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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 E04D
管理番号 1077238
審判番号 不服2001-19500  
総通号数 43 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 1995-10-09 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2001-11-01 
確定日 2003-05-16 
事件の表示 平成6年特許願第76517号「コンクリート建造物の屋根」拒絶査定に対する審判事件[平成7年10月9日出願公開、特開平7-259274]について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 【1】手続の経緯・本願発明
本願は、平成6年3月23日の出願であって、その請求項1に係る発明は平成13年7月30日受付の手続補正書により補正された明細書、及び、図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1に記載された次のとおりのものと認める。
「コンクリート建造物の上部壁(2)の上面に排水樋(6)を設置し、前記上部壁(2)に所定の高さを有して複数の金属屋根板(18)を連結配置したコンクリート建造物の屋根において、前記コンクリート上部壁(2)に、二重重ね部(12a)と一重部(12b)とから成る基部(12c)と直立部(12d)と吊片(12e)とを有する金属板製の吊子(12)を複数配列し、これらの吊子(12)の各々の基部(12c)を前記コンクリート上部壁(2)に固着し、前記コンクリート上部壁(2)に前記複数の吊子(12)の直立部(12d)間及びコンクリート上部壁(2)の立ち上り壁(2a)の内側面とこれに対向する吊子(12)の直立部(12d)間に位置させて、所定の厚さを有する発泡ウレタンフォームなどの断熱材(16)を密嵌配置し、前記断熱材(16)上に複数の金属屋根板(18)を並列状に展張するとともに隣接する金属屋根板(18)を、前記吊子(12)の吊片(12e)とともに重合して巻回し、前記隣接する金属屋根板(18)を連結し、前記金属屋根板(18)の長手方向の端縁部(18f)を前記排水樋(6)に臨ませたことを特徴とするコンクリート建造物の屋根。」(以下、「本願発明」という。)

【2】刊行物記載の発明
これに対し、原査定の拒絶の理由で引用された、特開平5-239887号公報(以下、「刊行物1」という。)には、以下の記載がある。
「本発明の実施例を図1から図11に基づいて説明する。建物コンクリートが屋上部に流し込まれて、ある程度乾燥したら、図2に示す通りに・・・受桟11を、図1に示す通りに建物コンクリート9上に屋根の横幅いっぱいに渡す。・・・そしてさらに図2、図9に示す通りに、桟止め具12を介してアンカー14でこの受桟11を建物コンクリートに固定する。」(3欄44行〜4欄3行)
「一方、図3に示す通り、ステンレス金属板を接合面傾斜部分6を有するように折曲げ加工して、折曲げステンレス板1を作る。・・・そしてさらにこの接合面傾斜部分6には、スライド式ツメ受け具15を屋根の縦幅に応じて1ヶ所から数ヶ所溶接する。
・・・上記折曲げステンレス板1を・・・図4、5、6、に示す通りに接合する。この際隣接する折曲げステンレス板1と折曲げステンレス板2とはアルゴン溶接工法で溶接するが、図4、図5に示す通りこれらステンレス折曲げ板は、折曲げられているので一部分のみ接合して、接合面傾斜部分6は接合せずに間隙7を形成する。そしてステンレス折曲げ板1は、間隙7にある取付体8によって、受桟11に取り付けられる。図6、7、8に示す通り、取付体8は、接合面傾斜部分6に固定溶接されたスライド式ツメ受け具15と、受桟11に取付体ビス17で固定される取付ツメ具16とからなる。取付ツメ具16はZ型に折曲がった形をしており、図8に示す通り、スライド式ツメ受け具15が形成する折曲げステンレス板1との隙間に、このZ型の頭が入り込む。」(4欄8〜29行)
「また図5に示す通り、折曲げステンレス板1、2等および樋3を接合する際に、接合面の立上がりは、折曲げステンレス板1、2等縦方向の接合部分5等にのみ存在し、樋3との接合面、すなわち横方向の接合部分には存在しない。したがって、水は、図5の↓の方向に流れ、スムーズに樋3へと移動し、排水口26に至る。
・・・この場合の樋3との接合部分は、図9に示す通りとなる。すなわち、折曲げステンレス板1、2等とは別のステンレス板を折曲げ加工して谷樋3を形成し、このステンレス板を折曲げステンレス板1、2等によって形成される屋根の下端の裏側にアルゴン溶接工法で溶接する。」(4欄33〜45行)
したがって、刊行物1には以下の発明が記載されていると認められる。
「コンクリート建物の屋上部に取付ツメ具16を設けた受桟11を固定し、
スライド式ツメ受け具15を溶接した接合面傾斜部分6を有する折曲げステンレス板1,2を受桟11上に並置し、
取付ツメ具16をスライド式ツメ受け具15に挿入すると共に、折曲げステンレス板1,2相互を溶接固定し、
折曲げステンレス板1,2の長手方向端部を樋3上に溶接固定した、コンクリート建物の屋根。」

