• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  C04B
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  C04B
審判 全部申し立て 2項進歩性  C04B
審判 全部申し立て 発明同一  C04B
審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  C04B
管理番号 1077895
異議申立番号 異議2001-73447  
総通号数 43 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 1997-03-31 
種別 異議の決定 
異議申立日 2001-12-25 
確定日 2003-04-05 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第3179022号「セメント分散剤およびその製造方法ならびにそれを用いたセメント組成物」の請求項1〜10に係る発明の特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 訂正を認める。 特許第3179022号の請求項1〜10に係る発明の特許を維持する。 
理由 I.手続の経緯
本件特許第3179022号の出願は、特許法第41条に基づく優先権主張〔優先権主張その1:特願平7-177523号、平成7年7月13日(優先日)、同その2:特願平7-177524号、平成7年7月13日(優先日)、同その3:特願平7-177525号、平成7年7月13日(優先日)〕を伴い平成8年6月28日に出願されたものであって、平成13年4月13日にその特許の設定登録がなされ、その後、宮崎幸雄、及び、日本製紙株式会社より、それぞれ、特許異議の申立がなされ、これに基づいて、取消理由通知がなされ、特許権者よりその指定期間内である平成14年8月13日に明細書の訂正請求がなされ、併せて、特許異議意見書と回答書(乙第1号証の1〜乙第30号証添付)が提出されたものである。

II.訂正の適否
II-1.訂正事項
本件明細書につき、訂正請求書に添付された訂正明細書に記載されるとおりの次の(a)及び(b)の訂正を求めるものである。
(a)明細書の特許請求の範囲の請求項4における、
「【請求項4】該重合体(A)のセメント粒子への吸着率が、セメントに対して0.2重量%添加したときに、室温下5分間で60%未満であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載のセメント分散剤。」を、
「【請求項4】該重合体(A)のセメント粒子への吸着率が、セメントに対して0.2重量%添加し、これに水/セメント比(重量比)が10%となるように水を加えたセメント組成物において、室温下5分間で60%未満であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載のセメント分散剤。」と訂正する。
(b)明細書の特許請求の範囲の請求項5における、
「【請求項5】該重合体(A)のセメント粒子への吸着率が、セメントに対して0.2重量%添加したときに、室温下5分間で60%以上であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載のセメント分散剤。」を、
「【請求項5】該重合体(A)のセメント粒子への吸着率が、セメントに対して0.2重量%添加し、これに水/セメント比(重量比)が10%となるように水を加えたセメント組成物において、室温下5分間で60%以上であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載のセメント分散剤。」と訂正する。

II-2.訂正の適否の判断
II-2-1.訂正の目的
上記(a)及び(b)の訂正は、重合体(A)のセメント粒子への吸着率につき、「これに水/セメント比(重量比)が10%となるように水を加えたセメント組成物において」という条件を付加するものであって、吸着率の測定条件をその下位概念のものに限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
II-2-2.新規事項の有無、及び、拡張・変更の存否
上記(a)及び(b)の訂正は、明細書の段落0112〜0116の記載内容に基づくものであって、願書に添付した明細書に記載した事項の範囲内でなされるものであり、新規事項の追加には該当せず、また、実質的に特許請求の範囲を拡張又は変更するものには該当しないことは明らかなことである。
II-3.訂正の適否の結論
よって、上記訂正請求は、特許法第120条の4第2項、及び同条第3項において準用する特許法第126条第2項及び3項の規定に適合するので、当該訂正を認める。

III.本件発明
訂正後の本件特許第3179022号の請求項1〜10に係る発明は、平成14年8月13日付けで訂正請求がなされ、その請求どおり訂正された明細書の特許請求の範囲請求項1〜10に記載される次のとおりのものである。
(以下、訂正後の請求項1〜10に係る発明を、必要に応じて、それぞれ、「本件発明1〜10」という)
【請求項1】(アルコキシ)ポリアルキレングリコールモノ(メタ)アクリル酸エステル系単量体(a)5〜98重量%、(メタ)アクリル酸系単量体(b)95〜2重量%、およびこれらの単量体と共重合可能な他の単量体(c)0〜50重量%(但し、(a)、(b)および(c)の合計は100重量%)を共重合して得られるポリカルボン酸系重合体(A)またはその塩を主成分とするセメント分散剤であって、該重合体(A)の重量平均分子量が、ゲルパーミエーションクロマトグラフィーによるポリエチレングリコール換算で10,000〜500,000の範囲内にあり、かつ重量平均分子量からピークトップ分子量を差し引いた値が0〜8,000であることを特徴とするセメント分散剤。
【請求項2】下記一般式(1):
〈一般式は省略〉 (1)
(ただし、式中R1は水素もしくはメチル基を表わし、R2Oは炭素数2〜4のオキシアルキレン基の1種または2種以上の混合物を表わし、2種以上の場合はブロック状に付加していてもランダム状に付加していてもよく、R3は水素または炭素数1〜5のアルキル基を表わし、mはオキシアルキレン基の平均付加モル数を示す値であり1〜100の整数を表わす。)で示される(アルコキシ)ポリアルキレングリコールモノ(メタ)アクリル酸エステル系単量体(a)5〜98重量%、下記一般式(2):
〈一般式は省略〉 (2)
(ただし、式中、R4は水素もしくはメチル基を表わし、M1は水素、一価金属、二価金属、アンモニウム基または有機アミン基を表わす。)で示される(メタ)アクリル酸系単量体(b)95〜2重量%、およびこれらの単量体と共重合可能な他の単量体(c)0〜50重量%(但し、(a)、(b)および(c)の合計は100重量%)を共重合して得られるポリカルボン酸系重合体(A)またはその塩を主成分とするセメント分散剤であって、該重合体(A)の重量平均分子量が、ゲルパーミエーションクロマトグラフィーによるポリエチレングリコール換算で10,000〜500,000の範囲内にあり、かつ重量平均分子量からピークトップ分子量を差し引いた値が0〜8,000であることを特徴とするセメント分散剤。
【請求項3】該(アルコキシ)ポリアルキレングリコールモノ(メタ)アクリル酸エステル系単量体(a)が(メトキシ)ポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレートであり、該(メタ)アクリル酸系単量体(b)が(メタ)アクリル酸である請求項1または2記載のセメント分散剤。
【請求項4】該重合体(A)のセメント粒子への吸着率が、セメントに対して0.2重量%添加し、これに水/セメント比(重量比)が10%となるように水を加えたセメント組成物において、室温下5分間で60%未満であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載のセメント分散剤。
【請求項5】該重合体(A)のセメント粒子への吸着率が、セメントに対して0.2重量%添加し、これに水/セメント比(重量比)が10%となるように水を加えたセメント組成物において、室温下5分間で60%以上であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載のセメント分散剤。
【請求項6】(アルコキシ)ポリアルキレングリコールモノ(メタ)アクリル酸エステル系単量体(a)5〜98重量%、(メタ)アクリル酸系単量体(b)95〜2重量%、およびこれらの単量体と共重合可能な他の単量体(c)0〜50重量%(但し、(a)、(b)および(c)の合計は100重量%)からなる単量体混合物(I)の使用量が使用する原料の全量に対して10〜28重量%の範囲内であり、重合を単量体混合物(I)の曇点以下の温度で行ない、さらに単量体混合物(I)の中和率が0〜20モル%の範囲内である条件下で該単量体混合物(I)を水を含む反応容器に滴下することにより溶液重合反応を行なうことを特徴とするセメント分散剤の製造方法。
【請求項7】(アルコキシ)ポリアルキレングリコールモノ(メタ)アクリル酸エステル系単量体(a)5〜98重量%、(メタ)アクリル酸系単量体(b)95〜2重量%、およびこれらの単量体と共重合可能な他の単量体(c)0〜50重量%(但し、(a)、(b)および(c)の合計は100重量%)からなる単量体混合物(I)の中和率が0〜20モル%の範囲内であり、かつ該単量体混合物(I)を重合反応前に連鎖移動剤と混合する条件下で該単量体混合物(I)及び該連鎖移動剤を水を含む反応容器に滴下することにより溶液重合反応を行なうことを特徴とするセメント分散剤の製造方法。
【請求項8】下記一般式(1):
〈一般式は省略〉 (1)
(ただし、式中R1は水素もしくはメチル基を表わし、R2Oは炭素数2〜4のオキシアルキレン基の1種または2種以上の混合物を表わし、2種以上の場合はブロック状に付加していてもランダム状に付加していてもよく、R3は水素または炭素数1〜5のアルキル基を表わし、mはオキシアルキレン基の平均付加モル数を示す値であり1〜100の整数を表わす。)で示される(アルコキシ)ポリアルキレングリコールモノ(メタ)アクリル酸エステル系単量体(a)5〜98重量%、下記一般式(2):
〈一般式は省略〉 (2)
(ただし、式中、R4は水素もしくはメチル基を表わし、M1は水素、一価金属、二価金属、アンモニウム基または有機アミン基を表わす。)で示される(メタ)アクリル酸系単量体(b)95〜2重量%、およびこれらの単量体と共重合可能な他の単量体(c)0〜50重量%(但し、(a)、(b)および(c)の合計は100重量%)からなる単量体混合物(I)の使用量が使用する原料の全量に対して10〜28重量%の範囲内であり、重合を単量体混合物(I)の曇点以下の温度で行ない、さらに単量体混合物(I)の中和率が0〜20モル%の範囲内である条件下で該単量体混合物(I)を水を含む反応容器に滴下することにより溶液重合反応を行なうことを特徴とするセメント分散剤の製造方法。
【請求項9】下記一般式(1):
〈一般式は省略〉 (1)
(ただし、式中R1は水素もしくはメチル基を表わし、R2Oは炭素数2〜4のオキシアルキレン基の1種または2種以上の混合物を表わし、2種以上の場合はブロック状に付加していてもランダム状に付加していてもよく、R3は水素または炭素数1〜5のアルキル基を表わし、mはオキシアルキレン基の平均付加モル数を示す値であり1〜100の整数を表わす。)で示される(アルコキシ)ポリアルキレングリコールモノ(メタ)アクリル酸エステル系単量体(a)5〜98重量%、下記一般式(2):
〈一般式は省略〉 (2)
(ただし、式中、R4は水素もしくはメチル基を表わし、M1は水素、一価金属、二価金属、アンモニウム基または有機アミン基を表わす。)で示される(メタ)アクリル酸系単量体(b)95〜2重量%、およびこれらの単量体と共重合可能な他の単量体(c)0〜50重量%(但し、(a)、(b)および(c)の合計は100重量%)からなる単量体混合物(I)の中和率が0〜20モル%の範囲内であり、かつ該単量体混合物(I)を重合反応前に連鎖移動剤と混合する条件下で該単量体混合物(I)及び該連鎖移動剤を水を含む反応容器に滴下することにより溶液重合反応を行なうことを特徴とするセメント分散剤の製造方法。
【請求項10】少なくともセメント、水およびセメント分散剤を含有するセメント組成物であって、請求項1または2記載のセメント分散剤を含有してなるセメント組成物。

IV.特許異議申立の概要
特許異議申立人〈宮崎幸雄〉は、以下の証拠を提示し、次のように主張する。
(1)本件発明1〜3は、甲第2号証の記載を参照すれば、甲第1号証に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号の規定に該当し、また、本件発明1〜3及び10は、甲第2号証の記載を参照すれば、甲第1号証に記載された発明に基づいて当業者が当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、これらの発明の特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものである《理由-1》。
(2)本件明細書の特許請求の範囲の記載は、本件発明1〜3及び10につき、特許を受けようとする発明が明確であるように記載されていないから、これらの特許は、特許法第36条第6項に規定する要件を満たしていない特許出願に対してなされたものである《理由-2》。

甲第1号証:特公昭59-18338号公報(以下、「引用例1」という)
甲第2号証:2001年12月18日作成、「特許第3179022号と
先行文献特公昭59-18338号との比較合成実験報告書
」(以下、「実験報告書1」という)
甲第3号証:森定雄著、「サイズ排除クロマトグラフィー 」、共立出版
株式会社、1992年10月10日、第10〜18及び
48〜63頁(以下、「引用例2」という)
甲第4号証:2001年12月18日作成、「GPC分析によるピーク
トップ分子量が測定条件により異なることの計算による証明 書」(以下、「証明書」という)
特許異議申立人〈日本製紙株式会社〉は、以下の証拠を提示し、次のように主張する。
(3)本件発明1〜6、8、10は、甲第1又は2号証に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号の規定に該当し、また、本件発明6〜9は、甲第1、2及び8号証に記載の発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない《理由-3》。
(4)本件発明1〜3及び10は、特許法第41条に基づく優先権主張〔優先権主張:特願平6-232393号、平成6年9月1日(優先日)〕を伴い平成7年8月30日に出願された特願平7-245318号(特開平8-119701号)の願書に最初に添付された明細書又は図面に替える甲第6号証に記載される発明と同一であるから、特許法第29条の2の規定により特許を受けることができない《理由-4》。
(5)本件発明1〜5及び10の特許は、特許法第36条第4項及び第6項に規定する要件を満たしていない特許出願に対してなされたものである《理由-5》。

甲第1号証:特開昭58-74552号公報
(以下、「引用例3」という)
甲第2号証:特開平1-226757号公報
(以下、「引用例4」という)
甲第3号証:特許異議申立人株式会社日本触媒による昭和63年特許願
第52344号に対する特許異議申立理由補充書の写し
(以下、「別件異議申立理由補充書」という)
甲第4号証:平成13年12月10日、日本製紙株式会社化成品開発研
究所2G主査 西盛嘉人作成による「実験報告書(1)」
(以下、「実験報告書2」という)
甲第5号証:岡田英三郎著、「流動化剤の化学と流動化機構」、セメント・
コンクリート、No.478、Jan.1887、第22
〜29頁(以下、「引用例5」という)
甲第6号証:特開平8-119701号公報(以下、「先願明細書」という)
甲第7号証:平成13年12月10日、日本製紙株式会社化成品開発研
究所2G主査 西盛嘉人作成による「実験報告書(2)」
(以下、「実験報告書3」という)
甲第8号証:特開平5-214015号公報(以下、「引用例6」という)
甲第9号証:武内次夫、外1名著、「ゲルクロマトグラフィー〈基礎編〉」
、講談社、昭和51年9月16日、第169〜173頁
(以下、「引用例7」という)
甲第10号証:矢口稔、外2名著、「超高強度コンクリート用高性能減水剤
の粘性低減効果に関する一考察」、日本建築学会大会学術講
演梗概集、No.1099、2001年9月、第197
及び198頁(以下、「梗概集1」という)
甲第11号証:土谷正、外2名著、「超高強度コンクリートの強度発現性およ
び耐久性に関する一考察」、日本建築学会大会学術講演梗
概集、No.1100、2001年9月、第199及び
200頁(以下、「梗概集2」という)

V.証拠の記載内容
引用例1(特公昭59-18338号公報)には、「セメント分散剤」に関し、以下のことが記載される。
(A-1)「一般式
〈一般式は省略〉
但し、式中R1は水素又はメチル基を表わし、R2は炭素数2〜4のアルキレン基を表わし、R3は水素又は炭素数1〜5のアルキル基を表わし、nは1〜100の整数を表わす。
で示されるポリアルキレングリコールモノ(メタ)アクリル酸エステル系単量体イ、
一般式
〈一般式は省略〉
但し、式中R4は水素又はメチル基を表わし、Xは水素、一価金属、二価金属、アンモニウム基又は有機アミン基を表わす。
で示される(メタ)アクリル酸系単量体ロ
及びこれら単量体と共重合可能な単量体ハを、ポリアルキレングリコールモノ(メタ)アクリル酸エステル系単量体イ10〜95重量% (メタ)アクリル酸系単量体ロ90〜5重量%及び単量体ハ0〜50重量%(但し、イ,ロ及びハの合計は100重量%である。)の比率で用いて導かれた共重合体(A)及び/又は該共重合体(A)を更にアルカリ性物質で中和して得られた共重合体(B)を主成分とするセメント分散剤。」(特許請求の範囲第1項)
(A-2)「また共重合体(A)の分子量は広い範囲のものが使用できるが、500〜50,000の範囲内のものが好ましい。」(第3頁右欄第10〜12行)
(A-3)「参考例1
・・・イソプロピルアルコール(以下、IPAと略す。)390部を仕込み、・・・沸点まで加熱した。次いでメトキシポリエチレングリコールモノメタアクリレート(・・・エチレンオキサイドの平均付加モル数9個)133部、メタアクリル酸27部、ベンゾイルパーオキシド2.44部及びIPA240部からなる混合物を120分で添加し、添加終了後更に0.49部のベンゾイルパーオキシドをIPA10部に分散させたものを30分毎に2回に分けて添加した。モノマーの添加完結後、120分間沸点に温度を保持して重合反応を完了させた。その後、カセイソーダ水溶液にて完全中和を行い、」(第4頁左欄第21〜37行)
(A-4)「参考例6
・・・IPA390部を仕込み、・・・沸点まで加熱した。次いでメトキシポリエチレングリコールモノメタアクリレート(・・・)88部、アクリル酸64部、スチレン8部、ベンゾイルパーオキシド2.4部及びIPA240部からなる混合物を120分で添加し、添加終了後更に0.48部のベンゾイルパーオキシドをIPA10部に分散させたものを・・・添加した。モノマーの添加完結後、120分間沸点に保持して重合反応を完結させた。その後、カセイソーダ水溶液にて完全中和を行ない、」(第5頁右欄第4〜18行)

