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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  D06M
管理番号 1076492
異議申立番号 異議2002-72656  
総通号数 42 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 1995-09-12 
種別 異議の決定 
異議申立日 2002-10-30 
確定日 2003-04-23 
異議申立件数
事件の表示 特許第3279426号「撥水剤組成物及び撥水剤物品並びに撥水処理方法」の請求項1ないし6に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 特許第3279426号の請求項1ないし6に係る特許を維持する。 
理由 1.手続の経緯
特許第3279426号の請求項1〜6に係る発明は、平成6年2月22日に特許出願され、平成14年2月22日にその特許権の設定登録がなされ、その後、旭硝子株式会社より特許異議が申立てがなされたものである。

2.特許異議申立てについての判断
(1)本件発明
本件の請求項1〜6に係る発明(以下、「本件発明1〜6」という。)は、本件特許明細書の特許請求の範囲の請求項1〜6に記載された次のとおりのものである。
「【請求項1】 下記条件を満足するフッ素ポリマー(以下(a)成分と言う)0.1〜5重量%、炭素数1〜3のアルコール(以下(b)成分と言う)90〜99.8重量%、並びに-NHCOO-結合、-NHCONH-結合及び-NHCOS-結合からなる群より選ばれる少なくとも一種の結合を有するポリマー(以下(c)成分と言う)0.1〜5重量%を含有することを特徴とする撥水剤組成物。
条件
エタノールに対し1重量%の(a)成分を添加して得られた組成物中へ、JIS-L-1096規定の6.23.1のA法(但し、乾燥方法はドリップ乾燥とする)に従い、前処理したポリエステル布を浸漬し、ついで20℃、65%相対湿度の環境下24時間乾燥させたポリエステル布について、JIS-L-1092規定の方法に従い、撥水試験(スプレー法)を行った場合において、90点以上の撥水性が得られること。
【請求項2】 (c)成分が、下記の一般式(I)で表される繰り返し単位を有するポリマーである請求項1記載の撥水剤組成物。
【化1】

〔式中、X,Y:同一又は異なって、-O(AO)p-、-NH-又は-S-を示す。ここでAは炭素数2〜3のアルキレン基を示し、pは0〜200の数を示す。
【化2】

で表される基(該基が芳香族環を含有する場合、その芳香族環は1個以上の炭素数1〜20のアルキル基で置換されていてもよい)を示すか、又は
【化3】

が挿入されていてもよい、直鎖もしくは分岐鎖の炭素数1〜40のアルキレン基もしくはアルケニレン基を示す。
【化4】

で表される基が挿入されていてもよい、直鎖又は分岐鎖の炭素数1〜40のアルキレン基又はアルケニレン基を示す。ここでR3基及びR4基は同一又は異なってHを示すか、又は直鎖もしくは分岐鎖の炭素数1〜20のアルキル
基もしくはアルケニル基を示すか、又は-(BO)qH(Bは炭素数2〜3のアルキレン基を示し、qは1〜200の数を示す。)で表される基を示すか、又はアリール基、シクロヘキシル基もしくはピリジル基を示す。Z-は陰イオン基を示す。〕
【請求項3】 (b)成分がエタノールである請求項1記載の撥水剤組成物。
【請求項4】 (c)成分がポリウレタンである請求項1〜3のいずれか一項に記載の撥水剤組成物。
【請求項5】 請求項1〜4のいずれかの項記載の撥水剤組成物を、その内部に充填した液体をその外部へ噴霧する装置を具備した容器の中へ、充填してなる撥水剤物品。
【請求項6】 請求項5記載の撥水剤物品を使用し、請求項1〜4のいずれかの項記載の撥水剤組成物を、撥水処理されるべき対象物に対し噴霧することを特徴とする撥水処理方法。」

(2)特許異議の申立ての理由の概要
異議申立人は、証拠として、下記の甲第1〜3号証を提示して、本件発明1〜6は、甲第1〜3号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである、と主張している。
甲第1号証:特開昭50-140387号公報
甲第2号証:特開平6-49319号公報
甲第3号証:岩田敬治編「ポリウレタン樹脂ハンドブック」日刊工業新聞 社発行、昭和62年9月25日、496〜499、504〜507 頁

