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審決分類 審判 訂正 旧特126条1項1号 請求の範囲の減縮 訂正する B01J
審判 訂正 判示事項別分類コード:813 訂正する B01J
管理番号 1077069
審判番号 訂正2003-39015  
総通号数 43 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 1998-07-28 
種別 訂正の審決 
審判請求日 2003-01-24 
確定日 2003-03-28 
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第3202676号に関する訂正審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 特許第3202676号に係る明細書及び図面を本件審判請求書に添付された訂正明細書及び図面のとおり訂正することを認める。 
理由
1.請求の要旨

本件審判の請求の要旨は、特許第3202676号発明(平成3年10月23日(優先権主張、平成2年11月9日、日本)に出願した特願平3-275296号の一部を平成10年2月13日に分割出願としたものであって、平成13年6月22日設定登録、平成14年2月27日 特許異議申立(異議2002-70479号)、平成14年8月16日特許を取り消す旨の異議の決定)の明細書を審判請求書(平成15年1月27日請求)に添付した訂正明細書のとおり、すなわち、次のとおり訂正することを求めるものである。

(訂正事項a)
「特許請求の範囲」の請求項1乃至3に係る記載
「【請求項1】Si/Al比が48以上の高シリカゼオライトを含み、HC(炭化水素)を吸着することを特徴とする自動車排ガス浄化用吸着材。」を、

「【請求項1】Si/Al比が48以上、アルカリ金属含有量が0.1重量%以下、1100℃で5時間加熱された場合のBET比表面積(m2/g)が少なくとも30(m2/g)である高シリカゼオライトであって、HC(炭化水素)を吸着することを特徴とする自動車排ガス浄化用吸着材。」と訂正する。

(訂正事項b)
明細書の段落番号【0007】の記載(特許掲載公報第2頁第3欄第44行〜第2頁第4欄第1行)

「【0007】【課題を解決するための手段】従って、本発明は上記従来の問題を解消した自動車排ガス浄化用吸着材を提供することを目的とするものである。そしてその目的は、本発明によれば、Si/Al比が48以上の高シリカゼオライトを含み、HC(炭化水素)を吸着することを特徴とする自動車排ガス浄化用吸着材、により達成することができる。」を、

「【0007】
【課題を解決するための手段】従って、本発明は上記従来の問題を解消した自動車排ガス浄化用吸着材を提供することを目的とするものである。そしてその目的は、本発明によれば、Si/Al比が48以上、アルカリ金属含有量が0.1重%以下、1100℃で5時間加熱された場合のBET比表面積(m2/g)が少なくとも30(m2/g)である高シリカゼオライトであって、HC(炭化水素)を吸着することを特徴とする自動車排ガス浄化用吸着材、により達成することができる。」と訂正する。

(訂正事項c)
明細書の段落番号【0009】の記載(特許掲載公報第2頁第4欄第6行〜第14行)

「【0009】ゼオライトとしては、Si/Al比が48以上の高シリカゼオライトを用いると、耐熱性が向上して触媒の適用条件が緩和され、好ましい。さらに吸着材に触媒を担持させたものが、(a)Pt、Pd、Rh、lr及びRuから選択される少なくとも1種の貴金属とイオン交換されたSi/Al比が48以上の高シリカゼオライトと、(b)Pt、Pd、Rh、lr及びRuから選択される少なくとも1種の貴金属を含有する耐熱性酸化物とからなる組成物を用いることが好ましい。」を、

「【0009】ゼオライトとしては、Si/Al比が48以上、アルカリ金属含有量が0.1重量%以下、1100℃で5時間加熱された場合のBET比表面積(m2/g)が少なくとも30(m2/g)である高シリカゼオライトを用いると、耐熱性が向上して触媒の適用条件が緩和され、好ましい。さらに吸着材に触媒を担持させたものが、(a)Pt、Pd、Rh、lr及びRuから選択される少なくとも1種の貴金属とイオン交換されたSi/Al比が48以上、アルカリ金属含有量が0.1重量%以下、1100℃で5時間加熱された場合のBET比表面積(m2/g)が少なくとも30(m2/g)である高シリカゼオライトと、(b)Pt、Pd、Rh、lr及びRuから選択される少なくとも1種の貴金属を含有する耐熱性酸化物とからなる組成物を用いることが好ましい。」と訂正する。

(訂正事項d)
明細書の段落番号【0010】の記載(特許掲載公報第2頁第4欄第15行〜第28行)

「【0010】【発明の実施の形態】本発明は、Si/Al比が48以上の高シリカゼオライトを含む自動車排ガス浄化用吸着材である。このように、本発明の吸着材はSi/Al比が48以上の高シリカゼオライトを含むため、この吸着材を配設した触媒コンバーターでは、セルモーター駆動のエンジン始動時において、ゼオライトによる吸着機能を利用して低温排気ガス中の未燃HCを捕捉し、その後、吸着材の下流側に配置されるハニカムヒーターに通電すると同時に捕捉されたHCは脱離を開始し、通常その下流側等に配置された主モノリス触媒および/又はヒーター上の触媒が瞬時に加熱されるためにHCは好適に反応浄化される。又、吸着材に触媒が担持されている場合には、HCは脱離するとともに反応浄化される。」を、

「【0010】【発明の実施の形態】本発明は、Si/Al比が48以上、アルカリ金属含有量が0.1重量%以下、1100℃で5時間加熱された場合のBET比表面積(m2/g)が少なくとも30(m2/g)である高シリカゼオライトである自動車排ガス浄化用吸着材である。このように、本発明の吸着材はSi/Al比が48以上、アルカリ金属含有量が0.1重量%以下、1100℃で5時間加熱された場合のBET比表面積(m2/g)が少なくとも30(m2/g)である高シリカゼオライトのため、この吸着材を配設した触媒コンバーターでは、セルモーター駆動のエンジン始動時において、ゼオライトによる吸着機能を利用して低温排気ガス中の未燃HCを捕捉し、その後、吸着材の下流側に配置されるハニカムヒーターに通電すると同時に捕捉されたHCは脱離を開始し、通常その下流側等に配置された主モノリス触媒および/又はヒーター上の触媒が瞬時に加熱されるためにHCは好適に反応浄化される。又、吸着材に触媒が担持されている場合には、HCは脱離するとともに反応浄化される。」と訂正する。

