ポートフォリオを新規に作成して保存 |
|
|
既存のポートフォリオに追加保存 |
|
PDFをダウンロード |
審決分類 |
審判 全部無効 4項(5項) 請求の範囲の記載不備 無効としない B41J 審判 全部無効 2項進歩性 無効としない B41J 審判 全部無効 1項3号刊行物記載 無効としない B41J |
---|---|
管理番号 | 1077733 |
審判番号 | 無効2002-35197 |
総通号数 | 43 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 1987-05-15 |
種別 | 無効の審決 |
審判請求日 | 2002-05-20 |
確定日 | 2003-06-05 |
事件の表示 | 上記当事者間の特許第1886103号発明「多色印字装置」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。 |
理由 |
1.手続の経緯 本件特許第1886103号(昭和60年10月31日出願)は、平成6年11月22日に特許権の設定登録後、平成14年5月20日付で請求人・セイコーエプソン株式会社より登録無効の審判請求を受けたものである。 2.本件発明 本件特許第1886103号の請求項1に記載された発明は、その特許請求の範囲の請求項1に記載されたとおりのものであり、符号A〜Hを付して分説すると下記のとおりである。 「A.複数の印字ヘッドと、 B.印字ヘッドの数に対応して設けられ、印字色データを一時的に格納するデータ格納手段と、 C.格納された印字色データを読み出すデータ読み出し手段と、 D.読み出された印字色データに基づき前記印字ヘッドをそれぞれ駆動する印字ヘッド駆動手段と、 E.前記印字ヘッドを移動する移動手段とを有する多色印字装置であって、 F.前記格納手段に格納された印字色データから印字色別に1印字行分のカラム数を計数するカラム計数手段と、 G.これにより計数されたカラム数のうち最大カラム数を求める最大カラム数取得手段と、 H.印字ヘッドを主走査方向に最大カラム数分連続移動させ、その後、リターンするように前記移動手段を制御する制御手段と を備えてなる多色印字装置。」(以下、「本件発明」という。)。 3.請求人の主張 3-1.無効理由1 本件特許明細書の従来技術と発明が解決しようとする問題点の項の記載によれば、本件発明は、キャリッジリターンコードとラインフィードコードを含む印字データの印字処理における問題点を問題にするのであるから、本件発明は、該問題点を生じさせる原因であるキャリッジリターンコードとラインフィードコードを、印字データが含んでいない点、即ち、「ホストコンピュータからプリンタへはキャリッジリターン・コード(CR・LF)を送らないことにすること」を必須の構成としなければならない。そうでないのであれば、印字データがキャリッジリターンコードとラインフィードコードを含んでいる場合、それらをどう処理するのか発明の詳細な説明に当業者が容易に実施できる程度に記載しなければならない。 それにもかかわらず、本件特許明細書の特許請求の範囲には構成要件としても記載されておらず、また、本件特許明細書の発明の詳細な説明には、上記処理が全く記載されていない。 それ故、本件特許明細書に、発明が解決しようとする問題点を解決するためにどのような手段を講じたのかを作用と共に記載していないので、本件発明の特許は、昭和62年改正法前特許法第36条第3項に規定する要件を満たしていない特許出願に対してなされたものであり、特許法第123条第1項第3号の規定により無効とすべきである。 3-2.無効理由2 本件特許の特許請求の範囲の記載は、全色の印字色データによる1印字行の印字の用紙上の左端位置が所定の行頭位置に固定していること、言い換えると、全色の印字色データの左端位置が所定の行頭位置(この位置は固定している)に対応するアドレスから開始することを必須の構成要素とはしておらず、特許請求の範囲には発明の構成に欠くことができない事項のみが記載されていないので、本件発明の特許は、昭和62年改正法前特許法第36条第4項に規定する要件を満たしていない特許出願に対してなされたものであり、特許法第123条第1項第3号の規定により無効とすべきである。 3-3.無効理由3 本件特許の請求項1に記載された発明は、甲第1号証に記載された発明と同一であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許法第123条第1項第1号の規定により無効とすべきである。 3-4.無効理由4 本件特許の請求項1に記載された発明と甲第1号証に記載された発明とが仮に相違するとしても、当該相違部分は甲第2号証に記載されており、本件特許の請求項1に記載された発明は、甲第1号証及び甲第2号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定に該当し、同法第123条第1項第1号の規定により無効とすべきである。 (証拠方法) 甲第1号証:特開昭60-49974号公報 甲第2号証:特開昭55-6612号公報 甲第3号証:特開昭58-167174号公報 甲第4号証:特開昭58-167175号公報 甲第5号証:特開昭53-78734号公報 甲第6号証:特開昭59-180787号公報 甲第7号証:特開昭57-41771号公報 甲第8号証:特開昭59-159376号公報 甲第9号証:特開昭59-173840号公報 甲第10号証:特開昭53-78734号公報 甲第11号証:特開昭53-138238号公報 甲第12号証:特開昭55-3968号公報 甲第13号証:特開昭55-123780号公報 甲第14号証:特開昭55-139279号公報 甲第15号証:特開昭56-162670号公報 甲第16号証:特開昭57-142382号公報 甲第17号証:実願昭56-96974号(実開昭58-3260号)のマイクロフィルム 甲第18号証:特開昭58-110280号公報 甲第19号証:特開昭59-173840号公報(甲第9号証と同一) 甲第20号証:特開昭59-159376号公報(甲第8号証と同一) 甲第21号証:特開昭59-224366号公報 甲第22号証:特開昭60-201959号公報 甲第23号証:特開昭61-277475号公報 甲第24号証:特開昭62-25063号公報 甲第25号証:東京地方裁判所平成12年(ワ)第20029号における被請求人提出の平成12年12月27日付第1準備書面 甲第26号証:東京地方裁判所平成12年(ワ)第20029号における被請求人提出の平成13年10月30日付第7準備書面 甲第27号証:東京地方裁判所平成12年(ワ)第20029号において請求人が提出したとする技術説明資料(2002年9月6日) 4.被請求人の主張 4-1.無効理由1について 本件特許発明は、計数したカラム数に基づいてキャリッジのリターン及びラインフィードを決定することによって、本件特許発明の目的、効果を達成したものであり、キャリッジリターン・コード(CR・LF)を必要としないものであるから、請求人の主張する無効理由1には理由がない。 4-2.無効理由2について 本件特許発明は、キャリッジがリターンする位置が問題となるものであって、印字色データの格納方法、印字開始位置が問題となるものではない。1印字行分のカラム数を計数するということは、印刷基準位置(=キャリッジ原点)からカラム数を計数することを意味し、この計数値によって、印字色毎の印字ヘッドが移動すべき位置が求められるものであり、「最大カラム数取得手段」が「計数されたカラム数のうち最大カラム数」を求めて印字ヘッドがリターンすべき位置を求め、「制御手段」が、印字ヘッドをこの最大カラム数分の位置まで連続移動させ、その後、リターンさせるものである。この構成によって、本件特許発明の目的が達成されるものである。 このように、印字色データの格納方法や印字開始位置は、本件特許発明にとって必須の構成要素ではないので、請求人の主張する無効理由2には理由がない。 4-3.無効理由3について 甲第1号証に記載された発明は、「印字色別に1印字行分のカラム数を計数する計数手段」、「計数されたカラム数の内最大カラム数を求める最大カラム数取得手段」、「印字ヘッドを主走査方向に最大カラム数分連続移動させる」といういずれの構成も備えていないから、請求人の主張する無効理由3には理由がない。 4-4.無効理由4について 甲第1号証には、アドレスカウンタは記載されていない。アドレスカウンタをどこに設けるか、アドレスカウンタと他の回路、手段とどのように結合されているのか、アドレスカウンタはどのような作用をなすものかも何等記載されていない。 また、甲第2号証に記載された発明は、単色印字装置に係るものである。しかも、次の行の印字開始位置を決定する発明が記載されているだけで、印字終了位置を決定することが記載されているものではない。単色のプリンタで、印字データを記憶する印字レジスタが1つである場合には、甲第2号証記載の発明のような技術が採用できるが、甲第1号証に記載された発明のように多色プリンタの場合には採用できないものである。 したがって、請求人の主張する無効理由4には理由がない。 5.甲各号証の記載事項 甲第1号証及び甲第2号証には、それぞれ下記の事項が記載されている。 (甲第1号証の記載事項) a.「本発明はプリンタの制御方式に関するものであり、更に詳細に言えば複数の印字ヘッドを有するプリンタにおいて、送信されてくる各色データ及び、制御コードを容易かつ効率良く処理できるプリンタ制御方式に関するものである。」(第2頁左上欄3〜7行)。 b.「[従来技術]従来の印字ヘッド数が1個のプリンタでは、送信されてくる文字コード、ドットパターン、印字制御コードを順次ラインバッファに格納していき、印字を行う際は格納した順にデータを取り出し、そのデータを印字ヘッドに出力したり、又用紙送り、キャリッジリターン等を実施すればよかった。