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審決分類 |
審判 全部申し立て 2項進歩性 H01M 審判 全部申し立て 5項1、2号及び6項 請求の範囲の記載不備 H01M 審判 全部申し立て 特36 条4項詳細な説明の記載不備 H01M 審判 全部申し立て 発明同一 H01M |
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管理番号 | 1078034 |
異議申立番号 | 異議2002-71417 |
総通号数 | 43 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 2000-11-24 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2002-06-04 |
確定日 | 2003-05-26 |
異議申立件数 | 1 |
事件の表示 | 特許第3236002号「リチウム二次電池」の請求項1ないし12に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 |
結論 | 特許第3236002号の請求項1ないし12に係る特許を維持する。 |
理由 |
1.手続の経緯 本件特許第3236002号の請求項1〜12に係る発明についての出願は、平成2年11月22日に出願した特願平2-319165号の一部を平成12年4月27日に新たな特許出願としたものであって、平成13年9月28日にその発明について特許の設定登録がなされ、その後、全請求項に係る特許について市原敏夫より特許異議の申立てがなされ、取消理由通知がなされ、その指定期間内である平成14年11月22日に意見書が提出されたものである。 2.申立ての理由及び当審の取消理由の概要 特許異議申立人市原敏夫は、証拠として甲第1号証(「J.Electrochem.Soc.」Vol.137、No.7、July、1990)、甲第2号証(「炭素」No.116(1984)第45〜52頁)、甲第3号証(特開昭60-51612号公報)、甲第4号証(特開昭61-205611号公報)、甲第5号証(特開昭57-208079号公報)、及び、甲第6号証(特開昭62-90863号公報)を提出すると共に、特願平2-234295号(特開平4-115458号公報参照、以下「先願1」という。)、特願平2-314376号(特開平4-188559号公報参照、以下「先願2」という。)、特願平2-233512号(特開平4-115457号公報参照、以下「先願3」という。)を提示し、本件請求項1〜12に係る発明は、甲第1〜6号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件請求項1〜12に係る発明の特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものであり(申立て理由1)、本件請求項1〜12に係る発明は、本件の出願日前の他の特許出願であって、その出願後に出願公開された先願1ないし3の願書に最初に添付した明細書又は図面(以下、「先願明細書1ないし3」という。)に記載された発明と同一と認められ、しかも、本件発明の発明者が上記先願1ないし3に係る発明の発明者と同一であるとも、また、本件の出願の時に、その出願人が上記先願1ないし3の出願人と同一であるとも認められないので、本件請求項1〜12に係る発明の特許は、特許法第29条の2の規定に違反してなされたものであり(申立て理由2)、また、本件特許明細書には記載不備が存在するから、本件請求項1〜12に係る発明の特許は、特許法第36条第3項及び第4項の規定に違反してなされたものである(申立て理由3)、と主張している。 当審において通知した取消理由は、これらの申立て理由2、3と同趣旨のものである(以下、それぞれ、「取消理由1」、「取消理由2」という。)。 3.本件発明 本件請求項1〜12に係る発明は、特許明細書の特許請求の範囲の請求項1〜12に記載された次のとおりのものである(以下、「本件発明1」〜「本件発明12」という。)。 「【請求項1】 リチウム金属またはリチウムイオンの負極活物質を、炭化または黒鉛化した、各結晶群を構成する六炭素環網目平面の端面がその粒子表面に存在し、比表面積が5m2/g以下であるメソカーボンマイクロビーズに担持させたことを特徴とするリチウム二次電池用負極体。 