(訂正事項e)
明細書の段落番号【0015】の記載(特許掲載公報第3頁第5欄第29行〜第42行)

「【0015】上記高シリカゼオライトは、よく知られる通常のゼオライトと同様、結晶の単位格子の最小単位が結晶性アルミノ珪酸塩で、Al203及びSi02が互いに酸素イオンにより連続的に結合したものであるが、Si/Al比が通常のゼオライトの1〜5に比し約10以上と高いものである。本発明においては、上記のようにSi/Al比が48以上の高シリカゼオライトが好ましいが、耐熱性の点からSi/Al比が50以上が更に好ましく、60以上が特に好ましい。一方、Si/Al比が1000を超えると、吸着容量そのものが低下すること、及び触媒成分を添加する場合、イオン交換サイトの数が少なくなるため、少量の貴金属しかゼオライト中にイオン交換できず、好ましくない。また、上記高シリカゼオライトはH(プロトン)型であることが耐熱性の点で好ましい。」を、

「【0015】上記高シリカゼオライトは、よく知られる通常のゼオライトと同様、結晶の単位格子の最小単位が結晶性アルミノ珪酸塩で、Al203及びSi02が互いに酸素イオンにより連続的に結合したものであるが、Si/Al比が通常のゼオライトの1〜5に比し約10以上と高いものである。本発明においては、上記のようにSi/Al比が48以上の高シリカゼオライトが好ましいが、耐熱性の点からSi/Al比が50以上が更に好ましく、60以上が特に好ましい。一方、Si/Al比が1000を超えると、吸着容量そのものが低下すること、及び触媒成分を添加する場合、イオン交換サイトの数が少なくなるため、少量の貴金属しかゼオライト中にイオン交換できず、好ましくない。また、上記高シリカゼオライトはH(プロトン)型で、そのアルカリ金属含有量が0.1重量%以下であることが耐熱性の点で好ましい。」と訂正する。

(訂正事項f)
明細書の段落番号【0026】の記載(特許掲載公報第4頁第8欄第8行〜第23行)

「【0026】【実施例】以下、本発明を実施例に基づいて更に詳しく説明するが、本発明はこれらの実施例に限られるものではない。(実施例1〜8、比較例1〜2)ゼオライトの選択:市販されている表1に示したSi/Al比の異なるH型のモルデナイトゼオライトA及びZSM-5ゼオライトB〜E、前記ゼオライトAを塩酸で煮沸処理してSi/Al比を高めたゼオライトF及びNa型のZSM-5ゼオライトGを用いた。なお、ゼオライトGのアルカリ金属含有量は0.85重量%で、その他のゼオライトのアルカリ金属含有量は0.1重量%以下であった。ここで、用いた各ゼオライトの常温時、電気炉中で900、1000及び1100℃の各温度で5時間加熱処理した後に測定したBET比表面積(m2/g)を、それぞれ表1に示した。」を、

「【0026】【実施例】以下、本発明を実施例に基づいて更に詳しく説明するが、本発明はこれらの実施例に限られるものではない。(実施例1〜8、比較例1〜2)ゼオライトの選択:市販されている表1に示したSi/Al比の異なるH型のモルデナイトゼオライトA及びZSM-5ゼオライトB〜E、前記ゼオライトAを塩酸で煮沸処理してSI/Al比を高めたゼオライトF及びNa型のZSM-5ゼオライトGを用いた。なお、ゼオライトGのアルカリ金属含有量は0.85重量%で、その他のゼオライトのアルカリ金属含有量は0.1重量%以下であった。ここで、自動車排ガス浄化に用いる時の耐熱性を調べるために、用いた各ゼオライトの常温時、電気炉中で900、1000及び1100℃の各温度で5時間加熱処理した後に測定したBET比表面積(m2/g)を、それぞれ表1に示した。」と訂正する。


2.当審の判断

(1)訂正の目的の適否、新規事項の追加の有無及び拡張・変更の存否

(訂正事項a)について

(訂正事項a)は、「Si/Al比が48以上の高シリカゼオライト」を、「Si/Al比が48以上、アルカリ金属含有量が0.1重量%以下、1100℃で5時間加熱された場合のBET比表面積(m2/g)が少なくとも30(m2/g)である高シリカゼオライト」とする訂正(以下「(訂正事項a1)とする」)と、「を含み」を、「であって」とする訂正(以下「(訂正事項a2)とする」)であるから、これらについて判断をする。

(訂正事項a1)について

この訂正は、訂正前の請求項1に係る発明における「Si/Al比が48以上の高シリカゼオライト」を、「アルカリ金属含有量が0.1重量%以下、1100℃で5時間加熱された場合のBET比表面積(m2/g)が少なくとも30(m2/g)である」ものに限定するものであるから、特許法第126条第1項第1号に規定される特許請求の範囲の減縮を目的とした訂正に該当する。
そして、「アルカリ金属含有量が0.1重量%以下、1100℃で5時間加熱された場合のBET比表面積(m2/g)が少なくとも30(m2/g)である高シリカゼオライト」は、段落【0026】の記載からみて、段落【0027】の【表1】に記載されたものであるから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてされたものである。