・・・しかし、複数の印字ヘッドと、この印字ヘッドに対応した複数のラインバッファを有するカラープリンタ等においては、送信されてくる文字コードやパターン情報と制御コードを同じラインバッファにセットすると、複数ヘッドが一体的に移動して印字を行う際には不具合が生じる。例えば受信データが[黄色データ(Y)]→[マゼンタデータ(M)]→[シアンデータ(C)]→“CR”→“LF”の順で送られてきた場合には、第3図に示す如く各ラインバッファに格納されることになる。図示の如く黄色データが他のデータより多い場合に従来と同様の制御を行うと、シアンバッファにセットされたCRコードを読み出した時点でキャリッジリターン動作が実行され、そのLFコードにより改行動作が実行されてしまい、黄色データの斜線で示す部分が次行に印字されるという不具合が生じてしまう。これを避けるためには制御コードに対するプリンタ動作を実行する時に、他の文字バッファに印字データがあるか否かをたえず調べなければならず、非常に効率も悪く制御も複雑になっていた。」(第2頁左上欄8行〜左下欄16行)。 c.「[発明の目的]本発明は上述の欠点に鑑みなされたもので、記録情報は各印字ヘッドに対応した各ラインバッファに格納し、制御コードは他の専用バッファに格納し、該制御コードに上記各ラインバッファ内に記録情報が有るか否かの識別情報を附加することにより、プリンタの各種の動作制御をこの専用バッファ内の制御コードの監視、及び実行のみで行えるプリンタ制御方式を提供することを目的とする。」(第2頁右下欄1〜10行)。 d.「第4図は本発明の一実施例な係るカラープリンタ装置のブロック構成図である。図において、10はホストコンピュータ等より記録情報を受け取るデータ受信部、11はデータ受信部10よりの記録情報を各印字ヘッドに対応した受信バッファに振り分けるデータセレクタ部、12〜15はデータセレクタ部よりの色別に振り分けられたデータを一時記憶する受信バッファ、16〜19は印字ヘッドにより記録される記録データを格納し、順次記録していくためのラインバッファ、20〜23は各印字ヘッド用ドライバ、24〜27は各色カラー印字する印字ヘッド、28はデータ受信部10での受信データ中の制御情報及び後述の識別フラグを格納する制御コードバッファ、29は各種制御を行うプリンタ制御部、30はキャリッジ駆動用モータ、31はフィード用モータである。」(第2頁右下欄14行〜第3頁左上欄14行)。 e.「例えば、第6図に示すデータが送られてきた場合を説明すると、まず最初にグラフィックモード(GM)51aが受信され、ステップ76でキャラクタジェネレータをリセットし、直接受信データを有効とする。次に色コードとしてイエロー(Y)コード52aが送られてくると、ステップ77よりステップ78に進み、以後の受信データをイエロー用の受信バッファ12に格納する様にデータセレクタ部11を制御する。続いて記録情報54aが送られてくると、ステップ79よりステップ80に進み、データフラグをセットし、その後順次受信バッファ12へ格納される。・・・そして続いてキャリッジリターン(CR)コード55が送られてくるとステップ72よりステップ82に進む。ステップ82ではデータフラグはセットされているためステップ83よりステップ84に進み第7図に示す識別フラグ60をセットし、データフラグをリセットする。そしてステップ85で制御コードを制御コードバッファ28に識別フラグセット状態で格納する。・・・キャリッジリターン(CR)コードに続いて改行(LF)コードが受信されると、ステップ82でデータフラグはセットされていないため、・・・識別フラグ60をセットせずに改行コードを制御コードバッファ28にセットする。」(第3頁右下欄14行〜第4頁左下欄6行)。 f.「第5図(B)のフローチャートを参照してプリンタ制御部29の動作について説明する。プリンタ制御部29ではステップ90においてたえず制御コードバッファ28に制御コードがセットされているかを監視し、制御コードがセットされると動作を開始する。制御コードバッファ28に制御コードがセットされるとステップ90よりステップ91に進み、まず識別フラグ(第7図60)がセットされているか否か調べ、セットされている場合には受信バッファ12〜15に制御コードセット以前にプリンタでの記録情報がセットされているためステップ92に進み、受信バッファ読み出しクロック35及びラインバッファ書き込み/読み出しクロック36により、受信バッファ12〜15のデータをラインバッファ16〜19に格納する。ここで受信バッファ内にデータのない場合にはスペースデータがラインバッファに格納される。続いてステップ93で制御コードにセットされている識別フラグをリセットし、ステップ94とステップ95によりラインバッファ16〜19のデータを順次クロック36を用いて読み出しながら、ドライバ20〜23を介してヘッド24〜27で対応するラインバッファのデータをプリントする。