイラーがチタン酸バリウム、チタン酸カルシウム、チタン酸マグネシウム……の中から選ばれた少なくとも1種類からなることを特徴とする請求項1又は2記載の電子レンジ用サセプター。」(特許請求の範囲の請求項1〜3)、
「本発明で用いるサーモトロピック液晶ポリマー中には、本発明の要旨を逸脱しない範囲で他の添加剤を配合することができる。これには、無機充填剤、有機充填剤、……等があげられる。このうち特に無機充填剤が重要で加工性、物性等の改良のためにしばしば用いられる。無機充填剤としては、……黒鉛、……、炭素繊維、各種ウィイスカー等がある。」(第4頁左下欄第1行〜第10行)。
〔5〕刊行物5:特開昭62-100556号公報(特許異議申立人岩田直子が提出した甲第2号証)
該刊行物には次の事項が記載されている。
「1導電性フィラーを異方性溶融相を形成する溶融加工可能なポリマー組成物に混入してなる電磁シールド材料。
2導電性フィラーの含有量が電磁シールド材料全量に対し0.1〜75重量%である特許請求の範囲第1項記載の電磁シールド材料。」(特許請求の範囲)、
「本発明で使用する導電性フィラーとしては、フィラー混入タイプの電磁シールド材に一般に用いられているフィラーが用いられる。例えば、導電性カーボンブラック、グラファイト、…、カーボン繊維、……等が例示される。……。また、フィラーの形状、粒径、長さや直径、大きさ等も特に限定されるものではなく、用途に応じて適宜選定することができるが、……。導電性フィラーの含有量は電磁シールド材料全量に対し0.1〜75重量%である。0.1重量%未満では本発明の企図する効果が得られず、75重量%を越えると成形加工性に難が生ずる。好ましい含有量の範囲は3〜60%、特に5〜40重量%である。」(第3頁左下欄第5行〜同頁右下欄第17行)、
「本発明に使用される異方性溶融相を形成する溶融加工可能なポリマー組成物には(1)(該刊行物では丸数字で記載されているが、丸数字は審判ペーパーレスシステムで使用できない符号であるので、括弧数字で記載した。)その他の異方性溶融相を形成するポリマー、(2)(該刊行物では丸数字で記載されているが、丸数字は審判ペーパーレスシステムで使用できない符号であるので、括弧数字で記載した。)異方性溶融相を形成しない熱可塑性樹脂、(3)(該刊行物では丸数字で記載されているが、丸数字は審判ペーパーレスシステムで使用できない符号であるので、括弧数字で記載した。)熱硬化性樹脂、(4)(該刊行物では丸数字で記載されているが、丸数字は審判ペーパーレスシステムで使用できない符号であるので、括弧数字で記載した。)低分子有機化合物、(5)(該刊行物では丸数字で記載されているが、丸数字は審判ペーパーレスシステムで使用できない符号であるので、括弧数字で記載した。)無機物の内の1つあるいはそれ以上を、本発明の目的を損なわない範囲で含有してもよい。……。更に上記(5)(該刊行物では丸数字で記載されているが、丸数字は審判ペーパーレスシステムで使用できない符号であるので、括弧数字で記載した。)の無機物としては、例えば一般の熱可塑性樹脂及び熱硬化性樹脂に添加される物質のうち導電性を有しないもので、すなわち、ガラス繊維、……チタン酸カリウム、チタン酸バリウム、アルミナ、シリカ、高炉スラグ等の無機繊維、……等が含まれる。」(第9頁左上欄第4行〜同頁右下欄第5行)。
〔6〕刊行物6:特開昭62-131067号公報(特許異議申立人岩田直子が提出した甲第3号証)
該刊行物には次の事項が記載されている。
「1(1)溶融時に異方性を示すサーモトロピック液晶性ポリマーと、(2)導電性カーボンブラックを含有してなる導電性樹脂組成物。」(特許請求の範囲第1項)、
「本発明に用いられる導電性カーボンブラックは……。導電性カーボンブラックの添加量は、樹脂組成物全量に対し0.5〜75重量%である。……。物性及び配合の面から好ましい添加量は、2〜35重量%である。又、本発明においては、上記導電性カーボンブラックに加え、他の導電性フィラーを併用することも可能である。斯かる導電性フィラーとしては、……。例えば、グラファイト、……カーボン繊維、……等が例示される。……、また、フィラーの形状、粒径、長さや直径、大きさ等も特に限定されるものではなく、用途に応じて適宜選定することができるが、……。これら導電性カーボンブラック以外のフィラーの含有量は、成形性等の点から樹脂組成物全量に対し、繊維状フィラーなら30重量%、その他の形状のフィラーなら40重量%までに押さえるべきである。」(第2頁左下欄第12行〜第3頁左上欄第17行)、