【請求項2】 リチウム金属またはリチウムイオンの負極活物質を、炭化または黒鉛化した、球状粒子の直径方向に対し垂直な方向で層状に配列した結晶群よりなる、比表面積が5m2/g以下であるメソカーボンマイクロビーズに担持させたことを特徴とするリチウム二次電池用負極体。 【請求項3】 請求項1記載の負極体からなるリチウム二次電池。 【請求項4】 請求項2記載の負極体からなるリチウム二次電池。 【請求項5】 出発原料を常圧〜20kg/cm2・Gの加圧下、350〜450℃の温度で熱処理して生成した球晶を反応液中より、分離・精製してメソカーボンマイクロビーズを得、これを炭化または黒鉛化して炭化または黒鉛化されたメソカーボンマイクロビーズとし、次いで該炭化または黒鉛化されたメソカーボンマイクロビーズにリチウム金属またはリチウムイオンの負極活物質を担持させることを特徴とする請求項1または2記載のリチウム二次電池用負極体の製法。 【請求項6】 分離・精製が、高温遠心分離した球晶を洗浄後、乾燥することを特徴とする請求項5記載のリチウム二次電池用負極体の製法。 【請求項7】 (a)リチウム金属またはリチウムイオンの負極活物質を、炭化または黒鉛化した粒径が0.1μm以上150μm以下でかつ比表面積が5m2/g以下であるメソカーボンマイクロビーズに担持させたリチウム二次電池用負極体、 (b)TiS2、MoS3、NbSe3、FeS、VS2およびVSe2よりなる群から選択される金属カルコゲン化物、CoO2、Cr3O5、TiO2、CuO、V3O6、Mo3O、V2O5(・P2O5)およびMnO2(・Li2O)よりなる群から選択される金属酸化物またはポリアセチレン、ポリアニリン、ポリパラフェニレン、ポリチオフェンおよびポリピロールよりなる群から選択される導電性を有する共役高分子物質を含む正極体、および (c)プロピレンカーボネート、エチレンカーボネート、γーブチロラクトン、テトラヒドロフラン、2-メチルテトラヒドロフラン、ジオキソラン、4-メチルジオキソラン、スルホラン、1,2-ジメトキシエタン、ジメチルスルホキシド、アセトニトリル、N,N-ジメチルホルムアミドおよびジエチレングリコール-ジメチルエーテルよりなる群から選択される非プロトン性溶媒、またはこれらの混合溶媒にLiBF4、LiCl4、LiAsF6、LiSbF6、LiAlO4、LiAlCl4、LiPF6、LiClおよびLiIよりなる群から選択される溶媒和しにくいアニオンを生成する塩を溶解させたものを含むことを特徴とするリチウム二次電池。 【請求項8】 メソカーボンマイクロビーズの粒径が0.5μm以上80μm以下であることを特徴とする請求項7記載のリチウム二次電池。 【請求項9】 メソカーボンマイクロビーズは、バインダーを用い、メソカーボンマイクロビーズ:バインダー=99〜70:1〜30の重量比で成型して負極体としたことを特徴とする請求項7または8記載のリチウム二次電池。 【請求項10】 メソカーボンマイクロビーズが、出発原料を常圧〜20kg/cm2・Gの加圧下、350〜450℃の温度で熱処理して生成した球晶を反応液中より、分離・精製することにより得られることを特徴とする請求項7〜9いずれか1記載のリチウム二次電池。 【請求項11】 分離・精製が、高温遠心分離した球晶を洗浄後、乾燥することを特徴とする請求項10記載のリチウム二次電池。 【請求項12】 (a)請求項1または2記載の負極体、 (b)TiS2、MoS3、NbSe3、FeS、VS2およびVSe2よりなる群から選択される金属カルコゲン化物、CoO2、Cr3O5、TiO2、CuO、V3O6、Mo3O、V2O5(・P2O5)およびMnO2(・Li2O)よりなる群から選択される金属酸化物またはポリアセチレン、ポリアニリン、ポリパラフェニレン、ポリチオフェンおよびポリピロールよりなる群から選択される導電性を有する共役高分子物質を含む正極体、および (c)プロピレンカーボネート、エチレンカーボネート、γーブチロラクトン、テトラヒドロフラン、2-メチルテトラヒドロフラン、ジオキソラン、4-メチルジオキソラン、スルホラン、1,2-ジメトキシエタン、ジメチルスルホキシド、アセトニトリル、N,N-ジメチルホルムアミドおよびジエチレングリコール-ジメチルエーテルよりなる群から選択される非プロトン性溶媒、またはこれらの混合溶媒にLiBF4、LiCl4、LiAsF6、LiSbF6、LiAlO4、LiAlCl4、LiPF6、LiClおよびLiIよりなる群から選択される溶媒和しにくいアニオンを生成する塩を溶解させたものを含むことを特徴とするリチウム二次電池。」 