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審決分類 審判 一部申し立て 1項3号刊行物記載  H01L
審判 一部申し立て 2項進歩性  H01L
審判 一部申し立て 特174条1項  H01L
管理番号 1077903
異議申立番号 異議2001-70724  
総通号数 43 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 1996-12-13 
種別 異議の決定 
異議申立日 2001-03-05 
確定日 2003-04-07 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第3085146号「シリコン単結晶ウェーハおよびその製造方法」の請求項1、2に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 訂正を認める。 特許第3085146号の請求項1に係る特許を維持する。 
理由 1.手続きの経緯
本件特許第3085146号発明は、平成7年5月31日に特許出願され、平成12年7月7日にその特許の設定登録がなされたものである。
これに対し、信越半導体株式会社より請求項1乃至3のうち、その請求項1及び2について特許異議の申立てがなされ、取消理由通知がなされ、その指定期間内の平成13年11月20日に訂正請求がなされたものである。
2.訂正の適否についての判断
2-1.訂正事項
平成13年11月20日付けの訂正請求は、特許請求の範囲の減縮、この減縮に伴う明りょうでない記載の釈明を目的として、訂正請求書に添附した全文訂正明細書のとおり、すなわち次の訂正事項a乃至訂正事項jのとおり訂正するものである。
(1)訂正事項a:請求項1を削除し、請求項2及び請求項3を次のとおりに訂正する。
「【請求項1】チョクラルスキー法でシリコン単結晶を育成する際に、引き上げ速度をV(mm/min)とし、シリコン融点から1300℃までの温度範囲における引き上げ軸方向の結晶内温度勾配の平均値をG(℃/mm)とするとき、V/G値を結晶中心位置と結晶外周から30mmまでの位置との間では0.20〜0.22mm2/℃・minとし、結晶外周から30mmまでの位置と結晶外周位置との間では0.20〜0.22mm2/℃・minとするか若しくは結晶外周に向かって漸次増加させることにより、熱酸化処理をした際にリング状に発生する酸化誘起積層欠陥をウェーハ中心部で消滅させ、且つウェーハ全面から転位クラスタを排除すると共に、結晶軸方向の温度勾配Gの変化に対してV/Gが一定になるように引き上げ速度Vを調整することを特徴とするシリコン単結晶ウェーハ製造方法。
【請求項2】前記引き上げ軸方向の結晶内温度勾配は、伝熱計算により求めた結晶表面での温度と、実結晶から固液界面形状を計測して得た固液界面での温度(シリコン融点)とを境界条件として、再度計算により算出した軸方向温度分布より求めたものである請求項1に記載のシリコン単結晶ウエーハ製造方法。」
(2)訂正事項b:【発明の名称】を「シリコン単結晶ウェーハ製造方法」と訂正する。
(3)訂正事項c:特許明細書の段落【0001】の「【産業上の利用分野】本発明は、半導体素子等の製造に用いられるシリコン単結晶ウェーハ、特にチョクラルスキー法(以下CZ法という)により育成されたシリコン単結晶ウェーハおよびその製造方法に関する。」を、
「【産業上の利用分野】
本発明は、半導体素子等の製造に用いられるシリコン単結晶ウェーハ、特にチョクラルスキー法(以下CZ法という)により育成されたシリコン単結晶ウェーハの製造方法に関する。」と訂正する。
(4)訂正事項d:特許明細書の段落【0017】の「本発明の目的は、全面にわたって有害欠陥がない高品質なCZ法育成のシリコン単結晶ウェーハおよびその製造方法を提供することにある。」を、
「本発明の目的は、全面にわたって有害欠陥がない高品質なCZ法育成のシリコン単結晶ウェーハの製造方法を提供することにある。」と訂正する。
(5)訂正事項e:特許明細書の段落【0029】を削除する。
(6)訂正事項f:特許明細書の段落【0030】を、「本発明のウェーハ製造方法は、CZ法でシリコン単結晶を育成する際に、引き上げ速度をV(mm/min)とし、シリコン融点から1300℃までの温度範囲における引き上げ軸方向の結晶内温度勾配の平均値をG(℃/min)とするとき、V/G値を結晶中心位置と結晶外周から30mmまでの位置との間では0.20〜0.22mm2/℃・minとし、結晶外周から30mmまでの位置と結晶外周位置との間では0.20〜0.22mm2/℃・minとするか若しくは結晶外周に向かって漸次増加させることにより、熱酸化処理をした際にリング状に発生する酸化誘起積層欠陥をウェーハ中心部で消滅させ、且つウェーハ全面から転位クラスタを排除すると共に、結晶軸方向の温度勾配Gの変化に対してV/Gが一定になるように引き上げ速度Vを調整することを特徴とする。ここにおける引き上げ軸方向の結晶内温度勾配は、伝熱計算により求めた結晶表面での温度と、実結晶から固液界面形状を計測して得た固液界面での温度(シリコン融点)とを境界条件として、再度伝熱計算により算出した軸方向温度分布より正確に求められる。」と訂正する。
(7)訂正事項g:特許明細書の段落【0031】を削除する。
(8)訂正事項h:特許明細書の段落【0032】の「また、本発明のウェーハ製造方法では、」を「本発明のウェーハ製造方法では、」と訂正する。
(9)訂正事項i:特許明細書の段落【0044】を、「【発明の効果】
以上に説明した通り、本発明のウェーハ製造方法によって、熱的に極めて安定でデバイス活性領域に残留または成長し、ゲート酸化膜の信頼性や接合リーグ特性を劣化させる有害なGrown-in欠陥(赤外散乱欠陥、OSFリング、転位クラスタ)を全面にわたって含まないために、高集積半導体素子に使用してその特性劣化を防ぎ、素子製造歩留の向上に寄与する高品質のCZシリコン単結晶ウェーハが容易に製造可能となる。」と訂正する。
(10)訂正事項j:段落【0029】の記載及び段落【0031】の記載を削除したことに伴い、段落番号【0030】については、これを一つ繰り上げて【0029】と訂正し、段落番号【0032】乃至【0044】については、これらをそれぞれ二つ繰り上げて【0030】乃至【0042】と訂正する。

2-2.訂正の目的の適否、新規事項の有無及び拡張・変更の存否