(3)甲号各証の記載内容
甲第1号証(特開昭50-140387号公報)には、「炭素数3〜20個のポリフルオロアルキル基含有の重合し得る化合物、親水性基含有の重合し得る化合物、及び一般式CH2=CR3CN(但し、式中のR3は水素原子又はメチル基を示す)で表わされる化合物を構成単位として含む共重合体からなる汚れ離脱型撥水撥油剤が、誘電率8〜45の高誘電率有機溶剤または・・・との混合物に溶解されてなる汚れ離脱型撥水撥油剤の有機溶液組成物。」(特許請求の範囲)、「本発明において使用される高誘電率有機溶剤としては、誘電率8〜45を有するメタノール、エタノール、イソプロパノール、ブタノール、の如きアルコール類・・・アセトン、塩化メチレンなどが例示され・・・誘電率15〜35程度を有するものが、特に好ましく採用され、具体例としてはメタノール、エタノール、イソプロパノール、エチルセロソルブ、アセトンなどがある。」(第2頁左下欄14行〜右下欄4行)、「本発明において・・・親水性基含有の重合し得る化合物としては・・・アクリル酸、メタクリル酸・・・の如きカルボキシル基(-COOH)を有する重合性カルボン酸、重合性カルボン酸のアルキレンオキサイド付加物、・・・水酸基含有重合性化合物・・・などがあげられ得る。本発明においては、水酸基、カルボキシル基・・・の如き・・・親水性基含有の側鎖を生成共重合体に付与し得る重合性化合物が好ましく採用される。」(第3頁左下欄7行〜右下欄10行)、「本発明における共重合体は、前記のポリフルオロアルキル基含有の重合し得る化合物、親水性基含有の重合し得る化合物・・・の他に、・・・アクリル酸又はメタクリル酸のアルキルエステル・・・の如きポリフルオロアルキル基を含まない重合し得る化合物の一種又は二種以上を、共重合体の構成単位として・・・共重合させることも可能である。」(第4頁右下欄最下行〜第5頁左上欄14行)、「本発明の有機溶液組成物は、特定共重合体の有機溶剤中の濃度・・・処理時に0.05〜4重量%程度、好ましくは0.3〜1.5重量%程度に希釈して使用することなどが可能・・・従って、特定共重合体濃度を0.05〜50重量%、好ましくは0.3〜35重量%・・・。」(第5頁左下欄1〜12行)、「本発明の撥水撥油剤は、ポリフルオロアルキル基含有の特定の共重合体に、他の重合体ブレンダーを混合しても良く、他の撥水剤や撥油剤或いは防虫剤、難燃剤、帯電防止剤、染料安定剤、防シワ剤など適宜添加剤を添加して併用することも勿論可能である。」(第5頁右下欄12〜18行)、「実施例1〜5及び比較例1〜3
C8F17CH2CH2OCOCH=CH255重量%、アクリロニトリル20重量%、CH2=C(CH3)CO2(CH2CH2O)25H20重量%、CH2=CHCONHCH2OC4H95重量%からなる共重合体を、下記第4表に示す種々の誘電率を有する有機溶剤に室温で、0.6重量%濃度になる様に溶解せしめた。得られる有機溶液をスプレーガンにより、ポリエステルジャージー布に・・・噴霧し・・・熱処理した。処理された布の撥水性、撥油性、汚れ離脱性能を測定し、下記第4表にまとめて示す。」(第6頁右下欄下から12行〜最下行)と記載されている。

甲第2号証(特開平6-49319号公報)に係る特願平4-180249号出願は、その公開日は平成6年2月22日で、本件特許の出願日と同一日であるが、本件特許の出願以前に公開されたとする根拠は何も示されていないので、甲第2号証は本件特許の出願前に公開された刊行物であるとはいえない。しかし、上記出願の出願日は平成4年5月29日であるから、甲第2号証は本件特許の出願日以前の出願であって、本件特許の出願以後に公開された、特願平4-180249号の願書に最初に添付された明細書(以後、先願明細書という。)に相当する。該先願明細書には、「(A)(a)炭素数6〜12のアルキル基を有するパーフルオロアルキルアクリレート系単量体、2〜40mol%(b)上記(a)と共重合可能なカルボキシル基を有するα、β-エチレン性不飽和単量体、0.1〜15mol%(c)上記(a)、(b)と共重合可能なヒドロキシル基を有するα、β-エチレン性不飽和単量体、0〜25mol%(d)上記(a)、(b)、(c)と共重合可能な上記以外のα、β-エチレン性不飽和単量体、97.9〜45mol%からなる単量体組成物を界面活性剤を用いて水中に乳化分散させ、分散粒子の粒径を0.3μm以下の微粒となしてからラジカル重合して得られた含フッ素アクリル系共重合体水性エマルジョンと、(B)カチオン性水溶性高分子化合物と、からなる含フッ素系水性撥水撥油組成物。」(請求項1)と記載されている。