「本発明に使用される異方性溶融相を形成する溶融加工可能なポリマー組成物には(1)(該刊行物では丸数字で記載されているが、丸数字は審判ペーパーレスシステムで使用できない符号であるので、括弧数字で記載した。)その他の異方性溶融相を形成するポリマー、(2)(該刊行物では丸数字で記載されているが、丸数字は審判ペーパーレスシステムで使用できない符号であるので、括弧数字で記載した。)異方性溶融相を形成しない熱可塑性樹脂、(3)(該刊行物では丸数字で記載されているが、丸数字は審判ペーパーレスシステムで使用できない符号であるので、括弧数字で記載した。)熱硬化性樹脂、(4)(該刊行物では丸数字で記載されているが、丸数字は審判ペーパーレスシステムで使用できない符号であるので、括弧数字で記載した。)低分子有機化合物、(5)(該刊行物では丸数字で記載されているが、丸数字は審判ペーパーレスシステムで使用できない符号であるので、括弧数字で記載した。)無機物の内の1つあるいはそれ以上を、本発明の目的を損なわない範囲で含有してもよい。……。更に上記(5)(該刊行物では丸数字で記載されているが、丸数字は審判ペーパーレスシステムで使用できない符号であるので、括弧数字で記載した。)の無機物としては、例えば一般の熱可塑性樹脂及び熱硬化性樹脂に添加される物質のうち導電性を有しないもので、すなわち、ガラス繊維、……チタン酸カリウム、チタン酸バリウム、アルミナ、シリカ、高炉スラグ等の無機繊維、……等が含まれる。」(第9頁右上欄第4行〜第10頁左上欄第5行)
〔7〕刊行物7:特開平3-281574号公報(特許異議申立人岩田直子が提出した甲第4号証)
該刊行物には次の事項が記載されている。
「(1)(a)射出成形可能な合成樹脂及び(b)繊維状チタニヤ化合物の表面に溶液反応によりアルカリ土類金属の炭酸塩を沈着させ500〜1300℃で加熱処理することにより得られる一般式MO・nTiO2(式中、Mはアルカリ土類金属の1種もしくは2種以上を組み合わせたもの、nは1〜12の実数である。)で示される繊維状チタン酸アルカリ土類金属からなることを特徴とする高誘電性樹脂組成物。
……
(3)一般式MO・nTiO2で示される繊維状チタン酸アルカリ土類金属がチタン酸バリウム(n=1)である請求項1記載の高誘電性樹脂組成物。」(特許請求の範囲の請求項1〜3)、
「射出成形可能で、機械的強度も高く、かつ高い誘電性を有する樹脂組成物を得るためには、それ自体誘電率が高く機械的強度も高い繊維状チタン酸アルカリ土類金属が必要である。」(第2頁右上欄第8行〜第11行)。
〈4〉本件発明と刊行物1、2、4、5及び6に記載された発明との同一性の判断(特許法第29条第1項第3号)
〔1〕刊行物1に記載された発明との同一性について
本件発明は樹脂に導電性充填剤と誘電体充填剤の2種を配合するものであるところ、刊行物1に記載された発明はその特許請求の範囲にも記載されるように樹脂に少なくとも1種以上の異方形状物質を配合する発明に係るものであり、たまたま、実施例16及び17では比抵抗101Ω・cmまたは102Ω・cmのチタン酸カリウム繊維とカーボンブラックの2成分を配合しているが、それ以外には2成分を特定して配合する例は具体的には記載されていない。
そこで、この実施例16及び17と本件第1発明とを対比すると、カーボンブラックは導電性充填剤と考えられるが、比抵抗101Ω・cmまたは102Ω・cmのチタン酸カリウム繊維は誘電性充填剤とは言い難いものである。
すなわち、特許権者に対する審尋について平成14年1月25日付けで特許権者より提出された回答書によれば、本件発明の誘電体充填材は108Ω・cm以上の比抵抗の物質であるとのことであり、その根拠として日本セラミックス協会編「セラミックス辞典・第2版」(丸善株式会社、平成9年3月25日発行)の「絶縁体」(第380頁)及び「誘電体」(第731頁)の項の記載、即ち「電気伝導率で、10-8Ω-1・cm-1以下位を絶縁体としている。」を挙げており、電気伝導率が比抵抗の逆数であり、また、本件明細書の段落番号【0006】において導電性充填剤の比抵抗が0〜107Ω・cmとしており、それとの対比からも、本件発明の誘電体充填材は108Ω・cm以上の比抵抗としたことは妥当な見解であると認められるからである。
