• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  B32B
審判 全部申し立て 5項1、2号及び6項 請求の範囲の記載不備  B32B
管理番号 1077890
異議申立番号 異議2000-74596  
総通号数 43 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 1996-02-06 
種別 異議の決定 
異議申立日 2000-12-21 
確定日 2003-04-05 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第3057472号「電子機器の部品及び該部品に貼着されるシート状部材」の請求項1ないし5に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 訂正を認める。 特許第3057472号の請求項1ないし5に係る特許を維持する。 
理由 1.手続の経緯
本件特許第3057472号は、平成6年7月23日に特許出願され、平成12年4月21日にその特許権の設定登録がなされ、その後、佐藤 勝明(以下、「申立人A」という。)、石原 庸男(以下、「申立人B」という。)の2名より特許異議の申立てがなされ、取消理由通知がなされ、その指定期間内である平成14年8月27日に訂正請求がなされると同時に、特許異議意見書が提出されたものである。

2.訂正の適否についての判断
2の1.訂正の要旨
1)訂正事項a
特許請求の範囲を、
「【請求項1】 画像情報の記入された少なくとも一枚のシート状部材が貼着された電子機器の部品において、当該部品と前記シート状部材が、互いに相溶性のある熱可塑性樹脂によって構成され、前記シート状部材に記入されている全画像情報の表面積が、全シート状部材の表面積の20%以下に設定されていることを特徴とする電子機器の部品。
【請求項2】、【請求項3】-略-
【請求項4】 熱可塑性樹脂により構成された電子機器の部品に貼着される画像情報の記入されたシート状部材において、前記部品に対して相溶性のある熱可塑性樹脂により構成され、記入されている全画像情報の表面積が、全シート状部材の表面積の20%以下に設定されていることを特徴とするシート状部材。
【請求項5】 -略-」
から
「【請求項1】 画像情報の記入された少なくとも一枚のシート状部材が貼着された電子機器の部品において、当該部品と前記シート状部材が、互いに相溶性のある熱可塑性樹脂によって構成され、該シート状部材が貼着された部品を溶融して再生処理すると、再生された成形品に点状となって現われる、前記シート状部材に記入されている全画像情報の表面積が、全シート状部材の表面積の20%以下に設定されていることを特徴とする電子機器の部品。
【請求項2】、【請求項3】-略-
【請求項4】 熱可塑性樹脂により構成された電子機器の部品に貼着される画像情報の記入されたシート状部材において、前記部品に対して相溶性のある熱可塑性樹脂により構成され、該シート状部材が貼着された部品を溶融して再生処理すると、再生された成形品に点状となって現われる、当該シート状部材に記入されている全画像情報の表面積が、全シート状部材の表面積の20%以下に設定されていることを特徴とするシート状部材。
【請求項5】-略-」
と訂正する。
2)訂正事項b
特許明細書の段落【0008】の記載を、
【課題を解決するための手段】本発明は、上記目的を達成するため、画像情報の記入された少なくとも一枚のシート状部材が貼着された電子機器の部品において、当該部品と前記シート状部材が、互いに相溶性のある熱可塑性樹脂によって構成され、前記シート状部材に記入されている全画像情報の表面積が、全シート状部材の表面積の20%以下に設定されていることを特徴とする電子機器の部品を提案する。」
から
「【課題を解決するための手段】
本発明は、上記目的を達成するため、画像情報の記入された少なくとも一枚のシート状部材が貼着された電子機器の部品において、当該部品と前記シート状部材が、互いに相溶性のある熱可塑性樹脂によって構成され、該シート状部材が貼着された部品を溶融して再生処理すると、再生された成形品に点状となって現われる、前記シート状部材に記入されている全画像情報の表面積が、全シート状部材の表面積の20%以下に設定されていることを特徴とする電子機器の部品を提案する。」
と訂正する。
3)訂正事項c
同段落【0011】の記載を、
「さらに、本発明は、上記目的を達成するため、熱可塑性樹脂により構成された電子機器の部品に貼着される画像情報の記入されたシート状部材において、前記部品に対して相溶性のある熱可塑性樹脂により構成され、記入されている全画像情報の表面積が、全シート状部材の表面積の20%以下に設定されていることを特徴とするシート状部材を提案する。」
から
「さらに、本発明は、上記目的を達成するため、熱可塑性樹脂により構成された電子機器の部品に貼着される画像情報の記入されたシート状部材において、前記部品に対して相溶性のある熱可塑性樹脂により構成され、該シート状部材が貼着された部品を溶融して再生処理すると、再生された成形品に点状となって現われる、当該シート状部材に記入されている全画像情報の表面積が、全シート状部材の表面積の20%以下に設定されていることを特徴とするシート状部材を提案する。」
と訂正する。
4)訂正事項d
同段落【0028】の記載を、
「そこで、上述した各実施例の構成において、シート状部材に記入されている全画像情報の表面積を、全シート状部材の表面積の20%以下に設定することが好ましい。図1に示した前ドア2の例で説明すると、この前ドア2には第1及び第2のデカル4,5が貼着されているので、その両デカル4,5に記入された全ての画像情報の表面積を、両デカル4,5の表面積の20%以下に抑えるのである。このように、或る部品に複数のシート状部材が貼着されているときは、その全てのシート状部材の画像情報の表面積を、その全シート状部材の全表面積の20%以下に設定するのである。かかる構成を採用すれば、シート状部材を貼着したままの部品を破砕、溶融して前述の如く成形品を再生したとき、その表面にインクが点状に現われることを阻止し、ないしはこれを無視できる程、軽微なものに留めることができる。これによって再生成形品の外観低下を確実に阻止することができる。」
から、
「そこで、上述した各実施例の構成において、シート状部材が貼着された部品を溶融して再生処理すると、再生された成形品に点状となって現われる、シート状部材に記入されている全画像情報の表面積を、全シート状部材の表面積の20%以下に設定することが好ましい。図1に示した前ドア2の例で説明すると、この前ドア2には第1及び第2のデカル4,5が貼着されているので、その両デカル4,5に記入された全ての画像情報の表面積を、両デカル4,5の表面積の20%以下に抑えるのである。このように、或る部品に複数のシート状部材が貼着されているときは、その全てのシート状部材の画像情報の表面積を、その全シート状部材の全表面積の20%以下に設定するのである。かかる構成を採用すれば、シート状部材を貼着したままの部品を破砕、溶融して前述の如く成形品を再生したとき、その表面にインクが点状に現われることを阻止し、ないしはこれを無視できる程、軽微なものに留めることができる。これによって再生成形品の外観低下を確実に阻止することができる。」
