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審決分類 |
審判 一部申し立て 1項3号刊行物記載 C09K |
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管理番号 | 1077914 |
異議申立番号 | 異議2000-74558 |
総通号数 | 43 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 1992-12-10 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2000-12-25 |
確定日 | 2003-03-18 |
異議申立件数 | 1 |
訂正明細書 | 有 |
事件の表示 | 特許第3055815号「シリカスケールの防止」の請求項1ないし3、5ないし7に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 |
結論 | 訂正を認める。 特許第3055815号の請求項1ないし3、5ないし7に係る特許を取り消す。 |
理由 |
1.手続の経緯 本件特許第3055815号の発明は、平成3年5月23日に出願され、平成12年4月14日にその特許の設定登録がなされ、その後、西川武則による特許異議の申立てがあり、取消理由通知後、その指定期間内である平成14年2月25日に訂正請求がなされたものである。 2.訂正の適否 (1)訂正の要旨 ア.訂正事項1.特許請求の範囲の請求項1を下記のとおり訂正する。 「【請求項1】 水性系におけるシリカまたは珪酸塩の形成を防止するための方法であって、前記系に、 a)重量平均分子量約1000〜約25000の、(メタ)アクリル酸またはマレイン酸またはそれらの塩の水溶性コポリマーまたはターポリマー、 但し、コポリマーは 1)約20〜約85重量%の(メタ)アクリル酸と、 2)約11重量%よりも多く、約80重量%までの(メタ)アクリルアミドメチルプロパンスルホン酸またはスチレンスルホン酸、または 3)約30〜約60重量%のイソブチレンまたはジイソブチレンとから構成されており、各成分の和が100%に等しく;または 1)約20〜約85重量%のマレイン酸と、 2)約11重量%よりも多く、約80重量%までの(メタ)アクリルアミドメチルプロパンスルホン酸、または 3)約15〜約30重量%の(メタ)アクリルアミドまたは置換(メタ)アクリルアミド、または 4)約30〜約60重量%のジイソブチレンとから構成されており、各成分の和が100%に等しく;そしてターポリマーは 1)約30〜約80重量%の(メタ)アクリル酸またはマレイン酸と、 2)約11重量%よりも多く、約65重量%までの(メタ)アクリルアミドメチルプロパンスルホン酸またはスチレンスルホン酸と、 3)約5〜約30重量%の(メタ)アクリルアミドまたは置換(メタ)アクリルアミド、または 4)約5〜約30重量%のビニルアルコール、アリルアルコール、ビニルもしくはアリルアルコールのエステル、ビニルエステル、スチレン、イソブチレンまたはジイソブチレン、または 5)(メタ)アクリルアミドメチルプロパンスルホン酸が存在する場合に約3〜約30重量%のスチレンスルホン酸とから構成されており、各成分の和が100%に等しく、 b)マグネシウムイオン、 c)前記コポリマー、重量平均分子量約1000〜約25000の約20〜約85重量%の(メタ)アクリル酸と約15〜約30重量%の(メタ)アクリルアミドもしくは置換(メタ)アクリルアミドとのコポリマー、またはターポリマーと、アルミニウムイオンもしくはマグネシウムイオンとの混合物、 d)重量平均分子量約1000〜約25000のポリメタアクリル酸もしくはそれらの塩とアルミニウムイオン、ポリアクリル酸もしくはそれらの塩とマグネシウムイオン、またはポリマレイン酸もしくはそれらの塩とアルミニウムイオンもしくはマグネシウムイオンとの混合物、 からなる群から選択されたスケール抑制剤の有効量を添加することを特徴とする前記方法。」 イ.訂正事項2.明細書の段落[0017]における「膨大の数」を「膨大な数」と訂正する。 ウ.訂正事項3.明細書の第1表におけるNo.15及び16を比較例とする。 エ.訂正事項4.明細書の段落[0057]における「スケルー」を「スケール」と訂正する。 (2)訂正の目的の適否、新規事項の有無及び拡張・変更の存否 訂正事項1は、請求項1における(メタ)アクリル酸とコポリマーを構成するモノマーから、「3)約15〜約30重量%の(メタ)アクリルアミドまたは置換(メタ)アクリルアミド」を削除し、それに伴い番号を繰り上げ「4)」を「3)」にすると共に、コポリマーを特定するc)の要件に、削除された内容が及ばないように書き直したものであり、c)の要件には実質的な変更はなく、かつ、d)の要件の一部を削除する訂正であるから、特許請求の範囲の減縮ならびに不明瞭な記載の釈明を目的としたものである。 訂正事項2および4は、単なる誤記の訂正であり、訂正事項3は、訂正事項1の訂正に伴って、発明の詳細な説明の欄における実施例の一部が比較例になったことを明確にし特許請求の範囲の記載と明細書の記載を整合させたものであるから明瞭でない記載の釈明に相当するものである。 したがって、この訂正は、願書に添付した明細書に記載した事項の範囲内のものであり、実質上特許請求の範囲を拡張又は変更するものではない。 (3)むすび よって、上記訂正は、特許法第120条の4第3項において準用する平成6年法律第116号による改正前の第126条第1項ただし書、第2項及び第3項の規定に適合するので、当該訂正を認める。 3.特許異議の申立について (1)異義申し立ての概要 申立人は甲第1号証(特開昭50-86489号公報)、甲第2号証(特開昭63-156599号公報)および甲第3号証(特開昭61-42400号公報)を提示し、本件請求項1〜3,5〜7に係る発明は、甲第1号証、甲第2号証および甲第3号証に記載された発明であるか、あるいは甲号各証の記載に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第1項第3号または同条第2項の規定により特許をうけることができないものであると主張している。 (2)本件請求項1〜3,5〜7に係る発明 上記2.で示したように上記訂正が認められるので、本件請求項1〜3,5〜7に係る発明は、訂正明細書の特許請求の範囲の請求項1〜3,5〜7に記載された事項に特定される下記のとおりのものである。 「【請求項1】(上記訂正事項1参照。) 