(訂正事項a2)について

この訂正は、訂正前の記載では、本件発明に係る自動車排ガス浄化用吸着材が、「含み」の前段で規定している「高シリカゼオライト」を少なくとも含んでいるという意味にも解され不明りょうであったところ、「であって」と訂正することにより、本件発明に係る「自動車排ガス浄化用吸着材」が「高シリカゼオライト」であることを明らかにするものであるから、特許法第126条第1項第3号に規定される明りょうでない記載の釈明を目的とした訂正に該当する。
そして、本件発明に係る「自動車排ガス浄化用吸着材」が「高シリカゼオライト」であることは、段落【0039】に記載された事項であるから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてされたものである。

したがって、(訂正事項a)は、特許請求の範囲の減縮及び明りょうでない記載の釈明を目的とした訂正に該当し、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてされたものであり、しかも実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(訂正事項b)〜(訂正事項f)について

これらの訂正は、特許請求の範囲に関する上記(訂正事項a)に伴う特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載との整合を図るためのものであるから、特許法第126条第1項第3号に規定される明りようでない記載の釈明を目的とした訂正に該当し、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてされたものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。


(2)独立特許要件について

(訂正事項a)は、上記のとおり、特許法第126条第1項第1号及び第3号の規定における特許請求の範囲の減縮及び明りょうでない記載の釈明を目的とした訂正に該当するものであるから、以下、特許法第126条第4項に規定される要件(独立特許要件)について検討する。

(2-1)本件発明

訂正明細書の請求項1〜3に係る発明(以下、「本件訂正発明1〜3」という)は、その特許請求の範囲の請求項1〜3に記載された次のとおりのものである。

「【請求項1】Si/Al比が48以上、アルカリ金属含有量が0.1重量%以下、1100℃で5時間加熱された場合のBET比表面積(m2/g)が少なくとも30(m2/g)である高シリカゼオライトであって、HC(炭化水素)を吸着することを特徴とする自動車排ガス浄化用吸着材。」
「【請求項2】請求項1記載の吸着材に触媒を担持させてなる自動車排ガス浄化用吸着材。」
「【請求項3】請求項1又は2記載の吸着材を、多数の貫通孔を有するハ二力ム構造体に被覆した自動車排ガス浄化用吸着材。」

(2-2)引用刊行物に記載された発明

(2-2-1)異議2002-70479号において、その取消理由通知に引用された刊行物1(特開平2-75327号公報、特許異議申立人が提出した甲第1号証)には、以下の事項が記載されている。

(1a)「本発明者は、HC吸着性能の高い吸収材について鋭意研究を重ねた結果、ゼオライトが比較的高い温度まで高いHC吸着性能を有することを見出した。さらに、ゼオライトの中でも、特にモルデナイト及びY型ゼオライトがHC吸着性能が良好であり、耐久後にも優れた吸着性能を有することを確認した。」(第2頁右上欄1〜7行)

(1b)「これらの試験により、モルデナイト及びY型ゼオライトが自動車の排気ガス浄化装置における吸着材として優れた材料であることがわかる。」(第2頁右下欄2〜4行)

(2-2-2)同じく、刊行物2(特開平2-135126号公報、特許異議申立人が提出した甲第2号証)には、以下の事項が記載されている。

(2a)「本発明は、排ガス温度が上昇してHCが吸着材から離脱し始めてから触媒コンバータ中の触媒が充分に加熱されるまでの間においても、HCが良好に浄化される自動車排ガス浄化装置を提供することを目的とする。」(第2頁左上欄第13〜17行目)

(2b)「吸着材の一部に坦持する触媒金属は、通常排気ガス浄化触媒として使用される金属、例えばCu、Pd、Pt、Rh、Fe、Cr、V等から選択することができ、特にHCの浄化に有効なものを使用するとよい。」(第2頁右上欄第5〜9行目)

(2c)「ゼオライトとしては、吸着性能の点からH型モルデナイトあるいはH-Y型ゼオライトが好ましい。」(第2頁右上欄第16〜18行目)

(2-2-3)同じく、刊行物3(東ソー研究報告、第33巻第2号、第155〜165頁、1989年、特許異議申立人が提出した甲第3号証)には、以下の事項が記載されている。

(3a)「HSZシリーズは、Y型、L型、モルデナイト(Mordenite)、及びフェリエライト(Ferrierite)の4種の合成ゼオライトから成り、そのSiO2/Al2O3モル比が5以上と高く、シリカ分に富む(ハイシリカ)為に耐熱性及び耐酸性に優れている。」(第156頁左欄第4〜8行目)
(3b)「合成或は脱アルミニウム処理によってSiO2/Al2O3比を高めたゼオライトは、疎水性を示し水よりも有機分子を選択的に吸着する様になる。」(第161頁左欄第4〜6行目)

(3c)「Fig.8に、US-Y化によって骨格SiO2/Al2O3比を増大させたY型ゼオライトの、水及びベンゼンに対する吸着特性を示す。SiO2/Al2O3比が70以上になると両者に対する親和力(吸着容量)の逆転が生じる。モルデナイトに於いても同様の現象が見られる。」(第161頁左欄第7〜11行目)

(3d)「Fig.10に、HSZシリーズを空気中、2時間加熱した場合の結晶度の変化を示す。US-Y化の度合いが増す程耐熱性は高く、SiO2/Al2O3比が600のHSZ-390HUAは少なくとも900℃まで何ら変化を示さない。」(第161頁右欄第3行目〜第163頁左欄第3行目)

(2-2-4)同じく、刊行物4(ZELITES、vol.2、第67〜68頁、1982年4月、特許異議申立人が提出した甲第4号証)には、以下の事項が記載されている。

(4a)「HZSM-5系における水、メタノール、ベンゼンおよびn-ヘキサンの吸着特性について、SiO2/Al2O3比を約50から900まで変化させて100℃で測定し、また、それらの疎水性を検討した。HZSM-5は、水やメタノールのような極性化合物よりn-ヘキサンのような極性の低い化合物をより吸着し、SiO2/Al2O3比として400を越える範囲における吸着量は、n-ヘキサン>ベンゼン>>メタノール>水の順となった。その疎水性は、SiO2/Al2O3比の増加に伴って直線的に増加した。」(第67頁抄録)

