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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  B32B
審判 全部申し立て 特36 条4項詳細な説明の記載不備  B32B
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  B32B
管理番号 1076471
異議申立番号 異議2002-70085  
総通号数 42 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 1999-08-31 
種別 異議の決定 
異議申立日 2002-01-11 
確定日 2003-05-06 
異議申立件数
事件の表示 特許第3187780号「共押出フィルムの製造方法」の請求項1ないし3に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 特許第3187780号の請求項1ないし3に係る特許を維持する。 
理由 I.手続の経緯
本件特許第3187780号の請求項1〜3に係る発明についての出願は、平成6年5月23日に出願された特願平6-108209号の一部を新たな特許出願(=特願平10-344563号)としたものであって、平成13年5月11日にその特許権の設定登録がなされ、その後、平成14年1月10日に特許異議申立人・住友化学工業株式会社(以下、「申立人A」という。)より特許異議の申立てがなされ、同じく平成14年1月11日に特許異議申立人・ザ ダウ ケミカル カンパニー(以下、「申立人B」という。)より特許異議の申立てがなされ、さらに平成14年1月11日に特許異議申立人・東ソー株式会社(以下、「申立人C」という。)より特許異議の申立てがなされたものである。

II.本件発明
本件の請求項1〜3に係る発明(以下、順次、「本件発明1」、「本件発明2」、「本件発明3」という。)は、特許明細書の記載からみて、特許請求の範囲の請求項1〜3に記載された事項により特定される次のとおりのものである。
「【請求項1】 A層: 熱可塑性樹脂からなる層と、
B層: メタロセン系触媒を用いて製造された、下記に示す(1)〜(4)の性状を有するエチレン・α-オレフィン共重合体樹脂からなる層と、
を共押出することを特徴とする、共押出フィルムの製造方法。
(1)MFRが0.1〜50g/10分、
(2)密度が0.880〜0.935g/cm3、
(3)温度上昇溶離分別による50℃における溶出量(Y)と密度(D)との関係が下記条件を満たすものであり、
1)密度(D)が0.91g/cm3 を超える場合:
Y(%)≦10、
2)密度(D)が0.91g/cm3 以下の場合:
Y(%)≦-4,500×密度+4,105(但し、Y≦100)
(4)温度上昇溶離分別によって得られる微分溶出曲線のピークが1つであり、該ピーク温度が20〜85℃であり、該ピーク高さをHとし、該ピークの高さの1/2における幅をWとしたときのH/Wが1以上であり、該ピークの溶出温度以外の温度において溶出するものが実質的に該溶出曲線に存在することがあるものである。
【請求項2】 両表面層が共にB層である、請求項1に記載の共押出フィルムの製造方法。
【請求項3】 熱可塑性樹脂が、エチレン系重合体、プロピレン系重合体、ポリアミド、ビニルアルコール重合体又はエチレンとビニルアルコールとの共重合体、ポリ塩化ビニル、ポリエステル及びポリカーボネートの群から選ばれる少なくとも一種の樹脂である、請求項1または2に記載の共押出フィルムの製造方法。」
(なお、上記特許請求の範囲の記載における(n)(nは1から4の数字)の記号は、当審において付与したものであり、(n)は、○内にnの数字を記載した記号(丸数字)に相当する。)

III.特許異議申立ての理由の概要
1.申立人A
申立人Aは、下記の甲第1〜3号証および参考文献1を提出して、
本件発明1〜3は、甲第1〜3号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件発明1〜3に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである、
と主張している。
甲第1号証:欧州特許出願公開第580377号明細書(1994年)
甲第2号証:住友化学工業株式会社石油化学品研究所主席研究員 近成 謙三 による、平成13年12月24日付作成の甲第1号証の実施例1に係る解析報告書
甲第3号証:日本ゴム協会誌、70〔2〕(平9-2-15)p.100-105
参考文献1:特開平6-340045号公報(甲第1号証の対応日本出願の公開公報による翻訳文の代替)

2.申立人B
申立人Bは、下記の甲第1〜8号証および参考資料1〜3を提出して、
1)本件発明1〜3は、甲第1〜7号証に記載された発明であるか、少なくとも甲第1〜7号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件発明1〜3に係る特許は、特許法第29条第1項第3項の規定、または特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、
2)本件特許は、特許法第44条第1項に規定された適法な分割出願に係るものではないから、その出願日は遡及せず、その結果、本件発明1〜3は、原出願の公開公報に記載された発明であり、したがって、本件発明1〜3に係る特許は、特許法第29条第1項第3号の規定に違反してされたものであり、
3)本件特許明細書の記載は、特許法第36条第4項の規定を満たしていない、
と主張している。
甲第1号証:(社)日本包装技術協会編「包装技術便覧」(昭58-7-20)日刊工業新聞社 p.343-349、354-357、366-389、557-581
甲第2号証:「SPECIALITY PLASTICS CONFERENCE '86 (1986-11-13〜15)”SPECIAL APPLICATION AND MARKETS FOR ETHYLENE ALPHA-OLEFIN COPOLYMERS IN JAPAN”」p.1-33
甲第3号証:EXACT FACTSTM, 1[1](1992年2月)p.1-3
甲第4号証:「Society of Plastics Engineers Polyolefins VII International Conference(1991-2-24〜27) ”STRUCTURE/PROPERTY RELATIONSHIPS IN EXXPOLTM POLYMERS”」p.1-5
甲第5号証:Tappi Journal,(1992年2月)p.99-103
甲第6号証:特開昭58-194935号公報
(なお、申立人Bは甲第6号証を異議申立書中で、「特開昭1954935号公報」と記載しているが、「特開昭58-194935号公報」の誤記と認める。)
甲第7号証:特開昭52-104585号公報
甲第8号証:特許第3187647号公報
参考資料1:コンバーテック、(1997-3)p.20-23
参考資料2:日本ゴム協会誌、70[2](平9-2-15)p.100-105
(なお、参考資料2に関し、異議申立書においては引用頁を60〜65頁としているが、これは各頁下の括弧内の頁番号を採用したものであり、この頁番号は各頁下の括弧なしの頁番号の100〜105頁に相当するので、当審では括弧なしの頁番号を採用した。)