実験報告書1(2001年12月18日作成、「特許第3179022号と先行文献特公昭59-18338号との比較合成実験報告書)では、以下のことが報告される。
(B-1)本件の特許明細書に記載される参考例1および特公昭59-18338号公報(この異議決定における引用例1)に示される参考例1,3,5および6について、該特許明細書に記載される方法に従って重合体を合成し、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー測定により、その重量平均分子量(Mw)とピークトップ分子量(Mp)を測定し、Mw-Mpを求めたとのこと
(B-2)ゲルパーミエーションクロマトグラフィー測定条件の概要
使用カラム:Shodex製OHpackSB-804HQ×2本接続
(充填剤:ポリヒドロキシメタアクリレート)
使用溶離液:アセトニトリル1765g、水3235g、酢酸ナトリウ
ム三水和物34g、酢酸でpH6.0に調整
標準物質:ポリエチレングリコール
(B-3)ゲルパーミエーションクロマトグラフィー測定結果と計算結果
特公昭59-18338号公報の参考例1:重量平均分子量(Mw)38,000、ピークトップ分子量(Mp)32,200、Mw-Mp5,800、
特公昭59-18338号公報の参考例6:重量平均分子量(Mw)17,900、ピークトップ分子量(Mp)14,500、Mw-Mp3,400

引用例2(森定雄著、「サイズ排除クロマトグラフィー 」、共立出版株式会社、1992年10月10日)には、サイズ排除クロマトグラフィーに関し、以下のことが記載されている。
(C-1)「B.溶出曲線と分子量分布曲線
カラムの種類やその組み合わせが異なる場合に,同一試料のクロマトグラムを比較する場合,・・・手順に従って微分分子量分布曲線を求める必要がある.その理由を以下に説明する.ある分子量分布曲線(図4.4(a))を有するポリマー試料のSECを,カラム組み合わせの異なる二つのSECシステム,I,II,において測定するものとする.それぞれのシステムの較正曲線を図4.4(b)に示す.これら二つのシステムで得られたクロマトグラムを図4.4(c)に示す.この二つのクロマトグラムからは同一試料の測定結果であることは想像できない.単に横軸の保持容量を較正曲線を用いてlogMに変換したものが図4.4(d)である(横軸は数字の小さいほうから,左から右に目盛ってあるので,(c)と(d)では左右の形が逆になっている.同一試料でありながら,同じ分布の形になっていない.」(第60頁第7行〜第61頁第9行)

証明書(2001年12月18日作成、「GPC分析によるピークトップ分子量が測定条件により異なることの計算による証明書)には、以下のことが記載されている。
(D-1)甲第3号証(森定雄著、「サイズ排除クロマトグラフィー 」、共立出版株式会社、1992年10月10日)の記載により、また、計算により、GPC分析においては、GPC溶出曲線の最も高い点が分子量較正曲線の湾曲により左右され、被測定物ポリマーに固有のものとしては定まらないことを証明するとのこと

引用例3(特開昭58-74552号公報)には、「セメント分散剤」に関し、以下のことが記載される。
(E-1)「一般式
〈一般式は省略〉
但し、式中R1は水素又はメチル基を表わし、R2は炭素数2〜4のアルキレン基を表わし、R3は水素又は炭素数1〜5のアルキル基を表わし、nは1〜100の整数を表わす。
で示されるポリアルキレングリコールモノ(メタ)アクリル酸エステル系単量体(イ)、
一般式
〈一般式は省略〉
但し、式中R4は水素又はメチル基を表わし、Xは水素、一価金属、二価金属、アンモニウム基又は有機アミン基を表わす。
で示される(メタ)アクリル酸系単量体(ロ)
及びこれらの単量体と共重合可能な単量体(ハ)を、
ポリアルキレングリコールモノ(メタ)アクリル酸エステル系単量体(イ)10〜95重量%、(メタ)アクリル酸系単量体(ロ)90〜5重量%及び単量体(ハ)0〜50重量%(但し、(イ)、(ロ)及び(ハ)の合計は100重量%である。)の比率で用いて導かれた共重合体(A)及び/又は該共重合体(A)を更にアルカリ性物質で中和して得られた共重合体(B)を主成分とするセメント分散剤。」(特許請求の範囲第1項)
(E-2)「水媒体中で重合を行なう時は、・・・。重合温度は、用いられる溶媒や重合開始剤により適宜定められるが、通常0〜120℃の範囲内で行なわれる。」(第3頁右下欄第4行〜第4頁左上欄第1行)
(E-3)「また共重合体(A)の分子量は広い範囲のものが使用できるが、500〜50,000の範囲内のものが好ましい。」(第4頁左上欄第16〜18行)
(E-4)「本発明のセメント分散剤は、従来のセメント分散剤に比較して少量の添加でも優れた効果を発揮する。例えば・・・添加すればよい。この添加によりスランプの増大、水量の低減等の各種の好ましい諸効果がもたらされる。」(第4頁右上欄第12〜19行)
(E-5)「参考例1
・・・ガラス製反応器にイソプロピルアルコール(以下、IPAと略す)390部を仕込み、・・・沸点まで加熱した。次いでメトキシポリエチレングリコールモノメタアクリレート(・・・)133部、メタアクリル酸27部、ベンゾイルパーオキシド2.44部及びIPA240部からなる混合物を120分で添加し、添加終了後更に0.49部のベンゾイルパーオキシドをIPA10部に分散させたものを30分毎に2回に分けて添加した。モノマーの添加完結後、120分間沸点に温度を保持して重合反応を完了させた。」(第4頁右下欄第11行〜第5頁左上欄第6行)
(E-6)「参考例2
・・・反応容器にメタノール300部を仕込み、・・・沸点まで加熱した。次いでポリエチレングリコールモノメタアクリレート(・・・)96部、アクリル酸64部、アゾビスイソブチロニトリル6.67部及びメタノール240部からなる混合物を120分で添加し、添加終了後更に1.33部のアゾビスイソブチロニトリルをメタノール10部にとかしたものを・・・添加した。モノマーの添加完結後、120分間沸点に温度を保持して重合反応を完了させた。」(第5頁左上欄第11行〜右上欄第4行)
(E-7)「参考例3
・・・反応容器に水560.7部を仕込み、・・・95℃まで加熱した。次いで、メトキシポリエチレングリコールモノメタアクリレート(・・・エチレンオキサイド平均付加モル数23個)75部、アクリル酸25部及び水300部からなるモノマー混合溶液と5%過硫酸アンモニウム水溶液34.5部とのそれぞれを120分で添加し、添加終了後更に5%過硫酸アンモニウム水溶液6.8部を20分間で添加した。上記モノマー混合溶液の添加完結後、120分間95℃に温度を保持し、重合反応を完了させた。」(第5頁右上欄第9行〜左下欄第2行)
(E-8)「参考例4
・・・反応容器にIPA390部を仕込み、・・・沸点まで加熱した。次いでポリプロピレングリコールモノメタクリレート(・・・)91部、アクリル酸69部、ベンゾイルパーオキシド4.80部及びIPA240部からなる混合物を120分で添加し、添加終了後更に0.96部のベンゾイルパーオキシドをIPA10部に分散させたものを30分毎に2回に分けて添加した。モノマーの添加完結後、120分間沸点に温度を保持して重合反応を完了させた。」(第5頁左下欄第7〜末行)
(E-9)「参考例5
・・・反応容器に水141.2部及びIPA170部を仕込み、・・・沸点まで加熱した。次いでメトキシポリエチレングリコールモノメタアクリレート(・・・エチレンオキサイド平均付加モル数23個)72部、アクリル酸48部、IPA90部及び水90部からなる混合物、アクリルアミド40部、IPA60部及び水60部からなる混合物、並びに10%過硫酸アンモニウム水溶液48部のそれぞれを120分間で添加し、添加終了後更に10%過硫酸アンモニウム4.8部を・・・添加した。モノマー添加完結後、120分間沸点に温度を保持して重合反応を完了させた。」(第5頁右下欄第5〜末行)
(E-10)「参考例6
・・・反応容器にIPA390部を仕込み、・・・沸点まで加熱した。次いでメトキシポリエチレングリコールモノメタアクリレート(・・・)88部、アクリル酸64部、スチレン8部、ベンゾイルパーオキサイド2.4部及びIPA240部からなる混合物を120分で添加し、添加終了後更に0.48部のベンゾイルパーオキシドをIPA10部に分散させたものを・・・添加した。モノマーの添加完結後、120分間沸点に保持して重合反応を完了させた。」(第6頁左上欄第4〜17行)

引用例4(特開平1-226757号公報)には、「セメント用分散剤」に関し、以下のことが記載されている。
(F-1)「しかしながら、一般に水溶性ビニル共重合体を水溶液重合で製造すると、セメント用分散剤としては好ましくない過大な分子量のものができ易い。そこで、得られる水溶性ビニル共重合体の分子量調節のために、チオグリコール酸やチオグリセリンのような水溶性チオール化合物等の連鎖移動剤を用いたり、また・・・用いることが知られており、更に連鎖移動剤を用いないで分子量調節をする場合には溶媒の沸点近くまで重合温度を上げることが知られている。ところが、水溶性チオール化合物を連鎖移動剤として用いると、得られる水溶性ビニル共重合体に悪臭の残存する場合が多くて、その貯蔵中にも腐敗等を起し易く、」(第2頁右上欄第18行〜左下欄第12行)
(F-2)実施例2:メタクリル酸ナトリウム塩18重量%、メタリルスルホン酸ナトリウム塩10重量%、メトキシポリ(n=9)エチレングリコールメタクリレート72重量%からなるモノマー混合物から、共重合反応により、分子量6200の重合体を製造したこと。
実施例7:メタクリル酸ナトリウム塩35重量%、メタリルスルホン酸ナトリウム塩15重量%、メトキシポリ(n=23)エチレングリコールメタクリレート50重量%からなるモノマー混合物から、共重合反応により、分子量5000の重合体を製造したこと。(以上、第4頁左下欄第2行〜第5頁右上欄第14行)

別件異議申立理由補充書には、以下のことが記載されている。
(G-1)「本願発明は、甲第1号証記載の発明の範囲に含まれるものであり、甲第1号証記載の発明と実質的に同一であると言える。」(第15頁下から第2行〜第16頁第1行)但し、当該本願発明とは、引用例4の出願公開公報に係る出願の発明のことを、また、当該甲第1号証とは、引用例3のことをいう。

実験報告書2(平成13年12月10日、日本製紙株式会社化成品開発研究所2G主査 西盛嘉人作成による「実験報告書(1)」)では、以下のことが報告される。
(H-1)特開平1-226757号公報(引用例4)に示されている実施例2及び7を追試し、得られた重合物につき、ゲルパーミエーションクロマトグラフィーにより、 その重量平均分子量(Mw)、ピークトップ分子量(Mp)、及び、Mw-Mpを求めたとのこと
(H-2)ゲルパーミエーションクロマトグラフィー測定の概要
使用カラムは、OH pak SB-806HQ+OH pak SB-804HQ+OH pak SB-802.5HQ(昭和電工(株)製)
使用溶離液は、0.05mol/L NaNO3:CH3CN=80:20(容積比)
標準物質は、ポリエチレングリコール(東ソー、フナコシ製)
(H-3)ゲルパーミエーションクロマトグラフィー測定結果と計算結果
特開平1-226757号公報の実施例2:重量平均分子量(Mw)20800、ピークトップ分子量(Mp)18300、Mw-Mp2500、
特開平1-226757号公報の実施例7:重量平均分子量(Mw)18400、ピークトップ分子量(Mp)16600、Mw-Mp1800

引用例5(岡田英三郎著、「流動化剤の化学と流動化機構」、セメント・コンクリート、No.478)には、以下のことが記載されている。
(I-1)「セメント粒子を含め一般に無機粉末の分散には,オリゴマーが有効である。分子量が小さくなると分散性能が劣り,逆に大きくなると凝集に働く。」(第23頁左欄第16〜18行)
(I-2)「無機粉末の分散に,高分子の最適な分子量分布域が存在することについては,かなり研究が深められている。」(第23頁右欄第12及び13行)
(I-3)「最近,高速液体クロマトグラフィ(HLC)やゲルパーメーションクロマトグラフィ(GPC)の発展により,測定がかなり容易に実施できる。しかし,分子量の測定は,標準試料としてのポリスチレンスルホン酸塩との比較からの類推が多いことや,測定条件によってかなり異なったパターンが得られることから,研究者の恣意性に左右されるので,データの取扱いには十分な注意が必要である。」(第23頁右欄第22〜29行)
(I-4)「セメント分散剤のGPCパターンを図3に示す。
分子量分布のピークが,セメント分散に重要な役割を果たしていると考えられる。高分子量領域は凝集性と関係するが,最近この領域の量がスランプロス防止機能やAE付与性と関連することが解明されつつあり、重要視されている。」(第23頁右欄第30行〜第24頁左欄下から第8行)

先願明細書(特開平8-119701号公報)には、「セメント分散剤、その製造方法及び用途」に関し、以下のことが記載されている。
(J-1)「【請求項1】α,β-不飽和モノカルボン酸のA重量部、不飽和結合を有するポリオキシアルキレンモノエステル系単量体のB重量部及び(メタ)アリルビスフェノール類のC重量部を下記式1を満足する割合で共重合して得られる重合物を有効成分とすることを特徴とするセメント分散剤。
A+B+C=100、
15≦A≦35、62≦B≦85、1≦C≦10 式1」(特許請求の範囲第1項)
(J-2)「本発明における分散剤の分子量は、数平均分子量で表すと通常3,000〜100,000の範囲にするのが好ましい。」(段落0022の抜粋)
(J-3)実施例27:ジヒドロキシジフェニルメタンのOH基のオルト位のうちの2つをアリル置換した化合物4重量部、メタクリル酸24部、及びメトキシポリオキシエチレンメタクリレート(EO鎖長=9)72部のモノマーから、反応温度90℃、反応濃度20%、反応時間4時間、及び反応pH4の条件で反応させ、重合物を得た。
実施例28:ジヒドロキシジフェニルメタンのOH基のオルト位のうちの2つをアリル置換した化合物4重量部、メタクリル酸24部、及びメトキシポリオキシエチレンメタクリレート(EO鎖長=9)72部のモノマーから、反応温度100℃、反応濃度20%、反応時間2時間、及び反応pH7の条件で反応させ、重合物を得た。(以上、段落0031、0037及び0038から)

実験報告書3(平成13年12月10日、日本製紙株式会社化成品開発研究所2G主査 西盛嘉人作成による「実験報告書(2)」)では、以下のことが報告される。
(K-1)特開平8-119701号公報(先願明細書)に示されている実施例27及び28を追試し、得られた重合物につき、ゲルパーミエーションクロマトグラフィーにより、 その重量平均分子量(Mw)とピークトップ分子量(Mp)とMw-Mpとを求めたとのこと
(K-2)ゲルパーミエーションクロマトグラフィー測定条件の概要
使用カラムは、OH pak SB-806HQ+OH pak SB-804HQ+OH pak SB-802.5HQ(昭和電工(株)製)
使用溶離液は、0.05mol/L NaNO3:CH3CN=80:20(容積比)
標準物質は、ポリエチレングリコール(東ソー、フナコシ製)
(K-3)ゲルパーミエーションクロマトグラフィー測定結果と計算結果
特開平8-119701号公報の実施例27:重量平均分子量(Mw)22600、ピークトップ分子量(Mp)18200、Mw-Mp4400、
特開平8-119701号公報の実施例28:重量平均分子量(Mw)25900、ピークトップ分子量(Mp)19500、Mw-Mp6400