なお、ここで、チタン酸カリウム繊維そのものは絶縁物質であるが、刊行物1ではこれに種々の方法で導電性を付与することが記載されているので(段落番号【0009】)、実施例16及び17に記載されたものはその比抵抗の値からこのような導電性を付与されたものであると考えるのが相当である。
また、刊行物1には、本件発明が意図する印加電圧の変化に対して安定した抵抗率を有するものを得ることは何ら記載されていない。
したがって、本件第1発明は刊行物1に記載された発明とはいえない。
そして、本件第2発明は本件第1発明に対して導電性充填材の比抵抗を数値的に限定したものであり、本件第3発明は本件第1発明に対して導電性充填材の径、長さ及びアスペクト比を数値的に限定すると共にそれがセラミックス繊維又はカーボン繊維であることを規定するものであり、本件第4発明は本件第1発明に対し誘電体充填材の比誘電率を数値的に限定するものであり、そして、本件第5発明は本件第1発明に対して誘電体充填材が繊維状チタン酸アルカリ土類金属塩であることを規定するものであるから、本件第1発明が刊行物1に記載された発明とはいえない以上、本件第2発明〜第5発明も刊行物1に記載された発明とはいえない。
〔2〕刊行物2に記載された発明との同一性について
刊行物2に記載された発明はポリイミドフィルムに強誘電性無機粉末と導電性カーボンブラックが分散されたものであり、刊行物2の実施例や比較例には、ポリイミドに、チタン酸バリウムとケッチェンブラックEC、あるいは、チタン酸ジルコン酸鉛のウィスカーと三菱カーボン#750を、各種の比率で配合した実験例が記載されているが(カーボンブラックは本件発明における導電性充填材に該当し、チタン酸バリウムとチタン酸ジルコン酸鉛のウィスカーは本件発明における誘電体充填材に該当する。)、本件第1発明に係る樹脂はポリアミック酸やポリイミドを除くものであるから、この点で、本件第1発明は刊行物2に記載された発明と相違する。
また、刊行物2には、本件発明が意図する印加電圧の変化に対して安定した抵抗率を有するものを得ることは何ら記載されていない。
したがって、本件第1発明は刊行物2に記載された発明とはいえない。
そして、本件第2発明は本件第1発明に対して導電性充填材の比抵抗を数値的に限定したものであり、本件第3発明は本件第1発明に対して導電性充填材の径、長さ及びアスペクト比を数値的に限定すると共にそれがセラミックス繊維又はカーボン繊維であることを規定するものであり、本件第4発明は本件第1発明に対し誘電体充填材の比誘電率を数値的に限定するものであり、そして、本件第5発明は本件第1発明に対して誘電体充填材が繊維状チタン酸アルカリ土類金属塩であることを規定するものであるから、本件第1発明が刊行物2に記載された発明とはいえない以上、本件第2発明〜第5発明も刊行物2に記載された発明とはいえない。
〔3〕刊行物4に記載された発明との同一性について
本件発明は樹脂に導電性充填剤と誘電体充填剤の2種を配合するものであるところ、刊行物4に記載された発明はその特許請求の範囲にも記載されるように液晶ポリマーにチタン酸バリウム(本件発明における誘電体充填材に該当する。)などのフィラーを1種以上配合する発明であり、任意に添加し得る添加物の例として黒鉛や炭素繊維(いずれも本件発明の導電性充填材に該当する。)も例示されているが、フィラーと任意の添加剤を特定して併用した例は具体的には何も示されていない。本件発明は樹脂として液晶ポリマーを使用することは排除していないが、刊行物4に黒鉛、炭素繊維等の導電性充填材の配合量について具体的な明示はないので、本件第1発明が刊行物4に記載された発明と同一のものであるとすることはできない。
また、刊行物4には、本件発明が意図する印加電圧の変化に対して安定した抵抗率を有するものを得ることは何ら記載されていない。
したがって、本件第1発明は刊行物4に記載された発明とはいえない。
そして、本件第2発明は本件第1発明に対して導電性充填材の比抵抗を数値的に限定したものであり、本件第3発明は本件第1発明に対して導電性充填材の径、長さ及びアスペクト比を数値的に限定すると共にそれがセラミックス繊維又はカーボン繊維であることを規定するものであり、本件第4発明は本件第1発明に対し誘電体充填材の比誘電率を数値的に限定するものであり、そして、本件第5発明は本件第1発明に対して誘電体充填材が繊維状チタン酸アルカリ土類金属塩であることを規定するものであるから、本件第1発明が刊行物4に記載された発明とはいえない以上、本件第2発明〜第5発明も刊行物4に記載された発明とはいえない。