参考資料3:住友化学工業株式会社石油化学品研究所研究員 小林 重一 による、平成12年5月12日付作成の実験証明書およびそれに付帯する参考資料1、2の写し

3.申立人C
申立人Cは、下記の甲第1〜3号証を提出して、
本件発明1〜3は、甲第1〜3号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件発明1〜3に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである、
と主張している。
甲第1号証:国際公開第93/03093号パンフレット
(なお、申立人Cは、甲第1号証を異議申立書中で、「国際公開第93/030393号のパンフレット」と記載しているが、「国際公開第93/03093号パンフレット」の誤記と認める。)
甲第2号証:Makromol. Chem.193,(1992年)p.601-610
甲第3号証:東ソー株式会社四日市研究所 茂呂 義幸による、2001年12月27日付作成の甲第2号証に係る実験証明書

IV.甲各号証について
1.申立人Aの甲各号証
(1)甲第1号証(訳文は参考文献1の記載に基づいた。)
(A1-a)「1.下記数1に示す組成分布変動係数(Cx)が0.40以下であり、かつエチレン含有量が50モル%以上であるエチレン-α-オレフィン共重合体(A)からなる層に対し、少なくとも1種の他の層を積層してなることを特徴とする包装用フィルム。
【数1】Cx=σ/SCBave
σ:組成分布の標準偏差(1/1000C)
SCBave :1000C当たりの短鎖分岐の平均値(1/1000C)
2.エチレン-α-オレフィン共重合体(A)が、……密度が0.870〜0.915g/cm3であり、……請求項1記載の包装用フィルム。」(12頁43〜55行;参考文献1の請求項1、3)
(A1-b)「エチレン-α-オレフィン共重合体(A)に対し積層する少なくとも1種の他の層としては、熱可塑性樹脂または熱可塑性樹脂組成物からなる層が好適であり、オレフィン系熱可塑性樹脂またはオレフィン系熱可塑性樹脂組成物からなる層がより好適である。具体的には、低密度ポリエチレン(LDPE)、直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)、超低密度ポリエチレン(VLDPE)、高密度ポリエチレン(HDPE);エチレン系共重合体、例えば、エチレン-酢酸ビニル共重合体(EVA)、そのケン化物(EVOH)、エチレン-アクリル酸エチル共重合体(EEA)、エチレン-メタクリル酸メチル共重合体(EMMA)、エチレン-メタクリル酸グリシジル共重合体(EGMA)、エチレン-無水マレイン酸共重合体(EMAH)、アイオノマー樹脂;プロピレン重合体、プロピレン-エチレン共重合体、プロピレン-ブテン-1共重合体、プロピレン-エチレン-ブテン-1共重合体(ランダム共重合体、ブロック共重合体)等、およびこれらの混合物を挙げることができる。」(3頁25〜35行;参考文献1の段落【0014】)
(A1-c)「実施例1 (1)エチレン-ブテン-1共重合体(A)の製造
内容積200リットルの攪拌機付槽型反応機下部に、……エチレン及びブテン-1を…供給した。別の供給ラインから三塩化バナジル、エチルアルミニウムセスキクロリド、パークロルクロトン酸n-ブチルを……供給した。反応器内温度は、……40℃または50℃に制御した。反応器内が常に満液状態になるように……重合反応を停止させ、……エチレン-ブテン-1共重合体(A-1)および(A-2)を得た。それぞれの共重合体の……測定結果を表1に示す。
表1 /A-1/A-2
密度(g/cm3)/0.906/0.909
MFR(190℃)(g/10min)/2.1/1.7」(7頁16〜30行、8頁表1抜粋;参考文献1の段落【0052】、【0065】)
(A1-d)「(2)フィルムの製造:
エチレン-ブテン-1共重合体(A-1)98.0重量%およびモノグリセリンオレート2.0重量%よりなる樹脂組成物を……押出機を用いて170℃で混練した。……プロピレン-ブテン-1共重合体(B-1)……100重量%よりなる樹脂組成物を、……押出機を用いて200℃で混練した。この両者を、……インフレフィルム成形機に供給してプロピレン-ブテン-1共重合体(B-1)よりなる厚み5μの層の両面にエチレン-ブテン-1共重合体(A-1)を主成分とする各厚み5μの層が積層されるようにして、……全厚み15μの包装用フィルムを製造した。得られたフィルムの諸特性値を表2に示した。このフィルムの臭気は実用上問題の無い十分低いレベルであった。」(8頁32〜44行;参考文献1の段落【0054】〜【0055】)
(2)甲第2号証
(A2-a)「1.目的 甲第1号証(EP580377A1)の実施例1で用いられているエチレン-ブテン-1共重合(A-1)について、……解析した。」(1頁6〜9行)
(A2-b)「(3-1)エチレン-ブテン-1共重合(A-1)の温度上昇溶離分別の結果 ……
(3-4)温度上昇溶離分別による測定で得られる50℃における溶出量(Y) 積分溶出曲線……。すなわち、50℃における溶出量(Y)は7.3%であった。そして、……-4,500×D+4,105=28である……包含されることが分かる。
(3-5)微分溶出曲線のピークの数 ……ピークの数は1つであった。
(3-6)微分溶出曲線のピークの温度 ……ピークの温度は60℃であった。
(3-7)微分溶出曲線のピークの高さをHとし、そのピークの高さの1/2における幅をWとしたときのH/Wの値 ……H/W=……=34.9であった。
(3-8)微分溶出曲線のピークの溶出温度以外の温度において溶出するものが実質的に上記溶出曲線に存在すること ……存在する。」(1頁下から7行〜2頁最終行)
(3)甲第3号証
(A3-a)「エラストマー領域(密度890kg/m3以下)の現行のポリマー(エチレン・α-オレフィン共重合体)は,主としてV系(合議体注:「バナジウム系」の意味)のチーグラー触媒を用いて溶液法で製造されている.……ところで,上記のV系触媒もシングルサイトタイプの触媒で,製造されるポリマーの分子量分布や組成分布は非常に狭い.したがって,エラストマー領域では,先に述べたポリエチレン分野とは異なり,メタロセン触媒を用いることによってポリマーの分子量や組成の分布がさらに狭くなることはなく,基本物性上は同等である(表3).」(102頁右欄下から13行〜103頁左欄下から4行)
(A3-b)「また,メタロセン触媒はエラストマー領域においても非常に高い重合活性を有しており,この点で,従来のV系触媒とは大きく異なる.これによって,メタロセン系触媒は従来の触媒にない新規なプロセスおよび新しいエラストマーへの可能性を広げる.樹脂改質分野において,エラストマー領域のメタロセン品の特徴として,以下の点が挙げられる.1)現行品と同様に狭い分子量分布や組成分布を有していることから,同じような優れた改質性能を持つ.2)密度および分子量の製造範囲が広がり,銘柄のバリエーションが広がる.3)多種のコモノマー(HAO,ノルボルネン等)の導入が容易になる.」(103頁右欄下から2行〜104頁左欄下から17行)

2.申立人B
(1)甲第1号証
(B1-a)「(1)L-LDPEフィルム 最近非常に注目されているフィルムの一つにL-LDPEフィルムというのがある.……すなわち,物理的強度はもちろん剛性や滑り性,カット性,ヒートシール性などが向上し,耐熱・耐寒性,耐油性,耐薬品性,耐ストレスクラック性なども大変優れたフィルムが得られるのである.……今後の発展が期待される.