この時ヘッドはキャリッジモータ30により移動されながらプリントを行う。ラインバッファのデータを全てプリントし終わるとステップ90に戻る。そして再び制御コードバッファ28の監視を行う。ステップ91で識別フラグがセットされていない場合にはステップ100に進み、制御コードバッファ28より制御コードを読み出し、ステップ101で制御コードに対応する処理を実行する。」(第4頁左下欄9行〜第5頁左上欄9行)。 g.「以上説明した如く複数の受信バッファを有するプリンタにおいてもプリンタ制御部29は制御コードバッファ28のみを見ていればよく」(第5頁左上欄10〜12行)。 (甲第2号証の記載事項) a.「被印刷面の第N(N=1,2,…)行毎にそれぞれの行に沿って正方向又は逆方向に移動しながら各桁への印字を行ない文字列を形成するための印字ヘッドを有する印刷装置において、印字ヘッドの桁方向の現在値を記憶する印字桁カウンタ、次の行に印字すべき文字列の最下位桁を記憶するLECレジスタ、前記LECレジスタに記憶された最下位桁に対応する文字列の最上位桁を記憶するRECレジスタ、前記印字桁カウンタとLECレジスタの記憶内容の大小及び印字桁カウンタとRECレジスタの記憶内容の大小を比較判断する印字方向判断回路とを含み印字ヘッドは前記印字方向判断回路の結果によって移動方向が制御されることを特徴とする印刷装置の印字方式。」(特許請求の範囲、第2項)。 b.「印字データDが入力されると、インタフェースを介し印字バッファ31、書込カウンタ32および文字コードデコーダ33にそれぞれセットされる。印字バッファ31は印字データDを一時的にストアするものであるが、そのいずれのアドレスに各印字データDを書込むべきかは、書込カウンタ32によって指定される。書込カウンタ32は各桁対応の印字データDを受信する毎にアドレスを1ずつ歩進するものである。すなわち印字データDのそれぞれについて印字桁アドレスを指定する。・・・ただし、レジスタ34-Lは各行について最初に現われる印字文字・記号(文字列のLEC)を受信したのちは後続する印字桁アドレスを一切受信せず、一方レジスタ34-Rは文字列の各々が現われる毎に更新した印字桁アドレスをストアする。従って最終的にストアされる印字桁アドレスはRECである。」(第3頁右上欄11行〜左下欄18行)。 6.当審の判断 6-1.無効理由1について ア.本件特許の明細書及び図面(特公平4-28231号公報(以下、「本件明細書」という。))には、下記の記載がある。 a.[従来の技術]として、「主走査方向が単一方向の単色印字装置においては、印字データを、一方で、バッファに格納し、一方で、このバッファから格納順に読み出し、この読み出した印字データに応じて印字ヘッドを駆動して印字を行なう。そして、1印字行分のデータ読み出しが終了してキャリッジリターンコードが読み出されると、印字ヘッドをリターンさせるとともにラインフィードを行なうようにしている。つぎに、このような印字ヘッド駆動方法を、主走査方向が単一方向の多色印字装置、例えば、イエロー、マゼンタ、シアンの印字色によりカラー印字を行なう装置に適用した例を説明する。・・・第5図において、カラー印字装置の機枠(図示せず)に支持された案内軸51は軸線方向に移動可能なキャリッジ52が装置されていて、そのキャリッジ52には、印字ヘッド53が固設されている。印字ヘッド53には3個の第1〜第3の印字部53a〜53cが前記案内軸51の軸線方向(主走査方向)に対して直交する方向(副走査方向)に列設されていて、・・・その所定数の発熱素子54が印字方向に対して直交する方向に配設されている。インクリボン55は・・・印字行方向と直交する方向に下から上へ、イエロー、マゼンタおよびシアンの印字色帯がそれぞれ1印字行分の幅Dで配置構成されている。・・・つぎに作用を説明する。イエロー、マゼンタ、シアンの各印字色データに基づき、主走査、副走査が行なわれると、第1〜第3の印字部53a〜53cの各発熱素子54により、各印字帯55a〜55cの各印字色が別個に記録紙56の対応する各行(同時に3行)に熱転写される。従って、1行分の多色印字は、イエローの熱転写、1印字行分(幅D)の紙送り、マゼンタの熱転写、1印字行分の紙送り、シアンの熱転写という1サイクルにより完了する。このサイクルにおいて、ある行を着目すると、まず、イエローが印字され、ついで、マゼンタが、最後に、シアンが印字されることがわかる。」(第1欄21行〜第3欄20行)。 b.[発明が解決しようとする問題点]として、「しかしながら、キャリッジリターンコード、ラインフィードコードが読み出されると、1印字行の長短に関係なく、キャリッジリターンコード、ラインフィードコードが読み出された時点で、キャリッジリターンおよびラインフィードが行なわれる。このため、例えば、第8図に示すように、格納されたデータ量が一定でない場合、すなわち、1印字行が一定でない場合は、図中斜線で示したイエローデータに基づく印字が行なわれないまま、キャリッジリターンが行なわれるという問題点があった。」