【請求項2】前記(メタ)アクリルアミドメチルプロパンスルホン酸が式 【化1】 (式中、RはHまたはCH3であり、XはHまたは金属陽イオンであり、R2はC1-8アルキルまたはフェニルであり、そしてR3はHまたはC1-4アルキルである)を有することを特徴とする、請求項1に記載の方法。 【請求項3】前記置換(メタ)アクリルアミドが式 【化2】 (式中、R1はHまたはCOOXであり、XはHまたは金属陽イオンであり、R4およびR5はHまたはC1-8アルキルのどちらかであるが、両方ともHであることはできない、そしてRはHまたはCH3である)を有することを特徴とする、請求項1に記載の方法。 【請求項5】前記水溶性コポリマーまたはターポリマーが重量平均分子量約2000〜約10000を有している、請求項1に記載の方法。 【請求項6】前記水溶性ターポリマーが約45〜約67重量%のアクリル酸と、約17〜約40重量%の2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸と、約5〜約30重量%の、アクリルアミド、置換アクリルアミド、ビニルアルコール、アリルアルコール、ビニルまたはアリルアルコールのエステル、ビニルエステル、酢酸ビニル、およびスチレンからなる群から選択された第三の単位とから構成されている、請求項1に記載の方法。 【請求項7】前記水溶性ターポリマーが約45〜約75重量%のアクリル酸と、約17〜約40重量%の2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸と、約4〜約10重量%のスチレンスルホン酸とから構成されている、請求項1に記載の方法。」 (3)刊行物に記載された発明 当審で通知した取消理由で引用した刊行物1(特開昭50-86489号公報、甲第1号証)には、「少なくとも沈殿阻害量の2-アクリルアミド-2-メチルプロピルスルホン酸とアクリル酸との共重合体を添加することを特徴とする水性系におけるスケール生成塩の沈殿阻害方法」(特許請求の範囲)に係る発明が記載され、「ほとんどの工業用水はカルシウム、バリウム、マグネシウム等のアルカリ土類金属カチオンおよび重炭酸塩、炭酸塩、硫酸塩、シュウ酸塩、リン酸塩、ケイ酸塩、フッ化物等のアニオンを含んでいる。これらのアニオンとカチオンとの化合がそれらの反応生成物の溶解度を超える濃度で存在する場合にこれらの生成物の溶解度濃度がもはや越えなくなるまで沈殿が生成する。」(1頁左欄18行〜右欄6行)と記載され、さらに「我々は2-アクリルアミド-2-メチルプロピルスルホン酸およびアクリル酸の共重合体が工業用水のような水性系におけるスケール生成および沈殿を阻害するのに有効であることを見出した。これらの共重合体は約1,000〜100,000の分子量を有し2-アクリルアミド-2-メチルプロピルスルホン酸約5×75モル%およびアクリル酸約95×25モル%を含有することができる。」(2頁左下欄6行〜14行)と説明されている。 刊行物2(特開昭63-156599号公報、甲第2号証)には、「水性媒体を処理する方法であって、(a)20〜95重量%の3〜5個の炭素原子を有する少なくとも1種のモノ不飽和カルボン酸またはその塩、(b)1〜60重量%の少なくとも1種のアクリルアミドアルカンスルホン酸またはその塩、および (c)100重量部までの残りを、下式、 (上式中、R1は水素およびメチル基より選ばれ、およびR2並びにR3は個々に水素および1〜12個の炭素原子を含む置換並びに非置換アルキル基より選ばれ、このアルキル基上の置換基は、アルキル、アリール、カルボキシル、およびケト基より選ばれ、R2またはR3のどちらかあるいは両方とも水素以外であるよう与えられる)に規定される置換アクリルアミド一次コモノマー、の水溶性コポリマー(このコポリマーは各群(a)、(b)および(c)より選ばれた少なくとも1種のモノマーを含み、約1,000〜100,000の範囲の重量平均分子量を有する)を約0.5〜500ppm水性媒体に加える工程を含んでなる方法。(請求項1)」 および「(a)20〜95重量%の3〜5個の炭素原子を有する少なくとも1種のモノ不飽和カルボン酸またはその塩、(b)1〜60重量%の少なくとも1種のアクリルアミドアルカンスルホン酸またはその塩、および(c)100重量%までの残りを少なくとも1種の一次共重合性モノマー、の水溶性コポリマーを0.5から500ppm水溶性媒体に加える工程を含んでなる、前記水性媒体を処理する方法であって、前記コポリマーが1,000〜100,000の重量平均分子量を有し、前記一次共重合性モノマーが、・・・・、スチレンスルホン酸、・・・ビニルカルボキシレート・・より選ばれ、(中途、略)のように規定される方法」(請求項7)が記載され、請求項13には、前記コポリマーとして、(b)重量比60/20/20のAA(アクリル酸)/AMPS(2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸)/t-BuAm(三級ブチルアクリルアミド)、(h)50/30/20のAA/VOAc(酢酸ビニル)/AMPS、からなるものが記載されている。 また、大部分の工業用水が含む多くの陰イオンの一つに珪酸塩があることが挙げられている(5頁左上欄11〜15行)。 (4)対比及び判断 (請求項1に係る発明について) 刊行物1および2には、本件請求項1の記載に含まれる、組成、重量平均分子量を同じくするコポリマーおよびターポリマーを水性系に有効量添加するスケール形成を防止する方法が記載されている。刊行物1及び2には、シリカスケールを防止するとの具体的記載はないが、工業用水に珪酸塩が含まれ、これもスケールの一因になることは刊行物1及び2の記載に見られるように普通に知られていることであり、本件請求項1に係る発明と刊行物1及び2に記載の発明の実施の態様は同じであるから、刊行物1及び2に記載の発明を実施すれば、硫酸カルシウムや炭酸カルシウムのみならず、結果的にはシリカスケールをも防止することになる。 してみれば、本件請求項1に係る発明は、刊行物1及び2に記載の発明が既に有していた効果を単に確認しただけで、発明としては刊行物1及び2に記載の発明と同一であるといわざるを得ない。 (請求項2及び3に係る発明について) 刊行物1及び2に記載されている2-アクリルアミド-2-メチルプロピルスルホン酸は本件の請求項2に記載の式【化1】の範疇のものであり、刊行物2の請求項1に記載の(c)式で表される置換アクリルアミド一次コモノマーと、本件請求項3に記載の式【化2】とは、同じ化合物であるから、これらの化合物を用いてスケール形成を防止する方法は、上記の「請求項1に係る発明について」と同様に解され、本件請求項2および3に係る発明は刊行物1及び/または刊行物2に記載された発明である。 (請求項5に係る発明について) 重量平均分子量が約2000〜10000のコポリマーおよびターポリマーは刊行物1及び2に記載されている。よって、上記と同様に解され、本件請求項5に係る発明も刊行物1及び2に記載された発明である。 (請求項6及び7に係る発明について) 上記刊行物2記載の「(b)重量比60/20/20のAA/AMPS/t-BuAmおよび(h)50/30/20のAA/VOAc/AMPS」のターポリマーは請求項6に記載されるものと同じであり、また刊行物2の請求項7に記載のターポリマーは請求項7に記載されるものと同一であるので、上記と同様に解され、本件請求項6及び7に係る発明は刊行物1及び2に記載された発明である。 4.むすび 以上のとおり、本件請求項1〜3、5〜7に係る発明は、刊行物1及び/又は刊行物2に記載された発明であるから、該発明に係る特許は、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。 したがって、本件請求項1〜3、5〜7に係る発明についての特許は、特許法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。 よって、結論のとおり決定する。 |
発明の名称 |
(54)【発明の名称】 シリカスケールの防止 (57)【特許請求の範囲】 【請求項1】 水性系におけるシリカまたは珪酸塩の形成を防止するための方法であって、前記系に、 a)重量平均分子量約1000〜約25000の、(メタ)アクリル酸またはマレイン酸またはそれらの塩の水溶性コポリマーまたはターポリマー、但し、コポリマーは、 1)約20〜約85重量%の(メタ)アクリル酸と、 2)約11重量%よりも多く、約80重量%までの(メタ)アクリルアミドメチルプロパンスルホン酸またはスチレンスルホン酸、または 3)約30〜約60重量%のイソブチレンまたはジイソブチレンとから構成されており、各成分の和が100%に等しく;または 1)約20〜約85重量%のマレイン酸と、 2)約11重量%よりも多く、約80重量%までの(メタ)アクリルアミドメチルプロパンスルホン酸、または 3)約15〜約30重量%の(メタ)アクリルアミドまたは置換(メタ)アクリルアミド、または 4)約30〜約60重量%のジイソブチレンとから構成されており、各成分の和が100%に等しく;そしてターポリマーは 1)約30〜約80重量%の(メタ)アクリル酸またはマレイン酸と、 2)約11重量%よりも多く、約65重量%までの(メタ)アクリルアミドメチルプロパンスルホン酸またはスチレンスルホン酸と、 3)約5〜約30重量%の(メタ)アクリルアミドまたは置換(メタ)アクリルアミド、または 4)約5〜約30重量%のビニルアルコール、アリルアルコール、ビニルもしくはアリルアルコールのエステル、ビニルエステル、スチレン、イソブチレンまたはジイソブチレン、または 5)(メタ)アクリルアミドメチルプロパンスルホン酸が存在する場合に約3〜約30重量%のスチレンスルホン酸とから構成されており、各成分の和が100%に等しく、 b)マグネシウムイオン、 c)前記コポリマー、重量平均分子量約1000〜約25000の約20〜約85重量%の(メタ)アクリル酸と約15〜約30重量%の(メタ)アクリルアミドもしくは置換(メタ)アクリルアミドとのコポリマー、またはターポリマーと、アルミニウムイオンまたはマグネシウムイオンとの混合物、 d)重量平均分子量約1000〜約25000の、ポリメタアクリル酸もしくはそれらの塩とアルミニウムイオン、ポリアクリル酸もしくはそれらの塩とマグネシウムイオン、またはポリマレイン酸もしくはそれらの塩とアルミニウムイオンもしくはマグネシウムイオンとの混合物、 からなる群から選択されたスケール抑制剤の有効量を添加することを特徴とする前記方法。 【請求項2】 前記(メタ)アクリルアミドメチルプロパンスルホン酸が式 【化1】 (式中、RはHまたはCH3であり、XはHまたは金属陽イオンであり、R2はC1-8アルキルまたはフェニルであり、そしてR3はHまたはC1-4アルキルである)を有することを特徴とする、請求項1に記載の方法。 【請求項3】 前記置換(メタ)アクリルアミドが式 【化2】 (式中、R1はHまたはCOOXであり、XはHまたは金属陽イオンであり、R4およびR5はHまたはC1-8アルキルのどちらかであるが、両方ともHであることはできない、そしてRはHまたはCH3である)を有することを特徴とする、請求項1に記載の方法。 【請求項4】 前記ビニルエステルが式 【化3】 [式中、RはHまたはCH3であり、R6はC1-6アルキル、C6-10アリールもしくはアラルキル、または(CH2-CRH-O)nR7であり、nは1〜3であり、R7はHまたはC1-6アルキル、またはPO3Xであり、XはHまたは金属陽イオンである]を有することを特徴とする、請求項1に記載の方法。 【請求項5】 前記水溶性コポリマーまたはターポリマーが重量平均分子量約2000〜約10000を有している、請求項1に記載の方法。 【請求項6】 前記水溶性ターポリマーが約45〜約67重量%のアクリル酸と、約17〜約40重量%の2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸と、約5〜約30重量%の、アクリルアミド、置換アクリルアミド、ビニルアルコール、アリルアルコール、ビニルまたはアリルアルコールのエステル、ビニルエステル、酢酸ビニル、およびスチレンからなる群から選択された第三の単位とから構成されている、請求項1に記載の方法。 【請求項7】 前記水溶性ターポリマーが約45〜約75重量%のアクリル酸と、約17〜約40重量%の2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸と、約4〜約10重量%のスチレンスルホン酸とから構成されている、請求項1に記載の方法。 【請求項8】 マグネシウムイオンが塩化マグネシウムまたは硫酸マグネシウムに由来する、請求項1に記載の方法。 【発明の詳細な説明】 【0001】 【産業上の利用分野】 本発明は水性系中でのシリカおよび珪酸塩の付着問題を制御するための方法に関する。特に、本発明は表面上に珪酸マグネシウムやその他の珪酸塩やシリカスケールが堆積するのを抑制するために特定の低分子量の水溶性の(メタ)アクリル酸系またはマレイン酸系重合体とアルミニウムイオンまたはマグネシウムイオンを使用することに関する。 【0002】 【発明の背景】 シリカは水を使用する多くのプロセスにおける重大な付着問題の一つである。