と訂正する。
2の2.訂正の目的の適否、新規事項の有無及び拡張・変更の存否
1)訂正事項aについて、
請求項1及び4に、「該シート状部材が貼着された部品を溶融して再生処理すると、再生された成形品に点状となって現われる」を付加する補正は、訂正前の特許明細書の段落【0027】の「ところで、図1乃至3に示したデカル4、5のようなシート状部材には、・・・例えばインクなどによって画像情報が記入されている。従って、・・・前ドア2に貼着したまま、これを再生処理すると、その再生された成形品の表面にデカル4、5上のインクが多数の点状になって現われ、その再生成形品の外観が低下するおそれがある。」旨、及び、同段落【0028】の「そこで、・・・シート状部材に記入されている全画像情報の表面積を、全シート状部材の表面積の20%以下に設定することが好ましい。・・・かかる構成を採用すれば、シート状部材を貼着したままの部品を破砕、溶融して前述の如く成形品を再生したとき、その表面にインクが点状に現われることを阻止し、ないしはこれを無視できる程、軽微なものに留めることができる。これによって再生成形品の外観低下を確実に阻止することができる。」旨の記載を根拠に、請求項1及び4に記載の「画像情報」をより限定して特定する点で、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
そして、上記訂正は、実質上特許請求の範囲を拡張又は変更するものではなく、願書に添付した明細書及び図面に記載した事項の範囲内においてされたものである。
2)訂正事項b〜d
訂正事項b〜dは、訂正事項aによる特許請求の範囲の減縮に伴い明細書の記載の整合性を確保するためのものであるから、明りょうでない記載の釈明を目的とするものである。
そして、上記訂正は、いずれも、実質上特許請求の範囲を拡張又は変更するものではなく、願書に添付した明細書及び図面に記載した事項の範囲内においてされたものである。
2の3.むすび
したがって、上記訂正は、特許法等の一部を改正する法律(平成6年法律第116号)附則第6条第1項の規定によりなお従前の例によるとされる、特許法第120条の4第3項において準用する平成6年法律第116条による改正前の特許法第126条第1項ただし書、第2項及び第3項の規定に適合するので、当該訂正を認める。

3.本件発明
上記の結果、訂正後の請求項1〜5に係る発明(以下、訂正後の請求項m(m=1〜5)に係る発明を、単に「発明m」という。)は、全文訂正明細書の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1〜5に記載されたとおりの「電子機器の部品及び該部品に貼着されるシート状部材」である。

4.特許異議の申立についての判断
4の1.申立人Aの主張について
1)申立ての理由の概要
申立人Aは、甲第1号証(実願平3-69352号(実開平5-21279号)のCD-ROM)及び甲第2号証(実願平4-90013号(実開平6-47968号)のCD-ROM)(以下、甲第n号証を「甲n」、該甲号証記載の発明を「甲n発明」という。)を提出し、
発明1〜5は、甲1〜2発明に基づき当業者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1〜5に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである、
と主張する。
2)甲各号証の記載内容
a.甲1
ア.「長手方向に延伸した・・・ポリスチレン系樹脂発泡シートを基材層として、その片面に粘着層を設けてなることを特徴とする接着ラベル。」(請求項1)、
イ.「本考案は、主として再使用されるスチレン系樹脂のビーズ発泡成形品に貼着使用するのに好適な接着ラベルに関する。」(段落【0001】)、
ウ.「近年、・・・容器類その他において、・・・スチレン系樹脂のビース発泡成形品が多用されている。これらの・・・使用においては、所定の出所・・・表示をした紙ラベルを貼着する場合が多い。一方、・・・スチレン系樹脂のビース発泡成形品は、・・・使用後に粉砕されて、・・・素材樹脂中に混入される等して、再使用されることが多くなってきている。この際、前記の紙ラベル等の紙材が素材樹脂中に混入すると、発泡成形製品の品質保持上好ましいものではない。そのため、ビース発泡成形品を粉砕して再使用する場合は、紙ラベル等を手作業で剥す必要があるが、これをいちいち手作業で剥すのはきわめて面倒である。・・・なお、ポリ塩化ビニル樹脂あるいはポリエチレンやポリプロピレン樹脂を基材とするラベルは、・・・スチレン系樹脂の発泡成形製品に混入すると、やはり発泡成形製品の強度等の品質保持に問題が生じる。」(段落【0002】〜【0005】)、
エ.「本考案は、上記に鑑みて、紙ラベル等に代えて同様に使用でき、しかもビーズ発泡成形品を粉砕して再使用する場合にもいちいち剥す必要のない、使用上至便な接着ラベルを提供しようとするものである。」(段落【0006】)、
オ.「この接着ラベルは、・・・印刷特性も良好であり、表面に任意の印刷表示を施すことができる。そして基材層がスチレン系樹脂発泡シートであるため、この接着ラベルを貼着したスチレン系樹脂の発泡成形品を粉砕し再使用する場合に、接着ラベルがそのまま混入しても、前記基材である発泡シートも粉砕されて他の粉砕材料と共に発泡成形製品の素材樹脂中に混入一体化し得るもので、発泡成形製品に異物混入のごとき悪影響を与えるおそれがない。」(段落【0008】〜【0009】)、
カ.「次に本考案の1実施例を図面に基いて説明する。図1は本考案の実施例に係るテープ状の接着ラベル(A)を示しており、その基材層(1)は、・・・スチレン系樹脂を押出し発泡成形した・・・発泡シートからなる。この発泡シートによる基材層(1)の片面に、粘着剤(接着剤)が塗布されて粘着層(2)が設けられている。・・・基材層(1)の粘着層(2)とは反対側の表面には、ラベルとしての使用上その他の必要に応じて適当な印刷表示(3)を施しておく。・・・本考案の接着ラベル(A)は、スチレン系樹脂のビーズ発泡成型品の容器等の発泡体製品その他に使用するものであり、基材層(1)である発泡シートの片面に設けられた粘着層(2)により、通常の貼着ラベルと同様に任意の個所に貼着使用できる。」(段落【0010】〜【0017】)、
キ.「上記したように本考案の接着ラベルは、・・・表面の印刷特性も良好で、表面に必要な印刷表示を施すことによりラベルとしても使用される。・・・殊に、基材層がスチレン系樹脂発泡シートであるため、この接着ラベルを貼着したスチレン系樹脂の発泡成形品を粉砕して、スチレン系樹脂の発泡成形製品の素材樹脂中に混入させて再使用する場合にも、前記発泡シートが混入しても、何等問題がなく、したがっていちいち接着ラベルを引き剥す面倒な処理作業を要さずに再使用に供し得る。」【段落【0021】〜0022】、
ク.表面に「ABC」等の文字その他の印刷表示がなされた、本考案の1実施例を示す接着ラベルの斜視図に相当する図1。
b.甲2