引用例6(特開平5-214015号公報)には、「新規重合体、その製造方法およびその用途」に関し、以下のことが記載されている。
(L-1)「請求項1から3までのいずれかに記載の新規重合体からなるセメント分散剤」(特許請求の範囲第10項)
(L-2)「重合体の分子量の調節は、開始剤の使用量の調節や、溶媒もしくは連鎖移動剤添加系で溶液重合を行うことにより達成される。開始剤の量を増加すれば分子量は低下する。」(段落0021の抜粋)

引用例7(武内次夫、外1名著、「ゲルクロマトグラフィー〈基礎編〉」、講談社)には、以下のことが記載されている。
(M-1)「3.7 異なるカラムを用いた場合の分子量分布曲線の比較法(その1)
GPC曲線は単位容積当りの示差屈折率と溶出量のグラフであり,同一試料でもGPCのカラムの構成が異なれば両者を比較することは不可能である.たとえ曲線部分の面積が規格化されているとしても,単に溶出量を検量線から分子量におきかえても無意味である.装置やカラムが異なれば,同じ溶出位置でも同じ分子量を意味しないし,クロマトグラムの広幅化の程度はそれぞれ異なり,クロマトグラムのピーク頂点の位置も異なることになる.」(第169頁第8〜14行)

梗概集1には、以下のことが記載されている。
(N-1)ポリカルボン酸系高性能減水剤を用い、水セメント比14%でコンクリートを調合した場合の、経過時間60分以降のスランプフロー値が表1に表示されない。

梗概集2には、以下のことが記載されている。
(O-1)ポリカルボン酸系超高強度コンクリート用高性能減水剤を用い、水セメント比12%でコンクリートを調合した場合、表-2におけるスランプフロー(cm)が43.0となっている。

VI.異議申立に対する当審の判断
ここでは、特許異議申立人の主張を、必要に応じて、併合して判断するものとする。
VI-1.理由-2及び理由-5〔特許異議申立人〈宮崎幸雄〉及び〈日本製紙株式会社〉の主張について〕
ここでの特許異議申立人の主張は、次の(1)及び(2)のようなものである。
(1)本件請求項1及び2では、「重合体(A)の重量平均分子量が、ゲルパーミエーションクロマトグラフィーによるポリエチレングリコール換算で10,000〜500,000の範囲内にあり、かつ重量平均分子量からピークトップ分子量を差し引いた値が0〜8,000である」と規定するが、本件明細書又は本件請求項1及び2には、その重量平均分子量とピークトップ分子量とを測定する測定条件が記載されていない。そして、引用例2、5、7及び証明書で記載されるように、ゲルパーミエーションクロマトグラフィーによる分子量の測定は、使用する測定条件、特にカラムの充てん物の選択により、数値ないしはクロマトグラムの湾曲形状が全く異なるものになる。
そうすると、本件発明1〜5及び10につき、本件明細書には当業者がその実施をできる程度に明確かつ十分に発明が記載されているとはいえない。また、セメント分散剤の範囲を特定することができず、本件請求項1〜5及び10の発明が不明確なものである。
したがって、本件出願は、本件請求項1〜5及び10に係る発明につき、特許法第36条第4項及び第6項に規定する要件を満たしていないというものである。
(2)請求項4及び5では吸着率を規定しており、かかる吸着率を測定する場合には水/セメント比に関する条件が必要であるが、当該請求項4及び5にはその水/セメント比に関する記載がない。
したがって、本件出願は、本件請求項4及び5係る発明につき、特許法第36条第6項に規定する要件を満たしていないというものである。
また、仮に、水/セメント比が10%の条件が規定されたとしても、梗概集1及び2で示されるようにそのような極端に低い水/セメント比のセメント組成物は達成されていないものであるから、当該請求項の発明は、当業者であっても容易に実施することができないというものである。

そこで、以下に検討する。
VI-1-1.上記(1)について
当該ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(以下、適宜、「GPC」という)は、サイズ排除クロマトグラフィーの一種として周知のものであり、そのGPCによる測定は、「固定相として用いる充填材の細孔を利用して、試料分子を分子サイズの大きいものから順次分離するものであって、分析対象の試料をのせたカラムに溶理液を流しつづけると、溶離液の流出に従って分子量の大きなものから順に溶出される」という原理に基づくものであり、そして、その際、充填材(カラム充填材)は、カラムに収容して用いられるものである(必要ならば、引用例2等を参照)。
確かに、本件明細書の特許請求の範囲の請求項1及び2に記載される、GPCによる測定方法については、本件明細書では、ポリエチレン換算で、すなわち、標準物質としてポリエチレングリコールを用いて測定したことが記載されるだけで、その余の条件についてまでは記載されない。
しかし、本件の特許請求の範囲の請求項1及び2で規定されるポリカルボン酸系重合体(A)は、その化学構造からみて明らかのとおり、水溶性であり、そして、この水溶性のポリカルボン酸系重合体(A)をGPCにより測定する場合は、その試料は水溶液に溶解させて処理することが一般的であることから、そのカラム充填材として水溶媒系のものを用い、また、その溶離液として水溶媒系のものを用いることは、当然のことである。
そして、GPC用のカラム充填材が水溶媒系であるものとしては、乙第2号証の1〜3に記載されるようにポリマー系とシリカ系があるが、その理論段数(分離能、分解能)は、シリカ系充填材の方がポリマー系充填材よりも高いことは周知の事項(例えば、乙第2号証の1の表紙から5頁目の左欄中段の一覧表と同6頁目の左欄中段の一覧表、乙第2号証の表から3頁目の中段の表、等、を参照)であり、まして、本件請求項1及び2で規定するピークトップ分子量を測定するというような高い精度が要求される場合にあっては、正確を期して、カラム充填材に理論段数がより高いシリカ系のものを選択しなければならず、このことは当業者にとって明らかなことである。
また、乙第1号証の1〜乙第1号証の10の記載をみると、本件請求項1及び2で規定する重合体に包含される重合体ないしは(アルコキシ)ポリアルキレングリコールモノ(メタ)アクリル酸エステル系単量体と(メタ)アクリル酸系単量体とを共重合してなる重合体につき、権利者は、そのGPCによる分子量の測定に際しては、本件出願前から本件出願後に亘り概ね一貫して、カラム充填材としては、水溶媒系であって、シリカ系のものを用い、そして、溶離液としては、水溶媒系の液を用いるものである。
このように、本件請求項1及び2で規定される重合体(A)をGPCにより測定する場合には、その重合体(A)が水溶性であることとGPCの技術常識からみると、GPC用のカラム充填材として、水溶媒系であって、シリカ系のものを用いること、そして、溶離液として水溶媒系の液を用いることが自明なこととして導き出されるものである。
この場合、より詳細な測定条件については、測定する試料の分子量の大きさ(排除限界)、同試料のカラム充填材への吸着性、同試料の加水分解性、等が考慮されて自ずと定まってくるものである。
そうすると、本件明細書の特許請求の範囲の請求項1及び2に規定される重合体の、ゲルパーミエーションクロマトグラフィーによる測定の測定方法については、当業者は、自明なものとして特定できるものであり、したがって、本件発明1及び2、並びに本件発明1及び2を引用する本件発明3〜5及び10につき、本件明細書には、その実施をすることができる程度に明確かつ十分に発明が記載されていないとはいえない。また、このようにその測定方法が特定されるものであるから、引用例2、5、7及び証明書における指摘とはかかわりなく、ゲルパーミエーションクロマトグラフィーにより規定される特定事項が明確という外はないものであり、したがって、本件発明1及び2、並びに、本件発明1及び2を引用する本件発明3〜5及び10の発明は不明確なものであるとまでいうことはできない。
よって、本件出願は、本件発明1〜5及び10につき、特許法第36条第4項及び第6項に規定する要件を満たしていないとする特許異議申立人の上記主張は、採用できない。

VI-1-2.上記(2)について
本件明細書の特許請求の範囲の請求項4及び5の記載については、上記訂正請求により、訂正されたものである。
これによれば、吸着率を測定する場合の条件として、「水/セメント比が10%となるように水を加える」との条件が付加されたものであり、その結果、吸着率の測定条件が一層明確になり、本件請求項4及び5係る発明については、特許法第36条第6項の規定を満たしていないとはいえない。
また、本件明細書の特許請求の範囲の請求項4及び5の記載は、セメント分散剤の特性を単に規定したに過ぎないものであり、したがって、梗概集1及び2において水/セメント比が10%のような極端に低い水/セメント比のセメント組成物が十分な流動性を示さないことが記載されるとしても、そこのことから本件の請求項4及び5に係る発明が実施できないとまでいえるものでなく、この主張も当を得ない。

VI-2.理由-1〔特許異議申立人〈宮崎幸雄〉の主張について〕
VI-2-1.本件発明1
引用例1には、セメント分散剤の主成分である共重合体〔前記(A-1)参照〕につき、前記(A-3)及び(A-4)により、
「メトキシポリエチレングリコールモノメタアクリレート133部とメタアクリル酸27部とからなるモノマー混合物を重合し、その後、中和して共重合体を得た」(参考例1)及び、「メトキシポリエチレングリコールモノメタアクリレート88部、アクリル酸64部、及びスチレン8部からなるモノマー混合物を重合し、その後、中和して共重合体を得た」(参考例6)という発明が記載されている。
そこで、本件発明1と、引用例1に記載される発明とを対比すると、次の点のみで相違し、その余の点では、両者は、異ならないものである。
相違点:
本件発明1は、「該重合体(A)の重量平均分子量が、ゲルパーミエーションクロマトグラフィーによるポリエチレングリコール換算で10,000〜500,000の範囲内にあり、かつ重量平均分子量からピークトップ分子量を差し引いた値が0〜8,000である」のに対し、引用例1に記載の発明は、分子量が具体的には示されず、したがって、当該特定事項が示されない点
この相違点に関する特許異議申立人の主張は、実験報告書1による証明事項を考慮するとき、引用例1には上記相違点に関する特定事項が実質上開示されているというものである。
そこで、実験報告書1をみると、そこには、前記(B-3)により、引用例1における参考例1のものは、共重合体のGPCによる重量平均分子量が38,000であって、重量平均分子量からピークトップ分子量を差し引いた値が5,800であり、また、同引用例の参考例6のものは、GPCによる重合体の重量平均分子量が17,900であって、重量平均分子量からピークトップ分子量を差し引いた値が3,400であることが実験により確認されたと報告されるものである。
しかし、この種の重合体につき、ピークトップ分子量を含む分子量を測定する場合には、正確を期すうえで、そのカラム充填材として、シリカ系のものを用いる必要があるということは上記VI-1-1.で説示したとおりであるが、実験報告書1では、カラムとしてShodex製OHpackSB-804HQを用いることから、その充填材としては、シリカ系を用いず、ポリマー系のポリヒドロキシメタアクリレートを採用するものである。
そのうえ、乙第3号証及び乙第4号証のチャートをみると、そのShodex製OHpackSB-804HQカラムとその充填材を用いた場合には、重合体のピークに重合開始剤分解物や残存モノマーのような夾雑物のピークが重なる結果、重合体の重量平均分子量の値に、少なからず、影響を与えることになり、この点からみても、その充填材にポリマー系を用いた場合には重量平均分子量の値や重量平均分子量からピークトップ分子量を差し引いた値が変動する虞が生ずるものである。
してみれば、実験報告書1で報告される証明内容は、カラム充填材の選定が適切ではなく、正確なものとはいえないことになる。
したがって、引用例1に記載される発明の共重合体が、「重量平均分子量が、ゲルパーミエーションクロマトグラフィーによるポリエチレングリコール換算で10,000〜500,000の範囲内にあり、かつ重量平均分子量からピークトップ分子量を差し引いた値が0〜8,000である」と断定することができない。
なお、権利者が、カラム充填材として、シリカ系のものを用いて測定した結果は、引用例1の発明における参考例1では、重合体の重量平均分子量が29,100であって、重量平均分子量からピークトップ分子量を差し引いた値が-6,700であり、また、同参考例6のものは、重合体の重量平均分子量が43,100であって、重量平均分子量からピークトップ分子量を差し引いた値が-13,600というものであり、当該差し引いた値が、何れの参考例のものも、本件発明1の当該数値範囲から大きく外れるものである。
他に、引用例1に記載の発明では、重量平均分子量からピークトップ分子量を差し引いた値につき、示唆するものはない。
したがって、本件発明1は、その重合体(A)が上記したような重量平均分子量と重量平均分子量からピークトップ分子量を差し引いた値として特定の数値を具備する点で、引用例1に記載の発明に対して別異の発明を構成する。

次に、特許異議申立人は、実験報告書1による証明内容を考慮すると、本件発明1は引用例1に記載された発明に比して顕著な効果を奏するものではなく、本件発明1は引用例1に記載された発明に基づいて容易に発明できたものである旨、主張するので、さらに検討する。
実験報告書1における重量平均分子量の数値及び重量平均分子量からピークトップ分子量を差し引いた数値は、上記したとおり、GPCの測定におけるカラム充填材の選定が適切ではなく、その値は正確なものとはいえない。そうすると、実験報告書1におけるそのような数値を基に、直ちに、本件発明1の奏する効果が顕著でないということができない。
一方、本件明細書の記載(段落0039〜0041及びその実施例と比較例の箇所)によれば、本件発明1は、セメント分散剤につき、その「重合体(A)の重量平均分子量が、ゲルパーミエーションクロマトグラフィーによるポリエチレングリコール換算で10,000〜500,000の範囲内にあり、かつ重量平均分子量からピークトップ分子量を差し引いた値が0〜8,000である」との特定事項を具備することにより、その余の特定事項と相俟って、優れたスランプ保持性を有するセメント分散剤を提供できたというものである。
これに対して、引用例1に記載の発明では、そこでの共重合体につき、重量平均分子量からピークトップ分子量を差し引いた値を0〜8,000とすることにつき示唆するものはなく、また、本件発明のような優れたスランプ保持性を実現する手段につき示唆するものもなく、したがって、本件発明1は、引用例1に記載の発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるということができない。
よって、実験報告書1が提示されるとしても、本件発明1は、引用例1に記載された発明であるということができないばかりでなく、本件発明1は、引用例1に記載された発明に基づいて当業者が当業者が容易に発明をすることができたものであるということはできない。

VI-2-2.本件発明2、3及び10
本件発明2は、本件発明1の特定事項を実質上全て具備するものであり、また、本件発明3及び10は、本件発明1及び2を直接ないしは間接的に引用するものであって、本件発明1の特徴事項を実質上全て具備するものである。したがって、上記VI-2-1.で説示した理由と同じ理由により、実験報告書1が提示されるとしても、本件発明2、3及び10は、引用例1に記載された発明であるということができないばかりでなく、引用例1に記載された発明に基づいて当業者が当業者が容易に発明をすることができたものであるということはできない。