(2-3)独立特許要件についての判断

(2-3-1)本件訂正発明1について

刊行物1には、上記(1a)によれば、「ゼオライトが比較的高い温度まで高いHC吸着性能を有する」と記載されており、また、(1b)によれば、「ゼオライト」が「自動車の排気ガス浄化装置における吸着材として優れた材料」であることも記載されている。
よって、刊行物1の記載事項を本件訂正発明1の記載振りに則って整理すると、刊行物1には「ゼオライトであって、HC(炭化水素)を吸着することを特徴とする自動車排ガス浄化用吸着材。」という発明(以下、「刊行物1発明」という)が記載されていると云える。

ここで、本件訂正発明1と刊行物1発明とを対比すると、両者は、「ゼオライトであって、HC(炭化水素)を吸着することを特徴とする自動車排ガス浄化用吸着材」である点で一致し、本件訂正発明1ではゼオライトを、「Si/Al比が48以上、アルカリ金属含有量が0.1重量%以下、1100℃で5時間加熱された場合のBET比表面積(m2/g)が少なくとも30(m2/g)」である高シリカゼオライトとしているのに対し、刊行物1には、「モルデナイト及びY型ゼオライト」としか記載がなく、その具体的な物性については明らかでない点で相違している。

次に上記相違点について、その余の刊行物2について検討すると、上記(2a)〜(2c)の記載からみて、刊行物2には、HCを吸着する浄化吸着材に、ゼオライトとしてH型モルデナイトあるいはH-Y型ゼオライトが好ましく、坦持する金属としてCu、Pd、Pt、Rh、Fe、Cr、V等が適用し得ることが示唆されている。

また、刊行物3について検討すると、上記(3b)、(3c)の記載によれば、刊行物3には、水と有機分子を含むガスを処理する場合、ゼオライトのSiO2/Al2O3モル比が高くなるに従って、水の吸着量が減少する分、有機分子であるベンゼンの吸着量が増え、また、上記(3a)、(3d)の記載によれば、シリカ分に富む(ハイシリカ)ゼオライトほど耐熱性が高くなることが開示されているのであるから、「水分とHC(炭化水素)を含む排ガスから、炭化水素を吸着」し、かつ耐熱性を高くするために、ゼオライトとしてSi/Al比が高い値のものを、浄化装置の吸着材として適用し得ることについて示唆されていると云える。

さらに、刊行物4について検討すると、上記(4a)に記載されているように、ゼオライトのSiO2/Al2O3比が増加すると、水より炭化水素であるベンゼンをより吸着するということが示唆されている。

しかしながら、刊行物2〜4には、高シリカのゼオライトとして「Si/Al比が48以上」であり、かつ「アルカリ金属含有量が0.1重量%以下」とすることを示唆する記載はない。

本件訂正発明1は、上記の如く、高シリカのゼオライトとして「Si/Al比が48以上」であるとともに、かつ「アルカリ金属含有量が0.1重量%以下、1100℃で5時間加熱された場合のBET比表面積(m2/g)が少なくとも30(m2/g)である」という構成により、高温条件下においてもHCを有効に捕獲するという、顕著な効果を奏するものである。

してみると、本件訂正発明1の上記相違点に係る構成は、刊行物2〜刊行物4の記載から、当業者が容易に想到することができたものではなく、本件訂正発明1は、刊行物1〜刊行物4に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたとすることはできない。

(2-3-2)本件訂正発明2について

本件訂正発明2は、本件訂正発明1を引用することによりその発明特定事項を全て含むものであるから、前記(2-3-1)と同様の理由により、本件訂正発明2は、刊行物1〜刊行物4に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたとすることはできない。

(2-3-3)本件訂正発明3について

本件訂正発明3は、本件訂正発明1又は2を引用することによりその発明特定事項を全て含むものであるから、前記(2-3-1)及び(2-3-2)と同様の理由により、本件訂正発明3は、刊行物1〜刊行物4に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたとすることはできない。

さらに、他に訂正発明1〜3を拒絶すべき理由を発見しない。

したがって、本件訂正発明1〜3は、特許出願の際独立して特許を受けることができるものである。


3.むすび

以上のとおりであるから、本件審判の請求は、特許法第126条第1項ただし書き第1号ないし第3号に掲げる事項を目的とし、かつ、同条第2項ないし第4項の規定に適合する。