上記訂正事項aは、具体的には請求項1を削除すると共に、請求項2に技術的な限定を追加してこれを請求項1とするものであり、また請求項3において引用する請求項番号を請求項2から請求項1に訂正するものであるから、特許請求の範囲の減縮と明りょうでない記載の釈明に該当する。 そして、この訂正事項aは、特許明細書に記載した事項の範囲内でなされたものであるから新規事項の追加に該当せず、また当該訂正によって実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものでもない。
訂正事項bは、発明の名称の訂正であり、訂正事項c乃至jは、特許請求の範囲の減縮に伴って、発明の詳細な説明を整理するものであるから、これら訂正事項は、明りょうでない記載の釈明に該当する。
そして、これら訂正事項も、特許明細書に記載した事項の範囲内でなされたものであるから新規事項の追加に該当せず、また当該訂正によって実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものでもない。
2-3.むすび
したがって、上記訂正は、平成6年改正法附則第6条第1項の規定によりなお従前の例によるとされる、特許法第120条の4第3項において準用する平成6年改正法による改正前の特許法第126条第1項ただし書、第2項の規定に適合するので、当該訂正を認める。
3.本件訂正発明
本件特許異議申立ての対象である請求項1及び2に係る発明は、上記訂正により、その請求項1が削除されたから、訂正後の請求項1に記載された事項により特定される次のとおりのものである(以下、「本件訂正発明1」という)。
「【請求項1】チョクラルスキー法でシリコン単結晶を育成する際に、引き上げ速度をV(mm/min)とし、シリコン融点から1300℃までの温度範囲における引き上げ軸方向の結晶内温度勾配の平均値をG(℃/mm)とするとき、V/G値を結晶中心位置と結晶外周から30mmまでの位置との間では0.20〜0.22mm2/℃・minとし、結晶外周から30mmまでの位置と結晶外周位置との間では0.20〜0.22mm2/℃・minとするか若しくは結晶外周に向かって漸次増加させることにより、熱酸化処理をした際にリング状に発生する酸化誘起積層欠陥をウェーハ中心部で消滅させ、且つウェーハ全面から転位クラスタを排除すると共に、結晶軸方向の温度勾配Gの変化に対してV/Gが一定になるように引き上げ速度Vを調整することを特徴とするシリコン単結晶ウェーハ製造方法。」
4.特許異議申立てについて
4-1.特許異議申立ての理由の概要
特許異議申立人は、証拠方法として、甲第1号証乃至甲第8号証を提出して、訂正前の請求項1及び2に係る発明について、次のとおり主張している。
(1)審査の過程でなされた平成12年4月24日付けの手続補正は新規事項の追加であるから、本件特許は、特許法第17条の2第3項の規定に違反してなされたものである。
(2)本件訂正前の請求項1及び2に係る発明は、甲第1号証乃至甲第8号証に記載された発明であるか、又は甲第1号証乃至甲第8号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、これら発明についての特許は、特許法第29条第1項第3号又は同条第2項に違反してなされたものである。
4-2.証拠の記載内容
(1)甲第1号証:「1993年秋季 第54回応用物理学会学術講演会 講演予稿集 No.1」1993年9月27日発行、第303頁
(a)「Fig.1は2stepアニール後のXRT写真を示す。リングOSF領域の外側では酸素析出の抑制が観察された。・・・なおラインbでは転位クラスターおよびリングOSF領域の外側に分布するピット(Fig.2↓)は観察されなかった。」(第303頁)
(2)甲第2号証:「応用物理」第59巻、第3号、1990年、第272頁乃至第288頁
(a)「直径75mmの結晶の成長速度を1.5mm/分から0.2mm/分に減少して、30分間保持し、その後、もとの成長速度にして20cm成長させた。・・・図8(a)はそのX線トポである。・・・また、次の二つの結果も得られている。(1)成長の初めから終わりまで0.2mm/分の成長速度にすると、R-OSFは全く存在しない。(2)結晶の直径を100mm以上にすると、図8の条件でもR-OSFは発生しない。」(第281頁左欄)
(3)甲第3号証:EXTENDED ABSTRACTS VOLUME95-1 SPRING MEETING」THE ELECTROCHEMICALSOCIETY INC.、1995年、159頁乃至第160頁
(a)「OSFリングがウェーハ中央部で消滅し、すぐれた結晶品質がウェーハの全領域に広がるような臨界引上げ速度は、結晶直径によらず中央で0.5mm/minであると報告された[4、5]。」(訳文第1頁)
(b)「まとめとして、我々は、V/GがCZ結晶中の欠陥の優先的なタイプを決める決定的なパラメータであることがわかった。Ccrit=1.3*10-3cm2min-1K-1でV/G>Ccritにおいては、おそらくFP-/D-欠陥のような欠陥に関する空孔が観察される。ここで、V/G=Ccritは、R-OSFの成長のための条件を表している。V/G<Ccritの時、大きなピット欠陥が現れる。」(訳文第4頁)
(4)甲第4号証:「JOURNAL OF CRYSTAL GROWTH VOLUME59(1982)」第625頁乃至第643頁
(a)「再結合後結晶中に残る点欠陥の濃度とタイプは、V/Go比に依存する(もしV/Go>ξtならば空孔、もしV/Go<ξtならば格子間シリコンとなる。ここで、ξtは定数である。」(訳文第1頁)
(5)甲第5号証:「JOURNAL OF CRYSTAL GROWTH 137(1994)」第642頁乃至第652頁
(a)「このペーパーは熱的に誘起された微小欠陥のどちらかと言うと特徴的な分布、すなわちCzochralski(CZ)法によって育成されたSiに焦点をあてる。酸素析出物あるいは酸化誘起積層欠陥(OSFs)の帯状分布は熱処理[4,7]の後にCZ Siで顕在化された。このように、150mm直径Si結晶の断面上にバルクOSFの環状分布が酸化雰囲気の熱処理後に観察される。類似なバンドは75mm直径のSi結晶で低成長速度によるinsituアニールにより見られた[4]。1100℃の熱処理によって形成されたOSFのバンドは1000℃熱処理後に現れる酸素析出のないバンドに対応している。OSFsの核は成長の間に結晶に取り込まれた過剰なインタースティシアルによって生成されるgrown-in欠陥であると仮定された[4]。OSFsの発生の結晶成長中のメルト温度への依存性は参考文献[7]に検討されている。」(訳文第1頁)