〔4〕刊行物5に記載された発明との同一性について
本件発明は樹脂に導電性充填剤と誘電体充填剤の2種を配合するものであるところ、刊行物5に記載された発明はその特許請求の範囲にも記載されるように異方性溶融相を形成するポリマーに導電性フィラー(即ち充填材)を配合する発明に係るものであり、任意に添加し得る添加成分である無機物の一例としてチタン酸バリウム(本件発明における誘電体充填材に該当する。)も例示されているが、導電性フィラーと任意の添加成分を特定して併用した例は具体的には何も示されていない。本件発明は樹脂として異方性溶融相を形成するポリマーを使用することは排除していないが、刊行物5にチタン酸バリウムの配合量について何ら開示されていないので、本件第1発明が刊行物5に記載された発明と同一のものであるとすることはできない。
また、刊行物5には、本件発明が意図する印加電圧の変化に対して安定した抵抗率を有するものを得ることは何ら記載されていない。
したがって、本件第1発明は刊行物5に記載された発明とはいえない。
そして、本件第2発明は本件第1発明に対して導電性充填材の比抵抗を数値的に限定したものであり、本件第3発明は本件第1発明に対して導電性充填材の径、長さ及びアスペクト比を数値的に限定すると共にそれがセラミックス繊維又はカーボン繊維であることを規定するものであり、本件第4発明は本件第1発明に対し誘電体充填材の比誘電率を数値的に限定するものであり、そして、本件第5発明は本件第1発明に対して誘電体充填材が繊維状チタン酸アルカリ土類金属塩であることを規定するものであるから、本件第1発明が刊行物5に記載された発明とはいえない以上、本件第2発明〜第5発明も刊行物5に記載された発明とはいえない。
〔5〕刊行物6との同一性について
本件発明は樹脂に導電性充填剤と誘電体充填剤の2種を配合するものであるところ、刊行物6に記載された発明はその特許請求の範囲にも記載されるようにサーモトロピック液晶ポリマーに導電性カーボンブラック(本発明における導電性充填材に該当する。)を配合する発明に係るものであり、任意に添加し得る添加成分である無機物の一例としてチタン酸バリウム(本件発明における誘電体充填材に該当する。)も例示されているが、導電性カーボンブラックと任意の添加成分を特定して併用した例は具体的には何も示されていない。本件発明は樹脂としてサーモトロピック液晶ポリマーを使用することは排除していないが、刊行物6にチタン酸バリウムの配合量について何ら開示されていないので、本件第1発明が刊行物6に記載された発明と同一のものであるとすることはできない。
また、刊行物6には、本件発明が意図する印加電圧の変化にたいして安定した抵抗率を有するものを得ることは何ら記載されていない。
したがって、本件第1発明は刊行物6に記載された発明とはいえない。
そして、本件第2発明は本件第1発明に対して導電性充填材の比抵抗を数値的に限定したものであり、本件第3発明は本件第1発明に対して導電性充填材の径、長さ及びアスペクト比を数値的に限定すると共にそれがセラミックス繊維又はカーボン繊維であることを規定するものであり、本件第4発明は本件第1発明に対し誘電体充填材の比誘電率を数値的に限定するものであり、そして、本件第5発明は本件第1発明に対して誘電体充填材が繊維状チタン酸アルカリ土類金属塩であることを規定するものであるから、本件第1発明が刊行物6に記載された発明とはいえない以上、本件第2発明〜第5発明も刊行物6に記載された発明とはいえない。
〈5〉進歩性の判断(特許法第29条第2項)
本件発明は樹脂に導電性充填剤と誘電体充填剤の2種を配合するものであるところ、上記〈4〉で述べたように、刊行物1及び刊行物4〜6には本件発明の導電性充填剤と誘電体充填剤の2種を特定割合で配合することは何ら記載されていない。
ただ、刊行物2には、上記〈4〉〔2〕で述べたように、(本件発明における導電性充填材に該当する)ケッチェンブラックECと(本件発明における導電性充填材に該当する)チタン酸バリウムの2種を配合することや、(本件発明における導電性充填材に該当する)三菱カーボン#750と(本件発明における導電性充填材に該当する)チタン酸ジルコン酸鉛のウィスカーの2種を配合することが記載されているものの、本件発明が意図する印加電圧の変化に対して安定した抵抗率を有するものを得ることは何ら記載されていない。因みに、刊行物2に記載された発明は、外表面部分では主として強誘電性無機粉末が分散し、非外表面部分では主として導電性カーボンブラックが分散しているため、円筒状のポリイミドフィルムにおいて外表面部分では強誘電性、他の部分、すなわち非外表面部分では半導電性がバランス良く付与されているので、適切な蓄電と放電と必要とする機器(例えば、静電式複写機装置のトナー転写体)にとって有効であると言うものであり(第10頁右欄第30行〜第39行)、発明の意図するところが本件発明とは全く異なる。