よって、結論のとおり審決する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
自動車排ガス浄化用吸着材
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】 Si/Al比が48以上、アルカリ金属含有量が0.1重量%以下、1100℃で5時間加熱された場合のBET比表面積(m2/g)が少なくとも30(m2/g)である高シリカゼオライトであって、HC(炭化水素)を吸着することを特徴とする自動車排ガス浄化用吸着材。
【請求項2】 請求項1記載の吸着材に触媒を担持させてなる自動車排ガス浄化用吸着材。
【請求項3】 請求項1又は2記載の吸着材を、多数の貫通孔を有するハニカム構造体に被覆した自動車排ガス浄化用吸着材。
【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】 本発明は、触媒コンバーターなどに配設される自動車排ガス浄化用吸着材に関する。
【0002】
【従来の技術】 自動車等の排気ガスを浄化するために用いられる触媒コンバーターは、触媒が触媒作用を発揮するために所定温度以上に昇温されることが必要であるので、自動車の始動時等の未だ触媒が十分に昇温していない場合には触媒を加熱することが必要となる。
従来、このような触媒を加熱するための提案として、例えば実開昭63-67609号公報に記載の技術が知られている。この実開昭63-67609号公報には、セラミック製主モノリス触媒の上流側に近接させてメタル担体にアルミナをコートした電気通電可能なメタルモノリス触媒を配設した触媒コンバーターが開示されている。
【0003】 また、排気ガス中の有害成分(HC、CO、NOX)のうち、特にHC(炭化水素)は光化学スモッグ(オキシダント)の原因となるため、規制が強化されつつあり、エンジン始動時に大量に排出されるHCをゼオライトの吸着作用を利用して浄化する試みがなされている。例えば、排ガス系に浄化触媒と、その上流側にゼオライト等の吸着材、あるいは触媒を担持した吸着材を配置した自動車排ガス浄化装置も提案されている(例えば、特開平2-75327号公報、特開平2-173312号公報、特開平2-135126号公報等を参照)。
さらに、特開平2-126937号公報には、メタル担体上にゼオライトをコートした吸着材が開示されている。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】 しかしながら、実開昭63-67609号公報記載の触媒コンバーターは、プレヒーターたるメタルモノリス触媒と主モノリス触媒から構成されるもので、エンジン始動時に排気ガス中のHC成分が浄化され難いという問題がある。
また、排ガス系に、浄化触媒とその上流側にゼオライト等の吸着材を配置した自動車排気ガス浄化装置(特開平2-75327号公報)では、浄化触媒の上流側で吸着材によってHCが吸着されても、暖機とともに吸着材からHCが脱離し、その結果相当量のHCが浄化触媒を通過してしまうという問題がある。
【0005】 特開平2-173312号公報は、主通路に触媒を、バイパス通路には吸着材を備え、エンジン始動時には切換手段によりバイパス通路に排気ガスを通し、エンジン始動後排気ガスが触媒の活性温度に達した時切換手段により排気ガスを主通路の触媒に流す技術が開示されているが、この場合、主通路の触媒が完全に暖まるまで待機するのは機構が複雑となり主通路の触媒自身が暖まるまでの未浄化成分の触媒通過が無視できない。
【0006】 又、排ガス系に、浄化触媒とその上流側に触媒を担持した吸着材を配置した自動車排気ガス浄化装置(特開平2-135126号公報)においては、吸着材自体の熱容量で浄化触媒の立上りが遅れるという問題があり、さらに吸着材に触媒成分を添加してもその容量に限界があり、充分な浄化ができないという欠点がある。
さらに、特開平2-126937号公報には吸着材のみが記載され、CO、HC、NOXを含めた排気ガスの触媒コンバーターについては記載されていない。
また、上記したいずれの公知例においても、吸着材に用いるゼオライトはY型又はモルデナイト型であり、耐熱性に問題があると同時に排ガス中の水分が強く吸着して、吸着材の吸着能を低下させる。
【0007】
【課題を解決するための手段】 従って、本発明は上記従来の問題を解消した自動車排ガス浄化用吸着材を提供することを目的とするものである。そしてその目的は、本発明によれば、Si/Al比が48以上、アルカリ金属含有量が0.1重量%以下、1100℃で5時間加熱された場合のBET比表面積(m2/g)が少なくとも30(m2/g)である高シリカゼオライトであって、HC(炭化水素)を吸着することを特徴とする自動車排ガス浄化用吸着材、により達成することができる。
【0008】 本発明では、高シリカゼオライトを含む吸着材に触媒を担持させることは、ゼオライトの吸着作用と触媒作用が協働し、排ガスの浄化性能の向上のため、好ましい。
【0009】 ゼオライトとしては、Si/Al比が48以上、アルカリ金属含有量が0.1重量%以下、1100℃で5時間加熱された場合のBET比表面積(m2/g)が少なくとも30(m2/g)である高シリカゼオライトを用いると、耐熱性が向上して触媒の適用条件が緩和され、好ましい。さらに吸着材に触媒を担持させたものが、(a)Pt、Pd、Rh、Ir及びRuから選択される少なくとも1種の貴金属とイオン交換されたSi/Al比が48以上、アルカリ金属含有量が0.1重量%以下、1100℃で5時間加熱された場合のBET比表面積(m2/g)が少なくとも30(m2/g)である高シリカゼオライトと、(b)Pt、Pd、Rh、Ir及びRuから選択される少なくとも1種の貴金属を含有する耐熱性酸化物とからなる組成物を用いることが好ましい。
【0010】
【発明の実施の形態】 本発明は、Si/Al比が48以上、アルカリ金属含有量が0.1重量%以下、1100℃で5時間加熱された場合のBET比表面積(m2/g)が少なくとも30(m2/g)である高シリカゼオライトである自動車排ガス浄化用吸着材である。このように、本発明の吸着材はSi/Al比が48以上、アルカリ金属含有量が0.1重量%以下、1100℃で5時間加熱された場合のBET比表面積(m2/g)が少なくとも30(m2/g)である高シリカゼオライトのため、この吸着材を配設した触媒コンバーターでは、セルモーター駆動のエンジン始動時において、ゼオライトによる吸着機能を利用して低温排気ガス中の未燃HCを捕捉し、その後、吸着材の下流側に配置されるハニカムヒーターに通電すると同時に捕捉されたHCは脱離を開始し、通常その下流側等に配置された主モノリス触媒および/又はヒーター上の触媒が瞬時に加熱されるためにHCは好適に反応浄化される。又、吸着材に触媒が担持されている場合には、HCは脱離するとともに反応浄化される。
【0011】 尚、エンジン始動時のエンジン排ガスはリッチ側(酸素不足雰囲気)になるため、HCやCOの酸化に必要な酸化性ガス、例えば二次空気の排ガス中への導入が必要である。
以下、便宜のために、本発明の吸着材を配設して成る触媒コンバーターを例にして説明する。
触媒コンバーターにおける、ハニカムヒーター(又は触媒担持のハニカムヒーター)2、主モノリス触媒3およびゼオライト吸着材(又は触媒担持の吸着材)1の好ましい配置・構成を図1の(a)〜(f)に示す。
【0012】 これらの構成のなかで、図1(a)はゼオライト吸着材1が自動車排ガス流路の最上流側に位置するため、吸着が最も容易であり好ましい。なお、この場合には、ハニカムヒーター2、ゼオライト吸着材1はともに触媒の有無に拘らず、使用することができる。
また図1(b)のような上流側よりハニカムヒーター2、ゼオライト吸着材1、主モノリス触媒3という構成では、ゼオライト吸着材1に吸着したHCをヒーター2への通電により脱離することができるので、制御し易いという利点がある。この場合にも、ハニカムヒーター2、ゼオライト吸着材1ともに触媒の有無に拘らず、使用することができる。
【0013】 さらに、図1の(c)〜(f)に示すように、主モノリス触媒3が前方(最上流側)に設置されている場合には、ヒーター2上の触媒およびゼオライト吸着材1の機能が失われにくく耐久性に優れ好ましい。この場合、図1(c)、図1(d)の構成では、中間に配置されるゼオライト吸着材1またはハニカムヒーター2とも触媒の有無に拘らず使用可能であるが、最下流側に配置されるゼオライト吸着材1またはハニカムヒーター2には、触媒が担持されることが必要である。
一方、図1(e)、図1(f)の如く主モノリス触媒3の間にゼオライト吸着材1およびハニカムヒーター2が配置される場合には、ハニカムヒーター2、ゼオライト吸着材1ともに触媒の有無に拘らず、使用することができる。
【0014】 また、図1(a)〜(f)において、ハニカムヒーター2には、ゼオライト吸着材またはゼオライト吸着材に触媒を担持させた吸着・触媒組成物を担持しても良い。この場合、吸脱着の制御はヒーターの通電によって容易に行うことができる。