ケ.「スチレンを主成分とするプラスチック容器等に貼付するラベルであって、透明なポリスチレンフィルムの少なくとも片面に、透明なインク定着層を設けて成ることを特徴とする透明ラベル。」(請求項1)、
コ.「本考案は、スチレンを主成分とするプラスチック容器等に貼付するラベルであって、オフセット印刷に用いて裏移りのない透明なラベルに関するものである。」(段落【0001】)、
サ.「一般にプラスチック容器等をリサイクルする場合、ラベルが容器等の材質と異なると、あらかじめラベルを除去する必要があり、工程増加によるコストアップの原因となっている。また、ラベルに容器等の材質と同じフィルムを用いても、印刷する場合には、各フィルムに適した特殊インクを使用したり、個々のフィルムに適した印刷方法を採用しなければならない。・・・近年、包装材として・・・ポリスチレンの需要が増加し、それに伴って、スチレンのリサイクルが望まれており、また、一方では、商品の多様化によりラベルが小ロット化されているところから、透明な容器や、白色の容器の美観を損ねないよう、透明でかつ通常の紙用インクでオフセット印刷の可能なラベルの開発が望まれている。」(段落【0002】〜【0004】)、
シ.「本考案は、……透明性を損なうことなく、印刷時の裏移りを防止できると共に、スチレンを主成分とするプラスチック容器等に貼付して、リサイクル時に事前の除去が不要なラベルを提供することを、その課題とするものである。」(段落【0006】)、
ス.「本考案の透明ラベルは、・・・インクのセットが速く、・・・裏移りするおそれはない。・・・従って、本考案ラベルは、スチレンを主成分とする容器等に貼付する透明なラベルとして好適である。」(段落【0018】〜【0019】)、
セ.「以下、本考案の実施例を説明する。・・・図1は本考案の一例の断面拡大図、図2は使用状態を示す斜視図であり、図において、Aは、基材として用いた透明なポリスチレンフィルム1の片面にインク定着層2を形成した本考案の一例の透明ラベル、3は発泡ポリスチレン容器、4は前記ラベルAに施した印刷である。」(【0020】)、
ソ.上記図1、及び、「NSB 1234」との文字や数字が印刷表示された前記「透明ラベル」の使用状態を示す図2。
3)当審の判断
a.発明1について
発明1(前者)と甲1、甲2発明(後者)とを対比すると、後者のうち、先ず、甲1発明について、その良好な印刷特性(前記オ参照)を利用し、表面に任意(実施例では、ABCその他の文字)の印刷表示がなされた(=画像情報の記入された)「接着ラベル」(同ア、カ、ク参照)(=少なくとも一枚のシート状部材)が、スチレン系樹脂のビーズ発泡成形品に貼着されている態様に着目し、次に、甲2発明について、前記「NSB」その他の印刷表示がなされた(=画像情報の記入された)「透明ラベル」(前記ケ、セ、ソ参照)(=少なくとも一枚のシート状部材)が、スチレンを主成分とするプラスチック容器に貼付されている態様に着目した場合、後者の「ラベル」とそれを貼着(貼付)する物品とは共にポリスチレンからなる点で、「互いに相溶性のある熱可塑性樹脂」であることは明らかであるから、両者は、
「画像情報の記入された少なくとも一枚のシート状部材が貼着された部品において、当該部品と前記シート状部材が、互いに相溶性のある熱可塑性樹脂によって構成されている部品」
に係る点で一致するものの、
甲1〜2には、前者の発明特定事項である、
(1)該部品が「電子機器の部品」である点、
(2)「該シート状部材が貼着された部品を溶融して再生処理すると、再生された成形品に点状となって現われる、前記シート状部材に記入されている全画像情報の表面積が、全シート状部材の表面積の20%以下に設定されている」点、
について記載されていない。
そこで、先ず、構成(2)について検討すると、申立人Aは、甲1の「接着ラベル」の印刷表示(前記ク参照)及び甲2の「透明ラベル」の印刷表示(同ソ参照)を試料とし、全画像情報の表面積が全シート状部材の表面積に占める割合を測定すると、順次、「概ね18%」、「略9.4%」であったことから、該構成(2)は、甲1〜2発明でも既に充足されている、と主張する(特許異議申立書13頁23行〜14頁3行)。
しかしながら、申立人A採用の上記両試料は、いずれも、単に特許明細書添付のスケッチ図程度にすぎず、別段、厳密に制御されたものではないから、その程度の図中の印刷表示の測定値をもって、甲1〜2発明は構成2)を充足している、ということはできない。
そして、前記ア〜ソを通してみても、そもそも、甲1〜2発明には、前記「シート状部材が貼着された部品を溶融して再生処理すると、再生された成形品に画像情報が点状となって現われる」という技術的課題の認識がなく、したがって、当然、甲1〜2発明は、その解決策である上記構成(2)について、何ら教示するものではない。
さらに、「印刷材料による記載部分が少なければ混入が減って外観低下に及ぼす影響が少なくなるのは自明」(同申立書14頁13〜15行)との申立人Aの主張には、格別な根拠がなく、採用できない。
そうすると、申立人Aが主張するとおり、上記構成(1)が甲1〜2発明から導き出されるとしても、甲1〜2発明から構成(2)を導き出すことはできない。
一方、発明1は、該構成(1)〜(2)を兼備することにより、「部品にシート状部材を貼着したまま再生処理しても、その再生された成形品の特性が大きく低下する不具合を阻止することができ、再生コストを低減できる。しかも、再生した成形品の外観低下を阻止できる。」(段落【0034】)という、本件特許明細書記載の顕著な効果を奏するものと認められる。
したがって、発明1は、甲1〜2発明から当業者に想到容易であったということはできない。
b.発明2〜3について
発明2〜3(前者)は、請求項1を直接、あるいは間接的に引用し、発明1(後者)をさらに技術的に限定する関係にあるところ、前記のとおり、前提となる後者の進歩性が甲1〜2発明によっては否定できない以上、それと同じ理由により、甲1〜2発明によっては前者の進歩性を否定することはできない。
c.発明4について
発明4と発明1とは、発明のカテゴリーが相違するだけで、実質的に同一の発明に相当する。
そして、発明1について述べたところと同様、甲1〜2は、発明4の発明特定事項である、請求項4の記載中の
「該シート状部材が貼着された部品を溶融して再生処理すると、再生された成形品に点状となって現われる、当該シート状部材に記入されている全画像情報の表面積が、全シート状部材の表面積の20%以下に設定されている」
旨の構成について、記載も示唆もするものではない。
したがって、発明4は、甲1〜2発明から当業者に想到容易であったということはできない。
d.発明5について
発明5(前者)は、請求項4を引用し、発明4(後者)をさらに技術的に限定する関係にあるところ、前記のとおり、前提となる後者の進歩性が甲1〜2発明によっては否定できない以上、それと同じ理由により、甲1〜2発明によっては前者の進歩性を否定することはできない。

4の2.申立人Bの主張について
1)申立ての理由の概要