(b)「Figs.2aと2bはVが0.8から0.5mm/minに突然に変えられた結晶部分での欠陥分布を示す。Vの変更は「空孔」成長レジームから「interstititial」成長レジーム[14]への移行を起こす。この移行の臨界引上げ速度(Vt=ξtGO)は実験で使われた条件下で0.65mm/minである[5]。このような移行を持っている結晶部分はV<VtにおいてA-とBタイプのスワール欠陥を、そしてV>Vt(Fig.2b)でA'欠陥を含んでいる。欠陥フリーのギャップ[13、14]はA’欠陥の領域とAとB欠陥の領域の間にある。熱処理及びAu拡散されたサンプル(Figs.2aと2b)における欠陥パターンを比較することによって、我々はdecfectフリーなギャップの隣にあるA’欠陥の領域にBAOPがあるのを見ることができる。BAOPの形とギャップの境界の形は密接に関連している。Auの拡散サンプルで、転位ループとSFsの増加した濃度がBAOP(Fig.2b)に対応する領域で見られる。」(訳文第4頁)
(6)甲第6号証:「INORGANIC MATERIALS」Vol.31 No.4、1995年4月、第401頁乃至第409頁
甲第6号証には、「CZ-シリコン結晶のGrown-in微小欠陥の分類」と題して、次の記載がある。
(a)「現在のところ、Siでのgrown-in微小欠陥の統一された、一般に受け入れられた分類はそれらの性質についての包括的な情報の欠如のためにいまだに不十分である。文献ではスワール欠陥、クラスター、微小欠陥が混同して使われるような一種の専門用語混乱が存在している。(我々はより一般的で中立的なものとして最後の微小欠陥を使うことをより好む)[4、5]。時々、同じ用語が本質的に異なった別の微小欠陥を意味することがある(例えば、[6]と[7]でのA’欠陥)。」(訳文第1頁)
(b)「結果
Grown-in微小欠陥のタイプ
前述の技術によって、我々は調査中の結晶で、5つの微小欠陥のタイプを明らかにした:それはA-、B-、A’-、α-type欠陥と酸素析出の低温のセンター(LTC)である。・・・結晶成長状態はパラメータξ=V/Gによって表記されている。(ここでVは引上げ速度であり、Gは結晶-溶解界面での軸方向の温度勾配である)。V/Gは成長中の結晶で主要な点欠陥を決定することをVoronkov[28]によって明らかにされた。(ξ<ξt=3.3×10-5cm2/(Ks)であるなら自己格子間型であり、ξ>ξtであるならば空孔型である)。異る微小欠陥のパラメータ同士がいくつか時折一致することがあるが、それぞれのタイプの微小欠陥はそれ自身の独自のパラメータの組合せを持っている。
(1)A欠陥。これらの欠陥は(ξ<ξtである)格子間型形態で育成された結晶に観察される。それらはFZ結晶[2、3、11]及び小さい直径の低速成長CZ結晶[12]で検出されたAタイプの欠陥と同一のものらしい。コマーシャルCZ結晶、特に(直径10センチメートル以上の)大きい直径の結晶では、直胴後半部分でこれらの欠陥を見いだすことはごく普通のことである。Aタイプ欠陥の核形成温度は970-1000℃である。A欠陥の領域では、熱処理による酸素析出が進行しにくかったり[24]、酸素析出量と結晶の熱履歴との間に相関関係がなかったりする[21]。図la-1fはいくつかの異なった技術によって明らかにされたA欠陥を示している。A欠陥は(150umもの)大きなエッチピット(Fig.1b)を形成したり、Cuデコレーションサンプルで拡大された析出をつくったり(Figs.1dと1e)Au拡散サンプルで転位ループ複合体を形成したりする(Fig.1f)。
我々はサンプル中のA欠陥の存在を確認する非常に効率的な、そして速い方法を提案する:それは(ポリッシュなしの)劈開で得られた2つの表面での(1.5-2分)の短時間選択エッチングである。他のすべてのタイプの微小欠陥と異なり、A欠陥は2つの正反対の劈開面にエッチビット対を作り出すであろう(Fig.lc)。他のタイプの微小欠陥は(反対の表面の上に対応物を作らず)1つの表面だけの上にエッチピットを作り出す。面白い要点は分裂した1つのA欠陥によるエッチピット対は通常形が異なっている(Fig.1c)。つまりこのタイプの欠陥が複雑な形状とかなりの広がりを持っていることを示している。これはA欠陥が(10umもの)大きな転位ループ複合体としてTEMにより観察されること[2、3、12]と整合性がある。」(訳文第3頁及び第4頁)
(c)「CZによって育成されたSi結晶はA’欠陥とLTCを含んでいる;ボロンドープ結晶ではα-欠陥もまた発生するであろう。結晶直径の増大に伴い、結晶中にAとB欠陥が見られる可能性は増加する。このことは、直径が大きい結晶を育成するために主に用いられる低い引上げ速度といった、ある特定の成長条件によって説明される。ξ=ξtで、あるいは(ξ>ξtからξ<ξtまであるいは反対の方法で)ゆっくりと成長条件を変化させて育成された結晶から切り取られたスライスは、(結晶の周囲部と中心部でGの値は異なっているので)空孔と格子間原子の両方に関係する微小欠陥を含んでいるであろう(Fig.4a、4b)。類似のパターンは結晶の種側の部分、つまりコーンから直胴へ変化する付近でごく当たり前に存在する。AタイプとA’タイプの欠陥は常にいわゆる無欠陥層によって分けられる。その無欠陥層の形は特定の成長条件に依存する。[6、19、20、23](Fig.4b-4d)結晶直胴後半部で、Fig.4eに示されるようなパターンを見いだすことはよくあることである。ここでA’欠陥を伴う核は広い無欠陥層によって境界をなされている。」(訳文第6頁)
(7)甲第7号証:「Sov.Phys.Crystallogr.34(2)」3月-4月1989年、第273頁乃至第278頁
甲第7号証には、「無転位シリコンにおける微小欠陥の形成に及ぼす成長条件の影響」と題して、次の記載がある。
(a)「実験結果とその考察