(2)共押出し多層フィルム(Co-extrusion film) 多層ブローと類似の押出し機と技術による共押出し多層フィルムが最近種々上市され,さらに増加の傾向にある.」(356頁11〜23行)
(B1-b)「……L-LDPEの場合では,このポリマー自体がすでにエチレンとα-オレフィンとの共重合体であるので,……」(366頁下から2〜1行)
(B1-c)「現在のフィルム包装では,複合フィルムを抜いては考えられぬほど,複合化が進歩してきている.その中において,低密度ポリエチレンは,表4.18に示すように,加工が容易なヒートシール材(袋に必須の密封機能を有する材料)として,また一種の接着剤(サンドの場合)として重要な役割を果たしている.……複合フィルムの具体的な用途例は,表4.26に示す.
表4.26 押出しラミネーションによる包材の用途7)と構成例
分類/構成
……
食品/PVC/PE
食品/OPP/PE
……
(注)PT:プレンセロハン OPP:延伸ポリプロピレン …… PE:ポリエチレン ……PVC:ポリ塩化ビニル PVA:ポリビニルアルコール」(379頁15〜20行、378頁表4.26抜粋)
(B1-d)「L-LDPEの場合は,MFRが1近辺で,密度が0.918〜0.922の……ものが使われ始めている.」(376頁11〜12行)
(B1-e)「(e)一般軽包装袋……高圧法ポリエチレン,L-LDPEともに使用されている.MFRは1〜4,密度は0.920〜0.925……」(379頁6〜13行)
(2)甲第2号証(訳文は異議申立書中の訳文に相当する記載箇所(申立書4頁下から7〜1行)の記載によった。)
(B2-a)「密度0.86〜0.90g/cm3のエチレン-α-オレフィン共重合体」(4頁8〜9行;申立書4頁下から7〜5行)
(B2-b)「……ヒートシール強度、低温ヒートシール性、ホットタック強度……を有する。フィルムとして、衝撃、加熱、低温……に対する抵抗性、……印刷性、透明性のバランスに優れている。」(9頁下から8〜1行;申立書4頁下から5〜2行)
(B2-c)「共押出された……フィルムは、……食品包装用に用いられる。」(11頁10〜14行;申立書4頁下から2行)
(3)甲第3号証(訳文は異議申立書中の訳文に相当する記載箇所(申立書5頁3〜11行)の記載によった。)
(B3-a)「EXXPOLシングルサイトメタロセン技術」(1頁右欄下から11〜10行;申立書5頁6行)
(B3-b)「エクソンケミカル社は、…EXXPOL…密度が0.865〜0.935のエチレン系樹脂」(2頁右欄下から19〜10行;申立書5頁6〜7行)
(B3-c)「…EXACTフィルム樹脂をフィルム包装用に…従来の樹脂では得られなかったシール性、強靱性、光学特性及び透明性をもつ高められたフィルム性能を示す」(3頁左欄下から16〜11行;申立書5頁8〜10行)
(4)甲第4号証(訳文は異議申立書中の訳文に相当する記載箇所(申立書5頁13〜29行)の記載によった。)
(B4-a)「……狭い分子量分布(MWD)及び組成分布(CD)をもつ……溶融……物性……」(1頁下から15〜9行;申立書5頁16〜17行)
(B4-b)「組成分布は、……温度上昇溶離分別(TREF)で測定できる。……EXXPOLTMは、単一コモノマーコンテントの周りにしっかりと密集したコモノマー分子をもつ、コモノマー分布が極めて狭い物質である。」(3頁下から12〜3行;申立書5頁18〜21行)
(B4-c)「EXXPOLTMは、……100℃近辺に一つのピーク融点を持つ。」(4頁6〜7行;申立書5頁22〜23行)
(B4-d)「EXXPOLTMの……低いヒートシール開始温度」(4頁17〜18行;申立書5頁25行)
(B4-e)「MI1.3、密度0.907のEXXPOLTMヘキセンコポリマーは、……剛性/靱性バランスは、……EXXPOLTMは極めて優れたヒートシール開始温度、低いヘイズ及び低いヘキサン抽出量を維持」(4頁22〜28行;申立書5頁26〜28行)
(5)甲第5号証(訳文は異議申立書中の訳文に相当する記載箇所(申立書6頁2〜11行)の記載によった)
(B5-a)「多層可撓性包装構造物のヒートシール層」(99頁左欄1〜2行;申立書6頁4行)
(B5-b)「シングルサイト触媒は、……多重サイトの触媒によるものに比し、MWDとCDが極めて狭い」(100頁左欄下から16〜11行;申立書6頁5〜8行)
(B5-c)「CDが極めて狭いこと……より低いピーク融点……ホットタック及びヒートシール特性に優れている。」(102頁左欄下から22〜17行;申立書6頁8〜9行)
(B5-d)「共押出フィルム」(101頁右欄下から19行;申立書6頁10行)
(6)甲第6号証
(B6-a)「(1)密度が0.895g/cm3以上0.955g/cm3以下で、炭素数1000個当りの短鎖分岐数(短鎖分岐度)が5以上40以下の、エチレンと炭素数8以上18以下のα-オレフインとの共重合体に、メルトテンションが4g以上15g以下の高圧法低密度ポリエチレンおよび/またはエチレン系共重合体を10重量%以上60重量%以下混合して成る加工性とフイルム物性のすぐれた押出ラミネート用組成物。」(特許請求の範囲第1項)
(B6-b)「かかるエチレン-α-オレフイン共重合体は、エチレンと炭素数8以上18以下のα-オレフインとを遷移金属触媒を用いて中低圧下で共重合することにより得られる。本発明の主旨を損わない限り、触媒や重合方法については特に制約はなく、例えば触媒としては所謂チーグラー型触媒やフイリップス型触媒が挙げられ、重合方法としては、所謂スラリー重合や気相重合や液相重合等が挙げられる。これらのうちでも、担体担持型チーグラー触媒が触媒活性や共重合性の点で本発明には好都合である。」(5頁左下欄下から3行〜同頁右下欄9行)
(B6-c)「実施例1 ……エチレン-ブテン-1共重合体にメルトテンシヨンが8gを示す住友化学製高圧法・低密度ポリエチレンスミカセン(R)L705を25重量%混合(ペレットブレンド法)した。押出ラミネート加工は基材として、ユニチカ社製延伸ナイロン、エンブレム「R」(厚さ15μ)にスミカセン(R)L705を20μ押出コートしたものを用い、次に示す加工設備と加工条件にて行なった。」(9頁左下欄下から6行〜同頁右下欄6行)
(なお、上記(R)の記号は、当審において付与したものであり、○内にRの英文字を記載した記号(丸英文字)に相当する。)
(7)甲第7号証