甲第3号証(ポリウレタン樹脂ハンドブック)には、「防しわ加工剤・・・柔軟な風合を与えることができる水系PU樹脂に、防しわ効果を発揮させる研究が広く行われた。その例を以下に述べる。・・・カチオン性水系PU樹脂“ソフテックスU-100”(花王(株))の希釈液中に綿100%、ポリエステル/綿(65/35)のブロード地を浸漬処理して・・・2)2種の水系PUによる防しわ加工 へキサンジオール/アジピン酸/HDIからPUプレポリマーを作り、これをエチレンイミンと反応さて、エチレン尿素誘導体を得ておく。一方、ポリエーテルとXDIのプレポリマーとε-カプロラクタムで水系PUを作り、両者を混合して、ポリエステル/綿混紡布に浸漬、乾燥し、・・・柔軟でしわ防止性に優れ、撥水性のある布を得た。」(第506〜507頁の12.4.2防しわ加工剤の項)、「水系PUそのものでは、繊維の表面エネルギーを著しく低下させて、高度な撥水撥油性を付与することは難しい。フッ素を含有する成分をPUプレポリマーの中に導入することが必須になる。その例にフッ素成分を導入した撥水撥油加工がある。(i)パーフロロアルキルエタノールとクエン酸のエステルにHDIを反応させた水系PU樹脂を作り、これをパーフロロ基を含むメタクリレート系撥水エマルジョンと組合せて、ポリプロピレン繊維に処理することによって高度な撥水撥油性を得た。(ii)オリゴエステル/N-メチルピロリドン/H12MDIからなる水系PU分散液に、メタクリル酸へキサパーフロロスルホアミドメチルエチルエステルを共重合することによって、撥水撥油性に富んだ加工剤を作ることができた。」(第507頁12.4.3 撥水撥油加工の項)と記載されている。

(4)対比・判断
(ア)本件発明1について
甲第1号証には、前記したように、特定のポリフルオロアルキル基含有の共重合体と特定の高誘電率有機溶剤とからなる汚れ離脱型撥水撥油剤の有機溶液組成物が記載されており、本件発明1の撥水剤組成物と甲第1号証の汚れ離脱型撥水撥油剤の有機溶液組成物を比較すると、本件発明1のものが-NHCOO-結合、-NHCONH-結合及び-NHCOS-結合からなる群より選ばれる少なくとも一種の結合を有するポリマーを含有する点(相違点1)、溶剤において甲第1号証が高誘電率有機溶剤であるのに対し、本件発明1が炭素数1〜3のアルコールである点(相違点2)及びフッ素樹脂成分がエタノールに対し1重量%のフッ素樹脂成分を添加して得られた組成物の特定の撥水試験(スプレー法)における撥水性に係る特定の条件を満足するものである点(相違点3)で相違する。
まず(相違点1)における特定の結合を有するポリマーの配合についてみると、甲第3号証には、前記したように、水系PU(ポリウレタンの略)樹脂、カチオン性水系PU樹脂について記載があり、セルロース製品の防しわ加工として、カチオン性水系PU樹脂“ソフテックスU-100”(花王(株))の希釈液中に綿100%、ポリエステル/綿(65/35)のブロード地を浸漬処理すること及びへキサンジオール/アジピン酸/HDI(ヘキサメチレンジイソシアネートの略)からPUプレポリマーを作りこれをエチレンイミンと反応させて得られたエチレン尿素誘導体(ウレア結合を有するポリウレタンに相当する)と、ポリエーテルとXDI(キシリレンジイソシアネートの略)のプレポリマーとε-カプロラクタムから得られた水系PUとを、混合して、ポリエステル/綿混紡布に浸漬、乾燥して柔軟でしわ防止性に優れ、撥水性のある布が得られることが記載され、また、パーフロロアルキルエタノールとクエン酸のエステルにHDIを反応させた水系PU樹脂(パーフロロアルキル基を含有するポリウレタンに相当する)を作り、これをパーフロロ基を含むメタクリレート系撥水エマルジョンと組合せて、ポリプロピレン繊維に処理することによって高度な撥水撥油性が得られることが記載されている。
そして、ポリウレタン又はウレア結合を有するポリウレタンは-NHCOO-結合(以後、「ウレタン結合」という)又は-NHCONH-結合(以後、「ウレア結合」という)を有するポリマーに相当するものであるから、甲第3号証には、ポリウレタンや、ウレア結合を有するポリウレタンを防しわ加工に使用することやパーフロロアルキル基を含有するポリウレタンをパーフロロ基を含むメタクリレート系撥水エマルジョンと組合わせて撥水撥油加工に使用することが記載されているといえる。
しかし、甲第3号証にはウレタン結合やウレア結合を有するポリマーの配合と防しわ又は撥水撥油効果との関連が示されているにすぎず、本件発明1の撥水効果が優れ、その持続性が高く、且つ処理対象物にシミ残りがないという効果との関連については記載も示唆もされていない。