(第3欄22〜32行)。 c.[実施例]として、「第1図はこの発明の一実施例を示す。図において、53,53a,53b,53cは第5図、6図と同一部分を示す。1はホストコンピュータである。2は多色印字装置で、・・・第2図に示すフレームフォーマットの印字色データがホストコンピュータ1から多色印字装置2のデータ受信部21に入力されたものとする(STEP-1)。・・・そして、プリンタ制御部27は、データENDコードにより、3フレームで構成される1データブロックの受信終了を判断すると(STEP-4)、前記カラムレジスタにより計数されたカラム数のうち最大のカラム数(=m)を求め(STEP-19)、同時に、印字を開始する。印字に当って、まず、各バッファメモリ22a〜22cから印字色データが読み出され、各ドライバ24a〜24cに格納され、ついで、印字色データに基づき各ドライバ24a〜24cにより印字部53a〜53cが発熱制御される(STEP-20〜26)。1カラムの印字が終了すると、終了ごとに、前記レジスタ28のセットカラム数から1を減じていき(STEP-27)、また、カラムレジスタ26から同様に1を減じていく(STEP-27)。そして、カラムレジスタ26が零になると(STEP-34)、零になったレジスタに対応するヘッドを開放し(STEP-28〜33)、また、レジスタ28が零なると(STEP-34)、プリンタ制御部により、キャリッジがリターンされるとともにフィードモータ29よりラインフィードが行なわれる。その後、上記動作を繰り返し行ない多色印字を行なう。」(第4欄7行〜第6欄10行)。 d.[発明の効果]として、「この発明は、上記のような構成としたため、各印字色により印字される1印字行が一定でない場合でも、多色印字が行なえるという効果がある。」(第6欄12〜14行)。 e.本件明細書の第8図には、イエローデータ、マゼンタデータ及びシアンデータのデータ量を示す3つの長さの異なる細長い枠が縦に3本並べて記載されており、この各枠の左端の位置はすべて同じであるが、右端の位置はすべて異なり、イエローデータを示す枠の右端位置が一番右側にある。シアンデータを示す枠の右端部分には、キャリッジリターンコード及びラインフィードコードを示す枠が表示されており、イエローデータを示す枠内には、シアンデータを示す枠の右端位置と同一の位置に縦の実線が引かれ、この実線の右側部分には斜線が引かれている。 イ.本件特許の特許請求の範囲には複数の印字ヘッドの配列方向については限定されていないが、上記記載a〜eを含む本件明細書の記載からみて、本件発明及び従来技術における多色印字装置に於いては、複数の印字ヘッドがキャリッジの進行方向に垂直な方向に設けられている縦置きの印字ヘッドであると解される。なぜならば、上記記載cにもみるように、本件発明の実施例においてもストライプ形のインクリボンが使用されているものと解されることから、キャリッジの進行方向に並列に配置されている横置きの印字ヘッドでは、1回の主走査で1印字行をイエロー、マゼンタ、シアンの印字色により重ね印字を行うことによりカラー印字を行うことはできないからである。さらに、本件明細書には、1回の主走査で1印字行をカラー印字すべく、各印字ヘッド53a,53b,53cを横置きの印字ヘッドとし、前記各印字ヘッドを個別にカラー印字ができるもの(例えば、インクジェットヘッド)とするとの記載はなく、またこれを示唆する記載もない。 ウ.したがって、複数行の印字に際して同時に印字されるのは、例えば、ある行、次行、次々行の3行であると解される。即ち、ある行がシアンを印字の際は、次行はマゼンタの印字、次々行はイエローが印字されることとなる。この際、上記記載bの如く従来技術における多色印字装置では、例えば、第8図に示されたようなデータ量の場合、ある行のシアンデータバッファに格納されたキャリッジリターンコード、ラインフィードコードが読み出された時点で、キャリッジリターンおよびラインフィードが行なわれてしまい、次々行分のイエローデータの一部が次々々行に印字されてしまうという不都合を生じてしまう。 そこで、本件発明においては、上記2.で示した構成「F.前記格納手段に格納された印字色データから印字色別に1印字行分のカラム数を計数するカラム計数手段と、 G.これにより計数されたカラム数のうち最大カラム数を求める最大カラム数取得手段と、 H.印字ヘッドを主走査方向に最大カラム数分連続移動させ、その後、リターンするように前記移動手段を制御する制御手段とを備えてなる制御手段」を具備することにより、同時に3行分印字されるイエロー、マゼンタ、シアンの各印字色のうち最大カラム数分のデータが読み出され印字された時点で、キャリッジリターンおよびラインフィードが行なわれるようにしたものである。 