(B7-a)「ホリプロピレン系フイルムの少くとも片面が、低結晶性エチレン-αオレフイン共重合体とポリエチレン樹脂との混合樹脂からなる易ヒートシール層であることを特徴とする易ヒートシール性2軸延伸複合フイルム。」(特許請求の範囲)
(B7-b)「実施例1 アイソタクチツプポリプロピレン樹脂をTダイ押出機を用いてシート状に押出した後、……経方向に延伸し、この一軸延伸シートの片面に、低密度ポリエチレン樹脂70重量%と、三井石油化学(株)製のタフマーA4085 30重量%(低結晶性エチレン-αオレフイン共重合体)との混合物を溶融押出積層し、……2軸延伸複合フィルムを得た。」(4頁左上欄9〜20行)
(B7-c)「実施例3、4 低密度ポリエチレン樹脂90重量%、及び30重量%とタフマーA-4085樹脂10重量%及び70重量%とを用いる以外実施例1と同様の方法により、2軸延伸複合フイルムを得た。前者を実施例3、後者を実施例4とする。」(4頁右上欄8〜13行)
(8)甲第8号証
(B8-a)「【請求項1】 下記のA層とB層とが積層されてなることを特徴とする、共押出フィルム。
A層: エチレン系重合体、プロピレン系重合体、ポリアミド、ビニルアルコール重合体又はエチレンとビニルアルコールとの共重合体、ポリ塩化ビニル、ポリエステル及びポリカーボネートからなる群から選択される少なくとも一種の熱可塑性樹脂からなる層。
B層: メタロセン系触媒を用いて製造された、下記に示すに(1)〜(4)の性状を有するエチレン・α-オレフィン共重合体樹脂からなる層。
(1)MFRが0.1〜50g/10分。
(2)密度が0.880〜0.935g/cm3。
(3)温度上昇溶離分別によって得られる微分溶出曲線のピークが1つであり、該ピーク温度が20〜85℃であり、該ピーク高さをHとし、該ピークの高さの1/2における幅をWとしたときのH/Wが1以上であり、該ピークの溶出温度以外の温度において溶出するものが実質的に該溶出曲線に存在することがある。
(4)温度上昇溶離分別による測定で得られる50℃における溶出量(Y)と密度(D)が以下の関係を満たす。
1)密度(D)が0.91g/cm3 を超える場合:
Y(%)≦10、
2) 密度(D)が0.91g/cm3 以下の場合:
Y(%)≦-4,500×D+4,105(但し、Y≦100)。」(請求項1)
(なお、前記同様、上記特許請求の範囲の記載における(n)(nは1から4の数字)の記号は、当審において付与したものであり、(n)は○内にnの数字を記載した記号(丸数字)に相当する。)
(9)参考資料1
(B9-a)「特徴(2)錯体の構造で触媒の反応性〜製品の構造を調節可能 カミンスキー触媒。シングルサイト触媒(SSC)ともいう」(20頁図1の注釈記載の抜粋)
(なお、上記(2)の記号は、当審において付与したものであり、○内に2の数字を記載した記号(丸数字)に相当する。)
(B9-b)「メタロセン触媒は、従来の触媒に比べその活性点が極めて均一であるため、分子構造上均一なPEの製造が可能である。すなわち、メタロセンPEは図2に示すように、従来のPEと比較して分子量分布および組成分布が狭く、コモノマー組成分布が均一でランダムである。」(21頁左欄下から4行〜同頁中央欄3行)
(10)参考資料2
(B10-a)「このポリオレフィンの中で、とりわけメタロセン触媒を用いた技術開発が最も進んでいるエチレン系コポリマーについて、直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)からエラストマー領域を含めてその技術の特徴並びに製品物性等について、本稿で紹介する。」(100頁左欄10〜15行)
(B10-b)「一方、フィルム分野での単体使用が多いLLDPEにとって、メタロセン触媒の特徴である狭分子量分布は物性面での長所がある反面、成形加工性の点では欠点となる。しかし、この成形加工性の改良についてもメタロセン触媒技術が活かされている。表2にその概要を示す。」(101頁右欄17行〜102頁左欄3行)
(11)参考資料3
(B11-a)「住友化学製……スミカセンL705……MFR、密度、……の測定結果を表1に示した。」(2頁20〜22行)
(B11-b)「三井石油化学(株)製タフマーA4085……MFR、密度および温度上昇溶離分別(TREF)、……表2に示した。そして、タフマーA4085の温度上昇溶離分別(TREF)による溶出曲線を図1に示した。タフマーA4085のピークは1本で、その温度は42℃であり、その高さHは60.7であり、その高さの1/2の幅Wは8.78であり、従ってH/Wが6.91であった。」(2頁23〜28行)
(B11-c)「タフマー(R)は、三井石油化学工業(株)が豊富なチーグラー法重合技術に基づき、独自の技術で開発した非晶質、もしくは低結晶性のα-オレフィン共重合体です。」(参考資料3に付帯する参考資料2の表紙の次の頁下から8〜6行)
(なお、上記(R)の記号は、当審において付与したものであり、○内にRの英文字を記載した記号(丸英文字)に相当する。)
3.申立人C
(1)甲第1号証(異議申立書中の訳文に相当する記載箇所(5頁1行〜7頁21行)参照)
(C1-a)「請求項1 第一及び第二の製品部分の少なくとも一方を軟化させるのに十分な温度における上記第一及び第二の製品部分の圧着によって形成されたシール領域を有する製品にして、少なくとも上記第一成分はエチレン共重合体又はエチレン共重合体ブレンドを含んでなるものであり、上記ブレンド又は個々の共重合体が50%以上の組成分布幅指数(CDBI)を有するように選択されたものであって、その結果上記部分が93℃未満のシール開始温度での接触シールできることを特徴とする製品。
……
請求項7 先行する請求項のいずれか1項記載の製品にして、前記ブレンド又は各共重合体が0.875〜0.96g/cm3、好ましくは0.89〜0.93g/cm3の密度、及び10,000〜1,000,000、好ましくは40,00〜200,000の重量平均分子量を有することを特徴とする製品。
……
請求項11 先行する請求項のいずれかの1項記載の製品において、前記重合体ブレンドが、0.88〜0.94g/cm3、好ましくは0.90〜0.92g/cm3の密度、及び0.5〜20のメルトインデックス(MI)、並びに好ましくは40000〜200000の重量平均分子量を有することを特徴とする製品。
……
請求項14 50%以上の組成分布幅指数(CDBI)を有するエチレン共重合体又は2種類以上のかかるエチレン共重合体を含んでなるブレンドを、シール領域をもつ第一及び第二部分を有する製品におけるシール部として使用する方法にして、シール作業を93℃未満の温度で開始することを特徴とする方法。」(特許請求の範囲請求項1、7、11、14)