申立人Bは、甲1(特開平3-131677号公報)、甲2(実願昭56-159971号(実開昭58-65071号)のマイクロフィルム)、甲3(実願平4-90013号(実開平6-47968号)のCD-ROM。申立人A提出の甲2と同一)、甲4(実願平3-21134号(実開平4-117473号)のマイクロフィルム、甲5(実願平1-93877号(実開平3-33454号)のマイクロフィルム及び甲6(甲3の明細書3頁の白地部分の面積の計算)を提出し、
(1)発明1〜5は、甲1〜5発明に基づき当業者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1〜5に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、
(2)本件特許明細書の記載は、特許法第36条に規定する要件を満たしていない、
と主張する。
2)甲各号証の記載内容
a.甲1
タ.「(1)硬化型シリコーン系離型剤層、ポリスチレン系フィルム層、アクリル系粘着剤層の3層からなることを特徴とするポリスチレン系粘着テープ。」(請求項1)、
チ.「本発明のポリスチレン系粘着テープは、発泡ポリスチレン製箱の封函に用いた場合に剥さずともそのまま再生加工でき、・・・発泡ポリスチレン製箱の封函、再生加工の作業性を著しく高めることができる。更にポリスチレンの印刷適性や透明性・・・といった優れた性能を利用して美装性の高い粘着テープを製造することができ、」(3頁左下欄16行〜同右欄4行)。
b.甲2
ツ.「ボトルを構成するプラスチックと同一もしくは同一系のプラスチックから成る透明フィルムの片面に適宜印刷を施し、該片面もしくは他面に金属蒸着層を設け該蒸着層面上に粘着剤層を設けたことを特徴とするプラスチック性ボトル用ラベル。」(実用新案登録請求の範囲)、
テ.プラスチック製ボトルに貼り付けられるラベルについて、「ボトルを回収して再利用(特に、溶融再成形する意味)する際の前処理としてボトルを洗浄してラベルを完全に剥ぎとる工程も不可欠であり、特にラベルが完全に剥ぎとられていない場合には、・・・許容できない異物混入として再成形にも差支えるといった問題点がある。」(2頁11〜17行)、
ト.「本考案ラベルは、プラスチック製ボトルと同一または同一系のプラスチックからなるフィルムから構成されているので、空ボトルを回収して溶融再成形に供する場合、ラベルは異種プラスチックとして取り除く必要がなく、そのまま溶融再成形に供しても再成形品に悪影響を及ぼすことがない。」(3頁20行〜4頁6行)、
ナ.星印や「Beer」という文字が印刷表示された本考案ラベルをプラスチック製ボトルに貼り付けた状態を示す斜視図に相当する第2図(最終頁)。
c.甲3
4の1の2)のb.参照
d.甲4
ニ.「樹脂成形品の一部に、材質名を示す表示部とこの表示部の位置を示す異色部とを成形時に一体に設けたことを特徴とする電機機器。」(請求項1)、
ヌ.「本考案の電機機器の構成によれば、樹脂成形部品に材質名が表示されているので、リサイクルの際に、多数の電気機器の中から、同一材料のものを抽出でき、しかも、異色部により、表示部の位置がすぐにわかるので、リサイクル作業を円滑に進めることができる。」(段落【0016】)。
e.甲5
ネ.「装置の外層カバー表面に貼付られ、該装置の操作手順や注意点を表示するための表示用デカールにおいて、・・・第1基材の表面に、・・・第2基材を、・・・剥離可能に重ね合わせ接着したことを特徴とする表示用デカール。」(実用新案登録請求の範囲)、
ノ.「従来は、例えば複写機等の画像形成装置を例にとれば、オペレータに対する装置の操作手順やトラブル発生時の処置方法等を1枚の操作デカールに印刷し、それを装置表面の原稿押え板の表面等に貼付ることによって表示している。」(2頁2〜7行)。
f.甲6
ハ.一定の仮定下、甲3の明細書3頁全表面積に占める印刷インキ面積の割合を求めると、3.6%になる旨の、申立人による計算。
3)当審の判断
(1)主張(1)について
a.発明1について
発明1(前者)と甲5発明(後者)とを対比すると、後者の前記ネの「表示用デカール」の従来技術として知られた、オペレータに対する装置の操作手順やトラブル発生時の処置方法が印刷された1枚の操作デカールが、複写機等の画像形成装置表面の原稿押え版(=電子機器の部品)の表面等に貼付られた態様(同ノ参照)を基準にした場合、該「オペレータに対する装置の操作手順やトラブル発生時の処置方法」は「画像情報」に相当し、また、該「原稿押え版」は、もっぱら、熱可塑性樹脂によって構成されるから、
両者は、
「画像情報の記入された少なくとも一枚のシート状部材が貼着された電子機器の部品において、当該部品が熱可塑性樹脂によって構成されている電子機器の部品」
に係る点で一致するものの、
甲5には、前者の発明特定事項である、
(1)「当該部品と前記シート状部材が、互いに相溶性のある熱可塑性樹脂によって構成され」ている点、
(2)「該シート状部材が貼着された部品を溶融して再生処理すると、再生された成形品に点状となって現われる、前記シート状部材に記入されている全画像情報の表面積が、全シート状部材の表面積の20%以下に設定されている」点、
について記載されていない。
そこで、先ず、構成(2)について検討すると、申立人Bは、該構成(2)は、甲2〜3発明の実施例の図面(前記ナ、ソ参照)に上記割合が5%以下のラベルが開示されていることから、甲2〜3発明でも既に充足されている、と主張する(特許異議申立書10頁16〜19行)。
しかしながら、申立人指摘の実施例の両図面は、いずれも、単に特許明細書添付のスケッチ図程度にすぎず、別段、厳密に制御された性格のものではないから、その程度の図中の印刷表示の割合をもって、甲2〜3発明は構成(2)を充足している、ということはできない。
そして、前記タ〜ノを通してみても、そもそも、甲1〜5発明には、前記「シート状部材が貼着された部品を溶融して再生処理すると、再生された成形品に画像情報が点状となって現われる」という技術的課題の認識がなく、したがって、当然、甲1〜5発明は、その解決策である上記構成(2)について、何ら教示するものではない。
また、甲3の明細書3頁の白地部分の面積の計算結果を示す甲6は、計算の対象が単なる明細書の一頁であるにすぎず、何ら「電子機器の部品に貼着される画像情報の記入されたシート状部材」についてのものではないから、その結果如何が上記構成(2)を教示しているということはできない。
そうすると、申立人が主張するとおり、上記構成(1)が甲1〜5発明から導き出されるとしても、甲1〜5発明から構成(2)を導き出すことはできない。
一方、発明1は、該構成(1)〜(2)を兼備することにより、前記のとおり、本件特許明細書記載の顕著な効果(段落【0034】参照)を奏するものと認められる。
したがって、発明1は、甲1〜5発明から当業者に想到容易であったということはできない。
b.発明2〜3について
発明2〜3(前者)は、請求項1を直接、あるいは間接的に引用し、発明1(後者)をさらに技術的に限定する関係にあるところ、前記のとおり、前提となる後者の進歩性が甲1〜5発明によっては否定できない以上、それと同じ理由により、甲1〜5発明によっては前者の進歩性を否定することはできない。
c.発明4について
発明4と発明1とは、発明のカテゴリーは相違するものの、実質的に同一の発明に相当する。