次に、(相違点2)の溶剤の相違についてみると、甲第1号証には、特定の高誘電率有機溶剤の具体例の中にメタノール、エタノール、イソプロパノールが例示されているので、甲第1号証の特定の高誘電率有機溶剤には炭素数1〜3のアルコールが含まれるといえるが、本件発明1おいて、炭素数1〜3のアルコールはシミ残り抑制に関連するものであるのに対し、甲第1号証のものはポリフルオロアルキル基含有の汚れ離脱型撥水撥油剤を溶解させるための溶剤にすぎない。しかもその汚れ離脱性能とは撥水撥油剤処理した後に、繊維織物等に付着した汚れが洗濯などにより脱離除去され易さを示すものであり、本件発明1の撥水剤を処理した際に生じる衣料等への撥水剤自体によるシミの発生を抑制するシミ残り抑制とは異なるものであるから、両者のアルコールの配合の作用、効果は明らかに相違しており、甲第1号証には炭素数1〜3のアルコールとシミ残り抑制との関連については記載も示唆もされていない。
また、甲第3号証には、シミ残り抑制を目的として炭素数1〜3のアルコールを撥水撥油剤に配合することは記載も示唆もされていない。

更に、(相違点3)のフッ素樹脂について検討すると、甲第1号証のフッ素樹脂については、本件発明1の撥水性に係る特定の条件を満足するものであることは形式的に記載されていないばかりでなく、本件発明1に撥水性に係る特定の条件を満足するものとして記載されている具体的なフッ素樹脂と同一又は類似しているともいえない。
また、甲第3号証にも撥水撥油剤のフッ素樹脂として、本件発明1の撥水性に係る特定の条件を満足するものを用いることは記載も示唆もされていないない。
なお、異議申立人は、甲第1号証に記載の具体的なフッ素樹脂と本件の実施例に記載のフッ素樹脂を比較すると両者のフッ素樹脂に実質的差異はなく、甲第1号証のフッ素樹脂も本件、発明1の撥水性に係る特定の条件を満足する旨主張しているが、甲第1号証に実施例として唯一具体的に記載されている、C8F17CH2CH2OCOCH=CH255重量%、アクリロニトリル20重量%、CH2=C(CH3)CO2(CH2CH2O)25H20重量%、CH2=CHCONHCH2OC4H95重量%からなる共重合体と同一又は類似であると解される含フッ素アクリル系共重合体は、本件発明1の具体的として示されている実施例のフッ素樹脂の中には見いだせず、両者のフッ素樹脂が同等であるとはいえない。また、他に甲第1号証のポリフルオロアルキル基含有の共重合体が本件発明1の撥水性に係る特定の条件を満足することを裏付ける証拠は何も示されていないので、異議申立人のこの点についての主張は採用することができない。