(C1-b)「本発明のフィルム類は単層フィルムでも多層フィルムでもよい。多層フィルムは、エチレン共重合体並びにそれらのブレンドから製造された1又はそれ以上の層で構成されていてもよい。かかるフィルムは、例えばポリプロピレンやポリエステルやEVOHなどの別の重合体、金属箔、紙などのような他の材料でできた1又はそれ以上の追加層を有していてもよい。多層フィルムは本技術分野で公知の方法で製造できる。すべての層が重合体である場合には、これらの重合体を共押出用フィードブロック及びダイアセンブリに通して共押出を行って、組成の異なる2又はそれ以上の密着層をもつフィルムを得ることもできる。」(35頁4〜17行)
(C1-c)「本発明の線状ポリエチレンブレンド成分は、CD及びMWDともに狭いエチレン共重合体を与えることの知られているメタロセンタイプの触媒系を用いて製造することができる。本発明において個々に又はブレンドとして使用されるエチレン共重合体の製造には、アルモキサン助触媒とメタロセン錯体を併用したシクロペンタジエニリド触媒系又はそれらの反応物が適している。」(26頁1〜9行)
(2)甲第2号証
(C2-a)メタロセンタイプの触媒系を用いてエチレン共重合体を製造する方法が記載されていること
(C2-b)エチレン共重合体がエチレンと1-ブテンからなるものであること
(C2-c)「重合手段
……共重合は、1Lのガラス製オートクレーブにて実施した。……その後、……エチレンは5barの圧力下に飽和状態まで満たされた。…反応溶液中のメタロセン濃度は、5・10-6〜2,5・10-4mol/L……」(602頁9〜28行、申立人Cの異議申立書の記載を参照し、当審において翻訳)
(3)甲第3号証
(C3-a)「(1)エチレン・α-オレフィン共重合体(試料No.1)の製造方法
甲第2号証に記載のメタロセン系触媒を用いて重合を行った。
[触媒調製] 論文に従い合成した……調製し、触媒溶液とした。
[重合] 重合反応は、2lのステンレス製オートクレーブを用いて行った。オートクレーブにトルエンを500ml、1-ヘキセンを25ml、アルミニウム化合物としてメチルアルミノキサンを1.0mmol加え、その後60℃に昇温した。エチレンを所定圧(4kg/cm2)まで導入し、ジルコニウム化合物として……0.25μmol加えることにより重合を開始した。
重合反応時は、……所定圧に保持した。20分後、エチルアルコールを10ml加えて反応を停止した後、混合ガスを放出した。……55gのポリマーを得た。
(2)エチレン・α-オレフィン共重合体(試料No.2)の製造方法
甲第2号証に記載のメタロセン系触媒を用いて重合を行った。
[触媒調製] 論文に従い合成した……調製し、触媒溶液とした。
[重合] 重合反応は、2lのステンレス製オートクレーブを用いて行った。オートクレーブにトルエンを500ml、1-へキセンを100ml、アルミニウム化合物としてメチルアルミノキサンを1.0mmol加え、その後80℃に昇温した。エチレンを所定圧(4kg/cm2)まで導入し、ジルコニウム化合物として……0.25μmol加えることにより重合を開始した。
重合反応時は、……所定圧に保持した。20分後、エチルアルコールを10ml加えて反応を停止した後、混合ガスを放出した。……63gのポリマーを得た。」(3頁8行〜4頁16行)
(なお、上記摘示記載(C3-a)における(1)、(2)の記号は、当審において付与したものであり、(n)は○内にnの数字を記載した記号(丸数字)に相当する。)
(C3-b)「2)サンプルの測定 下記の測定方法に従い行なった。下記の測定方法は、本件特許発明中に記載の測定方法と同じである。」(4頁17〜19行)
(C3-c)「3.結果
1)エチレン・α-オレフィン共重合体(試料No.1)の物性値
MFR:1.9g/10分(0.1〜50g/10分)
密度:0.916g/cm3(0.880〜0.935g/cm3)
温度上昇溶離分別(TREF)によるピーク数:1(1)
温度上昇溶離分別(TREF)によるピーク温度:74℃(20〜85℃)
温度上昇溶離分別(TREF)によるH/W:9.1(1以上)
温度上昇溶離分別(TREF)による50℃溶出量Y:0.9%(Y(%)≦10)
2)エチレン・α-オレフィン共重合体(試料No.2)の物性値
MFR:28.6g/10分(0.1〜50g/10分)
密度:0.883g/cm3(0.880〜0.935g/cm3)
温度上昇溶離分別(TREF)によるピーク数:1(1)
温度上昇溶離分別(TREF)によるピーク温度:33℃(20〜85℃)
温度上昇溶離分別(TREF)によるH/W:1.7(1以上)
温度上昇溶離分別(TREF)による50℃溶出量Y:97.7%(Y(%)≦-4,500×D+4,105(但し、Y≦100))
( )内の数字は、本件特許発明の規定値である。」(6頁7〜26行)
(なお、上記摘示記載(C3-c)における1)、2)の記号は、当審において付与したものであり、n)は○内にnの数字を記載した記号(丸数字)に相当する。)

V.当審の判断
1.申立人Aの特許異議申立てについて
(1)本件発明1について
甲第1号証には、エチレン-α-オレフィン共重合体からなる層に対し、少なくとも1種の他の層を積層してなることを特徴とする包装用フィルムが記載(摘示記載(A1-a))され、「少なくとも1種の他の層」としては、熱可塑性樹脂または熱可塑性樹脂組成物からなる層が好適であり、例示としてエチレン系重合体、プロピレン重合体等が記載(摘示記載(A1-b))され、また、エチレン-α-オレフィン共重合体の密度が0.870〜0.915g/cm3であることが記載(摘示記載(A1-a))され、さらに同号証の実施例1には、エチレン-ブテン-1共重合体とプロピレン-ブテン-1共重合体とを積層、共押出して共押出フィルムを製造することが記載(摘示記載(A1-d))され、エチレン-ブテン-1共重合体の密度が0.906または0.909、MFRが2.1または1.7であることも記載(摘示記載(A1-c))されている。
ここで、甲第1号証における「少なくとも1種の他の層」、「エチレン-α-オレフィン共重合体(A)からなる層」は、それぞれ、本件発明1における、「A層」、「B層」に相当し、また、甲第1号証における「エチレン-α-オレフィン共重合体(A)からなる層」(=B層)を構成する樹脂であるエチレン-ブテン-1共重合体の密度およびMFRは、本件発明1のB層を構成する樹脂の特定された密度およびMFRの値と重複している。