そして、発明1について述べたところと同様、甲1〜5発明は、発明4の発明特定事項である、請求項4の記載中の
「該シート状部材が貼着された部品を溶融して再生処理すると、再生された成形品に点状となって現われる、当該シート状部材に記入されている全画像情報の表面積が、全シート状部材の表面積の20%以下に設定されている」
旨の構成について、教示するものとはいえない。
したがって、発明4は、甲1〜5発明から当業者に想到容易であったということはできない。
d.発明5について
発明5(前者)は、請求項4を引用し、発明4(後者)をさらに技術的に限定する関係にあるところ、前記のとおり、前提となる後者の進歩性が甲1〜5発明によっては否定できない以上、それと同じ理由により、甲1〜5発明によっては前者の進歩性を否定することはできない。
(2)主張(2)について
申立人は、請求項1及び4で、電子機器の部品と該部品に貼着されるシート状部材とが「互いに相溶性のある熱可塑性樹脂によって構成され」ている旨、また、請求項2で、接着剤として「当該部品とシート状部材とに対して相溶性のある熱可塑性樹脂」を用いる旨、規定されている点をとらえ、「相溶性とは連続概念であり、どの程度の相溶性から、本件特許請求の範囲に入って来るのか、全く不明であり、特許請求の範囲が明確に記載されているとはいえない。相溶性があることを数値的に表現しない限り、この範囲は明確にはならない。」(申立書12頁「(6)特許法第36条違反の取消理由」項参照)と主張する。
しかしながら、本件発明でいう「相溶性」とは、前記シート状部材が貼着された電子機器の部品を「再生して得た成形品が、その本来の目的に使用したとき、その使用に耐え得る特性を維持できる程度に、再生前の部品とシート状部材とを構成する各熱可塑性樹脂が互いに相溶性を有していることを意味している」(段落【0022】)ことは明らかであり、当業者にとってみれば、特に数値的な特定がなされていないからといって、指摘された各請求項の意味内容乃至技術的範囲が明確ではないということはできない。
そうすると、申立人の主張にかかわらず、請求項1、4及び2の記載には格別の不備があるとはいえない。

5.むすび
したがって、特許異議申立ての理由及び証拠によっては、請求項1〜5に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に請求項1〜5に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。

 
発明の名称 (54)【発明の名称】
電子機器の部品及び該部品に貼着されるシート状部材
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】 画像情報の記入された少なくとも一枚のシート状部材が貼着された電子機器の部品において、当該部品と前記シート状部材が、互いに相溶性のある熱可塑性樹脂によって構成され、該シート状部材が貼着された部品を溶融して再生処理すると、再生された成形品に点状となって現われる、前記シート状部材に記入されている全画像情報の表面積が、全シート状部材の表面積の20%以下に設定されていることを特徴とする電子機器の部品。
【請求項2】 前記シート状部材を前記部品に貼着する接着剤として、当該部品とシート状部材とに対して相溶性のある熱可塑性樹脂を用いた請求項1に記載の電子機器の部品。
【請求項3】 前記シート状部材に、当該シート状部材を前記部品から剥離することなく再生処理できることを報せる情報が記入されている請求項1又は2に記載の電子機器の部品。
【請求項4】 熱可塑性樹脂により構成された電子機器の部品に貼着される画像情報の記入されたシート状部材において、前記部品に対して相溶性のある熱可塑性樹脂により構成され、該シート状部材が貼着された部品を溶融して再生処理すると、再生された成形品に点状となって現われる、当該シート状部材に記入されている全画像情報の表面積が、全シート状部材の表面積の20%以下に設定されていることを特徴とするシート状部材。
【請求項5】 シート状部材を前記部品から剥離することなく再生処理できることを報せる情報が記入されている請求項4に記載のシート状部材。
【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】
本発明は、少なくとも一枚のシート状部材が貼着された電子機器の部品及び電子機器の部品に貼着されるシート状部材に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
複写機、プリンタ、ファクシミリ又はこれらの複合機などの画像形成装置や、各種電気製品などの電子機器において、その部品にシート状部材を貼着することは従来より一般に行われている。例えば、複写機本体の前ドアやその内部の各種部品には、デカルと称せられているシート状部材が貼着されており、かかるデカルは、樹脂シート、樹脂フィルム、薄い樹脂板などの可撓性又は剛性を有するシート状部片より成り、その表面に所定の情報が記入されたものである。より具体的に示すと、例えば複写機において、そのユーザやサービスマンなどのために、簡単な取り扱い説明文や、部品交換順序の番号などの各種の画像情報が記入されたデカルが複写機の部品に貼り付けられている。デカルの表面に記入される画像情報は、文字によるほか、矢印などの記号や図形、又は色などによって表わされることもある。
【0003】
このようなデカルのほかにも、電子機器の部品を保護する目的で、その部品自体又はこれを収容するケースなどの部品に、可撓性又は剛性を有する保護シートより成るシート状部材を貼着することもある。かかる保護シートやデカルなどから成るシート状部材は、電子機器の交換部品、例えば複写機のトナーカートリッジなどの部品に貼着されることもある。
【0004】
ところで、特に近年、環境の保護や、一層の省資源化を図る目的で、リサイクル性に優れた製品の出現が強く要望され、画像形成装置などのオフィスオートメーション機器や電気製品などの電子機器においても同様なことが要求されている。そこで、従来より電子機器の部品を熱可塑性樹脂により構成し、これを使用し尽くしたとき、これを廃棄せずに、当該部品を再生利用することが行われている。例えば、使用し終えた部品をシュレッダによってペレット状に破砕し、これを加熱溶融して再び何らかの部品として成形し、かかる再生成形品を再度使用するのである。
【0005】
ところが、従来、前述のデカルや保護シートなどのシート状部材が貼着された部品は、その部品とシート状部材が異種材料により構成されていたため、これをそのまま破砕して溶融すると、両者が互いに溶け合わず、かかる溶融材料によって再生部品を成形したとき、その機械的特性が著しく低下し、これをその部品として再利用することができなかった。
【0006】
そこで従来は、ドライヤやグラインダなどによって、使用し終えた部品からシート状部材を剥がし、しかる後、その部品をペレット状に破砕し、これを溶融して再生成形品を得ていた。ところが、部品からシート状部材を剥がす作業は、手間と時間のかかる大変面倒な作業であり、これにより、部品の再生コストが上昇する欠点を免れなかった。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、上述した新規な認識に基づきなされたものであって、その目的とするところは、シート状部材を剥がすことなく、そのまま再生処理できる電子機器の部品、及び電子機器の部品に貼着されるシート状部材を提供することにある。