本発明において吸着材として用いるゼオライトの種類としては特に限定されないが、Y型、モルデナイトなどの他、一般に市販されているモービル社、コンテック社のZSM-5、ZSM-8、シリカライト(UOP社)などが好適である。また、X型、Y型、モルデナイト等をゼオライト骨格から脱アルミニウム処理をしてSi/Al比を高めたものも好適に用いることができる。本発明では、Si/Al比が48以上の高シリカゼオライトを用いることが好ましい。Si/Al比が48未満であると、耐熱性が不足すると共に、親水性が増大するため、排ガス中の水分が強く吸着し好ましくない。
【0015】 上記高シリカゼオライトは、よく知られる通常のゼオライトと同様、結晶の単位格子の最小単位が結晶性アルミノ珪酸塩で、Al2O3及びSiO2が互いに酸素イオンにより連続的に結合したものであるが、Si/Al比が通常のゼオライトの1〜5に比し約10以上と高いものである。本発明においては、上記のようにSi/Al比が48以上の高シリカゼオライトが好ましいが、耐熱性の点からSi/Al比が50以上が更に好ましく、60以上が特に好ましい。一方、Si/Al比が1000を超えると、吸着容量そのものが低下すること、及び触媒成分を添加する場合、イオン交換サイトの数が少なくなるため、少量の貴金属しかゼオライト中にイオン交換できず、好ましくない。また、上記高シリカゼオライトはH(プロトン)型で、そのアルカリ金属含有量が0.1重量%以下であることが耐熱性の点で好ましい。
【0016】 本発明において、ゼオライトを主成分とする吸着材に担持する触媒としては、Pt、Pd、Rh等の貴金属を含有することが好ましく、さらに高比表面積の耐熱性酸化物を添加することが着火特性の向上の点で好ましい。Pt、Pd、Rh等の貴金属はゼオライト及び/又は耐熱性酸化物に担持されるが、耐熱性およびNOXの選択的除去能(副生成物NH3の発生抑制)などから、ゼオライトにイオン交換によって担持されることが好ましい。
【0017】 以上の触媒特性などに鑑みると、本発明で最適な吸着材に触媒を担持させた吸着・触媒組成物としては、(a)Pt、Pd、Rh、Ir及びRuから選択される少なくとも1種の貴金属とイオン交換されたSi/Al比が48以上の高シリカゼオライトと、(b)Pt、Pd、Rh、Ir及びRuから選択される少なくとも1種の貴金属を含有する耐熱性酸化物とからなる組成物、が挙げられる。
ここで上記(a)成分は、高シリカゼオライトとPt、Pd、Rh、Ir及びRuから選択される少なくとも1種の貴金属とを適当な水溶液にてイオン交換することにより得ることができる。上記した所望の性能を発揮するためには、貴金属のイオン交換率は10〜85%が好ましく、30〜85%が更に好ましい。
【0018】 高シリカゼオライトとイオン交換された貴金属は、ゼオライトの交換サイトに固定されて分散性が高く、触媒活性を有効に保持するとともに飛散されにくく、また高温下においても凝集することなく長期間にわたり高活性を維持できる。
更に、吸着材に触媒成分を担持させた吸着・触媒組成物を用いると、脱離時に発生するHCのコーキングを防止でき、吸着材としての耐久性を向上させる。
この貴金属イオン交換ゼオライトは、例えば次のように作製される。
高シリカゼオライトを10-4〜10-1mol/lのカチオン型金属イオンを含有する溶液に浸漬し、常温から100℃、好ましくは80〜90℃で約2時間以上静置または攪拌あるいは還流することにより貴金属成分をイオン交換し、要すれば濾過、水洗を繰り返してイオン交換された貴金属以外を除去する。イオン交換後は、通常80〜150℃で乾燥し、更に300〜1000℃、酸化または還元雰囲気下で約1〜10時間焼成することに作製できる。
【0019】 またゼオライトへ、CeO2、La2O3等希土類金属やアルカリ土類金属の酸化物を添加すると、希土類金属の酸素貯蔵能力による三元浄化性能が広がることになりその適用が多様化でき、しかもアルカリ土類金属添加によって耐熱性が向上することから好ましい。
一方上記(b)成分の耐熱性酸化物としては、Al2O3、TiO2、ZrO2、SiO2あるいはこれらの複合酸化物を用いることができる。又、これらの酸化物にCeO2、La2O3等希土類金属やアルカリ土類金属の酸化物を添加することも、上述のように三元浄化性能が広がり、しかも耐熱性が向上することから好ましい。そして、この(b)成分は、耐熱性酸化物に上記した貴金属の少なくとも1種を担持させて構成される。
【0020】 上記(a)成分と(b)成分の構成重量比としては、(a):(b)=10〜85:90:15とすることが好ましい。(a)成分が10重量%未満では、NOXの選択的除去能(副生成物NH3の発生抑制)が得られ難く、85重量%を超えると着火性能が劣るようになる。
上記の吸着・触媒組成物において、貴金属の総担持量は、10〜35g/ft3の範囲が好ましく、15〜30g/ft3がさらに好ましい。貴金属担持量が10g/ft3未満の場合、着火特性、耐久性に問題があり、35g/ft3を超えるとコスト高となる。このようにSi/Al比48以上の高シリカゼオライトを用いることにより、本発明では、貴金属のRhを、従来の排気ガス浄化用触媒が5g/ft3以上担持させる必要があったのに対し、5g/ft3未満の担持量でも十分にNOXのN2への選択的浄化能を発現でき、更に0〜2g/ft3の担持量でも、低温で被毒物質低含有量等の比較的穏和な条件で使用される場合には、実用上十分な選択性を発現できる。
【0021】 なお、触媒コンバーターに用いるハニカムヒーターはハニカム構造体を金属質とし、そのハニカム構造体の隔壁及び気孔の表面をAl2O3、Cr2O3等の耐熱性金属酸化物で被覆すると、耐熱性、耐酸化性、耐食性が向上し好ましい。
【0022】 ハニカムヒーターに用いるハニカム構造体の構成材料としては、通電により発熱する材料からなるものであれば制限はなく、金属質でもセラミック質でもよいが、金属質が機械的強度が高いため好ましい。金属質の場合、例えばステンレス鋼やFe-Cr-Al、Fe-Cr、Fe-Al、Fe-Ni、W-Co、Ni-Cr等の組成を有する材料からなるものが挙げられる。上記のうち、Fe-Cr-Al、Fe-Cr、Fe-Alが耐熱性、耐酸化性、耐食性に優れ、かつ安価で好ましい。さらに金属質の場合、フォイルタイプに形成したものでもよい。
【0023】 またハニカム構造体は、多孔質であっても非多孔質であってもよいが、触媒を担持する場合には、多孔質のハニカム構造体が触媒層との密着性が強く熱膨張差による触媒の剥離が生ずることがほとんどないことから好ましい。
【0024】 本発明において、吸着材を被覆するハニカム構造体のハニカム形状としては特に限定はされないが、具体的には、例えば6〜1500セル/In2(0.9〜233セル/cm2)の範囲のセル密度を有するように形成することが好ましい。又、隔壁の厚さは50〜2000μmの範囲が好ましい。
また、上記したようにハニカム構造体は多孔質であっても非多孔質でもよくその気孔率は制限されないが、0〜50%、好ましくは25%未満の範囲とすることが強度特性、耐酸化性、耐食性の面から望ましい。また、触媒を担持する場合には、それらとの密着性の点から5%以上の気孔率を有することが好ましい。
【0025】 尚、本発明においてハニカム構造体とは、隔壁により仕切られた多数の貫通孔を有する一体構造をいい、例えば貫通孔の断面形状(セル形状)は円形、多角形、コルゲート形等の各種の任意な形状が使用できる。
触媒コンバーターにおいて用いる主モノリス触媒としては、従来公知のものが使用できるが、三元触媒が好ましい。
またゼオライト吸着材は、ビーズ、ペレット、ハニカム等の任意の構造を採用することができるが、圧力損失の点でハニカム構造とすることが好ましい。この場合、ハニカム構造体自体が、ゼオライトを主成分として構成されてもよいが、耐熱衝撃性のあるセラミック質や金属質の基材上にゼオライトを主成分とする吸着材が被覆されていることが実用上さらに好ましい。
【0026】
【実施例】 以下、本発明を実施例に基づいて更に詳しく説明するが、本発明はこれらの実施例に限られるものではない。
(実施例1〜8、比較例1〜2)
ゼオライトの選択:
市販されている表1に示したSi/Al比の異なるH型のモルデナイトゼオライトA及びZSM-5ゼオライトB〜E、前記ゼオライトAを塩酸で煮沸処理してSi/Al比を高めたゼオライトF及びNa型のZSM-5ゼオライトGを用いた。なお、ゼオライトGのアルカリ金属含有量は0.85重量%で、その他のゼオライトのアルカリ金属含有量は0.1重量%以下であった。
ここで、自動車排ガス浄化に用いる時の耐熱性を調べるために、用いた各ゼオライトの常温時、電気炉中で900、1000及び1100℃の各温度で5時間加熱処理した後に測定したBET比表面積(m2/g)を、それぞれ表1に示した。
【0027】
【表1】