4.甲各号証及び先願明細書に記載の発明 甲第1号証(「J.Electrochem.Soc.」Vol.137、No.7、July、1990)には、「非水溶液電気化学電池を用いる炭素中へのリチウムのインターカーレーションの研究」と題して、 「プロピレンカーボネート(PC)とエチレンカーボネート(EC)50:50混合物の電解液中の1M LiAsF6を用いた、Li-グラファイト、Li-石油コークス電池は、最初の放電の時のみ不可逆反応を示す。これらの不可逆反応は電解液の分解を伴い、炭素の表面上で、受動態膜または固体電解質境界相を作る原因となる。電解液の分解量は炭素電極の比表面積に比例する。」(第2009頁「要約」第1〜5行(特許異議申立書第7頁下から第5行〜第8頁第1行の翻訳文参照))、 「ここで用いられた仮焼石油コークスは、約1300℃で熱処理された炭素質材料である。・・・炭素材料の表面積がBET法で測定された。・・・カソード材は、炭素粉を2重量%のバインダー溶液と混合することにより製造された。」(第2010頁左欄第9〜49行(同第8頁第1〜3行の翻訳文参照))、 「Li/石油コークスとLi-グラファイト電池の最初の放電では、膜形成による不可逆容量は1.2V近傍で観測される。このプラトーの比容量は炭素電極の比表面積と直線的に変化する。(a)これらの電池が0.8Vまで放電し、Li2CO3の膜が形成されるとして計算すると、その炭素粒子上の計算膜厚は21±5Åの厚さである。点線は見る際のガイドとして引かれている。(b)Li/石油コークス電池が0.02Vまでだけ放電するときは、Li2CO3の膜が形成されるとして計算すると、その炭素粒子上の計算膜厚は45±5Åの厚さである。点線は見る際のガイドとして引かれている。」(第2011頁右欄第3図についての説明(同第8頁第6〜13行の翻訳文参照))と記載され、また、図3(第2011頁右欄)には、比表面積約1〜22m2/gの範囲で、炭素材料の比表面積に対する再充電不可能な容量の関係が図示され、表IIには、図3に用いられた材料である石油コークスの比表面積が2.9m2/g、9.0m2/g、12.0m2/g、2.6m2/g等である旨が記載されると共に、図3bにはグラファイト材料は含まれていないと注記されている。 甲第2号証(「炭素」No.116(1984)第45〜52頁)には、メソフェーズ構造解析に関し、 「メソフェーズ小球体における芳香族環平面の配向についての先駆的な研究はBrooksとTaylorによってなされたことはよく知られている。・・・彼らはメソフェーズ小球体の構造として芳香族環平面が図3に示すように配列していることを提案した。図3においてN,Sは極である。図3(a)はNS軸を含む小球体直断面における芳香族環平面の配列を示し、図3(b)は小球体合体としての芳香族環平面の配列が、NS軸を回転軸として図3(a)を回転することによって生ずる回転面のようになっていることを示す。」(第45頁右欄第10行〜第46頁左欄第12行)と記載され、また、図3の記載から、メソフェーズ小球体における芳香族環平面は、球状粒子の直径方向に対し略垂直な方向で層状に配列していることが読み取れる。 甲第3号証(特開昭60-51612号公報)には、カーボン微粒子の製造方法に関して、 「(i)コールタールを温度300〜500℃、圧力常圧〜20kg/cm2・Gの条件下に0.5〜50時間熱処理する工程、 (ii)得られる熱処理反応生成物を150〜450℃で遠心分離することにより固形分と清澄液とを分離する工程、及び (iii)得られる固形分を洗浄する工程を備えたことを特徴とするカーボン微粒子の製造方法。」(特許請求の範囲第1項)、 「本発明は、カーボン微粒子の製造方法に関し、更に詳しくは、コールタールを原料として高級炭素材の原料として極めて有用なメソカーボンマイクロビーズを高効率で得る・・・方法に関する。」(第1頁右下欄第6〜12行)と記載されている。 甲第4号証(特開昭61-205611号公報)には、メソカーボンマイクロビーズに関して、 「1.表面酸性基の量が70μeq/g〜200μeq/gであるメソカーボンマイクロビーズ。 2.メソカーボンマイクロビーズを酸素の存在下に低温プラズマ処理することを特徴とする表面酸性基の量が70μeq/g〜200μeq/gであるメソカーボンマイクロビーズの製造法。」