【0008】
【課題を解決するための手段】
本発明は、上記目的を達成するため、画像情報の記入された少なくとも一枚のシート状部材が貼着された電子機器の部品において、当該部品と前記シート状部材が、互いに相溶性のある熱可塑性樹脂によって構成され、該シート状部材が貼着された部品を溶融して再生処理すると、再生された成形品に点状となって現われる、前記シート状部材に記入されている全画像情報の表面積が、全シート状部材の表面積の20%以下に設定されていることを特徴とする電子機器の部品を提案する。
【0009】
その際、シート状部材を前記部品に貼着する接着剤として、当該部品とシート状部材とに対して相溶性のある熱可塑性樹脂を用いると特に有利である。
【0010】
また、上述した各構成において、シート状部材に、当該シート状部材を前記部品から剥離することなく再生処理できることを報せる情報が記入されていると有利である。
【0011】
さらに、本発明は、上記目的を達成するため、熱可塑性樹脂により構成された電子機器の部品に貼着される画像情報の記入されたシート状部材において、前記部品に対して相溶性のある熱可塑性樹脂により構成され、該シート状部材が貼着された部品を溶融して再生処理すると、再生された成形品に点状となって現われる、当該シート状部材に記入されている全画像情報の表面積が、全シート状部材の表面積の20%以下に設定されていることを特徴とするシート状部材を提案する。
【0012】
さらに、上記シート状部材において、シート状部材を前記部品から剥離することなく再生処理できることを報せる情報が記入されていると有利である。
【0013】
【実施例】
以下、本発明の実施例を図面に従って詳細に説明する。
【0014】
図1は電子機器の一例である複写機を示し、この複写機は、その本体の外装カバー1や、その本体フレーム(図示せず)に開閉自在に枢着された前ドア2や、本体上部に設けられた原稿押え用の圧板3や、本体内部に収容された図示していない各種要素などの多数の部品から構成されている。ここでは、その部品の一例として前ドア2を取り上げ、かかる前ドア2に本発明を適用した具体例を明らかにする。
【0015】
前ドア2は、図1に実線で示した閉位置と鎖線で示した開位置との間を回動開閉自在に本体フレームに支持されており、かかる前ドア2より成る部品には、少なくとも一枚のシート状部材が貼着されている。図1の例では、前ドア2の表面に第1のデカル4より成るシート状部材が貼り付けられ、また前ドア2の裏面には第2のデカル5が貼着されている。かかるデカル4,5は、前述のように、可撓性又は剛性を有しているシート、フィルム、又は薄い板状の部片より成り、その表面に所定の画像情報が記入されている。この例では、第1のデカル4に、図2に示す如く消耗品の注文先と複写機の修理の連絡先が記入され、第2のデカル5には、図3に示すように搬送トラブルを起こした用紙の除去手順を説明する画像情報が記入されている。このようなデカルは、複写機のユーザやその販売業者などが、ボールペンなどで所定の情報を記入できるように構成されることも多く、例えば第1のデカル4に対して、消耗品の注文先や、修理の連絡先を、その都度販売業者が記入するように、このデカル4を構成することもできる。
【0016】
上述した複写機を使用し尽くしたとき、この複写機はユーザの元からリサイクル業者のところに搬入され、ここで解体される。そして再利用可能な部品は再生されて再使用される。
【0017】
ここで複写機の再生処理を行いやすくするため、その部品の一例である前ドア2は、熱可塑性樹脂により構成され、これに貼着されたシート状部材である第1及び第2のデカル4,5も熱可塑性樹脂より成る。しかも、前ドア2とデカル4,5は、互いに相溶性のある熱可塑性樹脂によって構成されている。このように、電子機器の部品と、これに貼着されたシート状部材が、互いに相溶性のある熱可塑性樹脂によって構成されているのである。
【0018】
上述した構成によれば、前ドア2に両デカル4,5を貼り付けたまま、これを例えば図示していないシュレッダによって一辺が5mm程のペレットに破砕し、これを加熱して溶融すれば、前ドア2を構成する樹脂材料と、デカル4,5を構成する樹脂材料とが互いに良好に溶融し合うので、かかる材料を、図示していない成形機によって所定の部品に成形すれば、充分に使用に耐え得る特性を備えた部品を再生することができる。
【0019】
一般に、複写機の外装カバー1や前ドア2は、PS(ポリスチレン)、PPE(ポリフェニレンエーテル)、ABS(アクリル・ブタジエン・スチレン)、又はPPO(ポリフェニルオキサイド)などの熱可塑性樹脂により構成されることが多いが、これらの樹脂材料より成る前ドア2に貼着されるデカル4,5としては、次に例示する樹脂材料を使用することが好ましい。
【0020】
PSより成る前ドア2に対しては、これと相溶性のある例えばPC(ポリカーボネイト)、又はPMMA(メタクリル樹脂)のほか、この前ドア2の材料と同じPSより成るデカル4,5を有利に用いることができる。またPPEより成る前ドア2に対しては、これと相溶性のある例えばPS、PET(ポリエチレンテレフタレート)、ABS、PC、又はPMMAのほか、この前ドア2の材料と同じPPEより成るデカル4,5を有利に使用できる。さらに、ABSより成る前ドア2に対しては、これと相溶性のある例えばPS、PET、PC、又はPMMAのほか、この前ドア2の材料と同じABSより成るデカル4,5を有利に使用できる。またPPOより成る前ドア2に対しては、これと相溶性のある例えばPS、又はABSのほか、その前ドア2の材料と同じPPOより成るデカル4,5を有利に用いることができる。
【0021】
前ドア2とこれに貼着されるデカル4,5より成るシート状部材を、上に例示した如き熱可塑性樹脂によって構成することにより、かかるシート状部材を前ドア2から剥がすことなく、これをそのまま再生処理しても、その再生品の特性、例えば機械的な強度(曲げ強度や衝撃強度)などが大きく低下することはない。このようにして再生コストを低減でき、再生成形品のコストを低減することができるのである。
【0022】
ここで、電子機器の部品を構成する熱可塑性樹脂と、これに貼着されたシート状部材を構成する熱可塑性樹脂が互いに相溶性を有しているとは、上述したところから理解できるように、これらを再生して得た成形品が、その本来の目的に使用したとき、その使用に耐え得る特性を維持できる程度に、再生前の部品とシート状部材とを構成する各熱可塑性樹脂が互いに相溶性を有していることを意味している。
【0023】