VI-3.理由-3〔特許異議申立人〈日本製紙株式会社〉の主張について〕
VI-3-1.本件発明1〜5及び10
本件発明1と引用例3又は4に記載の発明とを対比すると、次の点でのみで相違し、その余の点では、両者は、異ならない。
相違点:
本件発明1は、「該重合体(A)の重量平均分子量が、ゲルパーミエーションクロマトグラフィーによるポリエチレングリコール換算で10,000〜500,000の範囲内にあり、かつ重量平均分子量からピークトップ分子量を差し引いた値が0〜8,000である」のに対し、引用例3及び4に記載の発明はそのことが示されない点
この相違点に関する異議申立人の主張に従い、まず、引用例5の記載をみると、そこには、前記(I-1)により、「分子量が小さくなると分散性能が劣り,逆に大きくなると凝集に働く」ということや、前記(I-2)により、「無機粉末の分散には,高分子の最適な分子量分布域が存在すること」等が記載されるが、そこでは、セメント分散剤の主成分である重合体が「重量平均分子量が、10,000〜500,000の範囲内にあり、重量平均分子量からピークトップ分子量を差し引いた値が0〜8,000」との特徴事項を具備すること、また、その場合の利点については、何も教示するものはない。
次に、異議申立人の主張に従い実験報告書2をみると、そこには、前記(H-3)により、引用例4における実施例2のものは、重合体のGPCによる重量平均分子量が20800であって、重量平均分子量からピークトップ分子量を差し引いた値が2500であり、また、同引用例の実施例7のものは、重合体の重量平均分子量が18400であって、重量平均分子量からピークトップ分子量を差し引いた値が1800であることが報告される。
しかし、この種の重合体につき、ピークトップ分子量を含む分子量を測定する場合には、上記VI-1-1.で説示したとおり、正確を期すうえで、そのカラム充填材として、シリカ系のものを用いる必要があるところ、実験報告書2では、カラムとしてOH pak SB系を用いるものであり、この充填材は、乙第2号証の2によれば、シリカ系ではなく、ポリマー系の材質からなるものである。
そして、乙第7号証及び乙第8号証のチャートをみると、そのOH pak SB系のカラムとその充填材を用いた場合には、重合体のピークに重合開始剤分解物や残存モノマーのような夾雑物のピークが重なる結果、重合体の重量平均分子量の値に、少なからず、影響を与えることになり、この点からみても、その充填材にポリマー系を用いた場合には重量平均分子量の値や重量平均分子量からピークトップ分子量を差し引いた値が変動する虞が生ずるものである。
してみれば、実験報告書2で報告される内容は、GPC測定におけるカラム充填材の選定が不適切で、正確なものといい難く、したがって、引用例4に記載される発明の重合体が、「重量平均分子量が、ゲルパーミエーションクロマトグラフィーによるポリエチレングリコール換算で10,000〜500,000の範囲内にあり、かつ重量平均分子量からピークトップ分子量を差し引いた値が0〜8,000である」と断定することができない。
なお、権利者が、カラム充填材として、シリカ系のものを用いて測定した結果は、引用例4における実施例2のものは、重合体の重量平均分子量が5,000であって、重量平均分子量からピークトップ分子量を差し引いた値が1,400であり、また、同引用例の実施例7のものは、重合体の重量平均分子量が9,400であって、重量平均分子量からピークトップ分子量を差し引いた値が1,300というものであり、当該重量平均分子量の値につき、何れの実施例のものも、本件発明1の当該数値範囲から外れるものである。
なお、この外、別件異議申立理由補充書には他の事件における本件権利者の主張が記載されているだけである。
したがって、本件発明1は、その重合体(A)が、「重量平均分子量が、ゲルパーミエーションクロマトグラフィーによるポリエチレングリコール換算で10,000〜500,000の範囲内にあり、かつ重量平均分子量からピークトップ分子量を差し引いた値が0〜8,000である」という点で、引用例3又は4に記載の発明に対して別異の発明を構成する。
よって、本件発明1は、引用例3又は4に記載された発明であるということができない。
また、本件発明2は、本件発明1の特定事項を実質上全て具備するものであり、また、本件発明3〜5及び10は、本件発明1及び2を直接ないしは間接的に引用するものであって、本件発明1の特徴事項を実質上全て具備するものである。したがって、上記した理由と同じ理由により、本件発明2〜5及び10は、引用例3又は4に記載された発明であるということができない。
VI-3-2.本件発明6及び8
引用例3にはセメント分散剤に関する発明が記載され、その参考例5では、前記(E-9)により、該セメント分散剤の重合方法が具体的に記載される。
そこで、本件発明6と上記引用例3に記載される発明とを対比する。
引用例3の参考例5の重合方法における単量体成分及びその配合比率は本件発明6のものに含まれ、また、その参考例5の重合方法における単量体の使用量及び中和率は、いずれも、本件発明6の同10〜28重量%及び同0〜20モル%の範囲に含まれる。更に、その参考例5の重合方法では、本件発明6と同じように水を含む反応容器中に単量体混合物を添加するものであり、その添加方法も、120分で添加するものであるから、滴下であると推認される。
そして、引用例3の参考例5に記載される重合方法は、その重合条件からみて溶液重合の形態で重合が行われているといえる。
よって、両者は、
「(アルコキシ)ポリアルキレングリコールモノ(メタ)アクリル酸エステル系単量体(a)5〜98重量%、(メタ)アクリル酸系単量体(b)95〜2重量%、およびこれらの単量体と共重合可能な他の単量体(c)0〜50重量%(但し、(a)、(b)および(c)の合計は100重量%)からなる単量体混合物(I)の使用量が使用する原料の全量に対して10〜28重量%の範囲内であり、さらに単量体混合物(I)の中和率が0〜20モル%の範囲内である条件下で該単量体混合物(I)を水を含む反応容器に滴下することにより溶液重合反応を行なう、セメント分散剤の製造方法」である点で、軌を一にする。
しかし、本件発明6では、「重合を単量体混合物(I)の曇点以下の温度で行なう」とするのに対して、上記引用例3に記載のものでは、沸点に温度を保持して重合を行うものであり、温度条件として曇点以下を選択することが示されない点で、両者は相違する。そして、この相違点に関する特定事項が自明のこととして導き出せるものではない。
なお、引用例3のその他の参考例のものにおいても、少なくとも、上記曇点に関する特定事項は具備しない。
よって、本件発明6は、「重合を単量体混合物(I)の曇点以下の温度で行なう」との特定事項を具備する点で、引用例3に記載の発明に対して別異の発明を構成する。
次に、上記相違点に関する特定事項が容易に想到できるか否かにつき検討する。
本件明細書の記載(段落0041、0065、及び実施例と比較例の箇所)によれば、本件発明6は、(アルコキシ)ポリアルキレングリコールモノ(メタ)アクリル酸エステル系単量体を重合して得られるセメント分散剤の製造方法において、単量体混合物(I)の使用量が使用する原料の全量に対して10〜28重量%の範囲内であって、単量体混合物(I)の中和率が0〜20モル%の範囲内である条件下に、「重合を単量体混合物(I)の曇点以下の温度で行なう」ことにより、その余の特定事項と相俟って、優れたスランプ保持性を有するセメント分散剤を提供できたというものである。
一方、引用例3には、他に、前記(E-2)により、「重合温度は、用いられる溶媒や重合開始剤により適宜定められるが、通常0〜120℃の範囲内で行なわれる」との記載があるが、そこでは、重合温度の一般的範囲が示されるだけであり、曇点以下の温度で重合することにつき具体的に示唆するものはない。
そればかりか、引用例3に記載の発明においては、「重合を単量体混合物(I)の曇点以下の温度で行なう」という場合の利点、すなわち、本件発明6が奏するような優れたスランプ保持性を示すセメント分散剤を提供できることにつき示唆するものは何もない。
この外、引用例4及び6の記載をみても、そこには、曇点以下の温度で重合することはもとより、「重合を単量体混合物(I)の曇点以下の温度で行なう」ことにより、優れたスランプ保持性を有するセメント分散剤を提供できることにつき示唆するものは何もない。
してみれば、本件発明6は、引用例3に記載された発明であるということができないばかりか、引用例3、4及び6に記載された発明に基づいて容易に発明をすることができない。
また、本件発明8は本件発明6の特定事項を実質上全て具備するものであり、したがって、上記する理由と同じ理由により、本件発明8は、引用例3に記載された発明であるということができないばかりか、引用例3、4及び6に記載された発明に基づいて容易に発明をすることができない。

VI-3-3.本件発明7及び9
引用例3にはセメント分散剤に関する発明が記載され、その参考例3及び5は、前記(E-7)及び(E-9)により、該セメント分散剤の重合方法が具体的に記載される。
そこで、本件発明7と上記引用例3に記載される発明とを対比する。
引用例3の参考例3及び5の重合方法における単量体成分及びその配合比率は本件発明7のものに含まれ、また、その参考例3及び5の重合方法における単量体の中和率は、本件発明7の0〜20モル%の範囲に含まれる。
そして、引用例3の参考例3及び5に記載される重合方法は、その重合条件からみて溶液重合の形態で重合が行われているといえる。
よって、両者は、
「(アルコキシ)ポリアルキレングリコールモノ(メタ)アクリル酸エステル系単量体(a)5〜98重量%、(メタ)アクリル酸系単量体(b)95〜2重量%、およびこれらの単量体と共重合可能な他の単量体(c)0〜50重量%(但し、(a)、(b)および(c)の合計は100重量%)からなる単量体混合物(I)の中和率が0〜20モル%の範囲内である、溶液重合反応を行なうセメント分散剤の製造方法」である点で軌を一にする。
しかし、本件発明7は、該溶液重合反応が、「該単量体混合物(I)を重合反応前に連鎖移動剤と混合する条件下で該単量体混合物(I)及び該連鎖移動剤を水を含む反応容器に滴下する」ことにより実施されるのに対し、引用例3に記載の発明では、単量体混合物を、水を含む反応容器中に120分で添加するというものであるから、その添加方法は滴下であると推認されるが、連鎖移動剤の使用につき示されず、したがって、単量体混合物を重合反応前に連鎖移動剤と混合すること、及び、単量体混合物及び該連鎖移動剤を滴下することが示されず、この点で、両者は相違する。
以下、上記相違点に関する特定事項が容易に想到できるか否かにつき検討する。
本件明細書の記載(段落0041、0065、及び実施例と比較例の箇所)によれば、本件発明7は、(アルコキシ)ポリアルキレングリコールモノ(メタ)アクリル酸エステル系単量体を重合して得られるセメント分散剤の製造方法において、単量体混合物(I)の中和率が0〜20モル%の範囲内である条件下に、「単量体混合物(I)を重合反応前に連鎖移動剤と混合する条件下で該単量体混合物(I)及び該連鎖移動剤を水を含む反応容器に滴下する」ことにより、その余の特徴事項と相俟って、優れたスランプ保持性を有するセメント分散剤を提供できたというものである。
一方、引用例3に記載の発明では、連鎖移動剤を用いた場合の利点、すなわち、本件発明7で奏するような優れたスランプ保持性を示すセメント分散剤を提供できることにつき示唆するものは何もない。
次に、引用例4及び6の記載をみる。
引用例4では、前記(F-1)により、セメント分散剤を製造する場合、水溶性ビニル共重合体を水溶液重合で製造すると過大な分子量のものができ易いので連鎖移動剤を用いることが示され、また、引用例6では、前記(L-2)により、重合体の分子量の調節は連鎖移動剤添加系で溶液重合を行うことにより達成されることが示され、このように引用例4及び6では連鎖移動剤を用いることが示されるものの、本件発明7のように、単量体混合物を重合反応前に連鎖移動剤と混合すること、及び、単量体混合物及び該連鎖移動剤を滴下することについて教示するものは何もない。
そうすると、引用例4及び6に記載のものからは、上記相違点に関する特定事項が示唆されないものである。
そして、本件発明7では、連鎖移動剤をそのような条件下で用いることにより、顕著な効果を奏したものであり、このことは、上記したとおりである。
したがって、本件発明7は、引用例3、4及び6に記載の発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるということができない。
また、本件発明9は本件発明7の特定事項を実質上全て具備するものであり、したがって、上記する理由と同じ理由により、本件発明9は引用例3、4及び6に記載された発明に基づいて容易に発明をすることができない。

VI-4.理由-4〔特許異議申立人〈日本製紙株式会社〉の主張について〕
先願明細書には、前記(J-1)及び(J-3)により、
「ジヒドロキシジフェニルメタンのOH基のオルト位のうちの2つをアリル置換した化合物4重量部、メタクリル酸24部、及びメトキシポリオキシエチレンメタクリレート(EO鎖長=9)72部のモノマーを共重合して得られた重合物を有効成分とするセメント分散剤」(実施例27)、及び、
「ジヒドロキシジフェニルメタンのOH基のオルト位のうちの2つをアリル置換した化合物4重量部、メタクリル酸24部、及びメトキシポリオキシエチレンメタクリレート(EO鎖長=9)72部のモノマーを共重合して得られた重合物を有効成分とするセメント分散剤」(実施例28)である発明が記載されている。
そこで、本件発明1と先願明細書に記載される発明(実施例27、28)とを対比する。
先願明細書に記載される発明のメトキシポリオキシエチレンメタクリレート、メタクリル酸、及び、ジヒドロキシジフェニルメタンのOH基のオルト位のうちの2つをアリル置換した化合物は、それぞれ、本件発明1の単量体(a)、単量体(b)、及び、単量体(c)に相当し、また、その配合割合も、本件発明1の数値の範囲に含まれる。
よって、両者は、
「(アルコキシ)ポリアルキレングリコールモノ(メタ)アクリル酸エステル系単量体(a)5〜98重量%、(メタ)アクリル酸系単量体(b)95〜2重量%、およびこれらの単量体と共重合可能な他の単量体(c)0〜50重量%(但し、(a)、(b)および(c)の合計は100重量%)を共重合して得られるポリカルボン酸系重合体(A)またはその塩を主成分とするセメント分散剤」である点で共通し、以下の点でのみ、相違する。
(相違点)
本件発明1は、「重合体(A)の重量平均分子量が、ゲルパーミエーションクロマトグラフィーによるポリエチレングリコール換算で10,000〜500,000の範囲内にあり、かつ重量平均分子量からピークトップ分子量を差し引いた値が0〜8,000である」のに対し、先願明細書に記載される発明では、それら分子量が具体的に示されない点
この点に関する特許異議申立人の主張は、実験報告書3の記載によれば、先願発明は本件発明の要件を全て満たすというものである。
実験報告書3には、確かに、先願発明の実施例27の重合体は、その重量平均分子量が22600であって、重量平均分子量からピークトップ分子量を差し引いた値が4400であり、また、先願発明の実施例28の重合体は、その重量平均分子量が25900であって、重量平均分子量からピークトップ分子量を差し引いた値が6400であることが報告される。
しかし、この種の重合体につき、ピークトップ分子量を含む分子量を測定する場合には、上記VI-1-1.で説示したとおり、正確を期すうえで、そのカラム充填材として、シリカ系のものを用いる必要があるところ、実験報告書3では、カラムとしてOH pak SB系を用いるものであり、この充填材は、乙第2号証の2によれば、シリカ系ではなく、ポリマー系の材質からなるものである。
そして、乙第7号証及び乙第8号証のチャートをみると、そのOH pak SB系のカラムとその充填材を用いた場合には、重合体のピークに重合開始剤分解物や残存モノマーのような夾雑物のピークが重なる結果、重合体の重量平均分子量の値に、少なからず、影響を与えることになり、この点からみても、その充填材にポリマー系を用いた場合には重量平均分子量の値や重量平均分子量からピークトップ分子量を差し引いた値が変動する虞が生ずるものである。
してみれば、実験報告書3で報告される内容は、カラム充填材の選定が不適切で、正確なものといい難く、したがって、先願明細書に記載される発明の重合体が、「重量平均分子量が、ゲルパーミエーションクロマトグラフィーによるポリエチレングリコール換算で10,000〜500,000の範囲内にあり、かつ重量平均分子量からピークトップ分子量を差し引いた値が0〜8,000である」と断定することができない。
なお、権利者がカラム充填材としてシリカ系のものを用いて測定した結果は、先願明細書における実施例27のものは、重合体の重量平均分子量が9,300であって、重量平均分子量からピークトップ分子量を差し引いた値が1,700であり、また、先願明細書における実施例28のものは、重合体の重量平均分子量が8,400であって、重量平均分子量からピークトップ分子量を差し引いた値が2,100というものであり、当該重量平均分子量の値につき、何れの実施例のものも、本件発明1の当該数値範囲から外れるものである。
したがって、本件発明1は、「重合体(A)の重量平均分子量が、ゲルパーミエーションクロマトグラフィーによるポリエチレングリコール換算で10,000〜500,000の範囲内にあり、かつ重量平均分子量からピークトップ分子量を差し引いた値が0〜8,000である」という特定事項を具備する点で、先願発明に対して別異の発明を構成する。
よって、本件発明1は、先願明細書に記載された発明と同一であるということができない。
また、本件発明2は、本件発明1の特定事項を実質上全て具備するものであり、また、本件発明3及び10は、本件発明1及び2を引用するものであって、本件発明1の特徴事項を実質上全て具備するものである。したがって、上記した理由と同じ理由により、本件発明2、3及び10は、先願明細書に記載された発明と同一であるということができない。

VII. まとめ
特許異議申立の理由及び証拠によっては、訂正後の本件請求項1〜10に係る発明の特許を取り消すことができない。
また、他に訂正後の本件請求項1〜10に係る発明の特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
セメント分散剤およびその製造方法ならびにそれを用いたセメント組成物
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】 (アルコキシ)ポリアルキレングリコールモノ(メタ)アクリル酸エステル系単量体(a)5〜98重量%、(メタ)アクリル酸系単量体(b)95〜2重量%、およびこれらの単量体と共重合可能な他の単量体(c)0〜50重量%(但し、(a)、(b)および(c)の合計は100重量%)を共重合して得られるポリカルボン酸系重合体(A)またはその塩を主成分とするセメント分散剤であって、該重合体(A)の重量平均分子量が、ゲルパーミエーションクロマトグラフィーによるポリエチレングリコール換算で10,000〜500,000の範囲内にあり、かつ重量平均分子量からピークトップ分子量を差し引いた値が0〜8,000であることを特徴とするセメント分散剤。
【請求項2】 下記一般式(1):
【化1】

(ただし、式中R1は水素もしくはメチル基を表わし、R2Oは炭素数2〜4のオキシアルキレン基の1種または2種以上の混合物を表わし、2種以上の場合はブロック状に付加していてもランダム状に付加していてもよく、R3は水素または炭素数1〜5のアルキル基を表わし、mはオキシアルキレン基の平均付加モル数を示す値であり1〜100の整数を表わす。)で示される(アルコキシ)ポリアルキレングリコールモノ(メタ)アクリル酸エステル系単量体(a)5〜98重量%、下記一般式(2):
【化2】