即ち、本件発明の場合、最初から、どの時点(最大カラム数分連続移動した時点)でキャリッジリターンおよびラインフィードを行うかが決まっているものであり、本件発明のキャリッジリターンおよびラインフィードは、印字データ中のキャリッジリターンコードとラインフィードコードに基づくものではなく、印字色データから計数されたカラム数に基づいて決定され、当該計数は、印字データにキャリッジリターンコードとラインフィードコードが含まれるか否か、すなわち、「ホストコンピュータからプリンタへはキャリッジリターン・コード(CR・LF)を送らないことにした」か否かに関わりなく可能であることは明らかであるから、本件発明は、キャリッジリターンコードとラインフィードコードを印字データが含んでいない点、すなわち、「ホストコンピュータからプリンタへはキャリッジリターン・コード(CR・LF)を送らないことにした」点を必須の構成としなければならないとすることはできない。 また、本件特許明細書の発明の詳細な説明には、本件発明の実施例として、3フレームで構成される1データブロックの受信完了を判断できるデータENDコードを設けた印字データブロックフォーマット(第2図)の例が記載されているので、1印字行分のカラム数を計数できることも明らかである。 故に、本件特許明細書の特許請求の範囲に、発明の構成に欠くことができない事項のみが記載されていないとも、また、発明の詳細な説明には、本件発明を容易に実施できる程度に目的、構成及び効果が記載されていないともいえない。 したがって、請求人の主張は理由がないものであり採用できない。 6-2.無効理由2について 上記6-1.アにおける記載a〜eを含む本件明細書の記載からみて、本件発明は、主走査方向が単一方向の多色印字装置、例えば、イエロー、マゼンタ、シアンの印字色によりカラー印字を行なう装置に係るものであると解される。 そして、上記6-1.で考察したように3行同時に印字する(縦置きの印字ヘッドである)ことをも勘案すると、本件発明の多色印字装置は、印字ヘッドを印刷基準位置(所定の行頭位置(用紙上の所定の行頭位置、記憶部の所定のアドレス位置ではない)、或いは、キャリッジ原点)から印字方向に連続して移動させることが前提となっていると解するのが相当である。 このことは、印刷基準位置(所定の行頭位置(用紙上の所定の行頭位置、記憶部の所定のアドレス位置ではない))がないと、キャリッジがリターンする位置は決まらないものであることからも明らかである。 即ち、本件発明では、左端位置(印刷基準位置(所定の行頭位置(用紙上の所定の行頭位置、記憶部の所定のアドレス位置ではない))と最大カラム数で右端位置(キャリッジがリターンする位置)が決定されているものであり、所謂最短距離印刷制御、両方向印刷制御を行っているものではない。 してみると、当該構成は、特許請求の範囲に示唆されているといえる。 したがって、請求人の主張は理由がないものであり採用できない。 6-3.無効理由3について 上記5.に於ける、甲第1号証の記載a〜gを含む明細書及び図面からみて、甲第1号証には、符号A′〜F′を付して分説すると次の発明が記載されている。 「A′.複数の各色カラー印字する印字ヘッド24〜27と、 B′.印字ヘッド24〜27の数に対応して設けられ、色別に振り分けられたデータを一時記憶する受信バッファ12〜15と、 C′.印字ヘッドにより記録される記録データを格納し、順次記録していくためのラインバッファ16〜19と、 D′.ラインバッファ16〜19から読み出された印字色データに基づき前記印字ヘッドをそれぞれ駆動する印字ヘッド用ドライバ20〜23と、 E′.前記印字ヘッドを移動するキャリッジ駆動用モータ30とを有するカラープリンタであって、 F′.データ受信部10での受信データ中の制御情報及び識別フラグを格納する制御コードバッファ28を備え、たえず制御コードバッファ28に制御コードがセットされているかを監視し、制御コードがセットされ、制御コードに識別フラグがセットされている場合に、前記受信バッファ12〜15に格納された記録データを、受信バッファ読み出しクロック35により読み出し、ラインバッファ書き込み/読み出しクロック36により、受信バッファ内にデータがないときはスペースデータをラインバッファに書き込みながらラインバッファ16〜19に書き込むと共に、続いて制御コードにセットされている識別フラグをリセットし、ラインバッファ16〜19のデータをラインバッファ読み出しクロック36により、読み出しながら、印字ヘッド24〜27を移動させながらラインバッファのデータを全てプリントし終わると、再び制御コードバッファ28の監視を行い、識別フラグがセットされていない場合には、制御コードに対応する処理を行うように制御するプリンタ制御部29を備えてなるカラープリンタ。」(以下、「甲第1号証発明」という。)。 そこで、本件発明と甲第1号証発明とを対比する。 