しかも、刊行物2に記載された発明に係るような充填材の分散不均一な円筒状フィルムは、ポリアミック酸組成物を遠心注型し、その後加熱してイミド閉環するという2段階で円筒形ポリイミドフィルムとすることにより得られるのであり(請求項2)、この製造方法はこの樹脂に固有のものであることを考慮すると、他の樹脂のすべてに容易に転用できるものではない。
また、刊行物3は単にケッチェンブラックECの電気伝導性の数値を示すに過ぎない。また、刊行物7には、合成樹脂に繊維状チタン酸アルカリ土類金属塩を配合した高誘電性樹脂組成物の発明について記載され、それ自体誘電率が高い材料として繊維状チタン酸アルカリ土類金属塩があることを示すに過ぎない。そして、刊行物3及び刊行物7には、本件発明が意図する意図する印加電圧の変化に対して安定した抵抗率を有するものを得ることは何ら記載されていない。
してみると、本件第1発明は刊行物1〜7に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものということはできない。
そして、本件第2発明は本件第1発明に対して導電性充填材の比抵抗を数値的に限定したものであり、本件第3発明は本件第1発明に対して導電性充填材の径、長さ及びアスペクト比を数値的に限定すると共にそれがセラミックス繊維又はカーボン繊維であることを規定するものであり、本件第4発明は本件第1発明に対し誘電体充填材の比誘電率を数値的に限定するものであり、そして、本件第5発明は本件第1発明に対して誘電体充填材が繊維状チタン酸アルカリ土類金属塩であることを規定するものであるから、本件第1発明が刊行物1〜7に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものということはできない以上、本件第2発明〜第5発明も刊行物1〜7に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものということはできない
【4】むすび
以上のとおりであるから、特許異議申立人丸川京子及び岩田直子が提出した特許異議申立の理由及び証拠によっては本件第1発明〜第5発明の特許を取り消すことはできない。
また、他に本件第1発明〜第5発明の特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
樹脂組成物
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】 樹脂(但し環状オレフィン系樹脂、ポリアミック酸及びポリイミドを除く)100部に対して導電性充填材(但し金属繊維を除く)1〜50部、及び20℃、10MHzにおける比誘電率が30以上の誘電体充填材1〜30重量部が配合されてなることを特徴とする樹脂組成物。
【請求項2】 導電性充填材の比抵抗が10-3〜104Ω・cmである請求項1の樹脂組成物。
【請求項3】 導電性充填材は径0.01〜3μm、長さが1〜500μm、アスペクト比5〜500の導電性セラミックス繊維又はカーボン繊維である請求項1又は2に記載の樹脂組成物。
【請求項4】 誘電体充填材は、20℃、10MHzにおける比誘電率が100以上のものである請求項1〜3のいずれかに記載の樹脂組成物。
【請求項5】 誘電体充填材は、繊維状チタン酸アルカリ土類金属塩である請求項1〜4のいずれかに記載の樹脂組成物。
【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は抵抗率の印加電圧依存性が少ない導電性もしくは半導電性を有する樹脂組成物に関する。
【0002】
【従来の技術】
導電性樹脂材料は、各種の電子部品用材料や構造材料として用いられている。これらのうち電極用材料や抵抗素子材料、電子複写機等の転写ロール、ベルト等に用いられる導電性もしくは半導電性材料としては、導電率が均一且つ安定していることが要求されている。