シリカは条件に依存して多数の低溶解度の化学的形態をとることができるので取扱が難しい。たとえば、約7未満のpHでは、単量体シリカが重合してオリゴマーまたはコロイドシリカになる傾向がある。もっと高いpH、特に、約9.5より高いpHでは、シリカは単量体珪酸イオンを生成することができる。転化は遅いことがあるので、系の履歴に依存する或る時点で、これら形態の全てが存在するかも知れない。さらに、珪酸イオンはプロセス水中に普遍的に存在するマグネシウムやカルシウムような多価陽イオンと反応して溶解度の非常に限られた塩を生成する。従って、単量体シリカ、オリゴマーシリカ、およびコロイドシリカ;珪酸マグネシウム、珪酸カルシウム、およびその他の珪酸塩など、多数の形態の混合物が存在することは普通である。この複雑な系を記述するに際して、混合物を単にシリカとして又はシリカと珪酸塩として呼びならわしている。本願明細書中でも、これら用語は互換性をもって使用されている。 【0003】 シリカや珪酸塩の付着が蔓延するのを防止するにあたって更に複雑なことは、コロイドシリカは温度上昇と共により可溶性になる傾向があるのに、珪酸イオンの多価金属塩は温度増加と共により可溶性でなくなる傾向があることである。 【0004】 プロセス中にシリカまたは珪酸塩が表面に付着または堆積するのを押さえるための2つの可能なメカニズムは、1)プロセス水から沈澱物が析出するのを抑制すること; および、2)沈澱物が一度、大量の水の中に形成されたら、それが表面に取り付くのを防止するために、それを分散させることである。しかし、具体的なスケール抑制剤が機能するところの正確なメカニズムは十分に理解されていない。本発明の添加剤はこれら方途のどちらかによって又は両方によって作用するのであろう。 【0005】 水からシリカまたは珪酸塩が堆積するのを抑制できる物質から利益を受けそうなプロセスは、たとえば、冷却水、ボイラー水、電気を発生させるための又は加熱のための地熱プロセス、および、砂糖(特に、カンショ糖およびビート糖)加工である。これらプロセスのどれにおいても、熱が水へ又は水から伝達される。これらのうち、3つのプロセス、すなわち、冷却水、ボイラー水、および砂糖加工においては、水に熱が加わり、そして水の一部蒸発が起こる。水が蒸発するとシリカ(または珪酸塩)が濃縮されるであろう。シリカ濃度がその溶解度を越すと、シリカは堆積してガラス質被膜または密着スケールいずれかになり、それは通常、労力のかかる機械的または化学的清浄によってしか除去できない。地熱プロセスの場合には、シリカまたは珪酸塩を多量に帯びた熱水は家庭や工場への熱供給に使用されるか、または蒸気に変換されてタービンを駆動し電気を発生させる。上記の4つのプロセスのどれにおいても或る時点で、水から熱が抽出され、それによって、溶解していた珪酸塩はより溶解性できなくなり、従って、表面に堆積するらしい。 【0006】 これら4つのそれぞれのプロセスで現在実施されていることは水中に蓄積するシリカまたは珪酸塩の量を、これら化合物の堆積という破局的結果が起こらないように、機械的に制限することである。たとえば、冷却水において許容できる実施はシリカまたは珪酸塩の量を、SiO2として表わして約180ppmに制限するものである。さらに、CaCO3(これはシリカまたは珪酸塩に対する中和剤として作用して堆積することがある)の堆積は周知の抑制剤、たとえばホスホン酸塩や、ポリアクリル酸またはポリマレイン酸のような重合体、によって蔓延を防止されている。報告されているように、冷却水中にシリカまたは珪酸塩が蔓延するのを防止するために現時点で入手可能な最良の重合体は重量平均分子量約1000〜1300のポリマレイン酸である。シリカは180ppmに制限されるのに、米国の多数の乾燥地域および世界のその他地域では補給水は50〜90ppmのシリカを含有しているので、冷却水はシリカまたは珪酸塩の堆積の危険性が大きくなり過ぎるまでに2〜3倍に濃縮できるに過ぎない。このシリカを制限される冷却水の繰り返し使用または循環を大きくできる重合体はこれら地域には非常に有益であろう。 【0007】 同様に、ボイラー水においては、アメリカ機械技師協会ASME(AmericanSociety of Mechanical Engineers)はシリカをボイラーの操作圧に依存する或るレベルに制限することを推奨している。例えば、低圧ボイラー(300psig未満)では、シリカの量を、SiO2として、150ppm未満に維持すべきである。圧力が上昇するにつれて、再循環ボイラーにおいて許容できるシリカのレベルは漸次低下する。ボイラー、特に、シリカ揮発が大きく関与しない低圧ボイラーを、より高い濃縮サイクルで操作できるようにする重合体は熱水のより良いエネルギー効率の使用を可能にする。 【0008】 製糖、特に、シリカのレベルが非常に高くなるカンショ糖の製造においては、シュガー・エバポレーターはシリカの過度の堆積を防止するために約2〜3か月後には清浄にしている。通常、清浄はシリカやその他の塩を除去するために粗い化学物質を用いて激しく機械的にブラッシングすることを含む。清浄化を行うまでの砂糖蒸発加工期間の長さを延長できる又は清浄を骨の折れないものにする抑制剤はエバポレーターの寿命を延ばし、そして季節中の生産量を増大させる。 【0009】 地熱プロセスは、現状では、装置表面上へのシリカの堆積を防止する手法として、温度降下を制御している。シリカ堆積を押さえる抑制剤はこのプロセスでの温度降下をより大きくすることを可能にし、そして地熱生成水における熱のより効率的な使用を可能にする。 【0010】 シリカまたは珪酸塩による表面汚染を防止することの他に、この汚染物に対する抑制剤または分散剤は腐食制御用に高レベルのシリカ/珪酸塩の使用を可能にする。飲用水では、鉄金属から成る水道主管の水腐食による「赤水」を防止するために、水に珪酸塩を添加している。冷却水では、無毒の腐食防止剤としてシリカを使用することを可能にするような抑制剤が長い間探究されていた。 【0011】 向上した油採収においては、地層中を油が移動するのを助けるドライブ流体に珪酸塩が添加されている。有効なシリカ抑制剤は地層が金属イオン珪酸塩で閉塞するのを防止し、従って、地下の地層から油を効率よく採収することを可能にする。 【0012】 シリカまたは珪酸塩抑制剤または分散剤を必要とするその他のプロセスは、洗濯、清掃および食器洗いのような洗剤適用分野である。洗濯では、シリカ抑制剤は、水中の天然珪酸塩による又はビルダーとして洗剤配合物に添加された珪酸塩によるカサブタ様付着や硬直化が布に生じるのを防止する。抑制剤は洗濯機器の表面たとえば加熱要素や給排水系統の上にシリカまたは珪酸塩が堆積するのを防止するという追加の利点を有する。