甲第1号証発明の「受信バッファ12〜15」、「ラインバッファ16〜19」、「印字ヘッド用ドライバ20〜23」、「キャリッジ駆動用モータ30」、「カラープリンタ」は、それぞれ本件発明の「データ格納手段」、「データ読み出し手段」、「印字ヘッド駆動手段」、「移動手段」、「多色印字装置」に相当する。そうすると、甲第1号証発明の構成A′〜E′は、それぞれ本件発明の構成A〜Eに相当する。 また、甲第1号証発明における「制御コードに対応する処理を行う」とは、甲第1号証の上記記載eからみて、印字ヘッドをリターンさせると共に改行することである。 したがって、本件発明と甲第1号証発明とは、 「A.複数の印字ヘッドと、 B.印字ヘッドの数に対応して設けられ、印字色データを一時的に格納するデータ格納手段と、 C.格納された印字色データを読み出すデータ読み出し手段と、 D.読み出された印字色データに基づき前記印字ヘッドをそれぞれ駆動する印字ヘッド駆動手段と、 E.前記印字ヘッドを移動する移動手段とを有する多色印字装置であって、 H″.印字ヘッドを主走査方向に連続移動させ、その後、リターンするように前記移動手段を制御する手段と を備えてなる多色印字装置。」である点で一致し、次の点で相違する。 相違点:印字ヘッドを主走査方向に連続移動させ、その後、リターンするように前記移動手段を制御する手段について、本件発明では、「F.前記格納手段に格納された印字色データから印字色別に1印字行分のカラム数を計数するカラム計数手段と、 G.これにより計数されたカラム数のうち最大カラム数を求める最大カラム数取得手段と、を有し、印字ヘッドを主走査方向に最大カラム数分連続移動させ」てから、リターンするように制御しているのに対して、甲第1号証発明では、「データ受信部10での受信データ中の制御情報及び識別フラグを格納する制御コードバッファ28を備え、たえず制御コードバッファ28に制御コードがセットされているかを監視し、制御コードがセットされ、制御コードに識別フラグがセットされている場合に、前記受信バッファ12〜15に格納された記録データを、受信バッファ読み出しクロック35により読み出し、ラインバッファ書き込み/読み出しクロック36により、受信バッファ内にデータがないときはスペースデータをラインバッファに書き込みながらラインバッファ16〜19に書き込むと共に、続いて制御コードにセットされている識別フラグをリセットし、ラインバッファ16〜19のデータをラインバッファ読み出しクロック36により、読み出しながら、印字ヘッド24〜27を移動させながらラインバッファのデータを全てプリントし終わると、再び制御コードバッファ28の監視を行い、識別フラグがセットされていない場合」に、リターンするように制御している点。 上記相違点について検討する。 甲第1号証発明は、甲第1号証の上記記載cにみるように、記録情報は各印字ヘッドに対応した各ラインバッファに格納し、制御コードは他の専用バッファ28に格納し、プリンタの各種の動作制御をこの専用バッファ28内の制御コードの監視、及び実行のみで行えるようにしたものであり、プリンタ制御部29は制御コードバッファ28のみを見ていればよいものである。 そこで、甲第1号証発明においては、受信バッファ内にデータがないときはスペースデータをラインバッファに書き込みながらラインバッファ16〜19に書き込むと共に、ラインバッファ16〜19のデータをラインバッファ読み出しクロック36により、読み出しながら、印字ヘッド24〜27を移動させながらラインバッファのデータを全てプリントし終わると、再び制御コードバッファ28の監視を行い、識別フラグがセットされていない場合に、キャリッジをリターンするように制御するものである。 即ち、甲第1号証の記載bにあるように、制御コードに対するプリンタ動作を実行する時に、他の文字バッファに印字データがあるか否かをたえず調べなければならず、非常に効率も悪く制御も複雑になっていたという問題点を解消すべく、受信バッファ内にデータがないときはスペースデータをラインバッファに格納することによって、各色のラインバッファには1印字行で印字しうる所定量のデータが格納され、これを印字することにより、複雑な処理を必要とせず、制御コードに識別フラグがセットされているかどうかを監視することのみで、キャリッジをリターンするように制御しているものであるから、印字色別に1印字行分のカラム数を計数する必要はなく、それ故、「印字色別に1印字行分のカラム数を計数する計数手段」、「計数されたカラム数の内最大カラム数を求める最大カラム数取得手段」、「印字ヘッドを主走査方向に最大カラム数分連続移動させる」という構成を備える必要は無いものである。 よって、本件発明と甲第1号証発明とは同一ではない。 したがって、請求人の主張は理由がないものであり採用できない。 6-4.無効理由4について 本件発明と甲第1号証発明とを対比すると、両者の一致点、相違点は、上記6-3.で示したと同様である。 そこで、相違点について、上記6-3.における検討に加え更に検討する。 