これまでに、印加電圧が一定な場合に抵抗率を安定に保ち得る導電性樹脂材料については知られているが(例えば特開平5-286056号公報等)、印加電圧の変化に拘わらず抵抗率を概ね安定に保ち得るような導電性樹脂材料は知られていなかった。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の課題は、外部環境の変化、とりわけ印加電圧の変化に対して安定な抵抗率を有する導電性もしくは半導電性樹脂組成物を提供することにある。更に本発明の課題は、機械的強度に優れ、寸法安定性及び耐摩耗性に優れた導電性もしくは半導電性樹脂組成物を提供することにある。
【0004】
【課題を解決するための手段】
本発明は樹脂(但し環状オレフィン系樹脂、ポリアミック酸及びポリイミドを除く)100部に対して、導電性充填材(但し金属繊維を除く)1〜50部及び20℃、10MHzにおける比誘電率が30以上の誘電体充填材1〜30重量部が配合されてなることを特徴とする樹脂組成物に係る。
【0005】
【発明の実施の形態】
本発明の導電性もしくは半導電性を有する樹脂組成物とは、比抵抗が概ね1012程度未満の樹脂組成物をいう。
本発明の樹脂組成物のマトリックスとして用いられる樹脂としては、特に制限はなく、目的とする材料の用途に応じて適宜選定し得る。樹脂の具体例としては、天然ゴム、スチレン-ブタジエンゴム、ネオプレンゴム、エチレン-プロピレン共重合体ゴム、ニトリルゴム等の各種エラストマー、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、ユリア樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、シリコーン樹脂、フッ素樹脂、ポリウレタン樹脂等の熱硬化性もしくは反応硬化性樹脂、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル等の汎用熱可塑性樹脂、ポリアミド、熱可塑性ポリエステル等の液晶ポリマー、ポリアセタール、ポリフェニレンサルファイド、ポリサルフォン、ポリエーテルイミド、ポリエーテルエーテルケトン等のエンジニアリングプラスチックス等を挙げられる。
【0006】
本発明に用いられる導電性充填材としては、粒状、繊維状、鱗片状等の各種の形状のものが用いられ、比抵抗0〜107Ω・cm、好ましくは10-3〜104Ω・cmのものが用いられる。具体例としては、金、銅、銀、亜鉛、アルミニウム、鉄、酸化錫等の導電性金属又は導電性金属酸化物の径0.1〜100μmの粒状粉末もしくは径0.1〜30μm、長さ3〜2000μmの繊維状粉末、
シリカ、カオリン、タルク、マイカ等の粒状もしくは鱗片状無機粉末やナイロン糸、ポリエステル糸等の合成樹脂繊維の表面に、アンチモンやインジウム等がドープされていてもよい酸化錫やカーボン等の導電層を被覆してなる粉末状もしくは繊維状導電性粉体、
ケッチェンブラック、アセチレンブラック、カーボン繊維(カーボンウィスカを含む)、黒鉛粒等の炭素類、
チタン酸カリウム、チタン酸アルミン酸カリウム、ホウ酸マグネシウム、ホウ酸アルミニウム、チタニア、ワラストナイト、ゾノトライト、窒化ケイ素等の酸化物系もしくは非酸化物系セラミックスの繊維状物(単結晶繊維、アモルファス繊維、多結晶繊維のいずれでもよく、ウィスカを含む)の表面に、アンチモンやインジウム等がドープされていてもよい酸化錫やカーボン等の導電層を被覆するか、酸化物系セラミックスを還元焼成することにより導電性の付与された繊維状セラミックス粉体(以下、導電性セラミックス繊維と総称する)が例示できる。
【0007】
酸化物系もしくは非酸化物系セラミックスの表面にアンチモンやインジウム等がドープされていてもよい酸化錫を被覆する方法としては、化学蒸着法、無電解メッキ法、浸漬法、スプレーコート法等を用いることができ、例えば特開昭59-102820号、特開平2-149424号等に記載の方法に準じて製造することができる。
また、カーボン導電層を被覆する方法としては、被覆されるセラミックスとアルカンガス、オレフィンガス、トルエン、キシレン等の炭素化合物との混合物を還元又は不活性雰囲気下に昇温し500〜1300℃で加熱焼成する方法を例示できる。
中でも、抵抗率の均一性及び樹脂組成物の機械的強度、寸法精度の向上の観点からは、カーボン繊維、導電性セラミックス繊維が好ましく、更に平均径0.01〜3μm、平均長さ1〜500μm、平均アスペクト比5〜500の範囲のものが特に好ましい。ここで平均径とは、前記繊維状物質の断面が円形でない場合には相当直径を意味する。