ミクロ欠陥の種類の切り替わりに対応する臨界速度(これをVoで表す)の値を決定するために、種々の長さのLでVを段階的に変えて成長させた一連の結晶について研究した。その結果、Voの大きさは成長した結晶の長さに依存し、図1に示すようにLの増加につれて単調に減少することが分かった(図1:グラフの各縦線は、与えられた結晶断面における実験的に観察されたミクロ欠陥の種類が切り替わる場合に対応する。また、縦線の端点は、この結晶区間の引き上げ速度の初期値および終期値に対応する。)ミクロ欠陥の種類の切り替わりは、一定のVの下で成長させた結晶においても数多く生じた。すなわち、V=0.85mm/minで成長させた結晶の上部(L≦5cm)でA欠陥が、また下部(L≧20cm)でA’欠陥が主に中心域にそれそれ観察される。」(訳文第3頁及び第4頁)
(b)「図3の分析から、結晶の中心域におけるGoの値(Gc)及び周辺域におけるGoの値(Gp)の関係ならびに結晶長さに沿ったその変化の傾向が明らかになり、また少なくとも定性的には、結晶内部で観察されるミクロ欠陥分布像及びlに対するVoの依存性を、報告〔12〕のモデルの枠内で説明することが出来る。Goの最大値(約80K/cm)はlo=5cmで、又Goの最小値(約25〜30K/cm)は2lo=40cmで、それぞれ現れることが図3から導かれる。これは、結晶の長さに沿ってVoが減少することと一致する。lo=5cmではGcとGpの最大差も観察され、その値は成長界面において約40K/cmに達する(図3a)。GcとGpのこの様に大きな差の下で結晶がV=Voを以て成長するならば、その中心域では「空孔的な」成長状態(ξ=V/Gc>ξt)が、又その周辺域では「格子間的な」成長状態(ξ=V/Gp<ξt)が、それぞれ実現される。これに対応してこのような結晶の中心部ではA’欠陥が、そして周辺部ではA欠陥が、それぞれ現れるに違いない。この種の構造の例が参考文献〔10〕図3bに掲げてある。これに類するミクロ欠陥分布は専ら、測定結果によりGp>>Gcである結晶上部においてのみ観察され(lo≦7cmの場合)、GpがGcに近い結晶下部においては全く観察されていない、と言う点は極めて特徴的である(図3b、c)。」(訳文第4頁)
(8)甲第8号証:「Sov.Phys.Crystallogr.35(1)」1月-2月1990年、第102頁乃至第105頁
(a)「MC法によって得られた結晶は通常CZ法によって得られた結晶と同じ種類の微小欠陥を含んでいた。(7)”空孔”から”格子間”への移行そして微小欠陥のタイプが変化する臨界成長速度Vtは結晶の成長部分の長さが300-500mmの時におおよそ0.6mm/min.であった。・・・MC結晶の前半部では欠陥の遷移領域の形状がほぼ水平であった。(Fig.1)これは結晶中心と周辺における結晶軸方向の温度勾配(G)の差が通常の結晶に比べ小さいことを示している。V=Vtで育成したMC結晶の後半部は結晶中心部でA‘欠陥、結晶周辺でBとA欠陥をもつ垂直遷移領域が観察された。同様な微小欠陥分布が結晶化の初期における熱流速の不均一性の高い条件で育成された通常結晶の上部に見られる。(9)従って、磁界中の結晶の成長における熱条件の変化により成長微小欠陥領域の形状が変化する。」(訳文第1頁及び第2頁)
4-3.当審の判断
(1)上記(1)の主張について
上記(1)の主張は、上記訂正によりその対象である請求項1が削除されたから、解消されたと云える。
(2)上記(2)の主張について
本件訂正発明1は、全面にわたって有害なGrown-in欠陥(赤外散乱欠陥、OSFリング、転位クラスタ)を含まない「シリコン単結晶ウェーハ製造方法」に係り、その主な特徴は、(イ)「引き上げ速度をV(mm/min)とし、シリコン融点から1300℃までの温度範囲における引き上げ軸方向の結晶内温度勾配の平均値をG(℃/mm)とするとき、V/G値を結晶中心位置と結晶外周から30mmまでの位置との間では0.20〜0.22mm2/℃・minとし、結晶外周から30mmまでの位置と結晶外周位置との間では0.20〜0.22mm2/℃・minとするか若しくは結晶外周に向かって漸次増加させることにより、熱酸化処理をした際にリング状に発生する酸化誘起積層欠陥をウェーハ中心部で消滅させ、且つウェーハ全面から転位クラスタを排除する」点、及び(ロ)「結晶軸方向の温度勾配Gの変化に対してV/Gが一定になるように引き上げ速度Vを調整する」点にあると云えるところ、特許異議申立人の提出した上記甲第1号証及び甲第2号証は、訂正前の請求項1に係る「シリコン単結晶ウェーハ」の発明に関する証拠であるから、これら証拠には、本件訂正発明1の上記(イ)及び(ロ)の点を示唆する記載はない。甲第3号証及び甲第4号証には、引き上げ速度Vと結晶軸方向の温度勾配GとのV/Gがシリコン結晶のGrown-in欠陥に影響する因子であることは示唆されているが、Grown-in欠陥のないシリコン結晶を製造するための具体的な条件についてまでは何ら記載がなく、ましてや本件訂正発明1の上記(イ)及び(ロ)の点を示唆する記載はない。甲第5号証には、CZ法で育成されたシリコン結晶に酸素析出物あるいは酸化誘起積層欠陥が形成されることが記載されているだけであり、甲第8号証にも、CZ法で育成されたシリコン結晶に空孔等の微小欠陥が形成されることが記載されているだけである。甲第6号証には、「CZ-シリコン結晶のGrown-in微小欠陥の分類」と題して、Grown-in微小欠陥である5つの「A欠陥、B欠陥、A’欠陥、α欠陥、酸素析出の低温センター(LTC)」がその成長条件等によって分類付けられることが記載されているが、これら5つの微小欠陥が存在しないシリコン結晶を製造する条件についてまでは記載がなく、本件訂正発明1の上記(イ)及び(ロ)の点を示唆する記載もない。また、甲第7号証には、「無転位シリコンにおける微小欠陥の形成に及ぼす成長条件の影響」と題して、「無転位」のシリコン結晶において、そのミクロ欠陥の種類(A欠陥やA’欠陥)の切り替わりに臨界速度VやGの因子が影響していることが記載されているが、全面にわたって有害なGrown-in欠陥(赤外散乱欠陥、OSFリング、転位クラスタ)を含まないシリコン結晶をどのように製造するかという具体的な条件については記載がなく、ましてや本件訂正発明1の上記(イ)及び(ロ)の点を示唆する記載はない。
してみると、甲第1号証乃至甲第8号証には、シリコン結晶の微小欠陥の発生メカニズムとV/Gとの関係を一部示唆する記載はあるものの、本件訂正発明1の上記(イ)及び(ロ)の点について具体的に示唆している何らの記載も見当たらないから、本件訂正発明1は、上記甲第1号証乃至甲第8号証に記載された発明であるとはすることができないし、また上記甲第1号証乃至甲第8号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものともすることができない。