食器洗いでも、珪酸塩はビルダーとして添加されており、そしてスケールや、洗濯におけると同様のカサブタ様付着を生じさせることがある。 【0013】 (メタ)アクリル酸系およびマレイン酸系重合体は長い間、水処理に使用されてきた。特に、(メタ)アクリル酸と2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸(AMPS)とのコポリマーおよびターポリマーが硫酸塩や炭酸塩や燐酸塩のスケールを抑制するため及び錆除去のようなその他の処置のために提起されている。例えば、米国特許第3,332,904号;第3,692,673号;第3,709,815号;第3,709,816号;第3,928,196号;第3,806,367号;および第3,898,037号はAMPS含有重合体を使用することに関する。英国特許第2,082,600号はアクリル酸/AMPS/アクリルアミド重合体を提起し、そしてWO第83/02607号およびWO第83/02608号はこれらスケールの抑制剤としての(メタ)アクリル酸/AMPSコポリマーに関する。 【0014】 さらに、米国特許第4,711,725号は燐酸カルシウムの沈澱を抑制するために(メタ)アクリル酸/AMPS/置換アクリルアミドのターポリマーを使用することに関する。 【0015】 シリカおよび珪酸塩のスケール化を抑制することは幾つかの刊行物に詳しく言及されている。米国特許第4,029,577号は珪酸マグネシウムや珪酸カルシウムを含めて広汎なスケール付与沈澱物の蔓延を防止するためにアクリル酸/ヒドロキシル化低級アルキルアクリレートコポリマーを使用することに関する。米国特許第4,499,002号は同じ目的の(メタ)アクリル/(メタ)アクリルアミド/(メタ)アクリル酸のアルコキシル化第一アルコールエステルを開示している。特開昭61-107997号および特開昭61-107998号はシリカスケールの蔓延を防止するためのポリアクリルアミドと選択した(メタ)アクリル酸コポリマーに関する。 【0016】 用語コポリマーは刊行物中で広く使用されているが、常に同じ意味で使用されているわけではなく、或る時は2種の単量体だけからの重合体を意味し、或る時は2種またはそれ以上からの重合体を意味している。曖昧になるのを避けるために、本発明に使用されるときの用語コポリマーは2種の単量体だけから誘導された重合体として定義され、そしてターポリマーは3種またはそれ以上の単量体から誘導された重合体である。 【0017】 スケール抑制剤の分野における膨大な数の刊行物にもかかわらず、厄介なシリカおよび珪酸塩スケールの蔓延を防止する有効な方法は提供されていない。水性系中に導入または蓄積されるシリカの量を制限することが、未だに、この問題を処置するための第一の方法である。 【0018】 従って、本発明の目的は水性系におけるシリカ堆積を効率的に抑制する方法を提供することである。 【0019】 本発明の目的は、系中に蓄積を許されるシリカの濃度を制限することによって又はシリカ堆積物を労力で除去することによってシリカスケールを処置している機械的手法に代わって、添加剤を使用する化学的方法を提供することである。 【0020】 【発明の概要】 本発明者らは、困難なシリカおよび珪酸塩スケール問題が水性系に1種またはそれ以上の選択物質を添加することによって制御できることを、予想に反して、見出した。選択された物質は次の通りである: a)特定の低分子量の(メタ)アクリル酸系またはマレイン酸系コポリマーまたはターポリマー、およびそれらの塩、または b)マグネシウムイオン、または c)アルミニウムイオンまたはマグネシウムイオンと組み合わされた、(a)のコポリマー並びにターポリマー、または d)アルミニウムイオンまたはマグネシウムイオンと組み合わされた、低分子量のポリアクリル酸またはポリマレイン酸またはそれらの塩。 【0021】コポリマーは、 1)約20〜約85重量%の(メタ)アクリル酸と、 2)約11重量%よりも多く、約80重量%までの(メタ)アクリルアミドメチルプロパンスルホン酸またはスチレンスルホン酸、または 3)約30〜約60重量%のイソブチレンまたはジイソブチレンとから構成されており、各成分の和が100%に等しく;または 1)約20〜約85重量%のマレイン酸と、 2)約11重量%よりも多く、約80重量%までの(メタ)アクリルアミドメチルプロパンスルホン酸、または 3)約15〜約30重量%の(メタ)アクリルアミドまたは置換(メタ)アクリルアミド、または 4)約30〜約60重量%のジイソブチレンに由来する単位を含有している。 【0022】 ターポリマーは、 a)約30〜約80重量%の(メタ)アクリル酸またはマレイン酸と、 b)約11超〜約65重量%の(メタ)アクリルアミドメチルプロパンスルホン酸またはスチレンスルホン酸と、 c)約5〜約30重量%の(メタ)アクリルアミドまたは置換(メタ)アクリルアミド、または d)約5〜約30重量%のビニルアルコール、アリルアルコール、ビニルエステル、ビニルもしくはアリルアルコールのエステル、スチレン、イソブチレンまたはジイソブチレン、または e)(メタ)アクリルアミドメチルプロパンスルホン酸が存在する場合に約3〜約30重量%のスチレンスルホン酸に由来する単位を含有している。 【0023】 本明細書中では、用語(メタ)アクリルはアクリルまたはメタクリルどちらかを意味し、用語(メタ)アクリルアミド基はアクリルアミド基またはメタクリルアミド基どちらかを意味し、そして用語(メタ)アクリルアミドはアクリルアミドまたはメタクリルアミドどちらかを意味する。 【0024】 【発明の詳細】 本発明によれば、水性系中にシリカおよび珪酸塩のスケールが蔓延するのを防止するための方法は水性系に、下記のうちの一つをスケール抑制量で添加することからなる: 【0025】 1.重量平均分子量約1000〜25000の、より好ましくは、約2000〜約10000の、低分子量の、(メタ)アクリル酸系またはマレイン酸系コポリマーまたはターポリマー。 【0026】 コポリマーは a)約20〜約85重量% の、構造式(A) 【化4】 【0027】 式中、RはHまたはCH3であり、R1はHまたはCOOXであり、そしてXはHまたは金属陽イオンである、 【0028】 によって表わされる(メタ)アクリル酸またはマレイン酸と、 b)約11超〜約80重量%の、構造式(B) 【化5】 【0029】 式中、RはHまたはCH3であり、XはHまたは金属陽イオンであり、R2はC1-8アルキルまたはフェニルであり、そしてR3はHまたはC1-4アルキルである、 【0030】 を有する(メタ)アクリルアミドメチルプロパンスルホン酸、またはスチレンスルホン酸、または c)約15〜約30重量%の(メタ)アクリルアミドまたは式(C) 【化6】 【0031】 式中、RはHまたはCH3であり、R1はHまたはCOOXであり、XはHまたは金属陽イオンであり、そしてR4およびR5はHまたはC1-8アルキルどちらかであるが、両方ともHであることはできない、 【0032】 によって表わされる置換(メタ)アクリルアミド、または d)約30〜約60重量%のイソブチレンまたはジイソブチレンとから構成される。 