(ただし、式中、R4は水素もしくはメチル基を表わし、M1は水素、一価金属、二価金属、アンモニウム基または有機アミン基を表わす。)で示される(メタ)アクリル酸系単量体(b)95〜2重量%、およびこれらの単量体と共重合可能な他の単量体(c)0〜50重量%(但し、(a)、(b)および(c)の合計は100重量%)を共重合して得られるポリカルボン酸系重合体(A)またはその塩を主成分とするセメント分散剤であって、該重合体(A)の重量平均分子量が、ゲルパーミエーションクロマトグラフィーによるポリエチレングリコール換算で10,000〜500,000の範囲内にあり、かつ重量平均分子量からピークトップ分子量を差し引いた値が0〜8,000であることを特徴とするセメント分散剤。
【請求項3】 該(アルコキシ)ポリアルキレングリコールモノ(メタ)アクリル酸エステル系単量体(a)が(メトキシ)ポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレートであり、該(メタ)アクリル酸系単量体(b)が(メタ)アクリル酸である請求項1または2記載のセメント分散剤。
【請求項4】 該重合体(A)のセメント粒子への吸着率が、セメントに対して0.2重量%添加し、これに水/セメント比(重量比)が10%となるように水を加えたセメント組成物において、室温下5分間で60%未満であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載のセメント分散剤。
【請求項5】 該重合体(A)のセメント粒子への吸着率が、セメントに対して0.2重量%添加し、これに水/セメント比(重量比)が10%となるように水を加えたセメント組成物において、室温下5分間で60%以上であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載のセメント分散剤。
【請求項6】 (アルコキシ)ポリアルキレングリコールモノ(メタ)アクリル酸エステル系単量体(a)5〜98重量%、(メタ)アクリル酸系単量体(b)95〜2重量%、およびこれらの単量体と共重合可能な他の単量体(c)0〜50重量%(但し、(a)、(b)および(c)の合計は100重量%)からなる単量体混合物(I)の使用量が使用する原料の全量に対して10〜28重量%の範囲内であり、重合を単量体混合物(I)の曇点以下の温度で行ない、さらに単量体混合物(I)の中和率が0〜20モル%の範囲内である条件下で該単量体混合物(I)を水を含む反応容器に滴下することにより溶液重合反応を行なうことを特徴とするセメント分散剤の製造方法。
【請求項7】 (アルコキシ)ポリアルキレングリコールモノ(メタ)アクリル酸エステル系単量体(a)5〜98重量%、(メタ)アクリル酸系単量体(b)95〜2重量%、およびこれらの単量体と共重合可能な他の単量体(c)0〜50重量%(但し、(a)、(b)および(c)の合計は100重量%)からなる単量体混合物(I)の中和率が0〜20モル%の範囲内であり、かつ該単量体混合物(I)を重合反応前に連鎖移動剤と混合する条件下で該単量体混合物(I)及び該連鎖移動剤を水を含む反応容器に滴下することにより溶液重合反応を行なうことを特徴とするセメント分散剤の製造方法。
【請求項8】 下記一般式(1):
【化3】

(ただし、式中R1は水素もしくはメチル基を表わし、R2Oは炭素数2〜4のオキシアルキレン基の1種または2種以上の混合物を表わし、2種以上の場合はブロック状に付加していてもランダム状に付加していてもよく、R3は水素または炭素数1〜5のアルキル基を表わし、mはオキシアルキレン基の平均付加モル数を示す値であり1〜100の整数を表わす。)で示される(アルコキシ)ポリアルキレングリコールモノ(メタ)アクリル酸エステル系単量体(a)5〜98重量%、下記一般式(2):
【化4】

(ただし、式中、R4は水素もしくはメチル基を表わし、M1は水素、一価金属、二価金属、アンモニウム基または有機アミン基を表わす。)で示される(メタ)アクリル酸系単量体(b)95〜2重量%、およびこれらの単量体と共重合可能な他の単量体(c)0〜50重量%(但し、(a)、(b)および(c)の合計は100重量%)からなる単量体混合物(I)の使用量が使用する原料の全量に対して10〜28重量%の範囲内であり、重合を単量体混合物(I)の曇点以下の温度で行ない、さらに単量体混合物(I)の中和率が0〜20モル%の範囲内である条件下で該単量体混合物(I)を水を含む反応容器に滴下することにより溶液重合反応を行なうことを特徴とするセメント分散剤の製造方法。
【請求項9】 下記一般式(1):
【化5】

(ただし、式中R1は水素もしくはメチル基を表わし、R2Oは炭素数2〜4のオキシアルキレン基の1種または2種以上の混合物を表わし、2種以上の場合はブロック状に付加していてもランダム状に付加していてもよく、R3は水素または炭素数1〜5のアルキル基を表わし、mはオキシアルキレン基の平均付加モル数を示す値であり1〜100の整数を表わす。)で示される(アルコキシ)ポリアルキレングリコールモノ(メタ)アクリル酸エステル系単量体(a)5〜98重量%、下記一般式(2):
【化6】

(ただし、式中、R4は水素もしくはメチル基を表わし、M1は水素、一価金属、二価金属、アンモニウム基または有機アミン基を表わす。)で示される(メタ)アクリル酸系単量体(b)95〜2重量%、およびこれらの単量体と共重合可能な他の単量体(c)0〜50重量%(但し、(a)、(b)および(c)の合計は100重量%)からなる単量体混合物(I)の中和率が0〜20モル%の範囲内であり、かつ該単量体混合物(I)を重合反応前に連鎖移動剤と混合する条件下で該単量体混合物(I)及び該連鎖移動剤を水を含む反応容器に滴下することにより溶液重合反応を行なうことを特徴とするセメント分散剤の製造方法。
【請求項10】 少なくともセメント、水およびセメント分散剤を含有するセメント組成物であって、請求項1または2記載のセメント分散剤を含有してなるセメント組成物。
【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】
本発明は、セメント分散剤およびその製造方法ならびにそれを用いたセメント組成物に関する。さらに詳しくは、セメント粒子の分散性を向上させてセメント組成物の流動性を高め、しかも得られた流動性の経時的な低下を防止し、かつ適切な空気量を連行させてセメント組成物に良好な作業性を与え、高い強度を有するコンクリートを形成させるセメント分散剤およびその製造方法ならびにそれを用いたセメント組成物に関する。
【0002】
【従来の技術】
1981年にコンクリート構造物の早期劣化が社会問題化して以来、コンクリート中の単位水量を減らしてその施工性と耐久性を向上させることが強く求められてきたなかで、セメント組成物の品質及び性能に多大なる影響を与えるセメント分散剤に対する技術革新が盛んに行われている。
【0003】
しかるに、セメント組成物は、セメントと水との水和反応などにより、配合後の時間の経過とともにコンシステンシーが低下し、作業性の低下をきたす。この現象は、コンクリートでは一般にスランプロスと呼ばれており、セメント組成物の単位水量の低い、即ち昨今求められる高減水率のセメント組成物ほどスランプロスが大きくなる。このようなスランプロスは、生コンクリートにおいて、運搬時間の制限、打設現場での待機時間等による品質変化及び施工性不良、コールドジョイント等による耐久性低下などの障害を起こす要因となっている。また、コンクリート二次製品の製造工場などにおいては、セメント組成物のポンプ圧送を一時中断した後、圧送を再開した時に、圧送圧が急激に増加したり、ポンプが閉塞するなどの事故の原因となったり、型枠にセメント組成物を打ち込んだ後、何らかの理由で締め固めなどの成型が遅れた場合には未充填等の問題を生ずる原因となっている。従って、スランプロスは、生コンクリート工場やコンクリート二次製品の製造工場等において、セメント組成物の品質管理および施工性改善のために解決しなければならない重要な課題である。
【0004】
そこで、高い減水性を有し、スランプロスが小さくかつ生コンクリート工場でコンクリート組成物に添加可能ないわゆる高性能AE減水剤の開発が各混和剤メーカーで精力的に行われ、現在、ナフタレン系、アミノスルホン酸系およびポリカルボン酸系などの高性能AE減水剤が市販されている。ポリカルボン酸系高性能AE減水剤としては、例えば特公昭59-18338号にポリアルキレングリコールモノ(メタ)アクリル酸エステル系単量体と(メタ)アクリル酸系単量体及びこれらの単量体と共重合可能な単量体を特定の比率で導かれることによって製造された共重合体が、特開平5-238795号には不飽和結合を有するポリアルキレングリコールジエステル系単量体と解離基を有する単量体を重合して得られる共重合体が、特開平8-12396号には不飽和結合を有するポリアルキレングリコール系単量体を必須成分とする他の特定の単量体との共重合体が開示されている。これらのポリカルボン酸系高性能AE減水剤は高い減水性能とスランプ保持機能を有しているものの、それでも十二分に満足されている訳でもなく、さらなる性能の向上が求められている。一方、セメント組成物のスランプロスの防止能を改善する方法については種々提案されており、例えば特開昭54-139929号公報ではナフタレンスルホン酸ホルマリン縮合物を粒状にしてセメント組成物中で徐々に溶解させ、スランプロスを防止する方法が、特開昭60-16851号公報ではオレフィンとエチレン性不飽和ジカルボン酸無水物との共重合体の粒状物を、セメント組成物中で徐々に加水分解し溶解させてスランプロスを防止する方法が提案されているが、いずれも粒状の混和剤が溶液中に分散しているものであり、混和剤の局在化、保存安定性等に問題がある。また、特開昭63-162562号公報ではポリアクリル酸等の有機含水ゲル中にセメント分散剤を含有させ、セメント組成物中で徐々に分散剤を放出する方法が提案されているが、水に不溶なゲルを含むため、分離、沈降等の安定性に問題があった。
【0005】
また、高強度を狙って水/セメント比(重量比)を15〜40%と極端に抑えた場合には、これらの高性能AE減水剤の中でも減水性能が最も高いと云われるポリカルボン酸系の高性能AE減水剤をもってしても、セメント組成物に充分な流動性を与えることが困難であり、スランプロスも大きいため、充分な施工性も得られないといった問題点があった。
【0006】
【本発明が解決しようとする課題】
したがって、本発明の目的は、上記問題点を改善し、優れたスランプ保持性能を有するセメント分散剤およびその製造方法ならびにそれを用いたセメント組成物を提供することにある。
【0007】
本発明の他の目的は、水/セメント比(重量比)が15〜40%のセメント組成物に対しても、優れた流動性を長時間に渡って与えるセメント分散剤およびそれを含有してなるセメント組成物を提供することにある。
【0008】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、上記諸問題を解決するために鋭意検討を行なった結果、上記諸目的が、所定の範囲内の重量平均分子量及び所定の範囲内の重量平均分子量からピークトップ分子量を差し引いた値を有するポリカルボン酸系重合体(A)またはその塩を主成分とするセメント分散剤によって達成できることを発見し、この知見に基づいて本発明を完成した。
【0009】
すなわち、上記諸目的は、下記(1)から(9)のいずれかにより達成されるものである。
【0010】
(1)(アルコキシ)ポリアルキレングリコールモノ(メタ)アクリル酸エステル系単量体(a)5〜98重量%、(メタ)アクリル酸系単量体(b)95〜2重量%、およびこれらの単量体と共重合可能な他の単量体(c)0〜50重量%(但し、(a)、(b)および(c)の合計は100重量%)を共重合して得られるポリカルボン酸系重合体(A)またはその塩を主成分とするセメント分散剤であって、該重合体(A)の重量平均分子量が、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(以下「GPC」と呼ぶ)によるポリエチレングリコール換算で10,000〜500,000の範囲内にあり、かつ重量平均分子量からピークトップ分子量を差し引いた値が0〜8,000であることを特徴とするセメント分散剤。なお、本発明において使用される「ピークトップ分子量」とは、GPCチャートにおける試験ポリマーについてプロットされたカーブの中で最も高い位置に相当する分子量を表わす。
【0011】
(2)下記一般式(1):
【0012】
【化7】

【0013】
(ただし、式中R1は水素もしくはメチル基を表わし、R2Oは炭素数2〜4のオキシアルキレン基の1種または2種以上の混合物を表わし、2種以上の場合はブロック状に付加していてもランダム状に付加していてもよく、R3は水素または炭素数1〜5のアルキル基を表わし、mはオキシアルキレン基の平均付加モル数を示す値であり1〜100の整数を表わす。)で示される(アルコキシ)ポリアルキレングリコールモノ(メタ)アクリル酸エステル系単量体(a)5〜98重量%、下記一般式(2):
【0014】
【化8】

【0015】
(ただし、式中、R4は水素もしくはメチル基を表わし、M1は水素、一価金属、二価金属、アンモニウム基または有機アミン基を表わす。)で示される(メタ)アクリル酸系単量体(b)95〜2重量%、およびこれらの単量体と共重合可能な他の単量体(c)0〜50重量%(但し、(a)、(b)および(c)の合計は100重量%)を共重合して得られるポリカルボン酸系重合体(A)またはその塩を主成分とするセメント分散剤であって、該重合体(A)の重量平均分子量が、ゲルパーミエーションクロマトグラフィーによるポリエチレングリコール換算で10,000〜500,000の範囲内にあり、かつ重量平均分子量からピークトップ分子量を差し引いた値が0〜8,000であることを特徴とするセメント分散剤。
【0016】
(3)(アルコキシ)ポリアルキレングリコールモノ(メタ)アクリル酸エステル系単量体(a)が(メトキシ)ポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレートであり、(メタ)アクリル酸系単量体(b)が(メタ)アクリル酸である前記(1)または(2)記載のセメント分散剤。
【0017】
(4)該重合体(A)のセメント粒子への吸着率が、セメントに対して0.2重量%添加したときに、室温下5分間で60%未満であることを特徴とする前記(1)〜(3)のいずれかに記載のセメント分散剤。
【0018】
(5)該重合体(A)のセメント粒子への吸着率が、セメントに対して0.2重量%添加したときに、室温下5分間で60%以上であることを特徴とする前記(1)〜(3)のいずれかに記載のセメント分散剤。
【0019】
(6)(アルコキシ)ポリアルキレングリコールモノ(メタ)アクリル酸エステル系単量体(a)5〜98重量%、(メタ)アクリル酸系単量体(b)95〜2重量%、およびこれらの単量体と共重合可能な他の単量体(c)0〜50重量%(但し、(a)、(b)および(c)の合計は100重量%)からなる単量体混合物(I)の使用量が使用する原料の全量に対して10〜28重量%の範囲内であり、重合を単量体混合物(I)の曇点以下の温度で行ない、さらに単量体混合物(I)の中和率が0〜20モル%の範囲内である条件下で該単量体混合物(I)を水を含む反応容器に滴下することにより溶液重合反応を行なうことを特徴とするセメント分散剤の製造方法。
【0020】
(7)(アルコキシ)ポリアルキレングリコールモノ(メタ)アクリル酸エステル系単量体(a)5〜98重量%、(メタ)アクリル酸系単量体(b)95〜2重量%、およびこれらの単量体と共重合可能な他の単量体(c)0〜50重量%(但し、(a)、(b)および(c)の合計は100重量%)からなる単量体混合物(I)の中和率が0〜20モル%の範囲内であり、かつ該単量体混合物(I)を重合反応前に連鎖移動剤と混合する条件下で該単量体混合物(I)及び該連鎖移動剤を水を含む反応容器に滴下することにより溶液重合反応を行なうことを特徴とするセメント分散剤の製造方法。
【0021】
(8)下記一般式(1):
【0022】
【化9】

【0023】
(ただし、式中R1は水素もしくはメチル基を表わし、R2Oは炭素数2〜4のオキシアルキレン基の1種または2種以上の混合物を表わし、2種以上の場合はブロック状に付加していてもランダム状に付加していてもよく、R3は水素または炭素数1〜5のアルキル基を表わし、mはオキシアルキレン基の平均付加モル数を示す値であり1〜100の整数を表わす。)で示される(アルコキシ)ポリアルキレングリコールモノ(メタ)アクリル酸エステル系単量体(a)5〜98重量%、下記一般式(2)
【0024】
【化10】