5.むすび
以上のとおり、特許異議申立ての理由及び証拠方法によっては、本件訂正発明1についての特許を取り消すことはできない。
また、他に本件訂正発明1についての特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、特許法等の一部を改正する法律(平成6年法律第116号)附則第14条の規定に基づく、特許法等の一部を改正する法律の施行に伴う経過措置を定める政令(平成7年政令第205号)第4条第2項の規定により、上記のとおり決定する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
シリコン単結晶ウェーハ製造方法
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】 チョクラルスキ一法でシリコン単結晶を育成する際に、引き上げ速度をV(mm/min)とし、シリコン融点から1300℃までの温度範囲における引き上げ軸方向の結晶内温度勾配の平均値をG(℃/mm)とするとき、V/G値を結晶中心位置と結晶外周から30mmまでの位置との間では0.20〜0.22mm2/℃・minとし、結晶外周から30mmまでの位置と結晶外周位置との間では0.20〜0.22mm2/℃・minとするか若しくは結晶外周に向かって漸次増加させることにより、熱酸化処理をした際にリング状に発生する酸化誘起積層欠陥をウェーハ中心部で消滅させ、且つウェーハ全面から転位クラスタを排除すると共に、結晶軸方向の温度勾配Gの変化に対してV/Gが一定になるように引き上げ速度Vを調整することを特徴とするシリコン単結晶ウェーハ製造方法。
【請求項2】 前記引き上げ軸方向の結晶内温度勾配は、伝熱計算により求めた結晶表面での温度と、実結晶から固液界面形状を計測して得た固液界面での温度(シリコン融点)とを境界条件として、再度計算により算出した軸方向温度分布より求めたものである請求項1に記載のシリコン単結晶ウェーハ製造方法。
【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】
本発明は、半導体素子等の製造に用いられるシリコン単結晶ウェーハ、特にチョクラルスキー法(以下CZ法という)により育成されたシリコン単結晶ウェーハの製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
半導体素子の製造に用いられるシリコン単結晶ウェーハは主にCZ法により製造されている。CZ法とは周知の如く石英坩堝内のシリコン融液に種結晶を漬け、石英坩堝および種結晶を回転させながら種結晶を引き上げることにより、円柱状のシリコン単結晶、すなわち直胴部を育成するものである。このときの引き上げ速度、すなわち単結晶育成速度は通常1.0〜2.0mm/minである。
【0003】
ところで、このようなCZ法により育成したシリコン単結晶ウェーハは、熱酸化処理(例えば1000〜1200℃×1〜10時間)を受けたときに、リング状に発生するOSFと呼ばれる酸化誘起積層欠陥を生じることがある。このOSFリングは引き上げ速度が速くなるにつれて単結晶の外周側へ移動することが知られており、現在LSIの製造には、OSFリングが単結晶の最外周に分布するように比較的高速の引き上げ速度、すなわち1.0〜2.0mm/minで育成された高速育成ウェーハが用いられている。
【0004】
しかしながら、このような高速で育成されたシリコン単結晶ウェーハには数種の微小欠陥(以下Grown-in欠陥と称す)が存在し、MOSデバイスのゲート酸化膜耐圧特性を劣化させることが明らかになってきた。また、これらのGrown-in欠陥は熱的に極めて安定であることから、デバイスの製造プロセス中においても消滅せず、ウェーハ表面近傍の活性領域に残留し、酸化膜耐圧特性だけでなく接合リーク特性を劣化させることも明らかになってきた(例えばM.Horikawa et al.Semiconductor Silicon 1994,p987)。
【0005】
近年LSI等のMOS型高集積半導体素子の集積度増大に伴ってゲート酸化膜が薄膜化され、ソース・ドレイン等の拡散層深さが浅くなったため、ゲート酸化膜の絶縁耐圧特性の向上および接合リーク電流の低減が強く要請されているが、現在LSIの製造に使用されている高速育成ウェーハは、これらの特性が劣るため、最近の特に高い集積度に対しては対応が困難になってきた。
【0006】
そこで最近になって、引き上げ速度が0.8mm/min以下の中速または低速でシリコン単結晶を育成する方法が特開平2-267195号公報により提案された。しかしながら、このような中速〜低速で育成したシリコン単結晶ウェーハにも下記のような結晶品質上の問題点がある。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
一般に、単結晶内の温度分布はCZ炉内の構造に依存しており、引き上げ速度が変化しても、その分布は大きくは変わらない。そのため、同じ構造を有する装置により、引き上げ速度を変化させて単結晶を育成すると、図1に示すような引き上げ速度と欠陥発生分布との関係が見られる。装置が異なるとこの関係は若干変化するが、傾向まで変化することはない。
【0008】
引き上げ速度が0.8〜0.6mm/minの中速育成の場合には、同図(A)に示すように、シリコン単結晶ウェーハの半径の1/2付近にOSFリングが発生する。リングの外側と内側とでは物性が異なり、OSFリングより外側の領域では、ゲート酸化膜の耐圧特性は良好である。
【0009】
しかし、リングより内側の領域では、いくつかの種類のGrown-in欠陥が存在するため、その耐圧特性は良好でない。なかでも結晶育成中に形成されas-grown状態で赤外トモグラフ法で観察される赤外散乱欠陥が約106個/cm3の密度で発生する。酸素析出物と考えられるこの欠陥は熱的に極めて安定であるので、デバイスの熱処理プロセスでも消滅することはなく、デバイス活性領域に残留して接合リーク特性も劣化させる。
【0010】
またOSFリング自体は、数mm〜10mm程度の幅で発生し、約104個/cm2の高密度でOSFを含むことから、半導体素子の特性、例えば接合リーク特性を悪化させる原因になる。更に、この領域には、ウェーハを熱処理した際に108〜109cm-3の密度で酸素析出物が発生する。この酸素析出物の核も熱的に安定であり、1250℃の熱処理でも成長する。従って、OSFリング自体もデバイスプロセス後の特性を劣化させる原因になる。