【0028】 上記表1より明らかなように、ゼオライトの耐熱性はSi/Al比に依存することが分かり、一般に自動車排気ガスの吸着材または触媒として使用する場合の最高使用温度は1000℃であり、1000℃においても高比表面積を保持するものであることから、用いるゼオライトとしては、Si/Al比が48以上のゼオライトが好ましいことがわかる。
また、ゼオライトAとBの加熱未処理品(粉末)を用い、10%H2O共存下常温にてプロパン/プロピレン(1/2)の吸着量を測定した結果、ゼオライトBの方がゼオライトAよりも1.5倍吸着量が多く、ゼオライトAは水による被毒作用を強く受けた。
【0029】 ハニカムヒーターの作製:
平均粒径10、20、22μmのFe粉、Fe-Al粉(Al50wt%)、Fe-Cr粉(Cr50wt%)の原料を用い、Fe-22Cr-5Al(重量%)の組成になるよう原料を配合し、これに有機バインダー(メチルセルロース)と酸化防止剤(オレイン酸)、水を添加して圷土を調製し、リブ厚4mil、貫通孔数400セル/In2(cpi2)の四角セルよりなるハニカムを押出し成形し、乾燥後H2雰囲気下1300℃で焼成し、その後空気中、1000℃で熱処理を行った。得られたハニカム構造体の気孔率は22%であり、平均細孔径は5μmであった。
【0030】 上記方法により得られた外径90mmφ、長さ25mmのハニカム構造体に、図2に示すように、その外壁10上に2ヶ所電極11をセットした。又、図2に示すように、70mmの長さのスリット12を貫通孔の軸方向に6個所設け(両端のスリット長は50mm)、かつスリット12間のセル数が7個(約10mm)となるように形成した。さらに、スリット12の外周部13にはジルコニア系の耐熱性無機接着剤を充填して絶縁部とし、ハニカムヒーターを作製した。
【0031】 ヒーター上への触媒Aの担持:
上記で得られたハニカムヒーター上に、γ-Al2O3・CeO2(重量比70:30)を被覆し、次いでPtとRhをPt/Rhが5/1の比となるよう35g/ft3担持し、600℃で焼成することにより、ヒーター上に触媒Aを担持した。
【0032】
ヒーター上への触媒Bの担持:
一方、同様のハニカムヒーター上に、Ptをイオン交換したH-ZSM-5(Si/Al比=48)50部と、γ-Al2O3・CeO2(重量比80:20)50部とからなる混合物を被覆し、次いでPtとRhを該γ-Al2O3・CeO2上に含浸担持し、最終的にPt/Rhを19/1の比になるよう35g/ft3担持し、600℃で焼成することにより、ハニカムヒーター上に膜厚50μmの触媒Bをコートした。
【0033】 ゼオライト吸着材:
また、長さ25mmの市販のコーディエライトハニカム担体(日本ガイシ製、リブ厚6mil、貫通孔数400セル/In2の四角セルよりなるハニカム構造体)上に、H-ZSM-5(Si/Al比=48)を膜厚50μmとなるよう被覆し、600℃で焼成してゼオライト吸着材を作製した。
【0034】 ゼオライト吸着材への触媒Bの担持:
上記ヒーター上への触媒Bの担持と同様の方法で、長さ25mmのコーディエライトハニカム担体に被覆担持した。
【0035】 ヒーター上への吸着材の担持:
ハニカムヒーター上に、コーディエライトハニカム担体上にゼオライト吸着材を作製した方法と同一の方法を用いてゼオライト吸着材を被覆担持した。
【0036】 主モノリス触媒:
市販の三元触媒(担体がセラミック質で、リブ厚6mil、貫通孔数400セル/In2の四角セルよりなるハニカム構造体)を用いた。
以上に示した種類のハニカムヒーター、ゼオライト吸着材、主モノリス触媒を用い、表2に示す構成でこれらを配置した触媒コンバーターについて、下記の如く評価を行なった。
【0037】 すなわち、エンジン始動時の性能を確認するために、排気量2400ccの自動車を用い、米国FTPにおけるBag1テストを実施した。ここで、ヒーターへの供給電圧は12V、エンジン始動後10秒後に通電を開始し、その後40秒後に通電を停止した。通電中はヒーター中央部のガス温度が400℃になるよう制御した。また、エンジン始動後50秒間、200l/minで二次空気を触媒コンバーターに導入した。
得られた結果を表2に示す。
一方、比較のため、主モノリス触媒のみを用いた場合(比較例1)、ゼオライト吸着材と主モノリス触媒を用いたがハニカムヒーターは用いなかった場合(比較例2)について、上記と同様の評価を行ない、その結果を表2に示した。
表2の結果から明らかなように、本発明の吸着材を用いた触媒コンバーターによれば、HC、CO、NO等の各エミッションが良好に浄化できることがわかる。
【0038】
【表2】