(特許請求の範囲第1、2項)、 「メソカーボンマイクロビーズは、ピッチ類を350〜450℃の温度範囲で熱処理し、熱分解、熱重合反応により高分子化した芳香族化合物の平面分子が一定方向に配向してラメラ構造を形成し、これが積層したもので、中間層(メソフエイズ)の1〜数十μmの球状ビーズである・・・」(第1頁右下欄第1〜6行)、 「実施例1 ・・・比表面積2.1m2/g、キノリン不溶物92.3%、・・・ラメラ構造であることがわかるメソカーボンマイクロビーズ5gをとり、・・・プラズマ状態を維持して、3時間処理を行なった。・・・この改質メソカーボンマイクロビーズの比表面積は1.5m2/g、pH4.9酸性基の量150μeq/gであった。」(第2頁右下欄第18行〜第3頁左上欄第14行)と記載されている。 甲第5号証(特開昭57-208079号公報)には、再充電可能なリチウム電池に関して、 「リチウムを負極活物質とし、負極電極基板が黒鉛を主成分とするものよりなることを特徴とする再充電可能なリチウム電池。」(特許請求の範囲)、 「負極電極基板として黒鉛を主成分とするもので構成し、この黒鉛の結晶中にリチウムイオンを混入して負極とすることにより、サイクル特性を飛躍的に改善しうることを見出した。」(第1頁右下欄第9〜12行)、 「実施例 黒鉛粉末にフッ素樹脂を5%混合し、・・・黒鉛粉末成型体を電極基板とし、この基板にリチウムイオンを混入して得た黒鉛層間化合物を負極とする。・・・ 正極活物質としてV2O5(五酸化バナジウム)を用い・・・」(第1頁右下欄第15行〜左上欄第5行)、 「黒鉛層間化合物を形成するためにリチウムイオンを黒鉛の結晶中に混入する方法として次の方法がある。即ち、i)蒸気で混入する方法、ii)金属を混ぜハロゲン気流中で加熱する方法、iii)溶媒に溶かして混入する方法、iv)電気分解による方法などである。」(第2頁左上欄第第16行〜右上欄第1行)と記載されている。 甲第6号証(特開昭62-90863号公報)には、二次電池に関して、 「構成要素として少なくとも、正、負電極、セパレーター、非水電解液からなる二次電池であって、下記I及び/又は下記IIを正、負いずれか一方の極の活物質として用いることを特徴とする二次電池。 I:層状構造を有し、一般式 AxMyNzO2(但しAはアルカリ金属から選ばれた少なくとも一種であり、Mは遷移金属であり、NはAl、In、Snの群から選ばれた少なくとも一種を表わし、x、y、zは各々0.05≦x≦1.10、0.85≦y≦1.00、0.001≦z≦0.10の数を表わす。)で示される複合酸化物。 II:BET法比表面積A(m2/g)が0.1<A<100の範囲で、かつ・・・を満たす範囲にある炭素質材料のn-ドープ体。」(特許請求の範囲)、 「層状化合物のインターカレーションを利用した例として層状構造を有するカルコゲナイト系化合物が注目されている。例えばLixTiS2、LixMoS3等のカルコゲナイト系化合物は比較的優れたサイクル性を有しているものの、起電力が低くLi金属を負極に用いた場合でも、実用的な放電電圧はせいぜい2V前後であり、非水系電池の特徴の一つである高起電力という点で満足されるものではなかった。一方、同じく層状構造を有するLixV2O5、LixV6O13、LixCoO2、LixNiO2等の金属酸化物系化合物は高起電力という特徴を有する点で注目されている。」(第2頁左上欄第14行〜右上欄第4行)と記載されている。 当審の取消理由に引用された先願明細書1(特願平2-234295号(特開平4-115458号公報参照))には、非水電解質二次電池に関して、 「正極と、リチウムを吸蔵・放出可能な負極と、リチウムを含む非水電解質とを具備してなる非水電解質二次電池において、上記負極の活物質としてピッチの炭素化過程で生じるメソフェーズ小球体よりなる黒鉛化炭素にリチウムをドープした炭素質材料を使用したことを特徴とする非水電解質二次電池。」(特許請求の範囲)、 「石油や石炭などのピッチから得られたメソフェーズカーボンは、平均粒径として5-15μmの均一な球形状をしており、このメソフェーズカーボンを結着剤とともに合剤化したものは、・・・合剤として非常に高い密度が得られる。・・・また、このメソフェーズカーボンに黒鉛化処理を施すと炭素原子は球の緯度方向に層状に並び、層間が球の全表面にわたって露出した構造となり、従ってリチウムがあらゆる方向から侵入できることになる。このため、・・・この黒鉛化処理メソフェーズカーボンではリチウムが挿入、脱離できるサイト面積を広くとることができ、高いリチウム吸蔵容量が得られ、それと同時に良好な高電流放電性も達成できるものである。」(公開公報第2頁右上欄第14行〜左下欄第14行)、 「メソフェーズ小球体は、ピッチの炭素化過程で得られるものである。