同じく、原査定の拒絶の理由で引用された、特開昭57-92236号公報(以下、「刊行物2」という。)には、以下の記載がある。
「構造物Aの屋根部・・・の下地は、コンクリート等で構成されている。・・・1はその被覆ステンレス材Bの主板であって、略平坦状で、長尺をなし、この幅方向両側には・・・側部立上り部2,2が立設されている。」(2頁右下欄4〜14行)
「Cは断熱材で、発泡合成樹脂(例えば、ウレタン・・・等)で構成され、その厚さは適宜とし、その大きさは、幅が前記被覆ステンレス材Aの幅と同等とされ、その長さは長尺または適宜の長さに形成されている。」(2頁右下欄19行〜3頁左上欄4行)
「Dは可動吊子であって・・・5は可動舌片で・・・該可動舌片5の下方が吊子本体3の長孔または溝に,挿入または係合され・・・摺動可能に設けられている(第7図,第8図参照)。」(3頁左上欄13行〜右上欄3行)
「可動吊子Dは、その側部立上り部2の長手方向に適宜の間隔・・・をおいて複数設けられている。・・・そして、その1層の断熱材C・・・の横に密設・・・させつゝ、この一側下面で可動吊子Dの吊子本体3を覆うようにして隣接の1層の断熱材C・・・を構造材A上に敷設する。そして、この1層の断熱材C・・・上に、隣接の被覆ステンレス材Bを載置し、この他側の側部立上り部2を、前位の被覆ステンレス材Bの一側の側部立上り部2に重合し、この隣接する側部立上り部2,2間に可動舌片5,5……の上部を挟持させておく。そして側部立上り部2,2相互を可動舌片5,5……の上部と共にシーム溶接して伸縮継手部7を構成する。」(2頁左下欄1〜18行)

【3】対比・判断
本願発明と、上記刊行物1記載の発明とを対比すると、刊行物1記載の発明の「コンクリート建物の屋上部」、「樋3」、及び「折曲げステンレス板1,2」は、本願発明の「コンクリート建造物の上部壁(2)」、「排水樋(6)」、及び「金属屋根板(18)」にそれぞれ相当する。そして、本願発明の「金属板製の吊子(12)」も、刊行物1記載の発明の「受桟11」も共に、「金属屋根板(折曲げステンレス板)」を固定するための「屋根板固定具」といえるから、両者は、
「コンクリート建造物の上部壁の上面に排水樋を設置し、前記上部壁に所定の高さを有して複数の金属屋根板を連結配置したコンクリート建造物の屋根において、前記コンクリート上部壁に、屋根板固定具を複数配列し、これらの屋根板固定具により隣接する金属屋根板を連結し、前記金属屋根板の長手方向の端縁部を前記排水樋に臨ませた、コンクリート建造物の屋根。」の点で一致し、以下の点で相違している。

相違点1:「屋根板固定具」が、本願発明では、二重重ね部と一重部とから成る基部と直立部と吊片とを有する金属板製の吊子であり、その吊子の吊片と隣接する金属屋根板とを重合して巻回しているのに対し、刊行物1記載の発明では、金属屋根板(折曲げステンレス板)に設けたスライド式ツメ受け具と係合する取付ツメ具を設けた、受桟である点
相違点2:本願発明は、コンクリート上部壁に複数の上記吊子の直立部間及びコンクリート上部壁の立ち上り壁の内側面とこれに対向する上記吊子の直立部間に位置させて、所定の厚さを有する発泡ウレタンフォームなどの断熱材を密嵌配置し、前記断熱材上に複数の金属屋根板を並列状に展張しているのに対し、刊行物1記載の発明は、そのような断熱材を有していない点

上記各相違点について検討する。

<相違点1について>
相違点1として摘記した屋根板固定具としての吊子の構成、及び、吊子と金属屋根板との連結態様は、原査定において備考としても言及したとおり、実開平2-13644号公報、実公昭45-22867号公報等にみられるように周知技術であり、本願発明が、そのような周知技術を採用した点に格別の技術的意義は認められず、当業者が必要に応じ適宜なし得る設計的事項にすぎない。

<相違点2について>
刊行物2には上記のとおり、コンクリートで構成された構造物の屋根部(本願発明の「コンクリート上部壁」に相当。以下、同じ。)に取り付けた複数の吊子の直立部間に、所定の厚さを有する発泡ウレタンフォームなどの断熱材を密設させて敷設(「密嵌配置」)し、その断熱材上に複数の被覆ステンレス材(「金属屋根板」)を並列状に展張した屋根の構成が記載されており、該構成に基づいて、相違点2として摘記した本願発明の構成を当業者が想起する点に格別困難性が認められず、当業者が必要に応じ適宜なし得る設計的事項にすぎない。

そして、本願発明が奏する作用効果も、当業者が予期し得る程度のものであって、格別のものとはいえない。

なお、請求人は、審判請求書において、刊行物2に開示された技術においては、短い部分吊子が採用されているため、本願発明のような細長い吊子の直立部間に断熱材を密嵌配置した構成に比し、風圧に対して弱いという問題点がある旨の主張をする。
しかし、本願発明における吊子が、部分吊子を除く細長い吊子に限定されるものであるとは、少なくとも請求項の記載からは到底いえず、請求人の主張には理由がない。
また、仮に、本願発明における吊子が、細長い吊子に限定されるものであったとしても、そのような吊子は、実公昭42-2533号公報や、実願昭53-86643号(実開昭55-4228号)のマイクロフィルム等にみられるように、従来周知のものにすぎず、そのような吊子を採用した点に格別の技術的意義は認められず、そうしたことによる作用効果も当業者が予期し得る程度のものにすぎないから、いずれにしても、請求人の主張には理由がない。

【4】むすび
したがって、本願請求項1に係る発明は、上記刊行物1,2に記載された発明及び周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2003-03-04 
結審通知日 2003-03-11 
審決日 2003-03-25 
出願番号 特願平6-76517
審決分類 P 1 8・ 121- Z (E04D)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 伊藤 陽吉岡 麻由子  
特許庁審判長 山田 忠夫
特許庁審判官 鈴木 憲子
長島 和子
発明の名称 コンクリート建造物の屋根  
代理人 西島 綾雄  

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