ところで、前ドア2とデカル4,5が互いに相溶性のある熱可塑性樹脂から成るので、かかるデカル4,5を前ドア2に貼着するとき、熱融着によって両者を貼着することが可能であり、この場合には両者の貼着のために接着剤を使用する必要はない。これに対し、接着剤を使用してデカル4,5を前ドア2に貼着することもできる。その際、使用する接着剤の量は一般に極く少量であるため、その接着剤と、前ドア2及びデカル4,5との相溶性について特に考慮しなくともよいが、この接着剤として、前ドア2とデカル4,5とに対して相溶性のある熱可塑性樹脂を用いれば、特に有利である。すなわち、シート状部材を電子機器の部品に貼着する接着剤として、当該部品とシート状部材とに対して相溶性のある熱可塑性樹脂を用いるのである。かかる構成を採用すれば、デカル4,5などのシート状部材を剥がすことなく前ドア2などの部品を前述のように破砕して溶融したとき、接着剤を含めたその全体の相溶性が一段と高められ、再生された成形品の特性低下をより確実に防止することができる。
【0024】
前ドア2とデカル4,5を接合する熱可塑性樹脂の接着剤としては、例えばPMMAを使用でき、かかる接着剤は、例えばPS、PPE、ABSなどに対して相溶性が良好であり、よってPMMAを接着剤として使用したときは、PS、PPE、又はABSなどの樹脂によって前ドア2とデカル4,5をそれぞれ構成することが好ましい。
【0025】
ところで、上述した前ドア2のように、少なくとも一枚のシート状部材が貼着された電子機器の部品において、上述した各構成と共に、或いはその構成に代えて、次の構成を採用することもできる。
【0026】
すなわち、電子機器の部品とシート状部材を共に熱可塑性樹脂により構成し、しかもシート状部材とこれが貼着された部品の総重量に対する、全シート状部材の重量の比率を1重量%以下に設定するのである。ここでも図1に示した前ドア2を例にとると、この前ドア2とデカル4,5を熱可塑性樹脂製とし、これらの総重量に対する全デカル4,5の重量比率を1重量%以下にするのである。前ドア2の如き1つの部品に対して、複数のシート状部材、例えば第1及び第2のデカル4,5が貼着されているときは、その全てのデカル4,5の重量比率を、上述の値に設定する。かかる構成によれば、前ドア2の如き部品に対する全シート状部材、すなわちデカル4,5の重量比率が極めて低いので、前ドア2とデカル4,5とその接着剤が互いに相溶性のある樹脂材料より構成されているか否かに拘らず、デカル4,5を貼着したままの前ドア2を破砕してこれを成形品として再生したとき、その再生成形品の特性が大きく低下することを阻止できる。このように、この実施例においては、電子機器の部品と、これに貼着されたシート状部材とを熱可塑性樹脂で構成するほかは、その両者の材質を特に考慮しなくとも、その部品をシート状部材を貼着したまま再生処理することができる。勿論、前述のように、この構成と先に説明した各実施例の構成を適宜組合せてもよい。例えば、電子機器の部品とシート状部材を共に熱可塑性樹脂により構成し、シート状部材とこれが貼着された部品の総重量に対する、全シート状部材の重量の比率を1重量%以下に設定すると共に、その部品とシート状部材を互いに相溶性のある熱可塑性樹脂によって構成するのである。さらに、そのシート状部材を部品に貼着する接着剤として、その部品とシート状部材とに対して相溶性のある熱可塑性樹脂を用いると特に有利である。
【0027】
ところで、図1乃至図3に示したデカル4,5のようなシート状部材には、前述のように、例えばインクなどによって画像情報が記入されている。従って、このようなデカル4,5を、前述の各実施例の構成に従って、前ドア2に貼着したまま、これを再生処理すると、その再生された成形品の表面にデカル4,5上のインクが多数の点状になって現われ、その再生成形品の外観が低下するおそれがある。
【0028】
そこで、上述した各実施例の構成において、シート状部材が貼着された部品を溶融して再生処理すると、再生された成形品に点状となって現われる、シート状部材に記入されている全画像情報の表面積を、全シート状部材の表面積の20%以下に設定することが好ましい。図1に示した前ドア2の例で説明すると、この前ドア2には第1及び第2のデカル4,5が貼着されているので、その両デカル4,5に記入された全ての画像情報の表面積を、両デカル4,5の表面積の20%以下に抑えるのである。このように、或る部品に複数のシート状部材が貼着されているときは、その全てのシート状部材の画像情報の表面積を、その全シート状部材の全表面積の20%以下に設定するのである。かかる構成を採用すれば、シート状部材を貼着したままの部品を破砕、溶融して前述の如く成形品を再生したとき、その表面にインクが点状に現われることを阻止し、ないしはこれを無視できる程、軽微なものに留めることができる。これによって再生成形品の外観低下を確実に阻止することができる。
【0029】
ところで、デカルの如きシート状部材のなかには、電子機器や、その部品の製造時に、製造工場にてその部品に貼着されるのではなく、電子機器やその部品が製造工場から出荷されるとき、これと共に梱包され、これがユーザの元に納入されてから、ユーザ自身や販売業者によって部品に貼着されるものもある。例えば図1に示した第2のデカル5は、複写機の製造工場で前ドア2に貼着されるものであるが、第1のデカル4は、ユーザが最も見やすい前ドア部分に貼着すべきものであるため、このデカル4は電子機器がユーザの元に届いてから、前ドア2の所望する個所に貼着される。このようなデカル4には、その片面に粘着剤より成る接着剤が塗布され、その粘着剤の表面に、離型性の高い剥離シートが貼られている。そして、電子機器がユーザの元に届いたとき、これに同梱されたデカル4から剥離シートを剥がし、そのデカル4を粘着剤によって前ドア2に貼着するのであるが、このような構成のシート状部材に対しても、前述した各実施例の構成をそれぞれ採用することができる。すなわち、電子機器の部品に貼着されたシート状部材の少なくとも一枚のシート状部材が、その片面に貼られた剥離シートを剥離して部品に貼着されたものであるときも、前述した各実施例の構成をそのまま採用できるのである。
【0030】
また前述の各実施例に示したデカル4,5の如きシート状部材は、その部品である前ドア2から剥がすことなく再生処理できるので、例えばリサイクル業者などに、その事実を報せるため、そのシート状部材に、当該シート状部材を部品から剥離することなく再生処理できることを報せる情報を記入しておくと有利である。同時に、そのシート状部材の材質を記入しておくこともできる。図2及び図3に示したデカル4,5には、その表面に「このシールをはがさずにリサイクルできます」なるメッセージと、その材質を示す「PS」が記入されている。かかる構成は、前述の全ての実施例に適用できるものである。
【0031】
本発明に係る構成は、図1に示した前ドア2に限らず、電子機器の各種部品に適用できることは先の説明からも明らかである。例えば図1に示した外装カバー1や圧板3にも適用できる。さらに図1に示した複写機には、その操作部の部位に、液晶パネルやLEDなどの表示部6が設けられ、この表示部6とそのプリント基板(図示せず)は、同じく図示していないケースに収容され、そのケースの上部開口に表示部が位置しているが、その表示部を保護するため、そのケースの上部開口には、例えば1mm程の厚さの透明な保護シート7が貼着されている。このような保護シート7より成るシート状部材と、これが貼着されたケースより成る部品に対しても、前述したデカル4,5と前ドア2の構成と同様な構成を採用することができる。図1に示した保護シート7としては、例えばPC又はABSより成る透明な熱可塑性樹脂を使用でき、これが貼着されたケースは、これらの樹脂と相溶性のある熱可塑性樹脂によって構成される。