【0033】 ターポリマーは a)約30〜約80重量%の、式(A)によって表わさる(メタ)アクリル酸またはマレイン酸と、 b)約11超〜約65重量%の、構造式(B)を有する(メタ)アクリルアミドメチルプロパンスルホン酸、またはスチレンスルホン酸と、 c)約5〜約30重量%の(メタ)アクリルアミドまたは式(C)によって表わされる置換(メタ)アクリルアミド、または d)約5〜約30重量%のビニルアルコール、アリルアルコール、ビニルもしくはアリルアルコールのエステル、ビニルエステル、スチレン、イソブチレンまたはジイソブチレン、但し、ビニルエステルは式(E) 【化7】 【0034】 式中、R6はC1-6アルキル、C6-10アリールもしくはアラルキル、またはたは(CH2-CRH-O)nR7であり、R7はHまたはC1-6アルキルまたはPO3Xであり、そしてXはHまたは金属陽イオンであり、RはHまたはCH3であり、そしてnは1〜3である、 【0035】 によって表わされる:または e)(メタ)アクリルアミドメチルプロパンスルホン酸が存在する場合に約3〜約30重量%のスチレンスルホン酸とから構成される。 【0036】 ここで使用されるとき、ビニルもしくはアリルアルコールのエステルは(C1〜C4)アルカン酸とビニルもしくはアリルアルコールとの反応生成物、たとえば酢酸ビニルのような、を包含する。 【0037】 ターポリマーは3種より多い単量体、すなわち、aからの1種と、bからの1種と、c、d、およびeからの2種またはそれ以上とから誘導されてもよい。 【0038】 2.コポリマーまたはターポリマーと、アルミニウムイオンまたはマグネシウムイオンとの混合物。但し、コポリマーおよびターポリマーは1に記載されているものである。Al+3イオンおよびMg+2イオンはAlまたはMgの塩化物や硫酸塩や硝酸塩のような水溶性塩によって付与できる。混合物の成分は予め混合することも可能であるし、又は個別に水性系に添加することも可能である。 【0039】 3.重量平均分子量約1000〜約25000の、ポリメタアクリル酸もしくはそれらの塩とアルミニウムイオン、ポリアクリル酸もしくはそれらの塩とマグネシウムイオン、またはポリマレイン酸もしくはそれらの塩とアルミニウムイオンもしくはマグネシウムイオンとの混合物、このポリマーは構造式(A)によって表わされる単位に由来する。 【0040】 4.マグネシウムイオン 水溶性マグネシウム塩が適する;例は塩化マグネシウム、硫酸マグネシウム、および硝酸マグネシウムである。 【0041】 既にマグネシウムイオンが存在している水性系にマグネシウムイオンを添加することがシリカおよび珪酸塩のスケール化を減少できるという発見は実に驚くべきことである。 【0042】 本発明者らは好ましい添加剤が、(1)アクリル酸と、AMPSと、置換アクリルアミド、酢酸ビニル、スチレン、またはスチレンスルホン酸とのターポリマー、(2)マレイン酸とスチレンスルホン酸とのコポリマー、および(3)塩化マグネシウムであることを解明した。最も好ましいのは、45〜67%のアクリル酸と、17〜40%のAMPSと、5〜30%のt-ブチルアクリルアミド、酢酸ビニル、スチレン、またはスチレンスルホン酸とのターポリマーである。 【0043】 「スケール抑制量」を与える添加剤の量は処理される水性系によって変動するであろう。一般には、その量は0.1〜500ppmの範囲にある。 【0044】 ポリマー合成先行技術は本発明に有効な低分子量の(メト)アクリル酸系およびマレイン酸系ポリマーを製造するのに適する幾つかの合成方法を開示している。 【0045】 米国特許第4,314,004号はかかる適するコポリマー合成法の一つに関するものであり、その開示は本願明細書の記載の一部として組み入れられる。この方法は本発明に有効な所定の低分子量の重合体を得るには、重合開始剤の特定濃度範囲、および、開始剤濃度と或る金属塩の濃度との特定モル比範囲を要求する。好ましい重合開始剤は過硫酸アンモニウム、過硫酸カリウム、過酸化水素、およびt-ブチルヒドロペルオキシドのような過酸化物化合物である。開始剤の好ましい濃度範囲は単量体の重量に対して約1〜約20重量%であり、分子量を調節するために使用される金属塩は、好ましくは、塩化第一銅および第二銅、臭化第一銅および第二銅、硫酸第二銅、酢酸第二銅、塩化第一鉄および第二鉄、硫酸第一鉄および第二鉄、および燐酸第一鉄などである。重合開始剤対金属塩のモル比は好ましくは、約40:1〜約80:1である。本発明に有効なホモポリマー、コポリマー、およびターポリマーは好ましくは、水中で、溶液の全重量に対して約40〜約50%のポリマー濃度で製造される。 【0046】 これら低分子量コポリマーおよびターポリマーを合成するのに有効な別の方法は米国特許第4,301,266号に記載されており、この開示も本願明細書の記載の一部として組み入れられる。この方法では、イソプロパノールが反応溶剤並びに分子量調節剤として使用される。反応溶剤は少なくとも45重量% のイソプロパノールを含有する水性イソプロパノール混合物であってもよい。重合開始剤は過酸化水素や、過硫酸ナトリウムや、過硫酸カリウムや、過酸化ベンゾイルのような遊離基開始剤である。重合は加圧下で120℃〜200℃の温度で行われる。溶剤中のコポリマーの濃度は好ましくは、溶液全体の重量に対して25〜45% である。重合が完了したら、イソプロパノールは反応器から蒸留され、そしてポリマーは塩基によって中和されてもよい。 【0047】 本発明に有効な低分子量コポリマーおよびターポリマーを合成するための更に別の方法は米国特許第3,646,099号に記載されており、その開示も本願明細書の記載の一部として組み入れられる。この方法はシアノ含有オリゴマーの合成に関するものである;しかしながら、本発明に有効な低分子量のポリマーを製造するのにも応用できる。この方法は重合分子量調節剤として重亜硫酸塩を使用しており、それによって製造されて得られた重合体はスルホネート末端基を有している。好ましい重亜硫酸塩は単量体の重量に対して3〜20重量% の濃度の重亜硫酸ナトリウムである。