【0039】
【発明の効果】 以上説明したように、本発明の吸着材によれば、高シリカゼオライトであるため、耐熱性に優れ触媒の適用条件が緩和され、自動車排ガス浄化用として好適に用いることができる。
また本発明によれば、ゼオライトによる吸着効果とヒーターへの通電発熱効果により、排ガス中の各エミッション、特にHC、COの浄化が大きく改善され、大気中への排出量を大幅に低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 本発明の吸着材を用いた触媒コンバーターの好ましい配置・構成を示す説明図である。
【図2】 ハニカムヒーターの一例を示す説明図である。
【符号の説明】
1…ゼオライト吸着材、2…ハニカムヒーター、3…主モノリス触媒、10…外壁、11…電極、12…スリット、13…スリットの外周部。
 
訂正の要旨 訂正の要旨
審決(決定)の【理由】欄参照。
審理終結日 2003-03-04 
結審通知日 2003-03-07 
審決日 2003-03-18 
出願番号 特願平10-31743
審決分類 P 1 41・ 813- Y (B01J)
P 1 41・ 811- Y (B01J)
最終処分 成立  
前審関与審査官 新居田 知生中村 敬子  
特許庁審判長 沼沢 幸雄
特許庁審判官 山田 充
大黒 浩之
石井 良夫
後谷 陽一
登録日 2001-06-22 
登録番号 特許第3202676号(P3202676)
発明の名称 自動車排ガス浄化用吸着材  
代理人 渡邉 一平  
代理人 渡邉 一平  

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