以上のことから、撥水性能及び持続性並びにシミ抑制に優れる撥水剤組成物を得る目的で、甲第1号証に記載の撥水撥油剤の有機溶液組成物の溶剤として炭素数1〜3のアルコールを選択し、フッ素樹脂として更に撥水性に係る特定の条件を満足するポリマーに置き換えた組成物に、甲第3号証に記載のウレタン結合やウレア結合等を有する特定のポリマーを組合わせて、本件発明1の撥水剤組成物を導き出すことはできない。
そして、本件発明1は「本件発明1の撥水性に係る特定の条件を満足するフッ素樹脂と炭素数1〜3のアルコールとウレタン結合やウレア結合等を有する特定のポリマーとを組合わせる」という構成を備えることによって、本件特許公報の段落【0046】及び実施例と比較例に記載されているように、撥水効果が優れ、その持続性が高く、且つ処理対象物にシミ残りがないという効果を奏するものであると認められる。
以上のことから、本件発明は上記甲第1号証及び甲第3号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

なお、異議申立人は、甲第1号証に撥水撥油剤組成物に防しわ剤等を添加して併用することも可能であると記載されていることから、甲第3号証に記載のウレタン結合やウレア結合を有するポリマーからなる防しわ剤を配合すること、また、パーフロロアルキルエタノールとクエン酸のエステルにHDIを反応させて得られた水系PU樹脂(パーフロロアルキル基を含有するポリウレタンからなるポリマー)をパーフロロ基を含むメタクリレート系撥水エマルジョンと組合わせことが記載されているから、甲第3号証に記載のパーフロロアルキル基を含有するポリウレタンを甲第1号証の撥水撥油剤組成物に配合することは容易に想起しうるものであり、本件発明1のシミ残り抑制効果もアルコールに起因する効果であるから、本件発明1は甲第1号証の組成物に比較し異質な効果を有するものではないと主張している。
しかし、上記のように甲第1号証には炭素数1〜3のアルコールとシミ残り抑制との関連については記載も示唆もされておらず、また、甲第1号証には併用することが可能である添加剤としてウレタン結合やウレア結合等を有する特定のポリマーについては記載も示唆もされておらず、シミ残り抑制、撥水性の持続性の向上についても、甲第1及び3号証には記載も示唆もされていないものであるから、撥水性と共にシミ残り抑制、撥水性の持続性の向上を目的として甲第1及び3号証を結び付ける動機づけとなる根拠は見いだせず、異議申立人の主張は採用し得ない。

(イ)本件発明2〜4について
本件発明2〜4は、いずれも、本件発明1の上記特定の構成を発明の主要な構成とし、更に本件発明1を技術的に限定するものであるから、上記と同様の理由により、甲第1及び3号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
(ウ)本件発明5、6について
本件発明5及び6は本件発明1〜4のいずれかの撥水剤組成物を使用することを発明の構成としている、撥水剤物品及び撥水処理方法に係る発明であるから、上記と同様の理由により、甲第1及び3号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

なお、異議申立人が提出した甲第2号証は、前記したように、特許法第29条第2項でいう本件の出願前公知の刊行物に該当せず、甲第2号証の記載事項と他の甲号証の記載とを組合わせて当業者が容易に発明をすることができたとする異議申立人の主張は採用できない。また、甲第2号証に関する先願明細書には、特定の含フッ素アクリル系共重合体水性エマルジョンとカチオン性水溶性高分子化合物とからなる含フッ素系水性撥水撥油組成物が記載されているにすぎず、本件発明1〜6が炭素数1〜3のアルコールを必須の構成としている点で、他の構成を検討するまでもなく、該先願明細書に記載の発明と明らかに相違している。そして、シミ残り抑制のために撥水剤組成物の溶剤として炭素数1〜3のアルコールを用いることが周知、慣用技術の付加に相当するとはいえない。
してみれば、本件発明1〜6が該先願明細書に記載の発明と同一であるとはいえないので、本件発明1〜6の特許は特許法第29条の2の規定に違反してされたものともいえない。

(5)むすび
以上のとおりであるから、本件発明1〜6に係る特許は、特許異議申立ての理由及び証拠によっては特許を取り消すことはできない。
そして、他に本件発明1〜6に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、本件発明1〜6に係る特許は、拒絶の査定をしなければならない出願に対してされたものとは認められないから、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2003-04-04 
出願番号 特願平6-24363
審決分類 P 1 651・ 121- Y (D06M)
最終処分 維持  
特許庁審判長 鐘尾 みや子
特許庁審判官 井上 彌一
鈴木 紀子
登録日 2002-02-22 
登録番号 特許第3279426号(P3279426)
権利者 花王株式会社
発明の名称 撥水剤組成物及び撥水剤物品並びに撥水処理方法  

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