遊離基重合開始剤は過硫酸アンモニウム、過硫酸ナトリウム、過硫酸カリウム、過酸化水素、またはt-ブチルヒドロペルオキシドである。開始剤濃度は単量体に対して約0.2〜約10重量% である。重合温度は好ましくは20℃〜65℃であり、そして水性溶剤中のポリマーの濃度は溶液の全重量に対して25〜55重量%である。 【0048】 抑制剤の評価本発明の添加剤の効力を、シリカおよび珪酸塩種の沈澱を防止するか又はこれら種を分散させるかどちらかについて、実証するために、下記の試験を用いた。抑制剤の作用の正確なメカニズムは完全には理解されていないが、生成混合物の濁度を最小する添加剤は有効なシリカ・珪酸塩抑制剤と考えられる。この試験で比濁単位(nephelometric turbidity unit)(NTU)8未満の混合物を生成する添加剤は現時点で入手可能な手法よりもかなりの改善である。 【0049】 使用した試験手順はシリカを多量に帯びているプロセス水条件を模するものである。 1% のポリマー溶液を製造し、そしてpH7に中和した。 1%の塩抑制剤溶液を製造した。 風袋8オンスのプラスチック瓶に次のものを装填し、攪拌混合した: 1.44gの珪酸ナトリウム溶液(34.8% 活性、Na2:SiO2=1:3.35) 50.11gの優れた脱イオン水 洗浄し乾燥した4オンスのジャーに次のものを装填した: 75mlの脱イオン水 6.5mlの上記のような調製した1%珪酸ナトリウム溶液 1.0mlの抑制剤また塩抑制剤溶液。 それから、このサンプルを70℃の水浴の中に、穏やかに揺すりながら、30分間置いた。 それから、サンプルを浴から取り出し、それに次のものを添加した: 6.1mlの1重量% MgCl2・6H2O溶液 4.4mlの1重量% CaCl2・2H2O溶液 5.0mlの1重量% NaHCO3溶液 pHを8±0.2に調節するための1.8〜2.1mlの0.1N HCl。 【0050】 それから、サンプルを水浴にもどして30分間穏やかに攪拌し、それから、浴から取り出し、そして室温に1時間放冷した。 【0051】 サンプルの濁度を、フロリダ州フォートマイヤーズ在HFインスツルメンツ社製のモデルDRT100D濁度計を使用して、比濁単位(NTU)をもって測定した。 【0052】 試験溶液中のイオンの最終濃度は次の通りであった:500ppm Si、(SiO2として) 300ppm Ca+2、 (CaCO3として) 300ppm Mg+2、 (CaCO3として) 300ppm HCO3-、 (CaCO3として) 100ppm 抑制剤、(酸として) 0、80、または140mg/lイオン添加剤 【0053】 サンプルの濁度が高いということはより多くの沈澱物が生じたことを意味している。低い濁度は混合物の沈澱を抑制されていることを意味している。この試験の結果は第1表、第2表、および第3表に提示されている。 【表1】 【表2】 【0054】 AS=アリルスルホン酸 SS=スチレンスルホン酸 MAL=マレイン酸 AA=アクリル酸 AM=アクリルアミド DIB=ジイソブチレン t-BAM=t-ブチルアクリルアミド AMPS=2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸 HEMA=ヒドロキシルエチルメタクリレート t-BMAAM=N-t-ブチルマレアミン酸 VAC=酢酸ビニル EA=エチルアクリレート HPA=ヒドロキシプロピルアクリレート DMAM=ジメチルアクリルアミド AAEM=アセトアセトキシエチルメタクリレート TOAM=t-オクチルアクリルアミド PEM=ホスホエチルメタクリレート DMAPMA=ジメチルアミノプロピルメタクリルアミド DMAM=ベンジルメタクリルアミド CHMAM=シクロヘキシルメタクリルアミド Sty=スチレン 【0055】 第1表において、例1〜7、13、14、および17は比較の目的で示されている。これらポリマーは現在、スケール抑制剤として使用されてはいるが、シリカおよび珪酸塩のスケール化の蔓延を防止するには適切でないことはわかっている。例1は一般的にシリカの蔓延を防止するための従来の手法のうちで最も有効であると考えられているので、特に興味あるものである。例8〜12、15、16、および18〜46は本発明のコポリマーおよびターポリマーによる改善を示している。例7は従来提起された通常のアリルスルホン酸含有ポリマーが本発明の組成物のような抑制度をもたらさないことを実証している。 【0056】 同様に、シリカの蔓延を防止するために従来提起されたコポリマーの実証である例13および14もあまり有効でない。例17は有効な蔓延防止を達成するにはターポリマーに11重量%を越すAMPSが必要であることを例証している。 【表3】 【0057】 第2表は様々なイオン添加剤を単独で、また、ポリマー添加剤との併用で、試験した結果を提示している。大抵のイオン添加剤は珪酸の金属イオン塩がスケールの成分であることから予想されたように上記試験で沈澱を増加させた。しかしながら、マグネシウムイオンは沈澱を抑制した。この効果は試験水が既にマグネシウムイオンを含有しているという点で特に驚くべきことである。この結果は試験水または天然水の中のマグネシウムイオンの存在が沈澱およびスケール化に対する寄与因子の一つであるにもかかわらず、珪酸塩スケールの沈澱を抑制するために追加のマグネシウムイオンを添加することの価値を実証している。 【0058】 イオン添加剤を例23のターポリマーとの組合せで試験したとき、マグネシウムイオンの添加およびアルミニウムイオンの添加だけがターポリマー単独に比べて更に性能を改善した。これも、先に言及した理由に照らすと、予想外のことである。また、陽イオンの金属イオンは陰イオン性ターポリマーの性能を妨害するであろうと予想された。この悪影響はアルミニウムとマグネシウム以外のイオンを添加することによって例証されている。 【0059】 アルミニウムまたはマグネシウムの金属イオンと、或る範囲のポリマーとの混合物の試験結果は第3表に提示されている。これら2種類のイオンのどちらか一方の添加は試験したポリマーの大抵の性能を改善した。マグネシウムイオンと、例1、11、23、24、29並びに32との組合せはシリカおよび珪酸塩の沈澱に対する効率的な抑制(8未満のNTU)をもたらした。アルミニウムイオンと、例1、4、11並びに23との組合せも良好な性能を示した。例2、6、および14のポリマーでは、どのイオンも十分な性能を示さなかった。 【表4】 【0060】 本発明の方法を説明し、そしてここに詳細に具体例を示した。しかしながら、本発明の思想および範囲を逸脱することなく様々な変更および変形が当業者に明かになろう。