【0008】
本発明に用いられる誘電体充填材とは、20℃、10MHzにおける比誘電率が30以上、好ましくは100以上の充填材であり、その具体例としては、一般式MO・TiO2(式中、MはBa、Sr、Ca、Mg、Co、Pb、Zn、Be、Cdより選ばれる一種又は二種以上)で表わされるチタン酸金属塩化合物、ニオブ酸アルカリ金属塩、ニオブ酸鉛、ジルコン酸鉛、チタン酸ジルコン酸鉛、錫酸鉛、タンタル酸アルカリ金属塩、タンタル酸鉛、タンタル酸ルビジウム、酸化モリブデン、酸化タングステン等が例示できる。中でもチタン酸バリウム、チタン酸カルシウム、チタン酸マグネシウム、チタン酸ストロンチウム、チタン酸バリウムストロンチウム、チタン酸バリウムカルシウム等のチタン酸アルカリ土類金属塩は安定で高い誘電率を示し入手が容易なため好ましく用いられる。
【0009】
これらの誘電体充填材の形状としては、特に制限はないが、通常、粒状又は繊維状のものが用いられる。これらは単結晶体、多結晶体、アモルファス状もしくはこれらの混合物のいずれであってもよい。粒状のものを用いる場合、平均径0.1〜100μm程度のものが、又、繊維状のものを用いる場合は、平均径0.1〜5μm、平均長5〜500μmの範囲のものが好ましく用いられる。これらの誘電体充填材は一種を単独で用いてもよく、又は二種以上を併用してもよい。
尚、これらの誘電体充填材の表面を、アンチモンやインジウム等がドープされていてもよい酸化錫やカーボン等の導電層で被覆する等して導電性を付与して用いる場合、これらは誘電体充填材であるとともに導電性充填材としても作用するので、斯かる充填材のみを配合した樹脂組成物も本発明の樹脂組成物の範疇に含まれる。
【0010】
本発明の樹脂組成物の各成分の配合割合は、選択された成分や目的材料に要求される物性により適宜設定し得るが、樹脂100重量部に対して導電性充填材を、好ましくは1〜50重量部、更に好ましくは5〜30重量部、誘電体充填材を、好ましくは1〜30重量部、更に好ましくは5〜20重量部配合するのがよい。導電性充填材の配合量が少なすぎると、所望の導電性もしくは半導電性が得られないため好ましくない。また導電性充填材の配合量が多すぎると成形が困難となり、また物性を低下させるため好ましくない。誘電体充填材の配合量が少なすぎると抵抗率安定効果が発現されないため好ましくなく、多すぎると経済的に不利となり、また成形が困難となったり、物性が低下する虞があるため好ましくない。
【0011】
本発明の樹脂組成物の製造に当たっては、慣用の方法を適宜採用し得るが、例えば、熱可塑性樹脂を用いる場合には充填材成分と樹脂ペレットを予め乾式混合した後、二軸押出機を用いて溶融混練押出し、ペレット化する方法を例示できる。尚、本発明の樹脂組成物は、一旦ペレット化して、保管・流通・使用できるが、溶融状態から直接各種の成形品に成形してもよい。
熱又は反応硬化性樹脂を用いる場合には、液状樹脂と充填材成分を撹拌混合することにより製造できる。得られた樹脂組成物は任意の成形方法で成形することができる。
本発明の樹脂組成物を用いて成形品を製造する際には、押出成形、カレンダー成形、プレス成形、ブロー成形、射出成形等の各種成形法を採用できる。また硬化性樹脂を用いる場合は本発明の樹脂組成物をシートモールディングコンパウンドもしくはバルクモールディングコンパウンド用材料として用いることも可能である。
【0012】
【実施例】
以下に実施例を示し、本発明を更に詳細に説明する。尚、以下において部とあるのは重量部を意味する。
【0013】
実施例1
シリコーンゴム100部に対し、導電性チタン酸カリウム(デントールBK300、大塚化学株式会社製、チタン酸カリウム繊維の表面に酸化アンチモン及び酸化錫を被覆したもの、繊維径0.4〜0.7μm、繊維長10〜20μm、比抵抗率4.3Ω・cm)20部及び繊維状チタン酸バリウム[BTW、大塚化学株式会社製、繊維径0.1〜0.5μm、繊維長1〜5μm、比誘電率240(10MHz)]10部、酸化亜鉛 20部、シリコーン変性オイル 5部、発泡剤 5部、少量の加硫剤を混練機を用いて添加混合して本発明のエラストマー樹脂組成物を得た。
得られたエラストマーにつき、室温で印加電圧を1〜3kVの範囲で変化させ印加電圧の変化に対するエラストマーの抵抗率の変化を測定した。得られた抵抗率を常用対数に換算した最大値と最小値との差は0.3であった。
【0014】
実施例2