具体的には、石油や石炭などから得たピッチを400〜450℃の温度で1〜2時間熱処理した後、ピリジンやキノリンにより分離することにより得られるものである。」(同第3頁左上欄第5〜10行)、 「このメソフェーズ小球体を黒鉛化する方法としては、1500〜3000℃、特に2000〜2500℃の温度で5〜50時間程度焼成する方法が好適に採用される。」(同第3頁左上欄第11〜14行)、 「〔製造例〕 コールタールピッチのキノリン可溶分を430℃で120分間熱処理した後、ピリジンによりメソフェーズ小球体を分離した。」(同第4頁左上欄第1〜4行)と記載されている。 同じく引用された先願明細書2(特願平2-314376号(特開平4-188559号公報参照))には、非水電解質二次電池に関して、 「正極と、リチウムを吸蔵・放出可能な負極と、リチウムイオンを含む非水電解質とを具備してなる非水電解質二次電池において、前記負極の活物質として、ピッチから得られ、(002)面間隔が3.45Å以下で、かつc軸方向の結晶子の厚みが300Å以上の炭素化メソフェーズ小球体材料にリチウムをドープした炭素質材料を使用したことを特徴とする非水電解質二次電池。」(特許請求の範囲)、 「メソフェーズカーボンに高温化処理を施すと、炭素原子は球の緯度方向に層状に並び、層間が球の全表面にわたって露出した構造となり、従ってリチウムがあらゆる方向から侵入できることになる。・・・この炭素化メソフェーズ小球体材料では、リチウムが挿入、脱離できるサイト面積を広くとることができ、高いリチウム吸蔵容量が得られ、それと同時に良好な高電流放電性も達成できるものであることを知見した。」(公開公報第2頁左下欄第8〜19行)、 「炭素化メソフェーズ小球体は、ピッチの炭素化過程で得られるもので、具体的には、石油や石炭等から得たピッチを400〜450℃の温度で1〜2時間熱処理した後、ピリジンやキノリンにより分離することにより得られたものが好適に用いられ、・・・」(同第3頁左上欄第15〜末行)、 「炭素化メソフェーズ小球体において、上記結晶構造を得るために、1500〜3000℃、特に2000〜2500℃の温度で5〜50時間程度不活性ガス雰囲気中で焼成したものが好ましく使用される。なお、上記小球体としては、平均粒径が1〜20μm、特に5〜15μmのものが好適である。」(同第3頁左上欄末行〜右上欄第5行)、 「〔製造例〕 コールタールピッチのキノリン可溶分を430℃で120分間熱処理した後、ピリジンによりメソフェーズ小球体を分離した。」(同第4頁左上欄第15〜18行)と記載されている。 同じく引用された先願明細書3(特願平2-233512号(特開平4-115457号公報参照))には、非水電解液2次電池に関して、 「(1)リチウム含有複合酸化物からなる正極と、非水電解液と、再充電可能な負極とを備えた非水電解液2次電池において; 前記負極は易黒鉛化性の球状粒子からなる黒鉛質材料であることを特徴とする非水電解液2次電池。 (2)上記黒鉛質材料は、フリュードコークス、ギルソナイトコークスなどの球状コークス、あるいはピッチの炭素化過程で生じるメソフェーズ小球体を原料としたメソカーボンマイクロビーズから選ばれる少なくとも1つであり、これらに熱処理を施すことによって黒鉛化したものである特許請求の範囲第1項記載の非水電解液2次電池。」(特許請求の範囲第1,2項)、 「本実施例ではフリュードコークスを負極材に用いたが、ギルソナイトコークス、メソカーボンマイクロビーズを用いた場合でも、更にはこれらの混合物を用いた場合も同様の効果が得られた。」(公開公報第4頁左下欄第5〜8行)と記載されている。 5.当審の判断 5-1.申立て理由1について (本件発明1) 本件発明1は、カーボン材をリチウムの担持体に用いたリチウム二次電池用負極体において、「出力密度、放電容量およびサイクル特性を改良すること」(段落【0006】)を目的として、『炭化または黒鉛化した、比表面積が5m2/g以下であるメソカーボンマイクロビーズを負極体に用いること』を主な構成要件とし、「出力密度が大で、単位体積(重量)当たりの容量が増大し、サイクル特性が向上した二次電池およびその負極体が提供される」(段落【0033】)という効果を奏するものである。 