【0011】
シリコン単結晶の引き上げ速度を0.6〜0.5mm/minに低下させた場合には、図1(B)に示すように、OSFリングの直径が更に小さくなり、ウェーハの中心付近にリング状または円盤状にOSFが発生する。リングより外側の面積が増大するために、酸化膜耐圧特性は向上するが、代わってリング外側の外周部に転位クラスタが発生する。この転位クラスタは大きさが約10〜20μmで密度が約103個/cm2程度であり、これも半導体素子の特性を劣化させる原因になることは周知の通りである。
【0012】
また、CZ法で育成されたシリコン単結晶ウェーハには、酸素不純物が1〜2×1018atoms/cm3の濃度で含まれている。そして、この酸素不純物のためにデバイスプロセスでの熱処理(例えば600〜1150℃×数十時間)により酸素析出が起こることは上述した通りである。この酸素析出物はデバイス活性領域に発生してデバイスの特性を劣化させる一方で、デバイスプロセス中に発生する重金属汚染をゲッタリングするサイトとして作用する。
【0013】
OSFリングより内側の領域では酸素析出が強く起こるため、通常のイントリンシックゲッタリング能(以下IG能という)が得られるが、OSFリングより外側の転位クラスタが発生する領域では、この酸素析出が起こりにくいためIG能は低下する。
【0014】
このように、引き上げ速度が0.8〜0.5mm/minの中速で育成されたウェーハは、OSFリングが残り、そのリング自体が欠陥発生領域であるだけなく、リングの内外にも欠陥が発生するため、高集積度の半導体素子の製造には適さない。
【0015】
一方、引き上げ速度が0.5mm/min以下の低速で育成されたウェーハでは、図1(C)に示すように、OSFリング領域はウェーハの中央部で消滅し、これに伴いリングより内側の赤外散乱欠陥が発生する領域も消える。しかし、ウェーハの全面に転位クラスタが発生する。転位クラスタの発生がデバイス特性の低下やIG能の低下の原因になることは上述した通りである。従って、低速育成ウェーハも高集積度半導体素子の製造に適さない。
【0016】
以上のように、現状のCZ法によるシリコン単結晶の育成では、引き上げ速度をいかに調整しても結晶径方向の少なくとも一部に有害欠陥が生じ、全面無欠陥のウェーハは製造されない。
【0017】
本発明の目的は、全面にわたって有害欠陥がない高品質なCZ法育成のシリコン単結晶ウェーハの製造方法を提供することにある。
【0018】
【課題を解決するための手段】
ところで本発明者らは先にOSFリングの発生位置に関し次のような重要な事実を得た。
【0019】
同一の構造を有する結晶育成装置では、OSFリングの径は結晶の引き上げ速度に依存して変化し、引き上げ速度の低下と共にその径は減少するが、育成装置が相違し、ホットゾーン構造が変化すると、同一の引き上げ速度であってもOSFリングの径は異なる。しかし、単結晶の引き上げ速度をV(mm/min)とし、シリコン融点から1300℃までの高温域における引き上げ軸方向の結晶内温度勾配の平均値をG(℃/mm)とするとき、V/Gで表わされる比によりOSFリングの径は一義的に決定される。つまり、V/G値を制御することにより、OSFリングを狙いとする位置に発生させることができ、また消滅させることも可能となる。
【0020】
しかしながら、V/G値の制御によりOSFリングの発生位置を制御しても赤外散乱欠陥、転位クラスタ等のGrown-in欠陥まで消滅させることはできない。
【0021】
そこで本発明者らは欠陥分布に及ぼすV/G値の影響を次のようにして調査した。単結晶の肩からそれぞれ100,200,300,400mmの各位置に固液界面がある場合の温度分布を総合伝熱解析により求めた。この伝熱解析においては、融液内の対流による温度分布の効果が考慮されていないと、実際と異なる固液界面形状が得られ、またこれによって結晶内の特に固液界面に近い高温部での温度分布が実際のものと若干異なることが懸念される。この計算上の問題を改善し、高温部におけるより正確な温度分布を得るために、さらに上記各位置での固液界面の形状を実結晶から計測し、界面での温度をシリコンの融点として、これと上記伝熱計算による結晶表面での温度を境界条件として再び結晶内部の軸方向温度分布を計算し、これから軸方向温度勾配の径方向分布を計算した。径方向位置を横軸とし、V/G値を縦軸として欠陥分布を示したのが図2である。
【0022】
図2から分かるように、V/G値が0.20mm2/℃・min未満の場合、径方向全域において転位クラスタが発生する。V/G値が0.20mm2/℃・minより大きくなるに連れて無欠陥領域、OSFリング発生領域、赤外散乱欠陥発生領域の順に領域が変化する。ここで無欠陥領域の下限は径方向位置に関係なく一定(0.20mm2/℃・min)であるが、上限は結晶中心と結晶外周から30mmまでの位置との間では一定(0.22mm2/℃・min)となり、結晶外周から30mmまでの位置と結晶外周位置との間では、結晶外周に近づくに連れて大となる。そして、ホットゾーン構造が異なる場合でも各種欠陥はこの図に従って分布する。
【0023】
すなわち、ホットゾーン構造と引き上げ速度が決まると、その育成装置が持つ結晶径方向でのV/G値が破線のように決定される。引き上げ速度がV1の場合、そのV/G曲線が赤外散乱欠陥発生領域を横切る結晶部位で赤外散乱欠陥が生じ、OSFリング発生領域を横切る結晶部位でOSFリングが発生する。よって引き上げ速度がV1の場合はウェーハの最外周部にOSFリングが発生し、その内側の領域には赤外散乱欠陥が生じる。引き上げ速度が低下するとV/G曲線はV2,V3,V4,V5のように移動し、結晶に発生する欠陥の径方向分布が変化する。
【0024】
ここで注目すべきことは、CZ法によるシリコン単結晶の育成では単結晶の径方向全域において無欠陥となるV/Gが存在すること、換言すればV/Gによっては単結晶の径方向全域において欠陥を無くすのが可能であること、しかし従来の育成では単結晶の引き上げ速度に関係なくV/G曲線が一般に右下がりとなるため径方向全域において無欠陥とするのができないことの2点である。
【0025】