繊維状チタン酸バリウムの配合量を20部とした他は実施例1と同様にしてエラストマーを製造した。得られたエラストマーの印加電圧の変化に対する抵抗率の変化を実施例1と同様に測定した結果、最大値と最小値の差は0.2であった。
【0015】
実施例3
実施例1の繊維状チタン酸バリウムに代えて繊維状チタン酸バリウムストロンチウム[BSTW、大塚化学株式会社製、繊維径0.1〜0.5、繊維長5〜10、誘電率380(10MHz)]を20部用いた他は実施例1と同様にしてエラストマーを製造した。得られたエラストマーの印加電圧の変化に対する抵抗率の変化を実施例1と同様に測定した結果、最大値と最小値の差は0.3であった。
【0016】
実施例4
熱可塑性ポリエステルエラストマー 100部に対し導電性チタン酸カリウム 30部(実施例1で用いたもの)、繊維状チタン酸バリウム 20部(実施例1で用いたもの)を混練機を用いて混合し、樹脂組成物を製造した。得られたエラストマーの印加電圧の変化に対する抵抗率の変化を実施例1と同様に測定した結果、最大値と最小値の差は0.4であった。
【0017】
【表1】

(測定方法:直流抵抗計を用い厚さ2mmのシートの厚み方向の抵抗率を測定した。例えば6E9とは6×109の意である。)
【0018】
【発明の効果】
本発明の樹脂組成物は、外部環境の変化、とりわけ印加電圧の変化に対して安定な抵抗率(例えば印加電圧を1〜3KVの範囲で変化させた際の抵抗率の変化が常用対数に換算した最大値と最小値の差で0.5以下)を示すので、電極用材料や抵抗素子用材料、電子写真複写機、レーザープリンター等の転写ロール、ベルトの成形材料等に好適に用いられる。
また、本発明の樹脂組成物のうち、導電性充填材として径0.01〜3μm、長さが1〜500μm、アスペクト比5〜500の導電性セラミックス繊維又はカーボン繊維を用いるものは、前記の電気特性に加えて優れた機械的強度と表面平滑性、耐摩耗性、寸法安定性を具備する材料となるので一層好適である。
 
訂正の要旨 訂正の内容
1.明細書の特許請求の範囲を次の通り訂正する。
【請求項1】 樹脂(但し環状オレフィン系樹脂、ポリアミック酸及びポリイミドを除く)100部に対して導電性充填材(但し金属繊維を除く)1〜50部、及び20℃、10MHzにおける比誘電率が30以上の誘電体充填材1〜30重量部が配合されてなることを特徴とする樹脂組成物。
【請求項2】 導電性充填材の比抵抗が10-3〜104Ω・cmである請求項1の樹脂組成物。
【請求項3】 導電性充填材は径0.01〜3μm、長さが1〜500μm、アスペクト比5〜500の導電性セラミックス繊維又はカーボン繊維である請求項1又は2に記載の樹脂組成物。
【請求項4】 誘電体充填材は、20℃、10MHzにおける比誘電率が100以上のものである請求項1〜3のいずれかに記載の樹脂組成物。
【請求項5】 誘電体充填材は、繊維状チタン酸アルカリ土類金属塩である請求項1〜4のいずれかに記載の樹脂組成物。
2.明細書の発明の詳細な説明を次の通り訂正する。
(1)【0004】の
「 【0004】
本発明は樹脂(但し環状オレフィン系樹脂を除く)100部に対して、導電性充填材(但し金属繊維を除く)1〜50部及び20℃、10MHzにおける比誘電率が30以上の誘電体充填材1〜30重量部が配合されてなることを特徴とする樹脂組成物に係る。」
を次の通り訂正する。
「 【0004】
【課題を解決するための手段】
本発明は樹脂(但し環状オレフィン系樹脂、ポリアミック酸及びポリイミドを除く)100部に対して導電性充填材(但し金属繊維を除く)1〜50部、及び20℃、10MHzにおける比誘電率が30以上の誘電体充填材1〜30重量部が配合されてなることを特徴とする樹脂組成物に係る。」
異議決定日 2003-01-29 
出願番号 特願平9-293507
審決分類 P 1 651・ 121- YA (C08L)
P 1 651・ 113- YA (C08L)
最終処分 維持  
前審関与審査官 藤本 保  
特許庁審判長 三浦 均
特許庁審判官 中島 次一
船岡 嘉彦
登録日 1999-12-24 
登録番号 特許第3017145号(P3017145)
権利者 タイガースポリマー株式会社 大塚化学株式会社
発明の名称 樹脂組成物  
代理人 田村 巌  
代理人 田村 巌  
代理人 田村 巌  

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