【0025】
(ただし、式中、R4は水素もしくはメチル基を表わし、M1は水素、一価金属、二価金属、アンモニウム基または有機アミン基を表わす。)で示される(メタ)アクリル酸系単量体(b)95〜2重量%、およびこれらの単量体と共重合可能な他の単量体(c)0〜50重量%(但し、(a)、(b)および(c)の合計は100重量%)からなる単量体混合物(I)の使用量が使用する原料の全量に対して10〜28重量%の範囲内であり、重合を単量体混合物(I)の曇点以下の温度で行ない、さらに単量体混合物(I)の中和率が0〜20モル%の範囲内である条件下で該単量体混合物(I)を水を含む反応容器に滴下することにより溶液重合反応を行なうことを特徴とするセメント分散剤の製造方法。
【0026】
(9)下記一般式(1):
【0027】
【化7】

【0028】
(ただし、式中R1は水素もしくはメチル基を表わし、R2Oは炭素数2〜4のオキシアルキレン基の1種または2種以上の混合物を表わし、2種以上の場合はブロック状に付加していてもランダム状に付加していてもよく、R3は水素または炭素数1〜5のアルキル基を表わし、mはオキシアルキレン基の平均付加モル数を示す値であり1〜100の整数を表わす。)で示される(アルコキシ)ポリアルキレングリコールモノ(メタ)アクリル酸エステル系単量体(a)5〜98重量%、下記一般式(2):
【0029】
【化8】

【0030】
(ただし、式中、R4は水素もしくはメチル基を表わし、M1は水素、一価金属、二価金属、アンモニウム基または有機アミン基を表わす。)で示される(メタ)アクリル酸系単量体(b)95〜2重量%、およびこれらの単量体と共重合可能な他の単量体(c)0〜50重量%(但し、(a)、(b)および(c)の合計は100重量%)からなる単量体混合物(I)の中和率が0〜20モル%の範囲内であり、かつ該単量体混合物(I)を重合反応前に連鎖移動剤と混合する条件下で該単量体混合物(I)及び該連鎖移動剤を水を含む反応容器に滴下することにより溶液重合反応を行なうことを特徴とするセメント分散剤の製造方法。
【0031】
(10)少なくともセメント、水およびセメント分散剤を含有するセメント組成物であって、前記(1)または(2)記載のセメント分散剤を含有してなるセメント組成物。
【0032】
【作用】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0033】
本発明のセメント分散剤の主成分として用いられるポリカルボン酸系重合体(A)とは、必須成分として不飽和カルボン酸系単量体を含む単量体混合物(I)を重合して得られる重合体の総称であるが、特に単量体混合物(I)が、下記一般式(1):
【0034】
【化9】

【0035】
(ただし、式中R1は水素もしくはメチル基を表わし、R2Oは炭素数2〜4のオキシアルキレン基の1種または2種以上の混合物を表わし、2種以上の場合はブロック状に付加していてもランダム状に付加していてもよく、R3は水素または炭素数1〜5のアルキル基を表わし、mはオキシアルキレン基の平均付加モル数を示す値であり1〜100の整数を表わす。)で示される(アルコキシ)ポリアルキレングリコールモノ(メタ)アクリル酸エステル系単量体(a)5〜98重量%、下記一般式(2):
【0036】
【化10】

【0037】
(ただし、式中、R4は水素もしくはメチル基を表わし、M1は水素、一価金属、二価金属、アンモニウム基または有機アミン基を表わす。)で示される(メタ)アクリル酸系単量体(b)95〜2重量%、およびこれらの単量体と共重合可能な他の単量体(c)0〜50重量%(但し、(a)、(b)および(c)の合計は100重量%である。)からなるのが好ましい。
【0038】
上記単量体(a)の例としては、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ポリブチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールポリプロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールポリブチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールポリブチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールポリプロピレングリコールポリブチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、メトキシポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、メトキシポリプロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート、メトキシポリブチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、メトキシポリエチレングリコールポリプロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート、メトキシポリエチレングリコールポリブチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、メトキシポリプロピレングリコールポリブチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、メトキシポリエチレングリコールポリプロピレングリコールポリブチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、エトキシポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、エトキシポリプロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート、エトキシポリブチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、エトキシポリエチレングリコールポリプロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート、エトキシポリエチレングリコールポリブチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、エトキシポリプロピレングリコールポリブチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、およびエトキシポリエチレングリコールポリプロピレングリコールポリブチレングリコールモノ(メタ)アクリレート等を挙げることができ、これらの1種または2種以上を用いることができる。
【0039】
以下の説明によって制限されないが、本発明のセメント分散剤は、セメントに吸着後、単量体(a)が有するポリアルキレングリコール鎖の親水性と立体反発により強力なセメント分散効果を発揮するものであると考えられる。その観点からは、ポリアルキレングリコール鎖には親水性の高いオキシエチレン基を多く導入することが好ましく、メトキシポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレートを単量体(a)に用いるのが特に好ましい。また、オキシエチレン基の平均付加モル数は、1〜100が好ましく、その中でも高い親水性と立体反発を得るためには、オキシエチレン基の平均付加モル数が5〜100モルであることが最も好ましい。
【0040】
上記単量体(b)の例としては、アクリル酸、メタクリル酸ならびにそれらの一価金属塩、二価金属塩、アンモニウム塩および有機アミン塩を挙げることができ、これらの1種または2種以上を用いることができる。
【0041】
上記単量体(c)の例としては、炭素数1〜20個の脂肪族アルコールと(メタ)アクリル酸とのエステル;マレイン酸、フマル酸、シトラコン酸などの不飽和ジカルボン酸ならびにそれらの一価金属塩、二価金属塩、アンモニウム塩および有機アミン塩;マレイン酸、フマル酸、シトラコン酸などの不飽和ジカルボン酸と炭素数1〜20個の脂肪族アルコールまたは炭素数2〜4のグリコールもしくはこれらのグリコールの付加モル数2〜100の(アルコキシ)ポリアルキレングリコールとのモノエステルあるいはジエステル;(メタ)アクリルアミド、(メタ)アクリルアルキルアミドなどの不飽和アミド類;酢酸ビニル、プロピオン酸ビニルなどのビニルエステル類;スチレンなどの芳香族ビニル類;(メタ)アリルスルホン酸、スルホエチル(メタ)アクリレート、2-メチルプロパンスルホン酸(メタ)アクリルアミド、スチレンスルホン酸などの不飽和スルホン酸類ならびにそれらの一価金属塩、二価金属塩、アンモニウム塩および有機アミン塩などを挙げることができ、これらの1種または2種以上を用いることができる。
【0042】
単量体(a)、単量体(b)および単量体(c)を用いる比率は、単量体(a)が5〜98重量%、好ましくは25〜96重量%、より好ましくは40〜94重量%であり、単量体(b)が95〜2重量%、好ましくは75〜4重量%、より好ましくは60〜6重量%であり、単量体(c)が0〜50重量%、好ましくは0〜30重量%、より好ましくは0〜10重量%である。
【0043】
ポリカルボン酸系重合体(A)の重量平均分子量は、GPCによるポリエチレングリコール換算で10,000〜500,000、好ましくは10,000〜100,000の範囲にある。また、該重合体(A)の重量平均分子量からピークトップ分子量を差し引いた値は、0〜8,000であることが必要であり、好ましくは0〜7,000である。
【0044】
重量平均分子量が10,000未満もしくは500,000を超える分子量では、得られたセメント分散剤の減水性能が低下するため好ましくなく、重量平均分子量からピークトップ分子量を差し引いた値が8,000を越える場合には、得られたセメント分散剤のスランプ保持性能が低下するために好ましくない。
【0045】
本発明のセメント分散剤は、上述のような特定の重量平均分子量を有し、かつ重量平均分子量からピークトップ分子量を差し引いた値が特定の値を有するポリカルボン酸系重合体(A)を主成分とするセメント分散剤である。
【0046】
一般に、セメント分散剤に用いられるポリマーのセメント分散性能は分子量と相関があり、重量平均分子量(Mw)には最適な範囲があることが知られている。しかしながら、得られるポリマーの分子量分布を詳しく述べれば、Mwは同じであっても、ピークトップ分子量(Mp)がMwの低分子量側あるいは高分子量側に位置するような様々な分子量分布をとり得る。そして、例えば、Mwは同じであってもMpが大きく外れて低分子量側にある、すなわち、Mw-Mp>8,000であるようなポリマーは、セメント分散性能の低い高分子量重合体を多く含むため、同じフロー値を得るのにセメント分散剤の添加量が多く必要になったり、あるいはスランプ保持性能が低下することになるし、ポリマーがMw-Mp<0の分子量分布を有する場合は、低分子量重合体が多くなるので空気の量が過大になり好ましくない。このようなポリマーは、曇点を越える高い温度で単量体混合物(I)を水溶液重合させたり、連鎖移動剤を単量体混合物(I)と別々に水を含む反応容器内へ滴下して重合させたりするとできてしまう。例えば、曇点を越える高い温度で単量体混合物(I)を重合させた場合には、単量体混合物(I)が水に不溶な懸濁物と水に可溶な水溶物とに別れて不均一になり、懸濁物はその高濃度ゆえに高分子量体になってしまうためであろうし、連鎖移動剤を単量体混合物(I)と別々に水を含む反応容器内へ滴下して重合させた場合には、連鎖移動剤が水中に均一に溶解するのにやや時間がかかるため、濃度の高い連鎖移動剤液滴と接触した単量体混合物(I)は低分子量体にとどまってしまうためであろうと考えられる。
【0047】
ポリカルボン酸系重合体(A)が以下の(i)または(ii)の要件を満足する場合には、セメント分散剤としての諸性能が最も優れるのでさらに好ましい。
【0048】
(i)ポリカルボン酸系重合体(A)のセメント粒子への吸着率が、セメントに対して該重合体(A)を0.2重量%添加したときに、室温下5分間で60%未満、好ましくは50%未満である場合。
【0049】
(ii)ポリカルボン酸系重合体(A)のセメント粒子への吸着率が、セメントに対して該重合体(A)を0.2重量%添加したときに、室温下5分間で60%以上である場合。
【0050】
ここで、ポリカルボン酸系重合体(A)のセメント粒子への吸着率は、以下の方法で測定して算出するものとする。
【0051】
まず、ビーカーに使用するセメントに対して固形分換算で0.2重量%となるように該重合体(A)を入れ、さらに所定量の水を加える。同じビーカーに所定量のセメントを加えて所定時間攪拌した後、濾過を行ない濾液を採取する。得られた濾液中に残存する該重合体(A)の濃度を示差屈折計で測定する。そして、以下の式で吸着率を計算する。
【0052】
【化11】