そこで、本件発明1と甲第1号証に記載された発明とを対比すると、
両者は、
「A層: 熱可塑性樹脂からなる層と、
B層: 下記に示す(1)〜(2)の性状を有するエチレン・α-オレフィン共重合体樹脂からなる層と、
を共押出する共押出フィルムの製造方法。
(1)MFRが1.7または2.1g/10分、
(2)密度が0.909または0.906g/cm3」
である点で一致し、以下の点で相違する。
相違点a.本件発明1では、B層を構成するエチレン・α-オレフィン共重合体樹脂がメタロセン系触媒を用いて製造されているが、甲第1号証のエチレン・α-オレフィン共重合体樹脂は、バナジウム系触媒を用いて製造(摘示記載(A1-c))されている点。
相違点b.本件発明1では、B層を構成するエチレン・α-オレフィン共重合体樹脂の性状と関連し、「温度上昇溶離分別によって得られる微分溶出曲線」の形状を「ピークが1つであり、該ピーク温度が20〜85℃であり、該ピーク高さをHとし、該ピークの高さの1/2における幅をWとしたときのH/Wが1以上であり、該ピークの溶出温度以外の温度において溶出するものが実質的に該溶出曲線に存在することがある」と特定し、さらに温度上昇溶離分別による測定で得られる50℃における溶出量(Y)と密度(D)との関係を、
1)密度(D)が0.91g/cm3 を超える場合:
Y(%)≦10、
2)密度(D)が0.91g/cm3 以下の場合:
Y(%)≦-4,500×密度+4,105(但し、Y≦100)
と特定しているのに対し、甲第1号証では、このような特定をしていない点。
上記相違点について検討する。
(相違点a.について)
申立人Aは、この点に関して甲第3号証を掲示し、そこにはバナジウム系触媒を用いて製造されるポリマーとメタロセン系触媒を用いて製造されるポリマーの基本物性が同等である旨記載されていると主張する。
なるほど、甲第3号証には、「メタロセン触媒を用いることによってポリマーの分子量や組成の分布がさらに狭くなることはなく、基本物性上は同等である」(摘示記載(A3-a))旨の記載が存在する。
しかしながら、該記載は、前提として「エラストマー領域(密度890kg/m3以下)」におけるものであり、さらに、「メタロセン触媒はエラストマー領域においても非常に高い重合活性を有しており、この点で、従来のV系触媒とは大きく異なる」(摘示記載(A3-b))という記載が存在することから、エラストマー領域においても、両触媒を用いて得られたポリマーが全く同じ物性を示すとは認められない。
その上、甲第1号証においては、エチレン-α-オレフィン共重合体の密度が0.870〜0.915g/cm3であることが記載(摘示記載(A1-a))され、この密度範囲は、エラストマー領域のものを一部含有しているが、その実施例において採用している該共重合体の密度は、0.906g/cm3および0.909g/cm3という、エラストマー領域以外のものであることから、当業者は、甲第1号証に記載の発明としてエラストマー領域のものを採用することが好ましい、という認識を持ち得ないものと認められる。
してみると、上述した甲第3号証の記載は、当業者が甲第1号証に記載のバナジウム系触媒の代わりにメタロセン系触媒を採用する、という動機付けにはならない。
また、甲第2号証には、甲第1号証の実施例1で用いられているエチレン-ブテン-1共重合体の解析結果が記載(摘示記載(A2-a))されているに過ぎず、バナジウム系触媒を用いて得られたポリマーの代わりにメタロセン系触媒を用いて得られたポリマーを採用することについては、一切記載も示唆もない。
したがって、相違点a.は、甲第1〜3号証に記載のものから当業者が容易に想到しうるものということはできない。
以上のことから、相違点b.について検討するまでもなく、本件発明1は、甲第1〜3号証に記載のものから当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
(2)本件発明2〜3について
本件発明2〜3は、本件発明1にさらに発明を特定する事項を付加したものであって、上述V.1.(1)で示したのと同様の理由により、甲第1〜3号証に記載された発明に基づき当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
2.申立人Bの特許異議申立てについて
[1]主張1)(=発明の新規性及び進歩性)について
(1)本件発明1について
甲第1号証には、包装材料として低密度ポリエチレンからなる層と熱可塑性樹脂からなる層を含む複合フィルム(摘示記載(B1-c))、共押出フィルムである多層(=複合)フィルム(摘示記載(B1-a))、L-LDPEはエチレン・α-オレフィン共重合体樹脂であること(摘示記載(B1-b))、L-LDPEフィルムは包装材料として注目されていること(摘示記載(B1-a)参照)、使用されているL-LDPEのMFRが1〜4、密度が0.918〜0.925であること(摘示記載(B1-d)、(B1-e))が記載されている。
そこで、本件発明1と甲第1号証に記載の発明とを対比すると、
両者は、
「A層: 熱可塑性樹脂からなる層と、
B層: 下記に示す(1)〜(2)の性状を有するエチレン・α-オレフィン共重合体樹脂からなる層と、
を共押出する共押出フィルムの製造方法。
(1)MFRが1〜4g/10分、
(2)密度が0.918〜0.925g/cm3」
である点で一致し、以下の点で相違する。
相違点a.本件発明1では、B層を構成するエチレン・α-オレフィン共重合体樹脂はメタロセン系触媒を用いて製造されたポリマーであるが、甲第1号証のエチレン・α-オレフィン共重合体樹脂が如何なる触媒を用いて製造されたポリマーであるか不明である点。
相違点b.本件発明1では、B層を構成するエチレン・α-オレフィン共重合体樹脂の性状と関連し、「温度上昇溶離分別によって得られる微分溶出曲線」の形状を「ピークが1つであり、該ピーク温度が20〜85℃であり、該ピーク高さをHとし、該ピークの高さの1/2における幅をWとしたときのH/Wが1以上であり、該ピークの溶出温度以外の温度において溶出するものが実質的に該溶出曲線に存在することがある」(以下、特定のTREF形状という)と特定し、さらに温度上昇溶離分別による測定で得られる50℃における溶出量(Y)と密度(D)との関係(以下、YD関係という)を、前記のとおり特定しているのに対し、甲第1号証では、このような特定をしていない点。