これに対し、甲第1号証には、非水溶液電気化学的電池であるLi-グラファイトないしLi-石油コークス電池において、最初の放電の時のみに、電解液の分解を伴う不可逆反応を起こすこと、電解液の分解量は炭素電極の比表面積に比例すること、石油コークスの比表面積は、2.9m2/g、2.6m2/gなどであること等が記載されており、カーボン材をリチウムの担持体に用いたリチウム二次電池において、カーボン材として、比表面積が5m2/g以下である石油コークスを用いることが記載されているといえるが、該カーボン材は、カソード(正極)材として用いるもので、負極材として用いるものではないし、リチウムの担持体としてのカーボン材にメソカーボンマイクロビーズを用いることも記載されておらず、まして、出力密度、放電容量及びサイクル特性を改良するために、『炭化または黒鉛化した、比表面積が5m2/g以下であるメソカーボンマイクロビーズを負極材に用いること』については、記載も示唆もない。 甲第2号証には、メソフェーズ小球体における芳香族環平面は、球状粒子の直径方向に対し略垂直な方向で層状に配列していることが示されているが、メソフェーズ小球体を炭化又は黒鉛化してリチウム二次電池の負極体に用いることや、その比表面積について記載されていないし、まして、出力密度、放電容量及びサイクル特性を改良するために、『炭化または黒鉛化した、比表面積が5m2/g以下であるメソカーボンマイクロビーズを負極体に用いること』については、記載も示唆もない。 甲第3号証には、メソカーボンマイクロビーズ等のカーボン微粒子の製造方法において、コールタールを温度300℃、圧力常圧〜20kg/cm2・Gの条件下に0.5〜50時間熱処理し、得られる熱処理反応生成物を150〜450℃で遠心分離することにより固形分と清澄液とを分離し、得られる固形分を洗浄することが記載されているが、製造されたメソカーボンマイクロビーズを炭化又は黒鉛化しリチウム二次電池の負極体に用いることや、その比表面積について記載されておらず、まして、出力密度、放電容量及びサイクル特性を改良するために、『炭化または黒鉛化した、比表面積が5m2/g以下であるメソカーボンマイクロビーズを負極体に用いること』については、記載も示唆もない。 甲第4号証には、メソカーボンビーズは、1〜数十μmの球状ビーズである旨、比表面積2.1m2/gのメソカーボンマイクロビーズを酸素の存在下で低温プラズマ処理して得られた改質メソカーボンマイクロビーズの比表面積が1.5m2/gであった旨等が記載されているが、そのメソカーボンマイクロビーズを炭化又は黒鉛化してリチウム二次電池の負極体に用いることは記載されておらず、まして、出力密度、放電容量及びサイクル特性を改良するために、出力密度、放電容量及びサイクル特性を改良するために、『炭化または黒鉛化した、比表面積が5m2/g以下であるメソカーボンマイクロビーズを負極体に用いること』については、記載も示唆もない。 甲第5号証には、再充電可能なリチウム電池において、負極電極基板として黒鉛を主成分とするもので構成し、この黒鉛の結晶中にリチウムイオンを混入して負極とすることが記載されているが、その黒鉛として、メソカーボンマイクロビーズを用いることは記載されておらず、まして、出力密度、放電容量及びサイクル特性を改良するために、『炭化または黒鉛化した、比表面積が5m2/g以下であるメソカーボンマイクロビーズを負極体に用いること』については、記載も示唆もない。 甲第6号証には、BET法比表面積A(m2/g)が0.1<A<100の範囲で、かつ・・・を満たす範囲にある炭素質材料のn-ドープ体を負極活物質として用いること、層状構造を有するカルコゲナイト系化合物は、比較的優れたサイクル性を有すること等が記載されているが、その炭素質材料をリチウム電池の負極体に用いることや、炭素質材料としてメソカーボンマイクロビーズを用いることは記載されておらず、まして、出力密度、放電容量及びサイクル特性を改良するために、『炭化または黒鉛化した、比表面積が5m2/g以下であるメソカーボンマイクロビーズを負極体に用いること』については、記載も示唆もない。 このように、甲第1〜6号証には、出力密度、放電容量及びサイクル特性を改良するために、『炭化または黒鉛化した、比表面積が5m2/g以下であるメソカーボンマイクロビーズを負極体に用いること』について、記載も示唆もないから、甲第1〜6号証に記載された発明を寄せ集めても、炭化または黒鉛化した、比表面積が5m2/g以下であるメソカーボンマイクロビーズを負極体に用いる旨の本件発明1の構成要件を当業者が容易に想到し得たとすることはできない。 そして、本件発明1は、その構成要件を具備することにより、明細書記載の効果を奏するものと認められる。 