【0032】
また図4に示したデカル8は、大きな余白があり、ユーザがこのデカル8を所定の部品の任意の位置に貼着し、その余白にユーザが自ら必要とする情報を自由に記入できるように構成されている。このようなデカル8より成るシート状部材が貼着される電子機器の部品にも、本発明を適用することができる。ユーザが自由に情報を記入できるデカル8を電子機器の部品に貼っておけば、ユーザがこのデカル8以外の紙などのシート状部材を部品に貼り付けてしまうことを防止できる。この部品と相溶性のない大きな紙などが、この部品に貼り付けられてしまうと、これを剥離しない限り、その部品を再生処理できなくなり、その再生コストが嵩む不具合を免れない。
【0033】
また本発明は、複写機以外の各種の電子機器の部品にも広く適用できるものである。
【0034】
【発明の効果】
請求項1及び4に記載の構成によれば、部品にシート状部材を貼着したまま再生処理しても、その再生された成形品の特性が大きく低下する不具合を阻止することができ、再生コストを低減できる。しかも、再生した成形品の外観低下を阻止できる。
【0035】
請求項2に記載の構成によれば、上述した効果をより一層高めることができる。
【0036】
請求項3及び5に記載の構成によれば、リサイクル業者などが、シート状部材を部品から剥がすことなく、その部品を再生処理できることを知ることができ、その作業能率を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】
電子機器の一例である複写機を示す斜視図である。
【図2】
図1に示した複写機の前ドアに貼着された第1のデカルの正面図である。
【図3】
図1に示した複写機の前ドアに貼着された第2のデカルの正面図である。
【図4】
デカルの他の例を示す正面図である。
 
訂正の要旨 ▲1▼訂正事項a
平成11年10月26日付け提出の手続補正書に記載の特許請求の範囲を次のとおりに訂正する(訂正個所に下線を付す)。
「【特許請求の範囲】
【請求項1】 画像情報の記入された少なくとも一枚のシート状部材が貼着された電子機器の部品において、当該部品と前記シート状部材が、互いに相溶性のある熱可塑性樹脂によって構成され、該シート状部材が貼着された部品を溶融して再生処理すると、再生された成形品に点状となって現われる、前記シート状部材に記入されている全画像情報の表面積が、全シート状部材の表面積の20%以下に設定されていることを特徴とする電子機器の部品。
【請求項2】 前記シート状部材を前記部品に貼着する接着剤として、当該部品とシート状部材とに対して相溶性のある熱可塑性樹脂を用いた請求項1に記載の電子機器の部品。
【請求項3】 前記シート状部材に、当該シート状部材を前記部品から剥離することなく再生処理できることを報せる情報が記入されている請求項1又は2に記載の電子機器の部品。
【請求項4】 熱可塑性樹脂により構成された電子機器の部品に貼着される画像情報の記入されたシート状部材において、前記部品に対して相溶性のある熱可塑性樹脂により構成され、該シート状部材が貼着された部品を溶融して再生処理すると、再生された成形品に点状となって現われる、当該シート状部材に記入されている全画像情報の表面積が、全シート状部材の表面積の20%以下に設定されていることを特徴とするシート状部材。
【請求項5】 シート状部材を前記部品から剥離することなく再生処理できることを報せる情報が記入されている請求項4に記載のシート状部材。」
▲2▼訂正事項b
平成11年10月26日付け提出の手続補正書に記載された発明の詳細な説明における段落【0008】の記載を次のとおりに訂正する(訂正個所に下線を付す)。
「【0008】
【課題を解決するための手段】
本発明は、上記目的を達成するため、画像情報の記入された少なくとも一枚のシート状部材が貼着された電子機器の部品において、当該部品と前記シート状部材が、互いに相溶性のある熱可塑性樹脂によって構成され、該シート状部材が貼着された部品を溶融して再生処理すると、再生された成形品に点状となって現われる、前記シート状部材に記入されている全画像情報の表面積が、全シート状部材の表面積の20%以下に設定されていることを特徴とする電子機器の部品を提案する。」
▲3▼訂正事項c
平成11年10月26日付け提出の手続補正書に記載された発明の詳細な説明における段落【0011】の記載を次のとおりに訂正する(訂正個所に下線を付す)。
「【0011】
さらに、本発明は、上記目的を達成するため、熱可塑性樹脂により構成された電子機器の部品に貼着される画像情報の記入されたシート状部材において、前記部品に対して相溶性のある熱可塑性樹脂により構成され、該シート状部材が貼着された部品を溶融して再生処理すると、再生された成形品に点状となって現われる、当該シート状部材に記入されている全画像情報の表面積が、全シート状部材の表面積の20%以下に設定されていることを特徴とするシート状部材を提案する。」
▲4▼訂正事項d
平成11年10月26日付け提出の手続補正書に記載された発明の詳細な説明における段落【0028】の記載を次のとおりに訂正する(訂正個所に下線を付す)。
「【0028】
そこで、上述した各実施例の構成において、シート状部材が貼着された部品を溶融して再生処理すると、再生された成形品に点状となって現われる、シート状部材に記入されている全画像情報の表面積を、全シート状部材の表面積の20%以下に設定することが好ましい。図1に示した前ドア2の例で説明すると、この前ドア2には第1及び第2のデカル4,5が貼着されているので、その両デカル4,5に記入された全ての画像情報の表面積を、両デカル4,5の表面積の20%以下に抑えるのである。このように、或る部品に複数のシート状部材が貼着されているときは、その全てのシート状部材の画像情報の表面積を、その全シート状部材の全表面積の20%以下に設定するのである。かかる構成を採用すれば、シート状部材を貼着したままの部品を破砕、溶融して前述の如く成形品を再生したとき、その表面にインクが点状に現われることを阻止し、ないしはこれを無視できる程、軽微なものに留めることができる。これによって再生成形品の外観低下を確実に阻止することができる。」
異議決定日 2003-03-19 
出願番号 特願平6-192152
審決分類 P 1 651・ 534- YA (B32B)
P 1 651・ 121- YA (B32B)
最終処分 維持  
前審関与審査官 中島 庸子  
特許庁審判長 井出 隆一
特許庁審判官 田口 昌浩
石井 克彦
登録日 2000-04-21 
登録番号 特許第3057472号(P3057472)
権利者 株式会社リコー
発明の名称 電子機器の部品及び該部品に貼着されるシート状部材  
代理人 星野 則夫  
代理人 星野 則夫  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