V/G曲線が右下がりとなるのは、後で詳しく述べるが、結晶内の軸方向温度勾配が中心部に比して外周部で大きいことによる。すなわち、Vが一定の状態でGが中心から外周へ向かうに連れて増大するためにV/G曲線は右下がりとなる。そのため径方向の全域において無欠陥となるV/Gが存在するにもかかわらず、ウェーハ全面を無欠陥にすることはできない。
【0026】
例えばVがV1の場合はウェーハの最外周部にOSFリングが発生し、その内側に赤外散乱欠陥が発生する。これは従来一般の高速育成である。VがV1より遅いV2,V3になると、ウェーハの径方向中間部にOSFリングが発生し、その外側は無欠陥領域となるが、内側には赤外散乱欠陥が発生する。これは中速育成であり図1(A)に相当する。Vが更に遅いV4になると、ウェーハ中心部にOSFリングが発生し、その外側に無欠陥領域が残るが、最外周部には転位クラスタが発生する。これは図1(B)に相当する中速育成である。Vが更に遅いV5になると、OSFリングは中心部で消滅するが、ウェーハ全面に転位クラスタが発生する。これは図1(C)に相当する低速育成である。また仮に、結晶中心部でV/Gを欠陥が生じない0.20〜0.22mm2/℃・minに管理しても、結晶中心部から外れるに連れてV/Gが低下するために、中心部以外は転位クラスタを生じる。
【0027】
このように、CZ法によるシリコン単結晶の育成では、単結晶の径方向全域において無欠陥領域を形成し得るV/Gが存在するにもかかわらず、V/Gが右下がりの曲線であるために、ウェーハ全面を無欠陥とすることができない。
【0028】
しかしながら、もし仮に、単結晶の径方向においてV/Gを径方向に一定の直線、あるいは外周部において漸増する右上りの曲線とすることができれば、径方向の全域において欠陥の発生を防止することができる。この仮定に基づき本発明者らは更なる調査解析を行なった。その結果、結晶育成装置のホットゾーンの構造によってはV/Gを図2に実線で示すような直線乃至は右上りの曲線とすることができ、その結果、単結晶の径方向全域において無欠陥領域が形成され、ここにこれまで不可能であった全面無欠陥ウェーハの製造が可能になることを知見し、本発明を完成させるに至った。
【0029】
本発明のウェーハ製造方法は、CZ法でシリコン単結晶を育成する際に、引き上げ速度をV(mm/min)とし、シリコン融点から1300℃までの温度範囲における引き上げ軸方向の結晶内温度勾配の平均値をG(℃/min)とするとき、V/G値を結晶中心位置と結晶外周から30mmまでの位置との間では0.20〜0.22mm2/℃・minとし、結晶外周から30mmまでの位置と結晶外周位置との間では0.20〜0.22mm2/℃・minとするか若しくは結晶外周に向かって漸次増加させることにより、熱酸化処理をした際にリング状に発生する酸化誘起積層欠陥をウェーハ中心部で消滅させ、且つウェーハ全面から転位クラスタを排除すると共に、結晶軸方向の温度勾配Gの変化に対してV/Gが一定になるように引き上げ速度Vを調整することを特徴とする。ここにおける引き上げ軸方向の結晶内温度勾配は、伝熱計算により求めた結晶表面での温度と、実結晶から固液界面形状を計測して得た固液界面での温度(シリコン融点)とを境界条件として、再度伝熱計算により算出した軸方向温度分布より正確に求められる。
【0030】
【作用】
本発明のウェーハ製造方法では、結晶径方向でV/G値が無欠陥領域のみを横切るようにCZ炉の温度分布を調節する。ここで無欠陥領域の下限値は、0.20mm2/℃・minで一定であり、上限値は、外周から30mmを除く部分においては、0.22mm2/℃・minで一定であり、外周から30mmまでの部分においては外周に向かって漸次増大している。従って、V/G値を結晶中心位置と結晶外周から30mmまでの位置との間では0.20〜0.22mm2/℃・minとし、結晶外周から30mmまでの位置と結晶外周位置との間では0.20〜0.22mm2/℃・minとするか若しくは結晶外周に向かって漸次増加させることにより、OSFリングが結晶中心部で消滅し、且つ転位クラスタを含まない低速育成結晶が得られる。
【0031】
一般に結晶内の軸方向温度勾配は中心部に比較して外周部が大きい。これは、CZ炉内の発熱部が結晶よりも下にあり、結晶の上方と周囲が低温部であることから、固液界面から流入した熱流が結晶中を引き上げ軸にそって上方及び結晶の表面方向(外周)に向かって流れることで、結晶が冷却されるためであり、結晶が冷却され易い炉ほど結晶表面からの放熱が大きく、外周部での温度勾配は大きくなる傾向がある。従って、結晶冷却能の大きい構造を有する一般のCZ炉では、一定の引き上げ速度で成長中の結晶内のV/Gの径方向分布は、中心から外周に向かって低下する傾向がある。このようなCZ炉では、中心部でV/G値が図2の無欠陥領域にあったとしても、外周に近づくとこの領域から外れ、転位クラスタが発生する領域を横切るため、転位クラスタの発生は避けられない。
【0032】
しかし逆に、結晶が冷却されにくいCZ炉は、熱流の方向が外周よりも主に上方に向かって流れ、逆に融点に近い高温部の結晶表面は、融液や石英坩堝、ヒーター等からの輻射によって、温度が相対的に高くなる傾向があるため、温度勾配は中心よりも若干低くなる。ただし、結晶表面からの放熱も少なからずあるため、無制限に温度勾配が小さくなることはない。このことから、結晶が冷却されにくい構造を有するCZ炉では、V/G値は径方向に一定か、もしくは若干増大し、無制限に増大しない傾向となる。従って、このようなCZ炉を使用し、且つ結晶中心部でV/G値を無欠陥領域に存在させておけば、V/G値は径方向全域において無欠陥領域から外れることはない。その結果、OSFリングが結晶の中心部で消滅した低速育成結晶でありながら、転位クラスタが発生しない単結晶が得られる。
【0033】
結晶内の融点に近い高温部における温度勾配は、結晶軸方向で必ずしも一定ではなく、トップ部からテイル部にかけて若干変化する。これは、結晶成長時に一定の直径を維持するためにヒーターパワーが変化することや、結晶長、残融液量等の変化によってCZ炉内の熱的な環境が徐々に変化することによって、結晶に流入流出する熱流が変化するためである。従って、従来のCZ法においては、引き上げ量の増大に伴う結晶軸方向の温度勾配の変化によってV/G値も変化し、発生する欠陥分布も軸方向にわずかずつ変化する(図3参照)。
【0034】