したがって、本件発明1は、甲第1〜6号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとすることはできない。 (本件発明2ないし12) 本件発明2ないし12は、本件発明1と同様に、炭化または黒鉛化した、比表面積が5m2/g以下であるメソカーボンマイクロビーズを負極体に用いる旨を構成要件として具備するものであるから、本件発明2ないし12は、本件発明1と同様の理由で、甲第1〜6号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとすることはできない。 5-2.申立て理由2(取消理由1)について (本件発明1) 本件発明1と先願明細書1ないし3に記載された発明とを対比すると、両者は、「リチウム金属またはリチウムイオンの負極活物質を、炭化または黒鉛化した、各結晶群を構成する六炭素環網目平面の端面がその粒子表面に存在したメソカーボンマイクロビーズに担持させたリチウム二次電池用負極体。」である点で一致するが、本件発明1は、炭化または黒鉛化したメソカーボンマイクロビーズの比表面積が5m2/g以下であるのに対し、先願明細書1ないし3には、炭化または黒鉛化したメソカーボンマイクロビーズの比表面積を5m2/g以下とすることが記載されていない点で相違する。 この相違点に関し、特許異議申立人は、本件特許の出願前において、比表面積が5m2/g以下のメソカーボンマイクロビーズは知られているし、メソカーボンマイクロビーズの製造方法自体も知られていること等から、先願明細書1ないし3に記載されたものも、本件発明1と同じメソカーボンマイクロビーズを用いていると主張している(特許異議申立書第16頁第9〜21行等参照)。 これに対し、特許権者は、先願明細書1ないし3に記載の製造方法では、比表面積が5m2/g以下のメソカーボンマイクロビーズは得られていない旨を主張し(平成14年11月22日付け意見書第7頁第17〜19行参照)、平成15年3月27日付けで、馬淵昭弘作成の実験成績証明書(1)を提出している。そして、この実験成績証明書(1)には、先願明細書1(特開平4-115458号公報参照)及び先願明細書2(特開平4-188559号公報参照)に記載された方法でメソカーボンマイクロビーズを製造しようとしたが、その記載のとおりの加熱の条件(430℃で120分)では、球晶の生成は見られなかった旨、そこで、加熱の条件を3kg/cm2・G下、385℃で14時間とし、他の条件は先願明細書1ないし2の記載に準拠してメソカーボンマイクロビーズを製造し、その比表面積を測定したところ、5.73〜8.20m2/gであった旨が記載されている。 そこで、前記相違点について検討するに、特許権者の提出した実験成績証明書(1)が、先願明細書1ないし2記載のメソカーボンマイクロビーズの製造方法の適正な追試でないとする証拠は存在しないし、また、特許異議申立人は、同様の追試に関する実験成績証明書を提出可能であるとみられるにもかかわらず、そのようなものを全く提出していないことを考慮すると、先願明細書1ないし2に記載されたメソカーボンマイクロビーズは、前記実験成績証明書(1)に記載されたとおり、先願明細書1ないし2に記載の製造方法では、製造できないか、製造できたとしても、その比表面積は、5m2/g以下であるとは認められない。また、先願明細書3には、メソカーボンマイクロビーズを用いた旨が記載されているだけで、その比表面積についてだけでなく、その製造方法等についても全く記載されていないから、その比表面積が5m2/g以下であるとは認められない。 よって、本件発明1は、先願明細書1ないし3に記載された発明と同一であるとはいえない。 (本件発明2ないし12) 本件発明2ないし12は、本件発明1と同様に、炭化または黒鉛化したメソカーボンマイクロビーズの比表面積が5m2/g以下である旨を構成要件として具備するものであるから、本件発明2ないし12は、本件発明1と同様の理由で、先願明細書1ないし3に記載された発明と同一であるとはいえない。 5-3.申立て理由3(取消理由2)について 申立て理由3は、概略、次のとおりのものである。 (i)本件明細書の実施例には、メソカーボンマイクロビーズの比表面積が記載されていないから、比表面積が規定された本件請求項1〜4、7〜12に係る発明が該実施例に記載された効果を有するものであるのか否かが不明であり、本件明細書の発明の詳細な説明には、当業者が容易に実施をすることができる程度に、本件請求項1〜4、7〜12に係る発明の目的、構成、効果が記載されていない。 (ii)本件明細書の発明の詳細な説明には、どのようにして炭化または黒鉛化したメソカーボンマイクロビーズの比表面積を5m2/g以下とするかについて記載がないから、当業者が容易に実施をすることができる程度に、本件請求項5、6に係る製造方法の発明の目的、構成、効果が記載されていない。 そこで、以下、これらについて検討する。 (i)について 平成15年3月27日付で特許権者が提出した上申書に添付された、馬淵昭弘作成の実験成績証明書(2)には、本件特許明細書に記載された実施例を追試した旨、該追試において、実施例中に記載された『生成した球晶のトルエンでの洗浄』に関し、(ア)反応物1重量部に対してトルエン4重量部を加え1時間洗浄、(イ)反応物1重量部に対してトルエン4重量部を加え2時間洗浄、(ウ)反応物1重量部に対してトルエン8重量部を加え1時間洗浄、の3種類の洗浄を行い、それぞれの洗浄の場合について、得られた黒鉛化メゾカーボンマイクロビーズ(以下、「MCMB」という。)の比表面積、粒径、真比重、Lc、及び、Laを測定した旨が記載されている。 該追試により得られた黒鉛化MCMBと、実施例において得られたものとを比較すると、(ア)〜(ウ)の全ての場合において、追試のMCMBの粒径、真比重、Laは、実施例のものと同程度の数値といえるし、また、追試のMCMBのLcは、実施例のものより少し数値が大きくなっているが、それは、上申書に記載されているように、測定方法の差によるものと考えられるので、この追試は、本件特許明細書の実施例の記載に基づいて忠実になされたものと認められる。 そこで、追試により得られた黒鉛化MCMBの比表面積についてみると、洗浄におけるトルエンの量が多いと、比表面積が増加する傾向が見られるものの、比表面積は、2.93〜4.31m2/gで、5m2/gより小さくなっている。そして、前記(ウ)の反応物1重量部に対する8重量部のトルエンでの洗浄においては、トルエン可溶分の除去が飽和していて、トルエンの量を8重量部を超えて増加しても、比表面積は、もはや、ほとんど変化しないと考えられることを考慮すると、本件明細書の実施例において得られた黒鉛化MCMBの比表面積は、実験成績証明書(2)に記載されたとおり、2.93〜4.31m2/gの範囲内であって、5m2/gより小さいと認められる。 そして、このような比表面積を有する黒鉛化MCMBにリチウムを担持させ、リチウム二次電池の負極体として用いることにより、出力密度、放電容量およびサイクル特性が向上することは、本件明細書の段落【0030】〜【0032】、表2、図3等の記載から明らかである。 してみれば、比表面積が5m2/gである旨の構成要件を具備する本件請求項1〜4、7〜12に係る発明の目的、構成、効果は、本件明細書又は図面の記載に照らして明らかといえるから、前記(i)の点で、本件明細書の記載が不備であるとはいえない。 (ii)について 前記(i)で述べたように、本件明細書には、本件発明の実施例として、比表面積が5m2/g以下のMCMBの製造法が実質的に記載されているといえるし、また、MCMBの製造法自体は、甲第3号証の記載にみられるように、本件特許の出願前において知られているから、前記(ii)の点で、本件明細書の記載が不備であるとはいえない。 以上の検討からみて、本件明細書には、特許法第36条第3項又は第4項に違反する程度の記載不備が存在するとはいえない。 6.むすび 以上のとおりであるから、特許異議申立ての理由及び証拠によっては、本件発明1ないし12に係る特許を取り消すことはできない。 また、他に本件発明1ないし12に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。 |
異議決定日 | 2003-05-07 |
出願番号 | 特願2000-127484(P2000-127484) |
審決分類 |
P
1
651・
531-
Y
(H01M)
P 1 651・ 534- Y (H01M) P 1 651・ 121- Y (H01M) P 1 651・ 161- Y (H01M) |
最終処分 | 維持 |
前審関与審査官 | 石井 淑久、久常 雅世、種村 慈樹、青木 千歌子 |
特許庁審判長 |
三浦 悟 |
特許庁審判官 |
綿谷 晶廣 吉水 純子 |
登録日 | 2001-09-28 |
登録番号 | 特許第3236002号(P3236002) |
権利者 | 大阪瓦斯株式会社 |
発明の名称 | リチウム二次電池 |
代理人 | 矢野 正樹 |
代理人 | 青山 葆 |