変更は、たとえば、本発明の添加剤と共にその他の通常の水処理剤を使用することを包含する。これはシリカ以外のスケールの蔓延を防止するためのたとえばホスホン酸塩のようなその他のスケール抑制剤、腐食抑制剤、殺生物剤、分散剤、消泡剤などを包含する。 【0061】 洗剤適用分野では、シリカおよび珪酸塩スケールは次の2つの仕方のどちらでも問題である: それは布表面に沈着することがあり、そうなると布を灰色にするし、こわさを増大させる; または、それは機器の熱伝達表面に堆積することがあり、そうなると熱伝達効率を減少させる。布へのシリカおよび珪酸塩スケールの沈着に対する効果と、布の灰色化に対する効果を定量的に査定するために、本発明の方法を洗剤処方でのシリカスケール抑制について評価した。 【0062】 代表的な液体洗浄剤配合物を第4表に示し、代表的な粉末洗剤配合物を第5表に示す。これら配合物は洗剤配合物の例として示したのであって、本発明の範囲を限定することを意図しているのではない。 【表5】 【表6】 【0063】 1)トリポリ燐酸トナリウム 2)ピロ燐酸ナトリウム 3)線状アルキルスルホン酸塩 4)ポリエトキシレート 5)ポリアクリル酸のナトリウム塩 6)エチレンオキシド/プロピレンオキシド 7)テトラアセチルエチレンジアミン 【0064】 灰色化に対する効果は洗濯前と25回洗濯後の布の白色指数を測定することによって評価した。沈着の効果は未洗濯の布の灰分からのデータと25回洗濯後の布の灰分からのデータを比較することによって評価した。これは洗濯中に布に沈着した無機物質の量を測定するために行った。 【0065】 これら試験は次のように実施した:ケンウッド銘柄のミニ-E洗濯機に水道水を6リットル満たした。水に塩化カルシウムと塩化マグネシウムを、硬水度が400ppmになり、そしてカルシウムイオン対マグネシウムイオンのモル比が炭酸カルシウムとして算出したときに2:1になるように、添加した。洗濯機に、純綿のテリー布、綿布、綿/ポリエステル混紡、およびポリエステル布を含めて約500gの布を入れた。それから、洗濯機に7.2gの汚れ(等重量のモーター油と鉢植え土壌)を添加した。洗濯機に洗剤を加え、そして洗濯機を全サイクル走行させた。各サイクルの前に汚れと洗剤を加えて、完全サイクルを25回負荷した。これら実験で使用したその他の洗濯条件は第6表に示す。 【表7】 【0066】 第7表に示したデータは純綿テリー布から得られた白色指数である。白色指数(W.I.)は次のように算出される: 【数1】W.I.=3.387(Z) - 3(Y) 【0067】 但し、YおよびZはパシフィック・サイエンティフィック比色計(カラーガードシステム1000)を使用して測定された反射値である。 【0068】 第8表のデータは洗濯前と25回のサイクル後の純綿テリー布の灰分である。布サンプルは室温で一晩乾燥した。それから、布を秤量し、そしてサーモリン銘柄マッフル炉(モデル No.30400)の中に空気下で800℃で6〜7時間入れておいた。室温に冷却した後、残留した灰分を秤量した。報告されている値は洗濯布の灰の重量に対する元のサンプル布の灰の重量の%である。 【表8】 |
訂正の要旨 |
i) 特許第3055815号の明細書中、特許請求の範囲において、請求項1を、特許請求の範囲の減縮を目的として以下の通り訂正する。 「水性系におけるシリカまたは珪酸塩の形成を防止するための方法であって、前記系に、 a)重量平均分子量約1000〜約25000の、(メタ)アクリル酸またはマレイン酸またはそれらの塩の水溶性コポリマーまたはターポリマー、但し、コポリマーは、 1)約20〜約85重量%の(メタ)アクリル酸と、 2)約11重量%よりも多く、約80重量%までの(メタ)アクリルアミドメチルプロパンスルホン酸またはスチレンスルホン酸、または 3)約30〜約60重量%のイソブチレンまたはジイソブチレンとから構成されており、各成分の和が100%に等しく;または 1)約20〜約85重量%のマレイン酸と、 2)約11重量%よりも多く、約80重量%までの(メタ)アクリルアミドメチルプロパンスルホン酸、または 3)約15〜約30重量%の(メタ)アクリルアミドまたは置換(メタ)アクリルアミド、または 4)約30〜約60重量%のジイソブチレンとから構成されており、各成分の和が100%に等しく;そしてターポリマーは 1)約30〜約80重量%の(メタ)アクリル酸またはマレイン酸と、 2)約11重量%よりも多く、約65重量%までの(メタ)アクリルアミドメチルプロパンスルホン酸またはスチレンスルホン酸と、 3)約5〜約30重量%の(メタ)アクリルアミドまたは置換(メタ)アクリルアミド、または 4)約5〜約30重量%のビニルアルコール、アリルアルコール、ビニルもしくはアリルアルコールのエステル、ビニルエステル、スチレン、イソブチレンまたはジイソブチレン、または 5)(メタ)アクリルアミドメチルプロパンスルホン酸が存在する場合に約3〜約30重量%のスチレンスルホン酸とから構成されており、各成分の和が100%に等しく、 b)マグネシウムイオン、 c)前記コポリマー、約20〜約85重量%の(メタ)アクリル酸と約15〜約30重量%の(メタ)アクリルアミドもしくは置換(メタ)アクリルアミドとのコポリマー、またはターポリマーと、アルミニウムイオンまたはマグネシウムイオンとの混合物、 d)重量平均分子量約1000〜約25000の、ポリメタアクリル酸もしくはそれらの塩とアルミニウムイオン、ポリアクリル酸もしくはそれらの塩とマグネシウムイオン、またはポリマレイン酸もしくはそれらの塩とアルミニウムイオンもしくはマグネシウムイオンとの混合物、 からなる群から選択されたスケール抑制剤の有効量を添加することを特徴とする前記方法。」 ii)発明の詳細な説明中、段落17の「膨大の数」を「膨大な数」と訂正する。 iii)発明の詳細な説明中、第1表のNo.15および16を比較例とする。 iv)発明の詳細な説明中、段落57の「スケルー」を「スケール」と訂正する。 |
異議決定日 | 2002-10-29 |
出願番号 | 特願平3-118737 |
審決分類 |
P
1
652・
113-
ZA
(C09K)
|
最終処分 | 取消 |
前審関与審査官 | 西川 和子 |
特許庁審判長 |
板橋 一隆 |
特許庁審判官 |
鈴木 紀子 後藤 圭次 |
登録日 | 2000-04-14 |
登録番号 | 特許第3055815号(P3055815) |
権利者 | ローム アンド ハース カンパニー |
発明の名称 | シリカスケールの防止 |
代理人 | 千田 稔 |
代理人 | 辻永 和徳 |
代理人 | 千田 稔 |
代理人 | 辻永 和徳 |