そこで、結晶軸方向の温度勾配Gの変化に対して、V/Gが一定になるように引き上げ速度Vを調整する(図5参照)。そうすることにより、軸方向全域においても全面無欠陥とすることが可能となる。このように、欠陥制御の目的で引き上げ速度を制御したとしても、結晶の直径制御は従来と同様に可能である。すなわち、ヒーターパワーの制御とそれと連動または独立に、欠陥制御のために必要な目標引上速度の周りで、数秒の時間毎に一定のスパンで引き上げ速度を変動させたとしても、平均の引き上げ速度Vは変わらず、目的とするV/G値は維持される。これは、このような短時間の引き上げ速度の変動に対して、欠陥の発生が影響されないためである。
【0035】
【実施例】
以下に本発明の実施例を説明する。
【0036】
18”石英坩堝及びカーボン坩堝が設置された6”単結晶の育成可能なCZ炉において、坩堝の周囲に設置された円筒状のカーボンヒーターと坩堝との相対位置、育成結晶の周囲に設置されたカーボンからなる厚さ5mm、開口径200mmの半円錐形状の輻射遮蔽体の先端と融液表面との距離、ヒータ周囲の断熱材構造等の種々条件を総合伝熱計算によって種々検討し、結晶外周から30mmまでの領域を除く部分においてはV/Gがほぼ一定で、外周から30mmまでの領域においては外周に向かってV/Gが単調に増大するように、上記条件を決定した。計算結果を図3に示す。図中の0,100…700mmは結晶引き上げ量である。
【0037】
上記条件を決定した後、18”石英坩堝に高純度多結晶シリコンを65kg入れ、ボロンをドープして、多結晶シリコンを加熱溶解し、直径が150mmで結晶成長方位が<100>の単結晶を引き上げ速度が0.45mm/minの低速で長さ1300mmまで育成した。
【0038】
育成後の結晶を結晶軸方向と平行に厚さ1.5mmで切り出し、HFおよびHNO3からなる混酸溶液中で加工歪を溶解除去し、さらに希HF溶液中に浸漬し、その後超純水でリンスし乾燥させた。このサンプルを800℃/4hr+1000℃/16hr乾燥酸素中で熱処理した後、X線トポグラフによって欠陥の発生分布を調べた。欠陥の分布を図4に示すが、調べた欠陥の分布は以下のように図3の計算結果に対応するものとなった。なお、図4中の数字は単結晶の肩からの長さで、図3中の引き上げ量に対応する。
【0039】
引き上げ速度Vと融点から1300℃までの結晶軸方向温度勾配の平均値Gとの比V/Gは、結晶の径方向に中心から45mmの位置まではほぼ一定値で、45mmの位置からは外周部に向かって単調に増大している。なお、中心から45mmの位置は外周から30mmの位置である。
【0040】
V/Gをこのように管理した結果、結晶トップから200mmまでの軸方向部位では、結晶中心部でのV/Gが0.20mm2/℃・min未満であり、径方向全域に転位クラスタが発生した。200mmから500mmにかけては、結晶中心部でのV/Gが0.22〜0.20mm2/℃・minとなっており、特に400mm近傍では結晶中心から45mmまでの領域でV/Gが0.22〜0.20mm2/℃・minに維持され、45mmから外側の領域でV/Gが単調に増加し、これらにより径方向全域でV/Gが無欠陥領域内に管理されたため、径方向全域でOSFリングや赤外散乱欠陥等のその他の有害なGrown-in欠陥の発生は見られなかった。500mmから結晶テールにかけての部位では、結晶中心部でのV/Gが0.22mm2/℃・minを超えたため、OSFリングが発生し、その内側には赤外散乱欠陥が発生した。
【0041】
このような結果をふまえて次に、図5に示すように、前記実施例における400mm近傍でのV/G曲線を結晶軸方向の全長において再現した。すなわち、結晶中心から45mmまでの領域でV/Gが0.22〜0.20mm2/℃・minに維持され、45mmから外側の領域でV/Gが単調に増加するように結晶軸方向での目標引き上げ速度を設定した。引き上げ速度を除く他の操業条件は前記実施例と同様に設定し、6”Bドープ<100>、結晶長1300mmの単結晶を育成した。前記実施例と同様の方法によってこの結晶内の欠陥の発生分布を調べた。トップ部からテイル部、すなわち直胴部の全長において、OSFリング、赤外散乱欠陥、転位クラスタの発生は見られなかった。
【0042】
【発明の効果】
以上に説明した通り、本発明のウェーハ製造方法によって、熱的に極めて安定でデバイス活性領域に残留または成長し、ゲート酸化膜の信頼性や接合リーグ特性を劣化させる有害なGrown-in欠陥(赤外散乱欠陥、OSFリング、転位クラスタ)を全面にわたって含まないために、高集積半導体素子に使用してその特性劣化を防ぎ、素子製造歩留の向上に寄与する高品質のCZシリコン単結晶ウェーハが容易に製造可能となる。
【図面の簡単な説明】
【図1】
CZ法で育成したシリコン単結晶ウェーハの欠陥分布を示す模式図である。
【図2】
横軸を結晶径方向位置とし縦軸をV/Gとしたときの両者の関係(V/G曲線)および欠陥分布を示す図表で、V/G曲線の傾きが欠陥の発生に及ぼす影響を示す。
【図3】
横軸を結晶径方向位置とし縦軸をV/Gとしたときの両者の関係(V/G曲線)および欠陥分布を示す図表で、V/G曲線のレベルが欠陥の発生に及ぼす影響を示す。
【図4】
結晶軸を含む平面での欠陥分布を示す模式図である。
【図5】
横軸を結晶径方向位置とし縦軸をV/Gとしたときの両者の関係(V/G曲線)および欠陥分布を示す図表で、軸方向全長にわたって欠陥の発生を防止する場合を示す。
 
訂正の要旨 訂正明細書に記載のとおり、▲1▼ 特許請求の範囲の訂正、▲2▼ 明細書の発明の名称の訂正、▲3▼ 段落0001の訂正、▲4▼ 同0017の訂正、▲5▼ 同0029の削除、▲6▼ 同0030の訂正、▲7▼ 同0031の削除、▲8▼ 同0032の訂正及び▲9▼ 同0044の訂正。
異議決定日 2003-03-12 
出願番号 特願平7-158458
審決分類 P 1 652・ 55- YA (H01L)
P 1 652・ 121- YA (H01L)
P 1 652・ 113- YA (H01L)
最終処分 維持  
前審関与審査官 五十棲 毅  
特許庁審判長 沼沢 幸雄
特許庁審判官 野田 直人
唐戸 光雄
登録日 2000-07-07 
登録番号 特許第3085146号(P3085146)
権利者 三菱住友シリコン株式会社
発明の名称 シリコン単結晶ウェーハ製造方法  
代理人 好宮 幹夫  
代理人 生形 元重  

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