上記相違点について検討する。
(相違点a.について)
本件発明1との関係において甲第1号証を検討すると、甲第1号証には、本件発明1の出願時において知られている一般的なL-LDPE(=エチレン・α-オレフィン共重合体樹脂)を原材料として共押出フィルムを製造することが記載されているが、使用した触媒についてまでは記載されていない。
しかしながら、本件発明1の出願時に、メタロセン系触媒を用いて製造されたエチレン・α-オレフィン共重合体樹脂が知られていたことは甲第3号証(摘示記載(B3-a))から明らかであるから、かかる触媒を使用して製造したエチレン・α-オレフィン共重合体を、甲第1号証に記載のエチレン・α-オレフィン共重合体樹脂として採用する程度のことは、当業者であれば容易に想到しうることと認められる。
したがって、相違点a.は、甲第3号証に記載のものから当業者であれば容易に想到しうるものと認められる。
(相違点b.について)
甲第1号証には、採用するエチレン・α-オレフィン共重合体樹脂として、特定のTREF形状とYD関係を有するものは記載も示唆もされていないし、これらが、後述する甲第2〜7号証および参考文献1〜3の記載を併せ検討しても、一般的なエチレン・α-オレフィン共重合体樹脂が有する自明の性質とも認められない。
すなわち、
甲第2号証(摘示記載(B2-a)〜(B2-c)参照)には、包装用に用いられるヒートシール強度等に優れた密度0.86〜0.90g/cm3のエチレン-α-オレフィン共重合体フィルムからなる共押出フィルムが記載されているが、原材料たる該共重合体が前記特定のTREF形状とYD関係を有することは記載も示唆もされていない。
甲第3号証(摘示記載(B3-a)〜(B3-c)参照)には、エクソンケミカル社が開発した密度が0.865〜0.935であるエチレン系樹脂が記載され、これが包装用のフィルム樹脂として適用されることは伺えるが、特定のTREF形状とYD関係を有することは記載も示唆もされていない。
甲第4号証(摘示記載(B4-a)〜(B4-e)参照)には、100℃近辺に一つのピーク融点を持ち、低いヒートシール開始温度を持ち、組成分布を温度上昇溶離分別(TREF)で測定した結果、狭い組成分布(CD)を持つEXXPOLTMなるポリマーが記載されているが、該ポリマーが特定のTREF形状とYD関係を有することは記載も示唆もされていない。
甲第5号証(摘示記載(B5-a)〜(B5-d)参照)には、包装用に用いられる極めて狭いCD(組成分布)を有し、より低いピーク融点を有し、ホットタック及びヒートシール特性に優れている共押出フィルムが記載されているが、該フィルムの原材料ポリマーが特定のTREF形状とYD関係を有することは記載も示唆もされていない。
甲第6号証(摘示記載(B6-a)〜(B6-c)参照)には、チーグラー型触媒等を用いて製造されるエチレン-α-オレフィン共重合体樹脂として、密度が0.895g/cm3以上0.955g/cm3以下のものが、また、実施例において、該共重合体と混合する高圧法低密度ポリエチレンとして、住友化学製高圧法・低密度ポリエチレンスミカセン「R」L705が記載されているが、該共重合体樹脂が特定のTREF形状とYD関係を有することは記載も示唆もされていない。
甲第7号証(摘示記載(B7-a)〜(B7-c)参照)には、多層フィルムの構成層として、低結晶性エチレン-αオレフイン共重合体とポリエチレン樹脂との混合樹脂からなる易ヒートシール層が記載され、また、実施例においては、低結晶性エチレン-αオレフイン共重合体として、三井石油化学(株)製のタフマーA4085を使用(摘示記載(B7-b)、(B7-c))されているが、該共重合体(樹脂)が特定のTREF形状とYD関係を有することは記載も示唆もされていない。
これらに対し、本件発明1は、相違点b.により、本件特許明細書記載の顕著な効果を奏するものと認められる。
したがって、相違点b.は、甲第1〜7号証に記載のものから当業者が容易に想到できたものということはできない。
また、参考資料1〜3についても検討する。
参考資料1、2(摘示記載(B9-a)〜(B10-b)参照)は、本件発明に係る特許出願日以降に発行された刊行物であり、メタロセン系触媒を用いて製造したポリエチレン系樹脂の物性等が記載されているが、特定のTREF形状とYD関係については記載も示唆もされていない。
参考資料3(摘示記載(B9-a)、(B9-b)参照)に関し、摘示記載(B11-c)より、三井石油化学工業(株)製のタフマーなる商品名のポリマーは、チーグラー触媒で製造されたものであるから、参考資料3における三井石油化学(株)製のタフマーA4085もチーグラー触媒で製造されたものと解され、本件発明1で採用するメタロセン系触媒を用いて製造されたものとは相違する。
そして、参考資料3では、甲第7号証の実施例において採用している低結晶性エチレン-αオレフイン共重合体と同じ商品名である三井石油化学(株)製のタフマーA4085のTREF形状を実験的に示し、それが特定のTREF形状となっているを示しているものの、特定のYD関係についてまでは記載されていない。
以上のことから、本件発明1は、甲第1〜7号証に記載された発明ということはできないし、甲第1〜7号証に記載された発明に基づき当業者が容易に発明をすることができたものともいえない。

(2)本件発明2〜3について
本件発明2〜3は、本件発明1にさらに発明を特定する事項を付加したものであって、上述V.2.[1](1)で示したのと同様の理由により、甲第1〜7号証に記載された発明ということはできないし、甲第1〜7号証に記載のものから当業者が容易に発明をすることができたものでもない。

[2]主張2)(=分割出願の適否)について
申立人Bは、本件発明1と分割出願に係る本件特許の原出願(=特願平6-108209号)に係る特許第3187647公報(=甲第8号証)の請求項1記載の発明(摘記記載(B8-a))とを対比し、両者は、「共押出フィルムの製造方法」(前者)と「共押出フィルム」(後者)という点で発明のカテゴリーが相違するものの、発明の実体は同一でありながら、本件発明1の方が原発明よりもA層の規定が拡大しているから、本件分割出願は適法なものとはいえない、と主張する。
しかしながら、分割出願がなされた時点で、2以上の発明を包含する特許出願の一部が1又は2以上の新たな特許出願とされたか否かで分割出願の適否がまず判断される。