甲第2号証に記載された印刷装置は、被印刷面の第N(N=1,2,…)行毎にそれぞれの行に沿って正方向又は逆方向に移動しながら各桁への印字を行ない文字列を形成するための印字ヘッドを有する印刷装置であって、所謂最短距離印刷を行うために、印字ヘッドの桁方向の現在値を記憶する印字桁カウンタ、次の行に印字すべき文字列の最下位桁を記憶するLECレジスタ、前記LECレジスタに記憶された最下位桁に対応する文字列の最上位桁を記憶するRECレジスタを備えることにより、次の行の印字開始位置を決定するものである。 それ故、甲第2号証は、相違点の本件発明に係る構成を具備するものではなく、これを示唆するものでもない。 尚、請求人は、甲第1号証記載の発明は、「受信バッファからのドットデータの読み出しに際し、最長の印字データまでアドレスカウンタによるアドレスの指定をするものであるから、その最後のアドレス指定にかかるカウント値を保持することは当業者には極めて容易なことである。」と主張する。 しかし、甲第1号証には、アドレスカウンタについての記載は全くない。 仮に甲第1号証記載の発明において、データの読み出し・書き込みの際、アドレスカウンタが用いられるにしても、それは、受信バッファのどこのアドレスに格納されているデータを読み出すのか、そのアドレスの指定を行い、読み出したデータをラインバッファに書き込む際も、データを格納するアドレス指定だけを行うものである。 アドレスカウンタは、アドレスを指定するものであって、データ数やカラム(ドット)数を計数するものではない。カウントアップされたアドレスカウンタの値は、アドレスを示しているものであって、データ数やカラム(ドット)数を示しているものではない。 そして、カラム(ドット)数を計数する計数手段として、アドレスカウンタを使用することについては甲第1号証に記載されておらず、これを示唆する記載もない。 したがって、仮に請求人の主張するように、最長の印字データまでアドレスカウンタによるアドレスの指定を行った後、その位置を記憶したとしても、甲第1号証発明は、上記6-3.において説示したように、受信バッファ内にデータがないときはスペースデータをラインバッファに書き込みながらラインバッファ16〜19に書き込むと共に、ラインバッファ16〜19のデータをラインバッファ読み出しクロック36により、読み出しながら、印字ヘッド24〜27を移動させながらラインバッファのデータを全てプリントし終わると、再び制御コードバッファ28の監視を行い、識別フラグがセットされていない場合に、キャリッジをリターンするように制御するものであるから、最長データの右端位置を記憶することは、キャリッジのリターン制御にとっては無意味なことであるから、甲第1号証記載の発明に甲第2号証記載のアドレスカウンタによる当該行の右端位置に対応するアドレスをRECレジスタにストアする処理を組み合わせることによって、本件発明とすることは、当業者が容易になし得ることであるとする請求人の主張は採用できない。 したがって、本件発明は、甲第1号証及び甲第2号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとすることはできない。 さらに、請求人が証拠方法として挙げている、甲第3号証乃至甲第27号証のいずれにおいても、上記6-3.で示した相違点の本件発明に係る構成が記載されておらず、またこれを示唆する記載もない。 したがって、請求人の主張は理由がないものであり採用できない。 7.むすび 以上のとおりであるから、請求人の主張する理由および提出した証拠方法によっては、本件特許を無効とすることはできない。 審判に関する費用については、特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により、請求人が負担すべきものとする。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2003-04-07 |
結審通知日 | 2003-04-10 |
審決日 | 2003-04-22 |
出願番号 | 特願昭60-245686 |
審決分類 |
P
1
112・
113-
Y
(B41J)
P 1 112・ 532- Y (B41J) P 1 112・ 121- Y (B41J) |
最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 神崎 潔 |
特許庁審判長 |
砂川 克 |
特許庁審判官 |
鈴木 秀幹 番場 得造 |
登録日 | 1994-11-22 |
登録番号 | 特許第1886103号(P1886103) |
発明の名称 | 多色印字装置 |
代理人 | 早稲本 和徳 |
代理人 | 今井 鉄男 |
代理人 | 飯田 秀郷 |
代理人 | 吉田 正夫 |
代理人 | 七字 賢彦 |
代理人 | 三木 茂 |
代理人 | 椙山 敬士 |
代理人 | 栗宇 一樹 |
代理人 | 鈴木 英之 |
代理人 | 杉山 秀雄 |