【0053】
したがって、該重合体(A)がすべてセメント粒子に吸着して、濾液から検出されなければ吸着率は100%となる。
【0054】
該重合体(A)が(i)の要件を満足する場合には、本発明のセメント分散剤は、得られるセメント組成物の流動性を長時間にわたって維持できるし、一方、該重合体(A)が(ii)の要件を満足する場合には、本発明のセメント分散剤は、極端に低い水/セメント比のセメント組成物においても充分な流動性を確保することができる。
【0055】
そして、該重合体(A)が(ii)の要件を満足する場合には、本発明のセメント分散剤は、水/セメント比が60重量%という通常用いられる範囲でも、モルタルでの性能評価試験において、極めて少量の添加量で、モルタルフロー値100mm以上、連行空気量10%以下という好ましいモルタル性状を与えることができる。
【0056】
本発明者らは、ポリカルボン酸系セメント分散剤のセメント粒子への吸着は、分子量が高くなるほど速やかに行なわれ、高分子量体がセメント粒子に吸着した後、経時的に順次、低分子量体が吸着していくことを発見した。更に、本発明者らは、このような吸着は、セメント粒子がポリカルボン酸系セメント分散剤の水溶液と接触した直後から始まり、1時間前後あるいはそれ以上の時間で飽和吸着に達することを見出だした。
【0057】
この際、飽和吸着率は、ポリカルボン酸系セメント分散剤の種類にもよるが、およそ80%程度である。
【0058】
そして、上記(i)の要件は、ポリカルボン酸系セメント分散剤のセメント粒子への初期吸着を極力抑えて、その後の経時的な吸着を稼ぐものであり、セメント分散性能を時間と共に向上、あるいは持続させるものである。逆に、上記(ii)の要件は、ポリカルボン酸系セメント分散剤のセメント粒子への吸着を極めて短時間で終わらせて、初期のセメント分散性能を高めるものである。
【0059】
ポリカルボン酸系重合体(A)の製造方法は、上述の分子量分布が得られるならば、特に限定されず、例えば、重合開始剤を用いての溶液重合や塊状重合等の公知の重合方法が採用できる。
【0060】
溶液重合方法は、回分式でも連続式でも行うことができ、その際使用される溶媒としては、水;メチルアルコール、エチルアルコール、及びイソプロピルアルコール等のアルコール;ベンゼン、トルエン、キシレン、シクロヘキサン、及びn-ヘキサン等の芳香族あるいは脂肪族炭化水素;酢酸エチル等のエステル化合物;アセトン、及びメチルエチルケトン等のケトン化合物などが挙げられるが、原料単量体および得られる重合体(A)の溶解性から、水および炭素数1〜4の低級アルコールよりなる群から選ばれた少なくとも1種を用いることが好ましく、その中でも水を溶媒に用いることが更に好ましい。
【0061】
水溶液重合を行う場合は、重合開始剤として、アンモニアまたはアルカリ金属の過硫酸塩:過酸化水素;アゾビス-2メチルプロピオンアミジン塩酸塩等のアゾアミジン化合物などの水溶性の重合開始剤が使用され、この際、亜硫酸水素ナトリウムなどの促進剤を併用することもできる。
【0062】
また、低級アルコール、芳香族あるいは脂肪族炭化水素、エステル化合物あるいはケトン化合物を重合系の溶剤として用いる際には、ベンゾイルパーオキシドやラウロイルパーオキシドなどのパーオキシド;クメンハイドロパーオキシドなどのハイドロパーオキシド;アゾビスイソブチロニトリルなどのアゾ化合物などが重合開始剤として用いられる。この際、アミン化合物などの促進剤を併用することもできる。
【0063】
更に、水-低級アルコール混合溶剤を用いる場合には、上記の種々の重合開始剤あるいは重合開始剤と促進剤との組み合わせの中から適宜選択して用いることができる。
【0064】
塊状重合は、重合開始剤としてベンゾイルパーオキシドやラウロイルパーオキシドなどのパーオキシド;クメンハイドロパーオキシドなどのハイドロパーオキシド;アゾビスイソブチロニトリルなどのアゾ化合物などを用い、50〜200℃の温度範囲内で行われる。
【0065】
ポリカルボン酸系重合体(A)中のカルボキシル基は、遊離または所望の中和率の塩であってよい。そのようなアルカリ性物質としては、一価金属および二価金属の水酸化物、塩化物および炭酸塩などの無機塩;アンモニア;有機アミンなどが例示される。
【0066】
そして、例えば、(イ)不飽和カルボン酸系単量体を必須成分とする単量体混合物(I)を重合し、必要であればこれを所望の中和率まで中和する方法、および(ロ)所望の中和率に中和した不飽和カルボン酸系単量体を必須成分とする単量体混合物(I)を重合し、必要であれば更にこの中和率を高める方法等を適宜採用できる。
【0067】
本発明のセメント分散剤の特に好ましい製造方法としては、以下の▲1▼あるいは▲2▼の製造方法が例示される。
【0068】
▲1▼不飽和カルボン酸系単量体を必須成分とする単量体混合物(I)の使用量が使用する原料の全量に対して10〜28重量%の範囲内であり、重合温度が単量体混合物(I)の曇点以下、好ましくは20〜52℃の範囲であり、さらに単量体混合物(I)の中和率が0〜20モル%の範囲内である条件下で該単量体混合物(I)を水を含む反応容器に滴下することにより溶液重合反応を行なう方法。
【0069】
▲2▼不飽和カルボン酸系単量体を必須成分とする単量体混合物(I)を連鎖移動剤と混合し、該単量体混合物(I)の中和率が0〜20モル%の範囲内である条件下で得られた混合物を水を含む反応容器に滴下することにより溶液重合反応を行なう方法。
【0070】
▲1▼の方法は、反応容器に水を仕込み、そこへ単量体混合物(I)水溶液と重合触媒水溶液とをそれぞれ滴下しながら溶液重合反応を行なう方法である。ここで、単量体混合物の使用量は、使用する原料の全量に対して10〜28%の範囲内にあることが好ましく、28%を越える使用量では過大な空気連行を引き起こし、10%未満では単位生産量あたりの純分が低すぎて経済性にも問題があるので好ましくない。また、本発明による特定の分子量分布を得るために、単量体混合物(I)の曇点以下の温度、好ましくは20〜52℃の範囲内で溶液重合反応を行なうことが必須である。さらに、単量体混合物(I)の中和率は0〜20%の範囲内であり、20%を越える中和率では減水性能が低下するため好ましくない。以上の条件のもと、反応容器内の水を所定の温度まで昇温し、単量体混合物(I)水溶液と重合触媒水溶液とを同時にそれぞれ滴下することで溶液重合反応を開始させる。それぞれの滴下は例えば、単量体混合物(I)水溶液を4時間かけて一定速度で水中に滴下し、重合触媒水溶液の滴下は5時間かけて行なわれる。滴下時間がこれ以上短すぎたり長すぎたりすると、減水性能や生産性の低下をもたらし好ましくない。また、単量体混合物の溶液重合を完結させるために、重合触媒水溶液の滴下時間は単量体混合物(I)水溶液の滴下時間よりも長く設定し、好ましくは30分間以上、より好ましくは1時間以上長くとる。そして、重合触媒水溶液の滴下終了後、所定の温度を少なくとも30分間、好ましくは1時間以上維持し、溶液重合反応を終了させる。このようにして溶液重合反応は終了し、降温後、必要ならば中和、濃度調整を行なう。
【0071】
▲2▼の方法は、反応容器に水を仕込み、単量体混合物(I)水溶液と連鎖移動剤とをあらかじめ均一に混合させて水溶液(II)を調製し、水溶液(II)と重合触媒水溶液とをそれぞれ反応容器に滴下しながら溶液重合反応を行なう方法である。ここで、本発明の特定の分子量分布を得るために、連鎖移動剤は重合反応前に単量体混合物(I)水溶液と均一に混合させなければならない。混合は、単量体混合物(I)水溶液を含むタンク内で行なってもよいし、該タンクから反応容器にいたるフィードラインにてスタティックミキサー等で行なってもよい。混合温度は、連鎖移動剤による重合が起こらないよう50℃以下で行なう。また、単量体混合物(I)の中和率は0〜20%の範囲内であり、20%を越える中和率では減水性能が低下するために好ましくない。以上の条件のもと、反応容器内の水を所定の温度まで昇温し、水溶液(II)と重合触媒水溶液とを同時にそれぞれ滴下することで溶液重合反応を開始させる。それぞれの滴下は、例えば水溶液(II)を4時間、重合触媒水溶液を5時間かけて均一に行なう。また、単量体混合物の溶液重合を完結させるために、重合触媒水溶液の滴下時間は水溶液(II)のそれよりも長く設定し、好ましくは30分間以上、より好ましくは1時間以上長くとる。重合触媒水溶液の滴下終了後、所定の温度を少なくとも30分間、好ましくは1時間以上維持し、溶液重合反応を終了させる。このようにして溶液重合反応は終了し、降温後、必要ならば中和、濃度調整を行なう。
【0072】
本発明において使用される連鎖移動剤は、チオール系化合物であれば特に制限されないが、例えば、メルカプトエタノール、チオグリセロール、チオグリコール酸、2-メルカプトプロピオン酸、3-メルカプトプロピオン酸、チオリンゴ酸、チオグリコール酸オクチル、3-メルカプトプロピオン酸オクチル、及び2-メルカプトエタンスルホン酸等の既知のチオール系化合物が挙げられる。これらの連鎖移動剤は1種または2種以上を用いることができる。
【0073】
重合体(A)は、単独または混合物の形態で、水溶液の形態でそのままセメント分散剤として使用することができる。また、重合体(A)を他の公知のセメント混和剤と組み合わせて使用しても良く、このような公知のセメント混和剤としては、例えば従来のセメント分散剤、空気連行剤、セメント湿潤剤、膨張剤、防水剤、遅延剤、急結剤、水溶性高分子物質、増粘剤、凝集剤、乾燥収縮低減剤、強度増進剤、硬化促進剤、及び消泡剤などを挙げることができる。
【0074】
本発明のセメント分散剤は、ポルトランドセメント、アルミナセメント、ビーライト高含有セメントや各種混合セメントなどの水硬セメント、あるいは石膏などのセメント以外の水硬材料などに用いることができる。
【0075】
本発明のセメント分散剤は、例えば水硬セメントを用いるモルタルやコンクリートに使用する場合には、セメント重量の0.01〜1.0%、好ましくは0.02〜0.5%程度の比率の量を添加すれば良い。この添加によりスランプ保持性能の向上、単位水量の低減、コンクリートの強度の増大、およびモルタルまたはコンクリートの耐久性の向上などの各種の好ましい諸効果がもたらされる。セメント分散剤の添加量が0.01%未満では性能的に不十分であり、逆に1.0%を超える量を使用しても、その効果は実質上頭打ちとなり経済性の面からも不利となる。
【0076】
次に、本発明に係る上述のセメント分散剤を用いてなるセメント組成物は、少なくともセメント、水および上述したセメント分散剤を含有するものである。上述したセメント分散剤をセメント固形分100重量部に対し0.01〜1.0重量部、好ましくは0.02〜0.5重量部含有してなることが好ましい。本発明のセメント分散剤が上記範囲を満たすように配合されて調製されたセメント組成物では、例えば、スランプ保持時間がはるかに向上するほか、単位水量の低減、コンクリートの強度の増大、およびモルタルまたはコンクリートの耐久性の向上などの各種の好ましい諸効果がもたらされる。なお、セメント組成物に配合し得るセメントとしては、特に制限されるものでなく、例えば、ポルトランドセメント、アルミナセメント、ビーライト高含有セメント、各種混合セメントなどの水硬セメントが挙げられる。またセメント組成物に配合し得る細骨材および粗骨材においても、特に制限されるものでなく、現在使われている数多くの種類の細骨材および粗骨材から適宜選択して使用することができる。また、セメント組成物中への細骨材および粗骨材の配合量等に関しても特に制限されるものでなく、使用する材料等に応じて、当業者により適宜決定され得るものである。
【0077】
【実施例】
以下、実施例をあげ、本発明を更に具体的に説明するが、本発明はこれだけに限定されるものではない。なお、例中、特にことわりのない限り、%は重量%を、また、部は重量部を表すものとする。
【0078】
本発明のセメント分散剤(1)を製造するための参考例1
温度計、撹拌機、滴下ロート、窒素導入管および還流冷却器を備えたガラス製反応容器に水1698部を仕込み、撹拌下に反応容器内を窒素置換し、窒素雰囲気下で80℃まで加熱した。次に、メトキシポリエチレングリコールモノメタクリル酸エステル(エチレンオキシドの平均付加モル数25個)1668部、メタクリル酸332部および水500部を混合し、さらに連鎖移動剤としてメルカプトプロピオン酸16.7部を均一に混合することにより、単量体混合物水溶液を調製した。この単量体混合物水溶液及び10%過硫酸アンモニウム水溶液184部をそれぞれ4時間で滴下し、滴下終了後更に10%過硫酸アンモニウム水溶液46部を1時間で滴下した。その後1時間引き続いて80℃に温度を維持し、溶液重合反応を完結させた。そして、30%水酸化ナトリウム水溶液で中和して重量平均分子量(GPCによるポリエチレングリコール換算;以下、同様とする。)23,800、ピークトップ分子量18,200の重合体水溶液からなる本発明のセメント分散剤(1)を得た。
【0079】
本発明のセメント分散剤(2)を製造するための参考例2
温度計、撹拌機、滴下ロート、窒素導入管および還流冷却器を備えたガラス製反応容器に水1520部を仕込み、撹拌下に反応容器内を窒素置換し、窒素雰囲気下で50℃まで加熱した。次に、メトキシポリエチレングリコールモノメタクリル酸エステル(エチレンオキシドの平均付加モル数10個)790部、メタクリル酸189部、メタクリル酸ナトリウム26部および水1500部からなる単量体混合物水溶液、10%過硫酸アンモニウム水溶液400部、5%亜硫酸水素ナトリウム水溶液400部とをそれぞれ4時間滴下し、滴下終了後更に10%過硫酸アンモニウム水溶液100部、5%亜硫酸水素ナトリウム水溶液100部を1時間で滴下した。その後1時間引き続いて50℃に温度を維持し、溶液重合反応を完結させた。そして、30%水酸化ナトリウム水溶液で中和して重量平均分子量33,300、ピークトップ分子量31,800の重合体水溶液からなる本発明のセメント分散剤(2)を得た。
【0080】
本発明のセメント分散剤(3)を製造するための参考例3
温度計、撹拌機、滴下ロート、窒素導入管および還流冷却器を備えたガラス製反応容器に水1700部を仕込み、撹拌下に反応容器内を窒素置換し、窒素雰囲気下で80℃まで加熱した。次に、メトキシポリエチレングリコールモノメタクリル酸エステル(エチレンオキシドの平均付加モル数25個)1580部、メタクリル酸420部および水500部を混合し、さらに連鎖移動剤としてメルカプトプロピオン酸14.5部を均一に混合することにより単量体混合物水溶液を調製した。この単量体混合物水溶液及び10%過硫酸アンモニウム水溶液184部をそれぞれ4時間滴下し、滴下終了後更に10%過硫酸アンモニウム水溶液46部を1時間で滴下した。その後1時間引き続いて80℃に温度を維持し、溶液重合反応を完結させた。そして、30%水酸化ナトリウム水溶液で中和して重量平均分子量28,600、ピークトップ分子量22,500の重合体水溶液からなる本発明のセメント分散剤(3)を得た。
【0081】
本発明のセメント分散剤(4)を製造するための参考例4
温度計、撹拌機、滴下ロート、窒素導入管および還流冷却器を備えたガラス製反応容器に水1698部を仕込み、撹拌下に反応容器内を窒素置換し、窒素雰囲気下で80℃まで加熱した。次に、メトキシポリエチレングリコールモノメタクリル酸エステル(エチレンオキシドの平均付加モル数25個)1796部、メタクリル酸204部および水500部を混合し、さらに連鎖移動剤としてメルカプトプロピオン酸16.7部を均一に混合することにより単量体混合物水溶液を調製した。この単量体混合物水溶液及び10%過硫酸アンモニウム水溶液184部をそれぞれ4時間で滴下し、滴下終了後更に10%過硫酸アンモニウム水溶液46部を1時間で滴下した。その後1時間引き続いて80℃に温度を維持し、溶液重合反応を完結させた。そして、30%水酸化ナトリウム水溶液で中和して重量平均分子量20,500、ピークトップ分子量15,300の重合体水溶液からなる本発明のセメント分散剤(4)を得た。
【0082】
本発明のセメント分散剤(5)を製造するための参考例5
温度計、撹拌機、滴下ロート、窒素導入管および還流冷却器を備えたガラス製反応容器に水1703部を仕込み、撹拌下に反応容器内を窒素置換し、窒素雰囲気下で80℃まで加熱した。次に、メトキシポリエチレングリコールモノメタクリル酸エステル(エチレンオキシドの平均付加モル数25個)1858部、メタクリル酸142部および水500部を混合し、さらに連鎖移動剤としてメルカプトプロピオン酸12.1部を均一に混合することにより単量体混合物水溶液を調製した。この単量体混合物水溶液及び10%過硫酸アンモニウム水溶液184部をそれぞれ4時間で滴下し、滴下終了後更に10%過硫酸アンモニウム水溶液46部を1時間で滴下した。その後1時間引き続いて80℃に温度を維持し、溶液重合反応を完結させた。そして、30%水酸化ナトリウム水溶液で中和して重量平均分子量32,800、ピークトップ分子量26,400の重合体水溶液からなる本発明のセメント分散剤(5)を得た。
【0083】
以上の参考例1〜5で得られた本発明のセメント分散剤(1)〜(5)の内容を表1及び表2に示す。
【0084】
【表1】

【0085】
【表2】

【0086】
比較セメント分散剤(1)を製造するための比較参考例1
参考例2のメタクリル酸189部とメタクリル酸ナトリウム26部をメタクリル酸147部とメタクリル酸ナトリウム79部に変え、反応容器への仕込み水量を1564部に変えた以外は参考例2と同様の操作を行ない、重量平均分子量5,100、ピークトップ分子量4,400の重合体水溶液からなる比較セメント分散剤(1)を得た。
【0087】
比較セメント分散剤(2)を製造するための比較参考例2
参考例2のメタクリル酸189部とメタクリル酸ナトリウム26部をメタクリル酸ナトリウム263部に変え、反応容器への仕込み水量を1712部に変えた以外は参考例2と同様の操作を行ない、重量平均分子量9,000、ピークトップ分子量5,700の重合体水溶液からなる比較セメント分散剤(2)を得た。
【0088】
比較セメント分散剤(3)を製造するための比較参考例3
温度計、撹拌機、滴下ロート、窒素導入管および還流冷却器を備えたガラス製反応容器に水886部を仕込み、撹拌下に反応容器内を窒素置換し、窒素雰囲気下で50℃まで加熱した。次に、メトキシポリエチレングリコールモノメタクリル酸エステル(エチレンオキシドの平均付加モル数10個)711部、メタクリル酸170部、メタクリル酸ナトリウム24部および水226部からなる単量体混合物水溶液、10%過硫酸アンモニウム水溶液400部、5%亜硫酸水素ナトリウム水溶液400部とをそれぞれ4時間で滴下し、滴下終了後更に10%過硫酸アンモニウム水溶液100部、5%亜硫酸水素ナトリウム水溶液100部を1時間で滴下した。その後1時間引き続いて50℃に温度を維持し、溶液重合反応を完結させた。そして、30%水酸化ナトリウム水溶液で中和して重量平均分子量31,100、ピークトップ分子量34,300の重合体水溶液からなる比較セメント分散剤(3)を得た。
【0089】
比較セメント分散剤(4)を製造するための比較参考例4
温度計、撹拌機、滴下ロート、窒素導入管および還流冷却器を備えたガラス製反応容器に水380部を仕込み、撹拌下に反応容器内を窒素置換し、窒素雰囲気下で50℃まで加熱した。次に、メトキシポリエチレングリコールモノメタクリル酸エステル(エチレンオキシドの平均付加モル数10個)1185部、メタクリル酸283部、メタクリル酸ナトリウム40部および水377部からなる単量体混合物水溶液、20%過硫酸アンモニウム水溶液300部、10%亜硫酸水素ナトリウム水溶液300部とをそれぞれ4時間で滴下し、滴下終了後更に20%過硫酸アンモニウム水溶液75部、10%亜硫酸水素ナトリウム水溶液75部を1時間で滴下した。その後1時間引き続いて50℃に温度を維持し、溶液重合反応を完結させた。得られた重合体は、セメント分散剤としては不適当なゲルであり、GPCによる分子量測定もできなかった。
【0090】
比較セメント分散剤(5)を製造するための比較参考例5
温度計、撹拌機、滴下ロート、窒素導入管および還流冷却器を備えたガラス製反応容器に、メトキシポリエチレングリコールモノメタクリル酸エステル(エチレンオキシドの平均付加モル数10個)632部、メタクリル酸151部、メタクリル酸ナトリウム21部および水2466部からなる単量体混合物水溶液を仕込み、撹拌下に反応容器内を窒素置換し、窒素雰囲気下で50℃まで加熱した。次に、10%過硫酸アンモニウム水溶液300部、5%亜硫酸水素ナトリウム水溶液300部とをそれぞれ4時間で滴下し、滴下終了後更に10%過硫酸アンモニウム水溶液75部、5%亜硫酸水素ナトリウム水溶液75部を1時間で滴下した。その後1時間引き続いて50℃に温度を維持し、溶液重合反応を完結させた。得られた重合体は、セメント分散剤としては不適当なゲルであり、GPCによる分子量測定もできなかった。
【0091】
比較セメント分散剤(6)を製造するための比較参考例6
温度計、撹拌機、滴下ロート、窒素導入管および還流冷却器を備えたガラス製反応容器に、メトキシポリエチレングリコールモノメタクリル酸エステル(エチレンオキシドの平均付加モル数25個)1422部、メタクリル酸378部、連鎖移動剤としてメルカプトプロピオン酸27部および水1968部からなる単量体混合物水溶液を仕込み、攪拌下に反応容器内を窒素置換し、窒素雰囲気下で80℃まで加熱した。次に、10%過硫酸アンモニウム水溶液165部を4時間で滴下し、滴下終了後更に10%過硫酸アンモニウム水溶液40部を1時間で滴下した。その後1時間引き続いて80℃に温度を維持し、溶液重合反応を完結させた。そして30%水酸化ナトリウム水溶液で中和して重量平均分子量20,000、ピークトップ分子量9,100の重合体水溶液からなる比較セメント分散剤(6)を得た。
【0092】
比較セメント分散剤(7)を製造するための比較参考例7
温度計、撹拌機、滴下ロート、窒素導入管および還流冷却器を備えたガラス製反応容器に水2425部を仕込み、撹拌下に反応容器内を窒素置換し、窒素雰囲気下で95℃まで加熱した。次に、メトキシポリエチレングリコールモノメタクリル酸エステル(エチレンオキシドの平均付加モル数10個)790部、メタクリル酸189部、メタクリル酸ナトリウム26部および水1500部からなる単量体混合物水溶液、10%過硫酸アンモニウム水溶液75部とをそれぞれ4時間で滴下し、滴下終了後更に10%過硫酸アンモニウム水溶液20部を1時間で滴下した。その後1時間引き続いて95℃に温度を維持し、溶液重合反応を完結させた。そして、30%水酸化ナトリウム水溶液で中和して重量平均分子量35,000、ピークトップ分子量18,300の重合体水溶液からなる比較セメント分散剤(7)を得た。
【0093】
比較セメント分散剤(8)を製造するための比較参考例8
温度計、撹拌機、滴下ロート、窒素導入管および還流冷却器を備えたガラス製反応容器に水1551部を仕込み、撹拌下に反応容器内を窒素置換し、窒素雰囲気下で80℃まで加熱した。次に、メトキシポリエチレングリコールモノメタクリル酸エステル(エチレンオキシドの平均付加モル数25個)1668部、メタクリル酸320部、メタクリル酸ナトリウム15部および水500部からなる単量体混合物水溶液、10%過硫酸アンモニム水溶液184部、10%メルカプトプロピオン酸167部とをそれぞれ4時間で滴下し、滴下終了後更に10%過硫酸アンモニウム水溶液46部を1時間で滴下した。その後1時間引き続いて80℃に温度を維持し、溶液重合反応を完結させた。そして、30%水酸化ナトリウム水溶液で中和して重量平均分子量21,000、ピークトップ分子量12,700の重合体水溶液からなる比較セメント分散剤(8)を得た。
【0094】
以上の比較参考例1〜8で得られた比較セメント分散剤(1)〜(8)の内容を表3及び表4に示す。
【0095】
【表3】