そして、本件分割のなされた時点(平成10年12月3日)における、(その後の審査経緯等が反映された甲第8号証ではない)原出願の明細書中には、「共押出フィルム」自体と共に、分割の対象となった「共押出フィルムの製造方法」(=本件発明1)も記載されていたことは明らかであること(請求項1、段落【0007】、同【0027】〜【0028】、同【0042】及び実施例1〜18等を参照)、また、分割後の原出願の発明と分割出願の発明は同一の発明であるとはいえないことから、本件分割出願は、何ら違法なものではない。
したがって、分割が不適法であることを前提として発明1の新規性を否定する申立人Bの主張は、失当である。

[3]主張3)(=明細書の記載不備)について
申立人Bは、本件特許明細書には、メタロセン系触媒を用いて製造されたエチレン・α-オレフィン共重合体樹脂が、どのようにして特定のTREF形状とYD関係を満足させるのかが記載されていない点で、本件特許明細書の記載は、特許法第36条第4項に規定する要件を満たしていない、と主張する。
しかしながら、本件特許明細書には、該共重合体の一般的な製造方法(段落【0010】〜【0026】)に加え、実施例1、5、12において、「エチレン・α-オレフィン共重合体(1)〜(3)の製造」((n)(nは1から3の数字)の記号は、当審において付与したものであり、(n)は○内にnの数字を記載した記号(丸数字)に相当する。)として、原料、触媒、反応装置、反応条件(温度、圧力)等が具体的に記載され、そうした手段を通じ、特定のTREF形状とYD関係を満足するエチレン・α-オレフィン共重合体が得られることが記載されているから、本件特許明細書の記載には申立人B主張の不備があるとはいえない。

3.申立人Cの特許異議申立てについて
(1)本件発明1について
甲第1号証には、第一及び第二の製品部分の圧着によって形成されたシール領域を有する製品であって、少なくとも上記第一成分はエチレン共重合体又はエチレン共重合体ブレンドを含んでなるもの(摘示記載(C1-a))で、該重合体ブレンドが、0.875〜0.96g/cm3の密度、0.5〜20のメルトインデックス(MI)を有するもの(摘示記載(C1-a))、共押出により該製品たる多層フィルムを製造すること(摘示記載(C1-b))、該エチレン共重合体がメタロセン系触媒を用いて製造されること(摘示記載(C1-c))が記載されている。
本件発明1と甲第1号証に記載の発明とを対比すると、甲第1号証における「第一の製品部分」、「第二の製品部分」は、それぞれ、本件発明1における「B層」、「A層」に相当し、さらにメルトインデックス(MI)は、MFRに相当することから、
両者は、
「A層: 熱可塑性樹脂からなる層と、
B層: メタロセン系触媒を用いて製造された、下記に示す(1)〜(2)の性状を有するエチレン・α-オレフィン共重合体樹脂からなる層と、
を共押出する共押出フィルムの製造方法。
(1)MFRが0.5〜20g/10分。
(2)密度が0.880〜0.935g/cm3。」
である点で一致し、以下の点で相違する。
相違点a.本件発明1では、B層を構成するエチレン・α-オレフィン共重合体樹脂の性状と関連し、「温度上昇溶離分別によって得られる微分溶出曲線」の形状を「ピークが1つであり、該ピーク温度が20〜85℃であり、該ピーク高さをHとし、該ピークの高さの1/2における幅をWとしたときのH/Wが1以上であり、該ピークの溶出温度以外の温度において溶出するものが実質的に該溶出曲線に存在することがある」(以下、特定のTREF形状という)と特定し、さらに温度上昇溶離分別による測定で得られる50℃における溶出量(Y)と密度(D)との関係(以下、YD関係という)を前記のとおり特定しているのに対し、甲第1号証では、このような特定をしていない点。
上記相違点a.について検討する。
申立人Cは、この点について、甲第2、3号証を提示し、甲第2号証に記載のメタロセンタイプの触媒系(=メタロセン系触媒)を用いてエチレン・α-オレフィン共重合体樹脂を製造する方法(摘示記載(C2-a)、(C2-b))を追試し、その結果を示し、該樹脂は、特定のTREF形状とYD関係を満たすとしている。
しかしながら、甲第3号証に記載の追試は、甲第2号証に記載の原料と異なる原料(摘示記載(C2-b)、(C3-a))を用いており、さらに、重合反応におけるエチレン圧、触媒濃度等の条件も甲第2号証に記載のものと異なる(摘示記載(C2-c)、(C3-a))ことから、甲第2号証に記載の発明の正確な追試結果と認めることはできず、甲第2号証において製造したものが、特定のTREF形状とYD関係を満たすとすることはできない。
したがって、甲第1号証に記載のエチレン・α-オレフィン共重合体樹脂として、甲第2号証に記載のものを採用したとしても、特定のTREF形状とYD関係を満たすエチレン・α-オレフィン共重合体樹脂を採用したこととはならない。
よって、相違点a.は、甲第1〜3号証に記載のものから当業者が容易に想到し得るものということはできない。
(2)本件発明2〜3について
本件発明2〜3は、本件発明1にさらに発明を特定する事項を付加したものであって、上述V.3.(1)で示したのと同様の理由により、甲第1〜3号証に記載された発明に基づき当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

VI.むすび
以上のとおりであるから、特許異議申立ての理由及び証拠によっては、本件発明1〜3に係る特許を取り消すことができない。
また、他に本件発明1〜3に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2003-04-11 
出願番号 特願平10-344563
審決分類 P 1 651・ 113- Y (B32B)
P 1 651・ 531- Y (B32B)
P 1 651・ 121- Y (B32B)
最終処分 維持  
前審関与審査官 芦原 ゆりか  
特許庁審判長 高梨 操
特許庁審判官 石井 淑久
田口 昌浩
登録日 2001-05-11 
登録番号 特許第3187780号(P3187780)
権利者 三菱化学株式会社
発明の名称 共押出フィルムの製造方法  
代理人 久保山 隆  
代理人 中山 亨  
代理人 榎本 雅之  
代理人 神野 直美  
代理人 斉藤 武彦  

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