【0096】
【表4】

【0097】
実施例1および比較例1
コンクリート試験1セメントとして普通ポルトランドセメント(秩父小野田セメント株式会社製)、細骨材として大井川水系産陸砂及び木更津山砂(比重2.62、FM2.71)、粗骨材として青梅産硬質砂岩砕石(比重2.64、MS20mm)を用いた。
【0098】
セメント分散剤は、表1及び表2に示した本発明のセメント分散剤(2)および比較のためには表3及び表4に示した比較セメント分散剤(7)を用いた。
【0099】
コンクリートの配合条件は、単位セメント量320kg/m3、単位水量166kg/m3、水/セメント比51.9%、減水率18%および細骨材率49%であり、また、セメント固形分100重量部に対するセメント分散剤の添加量(重量部)は、下記表5に示すとおりとした。また、空気量は、必要に応じて市販の空気連行剤を用い4±1%に調製した。
【0100】
上記条件下に、強制練りミキサーを用いて50リッターのコンクリートを製造し、スランプの経時変化を測定した。なお、スランプ、空気量の測定は、すべて日本工業規格(JIS A 1101、1128、6204)に準拠して行なった。結果を表5に示す。
【0101】
【表5】

【0102】
表5から、本発明のセメント分散剤を用いたコンクリートのスランプ保持時間が、比較セメント分散剤を用いた場合に比べて向上していることがわかる。すなわち、本発明のセメント分散剤(2)のように、単量体混合物(I)の曇点以下の重合温度で溶液重合反応を行なわせることがスランプ保持性能には好ましい。
【0103】
実施例2および比較例2
コンクリート試験2
セメントとして普通ポルトランドセメント(秩父小野田セメント株式会社製)、細骨材として大井川水系産陸砂(比重2.62、FM2.71)、粗骨材として青梅産硬質砂岩砕石(比重2.64、MS20mm)を用いた。
【0104】
セメント分散剤は、表1及び表2に示した本発明のセメント分散剤(1)および比較のためには表3及び表4に示した比較セメント分散剤(8)を用いた。
【0105】
コンクリートの配合条件は、単位セメント量660kg/m3、単位水量165kg/m3、水/セメント比25%および細骨材率40%であり、また、セメント固形分100重量部に対するセメント分散剤の添加量(重量部)は、下記表6に示すとおりとした。また、空気量は市販の消泡剤を用いて1〜2%に調製した。
【0106】
上記条件下に、強制練りミキサーで、まずモルタルを90秒間で混練した後、引き続いて粗骨材を投入して90秒間混練し、50リッターのコンクリートを製造した。そして、モルタルが流動化するまでの時間および得られたコンクリートのスランプフロー値の経時変化を測定した。なお、スランプフロー値、空気量の測定は、すべて日本工業規格(JIS A 1101、1128、6204)に準拠して行なった。結果を表6に示す。
【0107】
【表6】

【0108】
表6から、本発明のセメント分散剤を用いたコンクリートのスランプ保持時間と減水性能が、比較セメント分散剤を用いた場合に比べて向上していることがわかる。すなわち、本発明のセメント分散剤(1)のように、単量体混合物(I)と連鎖移動剤をあらかじめ混合したのちに反応容器に滴下する溶液重合反応が、スランプロスの防止と添加量の低減には好ましい。
【0109】
また、表5および表6から、スランプ保持性能や減水性能はセメント分散剤を製造する重合方法に左右され、これは、上述のように重合体の分子量分布の違いに起因する。例えば、本発明のセメント分散剤(2)と比較セメント分散剤(7)の分子量分布をHYPERLINK””¥l”fig1”図1に示す。
【0110】
実施例3〜5および比較例3〜7
モルタル試験
表1及び表2に示した本発明のセメント分散剤(1)〜(3)および比較のために、表3及び表4に示した比較セメント分散剤(1)〜(3)、(6)、(8)の基本性能を観るために、それぞれを添加したモルタルのフロー値と空気量を測定した。モルタルは、秩父小野田セメント株式会社製の普通ポルトランドセメント400部、豊浦産標準砂800部、そして本発明のセメント分散剤あるいは比較セメント分散剤を含む水240部をモルタルミキサーで混練して調製した。そして、得られたモルタルを、水平なテーブルに置いた内径55mm×高さ55mmの中空円筒に擦り切りまで詰め、円筒を静かに垂直に持ち上げた後にテーブルに広がったモルタルの長径と短径を測定し、その平均値をフロー値とした。また、空気量は、得られたモルタルの容積、重量および用いた材料の比重から算出した。結果を表7に示す。
【0111】
【表7】

【0112】
実施例3〜5と比較例3および4から、単量体混合物(I)の中和率が低いほどフロー値が高くて好ましいことがわかる。
【0113】
実施例4と比較例5および比較参考例4では、重合温度が50℃で単量体混合物(I)の曇点以下、単量体混合物(I)の中和率が10%の場合の最適重合濃度を検討したところ、重合濃度50%ではゲル化してしまい、30%では空気連行性が高く、それぞれ不適当であることがわかる。
【0114】
実施例5と比較例6および実施例4と比較参考例5では重合様式の違いによる影響を検討した。まず、単量体混合物を反応容器に一括して仕込む一括法では、重合物のゲル化を押さえるためには連鎖移動剤が必須であることがわかる。そして、そのようにして得られた重合物であっても、単量体混合物を反応容器に滴下する滴下法での方が、高いフロー値が得られることがわかる。
【0115】
実施例3と比較例7を比べると、連鎖移動剤を単量体混合物(I)とあらかじめ混合して溶液重合反応させる方が高いフロー値を得ることができる。これは、当然ながら表6の結果とも一致している。
【0116】
実施例6〜10および比較例8
セメントへの吸着率の測定
表1及び表2に示した本発明のセメント分散剤(1)〜(5)および比較のためにナフタレンスルホン酸ホルマリン縮合物(NSF)のセメントへの吸着率を測定した。測定方法を下記に示す。
【0117】
(1)ビーカーに、対セメントの固形分換算で0.2%になるように参考例1で得られた本発明のセメント分散剤(1)を入れ、これに水/セメント比(重量比)が10%となるように水を加える。 (2)ビーカーに所定量のセメント(秩父小野田セメント株式会社製ハイフローセメント)を添加して、5分間攪拌した後、濾過を行ない、濾液を採取する。 (3)攪拌時間を60分として(1)〜(2)の操作を繰り返す。 (4)得られた濾液中に残存するセメント分散剤の濃度を示差屈折計で測定する。 (5)参考例3〜7で得られた本発明のセメント分散剤(2)〜(5)についても同様の操作を繰り返す。 (6)セメント分散剤の吸着率を以下のように定義する。
【0118】
【化12】

【0119】
なお、添加したセメント分散剤がすべてセメントに吸着したとすれば、吸着率は100%となる。吸着率の結果を表8に示す。
【0120】
【表8】

【0121】
表8から、本発明のセメント分散剤(1)〜(3)は、60分後に吸着率の増加は認められず、飽和吸着に至っていることが判る。一方、本発明のセメント分散剤(4)、(5)は、120分後でも吸着率は増加しており、飽和吸着に至っていないことが判る。
【0122】
実施例11〜14および比較例9
コンクリート試験3
用いたセメント分散剤が、本発明のセメント分散剤(1)、(2)、(4)、(5)および比較のためにナフタレンスルホン酸ホルマリン縮合物(NSF)を用いた他は、上述のコンクリート試験1と同様の操作でスランプの経時変化を測定した。結果を表9に示す。
【0123】
【表9】

【0124】
表9から、まず、本発明のセメント分散剤の減水性能とスランプ保持性能がNSFよりも優れることがわかる。また、それらの本発明のセメント分散剤を表6の結果で見比べれば、セメントへの5分後の吸着率が低く、かつ60分後の吸着率と5分後の吸着率との差が大きいものほどスランプ保持性能が高く、実施例14のように30分後のスランプが高くなるものもあることがわかる。
【0125】
実施例15〜17および比較例10
コンクリート試験4
セメントとしてハイフローセメント(秩父小野田セメント株式会社製)、細骨材として大井川水系産陸砂(比重2.62、FM2.71)、粗骨材として青梅産硬質砂岩砕石(比重2.64、MS20mm)を用いた。
【0126】
セメント分散剤は、表1及び表2に示した本発明のセメント分散剤(1)、(2)、(4)および比較のためにナフタレンスルホン酸ホルマリン縮合体(NSF)を用いた。
【0127】
コンクリートの配合条件は、単位セメント量553kg/m3、単位水量160kg/m3、水/セメント比29%および細骨材率51%であり、また、セメント固形分100重量部に対するセメント分散剤の添加量(重量部)は、下記表10に示すとおりとした。また、空気量は市販の消泡剤を用いて1〜2%に調製した。
【0128】
上記条件下に、強制練りミキサーで、まずモルタルを90秒間で混練した後、引き続いて粗骨剤を投入して90秒間混練し、50リッターのコンクリートを製造した。そして、モルタルが流動化するまでの時間および得られたコンクリートのスランプフロー値の経時変化を測定した。なお、スランプフロー値、空気量の測定は、すべて日本工業規格(JIS A 1101、1128、6204)に準拠して行なった。結果を表10に示す。
【0129】
【表10】

【0130】
表10から、まず、本発明のセメント分散剤の減水性能がNSFよりも優れることがわかる。また、それらの本発明のセメント分散剤を表8の結果で見比べれば、セメントへの5分後の吸着率が60%を越えて高いものはモルタルが流動化するまでに要する時間が短く、良好な減水性能を発現することがわかる。また、実施例15と16を比べると、実施例15のセメント分散剤の方がセメントへの5分後の吸着率が低いにもかかわらずモルタル混練時間は短くて済むことから、ポリエチレングリコール鎖が長いほど減水性能が高くなることがわかる。一方、実施例17は、セメントへの5分後の吸着率が46%と最も低く、スランプ保持性能が最も高いことが判る。
【0131】
実施例18〜20および比較例11
コンクリート試験5
セメントとして普通ポルトランドセメント(秩父小野田セメント株式会社製)、細骨材として大井川水系産陸砂(比重2.62、FM2.71)、粗骨材として青梅産硬質砂岩砕石(比重2.64、MS20mm)を用いた。
【0132】
セメント分散剤は、表1及び表2に示した本発明のセメント分散剤(1)〜(3)および比較のためにナフタレンスルホン酸ホルマリン縮合体(NSF)を用いた。
【0133】
コンクリートの配合条件は、単位セメント量550kg/m3、単位水量165kg/m3、水/セメント比30%および細骨材率40%であり、また、セメント固形分100重量部に対するセメント分散剤の添加量(重量部)は、下記表11に示すとおりとした。また、空気量は市販の消泡剤を用いて1〜2%に調製した。
【0134】
上記条件下に、強制練りミキサーで、まずモルタルを40秒間で混練した後、引き続いて粗骨材を投入して90秒間混練し、35リッターのコンクリートを製造した。そして、モルタルが流動化するまでの時間、得られたコンクリートのスランプフロー値、および28日圧縮強度を測定した。なお、スランプフロー値、空気量の測定は、すべて日本工業規格(JIS A 1101、1128、6204)に準拠して行なった。結果を表11に示す。
【0135】
【表11】

【0136】
表11から、まず、本発明のセメント分散剤の減水性能がNSFよりも優れることがわかる。また、それらの本発明のセメント分散剤を表8の結果で見比べれば、セメントへ5分後の吸着率が60%以上あればモルタルが流動化するまでに要する時間には相関がなく、むしろポリエチレングリコール鎖が長いほどモルタル混練時間が短縮され、添加量も低減できることがわかる。
【0137】
【発明の効果】
上述したように、本発明のセメント分散剤は、ポリカルボン酸系重合体(A)またはその塩を主成分とするセメント分散剤であって、該重合体(A)の重量平均分子量がGPCによるポリエチレングリコール換算で10,000〜500,000の範囲内にあり、かつ重量平均分子量からピークトップ分子量を差し引いた値が0〜8,000であることを特徴とするものである。
【0138】
本発明によるセメント分散剤は、減水性能に優れ、かつ従来の高性能AE減水剤の有していた問題点であるスランプロスを解消するものである。したがって、該セメント分散剤によれば、高減水率下でコンクリートなどのセメント組成物を混練でき、スランプロスも極めて少ない故に、得られるコンクリートの品質管理および施工上の障害も改善される。特に、本発明の請求項4によるセメント分散剤では、スランプ保持性能が際だって改善され、本発明の請求項5によるセメント分散剤では、極端に低い水/セメント比のセメント組成物においても充分な流動性を確保するものである。
【0139】
また、本発明のセメント分散剤の製造方法は、得られるセメント分散剤に、より効果的にスランプ保持性能と減水性能を付与することができる方法であり、経済的にも優れるものである。
【0140】
さらに、本発明のセメント組成物では、スランプ保持時間と減水性能が従来のものに比べてはるかに向上できるものである。
【図面の簡単な説明】
【図1】は、本発明のセメント分散剤(2)及び比較セメント分散剤(7)の分子量分布を示す図である。
 
訂正の要旨 特許請求の範囲の請求項4および5を、
「【請求項4】 該重合体(A)のセメント粒子への吸着率が、セメントに対して0.2重量%添加し、これに水/セメント比(重量比)が10%となるように水を加えたセメント組成物において、室温下5分間で60%未満であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載のセメント分散剤。
【請求項5】 該重合体(A)のセメント粒子への吸着率が、セメントに対して0.2重量%添加し、これに水/セメント比(重量比)が10%となるように水を加えたセメント組成物において、室温下5分間で60%以上であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載のセメント分散剤。」
に訂正する。
異議決定日 2003-03-10 
出願番号 特願平8-170416
審決分類 P 1 651・ 121- YA (C04B)
P 1 651・ 113- YA (C04B)
P 1 651・ 537- YA (C04B)
P 1 651・ 536- YA (C04B)
P 1 651・ 161- YA (C04B)
最終処分 維持  
特許庁審判長 多喜 鉄雄
特許庁審判官 唐戸 光雄
西村 和美
登録日 2001-04-13 
登録番号 特許第3179022号(P3179022)
権利者 株式会社日本触媒 株式会社エヌエムビー
発明の名称 セメント分散剤およびその製造方法ならびにそれを用いたセメント組成物  
代理人 野上 敦  
代理人 奈良 泰男  
代理人 箕浦 清  
代理人 八田 幹雄  
代理人 齋藤 悦子  
代理人 八田 幹雄  
代理人 野上 敦  
代理人 野上 敦  
代理人 八田 幹雄  
代理人 奈良 泰男  
代理人 奈良 泰男  
代理人 齋藤 悦子  
代理人 齋藤 悦子  
代理人 宇谷 勝幸  
代理人 宇谷 勝幸  
代理人 宇谷 勝幸  
  • この表をプリントする

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